生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_抗ノロウイルス剤およびこれを含有する組成物
出願番号:2009519288
年次:2012
IPC分類:A61K 36/18,A61K 36/896,A61K 36/00,A61K 8/97,A61K 31/045,A61K 31/05,A61K 31/085,A61K 31/216,A61K 31/353,A61K 31/375,A61K 31/60,A61K 9/10,A61K 47/22,A61K 47/26,A61Q 19/00,A61P 31/02,A61P 31/14,A61P 1/12,A61P 43/00,A01N 65/00,A01N 31/00,A01N 37/02,A01N 37/36,A01N 65/08,A01P 1/00,A01P 3/00


特許情報キャッシュ

島本 整 辻 徹 中井 義昭 JP 5092145 特許公報(B2) 20120928 2009519288 20080611 抗ノロウイルス剤およびこれを含有する組成物 国立大学法人広島大学 504136568 アルタン株式会社 000101684 特許業務法人SSINPAT 110001070 牧村 浩次 100103218 八本 佳子 100115392 島本 整 辻 徹 中井 義昭 JP 2007155780 20070612 JP 2008035038 20080215 20121205 A61K 36/18 20060101AFI20121115BHJP A61K 36/896 20060101ALI20121115BHJP A61K 36/00 20060101ALI20121115BHJP A61K 8/97 20060101ALI20121115BHJP A61K 31/045 20060101ALI20121115BHJP A61K 31/05 20060101ALI20121115BHJP A61K 31/085 20060101ALI20121115BHJP A61K 31/216 20060101ALI20121115BHJP A61K 31/353 20060101ALI20121115BHJP A61K 31/375 20060101ALI20121115BHJP A61K 31/60 20060101ALI20121115BHJP A61K 9/10 20060101ALI20121115BHJP A61K 47/22 20060101ALI20121115BHJP A61K 47/26 20060101ALI20121115BHJP A61Q 19/00 20060101ALI20121115BHJP A61P 31/02 20060101ALI20121115BHJP A61P 31/14 20060101ALI20121115BHJP A61P 1/12 20060101ALI20121115BHJP A61P 43/00 20060101ALI20121115BHJP A01N 65/00 20090101ALI20121115BHJP A01N 31/00 20060101ALI20121115BHJP A01N 37/02 20060101ALI20121115BHJP A01N 37/36 20060101ALI20121115BHJP A01N 65/08 20090101ALI20121115BHJP A01P 1/00 20060101ALI20121115BHJP A01P 3/00 20060101ALI20121115BHJP JPA61K35/78 CA61K35/78 VA61K35/78 WA61K8/97A61K31/045A61K31/05A61K31/085A61K31/216A61K31/353A61K31/375A61K31/60A61K9/10A61K47/22A61K47/26A61Q19/00A61P31/02A61P31/14A61P1/12A61P43/00 121A01N65/00 GA01N31/00A01N37/02A01N37/36A01N65/08A01P1/00A01P3/00 A61K 36/18 A01N 31/00 A01N 37/02 A01N 37/36 A01N 65/00 A01N 65/08 A01P 1/00 A01P 3/00 A61K 8/97 A61K 9/10 A61K 31/045 A61K 31/05 A61K 31/085 A61K 31/216 A61K 31/353 A61K 31/375 A61K 31/60 A61K 36/00 A61K 36/896 A61K 47/22 A61K 47/26 A61P 1/12 A61P 31/02 A61P 31/14 A61P 43/00 A61Q 19/00 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2006−206558(JP,A) 特開昭54−014515(JP,A) 特開昭63−014702(JP,A) 特開2005−314316(JP,A) 特開平01−265023(JP,A) 23 JP2008060705 20080611 WO2008153077 20081218 22 20091211 鶴見 秀紀 本発明は、ノロウイルスに対する効果に優れかつ人体に対する安全性の高い、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物を用いた抗ノロウイルス剤、およびこの抗ノロウイルス剤を含有しノロウイルスの消毒や感染予防などのために有用な抗ノロウイルス用組成物に関する。 ノロウイルス(Norovirus)は、カリシウイルス科ノロウイルス属に分類される直径が約30nmのエンベロープを持たないプラス鎖の一本鎖RNAウイルスであり、1963年に米国で食中毒・急性胃腸炎の病原体として発見されて以来、世界各国で検出されている。わが国における過去6年間のノロウイルスによる食中毒発生状況を見ると、発生件数は毎年約270件(全食中毒件数の約18%)、患者数は毎年約1万人(全食中毒患者数の約30%)となっている。感染源としては、カキなどの二枚貝を原因食とする食材からの感染と患者の吐物・排泄物からの二次感染があり、特に後者が感染拡大の大きな原因となっている。また、ノロウイルスは感染力が極めて強く、10個以上のウイルスで感染するともいわれている。 現在のところノロウイルスに対するワクチンや治療薬はなく、原因食品の加熱および調理器具や手の消毒によりノロウイルスの感染を予防することが唯一の対処法である。ところが、飲食店、給食施設、工場など食品を調理加工する場において現在抗菌剤として汎用されている塩化ベンザルコニウムやエタノール類にはノロウイルスに対する効果が認められておらず、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、ヨード剤(ポピドンヨード等)、アルデヒド剤(グルタラール等)などがある程度有効とされている。しかしながら、人体に対する安全性への配慮から作業者の手指や調理器具類にこれらの薬剤類を用いることは適当とはいえず、まして食品に直接触れさせることはできない。 このような背景の下、作業者の手指や調理器具類を安全な方法で清潔に保つことができる、抗ノロウイルス性に優れた洗浄剤、消毒剤などが強く望まれているが、ノロウイルスの消毒効果に優れ、かつ人体への安全性の高い成分はこれまでほとんど見つかっておらず、そのような理想的な洗浄剤等の開発は進んでいない。一例を挙げれば、ノロウイルスの不活性化作用とともに安全性や手肌へのやさしさを謳った消毒液として、特開2007−045732号公報(特許文献1)において、ポリヘキサメチレンビグアナイド系化合物を0.05〜0.5重量%含み、好ましくはさらにアルコールを40〜80重量%含み、pHを9〜12の範囲に調整した消毒液が提案されている程度である。 一方、柿の実の抽出液を発酵して得られる「柿渋」は、古くから中国において血圧降下等のために漢方薬として用いられ、日本においても民間薬として親しまれているものである。この柿渋はタンニンを豊富に含有し、収斂性(タンパク質等と結合して組織を引き締める性質)のほか、抗菌作用や消臭作用を有するといわれている。この機能性を利用して、たとえば特開2005−232043号公報(特許文献2)では、柿渋抽出物をさらに取り扱い性や抗菌性を向上させるためにシクロデキストリンで包含した上で配合した抗菌性歯科用組成物が、また特開2001−172861号公報(特許文献3)では、機能性薬剤(消臭剤、抗菌剤等)と柿渋もしくは柿タンニンとを含む溶液を繊維に含浸させ、柿タンニンの収斂作用を利用してこれらを固着させた繊維製品が提案されている。 特開2006−206558号公報(特許文献4)には、タンニン物質、脂肪酸エステル類、キレート剤などを含有する抗菌性組成物が記載されており([請求項1])、当該タンニン物質としてはタンニン酸、ピロカテキン、没食子酸、柿タンニン、茶タンニン、五倍子タンニンなどが挙げられている([請求項4])。しかしながら、この抗菌性組成物の有効性は、タンニン酸を用いた場合における大腸菌および黄色ブドウ球菌に対してのものしか実証されておらず([実施例])、上記タンニン物質のうち柿タンニンのみが顕著な抗ノロウイルス性を有すること、したがって抗ノロウイルス用組成物の成分としては柿タンニンが極めて重要であるという技術的思想は何ら具体的に開示されていない。 なお、カキノキに含有されるタンニン(縮合型タンニン)の構造や精製方法に関しては下記の2つの学術論文(Matsuo and Itoo, 1981a/1981b:非特許文献1および2)を参照することができる。特開2007−045732号公報特開2005−232043号公報特開2001−172861号公報特開2006−206558号公報MATSUO, Tomoaki and ITOO, Saburo (1981a): Comparative Studies of Condensed Tannins from Several Young Fruits. J. Japan. Soc. Hort. Sci., 50(2), 262-269.MATSUO, Tomoaki and ITOO, Saburo (1981b): A Simple and Rapid Purification Method of Condensed Tannins from Several Young Fruits. Agric. Biol. Chem., 45(8), 1885-1887. 本発明は、ノロウイルスの不活性化作用に優れかつ人体に対する安全性の高い抗ノロウイルス剤、およびこの抗ノロウイルス剤を含有しノロウイルスの消毒や感染予防のために有用な抗ノロウイルス用組成物を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するため、食品あるいは食品添加物として認められている物質や植物成分、すなわち口にしても安全な素材の中から抗ノロウイルス活性を有する物質の探索を行ったところ、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物が顕著な抗ノロウイルス活性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明の抗ノロウイルス剤は、タンニンを含有するカキノキ属(Diospyros)の植物の抽出物(以下「カキ抽出物」という。)を有効成分とすることを特徴とする。 このカキ抽出物としては、カキノキ属の植物の果実の搾汁または抽出液を加熱またはアルコールにより処理して得られたものが望ましく、また、少なくとも縮合型タンニンを含有するもの、たとえばカキノキ(Diospyros kaki)から得られるものが好ましい。 このような抗ノロウイルス剤は、アルコール、界面活性剤、殺菌剤、保湿剤、化粧品用油脂類などと組み合わせた組成物の、ノロウイルスに対する有効成分として使用することが好適である。 すなわち、本発明の抗ノロウイルス用組成物は、上記抗ノロウイルス剤と、アルコール、界面活性剤、殺菌剤、保湿剤および化粧品用油脂類からなる群より選ばれた少なくとも1種とを含有することを特徴とする。このような抗ノロウイルス用組成物は、カキ抽出物(固形分換算)を組成物全体に対して0.01〜5重量%の割合で含有することが好ましい。 上記の抗ノロウイルス用組成物は、さらに有機酸および/またはその塩を含有することが好ましい。上記有機酸および/またはその塩としては、炭素原子数2〜10の有機酸および/またはその塩が好ましく、炭素原子数2〜10のヒドロキシル基含有有機酸および/またはその塩がより好ましい。なかでも、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸およびサリチル酸からなる群から選ばれた少なくとも1種の有機酸および/またはその塩、とくにクエン酸またはその塩が好ましい。 また、上記の抗ノロウイルス用組成物は、さらにビタミンC類を含有することも好ましい。 抗ノロウイルス用組成物の成分として用いるアルコールとしては、エタノールおよび/またはイソプロパノールが好ましい。本発明の抗ノロウイルス用組成物は、一つの態様において、少なくとも前記抗ノロウイルス剤とアルコールとを含有する抗ノロウイルス用アルコール製剤として提供される。 抗ノロウイルス用組成物の成分として用いる界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤および/または非イオン系界面活性剤が好ましく、グリセリン脂肪酸部分エステル、ソルビタン脂肪酸部分エステルおよびショ糖脂肪酸部分エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の界面活性剤が特に好ましい。本発明の抗ノロウイルス用組成物は、一つの態様において、少なくとも前記抗ノロウイルス剤と界面活性剤とを含有する抗ノロウイルス洗浄用組成物として提供される。 抗ノロウイルス用組成物の成分として用いる抗菌剤としては、イソプロピルメチルフェノール、ブチルパラヒドロキシベンゾエート、およびトリクロサンからなる群より選ばれた少なくとも1種の合成抗菌剤が好ましい。本発明の抗ノロウイルス用組成物は、一つの態様において、少なくとも前記抗ノロウイルス剤と抗菌剤とを含有する抗ノロウイルス消毒用組成物として提供される。 抗ノロウイルス用組成物の成分として用いる保湿剤としてはアロエエキスが好ましく、化粧品用油脂類としては蜜蝋が好ましい。本発明の抗ノロウイルス用組成物は、一つの態様において、少なくとも前記抗ノロウイルス剤と保湿剤および/または化粧品用油脂類とを含有するローション、乳液またはクリームとして提供される。 さらに、本発明の抗ノロウイルス剤は、ノロウイルスに起因する感染症の治療剤または予防剤の有効成分として使用することもできる。すなわち、本発明のノロウイルスに対する感染症の治療剤または予防剤は、上記抗ノロウイルス剤を有効成分として含有することを特徴とする。 本発明の抗ノロウイルス剤として用いるカキ抽出物の抗ノロウイルス性は、従来の殺菌剤等と比較して格段に優れており、一例としてノロウイルスを99%以上消滅させることも可能である。このような抗ノロウイルス剤は、ノロウイルスの消毒または感染予防のために、そのまま単独で使用することができる物質であるのみならず、アルコール製剤、洗浄用組成物、ハンドソープ、消毒用組成物、ローション、乳液、クリーム等の組成物、あるいはノロウイルスに対する医薬品などの有効成分としても極めて有用である。 また、カキ抽出物(カキタンニン)は食品添加物として認められているため、本発明の抗ノロウイルス用組成物の全ての成分を食品または食品添加物で構成し、食品・食器類に付着して口にされても問題にならない組成物とすることが可能となる。このようなカキ抽出物を有効成分とする本発明の抗ノロウイルス用組成物を用いることにより、食品を取り扱う状況下や医療機関などにおいて、ノロウイルスの消毒や感染予防を効率的に行うことができるようになり、ノロウイルスに起因する疾患(食中毒)の発生を大幅に抑制することができるものと期待される。 なお、従来の抗ノロウイルス性試験は、ノロウイルスと同じくカリシウイルス科に属し、培養細胞系が確立されている、ヒトに感染性のないネコカリシウイルスを代替として用いて行われていた(前出特許文献1:特開2007−045732号公報参照)。しかし、ネコカリシウイルスが肺や気管支から感染するのに対してノロウイルスは腸管から感染するなどの違いがあり、試験によりネコカリシウイルスに対する効果は認められてもノロウイルスに対する効果が同様にあるかどうかは不明確であった。 これに対して本発明の抗ノロウイルス剤ないし抗ノロウイルス用組成物は、後記実施例で示したように、ノロウイルス自体を用いたリアルタイムPCR法によって、単にノロウイルスの感染・増殖能力を失わせることにとどまらず、ノロウイルスを死滅(ノロウイルスのRNAを消滅)させる顕著な効果を有することが確認されており、従来のウイルスに対する効果が示唆されている物質よりも遙かに実効性に富んだ優れた物質といえる。(a)〜(c)は、ノロウイルスに試料を作用させたときのウイルスの状態を表す概念図である。(a)は、ウイルスゲノム、表面タンパク質共に正常であって、ウイルスは感染力を保持している状態である(効果なし)。(b)は、ウイルスゲノムは保持されているが、表面タンパク質が破壊され、感染力を失った状態である(効果あり)。(c)は、ウイルスゲノム、表面タンパク質共に破壊され、感染力を失った状態である(効果あり)。実施例2における、手洗いフォーム剤およびハンドローション剤についてのノロウイルス不活性化試験の結果を示すグラフである。実施例3[1]における、手洗いフォーム剤およびハンドローション剤についてのビタミンCによる抗ノロウイルス活性の安定化試験の結果を示すグラフである。実施例3[2]における、ビタミンCによる抗ノロウイルス活性の安定化試験の結果を示すグラフである。実施例4における、クエン酸による抗ノロウイルス活性の相乗効果試験の結果を示すグラフである。 本発明において「抗ノロウイルス性(活性)」とは、ノロウイルスを死滅させる場合(図1(c)参照)と、ノロウイルスは残存していてもその表面タンパク質に作用して感染能力(増殖能力)を喪失させる場合(図1(b)参照)の両方を含めて、ノロウイルスを不活性化する(すなわち「消毒する」)特性をいう。 − 抗ノロウイルス剤 − ・カキ抽出物 本発明の抗ノロウイルス剤は、タンニンを含有するカキノキ属の植物の抽出物、すなわちカキ抽出物(柿シブタンニンとよばれることもある。)を抗ノロウイルス性の有効成分とする物質である。なお、このカキ抽出物は、タンニンを含有するカキノキ属の植物に由来する物質のみならず、これを抽出するために用いた溶媒等を含有していてもよい。 カキ抽出物の原料は特に限定されるものではないが、カキタンニン(特に縮合型タンニン)を豊富に含む渋柿(たとえばカキノキの蜂屋、平種無などの品種)の未成熟果を用いると効率的かつ経済的である。また、同様の成分からなるカキ抽出物が得られるのであれば、カキノキ属の植物の葉や樹皮など果実以外の部位を原料としてもよい。 このような原料からカキ抽出物を調製する方法も特に限定されるものではないが、一般的には、蔕を除去した渋柿を、粉砕、圧搾して搾汁を回収する方法、または適度な大きさに切断してからミキサーにかけて液状にし、さらに遠心分離機にかけて上澄み液を回収する方法、あるいは水または水系溶媒で抽出して抽出液を回収する方法などが用いられる。 ・加熱、アルコールおよびその他の処理 本発明のカキ抽出物としては、上述のようなカキノキ属の植物の果実の搾汁や抽出液をそのまま用いることもできるが、それらの加熱またはアルコールによる処理物(以下「カキ抽出物処理物」とよぶこともある。)を用いることが望ましい。加熱またはアルコール処理によりカキ抽出物の抗ノロウイルス性は一層高まり、あわせて抗ノロウイルス性を検証するための測定が阻害されることを防止できるようになる。このようなカキ抽出物処理物は比較的容易に調製することができ、かつ組成物の成分として使用する上で色や臭気がほとんど問題にならないという利点を有し、発酵に時間がかかる上に色や臭気の点で使用しにくい面のある柿渋(後述)よりも工業的に利用しやすい。 加熱処理の温度および時間条件は、搾汁等に含有されているカキノキ属の植物に由来する酵素を失活させることができる程度の条件であればよく、植物の酵素を失活させるための一般的な条件を採用することができる。すなわち、温度は通常60〜130℃、時間は通常5秒〜30分であり、たとえば、120℃〜130℃で5〜10秒間、あるいは約85℃で5〜15分間などの条件で加熱処理を行えばよい。また、加熱処理工程の態様は特に限定されるものではなく、たとえば搾汁を殺菌する工程における加熱や、粉末化する工程における加熱、あるいは柿渋(詳細は後述)を製造するための発酵開始前の加熱などによって当該処理を行うことができる。 一方、アルコール処理は、通常30〜100%、好ましくは50〜100%のエタノール等のアルコール類を用いて行うことができる。たとえば、カキ絞汁液に95v/v%エタノールを同量程度添加するように処理し、その後は密閉遮光容器内で保存することが好ましい(通常淡褐色の液となる)。また、アルコール処理工程の態様も特に限定されるものではなく、たとえばエタノール等のアルコール系溶媒を用いて抽出をする工程は当該アルコール処理工程に相当するほか、典型的には本発明の抗ノロウイルス性組成物としてのアルコール製剤を製造するための一工程として、必要に応じて上記の加熱処理が施されたカキ抽出物にアルコールを添加して混合することにより行うこともできる。なお、このようなアルコール処理は、カキ抽出物自体に含有される雑菌を殺菌する作用も併せ持つ。 本発明のカキ抽出物については、上記のような処理の他に、あるいは上記のような処理に加えて、発明の効果を阻害しない範囲で必要に応じて、濃縮、乾燥または凍結乾燥による固形化ならびに粉砕による粉末化(凍結乾燥粉末は通常微黄色である)、あるいはイオン交換樹脂等を用いた精製などの処理を施してもよい。カキ抽出物はポリフェノールを多く含有し、液状のままでは着色等の変質が起こりやすいため、凍結乾燥法を用いて固形状態で冷凍保存することが望ましい。これらの操作は、カキ抽出物に含有されるカキタンニンやその他の成分が分解されないような、温和な条件下で行うことが好ましい。 また、本発明におけるカキ抽出物としては、未成熟の渋柿の搾汁したのち長期間(1〜3年程度)発酵、熟成させて得られる液体であって、数パーセント程度の固形分(カキタンニン)および発酵により生成した有機酸などを含有する「柿渋」を利用してもよい。この柿渋は従来民間薬や塗料などとして利用されており、たとえば「柿渋」(冨山柿渋製造場)などの商品として一般的に市販されている。あるいは、カキ絞汁液にカキ由来の酵母培養液を加え、20〜25℃で1〜3ヶ月間発酵させて得られる発酵物を用いることもでき(通常赤褐色の液となる)、その後は密閉容器内で保存することが好ましい。 なお、日本の食品衛生法に基づく「既存添加物名簿収載品目リスト」に「柿タンニン」(品名/別名=柿渋、柿抽出物。基原・製法・本質=カキ科カキ(Diospyros kaki THUNB.)の実より、搾汁したもの、又は水若しくはエタノールで抽出して得られたものである。主成分はタンニン及びタンニン酸である。)として記載されている添加物を、本発明におけるカキ抽出物として利用することもできる。 ・カキタンニン カキノキ属(Diospyros)の植物、特にその果実には、収斂性や金属イオンと結合するなど所定の性質を有し、渋味を感じさせるもととなる物質、いわゆるタンニンと総称される化合物が豊富に含まれている。このようなカキタンニンには、多くの場合、カテキン、ガロカテキンおよびこれらの没食子酸エステルが結合してなる、下記推定構造式(I)で表される「カキ縮合型タンニン」が主要な成分として含まれていることが特徴的である。たとえば、カキノキ属の植物のうち、中国原産で日本をはじめ世界的に広く栽培されているカキノキ(Diospyros kaki)の果実に含まれているカキ縮合型タンニンは、カテキン、カテキンガレート、ガロカテキンおよびガロカテキンガレートがおよそ1:1:2:2の比率で炭素−炭素結合で縮合している高分子化合物である(Matsuo & Itoo (1981):前出非特許文献1参照)。 また、カキタンニンには、上記「カキ縮合型タンニン」以外にも、カテキンや加水分解型タンニンなどその他のタンニン性化合物が含まれていることもある。 なお、加水分解型タンニンは、アルコール(グルコース等)とカルボン酸(没食子酸等)とのエステルまたはそのオリゴマーであって、加水分解により低分子化されるのに対し、カキ縮合型タンニンは加水分解によって低分子化しないため(重合体の基本骨格の炭素−炭素結合は加水分解されない)加水分解型タンニンと区別することができ、たとえばMatsuo & Itoo (1981b)(前出非特許文献2)に記載された方法などにより精製、定量することも可能である。 後述する実施例等における対比試験結果からは、カキノキ属(Diospyros)の植物に由来しないタンニン、たとえばヌルデ由来の没食子タンニン酸(加水分解型タンニン)やアカシヤもしくはミモザ由来のワットルタンニン、カテキン、没食子酸、プロピルガレート[没食子酸(gallic acid)のプロピルエステル]だけではノロウイルスに対する有効性は示されなかった。本発明における抗ノロウイルス性の発現のためには、カキ抽出物中に少なくともカキ縮合型タンニンが含まれていることが好ましいと推測されるが、カキ抽出物中のその他の成分の寄与の可能性は何ら排除されるものではない。カキノキの果実を用いて後述のような調製方法により得られるカキ抽出物等には、通常自ずとカキ縮合型タンニンが含まれており、本発明の抗ノロウイルス剤は、そのようなカキ抽出物等を原料として用いて製造することが好適であると推測される。 − 抗ノロウイルス用組成物 − 本発明の抗ノロウイルス用組成物は、ノロウイルスに対する有効成分としての抗ノロウイルス剤と、アルコール、界面活性剤、殺菌剤、保湿剤、または化粧品用油脂類のいずれか1種以上の成分とを含有し、必要に応じてさらにクエン酸等の有機酸および/またはその塩やビタミンC類を含有する組成物である。その態様は特に限定されるものではないが、代表的には以下のようなものが挙げられる。 ・ 少なくとも抗ノロウイルス剤とアルコールとを含有するアルコール製剤 ・ 少なくとも抗ノロウイルス剤と界面活性剤とを含有する洗浄用組成物 ・ 少なくとも抗ノロウイルス剤と抗菌剤とを含有する消毒用組成物 ・ 少なくとも抗ノロウイルス剤と保湿剤および/または化粧品用油脂類とを含有するローション、乳液またはクリーム 洗浄用組成物は、食品、食器、調理器具、作業者の手指や着衣などの汚れを落とすとともにノロウイルスを消毒することができる態様の組成物であり、たとえば液状または固形状の洗剤として提供される。アルコール製剤および消毒用組成物は、食品、食器、調理器具、作業者の手指、あるいはノロウイルス患者の汚物を取り扱った器具などに付着した、ノロウイルスおよび細菌類を不活性化するために使用される態様の組成物であり、たとえば従来のエタノール製剤と同様の噴霧剤として提供される。ローション、クリームおよび乳液は、水仕事等で荒れやすい作業者の手指に塗ってスキンケアをするとともにノロウイルスを消毒することができる態様の組成物(基礎化粧品)である。 なお、本発明の抗ノロウイルス用組成物において、アルコール、界面活性剤、殺菌剤、保湿剤、および化粧品用油脂類は当然ながら2種以上を組み合わせて用いてもよい。たとえばアルコール製剤については、抗菌性をより高めるために脂肪酸エステル等の界面活性剤をさらに配合することも好ましい。また、上記洗浄用組成物は、界面活性剤に加えて殺菌剤やアルコールを配合したハンドソープなどの態様をとることができ、上記クリームは、手肌を保護する成分と共に手肌を清浄に保つための抗菌剤やアルコールを配合した態様をとることができる。 さらに、本発明の抗ノロウイルス用組成物には、本明細書中で具体的に説明している成分以外にも、所望の性能を賦与し各組成物の品質を高めるための各種成分、たとえば増粘剤(キサンタンガム、ローカストビーンガム、ポリアクリル酸ナトリウム等)、酸化防止剤、香料、色素など、またローション等の化粧品にあっては肌荒れ防止剤、消炎剤などを、適宜配合することができる。 ・抗ノロウイルス剤の含有量 本発明の抗ノロウイルス用組成物における抗ノロウイルス剤の含有量は、抗ノロウイルス性が発現される範囲において、組成物の成分構成や使用方法等の態様に応じて適宜調整することができるが、抗ノロウイルス剤中のカキ抽出物が、抗ノロウイルス用組成物全体に対して、好ましくは0.01〜5重量%、より好ましくは0.1〜2重量%、さらに好ましくは0.2〜2重量%、特に好ましくは0.5〜2重量%となるような量にすればよい。 なお、上記のカキ抽出物の含有量は「固形分」に基づくものであり、たとえば柿の実の抽出液などの液状物を製造原料として用いる場合には、その液状物中の固形分(乾燥または凍結乾燥により得られる粉末)の重量が上記範囲内となるよう、液状物の配合量を調節すればよい。柿の実の搾汁には、通常5〜10%程度の固形分が含有されている。 ・有機酸および/またはその塩 本発明の抗ノロウイルス用組成物には、上述した抗ノロウイルス剤に加えて、有機酸および/またはその塩を配合することが好ましい。有機酸および/またはその塩としては、炭素原子数2〜10の有機酸および/またはその塩が好ましく、炭素原子数2〜10のヒドロキシル基含有有機酸および/またはその塩がより好ましく、さらに具体的には、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、サリチル酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸などの有機酸および/またはその塩が例示される。なかでも、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸およびサリチル酸からなる群から選ばれた少なくとも1種の有機酸および/またはその塩、とくにクエン酸またはその塩が好ましい。また、有機酸の塩としては、上記有機酸それぞれのナトリウム塩、カリウム塩等(たとえばクエン酸三ナトリウム)が好ましく使用される。クエン酸等の有機酸および/またはその塩は、これら単独では抗ノロウイルス性を示さないが、カキ抽出物と併用することによりその効果を一層高めることができる。なお、クエン酸および/またはその塩は、細菌類に対する抗菌性にも優れた物質で、食品添加物としても認められており、またカキ抽出物(カキタンニン)が鉄と接触したときの着色を防止するキレート剤としても作用する。 上記有機酸および/またはその塩の添加量は、抗ノロウイルス用組成物全体(溶媒等を含む。)に対して、0.05〜5.0重量%の割合が好ましく、0.1〜2.0重量%の割合がより好ましい。また、有機酸および/またはその塩を水溶液の組成物について用いる場合は、pHが2〜6となる量で用いることが好ましい。 ・ビタミンC類 本発明の抗ノロウイルス用組成物には、上述した抗ノロウイルス剤に加えて、食品等に添加される酸化防止剤として知られているビタミンC類を配合することが好ましい。ここで「ビタミンC類」とは、一般的にビタミンCと呼ばれているL-アスコルビン酸のほか、DL−アスコルビン酸や、アスコルビン酸エステル(パルミチン酸エステルなど)などを含む総称である。ビタミンC類を配合することによりカキ抽出物(特にカキタンニン)の酸化が抑制され、ノロウイルスに対する効果が安定的、持続的に発揮されるようになり、あわせて酸化による赤色の発色を抑制することもできる。 ビタミンC類の添加量は、抗ノロウイルス用組成物全体(溶媒等を含む。)に対して、0.01〜3.0重量%の割合が好ましく、0.05〜1.0重量%の割合がより好ましい。 ・アルコール アルコールとしては、一般的なアルコール製剤と同様のものを用いることができるが、細菌類に対する優れた抗菌性を有し食品添加物としても認められているエタノールおよび/またはプロパノールが好ましい。これらのアルコールの濃度は一般的なアルコール製剤と同程度であればよく、抗菌性を考慮しながら調整することができるが、アルコール製剤全体に対して20〜80%程度とすることが好ましい。なお、アルコールは溶剤としてアルコール製剤以外の組成物に用いられることもあり、また肌への収斂性や防腐性をもたらす成分として化粧品等に配合することもできる。 ・界面活性剤 界面活性剤には、カチオン系、アニオン系、両イオン系および非イオン系のものがあるが、カキ縮合型タンニン(ポリフェノール)の化学的性質を考慮すると、本発明ではアニオン系界面活性剤および/または非イオン系界面活性剤を用いることが好ましい。 アニオン系界面活性剤としては、たとえば、石けん(高級脂肪酸のアルカリ塩)、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩などが挙げられる。 非イオン系界面活性剤としては、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、多価アルコール(グリセリン、糖アルコール等)の脂肪酸部分エステル、脂肪酸ジエタノールアミドなどが挙げられる。 これらの界面活性剤のうち、グリセリン脂肪酸部分エステル、ソルビタン脂肪酸部分エステル、ショ糖脂肪酸部分エステルなど食品添加物として認められているものは、食品、食器、調理器具に付着しても問題にならない点で本発明における好ましい界面活性剤である。 なお、上記のような界面活性剤には細菌類の細胞膜やウイルスのエンベロープを破壊する作用もあり、たとえばグリセリンの炭素数6〜18の脂肪酸との部分エステルは大腸菌や黄色ブドウ球菌に対する抗菌性に優れているため、前述のアルコール製剤にこれらの界面活性剤を配合することも好適である。また、界面活性剤はクリームや乳液において油相と水相とを混和するための成分としても用いられる。 ・抗菌剤 本発明で用いることのできる、前述のエタノール、クエン酸等以外の抗菌剤(殺菌剤、除菌剤とよばれる物質を含む。)は特に限定されるものではないが、たとえば、ノロウイルスと同様に食品加工の際の感染あるいは院内感染が問題となる大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA、サルモネラ、腸炎ビブリオ、緑膿菌などに対して有効であるものが好適であり、そのような抗菌剤としては以下のようなものが挙げられる。・ 天然抗菌剤…タンパク質類(白子タンパク、卵白リゾチーム等)、ペプチド類(ポリリジン等)など;・ 抗生物質…ペニシリン系抗生物質、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、テトラサイクリン系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質など; ・ 合成抗菌剤…塩素系化合物(トリクロサン等)、ヨード系化合物(ポピドンヨード等)、亜鉛化合物(セチルピリジニウム亜鉛等)、ベンゼンカルボン酸類(安息香酸、サリチル酸、イソプロピルメチルフェノール、ブチルパラヒドロキシベンゾエート(=ブチルパラベン)等)、有機酸エステル類(グリセリンエステル、ショ糖エステル等)、アルデヒド類(グルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド等)、ビグアナイド系化合物(グルコン酸クロルヘキシジン等)、第四級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム、臭化セチルアンモニウム等)など。 これらの抗菌剤のうち、イソプロピルメチルフェノール、ブチルパラヒドロキシベンゾエート、トリクロサンなどは、抗菌作用に優れている点およびカキ抽出物との相溶性の点で本発明における好ましい抗菌剤である。 なお、上記のような抗菌剤として用いられる物質は、前述のエタノール製剤に配合してもよく、化粧品等において防腐剤として利用されることもある。 ・保湿剤 本発明で用いることのできる保湿剤(湿潤剤)は、一般的なローション、乳液、クリーム等の化粧品に用いられているものと同様であり、たとえば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、セラミド、アロエエキスなどが挙げられる。これらの保湿剤のうち、アロエエキスなど食品または食品添加物として認められているものは、食品、食器、調理器具に付着しても問題にならない点で本発明における好ましい保湿剤である。 ・化粧品用油脂類 化粧品用油脂類は、皮膚面に被膜を形成して皮膚の保護や柔軟性、滑沢性の賦与などの役割を果たし、また化粧品に適度な使用感を持たせるための成分である。本発明では、一般的な乳液、クリーム等の化粧品に用いられているものと同様の化粧品用油脂類を用いることができ、たとえば下記のようなものが挙げられる。 ・ 油脂(高級脂肪酸とグリセリンのエステル)…植物性油脂、動物性油脂またはこれらの水素添加物(部分水添ナタネ油等)、合成トリグリセリド(トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル等)など; ・ ロウ(高級脂肪酸と高級アルコールの常温で固体のエステル)…植物性ロウ、動物性ロウ(蜜蝋、ラノリン等)など; ・ 炭化水素…鉱物性炭化水素(流動パラフィン、ワセリン、パラフィン等)、動物性炭化水素(スクワラン等)など; ・ 高級脂肪酸…ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸など; ・ 高級アルコール…セタノール、ステアリルアルコール、ラノリンアルコールなど; ・ エステル(ロウ類以外の、脂肪酸とアルコールとのエステル)…ミリスチン酸ミリスチル、ジオレイン酸プロピレングリコール、乳酸セチルなど。 これらの化粧品用油脂類のうち、蜜蝋など食品または食品添加物として認められているものは、食品、食器、調理器具に付着しても問題にならない点で本発明における好ましい化粧品用油脂類である。 ・製造方法 本発明の抗ノロウイルス用組成物の製造方法は、製造原料の一つとして抗ノロウイルス剤(カキ抽出物)を配合し、必要に応じてさらにクエン酸等の有機酸および/またはその塩やビタミンC類を配合し、これらのことにあわせて適宜調整を施すこと以外は、従来のアルコール製剤、洗浄剤、消毒剤、ローション、乳液、クリーム等の製造方法と同様である。すなわち、それらの従来品の一般的な(または必要に応じて微調整した)製造原料に加えて抗ノロウイルス剤を配合し、従来品と同様(または必要に応じて微調整した)製造工程により、本発明の抗ノロウイルス用組成物を製造することができる。たとえば、クリームの態様をとるのであれば、精製水に抗ノロウイルス剤やその他の成分を添加して水相部を調製し、一方で化粧品用油脂類などからなる油相部を調製し、これらを所定の割合で混合するようにして製造すればよい。 また、本発明の抗ノロウイルス用組成物の使用方法も、従来のアルコール製剤、洗浄剤、消毒剤、ローション、乳液、クリーム等と同様である。さらに、たとえば洗浄剤であれば使用時に希釈して用いるような濃縮型のものにしたり、アルコール製剤や消毒剤であればスプレー型のほか、不織布に含浸させて拭き取り型のものにしたりするなど、本発明の抗ノロウイルス用組成物は使用方法に応じて適宜好ましい態様で製品化することもできる。 − 医薬品 − 本発明の抗ノロウイルス剤は、ノロウイルスに起因する感染症の治療剤または予防剤の有効成分として使用することができる。このような医薬品の剤型は、たとえば液剤、シロップ剤、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤などの経口摂取型、あるいは注射剤といった中から適宜選択することができ、必要に応じて賦形剤(たとえば乳糖やその他の糖類)、結合材(たとえば澱粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコール)、安定化剤(たとえばアスコルビン酸)、保存剤(たとえばパラオキシ安息香酸エステル)、甘味料、溶剤など各種の添加剤を併用し、一般的な製剤方法に従って製造することができる。また、これらの医薬品の有効投与量は、患者の年齢、体重、症状、薬剤の投与経路、投与スケジュール、製剤形態、素材の阻害活性の強さなどに応じて適宜決定することができ、医薬品中の抗ノロウイルス剤の含有量もそれらの条件に応じて調節すればよい。 ・ノロウイルス試験液 以下の実施例等で用いた「ノロウイルス試験液」は、患者の便から採取され−80℃で保存・凍結されていたノロウイルス凍結原液を氷上で解凍し、その100μLをとり、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で10倍に希釈し、10000rpmで20分間冷却遠心分離し、沈殿物を除去して調製した(950μL溶液)。 ・リアルタイムPCR法 以下の実施例等における「リアルタイムPCR法」は、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長による通達(食安監発第1105001号、平成15年11月5日。http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/kanshi/031105-1.html参照)に添付された資料「ノロウイルスの検出法」に準じて行った。 なお、リアルタイムPCR法では、[図1]における(a)および(b)の状態のウイルスゲノム数がカウントされる。つまり、以下の実施例等では(c)のノロウイルス(のRNA)が消滅した場合のみ「効果あり」と評価され、(b)のノロウイルス(のRNA)が消滅しなかった場合はたとえ感染・増殖能力が失われていても「効果なし」と評価さる。それにもかかわらず、本発明の抗ノロウイルス用組成物は従来より高い効果があると評価されており、ノロウイルスを(b)の状態にすることも含めた実際上の効果はさらに高いものと考えられる。 [実施例1] [1]カキ抽出物およびエタノール製剤の調製 (a)柿シブ発酵液(FA−1):カキノキ(渋柿)の未成熟果の粉砕物を目の細かい布袋に入れて搾汁し、この搾汁をガラス容器に入れて約一年自然発酵させた後、固形物を濾別して赤褐色の溶液を得た。この溶液中には約10%の固形成分(カキ抽出物)が含まれており、その約半分(約5%)がカキタンニンであった。 (b)柿シブ凍結乾燥粉末(FD−1):カキノキ(渋柿)の未成熟果の粉砕物を目の細かい布袋に入れて搾汁し、この搾汁を凍結乾燥して粉末を得た。歩留まりは、天然物のため一定しないが、5〜7%程度であった。 上記のカキ抽出物(FA−1およびFD−1)と、エタノール、クエン酸およびクエン酸三ナトリウムとを用いて、[表1]に示した処方の組成物(エタノール製剤)A1〜A4を調製した。また、カキ抽出物以外の成分を配合した試料を用いて、同じく[表1]に示した処方の試料溶液B1〜B7を調製した。 [2]抗ノロウイルス性試験 ノロウイルス試験液25μLと、上記のようにして調製した組成物(A1〜A5またはB1〜B7)25μLずつとを十分に混合し、混合液を室温で2分間放置した後、PBSで50倍に希釈した。これらの希釈液を用いて、RNAの抽出、cDNAの合成等の処理を行った後、リアルタイムPCR法により希釈液中に残存していたウイルスゲノムRNA数をカウントした。また、上記それぞれの試料溶液に対するコントロールについても同様に試験した。これらの測定値の対比から、各組成物についてノロウイルスの抑制率を求めた。 結果は[表1]に示した通りである。従来の汎用的な抗菌剤であり、抗ノロウイルス作用が認められているポピドンヨードを配合した組成物B1に比べて、カキ抽出物(FD−1またはFA−1)を配合した組成物A1〜A4の抑制率はいずれも顕著に高かった。また、加水分解性タンニンや低分子のタンニンないし類縁化合物を配合した組成物については、ノロウイルスに対する有効性が全く認められなかった。 なお、以下の実施例の記載(表中の記載を含む)において、「%」は特に断りのない限り「重量%」を表す。 [3]抗菌性試験 (1)試験サンプル 前述のように調製したカキ抽出物(FD−1)と、グリセリン−カプロン酸エステル、クエン酸、クエン酸三ナトリウムおよびエタノールとを用いて、[表2]に示した処方の組成物A5〜A7を調製した。これらの組成物A5〜A7の原液とこれらを精製水で2,4,8,16および20倍に希釈した希釈液を試験サンプルとして用いた。 (2)細菌の種類 大腸菌…IFO3301株 黄色ブドウ球菌…IFO12792株 (3)培地および培養条件 大腸菌…デソキシコレート寒天培地にて35℃、24時間培養 黄色ブドウ球菌…マンニットソルト寒天培地にて35℃、48時間培養 (4)操作 試験サンプル各9mLに菌液1.0mLずつを加えて撹拌し、1分間感作させた後、それぞれの選択培地に塗沫し、それぞれの培養時間後に繁殖状態を確認して、効果を判定した。結果は表3に示す通りである。 大腸菌および黄色ブドウ球菌のいずれに対しても、A7>A6>A5の順で強い抗菌性が示された。このような結果から、エタノール、脂肪酸エステル、さらに有機酸およびその塩を併用することにより、ノロウイルスに対する効果のみならず、大腸菌等の細菌に対する効果にも優れた抗ノロウイルス用組成物が得られることがわかる。 [実施例2] [1]カキ抽出物および手洗いフォーム剤・ハンドローション剤の調製 (c)カキ抽出物(柿渋FD2−2):十分に殺菌(NaClO)、洗浄、変色防止(ビタミンC)等の処理をした柿の実をダイス状にカットして潰した。得られた果実・果汁溶液を200メッシュ篩にかけ、高温殺菌処理(120〜130℃、7〜10秒)をした後、フリーズドライ処理をして、粉末状のカキ抽出物(柿渋FD2−2)を調製した。 下記[表4]に示す成分を撹拌混合し、上記のカキ抽出物(FD2−2)を含有する3種類の手洗いフォーム剤を調製した。また、下記[表5]に示す成分を撹拌混合し、上記のカキ抽出物(FD2−2)を含有するハンドローション剤を調製した。 [2]ノロウイルスの不活性化試験 上述のように調製した手洗いフォーム剤およびハンドローション剤それぞれ10μLと、ノロウイルス試験液10μLとを十分に混合した後、室温で30秒、60秒または120秒間放置した。また、トータルコントロール(PBS(phosphate-buffered saline, リン酸緩衝生理食塩水)のみ)10μLについても、ノロウイルス試験液10μLとを十分に混合した後、室温で120秒間放置した。これらの試料から5μLを採取して2mLのPBSで希釈し(400倍)、RNAの抽出、cDNAの合成等の処理を行った後、リアルタイムPCR法により希釈液中に残存していたウイルスゲノムRNA数をカウントした。 一方、上記試料のコントロールとして、実施例2で調製した手洗いフォーム剤およびハンドローション剤それぞれ5μLをあらかじめ4mLのPBSで希釈した後、ノロウイルス試験液5μLと十分に混合して、室温で120秒間放置した。そしてこれらの試料についても、RNAの抽出、cDNAの合成等の処理を行った後、リアルタイムPCR法により希釈液中に残存していたウイルスゲノムRNA数をカウントした。 結果は[図2]に示すとおりである。上記[1]で調製した手洗いフォーム剤およびハンドローション剤はいずれも、極めて高い抗ノロウイルス活性を有することが示されている。 [実施例3]ビタミンCによる抗ノロウイルス活性の安定化試験 [1] 前記実施例2において調製した手洗いフォーム剤(KSF15−2)およびハンドローション剤(KSYHL−5)と、それぞれにビタミンCを1%添加したもの(KSF15−2(VC)/KSYHL−5(VC))とを用意し、2008年2月9日〜26日の17日間(晴天)、太陽光下に保持した。これら4種類のサンプルおよびトータルコントロールについて、前記実施例2[2]と同様の手順で(ノロウイルス試験液とサンプルとの接触時間は2分間)ノロウイルスの不活性化試験を行った。 結果は[図3]に示すとおりである。手洗いフォーム剤、ハンドローション剤いずれについても、ビタミンCの添加により抗ノロウイルス活性が高い水準で保持されていることがわかる。手洗いフォーム剤はビタミンC未添加でも大きな活性の低下は認められなかったが、ハンドローション剤はビタミンC未添加のまま太陽光にさらすことにより、抗ノロウイルス活性が失われてしまった。 [2] カキ抽出物(前記FD2−2)0.3%、エタノール50%、クエン酸1.6%、クエン酸三ナトリウム0.5%、グリセリンモノカプレート0.5%および水(残部)からなる組成物(HA−72)、カキ抽出物(前記FD2−2)0.3%、エタノール50%、クエン酸1.6%、クエン酸三ナトリウム0.5%、グリセリンモノカプレート0.5%、ビタミンC0.5%および水(残部)からなる組成物(HA−72(VC))を調製し、さらに上記[1]で調製したKSF15−2(VC)およびKSYHL−5(VC)を再度用いて、10日間太陽光下に保持した。これら4種類のサンプルについて、前記実施例2[2]と同様の手順で(ノロウイルス試験液とサンプルとの接触時間は2分間)ノロウイルスの不活性化試験を行った。 結果(残存したノロウイルス数の平均値、n=3)は[図4]に示すとおりである。組成物がエタノール製剤の態様をとる場合にも、上記[1]の結果と同様、ビタミンCを添加することにより抗ノロウイルス活性が高い水準で保持されることがわかる。 [実施例4]クエン酸による抗ノロウイルス活性の相乗効果試験 カキ抽出物(前記FD2−2)0.3%、エタノール50%および水(残部)からなるエタノール溶液A、カキ抽出物(前記FD2−2)0.3%、クエン酸1.6%、エタノール50%および水(残部)からなるエタノール溶液B、およびトータルコントロールを調製し、前記実施例2[2]の方法に準じて(ノロウイルス試験液とサンプルとの接触時間は2分間)ノロウイルスの不活性化試験を行った。 結果は[図4]に示すとおりである。コントロールを100としたときのノロウイルス残存率は、エタノール溶液Aが6.7、エタノール溶液Bが0.08であり、カキ抽出物およびエタノールにさらにクエン酸を添加することにより、抗ノロウイルス活性は一層顕著なものになることがわかる。 タンニンを含有するカキノキ属(Diospyros)の植物の抽出物(以下「カキ抽出物」という。)を有効成分とする抗ノロウイルス剤。 前記カキ抽出物が、カキノキ属の植物の果実の搾汁または抽出液を加熱またはアルコールにより処理して得られたものである、請求項1に記載の抗ノロウイルス剤。 前記カキ抽出物が少なくとも縮合型タンニンを含有するものである、請求項1または2に記載の抗ノロウイルス剤。 前記カキ抽出物がカキノキ(Diospyros kaki)から得られたものである、請求項1〜3のいずれかに記載の抗ノロウイルス剤。 請求項1〜4のいずれかに記載の抗ノロウイルス剤と、アルコール、界面活性剤、抗菌剤、保湿剤および化粧品用油脂類からなる群より選ばれた少なくとも1つの成分とを含有することを特徴とする、抗ノロウイルス用組成物。 前記抗ノロウイルス剤中のカキ抽出物(固形分換算)を組成物全体に対して0.01〜5重量%の割合で含有する、請求項5に記載の抗ノロウイルス用組成物。 さらに、有機酸および/またはその塩を含有する、請求項5または6に記載の抗ノロウイルス用組成物。 前記有機酸および/またはその塩として、炭素原子数2〜10の有機酸および/またはその塩を含有する、請求項5〜7のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 前記有機酸および/またはその塩として、炭素原子数2〜10のヒドロキシル基含有有機酸および/またはその塩を含有する、請求項5〜8のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 前記有機酸および/またはその塩として、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸およびサリチル酸からなる群から選ばれた少なくとも1種の有機酸および/またはその塩を含有する、請求項5〜9のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 前記有機酸および/またはその塩として、クエン酸および/またはその塩を含有する、請求項5〜10のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 さらにビタミンC類を含有する、請求項5〜11のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 前記アルコールとしてエタノールおよび/またはイソプロパノールを含有する、請求項5〜12のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 請求項5〜13のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物であって、少なくとも前記抗ノロウイルス剤とアルコールとを含有する、抗ノロウイルス用アルコール製剤。 前記界面活性剤としてアニオン系界面活性剤および/または非イオン系界面活性剤を含有する、請求項5〜14のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 前記界面活性剤として、グリセリン脂肪酸部分エステル、ソルビタン脂肪酸部分エステルおよびショ糖脂肪酸部分エステルからなる群より選ばれた少なくとも1種の界面活性剤を含有する、請求項5〜15のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 請求項5〜16のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物であって、少なくとも前記抗ノロウイルス剤と界面活性剤とを含有する、抗ノロウイルス洗浄用組成物。 前記抗菌剤として、イソプロピルメチルフェノール、ブチルパラヒドロキシベンゾエート、およびトリクロサンからなる群より選ばれた少なくとも1種の合成抗菌剤を含有する、請求項5〜17のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 請求項5〜18のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物であって、少なくとも前記抗ノロウイルス剤と抗菌剤とを含有する、抗ノロウイルス消毒用組成物。 前記保湿剤としてアロエエキスを含有する、請求項5〜19のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 前記化粧品用油脂類として蜜蝋を含有する、請求項5〜20のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物。 請求項5〜21のいずれかに記載の抗ノロウイルス用組成物であって、少なくとも前記抗ノロウイルス剤と保湿剤および/または化粧品用油脂類とを含有する、ローション、乳液またはクリーム。 請求項1〜4のいずれかに記載の抗ノロウイルス剤を含有することを特徴とする、ノロウイルスに起因する感染症の治療剤または予防剤。


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