生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ノコギリヤシを含む排尿障害改善剤
出願番号:2009168982
年次:2011
IPC分類:A61K 36/18,A61P 13/00,A61K 36/00


特許情報キャッシュ

鈴木 朝日 黒川 美保子 濱崎 恵子 山田 静雄 JP 2011020972 公開特許公報(A) 20110203 2009168982 20090717 ノコギリヤシを含む排尿障害改善剤 キューサイ株式会社 595082696 静岡県公立大学法人 507219686 岩橋 祐司 100092901 鈴木 朝日 黒川 美保子 濱崎 恵子 山田 静雄 A61K 36/18 20060101AFI20110107BHJP A61P 13/00 20060101ALI20110107BHJP A61K 36/00 20060101ALI20110107BHJP JPA61K35/78 CA61P13/00A61K35/78 X 2 8 OL 16 特許法第30条第1項適用申請有り 1)社団法人日本薬学会,「生物系薬学学術誌」第32巻第4号第646〜650ページ,平成21年1月20日 2)日本分析化学会,「分析化学」 第25巻 第553〜557ページ,平成21年4月10日 4C088 4C088AB83 4C088AC04 4C088CA04 4C088MA52 4C088NA14 4C088ZA81 本発明は、ノコギリヤシを含む排尿障害改善剤、特に優れた排尿障害改善効果を有する排尿障害改善剤に関する。 前立腺は男性の膀胱直下にあって、後部尿道をとりまく臓器である。通常、前立腺は約20gのクルミ程度の大きさであるが、高齢の大多数の男性で前立腺の肥大が起きている。前立腺肥大の原因として、高齢化にともなう男性ホルモンの低下と相対的な女性ホルモンの増加によるホルモンのバランスの崩れから発症すると考えられている。老年になって性ホルモンのバランスが崩れると、前立腺の内側にある尿道に近い部分(尿道周囲腺)が増殖して大きくなる(機械的閉塞)とともに、ジヒドロテストステロン(以下、DHT)が前立腺に蓄積することで、前立腺肥大症(benign prostate hyperplasia、以下BPH)が起こると考えられている。BPHになると、前立腺の組織や前立腺部の尿道あるいは膀胱の出口にある平滑筋の緊張が高まることが知られている。尿が溜まった時における交感神経の興奮が、神経の受容体を介してこれらの筋肉を収縮させること(機能的閉塞)が症状の原因と考えられている。 BPHの症状としては、尿が出にくい、尿の勢いがない、排尿の回数が増えるなどの下部尿路症状(以下、LUTS)が挙げられる。BPHの治療方法は、薬物療法、低侵襲治療(手術)、外科治療、尿道留置カテーテル等に大きく分類される。 BPHに用いられている標準的な薬物療法としては、α1遮断薬、5α-リダクターゼ阻害剤、植物製剤が挙げられる。ここで、5α-リダクターゼはテストステロンを最も高活性なDHTに変換する酵素である。 この中でも、植物製剤はヨーロッパやアメリカにおいて一般的であり、BPHの治療の際に処方される全薬剤の約80%を占める。植物製剤は、約30種類が存在しているが、最もよく用いられているのがノコギリヤシ果実抽出液(saw palmetto extract、以下SPE)である。SPEとは、アメリカ合衆国南東部に自生するヤシ科に属する低潅木(Serenoa repens)の果実の抽出物である。ノコギリヤシの果実は10月から12月にかけて房状で成熟する。ノコギリヤシ果実は1700年代初頭よりアメリカインディアンによって、睾丸萎縮、勃起不全、前立腺肥大、粘膜の炎症の改善、乳房の増大に用いられてきた。BPHのLUTS患者に対し、PermixonTM(ノコギリヤシ果実の脂溶性画分)はα1遮断薬であるタムスロシンとほぼ同程度の効能を示すことが知られている(非特許文献1)。また、SPEは、in vitroの実験で5α-リダクターゼの1型と2型のいずれのアイソザイムも阻害することが知られている(非特許文献2)。 一方、SPEの主な成分は、その抽出方法にもよるが、Serenoa repensの超臨界CO2抽出物であるSabalselectTM(インデナ社商品名)では、脂肪酸93.5%、脂肪族アルコール0.2%、ステロール0.32%であることが知られている。Bayne C.W. et al., Prostate, 40(1999): 232-241Iehle C et al., J Steroid Biochem Mol Biol, 54(1995): 273-279 しかしながら、SPE中のどの成分がBPH治療に効いているかはこれまで解明されていなかった。加えて、より排尿障害改善効果に優れた製剤を求める患者の声も大きかった。 本発明は上記従来技術に鑑み行われたものであり、その解決すべき課題は、優れた排尿障害改善効果を有する排尿障害改善剤を提供することにある。 前記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究を行った結果、SPEを特定の脂肪酸組成に調整することにより、SPEが有する排尿障害改善効果を高めることが可能であり、非常に優れた排尿障害改善効果を有する排尿障害改善剤の製造が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明にかかる排尿障害改善剤は、ノコギリヤシ果実抽出液を含み、オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含むことを特徴とする。 また、本発明にかかる排尿障害改善剤は、ノコギリヤシ果実抽出液を、 n−ヘキサン/メタノール−水により抽出し、 水相(メタノール−水)を、ジエチルエーテルにて抽出し、 ジエチルエーテル相を、シリカゲルクロマトグラフィーにより、n−ヘキサン−ジエチルエーテル(組成4:1)で活性画分を精製し、 該活性画分を、逆相クロマトグラフィーにより、分画することにより製造され、 オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含むことを特徴とする。 本発明によれば、SPEを含み、オレイン酸およびミリスチン酸の配合割合を調整することで、優れた排尿障害改善効果が実現できる排尿障害改善剤を製造することができる。CDCl3中のSPEの1H NMRスペクトル(500MHz)。SPEからの活性成分の分別方法を示したフローチャート。逆相クロマトグラフィーにて得られた各フラクションについて(A)[3H]prazosin(0.25nM)、(B)[3H]NMS(0.25nM)、(C) (+)-[3H]PN 200-110(0.3nM)の特異的結合の抑制率を測定した。SPEより単離したオレイン酸及びラウリン酸とそれぞれの標品の(A)[3H]prazosin、(B)[3H]NMS、(C) (+)-[3H]PN 200-110の特異的結合の阻害曲線。SPEとSPE中の主な脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸)による(A)[3H]prazosin、(B)[3H]NMS、(C) (+)-[3H]PN 200-110の特異的結合の阻害曲線。(A)内部標準物質であるデキサメタゾンと(B)DHTの選択イオンクロマトグラム。SPEとSPE中の主要脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸)の5α-リダクターゼ活性の阻害曲線。SPE(116μg/mL)および3種の脂肪酸混合試料(ラウリン酸(34.8μg/mL)、オレイン酸(33.6μg/mL)、ミリスチン酸(13.9μg/mL))の5α-リダクターゼ活性。黒いバーは、SPE(116μg/mL)の5α-リダクターゼ活性。白いバーは、SPE中に存在する濃度で再度混合した脂肪酸混合試料の5α-リダクターゼ活性。灰色のバーは、116μg/mL SPE中に含まれる3種の各脂肪酸によって理論的に計算された阻害効果の合計を考慮した5α-リダクターゼ活性(算出値)。さまざまな濃度におけるSPE、脂肪酸単体試料(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)、2種の脂肪酸混合試料(オレイン酸およびミリスチン酸)、前記3種の脂肪酸混合試料による[3H]NMSの特異的結合率。合計50μg/mLの3種の脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)の組成を変化させた時の[3H]NMSの特異的結合の抑制率(%)を円内に示した。 本発明では、まず、SPE中のどの成分が排尿障害改善に効果的であるかの解明を行い、次に、その結果に基づき、優れた排尿障害改善製剤の検討を行った。 はじめに、SPE中の活性成分の単離とその構造解析の結果を示す。 Bruker Avance500(Karlsruhe社製)で測定したSPE(SabalselectTM、インデナ社製)の1H NMRスペクトルを図1に示す。δ0.8−2.4に脂肪族由来プロトンシグナル、δ5.4にオレフィンプロトンのシグナルがスペクトルに検出された。これらのシグナルから、飽和および不飽和脂肪酸がSPEに含まれる主な成分であることが明らかとなった。本発明者らのさらなる検討により、遊離脂肪酸に加えて脂肪酸のグリセロールエステルがSPEに含まれることが確認された。δ2.35のメチレンシグナルの強度から、遊離脂肪酸とグリセロールエステルの比率は約3:1と考えられた。 次に、SPE中の活性成分を単離するための抽出方法を以下に示す。 図2に示すように、はじめに、SPE 2mLをメタノール50mLで希釈し、精製水100mLを加えた。n-ヘキサン100mLで抽出する操作を3回繰り返した。その水層を100mLのジエチルエーテル(以下、Et2O)で抽出する操作を2回繰り返した。各有機層は減圧下溶媒を溜去した。Et2O残渣200mgについて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。活性のあったフラクション3(18mg)について、C8カラムを用いた逆相クロマトグラフィーに供し、1分ごとに分画した。高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLC)装置にはAgilent1100システム(Agilent 1100オートサンプラー、バイナリーポンプ、フォトダイオードアレイ検出器) を用いた。各フラクションは窒素気流にて乾固し、エタノールに再溶解後、受容体結合評価に供した。 ラウリン酸およびオレイン酸を精製するために SPEのEt2O抽出物を分取HPLCに供した。分取HPLCにはLC-8A(島津製作所社製)を用いた。 フラクション3について逆相クロマトグラフィーに供し、さらに分画し、下記に示された方法で各受容体に対する結合活性評価を行った結果を図3に示す。 ここで、本発明にかかる排尿障害改善剤を評価する指標となる各受容体(α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬)結合活性について説明する。(α1アドレナリン受容体結合活性) α1アドレナリン受容体は、カテコールアミン類によって活性化されるGタンパク共役型の受容体であり、主に平滑筋の後シナプスに存在する。前立腺平滑筋や尿道平滑筋の交感神経α1アドレナリン受容体を介する収縮は、尿道閉塞(機能的閉塞または動的閉塞)を引き起こす。したがって、α1アドレナリン受容体結合活性を示す物質は、前立腺および膀胱頸部の過度の交感神経系の緊張に起因する尿道閉塞に効果的であり、前立腺平滑筋を弛緩させ、尿道抵抗を減少させることが期待できる。(ムスカリン性受容体結合活性) 膀胱収縮の主な神経伝達物質は、副交感系の骨盤神経を経由し、膀胱平滑筋のムスカリン性受容体を介し、膀胱の収縮反応および不随筋である内尿道括約筋の弛緩を起こす。したがって、ムスカリン性受容体結合活性を示す物質は、膀胱収縮を抑えることが期待できる。(1,4-DHP Caチャネル拮抗薬受容体結合活性) 膀胱平滑筋に存在する1,4-DHP Caチャネル受容体を介して細胞内に取り込まれたCa+の濃度が上昇すると膀胱平滑筋の収縮を起こす。したがって、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬受容体結合活性を示す物質は、膀胱平滑筋の収縮を抑えることが期待できる。受容体結合活性評価方法 α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬の各受容体の測定では、標識体として、それぞれ、[7-methoxy-3H]prazosin(2.979 TBq/mmol)(以下、[3H]prazosin)、[N-Methyl-3H]scopolamine methyl chloride(2.997 TBq/mmol)(以下、[3H]NMS)、(+)-[3H]PN 200-110(3.180 TBq/mmol)(以下、(+)-[3H]PN 200-110)(いずれもパーキンエルマー社製)を用いるラジオレセプターアッセイ法に従った。 ラットはエーテル麻酔下開腹し、腹部下行大動脈よりヘパリン処理した注射筒で採血し、屠殺した。動脈から冷却した生理食塩水を還流した後、脳を摘出した。小脳を取り除いた脳に19倍容量の冷却した50mMトリス緩衝液(pH 7.4)を加え、ホモジナイズし、4℃下40,000×gで20分間遠心分離した。上清除去後、沈渣に再度19倍容量の冷却した50mMトリス緩衝液(pH 7.4)を加え、懸濁後、4℃下40,000×gで20分間遠心分離した。上清除去後、沈渣に29倍容量の冷却した50mMトリス緩衝液(pH 7.4)を加え、懸濁し、受容体標品とした。 組織量として受容体標品10mgに50mMトリス緩衝液(pH 7.4)、脂肪酸、0.25nM [3H]prazosinを添加し、終量1mLとした。本反応液を25℃で30分インキュベーションした。組織量として受容体標品3mgに50mM N-(2-hydroxyethyl)piperazine-N’-ethanesulfonic acid(HEPES)緩衝液(pH 7.4)、脂肪酸、0.25nM [3H]NMSを添加し、終量500μLとした。本反応液を25℃で60分インキュベーションした。組織量として受容体標品5mgに50mMトリス緩衝液(pH 7.4)、脂肪酸、0.3nM (+)-[3H]PN 200-110を添加し、終量500μLとした。本反応液を暗室にてナトリウムランプ点灯下25℃で60分インキュベーションした。 それぞれの反応液はインキュベーション終了後、Cell Harvester(Brandel社製)を用いてガラス繊維濾紙(Whatman GF/B)上に急速吸引濾過した。直ちに濾紙を冷却した50mMリン酸緩衝液(pH 7.4)3mLで洗浄した。濾紙にトルエンシンチレーター (トルエン 2L、Triton-X 1L、2,5-diphenylloxazole 15g、1,4-bis[2-(5-phenyloxazolyl)]benzene 0.3g) を加えて、室温中に6時間以上放置後、その放射活性について液体シンチレーションカウンターを用いて測定した。ディスプレーサーとして、10μM phentolamine([3H]prazosin)、1μM atropin([3H]NMS)、1μM nifedipine((+)-[3H]PN 200-110)を用い、ディスプレーサーの非存在下および存在下で得られた放射活性をそれぞれ全結合と非特異的結合とし、両者の差を受容体への特異的結合と定義した。 図3より、フラクション3-6、3-7、3-9、3-10、3-12、3-13は[3H]prazosin、(+)-[3H]PN 200-110、[3H]NMSの特異的結合を強く抑制していることがわかる。また、フラクション3-11は(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合を強く抑制している。LC/MS分析より、各々のフラクションの主成分は、ラウリン酸 (フラクション3-6、3-7)、ミリスチン酸 (フラクション3-8、3-9)、リノール酸 (フラクション3-10)、パルミチン酸 (フラクション3-11) およびオレイン酸 (フラクション3-12、3-13) とそれぞれ推定された。Et2O抽出物を分取クロマトグラフィーに供し、ラウリン酸およびオレイン酸を単離した。オレイン酸は純度93%、収率14.2%、ラウリン酸は純度95%、収率16.7%で得られた。 オレイン酸およびラウリン酸は SPE中の主要な活性成分として単離された。この2種類の脂肪酸の各受容体結合活性について詳細に検討した結果を図4および表1に示す。ここで、標品のオレイン酸(純度99%)およびラウリン酸(純度99%)は、それぞれ、東京化成工業社製およびナカライテスク社製を使用した。また、以下、表中の値は平均値±S.E.(標準誤差)で表記した。 図4より、SPEから単離したオレイン酸(10−80μg/mL)およびラウリン酸 (50−150μg/mL) は、[3H]prazosinの特異的結合を濃度依存的に抑制していることがわかる。同様にオレイン酸(30−200μg/mL)およびラウリン酸(100−300μg/mL)は、[3H]NMSの特異的結合を濃度依存的に抑制している。また、(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合も、濃度依存的 (オレイン酸:30−100μg/mL、ラウリン酸:10−150μg/mL)に抑制している。加えて、オレイン酸およびラウリン酸標品も[3H]prazosin、[3H]NMS、(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合を濃度依存的に抑制しており、表1より、それらのIC50値はSPEから単離されたオレイン酸およびラウリン酸とほぼ同等であることが明らかとなった。 以上のことから、SPEから単離されたオレイン酸およびラウリン酸は[3H]prazosin、[3H]NMS、(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合を濃度依存的に抑制することが明らかになった。すなわち、SPEから単離されたオレイン酸およびラウリン酸は、α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬の各受容体結合活性を示すことが示唆された。 また、IC50値の比較から、オレイン酸およびラウリン酸標品の結合活性は、SPEから単離されたオレイン酸およびラウリン酸の結合活性とほぼ同程度であった。さらに、IC50値からオレイン酸の各受容体への結合活性はラウリン酸よりも高いことが明らかとなった。SPE中のオレイン酸およびラウリン酸含量がほぼ等しいことから、オレイン酸はSPEの薬理作用の発現に大きく寄与することが示唆された。 次に、SPEに含まれるオレイン酸およびラウリン酸以外の脂肪酸である、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸についても、α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬の各受容体結合活性について検討し、主要5脂肪酸の作用について、不飽和度と鎖長の活性に与える影響を考察した。ここでは、ミリスチン酸およびリノール酸は、Sigma-Aldrich社製、パルミチン酸は、和光純薬工業社製を使用した。結果を図5および表2に示す。 図5より、SPEは[3H]prazosinの特異的結合を濃度依存的(10−200μg/mL)に抑制し、そのIC50値は106±11μg/mLであった(表2)。上記の5種の脂肪酸は[3H]prazosinの特異的結合を濃度依存的(10−300μg/mL)に抑制し、これらのIC50値は23.8−136μg/mLの範囲であった。表2に記載のIC50値よりこれら5種の脂肪酸による[3H]prazosinの特異的結合の抑制作用を比較すると、リノール酸が最も高く、SPEの4.5倍であった。以下、オレイン酸が2.3倍、ミリスチン酸が1.7倍であり、ラウリン酸およびパルミチン酸はSPEとほぼ同等であった。 同図に示すように、SPEおよびパルミチン酸を除く4種の脂肪酸は、[3H]NMSの特異的結合を濃度依存的(10−200μg/mL)に抑制した。SPEのIC50値は185±8μg/mLであり、パルミチン酸を除く4種の脂肪酸のIC50値は56.4−169μg/mLの範囲であった(表2)。SPEと4種の脂肪酸の[3H]NMSの特異的結合の抑制作用を比較すると、オレイン酸は2.6倍、ミリスチン酸およびリノール酸はそれぞれ1.8倍、3.3倍SPEより高く、これら脂肪酸の抑制作用の序列は[3H]prazosinの特異的結合の抑制作用の序列と同じであった。 さらに、同図に示すように、SPEおよび各脂肪酸は(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合を濃度依存的(3−200μg/mL)に抑制し、それらのIC50値は24.5−61.3μg/mLであった(表2)。また、他の受容体と同様に、5種の脂肪酸とSPEによる結合抑制作用を比較すると、リノール酸およびオレイン酸がSPEよりも2.4倍、1.8倍高い抑制作用を示した。 したがって、α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬のいずれの受容体においても、不飽和二重結合を2つ含むリノール酸の結合活性が最も高く、次いで二重結合を1つ含むオレイン酸の結合活性が高いことが明らかとなった。これより、不飽和脂肪酸の結合活性は、飽和脂肪酸の結合活性よりも高い傾向が認められた。不飽和度と活性相関の報告例として、α7ニコチン性受容体の活性抑制評価の例が挙げられる(Vijayaraghavan S. et al., J Neurosci, 15(1995): 3679-3687)。リノレン酸(C18:3)、リノール酸(C18:2)、オレイン酸(C18:1) によるα7ニコチン性受容体活性抑制作用は不飽和度の増加に従い増強した。本発明においても、不飽和度の増加によって各受容体への結合活性が増強されることを推測することができた。また、飽和脂肪酸では、ミリスチン酸(C14:0)が最も結合活性が高く、α1アドレナリン受容体とムスカリン性受容体に関してはラウリン酸(C12:0)の方がパルミチン酸(C16:0)より高かった。飽和脂肪酸に関しては、鎖長と結合活性には相関性が認められなかった。 次に、SPE中の主要成分であるオレイン酸およびラウリン酸について、その標品を使用し、各受容体への結合の速度論的解析を行った。 この解析は、各標識リガンドの濃度を、[3H]prazosin(0.03-0.5nM)、[3H]NMS(0.06-1.0nM)、(+)-[3H]PN 200-110(0.03-1.0nM)として、上記受容体結合評価試験に基づいて行った。 各標識リガンドの最大結合部位数(maximal number of binding sites:Bmax)およびみかけの解離定数(dissociation constant:Kd)は各標識リガンドの種々の濃度における特異的結合を測定し、Graph Pad PRISM 4.01(グラフパッドソフトウエア社製)を用い、非線形回帰解析により算出した。有意差検定はFischerの分散分析後、Dunnett’s testを用いて行い、危険率5%未満を有意差ありと判定した。アスタリスクが対照値からの有意差を示しており、*P<0.05、**P<0.01である。 表3に、オレイン酸およびラウリン酸の、各受容体への結合の速度論的解析結果を示す。 表3によると、in vitroにおいて、オレイン酸(52.7μg/mL)およびラウリン酸(73.5μg/mL)は、ラット脳における[3H]prazosin特異的結合のBmax値を対照値に比べてそれぞれ39%、33%有意に減少させた。同様に、オレイン酸(72.8μg/mL) およびラウリン酸(163μg/mL)は、ラット脳の[3H]NMS特異的結合のBmax値を対照値に比べてそれぞれ49%、24%有意に減少させた。また、オレイン酸(33.3μg/mL)およびラウリン酸(82.3μg/mL)は、ラット脳の(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合のBmax値を対照値に比べてそれぞれ34%、42%有意に減少させた。 ラウリン酸およびオレイン酸の存在下、[3H]prazosinおよび[3H]NMSの特異的結合をラット脳において測定したところ、[3H]prazosinおよび[3H]NMSの特異的結合のBmax値は減少した。以前の本発明者らの研究により、SPEはラット前立腺の[3H]prazosinおよび膀胱の[3H]NMSの特異的結合のBmax値を減少させることが知られており、非競合的に抑制すると考えられている。オレイン酸およびラウリン酸による[3H]prazosin結合抑制は、SPEと同じく、Bmax値の減少を伴っていることから、非競合的に抑制すると考えられる。 また、オレイン酸およびアラキドン酸(C20:4)がイヌ心臓膜への[3H]QNBの特異的結合のBmax値を減少させるとの報告がある(Rauch B. et al., J Mol Cell Cardiol, 21(1989), 495-506)。遊離脂肪酸と受容体膜標品のプレインキュベーションによって、ムスカリン性受容体のコンホメーションが変化し、放射標識リガンドが結合できない状態になる。その結果としてBmax値が減少するとRauchらは考察した。 このRauchらの考察から、オレイン酸およびラウリン酸は、ムスカリン性受容体のコンホメーションを変えたために、[3H]NMS結合のBmax値が減少したと考えられる。 また、オレイン酸およびラウリン酸はラット脳の(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合のBmax値を減少させた。 ラット心筋細胞を用いた実験でドコサヘキサエン酸(C22:6)がCaチャネル作動薬(BAY K 8644)と拮抗薬(nitrendipine)の作用を減弱させるという報告がある(Kjome J.R. et al., J Mol Neurosci, 10(1998), 209-217)。このメカニズムとして、ドコサヘキサエン酸が1,4-DHP結合サイトまたはその近傍に結合し、膜のCaチャネルの蛋白-脂質間の環境や脂質間の環境を変えたことが原因であると考えられた。 したがって、ムスカリン性受容体のコンホメーション変化も含めて考え、オレイン酸およびラウリン酸が1,4-DHP Caチャネル拮抗薬受容体のコンホメーションを変えたために、(+)-[3H]PN 200-110結合のBmax値が減少したことが示唆された。 次に、SPEに含まれている主要5脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸)の5α-リダクターゼ活性の評価を行った。結果を図6および表4に示す。 なお、ここでは、5α-リダクターゼ阻害活性の測定は既知の方法を参考に行った(Liu J. et al., Biol Pharm Bull, 29(2006), 392-395)。タンパク濃度も既知の方法(Bradford M.M., Anal Biochem, 72(1976), 248-254)で測定し、活性評価まで−80℃で保存した。 阻害剤による評価は以下に示す条件で行った。1mMジチオスレイトールを含む20mM リン酸緩衝液(pH 6.5)、50μMテストステロン、脂肪酸のエタノール溶液、167μM nicotinamide adenine dinucleotide phosphate(以下、NADPH)、0.2mg proteinの雌性ラット肝ミクロソームを加え、終量300μLとした。活性の対照として脂肪酸の代わりにエタノールを用いた。NADPHとミクロソームを除く反応液を10分間37℃でプレインキュベーションし、NADPHとミクロソームを加え、37℃、10分間インキュベーション後、2M 水酸化ナトリウム10μLを添加することにより反応を停止させた。内部標準物質である30μM デキサメタゾン10μLを加えた後に600μLの酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を窒素気流で乾固した後に、メタノール50μLに溶解した。LC/MS測定はWaters Alliance 2790およびWaters ZQ 2000を用いた。対照のDHT/デキサメタゾン面積比を5α-リダクターゼ活性の100%とし、脂肪酸存在下の5α-リダクターゼ活性と比較した。DHTおよびデキサメタゾンの選択イオンクロマトグラムを図7に示す。 図6より、SPEは5α-リダクターゼ活性を濃度依存的に抑制し、そのIC50値は101±2μg/mLであった(表4)。パルミチン酸を除く4種の脂肪酸も5α-リダクターゼ活性を濃度依存的 (10−200μg/mL) に抑制した。表4に示されているように、それらのIC50値は42.1−67.6μg/mLの範囲であり、パルミチン酸を除く4種の脂肪酸の酵素活性抑制作用はいずれもSPEより高かった。リノール酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸の4種はSPEに含まれる5α-リダクターゼ活性抑制成分の可能性が示唆された。 SPE、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リノール酸は濃度依存的に5α-リダクターゼ活性を抑制した。それぞれの脂肪酸間での活性抑制作用に大きな差は認められなかった。IC50値より、各脂肪酸の活性抑制作用はSPEよりも1.4−2.4倍高いことがわかる。したがって、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リノール酸が5α-リダクターゼ活性抑制作用を示し、パルミチン酸が抑制作用を示さないことがわかった。 図8に、IC50値付近のSPE(116μg/mL)、その濃度での含有比率を元にして混合した3種の脂肪酸混合試料の5α-リダクターゼ活性を比較した結果を示す。 同図に示すように、IC50値付近のSPEの5α-リダクターゼ活性は対照に比べて41±2.0%であった。インデナ社ホームページ(http://www.indena.com/pdf/sabalselect.pdf)よりSPE(116μg/mL)のときのラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸の濃度を算出すると、それぞれ34.8μg/mL、33.6μg/mL、13.9μg/mLであった。図6に示されているように、ラウリン酸40μg/mL、ミリスチン酸20μg/mLでは5α-リダクターゼ阻害活性を示さなかった。一方で、オレイン酸33.6μg/mL存在下の5α-リダクターゼ活性は、阻害曲線から対照の83.6%と算出された。 したがって、図8に示すように、ラウリン酸34.8μg/mL、オレイン酸33.6μg/mL、ミリスチン酸13.9μg/mLの混合試料存在下の5α-リダクターゼ活性の理論値は対照の83.6%と算出された。一方、同図に示すように、混合試料の5α-リダクターゼ活性の実測値は対照の23±1.5%であった。脂肪酸単独の抑制作用の加算に比べ、脂肪酸混合によって抑制作用の増強が認められた。 ここで、ラウリン酸34.8μg/mL、オレイン酸33.6μg/mL、ミリスチン酸13.9μg/mLをモル濃度に換算すると、それぞれ152μM、119μM、69μMとなり、合計341μMである。オレイン酸341μM(96.2μg/mL)存在下の5α-リダクターゼ活性の理論値は、対照の11%と算出された。混合した脂肪酸の抑制作用に比べ、オレイン酸単独の方が酵素活性の抑制作用は高かった。 SPE (116μg/mL) に含まれるラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸の濃度は、上記のように、インデナ社ホームページによると、それぞれ 34.8、33.6、13.9μg/mLである。各濃度のラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸を混合した場合の5α-リダクターゼ活性の理論値は、対照に比べて約8割残存することになる。一方、上記濃度で混合した脂肪酸存在下の5α-リダクターゼ活性の実測値は対照に比べて23%の活性を示し、活性の約8割が抑制された。この事実は、3種の脂肪酸による5α-リダクターゼ阻害活性の総和では説明できない。このことから、ラウリン酸およびミリスチン酸添加によるオレイン酸の作用を増強、すなわち薬力学的相互作用があると考えられる。また、3種の脂肪酸の合計濃度に相当するオレイン酸 (96.2μg/mL) 存在下の5α-リダクターゼ活性の理論値は対照比11%と算出されたことより、オレイン酸単独では、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸混合時の実測値に比べて高い抑制作用を示す可能性が示唆された。 以上のことから、SPEの5α-リダクターゼ活性抑制作用に比べて脂肪酸混合試料の抑制作用の方が高いことが明らかとなった。この原因としては、SPEには5α-リダクターゼ活性の抑制作用を示さないエステル体が含まれているために、遊離脂肪酸のみの混合脂肪酸に比べて抑制作用が低かったと考えられる。 さらに、3種の脂肪酸が排尿改善効果に有効であることを確認するために、SPE、脂肪酸単体(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)、2種の脂肪酸試料(オレイン酸およびミリスチン酸)、前記した3種の脂肪酸混合試料を用い、そのムスカリン性受容体に対する結合活性について検討を行った。試験方法は上記の方法を用いて測定した。 ここで、各試料は、SPE中に含まれる割合(ラウリン酸:30.2%、オレイン酸:26.5%、ミリスチン酸:12.1%)で調整された。 すなわち、100μg/mLの試料では、SPE(100μg/mL)、ラウリン酸(30.2μg/mL)、オレイン酸(26.5μg/mL)、ミリスチン酸(12.1μg/mL)、オレイン酸およびミリスチン酸(26.5μg/mL(オレイン酸)+12.1μg/mL(ミリスチン酸))、脂肪酸混合試料(30.2μg/mL(ラウリン酸)+26.5μg/mL(オレイン酸)+12.1μg/mL(ミリスチン酸))の濃度のものを用いて試験を行った。結果を表5および図9に示す。 表5および図9より、ほとんどの試料で、試料の濃度の増加に伴い、[3H]NMS特異的結合率が減少していくことがわかる。すなわち、試料の濃度の増加に伴い、ムスカリン性受容体に対する結合活性が上昇していることが明らかとなった。脂肪酸単体では、それほど高い結合活性を示さなかったが、高濃度のオレイン酸試料では、顕著な結合活性を示していた。 また、オレイン酸およびミリスチン酸の混合試料も、高いムスカリン性受容体結合活性を示していた。 加えて、5α-リダクターゼ活性抑制作用の結果と同様に、SPEよりも、3種の脂肪酸混合試料の方がムスカリン性受容体に対する結合活性が高いことが明らかとなった。したがって、5α-リダクターゼ活性抑制作用のみならず、ムスカリン性受容体結合活性も高いこれらの成分を含むことで、SPEと同等ないしより優れた排尿障害改善剤が製造可能であることが示唆された。 次に、これらの結果をもとに、上記3種の脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)を配合し、SPEと同等ないしより優れた排尿障害改善剤を製造するために、より優れた効果の期待できる脂肪酸組成について検討を行った。 合計50μg/mLの3種の脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)の組成を変化させた際のムスカリン性受容体に対する結合活性を、上記の試験方法を用いて測定した。結果を表6および図10に示す。 表6および図10より、各脂肪酸単体では、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸の順に[3H]NMS特異的結合抑制率が高く、特にオレイン酸の抑制率が高かった。すなわち、オレイン酸のムスカリン性受容体に対する結合活性が一番高いことがわかる。しかしながら、抑制率が一番高かったのはサンプル番号2のオレイン酸およびミリスチン酸の混合物(配合割合4:1)であることから、ミリスチン酸を添加することによりオレイン酸のムスカリン性受容体結合活性作用を増強していることがわかった。しかしながら、単独ではミリスチン酸より結合活性が若干高いラウリン酸をオレイン酸に添加しても、オレイン酸のムスカリン性受容体結合活性作用を増強しなかった。 これらの結果から、本発明にかかる排尿障害改善剤は、オレイン酸に特定割合のミリスチン酸を添加することが重要である。すなわち、本発明にかかる排尿障害改善剤は、オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含むことを特徴とする。オレイン酸、ミリスチン酸を4.5:0.5〜1:1で含むことが好適である。また、オレイン酸、ミリスチン酸を4:1〜3:2で含むことが特に好適である。ミリスチン酸の含有割合が小さすぎる場合、ミリスチン酸添加によるムスカリン性受容体結合活性作用を増強できなくなってしまう。ミリスチン酸の含有割合が大きすぎる場合、オレイン酸の含有割合が相対的に減ってしまうため、ムスカリン性受容体結合活性作用に劣る傾向にある。 本発明にかかる排尿障害改善剤において、ノコギリヤシ果実抽出液を含み、オレイン酸とミリスチン酸を上記組成に調整する方法としては、特に限定されるものではないが、ノコギリヤシ果実の原産地を変える方法、ノコギリヤシ果実の抽出方法を変える方法、ノコギリヤシ果実抽出液にオレイン酸ないしミリスチン酸を添加する方法等が挙げられる。 ノコギリヤシ果実抽出液を含み、 オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含むことを特徴とする排尿障害改善剤。 ノコギリヤシ果実抽出液を、 n−ヘキサン/メタノール−水により抽出し、 水相(メタノール−水)を、ジエチルエーテルにて抽出し、 ジエチルエーテル相を、シリカゲルクロマトグラフィーにより、n−ヘキサン−ジエチルエーテル(組成4:1)で活性画分を精製し、 該活性画分を、逆相クロマトグラフィーにより、分画することにより製造され、 オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含むことを特徴とする排尿障害改善剤。 【課題】 本発明の目的は、排尿障害改善効果に優れた排尿障害改善剤を提供することにある。【解決手段】 ノコギリヤシ果実抽出液(SPE)を含み、オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含むことを特徴とする排尿障害改善剤。【選択図】 図8


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特許公報(B2)_ノコギリヤシを含む排尿障害改善剤

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ノコギリヤシを含む排尿障害改善剤
出願番号:2009168982
年次:2014
IPC分類:A61K 36/18,A61P 13/00,A61K 36/00


特許情報キャッシュ

鈴木 朝日 黒川 美保子 濱崎 恵子 山田 静雄 JP 5561711 特許公報(B2) 20140620 2009168982 20090717 ノコギリヤシを含む排尿障害改善剤 キューサイ株式会社 595082696 静岡県公立大学法人 507219686 岩橋 祐司 100092901 鈴木 朝日 黒川 美保子 濱崎 恵子 山田 静雄 20140730 A61K 36/18 20060101AFI20140710BHJP A61P 13/00 20060101ALI20140710BHJP A61K 36/00 20060101ALI20140710BHJP JPA61K35/78 CA61P13/00A61K35/78 X A61K 36/18 A61K 36/00 A61P 13/00 PubMed Science Direct CiNii 医中誌WEB Sabalselect,[online],インデナジャパン株式会社,2007年 7月,[retrieved on 2013-9-6], Retrieved from the Internet,URL,http://jp.indena.com/pdf/sabalselect.pdf 日本排尿機能学会誌,2005年,第16巻,第2号,p.191−201 Journal of Steroid Biochemistry and Molecular Biology,2002年,Vol.82, No.2-3,p.233-239 アンチ・エイジング医学,2007年11月,第3巻,第4号,p.409−415 2 2011020972 20110203 16 20120612 特許法第30条第1項適用 1)社団法人日本薬学会,「生物系薬学学術誌」第32巻第4号第646〜650ページ,平成21年1月20日 2)日本分析化学会,「分析化学」 第25巻 第553〜557ページ,平成21年4月10日 原田 隆興 本発明は、ノコギリヤシを含む排尿障害改善剤、特に優れた排尿障害改善効果を有する排尿障害改善剤に関する。 前立腺は男性の膀胱直下にあって、後部尿道をとりまく臓器である。通常、前立腺は約20gのクルミ程度の大きさであるが、高齢の大多数の男性で前立腺の肥大が起きている。前立腺肥大の原因として、高齢化にともなう男性ホルモンの低下と相対的な女性ホルモンの増加によるホルモンのバランスの崩れから発症すると考えられている。老年になって性ホルモンのバランスが崩れると、前立腺の内側にある尿道に近い部分(尿道周囲腺)が増殖して大きくなる(機械的閉塞)とともに、ジヒドロテストステロン(以下、DHT)が前立腺に蓄積することで、前立腺肥大症(benign prostate hyperplasia、以下BPH)が起こると考えられている。BPHになると、前立腺の組織や前立腺部の尿道あるいは膀胱の出口にある平滑筋の緊張が高まることが知られている。尿が溜まった時における交感神経の興奮が、神経の受容体を介してこれらの筋肉を収縮させること(機能的閉塞)が症状の原因と考えられている。 BPHの症状としては、尿が出にくい、尿の勢いがない、排尿の回数が増えるなどの下部尿路症状(以下、LUTS)が挙げられる。BPHの治療方法は、薬物療法、低侵襲治療(手術)、外科治療、尿道留置カテーテル等に大きく分類される。 BPHに用いられている標準的な薬物療法としては、α1遮断薬、5α-リダクターゼ阻害剤、植物製剤が挙げられる。ここで、5α-リダクターゼはテストステロンを最も高活性なDHTに変換する酵素である。 この中でも、植物製剤はヨーロッパやアメリカにおいて一般的であり、BPHの治療の際に処方される全薬剤の約80%を占める。植物製剤は、約30種類が存在しているが、最もよく用いられているのがノコギリヤシ果実抽出液(saw palmetto extract、以下SPE)である。SPEとは、アメリカ合衆国南東部に自生するヤシ科に属する低潅木(Serenoa repens)の果実の抽出物である。ノコギリヤシの果実は10月から12月にかけて房状で成熟する。ノコギリヤシ果実は1700年代初頭よりアメリカインディアンによって、睾丸萎縮、勃起不全、前立腺肥大、粘膜の炎症の改善、乳房の増大に用いられてきた。BPHのLUTS患者に対し、PermixonTM(ノコギリヤシ果実の脂溶性画分)はα1遮断薬であるタムスロシンとほぼ同程度の効能を示すことが知られている(非特許文献1)。また、SPEは、in vitroの実験で5α-リダクターゼの1型と2型のいずれのアイソザイムも阻害することが知られている(非特許文献2)。 一方、SPEの主な成分は、その抽出方法にもよるが、Serenoa repensの超臨界CO2抽出物であるSabalselectTM(インデナ社商品名)では、脂肪酸93.5%、脂肪族アルコール0.2%、ステロール0.32%であることが知られている。Bayne C.W. et al., Prostate, 40(1999): 232-241Iehle C et al., J Steroid Biochem Mol Biol, 54(1995): 273-279 しかしながら、SPE中のどの成分がBPH治療に効いているかはこれまで解明されていなかった。加えて、より排尿障害改善効果に優れた製剤を求める患者の声も大きかった。 本発明は上記従来技術に鑑み行われたものであり、その解決すべき課題は、優れた排尿障害改善効果を有する排尿障害改善剤を提供することにある。 前記課題を解決するために本発明者らが鋭意研究を行った結果、SPEを特定の脂肪酸組成に調整することにより、SPEが有する排尿障害改善効果を高めることが可能であり、非常に優れた排尿障害改善効果を有する排尿障害改善剤の製造が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明にかかる排尿障害改善剤は、ノコギリヤシ果実抽出液を含み、オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含むことを特徴とする。 また、本発明にかかる排尿障害改善剤は、ノコギリヤシ果実抽出液を、 n−ヘキサン/メタノール−水により抽出し、 水相(メタノール−水)を、ジエチルエーテルにて抽出し、 ジエチルエーテル相を、シリカゲルクロマトグラフィーにより、n−ヘキサン−ジエチルエーテル(組成4:1)で活性画分を精製し、 該活性画分を、逆相クロマトグラフィーにより、分画することにより製造され、 オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含むことを特徴とする。 本発明によれば、SPEを含み、オレイン酸およびミリスチン酸の配合割合を調整することで、優れた排尿障害改善効果が実現できる排尿障害改善剤を製造することができる。CDCl3中のSPEの1H NMRスペクトル(500MHz)。SPEからの活性成分の分別方法を示したフローチャート。逆相クロマトグラフィーにて得られた各フラクションについて(A)[3H]prazosin(0.25nM)、(B)[3H]NMS(0.25nM)、(C) (+)-[3H]PN 200-110(0.3nM)の特異的結合の抑制率を測定した。SPEより単離したオレイン酸及びラウリン酸とそれぞれの標品の(A)[3H]prazosin、(B)[3H]NMS、(C) (+)-[3H]PN 200-110の特異的結合の阻害曲線。SPEとSPE中の主な脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸)による(A)[3H]prazosin、(B)[3H]NMS、(C) (+)-[3H]PN 200-110の特異的結合の阻害曲線。(A)内部標準物質であるデキサメタゾンと(B)DHTの選択イオンクロマトグラム。SPEとSPE中の主要脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸)の5α-リダクターゼ活性の阻害曲線。SPE(116μg/mL)および3種の脂肪酸混合試料(ラウリン酸(34.8μg/mL)、オレイン酸(33.6μg/mL)、ミリスチン酸(13.9μg/mL))の5α-リダクターゼ活性。黒いバーは、SPE(116μg/mL)の5α-リダクターゼ活性。白いバーは、SPE中に存在する濃度で再度混合した脂肪酸混合試料の5α-リダクターゼ活性。灰色のバーは、116μg/mL SPE中に含まれる3種の各脂肪酸によって理論的に計算された阻害効果の合計を考慮した5α-リダクターゼ活性(算出値)。さまざまな濃度におけるSPE、脂肪酸単体試料(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)、2種の脂肪酸混合試料(オレイン酸およびミリスチン酸)、前記3種の脂肪酸混合試料による[3H]NMSの特異的結合率。合計50μg/mLの3種の脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)の組成を変化させた時の[3H]NMSの特異的結合の抑制率(%)を円内に示した。 本発明では、まず、SPE中のどの成分が排尿障害改善に効果的であるかの解明を行い、次に、その結果に基づき、優れた排尿障害改善製剤の検討を行った。 はじめに、SPE中の活性成分の単離とその構造解析の結果を示す。 Bruker Avance500(Karlsruhe社製)で測定したSPE(SabalselectTM、インデナ社製)の1H NMRスペクトルを図1に示す。δ0.8−2.4に脂肪族由来プロトンシグナル、δ5.4にオレフィンプロトンのシグナルがスペクトルに検出された。これらのシグナルから、飽和および不飽和脂肪酸がSPEに含まれる主な成分であることが明らかとなった。本発明者らのさらなる検討により、遊離脂肪酸に加えて脂肪酸のグリセロールエステルがSPEに含まれることが確認された。δ2.35のメチレンシグナルの強度から、遊離脂肪酸とグリセロールエステルの比率は約3:1と考えられた。 次に、SPE中の活性成分を単離するための抽出方法を以下に示す。 図2に示すように、はじめに、SPE 2mLをメタノール50mLで希釈し、精製水100mLを加えた。n-ヘキサン100mLで抽出する操作を3回繰り返した。その水層を100mLのジエチルエーテル(以下、Et2O)で抽出する操作を2回繰り返した。各有機層は減圧下溶媒を溜去した。Et2O残渣200mgについて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーに供した。活性のあったフラクション3(18mg)について、C8カラムを用いた逆相クロマトグラフィーに供し、1分ごとに分画した。高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLC)装置にはAgilent1100システム(Agilent 1100オートサンプラー、バイナリーポンプ、フォトダイオードアレイ検出器) を用いた。各フラクションは窒素気流にて乾固し、エタノールに再溶解後、受容体結合評価に供した。 ラウリン酸およびオレイン酸を精製するために SPEのEt2O抽出物を分取HPLCに供した。分取HPLCにはLC-8A(島津製作所社製)を用いた。 フラクション3について逆相クロマトグラフィーに供し、さらに分画し、下記に示された方法で各受容体に対する結合活性評価を行った結果を図3に示す。 ここで、本発明にかかる排尿障害改善剤を評価する指標となる各受容体(α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬)結合活性について説明する。(α1アドレナリン受容体結合活性) α1アドレナリン受容体は、カテコールアミン類によって活性化されるGタンパク共役型の受容体であり、主に平滑筋の後シナプスに存在する。前立腺平滑筋や尿道平滑筋の交感神経α1アドレナリン受容体を介する収縮は、尿道閉塞(機能的閉塞または動的閉塞)を引き起こす。したがって、α1アドレナリン受容体結合活性を示す物質は、前立腺および膀胱頸部の過度の交感神経系の緊張に起因する尿道閉塞に効果的であり、前立腺平滑筋を弛緩させ、尿道抵抗を減少させることが期待できる。(ムスカリン性受容体結合活性) 膀胱収縮の主な神経伝達物質は、副交感系の骨盤神経を経由し、膀胱平滑筋のムスカリン性受容体を介し、膀胱の収縮反応および不随筋である内尿道括約筋の弛緩を起こす。したがって、ムスカリン性受容体結合活性を示す物質は、膀胱収縮を抑えることが期待できる。(1,4-DHP Caチャネル拮抗薬受容体結合活性) 膀胱平滑筋に存在する1,4-DHP Caチャネル受容体を介して細胞内に取り込まれたCa+の濃度が上昇すると膀胱平滑筋の収縮を起こす。したがって、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬受容体結合活性を示す物質は、膀胱平滑筋の収縮を抑えることが期待できる。受容体結合活性評価方法 α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬の各受容体の測定では、標識体として、それぞれ、[7-methoxy-3H]prazosin(2.979 TBq/mmol)(以下、[3H]prazosin)、[N-Methyl-3H]scopolamine methyl chloride(2.997 TBq/mmol)(以下、[3H]NMS)、(+)-[3H]PN 200-110(3.180 TBq/mmol)(以下、(+)-[3H]PN 200-110)(いずれもパーキンエルマー社製)を用いるラジオレセプターアッセイ法に従った。 ラットはエーテル麻酔下開腹し、腹部下行大動脈よりヘパリン処理した注射筒で採血し、屠殺した。動脈から冷却した生理食塩水を還流した後、脳を摘出した。小脳を取り除いた脳に19倍容量の冷却した50mMトリス緩衝液(pH 7.4)を加え、ホモジナイズし、4℃下40,000×gで20分間遠心分離した。上清除去後、沈渣に再度19倍容量の冷却した50mMトリス緩衝液(pH 7.4)を加え、懸濁後、4℃下40,000×gで20分間遠心分離した。上清除去後、沈渣に29倍容量の冷却した50mMトリス緩衝液(pH 7.4)を加え、懸濁し、受容体標品とした。 組織量として受容体標品10mgに50mMトリス緩衝液(pH 7.4)、脂肪酸、0.25nM [3H]prazosinを添加し、終量1mLとした。本反応液を25℃で30分インキュベーションした。組織量として受容体標品3mgに50mM N-(2-hydroxyethyl)piperazine-N’-ethanesulfonic acid(HEPES)緩衝液(pH 7.4)、脂肪酸、0.25nM [3H]NMSを添加し、終量500μLとした。本反応液を25℃で60分インキュベーションした。組織量として受容体標品5mgに50mMトリス緩衝液(pH 7.4)、脂肪酸、0.3nM (+)-[3H]PN 200-110を添加し、終量500μLとした。本反応液を暗室にてナトリウムランプ点灯下25℃で60分インキュベーションした。 それぞれの反応液はインキュベーション終了後、Cell Harvester(Brandel社製)を用いてガラス繊維濾紙(Whatman GF/B)上に急速吸引濾過した。直ちに濾紙を冷却した50mMリン酸緩衝液(pH 7.4)3mLで洗浄した。濾紙にトルエンシンチレーター (トルエン 2L、Triton-X 1L、2,5-diphenylloxazole 15g、1,4-bis[2-(5-phenyloxazolyl)]benzene 0.3g) を加えて、室温中に6時間以上放置後、その放射活性について液体シンチレーションカウンターを用いて測定した。ディスプレーサーとして、10μM phentolamine([3H]prazosin)、1μM atropin([3H]NMS)、1μM nifedipine((+)-[3H]PN 200-110)を用い、ディスプレーサーの非存在下および存在下で得られた放射活性をそれぞれ全結合と非特異的結合とし、両者の差を受容体への特異的結合と定義した。 図3より、フラクション3-6、3-7、3-9、3-10、3-12、3-13は[3H]prazosin、(+)-[3H]PN 200-110、[3H]NMSの特異的結合を強く抑制していることがわかる。また、フラクション3-11は(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合を強く抑制している。LC/MS分析より、各々のフラクションの主成分は、ラウリン酸 (フラクション3-6、3-7)、ミリスチン酸 (フラクション3-8、3-9)、リノール酸 (フラクション3-10)、パルミチン酸 (フラクション3-11) およびオレイン酸 (フラクション3-12、3-13) とそれぞれ推定された。Et2O抽出物を分取クロマトグラフィーに供し、ラウリン酸およびオレイン酸を単離した。オレイン酸は純度93%、収率14.2%、ラウリン酸は純度95%、収率16.7%で得られた。 オレイン酸およびラウリン酸は SPE中の主要な活性成分として単離された。この2種類の脂肪酸の各受容体結合活性について詳細に検討した結果を図4および表1に示す。ここで、標品のオレイン酸(純度99%)およびラウリン酸(純度99%)は、それぞれ、東京化成工業社製およびナカライテスク社製を使用した。また、以下、表中の値は平均値±S.E.(標準誤差)で表記した。 図4より、SPEから単離したオレイン酸(10−80μg/mL)およびラウリン酸 (50−150μg/mL) は、[3H]prazosinの特異的結合を濃度依存的に抑制していることがわかる。同様にオレイン酸(30−200μg/mL)およびラウリン酸(100−300μg/mL)は、[3H]NMSの特異的結合を濃度依存的に抑制している。また、(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合も、濃度依存的 (オレイン酸:30−100μg/mL、ラウリン酸:10−150μg/mL)に抑制している。加えて、オレイン酸およびラウリン酸標品も[3H]prazosin、[3H]NMS、(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合を濃度依存的に抑制しており、表1より、それらのIC50値はSPEから単離されたオレイン酸およびラウリン酸とほぼ同等であることが明らかとなった。 以上のことから、SPEから単離されたオレイン酸およびラウリン酸は[3H]prazosin、[3H]NMS、(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合を濃度依存的に抑制することが明らかになった。すなわち、SPEから単離されたオレイン酸およびラウリン酸は、α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬の各受容体結合活性を示すことが示唆された。 また、IC50値の比較から、オレイン酸およびラウリン酸標品の結合活性は、SPEから単離されたオレイン酸およびラウリン酸の結合活性とほぼ同程度であった。さらに、IC50値からオレイン酸の各受容体への結合活性はラウリン酸よりも高いことが明らかとなった。SPE中のオレイン酸およびラウリン酸含量がほぼ等しいことから、オレイン酸はSPEの薬理作用の発現に大きく寄与することが示唆された。 次に、SPEに含まれるオレイン酸およびラウリン酸以外の脂肪酸である、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸についても、α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬の各受容体結合活性について検討し、主要5脂肪酸の作用について、不飽和度と鎖長の活性に与える影響を考察した。ここでは、ミリスチン酸およびリノール酸は、Sigma-Aldrich社製、パルミチン酸は、和光純薬工業社製を使用した。結果を図5および表2に示す。 図5より、SPEは[3H]prazosinの特異的結合を濃度依存的(10−200μg/mL)に抑制し、そのIC50値は106±11μg/mLであった(表2)。上記の5種の脂肪酸は[3H]prazosinの特異的結合を濃度依存的(10−300μg/mL)に抑制し、これらのIC50値は23.8−136μg/mLの範囲であった。表2に記載のIC50値よりこれら5種の脂肪酸による[3H]prazosinの特異的結合の抑制作用を比較すると、リノール酸が最も高く、SPEの4.5倍であった。以下、オレイン酸が2.3倍、ミリスチン酸が1.7倍であり、ラウリン酸およびパルミチン酸はSPEとほぼ同等であった。 同図に示すように、SPEおよびパルミチン酸を除く4種の脂肪酸は、[3H]NMSの特異的結合を濃度依存的(10−200μg/mL)に抑制した。SPEのIC50値は185±8μg/mLであり、パルミチン酸を除く4種の脂肪酸のIC50値は56.4−169μg/mLの範囲であった(表2)。SPEと4種の脂肪酸の[3H]NMSの特異的結合の抑制作用を比較すると、オレイン酸は2.6倍、ミリスチン酸およびリノール酸はそれぞれ1.8倍、3.3倍SPEより高く、これら脂肪酸の抑制作用の序列は[3H]prazosinの特異的結合の抑制作用の序列と同じであった。 さらに、同図に示すように、SPEおよび各脂肪酸は(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合を濃度依存的(3−200μg/mL)に抑制し、それらのIC50値は24.5−61.3μg/mLであった(表2)。また、他の受容体と同様に、5種の脂肪酸とSPEによる結合抑制作用を比較すると、リノール酸およびオレイン酸がSPEよりも2.4倍、1.8倍高い抑制作用を示した。 したがって、α1アドレナリン、ムスカリン性、1,4-DHP Caチャネル拮抗薬のいずれの受容体においても、不飽和二重結合を2つ含むリノール酸の結合活性が最も高く、次いで二重結合を1つ含むオレイン酸の結合活性が高いことが明らかとなった。これより、不飽和脂肪酸の結合活性は、飽和脂肪酸の結合活性よりも高い傾向が認められた。不飽和度と活性相関の報告例として、α7ニコチン性受容体の活性抑制評価の例が挙げられる(Vijayaraghavan S. et al., J Neurosci, 15(1995): 3679-3687)。リノレン酸(C18:3)、リノール酸(C18:2)、オレイン酸(C18:1) によるα7ニコチン性受容体活性抑制作用は不飽和度の増加に従い増強した。本発明においても、不飽和度の増加によって各受容体への結合活性が増強されることを推測することができた。また、飽和脂肪酸では、ミリスチン酸(C14:0)が最も結合活性が高く、α1アドレナリン受容体とムスカリン性受容体に関してはラウリン酸(C12:0)の方がパルミチン酸(C16:0)より高かった。飽和脂肪酸に関しては、鎖長と結合活性には相関性が認められなかった。 次に、SPE中の主要成分であるオレイン酸およびラウリン酸について、その標品を使用し、各受容体への結合の速度論的解析を行った。 この解析は、各標識リガンドの濃度を、[3H]prazosin(0.03-0.5nM)、[3H]NMS(0.06-1.0nM)、(+)-[3H]PN 200-110(0.03-1.0nM)として、上記受容体結合評価試験に基づいて行った。 各標識リガンドの最大結合部位数(maximal number of binding sites:Bmax)およびみかけの解離定数(dissociation constant:Kd)は各標識リガンドの種々の濃度における特異的結合を測定し、Graph Pad PRISM 4.01(グラフパッドソフトウエア社製)を用い、非線形回帰解析により算出した。有意差検定はFischerの分散分析後、Dunnett’s testを用いて行い、危険率5%未満を有意差ありと判定した。アスタリスクが対照値からの有意差を示しており、*P<0.05、**P<0.01である。 表3に、オレイン酸およびラウリン酸の、各受容体への結合の速度論的解析結果を示す。 表3によると、in vitroにおいて、オレイン酸(52.7μg/mL)およびラウリン酸(73.5μg/mL)は、ラット脳における[3H]prazosin特異的結合のBmax値を対照値に比べてそれぞれ39%、33%有意に減少させた。同様に、オレイン酸(72.8μg/mL) およびラウリン酸(163μg/mL)は、ラット脳の[3H]NMS特異的結合のBmax値を対照値に比べてそれぞれ49%、24%有意に減少させた。また、オレイン酸(33.3μg/mL)およびラウリン酸(82.3μg/mL)は、ラット脳の(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合のBmax値を対照値に比べてそれぞれ34%、42%有意に減少させた。 ラウリン酸およびオレイン酸の存在下、[3H]prazosinおよび[3H]NMSの特異的結合をラット脳において測定したところ、[3H]prazosinおよび[3H]NMSの特異的結合のBmax値は減少した。以前の本発明者らの研究により、SPEはラット前立腺の[3H]prazosinおよび膀胱の[3H]NMSの特異的結合のBmax値を減少させることが知られており、非競合的に抑制すると考えられている。オレイン酸およびラウリン酸による[3H]prazosin結合抑制は、SPEと同じく、Bmax値の減少を伴っていることから、非競合的に抑制すると考えられる。 また、オレイン酸およびアラキドン酸(C20:4)がイヌ心臓膜への[3H]QNBの特異的結合のBmax値を減少させるとの報告がある(Rauch B. et al., J Mol Cell Cardiol, 21(1989), 495-506)。遊離脂肪酸と受容体膜標品のプレインキュベーションによって、ムスカリン性受容体のコンホメーションが変化し、放射標識リガンドが結合できない状態になる。その結果としてBmax値が減少するとRauchらは考察した。 このRauchらの考察から、オレイン酸およびラウリン酸は、ムスカリン性受容体のコンホメーションを変えたために、[3H]NMS結合のBmax値が減少したと考えられる。 また、オレイン酸およびラウリン酸はラット脳の(+)-[3H]PN 200-110の特異的結合のBmax値を減少させた。 ラット心筋細胞を用いた実験でドコサヘキサエン酸(C22:6)がCaチャネル作動薬(BAY K 8644)と拮抗薬(nitrendipine)の作用を減弱させるという報告がある(Kjome J.R. et al., J Mol Neurosci, 10(1998), 209-217)。このメカニズムとして、ドコサヘキサエン酸が1,4-DHP結合サイトまたはその近傍に結合し、膜のCaチャネルの蛋白-脂質間の環境や脂質間の環境を変えたことが原因であると考えられた。 したがって、ムスカリン性受容体のコンホメーション変化も含めて考え、オレイン酸およびラウリン酸が1,4-DHP Caチャネル拮抗薬受容体のコンホメーションを変えたために、(+)-[3H]PN 200-110結合のBmax値が減少したことが示唆された。 次に、SPEに含まれている主要5脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸)の5α-リダクターゼ活性の評価を行った。結果を図6および表4に示す。 なお、ここでは、5α-リダクターゼ阻害活性の測定は既知の方法を参考に行った(Liu J. et al., Biol Pharm Bull, 29(2006), 392-395)。タンパク濃度も既知の方法(Bradford M.M., Anal Biochem, 72(1976), 248-254)で測定し、活性評価まで−80℃で保存した。 阻害剤による評価は以下に示す条件で行った。1mMジチオスレイトールを含む20mM リン酸緩衝液(pH 6.5)、50μMテストステロン、脂肪酸のエタノール溶液、167μM nicotinamide adenine dinucleotide phosphate(以下、NADPH)、0.2mg proteinの雌性ラット肝ミクロソームを加え、終量300μLとした。活性の対照として脂肪酸の代わりにエタノールを用いた。NADPHとミクロソームを除く反応液を10分間37℃でプレインキュベーションし、NADPHとミクロソームを加え、37℃、10分間インキュベーション後、2M 水酸化ナトリウム10μLを添加することにより反応を停止させた。内部標準物質である30μM デキサメタゾン10μLを加えた後に600μLの酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層を窒素気流で乾固した後に、メタノール50μLに溶解した。LC/MS測定はWaters Alliance 2790およびWaters ZQ 2000を用いた。対照のDHT/デキサメタゾン面積比を5α-リダクターゼ活性の100%とし、脂肪酸存在下の5α-リダクターゼ活性と比較した。DHTおよびデキサメタゾンの選択イオンクロマトグラムを図7に示す。 図6より、SPEは5α-リダクターゼ活性を濃度依存的に抑制し、そのIC50値は101±2μg/mLであった(表4)。パルミチン酸を除く4種の脂肪酸も5α-リダクターゼ活性を濃度依存的 (10−200μg/mL) に抑制した。表4に示されているように、それらのIC50値は42.1−67.6μg/mLの範囲であり、パルミチン酸を除く4種の脂肪酸の酵素活性抑制作用はいずれもSPEより高かった。リノール酸、オレイン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸の4種はSPEに含まれる5α-リダクターゼ活性抑制成分の可能性が示唆された。 SPE、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リノール酸は濃度依存的に5α-リダクターゼ活性を抑制した。それぞれの脂肪酸間での活性抑制作用に大きな差は認められなかった。IC50値より、各脂肪酸の活性抑制作用はSPEよりも1.4−2.4倍高いことがわかる。したがって、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、リノール酸が5α-リダクターゼ活性抑制作用を示し、パルミチン酸が抑制作用を示さないことがわかった。 図8に、IC50値付近のSPE(116μg/mL)、その濃度での含有比率を元にして混合した3種の脂肪酸混合試料の5α-リダクターゼ活性を比較した結果を示す。 同図に示すように、IC50値付近のSPEの5α-リダクターゼ活性は対照に比べて41±2.0%であった。インデナ社ホームページ(http://www.indena.com/pdf/sabalselect.pdf)よりSPE(116μg/mL)のときのラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸の濃度を算出すると、それぞれ34.8μg/mL、33.6μg/mL、13.9μg/mLであった。図6に示されているように、ラウリン酸40μg/mL、ミリスチン酸20μg/mLでは5α-リダクターゼ阻害活性を示さなかった。一方で、オレイン酸33.6μg/mL存在下の5α-リダクターゼ活性は、阻害曲線から対照の83.6%と算出された。 したがって、図8に示すように、ラウリン酸34.8μg/mL、オレイン酸33.6μg/mL、ミリスチン酸13.9μg/mLの混合試料存在下の5α-リダクターゼ活性の理論値は対照の83.6%と算出された。一方、同図に示すように、混合試料の5α-リダクターゼ活性の実測値は対照の23±1.5%であった。脂肪酸単独の抑制作用の加算に比べ、脂肪酸混合によって抑制作用の増強が認められた。 ここで、ラウリン酸34.8μg/mL、オレイン酸33.6μg/mL、ミリスチン酸13.9μg/mLをモル濃度に換算すると、それぞれ152μM、119μM、69μMとなり、合計341μMである。オレイン酸341μM(96.2μg/mL)存在下の5α-リダクターゼ活性の理論値は、対照の11%と算出された。混合した脂肪酸の抑制作用に比べ、オレイン酸単独の方が酵素活性の抑制作用は高かった。 SPE (116μg/mL) に含まれるラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸の濃度は、上記のように、インデナ社ホームページによると、それぞれ 34.8、33.6、13.9μg/mLである。各濃度のラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸を混合した場合の5α-リダクターゼ活性の理論値は、対照に比べて約8割残存することになる。一方、上記濃度で混合した脂肪酸存在下の5α-リダクターゼ活性の実測値は対照に比べて23%の活性を示し、活性の約8割が抑制された。この事実は、3種の脂肪酸による5α-リダクターゼ阻害活性の総和では説明できない。このことから、ラウリン酸およびミリスチン酸添加によるオレイン酸の作用を増強、すなわち薬力学的相互作用があると考えられる。また、3種の脂肪酸の合計濃度に相当するオレイン酸 (96.2μg/mL) 存在下の5α-リダクターゼ活性の理論値は対照比11%と算出されたことより、オレイン酸単独では、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸混合時の実測値に比べて高い抑制作用を示す可能性が示唆された。 以上のことから、SPEの5α-リダクターゼ活性抑制作用に比べて脂肪酸混合試料の抑制作用の方が高いことが明らかとなった。この原因としては、SPEには5α-リダクターゼ活性の抑制作用を示さないエステル体が含まれているために、遊離脂肪酸のみの混合脂肪酸に比べて抑制作用が低かったと考えられる。 さらに、3種の脂肪酸が排尿改善効果に有効であることを確認するために、SPE、脂肪酸単体(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)、2種の脂肪酸試料(オレイン酸およびミリスチン酸)、前記した3種の脂肪酸混合試料を用い、そのムスカリン性受容体に対する結合活性について検討を行った。試験方法は上記の方法を用いて測定した。 ここで、各試料は、SPE中に含まれる割合(ラウリン酸:30.2%、オレイン酸:26.5%、ミリスチン酸:12.1%)で調整された。 すなわち、100μg/mLの試料では、SPE(100μg/mL)、ラウリン酸(30.2μg/mL)、オレイン酸(26.5μg/mL)、ミリスチン酸(12.1μg/mL)、オレイン酸およびミリスチン酸(26.5μg/mL(オレイン酸)+12.1μg/mL(ミリスチン酸))、脂肪酸混合試料(30.2μg/mL(ラウリン酸)+26.5μg/mL(オレイン酸)+12.1μg/mL(ミリスチン酸))の濃度のものを用いて試験を行った。結果を表5および図9に示す。 表5および図9より、ほとんどの試料で、試料の濃度の増加に伴い、[3H]NMS特異的結合率が減少していくことがわかる。すなわち、試料の濃度の増加に伴い、ムスカリン性受容体に対する結合活性が上昇していることが明らかとなった。脂肪酸単体では、それほど高い結合活性を示さなかったが、高濃度のオレイン酸試料では、顕著な結合活性を示していた。 また、オレイン酸およびミリスチン酸の混合試料も、高いムスカリン性受容体結合活性を示していた。 加えて、5α-リダクターゼ活性抑制作用の結果と同様に、SPEよりも、3種の脂肪酸混合試料の方がムスカリン性受容体に対する結合活性が高いことが明らかとなった。したがって、5α-リダクターゼ活性抑制作用のみならず、ムスカリン性受容体結合活性も高いこれらの成分を含むことで、SPEと同等ないしより優れた排尿障害改善剤が製造可能であることが示唆された。 次に、これらの結果をもとに、上記3種の脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)を配合し、SPEと同等ないしより優れた排尿障害改善剤を製造するために、より優れた効果の期待できる脂肪酸組成について検討を行った。 合計50μg/mLの3種の脂肪酸(ラウリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸)の組成を変化させた際のムスカリン性受容体に対する結合活性を、上記の試験方法を用いて測定した。結果を表6および図10に示す。 表6および図10より、各脂肪酸単体では、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸の順に[3H]NMS特異的結合抑制率が高く、特にオレイン酸の抑制率が高かった。すなわち、オレイン酸のムスカリン性受容体に対する結合活性が一番高いことがわかる。しかしながら、抑制率が一番高かったのはサンプル番号2のオレイン酸およびミリスチン酸の混合物(配合割合4:1)であることから、ミリスチン酸を添加することによりオレイン酸のムスカリン性受容体結合活性作用を増強していることがわかった。しかしながら、単独ではミリスチン酸より結合活性が若干高いラウリン酸をオレイン酸に添加しても、オレイン酸のムスカリン性受容体結合活性作用を増強しなかった。 これらの結果から、本発明にかかる排尿障害改善剤は、オレイン酸に特定割合のミリスチン酸を添加することが重要である。すなわち、本発明にかかる排尿障害改善剤は、オレイン酸、ミリスチン酸を1:0〜2:3で含むことを特徴とする。オレイン酸、ミリスチン酸を4.5:0.5〜1:1で含むことが好適である。また、オレイン酸、ミリスチン酸を4:1〜3:2で含むことが特に好適である。ミリスチン酸の含有割合が小さすぎる場合、ミリスチン酸添加によるムスカリン性受容体結合活性作用を増強できなくなってしまう。ミリスチン酸の含有割合が大きすぎる場合、オレイン酸の含有割合が相対的に減ってしまうため、ムスカリン性受容体結合活性作用に劣る傾向にある。 本発明にかかる排尿障害改善剤において、ノコギリヤシ果実抽出液を含み、オレイン酸とミリスチン酸を上記組成に調整する方法としては、特に限定されるものではないが、ノコギリヤシ果実の原産地を変える方法、ノコギリヤシ果実の抽出方法を変える方法、ノコギリヤシ果実抽出液にオレイン酸ないしミリスチン酸を添加する方法等が挙げられる。ノコギリヤシ果実抽出液を含み、 ミリスチン酸(X)、オレイン酸(Y)、ラウリン酸(Z)の三成分の配合質量比が、三相図において以下の座標で囲まれる範囲内であることを特徴とする排尿障害改善剤。(X,Y,Z)=(0,100,0)、(0,80,20)、(20,60,20)、(40,60,0) ノコギリヤシ果実抽出液を、 n−ヘキサン/メタノール−水により抽出し、 水相(メタノール−水)を、ジエチルエーテルにて抽出し、 ジエチルエーテル相を、シリカゲルクロマトグラフィーにより、n−ヘキサン−ジエチルエーテル(組成4:1)で活性画分を精製し、 該活性画分を、逆相クロマトグラフィーにより、分画することにより製造され、 ミリスチン酸(X)、オレイン酸(Y)、ラウリン酸(Z)の三成分の配合質量比が、三相図において以下の座標で囲まれる範囲内であることを特徴とする排尿障害改善剤。(X,Y,Z)=(0,100,0)、(0,80,20)、(20,60,20)、(40,60,0)


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