タイトル: | 公開特許公報(A)_SCO2関連遺伝子導入ショウジョウバエ及びその利用方法 |
出願番号: | 2009163868 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A01K 67/027,C12N 15/09,G01N 33/15,G01N 33/50 |
山口 政光 井田 寛之 黒田 泰壽 JP 2011015659 公開特許公報(A) 20110127 2009163868 20090710 SCO2関連遺伝子導入ショウジョウバエ及びその利用方法 環境衛生薬品株式会社 509196475 国立大学法人京都工芸繊維大学 504255685 木島 智子 100113044 山口 政光 井田 寛之 黒田 泰壽 A01K 67/027 20060101AFI20101224BHJP C12N 15/09 20060101ALI20101224BHJP G01N 33/15 20060101ALI20101224BHJP G01N 33/50 20060101ALI20101224BHJP JPA01K67/027C12N15/00 AG01N33/15 ZG01N33/50 Z 14 12 OL 45 2G045 4B024 2G045AA24 2G045AA29 2G045DA14 4B024AA11 4B024BA80 4B024CA11 4B024CA12 4B024DA02 4B024EA04 4B024FA02本発明は、SCO2関連遺伝子を導入したショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)に関するものであり、より詳しくは、SCO2の過剰発現又は発現量低下によって起こる疾患のモデルショウジョウバエに関するものである。癌細胞における解糖系へのエネルギーシフト(ワールブルグ効果)に関わる遺伝子として、SCO2が報告されている(非特許文献1)。SCO2とは、好気呼吸を行うミトコンドリア内に存在する、シトクロムCの働きを活性化する酵素であり、生物のエネルギー産生(ATPの産生)等に関わっている蛋白質である。SCO2の発現によって、ATPの産生が促進され、逆に発現低下によって、ATP産生量が抑制される。従って、SCO2蛋白質を過剰に発現させた疾患モデルであれば、エネルギー産生の活性化により、活性酸素を生じやすく、老化のモデル動物として、老化防止剤や遅延剤等のスクリーニングに役立つことが期待される。逆にSCO2遺伝子の発現を低下させた疾患モデルが得られれば、エネルギー産生の低下(エネルギー消費の低下)による肥満モデル動物として、肥満の緩和剤や予防剤等のスクリーニングに役立つことが期待される。このほか、SCO2は、上述のワールブルグ効果等に関わることから、癌細胞のバイオマーカーの探索にも利用できると考えられる。一方、近年、マウスやラットに代わる動物疾患モデルとして、ショウジョウバエモデルが有用であることが知られてきている。ショウジョウバエモデルの例として、例えば、ヒトの脳神経細胞の長期生存と神経伝達機能に関わるブラディオン遺伝子を、ショウジョウバエの複眼原基にのみ発現させるように組み込み、ラフ・アイ(rough eye)を生じさせたショウジョウバエモデルが既に開発されている(特許文献1)。ショウジョウバエモデルは、マウスやラット等に比べて、例えば下記のような利点を有している。1)飼育が容易で、疾患モデル作製や維持等のコストも安い。2)多数の個体を一度に取り扱うことができる。3)世代交代が早く、研究の効率化が可能である。4)薬剤等のスクリーニング効率が良い。5)ショウジョウバエの場合には、マウスに比べて、時期・特異的なプロモーターの種類が多い等、遺伝子発現も様々な時期・組織に特化させることができるため、使用できる範囲が広汎である。しかも、ショウジョウバエには、ヒトの病気の原因遺伝子の61%があること等も分かってきており、ショウジョウバエモデルは、マウスやヒトでの実験に先立っての、薬剤の一次スクリーニング系としての利用価値が高い。従って、SCO2の発現を制御したショウジョウバエモデルがあれば、簡便にSCO2に起因する疾患の予防又は治療剤等をスクリーニングすることができるのでは無いかと考えられる。しかし、遺伝子操作自体が仮に容易であったとしても、遺伝子型の違いが表現型(形態的形質)の違いとなって現れるとは限らないため、ターゲット遺伝子に関連する遺伝子操作によって、必ずしも現在の技術レベルで識別可能な表現型が得られるとは限らず、疾患モデルの作製は、それほど容易では無い。 その一方で、遺伝子発現量の増減によって、表現型が出易い遺伝子ほど、逆に疾患モデル全身で発現させることによって致死(実験系の崩壊)に至る傾向にあり、明瞭な表現型の獲得と、疾患モデルの生存を両立させることは、必ずしも容易では無い。現に、これまで、ショウジョウバエどころか、モデル開発例の多いマウスやラットでも、SCO2関連遺伝子を利用した疾患モデルについての報告は無かった。特許第3932358号公報Matoba S. Science. 2006 Jun 16;312(5780):1650-3本発明者は、上記の問題を解決するために鋭意検討した結果、SCO2発現量の増減によっても致死に至らず、しかも識別可能な表現型の変化を生ずショウジョウバエを得ることに成功し、本発明に到達したものであって、その目的とするところは、SCO2の機能解析や、SCO2に起因する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング等に用いることのできるショウジョウバエモデル(本発明の第2世代ショウジョウバエ),及びそれを作製できる親世代に相当するショウジョウバエ(本発明の第1世代ショウジョウバエ),並びにそれらの利用方法等を提供することにある。上述の目的は、下記第一の発明から第十四の発明によって、達成される。<第一の発明>下記(i)又は(ii)が導入されていることを特徴とするショウジョウバエ。(i)SCO2と同等の構造及び機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド(ii)内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子をコードするポリヌクレオチド<第二の発明>(i)が、(i−1)又は(i−2)であることを特徴とする、第一の発明に記載のショウジョウバエ。(i−1)SCO2蛋白質をコードするポリヌクレオチド(i−2)SCO2蛋白質の1乃至数個のアミノ酸が欠失,置換,付加,及び/又は挿入された蛋白質をコードするポリヌクレオチド。<第三の発明>(ii)の、内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子が、(ii−1)及び(ii−2)によって形成された二本鎖を含むものであることを特徴とする、第一の発明に記載のショウジョウバエ。(ii−1)SCO2のmRNAの一部に相当する配列を有するRNA(ii−2)(ii−1)と二本鎖を形成し得る程度に相補的な配列を有するRNA<第四の発明> SCO2が、ショウジョウバエ由来SCO2であることを特徴とする、第一の発明乃至第三の発明のいずれかに記載のショウジョウバエ。<第五の発明>ショウジョウバエ由来SCO2が、キイロショウジョウバエ由来SCO2であることを特徴とする、第一の発明乃至第四の発明のいずれかに記載のショウジョウバエ。<第六の発明>キイロショウジョウバエ由来SCO2のmRNA前駆体が、配列番号1で表される、CG8885であることを特徴とする、第五の発明に記載のショウジョウバエ。<第七の発明>(ii−1)が、CG8885の転写開始点から数えて600〜964番目の塩基(配列番号3)を含む配列であることを特徴とする、第六の発明に記載のショウジョウバエ。<第八の発明>更に、時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターが導入されていることを特徴とする、第一の発明乃至第七の発明のいずれかに記載のショウジョウバエ。<第九の発明>複眼が形態異常を示していることを特徴とする、第八の発明に記載のショウジョウバエ。<第十の発明>複眼の形態異常が、ラフ・アイであることを特徴とする、第九の発明に記載のショウジョウバエ。<第十一の発明>下記(A)と(B)を交配することを特徴とする、第八の発明乃至第十の発明のいずれかに記載のショウジョウバエの作製方法。(A)下記(i)又は(ii)が導入されていることを特徴とするショウジョウバエ (i)SCO2と同等の構造及び機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド (ii)内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子をコードするポリヌクレオチド(B)時期及び/又は組織特異的に、(i)又は(ii)に対する転写調節因子を発現し得るショウジョウバエ<第十二の発明>(A)及び(B)が、下記のものであることを特徴とする、第十一の発明に記載のショウジョウバエの作製方法。(A)(i)又は(ii)の上流に、転写活性化因子GAL4の結合領域であるUAS配列を有するショウジョウバエ(B)時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターが、Glassであり、その下流にGAL4をコードする配列を有するショウジョウバエ<第十三の発明>第八の発明乃至第十の発明のいずれかに記載のショウジョウバエを用いることを特徴とする、SCO2の発現異常に起因する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法。<第十四の発明>第八の発明乃至第十の発明のいずれかに記載のショウジョウバエと、他の遺伝的特性を有するショウジョウバエ株を交配し、その表現型を確認することを特徴とする、複眼形態異常の増強又は抑制遺伝子のスクリーニング方法。本発明の第1世代のショウジョウバエは、各種の、時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターを含むショウジョウバエ系統との交配によって、様々な本発明の第2世代ショウジョウバエを容易に作製できる。また、時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターを含んでいる本発明の第2世代ショウジョウバエは、時期及び/又は組織特異的に、SCO2の発現を促進又は阻害できるため、「対象となるショウジョウバエが発生時から死亡して実験系が崩壊する」という恐れが無い。本発明の第2世代ショウジョウバエは、肥満や癌,老化等に関係すると思われるSCO2遺伝子の異常発現を、確認が比較的容易な複眼に置いて発現させたモデルであり、肥満,癌,老化等の「SCO2の発現異常に起因する疾患や症状」の診断,予防,又は治療剤の、初期スクリーニングに用いることができると考えられる。更に、本発明の第2世代ショウジョウバエは、他の遺伝的特性を有するショウジョウバエの系統と、自由に交配することによって、様々なショウジョウバエモデル(本発明の第3世代ショウジョウバエ)を作製することもでき、その表現型を確認することによって、複眼形態異常の増強又は抑制遺伝子のスクリーニング,ひいてはSCO2に起因する疾患の予防に役立つ遺伝子のスクリーニングをすることができる。また、本発明のショウジョウバエは、当然ながら、下記のような、ショウジョウバエモデルが一般的に有する利点をも有するものである。1)飼育が容易で、疾患モデル作製や維持等のコストも安い。2)多数の個体を一度に取り扱うことができる。3)世代交代が早く、研究の効率化が可能である。4)薬剤等のスクリーニング効率が良い。5)遺伝子発現も様々な時期・組織に特化させることができるため使用できる範囲が広汎である。6)卵の状態で、保管・運搬することができるため、系統の維持や広範な利用が容易である。更に、本発明のショウジョウバエ株のその他の生物学的性質は、正常ショウジョウバエと何ら変わらない。また、本発明のショウジョウバエは、他の遺伝的性質を有するショウジョウバエの他の株と交配することも可能で、交配により、導入されたSCO2遺伝子及び交配に用いた他のショウジョウバエ株の遺伝子が子孫に伝わり、該子孫にSCO2遺伝子導入という形質及び他の株の遺伝形質を伝えることができる。本発明の第1世代ショウジョウバエと、時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターが導入されている別のショウジョウバエとの交配によって、本発明の第2世代ショウジョウバエを作製する方法を示す図である。コントロールであるショウジョウバエの複眼の形態(対照例1,株番号:yw)を示す図(×200倍)である。尚、ywとは、y(黄体色)及びw(white:赤眼)遺伝子が欠損した系を意味する。コントロールであるショウジョウバエの複眼の形態(対照例1,株番号:yw)を示す図(×800倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例1-(2),株番号:8-3)を示す図(×200倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例1-(2),株番号:8-3) を示す図(×800倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例2-(2),株番号:19)を示す図(×200倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例2-(2),株番号:19)を示す図(×800倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例3-(2),株番号:21-1)を示す図(×200倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例3-(2),株番号:21-1)を示す図(×800倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例4-(2),株番号:21-2)を示す図(×200倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例4-(2),株番号:21-2)を示す図(×800倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例5-(2),株番号:21-4)を示す図(×200倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例5-(2),株番号:21-4)を示す図(×800倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例6-(2),株番号:22)を示す図(×200倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例6-(2),株番号:22)を示す図(×800倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例7-(2),株番号:23-2)を示す図(×200倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例7-(2),株番号:23-2)を示す図(×800倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例8-(2),株番号:27-2)を示す図(×200倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例8-(2),株番号:27-2)を示す図(×800倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例9-(2),株番号:34-1)を示す図(×200倍)である。本発明の「I型」の第2世代ショウジョウバエの複眼形態異常の一例(実施例9-(2),株番号:34-1)を示す図(×800倍)である。本発明の実施例1〜9で用いた、「Flag-SCO2遺伝子を導入したpUASTプラスミド」を表す図である。本発明の実施例10〜20で用いた、「SCO2に対するRNAi分子をコードする遺伝子を導入したpWIZプラスミド」を表す図である。SCO2mRNA前駆体(配列番号1)を示す図である。SCO2mRNA(配列番号2)を示す図である。SCO2IR(配列番号3)を示す図である。以下、本発明について詳細に説明する。尚、本発明の図面及び配列表において表されるものがRNAである場合には、図面及び配列表において「t」と記載されているものを「u」と読み替えるものとする。[本発明の第1世代・第2世代ショウジョウバエ及びその作製方法]本発明のショウジョウバエは、下記(i)又は(ii)が導入されていることを特徴とするショウジョウバエである。(i)SCO2と同等の構造及び機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド(ii)内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子をコードするポリヌクレオチド尚、以下では、これらの(i)と(ii)を併せて、「SCO2関連遺伝子」と記載することがある。尚、本発明の「(i)又は(ii)が導入されているショウジョウバエ」には、後述する、「本発明の第1世代ショウジョウバエ」,「本発明の第2世代ショウジョウバエ」,「本発明の第3世代ショウジョウバエ」,及びこれらの子孫の、いずれをも含むものとする。まず、「本発明の第1世代ショウジョウバエ」について説明する。〈本発明の第1世代ショウジョウバエ〉本発明の第1世代ショウジョウバエとは、(i)又は(ii)が導入されているが、それらを発現させるためのプロモーターが導入されておらず、(i)や(ii)が発現していないショウジョウバエを意味する。本発明に用いられるSCO2遺伝子としては、ヒト,マウス,ハエ等の各種生物に存在する、SCO2に相当する蛋白質の遺伝子が挙げられるが、本発明のショウジョウバエに導入するのに用いられるSCO2遺伝子としては、ショウジョウバエ由来のものが好ましく、中でもキイロショウジョウバエ由来のSCO2遺伝子が好ましい。キイロショウジョウバエ由来のSC02遺伝子としては、具体的なものとして、CG8885(SCO2のmRNA前駆体)が挙げられ、これは、NCBIより、NM_135040.2として入手することができる。キイロショウジョウバエ由来のSCO2遺伝子は、宿主となるショウジョウバエが本来有している内因性SCO2配列に近く、しかもヒトSCO2との相同性が高いという点や、既に配列が解明され、遺伝子が寄託されているという点で、好ましい。以下、本発明の第1世代ショウジョウバエのうち、導入する遺伝子ごとに、(i),(ii)と分けて説明する。(i)が導入されているものは、SCO2遺伝子の発現が促進されたショウジョウバエ(以下「(I)SCO2過剰発現型ショウジョウバエ」,又は単に「I型ショウジョウバエ」,「I型」等と記載することがある。)となる。(ii)が導入されているものは、内因性のSCO2遺伝子の発現が阻害されたショウジョウバエ(以下「(II)SCO2発現抑制型ショウジョウバエ」,又は単に「II型ショウジョウバエ」,「II型」等と記載することがある。)となる。[(I)SCO2過剰発現型ショウジョウバエ]本発明の(I)SCO2過剰発現型ショウジョウバエに導入されている「(i)SCO2と同等の構造及び機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド」としては、下記の(i−1)や(i−2)等が挙げられる。(i−1)SCO2蛋白質をコードするポリヌクレオチド。(i−2)SCO2蛋白質の1乃至数個のアミノ酸が欠失,置換,付加,及び/又は挿入された蛋白質をコードするポリヌクレオチド。(i−1)としては、例えば配列番号2と相補的な配列が挙げられる。尚、配列番号2は、SCO2の構造遺伝子の、開始コドン(ATG)が省略されたものであるが、これは、SCO2遺伝子の前方に、後述するFlag遺伝子を連結するためである(Flagに開始コドン有り。)。従って、Flag遺伝子等を共に用いない場合には、「配列番号2の前に、ATG等の開始コドンを付けたもの」と相補的な配列を用いるのが良い。(i−2)としては、SCO2DNAと、ストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド等が挙げられる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を言い、例えば、J. Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Mannual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)(特に11.45節“Conditions for Hybridization of oligonucleotide Probes等)に記載されている条件等が挙げられる。具体的には、完全ハイブリッドの融解温度より、通常約5℃〜約30℃,好ましくは約10℃〜約25℃低い温度でハイブリダイゼーションが起こる場合をいう。このようなポリヌクレオチドとしては、そのコードする蛋白質のアミノ酸配列が、SCO2と、好ましくは90%以上,より好ましくは95%以上,特に好ましくは97%以上の相同性を有するもの等が挙げられる。このようなショウジョウバエは、公知の遺伝子組換技術を利用して作製することができるが、具体的には例えば、下記のような方法で作製することができる。(SCO2遺伝子の準備)SCO2遺伝子,すなわち「(i−1)SCO2蛋白質をコードするポリヌクレオチド」は、例えば、「SCO2をコードするmRNA(ショウジョウバエ成虫から回収した全RNAの中から精製)」と「逆転写酵素」によって、cDNAとして作製しても良いが、既知のSCO2配列情報をもとに、人工的に合成することもできる。また、「(i−2)SCO2蛋白質の1乃至数個のアミノ酸が欠失,置換,付加,及び/又は挿入された蛋白質をコードするポリヌクレオチド」は、(i−1)を遺伝子組換する方法,あるいは、一から人工的に合成する方法等によって、作製することができる。尚、キイロショウジョウバエのSCO2遺伝子「CG8885(mRNA前駆体)」は、DGRC:Drosophila Genomics Resource Center(USA)等から分譲を受けることも可能である。また、ヒトSCO2遺伝子は、かずさDNA研究所より、例えば「Flexi PID:FXC06740L又はFXC06741(Homo sapiens SCO2 full length open reading frame (ORF) cDNA clone (cDNA clone C22ORF:pGEM.SCO2).)」等のようなcDNAとして分譲を受けることが可能である(http://www.kazusa.or.jp/kop/dsearch/)。(cDNAの増幅)次に、上記で得られた例えばcDNAのようなSCO2遺伝子を、それを鋳型としたPCR法等によって増幅する。その際、プライマーとして、ショウジョウバエへの導入に用いるプラスミドベクター等に連結できるように、適当な制限酵素部位を有するプライマーを用いるのが好ましい。(SCO2遺伝子の導入)SCO2のcDNAは、公知の遺伝子導入方法によって、ショウジョウバエに導入することができるが、プラスミド等のベクターを用いることが好ましい。また、プラスミド導入後、宿主ゲノムに遺伝子を導入する方法としては、トランスポゾンを利用する方法が、ショウジョウバエにおいて汎用されているため好ましい。(組換プラスミドの作製)増幅されたcDNAを、上記で用いたプライマーと同じ制限酵素部位を有するプラスミドのような適当なベクターに連結し、組換プラスミドを作製する。遺伝子導入の際に、トランスポゾンを利用する場合には、プラスミドとしては、P-エレメントプラスミドを用いる。P-エレメントプラスミドとは、トランスポゼースの代わりにSCO2のような外来遺伝子を有する、P-エレメントベクター(トランスポゼースを欠くP因子(ベクターP因子))を意味し、プラスミドの導入対象ショウジョウバエに予め導入されていたトランスポゼースが、このP因子中の30塩基の反復配列を認識し、切断・転移を促す。尚、用いるプラスミドとしては、適当なマーカー遺伝子を予め含むものが好ましく、例えばwhite遺伝子が含まれているものが好ましい。white遺伝子とは、白眼の突然変異ショウジョウバエにおいて欠失していることが確認された遺伝子である。white遺伝子を持たないショウジョウバエの複眼は白く、white遺伝子の導入された複眼は、赤くなる。そのため、white遺伝子を持たない(whiteマイナス)突然変異型のショウジョウバエを、本発明におけるSCO2遺伝子の導入対象(宿主)として用い、遺伝子導入操作後、眼の赤いショウジョウバエを選ぶことで、形質転換ショウジョウバエを容易に選択できるからである。このような条件をいずれも満たすプラスミドとしては、例えばpUASTプラスミド(Brand, A. H. and Perrimon, N. (1993). Development, 118, 401-415. )等が挙げられる(図12参照)。(組換プラスミドのショウジョウバエへの導入)得られた組換プラスミドを精製後、遺伝子導入対象であるショウジョウバエ系統の受精卵に、微量注入する(Spradling, A. C. (1986). Drosophila : a practical approach. Roberts, D. B. (ed.). IRL Press : Oxford, pp175-197. )。尚、遺伝子導入するショウジョウバエ系統は、特にキイロショウジョウバエに限られるものでは無いが、上述のP-エレメントプラスミドは、キイロショウジョウバエに導入するのに適していると言った観点からは、トランスポゾンを利用して遺伝子導入を行う場合には、キイロショウジョウバエを用いることが好ましい。また、P-エレメントプラスミドを用いる場合には、導入対象のショウジョウバエが、内因性P-エレメントを持たないが、トランスポゼース遺伝子を有するものであることが必要である。プラスミド中のP-エレメントを切り出して、導入対象のショウジョウバエゲノムに組み込むためには、トランスポゼースが必要だからである。このような内因性P-エレメントを持たないが、トランスポゼース遺伝子を有するショウジョウバエは、「Robertson et al. Genetics 118, 461-470, 1988」等に従って作製することもできるが、具体的には、例えば、京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センターから、Δ2,3系統のショウジョウバエ(DGRC number 106416)として入手することができ、この系の中で、よりトランスポゼース能が高いものを適宜選抜し、用いることができる。(遺伝子導入ショウジョウバエの取得)本発明の、「I型」の第1世代ショウジョウバエは、上記のプラスミド等によって、SCO2遺伝子が導入された受精卵から得られた成体も含むが、更にもう一度、SCO2遺伝子が導入されていないショウジョウバエ(例えばyw系等)によって、交配したものが好ましい。受精卵に注入されたSCO2遺伝子は、生殖細胞にしか導入されないが、更なる交配によって、体細胞全体にSCO2遺伝子が導入されるため、下記のような方法で、複眼等の特異的な組織にマーカー遺伝子を発現させることによって、容易に形質転換ショウジョウバエを選別することも可能となるからである。形質転換ショウジョウバエは、例えば上述したwhite遺伝子のようなマーカーによって、形質転換体を選択する。ショウジョウバエの染色体には、第I(X(エックス)染色体とも言う),第II,第III,第IV染色体の4種があるが、上記操作によって、例えば表1に示すような、SCO2遺伝子が第I〜IVの各染色体にランダムに導入されたショウジョウバエ(第1世代の(I)型ショウジョウバエ)を得ることができる。どの染色体に導入されたかは、各染色体に目で見てわかるマーカーの入っているバランサー染色体を利用した、遺伝的交配実験によって確認することができる。例えば下記実施例(表1)で示すものの中では、第II染色体にSCO2遺伝子が導入されているものが、複眼原基の形態異常の程度が大きく、形態異常の見分けが容易で、導入されたSCO2遺伝子の発現効率が高かったが、発現効率は、導入染色体番号よりも、導入位置等の方が関係すると考えられるため、どの染色体に導入するのが良いかは、一概に言えない。発現効率の高いものを取得するには、様々な染色体の、様々な位置に導入したものを用意し、その中から選別するのが良い。SCO2遺伝子の導入先の染色体をコントロールすることは困難であるが、ショウジョウバエへの遺伝子導入においては、一般に、ある程度の数の導入実験を行えば、一定の確率を持って、各染色体に導入することができる。また、1系統でも遺伝子導入ショウジョウバエを得ることができれば、pUASTを再転移させることによって、他の染色体に導入することができる。尚、上記した通り、同じ染色体中であっても、その導入位置によって、発現効率が異なるため、同じ染色体に導入したものも、複数系統作製し、その中から選別するのが好ましい。[(II)SCO2発現抑制型ショウジョウバエ]本発明の(II)SCO2発現抑制型ショウジョウバエに導入されている「(ii)内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子をコードするポリヌクレオチド」の、「内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子」としては、いわゆるアンチセンスRNAや、RNA干渉作用を有する遺伝子(RNAi分子)等が挙げられるが、RNAi分子が、SCO2発現抑制効率が高い点で好ましい。(RNAi分子の準備)RNAi分子としては、一般に、(ア)miRNA(microRNA)と呼ばれる短い一本鎖RNAを生じる、短い二本鎖RNA分子と、(イ)ダイサーによって最終的に切断されて、複数のmiRNAを生じる、ヘアピンループ型の分子(shRNA:short hairpin RNA)があるが、その中でもshRNAが、複数のmiRNAを生じるため、発現抑制効率が高いという理由で好ましい。本発明において用いられるRNAi分子は、具体的には下記の(ii−1)及び(ii−2)によって形成された二本鎖を含むものとして表される。(ii−1)SCO2のmRNAの一部に相当する配列を有するRNA(ii−2)(ii−1)と二本鎖を形成し得る程度に相補的な配列を有するRNA(ii−1)の「SCO2のmRNAの一部」とは、例えば、SCO2のmRNA配列中の、SCO2配列に特異的な配列であって、RNAi分子がmiRNAの場合には、約20〜25塩基,RNAi分子がshRNAの場合には、約200〜500塩基の配列を意味する。このような配列としては、遺伝子導入用プラスミドにもともと含まれる制限酵素部位さえ含まなければ、SCO2のmRNA配列の中から、適宜選択できるが、shRNA用の200〜500塩基の配列の場合、例えば、配列番号3で表されるような配列を含む配列が挙げられる。配列番号3は、配列番号1(SCO2mRNA前駆体)の、転写開始位置から数えて600〜964番目の365塩基からなる配列である。(ii−2)の、(ii−1)と「二本鎖を形成し得る程度に相補的」とは、例えば上記(ii−1)の約20〜25塩基又は約200〜500塩基の配列のうち、好ましくは90%以上,更に好ましくは95%以上の相同性を有するもの等が挙げられる。miRNAの場合、(ii−1),(ii−2)は、互いに相補的に結合し、二本鎖を形成している。このようなmiRNAは、合成したものを、細胞へのトランスフェクトや、胚へのマイクロインジェクト等によって、対象ショウジョウバエに導入することができる。shRNAの場合には、導入プラスミド中のDNAの時点では(ii−1),(ii−2)は、二本鎖プラスミドのうちの一本鎖中に、ヘアピンループのループをコードする配列を挟んで、逆向きに連結されており((ii−1),(ii−2)は、それぞれ相補対を有する二本鎖としてプラスミド中に連結されているため、「二本鎖」として見た場合には、(ii−1),(ii−2)は、互いにインバートリピート(IR)配列を形成している。)、RNAへの転写後に、互いに相補的に結合することで、へアピンループ構造を形成している。尚、後述する本発明の実施例においては、「white intron 2」を、ヘアピンループ構造の、ヘアピン部分に用いている。(RNAi分子をコードするポリヌクレオチドの導入)「(II)SCO2発現抑制型ショウジョウバエ」に、RNAiを導入する具体的な手段としては、例えば、RNAi分子を導入するために開発された、pWIZプラスミドベクター(RNAi, A Guide to Gene Silencing, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2003, chapter17:RNAi Applications in Drosophila melanogaster, Richard W. Carthew, 及び図13参照)等を用いる方法が挙げられる。このpWIZプラスミドは、「I型ショウジョウバエ」で用いたpUASTプラスミドが、更に改良されたものであって、pUASTと同様に、UAS配列, white遺伝子, P-エレメントを有している。(RNAi分子を導入したショウジョウバエの取得)従って、pWIZプラスミドを用いた場合も、pUASTプラスミドを用いた「I型」ショウジョウバエの場合と同様に、第1世代のショウジョウバエへの遺伝子導入でのトランスポゾンの利用,及び第2世代のショウジョウバエでのGAL4-UAS標的発現系の利用whiteマーカーによる、形質転換体の選別が可能であり、それによって、本発明の「II型」についても、第1世代及び、後述する本発明の第2世代のショウジョウバエを作製することができる。(第1世代ショウジョウバエの性質)上記のようにして得られた本発明の第1世代のショウジョウバエ(「I型」及び「II型」)は、第2世代のショウジョウバエ作製の材料としての意義を有する。この第1世代を維持・保管することで、種々の第2世代を適宜作製することができる。また、本発明の第1世代のショウジョウバエ株(「I型」,「II型」)のその他の生物学的性質は、正常ショウジョウバエと何ら変わらない。このショウジョウバエは、他の株と交配することも可能で、交配により導入されたSCO2遺伝子及び交配に用いた他の株の遺伝子が子孫に伝わり、該子孫にSCO2遺伝子導入という形質及び他の株の遺伝形質を伝えることができる。このようにして得られた本発明のショウジョウバエ株は、卵の状態で保存・送付が可能である。次に、「本発明の第2世代ショウジョウバエ」について説明する。〈本発明の第2世代ショウジョウバエ〉本発明の第2世代ショウジョウバエとは、(i)又は(ii)及び、それらを発現させるためのプロモーターが導入されており、(i)や(ii)が時期及び/又は組織特異的に発現しているショウジョウバエを意味する。本発明の第2世代ショウジョウバエは、下記のようにして作製することができる。(プロモーターの導入)時期及び/又は組織特異的にSCO2を発現するショウジョウバエ(本発明の第2世代ショウジョウバエ)は、例えば図1で表されるように、上記の様にして得られた本発明の第1世代ショウジョウバエと、時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターが導入されている別のショウジョウバエとの交配によって、自由に作製することができる。尚、本発明の第1世代ショウジョウバエ作製の時点で、時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターをSCO2関連遺伝子とともに同時に導入することもできるが、種々のプロモーターを有する公知のショウジョウバエと交配することによって、後述する種々の第2世代ショウジョウバエを、自由かつ容易に作製することができるため、所望のプロモーターは、交配によって適宜導入するのが好ましく、特にショウジョウバエにおいては、図1の様な、GAL4-UAS標的発現系(Brand, A. H. and Perrimon, N. (1993). Development, 118, 401-415. )が既に確立されているため、この系を利用することが好ましい。GAL4-UAS標的発現系とは、下記(X)のショウジョウバエと(Y)のショウジョウバエを交配して得られたショウジョウバエの中から、(X)由来遺伝子及び(Y)由来遺伝子の両方を有し、そのGAL4を介したトランス活性化によって、発生時期・組織特異的に、SCO2の発現を制御(過剰発現又は内因性SCO2の発現阻害)し得るショウジョウバエを得る方法である。(X)時期及び/又は組織特異的,一例として複眼原基特異的に発現するプロモーターであるGlassプロモーターと、その下流に連結された、転写活性化因子GAL4を含む遺伝子が導入されたショウジョウバエ(Y)目的遺伝子がGAL4結合配列(UAS)の下流に導入されたショウジョウバエこの複眼原基におけるSCO2発現異常は、正常では、多数の形成細胞からなる複眼が、発生時期に、その細胞周期をG0/G1に固定するように整合性が働く制御機構を、崩壊させ、その結果、ラフ・アイ(rough eye)という個々の個眼の細胞周期が整合されていない状態を生じる。従って、本発明の第1世代ショウジョウバエ作製の際に、GAL4結合配列(UAS)がSCO2関連遺伝子導入箇所の上流に来るようにしておくことで、このGAL4-UAS標的発現系を使用して、第2世代のショウジョウバエを作製することができる。具体的には、本発明の第1世代ショウジョウバエを作製する際に、上述したpUASTプラスミド(Brand, A. H. and Perrimon, N. (1993). Development, 118, 401-415. )等を用いれば、第1世代ショウジョウバエに、UAS配列と目的遺伝子(SCO2関連遺伝子)を導入することができる。尚、複眼原基の形態異常は、例えば、得られた第2世代のショウジョウバエを、異なる染色体にSCO2関連遺伝子が組み込まれた別種の第2世代のショウジョウバエと、更に交配する等して、導入するUAS-SCO2関連遺伝子の数を増やすことにより、より増強した、本発明の第3世代ショウジョウバエとして得ることができる。Glassプロモーターと、その下流に連結された、転写活性化因子GAL4を含む遺伝子が導入されたショウジョウバエは、 Takahashi Y, (1999) Nucleic Acids Res. 510-516に記載された方法で作製することができるが、京都工芸繊維大学染色体工学研究室(山口政光研究室)から入手することも可能である。(第2世代ショウジョウバエの性質)本発明の第2世代ショウジョウバエは、発生時より、SCO2発現が制御されることによって、複眼に異常(ラフ・アイ)を生じている。尚、本発明の第2世代のショウジョウバエ(「I型」,「II型」)も、第1世代ショウジョウバエと同様、その他の生物学的性質は、正常ショウジョウバエと何ら変わらない。このショウジョウバエは、他の株と交配することも可能で、交配により導入されたSCO2関連遺伝子及び交配に用いた他の株の遺伝子が子孫に伝わり、該子孫にSCO2関連遺伝子導入という形質及び他の株の遺伝形質を伝えることができる。このようにして得られた本発明のショウジョウバエ株は、卵の状態で保存・送付が可能である。次に、「本発明の第3世代ショウジョウバエ」について説明する。〈本発明の第3世代ショウジョウバエ〉本発明の第3世代ショウジョウバエとは、本発明の第2世代ショウジョウバエと、他の遺伝的特性を有するショウジョウバエ株を交配して得られたショウジョウバエである。この第3世代ショウジョウバエは、後述する、複眼形態異常の増強又は抑制遺伝子のスクリーニングにおいて用いることができる。[SCO2の発現異常に起因する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法]本発明の第2世代ショウジョウバエを用いることによって、SCO2の発現異常に起因する疾患の予防又は治療剤をスクリーニングすることができる。すなわち、本発明の第2世代ショウジョウバエに、候補物質を投与した前後での、複眼の様子を比較することによって、SCO2の発現異常を予防又は治療できたかどうかを確認することができる。これによってスクリーニングされた物質は、癌,肥満,老化等の、SCO2が関連すると考えられている疾患や症状等の予防又は治療剤となる可能性が高く、これらの予防又は治療剤の、マウスやヒトで試す前の初期スクリーニング(特に、HTS(ハイ・スループット・スクリーニング)等)に、好適に用いることができる。[複眼形態異常の増強又は抑制遺伝子のスクリーニング方法]以下の方法で、SCO2の過剰発現によってもたらされるラフ・アイ(rough eye)表現型を修飾する遺伝子のスクリーニングを行うことができる。即ち、欠失染色体を持つショウジョウバエ約200系統(これらの系統の染色体の欠失領域の総和は、ショウジョウバエ全ゲノムの約70%に相当する)を、例えば京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センター等より入手し、それらと複眼形態異常を示す本発明の第2世代の、遺伝子導入ショウジョウバエの系統とを逐次交配し、欠失染色体をヘテロで持たせた第3世代ショウジョウバエを作製する。そして、この第3世代ショウジョウバエの複眼を観察することで、複眼の形態異常を抑圧または、増強する原因となる欠失染色体のスクリーニングを行うことによって、SCO2に起因する疾患の発症又は抑制に関連する遺伝子の候補を選別することができる。そして、これらの交配実験の結果明らかとなる、欠失により抑圧または増強の見られる染色体領域内にP-エレメントの挿入されている挿入致死変異系統(米国およびヨーロッパゲノムプロジェクト,又は上述のDGRC本国ショウジョウバエ遺伝資源センターより入手可能)を収集し、同様の交配実験を行うことによって、複眼形態異常の増強又は抑制遺伝子を特定すること,及び、SCO2の発現異常に起因する疾患の予防又は治療剤を見つけることも可能となる。さらに、SCO2遺伝子を指標とした癌,エネルギー代謝,老化等の診断治療薬の、新規分子標的の探索(バイオマーカーの探索)も、以下の方法で行うことができる。即ち、上記のP-エレメント挿入致死変異系統で表現型の抑圧または、増強の見られるものが得られれば、P-エレメントプラスミドレスキュー法により、P-エレメント挿入によって不活化されている遺伝子をクローン化する。クローン化された遺伝子の部分塩基配列を決定し、データベース検索を行ってその遺伝子産物を同定するとともに、定法を用いてそれらのヒトホモログを同定する。また得られたP-エレメント挿入致死系統を用いて、既知の染色体高次構造制御遺伝子,細胞周期関連遺伝子,アポトーシス関連遺伝子等の変異系統との、遺伝学的相互作用を解析する。尚、実施例に先立ち、本発明のショウジョウバエにおいて、SCO2の発現異常(過剰発現又は発現抑制)効果を確認する方法を、以下に記載する。[SCO2発現異常の確認方法]被験ショウジョウバエ成虫の複眼を、顕微鏡で観察し、その形態異常を確認することにより、SCO2発現異常を確認することができる。SCO2が過剰に発現した場合と、発現が抑制された場合のいずれも、複眼原基の形態異常(ラフ・アイ表現型)が発生する。[実施例1-(1),(2)〜実施例9-(1),(2):(I)SCO2過剰発現型ショウジョウバエ(第1及び第2世代)]以下の方法で、実施例1-(1),(2)〜実施例9-(1),(2)のショウジョウバエを作製した。尚、(1)は第1世代,(2)は第2世代を表す。(SCO2遺伝子の回収)キイロショウジョウバエ成虫を液体窒素で凍結させた後、トリゾール溶液中でホモジナイズし、高速遠心により水層と有機層に分離した後、水層に含まれる全RNAをイソプロパノールに加え沈殿させて回収した。この全RNAをオリゴ(dT)溶液に混釈し、スピンカラムにかけてmRNA(即ち、poly(A)を有するRNA)を精製した。(cDNAの作製と増幅)次に、mRNAから逆転写酵素の存在下でcDNAを合成した。合成したcDNAのライブラリーから、SCO2のcDNAと相補的な配列を持つ適当な制限酵素部位(BglII-KpnI)を有するプライマーを用いて、配列番号2(mRNA配列)で表されるSCO2遺伝子コード領域(開始コドンATGを省略したもの)と相補的な配列を、PCR法にて増幅した。(pUAST-SCO2組換プラスミドの作製)Flag遺伝子及び上記で増幅されたcDNAを、pUASTベクター(Brand, A. H. and Perrimon, N. (1993). Development, 118, 401-415.) の、転写活性化因子GAL4結合配列(UAS)を持つプロモーターの下流に存在する、BglII-KpnI切断部位に連結し、組換プラスミドDNA(pUAST-Flag-SCO2)を得た(図12)。具体的には、「Flag遺伝子」の後に、制限酵素サイトである「BglII」を挟んで、「配列番号2と相補的な配列」を連結したものを、BglII-KpnI切断部位に導入した。尚、Flag遺伝子は、ショウジョウバエ中で実際にSCO2蛋白質が発現していることを、市販のFlag抗体で簡便に確認できるよう、導入している。尚、pUASTベクターには、予め、white遺伝子が組み込まれているため、得られたpUAST- Flag-SCO2組換プラスミドを用いた実験において、white遺伝子をマーカーとして利用することができる。(大腸菌でのpUAST-Flag-SCO2組換プラスミドの増殖)これを大腸菌に遺伝子導入し、形質転換後増殖させた。(pUAST-Flag-SCO2組換プラスミドのショウジョウバエへの導入)増殖させたpUAST-Flag-SCO2組換プラスミド(表1のpUAS-Flag-SCO2 Pエレメントプラスミド)を、キアゲンカラムで精製後、white遺伝子マイナスでかつ、内因性のP-エレメントを持たないがトランスポゼース遺伝子を持つショウジョウバエ系統(DGRCのΔ2,3系統:DGRC number 106416)の受精卵に微量注入した(Spradling, A. C. (1986). Drosophila : a practical approach. Roberts, D. B. (ed.). IRL Press : Oxford, pp175-197. )。上記操作によって、受精卵中の将来生殖細胞になる細胞のゲノムに、外来遺伝子(Flag-SCO2)を含むP-エレメントを組み込ませることができた。この受精卵から得られた成体を更にyw系のショウジョウバエと交配して得られた子孫の中から、pUAST-Flag-SCO2組換プラスミド内に存在するwhite遺伝子マーカーによって、形質転換体(即ち複眼の赤いもの)を選択した(Robertsochlitz, D. M., Benz, W. K. and Engels, W. R. (1988). Genetics, 118, 461-470.)。下記表1に示す通り、上記操作によって、第I〜IVの各染色体にSCO2が導入された本発明の、実施例1-(1)〜9-(1)の「I型」の第1世代ショウジョウバエを得ることができた。尚、表1中の株番号は、本発明者等が独自に設定した系統番号である。「上記で得られた実施例1-(1)〜実施例9-(1)の「I型」−第1世代ショウジョウバエ」と、「プロモーター(Glass)と転写調節因子(GAL4)を有するショウジョウバエ」を交配し、両者由来の遺伝子を併せ持つショウジョウバエ株を選択することで、GAL4を介したトランス活性化によって、本発明の実施例1-(2)〜実施例9-(2)の「I型」の第2世代ショウジョウバエを得た。尚、対照例1(コントロール)として、本発明の「I型」−第1世代ショウジョウバエの変わりに、yw系を、「プロモーター(Glass)と転写調節因子(GAL4)を有するショウジョウバエ」と交配したものを用いた。上記で得られたショウジョウバエの複眼を顕微鏡で観察した結果を図に示す(図2(A),(B)〜図11(A),(B))。図から分かる通り、実施例1-(2)〜実施例9-(2)の「I型」の第2世代ショウジョウバエは、いずれも、対照例1のショウジョウバエに比べて、複眼の発現に異常が見られた。中でも、第II染色体にSCO2が導入されたものが、最も、複眼原基への変異が大きく、SCO2の発現効率が高かった。従って、この発現異常を抑制する物質をスクリーニングすることによって、SCO2の発現異常に起因する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング等に用いることができる。更に、上記の第2世代ショウジョウバエと、他の遺伝的特性を有するショウジョウバエ株を交配し、第3世代ショウジョウバエとし、その表現型を確認することによって、複眼形態異常の増強又は抑制遺伝子のスクリーニングも可能となる。[実施例10-(1)〜実施例20-(1):(II)SCO2発現抑制型ショウジョウバエ(第1世代)]配列番号3と相補的なSCO2cDNA(SCO2mRNA 前駆体の600番目の塩基から964番目の塩基に対応する領域)は、まずpWIZベクターの、「white intron 2」の後方部位に存在するNheI-BamHI切断部位に連結し、組み換えプラスミドDNA(pWIZ-SCO2)を得た。これを大腸菌に遺伝子導入し、形質転換後増殖させた。次にpWIZ-SCO2DNAの「white intron2」の前方部位に存在するBglII-AvrII切断部位に後方に連結した二本鎖DNAと同じ二本鎖SCO2cDNAを逆向きに連結してインバートリピート(IR)配列を形成し、組み換えプラスミドDNA(pWIZ-SCO2IR)を得た(図13)。尚、IR配列は、一本鎖として見た場合には、前方と後方とでは、互いに相補的な配列が逆向きに連結されているため、転写されたmRNAは、ヘアピンループを形成する。これを大腸菌に遺伝子導入し、形質転換後増殖させた。pWIZ-SCO2IRはキアゲンカラムで精製後、white遺伝子マイナスでかつ、内因性のP-エレメントを持たないがトランスポゼース遺伝子を持つショウジョウバエ系統(DGRC(Drosophila Genetic Resource Center):京都工芸繊維大学ショウジョウバエ遺伝資源センターのΔ2,3系統:DGRC number 106416から、トランスポゼース能の高いものを選抜したもの)の受精卵に微量注入し(Spradling, A. C. (1986). Drosophila : a practical approach. Roberts, D. B. (ed.). IRL Press : Oxford, pp175-197.)、この受精卵から得られた成体を更にyw系のショウジョウバエと交配して得られた子孫の中から、pWIZ-SC02IR のDNA内に存在するwhite遺伝子マーカーによって、形質転換体(即ち複眼の赤いもの)を選択し、下記表2に示した様な、本発明の「II型」の第1世代ショウジョウバエ(実施例10-(1)〜実施例20-(1))を得た(Robertson, H.M., Preston, C.R., Philips, R.W., Johnson-Schlitz, D. M., Benz, W. K. and Engels, W. R. (1988). Genetics, 118, 461-470.)。尚、表2中の株番号は、本発明者等が独自に設定した系統番号である。「上記で得られた実施例10-(1)〜実施例20-(1)の「II型」−第1世代ショウジョウバエ」を、実施例1〜9の場合と同様に、「プロモーター(Glass)と転写調節因子(GAL4)を有するショウジョウバエ」と交配することで、本発明の「II型」の第2世代ショウジョウバエ(実施例10-(2)〜実施例20-(2))を得ることができる。本発明のショウジョウバエ(第2世代ショウジョウバエ)は、肥満や癌,老化等に関係すると思われるSCO2遺伝子の異常発現を、確認が比較的容易な複眼に置いて発現させたモデルであり、肥満,癌,老化等の「SCO2の発現異常に起因する疾患や症状」の診断,予防,又は治療剤の、初期スクリーニングに用いることができる。本発明の第1世代ショウジョウバエは、上記の本発明の第2世代ショウジョウバエを容易に作製できる材料として有用である。下記(i)又は(ii)が導入されていることを特徴とするショウジョウバエ。(i)SCO2と同等の構造及び機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド(ii)内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子をコードするポリヌクレオチド(i)が、(i−1)又は(i−2)であることを特徴とする、請求項1記載のショウジョウバエ。(i−1)SCO2蛋白質をコードするポリヌクレオチド。(i−2)SCO2蛋白質の1乃至数個のアミノ酸が欠失,置換,付加,及び/又は挿入された蛋白質をコードするポリヌクレオチド。(ii)の、内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子が、(ii−1)及び(ii−2)によって形成された二本鎖を含むものであることを特徴とする、請求項1記載のショウジョウバエ。(ii−1)SCO2のmRNAの一部に相当する配列を有するRNA(ii−2)(ii−1)と二本鎖を形成し得る程度に相補的な配列を有するRNASCO2が、ショウジョウバエ由来SCO2であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のショウジョウバエ。ショウジョウバエ由来SCO2が、キイロショウジョウバエ由来SCO2であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のショウジョウバエ。キイロショウジョウバエ由来SCO2のmRNA前駆体が、配列番号1で表される、CG8885であることを特徴とする、請求項5記載のショウジョウバエ。(ii−1)が、CG8885の転写開始点から数えて600〜964番目の塩基(配列番号3)を含む配列であることを特徴とする、請求項6記載のショウジョウバエ。更に、時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターが導入されていることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれかに記載のショウジョウバエ。複眼が形態異常を示していることを特徴とする、請求項8記載のショウジョウバエ。複眼の形態異常が、ラフ・アイであることを特徴とする、請求項9記載のショウジョウバエ。下記(A)と(B)を交配することを特徴とする、請求項8乃至10のいずれかに記載のショウジョウバエの作製方法。(A)下記(i)又は(ii)が導入されていることを特徴とするショウジョウバエ (i)SCO2と同等の構造及び機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド (ii)内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子をコードするポリヌクレオチド(B)時期及び/又は組織特異的に、(i)又は(ii)に対する転写調節因子を発現し得るショウジョウバエ(A)及び(B)が、下記のものであることを特徴とする、請求項11記載のショウジョウバエの作製方法。(A)(i)又は(ii)の上流に、転写活性化因子GAL4の結合領域であるUAS配列を有するショウジョウバエ(B)時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターが、Glassであり、その下流にGAL4をコードする配列を有するショウジョウバエ請求項8乃至10のいずれかに記載のショウジョウバエを用いることを特徴とする、SCO2の発現異常に起因する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法。請求項8乃至10のいずれかに記載のショウジョウバエと、他の遺伝的特性を有するショウジョウバエ株を交配し、その表現型を確認することを特徴とする、複眼形態異常の増強又は抑制遺伝子のスクリーニング方法。 【課題】SCO2の機能解析や、SCO2に起因する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング等に用いることのできるショウジョウバエモデル(本発明の第2世代ショウジョウバエ),及びそれを作製できる親世代に相当するショウジョウバエ(本発明の第1世代ショウジョウバエ),並びにそれらの利用方法等を提供すること。【解決手段】下記(i)又は(ii)が導入されていることを特徴とするショウジョウバエ,及び、更に、時期及び/又は組織特異的に発現するプロモーターが導入されていることを特徴とする、当該ショウジョウバエ,当該ショウジョウバエを用いた、SCO2の発現異常に起因する疾患の予防又は治療剤のスクリーニング方法である。(i)SCO2と同等の構造及び機能を有する蛋白質をコードするポリヌクレオチド(ii)内因性SCO2遺伝子の発現を阻害するRNA分子をコードするポリヌクレオチド【選択図】図12配列表