タイトル: | 特許公報(B2)_糖尿病性ニューロパチー治療剤 |
出願番号: | 2008551162 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | A61K 31/167,A61P 25/04,A61P 25/02,A61P 3/10 |
木庭 守 JP 5023074 特許公報(B2) 20120622 2008551162 20071220 糖尿病性ニューロパチー治療剤 大鵬薬品工業株式会社 000207827 田村 巌 100081536 木庭 守 JP 2006349987 20061226 20120912 A61K 31/167 20060101AFI20120823BHJP A61P 25/04 20060101ALI20120823BHJP A61P 25/02 20060101ALI20120823BHJP A61P 3/10 20060101ALI20120823BHJP JPA61K31/167A61P25/04A61P25/02 101A61P3/10 A61K 31/167 A61P 3/10 A61P 25/02 A61P 25/04 CAPLUS/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) 特開平11−315019(JP,A) 特開2006−131521(JP,A) 特開2006−076958(JP,A) 特開2004−292407(JP,A) 特開2005−097220(JP,A) 特開2006−199642(JP,A) 特表2006−505591(JP,A) 国際公開第2005/043971(WO,A1) 国際公開第00/027383(WO,A1) 4 JP2007075233 20071220 WO2008078826 20080703 9 20090610 伊藤 幸司 本発明は、糖尿病性ニューロパチー治療剤に関する。 糖尿病はインスリンの不足などにより発症する慢性の高血糖を特徴とする代謝異常であり、発症原因によりI型とII型に分類される。I型は、ウイルスや自己免疫などによる膵臓のインスリン分泌細胞の破壊が原因となって発症し、若年者に多い。II型は、過食・肥満・運動不足などの生活習慣を含む環境因子や加齢が要因となり、中年以降に発症する。日本の糖尿病患者数は約740万人といわれており、その90〜95%がII型糖尿病である。これら糖尿病患者は、十分に治療しないで放置し高血糖状態が長く続くと、患者のQOLを著しく損うだけでなく、生命予後にも関わる重篤な合併症を発症する。代表的な合併症は、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、および、本発明の関わる糖尿病性神経障害である。 糖尿病性神経障害は、糖尿病性ニューロパチーとも称され、糖尿病患者の約2/3は何らかの形で合併しているとされる。一般的には、長い神経線維に支配された部位(手や足先の神経)から障害が起こり、はじめは手足のしびれや痛み、異常な冷感があり、放置すると症状は進行し、足先から膝へ、手先から肘へと、からだの中心に向かって広がっていく。このような症状の多様性は、障害される神経が運動神経、感覚神経、および自律神経と多岐にわたること、それぞれの神経が司る機能が多彩であることに起因しており、糖尿性神経症の診断および治療を困難にしている要因でもある。 糖尿病性神経障害の発症メカニズムは未だ確定していないが、代謝性因子として、ポリオール経路の活性亢進とそれに関連したミオイノシトール代謝異常、プロテインキナーゼC(PKC)の活性異常、酸化ストレスなどが想定されている。また、血管性因子として、神経内膜内微小循環障害によって神経組織への酸素・栄養供給が不十分であるとの説も提唱されている。これらは独立した異常ではなく、高血糖状態が長期持続する条件下で、代謝性因子と血管性因子とが相互に関与し合いあって糖尿病性神経障害の発症・進展をもたらすとされている。 糖尿病性神経障害の予防・治療に関しては、糖尿病の合併症に共通することだが、危険因子、すなわち糖尿病状態のコントロールがベースである。一方、発症機序にそった治療薬の開発も精力的に行われており、代謝性因子であるポリオール代謝活性亢進の律速酵素であるアルドースリダクターゼ阻害剤はその有用性が期待されている。また、糖尿病状態あるいは高グルコース条件下ではPKC(βアイソフォーム)活性が亢進していることが見いだされ、選択的PKC−β阻害剤は糖尿病性神経障害の成因の一つである神経栄養血管の血流低下を抑制するとされている。さらに、近年、酸化ストレスの亢進による細胞障害、NO産生の阻害による血流低下が神経機能の低下を生ずることが報告され、様々な抗酸化作用を有する薬剤や酸化ストレスの下流にある転写因子の有効性が基礎的には報告されている。 しかし、これら発症原因に基づく治療剤は、さらに進展した神経障害に対しては有効性が乏しく、患者のQOL改善を目的とした対症療法薬の必要性も現実には高い。特に、いわゆる糖尿性ニューロパチーと総称される、痛みやしびれ、痛覚過敏に対して非ステロイド性抗炎症は適応とならない。現状では、三環性抗うつ薬、抗痙攣薬、メキシチレンが有効とされているが、決定的な治療法は確立されておらず、患者の状態によって適切な対症療法剤を選べる状況が期待されている。 本発明の課題は、副作用が少なく、効果の優れた糖尿病性ニューロパチー治療剤、特に糖尿病性ニューロパチーに伴う痛みなどの自覚症状を治療する薬剤を提供することにある。 本発明は、以下の発明に係る。1.式(1)で表される(±)−〔2−〔4−(3−エトキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルカルバモイル〕エチル〕ジメチルスルホニウム p−トルエンスルホネートを有効成分とする糖尿病性ニューロパチーの治療剤。2.糖尿病性ニューロパチーが多発性神経障害である上記1に記載の治療剤。3.糖尿病性ニューロパチーの症状が疼痛及び/又は感覚異常である上記1又は2のいずれかに記載の治療剤。4.式(1)の化合物の糖尿病性ニューロパチー治療剤製造のための使用。5.式(1)の化合物の有効量を哺乳動物に投与する糖尿病性ニューロパチーの治療方法。 式(1)で示される(±)−〔2−〔4−(3−エトキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルカルバモイル〕エチル〕ジメチルスルホニウム p−トルエンスルホネート(以下、トシル酸スプラタストという)は、優れたIgE抗体産生抑制作用を有し、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎の治療薬として知られている(特公平3−70698号公報:特許文献1)。また、当該トシル酸スプラタストは、排尿障害治療剤(WO00/27383号公報:特許文献2)、腎透析に伴う掻痒治療薬(特開平11−315019号公報:特許文献3)、C型又は非B非C型肝炎ウィルスによる肝機能異常改善剤(特開2002−114672号公報:特許文献4)、化学物質過敏症治療薬(特開2004−292407号公報:特許文献5)、後腹膜線維症治療剤(特開2005−097220:特許文献6)、扁平苔癬の予防剤及び/又は治療剤(特開2006−199642:特許文献7)、頭痛の予防及び/または治療剤(特開2006−131521:特許文献8)、ネフローゼ症候群治療剤(特開2006−076958:特許文献9)としても、有用であることが知られている。しかしながら、トシル酸スプラタストが糖尿病性ニューロパチー治療剤として優れた効果を有することは全く知られていなかった。特公平3−70698号公報WO00/27383号公報特開平11−315019号公報特開2002−114672号公報特開2004−292407号公報特開2005−097220号公報特開2006−199642号公報特開2006−131521号公報特開2006−076958号公報 本発明の有効成分であるトシル酸スプラタストは公知化合物であり、例えば特公平3−70698号公報に記載の方法より製造することができる。 本発明でいう「治療」とは、疾患の予防および治療、ならびに該疾患に伴う症状の軽減および再発防止のための維持療法を意味する。 本発明治療剤により治療できる「糖尿病性ニューロパチー」は、糖尿病に合併して起こる神経障害であれば特に限定されず、多発性神経障害(感覚神経障害及び運動神経障害)であっても、自律神経障害であってもよい。また、本発明治療剤により治療できる糖尿病性ニューロパチーの「症状」としては、多発性神経障害の症状としては、疼痛、感覚鈍麻、感覚脱失、感覚異常(しびれ、灼熱感、冷感など)、こむらがえりなどが、自律神経障害の症状としては、胃腸障害(便秘/下痢)、発汗異常、起立性低血圧、膀胱障害、インポテンツなどが挙げられる。 本発明において、トシル酸スプラタストと併用できる薬剤としては、アルドースリダクターゼ阻害剤、抗不整脈剤、ビタミン剤、非ステロイド性抗炎症剤、抗うつ剤、抗精神病薬、抗痙攣剤などが挙げられる。これらの1つ以上の薬剤と併用することにより、本発明の治療剤の糖尿病性ニューロパチーに伴う疼痛に対する治療効果がさらに向上するばかりでなく、併用できる薬剤単独で使用する場合に比べて投与量を低減できるので、副作用の軽減という面からも好適である。また、神経ブロック、はり治療、温熱療法、イオントフォレーシス、神経根ブロック、超短波療法、赤外線照射療法、レーザー照射療法などと併用してもよい。アルドースリダクターゼ阻害剤としては、エパルレスタット、またはそれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。 抗不整脈剤としては、メキシチレン、またはそれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。 ビタミン剤としては、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB類、(B1、B2、B6、B12)、ナイアシン、葉酸、パントテン酸、ビタミンC、ビタミンE、ビオチン、ビタミンKが挙げられ、より具体的にはレチノール、αカルシドール、カルシトリオール、タカルシトール、カルシポトリオール、マキサカルシトール、ファレカルシトール、カルシトリオール、チアミン、コカルボキシラーゼ、フルスルチアミン、プロスルチアミン、オクトチアミン、チアミンジスルフィド、ビスベンチアミン、ビスイブチアミン、ベンフォチアミン、セトチアミン、リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン、ピリドキサール、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、シアノコバラミン、コバマミド、メコバラミン、葉酸、パントテン酸カルシウム、パンテノール、パンテチン、アスコルビン酸、トコフェノール、ビオチン、フィトナジオン、メナテトレノン、またはそれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。 非ステロイド性抗炎症剤としては、サリチル酸ナトリウム、アセチルサリチル酸、サリチルアミド、フルフェナム酸、メフェナム酸、トルフェナム酸、ジクロフェナク、スリンダク、フェンブフェン、アンフェナク、インドメタシン、プログルメタシン、アセメタシン、ナブメトン、エトドラク、モフェゾラク、イブプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、フェノブフェン、チアプロフェン酸、ナプロキセン、プラノプロフェン、ロキソプロフェン、アルミノプロフェン、ザルトプロフェン、ブコローム、ピロキシカム、アンピロキシカム、テノキシカム、ロルノキシカム、エピリゾール、チアラミド、エモルファン、またはそれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。 抗うつ剤としては、ノルトリプチリン、アモキサピン、マプロチリン、イミプラミン、アミトリプチリン、トリミプラチン、クロミプラミン、ロフェプラミン、ドスレピン、トラゾトン、フルボキサミン、パロキセチン、ミルナシプラン、ミアンセリン、セチプチリン、スルピリド、またはそれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。 抗精神病薬としては、フルフェナジン、クロルプロマジン、またはそれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。 抗痙攣剤としては、フェニトイン、エトトイン、フェノバルビタール、プリミドン、バルプロ酸、カルバマゼピン、トリメタジオン、エトスクシミド、アセチルフェネトライド、スルチアム、ジアゼパム、クロナゼパム、クロバザム、ゾニサミド、アセタゾラミド、またはそれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。 本発明において薬学的に許容される塩とは、例えば塩酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、プロピオン酸、ジプロピオン酸、吉草酸、酪酸、ピバル酸、酢酸塩、安息香酸塩、メシル酸、トリフルオロ酢酸塩、酒石酸塩、コハク酸、パルミチン酸、クエン酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ニコチン酸塩等の有機酸塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等の無機塩を挙げることができる。化合物によっては、水和物を形成する場合もあるが、それらも本発明の範囲に属するものである。 本発明の糖尿病性ニューロパチー治療剤は、種々の形態でヒトに投与することができる。そのような形態としては、例えば、経口剤、注射剤、直腸坐剤、外用剤(軟膏剤、貼付剤、点眼剤など)のいずれでもよく、これら製剤は当業者に周知の慣用方法により製造できる。 経口剤のうち、固形製剤としては、トシル酸スプラタストに賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤などを加えた後、常法により処理して、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ドライシロップ剤などとすることができる。また、経口液剤としては、トシル酸スプラタストに矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤などを用い、常法により処理して、内服液剤、シロップ剤などとすることができる。 注射剤としては、トシル酸スプラタストにpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により処理して、皮下用注射剤、筋肉内用注射剤、静脈内用注射剤などとすることができる。 直腸投与用坐剤としては、トシル酸スプラタストに賦形剤、さらに必要に応じて界面活性剤などを加えた後、常法により処理して、坐剤とすることができる。 外用剤のうち、軟膏剤、例えばペースト、クリーム、ゲルなどは、トシル酸スプラタストを含む基剤に安定化剤、湿潤剤、保存剤などを必要に応じて配合し、常法により処理して製剤化することができる。上記の基剤としては、例えば白色ワセリン、パラフィン、グリセリン、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、シリコン、ベントナイトなどが挙げられる。保存剤としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルなどが挙げられる。 また、外用剤としての貼付剤は、通常の支持体上に、上記の軟膏、クリーム、ゲル、ペーストなどを常法により塗布することにより製造することができる。支持体としては、綿、スフ、化学繊維からなる織布、不織布、または軟質塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタンなどのフィルム、あるいは発泡体シートなどが好適である。 上記の各種製剤中に配合されるべきトシル酸スプラタストの量は、これを投与すべき患者の症状により、あるいはその剤型などにより適宜定め得るが、一般に、投与単位当たり、経口剤では約5〜1000mg、注射剤では約0.1〜500mg、坐剤および外用剤では約5〜1000mgとするのが望ましい。 また、トシル酸スプラタストの1日当たりの投与量も、患者の症状、体重、年齢、性別、その他の条件に応じて変動し得るが、約5〜1000mgとするのが望ましい。 図1はvon Frey testの鎮痛試験結果を経時的に表したグラフである。 以下の実施例および試験例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。製剤例1 (錠剤)トシル酸スプラタスト 50mgトウモロコシデンプン 50mg微結晶セルロース 50mgハイドロキシプロピルセルロース 15mg乳糖 47mgタルク 2mgステアリン酸マグネシウム 2mgエチルセルロース 30mg不飽和グリセリド 2mg二酸化チタン 2mg 上記の配合割合からなる組成物を常法に従って処理して、1錠当たりトシル酸スプラタストを50mg含む錠剤を調製した。製剤例2 (顆粒剤)トシル酸スプラタスト 300mg乳糖 540mgトウモロコシデンプン 100mgハイドロキシプロピルセルロース 50mgタルク 10mg 上記の配合割合からなる組成物を常法に従って処理して、1包当たりトシル酸スプラタストを300mg含む顆粒剤を調製した。製剤例3 (カプセル剤)トシル酸スプラタスト 100mg乳糖 30mgトウモロコシデンプン 50mg微結晶セルロース 10mgステアリン酸マグネシウム 3mg 上記の配合割合からなる組成物を常法に従って処理して、1カプセル当たりトシル酸スプラタストを100mg含むカプセル剤を調製した。製剤例4 (注射剤)トシル酸スプラタスト 100mg塩化ナトリウム 3.5mg注射用蒸留水 適量 上記の配合割合からなる組成物を常法に従って処理して、1アンプル(2ml)当たりトシル酸スプラタストを100mg含む注射剤を調製した。製剤例5 (ドライシロップ剤)トシル酸スプラタスト 50mg精製白糖 949mg香料 適量 上記の配合割合からなる組成物を常法に従って処理して、1包当たりトシル酸スプラタストを50mg含むドライシロップ剤を調製した。製剤例6 (シロップ剤)トシル酸スプラタスト 50mg精製白糖 1000mgパラヒドロキシ安息香酸エチル 1mg精製水 適量香料 適量着色料 適量 上記の配合割合からなる組成物を常法に従って処理して、2ml中にトシル酸スプラタストを50mg含むシロップ剤を調製した。製剤例7 (坐剤)トシル酸スプラタスト 300mgウィテップゾールW−35* 1400mg(*:登録商標、ラウリン酸からステアリン酸までの飽和脂肪酸のモノ−、ジ−およびトリ−グリセライドの混合物、ダイナマイトノーベル社製) 上記の配合割合からなる組成物を常法に従って処理して、1個当たりトシル酸スプラタストを300mg含む坐剤を調製した。 ストレプトゾトシン誘発ラット糖尿病性ニューロパチーに対するトシル酸スプラタストの抑制効果(1)糖尿病性ニューロパチーモデルの作製 体重が160g以上の雄性ラットを用い、ストレプトゾトシン(STZ、Sigma−Aldrich Co.)50mg/kgを2mL/kgの用量で静脈内投与し、STZ誘発糖尿病モデルを作製した(Malcangio M et al、Pain 1998)。STZ投与7日後に血糖値が200mg/dL以上の動物を、糖尿病モデルとして採用した。なお、血糖値の測定は、尾静脈より採血した血液(2μL)を、測定チップ(グルテストセンサー、アークレイ株式会社)及び小型血糖測定機グルテストPRO R(GT−1661、アークレイ株式会社)を用いて測定した。(2)von Frey test 最大圧力を30.0g、最大圧力まで到達する時間を40秒に設定したDynamic Planter Aesthesiometer(37400、ウゴバジル社)を用いて左右足蹠のvon Frey testを行い、疼痛閾値を測定した。STZ投与8日後に、疼痛閾値が一定以上に達した個体を選択し、測定した疼痛閾値が各群で均一になるように、群分けを実施した。トシル酸スプラタスト30mg/kg(腹腔内投与)もしくは100mg/kg(経口投与)を1週間にわたり連続投与したSTZ誘発糖尿病モデルをそれぞれ腹腔内投与群もしくは経口投与群とし、溶媒(蒸留水)を経口投与したSTZ誘発糖尿病モデルをSTZ対照群とした。なお、正常対照群は、STZを投与しない無処置動物に、溶媒(蒸留水)を経口投与したものを使用した。それぞれの群(8匹ずつ)に対し、投与開始後1、4及び7日目に、左右足蹠の疼痛閾値を測定し、肢逃避反応閾値(左右足蹠の疼痛閾値の合計)で鎮痛効果を評価した。なお、疼痛閾値の測定時間は、投与後1〜1.5時間に実施した。平均値の有意差検定は、2群の検定であるStudentのt検定を用い、検定における有意水準の表示は、 ##(正常対照群v.s.STZ対照群):p値領001%未満、及び **(STZ対照群v.s.経口投与群もしくは腹腔内投与群):p値0.001%未満で表示した。経口投与群もしくは腹腔内投与群は、STZ対照群との比較をそれぞれ行った。また、STZ対照群は、正常対照群との比較を行い、糖尿病性ニューロパチーモデルの確立を判断した。結果:正常対照群と比較し、STZ対照群は顕著な痛覚過敏が生じており、測定初日から7日目までその症状は継続した(p値0.001%未満)。このことからSTZ誘発糖尿病性ニューロパチーモデルの確立が確認された。このモデル動物に対し、トシル酸スプラタスト30mg/kg(腹腔内投与)及び100mg/kg(経口投与)ともに、測定初日(初回投与時)には、鎮痛効果はみられなかった。一方、測定4日目(トシル酸スプラタスト投与4日後)及び7日目(投与7日後)では、30mg/kg(腹腔内投与)及び100mg/kg(経口投与)ともに有意なニューロパチー抑制作用が認められた(p値0.001%未満)。 以上の結果から、トシル酸スプラタストは、糖尿病性ニューロパチーに伴う疼痛に対し優れた鎮痛効果を発揮することが明らかになった。 本発明の治療剤は、糖尿病性ニューロパチー、特に糖尿病性ニューロパチーに伴う疼痛の治療に優れた効果を示し、且つ副作用が少なく非常に有用である。 式(1)で表される(±)−〔2−〔4−(3−エトキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルカルバモイル〕エチル〕ジメチルスルホニウム p−トルエンスルホネートを有効成分とする糖尿病性ニューロパチーの治療剤。 糖尿病性ニューロパチーが多発性神経障害である請求項1記載の治療剤。 糖尿病性ニューロパチーの症状が疼痛及び/又は感覚異常である請求項1又は2のいずれか1項記載の治療剤。 式(1)で表される(±)−〔2−〔4−(3−エトキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニルカルバモイル〕エチル〕ジメチルスルホニウム p−トルエンスルホネートの糖尿病性ニューロパチー治療剤製造のための使用。