生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_セリシンを用いたトランスフェクションデバイス
出願番号:2009530086
年次:2013
IPC分類:C12M 1/00,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

藤田 芳司 吉川 智啓 JP 5172845 特許公報(B2) 20130111 2009530086 20080822 セリシンを用いたトランスフェクションデバイス 株式会社サイトパスファインダー 505380692 北村 修一郎 100107308 山▲崎▼ 徹也 100114959 太田 隆司 100126930 藤田 芳司 吉川 智啓 JP 2007218733 20070824 20130327 C12M 1/00 20060101AFI20130307BHJP C12N 15/09 20060101ALI20130307BHJP JPC12M1/00 AC12N15/00 A C12N 15/00-15/90 C12M 1/00 PubMed JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) CA/BIOSIS/WPIDS(STN) 特表2006−511229(JP,A) Biosci. Biotechnol. Biochem., vol. 69, pages 403-405 (2005) Prog. Polym. Sci., vol. 33, pages 998-1012 (2008) 5 JP2008065027 20080822 WO2009028421 20090305 17 20110221 滝口 尚良 本発明は、動物細胞に外部から遺伝子試料(例えば、一本鎖又は、二本鎖のデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、アプタマーあるいはこれらの化学修飾誘導体など)を導入するトランスフェクションデバイスに関する。 トランスフェクション(遺伝子導入)を目的として遺伝子試料を固相基材に固着させたデバイスは、遺伝子治療用途や遺伝子解析用途に用いることが可能である。これまで報告されてきたトランスフェクションデバイス技術としては、遺伝子試料をゼラチンやフィブロネクチン等の細胞間マトリックスタンパク質と一緒に固着したものや(特許文献1,2又は非特許文献1参照)、遺伝子試料をリン酸カルシウム塩と一緒に固相表面に析出させたものなどがある(非特許文献2〜6参照)。米国特許第6544790号明細書米国特許第6905878号明細書J.Ziauddin and D.M.Sabatini.Microarrays of cells expressed defined cDNAs.Nature 411,107−110(2001).R.Z.Wu et al.Cell−biological applications of transfected−cell microarrays.Trends in Cell Biology 12,485−488(2002).T.Ochiya et al.New delivery system for plasmid DNA in vivo using atelocollagen as a carrier material:the Minipellet.Nature Med.5,707−710(1999)K.Honma et al.Atelocollagen−based gene transfer in cells allows high−throughput screening of gene functions.Biochem.Biophys.Res.Commu.289,1075−1081(2001)T.Yoshikawa et al.Transfection microarray of human mesenchymal stem cells and on−chip siRNA gene knockdown.J.Controlled Release 96,227−232(2004).E.Uchimura et al.On−chip transfection of PC12 cells based on the rational understanding of the role of ECM molecules:efficient,non−viral transfection of PC12 cells using collagenIV.Neuroscience Lett.378,40−43(2005). しかしながら、上記文献に記載される従来のトランスフェクションデバイス技術においては、遺伝子試料、遺伝子デリバリー材料に加え、細胞接着因子及びその誘導体を必要とした。フィブロネクチンやコラーゲンなどの細胞接着因子は、細胞表面のインテグリンレセプターなどと結合し細胞に外的刺激を入力する分子であり細胞機能に直接影響を与える分子である。そのため細胞接着因子をトランスフェクションデバイスに用いると、遺伝子導入以外に副作用として細胞機能影響(分化誘導、増殖亢進・抑制など)を及ぼすことが予想される。遺伝子試料の導入による細胞機能への影響を調べることを目的としたトランスフェクションデバイスにおいては、副作用を生じさせない物質を用いることが望まれる。 本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、高い遺伝子材料導入効率と再現性、並びに副作用の少ないトランスフェクションを実現し得る新規なトランスフェクションデバイスを提供するものである。 上記目的を達成するための本発明のトランスフェクションデバイスの第一特徴構成は、遺伝子試料、遺伝子デリバリー材料に加え、5,000〜40,000の分子量を有するセリシンの加水分解物を含む混合物を固相基材に乾燥させて固着した点にある。 〔作用及び効果〕 本発明のトランスフェクションデバイスは、遺伝子試料、遺伝子デリバリー材料、細胞接着因子または、哺乳動物由来成分を含むものを固相基材に固着してある従来のトランスフェクションデバイスと比較して、同等又はそれ以上の遺伝子導入効率及び再現性を有している。さらに、従来のトランスフェクションデバイスでは、細胞接着因子または、哺乳動物由来成分を含有する固相基材上にて細胞分化や増殖(以下、副作用と称する)への影響が懸念されているのに対し、本発明では、そのような細胞接着因子または、哺乳動物由来成分を一切用いていないため、それらの副作用を生じさせることの少ない固相表面を提供できる。これにより、トランスフェクションデバイスの実用性、汎用性の向上が期待できる。さらに、セリシンは絹糸の精錬過程における水溶性分であり、加圧・加熱滅菌操作を行っても、その作用活性に変化がない。細胞接着因子または、哺乳動物由来成分は、加圧・加熱滅菌操作により生理活性を失うことから、セリシン化合物(セリシン又はその加水分解物)とは大きく異なる。さらに、セリシン化合物の有する抗酸化作用・細胞保護効果による、トランスフェクション時の細胞毒性の緩和が期待できる。 副次的効果として、細胞接着因子はその精製工程が複雑で、非常に高価であるが、本発明では、比較的容易に精錬工程における水溶性分から分離精製可能なセリシン化合物を用いることで、安価かつ同等以上の、トランスフェクションデバイスを提供できる点にある。 尚、遺伝子試料、遺伝子デリバリー材料に加え、5,000〜40,000の分子量を有するセリシンの加水分解物を固相基材に乾燥させて固着することで、例えば、細胞接着因子の存在に基づく分化誘導、増殖亢進・抑制による影響を受けずに遺伝子試料の導入による細胞機能への影響を測定することができ、トランスフェクションデバイスとしての実用性、汎用性が向上できるという知見は、本発明者らの鋭意研究によって初めて見出されたものである。 本発明の第2特徴構成は、前記遺伝子試料が、一本鎖又は二本鎖のデオキシリボ核酸、リボ核酸、アプタマー、あるいはこれらの化学修飾誘導体からなる群から少なくとも1種を選択した点にある。〔作用及び効果〕 遺伝子試料を一本鎖又は二本鎖のデオキシリボ核酸或いはリボ核酸とした場合、遺伝子の過剰発現、アンチセンス効果及び、RNA干渉などが期待される。これによって、遺伝子の機能解析が可能となる。これら核酸の化学修飾は、核酸の安定化や非特異的反応を導くことが期待できる。 遺伝子試料をアプタマーとした場合、標的とするタンパク質に強固に結合することによって、機能阻害を生じさせることが可能である。特に化学修飾されたアプタマーでは、安定化及び非特異的反応を抑制する働きのほかに、ターゲットタンパク質の特異的ラベル化等の用途がある。 本発明の第3特徴構成は、前記遺伝子デリバリー材料が、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、ミネラルからなる群から選択される少なくとも1種を含有する点にある。〔作用及び効果〕 遺伝子デリバリー材料は、遺伝子試料を細胞に導入する際、エンドサイトーシス、ピノサイトーシス、ファゴサイトーシス、細胞膜との融合などを誘導する物質である。当該遺伝子デリバリー材料が、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、ミネラルからなる群から選択される少なくとも1種を含有すれば、効率的に遺伝子試料を細胞内に送り込むことが可能となる。 本発明の第4特徴構成は、前記混合物が、グルコース、スクロース、グリコーゲン、グルタミン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、トレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、セリンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物、細胞培養用培地成分又は、純水を含む点にある。〔作用及び効果〕 本構成のように混合物が、グルコース、スクロース、グリコーゲン、グルタミン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、トレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、セリンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物、細胞培養用培地成分又は、純水を含むものを固相基材に固着すると、遺伝子導入効率を向上させることができる。 本発明のトランスフェクションデバイスは、遺伝子試料、遺伝子デリバリー材料、細胞接着因子を含むものを固相基材に固着してある従来のトランスフェクションデバイスに比べて、細胞によって差はあるものの、およそ2倍から10倍程度、遺伝子導入効率を向上させることが可能であり、その結果、高い再現性を確保することができる。これにより、トランスフェクションデバイスの実用性の向上が期待できる。 本発明の第5特徴構成は、前記固相基材を構成する材料が、ガラス、合成高分子、金属類、天然高分子からなる群から選択される点にある。〔作用及び効果〕 固相基材を構成する材料が、硬質板(ガラス・プラスチック・金属類)の場合は、細胞アレイなどの基材として適した環境を提供することができる。特に光透過性の高い基材では、顕微鏡観察などが容易に可能となり、金属などの導電基材では、電位変化の測定などが可能となる。 軟質板(高分子フィルムなど)では、シート状トランスフェクションデバイスの提供や、パッチ基材などへ適用可能である。 基材が、粒子及び高分子マトリクスの場合には、in vivoデリバリーや、徐放化基材への利用用途が考えられる。は、固相基材としてガラススライドを用いた場合の本発明のトランスフェクションデバイス(ガラスアレイ)の製造方法(一例)を示す図である。は、固相基材としてマルチウェルプレートを用いた場合の本発明のトランスフェクションデバイスの製造方法(一例)の概要を示す図である。は、実施例1にて使用した56種類の試料の溶液組成を示す図である。は、本発明のトランスフェクションデバイスにおける蛍光画像を示す図である。は、本発明のプラスミドDNAトランスフェクションデバイスを使用してトランスフェクションを実施する手順(概要)を示す図である。は、本発明のプラスミドDNAトランスフェクションデバイスにおける蛍光画像(a)及び位相差画像(b)を示す図である。は、本発明のsiRNAトランスフェクションデバイスを使用してトランスフェクションを実施する手順(概要)を示す図である。は、本発明のsiRNAトランスフェクションデバイスにおけるトランスフェクション結果を示す図である。は、本発明のsiRNAトランスフェクションデバイスを使用してトランスフェクションを実施する手順(概要)を示す図である。は、本発明のsiRNAトランスフェクションデバイスにおけるトランスフェクション結果(TRAIL誘導アポトーシスのsiRNA導入による阻害効果測定結果)を示す図である。は、実施例5にて使用した6種類の試料の溶液組成を示す図である。は、本発明のsiRNAトランスフェクションデバイスにおけるトランスフェクション結果(加熱滅菌後のセリシン加水分解物溶液の活性保持)を示す図である。は、実施例6にて使用した混合液の溶液組成を示す図である。は、本発明のsiRNAトランスフェクションデバイスにおけるトランスフェクション結果(セリシンの細胞毒性の緩和効果)を示す図である。 本発明の実施の形態を説明する前に、特許請求の範囲及び明細書にて用いられる用語について以下に説明する。(遺伝子試料) 本発明に適用可能な遺伝子試料としては、一本鎖又は二本鎖のデオキシリボ核酸(例えばプラスミドDNA等)、リボ核酸(例えばsiRNA等)、アプタマー、あるいはこれらの化学修飾誘導体等が挙げられる。(遺伝子デリバリー材料) 本発明に適用可能な遺伝子デリバリー材料としては、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、ミネラル等が挙げられ、これらを単独で、あるいは任意に組み合わせて使用することができる。(セリシンの加水分解物) 本発明に適用可能なセリシンの加水分解物とは、天然のセリシンに対して適当な酸・アルカリ・酵素等を使用して加水分解処理して得られた種々の分子量を有するペプチド若しくはポリペプチドの混合物、天然のセリシンを加水分解処理した際に得られる特定のアミノ酸配列を有するペプチド若しくはポリペプチドあるいはそのような特定のアミノ酸配列を有するペプチド若しくはポリペプチドを化学合成や遺伝子工学的手法によって人工的に得られたもの等であって、且つ、遺伝子導入能を有するものをいう。 尚、本発明においては、特に5,000〜40,000程度の分子量を有するセリシン加水分解物が好ましい。(固相基材) 本発明に適用可能な固相基材を構成する材料としては、例えば、ガラス、合成樹脂や合成繊維等の合成高分子、金属類、天然樹脂や天然繊維等の天然高分子等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、本発明に適用可能な固相基材の形状としては、例えば、板状体、マルチウェルプレート、織布、ニードル、多孔性繊維、ビーズ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。(溶媒) 本発明に適用可能な溶媒としては、グルコース、スクロース、グリコーゲン、グルタミン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、トレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、セリンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む水溶液、細胞培養用培地成分を含む水溶液、又は純水等が挙げられる。(プリント装置) 本発明に適用可能なプリント装置としては、例えば、インクジェットプリンターやリキッドハンドリング装置等が挙げられるが、これに限定されるものではない。(細胞) 本発明のトランスフェクションデバイスを使用して遺伝子試料を導入し得る細胞としては、培養可能な真核細胞であれば任意の細胞に適用可能であり、例えば、HeLa細胞(ヒト子宮頸がん細胞)等が挙げられるがこれに限定されるものではない。 次いで、以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。 〔第1実施形態〕 図1は、固相基材としてガラススライドを用いた場合の本発明のトランスフェクションデバイス(ガラスアレイ)の製造方法(一例)を示したものである。 図1(a)に示すように、例えばエッペンドルフチューブなどの適当な容器において、例えば10μL〜25μLの前記溶媒に、例えば0.1μg〜5μgの前記遺伝子試料を溶解させた後、例えば0.1μL〜10μLの前記遺伝子デリバリー材料を加えて混合し、例えば室温にて20分間の所定条件下にて反応させる。 所定の反応時間が経過した後、その反応液に、5,000〜40,000の分子量を有するセリシンの加水分解物を、例えば0.001μg〜1mg加えて混合して、混合液1を調製する。 次いで、図1(b)に示すように、その混合液1を、適当なプリント装置2により、固相基材であるガラススライド3上へプリントしてスポット形成し、自然乾燥で完全に乾燥させる。 また、トランスフェクション(遺伝子導入)を実施する際は、図1(b)に示すように、スポット形成されたガラススライド3をシャーレ5内に収容し、適当な細胞を含有する細胞懸濁液4を注ぎ込んで播種し、細胞培養を行うことで遺伝子導入が完了する。 尚、遺伝子導入された細胞は、混合液1のプリント領域(スポット領域)のみで観察される。 〔第2実施形態〕 図2は、固相基材としてマルチウェルプレートを用いた場合の本発明のトランスフェクションデバイスの製造方法の一例の概要を示したものである。 所望の遺伝子試料、及び適当な遺伝子デリバリー材料を適切な溶媒中にて溶解したものに、5,000〜40,000の分子量を有するセリシンの加水分解物をさらに加えて混合して混合液を調製し、その混合液をマルチウェルプレート上の各ウェル6にリキッドハンドリング装置などを使用して分注した後、真空乾燥装置により乾固させて製造する。 トランスフェクション(遺伝子導入)を実施する際は、遺伝子試料等が固着されている前記各ウェル中に、適当な細胞を含有する所定の量の細胞懸濁液を注ぎ込んで播種し、細胞培養を行うことで遺伝子導入が完了する。(実施例1) 従来のトランスフェクションデバイスでは、フィブロネクチンなどの細胞接着因子を用いたデバイス製造を行っていたが、本実施例では、接着因子及び、細胞接着因子ではない生体由来成分(アルブミン複合体、アルブミン)を用いることなく、セーレン株式会社により製造されたセリシン加水分解物(分子量5,000〜40,000程度)をトランスフェクションデバイス製造に用いた。 本実施例にて使用した遺伝子試料(DNA)は、pEGFP−N1(緑色蛍光タンパク質EGFPを発現するプラスミドDNA)であり、このプラスミドDNA(pEGFP−N1)は、エンドトキシン除去工程を経て生成されたものを使用し、DNA分解酵素(DNase)及びRNA分解酵素(RNase)を含まない滅菌蒸留水に溶解して、1μg/μLに調製したものを使用した。 また、溶媒として、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地成分(細胞培養用培地成分)を含む水溶液)を使用し、遺伝子デリバリー材料として、LF2000(市販のLipofectAMINE2000(インビトロジェン社製))を使用した。 図3に示される溶液組成にて、56種類の混合液(試料1〜56)を調製した。試料1〜8については、セリシン加水分解物の替わりにフィブロネクチンを使用した。その後、ガラススライドのデバイス上に1試料につき9スポットずつプリントした。次いで、HeLa細胞(5×104cell/mL)を播種して、48時間の細胞培養を経た後、導入した遺伝子試料DNA(pEGFP−N1)の発現により生成された緑色蛍光タンパク質(EGFP)の蛍光画像を取得してトランスフェクションの確認を行った。その蛍光画像を図4に示した。 その結果、セリシン加水分解物を使用したものは、フィブロネクチンを用いた場合と比較しても同等かそれ以上のトランスフェクション効率・局在性を有していることが明らかとなった。(実施例2) 固相基材として1536ウェルのマルチウェルプレート(NUNC 1536 WELL Assay Plates,No.153613 Greiner 1536 Black flat bottom 782092(with clear bottom,HI−Base))を使用して、プラスミドDNAトランスフェクションデバイス(本発明のトランスフェクションデバイスの一例)を作製した。 作製したプラスミドDNAトランスフェクションデバイスについて、以下に記載の条件下でトランスフェクションを実施し、セリシン加水分解物が、プラスミドDNAトランスフェクションデバイスにおいて有効に機能し得るかどうかを確認した。 図5に示すように、遺伝子試料pEGFP−N1(0.5μg〜2.0μg)、遺伝子デリバリー材料LF2000(0.5μL〜8.0μL)、滅菌済み純水(40μL〜49μL)、及び0.2mg/mL〜8mg/mLのセリシン加水分解物溶液(セーレン株式会社製)(5μL〜50μL)を混合して混合液を調製した。この混合液を、上記マルチウェルプレートの各ウェル中に、1ウェル当たり0.5μL〜4μLとなるようにリキッドハンドリング装置などを使用して分注し、2時間以上真空乾燥装置により完全に乾固させた。 そして、1ウェル当たり約500個のHeLa細胞を播種し、24時間の細胞培養を経た後、導入した遺伝子試料DNA(pEGFP−N1)の発現により生成された緑色蛍光タンパク質(EGFP)の蛍光画像を倒立型顕微鏡IX−71(オリンパス株式会社製)を使用して取得し、トランスフェクションの確認を行った。その蛍光画像を図6(a)に示す。 また、24時間の細胞培養を経た細胞について、位相差顕微鏡を使用してその位相差画像を取得し、細胞毒性による細胞の形態変化の有無を確認した。その位相差画像を図6(b)に示す。 図6(a)に示されるように、本実施例のプラスミドDNAトランスフェクションデバイスにおいて、高いトランスフェクション効率が確認されたと共に、図6(b)の結果から、本実施例においては特に細胞の形態的な変化が見られず、細胞毒性も確認されなかった。(実施例3) 固相基材として1536ウェルのマルチウェルプレート(NUNC 1536 Well High Base Plates,No.164708)を使用して、siRNAトランスフェクションデバイス(本発明のトランスフェクションデバイスの一例)を作製した。 作製したsiRNAトランスフェクションデバイスについて、以下に記載の条件下でトランスフェクションを実施し、セリシン加水分解物が、siRNAトランスフェクションデバイスにおいて有効に機能し得るかどうかを確認した。 本実施例にて使用した遺伝子試料pDeRed2−1は、プラスミドDNAであるが、プロモータを有しないため発現せず、本実施例においては単なる核酸のキャリアとして使用した。また、このプラスミドDNA(pDeRed2−1)は、エンドトキシン除去工程を経て生成されたものを使用し、DNA分解酵素(DNase)及びRNA分解酵素(RNase)を含まない滅菌蒸留水に溶解して、1μg/μLに調製したものを使用した。 また、本実施例にて使用した遺伝子試料siRNAは、siRNA溶解用溶媒(キアゲン社製)に20μMの濃度で溶解したネガティブコントロールsiRNA(キアゲン社製:カタログ番号1022076)及びsiCONTROL TOX(ダーマコン社製:カタログ番号D−001500−01−05)である。 また、溶媒として滅菌済み純水を使用し、遺伝子デリバリー材料としてLF2000を使用した。細胞数の測定には、CellTiter−Blue試薬(D-PBSにより4倍に希釈したもの:プロメガ社製)を使用した。 図7に示すように、遺伝子試料としてpDeRed2−1(0.5μg〜2.0μg)および20μM siRNA(ネガティブコントロールsiRNA、siCONTROL TOX(以下、siTOXと略称する))(1μL〜10μL)、遺伝子デリバリー材料LF2000(0.5μL〜8.0μL)、純水(30μL〜48μL)、及び、0.2mg/mL〜8mg/mLのセリシン加水分解物溶液(セーレン株式会社製)(5μL〜50μL)を混合して混合液を調製した。 当該混合液を、上記マルチウェルプレートの各ウェル中に、リキッドハンドリング装置などを使用して所定量(1ウェル当たり0.5μL〜4μL)ずつ分注し、2時間以上真空乾燥装置により完全に乾固させた。そして、1ウェル当たり約500個のHeLa細胞を播種し、48時間の細胞培養を経た後、Cell Titer−Blue試薬を加えて1時間放置し、蛍光量をプレートリーダーで取得した。 尚、トランスフェクションの確認については、ネガティブコントロールsiRNAを含有するウェル(ネガティブコントロールsiRNAによるトランスフェクトを行うウェル)の蛍光量と、siTOXを含有するウェル(siTOXによるトランスフェクトを行うウェル)の蛍光量との比較を行って確認した。 また、本実施例のsiRNAトランスフェクションデバイスにおける細胞毒性を評価するため、トランスフェクションを実施しない未処理のHeLa細胞(約500個)を含有するウェルを用意して、その蛍光量についても同時に測定した。 ネガティブコントロールsiRNAは、HeLa細胞内に導入されてもその細胞の細胞死を生じさせないsiRNAであり、siTOXは、HeLa細胞内に導入されるとその細胞の細胞死を引き起こし得るsiRNAである。 即ち、ネガティブコントロールsiRNAを導入しても細胞は生存し得るが、siTOXを導入された細胞は、細胞死を引き起こされて死滅し得る。 また、Cell Titer−Blue試薬は、生細胞が酸化還元色素(レサズリン)を蛍光産物(レゾルフィン)に変換し得るという性質を利用することによって、蛍光で細胞の生存性をモニタリングすることが可能となる試薬であり、蛍光量は、生細胞数に比例する。 即ち、トランスフェクションの確認については、導入したsiRNAの細胞増殖阻害効果を指標としており、上記ネガティブコントロールsiRNA、又はsiTOXを細胞にトランスフェクションし、それらの細胞の生死をCell Titer−Blue試薬により確認して生細胞数(蛍光量)を比較することによって、トランスフェクション効率を測定することができる。 図8に示されるように、本実施例のsiRNAトランスフェクションデバイスにおいては、トランスフェクトを行わない場合(何も含まないウェルに細胞を播種しただけのものであって、図8において未処理と略称する)と、ネガティブコントロールsiRNAをトランスフェクションした場合(図8において、ネガティブコントロールと略称する)とではその蛍光量にほとんど差がなく、細胞毒性はほとんど確認されなかった。 また、siTOXをトランスフェクトした場合(図8において、siTOXと略称する)については、未処理やネガティブコントロールと比べてその蛍光量(生細胞数)が非常に少なく、siTOXが確実に細胞に導入されたものと考えられ、高いトランスフェクション効率が確認された。 尚、本実施例におけるネガティブコントロールとsiTOXとの間のZ´因子(Z´factor)値は、0.409であった。このことは、ネガティブコントロールとsiTOXとの間には、その蛍光量において明確な差が生じており、本実施例のsiRNAトランスフェクションデバイスが、高いsiRNA導入効率を有することを示唆するものである。(実施例4) TRAIL(tumor necrosis factor−related apoptosis inducing ligand)は、アポトーシス誘導活性が確認されているサイトカインの一種であり、TRAILの存在下において細胞培養を実施した場合、略全ての細胞がアポトーシスによって死滅し得ることが知られている。 一方、図9の配列番号1〜5に示されるsiRNA(siSRP54c、siSRP54d、siSRP72a、siSRP72c、及びsiDR4)については、384ウェルを用いた液相系トランスフェクションスクリーニングにおいて、TRAILにより誘導されるアポトーシスを阻害し得ることが、Aza−Blancらによって既に報告されている(公知文献:Molecular Cell,Vol.12,627−637,September,2003参照)。 本実施例においては、配列番号1〜5に示される上記siRNAを用いて、siRNAトランスフェクションデバイスを作製し、これらのsiRNAによるアポトーシス阻害効果を再現できるかどうかの確認を行った。 図9に示す実験系を用いて、1536ウェル固相系トランスフェクションデバイスにて、配列番号1〜5に示されるsiRNAをHeLa細胞へ導入し、TRAILが誘導するアポトーシスを阻害する効果が確認できるかどうか実験を行った。 固相基材として1536ウェルのマルチウェルプレート(NUNC 1536 Well High Base Plates,No.164708)を使用して、siRNAトランスフェクションデバイス(本発明のトランスフェクションデバイスの一例)を作製した。 本実施例にて使用した遺伝子試料pDeRed2−1は、実施例3と同じものとした。 本実施例にて使用した遺伝子試料であるネガティブコントロールsiRNAは、ネガティブコントロールsiRNA(キアゲン社製:Allstars Negative Control siRNA カタログ番号1027280)を、siRNA溶解用溶媒(キアゲン社製)に20μMの濃度で溶解したものである。 配列番号1及び2にて示されるsiRNA(遺伝子試料)は、アポトーシス時に発現し得るSRP54遺伝子の塩基配列における2つの異なる塩基配列領域をそれぞれターゲットとしており、siRNA溶解用溶媒(キアゲン社製)に20μMの濃度で溶解したものである。 配列番号3及び4にて示されるsiRNA(遺伝子試料)は、アポトーシス時に発現し得るSRP72遺伝子の塩基配列における2つの異なる塩基配列領域をそれぞれターゲットとしており、siRNA溶解用溶媒(キアゲン社製)に20μMの濃度で溶解したものである。 配列番号5にて示されるsiRNA(遺伝子試料)は、アポトーシス時に発現し得るDR4遺伝子の塩基配列の一部をターゲットとしており、siRNA溶解用溶媒(キアゲン社製)に20μMの濃度で溶解したものである。 溶媒として滅菌済み純水を使用し、遺伝子デリバリー材料としてLF2000を使用した。 遺伝子試料としてpDeRed2−1(0.5μg〜2.0μg)および遺20μM siRNA(配列番号1〜5に示されるsiRNA、及びネガティブコントロールsiRNA)(1μL〜10μL)、遺伝子デリバリー材料LF2000(0.5μL〜8.0μL)、純水(30μL〜48μL)、及び、0.2mg/mL〜8mg/mLのセリシン加水分解物溶液(セーレン株式会社製)(5μL〜50μL)を混合して、上記siRNAの種類に対応する6種類の混合液(6試料)を調製した。各試料を、上記マルチウェルプレート(1536ウェル)の各ウェル(1試料に付き8ウェル)中に、リキッドハンドリング装置などを使用して所定量(1ウェル当たり0.5μL〜4μL)ずつ分注し、2時間以上真空乾燥装置により完全に乾固させることにより製造した。 そして、1ウェル当たり約500個のHeLa細胞を播種し、DEME及び10%FBS(ウシ胎仔血清)の存在下で48時間の細胞培養を行った。次いで、TRAIL(0.5μg/mL)を含む培地(DMEM及び1%FBS)に培地交換してさらに20時間細胞培養した後、Cell Titer−Blue試薬(プロメガ社製)を加えて1時間放置し、蛍光量をプレートリーダーで取得した。 図10にその結果を示した。1試料につき8検体(n=8)あることから、それらの平均値を算出してグラフ化した(P<0.01)。 この結果、対照としたネガティブコントロールsiRNAを導入したHeLa細胞(図10において、ネガティブコントロールsiRNAと略称する)は、TRAIL存在下で殆どが死滅していることと比較して、配列番号1〜5に示されるsiRNA配列を導入した細胞(図10において、それぞれsiSRP54c、siSRP54d、siSRP72a、siSRP72c、及びsiDR4と略称する)では、細胞の生存割合が有為に向上していることが明らかとなった。このことから、1536ウェル固相系トランスフェクションデバイスにおいて、効率よくsiRNA導入が行われていることが確認できた。(実施例5) フィブロネクチンなどの生体由来分子は加熱滅菌を行うことにより、その活性を失うため、滅菌にはフィルター滅菌を用いている。一方セリシンは、精練過程からの抽出成分であるため、加熱滅菌してもその生理活性に変化が無いことが特徴である。 オートクレーブにて121℃、20分で加熱滅菌を行ったセリシン加水分解物溶液(1mg/mL:セーレン株式会社製)を使用して、マルチウェルプレート(1536ウェル)を使用してHeLa細胞へのsiRNA導入を行って、フィルター孔径0.22μmのPVDF膜(ミリポア社製)でフィルター滅菌したセリシン加水分解物溶液(1mg/mL:セーレン株式会社製)との活性の違いを比較した。 本実施例にて使用した遺伝子試料であるネガティブコントロールsiRNAは、ネガティブコントロールsiRNA(キアゲン社製:カタログ番号1022076)を、siRNA溶解用溶媒(キアゲン社製)に20μMの濃度で溶解したものである。 また、遺伝子試料であるsiRNAは、siTOX(ダーマコン社製:カタログ番号D−001500−01−05)、及び、KIF11−7(キアゲン社製:カタログ番号SI02653770)を、それぞれsiRNA溶解用溶媒(キアゲン社製)に20μMの濃度で溶解したものである。 溶媒として滅菌済み純水を使用し、遺伝子デリバリー材料としてHiPerFect Transfection Reagent(キアゲン社製:カタログ番号301702)を使用した。 図11に示される組成の6種類の混合液(試料57〜試料62)を調製し、上記マルチウェルプレートの各ウェル中に所定量(1ウェル当たり1μL〜6μL)ずつ分注した後、真空乾燥機により完全に乾燥させて1536ウェルトランスフェクションデバイスを作製した。 真空乾燥後の1536ウェルトランスフェクションデバイスに、HeLa細胞(1.25×105cells/mL)を、1ウェル当たり4μLとなるように播種し、炭酸ガスインキュベータ内にて48時間培養を行った。その後、細胞数の測定にCellTiter−Blue試薬(プロメガ社製)を使用して、siRNA導入細胞の細胞増殖に与える影響を評価した。 その結果、図12に示すように、ネガティブコントロールsiRNAを細胞導入した場合(図12おいて、ネガティブコントロールと略称する)においては、フィルター滅菌したセリシン加水分解物溶液、オートクレーブ滅菌したセリシン加水分解物溶液のどちらを使用した場合にも、顕著な細胞毒性は見られなかった。一方、細胞増殖抑制効果が確認されているsiTOX、及びKIF11−7を細胞導入した場合(図12おいて、それぞれsiTOX及びKIF11−7と略称する)には、フィルター滅菌又はオートクレーブ滅菌のいずれの方法で滅菌処理したセリシン加水分解物溶液を用いても、明瞭な細胞増殖阻害効果が確認された。この結果から、オートクレーブ滅菌を行っても、セリシンの活性(核酸導入効率向上)には変化が見られなかった。(実施例6) 固相系遺伝子導入では、溶液を基板上にプリントした後に乾燥させる工程を含む。この工程では、溶液中に溶け込んでいる成分が析出し、時にはこれが細胞増殖を抑制、つまり、細胞毒性を生じる場合がある。フィブロネクチンを含有するトランスフェクションデバイスでは、プリント溶液組成により細胞毒性が観察されることがあった。 セリシンには、細胞保護効果があることが知られているが、トランスフェクションデバイスにおいて細胞毒性の緩和効果が観察されるかどうか、フィブロネクチンを対象として比較検討を行った。 本実施例にて使用した遺伝子試料pDeRed2−1は、実施例3と同じものとした。 本実施例にて使用した遺伝子試料であるsiRNAは、ネガティブコントロールsiRNA(キアゲン社製:カタログ番号1022076)を、siRNA溶解用溶媒(キアゲン社製)に20μMの濃度で溶解したものである。 溶媒として滅菌済み純水及びOpti−MEM培地(インビトロジェン社製)を使用し、遺伝子デリバリー材料としてLF2000を使用した。細胞数の測定には、CellTiter−Blue試薬(プロメガ社製)を使用した。 図13に示される組成において、遺伝子試料(pDeRed2−1、及びネガティブコントロールsiRNA)及びOpti−MEM培地を含有する第1溶液と、遺伝子デリバリー材料(LipofectAMINE2000)及びOpti−MEM培地を含有する第2溶液とを調製し、第1溶液と第2溶液とを混合して混合液を調製した。 この混合液を、滅菌蒸留水にて溶解したセリシン加水分解物溶液(4mg/mL)、又は滅菌蒸留水にて溶解したフィブロネクチン溶液(4mg/mL)を用いて所定の倍率(1.5倍〜20倍)に希釈したものを、マルチウェルプレート(1536ウェル)の各ウェルに所定量(1μL〜6μL)ずつ分注した。その後、真空乾燥機により完全に乾燥させて1536ウェルトランスフェクションデバイスを作製した。 真空乾燥後の1536ウェルトランスフェクションデバイスに、HeLa細胞(1.25×105cells/mL)を1ウェル当たり4μLとなるように播種し、炭酸ガスインキュベータ内にて48時間培養を行った。その後、細胞数の測定に、CellTiter−Blue試薬(プロメガ社製)を使用して、核酸導入細胞の細胞増殖に与える影響を評価した。 その結果、図14に示すように、フィブロネクチン溶液(図14において、フィブロネクチンと略称する)を用いて希釈を行ったトランスフェクションデバイスに比べ、セリシン加水分解物溶液(図14において、セリシンと略称する)を用いて希釈を行ったトランスフェクションデバイスにおいて、明瞭な細胞毒性の緩和効果が観察された。 本発明は、動物細胞に外部から遺伝子試料(例えば、一本鎖又は、二本鎖のデオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、アプタマーあるいはこれらの化学修飾誘導体など)を導入するトランスフェクションデバイスに利用できる。 遺伝子試料、遺伝子デリバリー材料および5,000〜40,000の分子量を有するセリシンの加水分解物を含む混合物を固相基材に乾燥させて固着してあるトランスフェクションデバイス。 前記遺伝子試料は、一本鎖又は二本鎖のデオキシリボ核酸、リボ核酸、アプタマー、あるいはこれらの化学修飾誘導体からなる群から少なくとも1種を選択する請求項1記載のトランスフェクションデバイス。 前記遺伝子デリバリー材料は、カチオン性ポリマー、カチオン性脂質、ミネラルからなる群から少なくとも1種を含有する請求項1又は2に記載のトランスフェクションデバイス。 前記混合物は、グルコース、スクロース、グリコーゲン、グルタミン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、トレオニン、トリプトファン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、セリンからなる群から選択される少なくとも1種の化合物、細胞培養用培地成分又は、純水を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスフェクションデバイス。 前記固相基材を構成する材料が、ガラス、合成高分子、金属類、天然高分子からなる群から選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載のトランスフェクションデバイス。配列表


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