タイトル: | 公開特許公報(A)_肌荒れを修復する美容方法 |
出願番号: | 2009034438 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | A61K 8/63,A61K 8/36,A61Q 19/00 |
岡 隆史 才脇 卓也 今栄 東洋子 イェン ズー JP 2010189300 公開特許公報(A) 20100902 2009034438 20090217 肌荒れを修復する美容方法 株式会社資生堂 000001959 学校法人慶應義塾 899000079 青木 篤 100099759 石田 敬 100077517 福本 積 100087871 古賀 哲次 100087413 渡辺 陽一 100117019 中村 和広 100108903 中島 勝 100141977 岡 隆史 才脇 卓也 今栄 東洋子 イェン ズー A61K 8/63 20060101AFI20100806BHJP A61K 8/36 20060101ALI20100806BHJP A61Q 19/00 20060101ALI20100806BHJP JPA61K8/63A61K8/36A61Q19/00 5 1C OL 12 4C083 4C083AC241 4C083AC242 4C083AC642 4C083AD491 4C083AD492 4C083CC02 4C083EE12 本発明は、ステロール化合物を用いて肌荒れを修復する新規の美容方法に関する。 皮膚の最外層に位置する角層は細菌や有害物質などの異物の接触や浸透から生体を保護すると共に、体内からの水分蒸散を防ぐことによって皮膚を健全な状態に保持するバリア機能を有する。バリア機能が低下すると、皮膚表面からの経表皮水分蒸発量(trans epidermal water loss:TEWL)が増加し、相対的に角層水分量が低下する。角層水分量の低下により皮溝、皮丘から成る皮紋(きめ)が不規則化すると、皮膚はかさかさした肌荒れ状態を呈する(曽根俊郎ら、香粧会誌 Vol.15 No.2. pp. 60-65(1991))。 このバリア機能において重要な役割を果たす角層の細胞間脂質は、主にセラミド、遊離脂肪酸及びコレステロールを主成分とし、ラメラ構造を形成していることが知られている(Bouwstra JA, et al., Acta Derm Venereol Suppl (Stockh). 2000;208:pp. 23-30.; Bouwstra JA, et al., Int J Cosmet Sci. 2008 Oct;30(5): p. 388)。 スキンケア洗浄料等に含まれる成分として界面活性剤がある。界面活性剤は、角層に浸透し、角質細胞のケラチンに吸収され、そして細胞間脂質と混和する(Friberg, S. E. et al., Colloids Surf. 1988, 30, pp.1-12; Rhein, L. D. Ibid. 1997, 48, pp.253-274)。更に、界面活性剤は、脂肪酸、脂肪酸グリセリド、コレステリルエステル等の皮膚脂質を除去することで、たとえ除去される脂質が少量であったとしても皮膚に損傷を与えることが知られている(Fulmer, A. W. et al., J. Invest. Dermatol. 1986, 86, pp. 598-602; Denda, M. et al., Arch. Dermatol. Res. 1994, 286, pp.41-46; Ronald, R. W. et al., J. Invest. Dermatol. 1999, 113, pp. 960-966; Lopez, O. et al. Bioch. et Biophy Acta 2000, 1508, pp. 196-209及びEbba, B. et al., Inter J. Phama. 2000, 195, pp.189-195)。 化粧品業界において、上記のようなヒトの角層の損傷に対して回復させるための検討が行われてきた。その一例として、添加物として油脂を使用することで、少なくとも部分的に脂質膜を回復させることができることが知られている(Lawson, E. E.; Anigbogu, A. N. C.; Williams, A. C.; Barry, B. W.; Edwards, H. G. M. Spectrochimica Acta Part A 1998, 54, pp. 543-558)。 皮膚表面をアセトン/エーテルで処理すると、角層からセラミドを含む細胞間脂質が溶出する。セラミドの溶出により、角層中の水分含量は著しく低下するものの、セラミドを当該皮膚表面に塗布して補うことで、かかる水分含量は正常レベルに回復することが知られている(Imokawa, G.; Akasaki, S.; Minematsu, Y.; Kawai, M. Arch. Dermatol. Res. 1989, 281, pp. 45-51.)。角層を構成するセラミドが失われた場合、セラミドを補填するのは合理的である。曽根俊郎ら、香粧会誌 Vol.15 No.2. pp. 60-65(1991)Bouwstra JA, et al., Acta Derm Venereol Suppl (Stockh). 2000;208:pp. 23-30.Bouwstra JA, et al., Int J Cosmet Sci. 2008 Oct;30(5): p. 388)。Friberg, S. E. et al., Colloids Surf. 1988, 30, pp.1-12Rhein, L. D. Ibid. 1997, 48, pp.253-274Fulmer, A. W. et al., J. Invest. Dermatol. 1986, 86, pp. 598-602Denda, M. et al., Arch. Dermatol. Res. 1994, 286, pp.41-46Ronald, R. W. et al., J. Invest. Dermatol. 1999, 113, pp. 960-966Lopez, O. et al. Bioch. et Biophy Acta 2000, 1508, pp. 196-209Ebba, B. et al., Inter J. Phama. 2000, 195, pp.189-195Lawson, E. E.; Anigbogu, A. N. C.; Williams, A. C.; Barry, B. W.; Edwards, H. G. M. Spectrochimica Acta Part A 1998, 54, pp. 543-558Imokawa, G.; Akasaki, S.; Minematsu, Y.; Kawai, M. Arch. Dermatol. Res. 1989, 281, pp. 45-51. 本発明は、従来知られていたセラミドをベースとした保湿機能の回復方法とは異なる、新規なメカニズムによる肌荒れの修復のための美容方法を提供することを目的とする。 かかる皮膚へのアセトン/エーテルの適用は、セラミドだけでなく、それ以外の細胞間脂質の流出を生じさせ、皮膚疾患に近い状態をもたらすことが報告されている。このように、細胞間脂質構造が大きく乱れた状態は、化粧品等に含める成分の適否を検討する上で日常発生する肌荒れとは異なると考えられる。 一方、本発明者が適切な濃度のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤を皮膚に適用したところ、上記のアセトン/エーテル処理とは異なり、短時間内(1日以内)ではセラミドはほとんど流出しないことが分かった。また、界面活性剤の適用により損傷が生じた角層に種々の油分を適用したところ、コレステロールやフィトステロール等のステロール構造を有する油分が特にその損傷に対する修復に有効であることも見出された。これらの知見に基づき、本発明者は、セラミドではなくステロール構造を有する化合物が肌荒れの修復に重要な因子であると結論付け、本発明を完成させるに至った。 即ち、本発明は以下の発明を包含する。[1]ステロール構造を有する化合物を含む皮膚外用剤を皮膚上に適用することにより肌荒れの修復を促進させることを特徴とする美容方法。[2]前記皮膚外用剤の適用の前又は後、あるいはそれと同時に、炭素数12〜18の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸を含む皮膚外用剤が皮膚に適用される、[1]に記載の美容方法。[3]前記脂肪酸がパルミチン酸である[2]に記載の美容方法。[4]前記皮膚外用剤が更に、炭素数12〜18の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸を含む[1]に記載の美容方法。[5]前記脂肪酸がパルミチン酸である[4]に記載の美容方法。 主要な細胞間脂質成分であるコレステロールは、生体膜の流動性を調節している。本発明によれば、コレステロール等のステロール構造を有する化合物を皮膚に適用することで、肌荒れ状態、すなわち、コレステロール、パルミチン酸が溶出して乱れた細胞間脂質構造を即時的に正常な状態に再構築することができる。これは皮膚のバリア機能の回復を意味し、セラミドを用いた保湿機能の回復とは異なるメカニズムと言える。 ステロール化合物による角層中の細胞間脂質構造の修復は、本願出願人により構築された、角層をトータルで育て・維持するという「コルネオ(角層)育成理論」と軌を一にするものでもある。 このようなステロール化合物を用いた新規の肌荒れ修復メカニズムは、従来の保湿剤が発揮する肌荒れ改善効果のメカニズムとは異なる、細胞間脂質をターゲットとした新規な角層ケア成分の開発、延いては新規な肌荒れ改善剤の開発にも資するものである。図1Aは、下から、未処理角層脂質擬似基板、SDS溶液曝露後の前記基板、SDS溶液に代え、エタノール溶液に曝露した後の角層脂質擬似基板、並びにSDS溶液曝露後にコレステロール及びパルミチン酸の混合物を含有するエタノール溶液を適用した後の前記基板(7秒〜24時間)の赤外(IR)吸収スペクトルを示す。図1Bは、下から、SDS溶液曝露後の角層脂質擬似基板及びパルミチン酸含有エタノール溶液を適用した後の当該基板(5秒〜24時間)のIR吸収スペクトルを示す。図1Cは、下から、SDS溶液曝露後の角層脂質擬似基板及びコレステロール酸含有エタノール溶液を適用した後の当該基板(6秒〜24時間)のIR吸収スペクトルを示す。図2は、電子スピン共鳴(ESR)測定による、SDS処理後の角層脂質擬似基板に対するパルミチン酸、コレステロール、フィトステロールの修復効果を示す図である。図3は、ESR測定による、SDS処理後の角層脂質擬似基板に対する化粧品汎用成分の修復効果を示す図である。図4は、ESR測定による、SDS処理後の角層脂質擬似基板に対するステロール油分の修復効果を示す図である。図5は、示差走査熱量(DSC)測定による、SDS処理後の角層脂質擬似基板に対するパルミチン酸、コレステロール、フィトステロールの修復効果を示す図である。図6は、SDS処理後のヒト角層に対するフィトステロールの修復効果をコルネオメーター測定値の比で表した図である。図7は、SDS処理後のヒト角層に対するフィトステロールの修復効果をTEWL比で表した図である。 本発明は、ステロール構造を有する化合物を含む溶液を皮膚上に適用することにより肌荒れの修復を促進させることを特徴とする美容方法を提供する。 本明細書で使用する用語「ステロール構造を有する化合物」は、本明細書において「ステロール化合物」と同義に使用される。肌荒れを修復させる観点からは、ステロール構造を有する化合物が好ましい。 ステロール化合物のうち、コレステロール、フィトステロール等室温で固体の結晶性物質に関しては、適当な溶媒に溶解した後皮膚に適用される。後述する皮膚角層細胞間脂質擬似基板を用いた実験によれば、SDSの添加により細胞間脂質構造が乱れた当該基板に対しステロール化合物を適用した場合、当該基板内のセラミドのコンフォーメーションが短時間(8秒)で修復されることが明らかとなっている。一方、パルミチン酸は、ステロール化合物のように短時間でセラミドのコンフォーメーションを修復することはできないものの、徐々に当該基板内に浸透していき、当該基板を未処理の状態に修復することができる。従って、ステロールの化合物の適用時に、例えば当該適用前又は後、あるいはそれと同時に炭素数12〜18の脂肪酸、好ましくはパルミチン酸を含む溶液を皮膚に適用することで、ステロール化合物を単独で適用した場合と比較してより未処理の状態に修復させることができる。 上述したステロール化合物及び炭素数12〜18の脂肪酸は、パルミチン酸、ステアリン酸等のように室温で粉末状の場合、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、流動パラフィン、スクワラン、イソドデカン等の炭化水素油、マカデミアナッツ油、ヒマワリ油、オリーブ油等の油脂、ホホバ油、オレイン酸等の炭素数12〜18以外の脂肪酸等、あるいはこれらの混合物に溶解した後皮膚外用剤に含められる。これらの溶媒は、列記した具体的なものに限定されず、前記ステロール化合物及び炭素数12〜18の脂肪酸を溶解可能なものであればどのようなものでもよい。一方、ステロール化合物及び炭素数12〜18の脂肪酸が室温で液状である場合、これらはそのまま皮膚外用剤に含めることができる。このように、別の観点において、本発明は、肌荒れを修復する有効成分としてステロール化合物及び/又は炭素数12〜18の脂肪酸を含有する皮膚外用剤を提供する。 前記皮膚外用剤中、ステロール化合物は0.01〜100重量%、そして炭素数12〜18の脂肪酸は0.01〜100重量%の量で含まれてもよい。 前記皮膚外用剤の剤型は溶液に限定されるものでなく、クリーム、軟膏、ゲル、エアゾール等の任意の剤型をとることができる。これらの成分は、他の任意な成分とともに、化粧水、乳液等の任意のスキンケア製品に含めることができる。 「肌荒れ」を評価する指標として、TEWL値(経皮水分蒸散量)の上昇が一般的に知られている。この方法によれば、被検物適用前よりTEWL(経皮水分蒸散量)が上昇した状態が肌荒れとみなされ、TEWL上昇の程度が大きいほど皮膚のバリア能が低下している状態とみなされる。本発明では、in vitroで肌荒れを評価するために、本願発明者が開発した皮膚角層細胞間脂質を模した基板(以下、本明細書では「皮膚角層細胞間脂質擬似基板」と称する)(特願2008−335319)を用いて、その構造の乱れ等を肌荒れとして評価する。当該基板は、複雑な構造を有する角層を単純化した、3種の脂質(セラミド、パルミチン酸及びコレステロール)から構成されるモデル膜である。本発明では、未処理基板のIR吸収スペクトルと比較した差異(スペクトル強度、配合脂質由来の吸収帯の波数シフトなど)を損傷の程度とみなす。 前記3種の脂質から成る脂質膜を形成させる基礎の基板には、カバーガラス、マイカ、シリコンウエハー等の平面板を用いることができる。これらの脂質混合物は、質量比で、20〜70%:10〜60%:20〜40%(セラミド:パルミチン酸:コレステロール)で溶媒中に溶解される。皮膚中に存在する角層細胞間脂質の組成比を模するという観点からは、混合脂質の比率は2:1:1(セラミド:パルミチン酸:コレステロール)の質量比であることが好ましい。前記溶媒として、メタノール、クロロホルム、ヘキサン、アセトン、酢酸エチル等、あるいはその混合物を使用することができる。前記溶媒は、これらの具体的な溶媒に限定されず、上記脂質を溶解可能なものであればどのようなものでもよい。 上記脂質混合物を溶媒に溶解した後、当該溶液を平面板、例えばカバーグラス上に展開させ、乾燥させる。続いて、平面板を高温(例えば120℃)のオーブン中で溶融させ、窒素気流下で所定の時間静置する。室温に冷却後、平面板に水を加えて加湿(例えば、水に長時間浸漬又は加水)浸漬することで、本発明の脂質擬似基板を調製することができる。固体脂質混合物を溶融した後加湿する方法も可能である。 「肌荒れの修復」は、界面活性剤の適用により引き起こされた前記基板における細胞間脂質構造(ラメラ構造)の乱れ及びその流動性・秩序性が、界面活性剤適用前の状態に回復することを意味する。ステロール化合物単独及び/又はステロール化合物とパルミチン酸の混合物を前記基板に適用すると、8秒後にはIRスペクトルが未処理の基板と同様のプロファイルを示した(図1A及び1C)。一方、パルミチン酸を単独で適用した場合、IRスペクトルが元のプロファイルに回復するのに11分かかった(図1B)。このような結果から、実際の皮膚に適用した場合でも、ステロール化合物は即時的な肌荒れの修復に寄与するものと考えられる。 しかしながら、前記皮膚外用剤におけるステロール構造を有する化合物及び炭素数12〜18の脂肪酸の用量・用法も特に限定されるものではなく、剤型や処置すべき肌荒れの状態により適宜決定される。典型的には、1日当たり数回、例えば1回〜3回、適量、例えば1平方cm2当たり3質量%溶液2〜3μLを肌に直接すり込むか、又その適量をガーゼなどに染み込ませてから肌に貼付することができる。皮膚角層細胞間脂質擬似基板の調製 セラミドIII(95.9%、0.3g)(Evonik Degussa社、ドイツ、エッセン)、パルミチン酸(0.15g)(ナカライテスク社、日本、京都)及びコレステロール(0.15g)(ナカライテスク社、日本、京都)をクロロホルム(50cm3)及びメタノール(10cm3)の混合溶媒に溶解した。続いて、この脂質混合溶液(0.2cm3)を18×18mmのカバーグラス上に広げ、そして乾燥させた。生成した脂質混合膜は、オーブン内において120℃で融解した後、同じ温度で1時間窒素雰囲気下に放置した。このサンプルを、室温に冷却した後24時間水に浸透させた。最後に、飽和塩化ナトリウムを含むデシケーター(相対湿度75%)内で、使用するまで保存した。SDSによる皮膚角層細胞間脂質擬似基板の損傷 調製した複数の基板を各々SDS水溶液(5.0mg/cm3)に曝露し、そしてそれぞれ異なる時間維持することで、実験的にヒトの肌荒れ状態を当該基板内に作り出した。SDSの曝露により損傷した基板は、少量の水で洗浄し、乾燥させた後使用した。 SDS水溶液に曝露した後の基板内の化学構造及び組成の変化は、IR吸収スペクトルを用いて分光学的に解析した。IR吸収スペクトルは、Bio-Rad社製Digilab FTS-60Aスペクトロメーター上で、KBrペレットを用いた透過モードで測定することにより得た。スペクトルは全て、4000〜400cm-1の間で、平均64回スキャンしたものである。 また、損傷後の基板をX線回折(XRD)にかけることで、基板内の脂質の充填状態を確認した。X線回折(XRD)測定は、X線回折装置(理学社製RAD-RC、日本及びBruker社製D8 Discover、ドイツ)上で、グラファイトモノクロメーターで単色化した高密度CuKα放射線(λ=0.154nm)を用い、50mA、60kV、及び40mA、40kVの条件で実施した。 IR及びXRDの結果から、SDSを前記基板に適用した場合、コレステロール及びパルミチン酸が前記基板から溶出することが明らかになった。具体的には、コレステロールは適用から約1分後に溶出し、パルミチン酸は適用から5〜6分で溶出した。一方、セラミド(特にセラミドIII)は、適用から4分後に、そのアミド基の構造が、α−ヘリックスからβ構造へと変化したことが示唆されたものの、適用から24時間経過した後も前記基板にほとんど残留していた。これらの現象は、ヒトの皮膚でも確認された。コレステロール及び/又はパルミチン酸の添加による脂質構造の回復 エタノールに1)コレステロールとパルミチン酸とを等量含む混合物、2)パルミチン酸単独、及び3)コレステロール単独をそれぞれ5.0mg/cm3となるよう溶解させ、損傷した前記基板を当該溶液に異なる期間曝露し、維持した。洗浄して乾燥させた後、IR吸収スペクトル測定を行った。IRスペクトルによるSDS曝露により損傷した基板の修復評価 脂質曝露後の前記基板と曝露前のIR吸収スペクトルを比較した。結果を図1A〜Cに示す。図1Aに示すとおり、1)コレステロールとパルミチン酸の混合溶液に対して曝露された前記基板は、8秒間の曝露によりアミドI(セラミドIII)の1614cm-1の吸収帯が1640cm-1に回復した。これは、セラミドIIIの構造がβ構造からαヘリックスへと回復したことを示唆している。損傷した基板を3)コレステロール単独の溶液に曝露した場合にも、セラミドIIIは同様にβ構造からαヘリックスへと回復した(図1C)。しかしながら、2)パルミチン酸単独の溶液に曝露した場合、アミドI(セラミドIII)の構造は回復しなかった(図1B)。これにより、コレステロールを添加することで、残留していたセラミドIIIの構造にも影響を及ぼすことが分かる。 C=O伸縮モード(パルミチン酸由来)の1708cm-1の吸収帯は、1)パルミチン酸とコレステロールのエタノール溶液に曝露してから3分後に徐々に強度が増大した(図1A)。他方、1378cm-1の吸収帯(コレステロールのCOHの面内変角モード由来)の強度は、1)の溶液を用いた場合、8秒の曝露後に増大した。しかしながら、1708cm-1の吸収帯が、2)パルミチン酸単独のエタノール溶液に対する曝露から11分後に強度が増大したのに対し(図1B)、1378cm-1の吸収帯は、3)コレステロール単独のエタノール溶液に対する曝露から8秒後に強度が増大した(図1C)。これらの結果は、コレステロールの浸透速度がパルミチン酸よりも速いことを示唆している。ESR測定によるSDS処理角層に対する修復効果の検討 角層のラメラ構造の流動性・秩序性を検討するために、前記脂質曝露前の基板と曝露後の基板のESR測定を行った。SDS処理角層を被検試料のエタノール溶液に10秒間浸漬した後、角層に吸着した被検試料を除去するためエタノールに10秒間浸漬した。対照として、未処理角層、SDS処理角層をそれぞれエタノールに10秒間浸漬したサンプルも調製した。それぞれの処理角層に対して、5−DSA水溶液を適用して37℃で1時間インキュベートした後、角層を十分に水洗してカバーグラス上に広げ、相対湿度93%のデシケーター中で終夜静置しESR測定に供した。測定条件は以下の通りである。装置:JES-RE1X X-band (9 GHz) EPR spectrometer(JEOL)、microwave power:10mW、time constant:1 second、sweep time:8 minutes、modulation:0.2 mT、sweep width:15 mT。角層構造性はオーダーパラメーター(S値)を算出して評価した。1.角層細胞間脂質関連物質の添加 角層細胞間脂質関連物質であるパルミチン酸、コレステロール、フィトステロールを0.25質量%の量で含むエタノール溶液で10秒間浸漬処理した角層の測定結果を図2に示す。グラフの縦軸はS値を示しており、数値が大きい程角層構造性が高いことを示している。未処理角層に対しSDS処理した角層は角層構造性が低下しており、更に10秒間エタノール処理をしてもS値に変化はみられなかった。これらに対し、パルミチン酸適用角層に関しては中程度の修復効果、ステロール化合物であるコレステロール、フィトステロール適用角層は優れた修復効果がみられた。2.化粧品汎用油分の添加 化粧品汎用油分として用いられる流動パラフィン、ジイソステアリン酸グリセリル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチルドデシル)、オリーブ油、イソステアリン酸、メチルポリシロキサンの3質量%のエタノール溶液で10秒間浸漬処理した角層の測定結果を図3に示す。グラフの縦軸はS値を示しており、数値が大きい程角層構造性が高いことを示している。未処理角層に対しSDS処理した角層は角層構造性が低下しており、更に10秒間エタノール処理をしてもS値に変化はみられなかった。これらに対し、流動パラフィン、ジイソステアリン酸グリセリル、オリーブ油適用角層に関しては中程度の修復効果、イソステアリン酸、メチルポリシロキサン適用角層に関しては修復効果があまりみられなかったが、ステロール化合物であるN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチルドデシル)処理角層は優れた修復効果がみられた。3.ステロール油分の添加 ステロール構造を有する油分であるポリオキシエチレンフィトステロール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンフィトステロール、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチルドデシル)、マカデミアナッツ油脂肪酸フィトステリルの3質量%のエタノール溶液で10秒間浸漬処理した角層の測定結果を図4に示す。グラフの縦軸はS値を示しており、数値が大きい程角層構造性が高いことを示している。未処理角層に対しSDS処理した角層は角層構造性が低下しており、更に10秒間エタノール処理をしてもS値に変化はみられなかった。これらに対し、検討したステロール油分処理角層すべてに関して優れた修復効果がみられた。DSC測定による角層修復効果の検討 角層細胞間脂質の添加による、SDS処理後の前記基板の脂質構造の回復をDSC測定により検討した。添加する角層細胞間脂質として、1)パルミチン酸、2)コレステロールに加え、3)フィトステロールを使用した。各脂質をそれぞれ0.25重量%の濃度となるようエタノールに溶解させた。SDS処理角層を当該エタノール溶液に各々10秒間適用した後、角層に吸着した被検試料を除去するためエタノールに10秒間浸漬した。対照として、未処理角層、SDS処理角層をそれぞれエタノールに10秒間浸漬したサンプルも調製した(n=1)。測定条件は以下の通りである。装置:DSC120(SII社)、測定セル:銀製15μL容、測定条件:5℃から130℃まで2K/minで昇温。結果を図5に示す。 図5の結果から明らかなように、未処理角層は、64℃付近に脂質由来のピーク温度を有する。当該ピーク温度は、SDS処理角層では62℃未満に低下し、更にエタノールを10秒間適用しでも62℃未満のままであった。しかしながら、SDS処理角層をコレステロールのエタノール溶液に10秒という短時間曝露しただけで、ピーク温度は未処理角層が示す温度に回復した。また、フィトステロールも顕著に脂質由来のピーク温度が回復した。パルミチン酸のエタノール溶液の添加によっては中程度の回復効果を示した。 上記のESR及びDSCの結果から、ステロール構造を有する化合物は角層のラメラ構造の乱れ及び流動性・秩序性を即時に本来の状態に回復させることに寄与するものと考えられる。優れた角層修復効果を示したフィトステロールに関して、ヒト角層を用いたin vivo試験において修復効果を検討した。in vivoヒト角層におけるSDS処理に対するフィトステロールの修復効果の検討 前腕内側部を石鹸洗浄し、タオルで乾燥させた。30分経過した後に、フィトステロールを適用する部位に印を付け、コルネオメーターCM825PC(COLOGNE社製、ドイツ)、テバメーターTM210(Courage+Khazaka社製、ドイツ、ケルン)を用いて皮表水分量及びTEWL値を測定した。その後、3重量%のSDS水溶液300μlを各適用部位に30分間パッチ適用した。 次に、SDSをパッチ適用部位から除去するために、適用部位を石鹸洗浄し、30分間静置した。その後、前記コルネオメーター及びテバメーターを用いて皮表水分量及びTEWL値を測定した。 前記適用部位に0.25重量%フィトステロール(日清製油(株)、日本、東京)含有エタノール溶液を塗布し、30分間静置した。その後、前記コルネオメーター及びテバメーターを用いて皮表水分量及びTEWL値を測定した。結果を図6及び7に示す。 未処理皮膚に対する皮表水分量比(コルネオメーター測定値比)及びTEWL比は、SDS適用後に皮表水分量比は低下し(図6)、TEWL比は上昇した(図7)。これは、SDSの適用により肌荒れの状態が引き起こされたことを意味する。これに対し、フィトステロール添加後の皮膚は、皮表水分量比が上昇し(図6)、TEWL比が低下した(図7)。すなわち、コレステロールだけでなく、植物由来のステロール化合物であるフィトステロールも肌荒れの回復に寄与することが実際の皮膚で証明された。 本発明の美容方法によれば、セラミドを用いることなく、ステロール構造を有する化合物を肌に適用することで肌荒れ状態を回復させることができる。このようなステロール化合物を用いた新規の肌荒れ修復メカニズムを利用することで、細胞間脂質をターゲットとした新規な角層ケア成分、延いては新規な肌荒れ改善剤の開発が可能となる。 ステロール構造を有する化合物を含む皮膚外用剤を皮膚上に適用することにより肌荒れの修復を促進させることを特徴とする美容方法。 前記皮膚外用剤の適用の前又は後、あるいはそれと同時に、炭素数12〜18の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸を含む皮膚外用剤が皮膚に適用される、請求項1に記載の美容方法。 前記脂肪酸がパルミチン酸であることを特徴とする請求項2に記載の美容方法。 前記皮膚外用剤が更に、炭素数12〜18の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上の脂肪酸を含むことを特徴とする請求項1に記載の美容方法。 前記脂肪酸がパルミチン酸であることを特徴とする請求項4に記載の美容方法。 【課題】本発明は、肌荒れの修復のための新規の美容方法を提供することを目的とする。【解決手段】ステロール構造を有する化合物を含む皮膚外用剤を皮膚上に適用することにより肌荒れの修復を促進させることを特徴とする美容方法。【選択図】図1C