タイトル: | 特許公報(B2)_安定な炭酸水素イオン含有薬液 |
出願番号: | 2009536137 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A61K 33/42,A61K 33/10,A61K 33/14,A61K 33/06,A61K 31/7004,A61P 7/08,A61M 1/14,A61M 1/28 |
織田 成人 貞広 智仁 仲村 将高 田中 修一 徳岡 庄吾 大谷 裕也 JP 5329420 特許公報(B2) 20130802 2009536137 20081006 安定な炭酸水素イオン含有薬液 国立大学法人 千葉大学 304021831 扶桑薬品工業株式会社 000238201 田中 光雄 100081422 山田 卓二 100101454 岩崎 光隆 100067035 青山 葆 100062144 松谷 道子 100106518 櫻井 陽子 100138911 中川 将之 100144923 橋本 諭志 100146259 西野 満 100156100 落合 康 100156144 水原 正弘 100156155 織田 成人 貞広 智仁 仲村 将高 田中 修一 徳岡 庄吾 大谷 裕也 JP 2007262551 20071005 20131030 A61K 33/42 20060101AFI20131010BHJP A61K 33/10 20060101ALI20131010BHJP A61K 33/14 20060101ALI20131010BHJP A61K 33/06 20060101ALI20131010BHJP A61K 31/7004 20060101ALI20131010BHJP A61P 7/08 20060101ALI20131010BHJP A61M 1/14 20060101ALI20131010BHJP A61M 1/28 20060101ALI20131010BHJP JPA61K33/42A61K33/10A61K33/14A61K33/06A61K31/7004A61P7/08A61M1/14 523A61M1/28 A61K 31/33−33/44 A61P 1/00 −43/00 A61M 1/00 − 1/36 CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 特表昭58−501109(JP,A) 特開2003−104869(JP,A) H Katayama et al.,High flow CHDF, High volume CHF,救急・集中治療,2006年,Vol.18, No.1-2,pp.224-228 Hastings, A. BAIRD et al.,Studies of the solubility of calcium salts. I. The solubility of calcium carbonate in salt solutions,J Biol Chem,1927年,Vol.71, No.3,pp.723-781 17 JP2008068192 20081006 WO2009044919 20090409 22 20110930 三上 晶子 本発明は、安定な炭酸水素イオン含有薬液、特にリン酸イオンの存在により安定性を向上させた炭酸水素塩含有透析用薬液に関する。また、本発明は、当該薬液からなる急性血液浄化用薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液および補充液に関する。なおまた、本発明は、混合後も長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制される、低カリウム血症および低リン血症を生じない用時混合型の急性血液浄化用透析液および補充液に関する。急性心不全、急性腎不全、急性肝不全、術後肝不全、敗血症、熱傷、中毒、劇症肝炎、急性膵炎などにより体内に急激に毒物や病因物質が蓄積すると、体液の恒常性が著しく損なわれる。このような急性疾患あるいは慢性疾患の急性憎悪に対しては、緊急に血液・体液を浄化して生体の恒常性を保ち、病態を改善することが求められるため、急性血液浄化療法が試みられる。 急性血液浄化療法は、主に救命救急・集中治療領域において経験的に発展してきた血液浄化法であり、透析、濾過、吸着または分離により血液から不要あるいは有毒な物質を除去する療法である(非特許文献1)。 急性血液浄化療法の具体的な治療法としては、持続的血液透析(CHD)、持続的血液濾過(CHF)、持続的血液透析濾過(CHDF)、血液透析(HD)、血液吸着(HA)、血漿吸着(PA)、血漿交換(PE)、白血球除去療法(LC)などの血液体外循環による血液浄化法が挙げられる。近年は適用の拡大や病態解明の進展などにより、CHDFやPEが主流となっている(非特許文献2)。 急性血液浄化療法では拡散や限外濾過、精密濾過、吸着の原理を利用して有害物質を除去することから、大量の透析液や補充液を使用する。 急性血液浄化療法に使用する透析液・補充液の必要条件は、(1)不要物質や余剰物質を低下させることが可能なこと、(2)必要物質や不足物質が補充できること、(3)有害な物質が含まれていないか、問題とならないほど低濃度であること、(4)生体内にある必要な物質を正常値下限濃度より低下させないこと、(5)生体内に取り込まれて代謝される物質は、代謝系に負荷とならない量であること、(6)浸透圧が血液に近い値であること、(7)安定していて、取扱いが簡便であることなどが挙げられる。慢性腎不全の治療用として市販されている人工腎臓用透析液(キンダリー(登録商標)液:扶桑薬品工業)や濾過型人工腎臓用補液(サブラッド(登録商標)−B、サブラッド(登録商標)−BS:扶桑薬品工業)は、これらの条件を満たし、かつ入手が容易であることから、急性血液浄化療法時の透析液・補充液にも用いられている。 これらの透析液・補充液の多くは、炭酸水素ナトリウムが配合されている。従って、時間の経過と共に補充液中のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し、不溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる。そこで、カルシウムイオン(Ca2+)およびマグネシウムイオン(Mg2+)を含む溶液(本明細書において「B液」と呼ぶ)と炭酸水素イオン(HCO3−)を含む溶液(本明細書において「A液」と呼ぶ)とが別々に収納された、用時混合型の製剤として供給されている(特許文献1)。特開2005−28108救急・集中治療,第18巻,第1・2号:3−4,2006日本臨牀,第62巻(増刊):397−402,2004 市販されている透析液・補充液の成分組成の一例は、ナトリウムイオン(Na+):132〜143mEq/L、カリウムイオン(K+):2.0〜2.5mEq/L、カルシウムイオン(Ca2+):2.5〜3.5mEq/L、マグネシウムイオン(Mg2+):1.0〜1.5mEq/L、塩素イオン(Cl−):104〜114.5mEq/L、炭酸水素イオン(HCO3−):0〜35.0mEq/L、酢酸イオン(CH3COO−):3.5〜40mEq/L、ブドウ糖:0〜200mg/dLを含むものである。 例えば、上記のサブラッド(登録商標)−BSは、隔壁を介して連結する上下二室を有する複室容器にB液とA液が収容されており、B液(上室)は1010mL中に 塩化ナトリウム(NaCl) 7.88g 塩化カルシウム(CaCl2・2H2O) 519.8mg 塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)205.4mg 酢酸ナトリウム(CH3COONa) 82.8mg ブドウ糖(C6H12O6) 2.02g および 氷酢酸(CH3COOH) 360.0mgを含み(pH:3.8〜3.9、浸透圧比:0.9〜1.0)、そしてA液(下室)は1010mL中に 塩化ナトリウム(NaCl) 4.460g 塩化カリウム(KCl) 0.30g および 炭酸水素ナトリウム(NaHCO3) 5.940gを含んでいる(pH:7.9〜8.5、浸透圧比:0.9〜1.0)。 使用前に上下室間の隔壁を開通してA液とB液を混合し、下室側から投与する。このような複室容器を使用するのは、同時に配合すると変質が予想される薬剤、すなわちカルシウムイオンやマグネシウムイオンと炭酸水素イオンを個別に収納するためである。 他にも炭酸水素イオンが配合される薬液としては、腹膜透析液、重曹(重炭酸)リンゲル液、および高カロリー輸液などがあり、その多くは炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとの反応を避けるため、複室容器に分画収容されている(例えば、特開平11−197240号公報を参照)。 しかしながら、これらの透析液・補充液は、慢性腎不全患者を対象とした電解質濃度で調整されており、急性血液浄化が必要とされる患者に適合させた処方ではないため、急性血液浄化療法においては不具合が生じる場合があった。 例えば、市販の透析液・補充液のカリウムイオン濃度は、高カリウム血症の是正のため、2.0〜2.5mEq/Lと低く設定されており、透析前血清カリウムイオン値が4.0mEq/L未満のような急性血液浄化症例の場合では、カリウムの除去にアシドーシスの改善が加わるため、急速な血清カリウムイオン値の低下をきたし、不整脈誘発やジギタリス中毒の危険性がある。 また、市販の透析液・補充液は、慢性腎不全患者向けに処方されていることから、高リン血症を改善するために、リン成分を全く含まない。そのため、透析前血清無機リン値が3.0mg/dL以下を呈するような急性血液浄化症例では、低リン血症となり免疫能の低下や重篤な場合には意識消失に至る危険性があった。 このため、市販の透析液・補充液を用いた急性血液浄化療法では、低カリウム血症や低リン血症を防ぐために、血液回路からカリウムイオンやリン酸イオンを補給して電解質組成を補正しなければならないという問題点があった。 また、透析液のアルカリ化剤(血液緩衝剤)は古くは酢酸塩が使用されていた。酢酸は透析膜から血中に移行し、炭酸水素イオンに代謝されるが、ダイアライザーの大面積、高性能化により、生体の処理能力を超える量の酢酸が負荷されるようになり、血圧低下、気分不快、頭痛、嘔気などの酢酸不耐症状が発生するようになった(Earnest DL et al.:Trans. Am. Soc. Artif. Intern. Organs 14:434-437, 1968)。現在はアルカリ化剤として酢酸塩に代わって炭酸水素塩が用いられるようになったが、pHの安定化のためになお少量の酢酸が含有されている。従って、酢酸不耐症状を避けるために、酢酸塩を全く含有しない透析液・補充液が求められていた。 これらの課題は、従来の透析液・補充液のカリウムイオン濃度を高め、リン酸イオンを配合し、また、酢酸イオンを生成する化合物を使用しないことによって解決できるのではないかと考えられるが、透析液・補充液は、生体の生理状態に微妙かつ重大な影響を及ぼす可能性のあるものであるから、そのような変更により直ちに所期の効果が得られるか否か定かではない。しかも、よく知られているように、リン酸イオンは炭酸水素イオンと同様、カルシウムイオンやマグネシウムイオンと反応してリン酸塩の不溶性沈殿を形成するものであるから、透析液・補充液中にリン酸イオンを含有させた場合、安定な薬液が得られるとは考え難い。 さらに前述のように、炭酸水素ナトリウムを含有する薬液では、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを長時間にわたって安定に共存させることが困難である。このため、炭酸水素イオンを含む薬液と、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを含む薬液を別々に分けて調製し、患者に投与する直前に両薬液を混合する作業を行っている。しかしながら、混合後においても時間の経過とともに溶液中の炭酸水素イオンが炭酸ガスとなって放出されるため、pHが上昇し、7.5を越えたあたりから不溶性の微粒子や結晶が生成するようになる。とりわけ、急性血液浄化療法では、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを長時間共存させて血液浄化を行うため、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈澱の発生が大きな問題となる。 最近、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを共存させた一剤型薬液に関する発明が開示されている(特許第3003504号)。これは、クエン酸および/またはクエン酸イオンを“pH調整剤”として使用することでpHを7.0〜7.8に調整し、不溶性微粒子の発生を防止し、かつ安定な電解質輸液を提供するというものである。 このように、クエン酸は輸液製剤のpH調整剤として使用されているが、特に注意すべきことは、クエン酸による副作用(クエン酸中毒、クエン酸のキレート作用によるカルシウムイオン濃度の低下など)が発生しないように、かつpH調整作用のみを発揮するように使用されなければならないことである。クエン酸中毒の症状としては、血圧低下、心機能抑制、心電図異常などが見られ、これらはクエン酸による血液中のカルシウムイオン濃度の低下が原因であることが報告されている(検査と技術,第19巻,第2号,1991)。特に、血管内に直接投与される輸液製剤にあっては、投与量が1〜2Lを超える場合も珍しくなく、また、急性血液浄化療法においては数十Lの液置換を伴うこともあることから、使用量が多くなるにつれて体内にクエン酸が多量に投与されることになり、それによってクエン酸中毒の発生やクエン酸のキレート作用による血液中カルシウムイオン濃度の低下などを起こす可能性があり、安全性に問題がある。 本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々研究を重ねた結果、カリウムイオンとリン酸イオンをそれぞれ一定範囲の濃度に保持することにより、低カリウム血症や低リン血症の発症を防ぐことができる安定性の良好な急性血液浄化用薬液を提供できることを見出した。また、当該薬液において、酢酸イオンを生成するような酢酸化合物を使用しないことにより、酢酸不耐症状を生じない、安定性の良好な急性血液浄化用薬液を提供できることを見出した。当該薬液中には、カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘わらず、リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生じない。また、リン酸イオンの存在により、炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンが共存し、pHが7.5を超えるような長時間後であっても、不溶性炭酸塩の生成が抑制される。これらの効果は、全く予想しなかった効果である。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。 従って、本発明は、炭酸水素イオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンが共存する薬液に対してリン酸イオンを含有させたことを特徴とする、長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制された安定な薬液を提供する。 本発明はまた、従来の透析液・補充液と比較して、カリウムイオン濃度が高く、リン酸イオンを含有することを特徴とする、長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制された安定な急性血液浄化用薬液を提供する。 上記急性血液浄化用薬液中のカリウムイオン濃度は3.5〜5.0mEq/Lに保持され、無機リン濃度は2.3〜4.5mg/dLの範囲に保持されることが好ましい。カリウムイオン濃度を上記の範囲に保持するのは、低カリウム血症の発症を防ぐためである。無機リン濃度を上記の範囲に保持するのは、低リン血症の発症を防ぐと同時に、薬液の安定性を維持するためである。少なくとも上記の範囲では、無機リン濃度が高いほど、長時間にわたって薬液の安定性が維持される傾向が認められる。また、当該薬液において、酢酸イオンを含有しないものとすることが酢酸不耐症の防止のために好ましい。 本発明の薬液には、炭酸水素イオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンが必須成分として含まれるから、リン酸イオンが存在していても、なおその間の反応で不溶性の微粒子や沈澱が形成される可能性を残している。従って、好ましくは炭酸水素イオンを含む水溶液とカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含む水溶液を別々に収容し、用時、両者を合して混合液とすることが好ましい。通常は、複室容器の下室に収容されるA液中に炭酸水素イオンを含有させ、上室に収容されるB液中にカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含有させる。カリウムイオンとリン酸イオンは、両者同時にまたは別々に、A液とB液のいずれかまたは両方に含有させることができる。 本発明により得られる急性血液浄化用透析液・補充液は、低カリウム血症や低リン血症を生じることがなく、従って急性血液浄化療法施行中に電解質を補正する必要がない。また、酢酸イオンを含有しない場合、酢酸不耐症症例においても安全に使用することができる。さらに本発明により得られる用時混合型の炭酸水素イオン配合薬液は、混合後も炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制されるので、長時間の血液浄化を伴う急性血液浄化療法に好適に用いられる。図1は、連通可能な隔壁を備えたダブルバッグ型の複室容器を表す。符号の説明 1 本発明の薬液を収容する複室容器、 2 破壊もしくは剥離可能な連通可能な隔壁、 3 下室(A室:投与側)、 3’上室(B室)、 4 加熱溶着部、 5 ゴム製等の密栓を備えた投与用口部、 6 薬剤投入用の口部。 本発明の一つの実施態様において、B液中にリン成分、好ましくはリン酸イオンまたはリン酸塩が含まれていることを特徴とする用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。好ましい実施態様において、少なくともナトリウムイオン、炭酸水素イオンおよび水を含むA液と、少なくともナトリウムイオン、塩素イオン、リン酸イオンおよび水を含むB液からなる用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 本発明の他の実施態様において、A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含み、そしてB液が、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、リン酸イオン、ブドウ糖および水を含む用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 他の実施態様において、A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび水を含み、そしてB液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、ブドウ糖および水を含む用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 他の実施態様において、A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含む用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 他の実施態様において、A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよび水を含み、そしてB液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ブドウ糖および水を含む用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 他の実施態様において、A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび水を含み、そしてB液が塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ブドウ糖および水を含み、そしてさらにA液、B液の少なくともいずれか一方にリン酸化合物を含む用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 他の実施態様において、上記の薬液のいずれかであって、A液およびB液の混合液のカリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lの範囲内である用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 他の実施態様において、上記の薬液のいずれかであって、A液およびB液の混合液の無機リン濃度が2.3〜4.5mg/dLの範囲内である用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 他の実施態様において、A液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.640g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)5.377gおよび水が含まれ、そしてB液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.598g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)0.203g、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4・2H20)0.403g、ブドウ糖(C6H12O6)2.00gおよび水が含まれる用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 他の実施態様において、A液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.382g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)5.377g、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4・12H2O)0.925gおよび水が含まれ、そしてB液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.706g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)0.203g、ブドウ糖(C6H12O6)2.00gおよび水が含まれる用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 本発明の好ましい実施態様において、A液およびB液の混合液が急性血液浄化療法の透析液および/補充液として哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、急性血液浄化療法開始から24時間の間にわたって、該哺乳動物の血漿中カリウムイオン濃度が正常範囲内であり、かつ、血漿中無機リン(iP)濃度の増減が急性血液浄化療法開始時と比べて有意に変動しない、用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 さらなる実施態様において、A液およびB液の混合液が急性血液浄化療法の透析液および/補充液として酢酸不耐症の哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、該哺乳動物が酢酸不耐症状を起こさない用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。 本発明の好ましい実施態様において、隔壁により上室と下室に区分けされ、かつ、当該下室の底部に密閉された開口部を備えた容器であって、当該下室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオンおよび炭酸水素イオンを含有するA液を充填し、当該上室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオンおよびブドウ糖を含有するB液を充填してなり、上下室のいずれか一方または両方にリン酸イオンを含有し、用時、上記隔壁を破壊もしくは剥離してA液とB液を混合するようにした、用時混合型薬液、特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液用容器が提供される。上記隔壁は、好ましくは、易剥離性を有する。 さらなる実施態様において、上記の薬液充填容器であって、さらに、上室の頂部に容器の係止手段を設けた、薬液充填容器が提供される。ここで、容器の係止手段とは、例えば吊り下げ用の穴である。 さらなる実施態様において、上記の薬液充填容器のいずれかであって、さらに、上室と下室の容積が同等となるように隔壁を設けた、薬液充填容器が提供される。 さらなる実施態様において、上記の薬液充填容器のいずれかであって、さらに、該容器が軟質の透明プラスチック製である、薬液充填容器が提供される。 さらなる実施態様において、上記の薬液充填容器のいずれかであって、さらに、A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムを含む水溶液からなり、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、およびブドウ糖を含む水溶液からなり、上下室のいずれか一方または両方にリン酸化合物を含有する、薬液充填容器が提供される。 本発明の用時混合型薬液を収容する容器は、2つ以上の薬液収容室を有する。例えば、本発明の用時混合型薬液を収容する容器は、上室(B室)と下室(A室:投与側)の間が連通可能な隔壁で隔てられている容器である。上室は、投与の際に上側に配置される薬液収容室であり、例えば図1における3’である。連通可能な隔壁の形態は特に制限はなく、例えば易剥離性を有するような弱溶着によりシール形成された隔壁、クリップ等で挟むことにより形成された隔壁、破断等により開通可能となるような連通部材を備えた隔壁などが挙げられる。これらのうち、特に易剥離的に熱溶着された隔壁部(弱シール部)でシール分画された容器が簡便性の点で好適に用いられる。易剥離性の熱溶着された隔壁部を備える容器は、一方の薬液収納室を外部から押圧することによりシール部が剥離し、薬液が無菌的に混合される。 弱シール部は、対向する2枚のフィルムシートを剥離可能に接合して構成されるもので、従来の複室容器(例えば、ダブルバッグ)の製造方法で採用されている方法によって接合することができる。例えば、弱シール部の張り合わせ面に混合樹脂を使用したり、弱シール部の位置に混合樹脂片を挟み加熱溶着したり、弱シール部の加熱温度を完全溶着温度よりも低く設定したりする方法などが挙げられる。 弱シール部を備えたダブルバッグ型の複室容器の例を図1に示す。図1において、1は本発明の薬液を収容する複室容器、2は破壊もしくは剥離可能な弱シール部、3は下室(A室:投与側)、3’は上室(B室)、4は加熱溶着部を表す。 容器1は、一方の端にゴム製等の密栓を備えた投与用口部5を、他端には薬剤投入用の口部6を備えている。図示の複室容器1は上下の2室に区画されているが、これに限定されるものではなく、3室以上であってもよい。また、複室容器や各薬剤収納室の形状、弱シール部の太さや形状についても何ら制限されるものではない。2室もしくはそれ以上の室の区画は、通常は1本の弱シール部によって仕切られるが、2本またはそれ以上の弱シール部によって仕切ることも可能である。 本発明の用時混合型薬液を収容する複室容器のフィルムシートに使用する素材としては、通常の医薬品用輸液容器に使用される合成樹脂が用いられる。例えば、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリブタジエン、ポリアミド、エチレン−メタクリレート共重合体、エチレンプロピレン系エラストマー、およびこれらの混合物等の単層または積層フイルムが用いられる。これらのフイルムは、ブロー成形法、インフレーション法、Tダイ成形法、多層形成法、共押出法等、公知の方法により成形される。 連通可能な隔壁で仕切られた複数の薬剤収納室のそれぞれに異なる薬剤が収容された形態の複室容器自体は、従来から知られている方法によって製造することができる。簡単に説明すると以下の通りである。 内層低密度ポリエチレン(0.1mm)、中間層エチレンプロピレン系エラストマー(0.3mm)、外層高密度ポリエチレン(0.1mm)の3層からなる積層フィルムシートを共押出法によって作製する。この積層フィルムシート2枚を所定の大きさに裁断し、口部5を薬剤収容室に連通した状態で挟み込み、口部6を除く外周部4および連通可能な隔壁2を加熱溶着する。 こうして製造された複室容器に、本発明の用時混合型薬液を充填することも、従来から知られている方法によって実施することができる。例えば、まず、薬剤収納室3へ、A液1000mL(塩化ナトリウム(NaCl)4.640g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)5.377g含有)を口部5より注入して、ゴム栓体で密封する。次に、薬剤収納室3’へ、B液1000mL(塩化ナトリウム(NaCl)7.598g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)0.203g、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4・2H20)0.403g、ブドウ糖(C6H12O6)2.00g含有)を口部6より注入し、その後、注入口6を加熱溶着する。そして、日本薬局方の最終滅菌法の指標に準じ、110℃、30分間の高圧蒸気滅菌処理を施して、最終製品とする。 あるいは、A液1000mL(塩化ナトリウム(NaCl)4.382g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)5.377g、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4・12H2O)0.925g含有)を口部5より注入して、ゴム栓体で密封する。次に、薬剤収納室3’へ、B液1000mL(塩化ナトリウム(NaCl)7.706g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)0.203g、ブドウ糖(C6H12O6)2.00g含有)を口部6より注入し、その後、注入口6を加熱溶着する。そして、日本薬局方の最終滅菌法の指標に準じ、110℃、30分間の高圧蒸気滅菌処理を施して、最終製品とする。 図1の複室容器に薬液が収納された後に、加熱滅菌が施される。加熱方法としては、高圧蒸気滅菌、熱水スプレー滅菌、熱水シャワー滅菌、熱水浸漬滅菌などが適用される。滅菌条件は、滅菌方法により適宜選択されるが、一般に100〜130℃、好ましくは105〜120℃で、15〜30分間加熱される。 このようにして薬液が無菌的に収納された複室容器は、外気との接触を避けるため、ガス非透過性の包材からなる外装容器内に密封収納することが好ましい。かかる目的で使用されるガス非透過性の包材には、エチレン−ビニルアルコール共重合体フイルム等、多くの種類が知られており、これらを適宜使用することができる。さらに、外装内を無酸素状態とするために、脱酸素剤を複室容器とともに収納したり、窒素ガスや炭酸ガスなどを充填してもよい。さらにピンホールを検知する目的で酸素検知剤などを同梱してもよい。 本明細書で言う「不溶性微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される」とは、投与対象に適用すべき最終薬液の調製後、たとえば上記A液とB液の混合後、少なくとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること、またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されることを意味する。 本明細書において使用される「用時混合型薬液」なる用語は、A液およびB液からなり、A液およびB液を混合した後に使用される薬液を意味する。 「急性血液浄化用薬液」なる用語は、急性血液浄化療法において使用される透析液または補充液を意味する。急性血液浄化療法は、当分野において通常使用される意義と同一である。なお、「補充液」は「補液」、「置換液」と呼ばれることもある。 また、「用時混合型急性血液浄化用薬液」なる用語は、用時混合型薬液のうち、急性血液浄化療法において使用される透析液または補充液を意味する。 本明細書において使用される「A液」なる用語は、少なくともナトリウムイオン、炭酸水素イオンおよび水を含む薬液を意味する。好ましくは、A液は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含む。 「B液」なる用語は、少なくともカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンならびに水を含む薬液を意味する。好ましくは、B液は、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含む。 なお、「A液」、「B液」は、用時溶解して液剤とするような固形剤でもよい。 上記したように、本発明の薬液は、カリウムイオンとリン酸イオンを含むことを特徴としているが、カリウム源としては、水溶液中でカリウムイオンを与える化合物、たとえば塩化カリウムのような無機カリウム塩、乳酸カリウム、グルコン酸カリウムのような有機酸カリウム塩などから選択して使用することができる。また、リン源としては、水溶液中でリン酸イオンを与える化合物、たとえばリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどから選択して使用することができる。カリウム源とリン源を兼ねるカリウムイオンとリン酸イオンを含む化合物、例えばリン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムなどの使用も考慮されてよい。 本発明薬液中のカリウムイオン濃度は、通常、3.5〜5.0mEq/Lであり、好ましくは3.5〜4.5mEq/Lである。また、無機リン濃度は、通常、2.3〜4.5mg/dL、好ましくは2.5〜4.0mg/dL(特に3.0mg/dL以上)である。本発明は、上記したように、通常、A液とB液の二液に分けて調製されるが、カリウムイオンもリン酸イオンも両液を合したとき、混合液中で上記の濃度となるように適宜調整すればよい。 次に、下記の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本発明の技術的範囲の限定を意図するものではない。また、下記の実施例において、次の機器および試薬を使用した。・ダイアライザー(APS-08MD、膜面積0.7m2、Lot No.01Z182082、旭化成メディカル)・持続濾過用血液回路(JCH-26S、Lot No.012942、ウベ循研)・血液浄化装置(JUN-505、シリアルNo.UA034、ウベ循研)・送液ポンプ(Masterflex L/S、コール・パーマー)・送液ポンプ(Watson Marlow 505Di、シリアルNo.B00005470、B00005471、ワトソン・モーロー)・シリンジポンプ(テルフュージョンシリンジポンプSTC-521、シリアルNo.8063084、テルモ)・ポリグラフシステム(RM-7000、日本光電) 血圧測定用アンプAP-641G 血圧トランスジューサ(ライフキット、DX-312、Lot No.107087) 生体電気用アンプAB-621G 生体電気用入力箱JB-640G カプラ用アンプAA-601H 呼吸/脈波カプラAR-650H 温度測定ユニットAW-601H 温度カプラAW-650H・吸入麻酔器・汎用血液ガス分析装置(アイ・スタット アナライザー300F、扶桑薬品工業)・汎用血液ガス分析装置(アイ・スタット カートリッジEG7+、Lot No.M02164B、扶桑薬品工業)・乾式臨床化学分析装置(富士ドライケム3030、富士メディカルシステム)・乾式臨床化学分析装置(富士ドライケム800、富士メディカルシステム)・微量高速遠心機(MX-150、トミー精工)・濾過型人工腎臓用補液(サブラッド-BS、Lot No.02D11A、扶桑薬品工業)・乳酸リンゲル液(ラクトリンゲル液“フソー”、扶桑薬品)・イソフルラン・タウロコール酸ナトリウム(和光純薬工業)・ベンジルペニシリンカリウム(注射用ペニシリンGカリウム50万単位、Lot No.7QC02P、明治製菓)・ヘパリンナトリウム(ヘパリンナトリウム注射液、Lot No.02G08A、扶桑薬品工業)<急性膵炎モデル動物の作製> 雄性ビーグル犬(体重10kg前後、日本農産)21頭を扶桑薬品工業株式会社内の大動物施設の飼育室(温度23±5℃、湿度50±20%RH、換気15〜20回/hr、照明12時間(7:00〜19:00))においてステンレス飼育ケージに1頭ずつ収容して飼育した。飼料は固形飼料(CREA Dog Diet CD−5M(商標)、日本クレア)を使用し、約300g/日を摂取させた。飲料水は上水道水を使用し、飼育期間中自由に飲水させた。 イソフルラン吸入麻酔下でビーグル犬を背位に固定し、腹部を切開し、総胆管を露出させ、クレンメで閉塞した。十二指腸を切開し、小十二指腸乳頭よりポリエチレン製チューブ(PE50、ベクトン・ディッキンソン)を副膵管に挿入し、逆行性に3%タウロコール酸ナトリウム生理食塩液溶液を1.0mL/kg/5minで注入し、急性膵炎を惹起した。 モデル作製術中および術後には適切な輸液を適切量投与した。 術後、感染防止のためにベンジルペニシリンカリウム注射液(50万単位/動物)を1日1回2日間、筋肉内投与することにより急性膵炎モデル動物を作製した。実施例1(i)上室液(B液)の調製・充填・密封 下記の表1に記載の成分分量を量り、日局注射用水にブドウ糖、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウムを順次加えて溶解し、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られた液を1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、充填口をシール溶着により密封した。本明細書において、表1の処方にて作製された薬液を「実施例1の上室液(B液)」と称する。表1(ii)下室液(A液)の調製・充填・密封 下記の表2に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を、(i)において上室液が充填され、そして密封された1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、ポート部にゴム栓体を挿入後、閉塞により密封し、ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において、表2の処方にて作製された薬液を「実施例1の下室液(A液)」と称する。表2実施例2(i)上室液(B液)の調製・充填・密封 下記の表3に記載の成分分量を量り、日局注射用水にブドウ糖、塩化ナトリウム、塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムを順次加えて溶解し、塩酸を添加した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られた液を1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、充填口をシール溶着により密封した。本明細書において、表3の処方にて作製された薬液を「実施例2の上室液(B液)」と称する。表3(ii)下室液(A液)の調製・充填・密封 下記の表4に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を、(i)において上室液が充填され、そして密封された1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、ポート部にゴム栓体を挿入後、閉塞により密封し、ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において、表4の処方にて作製された薬液を「実施例2の下室液(A液)」と称する。表4比較例(i)上室液(B液)の調製・充填・密封 下記の表5に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸ナトリウム、ブドウ糖および氷酢酸を順次加えて溶解し、粗濾過後、濾液に注射用水を適量加えて、全量を1010mLとした。得られた液を1010mL/1010mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、充填口をシール溶着により密封した。本明細書において、表5の処方にて作製された薬液を「比較例の上室液(B液)」と称する。「比較例の上室液」は、濾過型人工腎臓用補液である「サブラッド(登録商標)−BS」(扶桑薬品工業)のB液と同一の組成である。表5(ii)下室液(A液)の調製・充填・密封 下記の表6に記載の成分分量を量り、日局注射用水に塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後、粗濾過し、濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を、(i)において上室液が充填され、そして密封された1010mL/1010mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し、ポート部にゴム栓体を挿入後、閉塞により密封し、ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において、表6の処方にて作製された薬液を「比較例の下室液(A液)」と称する。「比較例の下室液」は、濾過型人工腎臓用補液である「サブラッド(登録商標)−BS」のA液と同一の組成である。表6<定性試験> 「実施例1の上室液(B液)」と「実施例1の下室液(A液)」の混合調整液(本明細書において「実施例1の混合液」と呼ぶ。)、「実施例2の上室液(B液)」と「実施例2の下室液(A液)」の混合調整液(本明細書において「実施例2の混合液」と呼ぶ。)、および「比較例の上室液(B液)」と「比較例の下室液(A液)」の混合調整液(本明細書において「比較例の混合液」と呼ぶ。)の糖・電解質濃度(理論値)を表7に示す。表7<CHDF試験>(方法1) ビーグル犬急性膵炎モデル(3頭)を膵炎惹起2日後に動物の体重を測定し、その後、イソフルランによる吸入麻酔を行った。右大腿動脈に血圧トランスジューサに接続したカニューレを、直腸に直腸温プローブを挿入し、各々血圧および体温をモニターした。心電図の測定は第II誘導で行った。左大腿動脈から右大腿静脈に採血用ポートをつけた動静脈シャント(中央部で取り外し可能)を作製した。血液凝固防止のため適正量のヘパリンナトリウム注射液(ヘパリン)を動静脈シャントの採血部より投与し、その後血液回路内に持続注入した。ヘパリン投与5分後にブラッドアクセスと血液回路(JCH−26S、ウベ循研)およびダイアライザー(APS−08MD、旭化成メディカル)とを接続した。(方法2) 方法1に続いて、血液流量20mL/min、透析液(実施例1の混合液)流量1200mL/hr、補充液(実施例1の混合液)流量300mL/hr、濾液(実施例1の混合液)流量1500mL/hr、除水量ゼロの条件でCHDFを24時間行った。CHDF開始の0、3、6、9、12、15、18、21および24時間後に、採血用ポートからヘパリン加血液1.5mLを採取した(脱血側静脈血)。採取したヘパリン加血液につき、各種機器分析を行った。 また、透析液および補充液を「比較例の混合液」に換えて、同様にCHDFを施行し、各種機器分析を行った。 検査項目:pH、PCO2(mmHg)、PO2(mmHg)、HCO3−(mmol/L)、tCO2(mmol/L)、sO2(%)、BE(mmol/L)、Hct(%)、Hb(g/dL)、Na+(mEq/L)、K+(mEq/L)、Cl−(mEq/L)、Ca2+(mEq/L)、Mg2+(mEq/L)、Lac(mEq/L)、Ca(mg/dL)、Mg(mg/dL)、iP(mg/dL)、GPT(U/L)、LDH(U/L)、AMY(U/L)、BUN(mg/dL)、ALB(g/dL)、GLU(mg/dL)。結果を表8に示す。値は、ビーグル犬3頭の平均値を表している。表8(結果) CHDF開始後のカリウム濃度の低下は、実施例1の混合液の方が比較例よりも緩やかであり、低カリウム血症を生じにくいことが示唆された。 また、CHDF開始後の無機リン(iP)濃度の低下も同様に実施例1の混合液の方が比較例よりも緩やかであり、低リン血症を生じにくいことが示唆された。 その他の測定値は両者間で差はなかった。 以上のことから、本発明の急性血液浄化用補充液は低カリウム血症や低リン血症の発生を良好に抑制できることが示唆された。<安定性試験> 急性血液浄化用剤の開放系におけるpH及び性状(色調及び澄明性)をリン酸水素二ナトリウムの濃度を変化させて測定した。(1.試験検体)1−1.塩化ナトリウム77.0625g、塩化カリウム2.9804g、塩化カルシウム・2水和物3.6827g、塩化マグネシウム・6水和物2.0315g、ブドウ糖20.0015g及び1mol/L塩酸2mLを取り、水を加えて2Lとする。(5倍濃度B原液)1−2.塩化ナトリウム43.8236g、塩化カリウム2.9797g及び炭酸水素ナトリウム53.7711gを取り、水を加えて2Lとした。(5倍濃度A原液)1−3.リン酸水素二ナトリウム・12水和物3.5804gを取り、水を加えて100mLとした。(リン酸水素二ナトリウム溶液)1−4.リン酸水素二ナトリウム・12水和物0.1153gを取り、5倍濃度A原液100mL及び水を加えて500mLとし、炭酸ガスをバブリングしてpHを約7.5にした(A液−1)。5倍濃度B原液100mL及び水を加えて500mLとした(B液−1)。A液−1及びB液−1各500mLを静かに混合した(P 1mg/dL)炭酸ガスをバブリングして混合後のpHを約7.25にした。1−5.リン酸水素二ナトリウム・12水和物0.2312gを取り、5倍濃度A原液100mL及び水を加えて500mLとし、炭酸ガスをバブリングしてpHを約7.5にした(A液−2)。5倍濃度B原液100mL及び水を加えて500mLとした(B液−2)。A液−1及びB液−1各500mLを静かに混合した(P 1mg/dL)。炭酸ガスをバブリングして混合後のpHを約7.25にした。1−6.リン酸水素二ナトリウム液0、1、2.5、5mLを取り、5倍濃度A原液100mL及び水を加えて500mLとし、炭酸ガスをバブリングしてpHを約7.5にした(A液−2〜5)。5倍濃度B原液100mL及び水を加えて500mLとしたものを4個用意した(B液−2)。A液−2及びB液−2各500mLを静かに混合した(P 1mg/dL)炭酸ガスをバブリングして混合後のpHを約7.25にした。A液−3〜5も同様に試験液を調製した。(リン酸イオン0、0.1、0.25、0.5mEq/L)(2.試験実施日)2007年7月9日〜12日(無機リン 1mg/dL、2mg/dL)2007年7月9日〜13日(リン酸イオン 0、0.1、0.25、0.5mEq/L)(3.試験方法)3−1.それぞれの試験検体を1Lプラスチック製ボトルに静かに注ぎ、回転子(9mm)で緩やかに攪拌した。3−2.pH及び性状(澄明性)を測定した。(4.試験結果)4−1.リン酸イオン 1mg/dL(0.32mEq/L)、2mg/dL(0.65mEq/L)表94−2.リン酸イオン0、0.1、0.25、0.5mEq/L表10(5. 考察) 上記表9および表10の結果から、薬液にリン酸イオンを含有させることにより、沈澱の生成が顕著に抑制され、0.1mEq/L(0.31mg/dL)の低濃度であっても、ある程度の沈澱生成の抑制が認められることが理解できる。 なお、別途、リン酸イオンを含有しない薬液と、リン酸イオンを濃度4mg/dLで含有する薬液との対比実験を行ったところ、7日間でpHが7.23〜7.29から7.89〜7.94までほぼ直線的に上昇し、その間にリン酸イオン不含有薬液では不溶性微粒子の粒径も数も顕著に増加したが、リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかかわらず、不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった。本発明により、リン酸イオンを配合した炭酸水素ナトリウムを含有する用時混合型の薬液が提供される。また、本発明により、急性血液浄化用透析液および補充液、特に低カリウム血症および低リン血症を生じない急性血液浄化用透析液および補充液が提供される。さらにまた、本発明により、混合後長時間にわたり、不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制される用時混合型の急性血液浄化用透析液および補充液が提供される。 ナトリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含むA液と、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含むB液を含み、そしてA液およびB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し、A液およびB液の少なくとも一方がリン酸イオンを含有し、かつA液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有せず、 A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lであり、無機リン濃度が2.3〜4.5mg/dLであり、そして少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、用時混合型急性血液浄化用薬液。 A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、リン酸イオン、ブドウ糖および水を含む、請求項1に記載の薬液。 A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウムおよび水を含み、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、リン酸二水素ナトリウム、ブドウ糖および水を含む、請求項2に記載の薬液。 A液がナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオンおよび水を含み、そしてB液がナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含む、請求項1に記載の薬液。 A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよび水を含み、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ブドウ糖および水を含む、請求項4に記載の薬液。 A液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.640g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)5.377gおよび水が含まれ、そしてB液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.598g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)0.203g、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4・2H2O)0.403g、ブドウ糖(C6H12O6)2.00gおよび水が含まれ、A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないことを特徴とする、用時混合型急性血液浄化用薬液。 A液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)4.382g、塩化カリウム(KCl)0.298g、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)5.377g、リン酸水素二ナトリウム(Na2HPO4・12H2O)0.925gおよび水が含まれ、そしてB液1000mL中に、塩化ナトリウム(NaCl)7.706g、塩化カリウム(KCl)0.298g、塩化カルシウム(CaCl2・2H2O)0.368g、塩化マグネシウム(MgCl2・6H2O)0.203g、ブドウ糖(C6H12O6)2.00gおよび水が含まれ、A液およびB液のいずれもが酢酸イオンを含有しないことを特徴とする、用時混合型急性血液浄化用薬液。 A液およびB液の混合液が急性血液浄化療法の透析液または補充液として哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合、急性血液浄化療法開始から24時間にわたって、該哺乳動物の血漿中カリウムイオン濃度が正常範囲内であり、かつ、血漿中リン酸イオン濃度の増減が急性血液浄化療法開始時と比べて有意に変動しない、請求項1〜7のいずれかに記載の薬液。 低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制する、請求項1〜8のいずれかに記載の薬液。 酢酸不耐症患者に適用可能な、請求項1〜9のいずれかに記載の薬液。 隔壁により上室と下室に区分けされ、かつ、当該下室の底部に密閉された開口部を備えた容器であって、当該下室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、塩素イオン、炭酸水素イオンおよび水を含有するA液を充填し、当該上室には、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、ブドウ糖および水を含有するB液を充填してなり、そしてA液およびB液の少なくとも一方にはさらにリン酸イオンが含有されており、かつA液およびB液のいずれにも酢酸イオンが含有されておらず、用時、上記隔壁を破壊もしくは剥離してA液とB液を混合するようにしており、 A液とB液を合した混合液において、カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lであり、無機リン濃度が2.3〜4.5mg/dLであり、そして少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される、用時混合型急性血液浄化用薬液充填容器。 上室の頂部に容器の係止手段を設けた、請求項11に記載の薬液充填容器。 上室と下室の容積が同等となるように隔壁を設けた、請求項11または12に記載の薬液充填容器。 容器が軟質の透明プラスチック製である、請求項11〜13のいずれかに記載の薬液充填容器。 A液が炭酸水素ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化ナトリウムを含む水溶液からなり、B液が塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよびブドウ糖を含む水溶液からなり、A液およびB液の少なくとも一方にリン酸イオンが含有されている、請求項11〜14のいずれかに記載の薬液充填容器。 薬液が低カリウム血症および/または低リン血症の発生を抑制する、請求項11〜15のいずれかに記載の薬液充填容器。 薬液が酢酸不耐症患者に適用可能な、請求項11〜16のいずれかに記載の薬液充填容器。