タイトル: | 公開特許公報(A)_ポリフェノール成分を利用した乳酸菌発酵物及びその製造方法 |
出願番号: | 2009085965 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | A61K 35/74,A23L 1/30,A23L 2/52,A61K 36/48,A61K 36/00,A61K 36/18,A61K 36/899,A61P 31/12 |
鈴木 正宏 吉仲 由之 山本 直樹 古川 令 JP 2012136436 公開特許公報(A) 20120719 2009085965 20090331 ポリフェノール成分を利用した乳酸菌発酵物及びその製造方法 大洋香料株式会社 000208086 福島 三雄 100085316 向江 正幸 100124947 高崎 真行 100140969 鈴木 正宏 吉仲 由之 山本 直樹 古川 令 A61K 35/74 20060101AFI20120622BHJP A23L 1/30 20060101ALI20120622BHJP A23L 2/52 20060101ALI20120622BHJP A61K 36/48 20060101ALI20120622BHJP A61K 36/00 20060101ALI20120622BHJP A61K 36/18 20060101ALI20120622BHJP A61K 36/899 20060101ALI20120622BHJP A61P 31/12 20060101ALI20120622BHJP JPA61K35/74 AA23L1/30 ZA23L2/00 FA23L1/30 BA61K35/78 JA61K35/78 BA61K35/78 CA61K35/78 UA61P31/12 9 1 OL 19 4B017 4B018 4C087 4C088 4B017LC03 4B017LG04 4B017LG20 4B017LK25 4B017LK30 4B017LL02 4B018LB01 4B018LB08 4B018LB10 4B018MD49 4B018MD52 4B018MD57 4B018MD86 4B018ME14 4B018MF13 4C087AA01 4C087AA02 4C087BC56 4C087CA47 4C087MA02 4C087NA05 4C087NA14 4C087ZB33 4C088AB03 4C088AB12 4C088AB56 4C088AB59 4C088AB73 4C088AC04 4C088AC05 4C088AD22 4C088BA37 4C088NA14 4C088ZB33 本発明はポリフェノール成分、例えば、松樹皮、ピーナッツ渋皮、ブドウ種子、小豆等の水抽出物の乳酸菌発酵物が強い抗ウイルス活性をもつことを示すこと、及びその製造方法に関し、特に乳酸菌としてラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)を用いて乳酸発酵させたる点に特徴を有するものである。 ウイルス疾患に対する対策は、ワクチンによる予防が最大の策であるが、ワクチン開発の困難なウイルス性疾患も多く、また、発病後に有効な抗ウイルス剤は非常に限られている。昨今、社会的な問題となっている新型鳥インフルエンザウイルスの治療薬タミフルに対する耐性ウイルスの出現など、新興、再興するウイルス疾患に対する予防、治療対策が急務とされている。 従来から、プロアントシアニジンを有効成分とする抗SARSウイルス剤が提案されている(特許文献1,2参照。)。また、このようなプロアントシアニジンを抽出するための植物体として、ブドウ、クランベリー、カカオ、リンゴ、小豆、柿、キャベツ、大麦、麦芽、クルミ、アーモンド、杉、桧、松、栃、樫、乾姜(カンキョウ)、茗荷(ミョウガ)、葉生姜(ハショウガ)等が開示されている(特許文献1の段落0013参照)。 上記植物体のうち、小豆は、日本で、縄文時代から古墳時代前期までの遺跡から小豆の炭化種子が発見されており、奈良時代初期の「古事記」に初めてその名が登場する農作物である。小豆は古来から人々の生活と密接に結びついた豆で、わが国や中国、朝鮮では小豆の赤色に魔除けなどの神秘的な力があると信じられ、行事や儀式などに供されてきた。また、薬用としても使われたようで、中国の明時代の書物中にも、小豆の効能や処方が記されている。 小豆の効能は古来より二日酔い解消、利尿作用など種々知られているが、その中でも小豆の色素であるアントシアン、その前駆体であるプロアントシアニジンは小豆ポリフェノール(抗酸化物質)として近年注目を浴びている素材である。また、この小豆ポリフェノールは製品である餡にも含まれているが、製餡過程の中で廃棄される煮汁の中に多く含まれることが知られている。 そこで、本発明者らは、産業廃棄物として廃棄される小豆煮汁から付加価値のある食品素材を開発することを目指した。 ここで、豆類の煮汁の食品素材への利用技術としては、大豆煮汁を果汁や野菜汁等と混合し、この混合物を乳酸菌により乳酸発酵させたものを飲食品として利用する技術が開示されている(特許文献3参照)。特許文献3では、大豆煮汁を基質とした場合、種々の乳酸菌が発酵能を有すること、及び発酵液に適度な酸味を付与できる点でラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)を選定したことが記載されている。特開2005−314316号公報特開2008−143840号公報特開2005−304322号公報 しかし、本発明者らの検討によれば、小豆煮汁に対して発酵能を有する乳酸菌は極めて限定されたものであることが明らかになった。 本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、ポリフェノール成分、例えば、松樹皮、ピーナッツ渋皮、ブドウ種子、小豆等の水抽出物を利用した乳酸菌発酵物及びその製造方法を提供することにある。 本発明者らは、数多くの乳酸菌のうち、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)のみが小豆煮汁等に対して発酵能を有することを見出し、本発明を完成した。 すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。〔1〕 ポリフェノール成分をラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)により乳酸発酵させて得られることを特徴とする、抗ウイルス活性の向上した乳酸菌発酵物、〔2〕 ポリフェノール成分が松樹皮、ピーナッツ渋皮、ブドウ種子、ブドウ果皮、小豆、赤米、ササゲおよび金時豆から選ばれる1種または2種以上の原料の水抽出物である、前記〔1〕記載の乳酸菌発酵物、〔3〕 ポリフェノール成分が小豆の水抽出物である、前記〔1〕記載の乳酸菌発酵物、〔4〕 小豆の水抽出物が小豆の煮汁である、前記〔3〕記載の乳酸菌発酵物、〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれか記載の乳酸菌発酵物を含有する食品、医薬品または化粧品、〔6〕 小豆の水抽出物をラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)により乳酸発酵させることを特徴とする、抗ウイルス活性の向上した乳酸菌発酵物の製造方法、〔7〕 小豆の水抽出物が小豆の煮汁である、前記〔6〕記載の乳酸菌発酵物の製造方法、〔8〕 小豆の水抽出物をラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)により乳酸発酵させることを特徴とする、小豆の水抽出物の抗ウイルス活性の向上方法、〔9〕 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、パピローマウイルス、伝染性軟属腫ウイルス、疣贅ウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ノーウォークウイルス、ロタウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、ノロウイルス、コイヘルペスウイルス、イリドウイルス、ラブドウイルス群、またはホワイトスポットウイルスのいずれかに対し抗ウイルス活性を示すことを特徴とする、前記〔8〕記載の小豆の水抽出物の抗ウイルス活性の向上方法。 本発明によれば、ポリフェノール成分、例えば、松樹皮、ピーナッツ渋皮、ブドウ種子、ブドウ果皮、小豆、赤米、ササゲ、金時豆等の水抽出物を利用した乳酸菌発酵物及びその製造方法が提供される。本発明に係る乳酸菌発酵物は未発酵物と比べて抗ウイルス活性が3倍以上向上する。(1)は小豆煮汁発酵濃縮液と小豆煮汁濃縮液のTLC、(2)は(1)の各画分についての抗ウイルス活性(IC50値)を示す。Vero細胞の増殖、生存、代謝に及ぼす小豆煮汁濃縮液の影響を示した図(左側:CBB染色,右側:免疫ブロット)である。Vero細胞の増殖、生存、代謝に及ぼす小豆煮汁発酵濃縮液の影響を示した図(左側:CBB染色,右側:免疫ブロット)である。各種原料煮汁の発酵濃縮液のTLC。 本発明の乳酸菌発酵物は、上述したとおり、ポリフェノール成分をラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)により乳酸発酵させて得られる点に特徴がある。 本発明で使用し得るポリフェノール成分とは、原料植物の水抽出物中に含まれるポリフェノール成分または原料植物の水抽出物そのもののうち、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)による乳酸発酵が可能で、かつ当該乳酸菌発酵物の抗ウイルス活性が向上する性質を備えたものをいう。上記ポリフェノール成分の形態は液状、粉体状のどちらでもよく、原料植物から当該ポリフェノール成分を調製してもよいし、市販品を用いてもよい。本発明に使用し得る原料植物としては、例えば、小豆、松樹皮、ピーナッツ渋皮、ブドウ種子、ブドウ果皮、赤米、ササゲ、金時豆等が挙げられる。ポリフェノール成分としては、上記植物のうち1種の水抽出物を用いてもよいし、2種以上の水抽出物を混合して用いてもよい。 ポリフェノール成分のうち小豆の水抽出物とは、水に浸した小豆から抽出される成分をいい、抽出時の温度は室温でもそれ以上の高温でもかまわない。例えば、製餡過程において、小豆を水で煮る時に得られる煮汁(「渋切り汁」や「蒸煮汁」ともいう)を挙げることができる。上記した小豆煮汁は製餡過程で廃棄処分されるものであり、含有成分として小豆プロアントシアニジンを含む。小豆煮汁の糖度も特に限定されないが、通常は1.5±0.5°程度のものが使用される。また、小豆の品種は特に限定されず、例えばエリモショウズなどを挙げることができる。 本発明で使用し得る乳酸菌は、上記した原料植物の水抽出物に対して発酵能を有する菌種に限定される。本発明者らは、乳酸菌として、Lactobacillus plantarum(ラクトバチルス・プランタラム)、Lactobacillus brevis(ラクトバチルス・ブレビス)、Lactobacillus delbrueckii ss delbrueckii(ラクトバチルス・デルブレッキィー・サブスピシーズ・デルブレッキィー)、Streptococcus themophilus(ストレプトコッカス・サーモフィルス)、Lactobacillus casei(ラクトバチルス・カゼイ)、Pediococcus pentosaceus(ペディオコッカス・ペントサセウス)、Lactobacillus acidophilus(ラクトバチルス・アシドフィルス)、Bifidobacteria bifidum(ビフィドバクテリア・ビフィダム)、、Lactobacillus delbrueckii ss bulgaricus(ラクトバチルス・デルブレッキィー・サブスピシーズ・ブルガリクス)、Lactococcus lactis(ラクトコッカス・ラクチス)を選択して小豆の水抽出物に接種したところ、Lactobacillus plantarum(ラクトバチルス・プランタラム)が唯一発酵能を有することを確認した。 乳酸菌発酵物の製造にあたっては、例えば、小豆の水抽出物を加熱殺菌し、次いで冷却した後、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)を接種する。具体的には、小豆の水抽出物を85〜140℃で加熱殺菌し、25〜45℃まで冷却したもの100重量部に対して、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)を1〜10重量部接種する。乳酸菌を接種した後は、25〜45℃で10〜40時間発酵させることが好ましい。 本発明に係る乳酸菌発酵物は未発酵物に比べて抗ウイルス活性が向上する。本発明者らの検討によれば、乳酸菌発酵物は未発酵物と比べて、抽出成分中に低分子化されたポリフェノール成分の含有量が増加しており、このことが抗ウイルス活性の向上に寄与したものと推測される。したがって、本発明は上記した原料植物の水抽出物の抗ウイルス活性の向上方法をも開示する。 上記乳酸菌発酵物が示す抗ウイルス活性はウイルス種に対して非特異的であり、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、パピローマウイルス、伝染性軟属腫ウイルス、疣贅ウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ノーウォークウイルス、ロタウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、ノロウイルス、コイヘルペスウイルス、イリドウイルス、ラブドウイルス群、またはホワイトスポットウイルスのいずれかに対し抗ウイルス活性を示す。 上記で得られた乳酸菌発酵物は、例えば、飲料、アイス、焼き菓子、アメ、ガム、デザート等の食品の添加原料、錠剤、注射剤、予防・治療用鼻溶液組成物、うがい液、洗口液、ドロップス等の添加原料として使用することができる。使用形態は特に限定されず、発酵物そのもの(以下、「液状品」という場合がある)の他、例えば、該液状品を濃縮した濃縮品、該液状品に脱脂粉乳や豆乳等を混合した混合物、該液状品を粉体化したパウダー、該液状品に糖を配合した加糖品等種々の形態で使用に供することができる。例えば、濃縮品として供する場合は、液状品を1/5〜1/20容量になるように減圧濃縮したものを例示することができる。パウダーとして供する場合は、液状品にデキストリンや乳糖などの賦型剤を添加し、水分が10%未満になるまで粉体化したものを例示することができる。なお、乳酸菌発酵物は、発酵終了後に、公知の方法でろ過、殺菌することもできる。 以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによりなんら限定されるものではない。1.小豆煮汁の乳酸菌発酵物の製造例1−1.小豆煮汁の製造例 小豆(エリモショウズ)60kgに水180Lを加え、85℃で30分間加熱し、煮汁を別容器に移し、再度上記小豆に水180Lを加え、85℃で30分間加熱し、煮汁を上記容器に移し、次いで上記小豆に水180Lを加え、100℃で2時間30分加熱し、煮汁を上記容器に移し、90℃で5分間保持して殺菌し、30℃まで冷却して小豆煮汁を製造した。1−2.小豆煮汁に対する発酵能を有する乳酸菌の検討 上記「1−1.小豆煮汁の製造例」で得られた小豆煮汁95重量部に対して表1に示す乳酸菌のうち1つを5重量部添加し、表1に示す温度で20時間培養し、発酵液が得られるか否か検討した。結果、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)ATCC14917を添加した小豆煮汁のみから発酵液が得られた。上記の結果から、小豆煮汁に対する発酵能を有する乳酸菌は、表1に示す数多くの乳酸菌のうちラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)のみであることが分かった。 なお、表1に示す乳酸菌の各種菌株のスターターとして、グルコース1重量部、酵母エキス1重量部及びイオン交換水97重量部からなる培地をオートクレーブし、各種乳酸菌株1重量部を植菌し、37℃で培養したものを用いた。1−3.被検物質の調製例(小豆煮汁発酵濃縮液の調製例) 表1のうち、小豆煮汁をラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)で発酵させた発酵液を遠心分離して固形物を除去し、上清を糖度20°に減圧濃縮、冷凍保存し、これを被検物質(以下、「小豆煮汁発酵濃縮液」という場合がある)として以下の試験に供した。(小豆煮汁発酵濃縮液の各種ポリフェノール成分画分の調製例) 上記で得られた小豆煮汁発酵濃縮液約300mgを20mlのミリQ水に溶解し、この溶解液をLipophilic Sephadex(Pharmacia社)を担体とするカラム(20ml)に吸着させ、3カラム容量の水で洗浄後、3カラム容量の30%エタノール、70%エタノール及び70%アセトンで順次溶出した。得られた30%エタノール画分、70%エタノール画分及び70%アセトン画分を1/10容量に減圧濃縮した後、冷凍保存し、これらを被検物質として以下の試験に供した。(小豆煮汁濃縮液及び各種ポリフェノール成分画分の調製例) 上記「1−1.小豆煮汁の製造例」で得た小豆煮汁を遠心分離して固形物を除去し、上清を1/10容量に減圧濃縮した後、冷凍保存し、これを被検物質として以下の試験に供した(以下、「小豆煮汁濃縮液」という場合がある)。さらに、この小豆煮汁濃縮液から上記(小豆煮汁発酵濃縮液の各種ポリフェノール成分画分の調製例)と同様の操作により、30%エタノール画分、70%エタノール画分及び70%アセトン画分を調製した。そして、得られた各画分を遠心分離して固形物を除去し、上清を1/10容量に減圧濃縮した後、冷凍保存し、これらを被検物質として以下の試験に供した。2.被検物質の成分分析 上記「1−3.被検物質の調製例」で得た被検物質のポリフェノール成分は、シリカゲル薄層クロマトグラフィーを用いて分析した。具体的には、シリカゲル薄層プレート(メルク社、60F254)を溶媒(イソプロパノール:酢酸:水=60:20:10)で展開し、1%塩化鉄:1%フェロシアン化カリウム=1:1(v/v)溶液によりフェノール性水酸基を発色させた。図1(1)に結果を示す。3.被検物質の抗ウイルス作用測定3−1.被検物質の抗SARS(Sub- Acute Respiratory Syndrome)コロナウイルス活性の測定 SARSコロナウイルス(以下、「SARS−CoV」ともいう)は、FFM-1株(Dr. H.W. Doerr, Frankfrut University of Medicine, Germanyより分与)を用いた。FFM-1株に感受性のある培養細胞は、Vero(アフリカミゾリザル腎細胞、E-64)を用い、ダルベッコの最小必須培地(DMEM)に10%ウシ胎児血清を添加した培地を用い、5%CO2存在下において37℃で培養した。なお、上記Vero細胞は同様にDr. H.W. Doerrより分与を受けた。 SARS−CoVのウイルスストック液は、90%単層が形成された培養Vero細胞に、細胞1個当たりのウイルス量が0.1(MOI=0.1, Multiplicity of infection)となる条件で感染させ(Tuker, P.C.ら, J. Virol. 71: 6106, 1997)、24時間後に培養上清を回収し、ウイルス力価を以下に記載するプラーク法で測定した。 回収した培養液の上清を1% ウシ血清アルブミン(BSA)を加えたPBA(−)(Mg2+,Ca2+を含まない0.05Mリン酸緩衝液、0.15MNaCl、pH7.0)で10倍階段希釈し、各段階の希釈液0.2mlずつをそれぞれのウエル(6ウエルプレート)に接種した。25℃で60分間感染させた後1.0%メチルセルロースを加えたDMEM (5%ウシ胎児血清含有)で4−7日間培養した。培養後、メチルセルロースを取り除き、細胞を2.5%クリスタルバイオレット(30% エチルアルコール、1% シュウ酸アンモニウム)中で染色し、PBS(−)で3回洗浄/脱色後、プラーク数の平均値(3個のウエル)から1ml中のウイルス量をPFU(Plaque Forming Unit)/mlとして算出した(Tuker, P.C.ら, J.Virol.71:6106, 1997)。 プラーク法による小豆煮汁醗酵濃縮液の抗ウイルス活性の測定は、6ウェルプレートの1ウェル当り50−200PFU/0.2mlのSARS−CoVを22℃で60分感染させた後、希釈した被検液を含む上記1.0%メチルセルロースを加えたDMEMを重層し、4−7日培養後、プラーク数を測定し、被検物質の濃度IC50値(〔SARS−CoVの増殖を50%阻害する濃度(Inhibitory concentration、(μg/ml))を求めた。図1(2)に示されるように、小豆煮汁発酵濃縮液は小豆煮汁濃縮液に比べて、1/7程度のIC50値を示した。すなわち、小豆煮汁発酵濃縮液は小豆煮汁濃縮液に比べて抗SARSコロナウイルス活性が7倍程度向上した。また、プラークは培養した単層細胞上に形成される、ウイルス感染で変性した細胞斑を意味するが、同時に非感染細胞の染色度から被検液の正常細胞に対する毒性を測定できる。使用した小豆煮汁発酵濃縮液は被検液の存在しない培養と比較して染色度に有意差が認められず、細胞毒性は認められなかった。3−2.小豆煮汁醗酵濃縮液の抗インフルエンザウイルス活性の測定 小豆煮汁醗酵濃縮液の抗ウイルス作用がウイルス種に対し非特異的であることを示すために、インフルエンザウイルスに対する影響について調べた。インフルエンザウイルスA(Flu−A)はPR8株(国立感染症研究所から分与を受けた)を用いた。感受性細胞MDCK(イヌ腎細胞、大日本製薬K.K.)の培養は、上記Vero細胞と同様に行い、ウイルス感染は、90%単層形成された細胞を0.1%BSA−DMEMで2回洗浄、Flu−A感染後は、同培地に2.5μg/mlのトリプシン存在下に行った。 被検液の抗Flu−A効果は、細胞変性効果のTissue Culture Infective Dose(TCID)の測定により行った。SARS−CoVと同様に6ウェルプレート上に90%単層形成されたMDCK細胞に0.1TCID50/0.2ml(50%の細胞が細胞変性を起こすウイルス濃度をウイルス液の希釈度の逆数で表したもの)のFlu−Aを22℃で60分感染させ、それぞれ希釈した被検液を含む0.1%BSA−DMEM(2.5μg/mlのトリプシンを添加したもの)で4−6日培養し、Flu−Aによる細胞変性効果を測定した。被検液の有無による培養細胞の性状から抗ウイルス作用を比較した。結果小豆煮汁発酵濃縮液は小豆煮汁濃縮液に比べて抗Flu−A活性が3倍程度向上した。表2に結果を示す。4.小豆煮汁醗酵濃縮液のポリフェノール成分の特徴 小豆を含むブドウ種子、松樹皮のプロアントシアニジンが抗ウイルス作用を示すことは、広く知られている。当該特許の特徴は、小豆煮汁の乳酸醗酵産物が抗ウイルス作用を増強すると言う点にある。この増強作用の根拠についてTLC上でのポリフェノール成分の性質について検討した。図1(1)に示されるように、小豆煮汁発酵濃縮液(レーン:0−B)と小豆煮汁濃縮液(レーン:0−A)のポリフェノール成分の分子量を比べると、小豆煮汁発酵濃縮液では高分子領域の成分の低下とオリゴ領域の成分の増加が観察される。オリゴ領域の成分に抗ウイルス活性が強いことは知られているので、この領域の成分の増加が抗ウイルス活性に関与していることが示唆される。 さらに、小豆煮汁濃縮液と小豆煮汁発酵濃縮液のLipophilic Sephadexクロマトグラフィー上でのポリフェノール成分の性質について検討した。糖類、サポニンを含む配糖体類は非吸着画分(レーン:1)、あるいは30%エタノール画分(レーン:3)に回収される。抗ウイルス活性を持つポリフェノールは70%エタノールによる後半部分、あるいは70%アセトン画分(レーン:5,6)に溶出される。70%エタノールの後半部分で溶出されるポリフェノールは高分子性のものが多く、70%アセトン画分ではオリゴポリフェノール、有機酸を主成分とする。小豆煮汁濃縮液は70%エタノールで溶出されるポリフェノールが多く(レーン:4)、小豆煮汁発酵濃縮液には70%アセトンで溶出されるポリフェノールが多く含まれていた(レーン:5,6)。各画分を減圧乾燥後、抗ウイルス活性(IC50値)を測定した結果を図1(2)示したが、小豆煮汁濃縮液は70%エタノール画分に、小豆煮汁発酵濃縮液は70%アセトン画分に抗ウイルス活性が高く、醗酵によりポリフェノールの低分子化が観察された。これらの結果は、小豆煮汁を醗酵させることにより、煮汁中のポリフェノールが低分子化し、抗ウイルス活性が増強することを示唆している。なお、小豆煮汁中にポリフェノール以外の抗ウイルス物質の存在は報告されていない。5.培養細胞に及ぼす小豆煮汁発酵濃縮液の影響 上述したように、小豆煮汁発酵濃縮液は小豆煮汁濃縮液よりも抗ウイルス作用が強く、細胞毒性作用も比較的少ない事が示された。この抗ウイルス作用がどのような機構で誘導されるのかを検討するために、被検物質をVero細胞に添加して培養後、全タンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)で分離し、細胞増殖、細胞のタンパク質合成に及ぼす影響、アポトーシスの誘導の有無、細胞内抗酸化因子の誘導等について検討した。それぞれについて、チューブリン、リン酸化リボソームS6タンパク質)、PARP(polyADP ribosyl polymerase)、Mn−SOD(Manganese superoxide dismutase)を免疫ブロット法で染色し、培養細胞に及ぼす小豆煮汁発酵濃縮液の影響を検討した。5−1.全細胞タンパク質の測定 6ウェルプレートに培養したVero細胞(1well当たり2.5mlの培地、2×106 個の細胞)に小豆煮汁濃縮液または小豆煮汁発酵濃縮液(上記「1−3.被検物質の調製例」を参照)を0,1,3,10,30,100μg/ml加え、37℃で培養し、48時間後に全細胞を0.4mlのSDS−PAGE用のサンプルバッファーに回収し、全タンパク質をSDS−PAGEで分離した。次いで泳動後のゲルをクーマシーブリリアントブルーR250(CBB)で染色し、その後7%酢酸で脱色した。画像をCCDカメラで撮影し画像解析ソフト(The Analytical Imaging System AIS. アマシャム/ファルマシア社)によりアクチンバンドの染色濃度を測定し、細胞増殖抑制の指標とした(Nakatsue,M.ら,Biochem. Biophys.Res.Commun.253:59,1998)。図2(未発酵分)と図3(発酵分)に結果を示す。5−2.アポトーシス関連タンパク質及びMn−SODの測定 6ウェルプレートに培養したVero細胞の全タンパク質をSDS−PAGEで分離した後、タンパク質をPVDF膜(Polyvinylidene fluolide、ミリポア社)に転写、一次抗体としてチューブリン(細胞全タンパク質の増減の指標、サンタクルズ社)、PARP(Poly ADP ribosyl polymerase、アポトーシス誘導の有無の指標、サンタクルズ社)、リン酸化リボソームS6タンパク質(細胞タンパク質合成の促進、抑制の指標、セルシグナリング社)及びMn−SODの抗体(細胞内抗酸化因子、ストレスゲン社)、二次抗体にはアルカリホスファターゼで標識した抗ウサギ−ヤギ抗体(サンタクルズ社)を用いNBT(ニトロブルーテトラゾリウム塩、ベーリンガー社)による発色で検出し、免疫ブロットを行った(Yoshinaka,Y.ら, Biochem. Biophy.Res.Commun.261:139,1999)。画像解析から相対的な発現量を測定した。その結果を図2と図3に示す。 まず、小豆煮汁濃縮液と小豆煮汁発酵濃縮液の細胞増殖、細胞タンパク質に対する影響を見ると、CBB染色による全細胞タンパク質の濃度は、濃度が高いと抑制されている。チューブリンタンパク質の量も同様の傾向を示していた。S6タンパク質のリン酸化を指標とした細胞タンパク質の合成が濃度に依存し強く抑制されており、これらの現象は、小豆煮汁発酵濃縮液においてより強いことが分かった。さらに、これらの抑制作用は、培地中から取り除くことによって、正常に回復することが分かっている。 一方、細胞死の指標であるPARPは、小豆煮汁濃縮液と小豆煮汁発酵濃縮液の濃度が高くても開裂産物は検出されず、細胞死の誘導は見られない。細胞増殖は抑制されるが、アポトーシスは誘導されず、小豆煮汁濃縮液と小豆煮汁発酵濃縮液は、細胞の生存状態を静止状態に誘導する作用を示した。 ウイルス感染は酸化ストレスを細胞に誘導し増殖するので、酸化ストレスの誘導を抑制することがウイルス増殖を制御する一つの方策と考えられる。そこで、小豆煮汁発酵濃縮液が抗酸化因子を誘導するかどうかを調べた。CBB染色で観察される全細胞タンパク質の量とチューブリンの量、タンパク合成の指標であるS6タンパク質のリン酸化は、小豆煮汁濃縮液と小豆煮汁発酵濃縮液の濃度に依存して濃度が高いと抑制され、小豆煮汁発酵濃縮液の方が強く抑制される。一方、Mn−SODの発現は、逆に増加され、小豆煮汁発酵濃縮液において作用が強く、抗ウイルス作用が発揮されと考えられる。ちなみに、正常のウイルス感染では、細胞のタンパク合成がウイルス感染で抑制されるにも拘らず、ウイルスタンパク質合成は進行する。 以上の結果は、小豆煮汁濃縮液と小豆煮汁発酵濃縮液により、細胞死を誘導しない細胞の増殖、代謝が抑制され、細胞生存因子の発現向上が見られることを示している(細胞の休眠状態の誘導)。小豆煮汁濃縮液と小豆煮汁発酵濃縮液によるこの細胞状態の誘導と抗酸化因子の誘導が、種々の外的要因による細胞障害に対する防御に作用すると考えられる。6.小豆以外の原料を用いた場合の乳酸発酵能と抗ウイルス作用の検討 小豆(自社調製)、松樹皮(ピクノジェノール、日本シーベル)、ピーナッツ渋皮(ピーナッツ渋皮エキス、岸本産業)、ブドウ種子(グラヴィノール、キッコーマン)、赤米(自社調製)、ササゲ(自社調製)、金時豆(自社調製)および濃縮ブドウ果汁(濃縮赤ブドウ果汁、welch)の希釈液を調製し、上記「1−2.小豆煮汁に対する発酵能を有する乳酸菌の検討」に記載された方法に準じてラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)ATCC14917による発酵能を検討した。 次に、上記被検物質のうち発酵が認められたものについて、上記「3−1.被検物質の抗SARS(Sub- Acute Respiratory Syndrome)コロナウイルス活性の測定」に記載された方法に準じて抗ウイルス作用について検討した。結果を表3、表4および図4に結果を示す。7.各種製造例 上記「1−3.被検物質の調製例」で調製した小豆煮汁発酵濃縮液を粉末化し、これを配合原料として以下に示す各種製品を製造した。7−1.錠剤の製造例 常法により、1錠中組成が表5の通りとなる錠剤を製造した。7−2.注射剤の製造例 下記表6のような組成の注射剤を製造した。 上記パラベン類、メタ重亜硫酸ナトリウム及び塩化ナトリウムを攪拌しながら80℃で上記の約半量の蒸留水に溶解する。得られた溶液を40℃まで冷却し、小豆発酵物(粉末)、ビタミンC、次にポリエチレングリコール及びポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートをその溶液中に溶解した。次にその溶液に注射用蒸留水を加えて最終の容量に調製し、適当なフィルターペーパーを用いて滅菌濾過することにより滅菌して1mlずつアンプルに分注し、目的とする注射剤を得た。7−3.予防、治療用鼻内噴霧剤の調製 アズキプロアントシアニジンとビタミンCを含有する鼻内噴霧剤を、生理食塩水(0.9%(w/v)NaCl水溶液)1ml当たり小豆発酵物(粉末)5mg、ビタミンC3mgを添加することにより調製した。7−4.予防、治療用鼻溶液組成物の製造例 表7に示す成分を含有する鼻内噴霧剤を調製した。7−5.うがい液の製造例 表8に示す成分を含有するうがい液を調製した。7−6.洗口液の製造例 表9に示す成分を含有する洗口液を調製した。7−7.飲料の製造例1 表10に示す配合により小豆発酵物(粉末)、ビタミンC含有飲料1000ml(10本分)を製造した。7−8.飲料の製造例2 表11に示す配合により小豆発酵物(粉末)、ビタミンC含有飲料1000ml(10本分)を製造した。7−9.チューインガムの製造例 表12に示す配合で常法により小豆発酵物(粉末)、ビタミンC含有チューインガム(30個分)を製造した。7−10.ドロップスの製造例 表13に示す配合で、小豆発酵物(粉末)、ビタミンC含有ドロップスを製造した。 糖を水5.5リットルに溶解し、グルコース含有コーンシロップを添加し、十分に混合した。この時点で、いずれかの所望の色素を添加して、所用の色を付与してもよい。色素は、十分に溶解するものを使用する。 上記混合物を、125℃に加熱した蒸気ジャケットケトルに入れた。そこから、混合物を、ポンプで貯蔵容器に入れて、連読クッカーに供給した。 シロップがクッカーにおけるコイルを通過するうちに、125−150℃の温度に到達した。その後、スチーム真空イジェクターにより、真空度28−29インチHgに維持した受け入れケトルに薬6−7分間供給した。この間に、水含量が約1%以下に減少するまで水が除去され、溶融あめ基剤が形成された。次に、このあめ基剤を、ゆっくりと冷却した。 小豆発酵物(粉末)、ビタミンC及びワイルドチェリー模倣フレーバー(粉末状)を、ポリエチレングリコールに添加し、得られた混合物を70℃で加熱することにより流動化させた。 得られた熱流動体混合物を、蒸気の溶融あめ基剤(温度を100℃、またはそれよりわずかに低下させたもの)に適当に混和させながら迅速に添加した。つぎに、全塊を十分に混練した後、スピニングマシンに移し、ロゼンジ形成ダイに押し出した。別法として、アズキプロアントシア二ジン、ビタミンCを添加した溶融あめ塊を冷却テーブルに流し、冷却テーブル上で半固体の塊になるまで固化した後、薬剤の単位投与量を投薬するためのいずれか所望の形状に成形してもよい。 本発明の乳酸菌発酵物は、例えば、飲料、アイス、焼き菓子、アメ、ガム、デザート等の食品の添加原料、錠剤、注射剤、予防・治療用鼻溶液組成物、うがい液、洗口液、ドロップス等の添加原料として広く利用することができる。 ポリフェノール成分をラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)により乳酸発酵させて得られることを特徴とする、抗ウイルス活性の向上した乳酸菌発酵物。 ポリフェノール成分が松樹皮、ピーナッツ渋皮、ブドウ種子、ブドウ果皮、小豆、赤米、ササゲおよび金時豆から選ばれる1種または2種以上の原料の水抽出物である、請求項1記載の乳酸菌発酵物。 ポリフェノール成分が小豆の水抽出物である、請求項1記載の乳酸菌発酵物。 小豆の水抽出物が小豆の煮汁である、請求項3記載の乳酸菌発酵物。 請求項1〜4のいずれか記載の乳酸菌発酵物を含有する食品、医薬品または化粧品。 小豆の水抽出物をラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)により乳酸発酵させることを特徴とする、抗ウイルス活性の向上した乳酸菌発酵物の製造方法。 小豆の水抽出物が小豆の煮汁である、請求項6記載の乳酸菌発酵物の製造方法。 小豆の水抽出物をラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)により乳酸発酵させることを特徴とする、小豆の水抽出物の抗ウイルス活性の向上方法。 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、パピローマウイルス、伝染性軟属腫ウイルス、疣贅ウイルス、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ノーウォークウイルス、ロタウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、ノロウイルス、コイヘルペスウイルス、イリドウイルス、ラブドウイルス群、またはホワイトスポットウイルスのいずれかに対し抗ウイルス活性を示すことを特徴とする、請求項8記載の小豆の水抽出物の抗ウイルス活性の向上方法。 【課題】ポリフェノール成分、例えば、松樹皮、ピーナッツ渋皮、ブドウ種子、小豆等の水抽出物を利用した乳酸菌発酵物及びその製造方法を提供すること。【解決手段】乳酸菌発酵物は、例えば、小豆の水抽出物をラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)により乳酸発酵させて得られる。小豆の水抽出物としては、例えば製餡過程において小豆を水で煮る時に得られる煮汁が用いられる。本発明に係る乳酸菌発酵物は未発酵物に比べて抗SARS(Sub-Acute Respiratory Syndrome)コロナウイルス活性が3倍以上向上する。上記乳酸菌発酵物は、例えば、飲料、アイス、焼き菓子、アメ、ガム、デザート等の食品の添加原料、錠剤、注射剤、予防・治療用鼻溶液組成物、ドロップス、うがい液、洗口液等の添加原料として広く利用することができる。【選択図】図1