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タイトル:特許公報(B2)_タンパク質中の酸化されたメチオニン残基の定量及び位置決定を行う方法
出願番号:2008549192
年次:2012
IPC分類:G01N 27/62


特許情報キャッシュ

九山 浩樹 西村 紀 JP 4900393 特許公報(B2) 20120113 2008549192 20061214 タンパク質中の酸化されたメチオニン残基の定量及び位置決定を行う方法 株式会社島津製作所 000001993 岡田 正広 100100561 九山 浩樹 西村 紀 20120321 G01N 27/62 20060101AFI20120301BHJP JPG01N27/62 V G01N 27/62-27/70 H01J 40/00-49/48 特開2005−300430(JP,A) 特開2006−105952(JP,A) 特開2007−292523(JP,A) 10 JP2006325457 20061214 WO2008072362 20080619 15 20090324 伊藤 裕美 【技術分野】【0001】 本発明は、タンパク質・ペプチド化学分野、及び質量分析学分野に関する。より詳しくは、本発明は、タンパク質中の酸化されたメチオニン残基の定量及び位置決定を行う方法(Method for Quantification and Positioning of Oxidized Methionine Residue in Protein)に関する。【0002】【背景技術】 従来、酸化メチオニン残基の定量法としては、タンパク質試料のアルカリ加水分解による方法や、メチオニン残基のアルキル化及び加水分解による方法、ブロモシアン切断及び酸加水分解による方法などが行われてきた。これら従来法においては、LCでのUV吸収を測定することによって、加水分解後のメチオニンスルホキシドを検出・定量する。また、放射性同位元素14Cで標識されたヨード酢酸を用いたアルキル化及び加水分解による方法も行われてきた(例えば、シャクター・H(SCHACHTER H)及びディクソン・D・H(DIXON GH)、「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー( Journal of Biological Chemistry)」、1964年3月、第239巻、p. 813-829参照)。この方法においては、放射能測定を行うことによって加水分解後のメチオニンスルホキシドを検出・定量する。【先行技術文献】【非特許文献】【0003】【非特許文献1】シャクター・H(SCHACHTER H)及びディクソン・D・H(DIXON GH)、「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー( Journal of Biological Chemistry)」、1964年3月、第239巻、p. 813-829日本国特開2003−98154号公報【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】【0004】 生体内で起こるタンパク質の酸化は、タンパク質の活性の低下、毒性発現などを引き起こすものであり、白内障、肺気腫、リウマチ、喘息などと関わっていることが報告されている。さらに、タンパク質の酸化はどの位置においても一様に進行するのではなく、酸化を受けやすい位置とそうでない位置がある。様々なin vivo或いはin vitro条件における酸化の位置とその程度とを知ることは、生命現象、構造活性相関などの解明に大きな意味を持つと考えられる。 本発明では、メチオニン残基の酸化度に着目した。メチオニン残基はトリプトファン残基と並んで酸化されやすいアミノ酸残基であるため、酸化ストレス、加齢変化などの研究において注目されている。【0005】 上に挙げた従来法のように、紫外可視スペクトルを用いた酸化メチオニン残基の定量方法では、精度の良い定量を行うことはできない。また、これら従来法では、タンパク質全体としての酸化の割合を判定するため、タンパク質中のどのメチオニン残基がどれくらい酸化されているのかもわからない。【0006】 本発明の目的は、タンパク質・ペプチド中のメチオニン残基の酸化の程度を決定することができる方法、及び、酸化を受けたメチオニン残基の位置を決定することができる方法を提供することにある。【課題を解決するための手段】【0007】発明の概要 本発明には、以下の発明が含まれる。 下記(1)〜(4)の発明は、タンパク質の酸化度の相対量を定量する方法である。 (1) (i)メチオニン残基の酸化度が未知であるタンパク質試料Aと、メチオニン残基の酸化度が未知であるタンパク質試料Bとを用意し、 (ii)修飾試薬として、互いに同じ分子構造を有し、且つ互いに質量数の異なる同位体を含むことによって異なる分子量を有する2種の化合物を用意し、 前記タンパク質試料Aに対し、前記2種の化合物のうちいずれか一方の化合物を用いてメチオニン残基の修飾を行い、修飾タンパク質試料A’を得て、 別途、前記タンパク質試料Bに対し、前記2種の化合物のうちいずれか他方の化合物を用いてメチオニン残基の修飾を行い、修飾タンパク質試料B’を得て、 (iii)前記修飾タンパク質試料A’と前記修飾タンパク質試料B’とを混合し、質量分析用混合試料を得て、 (iv)前記質量分析用混合試料を質量分析に供し、タンパク質試料A及びタンパク質試料Bの各々におけるメチオニン残基の酸化度を定量する、タンパク質中の酸化されたメチオニン残基の定量を行う方法。【0008】 上記(1)において、タンパク質とは、比較的分子量の小さいペプチドをも含む意味で用いる。 上記(1)においては、工程(i)で2種類のタンパク質試料を用意し、工程(ii)で同位体組成のみが異なる2種類の修飾試薬を用いて当該2種のタンパク質試料を別々に修飾し(すなわち同位体標識法によりいずれか一方のタンパク質試料を同位体標識し)、工程(iii)で2種類の修飾タンパク質試料を混合し、工程(iv)で質量分析を行う。 また、上記(1)において、工程(iii)で得られる質量分析用混合試料は、本発明の方法に供する試料の種類によって必要に応じた処理が適宜行われたものであって良い。すなわち、工程(iii)において、混合処理とともに、脱塩処理、乾燥処理、再可溶化処理、還元アルキル化処理、断片化処理、濃縮分離処理及び分画処理などから選ばれる処理が当業者によって適宜行われて良い。【0009】 (2) 前記修飾試薬が、下記式(a):【0010】【化1】(式中、Xは脱離基を表し、Rは有機基を表す)で表される化合物、又は、下記式(b):【化2】(式中、Xは脱離基を表す)で表される化合物である、(1)に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。【0011】 (3)前記化合物(a)において、Rは、置換されて良いアルキル基及び置換されて良いアリール基から選ばれる、(2)に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。【0012】 (4)前記化合物(a)において、Rは、置換されて良いアラルキル基及びパーフルオロアルキル基から選ばれる、(3)に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。【0013】 下記(5)の発明は、タンパク質のメチオニン残基の酸化位置を決定する方法である。 (5) (1)〜(4)のいずれかに記載の方法を行い、その後、アミノ酸配列決定を行うことにより、酸化されたメチオニン残基の位置を決定する方法。【0014】 下記(6)〜(9)の発明は、タンパク質の酸化度の絶対量を定量する方法である。 (6) (i)メチオニン残基の酸化度を定量すべきタンパク質試料Cと、メチオニン残基の酸化度が既知であるタンパク質試料Dとを用意し、 (ii)修飾試薬として、互いに同じ分子構造を有し、且つ互いに質量数の異なる同位体を含むことによって異なる分子量を有する2種の化合物を用意し、 前記タンパク質試料Cに対し、前記2種の化合物のうちいずれか一方の化合物を用いてメチオニン残基の修飾を行い、修飾タンパク質試料C’を得て、 別途、前記タンパク質試料Dに対し、前記2種の化合物のうちいずれか他方の化合物を用いてメチオニン残基の修飾を行い、修飾タンパク質試料D’を得て、 (iii)前記修飾タンパク質試料C’と前記修飾タンパク質試料D’とを混合し、質量分析用混合試料を得て、 (iv)前記質量分析用混合試料を質量分析に供することによって、前記タンパク質試料Cにおけるメチオニン残基の酸化度を定量する、タンパク質中の酸化されたメチオニン残基の定量を行う方法。【0015】 上記(6)において、タンパク質とは、比較的分子量の小さいペプチドをも含む意味で用いる。 上記(6)においては、工程(i)で2種類のタンパク質試料を用意し、工程(ii)で同位体組成のみが異なる2種類の修飾試薬を用いて当該2種のタンパク質試料を別々に修飾し(すなわち同位体標識法によりいずれか一方のタンパク質試料を同位体標識し)、工程(iii)で2種類の修飾タンパク質試料を混合し、工程(iv)で質量分析を行う。 また、上記(6)において、工程(iii)で得られる質量分析用混合試料は、本発明の方法に供する試料の種類によって必要に応じた処理が適宜行われたものであって良い。すなわち、工程(iii)において、混合処理とともに、脱塩処理、乾燥処理、再可溶化処理、還元アルキル化処理、断片化処理、濃縮分離処理及び分画処理などから選ばれる処理が当業者によって適宜行われて良い。【0016】 (7) 前記修飾試薬が、下記式(a):【化3】(式中、Xは脱離基を表し、Rは有機基を表す)で表される化合物、又は、下記式(b):【化4】(式中、Xは脱離基を表す)で表される化合物である、(6)に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。【0017】 (8) 前記化合物(a)において、Rは、置換されて良いアルキル基及び置換されて良いアリール基から選ばれる、(7)に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。【0018】 (9)前記化合物(a)において、Rは、置換されて良いアラルキル基及びパーフルオロアルキル基から選ばれる、(8)に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。【0019】 下記(10)の発明は、タンパク質のメチオニン残基の酸化位置を決定する方法である。 (10) (6)〜(9)のいずれかに記載の方法を行い、その後、アミノ酸配列決定を行うことにより、酸化されたメチオニン残基の位置を決定する方法。【発明の効果】【0020】 本発明により、タンパク質・ペプチド中のメチオニン残基の酸化の程度を決定すること、及び、酸化を受けたメチオニン残基の位置を決定することが可能になる。【図面の簡単な説明】【0021】【図1】図1は、本発明において、メチオニン残基の酸化度が共に未知である、タンパク質試料Aとタンパク質試料Bとを解析対象とした場合の一例を概説する図である。【図2】図2は、本発明において、メチオニン残基の酸化度が未知であるタンパク質試料Cと、メチオニン残基が酸化されていないこと(すなわち酸化度が0%であること)が分かっている非酸化タンパク質試料Dとを解析対象とした場合の一例を概説する図である。【発明を実施するための形態】【0022】 (i:タンパク質試料の準備) まず、メチオニン残基の酸化状態を調べるための2種類のタンパク質試料を用意する。2種のタンパク質試料としては、以下の関係にあるものを挙げることができる。 例えば、一方のタンパク質がある検体に由来するタンパク質試料であり、他方のタンパク質が別の検体に由来するタンパク質試料である場合;一方のタンパク質が解析すべきタンパク質試料であり、他方のタンパク質試料が前記一方のタンパク質に対する対照タンパク質である場合;一方のタンパク質試料が病態サンプルから抽出したタンパク質試料であり、他方のタンパク質試料が正常サンプルから抽出したタンパク質試料である場合、などが挙げられる。【0023】 本発明に供する2種のタンパク質は、後の質量分析において解析を行いやすいように、互いに同じ量を用意することが好ましい。2種のタンパク質は、少なくとも一方の酸化度が未知であり、両者の酸化度が異なれば、両タンパク質試料におけるタンパク質のそれぞれの平均分子量は厳密には異なってくる。しかしながら、本発明においてターゲットとするメチオニン残基はタンパク質中での出現頻度が最も少ない部類に属するアミノ酸であるため、当該平均分子量の差は本質的に無視できるものと考えることができる。【0024】 2種のタンパク質試料の両方においてメチオニン残基の酸化度が未知である場合(この場合、2種のタンパク質試料をタンパク質試料A及びBと記載する場合がある)は、本発明によって、それぞれのタンパク質試料の相対的な酸化度を知ることができる。2種のタンパク質試料のうちいずれか一方の酸化度が未知であり、いずれか他方の酸化度が既知である場合(この場合、一方のタンパク質試料をタンパク質試料C、他方のタンパク質試料をタンパク質試料Dと記載する場合がある)、前記一方のタンパク質試料について絶対的な酸化度を知ることができる。【0025】 タンパク質試料は、可溶化処理が行われたものであっても良い。可溶化の方法としては、特に限定されない。例えば、変性剤として、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤、尿素、グアニジン塩酸塩などを用いてタンパク質を可溶化することができる。変性剤の濃度は特に限定されず、タンパク質試料の可溶化及び変性が起こるように、タンパク質試料の種類やその他の条件等を考慮して当業者が適宜決定すればよい。反応条件についても、常温変性及び熱変性を問わず、使用する変性剤を考慮して当業者が適宜決定すればよい。【0026】(ii)タンパク質試料の修飾 本工程では、いわゆる同位体標識法により、2種類のタンパク質のいずれか一方を同位体標識する。この際、同位体標識法を行うための修飾試薬によって、2種類のタンパク質両方において、酸化されていないメチオニン残基が修飾される。 修飾試薬としては、メチオニン残基への選択的修飾能を有し、且つ酸化されたメチオニン残基に対しては反応しない化合物を特に限定することなく用いることができる。【0027】 メチオニン残基は、硫黄原子が最も反応性が高く、通常はこの位置で酸化が起こる。そこで、本発明で用いるメチオニン残基に対する修飾試薬としては、メチオニン残基が酸化されていない場合は硫黄原子への反応性を有し、メチオニン残基が酸化されている場合はそのような反応性を有しない特性を有する化合物が用いられる。なお、タンパク質中に、修飾試薬が反応しうる他のアミノ酸残基がある場合は、当業者によって必要に応じ、本工程までのいずれかの段階で、当該他のアミノ酸残基(例えばシステイン残基)の保護を行っておくことができる。【0028】 なおかつ、本発明における修飾試薬は、互いに分子構造は同じであるが、互いに質量数の異なる同位体を含むことによって分子量が異なる2種の化合物を組み合わせて用いる。このうち、分子量が大きい化合物を重い試薬とし、分子量が小さい試薬を軽い試薬とする。より具体的にいうと、修飾試薬分子を構成する少なくとも1種類の元素が安定同位体で標識された化合物と、それとは同一構造であるが、前述の元素が前記安定同位体とは別の安定同位体で標識された化合物とを組み合わせて用いる。そして、質量数の大きい安定同位体で標識された化合物の方を重い試薬として、他方の化合物を軽い試薬として用いる。 なお、安定同位体で標識される元素は複数であっても良い。【0029】 具体的には、タンパク質試料A及びBを用意した場合は、タンパク質試料Aを重い試薬及び軽い試薬のうちいずれか一方で修飾し、修飾タンパク質試料A’を得て、タンパク質試料Bを重い試薬及び軽い試薬のうちいずれか他方で修飾し、修飾タンパク質試料B’を得る。同様に、タンパク質試料C及びDを用意した場合、タンパク質試料Cを重い試薬及び軽い試薬のうちいずれか一方で修飾し、修飾タンパク質試料C’を得て、タンパク質試料Dを重い試薬及び軽い試薬のうちいずれか他方で修飾し、修飾タンパク質試料D’を得る。【0030】 本発明において用いることができる修飾試薬としては、例えば、一般式(a)(式中、Xは脱離基を表し、Rは有機基を表す。)で表される構造を有する化合物が挙げられる。【化5】【0031】 このような構造を有する化合物を用いてメチオニン残基を修飾することにより、メチオニン残基の硫黄原子に、−CH2CONHR基が修飾基として導入される。上記一般式(a)における脱離基Xとしては、ハロゲン原子が好ましく、ヨウ素であることが特に好ましい。また、上記一般式(a)における有機基Rには、置換されて良いアルキル基や置換されて良いアリール基が含まれる。置換されて良いアルキル基としては、アリール基で置換されたアルキル基やフッ素で置換されたアルキル基などが挙げられる。【0032】 さらに、本発明において用いることができる修飾試薬としては、例えば、一般式(b)(式中、Xは脱離基を表す。)で表される構造を有する化合物も挙げられる。【0033】【化6】 このようなカルボン酸を用いてメチオニン残基を修飾することにより、メチオニン残基の硫黄原子に、−CH2COOH基が修飾基として導入される。上記一般式(b)における脱離基Xとしては、ハロゲン原子が好ましく、ヨウ素であることが特に好ましい。【0034】 上記一般式(a)における有機基Rが置換されて良いアリール基で置換されたアルキル基(すなわちアラルキル基)である場合の例を下記式(c)に示す。式中、nは1〜10の整数を表す。【0035】【化7】【0036】 上記式(c)に示すような化合物を用いる場合、重い試薬としては、アリール基に13Cが含まれるような化合物を用いると良い。例えば、下記(c−heavy)に示す化合物を重い試薬とし、当該重い試薬における13Cが全て12Cである化合物を軽い試薬として用いることができる。【0037】【化8】【0038】 上記一般式(a)における有機基Rがフッ素で置換されたアルキル基(すなわちパーフルオロアルキル基)である場合の例を下記式(d)に示す。式中、nは1〜10の整数を表す。【0039】【化9】【0040】 上記式(d)に示すような化合物を用いる場合、重い試薬としては、パーフルオロアルキル基に13Cが含まれるような化合物を用いると良い。例えば、上記式(d)において、n=5で表される化合物を(e)とした場合、下記(e−heavy)に示す化合物を重い試薬とし、当該重い試薬における13Cが全て12Cである化合物を軽い試薬として用いることができる。【0041】【化10】【0042】 修飾試薬としては、上に挙げた化合物に限らず、メチオニン残基に対する修飾能を有し、且つ酸化メチオニン残基に対する反応性を有さない化合物が、重い試薬と軽い試薬と組み合わされていれば特に限定されない。【0043】 上記の修飾試薬を用いたメチオニン残基の修飾法としては、特に限定されず、当業者によって適宜行われる。通常は、pH2〜6の条件下で、アミノ基を含まないバッファ中で修飾反応を行う。【0044】(iii:質量分析用混合試料の調製) 上記の修飾工程によって得られた2種の修飾タンパク質試料A’とB’、或いは2種の修飾タンパク質試料C’とD’とを互いに混合する。 質量分析用混合試料においては、混合された修飾タンパク質試料は、脱塩処理、乾燥処理、再可溶化処理、還元アルキル化処理、断片化処理、及び/又は、メチオニン残基を有する分子について濃縮分離処理されたものであっても良い。 これらの処理を行う段階は、修飾タンパク質試料同士の混合段階の前後を問わず、当業者が適宜決定することができる。【0045】 これら処理を行うための方法は、いずれも限定されない。例えば脱塩工程は、セファデックスカラムなど、通常用いられる脱塩カラムを用いることによって行うことができる。再可溶化処理は、上述の可溶化処理と同様に行うことができる。還元アルキル化処理も、通常の方法によって行うことができる。断片化処理も特に限定されず、通常行われるトリプシンなどの酵素による消化や化学的断片化を行うことができる。【0046】 濃縮分離処理も特に限定されない。例えば、セファデックスカラムや、メチオニン残基の修飾基と相互作用しうる基を有する担体を充填したカラムを用いることができる。 例えば、上記(ii)工程において、修飾試薬として、置換されて良いアリール基を有する化合物を用い、当該アリール基を含有する基を修飾基としてメチオニン残基に導入した場合は、フェニル基を有する担体を充填したカラムが有用に用いられる。たとえば、Hi-Trap phenyl FF、Hi-Trap phenyl HP、Phenyl Sepharose 6 Fast Flow、Phenyl Sepharose High Performance、(以上、アマシャムバイオサイエンス社製)、YMC*GEL Ph(ワイエムシィ社製)などが挙げられる。このような担体を用いる場合、メチオニン残基含有ペプチドと担体とのπ−π電子相互作用によって濃縮分離が達成される。【0047】 また例えば、上記(ii)工程において、修飾試薬としてパーフルオロアルキル基を有する化合物を用い、当該パーフルオロアルキル基を含有する基を修飾基としてメチオニン残基に導入した場合、フルオラス化された担体を充填したカラムが有用に用いられる。例えば、フルオラス化されたシリカゲル樹脂を充填したF-SPE(フルオラス・テクノロジー社製)などが挙げられる。このような担体を用いる場合、メチオニン残基含有ペプチドと担体とのフッ素−フッ素相互作用によって濃縮分離が達成される。【0048】 さらに、質量分析用混合試料は、分画処理が行われたものであっても良い。分画処理を行うための方法としては、逆相カラムとHPLCとを用いたシステムを用いる方法などが挙げられる。分画処理を行われた場合の質量分析用混合試料は、それぞれ、複数の画分を含むことになる。【0049】(iv:質量分析) 上記質量分析用混合試料について、質量分析を行う。本発明における測定にはMALDI型質量分析装置を用いることができる。この場合、MALDI-TOF型質量分析装置(例えば島津製作所/クレイトス製AXIMA-CFR plus)等や、MAIDI-IT-TOF型質量分析装置(例えば島津製作所/クレイトス製AXIMA-QIT)等が用いられる。【0050】 MALDI質量分析装置を用いる場合、マトリックスとしては特に限定されない。例えば、アリール基を有する基がメチオニン修飾基として導入された場合などは、DHB(2,5−ジヒドロキシ安息香酸;2,5-dihydroxybenzoic acid)、4-CHCA(α−シアノ−4−ヒドロキシ桂皮酸;α-cyano-4-hydroxycinnamic acid)などをマトリックスとして用いることができる。また、パーフルオロアルキル基を含む基がメチオニン修飾基として導入された場合などは、DHB(例えばNature Biotechnology vol.23, No.4, P463(2005)参照)などをマトリックスとして用いることができる。【0051】 このような条件のもと、上記質量分析用混合試料について、質量分析装置による測定を行い、MSスペクトルを得る。MSスペクトル解析は、以下のようにして行う。 たとえば、上記工程(i)で同量の2種のタンパク質試料を用意し、6個の13C原子を有する修飾試薬(以下、13C6試薬と記載する)と、当該6個の13C原子のかわりに6個の12C原子を有すること以外は13C6試薬と同じ構造を有する修飾試薬(以下12C6試薬と記載する)とを組み合わせて用いた上記工程(ii)と、断片化を含む上記工程(iii)とを行って質量分析用混合試料を得た場合を仮定する。上記工程(i)で用意した2種のタンパク質試料のうち、少なくともいずれか一方のタンパク質試料において、メチオニン残基が部分的に酸化されていた場合、すなわち、2種のタンパク質試料のうち、少なくともいずれか一方の試料中に、酸化メチオニン残基を有するタンパク質(以下、oxi-Met含有タンパク質と記載する場合がある)が、非酸化メチオニン残基を有するタンパク質(以下、non-oxi-Met含有タンパク質と記載する場合がある)とともに含まれていた場合、得られる質量分析用混合試料には、修飾メチオニン残基を有するペプチド(以下、Mod-Met含有ペプチドと記載することがある)と、酸化メチオニン残基を有するペプチド(以下、oxi-Met含有ペプチドと記載することがある)とが少なくとも含まれる。Mod-Met含有ペプチドとしては、重い試薬で修飾された13C6Mod-Met含有ペプチドと軽い試薬で修飾された12C6Mod -Met含有ペプチドとが含まれる。【0052】 MSスペクトルの解析においては、上記工程(ii)で用いた重い試薬と軽い試薬との分子量差に相当する質量電荷比を有するペアピーク(すなわちMod-Met含有ペプチドのピーク)に着目する。 12C6試薬による修飾は、酸化されていないメチオニン残基に対して起こることから、ペアピークを構成する2本のピークそれぞれの強度比は、上記(i)で用意した2種のタンパク質試料中にそれぞれに含まれていたnon-oxi-Met含有タンパク質の量の比に相当する。従って、ペアピークの強度の逆数比が、oxi-Met含有タンパク質の量の比に相当することになる。 このように、工程(iv)のMS解析では、ペアピークを構成する2本のピークそれぞれの強度比から、タンパク質試料中の酸化度を求める。【0053】 また、工程(i)で用意したタンパク質試料の量比と、工程(iv)で得られたMSスペクトルにおけるペアピークの強度比とが同じになる場合も考えられる。タンパク質試料の双方の酸化数が未知の場合にこのようなスペクトルが得られる場合、工程(i)における2種のタンパク質試料のいずれにもoxi-Met含有タンパク質が含まれていなかった可能性と、2種のタンパク質試料が同じ割合でoxi-Met含有タンパク質を含んでいた可能性との両方が考えられる。そのため、工程(iv)のMS解析では、Mod-Met含有ペプチドに相当する当該ペアピークとともに、Mod-Met含有ペプチドに対応する構造を有するoxi-Met含有ペプチドに相当するシングルピークが検出されていることを確認することが好ましい(ここで、「Mod-Met含有ペプチドに対応する構造を有するoxi-Met含有ペプチド」とは、メチオニン残基が修飾されているか酸化されているかの違いを除いてはMod-Met含有ペプチドと同じ構造を有するペプチドをいう)。このようなシングルピークが検出されていれば、2種のタンパク質試料が同じ割合でoxi-Met含有タンパク質を含んでいたと判断することができる。【実施例】【0054】 以下に、具体例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。【0055】[具体例1] 具体例1では、メチオニン残基の酸化度が共に未知である、タンパク質試料Aとタンパク質試料Bとを解析対象とした場合の一例を示す(図1参照)。 まず、タンパク質試料A及びタンパク質試料Bを、同じ量だけ用意する(i)。タンパク質試料Aを、13C6試薬で修飾し、13C6修飾タンパク質試料A’を得る。一方で、タンパク質試料Bを、12C6試薬で修飾し、12C6修飾タンパク質試料B’を得る(ii)。13C6修飾タンパク質試料A’と12C6修飾タンパク質試料B’とを混合/脱塩し、還元/アルキル化、トリプシン消化、及び濃縮を行い、質量分析用混合試料を調製する(iii)。得られた質量分析用混合試料を、質量分析装置を用いて測定する(iv)。得られるMSスペクトルにおいて、重い試薬である13C6試薬と軽い試薬である12C6試薬との分子量差に相当する6Daの質量差を有するペアピーク、すなわち修飾Met含有ペプチドのピークに着目する。図1の(iv)に、MSスペクトル(横軸:質量電荷比(Mass/Charge)、縦軸:相対強度(% Int.))のモデルを示す。図1のように、当該ペアピークのうち、タンパク質試料Aに由来する13C6 Mod-Met含有ペプチドのピーク強度と、タンパク質試料Bに由来する12C6 Mod-Met含有ペプチドのピーク強度との比が、3:7であったとする。タンパク質試料Aとタンパク質試料Bとが同量用いられたことから、タンパク質試料Aとタンパク質試料Bとにおける、oxi-Met含有タンパク質の量比は、7:3であったことが分かる。すなわち、具体例1においては、タンパク質試料Aとタンパク質試料Bとのメチオニン残基酸化度の相対比は、7:3であったことが分かる。【0056】[具体例2] 具体例2では、メチオニン残基の酸化度が未知であるタンパク質試料Cと、メチオニン残基が酸化されていないこと(すなわち酸化度が0%であること)が分かっている非酸化タンパク質試料Dとを解析対象とした場合の一例を示す(図2参照)。 まず、タンパク質試料C及び非酸化タンパク質試料Dを、同じ量だけ用意する(i)。タンパク質試料Cを、13C6試薬で修飾し、13C6修飾タンパク質試料A’を得る。一方で、非酸化タンパク質試料Dを、12C6試薬で修飾し、12C6修飾タンパク質試料B’を得る(ii)。その後は、上記具体例1と同様の工程(iii)及び(iv)を行う。得られたMSスペクトルにおいて、ペアピークに着目し、非酸化タンパク質試料Dに由来する12C6 Mod-Met含有ペプチドのピーク強度に対する、タンパク質試料Cに由来する13C6 Mod-Met含有ペプチドのピーク強度を調べる。図2のように、非酸化タンパク質試料Dに由来するピークの強度を1とした場合に、タンパク質試料Cに由来するピークの強度が0.2であったとする。タンパク質試料Cと非酸化タンパク質試料Dとが同量用いられたことから、具体例2においては、タンパク質試料Cのメチオニン残基酸化度は80%であったことが分かる。【0057】 本発明においてターゲットとしているメチオニン残基は、タンパク質中での出現頻度が最も少ない部類に属するアミノ酸である。その頻度は、たとえば上記の工程(iii)で断片化処理を行った場合に得られるメチオニン残基含有ペプチドフラグメントなどの、比較的鎖長の短いペプチド1分子につき、メチオニン残基1個であることが多い。 この場合、本発明では、MS解析により酸化度が明らかになったタンパク質試料に関し、酸化されたメチオニン残基の位置の決定を行うこともできる。具体的には、MS測定で得られたペアピークの少なくともいずれか一方をプレカーサイオンとしてMS/MS測定、或いはそれ以上の多段階MS測定を行い、アミノ酸配列を決定する。アミノ酸配列を決定することは、メチオニン残基の位置を特定することでもある。 MSで得られたペアピーク自体は、タンパク質試料中のnon-oxi-Met含有タンパク質に由来するものであるが、non-oxi-Met含有タンパク質中のメチオニン残基の位置を知ることによって、当該non-oxi-Met含有タンパク質に対応する構造を有するoxi-Met含有タンパク質(すなわち、メチオニン残基が酸化されているか否かの違いを除いてはnon-oxi-Met含有タンパク質と同じ構造を有するタンパク質)における酸化位置を間接的に知ることができる。【0058】 上記具体例では、本発明の2つの具体的な形態を示した。しかしながら、本発明はこれらに限定されることなく、他のさまざまな形態で実施することができる。そのため、前述の具体例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変更は、全て本発明の範囲内のものである。 (i)メチオニン残基の酸化度が未知であるタンパク質試料Aと、メチオニン残基の酸化度が未知であるタンパク質試料Bとを用意し、 (ii)修飾試薬として、互いに同じ分子構造を有し、且つ互いに質量数の異なる同位体を含むことによって異なる分子量を有する2種の化合物を用意し、 前記タンパク質試料Aに対し、前記2種の化合物のうちいずれか一方の化合物を用いてメチオニン残基の修飾を行い、修飾タンパク質試料A’を得て、 別途、前記タンパク質試料Bに対し、前記2種の化合物のうちいずれか他方の化合物を用いてメチオニン残基の修飾を行い、修飾タンパク質試料B’を得て、 (iii)前記修飾タンパク質試料A’と前記修飾タンパク質試料B’とを混合し、質量分析用混合試料を得て、 (iv)前記質量分析用混合試料を質量分析に供し、タンパク質試料A及びタンパク質試料Bの各々におけるメチオニン残基の酸化度を定量する、タンパク質中の酸化されたメチオニン残基の定量を行う方法。 前記修飾試薬が、下記式(a):(式中、Xは脱離基を表し、Rは有機基を表す)で表される化合物、又は、下記式(b):(式中、Xは脱離基を表す)で表される化合物である、請求項1に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。 前記化合物(a)において、Rは、置換されて良いアルキル基及び置換されて良いアリール基から選ばれる、請求項2に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。 前記化合物(a)において、Rは、置換されて良いアラルキル基及びパーフルオロアルキル基から選ばれる、請求項3に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法を行い、その後、アミノ酸配列決定を行うことにより、タンパク質中の酸化されたメチオニン残基の位置を決定する方法。 (i)メチオニン残基の酸化度を定量すべきタンパク質試料Cと、メチオニン残基の酸化度が既知であるタンパク質試料Dとを用意し、 (ii)修飾試薬として、互いに同じ分子構造を有し、且つ互いに質量数の異なる同位体を含むことによって異なる分子量を有する2種の化合物を用意し、 前記タンパク質試料Cに対し、前記2種の化合物のうちいずれか一方の化合物を用いてメチオニン残基の修飾を行い、修飾タンパク質試料C’を得て、 別途、前記タンパク質試料Dに対し、前記2種の化合物のうちいずれか他方の化合物を用いてメチオニン残基の修飾を行い、修飾タンパク質試料D’を得て、 (iii)前記修飾タンパク質試料C’と前記修飾タンパク質試料D’とを混合し、質量分析用混合試料を得て、 (iv)前記質量分析用混合試料を質量分析に供することによって、前記タンパク質試料Cにおけるメチオニン残基の酸化度を定量する、タンパク質中の酸化されたメチオニン残基の定量を行う方法。 前記修飾試薬が、下記式(a):(式中、Xは脱離基を表し、Rは有機基を表す)で表される化合物、又は、下記式(b):(式中、Xは脱離基を表す)で表される化合物である、請求項6に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。 前記化合物(a)において、Rは、置換されて良いアルキル基及び置換されて良いアリール基から選ばれる、請求項7に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。 前記化合物(a)において、Rは、置換されて良いアラルキル基及びパーフルオロアルキル基から選ばれる、請求項8に記載のメチオニン残基の酸化度を定量する方法。 請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法を行い、その後、アミノ酸配列決定を行うことにより、タンパク質中の酸化されたメチオニン残基の位置を決定する方法。


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