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タイトル:公開特許公報(A)_遺伝子組換えタンパク質の製造方法
出願番号:2009137845
年次:2010
IPC分類:C12P 21/02


特許情報キャッシュ

今泉 暢 半澤 敏 JP 2010284082 公開特許公報(A) 20101224 2009137845 20090609 遺伝子組換えタンパク質の製造方法 東ソー株式会社 000003300 今泉 暢 半澤 敏 C12P 21/02 20060101AFI20101126BHJP JPC12P21/02 C 6 1 OL 12 4B064 4B064AG01 4B064BJ12 4B064CA02 4B064CC24 4B064CD09 4B064CD20 4B064DA01 本発明は、タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドにより形質転換された細菌を用いて前記タンパク質を製造する方法に関する。詳しくは、前記細菌を含んだ培地への炭素源及び窒素源の添加量を制御することで、炭素源を枯渇せず、かつ炭素源濃度を前記細菌に適した条件に保ちながら培養することで、前記タンパク質を製造する方法である。 近年、バチルス属細菌を用いる分泌発現系によって活性型の状態で異種タンパク質を得る技術が開発されており、タンパク質分泌能が高いバチルス属菌を宿主として用いる方法が研究されている(非特許文献1)。バチルス属細菌のうち、ブレビバチルス(Brevibacillus)属細菌は異種タンパク質の分泌生産能力に優れ、各種タンパク質の工業生産に用いられている。特に、Brevibacillus choshinensis(旧分類;Bacillus brevis)は異種タンパク質の分泌生産能力が優れていることが知られている(非特許文献2及び3)。しかしながら菌株やベクターの改良に関する研究については多く報告されているものの、バチルス属細菌の効率的な培養方法については知られていない。 工業的な微生物の培養、特に大腸菌や酵母の培養では、培養中に培地成分を追加供給(流加)しながら培養する流加培養法が、必要な栄養源を一度に培地に投入して培養を行なう回分培養法と比較し、微生物の培養及び前記微生物による物質生産を効率的に行なえることが知られている。流加培養は供給する栄養源の濃度を任意に(多くの場合は低い濃度で)制御ができる利点がある。そのため、栄養源が高濃度になると微生物の増殖及び前記微生物による物質生産が阻害される場合や、アルコールや有機酸等の副生成物が生産される場合に特に効果的である。 培地成分のうち栄養源としては、消費量の多い糖類等が炭素源としてあげられるが、その消費速度は微生物の生育状態により一定ではない。そのため、培養中に炭素源の濃度を一定に維持するには微生物の生育状態をモニターしつつ、流加量を制御する必要がある。一例として、培養液から発生する炭酸ガスを指標として、グルコース等の炭素源のみを流加して培養する方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、バチルス属細菌を効率よく培養するには栄養源としてグルコース等の炭素源に加え、ペプトン等の窒素源が必要であった。すなわち、流加培養を行なう際に炭素源及び窒素源を流加することが必要でなる。しかしながら特許文献1の方法は炭素源のみを流加した培養であり、複数の栄養源を流加する方法については開示されていない。 また、炭素源としてグルコースを使用したとき、酵母を培養した場合にはエタノールが、大腸菌を培養した場合には酢酸が、それぞれ副生成物として生成し、前記副生成物がそれぞれ20g/L、5g/Lを超えると副生成物による微生物の増殖が抑制され、生産物質の品質を低下させたり、精製を困難になることが知られている。そして、アルコール資化菌では、基質であるメタノール等のアルコール類を高濃度にした場合、その毒性により微生物の増殖が抑制されることが知られている。しかしながら、バチルス属細菌における培地成分の濃度が与える影響についてもこれまで知られていない。特開2007−143491号公報Wolfgang Schuman,Advance in Applied Microbiology,62,137−189、2007Takagi,H.et.al,Jofsystem Bac.,43(2),221−231,1993Takano,T.et.al,Biosci.Biotech.Biochem.,56(5),808−809,1992 本発明の目的は、タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドにより形質転換されたバチルス属細菌を用いて前記タンパク質を製造する際に、前記タンパク質を大量にかつ効率良く生産する方法を提供することにある。 本発明者らは上記課題に関し鋭意検討した結果、バチルス属細菌の培養においては炭素源濃度を低濃度に維持することで、微生物の生育阻害が抑制されることを見出した。また炭素源及び窒素源供給量を制御する際に、バチルス属細菌の呼吸によって生じる炭酸ガスの発生量に比例して炭素源及び窒素源供給量を調節することで、培養液中の炭素源を簡便な方法で低濃度に維持できることを見出した。さらに、炭素源供給量に対して一定の割合で窒素源を供給することにより微生物の菌体濃度が向上することを見出し、本発明の完成に至った。 第一の発明は、タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドにより形質転換されたバチルス属細菌を、前記細菌の増殖速度に合わせて炭素源を供給し、前記炭素源の供給量に比例した量の窒素源を供給して培養することで、前記タンパク質を製造する方法であって、前記窒素源の供給量が前記炭素源の供給量の1.8倍以上であることを特徴とする、前記方法である。 第二の発明は、前記タンパク質がヒト型FcレセプターFcγRIであることを特徴とする、第一の発明に記載の方法である。 第三の発明は、培養液から発生する炭酸ガス量の測定値に比例して炭素源を供給することを特徴とする、第一または第二の発明に記載の方法である。 第四の発明は、炭素源がグルコースであり、窒素源がポリペプトンである、第一から第三の発明に記載の方法である。 第五の発明は、培養液中のグルコース濃度を2g/L以下に維持することを特徴とする、第四の発明に記載の方法である。 第六の発明は、バチルス属細菌がBrevibacillus choshinensisである、第一から第五の発明に記載の方法である。 以下、本発明をさらに詳細に説明する。 本発明の製造方法で用いるバチルス属細菌は、Bacillus alcalophilus、Bacillus amyloliquefaciens、Bacillus badius、Bacillus caldolyticus、Bacillus cereus、Bacillus cohnii、Bacillus firmus、Bacillus insolitus、Bacillus kaustophilus、Bacillus lentus、Bacillus licheniformis、Bacillus megaterium、Bacillus methenolicus、Bacillus pallidus、Bacillus popilliae、Bacillus pumilus、Bacillus smithii、Bacillus stearothermophilus、Bacillus subtilis、Bacillus thermoamylovorans、Bacillus thermodenitrificans、Bacillus thermoglucosidasius、Bacillus thermoleovorans、Bacillus vedderiといった狭義のバチルス属細菌の他に、Brevibacillus agri、Brevibacillus borstelensis、Brevibacillus brevis、Brevibacillus centrosporus、Brevibacillus choshinensis、Brevibacillus formosus、Brevibacillus laterosporus、Brevibacillus parabrevis、Brevibacillus reuszeri、Brevibacillus thermoruberといったブレビバチルス属細菌、及びPaenibacillus ahibensis、Paenibacillus alvei、Paenibacillus amylolyticus、Paenibacillus apiarius、Paenibacillus azotofixans、Paenibacillus chondroitinus、Paenibacillus curdlanolyticus、Paenibacillus durum、Paenibacillus glucanolyticus、Paenibacillus illinoisensis、Paenibacillus kobensis、Paenibacillus larvae、Paenibacillus macerans、Paenibacillus macquariensis、Paenibacillus pabuli、Paenibacillus peoriae、Paenibacillus polymyxa、Paenibacillus thiaminolyticus、Paenibacillus validusといったパエニバチルス属細菌のような広義のバチルス属細菌の類縁種も例示できる。特に本発明で用いるバチルス属細菌の好ましい例として、異種タンパク質の分泌生産能力が優れたBrevibacillus choshinensis野生株(NBRC15518)、及びその誘導株であるBrevibacillus choshinensis SP3株(タカラバイオ社製)があげられる。 本発明の製造方法で用いる発現プラスミドとしては、製造対象タンパク質を発現可能なプロモーター配列、及び分泌可能なシグナル配列を含んでいれば限定されないが、バチルス属細菌としてBrevibacillus choshinensisを使用する場合は、pNCMO2(タカラバイオ社製)を発現プラスミドとして使用するのが好ましい。 本発明の製造方法は、バチルス属細菌で発現可能なタンパク質であれば、いずれのタンパク質に対しても適用可能な方法であるが、特にヒト型FcレセプターFcγRIの製造に対して好ましい製造方法である。前記製造方法で使用する、ヒト型FcγRIをコードするDNAとしては、ヒト型FcγRIをコードする遺伝子の全領域又は一部領域からなるDNAをそのまま用いてもよいが、前記DNAのコドンをヒト型からバチルス属細菌型に変換したDNAがより好ましい。前記コドン変換したDNAの一態様として、ヒト型FcγRIをコードするDNA中に存在するバチルス属細菌におけるレアコドン(rare codon、当該宿主におけるコドンの使用頻度が少ないもの)を、コードするアミノ酸を同一のまま、バチルス属細菌の翻訳機構において利用頻度が高いコドン(codon)に変換したDNAがあげられる(特願2008−046438号)。 本発明の製造方法で用いる培地としては、バチルス属細菌に導入した発現プラスミドにコードされたタンパク質を発現可能な培地であれば、バチルス属細菌の培養に好ましい公知の培地の中から適宜選択すればよい。炭素源に特に限定はなく、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、粗糖、糖蜜、デンプン、乳糖、グリセロールを例示できる。また、窒素源にも特に限定はなく、ポリペプトン、カゼイン及びその代謝物、大豆タンパク質、肉エキス、魚肉エキスを例示できる。特に本発明の製造方法で用いる好ましい炭素源及び窒素源は、それぞれグルコース及びポリペプトンである。 本発明の製造方法は、タンパク質をコードするDNA配列を含んだ発現プラスミドを導入したバチルス属細菌を、前記細菌の増殖速度に合わせて炭素源を供給し、前記炭素源の供給量に比例した量の窒素源を供給することで、前記培養液中の炭素源濃度を低濃度に維持しつつ培養し、前記タンパク質を製造する方法において、前記窒素源の供給量が前記炭素源の供給量の1.8倍以上であることを特徴としている。前記製造方法の一態様として、炭素源等の培地成分を任意の濃度に調製し培養を開始後、前記細菌の増殖により培地中の炭素源及び窒素源が消費されることで所定の濃度まで達した時点で、別途調製した炭素源または窒素源が高濃度含まれた溶液をポンプ等でバチルス属菌が含まれた培養液に供給する方法があげられる。前記方法において、培養開始時の炭素源濃度は0から20g/Lが好ましい。また、供給用炭素源溶液の濃度は高濃度であるほうが培養液量の増加が抑えられる点で好ましく、炭素源としてグルコースを用いた場合は濃度300から900g/Lのグルコース溶液を例示できる。なお、前記方法において、窒素源としてポリペプトンを使用する場合は供給用ポリペプトン溶液の濃度は150から300g/Lが好ましい。 本発明の製造方法におけるバチルス属細菌の好ましい培養方法は、培養液から発生する炭酸ガスの測定値に基づき、前記細菌を含む培養液の炭素源濃度を目的の濃度に制御する培養方法であり、下記流加式(1)に基づき、供給用炭素源溶液を前記培養液に送液することにより、前記細菌を含む培養液の炭素源濃度を目的の濃度に制御することができる。 F1=MCO2/(YCO2×0.083×T×S1)×f ×(CCO2out−CCO2in)・・・・・・・・・・流加式(1) 前記式(1)において、F1は炭素源の供給速度(単位:g/min)である。MCO2は二酸化炭素1モルの質量(44g/mol)である。YCO2は炭素源から得られる二酸化炭素の収率であり、前記値は予備実験で求めた値に基づき適切な値に設定すればよい。Tは通気ガスの絶対温度(単位:K)である。S1は炭素源溶液の濃度(単位:g/L)である。fは前記細菌を含んだ培養液を入れた発酵槽に供給する空気の通気量(単位:L/min)である。fの値は任意に設定してもよいが、通常0.1から5.0VVM(培養液1Lに対して0.1から5.0L/min)が好ましい。CCO2outは排気ガス中の炭酸ガス濃度(単位:容量%)である。CCO2inは供給ガス中の炭酸ガス濃度(単位:容量%)である。なお、炭素源供給の指標となる炭酸ガス濃度の分析方法は特に限定はなく、培養液から発生する炭酸ガス量を市販の培養装置用排ガス分析計を用いて測定する方法が例示できる。 本発明の製造方法におけるバチルス属細菌の培養では、炭素源を前記細菌を含んだ培養液に供給することにより、前記培養液の炭素源濃度を低濃度に制御することを特徴としているが、前記制御される炭素源濃度は、グルコースを炭素源として使用した場合、濃度10g/Lを超えると副生成物である有機酸によりバチルス属細菌の生育抑制及びタンパク質の生産抑制が発生することから、濃度10g/L以下、好ましくは濃度2g/L以下である。またバチルス属細菌の場合、培養初期から中期に炭素源の枯渇が生じると、生育阻害やタンパク質生産阻害が発生するため、培養期間中は炭素源が枯渇しない状態を維持するのが好ましい。炭素源の枯渇が生じたことを判別する方法については特に限定はなく、一例として呼吸活性の低下により炭素源の枯渇を判別する方法があげられる。呼吸活性の低下は、例えば培養液の溶存酸素濃度(DO)の上昇、排ガス中の酸素濃度の上昇や炭酸ガス濃度の低下、pHの上昇により検出できる。中でも、DOを指標として呼吸活性の低下を検出するのが好ましい。その理由として、炭素源濃度が十分に維持されている場合には、微生物の呼吸により酸素が消費されるためDOは酸素飽和濃度より低い値に維持されるが、炭素源が枯渇するとバチルス属細菌の呼吸活性が低下してDOが急激に上昇するからである。なお、炭素源の枯渇を防ぐため、DOの急激な上昇に連動させて、炭素源を臨時に供給してもよい。排ガス組成やpHを枯渇の指標とした場合は、DOを指標とした場合に比較すると応答が遅くなる。 本発明の製造方法で用いるバチルス属細菌の培養において、炭素源濃度が0g/Lの場合であっても呼吸活性の低下が生じていない場合は枯渇した状態とはいえない。前記状態は菌体の消費速度と炭素源の供給速度が一致している場合に生じる。この場合は炭素源濃度が0g/Lであっても、バチルス属細菌の代謝状態を良好に維持するために必要な炭素源は供給されており、前記細菌の増殖及び前記細菌によるタンパク質生産は良好に進行している。 本発明の製造方法におけるバチルス属細菌の培養では、炭素源の供給量に対して一定の割合で窒素源を供給することを特徴としている。具体的には、下記流加式(2)に基づき、炭素源供給量から窒素源供給量を計算する。 F2=(Y1/Y2)×(S1/S2)×F1・・・流加式(2) 前記式(2)においてF1は炭素源の供給速度(単位:g/min)である。F2は窒素源の供給速度(単位:g/min)である。Y1は炭素源からの菌体収率(単位:g(菌体)/g(炭素源))である。Y2は窒素源からの菌体収率(単位:g(菌体)/g(窒素源))である。S1は供給用炭素源溶液の濃度(単位:g/L)である。S2は供給用窒素源溶液の濃度(単位:g/L)である。式(2)で与えられる比例関係を元に窒素源の供給量を決定する。Y1及びY2は微生物の種類や生育状態に応じて設定される定数であり、予備実験で求めた値に基づき適切な値に設定することができる。ただし実施例で示すように、炭素源供給量に対する窒素源供給量(式(2)における(Y1/Y2)×(S1/S2)値)が少ないと、バチルス属細菌より発現するタンパク質の生産量が低下するため、窒素源供給量を炭素源供給量の1.8倍以上、好ましくは2.0倍以上、さらに好ましくは2.5倍以上となるようにY1及びY2を設定すればよい。 本発明の製造方法で用いるバチルス属細菌の培養方法において、培養液から発生する炭酸ガス量の測定値に基づいて炭素源及び窒素源供給量を制御する方法としては、データ処理用の各種装置等を用い、当該データ処理装置が受けた炭酸ガス量測定値信号を適切な制御式に基づいて、送液ポンプへ送液量を決定する信号を転送することで制御する方法が例示できる。具体的には、データ処理の効率化のためにパーソナルコンピューター等のデータ処理装置へのデータ転送が可能な装置を例示することができる。 本発明の製造方法で用いるバチルス属細菌の培養方法における、炭素源及び窒素源供給量の制御方法は特に限定はなく、排ガス中の炭酸ガス濃度の分析値より前述の流加式(1)及び(2)に基づいて遂次適切な送液量を計算後、送液ポンプの流速を修正しつつ連続的に炭素源及び窒素源を供給してもよいし、一定の流速に設定したポンプを間欠的に動作させることにより、任意に設定した期間内の平均送液量が流加式(1)及び(2)により求められる目的の送液速度に一致するように制御してもよい。また、培養液から発生する炭酸ガス量と培養液への炭素源供給量とが比例するように設定して、培養液中の炭素源及び窒素源濃度を制御する制御方式も例示できる。前記制御は手動で行なうこともできるが、パーソナルコンピューターや専用の制御装置を介して自動的に行なうのが好ましい。 炭素源及び窒素源の他に培地に添加する副栄養源としては、コーンスティープリカー、酵母エキスといった天然成分、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムといったリン酸塩、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化銅、硫酸マンガン、塩化マンガンといった金属塩が例示できる。また、培地に添加するビタミン類としては、酵母エキス、ビオチン、ニコチン酸、チアミン、リボフラビン、イノシトール、ピリドキシンが例示できる。 本発明の製造方法におけるバチルス属細菌の培養条件は、前記細菌が増殖し、かつ前記細菌に導入した発現プラスミドにコードされたタンパク質が生産可能な条件であれば特に限定はないが、培養温度は15から50℃が好ましく、特に27から33℃が好ましい。pHは6から8が好ましい。培養時間は任意に設定できるが、通常は数時間から100時間の間に設定される。 本発明の製造方法で得られたタンパク質を定量する方法としては、SDSポリアクリルアミド電気泳動等当業者が通常用いる方法で蛋白質を分離した後に色素や免疫学的方法で染色して比色定量する方法でもよいし、前記タンパク質が酵素活性を有する場合は前記活性を測定することで定量してもよいし、前記タンパク質が抗体やレセプターである場合はELISA法(酵素結合免疫吸着法)等の免疫学的測定により定量してもよい。ELISA法による前記タンパク質の定量方法としては、前記タンパク質が定量可能であれば特に限定されないが、前記タンパク質に対する抗体、目的タンパク質、酵素標識抗タンパク質抗体の順番で重ねたサンドイッチ法を使用したELISA法が好ましい。なお、前記酵素標識抗タンパク質抗体として、アルカリフォスファターゼや西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素で標識された抗タンパク質抗体を使用すると特に好ましい。また、ELISA法による定量方法についても特に限定はなく、標識に用いた酵素の特異的発色試薬、蛍光試薬または化学発光試薬を、標識に用いた酵素に応じて任意に使用すればよい。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼを用いた場合は発色基質をペルオキシダーゼと過酸化水素で酸化反応させて比色定量すればよく、TMB 2−Component Microwell Peroxidase Substrate Kit(フナコシ社製)等の市販の試薬で発色させた後、市販の測定装置(例えばマイクロタイタープレートリーダMPR4i、東ソー社製)で比色定量すればよい。 本発明の製造方法は、タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドにより形質転換されたバチルス属細菌から前記タンパク質を製造するにあたり、前記細菌の増殖速度に合わせて炭素源を供給し、前記炭素源の供給量の1.8倍以上の窒素源を供給して培養することで製造する方法である。前記製造方法により、炭素源の枯渇による生産阻害が防止され、また培養液中の炭素源濃度上昇に伴う前記細菌の増殖阻害及び前記細菌で発現するタンパク質の生産阻害、並びに副生産物として生じる有機酸等によるタンパク質汚染、前記細菌の増殖阻害及び前記細菌で発現するタンパク質の生産阻害を回避することができる。 その結果、バチルス属細菌に導入した発現プラスミドにコードされたタンパク質を大量かつ効率良く生産することが可能となっただけでなく、過剰の原料を使用することによる生産コスト上昇抑制効果、並びに製品回収後の培養廃液中に残留する有機物が減少することによる環境汚染の低減及び廃液処理コストの抑制効果も得られる。 特に本発明の製造方法は、ヒト型FcレセプターFcγRIを大量かつ効率良く製造するのに有用な方法であり、本発明で得られたFcγRIは医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、または分離剤のリガンドとして用いることができる。グルコース濃度を0から2g/Lに自動制御した培養における微生物の増殖とグルコース濃度を示す図。図中、横軸は時間(単位:h)を示し、縦軸のうち、黒丸は微生物の増殖量を示す600nmにおける吸光度、白丸はグルコース濃度(単位:g/L)をそれぞれ示す。グルコース濃度を0から2g/Lに自動制御した培養における溶存酸素濃度を示す図。図中、横軸は時間(単位:h)を示し、縦軸は溶存酸素濃度(DO)(単位:容量%)を示す。グルコース濃度を0から2g/Lに自動制御した培養における排ガス中の炭酸ガス濃度とグルコース消費速度を示す図。図中、横軸は時間(単位:h)を示し、縦軸のうち、白三角はグルコースの消費速度(単位:g/(L・h))、実線は炭酸ガス濃度(単位:容量%)をそれぞれ示す。グルコース濃度を0から2g/Lに自動制御した培養におけるグルコース消費速度と供給速度を示す図。図中、横軸は時間(単位:h)を示し、縦軸のうち、白三角はグルコース消費速度(単位:g/(L・h))、実線は白三角の分布から計算したグルコース消費速度(単位:g/(L・h))を示す、黒丸はグルコース供給速度(単位:g/(L・h))、破線は黒丸の分布から計算したグルコース供給速度(単位:g/(L・h))をそれぞれ示す。実施例1並びに比較例1及び2の培養における微生物の増殖を示す図。図中、横軸は時間(単位:h)を示し、縦軸のうち、白四角は実施例1、黒三角は比較例1、黒丸は比較例2の培養における、培養液中の600nmにおける吸光度を示す。 以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。 実施例1 本発明のタンパク質製造方法(1)ヒト型FcレセプターFcγRIをコードするDNA配列を含む発現プラスミドにより形質転換されたBrevibacillus choshinensis SP3株をLB培地(バクトトリプトン:10g/L、酵母エキス:5g/L、NaCl:5g/L)4mL入れた14mL容試験管に植菌し、37℃で8時間、毎分160回の振とう速度で前々培養を行なった。(2)表1に示した組成の培地100mLを500mL容のバッフル付き三角フラスコに入れ121℃で20分間滅菌後、(1)の培養液3mLを植菌して30℃で約14時間、毎分150回転の振とう速度で前培養した。(3)表2に示す組成の培地からグルコースと金属塩を除いた培地約1.4Lを3Lの発酵槽に入れ、121℃で20分間滅菌後、グルコース、金属塩及び(2)の培養液42mLを添加し本培養を開始した。なお、培養開始時のグルコースの濃度は0.5g/L、通気した空気速度は1.8L/min、培養温度は30℃、pHは7.0から7.2とした。また、培養液のpHは微生物の増殖に伴い上昇するため、10%硫酸の添加により前記範囲に制御した。炭素源の供給には700g/Lのグルコースを使用した。窒素源の供給には250g/LのポリペプトンS(日本製薬社製)を使用した。培養装置はエイブル社製BMS−03PIを、排ガス分析装置はエイブル社製DEX−2562を使用した。グルコース濃度を維持するため、パーソナルコンピューターを介し、エイブル社製培養制御プログラムを用いて、下記流加式(1)及び(2)に基づいて流加ポンプを間欠的に動作させることで供給速度の制御を行なった。 F1=MCO2/(YCO2×0.083×T×S1)×f ×(CCO2out−CCO2in)・・・・・・・・・・流加式(1) F2=(Y1/Y2)×(S1/S2)×F1・・・流加式(2)供給にはワトソン・マーロウ社製定量ポンプ101Uの低速型と高速型を一台ずつ使用した。うち、低速型ポンプはグルコース供給に使用し、流速は0.3mL/min(グルコース換算0.21g/min)に設定した。高速型ポンプはポリペプトンの供給に使用し、流速は2.7mL/min(ポリペプトン換算0.54g/min、窒素源/炭素源=2.57(重量比))に設定した。前述の流加式(1)のYCO2値は事前の実験結果から1.47に設定した。培養中はグルコース分析計(装置名:YSI社製、YSI 2700 SELECT)を用いて定期的にグルコース濃度を測定した。微生物の増殖は培養液の600nmの濁度により測定した。 50時間培養を行なったところ、培養液の濁度は35に達した。予め求めた濁度と菌体密度の相関式より、乾燥菌体収量は10.4g/Lと求められた。また、グルコース濃度は培養の期間を通じて0から2g/Lに維持された。本実施例における培養の結果を図1に示す。図1より、培養中にグルコースの枯渇なく維持されていることがわかる。また、培養4時間目から培養終了までの期間中、溶存酸素濃度は20%飽和付近に維持されていた(図2)。 培養期間中の排ガス中の炭酸ガス濃度とグルコース消費速度の推移を図3に示した。グルコース消費速度は炭酸ガス濃度の推移と良好な一致を示した。また、図4にはグルコース流加速度の推移も示した。グルコース供給速度の推移は消費速度の推移と良好な一致関係を示していた。なお、図4では供給速度を5分間の平均流速として示した。図4の結果及び図1に示したグルコース濃度の推移より、本実施例の方法によるグルコース濃度制御の有効性を確認した。なお、培養終了後のFcγRI生産量をELISA法により定量した結果、培養液1Lあたり3.0mgであった。 比較例1 グルコース供給量を0.3mL/min(グルコース換算0.21g/min)に、ポリペプトン供給量を1.8mL/min(ポリペプトン換算0.36g/min、窒素源/炭素源=1.71)にそれぞれ変化させた他は、実施例1と同様な方法でBrevibacillus choshinensis SP3株の培養を行なった。グルコース濃度は培養の期間を通じて0から2g/Lに維持された(不図示)ものの、50時間培養後の培養液の濁度は22.5にとどまった(乾燥菌体収量:6.7g/L)(図5)。また、培養終了後のFcγRI生産量をELISA法により定量した結果、培養液1Lあたり0.1mgであった。 比較例2 グルコース供給量を0.3mL/min(グルコース換算0.21g/min)に、ポリペプトン供給量を1.55mL/min(ポリペプトン換算0.31g/min、窒素源/炭素源=1.47)にそれぞれ変化させた他は、実施例1と同様な方法でBrevibacillus choshinensis SP3株の培養を行なった。グルコース濃度は培養の期間を通じて0から2g/Lに維持された(不図示)ものの、50時間培養後の培養液の濁度は12.6にとどまった(乾燥菌体収量:3.7g/L)(図5)。また、培養終了後のFcγRI生産量をELISA法により定量した結果、培養液1Lあたり0.1mgであった。実施例1並びに比較例1及び2の培養をまとめた結果を表3に示す。流加する炭素源と窒素源の質量比を、窒素源/炭素源=1.8以下の条件で培養(比較例1及び2)すると、窒素源/炭素源=1.8以上の条件で培養(実施例1)した場合と比較し、Brevibacillus choshinensis SP3株の生育が悪く、FcγRI生産量も低下していることがわかる。タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドにより形質転換されたバチルス属細菌を、前記細菌の増殖速度に合わせて炭素源を供給し、前記炭素源の供給量に比例した量の窒素源を供給して培養することで、前記タンパク質を製造する方法であって、前記窒素源の供給量が前記炭素源の供給量の1.8倍以上であることを特徴とする、前記方法。前記タンパク質がヒト型FcレセプターFcγRIであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。培養液から発生する炭酸ガス量の測定値に比例して炭素源を供給することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。炭素源がグルコースであり、窒素源がポリペプトンである、請求項1から3に記載の方法。培養液中のグルコース濃度を2g/L以下に維持することを特徴とする、請求項4に記載の方法。バチルス属細菌がBrevibacillus choshinensisである、請求項1から5に記載の方法。 【課題】 タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドにより形質転換されたバチルス属細菌を用いて前記タンパク質を製造する際に、前記タンパク質を大量かつ効率良く生産する方法を提供すること。【解決の手段】 タンパク質をコードするDNA配列を含む発現プラスミドにより形質転換されたバチルス属細菌を、前記細菌の増殖速度に合わせて炭素源を供給し、前記炭素源の供給量に比例した量の窒素源を供給して培養することで、前記タンパク質を製造する際に、前記窒素源の供給量を前記炭素源の供給量の1.8倍以上にすることで前記課題を解決することができた。【選択図】 図1


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