タイトル: | 公開特許公報(A)_アセチルコリンエステラーゼ阻害剤 |
出願番号: | 2009221117 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61K 36/48,A61K 36/00,A61P 43/00,A61K 8/97,A61K 31/121,A61K 8/35,A61P 25/28,A61Q 19/10,A61Q 13/00 |
宮澤 三雄 八木 伸夫 JP 2011068597 公開特許公報(A) 20110407 2009221117 20090925 アセチルコリンエステラーゼ阻害剤 株式会社ピカソ美化学研究所 399091120 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 宮澤 三雄 八木 伸夫 A61K 36/48 20060101AFI20110311BHJP A61K 36/00 20060101ALI20110311BHJP A61P 43/00 20060101ALI20110311BHJP A61K 8/97 20060101ALI20110311BHJP A61K 31/121 20060101ALI20110311BHJP A61K 8/35 20060101ALI20110311BHJP A61P 25/28 20060101ALI20110311BHJP A61Q 19/10 20060101ALI20110311BHJP A61Q 13/00 20060101ALI20110311BHJP JPA61K35/78 JA61K35/78 XA61P43/00 111A61K8/97A61K31/121A61K8/35A61P25/28A61Q19/10A61Q13/00 100 10 OL 17 4C083 4C088 4C206 4C083AA111 4C083AA112 4C083AD531 4C083AD532 4C083BB41 4C083CC25 4C083EE07 4C083EE42 4C083KK01 4C088AB59 4C088AC06 4C088BA08 4C088BA32 4C088NA14 4C088ZA15 4C088ZA16 4C088ZC20 4C206AA01 4C206AA02 4C206CB14 4C206NA14 4C206ZA15 4C206ZA16 4C206ZC20 本発明は、イエロー・バタイ(Yellow batai)(Peltophorum dasyrachis)の精油を有効成分として含有するアセチルコリンエステラーゼ(以下「AChE」とも表記する)阻害剤、及びその用途に関する。 近年、高齢化社会が進展し、老人性痴呆患者の増加、その中でもアルツハイマー型痴呆患者が増加している。このアルツハイマー型痴呆症は、その原因は未解明であるが、患者の脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンのレベルの低下が認められるため、コリン作動性神経の機能低下が原因の一つであると考えられている(非特許文献1)。そのため、アルツハイマー型痴呆症に対しては、アセチルコリンの濃度を高めてコリン作動性神経の機能低下を防ぐことを目的とする治療方法が主流となっている。 アセチルコリンは、アセチルコリントランスフェラーゼによって合成され、アセチルコリンエステラーゼにより分解されることにより一定の濃度に保たれている。そのため、アセチルコリンエステラーゼの活性を阻害してアセチルコリンの分解を抑制してアセチルコリンの減少を抑える方法である。この方法では、症状を完全に治療することはできないものの、症状を改善したり、症状の進行を遅らせることができることが分かっている。 ところで、植物の精油の香りは、抗菌作用、心理作用及び生体リズムの調節作用を示すことが知られており、植物の香りによって心と体を癒すアロマセラピー(芳香療法)が注目されている。 近年、ハッカ、ラベンダー又はグレープフルーツの精油といった植物の香気成分が、その芳香だけでなくAChE阻害活性を示すことが報告されている。また、イチョウ葉エキスが、脳機能障害改善作用やアルツハイマー型痴呆症の症状の改善作用を有するともいわれている(非特許文献2等)。 このような天然由来の成分が、アルツハイマー型痴呆症の治療と関連づけられるAChE阻害活性を有することが確認されたことは非常に興味深いものである。 一方、イエロー・バタイ(Yellow batai)(Peltophorum dasyrachis)は、タイハーブの1つであって、マメ科(Legminosae)に属する植物である。マメ科の種には、多くのフェノール化合物及びフラボノイドを含有していることが知られており、機能性食品、化粧品、医薬品等の有効成分として使用されることが期待されている。イエロー・バタイについては、本発明者らが以前、その抽出物に含まれる抗変異活性効果を有する化合物を報告している(特許文献1参照)。また、本発明者らは、そのエタノール抽出物に美白効果があることについて報告している(特許文献2参照)。しかし、イエロー・バタイの精油成分が、AChE阻害活性を有することは、これまでに報告例はない。特開2006−151855号公報特開2005−23036号公報Weinstock M.: Neurodegeneration, 4, pp.349-356, 1995FOOD Style 21 2001.5 p67-72 本発明は、植物の精油を有効成分とする新規なAChE阻害剤及びその用途を提供することを目的とする。 本発明者らは、イエロー・バタイ(Yellow batai)(Peltophorum dasyrachis)の精油成分が、強いAChE阻害活性を示すことを見出し、さらにこれに検討を加えて、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は以下のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤等を提供する。 項1.イエロー・バタイ (Peltophorum dasyrachis)の精油を有効成分として含有するアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。 項2.前記精油が、式(I):で表されるar−ターメロン(ar-turmerone)、及び式(II):で表されるジヒドロ−ar−ターメロン(dihydro-ar-turmerone)からなる群から選択される少なくとも1種のセスキテルペンを含む、項1に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。 項3.前記抽出物が、式(Ia):で表される(+)−(S)−ar−ターメロン((+)-(S)-ar-turmerone)、及び/又は式(IIa):で表される(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロン((+)-(S)- dihydro-ar-turmerone)を含む、項1又は2に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。 項4.式(Ia):で表される(+)−(S)−ar−ターメロン、及び/又は式(IIa):で表される(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンを有効成分として含む、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤。 項5.項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する老人性痴呆症の治療又は予防薬。 項6.項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する脳機能障害改善薬。 項7.項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有するアルツハイマー型痴呆症の治療又は予防薬。 項8.項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する入浴剤。 項9.項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する芳香剤。 項10.項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有するアロマテラピー用エッセンシャルオイル。 イエロー・バタイの精油及び該精油に含まれるセスキテルペンは、強いAChE阻害活性を有していることから、AChE阻害剤として用いられ、脳機能障害改善薬、老人性痴呆症(特に、アルツハイマー型痴呆症)の治療又は予防薬として有用である。また、イエロー・バタイの精油又はセスキテルペンを含むAChE阻害剤は、その香気及び強いAChE阻害活性により、芳香剤、入浴剤、アロマテラピーエッセンシャルオイル等に含有させて、リラクゼーション効果、リフレッシュ効果等の心身の癒し効果と痴呆症の予防・改善効果とを同時に達成することができる。実施例1におけるイエロー・バタイの精油のAChE阻害活性試験の結果を示す図である。実施例1におけるイエロー・バタイの精油の主成分のAChE阻害活性試験の結果を示す図である。(A)は、実施例1における(+)−(S)−ar−ターメロンのAChE阻害活性から導かれるDixon plotの結果を示す図であり、(B)は(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンのAChE阻害活性から導かれるDixon plotの結果を示す図である。 以下、本発明について詳細に説明する。 本発明のAChE阻害剤は、イエロー・バタイからの抽出物である精油を有効成分として含有する。 本発明で用いられるイエロー・バタイ(Peltophorum dasyrachis)とは、タイ、カンボジア、ラオス、ベトナム、マレーシア、スマトラ島等の東南アジア諸国で植栽されているマメ科(Legminosae)植物である。 本発明のイエロー・バタイの精油は、イエロー・バタイから抽出される成分を意味し、その樹木から抽出されたものであればよく、特に樹皮から抽出したものが好ましい。イエロー・バタイは、そのまま抽出に供することができるが、乾燥した後粉砕したうえで抽出に供してもよい。 イエロー・バタイの精油の抽出方法としては、精油成分の沸点が低いことから、水蒸気蒸留法、圧搾法、溶剤抽出法、油脂吸収法、揮発性溶剤抽出法、超臨界流体抽出法等の公知の方法が用いられる。中でも、水蒸気蒸留法が好ましく採用される。 上記した方法によってイエロー・バタイから精油を得た後、本発明では得られた抽出液をそのままAChE阻害剤として用いることが可能である。或いは、必要に応じて、濾過、遠心分離等の常法によって残渣と固液分離することによって、精油を得ることができる。 更に、必要に応じて、アルミナカラムクロマトグラフィーやシリカゲルクロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の適当な分離精製手段を1種若しくは2種以上組み合わせて、AChE阻害活性のある画分又は化合物を取り出して、AChE阻害剤とすることができる。溶出溶媒は、公知のものを用いればよいが、沸点が低い無極性有機溶媒を主成分とするのが好適である。これにより、少量の精油で優れた活性を発揮させることができる。 イエロー・バタイの精油は、それ自身で強いAChE阻害活性を有している。該精油には、主要成分として、式(I):で表されるar−ターメロン(ar-turmerone)、及び式(II):で表されるジヒドロ−ar−ターメロン(dihydro-ar-turmerone)等のセスキテルペンが含まれており、これらのセスキテルペンも強いAChE阻害活性を有している。ここで、ar−ターメロン及びジヒドロ−ar−ターメロンには不斉炭素が存在することから、立体配置に係る異性体が存在する、本発明は、これらの異性体すべてを包含するものであり、単一の異性体であってもよく、任意の比率での異性体混合物であってもよい。ar−ターメロン及びジヒドロ−ar−ターメロンの絶対配置としては、いずれも(S)体が好ましく、旋光度は、(+)であることが好ましい。 すなわち、式(Ia):で表される(+)−(S)−ar−ターメロン、及び式(IIa):で表される(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンが好ましい。 (+)−(S)−ar−ターメロン及び(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンは、後述する実施例で示すように、強いAChE阻害活性を有している。これらの中でも、(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンは、特に強いAChE阻害活性を有している。 上記のイエロー・バタイの精油及びその活性化合物であるセスキテルペン((+)−(S)−ar−ターメロン及び(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロン)は、強いAChE阻害活性を有するため、広くAChE阻害剤として用いることができる。 イエロー・バタイの精油又はその活性化合物であるセスキテルペンを有効成分として含有するAChE阻害剤を、例えば、医薬品として用いる場合、哺乳動物(特に、ヒト)における老人性痴呆症の予防又は治療薬、特にアルツハイマー型痴呆症の予防又は治療薬として用いられる。また、脳機能障害の改善薬としても有効である。 イエロー・バタイの精油及びセスキテルペンは、慣用されている方法により錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等の剤に製剤化することができる。 製剤化には通常用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤や、および必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを使用することができ、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分及び配合量を適宜選択して常法により製剤化される。 本発明の医薬製剤を投与する場合、その形態は特に限定されず、通常用いられる方法であればよく、経口投与でも非経口投与でもよい。本発明にかかる医薬の投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態・塩の種類、疾患の具体的な種類等に応じて、製剤学的な有効量を適宜選ぶことができる。 また、イエロー・バタイの精油又はセスキテルペンを有効成分として含有するAChE阻害剤は、強いAChE阻害活性を有するとともに、心地よい芳香性を有するため、例えば、入浴剤、石鹸、芳香剤、アロマテラピー用エッセンシャルオイル、皮膚洗浄剤、消臭剤、ペットのための精神安定剤、マスキング剤等として、或いはそれらに含有させて用いることができる。イエロー・バタイの精油及びセスキテルペンは、各製品に対し、通常0.001〜100重量%程度(好ましくは、0.1〜10重量%程度)含有していればよい。空中拡散させて用いる場合は、高濃度、例えば50〜100重量%程度のものであってもよい。 イエロー・バタイの精油及びセスキテルペンを、かかる用途に用いた場合には、ストレスの多い現代社会において、精油の香りによるリラクゼーション作用により、心身の癒し効果が発揮される。さらに、本発明の精油及びセスキテルペンは、AChE阻害活性を有するため、高齢者、病人などが日常生活する環境で用いることにより、老人性痴呆症を改善させたり、老人の日常生活能力機能を向上させたりすることも可能である。 特に、イエロー・バタイの精油及びセスキテルペンを、アロマテラピー用エッセンシャルオイルとして用いた場合、他の天然植物精油と混合して用いることもできる。また、該アロマテラピー用エッセンシャルオイルを所定の場所に撒布して、吸入し得る形態で使用することもできる。撒布場所としては、例えば、家庭の部屋内、ホテルの部屋、会議室、病室の他、人の集まる催し物会場、休憩広場、各種リラクゼーション施設等に撒布することができる。中でも、老人性痴呆症の患者が生活する病院、施設などで用いることにより、痴呆症の改善効果が期待される。 また、イエロー・バタイの精油及びセスキテルペンは、例えば、清涼飲料、乳製品(加工乳、ヨーグルト)、菓子類(ゼリー、チョコレート、ビスケット、ガム、錠菓)等の各種飲食品に配合することもできる。その配合量はとくに限定はないが、通常0.01〜10重量%程度であればよい。 次に、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明がこれに限定されるものではない。 実施例1(1)イエロー・バタイの乾燥樹皮(株式会社ピカソ美化学研究所製)(4kg)を、Linkens-Nickerson型装置で2時間水蒸気蒸留に付した。得られた精油を無水硫酸ナトリウムで乾燥させて濾過することにより、淡黄色の精油(0.04g)が得られた(収率:0.01%(v/w))。(2)イエロー・バタイの精油からセスキテルペンの単離 得られたイエロー・バタイの精油(365mg)を、シリカゲルクロマトグラフィー(溶離剤:n−ヘキサン−CH2Cl2)に付すことにより6つのフラクション(フラクション1−6)に分画した。フラクション2(150mg)をシリカゲルクロマトグラフィー(溶離剤:n−ヘキサン−Et2O)に付すことにより、(+)−(S)−ar−ターメロン(70.0mg)及び(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロン(4.3mg)を得た。 (3)単離化合物の分析 旋光度の測定は、日本分光(株)製のLTDDIP-1000を使用した。IR(赤外吸収)スペクトルの測定には、日本分光株式会社製のJASCO FT/IR-470 Plus Fourier Transform Infrared Spectrometerを使用した。1H−NMR及び13C−NMR、異種核多量子コヒーレンス(HMQC)、異種核多重結合コヒーレンス(HMBC)スペクトルは、JEOL ECA分光光度計で、内部基準としてTMSを用い、1H−NMRは400及び500MHzで、13C−NMRは100及び125MHzでそれぞれ測定した。 (+)−(S)−ar−ターメロン;淡黄色の油状物;[α]29D + 63.7° (c = 0.995, CHCl3); HR-EIMS 216.1602 (M+, C15H20O, calcd. 216.1582); EIMS m/z (relative intensity) 216 (M+20 %), 201 (7 %), 132 (15 %), 119 (100 %), 105 (8 %), 98 (3 %), 91 (10 %), 83 (98 %), 77 (3 %), 55 (17 %) ; IR (film) cm-1 : 1685 (C=O), 1620 (C=C); 1H-NMR (CDCl3, 400 MHz) δ7.10 (4H, brs, ArH), 6.02 (1H, brs, H-10), 3.29 (1H, ddd, J = 8.8, 7.6, 6.8 Hz, H-7), 2.71 (1H, dd, J = 16.4, 7.6 Hz, H-8), 2.61 (1H, dd, J = 16.4, 8.8 Hz, H-8), 2.31 (3H, s, H-15), 2.10 (3H, s, H-12), 1.86 (3H, s, H-13), 1.24 (3H, d, J = 6.8 Hz, H-14); 13C-NMR (CDCl3, 100 MHz) δ 200.0 (C-9), 155.1 (C-11), 143.7 (C-4), 135.3 (C-1), 129.1 (C-3,5), 126.7 (C-2, 6), 124.1 (C-10), 52.7 (C-8), 35.3 (C-7), 27.6 (C-15), 22.0 (C-13), 21.0 (C-12), 20.7 (C-14). (+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロン;無色の油状物;[α]29D + 15.4° (c = 0.15, CHCl3); HR-EIMS 218.1777 (M+, C15H22O, calcd. 218.1741); EIMS m/z (relative intensity) 218 (M+26 %), 203 (18 %), 161 (17 %), 133 (10 %), 119 (100 %), 105 (8 %), 91 (6 %), 85 (17 %), 57 (22 %) ; IR (film) cm-1: 1712 (C=O), 1514 (C=C); 1H-NMR (CDCl3, 500 MHz) δ 7.10 (4H, brs, ArH), 3.28 (1H, ddd, J = 8.0, 7.2, 6.3 Hz, H-7), 2.68 (1H, dd, J = 16.1, 6.3 Hz, H-8), 2.58 (1H, dd, J = 16.1, 8.0 Hz, H-8), 2.31 (3H, s, H-15), 2.19 (2H, m, H-10), 2.08 (1H, m, H-11), 1.23 (3H, d, J = 7.2 Hz, H-14), 0.85 (6H, d, J = 4.6 Hz, H-12,13); 13C-NMR (CDCl3, 125 MHz) δ 209.9 (C-9), 143.3 (C-4), 135.7 (C-1), 129.1 (C-3,5), 126.6 (C-2, 6), 52.5 (C-10), 51.7 (C-8), 34.9 (C-7), 24.4 (C-11), 22.5 (C-12,13), 22.0 (C-14), 21.0 (C-15). なお、これらのスペクトルデータは、Honwad, V.K.; Rao, A.S. Terpenoids-LXIX ABSOLUTE CONFIGURATION OF (-)-α-CURCUMENE*. Tetrahedron. 2004, 21, 2593-2604、Crawford, R.J.; Erman, W.F.; Broaddus, C.D. Metalation of Limonene. A novel Method for the Synthesis of Bisabolene Sesquiterpens. J. Amer. Chem. Soc. 94(12), 1972, 4298-4306)、Zhang, A.; Rajanbabu, T.V. Chiral Benzyl Centers through Asymmetric Catalysis. A Three-Step Synthesis of (R)-(-)-α-Curcumene via Asymmetric Hydrovinilation. Org. Lett. 2004, 6(18), 3159-3161、及び Mori, K. Synthesis of (R)-ar-turmerone and its conversion to (R)-ar-himachalene, a pheromone component of the flea beetle: (R)-ar-himachalene is dextrorotary in hexane, while levorotatory in chloroform. Tetrahedron: Asymmetry. 2005, 16, 685-692に記載されているデータと比較した。 (+)−(S)−ar−ターメロンの構造式は、であり、(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンの構造式は、である。 (4)得られたイエロー・バタイの精油を下記の条件でGC−MSを用いて成分検索を行ったところ、全精油の88.0%を占める、68個の化合物が同定された(表1)。具体的には、主成分として(+)−(S)−ar−ターメロン(22.3%)、カプリル酸(16.5%)及びパルミチン酸(6.58%)が含まれる。さらに、「その他」として分類されるアルケン等の炭化水素が精油の3.9%を構成し、含酸素セスキテルペン(22.9%)及び含酸素モノテルペン(17.6%)に続いている。イエロー・バタイの精油はまた、低量のセスキテルペン炭化水素(3.09%)及びモノテルペン炭化水素(0.52%)を含んでいた。GC/MS条件:GC/MSは、2本のキャピラリーカラム(DB−WAX,15m×0.25mm、膜厚0.25μm、又はHP−5MS,30m×0.25mm、膜厚0.25μm)のいずれかを用いたヒューレットパッカード6890−5973システムを用いた。DB−WAXでは、カラムの温度を4℃/分で40℃から240℃、240℃で5分間保持するようにプログラムした。HP−5MSでは、カラムの温度を4℃/分で40℃から260℃、260℃で5分間保持するようにプログラムした。インジェクター及びディテクターの温度は、それぞれ270℃及び280℃であった。キャリヤーガス(He)の流速は1.4ml/分であり、分割比は1:10であった。ディテクターの界面温度は280℃にセットした。最初のカラム温度は40℃で5分間保ち、4℃/分の速度で280℃(MSソースの中の実際の温度は約230℃に到達する)にプログラムし、その後260℃で5分間一定を保った。イオン化電圧は70eVであり、捕捉質量範囲は39−450amuであった。精油成分の同定は、それらの相対保持時間と標準試料の相対保持時間との比較により、又は一連のn−炭化水素に対するそれらの保持指数(RI)の比較により行った。市販のプログラム(The NIST Mass Spectral Search Program for the NIST/EP/NIM Mass Spectral Library version 1.7, built 11/05/1999、及びTerpenoids and Related Constituents of Essential oils; Library of MassFinder 3.1.; Hamburg, Germany, 2001)に対するコンピュータマッチング、及び純物質及び公知油の成分のマススペクトルを集めたホームメードライブラリー及び文献のMSデータもまた同定に使用した。(5)AChE阻害試験は、Bruhmannらによって以前報告された96ウェルのマイクロプレート法(Bruhmann, C.; Marston, A.; Hostettmann, K.; Carrupt, P-A.; Testa, B. Screening of Non-Alkaloidal Natural Compounds as Acetylcholinesterase Inhibitors. Chem. Biodiver. 2004, 1, 819-829)を改良した方法で行った。以下、簡単に説明する。ウェルに20μlのAChE溶液(0.01Mリン酸緩衝液中に0.037unit/mL、pH7.4)、200μlの発色剤(5,5’−ジチオビス(2−ニトロベンゾイックアシッド;DTNB)(0.1Mリン酸緩衝液中に0.15mM、pH7.4)、及び20μlの阻害剤(精油又はテルペノイド)メタノール溶液を添加した。コントロールウェルには、阻害剤の代わりにメタノールを加えた。各ウェル中の内容物を混合し、室温で、15分間プレインキュベーションした後、30μlの基質(アセチルチオコリン アイオダイド;ATC)水溶液(最終濃度:0.05−0.25mM)を加え、15分間インキュベーションした。その後、AChEによる基質の加水分解反応により生じる黄色に呈色するアニオン(TNB)の405nmにおける吸光度を、マイクロプレートリーダを用いて測定した。AChE活性の阻害(パーセント)は式:I(%)={(Aコントロール−A試料)/Aコントロール}×100(式中、「A試料」は試料(阻害剤)を含む反応混合物の吸光度であり、「Aコントロール」は反応コントロール混合物の吸光度を示す)を用いて計算した。なお、(+)−プレゴンはポジティブコントロールとして用いた。各サンプルについて少なくとも3回測定を行い、その平均値を示した。その結果を表2、図1及び図2に示す。 なお、AChEは、シグマ−アルドリッチ社(Sigma-Aldrich Corporation)製のヒト赤血球のAChEを用いた。DTNB及びATCは、東京化成工業株式会社(Tokyo Chemical Industry Co. Ltd. (TCI))製を用いた。テルペノイドとして、l−メントール、(+)−カンファー及びオイゲノール(ナカライテスク株式会社製);アニソール(和光純薬株式会社製);(+)−ボルネオール(Fluka化学株式会社製);(+)−プレゴン(関東化学株式会社製)を用いた。 イエロー・バタイの精油は強いAChE阻害を示し、50%阻害濃度であるIC50値は83.2±2.8μg/mLであった(図1)。 (+)−(S)−ar−ターメロン及び(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンは、精油より強い活性を示し、IC50値はそれぞれ235.2±0.16μM及び81.5±0.24μMであった(表2及び図2)。ポジティブコントロールである(+)−プレゴンのIC50値が136μMであることから、(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンは、(+)−プレゴンの約1.5倍強い活性を有していることがわかる。他方で、モノテルペン及び芳香族化合物は、いずれもAChE阻害活性が低かった。このことから、(+)−(S)−ar−ターメロン及び(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンを含む精油は、強いAChE阻害を示すことが示唆される。逆にいえば、イエロー・バタイの精油は、セスキテルペン((+)−(S)−ar−ターメロン及び(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロン)を含むことにより、強いAChE阻害が得られるといえる。今までにセスキテルペンが中程度のAChE阻害活性を示すことを確認した研究がいくつか存在したが、精油よりも強い活性を有するセスキテルペンは今まで報告されていなかった。よって、精油中に含まれるセスキテルペンが強いAChE阻害効果を示すこの結果は、非常に興味深いものといえる。 (6)次に、(+)−(S)−ar−ターメロン及び(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンの酵素阻害形式を検討した。方法は、速度論法に汎用される、Dixon plot法を用いた。Dixon plot法は、基質濃度を固定し、阻害剤濃度に対し反応速度の逆数をプロットするものである。(+)−(S)−ar−ターメロンの結果を図3(A)に、(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンの結果を図3(B)に示す。図3(A)の結果は、それぞれの基質濃度に対するDixonプロットが第2象限において交差したことから、(+)−(S)−ar−ターメロンが拮抗阻害剤であることを示した。中程度の活性成分である(+)−(S)−ar−ターメロンは酵素の活性部位に対する基質と拮抗する。他方で、図3(B)の結果は、それぞれの基質濃度に対するDixonプロットが平行線となることから、(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンは不拮抗型の阻害形式を示した。最も活性な成分である(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンは、酵素ではなく酵素−基質複合体に結合し、それゆえ生成物の形成を防止することができる。これらの結果から、C10−11二重結合の存在が、AChE阻害効果において極めて重要な役割を果たしているといえる。 以上のように、イエロー・バタイの精油は、IC50値が83.2±2.8μg/mLと強いAChE阻害活性を示した。精油に含まれるセスキテルペンである(+)−(S)−ar−ターメロン及び(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンは、精油よりも強い活性を示した。また、(+)−(S)−ar−ターメロンは拮抗型の阻害形式であり、(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンは不拮抗型の阻害形式であることが明らかとなった。イエロー・バタイの精油を有効成分として含有するアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。前記精油が、式(I):で表されるar−ターメロン、及び式(II):で表されるジヒドロ−ar−ターメロンからなる群から選択される少なくとも1種のセスキテルペンを含む、請求項1に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。前記抽出物が、式(Ia):で表される(+)−(S)−ar−ターメロン、及び/又は式(IIa):で表される(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンを含む、請求項1又は2に記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤。式(Ia):で表される(+)−(S)−ar−ターメロン、及び/又は式(IIa):で表される(+)−(S)−ジヒドロ−ar−ターメロンを有効成分として含む、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤。請求項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する老人性痴呆症の治療又は予防薬。請求項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する脳機能障害改善薬。請求項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有するアルツハイマー型痴呆症の治療又は予防薬。請求項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する入浴剤。請求項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有する芳香剤。請求項1〜4のいずれかに記載のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を含有するアロマテラピー用エッセンシャルオイル。 【課題】本発明は、植物の精油を有効成分とする新規なAChE阻害剤及びその用途を提供する。【解決手段】イエロー・バタイの精油を有効成分として含有するアセチルコリンエステラーゼ阻害剤及びその用途に関する。【選択図】なし