タイトル: | 特許公報(B2)_グルクロン酸発酵によるグルクロン酸の製造方法 |
出願番号: | 2009514060 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12N 1/20,C12P 19/02,C12P 17/04,C12N 15/09 |
伊藤 哲也 有尾 優希 岸野 恵理子 藤田 孝輝 JP 5118132 特許公報(B2) 20121026 2009514060 20080421 グルクロン酸発酵によるグルクロン酸の製造方法 塩水港精糖株式会社 390021636 須藤 政彦 100102004 伊藤 哲也 有尾 優希 岸野 恵理子 藤田 孝輝 JP 2007123975 20070508 20130116 C12N 1/20 20060101AFI20121220BHJP C12P 19/02 20060101ALI20121220BHJP C12P 17/04 20060101ALI20121220BHJP C12N 15/09 20060101ALN20121220BHJP JPC12N1/20 AC12P19/02C12P17/04C12N15/00 A C12N 1/00-15/90 C12P 1/00-41/00 GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq PubMed JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) CAplus/BIOSIS(STN) WPI 特開平07−076594(JP,A) 6 IPOD FERM BP-10820 JP2008057706 20080421 WO2008139844 20081120 13 20100906 渡邉 潤也 本発明は、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する微生物及び当該微生物を用いたグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法に関するものであり、更に詳しくは、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有し、グルコースからグルクロン酸を高選択率で直接生成する能力を有するグルクロン酸発酵用の新規変異菌株及び当該変異菌株を利用したグルクロン酸発酵によるグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法に関するものである。 D−グルコースの代表的な酸化物として、D−グルコースのアルデヒド基が酸化されたグルコン酸と、D−グルコースのヒドロキシメチル基が酸化されたグルクロン酸が知られている。グルコン酸及びそのラクトン体であるグルコノラクトンは、微生物によるグルコースの酸化発酵(グルコン酸発酵)によって生成され、工業生産には、微生物としてアスペルギルス・ニガーやペニシリウム・クリゾゲナムなどの微生物が用いられている。 一方、グルクロン酸及びそのラクトン体であるグルクロノラクトンの製造方法としては、種々の方法知られているが、現実に工業化されている方法は、硝酸などの窒素酸化物を用いて、澱粉などのグルコース誘導体を選択的に酸化してカルボン酸に変換させ、次に、その酸化生成物を加水分解して、グルクロン酸及びグルクロノラクトンを得る方法である(特許文献1)。しかしながら、この方法は、酸化反応時に生成する副生ガスの取り扱いが煩雑であり、目的物質の収率が低いといった問題を有している。 また、先行技術としては、グルクロン酸及びグルクロノラクトンを高収率に得る方法として、トレハロースのヒドロキシメチル基が酸化された酸化トレハロースを調製し、次いで、この酸化トレハロースを加水分解することにより、目的のグルクロン酸及びグルクロノラクトンを得る方法が提案されている(特許文献2)。しかし、この方法は、原料から目的物質の収率が良い反面、酸化白金、酸化バナジウム、パラジウムなどの酸化触媒を多量に必要とし、酸化トレハロースの加水分解も比較的過激な条件を必要とするため、製造コストがかかるという問題を有している。 その他の方法としては、6,6−テトラメチルピペリジンN−オキシルなどのアミン酸化体を吸着させた酸化触媒樹脂を使用し、ハロゲン含有化合物の存在下、グルコース誘導体を酸化させる方法が提案されている(特許文献3)。この方法では、硝酸などの窒素酸化物を使用しないので、安全、且つ効率良くグルクロン酸及びグルクロノラクトンを得ることができるが、当該方法で使用される好ましいグルコース誘導体は、高価なメチル−α−D−グルコシド、イソプロピル−(α,β)−D−グルコシドであり、該方法には、前述の方法と同様に、製造コストがかかるという問題がある。 比較的安価なグルクロン酸の製造方法としては、微生物による酸化発酵によってショ糖からショ糖カルボン酸を調製し、次いで、インベルターゼ活性を有する微生物を加えて、ショ糖カルボン酸を加水分解することによって、グルクロン酸及びグルクロノラクトンを得る方法が提案されている(特許文献4)。この方法では、従来の化学合成法とは異なり、温和な条件下でグルクロン酸及びグルクロノラクトンを高収率に得ることが可能であるが、この方法の一連の製造過程では、2種類の異なった微生物を使用する必要があり、工程が煩雑である。 グルコン酸発酵のように、グルコースからグルクロン酸を直接生成させるには、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する必要がある。グルコースのヒドロキシメチル基を酸化する酵素としては、例えば、アルコール脱水素酵素(特許文献5)、アルコール/アルデヒドデヒドロゲナーゼ(特許文献6)、が知られており、これらの酵素を有する菌株としては、シュードグルコノバクター類が知られている。 これらの菌株の例として、例えば、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス K591s株(FERM BP−1130,IFO14464)、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス 12−5株(FERM BP−1129,IFO14465)、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス TH14−86株(FERM BP−1128,IFO14466)、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス 12−15株(FERM BP−1132,IFO14482)、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス 12−4株(FERM BP−1131,IFO14483)、及びシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス 22−3株(FERM BP−1133,IFO14484)、が挙げられる(特許文献7)。 しかし、これらの菌株は、後述の実施例において詳細に説明するように、グルコースのヒドロキシメチル基に対する酸化の特異性が低く、グルクロン酸以外にも、グルコン酸、2−ケトグルコン酸などのグルコース酸化物を生成する。すなわち、従来、当技術分野においては、グルコン酸発酵と同様に、グルコースからグルクロン酸を直接生成するグルクロン酸発酵に適した微生物及び当該微生物を用いたグルクロン酸発酵によるグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法は、未だ確立されていないのが実情である。特公昭43−5882号公報特開平10−251263号公報特開平11−147043号公報特開2006−314223号公報特開平5−68542号公報特開2003−159079号公報特開平6−7157号公報 このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、グルコン酸発酵と同様に、グルコースからグルクロン酸を直接生成すると共に、グルコースのヒドロキシメチル基に対する酸化に高い特異性を有するグルクロン酸発酵に好適な微生物及び当該微生物を利用した新しいグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた。その結果、本発明者らは、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有する新規変異菌株を見出すと共に、当該変異菌株又はその菌体処理物を利用した新しいグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法を確立することに成功し、本発明を完成するに至った。 本発明は、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有する新規変異菌株を提供すること、及び当該変異菌株によるグルクロン酸発酵の工程を含む、高収率、廉価、簡便、且つ環境に配慮したグルクロン酸及び/又グルクロノラクトンの新規製造方法を提供することを目的とするものである。 上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。(1)グルコースから直接グルクロン酸を生成する微生物であって、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有し、16SrRNAに対応するDNAの塩基配列が、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有し、上記微生物が、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh47−3株、受託番号 FERM BP−10820、であることを特徴とする微生物。(2)前記(1)に記載の微生物又はその処理物を、グルクロン酸発酵のための反応系においてグルコースに接触させ、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化し、グルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンを生成することを特徴とするグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法。(3)上記処理物が、菌体破砕液、菌体抽出液又はこれらのアセトンパウダーである、前記(2)に記載の方法。(4)グルクロン酸を生成する反応系の反応温度を10〜45℃、反応液のpHを4〜9の範囲で調整する、前記(2)に記載の方法。(5)グルクロン酸発酵の過程で、振とう又は通気撹拌を行い、反応液中のグルコースがほぼ酸化された時点を反応の終点とする、前記(2)に記載の方法。(6)生成したグルクロン酸を含む反応液を濃縮し、グルクロン酸金属塩の結晶を接種して結晶化し、グルクロン酸金属塩を単離精製する、あるいは、反応液を脱塩した後、濃縮し、グルクロノラクトンの結晶を接種して結晶化し、グルクロノラクトンを単離精製する、(2)に記載の方法。 次に、本発明について更に詳細に説明する。 本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意研究した結果、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス K591s株などの公知菌株に変異処理を施すことにより、従来の菌株と比較して、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有し、グルクロン酸発酵能が高いシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネスRh47−3株などの新規変異菌株を取得することに成功した。更に、本発明者らは、当該変異菌株にグルコースを接触させることにより、グルクロン酸を高選択率で効率的に産生させることに成功した。 本発明の第1の態様は、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力に秀でた微生物であり、配列番号1に記載の塩基配列を有する、乃至当該塩基配列と97%以上相同な塩基配列を含む、16S rRNAに対応するDNAを有し、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有する微生物、である。また、本発明は、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh47−3株(受託番号 FERM BP−10820として、公的寄託機関に寄託されている。)などの新規変異菌株、である。 また、本発明の第2の態様は、上記変異菌株及び/又はその菌体処理物をグルコースに接触させるグルクロン酸発酵によるグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法であり、上記の微生物又はその菌体処理物をグルコースに接触させ、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化し、グルクロン酸を生成することを特徴とするグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法、である。 本発明に係る微生物は、シュードグルコノバクターに属する微生物であって、配列表の配列番号1に記載の塩基配列と97%以上相同な、16S rRNAに対応するDNAを有する微生物である。そして、本発明に係る微生物は、表1に示す微生物学的性質を有する。また、本発明の微生物は、従来公知であるヒドロキシメチル基を酸化する微生物と比較して、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有し、グルクロン酸発酵に好適に使用されるものである。なお、本発明において、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力とは、グルコースのヒドロキシメチル基の酸化により、グルコースから50〜100%、好ましくは60〜100%、より好ましくは70〜100%の割合でグルクロン酸を直接生成する能力のことを意味している。 配列表の配列番号1に記載の塩基配列は、本発明に係る微生物の16S rRNAをコードする塩基配列である。ある菌株における16S rRNAに対応するDNAの塩基配列が既知の菌株の塩基配列と97%以上の相同性を有する場合に、当該菌株と同属種であると判断される。したがって、配列表の配列番号1に記載の塩基配列と97%以上相同な塩基配列を有し、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有する微生物は、全て本発明の範囲に含まれる。 配列表の配列番号1に記載の塩基配列と97%以上の相同性を有する微生物としては、シュードグルコノバクター類の菌株に変異を導入して創出した新規変異株、例えば、親株のシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス K591s株、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス 12−5株、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス TH14−86株、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス 12−15株、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス 12−4株、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス 22−3株、に対して変異を導入して創出した変異株、を挙げることができる。 シュードグルコノバクター類の菌株に変異を導入する手法としては、例えば、紫外線照射、放射線照射、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンなどの化学的変異原物質による処理などによるランダム変異法、又は遺伝子組み換えなどによる部位特異的変異法が、好適なものとして挙げられる。なお、本発明者らによって変異を導入された新規変異菌株であるシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh47−3株は、平成19年4月4日に、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、FERM P−21286として寄託され、平成19年4月26日に、同国際寄託当局に移管され、FERM BP−10820として受託されている。 本発明においては、微生物が、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有することを評価するために、グルコースのヒドロキシメチル基に対する微生物の酸化特異性を調べる手法が用いられる。その手法としては、特に限定されないが、例えば、培養菌体を遠心分離にて回収した後、1.5%の炭酸カルシウムを含む10%グルコ−ス溶液に添加し、2日間程度振とう反応し、生成したグルクロン酸の比率を高速液体クロマトグラフィー(カラム:Shim−pack SCR101H、溶離液:20mM硫酸、カラム温度:25℃、流速:0.5mL/min、検出器:示差屈折計)で確認する方法が例示される。 微生物に対して、このような手法を適用してグルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有することを評価することによって、評価対象の微生物の16SrRNAに対応するDNAの塩基配列が配列表の配列番号1に記載の塩基配列と97%以上の相同性を有するかどうか、また、該微生物がグルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有するかどうかを確認することができ、その微生物が、本発明の範囲に含まれるか否かを判別することができる。 本発明に係る微生物は、グルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンを製造するグルクロン酸発酵用の微生物として利用することができる。当該微生物を利用するには、当該微生物の培養を行う必要がある。シュードグルコノバクター属に属する本発明に係る微生物は、好気的条件下で、グルコース、ショ糖、デンプンなどの炭素源、アンモニウム塩、尿素、コーンスティープリカー、酵母エキス、ペプトンなどの窒素源、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、コバルトなどの無機塩類、及び微量栄養素として、CoA、パントテン酸、ビオチン、チアミン、リボフラビンなどのビタミンや補酵素を含む液体培地で培養することができる。 培養時のpHは、4〜9、好ましくはpH5〜8、より好ましくはpH6〜7である。培養を行うのに好適な温度範囲は、10〜45℃、好ましくは20〜40℃、より好ましくは25〜35℃である。培養時間は、培地の組成によって異なるが、通常、10〜100時間、好ましくは20〜70時間である。 このようにして培養した菌体をグルクロン酸発酵に供する。グルクロン酸発酵の工程では、グルクロン酸発酵用の基質であるグルコースに、生菌体あるいはその菌体処理物を作用させる。ここで、菌体処理物とは、ホモジナイザーやガラスビーズなどを用いて物理的に破砕した菌体破砕液、界面活性剤や酵素などにより薬剤処理した菌体抽出液、更には、これらのアセトンパウダーを意味する。 また、菌体あるいはその処理物を担体に固定化することで、これらをグルクロン酸発酵に繰り返し使用することが可能となる。これらの固定化の方法としては、例えば、セルロース担体、セラミック担体、ガラスビーズ担体などに吸着させる方法や、アルギン酸カルシウム、カラギーナンなどに包括する方法が挙げられる。 グルクロン酸発酵の工程においては、基質となるグルコースに上記のように調製した菌体あるいはその処理物を加えて、必要により、反応温度、反応液のpHを制御しながら反応させる。反応液のグルコース濃度は、通常は、1〜30%(w/v)の範囲で、好ましくは3〜20%(w/v)であり、特に5〜10%(w/v)が好ましい。 反応温度は、培養温度と同様に、10〜45℃、好ましくは20〜40℃、より好ましくは25〜35℃である。反応pHは、一般的には、pH4〜9の範囲で、特に6〜8が好ましく、pHを制御するために、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウムなどを添加することが可能である。反応方法は、振とう、通気攪拌の手段が望ましく、過剰反応が進行すると生成したグルクロン酸のアルデヒド基が更に酸化され始めるので、反応時間は、反応液中のグルコースがほぼ酸化された時を終点とすることが好ましい。終点を確認する手法としては、例えば、前述の高速液体クロマトグラフィーや市販のグルコース測定キット(和光純薬株式会社製グルコースCIIテストワコーなど)を用いる方法が例示される。 このようにして得られた反応液から、グルクロン酸金属塩を単離精製するために、反応液を濃縮し、グルクロン酸金属塩の結晶を接種して結晶化し、単離精製する。更に、得られたグルクロン酸金属塩の結晶を水に溶解し、慣用法により脱塩することによりグルクロン酸が得られる。また、グルクロノラクトンを単離精製するために、反応液を慣用法により脱塩した後、濃縮し、グルクロノラクトンの結晶を接種して結晶化し、単離精製する。 脱塩後の溶液中では、グルクロン酸とグルクロノラクトンは平衡状態を保っているが、グルクロノラクトンの方が、結晶化が容易であるので、通常は、固形分含量が40〜80%(w/v)となるまで濃縮し、グルクロノラクトンの種晶を接種し、グルクロノラクトンの結晶を回収する。 また、有機溶媒を反応液に添加して目的物質を沈殿回収する方法、吸着クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィーなどのカラム分離方法、電気透析装置による膜分離方法などを用いて、グルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンを単離精製することも可能である。 本発明のグルクロン酸発酵法により得られるグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンは、既知の方法によるものと同等か、それ以上の純度を有していることから、これらは、従来品と同様に、例えば、肝機能回復作用、疲労回復作用、抗リウマチ作用などを有する物質として、広く医薬品工業、食品工業、化成品工業などの諸分野に用途を有するものとして有用である。 本発明により、次のような効果が奏される。(1)本発明は、従来の菌株と比較して、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に直接酸化する能力を有し、優れたグルクロン酸発酵能を有する、新規変異菌株を提供することが可能である。(2)この変異菌株を使用することによって、グルコースからグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンを高選択率、且つ高収率で製造することが可能である。(3)グルクロン酸発酵により、グルコースから直接グルクロン酸を製造することを可能とする新しいグルクロン酸の製法を提供することができる。(4)本発明の方法は、従来の製造方法に比べ、低コストでグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンを製造することが可能である。(5)本発明の方法では、硝酸などの窒素酸化物を使用しないので、安全に、且つ環境に影響を与えることなくグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンを製造することができる。 次に、本発明に係る新規変異菌株及びこれを用いたグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。(変異菌株の取得) 本実施例では、親株として公知菌株を使用して、変異菌株の取得を試みた。シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス K591s株の懸濁液(106個/ml)100μlを、ソルビトール2.0%、ペプトン1.0%、酵母エキス1.0%、寒天2.0%からなる平板寒天培地に塗布した後、生存率が1%以下となるように紫外線を照射し、30℃で3日間培養した。 生育した菌株を、ラクトース1.0%、酵母エキス1.0%、硫酸アンモニウム0.3%、コーンスティープリカー2.0%、炭酸カルシウム1.0%(pH7.0)からなる前培養培地200μlに植菌し、30℃で1日間、150rpmで振とう培養した。 続いて、該培養培地に、ラクトース2.0%、酵母エキス0.5%、コーンスティープリカー1.0%、硫酸アンモニウム0.3%、硫酸第一鉄0.1%、塩化ランタン0.01%、炭酸カルシウム0.5%(pH7.0)からなる本培養培地800μlを添加し、更に、1日間培養した後、遠心分離により菌体を回収した。 上記の方法で得られた菌体を、10%グルコース1mlに再懸濁し、30℃で1日間振とうし、グルクロン酸発酵を行った。高速液体クロマトグラフィーにより、生成したグルクロン酸量を測定し、グルクロン酸発酵能が高い変異株を選別した(一次スクリーニング)。その結果、親株であるシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス K591s株と比べ、グルコースのヒドロキシメチル基の酸化特異的が大幅に向上した新規変異菌株であるシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Ps18−31株を取得した。 次に、上記シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Ps18−31株を、3mlの上記前培養培地に植菌し、1日間培養した後、遠心分離により集菌し、100mMリン酸緩衝液(pH6.5)1mlに懸濁した。該懸濁液に、終濃度が1mg/mlになるように、N−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンを加え、1時間30分間の処理を施した。この処理液を希釈して、平板寒天培地に塗布し、30℃で3日間培養した。 生育した菌株を、上記一次スクリーニングと同様にして、培養し、グルクロン酸発酵を行った。その結果、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Ps18−31株と比べ、グルコースのヒドロキシメチル基の酸化特異的が向上した新規変異菌株として、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh24−6株、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh38−15株、及びシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh47−3株を取得した。(グルクロン酸発酵) 表2に示す公知菌株及び新規変異菌株の各種菌株を使用して、実施例1に記載した方法にしたがって、グルクロン酸発酵を行った。グルコースがほぼ完全に酸化されるまで発酵を行い、グルコースに対するグルクロン酸の生成率を測定した。その結果、表2に示すように、新規変異菌株は、公知菌株と比べ、グルコースから高収率でグルクロン酸を生成することが示された。 それらのうち、特に、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh47−3株は、81.2%の収率でグルクロン酸を生成した。なお、このシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh47−3株は、国際寄託当局である独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに、受託番号 FERM BP−10820として国際寄託されている。このシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh47−3株の16S rRNA遺伝子の部分塩基配列を、表3及び配列表の配列番号1に示す。(グルクロン酸ナトリウム塩の調製) 500L発酵タンクを用い、グルクロン酸発酵を行った。発酵タンクに、グルコース30kgと水250Lを加え、溶解後、これに実施例1に記載の培地を使用して、別途培養したシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh47−3株の洗浄菌液50Lを添加し、100L/分の割合で空気を通気して発酵を行った。撹拌は200rpm、温度は30℃、pHは12%(w/v)水酸化ナトリム溶液で6.0に調節し、グルコース残存量が0.5%(w/v)以下になった時点で、90℃、30分加熱して、発酵を停止した。 発酵によって、グルコースの約8割がグルクロン酸ナトリウム塩に変換し、その所要時間は42時間であった。その後、UF膜ろ過を行って透過液を回収し、透過液は、60%(w/v)まで濃縮した後、グルクロン酸ナトリウム塩の種結晶を300g加え、20℃まで冷却した。析出した結晶は、遠心分離し、15.6kgのグルクロン酸ナトリウム塩粗製品を得た。更に、これを再結晶化して、純度99.9%以上のグルクロン酸ナトリウム塩精製品を12.2kg得た。(グルクロノラクトンの調製) 実施例3に記載した方法にしたがって、グルコース30kgよりグルクロン酸ナトリウム塩を調製し、UF膜ろ過にて透過液を回収した。得られた透過液は、強酸性イオン交換樹脂50L(ダイヤイオンPK−216、三菱化学(株)製)を通過させて脱塩した。脱塩液は、72%(w/v)まで濃縮した後、溶液中のグルクロン酸とグルクロノラクトンの平衡比率を移動させ、グルクロノラクトンの含量を増やし、グルクロノラクトンの種結晶を300g加えて20℃まで冷却し、グルクロノラクトンを結晶化させた。遠心分離にて結晶を回収し、10.1kgのグルクロノラクトン粗製品を得た。更に、これを再結晶して、純度99.9%以上のグルクロノラクトン精製品を8.4kg得た。 以上詳述したように、本発明は、グルクロン酸発酵によるグルクロン酸の製造方法に係るものであり、本発明により、グルコースのヒドロキシル基を特異的に直接酸化する能力を有し、グルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造に好適な新規変異菌株及び当該変異菌株を用いたグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法を提供することができる。本発明のシュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス株の新規変異菌株は、グルクロン酸発酵に適した能力を有し、この微生物を用いることにより、グルコースからグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンを、高収率、廉価、容易、且つ安全に製造することができる。本発明は、グルコースから直接グルクロン酸を製造することを可能とする新しいグルクロン酸の製造方法を提供するものとして有用である。微生物の寄託についての言及国際受託当局の名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターあて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1−1−1 中央第6(郵便番号305−8566)受託した日付:2007年4月26日受託番号:FERM BP−10820微生物の表示:Rh47−3 グルコースから直接グルクロン酸を生成する微生物であって、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化する能力を有し、16SrRNAに対応するDNAの塩基配列が、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有し、上記微生物が、シュードグルコノバクター・サッカロケトゲネス Rh47−3株、受託番号 FERM BP−10820、であることを特徴とする微生物。 請求項1に記載の微生物又はその処理物を、グルクロン酸発酵のための反応系においてグルコースに接触させ、グルコースのヒドロキシメチル基を特異的に酸化し、グルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンを生成することを特徴とするグルクロン酸及び/又はグルクロノラクトンの製造方法。 上記処理物が、菌体破砕液、菌体抽出液又はこれらのアセトンパウダーである、請求項2に記載の方法。 グルクロン酸を生成する反応系の反応温度を10〜45℃、反応液のpHを4〜9の範囲で調整する、請求項2に記載の方法。 グルクロン酸発酵の過程で、振とう又は通気撹拌を行い、反応液中のグルコースがほぼ酸化された時点を反応の終点とする、請求項2に記載の方法。 生成したグルクロン酸を含む反応液を濃縮し、グルクロン酸金属塩の結晶を接種して結晶化し、グルクロン酸金属塩を単離精製する、あるいは、反応液を脱塩した後、濃縮し、グルクロノラクトンの結晶を接種して結晶化し、グルクロノラクトンを単離精製する、請求項2に記載の方法。配列表