生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_トロポニンIの免疫測定方法
出願番号:2009297198
年次:2011
IPC分類:G01N 33/53


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小崎 慎矢 新谷 晃司 JP 2011137692 公開特許公報(A) 20110714 2009297198 20091228 トロポニンIの免疫測定方法 東ソー株式会社 000003300 小崎 慎矢 新谷 晃司 G01N 33/53 20060101AFI20110617BHJP JPG01N33/53 D 4 OL 8 本発明は、トロポニンIの免疫測定方法に関するものである。更に詳しくは、血液等の生物学的試料中にモノマーの形態で、ICダイマーの形態で、又は、ITCトリマーの形態で存在するトロポニンIを、アルカリ金属イオンの存在下で免疫的に測定する方法に関するものである。 トロポニン(Tn)は、I(分子量約23,500)、T(分子量約37,000)及びC(分子量約18,000)の3つのサブユニットからなる複合体蛋白で、トロポミオシンやアクチンとともに横紋筋筋原繊維の細い繊維を構成し、骨格筋や心筋において筋肉の収縮を制御している(非特許文献1)。 トロポニンI(TnI)は心筋、骨格筋でそのアミノ酸配列が異なり、心筋トロポニンI(cTnI)は高い心筋特異性を有しているため、アミノ酸配列の相違に基づいてcTnIを特異的に測定することは、心筋梗塞の診断等に有用である。cTnIは他の心筋マーカーと異なり、通常は血中に殆ど存在せず、運動や筋疾患等による疑陽性も示さないことから、微小梗塞や軽度の心筋障害を鋭敏に検出するなどへの応用が進められている(非特許文献2)。急性心筋梗塞などで心筋が障害を受けると、トロポニンは血中に逸脱し、3〜4時間後には異常高値を示す。またこの場合、血中でのcTnIの異常高値は1週間程度持続することから、発症後時間が経過しても診断が可能である(非特許文献3)。 cTnIの測定方法として免疫測定が知られている。免疫測定には通常、血清、血漿又は全血といった血液試料が使用されるが、cTnIは心筋梗塞の初期診断のために試料採取から極めて短時間の内に免疫測定を実施することが求められることがある。このような場合、採血後、血液凝固時間を待たずに迅速に試料を調製可能という理由から、血漿を生物学的試料としてcTnIの免疫測定を実施することが多い。免疫測定に使用される血漿には、EDTA血漿、クエン酸血漿、ヘパリン血漿等のいくつかの種類が存在するが、トロポニン複合体の結合に関与する金属イオンをキレートしないという理由からヘパリン血漿が使用される頻度が高い。しかし、cTnIを免疫測定する場合、トロポニンにヘパリン結合部位が存在することから、ヘパリンがその免疫測定に影響を与える可能性が示唆されている(非特許文献4)。Ganong,W., Review of medical physiology, 16th ed., Appleton−Lange, East Norwalk, CT; 56−60(1993)F. S. Apple, R. H. Christenson, A. S. Jaffe, et al., National academy of clinical biochemistry and IFCC committee for standardization of markers of cardiac damage laboratory medicine practice guidelines: Analytical issues for biochemical markers of acute coronary syndromes, Clin Chem 53:4; 547−551(2007)Larue C, Calzolari C, Bertinchard JP, Leclerq F, Grolleau R, Pau B. Cardiac−specific immunoenzymometric assay of troponin I in the early phase of acute myocardial infarction.Clin Chem 39:972−979(1993)T. Brinkmann, C. Gotting, K. Kleesiek, Proteolytic degradation of cardiac troponin I does not influence the TOSOH AIA−PACK cTnI 2G assay, a second generation test for the determination of troponin I, Lab. Med. 28:1;91-96(2004) cTnIの免疫測定には、短時間内に測定が可能であることに加え、高感度で再現性が良いことも求められる。従って、上記したようなヘパリンの存在により測定結果が影響を受ける可能性は、例えその影響が微々たるものであっても、極力排除する必要がある。特に、血管形成術前又は心筋梗塞後等、特定の心臓血管症状の処置のために大量のヘパリンが投与された場合等、ヘパリンの存在がcTnIの免疫測定に与える影響は大きくなる可能性がある。 従来、上記のような影響の排除のために、ヘパリン採血管の使用を回避する、ヘパリンの干渉を回避するため、ヘパリンが結合してもcTnIの測定結果が影響を受けないような抗体等を使用する免疫測定が提案されている。また他の提案として、特許文献1が開示するように、ポリブレンの共存下でcTnIの免疫測定を実施する方法等が提案されている。しかし、いずれの方法も実施のために特別な抗体を必要とする、高価なポリブレンを必要とする、等の課題がある。 以上のような状況に鑑み、本発明者らは、cTnIの免疫測定においてヘパリンの存在により生じ得る影響を排除可能な、簡便で効果の高い解決方法を検討した結果、cTnIを含むトロポニンI全体に対して適用可能な本発明を完成するに至った。本発明は、アルカリ金属イオンの存在下で実施することを特徴とするトロポニンIの免疫学的測定法及びそのための試薬である。以下、本発明を詳細に説明する。 本発明で免疫測定の対象とするのは、トロポニンIである。トロポニンIは、血液又は血漿等の生物学的試料中にトロポニンIモノマーの形態、ICダイマーの形態又はITCトリマーの形態で存在するもののいずれであっても良いが、中でも、心筋又は骨格のトロポニンIを含むものを本発明の測定対象として例示することができる。本発明において免疫測定の際に共存させるアルカリ金属イオンは、ヘパリンの共存により生じ得る影響を排除するという効果を有するものの、上記のようなダイマー又はトリマーの形態で存在するトロポニンIをモノマーの形態に変化するものではない。従って、例えばダイマーの形態又はトリマーの形態のトロポニンIを測定しないような免疫測定、言い換えればモノマーのトロポニンIのみを選択的に測定するための免疫測定への本発明の適用では、そのような特定の形態のトロポニンIを測定するに際し、ヘパリンの共存により生じ得る影響を排除し得るという効果が達成される。 本発明において、トロポニンIの免疫測定の際に共存させるアルカリ金属イオンは、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム又は塩化セシウム等であり、これらの中の一種類を単独で、又はこれらの中の一種類以上を混合して用いることができる。例示したアルカリ金属イオンの中でも、取り扱いの簡便さや価格等の面においては塩化ナトリウムが特に好ましい。一方、ヘパリンの影響の排除効果においては、塩化ルビジウムが最も強力であり、特に好ましい。 共存させるアルカリ金属イオンの量(濃度)は、測定対象となる生物学的試料中のヘパリンの量(濃度)に応じて決定すれば良く、例えば、「共存させるアルカリ金属イオンのモル濃度」と「分析しようとする試料中に存在が予想されるヘパリンのモル濃度」の比が1.0×105〜1.2×107、より好ましくは1.5×106〜1.2×107、特に好ましくは2.0×106〜8.6×106となるように使用することが例示できる。 アルカリ金属イオンは、トロポニンIを免疫測定するために使用する抗トロポニンI抗体とトロポニンIが免疫反応する際に共存させれば良く、共存させる方法としては、免疫測定前に生物学的試料にアルカリ金属イオンを添加し、後に免疫測定が実施される際にはアルカリ金属イオンが共存するようにする、緩衝液や免疫反応試薬液(抗トロポニンI抗体の溶液等)等の免疫測定用の試薬に添加しておき、後に免疫測定が実施される際にアルカリ金属イオンが共存するようにする、等を例示できる。抗トロポニンI抗体を含有する免疫測定用の試薬の一部としてアルカリ金属イオンを添加する好ましい理由は、アルカリ金属イオンが抗トロポニンI抗体の反応に深く関与していること、また長期安定性の観点で有効であるからである。トロポニンIを測定するための免疫測定は、トロポニンIと抗体又は抗原間の免疫反応を利用するものであれば特に制限はなく、従来知られている種々の手法を採用することができる。例えば、サンドイッチ法や競合法を例示することができる。従って、本発明の試薬は、抗トロポニンI抗体(モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であっても良い)、トロポニンI抗原又はトロポニンI抗原類似体(免疫学的にトロポニンIと同等の抗体反応性を有するもの)等(そのいずれかはアルカリホスファターゼ等の酵素、蛍光物質、ラジオアイソトープ又は化学発光基質等で直接標識されていても、アビジンやビオチン等によって間接的にこれらで標識されていても良い)を含み、かつ、そのいずれかにアルカリ金属イオンを含有するものであれば良い。 本発明によれば、後述する実施例からも明らかなように、免疫測定をアルカリ金属の共存下で実施するという極めて簡便な構成によってヘパリンにより生じ得る影響を排除することが可能となる。本発明で使用するアルカリ金属は安価であり、それを共存させる手法も生物学的試料に添加する、免疫測定用試薬に添加する、等というように、特に熟練を要するものでもない。従って本発明によれば、安価かつ簡便に、トロポニンIの免疫測定においてヘパリンによって生じ得る影響を排除することが可能となる。 以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお以下の実施例では、免疫測定装置として市販の装置AIA−1800自動免疫測定装置(東ソー(株)製)を用い、1ステップサンドイッチ法によりcTnIの測定を行った。具体的には、抗cTnIマウスモノクロナール抗体を固定化した水不溶性の担体及びアルカリ性フォスファターゼで標識した抗cTnIマウスモノクロナール抗体(前記固定化された抗体とは異なる部位でcTnIと結合する抗体)を含む溶液及びcTnI溶液を反応カップに投入後、血清又はヘパリン血漿を添加し37℃にて攪拌保温した。その後、未反応物をB/F分離により除去し、cTnIを介して水不溶性担体に結合したアルカリ性フォスファターゼ標識抗cTnIマウスモノクロナール抗体を、4−メチルウンベリフェリルりん酸塩を添加し、単位時間当たりの4−メチルウンベリフェロンの生成(nM/秒)を蛍光測定することで定量した。その生成度はアルカリ性フォスファターゼ量、即ち水不溶性担体上に免疫複合体を形成したcTnI量に比例するからである。なお、上記のようなサンドイッチ免疫測定において、予め既知濃度のcTnIを含む標準品を用いてその蛍光強度とcTnI濃度による標準曲線を作成しておけば、cTnI未知の試料の蛍光強度を測定することにより、そのcTnI濃度を標準曲線より算出することができる。 抗cTnIマウスモノクロナール抗体を結合させた水不溶性担体にアルカリ性フォスファターゼ標識された抗cTnIマウスモノクロナール抗体(前記固定化された抗体とは異なる部位でcTnIと結合する抗体)を含む溶液を添加し、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム又は塩化セシウムを25〜150mM添加し凍結乾燥し、cTnI測定試薬を作製した。また対照のため、アルカリ金属を添加することなく凍結乾燥させた対照試薬を作製した。 上記のようにして作製した試薬を用い、種々のアルカリ金属塩の共存による効果を以下の要領で評価した。 表1および図1は、健常人血清(陰性検体)に一定量(2.56×10−5mM)のヘパリンナトリウムを添加してヘパリン添加血清を調整し、調整したヘパリン添加血清に心筋トロポニンIモノマーを添加して測定した結果である。ヘパリンの影響が回避されたかどうかについては、心筋トロポニンIをヘパリン添加血清に添加した量を理論値とした上で、測定値÷理論値=回収率(%)を算出し、その回収率から判断した。なお、アルカリ金属イオン濃度が150mM(アルカリ金属イオンのモル濃度/試料中に存在するヘパリンのモル濃度の比=5.9×106)以上の場合については、回収率(Y軸)と[アルカリ金属イオンのモル濃度/試料中に存在するヘパリンのモル濃度の比](X軸)の図から回帰直線を近似することでヘパリンの影響が回避されたかどうかを評価した。 表1および図1に示されたとおり、アルカリ金属イオンを添加していない試薬で測定すると回収率は53%であったが、アルカリ金属イオンを添加することで回収率は向上する。その効果は「アルカリ金属イオンのモル濃度」と「試料中に存在するヘパリンのモル濃度」の比が1.5×106〜1.2×107の範囲で認められ、特に2.0×106〜9.9×106範囲で顕著である。 表2及び図2は、上記と同様にしてcTnICダイマーについて測定した結果である。ICダイマーの測定においてもアルカリ金属イオンを添加していない試薬で測定すると回収率は79%であったが、アルカリ金属イオンを添加することで回収率は向上する。その効果は「アルカリ金属イオンのモル濃度」と「試料中に存在するヘパリンのモル濃度」の比が1.0×105〜1.2×107の範囲認められ、特に1.2×106〜8.6×106の範囲で顕著である。 表3及び図3は、上記と同様にしてcTnITCトリマーについて測定した結果である。ICダイマーの測定においてもアルカリ金属イオンを添加していない試薬で測定すると回収率は98%であったが、アルカリ金属イオン、特に塩化ルビジウム又は塩化セシウムを添加することで回収率はほぼ100%に向上する。その効果は「アルカリ金属イオンのモル濃度」と「試料中に存在するヘパリンのモル濃度」の比8.8×106以下にすることで達成される。 以上の結果から、モノマー、ICダイマー又はITCトリマーの形態で存在するトロポニンIの免疫測定において、全形態のトロポニンIを共存するヘパリンの影響を排除しつつ測定するには、「アルカリ金属イオンのモル濃度」と「試料中に存在するヘパリンのモル濃度」の比が1.5×106〜1.2×107、好ましくは2.0×106〜8.6×106の範囲となるようにアルカリ金属イオンを共存させることが好ましいことが分かる。cTnIモノマーの免疫測定におけるアルカリ金属イオンの影響を示す図である。図中、白丸は塩化リチウム、白四角は塩化ナトリウム、白三角は塩化カリウム、黒丸は塩化ルビジウム、そして、黒四角は塩化セシウムを共存させた時の結果を示す。cTnICダイマーの免疫測定におけるアルカリ金属イオンの影響を示す図である。図中、白丸は塩化リチウム、白四角は塩化ナトリウム、白三角は塩化カリウム、黒丸は塩化ルビジウム、そして、黒四角は塩化セシウムを共存させた時の結果を示す。cTnITCトリマーの免疫測定におけるアルカリ金属イオンの影響を示す図である。図中、白丸は塩化リチウム、白四角は塩化ナトリウム、白三角は塩化カリウム、黒丸は塩化ルビジウム、そして、黒四角は塩化セシウムを共存させた時の結果を示す。アルカリ金属イオンの存在下で実施することを特徴とする、トロポニンIの免疫学的測定法。アルカリ金属イオンが塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム又は塩化セシウムからなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項1記載の方法。アルカリ金属イオンを含む、トロポニンIの免疫学的測定用試薬。アルカリ金属イオンが塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム又は塩化セシウムからなる群から選ばれる一種以上であることを特徴とする請求項3記載の試薬。 【課題】心筋梗塞の診断等に有用なトロポニンIの免疫測定に影響を与える可能性があるヘパリンの当該影響を排除するための、簡便かつ効果的な方法等を提供すること。【解決手段】塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム又は塩化セシウムからなる群から選ばれる一種以上のアルカリ金属イオンの存在下でトロポニンIの免疫学的測定を実施することにより、前記課題を解決する。【選択図】なし


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特許公報(B2)_トロポニンIの免疫測定方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_トロポニンIの免疫測定方法
出願番号:2009297198
年次:2014
IPC分類:G01N 33/53


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小崎 慎矢 新谷 晃司 JP 5609107 特許公報(B2) 20140912 2009297198 20091228 トロポニンIの免疫測定方法 東ソー株式会社 000003300 小崎 慎矢 新谷 晃司 20141022 G01N 33/53 20060101AFI20141002BHJP JPG01N33/53 D G01N 33/48−33/98 特表2005−510696(JP,A) 特表2007−505319(JP,A) 1 2011137692 20110714 8 20121114 加々美 一恵 本発明は、トロポニンIの免疫測定方法に関するものである。更に詳しくは、血液等の生物学的試料中にモノマーの形態で、ICダイマーの形態で、又は、ITCトリマーの形態で存在するトロポニンIを、アルカリ金属イオンの存在下で免疫的に測定する方法に関するものである。 トロポニン(Tn)は、I(分子量約23,500)、T(分子量約37,000)及びC(分子量約18,000)の3つのサブユニットからなる複合体蛋白で、トロポミオシンやアクチンとともに横紋筋筋原繊維の細い繊維を構成し、骨格筋や心筋において筋肉の収縮を制御している(非特許文献1)。 トロポニンI(TnI)は心筋、骨格筋でそのアミノ酸配列が異なり、心筋トロポニンI(cTnI)は高い心筋特異性を有しているため、アミノ酸配列の相違に基づいてcTnIを特異的に測定することは、心筋梗塞の診断等に有用である。cTnIは他の心筋マーカーと異なり、通常は血中に殆ど存在せず、運動や筋疾患等による疑陽性も示さないことから、微小梗塞や軽度の心筋障害を鋭敏に検出するなどへの応用が進められている(非特許文献2)。急性心筋梗塞などで心筋が障害を受けると、トロポニンは血中に逸脱し、3〜4時間後には異常高値を示す。またこの場合、血中でのcTnIの異常高値は1週間程度持続することから、発症後時間が経過しても診断が可能である(非特許文献3)。 cTnIの測定方法として免疫測定が知られている。免疫測定には通常、血清、血漿又は全血といった血液試料が使用されるが、cTnIは心筋梗塞の初期診断のために試料採取から極めて短時間の内に免疫測定を実施することが求められることがある。このような場合、採血後、血液凝固時間を待たずに迅速に試料を調製可能という理由から、血漿を生物学的試料としてcTnIの免疫測定を実施することが多い。免疫測定に使用される血漿には、EDTA血漿、クエン酸血漿、ヘパリン血漿等のいくつかの種類が存在するが、トロポニン複合体の結合に関与する金属イオンをキレートしないという理由からヘパリン血漿が使用される頻度が高い。しかし、cTnIを免疫測定する場合、トロポニンにヘパリン結合部位が存在することから、ヘパリンがその免疫測定に影響を与える可能性が示唆されている(非特許文献4)。Ganong,W., Review of medical physiology, 16th ed., Appleton−Lange, East Norwalk, CT; 56−60(1993)F. S. Apple, R. H. Christenson, A. S. Jaffe, et al., National academy of clinical biochemistry and IFCC committee for standardization of markers of cardiac damage laboratory medicine practice guidelines: Analytical issues for biochemical markers of acute coronary syndromes, Clin Chem 53:4; 547−551(2007)Larue C, Calzolari C, Bertinchard JP, Leclerq F, Grolleau R, Pau B. Cardiac−specific immunoenzymometric assay of troponin I in the early phase of acute myocardial infarction.Clin Chem 39:972−979(1993)T. Brinkmann, C. Gotting, K. Kleesiek, Proteolytic degradation of cardiac troponin I does not influence the TOSOH AIA−PACK cTnI 2G assay, a second generation test for the determination of troponin I, Lab. Med. 28:1;91-96(2004) cTnIの免疫測定には、短時間内に測定が可能であることに加え、高感度で再現性が良いことも求められる。従って、上記したようなヘパリンの存在により測定結果が影響を受ける可能性は、例えその影響が微々たるものであっても、極力排除する必要がある。特に、血管形成術前又は心筋梗塞後等、特定の心臓血管症状の処置のために大量のヘパリンが投与された場合等、ヘパリンの存在がcTnIの免疫測定に与える影響は大きくなる可能性がある。 従来、上記のような影響の排除のために、ヘパリン採血管の使用を回避する、ヘパリンの干渉を回避するため、ヘパリンが結合してもcTnIの測定結果が影響を受けないような抗体等を使用する免疫測定が提案されている。また他の提案として、特許文献1が開示するように、ポリブレンの共存下でcTnIの免疫測定を実施する方法等が提案されている。しかし、いずれの方法も実施のために特別な抗体を必要とする、高価なポリブレンを必要とする、等の課題がある。 以上のような状況に鑑み、本発明者らは、cTnIの免疫測定においてヘパリンの存在により生じ得る影響を排除可能な、簡便で効果の高い解決方法を検討した結果、cTnIを含むトロポニンI全体に対して適用可能な本発明を完成するに至った。本発明は、アルカリ金属イオンの存在下で実施することを特徴とするトロポニンIの免疫学的測定法及びそのための試薬である。以下、本発明を詳細に説明する。 本発明で免疫測定の対象とするのは、トロポニンIである。トロポニンIは、血液又は血漿等の生物学的試料中にトロポニンIモノマーの形態、ICダイマーの形態又はITCトリマーの形態で存在するもののいずれであっても良いが、中でも、心筋又は骨格のトロポニンIを含むものを本発明の測定対象として例示することができる。本発明において免疫測定の際に共存させるアルカリ金属イオンは、ヘパリンの共存により生じ得る影響を排除するという効果を有するものの、上記のようなダイマー又はトリマーの形態で存在するトロポニンIをモノマーの形態に変化するものではない。従って、例えばダイマーの形態又はトリマーの形態のトロポニンIを測定しないような免疫測定、言い換えればモノマーのトロポニンIのみを選択的に測定するための免疫測定への本発明の適用では、そのような特定の形態のトロポニンIを測定するに際し、ヘパリンの共存により生じ得る影響を排除し得るという効果が達成される。 本発明において、トロポニンIの免疫測定の際に共存させるアルカリ金属イオンは、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム又は塩化セシウム等であり、これらの中の一種類を単独で、又はこれらの中の一種類以上を混合して用いることができる。例示したアルカリ金属イオンの中でも、取り扱いの簡便さや価格等の面においては塩化ナトリウムが特に好ましい。一方、ヘパリンの影響の排除効果においては、塩化ルビジウムが最も強力であり、特に好ましい。 共存させるアルカリ金属イオンの量(濃度)は、測定対象となる生物学的試料中のヘパリンの量(濃度)に応じて決定すれば良く、例えば、「共存させるアルカリ金属イオンのモル濃度」と「分析しようとする試料中に存在が予想されるヘパリンのモル濃度」の比が1.0×105〜1.2×107、より好ましくは1.5×106〜1.2×107、特に好ましくは2.0×106〜8.6×106となるように使用することが例示できる。 アルカリ金属イオンは、トロポニンIを免疫測定するために使用する抗トロポニンI抗体とトロポニンIが免疫反応する際に共存させれば良く、共存させる方法としては、免疫測定前に生物学的試料にアルカリ金属イオンを添加し、後に免疫測定が実施される際にはアルカリ金属イオンが共存するようにする、緩衝液や免疫反応試薬液(抗トロポニンI抗体の溶液等)等の免疫測定用の試薬に添加しておき、後に免疫測定が実施される際にアルカリ金属イオンが共存するようにする、等を例示できる。抗トロポニンI抗体を含有する免疫測定用の試薬の一部としてアルカリ金属イオンを添加する好ましい理由は、アルカリ金属イオンが抗トロポニンI抗体の反応に深く関与していること、また長期安定性の観点で有効であるからである。トロポニンIを測定するための免疫測定は、トロポニンIと抗体又は抗原間の免疫反応を利用するものであれば特に制限はなく、従来知られている種々の手法を採用することができる。例えば、サンドイッチ法や競合法を例示することができる。従って、本発明の試薬は、抗トロポニンI抗体(モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であっても良い)、トロポニンI抗原又はトロポニンI抗原類似体(免疫学的にトロポニンIと同等の抗体反応性を有するもの)等(そのいずれかはアルカリホスファターゼ等の酵素、蛍光物質、ラジオアイソトープ又は化学発光基質等で直接標識されていても、アビジンやビオチン等によって間接的にこれらで標識されていても良い)を含み、かつ、そのいずれかにアルカリ金属イオンを含有するものであれば良い。 本発明によれば、後述する実施例からも明らかなように、免疫測定をアルカリ金属の共存下で実施するという極めて簡便な構成によってヘパリンにより生じ得る影響を排除することが可能となる。本発明で使用するアルカリ金属は安価であり、それを共存させる手法も生物学的試料に添加する、免疫測定用試薬に添加する、等というように、特に熟練を要するものでもない。従って本発明によれば、安価かつ簡便に、トロポニンIの免疫測定においてヘパリンによって生じ得る影響を排除することが可能となる。 以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお以下の実施例では、免疫測定装置として市販の装置AIA−1800自動免疫測定装置(東ソー(株)製)を用い、1ステップサンドイッチ法によりcTnIの測定を行った。具体的には、抗cTnIマウスモノクロナール抗体を固定化した水不溶性の担体及びアルカリ性フォスファターゼで標識した抗cTnIマウスモノクロナール抗体(前記固定化された抗体とは異なる部位でcTnIと結合する抗体)を含む溶液及びcTnI溶液を反応カップに投入後、血清又はヘパリン血漿を添加し37℃にて攪拌保温した。その後、未反応物をB/F分離により除去し、cTnIを介して水不溶性担体に結合したアルカリ性フォスファターゼ標識抗cTnIマウスモノクロナール抗体を、4−メチルウンベリフェリルりん酸塩を添加し、単位時間当たりの4−メチルウンベリフェロンの生成(nM/秒)を蛍光測定することで定量した。その生成度はアルカリ性フォスファターゼ量、即ち水不溶性担体上に免疫複合体を形成したcTnI量に比例するからである。なお、上記のようなサンドイッチ免疫測定において、予め既知濃度のcTnIを含む標準品を用いてその蛍光強度とcTnI濃度による標準曲線を作成しておけば、cTnI未知の試料の蛍光強度を測定することにより、そのcTnI濃度を標準曲線より算出することができる。 抗cTnIマウスモノクロナール抗体を結合させた水不溶性担体にアルカリ性フォスファターゼ標識された抗cTnIマウスモノクロナール抗体(前記固定化された抗体とは異なる部位でcTnIと結合する抗体)を含む溶液を添加し、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム又は塩化セシウムを25〜150mM添加し凍結乾燥し、cTnI測定試薬を作製した。また対照のため、アルカリ金属を添加することなく凍結乾燥させた対照試薬を作製した。 上記のようにして作製した試薬を用い、種々のアルカリ金属塩の共存による効果を以下の要領で評価した。 表1および図1は、健常人血清(陰性検体)に一定量(2.56×10−5mM)のヘパリンナトリウムを添加してヘパリン添加血清を調整し、調整したヘパリン添加血清に心筋トロポニンIモノマーを添加して測定した結果である。ヘパリンの影響が回避されたかどうかについては、心筋トロポニンIをヘパリン添加血清に添加した量を理論値とした上で、測定値÷理論値=回収率(%)を算出し、その回収率から判断した。なお、アルカリ金属イオン濃度が150mM(アルカリ金属イオンのモル濃度/試料中に存在するヘパリンのモル濃度の比=5.9×106)以上の場合については、回収率(Y軸)と[アルカリ金属イオンのモル濃度/試料中に存在するヘパリンのモル濃度の比](X軸)の図から回帰直線を近似することでヘパリンの影響が回避されたかどうかを評価した。 表1および図1に示されたとおり、アルカリ金属イオンを添加していない試薬で測定すると回収率は53%であったが、アルカリ金属イオンを添加することで回収率は向上する。その効果は「アルカリ金属イオンのモル濃度」と「試料中に存在するヘパリンのモル濃度」の比が1.5×106〜1.2×107の範囲で認められ、特に2.0×106〜9.9×106範囲で顕著である。 表2及び図2は、上記と同様にしてcTnICダイマーについて測定した結果である。ICダイマーの測定においてもアルカリ金属イオンを添加していない試薬で測定すると回収率は79%であったが、アルカリ金属イオンを添加することで回収率は向上する。その効果は「アルカリ金属イオンのモル濃度」と「試料中に存在するヘパリンのモル濃度」の比が1.0×105〜1.2×107の範囲認められ、特に1.2×106〜8.6×106の範囲で顕著である。 表3及び図3は、上記と同様にしてcTnITCトリマーについて測定した結果である。ICダイマーの測定においてもアルカリ金属イオンを添加していない試薬で測定すると回収率は98%であったが、アルカリ金属イオン、特に塩化ルビジウム又は塩化セシウムを添加することで回収率はほぼ100%に向上する。その効果は「アルカリ金属イオンのモル濃度」と「試料中に存在するヘパリンのモル濃度」の比8.8×106以下にすることで達成される。 以上の結果から、モノマー、ICダイマー又はITCトリマーの形態で存在するトロポニンIの免疫測定において、全形態のトロポニンIを共存するヘパリンの影響を排除しつつ測定するには、「アルカリ金属イオンのモル濃度」と「試料中に存在するヘパリンのモル濃度」の比が1.5×106〜1.2×107、好ましくは2.0×106〜8.6×106の範囲となるようにアルカリ金属イオンを共存させることが好ましいことが分かる。cTnIモノマーの免疫測定におけるアルカリ金属イオンの影響を示す図である。図中、白丸は塩化リチウム、白四角は塩化ナトリウム、白三角は塩化カリウム、黒丸は塩化ルビジウム、そして、黒四角は塩化セシウムを共存させた時の結果を示す。cTnICダイマーの免疫測定におけるアルカリ金属イオンの影響を示す図である。図中、白丸は塩化リチウム、白四角は塩化ナトリウム、白三角は塩化カリウム、黒丸は塩化ルビジウム、そして、黒四角は塩化セシウムを共存させた時の結果を示す。cTnITCトリマーの免疫測定におけるアルカリ金属イオンの影響を示す図である。図中、白丸は塩化リチウム、白四角は塩化ナトリウム、白三角は塩化カリウム、黒丸は塩化ルビジウム、そして、黒四角は塩化セシウムを共存させた時の結果を示す。塩化ナトリウムの存在下で実施する、生物学的試料中のトロポニンIの免疫学的測定法であって、前記生物学的試料中に存在するヘパリンのモル濃度に対し、2.9×106から3.9×106のモル比で塩化ナトリウムを存在させる、前記測定法。


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