生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_心不全治療に有益な新規カルシウムセンシタイザー
出願番号:2009048498
年次:2010
IPC分類:A61K 31/235,A61P 9/04,A61P 43/00


特許情報キャッシュ

森本 幸生 JP 2010202551 公開特許公報(A) 20100916 2009048498 20090302 心不全治療に有益な新規カルシウムセンシタイザー 国立大学法人九州大学 504145342 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 森本 幸生 A61K 31/235 20060101AFI20100820BHJP A61P 9/04 20060101ALI20100820BHJP A61P 43/00 20060101ALI20100820BHJP JPA61K31/235A61P9/04A61P43/00 111 6 OL 10 4C206 4C206AA01 4C206AA02 4C206DB17 4C206DB43 4C206MA01 4C206MA04 4C206MA37 4C206MA42 4C206MA43 4C206MA44 4C206MA48 4C206MA51 4C206MA52 4C206MA55 4C206MA57 4C206MA61 4C206MA63 4C206MA72 4C206MA79 4C206MA80 4C206MA83 4C206MA86 4C206NA14 4C206ZA37 4C206ZC02 本発明は新規カルシウムセンシタイザーに関する。また本発明は、当該新規カルシウムセンシタイザーを有効成分とする心疾患、特に拡張型心筋症、およびそれに起因する心不全の予防または治療剤に関する。 拡張型心筋症は、心室の円周に沿って心筋細胞が長軸方向に肥大することによって、心室が拡大し心室内部の空間が大きくなる病気である(心室内腔の拡張)。その結果、心室の壁に大きな負荷がかかるため血液をうまく送り出せなくなり(心筋収縮不全)、左室駆出率と心拍出量の低下をきたして、鬱血性心不全を引き起こしやすい状態になる。 発症は急性のことも、また潜行性のこともあるが、末期では難治性心不全を呈することが多い。その予後は極めて不良で、拡張型心筋症発症後5年および10年生存率は、それぞれ54%および36%と低く(非特許文献1および2)、突然死の発生も稀ではない。このため、欧米では心臓移植適応の最優先疾患の一つとなっている。我が国でもこの疾患の患者数は約1万7000人、年間で約2000人が死亡していること、また心臓移植を必要とする患者の9割が拡張型心筋症であることから、難病に指定され、その病因究明と治療法確立を目指して、日夜研究が進められている。 現在、外科的治療法として、「バチスタ手術」と呼ばれる「左室縮小形成手術」が保健適応となっており、普及が進みつつある。また対症療法としては、降圧剤としてアンギオテンシンII変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)、アンギオテンシン受容体ブロッカー、利尿薬、強心剤、血管拡張剤、およびβ受容体遮断薬などが用いられる。また、重症の場合にはカルシウムセンシタイザーであるピモべンダン(商品名:アカルディ)が用いられることがあるが、いずれも有効性および安全性が十分であるとはいえない。 ところで、カルシウムセンシタイザーは、心筋ミオフィラメントのカルシウムに対する感受性を増加させることによって陽性変力作用を発揮する強心薬である(非特許文献3および4)。ピモべンダンに代表されるように、かかるカルシウムセンシタイザーはミオフィラメントカルシウム感受性の低下を伴う拡張型心筋症の治療に有益であることが知られている(非特許文献5)。特に、β受容体刺激薬(β受容体刺激作用に基づく強心薬)は、心筋酸素消費量を増加させるため、カルシウム過負荷と酸化ストレスを発生させるのに対して、カルシウムセンシタイザーは、鬱血性心不全の治療において心筋酸素消費量を増加させないため、カルシウム過負荷や、心筋虚血再灌流傷害に関与する酸化ストレスの発生を避けることができるという利点を有している(非特許文献6および7)。 そこで、拡張型心筋症や酸化ストレスを伴う鬱血性心不全の改善、治療ならびに進行予防に有効な、ピモべンダンに代わる新規カルシウムセンシタイザーの開発が求められている。河合忠一ら、昭和57年度厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班研究報告書、第63頁、1983年Diaz et al. Prediction of outcome of dilated cardiomyopathy. Br Heart J. 1987;58:393-399Kass DA, Solaro RJ. Mechanisms and Use of Calcium-Sensitizing Agents in the Failing Heart. Circulation 2006;113:305-315.Tadano N, Morimoto S, Yoshimura A, Miura M, Yoshioka K, Sakato M, et al. SCH00013, a novel Ca2+ sensitizer with positive inotropic and no chronotropic action in heart failure. J Pharmacol Sci 2005;97:53-60.Du CK, Morimoto S, Nishii K, Minakami R, Ohta M, Tadano N, et al. Knock-in mouse model of dilated cardiomyopathy caused by troponin mutation. Circ Res. 2007;101:185-194.Shinke T, Shite J, Takaoka H, Hata K, Inoue N, Yoshikawa R, et al. Vitamin C restores the contractile response to dobutamine and improves myocardial efficiency in patients with heart failure after anterior myocardial infarction. Am Heart J. 2007;154:645 e641-648.Givertz MM, Sawyer DB, Colucci WS. Antioxidants and myocardial contractility: illuminating the "Dark Side" of b-adrenergic receptor activation? Circulation. 2001;103:782-783. 本発明は、拡張型心筋症の改善および進行防止、ならびに当該拡張型心筋症に起因して生じる心不全、特に酸化ストレスを伴う鬱血性心不全の改善および予防に有効に使用できる新規なカルシウムセンシタイザーを提供すること目的とする。また、本発明は当該カルシウムセンシタイザーを有効成分とする心疾患の予防または治療剤、より詳細には拡張型心筋症、ならびに当該心筋症に起因して生じる上記心不全の予防または治療剤を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行っていたところ、抗酸化作用を有し、従来より酸化防止剤(食品添加剤、医薬品添加剤)として使用されているプロピルガレート(没食子酸プロピル)に、用量依存的かつ可逆的に、心筋ミオフィラメントのカルシウム感受性を増加させる作用があることを見出し(実験例1)、当該プロピルガレートが心筋収縮力を増加させるカルシウムセンシタイザーであること、これが心不全の原因の多くを占めている拡張型心筋症の治療に有効であることを、拡張型心筋症のモデル動物に対する経口投与実験で確認した(実験例2)。 本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有するものである:項1.プロピルガレートを有効成分とするカルシウムセンシタイザー。項2.上記カルシウムセンシタイザーを有効成分とする心疾患の予防または治療剤。なお、当該発明は「プロピルガレートを有効成分とする心疾患の予防または治療剤」と言い換えることができる。項3.心疾患が拡張型心筋症である項2に記載する、心疾患の予防または治療剤。項4.心疾患が心不全である項2に記載する、心疾患の予防または治療剤。項5.心不全が酸化ストレスを伴う鬱血性心不全である、項4に記載する心疾患の予防または治療剤。項6.経口投与形態を有する薬剤である、項2乃至5のいずれかに記載する心疾患の予防または治療剤。項7.プロピルガレートを、拡張型心筋症の患者に投与することを特徴とする拡張型心筋症の改善方法。項8.プロピルガレートを、拡張型心筋症の患者に投与することを特徴とする心不全への進展予防方法。項9.拡張型心筋症の予防または治療剤の調製のためのプロピルガレートの使用。項10.拡張型心筋症の予防または治療のためのプロピルガレート。 本発明によれば、従来より酸化防止剤(食品添加剤、医薬品添加剤)として使用されているプロピルガレート(没食子酸プロピル)について、カルシウムセンシタイザーとしての新規用途、並びに心疾患、特に拡張型心筋症およびそれに起因する心不全の予防または治療剤としての新規用途を提供することができる。プロピルガレートは、抗酸化活性を有する全く新しいタイプのカルシウムセンシタイザーであり、酸化ストレスを伴う鬱血性心不全の治療に対して、従来のカルシウムセンシタイザーより有益であると思われる。 本発明の心疾患の予防または治療剤は、これまで血圧降下、利尿作用といった対処療法、若しくは心臓移植、バチスタ手術といった外科的治療法しか確立されていなかった拡張型心筋症の新たな治療薬となりえる。また、拡張型心筋症に起因する心不全の予防薬としても期待することができる。また、本発明の心疾患の予防または治療剤は、移植が制限されている小児の治療法としても期待することができる。各種のフェノール化合物(トロロクス(Trolox)、クルクミン(Curcumin)、ケルセチン(Quercetin)、クロロゲン酸(Chlorogenate)、ガレート(Gallate)、ドデシルガレート(Dodecyl gallate)およびプロピルガレート(Propyl gallate))の心筋スキンドファイバー張力発生に対する効果を調べた結果を示す。図Aは、各フェノール化合物(100μM)の存在下で測定した張力(Relative force (%))とカルシウム濃度(pCa)との関係を示す。図Bは、各フェノール化合物(100μM)について、張力発生のカルシウム感受性(pCa50)に対する効果を示す。「Vehicle」は、フェノール化合物を配合せず0.1%DMSOの存在下で実験を行った結果を示す。張力は各ファイバーの最大張力に対して正規化した。データは5−8ファイバーに対する平均値±標準誤差を示す。**p<0.01 vs. vehicle (Student’s t-test).プロピルガレート(Propyl gallate)の心筋スキンドファイバー張力発生に対する効果を示す図である。 図Aは、種々濃度のプロピルガレート(30、100および300μM)について、張力(Relative force (%))とカルシウム濃度(pCa)との関係を示す。図Cは、張力発生のカルシウム感受性(pCa50)に対するプロピルガレートの用量依存的効果を示す。「Vehicle」は、フェノール化合物を配合せず0.1%DMSOの存在下で実験を行った結果を示す。張力は各ファイバーの最大張力に対して正規化した。データは5−8ファイバーに対する平均値±標準誤差を示す。統計学的有意性はANOVAとそれにつづくDunnettの多重比較検定により決定した。**p<0.01 vs. control.フェノール化合物(トロロクス、クルクミン、ガレートおよびプロピルガレート)の抗酸化活性(antioxidant activity (%))を測定した結果を示す。データは3回の測定に対する平均値±標準誤差を示す。野生型マウス(白抜棒グラフ)と拡張型心筋症モデルマウス(DCM mice)(黒塗棒グラフ)の心重量/体重量比(HW/BW ratio)(mg/g)に対するプロピルガレート経口投与(1日1回)の効果を示す。データは括弧内の数字で示された数のマウスに対する平均値±標準誤差を示す。統計学的有意性はANOVAとそれにつづくDunnettの多重比較検定により決定した。**p<0.01 vs. wild-type mice.(I)カルシウムセンシタイザー 本発明は、プロピルガレート(没食子酸プロピル)を有効成分とするカルシウムセンシタイザーである。鬱血性心不全の治療においてないため ここでカルシウムセンシタイザーは、心筋ミオフィラメントのカルシウムに対する感受性を増加させることによって心筋酸素消費量を増加させることなく陽性変力作用を発揮する強心薬である。このため、カルシウムセンシタイザーは、心筋ミオフィラメントのカルシウムに対する感受性の低下を伴う拡張型心筋症の治療および予防に有効に使用することができる(Du CK, Morimoto S, Nishii K, Minakami R, Ohta M, Tadano N, et al. Knock-in mouse model of dilated cardiomyopathy caused by troponin mutation. Circ Res. 2007;101:185-194)。 従って、プロピルガレート(没食子酸プロピル)もまた心筋ミオフィラメントのカルシウムに対する感受性を増加させることにより心筋収縮力の低下した拡張型心筋症の治療および予防に有効に使用することができる。 (II)心疾患の予防または治療剤 本発明は、またプロピルガレート(没食子酸プロピル)を有効成分とする心疾患の予防または治療剤である。 ここで本発明が対象とする心疾患は、前述する心筋ミオフィラメントのカルシウムに対する感受性の低下等による心筋収縮力の低下を伴う拡張型心筋症、およびこれに関連する心疾患であり、例えば拡張型心筋症の進展によって生じる鬱血性心不全、不整脈による突然死、心臓内血栓形成による脳梗塞などを挙げることができる。 なお、拡張型心筋症の診断は、心不全、不整脈、心音異常、心電図異常、胸部X線写真異常、心エコー異常などにより行われるが、診断のより具体的な項目は、例えば厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班の昭和60年度研究報告書に記載されている。 (III)医薬製剤 本発明のカルシウムセンシタイザーおよび心疾患の予防または治療剤(以下、単に「本発明の医薬製剤」という)は、有効成分としてプロピルガレートを含む以外、他の成分を含むことができる。他の成分としては、当該製剤の用法(使用形態)に応じて必要とされる製薬上の各種成分(薬学的に許容し得る各種担体等)が挙げられる。これらの他の成分は、本発明の有効成分により発揮される効果が損なわれない範囲で適宜含有することができる。 本発明の医薬製剤において、有効成分であるプロピルガレートの配合割合は、限定はされないが、例えば、製剤全体に対して通常5重量%以上であり、好ましくは10〜100重量%である。 本発明の医薬製剤は、ヒト又は非ヒト哺乳動物に対し、種々の投与経路、具体的には、経口又は非経口(例えば静脈注射、筋肉注射、皮下投与、皮内投与、直腸投与、経皮投与)で投与することができる。好ましくは経口投与である。 従って、有効成分であるプロピルガレートは、単独で用いることも可能であるが、上記投与経路に応じて、慣用される方法により薬学的に許容し得る担体を用いて適当な剤形に製剤化することができる。 例えば、経口投与剤では、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、及びトローチ剤等を例示することができる。また、非経口投与剤では、吸入剤、坐剤、注射剤(点滴剤を含む)、軟膏剤、点鼻剤、パップ剤、ローション剤、及びリポソーム剤等を例示することができる。 これらの医薬製剤の製剤化に用い得る担体としては、例えば、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、及び矯味矯臭剤のほか、必要に応じて、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、及び無痛化剤等が挙げられ、医薬製剤の原料として用いることができる公知の成分を配合して常法により製剤化することが可能である。 本発明の医薬製剤に使用可能な無毒性の成分としては、例えば、大豆油、牛脂、及び合成グリセライド等の動植物油;流動パラフィン、スクワラン、及び固形パラフイン等の炭化水素;ミリスチン酸オクチルドデシル、及びミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;セトステアリルアルコール、及びベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルセルロース等の水溶性高分子;エタノール、及びイソプロパノール等の低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、及びポリエチレングリコール等の多価アルコール(ポリオール);グルコース、及びショ糖等の糖;無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びケイ酸アルミニウム等の無機粉体;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩;精製水等が挙げられ、いずれもその塩またはその水和物であってもよい。 賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、及び二酸化ケイ素等が、結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、及びメグルミン等が、崩壊剤としては、例えば、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、及びカルボキシメチルセルロース・カルシウム等が、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、及び硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、例えば、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、及び桂皮末等が、それぞれ好ましく挙げられ、いずれもその塩又はそれらの水和物であってもよい。 本発明の医薬製剤が経口投与製剤の場合は、有効成分であるプロピルガレートに、賦形剤、さらに必要に応じ、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、及び矯味矯臭剤等を加えた後、常法により、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、及びカプセル剤等とすることができる。錠剤及び顆粒剤の場合には、例えば、糖衣するほか、必要に応じ、その他の公知の手法で適宜コーティングすることもできる。シロップ剤及び注射用製剤等の場合は、例えば、pH調整剤、溶解剤、及び等張化剤等、並びに必要に応じて溶解補助剤、及び安定化剤等を加えて、常法により製剤化することができる。また、外用剤の場合は、製法は限定されず、常法により製造することができる。使用する基剤原料としては、医薬品、医薬部外品、及び化粧品等に通常使用される各種原料を用いることが可能であり、例えば、動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス類、高級アルコール類、脂肪酸類、シリコン油、界面活性剤、リン脂質類、アルコール類、多価アルコール類、水溶性高分子類、粘土鉱物類、及び精製水等の原料が挙げられ、必要に応じ、pH調整剤、抗酸化剤、キレート剤、防腐防黴剤、着色料、及び香料等を添加することができる。さらに必要に応じて、血流促進剤、殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、及び角質溶解剤等の成分を配合することもできる。この場合、担体に対するプロピルガレートの割合は、限定はされず、1〜90重量%の間で適宜設定することができる。 本発明の医薬製剤を経口投与する場合、その投与形態及び有効な投与量は、投与対象、投与経路、製剤の性質、患者の状態、及び医師の判断等に左右されるものであり、限定はされないが、例えば、体重60kgの成人に対して1日1回あたり、プロピルガレート10〜500mg程度、好ましくは50〜300mgを投与することができる。なお、1日に複数回に分けて投与することもできる。 本発明の製剤を非経口投与(例えば注射投与)する場合、その有効な投与量は、例えば、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態等に応じて異なり、限定はされないが、例えば、体重60kgの成人に対して1日1回あたり、1〜500mgの範囲から適宜調整して投与することができる。 以下に、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実験例1(1)アルビノウサギ(雄;2−2.5kg)の左心室肉柱より細胞膜を透過性にしたスキンドファイバーを作成し、その発生張力を、Morimotoら(Ca2+-sensitizing effects of the mutations at Ile-79 and Arg-92 of troponin T in hypertrophic cardiomyopathy. Am J Physiol. 1998;275:C200-207.)に記載されている方法に従って測定した。 具体的には、まず、アルビノウサギの左心室肉柱から調製した、ガラス毛細管に結び付けた小さな肉柱束を、50%グリセリン含有弛緩溶液(50 mM MOPS/KOH(pH7.0), 100 mM KCl, 6mM MgCl2, 5mM ATP, 4mM EGTA, 0.5mM DTT, and 10mM creatinine phosphate, 35 units/ml creatine kinase)に浸漬することによりスキンド処理を行った。次いで、得られたスキンド処理肉柱束より小さなファイバー(スキンドファイバー)(直径約200μm)を切り出し、0.2ml容量の温度制御された測定槽に装着した。フック間ファイバー長を約1mmに、また弛緩時サルコメア長を、レーザー回折により2.3μmに設定した。 次いで、抗酸化作用が知られている各種のフェノール化合物(トロロクス(トコフェロールの水溶性誘導体)、クルクミン、ケルセチン、クロロゲン酸、ガレート(ガレート一水和物)、ドデシルガレートおよびプロピルガレート)が、心筋スキンドファイバーのカルシウム依存性張力発生に及ぼす影響を調べるために、各フェノール化合物100μMの存在下、25℃の条件で、カルシウム濃度を累積的に増加させて(pCa7.0−4.75)、スキンドファイバーから発生する力を、ひずみゲージUL−2GR(Minebea,Nagano)により測定した。なお、トロロックスはSigmaから、他のフェノール化合物(クルクミン、ケルセチン、クロロジェン酸、ガレート一水和物、ドデシルガレートおよびプロピルガレート)は和光純薬より購入した。すべてのフェノール化合物はジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解し、最終濃度0.1%DMSOにて使用した。 結果を図1に示す。図1(A)は、各フェノール化合物(100μM)の存在下で測定した張力(Relative force (%))とカルシウム濃度(pCa)との関係を示す。図1(B)は、各フェノール化合物(100μM)について、張力発生のカルシウム感受性(pCa50)に対する効果を示す。各図において「Vehicle」は、フェノール化合物を配合せず0.1%DMSOの存在下で実験を行った結果を示す。この結果からわかるように、プロピルガレート以外のフェノール化合物は、張力―カルシウム曲線を有意に変化させなかったのに対して、プロピルガレートは張力―カルシウム曲線を左方移動させ(図1(A))、有意なカルシウム感受性増加作用を示した(図1(B))。なお、上記フェノール化合物は、いずれも心筋スキンドファイバーの最大張力および張力―カルシウム曲線の傾斜(ヒル係数)には有意な影響を与えなかった(結果示さず)。 この結果から、プロピルガレートは、心筋ミオフィラメントのカルシウム感受性を直接増加させる作用を有するカルシウムセンシタイザーであることが示された。 (2)次いで、種々濃度のプロピルガレート(30、100および300μM)を用いて、(1)と同様の方法により、当該プロピルガレートの存在下で、25℃条件で、カルシウム濃度を累積的に増加させて(pCa7.0−4.75)(図2(B)参照)、スキンドファイバーから発生する力を測定した。 結果を図2に示す。図2(A)は、種々濃度のプロピルガレート(30、100および300μM)について、張力(Relative force (%))とカルシウム濃度(pCa)との関係を示す。図2(C)は、張力発生のカルシウム感受性(pCa50)に対するプロピルガレートの用量依存的効果を示す。また、図1と同様に、「Vehicle」は、フェノール化合物を配合せず0.1%DMSOの存在下で実験を行った結果を示す。 この結果から、プロピルガレートは心筋スキンドファイバー張力発生のカルシウム感受性を用量依存性に増加させ(図2(A))、100μM以上の濃度で統計学的に有意なカルシウム感受性の増加が検出された(図2(C))。但し、プロピルガレートのカルシウム感受性増強作用は可逆的であり、洗浄により即座に消失した(結果示さず)。 このことから、プロピルガレートのカルシウム感受性増強作用は、用量依存的でかつ可逆的であることが確認された。 (3)フェノール化合物の抗酸化活性の測定 上記で使用した各フェノール化合物のうち、プロピルガレート、トロロクス、クルクミン、およびガレート一水和物について抗酸化活性を測定した。抗酸化活性は、Shirwaikarら(Shirwaikar A, Rajendran K, Punitha IS. In vitro antioxidant studies on the benzyl tetra isoquinoline alkaloid berberine. Biol Pharm Bull. 2006;29:1906-1910.)によって記載された方法に従い、安定フリーラジカル1,1-diphenyl-2-picryl hydrazyl (DPPH)に対するスカベンジ作用により評価した。 具体的には、10μM DPPHと種々濃度の各フェノール化合物(プロピルガレート、トロロクス、クルクミン、またはガレート一水和物)を含む反応溶液を遮光下室温にて10分間インキュベート後、517nmにおけるDPPH光吸収の減少度(%)を抗酸化活性として計算した。 結果を図3に示す。トロロクス、クルクミン、ガレートおよびプロピルガレートのフリーラジカル(DPPH)スカベンジ効果のEC50値は、それぞれ8.4、10.4、9.0 および1.3μMであった。この結果からわかるように、フリーラジカル(DPPH)スカベンジ作用により評価すると、プロピルガレートは、他のフェノール化合物(トロロクス、クルクミンおよびガレート)と同程度の強い抗酸化活性を示した。 実験例2 拡張型心筋症(DCM)モデルマウス(Du CK, Morimoto S, Nishii K, Minakami R, Ohta M, Tadano N, et al. Knock-in mouse model of dilated cardiomyopathy caused by troponin mutation. Circ Res. 2007;101:185-194)に対してプロピルガレートの経口投与を行い、病的な心拡大に対する抑制効果を心重量/体重比(mg/g)の変化によって評価した。 プロピルガレートは0.25%メチルセルロースに懸濁し、体重1kgあたり10mgあるいは30mgを、1日1回4週間経口ゾンデを用いて強制的に経口投与した。対照となる野生型(wild-type)マウスおよびDCMマウスには、vehicleである0.25%メチルセルロースのみを経口投与した。 結果を図4に示す。この結果からわかるように、プロピルガレートは用量依存的にDCMマウスの心重量/体重比(HW/BW ratio)を有意に減少させた。この結果から、プロピルガレートは、経口投与によって病的心拡大リモデリング反応を抑制する効果を有することが確認され、プロピルガレートが拡張型心筋症の進行防止ならびに鬱血性心不全の予防に有効であることが確認された。 プロピルガレートを有効成分とするカルシウムセンシタイザー。 上記カルシウムセンシタイザーを有効成分とする心疾患の予防または治療剤。 心疾患が拡張型心筋症である請求項2に記載する、心疾患の予防または治療剤。 心疾患が心不全である請求項2に記載する、心疾患の予防または治療剤。 心不全が酸化ストレスを伴う鬱血性心不全である、請求項4に記載する心疾患の予防または治療剤。 経口投与形態を有する薬剤である、請求項2乃至5のいずれかに記載する心疾患の予防または治療剤。 【課題】拡張型心筋症の改善および進行防止、ならびに当該拡張型心筋症に起因して生じる心不全、特に酸化ストレスを伴う鬱血性心不全の改善および予防に有効に使用できる新規なカルシウムセンシタイザーを提供する。また拡張型心筋症、ならびに当該心筋症に起因して生じる心不全などの心疾患の予防または治療剤を提供する。【解決手段】上記課題は、プロピルガレートを有効成分とする医薬製剤によって解決することができる。【選択図】なし


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