生命科学関連特許情報

タイトル:公表特許公報(A)_陰イオン交換を用いる核酸精製方法
出願番号:2009529350
年次:2010
IPC分類:C12N 15/09


特許情報キャッシュ

タッケラッパティ,スッダカール・ラオ アンバット,ラジェッシュ JP 2010504738 公表特許公報(A) 20100218 2009529350 20070919 陰イオン交換を用いる核酸精製方法 ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・コーポレイション 598041463 松本 研一 100093908 小倉 博 100105588 黒川 俊久 100129779 タッケラッパティ,スッダカール・ラオ アンバット,ラジェッシュ US 60/826,913 20060926 C12N 15/09 20060101AFI20100122BHJP JPC12N15/00 A AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MT,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW US2007078816 20070919 WO2008039664 20080403 30 20090324 4B024 4B024AA11 4B024AA20 4B024CA01 4B024GA18 4B024HA20 本発明は、一般に、タンパク質、脂質、可溶性膜成分などの汚染細胞成分からゲノムDNA、プラスミドDNA及びmRNAのような核酸を分離する方法に関する。詳しくは、本発明は、溶離液のpHを高める組成物の添加によってバッチモード又は充填モードにおける陰イオン交換クロマトグラフィー媒質からの核酸回収率を向上させることに関する。 最近の30年間、生物学的供給源から核酸を単離及び精製するための改良法の開発に多大の努力が見られた。これは、主として医学及び生物学における核酸の用途が増加したことに原因する。血液、組織又は培養細胞から単離されたゲノムDNAは、PCR、配列決定、遺伝子型決定、ハイブリダイゼーション及びサザンブロッティングを含む様々な用途を有している。プラスミドDNAは、配列決定、PCR、ワクチン開発及び遺伝子療法において利用されてきた。単離RNAは、ブロットハイブリダイゼーション、インビトロ翻訳、cDNA合成及びRT−PCRを含む各種の下流用途を有している。 核酸の分析及びインビトロ操作の前には、通例、後続の処理手順を妨害することがある不要の夾雑物を核酸から除去するための核酸単離段階が実施される。研究用及び診断用の分子生物学におけるほとんどの方法については、最初の段階として抽出された核酸が要求される。典型的なDNA抽出プロトコルでは、研究対象となる核酸を含む細胞又はホモジナイズド組織試料を採取し、標準的な方法(例えば、プロテイナーゼK及びリゾチームのような酵素の使用、SDS、Brij、トリトン(Triton)HCl00のような洗浄剤の使用、或いは水酸化ナトリウム、イソチオシアン酸グアニジニウムなどの他の化学薬品の使用)を用いて溶解する。(例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning - A Laboratory Manual 2nd edition 9.14(New York:Cold Spring Harbor Laboratory 1989)を参照されたい。)細胞破片の除去後、粗溶解物をフェノール/クロロホルムのような有機溶媒で処理してタンパク質を抽出する。必要ならば、RNアーゼのような酵素で処理することでRNAを除去又は低減できる。しかし、塩類、フェノール、洗浄剤などの夾雑物の存在は、核酸に対して想定されている多くの下流操作を妨害することがある。 現在、DNA(ゲノム及びプラスミド)及びRNAのクロマトグラフィー精製のためには、例えばシリカベース膜精製、サイズ排除クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、磁気ビーズベース精製又はイオン交換クロマトグラフィーの使用によるいくつかの方法が利用可能である。イオン交換クロマトグラフィーは最も普通に使用される分解及び精製方法の1つであり、プラスミドDNA、ゲノムDNA及びRNAの精製のために使用されてきた。例えば、米国特許第6,410,274号(Bhikhabhai),米国特許第6,310,199号(Smithら)、米国特許第6,090,288号(Berlundら)、米国特許第5,990,301号(Colpanら)、米国特許第5,856,192号、米国特許第5,866,428号(Bloch)、米国特許第5,801,237号(Johansson)、欧州特許第1125943号(Macherey−Nagel GmbH & Co)、欧州特許第992583号、欧州特許第616639号(Qiagen)、米国特許第5,707,812号、米国特許第5,561,064号(Vical Inc.)を参照されたい。 核酸精製のための陰イオン交換クロマトグラフィー方法を広範囲にわたって参照してきたが、現行のプロトコルの欠点の1つは溶離段階における核酸の回収率が悪いことである(Endres, H.N. et al, Biotechnol. Appl. Biochem., (2003), 37(3), 259-66; Prazeres, D.M. et al, J. Chromatog. A. (1998), 806(1), 31-45; Urthaler J. et al, Acta Biochim. Pol., (2005), 52(3), 703-11; Ferreira, G.N. et al, Bioseparation, (2000), 9(1), 1-6; Ferreira, G.N., et al, Biotechnol. Prog., (2000), 16(3), 416-24)。吸着及び脱離時にポリオール及びアルコールのような有機薬剤を添加することは、DNAの陰イオン交換精製に際して選択率及び回収率を向上させることが示された(Tseng, W.C. et al, J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci., (2003), 791(1-2), 263-72)。しかし、陰イオン交換樹脂からのDNA脱離に際してしばしば見られる回収率の問題とまともに取り組んだ報告は存在しないように思われる。この問題は陰イオン交換樹脂からの結合DNAの回収率を向上させることに関係するので、本発明はそれと取り組んでいる。特に、本発明はプロトコルのさらなる操作なしに固体担体からのDNA脱離の向上を可能にする。 プラスミドDNA、ゲノムDNA及びRNAは互いに類似した電荷特性を有しており、高い電荷密度を有するポリ陰イオンである。したがって、吸着すべき核酸の鎖長及びコンホメーションに応じ、最大0.7Mの塩化ナトリウムの存在下で正に帯電したイオン交換樹脂に結合することが可能である。核酸鎖長の増加並びに二本鎖コンホメーションは、核酸と陰イオン交換体との間の結合強度の増加をもたらす。しかし、この効果は約2キロベースまでの核酸鎖長に比例するにすぎない。核酸の負に帯電したリン酸エステル主鎖とイオン交換樹脂との間の非常に強い相互作用は、通常の方法を用いて核酸を溶離するのを妨げる。通常の方法では、塩溶離液のイオン強度を単に増加させるだけで70〜100%の結合物質を回収するのに十分である。しかし、長鎖核酸の場合には、最大3Mまで塩のイオン強度を増加しても20〜50%の結合核酸しか回収できない。残りの結合物質の回収は、高い塩濃度と水酸化ナトリウムを用いて高めたpHとの組合せで達成できる。しかし、水酸化ナトリウムは苛性を示すばかりでなく、核酸の不可逆的な変性及び経時的な分解を引き起こすことがある。米国特許第6,410,274号明細書米国特許第6,310,199号明細書米国特許第6,090,288号明細書米国特許第5,990,301号明細書米国特許第5,856,192号明細書米国特許第5,866,428号明細書米国特許第5,801,237号明細書欧州特許第1125943号明細書欧州特許第992583号明細書欧州特許第616639号明細書米国特許第5,707,812号明細書米国特許第5,561,064号明細書欧州特許第1243649号明細書Sambrook et al, Molecular Cloning - A Laboratory Manual 2nd edition 9.14 (New York: Cold Spring Harbor Laboratory 1989)Endres, H.N. et al, Biotechnol. Appl. Biochem., (2003), 37(3), 259-66Prazeres, D.M. et al, J. Chromatog. A. (1998), 806(1), 31-45Urthaler J. et al, Acta Biochim. Pol., (2005), 52(3), 703-11Ferreira, G.N. et al, Bioseparation, (2000), 9(1), 1-6Ferreira, G.N., et al, Biotechnol. Prog., (2000), 16(3), 416-24Tseng, W.C. et al, J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci., (2003), 791(1-2), 263-72Chen et al, Journal of Chromatography, 1118(1), 2006, 3-11Thayer, J.R., et al, Analytical Biochemistry, 338(1), 2005, 39-47 このたび意外にも、高い塩濃度及び溶離液中における溶離液のpHを高める添加剤の存在を含む条件下で核酸を陰イオン交換樹脂から効率的に溶離できると共に、溶離液のpHは好適には約pH9〜約pH13の範囲内であり、さらに好ましくは約pH10〜約pH12の範囲内であることが見出された。添加剤の一例はグアニジン又はグアニジン様誘導体である。別の例は炭酸カリウムである。溶離液にいずれかの添加剤を添加することは、陰イオン交換樹脂からの核酸回収率を20〜50%から70〜95%に向上させることが証明された。 かくして第1の態様では、本発明は、細胞から核酸を分離及び/又は精製する方法であって、a)前記細胞を溶解液で溶解して核酸含有水溶液を生成する段階、b)陰イオン交換体が核酸を結合するような条件下で、核酸含有水溶液を固体支持マトリックスに結合された陰イオン交換体に接触させる段階、及びc)核酸溶離液からなる水性移動相を用いて前記陰イオン交換体を溶離する段階を含んでなる方法において、前記溶離液が水性移動相のpHを約pH9〜約pH13にするような添加剤を含み、溶離液中における添加剤の存在が添加剤の不存在下での前記核酸の回収率に比べて陰イオン交換体からの核酸回収率の増加をもたらすことを特徴する方法を提供する。 したがって本発明は、通常のイオン交換クロマトグラフィー操作に比べて核酸の安定性を損なうことなく陰イオン交換樹脂から高い回収率の核酸を得るため、溶離液への添加剤としての化合物の使用方法を提供する。核酸はホスホジエステル結合によって共有結合されたデオキシリボースリン酸エステルモノマーの鎖(又はペア鎖)からなり、各糖リン酸エステルは単一の芳香族複素環式塩基を担持している。かかる塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T、DNA中にのみ見られる)及びウラシル(U、RNA中にのみ見られる)である。pH>2の水溶液中では、高可溶性の親水性糖リン酸エステルポリマー主鎖は、最大2つの負電荷を担持し得る末端ホスホモノエステルを除き、各ホスホジエステルに対して1つの負電荷を与える。このようにDNAはポリ陰イオンであり、核酸分子の正味負電荷は鎖長と直接に関係している。したがって、核酸は陰イオン交換樹脂に対して強い結合親和性を示す結果、樹脂から核酸を効率的に除去するためには溶離液中に高い塩濃度が必要となる。 陰イオン交換樹脂からの核酸回収率に対するグアニジン及びグアニジン様化合物(特にアルギニン)の好ましい効果は、例えば約pH9〜約pH13のアルカリ性pH、さらに好ましくは約10〜12のpH値において最も顕著である。約10.5〜11.6のpH範囲が最適回収率を与えるように思われる。核酸の回収率は、溶離液にアルギニン又は炭酸グアニジンを添加した場合に最も高い。理論によって束縛されることはないが、グアニジニウム基の特異な性質の1つは、二重結合と窒素孤立電子対との間の共役に原因する非局在化正電荷特性である。グアニジニウム基は優先的にグアニン塩基と複数の水素結合を形成することができ、これは核酸構造の局部変形を引き起こすように作用することがある。このような核酸のコンホメーションの変化は脱離動態の変化の一因となり、かくして陰イオン交換クロマトグラフィーに際して核酸の高い回収率を有利に与える。高分子は複数の付着点を介して吸着表面に結合してクロマトグラフィー媒質表面上にミクロ環境を生み出すことが知られており、こうして生じる吸着は通常の脱離技法では不可逆に近くなることがある。従来の陰イオン交換クロマトグラフィーでは、競合する塩陰イオンを増加させることで正に帯電したリガンドから結合分子を溶離することができるが、核酸、特に(0.1キロベースを超える)高分子量(HMW)核酸の溶離は塩陰イオンのみでは効率的でないことが認められている。また、対イオンとして使用される陽イオン並びに溶離のpHはHMV核酸の回収率に対して影響を及ぼすと共に、強アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)の使用は夾雑物の同時溶離及び生成物の安定性に対する有害効果のため回収率にとって有害であり得ることも認められている。 一実施形態では、添加剤は下記の式(I)を有する化合物(さらに詳しくは、その炭酸塩又は重炭酸塩)である。式中、RはH及び任意にはアミノで置換された低級アルキルから選択される。好適には、低級アルキルはC1〜C4アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル又はブチル、好ましくはメチル又はエチルである。Rがアミノ置換低級アルキル基である場合、式(I)に係る化合物の例には、2−アミノエチル−グアニジン、3−アミノプロピル−グアニジン及び4−アミノブチル−グアニジン(アグマチン)がある。特に好ましい実施形態では、Rは水素であり、したがって化合物(I)は炭酸塩又は重炭酸塩としてのグアニジンである。 第2の実施形態では、添加剤は下記の式(I)を有する化合物である。式中、Rは次式の基である。式中、nは1、2又は3、好ましくは3である。この場合、添加剤はアルギニン、好適にはL−アルギニン、D−アルギニン又は両光学異性体の混合物である。 第3の実施形態では、添加剤は同様なpHを与える無機塩である。かかる塩の一例は炭酸カリウムである。別の例は炭酸ナトリウムである。 本発明の実施形態では、グアニジン又はグアニジン様化合物或いは炭酸カリウムは、0.1〜2M、好ましくは0.25〜0.5Mの濃度で溶離液中に添加剤として存在することが好ましい。溶離液は、通例、好適には約0.7〜3Mの塩溶液に添加剤を添加したものからなる。好適には、水性移動相のpHは約pH9〜約pH13であり、好ましいpH範囲は約pH10〜約pH12であり、さらに好ましくは約pH10.5〜約pH11.6である。 本明細書中で使用する「核酸」という用語は、任意のDNA又はRNA分子、或いはDNA/RNAハイブリッド、或いはDNA及び/又はRNAの混合物をいう。したがって、「核酸」という用語はゲノムDNA又は染色体DNA、プラスミドDNA、増幅DNA、総RNA及びmRNAを含むことが意図されている。本発明に係る方法は、種(例えば、ヒト、齧歯類、猿類)、組織源(例えば、脳、肝臓、肺、心臓、腎臓、皮膚、筋肉)及び細胞タイプ(例えば、上皮細胞、内皮細胞、血液)に関して一般に認められている任意の供給源(正常細胞及び形質転換細胞を含む)からの細胞試料及び組織試料から導かれる複合成分混合物からのゲノムDNAの調製及び/又は精製のために特に適している。 さらに、本発明の方法は、約0.1〜約200キロベースのサイズを有するゲノムDNA或いはプラスミドDNA、コスミド、BAC又はYACの調製及び/又は精製のために適している。本発明は、特にクローニング及び配列決定のような分子生物学研究における下流用途、遺伝子療法並びにインビボ及びインビトロでの診断用途のためにプラスミドDNA及びコスミドDNAを精製するのに有用である。 本発明の方法で使用するのに適した陰イオン交換樹脂には、強陰イオン交換体及び弱陰イオン交換体の両方がある。この場合、陰イオン交換樹脂は好適には支持キャリヤーに帯電基又は帯電可能基を結合したものからなる。イオン交換樹脂はビーズ、膜又は表面の形態を有し得る。強陰イオン交換樹脂の例には、Q Sepharose Fast Flow樹脂、Q Sepharose XL及びCaptoQがある。弱イオン交換樹脂の例には、ANX Fast Flow樹脂及びDEAE Sephadex A25樹脂がある(GE Healthcare社)。 上記に開示した添加剤を水性移動相中に使用することで、溶離液中に添加剤が存在しないこと以外はすべて等しい条件下で同じ陰イオン交換体から核酸を回収する場合に比べて、陰イオン交換体からの核酸回収率を40%以上、通例は約40〜約400%増加させることが可能である。 第2の態様では、本発明は、細胞試料から核酸を分離及び/又は精製するためのキットであって、細胞試料から核酸含有水溶液を生成するための溶解液、核酸を結合するための、固体支持マトリックスに結合された陰イオン交換体、陰イオン交換体から核酸を溶離するための溶離液、及び任意には溶離核酸を脱塩するための脱塩手段を含んでなるキットを提供する。好適には、前記溶離液のpHを約pH9〜約pH13のpHにするような添加剤が溶離液中に存在する。 一実施形態では、添加剤はアルギニンである。別の実施形態では、添加剤は炭酸塩又は重炭酸塩として存在するグアニジンである。さらに別の実施形態では、添加剤は炭酸カリウムである。 好ましくは、陰イオン交換体はANX Fast Flow樹脂である。別法として、陰イオン交換体はDEAE Sephadex A25樹脂、Q Sepharose Fast Flow樹脂、Q Sepharose XL又はCaptoQ樹脂(いずれもGE Healthcare社製)である。 本発明のその他の特徴及び利点は、好ましい実施形態に関する以下の説明及び特許請求の範囲から明らかとなろう。図1は、本発明の一実施形態に係る方法を用いてヒト血液試料から精製したゲノムDNAのパルス電界ゲル電気泳動分析を示している。図2は、ヒト血液試料からの精製ゲノムDNAのアガロースゲルイメージを示している。図3は、ヒト血液試料から精製した制限酵素(EcoRI)消化ゲノムDNA及び未消化ゲノムDNAの比較を示している。図4は、ヒト血液からのゲノムDNA試料について得られたリアルタイムPCR増幅結果を示しており、試料間において非常によく似た増幅プロファイルが認められる。図5は、本発明の一実施形態に係る方法を用いてラット肝臓試料から精製したゲノムDNAのパルス電界ゲル電気泳動分析を示している。図6は、ラット肝臓試料からのゲノムDNA試料について得られたリアルタイムPCR増幅結果を示しており、試料間において非常によく似た増幅プロファイルが認められる。図7は、ラット肝臓試料から精製した制限酵素(HindIII)消化ゲノムDNA及び未消化ゲノムDNAの比較を示している。図8は、本発明の一実施形態に係る方法を用いて培養MRC5細胞試料から精製したゲノムDNAのパルス電界ゲル電気泳動分析を示している。図9は、MRC5細胞試料から精製した制限酵素(EcoRI)消化ゲノムDNA及び未消化ゲノムDNAの比較を示している。 以下の実施例は本発明の実施形態に係るDNA精製プロセスを例示するために役立つものであり、限定的なものではない。 (A)実施例で使用するプロトコル (a)血液からのゲノムDNAの単離 血液からのゲノムDNA単離は2段階で行われる。第1の段階は細胞の溶解であり、第2の段階はイオン交換カラムクロマトグラフィーを用いるゲノムDNAの精製である。 溶解:このプロセスは2つの段階を含んでいる。まず白血球を単離し、次いで溶解液を用いて単離した白血球を溶解する。白血球の単離及び白血球の溶解のために使用するプロトコルは下記の通りである。ここでは、一例として5mlの血液を使用する。しかし、使用する血液の量に応じてプロトコルを調整することができる。1.5mlの全血を50mlの円錐形遠心管に加える。2.5mlの予冷した溶解1液及び15mlの冷水を試料に加える。管をラックに入れ、管を10〜15回転倒させることでよく混合する。3.周囲温度で10分間インキュベートする。4.1500×gで10分間遠心する。5.ペレットを乱すことなく、希釈漂白液を入れた廃棄物容器内に上澄みを廃棄する(又はEHSによって推奨される適切な安全対策に従う)。6.1mlの溶解1液及び3mlの水を遠心管に加え、短時間渦動させることでペレットを再懸濁する。7.5000×gで10分間遠心する。8.白血球ペレットを乱すことなしに上澄みを注意深く廃棄する。9.最高速度で30秒〜1分間渦動させることで白血球ペレットを5mlの溶解2液中に再懸濁する。10.50μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)(AG Scientific社)を加え、短時間渦動させ、周囲温度で20分間インキュベートする。11.5mlのローディング液を遠心管に加え、管を渦動させることでよく混合し、この溶液を精製カラム上にロードする。 精製:精製プロセスは脱塩プロセス(段階17〜21)も含んでいる。12.イオン交換精製カラム(計器上での自動化プロセスを用いて充填された、プラスチック管内の約1.5mlのイオン交換樹脂)の頂部からキャップを取り除く。デカントによって溶液を捨てる。ノッチの位置でカラムの閉鎖端を切断し、カラムアダプターを用いてカラムを50ml遠心管内に配置する。13.上記の段階11から得られた溶解液をカラムに移し、重力によって樹脂中を完全に流通させる。14.5mlのローディング液をカラムに適用する。15.すべてのローディング液が樹脂を通過した後、カラムを新しい50ml遠心管内に配置する。16.2.5mlの溶離液をカラムに加え、生成物を溶出液中に捕集する。 脱塩:17.脱塩カラムのキャップを取り除き、溶液を捨てる。ノッチの位置でカラムの閉鎖端を切断し、アダプターを用いてカラムを遠心管内に配置する。18.25mLの1×TE緩衝液(10mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA)を適用することでカラムを平衡化する。これは、LabMate PD−10緩衝液溜め(GE Healthcare社)を用いることで一段階で達成できる。19.精製段階16からの溶出液(2.5ml)を脱塩カラムに移し、重力によって流通させる。20.溶液がゲルベッドに完全に入った後、カラムを新しい50ml遠心管内に配置する。21.3.5mlの1×TE緩衝液を各カラムに加え、ゲノムDNAを含む溶出液を捕集する。こうして得られた脱塩試料は定量化及び下流用途のために使用するできる。 (b)組織試料からのゲノムDNAの単離 下記の段階によって組織試料を調製する。精製プロセスから良好な収量のゲノムDNAを得るためには、完全にホモジナイズした試料を使用することが極めて重要である。1.微小片に切断することで約100mgの組織を秤取する。2.組織を1×PBS緩衝液で洗う。1mlの1×PBS緩衝液を加え、渦動させ、1000RPMで1分間遠心する。洗液を捨て、管内に残った微量の緩衝液をピペットで除去する。3.0.5mlの1×PBS緩衝液を加え、試料をハンドヘルドホモジナイザーでホモジナイズする。 こうして調製した組織試料に対し、ゲノムDNA単離のための下記の段階を施す。段階4〜7は試料溶解のためであり、段階8〜12は精製のためであり、段階13〜17は脱塩のためである。4.0.5mLの溶解液をホモジナイズド試料に加え(PBSと溶解液との比=1:1)、可能な最高速度で20〜30秒間渦動させる。5.50μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)溶液を加え、短時間渦動させ、60℃で1〜1.5時間インキュベートする。6.インキュベーション期間後、反応管を氷浴中で3分間冷却する。20μlのRNアーゼA溶液(20mg/ml)を加え、37℃で15分間インキュベートする。7.粗溶解物を4mlの無DNアーゼ水及び5mlのローディング液で希釈し、5000×gで15分間遠心して粒子状物質をペレット化する。 精製8.精製カラムの頂部からキャップを取り除く。デカントによって溶液を捨てる。ノッチの位置でカラムの閉鎖端を切断し、カラムアダプターを用いてカラムを50ml遠心管内に配置する。9.溶解液をカラムに移し、重力によって樹脂中を完全に流通させる。10.5mlのローディング液をカラムに適用する。11.すべてのローディング液が樹脂を通過した後、カラムを新しい50ml遠心管内に配置する。12.2.5mlの溶離液をカラムに加え、生成物を溶出液中に捕集する。 脱塩13.脱塩カラムのキャップを取り除き、溶液を捨てる。ノッチの位置でカラムの閉鎖端を切断し、アダプターを用いてカラムを遠心管内に配置する。14.25mLの1×TE緩衝液を適用することでカラムを平衡化する。これはLabMate PD−10緩衝液溜めを用いることで達成できる。15.精製段階12からの溶出液(2.5ml)を脱塩カラムに移し、重力によって流通させる。16.溶液がゲルベッドに完全に入った後、カラムを新しい50ml遠心管内に配置する。17.3.5mlの1×TE緩衝液を各カラムに加え、ゲノムDNAを含む溶出液を捕集する。こうして得られた脱塩試料は定量化及び下流用途のために使用できる。 (c)細胞培養物からのゲノムDNAの単離 下記のプロトコルに従って細胞培養細胞を集め、溶解する。精製及び脱塩は、上記のプロトコル(b)(「組織試料からのゲノムDNAの単離」)に記載したようにして行う。1.1×107個〜2.0×107個までの細胞を1×PBS緩衝液(2×55mL)で洗う。細胞を5mlの1×PBS緩衝液中に懸濁し、2000×gで10分間遠心する。緩衝液をペレットから注意深くデカントし、プロセスをもう一度繰り返す。2.30秒〜1分間渦動させることで、細胞ペレットを1mlの1×PBS緩衝液中に完全に再懸濁する。3.4.5mlの溶解液を加え、30秒〜1分間渦動させる。4.50μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)を加え、短時間(2秒間)渦動させる。5.60℃で1〜2時間インキュベートする。6.管を氷浴中で2分間冷却し、20μlのRNアーゼA(20mg/ml)を加える。7.37℃で15分間インキュベートする。 (d)精製ゲノムDNA試料の定量化 精製ゲノムDNA試料の定量化は、ブランクとしての1×TE緩衝液(pH8.0)及び光路長1cmのキュベットを使用しながら、UV分光光度計によって行った。3つの試料の読みをA260、A280及びA320で求めた。DNAの収量(μg)=A260×50μg×溶出試料体積(3.5ml)。 (e)プロトコルで使用した溶液の詳細組成(i)血液gDNAプロトコル 溶解1液:30mMトリス−HCl、10mM塩化マグネシウム、2%トリトンX100及び0.6Mスクロース。 溶解2液:20mMトリス−HCl、20mM EDTA、20mM塩化ナトリウム及び0.1%SDS。 ローディング液:700mM塩化ナトリウム、50mMトリス及び1mM EDTA。(ii)組織プロトコル 溶解液:20mMトリス−HCl、20mM EDTA、100mM塩化ナトリウム及び1%SDS。 ローディング液:700mM塩化ナトリウム、50mMトリス及び1mM EDTA。(iii)細胞培養物プロトコル 溶解液:20mMトリス−HCl、20mM EDTA、100mM塩化ナトリウム及び1%SDS。 (B)ゲノムDNA溶離に関する各種溶液の評価 ゲノムDNA精製のための最適溶離液を見付けようという努力の中で、血液陰イオン交換体からのゲノムDNA溶離に関して高イオン塩強度溶液を試験した。 一例として、ここではANX Sepharose Fast Flow(high sub)樹脂を使用した。これらの樹脂は広いpH範囲(3〜13)にわたって非常に安定であり、90μmの平均粒度を有している(続いて、他の陰イオン交換樹脂を試験したが、これらも十分に役立つことが判明した)。適当な抗菌剤(例えば、エタノール又はケトン(kethon))と共に、試料ローディング液と同様な強度を有する詳述溶液を用いてカラムを予備充填した。これにより、核酸結合のためにローディング液中の試料をロードするのに先立ってカラムを平衡化する必要性が排除される。 ここで使用した供給源細胞はヒト血液であり、上記の(A)(a)に記載した血液プロトコルに準拠した。2〜3Mの塩濃度を使用した場合でも、それはイオン交換カラムからのゲノムDNAの回収率を顕著に向上させないことが判明した。溶離後、NAP−10又はNAP−25(GE Healthcare社)カラムを用いてすべての試料を脱塩し、UV分光光度計を用いてDNAを定量化した。良好な回収率を与え得る緩衝液又は溶液を同定するため、様々な塩類の組合せを評価した。 個別の実験により、ゲノムDNAの溶離に関して下記の溶離用緩衝液/溶液の組合せを評価した。1.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl。2.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+0.2M炭酸ナトリウム。3.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+0.2M過塩素酸ナトリウム。4.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+0.2M重炭酸ナトリウム。5.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+0.2M塩化マグネシウム。6.2Mヨウ化ナトリウム。7.2M過塩素酸ナトリウム。8.3M酢酸アンモニウム。9.3M酢酸アンモニウム+0.2M重炭酸ナトリウム。10.3M酢酸アンモニウム+0.2M炭酸ナトリウム。11.3M酢酸アンモニウム+0.2M二ホウ酸ナトリウム。12.3M重炭酸アンモニウム。13.3M重炭酸ナトリウム(完全には溶解せず)。14.3M炭酸ナトリウム。15.3Mリン酸ナトリウム(完全には溶解せずに沈殿する)。16.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+25mM水酸化ナトリウム。17.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+50mM水酸化ナトリウム。18.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+75mM水酸化ナトリウム。19.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+100mM水酸化ナトリウム。20.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+75mM水酸化リチウム。21.2M塩+500mM L−アルギニン。22.1M塩化ナトリウム+1M炭酸ナトリウム。 代表的な結果を下記表1に示す。データから明らかな通り、2M塩溶液自体が溶離するゲノムDNAは、塩と水酸化ナトリウムの組合せ又は塩とアルギニンの組合せを用いて溶離できるゲノムDNAの1/2未満である。 残りの結合物質の回収は、高い塩濃度と水酸化ナトリウムを用いて高めたpHとの組合せで達成できる。しかし、水酸化ナトリウムは苛性を示すばかりでなく、核酸の不可逆的な変性及び経時的な分解を引き起こすことがある。 また、対イオンとして使用される陽イオン並びに溶離のpHはHMV核酸の回収率に対して影響を及ぼすと共に、強アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)の使用は夾雑物の同時溶離及び生成物の安定性に対する有害効果のため回収率にとって有害であり得ることも認められた。 カルボン酸基と共にグアニジニウム基を有するアルギニンが溶離プロセスにおいて劇的な効果を示したので、回収率の向上に寄与するのはカルボン酸基又はグアニジニウム基のいずれであるかを確認するため、他のアミノ酸及びグアニジニウム塩を評価すると共に、アミノ酸とグアニジニウム塩との組合せも評価した。結果を表2にまとめて示す。 ゲノムDNAの回収率及び溶離を向上させる溶離液は、約10.5〜11.6の高いpHという共通の特徴を有することが注目された。グアニジンを用いた核酸溶離の向上は、溶離液中に炭酸塩(又は重炭酸塩)が存在することで促進されるように思われる。このような観察結果に基づき、高いpHの効果を試験するためにさらなる実験を実施した。炭酸ナトリウムを含む2M塩化ナトリウム或いはトリス塩基又はアルギニンを含む2M塩化ナトリウムを比較した。得られた結果を表3に示す。 数種の溶液の評価結果に基づけば、塩強度に加えてpHがゲノムDNAの回収に決定的な役割を果たすように思われる。溶離の向上のためには、1〜2M塩化ナトリウムと0.25〜0.5Mアルギニン、0.5〜1M炭酸ナトリウム又は0.5〜1Mトリス塩基との組合せが使用できる。 高いpHがイオン交換樹脂からの多量のゲノムDNAの回収を助ける因子であるように思われたので、塩とグアニジン誘導体とのさらにいくつかの組合せを溶離液として評価したが、これらはいずれも溶離液に高いpHを与えた。1.2M NaCl+0.2M L−アルギニン2.2M NaCl+0.5M 炭酸グアニジン3.2M NaCl+0.5M グリシン4.2M NaCl+0.5M 炭酸グアニジン+0.5M L−グルタミン酸5.2M NaCl+0.5M プロピオン酸グアニジン 結果は、1M〜2M塩化ナトリウム溶液へのアルギニン、炭酸グアニジン又は他のグアニジン誘導体(例えば、プロピオン酸グアニジン)の添加がイオン交換樹脂からのゲノムDNAの溶離に対して同様な効果を有することを明確に実証している(表4)。 (C)溶離液中におけるL−アルギニン、炭酸グアニジン及び炭酸カリウムの比較 塩化ナトリウムと炭酸ナトリウムの組合せがある程度の回収率向上をもたらしたので、炭酸カリウムを塩化ナトリウムと組み合わせた溶液を炭酸グアニジン及びL−アルギニンと比較して評価する。塩化ナトリウム及び炭酸ナトリウムの溶液のpHは、イオン交換樹脂から核酸を完全に回収するためには最適でない。炭酸カリウムは一層高いpHの溶液を与えるので、イオン交換樹脂からの核酸の一層高い回収率を与えるものと予想される。実際、塩化ナトリウムと炭酸カリウムの組合せは高いpHを有する溶液を与え、溶離プロファイルは炭酸グアニジン又はアルギニンを含む溶液に十分匹敵していた。実験の詳細は上記セクション(B)の場合と同様である。この場合にも、ゲノムDNA供給源としてヒト血液を使用し、(A)(a)に記載した血液プロトコルに準拠した。結果を表5に示す。 表5中のデータから明らかな通り、炭酸カリウムを含む塩化ナトリウム溶液は、炭酸グアニジン又はL−アルギニンを含む溶液と比較した場合、イオン交換樹脂からのゲノムDNA溶離に関して等しく有効である。 各種添加剤の系統的な評価に基づけば、塩強度に加えてpHが核酸の回収に決定的な役割を果たすように思われる。溶離の向上のためには、1〜2M塩化ナトリウムと0.25〜0.5Mアルギニン、0.5M炭酸カリウム又は0.5M炭酸グアニジンとの組合せが使用できる。0.5〜1M炭酸ナトリウム又は0.5〜1Mトリス塩基もまた、溶離を向上させるために使用できる。 (D)血液からのゲノムDNA精製 プロトコルセクションに記載した手順を用いて8mlのヒト血液試料を溶解した。粗溶解物をローディング液で希釈し、イオン交換精製カラム上にロードした。すべての溶液が樹脂を通過した後、さらに5mlのローディング液をカラム上に加えた。樹脂の上部にもはや溶液が存在しなくなった後、2.5mlの溶離液(1M塩化ナトリウム+0.5M炭酸カリウム)を加え、ゲノムDNAを含む溶出液を捕集管に捕集した。得られた生成物をNAP−25カラムを用いて脱塩した。単離したゲノムDNAのサイズをパルス電界ゲル電気泳動(図1)によって決定した。生成物の純度をUV分光測光及びゲル分析(図2)によって評価した。この方法によって得られたゲノムDNAはまた、制限酵素消化(図3)、多重PCR及びリアルタイムPCR(図4)のような下流用途においても評価した。 パルス電界ゲル電気泳動によれば、血液からの精製ゲノムDNAは大きいサイズを有することが明らかである(図1)。試料の純度をアガロースゲル分析によって調べた(図2)。それによれば、単離されたゲノムDNAは純粋であってRNA汚染のないことが実証された。 精製ゲノムDNAの品質をいくつかの方法で評価した。 DNAに対し、EcoRIを用いた制限酵素消化を施した。精製ゲノムDNA(250μg)を40単位の酵素で消化した。未消化DNA試料と並行して、消化試料をアガロースゲル上で分析した。ゲルイメージは、すべてのゲノムDNAが完全に消化されたことを示している(図3、レーン2、4、6は未消化の精製ゲノムDNAを表す一方、レーン1、3、5は酵素で消化した試料である)。 ゲノムDNA試料の品質を、多重PCR反応における効率によって間接的に測定した。この試験のためには、P450遺伝子に関するロングレンジ多重PCRを使用した(CodeLink P450プロトコル、GE Healthcare社)。遺伝子CYP2D6、CYP3A4及びCYP3A5からの3つのアンプリコンを単一の反応で増幅した。アンプリコンのサイズは335〜2600bpの範囲内にある。PCR生成物のサイズ及び収量はAgilent Bioanalyzer 2100及びDNA 7500キットによって決定した。多重PCR反応は、試験したすべての試料について十分に役立った(データは示さず)。 ゲノムDNA試料の品質はまた、リアルタイムPCRアッセイによっても試験した。リアルタイムPCR実験は、Applied Biosystems 7900HT Fast Real Time PCR Systemを用いて行った。試験したすべての試料は非常によく似た増幅プロファイルを示している(図4)。 同じ精製プロセスは、他の動物からの血液試料にも成功裡に適用された。ラット、モルモット、ウマ、ニワトリ及びヒツジのような各種動物から高品質のゲノムDNAが単離された。 (E)組織試料からのゲノムDNAの単離 200ミリグラムのラット肝臓組織をホモジナイズし、プロトコルセクションに記載したようにして溶解した。粗溶解物をローディング液で希釈し、遠心して粒子状物質をペレット化した。透明な溶解物をイオン交換精製カラム上にロードした。すべての溶液が樹脂を通過した後、5mlのローディング液をカラムに加えた。樹脂の上部にもはや溶液が存在しなくなった後、2.5mlの溶離液(1M塩化ナトリウム+0.5M炭酸カリウム)をカラムに加え、生成物を溶出液中に捕集した。こうして得られたゲノムDNAをNAP−25カラムを用いて脱塩した。生成物の純度をUV分光測光及びゲル分析によって評価した。プロトコルの一貫性にアクセスするために複数の試料を処理した。単離したゲノムDNAのサイズをパルス電界ゲル電気泳動(図5)によって決定した。この方法によって得られたゲノムDNAはまた、リアルタイムPCR(図6)及び制限酵素消化(図7)のような下流用途においても評価した。 パルス電界ゲル電気泳動によれば、ラット肝臓組織からの精製ゲノムDNA試料はいずれも大きいサイズを有することが明らかである(図5)。試料の純度をアガロースゲル分析によって調べた。それによれば、単離されたゲノムDNAは純粋であってRNA汚染のないことが実証された(データは示さず)。 精製ゲノムDNAの品質をいくつかの方法で評価した。 ゲノムDNA試料の品質をリアルタイムPCRアッセイによって試験した。リアルタイムPCR実験は、Applied Biosystems 7900HT Fast Real Time PCR Systemを用いて行った。試験したすべての試料は非常によく似た増幅プロファイルを示している(図6)。 DNAに対し、HindIIIを用いた制限酵素消化を施した。精製ゲノムDNA(250μg)を40単位の酵素で消化した。未消化DNA試料と並行して、消化試料をアガロースゲル上で分析した。ゲルイメージは、すべてのゲノムDNAが完全に消化されたことを示している(図7、レーン2、4、6、8は未消化の精製ゲノムDNAを表す一方、レーン1、3、5、7は酵素で消化した試料である)。 (F)細胞培養物からのゲノムDNAの単離 プロトコルセクションに記載した手順を用いて約2×107個のMRC5細胞を溶解した。粗溶解物をローディング液で希釈し、イオン交換精製カラムに移した。すべての溶液が樹脂を通過した後、5mlのローディング液をカラムに加えた。樹脂の上部にもはや溶液が存在しなくなった後、2.5mlの溶離液をカラムに加え、生成物を溶出液中に捕集した。こうして得られたゲノムDNAをNAP−25カラムを用いて脱塩した。生成物の純度をUV分光測光及びゲル分析によって評価した。単離したゲノムDNAのサイズをパルス電界ゲル電気泳動によって決定した。この方法によって得られたゲノムDNAはまた、リアルタイムPCR及び制限酵素消化のような下流用途においても評価した。 パルス電界ゲル電気泳動によれば、MRC5細胞からの精製ゲノムDNA試料はいずれも大きいサイズ(100Kb、図8)を有することが明らかである。試料の純度をアガロースゲル分析によって調べた。それによれば、単離されたゲノムDNAは純粋であってRNA汚染のないことが実証された(データは示さず)。 精製ゲノムDNAの品質を制限酵素消化によって評価した。DNAに対し、EcoRIを用いた制限酵素消化を施した。精製ゲノムDNA(250μg)を40単位の酵素で消化した。未消化DNA試料と並行して、消化試料をアガロースゲル上で分析した。ゲルイメージは、すべてのゲノムDNAが完全に消化されたことを示している(図9、レーン2、4、6、8、10、12は未消化の精製ゲノムDNAを表す一方、レーン1、3、5、7、9、11は酵素で消化した試料である)。 本明細書中で言及された特許、特許出願公開及びその他の公表参考文献のすべては、各々が個別かつ詳細に引用されて本明細書中に組み込まれた場合と同じく、その全体が援用によって本明細書の内容の一部をなしている。以上、本発明の好ましい例示的な実施形態を説明してきたが、限定のためではなく例示を目的として示される記載の実施形態以外の実施形態によって本発明が実施できることは当業者にとって容易に理解されよう。本発明は、以下に示す特許請求の範囲のみによって限定される。 細胞から核酸を分離及び/又は精製する方法であって、a)前記細胞を溶解液で溶解して核酸含有水溶液を生成する段階、b)陰イオン交換体が核酸を結合するような条件下で、前記核酸含有水溶液を固体支持マトリックスに結合された陰イオン交換体に接触させる段階、c)核酸溶離液からなる水性移動相を用いて前記陰イオン交換体から核酸を溶離する段階、及びd)下流用途に適するように前記溶離核酸を脱塩する段階を含んでなる方法において、前記水性移動相のpHを約pH9〜約pH13にするような組成物を前記溶離液中に添加することを含み、溶離液中における前記組成物の存在が前記組成物の不存在下での前記核酸の回収率に比べて陰イオン交換体からの核酸回収率の増加をもたらすことによって改良された方法。 pHが約pH10〜約pH12である、請求項1記載の方法。 pHが約pH10.5〜約pH11.6である、請求項1記載の方法。 前記組成物が炭酸カリウムを含む、請求項1記載の方法。 前記組成物が炭酸カリウムである、請求項1記載の方法。 前記炭酸カリウムが約0.1〜2Mの濃度で存在する、請求項5記載の方法。 水性移動相中における前記組成物の存在が、前記組成物の不存在下での同じ陰イオン交換体からの前記核酸の回収率に比べて陰イオン交換体からの核酸回収率を40%以上増加させる、請求項1記載の方法。 水性移動相中における前記組成物の存在が、前記組成物の不存在下での同じ陰イオン交換体からの前記核酸の回収率に比べて陰イオン交換体からの核酸回収率を約40%〜約400%増加させる、請求項1記載の方法。 核酸がゲノムDNAである、請求項1記載の方法。 陰イオン交換体がANX Fast Flow樹脂である、請求項1記載の方法。 陰イオン交換体がDEAE Sephadex A25樹脂、Q Sepharose Fast Flow樹脂、Q Sepharose XL及びCaptoQ樹脂からなる群から選択される、請求項1記載の方法。 前記細胞が血液細胞又は細胞培養細胞である、請求項1記載の方法。 前記細胞がホモジナイズした組織試料から得られる、請求項1記載の方法。 細胞から核酸を分離及び/又は精製するためのキットであって、a)前記細胞から核酸含有水溶液を生成するための溶解液、b)核酸を結合するための、固体支持マトリックスに結合された陰イオン交換体、c)前記陰イオン交換体から核酸を溶離するための溶離液であって、約pH9〜約pH13のpHを有する溶離液、及びd)前記溶離核酸を脱塩するための脱塩手段を含んでなるキット。 前記溶離液のpHが約pH10〜約pH12である、請求項14記載のキット。 pHが約pH10.5〜約pH11.6である、請求項14記載のキット。 前記組成物が炭酸カリウムを含む、請求項14記載のキット。 前記組成物が炭酸カリウムである、請求項14記載のキット。 陰イオン交換体が高流速樹脂である、請求項14記載のキット。 陰イオン交換体がDEAE Sephadex A25樹脂、Q Sepharose Fast Flow樹脂、Q Sepharose XL及びCaptoQ樹脂からなる群から選択される、請求項14記載のキット。 本発明は、核酸分子を精製するための改良方法を提供する。本方法は、核酸を含む細胞溶解物を生成する段階、陰イオン交換体が核酸を結合するような条件下で、溶解物を固体支持マトリックスに結合された陰イオン交換体に接触させる段階、次いで溶離液からなる水性移動相を用いて陰イオン交換体から核酸を溶離する段階、及び下流用途に適するように溶離核酸を脱塩する段階を含んでなる。本方法の改良は、水性移動相のpHを約pH9〜約pH13にするような組成物を溶離液中に添加することを含み、溶離液中における組成物の存在が組成物の不存在下での回収率に比べて核酸回収率の増加をもたらすことからなる。【選択図】図1


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特許公報(B2)_陰イオン交換を用いる核酸精製方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_陰イオン交換を用いる核酸精製方法
出願番号:2009529350
年次:2013
IPC分類:C12N 15/09


特許情報キャッシュ

タッケラッパティ,スッダカール・ラオ アンバット,ラジェッシュ JP 5265552 特許公報(B2) 20130510 2009529350 20070919 陰イオン交換を用いる核酸精製方法 ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・コーポレイション 598041463 荒川 聡志 100137545 松本 研一 100093908 小倉 博 100105588 黒川 俊久 100129779 タッケラッパティ,スッダカール・ラオ アンバット,ラジェッシュ US 60/826,913 20060926 20130814 C12N 15/09 20060101AFI20130725BHJP JPC12N15/00 A C12N 15/10 JSTPlus(JDreamII) CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) 欧州特許第01243649(EP,B1) 特表2005−520547(JP,A) 国際公開第99/016869(WO,A1) Anal. Biochem. ,2005年,Vol.338, No.1,pp.39-47 J. Chromatogr. A,2006年 6月,Vol.1118, No.1,pp.3-11 J. Chromatogr. ,1989年,Vol.478, No.1,pp.264-268 Journal of Magnetism and Magnetic Materials,2006年 7月,Vol.302, No.1,pp.7-13 J. Chromatogr. B,2005年,Vol.822, No.1-2,pp.54-60 10 US2007078816 20070919 WO2008039664 20080403 2010504738 20100218 26 20100827 西村 亜希子 本発明は、一般に、タンパク質、脂質、可溶性膜成分などの汚染細胞成分からゲノムDNA、プラスミドDNA及びmRNAのような核酸を分離する方法に関する。詳しくは、本発明は、溶離液のpHを高める組成物の添加によってバッチモード又は充填モードにおける陰イオン交換クロマトグラフィー媒質からの核酸回収率を向上させることに関する。 最近の30年間、生物学的供給源から核酸を単離及び精製するための改良法の開発に多大の努力が見られた。これは、主として医学及び生物学における核酸の用途が増加したことに原因する。血液、組織又は培養細胞から単離されたゲノムDNAは、PCR、配列決定、遺伝子型決定、ハイブリダイゼーション及びサザンブロッティングを含む様々な用途を有している。プラスミドDNAは、配列決定、PCR、ワクチン開発及び遺伝子療法において利用されてきた。単離RNAは、ブロットハイブリダイゼーション、インビトロ翻訳、cDNA合成及びRT−PCRを含む各種の下流用途を有している。 核酸の分析及びインビトロ操作の前には、通例、後続の処理手順を妨害することがある不要の夾雑物を核酸から除去するための核酸単離段階が実施される。研究用及び診断用の分子生物学におけるほとんどの方法については、最初の段階として抽出された核酸が要求される。典型的なDNA抽出プロトコルでは、研究対象となる核酸を含む細胞又はホモジナイズド組織試料を採取し、標準的な方法(例えば、プロテイナーゼK及びリゾチームのような酵素の使用、SDS、Brij、トリトン(Triton)HCl00のような洗浄剤の使用、或いは水酸化ナトリウム、イソチオシアン酸グアニジニウムなどの他の化学薬品の使用)を用いて溶解する。(例えば、Sambrook et al,Molecular Cloning - A Laboratory Manual 2nd edition 9.14(New York:Cold Spring Harbor Laboratory 1989)を参照されたい。)細胞破片の除去後、粗溶解物をフェノール/クロロホルムのような有機溶媒で処理してタンパク質を抽出する。必要ならば、RNアーゼのような酵素で処理することでRNAを除去又は低減できる。しかし、塩類、フェノール、洗浄剤などの夾雑物の存在は、核酸に対して想定されている多くの下流操作を妨害することがある。 現在、DNA(ゲノム及びプラスミド)及びRNAのクロマトグラフィー精製のためには、例えばシリカベース膜精製、サイズ排除クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、ゲル濾過、磁気ビーズベース精製又はイオン交換クロマトグラフィーの使用によるいくつかの方法が利用可能である。イオン交換クロマトグラフィーは最も普通に使用される分解及び精製方法の1つであり、プラスミドDNA、ゲノムDNA及びRNAの精製のために使用されてきた。例えば、米国特許第6,410,274号(Bhikhabhai),米国特許第6,310,199号(Smithら)、米国特許第6,090,288号(Berlundら)、米国特許第5,990,301号(Colpanら)、米国特許第5,856,192号、米国特許第5,866,428号(Bloch)、米国特許第5,801,237号(Johansson)、欧州特許第1125943号(Macherey−Nagel GmbH & Co)、欧州特許第992583号、欧州特許第616639号(Qiagen)、米国特許第5,707,812号、米国特許第5,561,064号(Vical Inc.)を参照されたい。 核酸精製のための陰イオン交換クロマトグラフィー方法を広範囲にわたって参照してきたが、現行のプロトコルの欠点の1つは溶離段階における核酸の回収率が悪いことである(Endres, H.N. et al, Biotechnol. Appl. Biochem., (2003), 37(3), 259-66; Prazeres, D.M. et al, J. Chromatog. A. (1998), 806(1), 31-45; Urthaler J. et al, Acta Biochim. Pol., (2005), 52(3), 703-11; Ferreira, G.N. et al, Bioseparation, (2000), 9(1), 1-6; Ferreira, G.N., et al, Biotechnol. Prog., (2000), 16(3), 416-24)。吸着及び脱離時にポリオール及びアルコールのような有機薬剤を添加することは、DNAの陰イオン交換精製に際して選択率及び回収率を向上させることが示された(Tseng, W.C. et al, J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci., (2003), 791(1-2), 263-72)。しかし、陰イオン交換樹脂からのDNA脱離に際してしばしば見られる回収率の問題とまともに取り組んだ報告は存在しないように思われる。この問題は陰イオン交換樹脂からの結合DNAの回収率を向上させることに関係するので、本発明はそれと取り組んでいる。特に、本発明はプロトコルのさらなる操作なしに固体担体からのDNA脱離の向上を可能にする。 プラスミドDNA、ゲノムDNA及びRNAは互いに類似した電荷特性を有しており、高い電荷密度を有するポリ陰イオンである。したがって、吸着すべき核酸の鎖長及びコンホメーションに応じ、最大0.7Mの塩化ナトリウムの存在下で正に帯電したイオン交換樹脂に結合することが可能である。核酸鎖長の増加並びに二本鎖コンホメーションは、核酸と陰イオン交換体との間の結合強度の増加をもたらす。しかし、この効果は約2キロベースまでの核酸鎖長に比例するにすぎない。核酸の負に帯電したリン酸エステル主鎖とイオン交換樹脂との間の非常に強い相互作用は、通常の方法を用いて核酸を溶離するのを妨げる。通常の方法では、塩溶離液のイオン強度を単に増加させるだけで70〜100%の結合物質を回収するのに十分である。しかし、長鎖核酸の場合には、最大3Mまで塩のイオン強度を増加しても20〜50%の結合核酸しか回収できない。残りの結合物質の回収は、高い塩濃度と水酸化ナトリウムを用いて高めたpHとの組合せで達成できる。しかし、水酸化ナトリウムは苛性を示すばかりでなく、核酸の不可逆的な変性及び経時的な分解を引き起こすことがある。米国特許第6,410,274号明細書米国特許第6,310,199号明細書米国特許第6,090,288号明細書米国特許第5,990,301号明細書米国特許第5,856,192号明細書米国特許第5,866,428号明細書米国特許第5,801,237号明細書欧州特許第1125943号明細書欧州特許第992583号明細書欧州特許第616639号明細書米国特許第5,707,812号明細書米国特許第5,561,064号明細書欧州特許第1243649号明細書Sambrook et al, Molecular Cloning - A Laboratory Manual 2nd edition 9.14 (New York: Cold Spring Harbor Laboratory 1989)Endres, H.N. et al, Biotechnol. Appl. Biochem., (2003), 37(3), 259-66Prazeres, D.M. et al, J. Chromatog. A. (1998), 806(1), 31-45Urthaler J. et al, Acta Biochim. Pol., (2005), 52(3), 703-11Ferreira, G.N. et al, Bioseparation, (2000), 9(1), 1-6Ferreira, G.N., et al, Biotechnol. Prog., (2000), 16(3), 416-24Tseng, W.C. et al, J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci., (2003), 791(1-2), 263-72Chen et al, Journal of Chromatography, 1118(1), 2006, 3-11Thayer, J.R., et al, Analytical Biochemistry, 338(1), 2005, 39-47 このたび意外にも、高い塩濃度及び溶離液中における溶離液のpHを高める添加剤の存在を含む条件下で核酸を陰イオン交換樹脂から効率的に溶離できると共に、溶離液のpHは好適には約pH9〜約pH13の範囲内であり、さらに好ましくは約pH10〜約pH12の範囲内であることが見出された。添加剤の一例はグアニジン又はグアニジン様誘導体である。別の例は炭酸カリウムである。溶離液にいずれかの添加剤を添加することは、陰イオン交換樹脂からの核酸回収率を20〜50%から70〜95%に向上させることが証明された。 かくして第1の態様では、本発明は、細胞から核酸を分離及び/又は精製する方法であって、a)前記細胞を溶解液で溶解して核酸含有水溶液を生成する段階、b)陰イオン交換体が核酸を結合するような条件下で、核酸含有水溶液を固体支持マトリックスに結合された陰イオン交換体に接触させる段階、及びc)核酸溶離液からなる水性移動相を用いて前記陰イオン交換体を溶離する段階を含んでなる方法において、前記溶離液が水性移動相のpHを約pH9〜約pH13にするような添加剤を含み、溶離液中における添加剤の存在が添加剤の不存在下での前記核酸の回収率に比べて陰イオン交換体からの核酸回収率の増加をもたらすことを特徴する方法を提供する。 したがって本発明は、通常のイオン交換クロマトグラフィー操作に比べて核酸の安定性を損なうことなく陰イオン交換樹脂から高い回収率の核酸を得るため、溶離液への添加剤としての化合物の使用方法を提供する。核酸はホスホジエステル結合によって共有結合されたデオキシリボースリン酸エステルモノマーの鎖(又はペア鎖)からなり、各糖リン酸エステルは単一の芳香族複素環式塩基を担持している。かかる塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T、DNA中にのみ見られる)及びウラシル(U、RNA中にのみ見られる)である。pH>2の水溶液中では、高可溶性の親水性糖リン酸エステルポリマー主鎖は、最大2つの負電荷を担持し得る末端ホスホモノエステルを除き、各ホスホジエステルに対して1つの負電荷を与える。このようにDNAはポリ陰イオンであり、核酸分子の正味負電荷は鎖長と直接に関係している。したがって、核酸は陰イオン交換樹脂に対して強い結合親和性を示す結果、樹脂から核酸を効率的に除去するためには溶離液中に高い塩濃度が必要となる。 陰イオン交換樹脂からの核酸回収率に対するグアニジン及びグアニジン様化合物(特にアルギニン)の好ましい効果は、例えば約pH9〜約pH13のアルカリ性pH、さらに好ましくは約10〜12のpH値において最も顕著である。約10.5〜11.6のpH範囲が最適回収率を与えるように思われる。核酸の回収率は、溶離液にアルギニン又は炭酸グアニジンを添加した場合に最も高い。理論によって束縛されることはないが、グアニジニウム基の特異な性質の1つは、二重結合と窒素孤立電子対との間の共役に原因する非局在化正電荷特性である。グアニジニウム基は優先的にグアニン塩基と複数の水素結合を形成することができ、これは核酸構造の局部変形を引き起こすように作用することがある。このような核酸のコンホメーションの変化は脱離動態の変化の一因となり、かくして陰イオン交換クロマトグラフィーに際して核酸の高い回収率を有利に与える。高分子は複数の付着点を介して吸着表面に結合してクロマトグラフィー媒質表面上にミクロ環境を生み出すことが知られており、こうして生じる吸着は通常の脱離技法では不可逆に近くなることがある。従来の陰イオン交換クロマトグラフィーでは、競合する塩陰イオンを増加させることで正に帯電したリガンドから結合分子を溶離することができるが、核酸、特に(0.1キロベースを超える)高分子量(HMW)核酸の溶離は塩陰イオンのみでは効率的でないことが認められている。また、対イオンとして使用される陽イオン並びに溶離のpHはHMV核酸の回収率に対して影響を及ぼすと共に、強アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)の使用は夾雑物の同時溶離及び生成物の安定性に対する有害効果のため回収率にとって有害であり得ることも認められている。 一実施形態では、添加剤は下記の式(I)を有する化合物(さらに詳しくは、その炭酸塩又は重炭酸塩)である。式中、RはH及び任意にはアミノで置換された低級アルキルから選択される。好適には、低級アルキルはC1〜C4アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル又はブチル、好ましくはメチル又はエチルである。Rがアミノ置換低級アルキル基である場合、式(I)に係る化合物の例には、2−アミノエチル−グアニジン、3−アミノプロピル−グアニジン及び4−アミノブチル−グアニジン(アグマチン)がある。特に好ましい実施形態では、Rは水素であり、したがって化合物(I)は炭酸塩又は重炭酸塩としてのグアニジンである。 第2の実施形態では、添加剤は下記の式(I)を有する化合物である。式中、Rは次式の基である。式中、nは1、2又は3、好ましくは3である。この場合、添加剤はアルギニン、好適にはL−アルギニン、D−アルギニン又は両光学異性体の混合物である。 第3の実施形態では、添加剤は同様なpHを与える無機塩である。かかる塩の一例は炭酸カリウムである。別の例は炭酸ナトリウムである。 本発明の実施形態では、グアニジン又はグアニジン様化合物或いは炭酸カリウムは、0.1〜2M、好ましくは0.25〜0.5Mの濃度で溶離液中に添加剤として存在することが好ましい。溶離液は、通例、好適には約0.7〜3Mの塩溶液に添加剤を添加したものからなる。好適には、水性移動相のpHは約pH9〜約pH13であり、好ましいpH範囲は約pH10〜約pH12であり、さらに好ましくは約pH10.5〜約pH11.6である。 本明細書中で使用する「核酸」という用語は、任意のDNA又はRNA分子、或いはDNA/RNAハイブリッド、或いはDNA及び/又はRNAの混合物をいう。したがって、「核酸」という用語はゲノムDNA又は染色体DNA、プラスミドDNA、増幅DNA、総RNA及びmRNAを含むことが意図されている。本発明に係る方法は、種(例えば、ヒト、齧歯類、猿類)、組織源(例えば、脳、肝臓、肺、心臓、腎臓、皮膚、筋肉)及び細胞タイプ(例えば、上皮細胞、内皮細胞、血液)に関して一般に認められている任意の供給源(正常細胞及び形質転換細胞を含む)からの細胞試料及び組織試料から導かれる複合成分混合物からのゲノムDNAの調製及び/又は精製のために特に適している。 さらに、本発明の方法は、約0.1〜約200キロベースのサイズを有するゲノムDNA或いはプラスミドDNA、コスミド、BAC又はYACの調製及び/又は精製のために適している。本発明は、特にクローニング及び配列決定のような分子生物学研究における下流用途、遺伝子療法並びにインビボ及びインビトロでの診断用途のためにプラスミドDNA及びコスミドDNAを精製するのに有用である。 本発明の方法で使用するのに適した陰イオン交換樹脂には、強陰イオン交換体及び弱陰イオン交換体の両方がある。この場合、陰イオン交換樹脂は好適には支持キャリヤーに帯電基又は帯電可能基を結合したものからなる。イオン交換樹脂はビーズ、膜又は表面の形態を有し得る。強陰イオン交換樹脂の例には、Q Sepharose Fast Flow樹脂、Q Sepharose XL及びCaptoQがある。弱イオン交換樹脂の例には、ANX Fast Flow樹脂及びDEAE Sephadex A25樹脂がある(GE Healthcare社)。 上記に開示した添加剤を水性移動相中に使用することで、溶離液中に添加剤が存在しないこと以外はすべて等しい条件下で同じ陰イオン交換体から核酸を回収する場合に比べて、陰イオン交換体からの核酸回収率を40%以上、通例は約40〜約400%増加させることが可能である。 第2の態様では、本発明は、細胞試料から核酸を分離及び/又は精製するためのキットであって、細胞試料から核酸含有水溶液を生成するための溶解液、核酸を結合するための、固体支持マトリックスに結合された陰イオン交換体、陰イオン交換体から核酸を溶離するための溶離液、及び任意には溶離核酸を脱塩するための脱塩手段を含んでなるキットを提供する。好適には、前記溶離液のpHを約pH9〜約pH13のpHにするような添加剤が溶離液中に存在する。 一実施形態では、添加剤はアルギニンである。別の実施形態では、添加剤は炭酸塩又は重炭酸塩として存在するグアニジンである。さらに別の実施形態では、添加剤は炭酸カリウムである。 好ましくは、陰イオン交換体はANX Fast Flow樹脂である。別法として、陰イオン交換体はDEAE Sephadex A25樹脂、Q Sepharose Fast Flow樹脂、Q Sepharose XL又はCaptoQ樹脂(いずれもGE Healthcare社製)である。 本発明のその他の特徴及び利点は、好ましい実施形態に関する以下の説明及び特許請求の範囲から明らかとなろう。図1は、本発明の一実施形態に係る方法を用いてヒト血液試料から精製したゲノムDNAのパルス電界ゲル電気泳動分析を示している。図2は、ヒト血液試料からの精製ゲノムDNAのアガロースゲルイメージを示している。図3は、ヒト血液試料から精製した制限酵素(EcoRI)消化ゲノムDNA及び未消化ゲノムDNAの比較を示している。図4は、ヒト血液からのゲノムDNA試料について得られたリアルタイムPCR増幅結果を示しており、試料間において非常によく似た増幅プロファイルが認められる。図5は、本発明の一実施形態に係る方法を用いてラット肝臓試料から精製したゲノムDNAのパルス電界ゲル電気泳動分析を示している。図6は、ラット肝臓試料からのゲノムDNA試料について得られたリアルタイムPCR増幅結果を示しており、試料間において非常によく似た増幅プロファイルが認められる。図7は、ラット肝臓試料から精製した制限酵素(HindIII)消化ゲノムDNA及び未消化ゲノムDNAの比較を示している。図8は、本発明の一実施形態に係る方法を用いて培養MRC5細胞試料から精製したゲノムDNAのパルス電界ゲル電気泳動分析を示している。図9は、MRC5細胞試料から精製した制限酵素(EcoRI)消化ゲノムDNA及び未消化ゲノムDNAの比較を示している。 以下の実施例は本発明の実施形態に係るDNA精製プロセスを例示するために役立つものであり、限定的なものではない。 (A)実施例で使用するプロトコル (a)血液からのゲノムDNAの単離 血液からのゲノムDNA単離は2段階で行われる。第1の段階は細胞の溶解であり、第2の段階はイオン交換カラムクロマトグラフィーを用いるゲノムDNAの精製である。 溶解:このプロセスは2つの段階を含んでいる。まず白血球を単離し、次いで溶解液を用いて単離した白血球を溶解する。白血球の単離及び白血球の溶解のために使用するプロトコルは下記の通りである。ここでは、一例として5mlの血液を使用する。しかし、使用する血液の量に応じてプロトコルを調整することができる。1.5mlの全血を50mlの円錐形遠心管に加える。2.5mlの予冷した溶解1液及び15mlの冷水を試料に加える。管をラックに入れ、管を10〜15回転倒させることでよく混合する。3.周囲温度で10分間インキュベートする。4.1500×gで10分間遠心する。5.ペレットを乱すことなく、希釈漂白液を入れた廃棄物容器内に上澄みを廃棄する(又はEHSによって推奨される適切な安全対策に従う)。6.1mlの溶解1液及び3mlの水を遠心管に加え、短時間渦動させることでペレットを再懸濁する。7.5000×gで10分間遠心する。8.白血球ペレットを乱すことなしに上澄みを注意深く廃棄する。9.最高速度で30秒〜1分間渦動させることで白血球ペレットを5mlの溶解2液中に再懸濁する。10.50μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)(AG Scientific社)を加え、短時間渦動させ、周囲温度で20分間インキュベートする。11.5mlのローディング液を遠心管に加え、管を渦動させることでよく混合し、この溶液を精製カラム上にロードする。 精製:精製プロセスは脱塩プロセス(段階17〜21)も含んでいる。12.イオン交換精製カラム(計器上での自動化プロセスを用いて充填された、プラスチック管内の約1.5mlのイオン交換樹脂)の頂部からキャップを取り除く。デカントによって溶液を捨てる。ノッチの位置でカラムの閉鎖端を切断し、カラムアダプターを用いてカラムを50ml遠心管内に配置する。13.上記の段階11から得られた溶解液をカラムに移し、重力によって樹脂中を完全に流通させる。14.5mlのローディング液をカラムに適用する。15.すべてのローディング液が樹脂を通過した後、カラムを新しい50ml遠心管内に配置する。16.2.5mlの溶離液をカラムに加え、生成物を溶出液中に捕集する。 脱塩:17.脱塩カラムのキャップを取り除き、溶液を捨てる。ノッチの位置でカラムの閉鎖端を切断し、アダプターを用いてカラムを遠心管内に配置する。18.25mLの1×TE緩衝液(10mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA)を適用することでカラムを平衡化する。これは、LabMate PD−10緩衝液溜め(GE Healthcare社)を用いることで一段階で達成できる。19.精製段階16からの溶出液(2.5ml)を脱塩カラムに移し、重力によって流通させる。20.溶液がゲルベッドに完全に入った後、カラムを新しい50ml遠心管内に配置する。21.3.5mlの1×TE緩衝液を各カラムに加え、ゲノムDNAを含む溶出液を捕集する。こうして得られた脱塩試料は定量化及び下流用途のために使用するできる。 (b)組織試料からのゲノムDNAの単離 下記の段階によって組織試料を調製する。精製プロセスから良好な収量のゲノムDNAを得るためには、完全にホモジナイズした試料を使用することが極めて重要である。1.微小片に切断することで約100mgの組織を秤取する。2.組織を1×PBS緩衝液で洗う。1mlの1×PBS緩衝液を加え、渦動させ、1000RPMで1分間遠心する。洗液を捨て、管内に残った微量の緩衝液をピペットで除去する。3.0.5mlの1×PBS緩衝液を加え、試料をハンドヘルドホモジナイザーでホモジナイズする。 こうして調製した組織試料に対し、ゲノムDNA単離のための下記の段階を施す。段階4〜7は試料溶解のためであり、段階8〜12は精製のためであり、段階13〜17は脱塩のためである。4.0.5mLの溶解液をホモジナイズド試料に加え(PBSと溶解液との比=1:1)、可能な最高速度で20〜30秒間渦動させる。5.50μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)溶液を加え、短時間渦動させ、60℃で1〜1.5時間インキュベートする。6.インキュベーション期間後、反応管を氷浴中で3分間冷却する。20μlのRNアーゼA溶液(20mg/ml)を加え、37℃で15分間インキュベートする。7.粗溶解物を4mlの無DNアーゼ水及び5mlのローディング液で希釈し、5000×gで15分間遠心して粒子状物質をペレット化する。 精製8.精製カラムの頂部からキャップを取り除く。デカントによって溶液を捨てる。ノッチの位置でカラムの閉鎖端を切断し、カラムアダプターを用いてカラムを50ml遠心管内に配置する。9.溶解液をカラムに移し、重力によって樹脂中を完全に流通させる。10.5mlのローディング液をカラムに適用する。11.すべてのローディング液が樹脂を通過した後、カラムを新しい50ml遠心管内に配置する。12.2.5mlの溶離液をカラムに加え、生成物を溶出液中に捕集する。 脱塩13.脱塩カラムのキャップを取り除き、溶液を捨てる。ノッチの位置でカラムの閉鎖端を切断し、アダプターを用いてカラムを遠心管内に配置する。14.25mLの1×TE緩衝液を適用することでカラムを平衡化する。これはLabMate PD−10緩衝液溜めを用いることで達成できる。15.精製段階12からの溶出液(2.5ml)を脱塩カラムに移し、重力によって流通させる。16.溶液がゲルベッドに完全に入った後、カラムを新しい50ml遠心管内に配置する。17.3.5mlの1×TE緩衝液を各カラムに加え、ゲノムDNAを含む溶出液を捕集する。こうして得られた脱塩試料は定量化及び下流用途のために使用できる。 (c)細胞培養物からのゲノムDNAの単離 下記のプロトコルに従って細胞培養細胞を集め、溶解する。精製及び脱塩は、上記のプロトコル(b)(「組織試料からのゲノムDNAの単離」)に記載したようにして行う。1.1×107個〜2.0×107個までの細胞を1×PBS緩衝液(2×55mL)で洗う。細胞を5mlの1×PBS緩衝液中に懸濁し、2000×gで10分間遠心する。緩衝液をペレットから注意深くデカントし、プロセスをもう一度繰り返す。2.30秒〜1分間渦動させることで、細胞ペレットを1mlの1×PBS緩衝液中に完全に再懸濁する。3.4.5mlの溶解液を加え、30秒〜1分間渦動させる。4.50μlのプロテイナーゼK(20mg/ml)を加え、短時間(2秒間)渦動させる。5.60℃で1〜2時間インキュベートする。6.管を氷浴中で2分間冷却し、20μlのRNアーゼA(20mg/ml)を加える。7.37℃で15分間インキュベートする。 (d)精製ゲノムDNA試料の定量化 精製ゲノムDNA試料の定量化は、ブランクとしての1×TE緩衝液(pH8.0)及び光路長1cmのキュベットを使用しながら、UV分光光度計によって行った。3つの試料の読みをA260、A280及びA320で求めた。DNAの収量(μg)=A260×50μg×溶出試料体積(3.5ml)。 (e)プロトコルで使用した溶液の詳細組成(i)血液gDNAプロトコル 溶解1液:30mMトリス−HCl、10mM塩化マグネシウム、2%トリトンX100及び0.6Mスクロース。 溶解2液:20mMトリス−HCl、20mM EDTA、20mM塩化ナトリウム及び0.1%SDS。 ローディング液:700mM塩化ナトリウム、50mMトリス及び1mM EDTA。(ii)組織プロトコル 溶解液:20mMトリス−HCl、20mM EDTA、100mM塩化ナトリウム及び1%SDS。 ローディング液:700mM塩化ナトリウム、50mMトリス及び1mM EDTA。(iii)細胞培養物プロトコル 溶解液:20mMトリス−HCl、20mM EDTA、100mM塩化ナトリウム及び1%SDS。 (B)ゲノムDNA溶離に関する各種溶液の評価 ゲノムDNA精製のための最適溶離液を見付けようという努力の中で、血液陰イオン交換体からのゲノムDNA溶離に関して高イオン塩強度溶液を試験した。 一例として、ここではANX Sepharose Fast Flow(high sub)樹脂を使用した。これらの樹脂は広いpH範囲(3〜13)にわたって非常に安定であり、90μmの平均粒度を有している(続いて、他の陰イオン交換樹脂を試験したが、これらも十分に役立つことが判明した)。適当な抗菌剤(例えば、エタノール又はケトン(kethon))と共に、試料ローディング液と同様な強度を有する詳述溶液を用いてカラムを予備充填した。これにより、核酸結合のためにローディング液中の試料をロードするのに先立ってカラムを平衡化する必要性が排除される。 ここで使用した供給源細胞はヒト血液であり、上記の(A)(a)に記載した血液プロトコルに準拠した。2〜3Mの塩濃度を使用した場合でも、それはイオン交換カラムからのゲノムDNAの回収率を顕著に向上させないことが判明した。溶離後、NAP−10又はNAP−25(GE Healthcare社)カラムを用いてすべての試料を脱塩し、UV分光光度計を用いてDNAを定量化した。良好な回収率を与え得る緩衝液又は溶液を同定するため、様々な塩類の組合せを評価した。 個別の実験により、ゲノムDNAの溶離に関して下記の溶離用緩衝液/溶液の組合せを評価した。1.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl。2.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+0.2M炭酸ナトリウム。3.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+0.2M過塩素酸ナトリウム。4.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+0.2M重炭酸ナトリウム。5.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+0.2M塩化マグネシウム。6.2Mヨウ化ナトリウム。7.2M過塩素酸ナトリウム。8.3M酢酸アンモニウム。9.3M酢酸アンモニウム+0.2M重炭酸ナトリウム。10.3M酢酸アンモニウム+0.2M炭酸ナトリウム。11.3M酢酸アンモニウム+0.2M二ホウ酸ナトリウム。12.3M重炭酸アンモニウム。13.3M重炭酸ナトリウム(完全には溶解せず)。14.3M炭酸ナトリウム。15.3Mリン酸ナトリウム(完全には溶解せずに沈殿する)。16.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+25mM水酸化ナトリウム。17.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+50mM水酸化ナトリウム。18.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+75mM水酸化ナトリウム。19.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+100mM水酸化ナトリウム。20.50mMトリス−HCl、pH8.0、1mM EDTA、2000mM NaCl+75mM水酸化リチウム。21.2M塩+500mM L−アルギニン。22.1M塩化ナトリウム+1M炭酸ナトリウム。 代表的な結果を下記表1に示す。データから明らかな通り、2M塩溶液自体が溶離するゲノムDNAは、塩と水酸化ナトリウムの組合せ又は塩とアルギニンの組合せを用いて溶離できるゲノムDNAの1/2未満である。 残りの結合物質の回収は、高い塩濃度と水酸化ナトリウムを用いて高めたpHとの組合せで達成できる。しかし、水酸化ナトリウムは苛性を示すばかりでなく、核酸の不可逆的な変性及び経時的な分解を引き起こすことがある。 また、対イオンとして使用される陽イオン並びに溶離のpHはHMV核酸の回収率に対して影響を及ぼすと共に、強アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム)の使用は夾雑物の同時溶離及び生成物の安定性に対する有害効果のため回収率にとって有害であり得ることも認められた。 カルボン酸基と共にグアニジニウム基を有するアルギニンが溶離プロセスにおいて劇的な効果を示したので、回収率の向上に寄与するのはカルボン酸基又はグアニジニウム基のいずれであるかを確認するため、他のアミノ酸及びグアニジニウム塩を評価すると共に、アミノ酸とグアニジニウム塩との組合せも評価した。結果を表2にまとめて示す。 ゲノムDNAの回収率及び溶離を向上させる溶離液は、約10.5〜11.6の高いpHという共通の特徴を有することが注目された。グアニジンを用いた核酸溶離の向上は、溶離液中に炭酸塩(又は重炭酸塩)が存在することで促進されるように思われる。このような観察結果に基づき、高いpHの効果を試験するためにさらなる実験を実施した。炭酸ナトリウムを含む2M塩化ナトリウム或いはトリス塩基又はアルギニンを含む2M塩化ナトリウムを比較した。得られた結果を表3に示す。 数種の溶液の評価結果に基づけば、塩強度に加えてpHがゲノムDNAの回収に決定的な役割を果たすように思われる。溶離の向上のためには、1〜2M塩化ナトリウムと0.25〜0.5Mアルギニン、0.5〜1M炭酸ナトリウム又は0.5〜1Mトリス塩基との組合せが使用できる。 高いpHがイオン交換樹脂からの多量のゲノムDNAの回収を助ける因子であるように思われたので、塩とグアニジン誘導体とのさらにいくつかの組合せを溶離液として評価したが、これらはいずれも溶離液に高いpHを与えた。1.2M NaCl+0.2M L−アルギニン2.2M NaCl+0.5M 炭酸グアニジン3.2M NaCl+0.5M グリシン4.2M NaCl+0.5M 炭酸グアニジン+0.5M L−グルタミン酸5.2M NaCl+0.5M プロピオン酸グアニジン 結果は、1M〜2M塩化ナトリウム溶液へのアルギニン、炭酸グアニジン又は他のグアニジン誘導体(例えば、プロピオン酸グアニジン)の添加がイオン交換樹脂からのゲノムDNAの溶離に対して同様な効果を有することを明確に実証している(表4)。 (C)溶離液中におけるL−アルギニン、炭酸グアニジン及び炭酸カリウムの比較 塩化ナトリウムと炭酸ナトリウムの組合せがある程度の回収率向上をもたらしたので、炭酸カリウムを塩化ナトリウムと組み合わせた溶液を炭酸グアニジン及びL−アルギニンと比較して評価する。塩化ナトリウム及び炭酸ナトリウムの溶液のpHは、イオン交換樹脂から核酸を完全に回収するためには最適でない。炭酸カリウムは一層高いpHの溶液を与えるので、イオン交換樹脂からの核酸の一層高い回収率を与えるものと予想される。実際、塩化ナトリウムと炭酸カリウムの組合せは高いpHを有する溶液を与え、溶離プロファイルは炭酸グアニジン又はアルギニンを含む溶液に十分匹敵していた。実験の詳細は上記セクション(B)の場合と同様である。この場合にも、ゲノムDNA供給源としてヒト血液を使用し、(A)(a)に記載した血液プロトコルに準拠した。結果を表5に示す。 表5中のデータから明らかな通り、炭酸カリウムを含む塩化ナトリウム溶液は、炭酸グアニジン又はL−アルギニンを含む溶液と比較した場合、イオン交換樹脂からのゲノムDNA溶離に関して等しく有効である。 各種添加剤の系統的な評価に基づけば、塩強度に加えてpHが核酸の回収に決定的な役割を果たすように思われる。溶離の向上のためには、1〜2M塩化ナトリウムと0.25〜0.5Mアルギニン、0.5M炭酸カリウム又は0.5M炭酸グアニジンとの組合せが使用できる。0.5〜1M炭酸ナトリウム又は0.5〜1Mトリス塩基もまた、溶離を向上させるために使用できる。 (D)血液からのゲノムDNA精製 プロトコルセクションに記載した手順を用いて8mlのヒト血液試料を溶解した。粗溶解物をローディング液で希釈し、イオン交換精製カラム上にロードした。すべての溶液が樹脂を通過した後、さらに5mlのローディング液をカラム上に加えた。樹脂の上部にもはや溶液が存在しなくなった後、2.5mlの溶離液(1M塩化ナトリウム+0.5M炭酸カリウム)を加え、ゲノムDNAを含む溶出液を捕集管に捕集した。得られた生成物をNAP−25カラムを用いて脱塩した。単離したゲノムDNAのサイズをパルス電界ゲル電気泳動(図1)によって決定した。生成物の純度をUV分光測光及びゲル分析(図2)によって評価した。この方法によって得られたゲノムDNAはまた、制限酵素消化(図3)、多重PCR及びリアルタイムPCR(図4)のような下流用途においても評価した。 パルス電界ゲル電気泳動によれば、血液からの精製ゲノムDNAは大きいサイズを有することが明らかである(図1)。試料の純度をアガロースゲル分析によって調べた(図2)。それによれば、単離されたゲノムDNAは純粋であってRNA汚染のないことが実証された。 精製ゲノムDNAの品質をいくつかの方法で評価した。 DNAに対し、EcoRIを用いた制限酵素消化を施した。精製ゲノムDNA(250μg)を40単位の酵素で消化した。未消化DNA試料と並行して、消化試料をアガロースゲル上で分析した。ゲルイメージは、すべてのゲノムDNAが完全に消化されたことを示している(図3、レーン2、4、6は未消化の精製ゲノムDNAを表す一方、レーン1、3、5は酵素で消化した試料である)。 ゲノムDNA試料の品質を、多重PCR反応における効率によって間接的に測定した。この試験のためには、P450遺伝子に関するロングレンジ多重PCRを使用した(CodeLink P450プロトコル、GE Healthcare社)。遺伝子CYP2D6、CYP3A4及びCYP3A5からの3つのアンプリコンを単一の反応で増幅した。アンプリコンのサイズは335〜2600bpの範囲内にある。PCR生成物のサイズ及び収量はAgilent Bioanalyzer 2100及びDNA 7500キットによって決定した。多重PCR反応は、試験したすべての試料について十分に役立った(データは示さず)。 ゲノムDNA試料の品質はまた、リアルタイムPCRアッセイによっても試験した。リアルタイムPCR実験は、Applied Biosystems 7900HT Fast Real Time PCR Systemを用いて行った。試験したすべての試料は非常によく似た増幅プロファイルを示している(図4)。 同じ精製プロセスは、他の動物からの血液試料にも成功裡に適用された。ラット、モルモット、ウマ、ニワトリ及びヒツジのような各種動物から高品質のゲノムDNAが単離された。 (E)組織試料からのゲノムDNAの単離 200ミリグラムのラット肝臓組織をホモジナイズし、プロトコルセクションに記載したようにして溶解した。粗溶解物をローディング液で希釈し、遠心して粒子状物質をペレット化した。透明な溶解物をイオン交換精製カラム上にロードした。すべての溶液が樹脂を通過した後、5mlのローディング液をカラムに加えた。樹脂の上部にもはや溶液が存在しなくなった後、2.5mlの溶離液(1M塩化ナトリウム+0.5M炭酸カリウム)をカラムに加え、生成物を溶出液中に捕集した。こうして得られたゲノムDNAをNAP−25カラムを用いて脱塩した。生成物の純度をUV分光測光及びゲル分析によって評価した。プロトコルの一貫性にアクセスするために複数の試料を処理した。単離したゲノムDNAのサイズをパルス電界ゲル電気泳動(図5)によって決定した。この方法によって得られたゲノムDNAはまた、リアルタイムPCR(図6)及び制限酵素消化(図7)のような下流用途においても評価した。 パルス電界ゲル電気泳動によれば、ラット肝臓組織からの精製ゲノムDNA試料はいずれも大きいサイズを有することが明らかである(図5)。試料の純度をアガロースゲル分析によって調べた。それによれば、単離されたゲノムDNAは純粋であってRNA汚染のないことが実証された(データは示さず)。 精製ゲノムDNAの品質をいくつかの方法で評価した。 ゲノムDNA試料の品質をリアルタイムPCRアッセイによって試験した。リアルタイムPCR実験は、Applied Biosystems 7900HT Fast Real Time PCR Systemを用いて行った。試験したすべての試料は非常によく似た増幅プロファイルを示している(図6)。 DNAに対し、HindIIIを用いた制限酵素消化を施した。精製ゲノムDNA(250μg)を40単位の酵素で消化した。未消化DNA試料と並行して、消化試料をアガロースゲル上で分析した。ゲルイメージは、すべてのゲノムDNAが完全に消化されたことを示している(図7、レーン2、4、6、8は未消化の精製ゲノムDNAを表す一方、レーン1、3、5、7は酵素で消化した試料である)。 (F)細胞培養物からのゲノムDNAの単離 プロトコルセクションに記載した手順を用いて約2×107個のMRC5細胞を溶解した。粗溶解物をローディング液で希釈し、イオン交換精製カラムに移した。すべての溶液が樹脂を通過した後、5mlのローディング液をカラムに加えた。樹脂の上部にもはや溶液が存在しなくなった後、2.5mlの溶離液をカラムに加え、生成物を溶出液中に捕集した。こうして得られたゲノムDNAをNAP−25カラムを用いて脱塩した。生成物の純度をUV分光測光及びゲル分析によって評価した。単離したゲノムDNAのサイズをパルス電界ゲル電気泳動によって決定した。この方法によって得られたゲノムDNAはまた、リアルタイムPCR及び制限酵素消化のような下流用途においても評価した。 パルス電界ゲル電気泳動によれば、MRC5細胞からの精製ゲノムDNA試料はいずれも大きいサイズ(100Kb、図8)を有することが明らかである。試料の純度をアガロースゲル分析によって調べた。それによれば、単離されたゲノムDNAは純粋であってRNA汚染のないことが実証された(データは示さず)。 精製ゲノムDNAの品質を制限酵素消化によって評価した。DNAに対し、EcoRIを用いた制限酵素消化を施した。精製ゲノムDNA(250μg)を40単位の酵素で消化した。未消化DNA試料と並行して、消化試料をアガロースゲル上で分析した。ゲルイメージは、すべてのゲノムDNAが完全に消化されたことを示している(図9、レーン2、4、6、8、10、12は未消化の精製ゲノムDNAを表す一方、レーン1、3、5、7、9、11は酵素で消化した試料である)。 本明細書中で言及された特許、特許出願公開及びその他の公表参考文献のすべては、各々が個別かつ詳細に引用されて本明細書中に組み込まれた場合と同じく、その全体が援用によって本明細書の内容の一部をなしている。以上、本発明の好ましい例示的な実施形態を説明してきたが、限定のためではなく例示を目的として示される記載の実施形態以外の実施形態によって本発明が実施できることは当業者にとって容易に理解されよう。本発明は、以下に示す特許請求の範囲のみによって限定される。 細胞から核酸を分離及び/又は精製する方法であって、a)前記細胞を溶解液で溶解して核酸含有水溶液を生成する段階、b)陰イオン交換体が核酸を結合するような条件下で、前記核酸含有水溶液を固体支持マトリックスに結合された陰イオン交換体に接触させる段階、c)核酸溶離液からなる水性移動相を用いて前記陰イオン交換体から核酸を溶離する段階、及びd)下流用途に適するように前記溶離核酸を脱塩する段階を含んでなる方法において、炭酸カリウムを含む添加剤を前記溶離液中に添加して前記溶離液のpHをpH9〜pH13にすることを含み、溶離液中における前記添加剤の存在が前記添加剤の不存在下での前記核酸の回収率に比べて陰イオン交換体からの核酸回収率の増加をもたらすことを改良点とする方法。 前記添加剤が炭酸カリウムである、請求項1記載の方法。 前記炭酸カリウムが0.1〜2Mの濃度で存在する、請求項1記載の方法。 前記核酸がゲノムDNAである、請求項1記載の方法。 前記陰イオン交換体がANX Fast Flow樹脂である、請求項1記載の方法。 前記陰イオン交換体がDEAE Sephadex(登録商標)A25樹脂、Q Sepharose(登録商標)Fast Flow樹脂、Q Sepharose(登録商標)XL及びCapto(登録商標)Q樹脂からなる群から選択される、請求項1記載の方法。 細胞から核酸を分離及び/又は精製するためのキットであって、a)前記細胞から核酸含有水溶液を生成するための溶解液、b)核酸を結合するための、固体支持マトリックスに結合された陰イオン交換体、c)前記陰イオン交換体から核酸を溶離するための溶離液であって、炭酸カリウムを含んでいてpH9〜pH13のpHを有する溶離液、及びd)前記溶離核酸を脱塩するための脱塩手段を含んでなるキット。 前記炭酸カリウムが0.1〜2Mの濃度で存在する、請求項7記載のキット。 前記陰イオン交換体が高流速樹脂である、請求項7記載のキット。 前記陰イオン交換体がDEAE Sephadex(登録商標)A25樹脂、Q Sepharose(登録商標)Fast Flow樹脂、Q Sepharose(登録商標)XL及びCapto(登録商標)Q樹脂からなる群から選択される、請求項7記載のキット。


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