生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_希少糖を含む非う蝕性素材および抗う蝕剤
出願番号:2008542995
年次:2013
IPC分類:A61K 31/7004,A61K 31/047,A61P 1/02,A61K 8/60,A61K 8/34,A61Q 11/00,A61K 31/353,A61K 8/49,A23L 1/30,A23G 4/00


特許情報キャッシュ

飯田 哲郎 市原 敬司 何森 健 徳田 雅明 小川 尊明 JP 5283173 特許公報(B2) 20130607 2008542995 20070327 希少糖を含む非う蝕性素材および抗う蝕剤 松谷化学工業株式会社 000188227 国立大学法人 香川大学 304028346 須藤 阿佐子 100102314 須藤 晃伸 100123984 飯田 哲郎 市原 敬司 何森 健 徳田 雅明 小川 尊明 JP 2006305817 20061110 20130904 A61K 31/7004 20060101AFI20130815BHJP A61K 31/047 20060101ALI20130815BHJP A61P 1/02 20060101ALI20130815BHJP A61K 8/60 20060101ALI20130815BHJP A61K 8/34 20060101ALI20130815BHJP A61Q 11/00 20060101ALI20130815BHJP A61K 31/353 20060101ALI20130815BHJP A61K 8/49 20060101ALI20130815BHJP A23L 1/30 20060101ALN20130815BHJP A23G 4/00 20060101ALN20130815BHJP JPA61K31/7004A61K31/047A61P1/02A61K8/60A61K8/34A61Q11/00A61K31/353A61K8/49A23L1/30 ZA23G3/30 A61K 31/ A61K 8/ A23G 4/ A23L 1/ CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特表2005−520807(JP,A) 特開2005−213227(JP,A) 特開2005−263670(JP,A) 特開平06−125776(JP,A) 国際公開第2002/092545(WO,A1) 特開昭57−129671(JP,A) 特開平09−110687(JP,A) Lu, Y. et al.,International Journal of Cosmetic Science,2002年,Vol.24, Issue 4,pp.225-234 田谷 かほる 他,口腔衛生学会雑誌,2005年,Vol.55, No.3,p.220 7 JP2007056449 20070327 WO2008056453 20080515 22 20100204 井上 典之 本発明は、希少糖を含む非う蝕性素材および抗う蝕剤に関する。さらに、該非う蝕性素材を配合してなる組成物および該抗う蝕剤を配合してなる抗う蝕性組成物に関する。 う蝕歯(齲歯、う歯、歯牙う蝕および虫歯等は同じ疾患を意味する、以下「う蝕」と略す。)とは、口腔内細菌が糖、特にショ糖を栄養源として酸を発生し、この酸によって歯質が脱灰(酸によって歯のエナメル質や象牙質から無機成分のリン酸やカルシウムが溶け出すこと)さらに崩壊する疾患である。 上記う蝕の詳細な原因については種々の説があげられているが、現在、う蝕は、口腔内常在性菌、例えば、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)(以下「S. mutans」と略すことがある。)によって生成される粘着性を持つ不溶性の多糖体(不溶性グルカン)が、歯の表面に付着することによって始まると考えられている。具体的には、ストレプトコッカス ミュータンスなどの細菌によりショ糖などから、不溶性グルカンが生成され、この不溶性グルカンが歯表面に付着し、口腔内細菌と食渣によって歯垢(デンタル プラーク)を形成する。そして、この歯垢では、ストレプトコッカス ミュータンスをはじめ種々の微生物が共生、繁殖する。これらの微生物の代謝によって酸が産生され、この酸の作用でpHが低下し、歯に脱灰が生じ、歯質の崩壊、さらにう蝕の発生・進行の原因になると考えられている。 以上のような原因でう蝕が発生するため、予防のための好ましい手段の一つは口腔内細菌による不溶性グルカンや酸を生成する原因となる糖、例えばショ糖を摂取しないことである。しかしながら、ショ糖は、自然界や農作物の果物や野菜に多く含まれており、また、調味料・食品として我々の食生活には欠かせないものとなっているため、これを摂取しないことは非常に困難である。 このような状況において、これまでに、キシリトール(特許文献1、特許文献2)、パラチニット(特許文献3)、エリスリトール(非特許文献1)などの代替糖の開発が行われ、う蝕誘発細菌による酸の産生や歯垢形成を防止する効果が明らかにされてきた。また、ショ糖の約68%の甘味を有するD−アラビトール、ショ糖の約65%の甘味を有するD−アロース、およびグルコースと同程度の甘味を有するL−マンノースが非う蝕性素材として提案されている(特許文献4)。また、D−プシコースの環状四糖の低う蝕性食品素材としての使用も示唆されている(特許文献5)。 また、歯垢は虫歯の原因になるばかりでなく、歯肉炎や歯周炎(歯槽膿漏)などの歯周疾患の原因にもなることも広く知られている。したがって、ストレプトコッカス ミュータンス等のう蝕または歯周疾患の原因菌の増殖を抑えるあるいは死滅させることが各種疾患を予防する上で重要な課題であり、そうした効果を有する口腔用組成物が切に望まれている。しかし、歯周疾患の予防、治療に応用するには、口腔用組成物に用いた際の安全性に問題が有る、口腔用組成物に安定配合することが困難である、香味に悪影響を及ぼす、効果が不十分、配合コスト等の課題がある。特開2000−128752号特開2000−53549号特開2000−281550号特開2000−68970号WO01−090338号Kawanabe et al., Caries Res. 26p.358-362 (1992) キシリトールは、希少糖に属する糖アルコールで、すでに嗜好品・食品に添加使用されており、高いう蝕予防効果を示すことは広く一般的に知られている。確かに、キシリトール、パラチニット、エリスリトールなどの糖アルコールは、ストレプトコッカス ミュータンスの生産するグルカン合成酵素の基質になりにくく、水溶性および不溶性グルカンへの原料とはならない。 さらに、キシリトールはこれまでに、ストレプトコッカス ミュータンス群に利用されないという非う蝕性だけでなく、ストレプトコッカス ミュータンス群の殺菌作用や再石灰化の促進作用があると言われてきた。一方、最近の研究ではストレプトコッカス ミュータンス群が単にキシリトールをエネルギーとして利用できないため、増殖・活性が低下すると確認されている。すなわち、甘味料中のショ糖の一部をキシリトールに置き換え、ショ糖の量を減じることになり、う蝕予防効果を得ることができる。しかし、これまで知られている非う蝕性作用を有する糖アルコールなどは、大量に摂取すると下痢を誘発することが知られており、またグルコースやフラクトースの代替糖として用いるには物性的にも異なることから、代替糖として多用途に耐えられる新しい非う蝕性素材の開発が望まれている。 すなわち、主要なカロリー源の一つであり、かつ食品として重要な甘味料であるブドウ糖やショ糖等の代替糖として多用途に耐えられる非う蝕性素材やそれを含むう蝕予防甘味料の開発が望まれている。そこで、他の希少糖について、う蝕予防甘味料としての効果があるものを見いだし、それを使用して得られたことを特徴とするキシリトールに変わる新しい「う蝕予防甘味料」の創製が期待される。 本発明は、それ単独では、う蝕の原因細菌であるストレプトコッカス ミュータンスによっては代謝されない、つまり、不溶性グルカンの産生や酸などの生成を実質的に生じないような性質を有する新規の非う蝕性希少糖を見いだし、それを配合した非う蝕性素材およびそれを含む組成物(う蝕予防甘味料など)を提供することを目的とする。 また、本発明は、う蝕の原因細菌であるストレプトコッカス ミュータンスによって代謝されるう蝕性甘味成分と共存する場合に、う蝕原因菌の代謝による酸性化を実質的に抑制する性質を有する新規の抗う蝕性希少糖を見いだし、それからなる抗う蝕剤およびそれを配合した抗う蝕性組成物を提供することを目的とする。 本発明は、優れた抗う蝕性を有し、しかも長期間使用しても安全かつ安定で、香味に与える影響も少ない歯周疾患予防用組成物(歯周疾患予防剤)を提供することを目的とする。 本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、希少糖のD−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースからなる群から選ばれるD体の希少糖、L−フラクトース、L−プシコースおよびL−タガトースからなる群から選ばれるL体の希少糖、または、希少糖の誘導体であるアリトールをストレプトコッカス ミュータンスが資化せず、その結果、増殖を抑制し、pH低下を招くことがないことを発見し、非う蝕素材に係る本発明を完成するに至った。また、D−プシコースが資化性糖であるショ糖存在下においても、pHの低下を示さない(すなわち抗う蝕性がある)ことを発見し、さらに、カテキン類との併用で抗う蝕性を強めることを発見し、抗う蝕剤に係る本発明を完成するに至った。 本発明は以下の(1)および(2)の抗う蝕用口腔用組成物、(3)の歯周疾患を予防するために用いられる医薬品もしくは医薬部外品を要旨とする。(1)D−プシコースおよびD−ソルボースからなる群から選ばれるD体の希少糖、L−フラクトース、L−プシコースおよびL−タガトースからなる群から選ばれるL体の希少糖、または、希少糖の誘導体であるアリトールを単独または組み合わせて配合してなる非う蝕素材を配合した、抗う蝕用口腔用組成物。(2)歯周疾患を予防するために用いられるものである旨の表示を付したものである上記(1)記載の抗う蝕用口腔用組成物。(3)D−プシコースおよびD−ソルボースからなる群から選ばれるD体の希少糖、L−フラクトース、L−プシコースおよびL−タガトースからなる群から選ばれるL体の希少糖、または、希少糖の誘導体であるアリトールを単独または組み合わせて配合してなる非う蝕素材を配合した、歯周疾患を予防するために用いられる医薬品もしくは医薬部外品。 本発明は以下の(4)および(5)記載の抗う蝕用口腔用組成物を要旨とする。(4)D−プシコース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコースおよび/またはL−タガトースからなる、または、D−プシコース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコースおよび/またはL−タガトースにカテキン類を組み合わせてなる、抗う蝕剤を配合してなる抗う蝕用口腔用組成物。(5)歯周疾患を予防するために用いられるものである旨の表示を付したものである上記(4)記載の抗う蝕用口腔用組成物。 本発明は以下の(6)および(7)記載の抗う蝕用医薬品もしくは抗う蝕用医薬部外品を要旨とする。(6)D−プシコース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコースおよび/またはL−タガトースからなる、または、D−プシコース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコースおよび/またはL−タガトースにカテキン類を組み合わせてなる、抗う蝕剤を配合してなる抗う蝕用医薬品もしくは抗う蝕用医薬部外品。(7)歯周疾患を予防するために用いられる上記(8)記載の抗う蝕用医薬品もしくは抗う蝕用医薬部外品。 本発明により、ストレプトコッカス ミュータンスによっては代謝されずに、酸などの生成による歯表面の酸性化を実質的に生じないような、D−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースからなる群から選ばれるD体の希少糖、L−フラクトース、L−プシコースおよびL−タガトースからなる群から選ばれるL体の希少糖、または、希少糖の誘導体であるアリトールを単独または組み合わせて配合してなる非う蝕性素材を提供することができる。また、該非う蝕性素材を含む食品組成物、口腔用組成物、医薬品もしくは医薬部外品、化粧品などのさまざまな組成物を提供することができる。 具体的には、たとえば、グルコース、フラクトース、ラクトースおよびショ糖などの糖類、および各種糖類の還元物などからなる従来の甘味成分の代替甘味剤として、それらの少なくとも一部に代え、または従来の甘味成分に加え、本発明の非う蝕性素材を食品、飲料、飼料、医薬品、医薬部外品および化粧品などの様々な組成物に配合することができる。例えば、食品または飲料などの組成物に本発明の非う蝕性素材が含有されている場合には、それらを摂取した場合に、う蝕に罹る危険性が小さくなることが考えられる。また、該甘味成分の実質的に全てが本発明の非う蝕性素材からなる場合には、それを摂取してもう蝕に罹る可能性は実質的にないために、該組成物は非う蝕性食品組成物または飲料とすることができる。また、本発明によれば、人体に安全で安定性に優れた上記の希少糖を配合した口腔用組成物が提供でき、本発明の口腔用組成物は上記の希少糖の配合により歯周疾患予防の効果が期待できる。 また、本発明により、う蝕の原因細菌であるストレプトコッカス ミュータンスによって代謝されるう蝕性の甘味成分と共存する場合に、う蝕原因菌の代謝による歯表面の酸性化を実質的に抑制する性質の抗う蝕性希少糖:D−プシコース、D−ソルボース、D−タガトース、L−フラクトース、L−プシコース、L−タガトース、アリトールからなる、またはそれにカテキン類を組み合わせてなる抗う蝕剤を提供することができる。また、該抗う蝕剤を配合してなる抗う蝕性口腔用組成物、抗う蝕性食品組成物、抗う蝕性医薬品、医薬部外品または化粧品組成物を提供することができる。より具体的には、たとえば、グルコース、フラクトース、ラクトースおよびショ糖などの資化性糖類および、カテキンなどのポリフェノールを含む製品に、本発明の抗う蝕剤を添加することによって、口腔用組成物、食品組成物、医薬品、医薬部外品または化粧品などの様々な抗う蝕性組成物を提供することができる。例えば、食品組成物に本発明の抗う蝕剤が配合されている場合には、それらを摂取した場合に、う蝕に罹る危険性が限りなく小さくなることが考えられる。また、該甘味成分にう蝕性の甘味成分が共存する場合であっても、それを摂取してもう蝕に罹る可能性は少なくなるために、該組成物は抗う蝕性食品組成物ということができる。S. mutans株が、ショ糖を資化し、不溶性グルカンを形成したことを説明する図面に代わる写真である。JCM 5075 (S. mutans株)、BHI溶液を用い、希少糖の溶液中での溶液の24時間後の濁度(O.D. 600nm)の変化を示す図面である。無添加とショ糖添加との比較を示す。JCM 5075 (S. mutans株)、BHI溶液を用い、希少糖の溶液中での溶液の24時間後のpHの変化を示す図面である。無添加とショ糖添加との比較を示す。また、それぞれの希少糖とショ糖の相互作用も示している。イズモリング(Izumoring)連携図である。図4の下段のイズモリングC6の説明図である。構造式とセットのイズモリングC6の説明図である。 本発明において、「非う蝕」とは、それ単独では、う蝕の原因細菌であるストレプトコッカス ミュータンスにより代謝されず、酸の生成による歯表面の酸性化を実質的に生じない現象あるいは状態を言う。 それゆえ、「非う蝕性」とは、それ単独では、う蝕の原因細菌であるストレプトコッカス ミュータンスにより代謝されず、酸の生成による歯表面の酸性化を実質的に生じないような性質を言う。すなわち、該希少糖1〜10重量%を培地に添加してストレプトコッカス ミュータンスを培養した結果、20〜48時間後、それらの代謝による菌の生育が糖無添加(コントロール)と同等または一定のレベル以下である、もしくは培地のpHが糖無添加(コントロール)と同等または一定のレベル以上になるような性状をいう。 また、「抗う蝕」とは、該細菌によって代謝されるう蝕性の甘味成分と共存することにより、う蝕原因菌の代謝による歯表面の酸性化を実質的に抑制する現象あるいは状態をいう。 それゆえ、「抗う蝕性」とは、該細菌によって代謝されるう蝕性の甘味成分と共存することにより、う蝕原因菌の代謝による歯表面の酸性化を実質的に抑制する性質をいう。すなわち、資化性糖共存化で該希少糖1〜10重量%を培地に添加してストレプトコッカス ミュータンスを培養した結果、20〜48時間後、それらの代謝による菌の生育が該希少糖無添加(コントロール)と比較して一定のレベル以下である、もしくは培地のpHが該希少糖無添加(コントロール)と比較して一定のレベル以上になるような性状をいう。 なお、本明細書中では、「非う蝕」と「抗う蝕」、または「非う蝕性」と「抗う蝕性」を併せた意味で、あるいは区別しないで、「う蝕抑制」または「う蝕抑制性」を使うことがある。 本発明に用いられる希少糖とは、単糖のうち自然界に大量に存在する「天然型単糖」に対して、自然界に微量にしか存在しない単糖を「希少糖」と言う。 発明者の一人である何森健は、イズモリング(Izumoring)連携図を特許文献1で公表している。図4で示される生産過程と分子構造(D型、L型)により、炭素数(C)4から6の単糖全てをつないだ連携図がイズモリング(Izumoring)の全体図である。すなわち、図4から理解できることは、単糖は、C4、5、6全てがつながっているということである。全体図は、イズモリングC6の中でのつながりと、イズモリングC5の中でのつながりと、イズモリングC4の中でのつながりと、C4、C5、C6が全てつながっていることである。この考え方は重要である。炭素数を減少させるには主に発酵法を用いる。炭素数の異なる単糖全てをつなぐという大きな連携図であることも特徴である。 炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリングによれば、図4の下段、図5および図6に示すように、炭素数が6つの単糖(ヘキソース)は全部で34種類あり、アルドースが16種類、ケトースが8種類、糖アルコールが10種類ある。希少糖とは自然界に希にしか存在しない単糖(アルドース、ケトースおよび糖アルコール)と定義づけることができる。この定義は糖の構造や性質による定義ではないため、あいまいである。すなわち、これは、一定量以下の存在量を希少糖というなどの量の定義はなされていないためである。一般に自然界に多量に存在するアルドースとしてはD−グルコース、D−ガラクトース、D−マンノース、D−リボース、D−キシロース、L−アラビノースの6種類あり、それ以外のアルドースは希少糖と定義される。ケトースとしては、D−フラクトースが存在しており、他のケトースは希少糖といえる。他のケトースとして、D−タガトース、D−ソルボース、D−プシコース、L−フラクトース、L−プシコース、L−タガトース、L−ソルボースが挙げられる。また糖アルコールは単糖を還元してできるが、自然界にはD−ソルビトールが比較的多いがそれ以外のものは量的には少ないので、これらも希少糖といえる。 これらの糖は、酸化還元酵素の反応、アルドース異性化酵素の反応、アルドース還元酵素の反応で変換できることは、本発明者らの研究を含めた研究で知られている。それまでの研究では図2の上のグループ、真ん中のグループ、下のグループは酵素反応でつながっていなかった。すなわち上のグループに属しているD−グルコース(ブドウ糖)やD−フラクトースは自然界に多量に存在する糖であり安価であるが、これらから希少糖を合成することができなかった。ところが、本発明者らの研究の過程で、これを結ぶ酵素が発見された。それはガラクチトールからD−タガトースを合成する酵素を持つ菌の培養液中に、全く予期しなかったD−ソルボースが発見されたことに端を発する。その原因を調べた結果、この菌がD−タガトース3エピメラーゼ(DTE)という酵素を産生していることを発見した(例えば、特開平6-125776号公報参照)。図4の下段、図5および図6に示すように、このDTEはこれまでつながりが持てなかったD−タガトースとD−ソルボースの間をつなぐ酵素であることがわかる。そしてさらに驚くことに、このDTEは全てのケトースの3位をエピ化する酵素であり、これまで合成接続できなかったD−フラクトースとD−プシコース、L−ソルボースとL−タガトース、D−タガトースとD−ソルボース、L−プシコースとL−フラクトース、に作用するという非常に幅広い基質特異性を有するユニークな酵素であることが分かった。このDTEの発見によって、すべての単糖がリング状につながり、単糖の知識の構造化が完成し、イズモリング(Izumoring)と名付けた。 図5および図6をよく見てみると、左側にL型、右側にD型、真ん中にDL型があり、しかもリングの中央(星印)を中心としてL型とD型が点対称になっていることもわかる。例えば、D−グルコースとL−グルコースは、中央の点を基準として点対称になっている。しかもイズモリング(Izumoring)の価値は、全ての単糖の生産の設計図にもなっていることである。先の例で、D−グルコースを出発点としてL−グルコースを生産しようと思えば、D−グルコースを異性化→エピ化→還元→酸化→エピ化→異性化するとL−グルコースが作れることを示している。 炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)を使って、自然界に多量に存在する糖と微量にしか存在しない希少糖との関係が示されている。D−グルコース、D−フラクトース、D−マンノースと、牛乳中の乳糖から生産できるD−ガラクトースは、自然界に多く存在し、それ以外のものは微量にしか存在しない希少糖と分類される。DTEの発見によって、D−グルコースからD−フラクトース、D−プシコースを製造し、さらにD−アロース、アリトール、D−タリトールを製造することができるようになった。希少糖D−プシコースは、これまで入手自体が困難であったが、自然界に多量に存在する単糖から希少糖を大量生産する方法が開発されつつあり、その技術を利用して製造することができる。 炭素数が6つの単糖(ヘキソース)のイズモリング(Izumoring)の意義をまとめると、生産過程と分子構造(D型、L型)により、すべての単糖が構造的に整理され(知識の構造化)、単糖の全体像が把握できること、研究の効果的、効率的なアプローチが選択できること、最適な生産経路が設計できること、欠落部分について予見できること、が挙げられる。 本発明において、非う蝕素材になり得る非う蝕性を有する希少糖は、D−プシコース、D−ソルボースおよびD−タガトースからなる群から選ばれるD体の希少糖、L−フラクトース、L−プシコースおよびL−タガトースからなる群から選ばれるL体の希少糖、または、希少糖の誘導体であるアリトールである。また、本発明において、抗う蝕剤になり得る抗う蝕性を有する希少糖は、D−プシコース、D−ソルボース、D−タガトース、L−フラクトース、L−プシコースおよび/またはL−タガトースである。 本発明において用いるカテキン類は、茶などに含まれるポリフェノールであり、代表的なものとしては、B環の水酸基が2つのカテキン、エピカテキン、B環水酸基が3つのエピガロカテキン、ガロイル基が付いているエピガロカテキンガレートなどがある。これらカテキン類は、抗歯周病用組成物の有効成分として記載されている(特許2903210号)。この試験系でのう蝕に対するカテキン有効濃度は、500μg/mlで、最も有効なガロカテキンでも125μg/mlである。また、これらカテキン類がさらに重合するとタンニンとなり、ガロイル基部分は、没食子酸、ピロガロールとほぼ同様な構造を持つ。これらのポリフェノール類のう蝕抑制は、水酸基3つ持つポリフェノールが特に有効で、水酸基2つのものでも有効であることが示される(大久保勉、Food Style 21,8, p.47-51 (2004))ことから、コーヒーに含まれるカフェー酸等の水酸基2つ持つポリフェノールもう蝕に対して有効ではないかと考えられる。 しかしながら、これらの物質は強い収斂性を持つ渋味成分であることから、呈味性が著しく損なわれ、食品をはじめ各種分野への利用を考える上で大きな欠点となっている。したがって、苦みを減少させるため、カテキン類などポリフェノールの使用量を減らしても、抗菌性、う蝕抑制性を示すような化合物の検討が必要である。 本発明の非う蝕素材、または抗う蝕剤は、含まれる非う蝕性を有する希少糖のもつ非う蝕に関する機能(作用)、または抗う蝕剤である希少糖のもつう抗う蝕に関する機能(作用)の他に、様々な機能(作用)・用途、例えば、血糖低下作用、甘味付与作用を有するもの(甘味料)である。例えば、D−プシコースは、甘味としてショ糖の70%程度を有し、実質的にゼロキロカロリーであることが示され(Matsuo et al., J Nutr Sci Vitaminol. 48 p.77-80 (2002))、低カロリー甘味料として有用である。また、増粘剤、保湿剤、賦形剤、物性改質剤、及び増量剤等として使用することができる。 したがって、本発明は、上記のう蝕抑制素材(非う蝕素材、または抗う蝕剤)を含む各種の組成物にも係る。グルコース、フラクトース、ラクトースおよびショ糖などの糖類、および各種糖類の還元物などからなる従来の甘味成分の代替甘味剤としてそれらの少なくとも一部に代えて、または従来の甘味成分に加えて、本発明の非う蝕素材、または抗う蝕剤を様々な組成物に、好ましくは、資化性糖の20倍程度の濃度で配合することにより非う蝕機能(作用)または抗う蝕機能(作用)を発揮するができる。また、カテキンなどのポリフェノールを含有(0.002%程度以上)させることにより、抗う蝕機能(作用)を増加させることができる。言い換えると、本発明素材の配合を少なく(資化性糖の10倍程度)することができる。かかる組成物の用途例としては、食品(飲料、動物用飼餌料を含む)、化粧品、医薬品組成物および口腔用組成物などを挙げることができる。ヒトまたは動物用の医薬品、飲食品としては、調製粉乳、経腸栄養剤、健康飲食品、飼餌料添加物、菓子類などが例示でき、最終的に経口投与可能な形態であれば特に制限はない。ヒトまたは動物の口腔用組成物としては、当該技術分野で従来公知の任意の用途・種類・形態を有するものが含まれる。 飲食品(歯周疾患を予防するために用いられるものである旨の表示を付した食品組成物を含む。)として使用する場合には、本発明のう蝕抑制素材(非う蝕素材、抗う蝕剤、いずれかを含むう蝕抑制性素材)またはその加工品をそのまま使用したり、他の食品ないし食品成分と併用したりして、適宜常法に従い配合して使用できる。加工品とは当該食品を含む加工食品で、明らかな食品(狭義の食品)から錠剤などまでを広く意味する。また、加工にあたっては、熱安定性、酸安定性ともに高いため、通常の食品加工方法がなんら問題なく適用できる。本発明に係る組成物は、粉末、顆粒状、ペースト状、液状、懸濁状など特段の制限はない。例えば甘味料、酸味料、ビタミン剤その他ドリンク剤製造に常用される各種成分を用いた健康ドリンクや、錠菓様組成物に製剤化することも例示できる。 該食品組成物としては、当該技術分野で従来公知の任意のもの、特に甘味成分を有する食品組成物、例えば、飲料、チューインガム、チョコレート、キャンディなどを挙げることができる。また、カテキン様のフェノール性化合物を含むことにより抗う蝕機能(作用)を強めることができる。本発明にかかるう蝕抑制性食品としては、例えば、ケーキ、クッキー、チョコレート、ガム、カステラ、パン、アイスクリーム、プディング、ゼリー、ババロア、クリーム、キャラメル、ジャム、餡、飴、羊羹、最中、および菓子のいずれかである構成が好ましい。また、本発明にかかるう蝕抑制性飲食品としては、例えば、炭酸飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料、およびジュースのいずれかである構成が好ましい。 チューインガム、キャンディ、錠菓、ゼリー、グミなどの菓子として提供する場合には、本発明のう蝕抑制素材を含む原料成分をニーダーを使用して、撹拌混合して製造することができる。また、各種の麦芽糖、還元水飴のような糖甘味料、羅漢果抽出物、アスパルテームや、ステビアサイドのような高甘味度甘味料を併用することもできる。 上記の希少糖の含有量は特に限定されないが、通常、組成物中に0.1〜99%含有することで、目的とする効果を達成することができる。また、本発明の組成物は、さらに、う蝕誘発抑制作用を有するとされるキシリトール、マルチトール、パラチニット、マンニトール、ソルビトール、パラチノース、パノースオリゴ糖、ラクチトール、エリスリトール、カップリングシュガーおよびイソマルトオリゴの1種もしくは2種以上を含有しても良い。 例えば、食品または飲料などの組成物に本発明のう蝕抑制素材が含有されている場合には、それらを摂取した場合に、う蝕に罹る危険性が小さくなることが考えられる。また、該甘味成分の実質的に全てが本発明のう蝕抑制素材からなる場合には、それを摂取してもう蝕に罹る可能性は実質的にないために、該組成物はう蝕抑制性食品組成物または飲料ということができる。 医薬品組成物(歯周疾患予防用組成物を含む。)として使用する場合、本発明のう蝕抑制素材は、種々の製剤化物に添加できる。その製剤化物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などによる経口投与物が例示でき、本発明のう蝕抑制素材は、基材も一部として使用できる。また、これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。 口腔用組成物(歯周疾患予防用組成物としての口腔用組成物を含む。)として使用する場合、本発明のう蝕抑制素材を必須成分とするほか、その形態に応じて種々の公知成分を配合することができる。配合可能な公知成分として、例えば湿潤剤、粘結剤、歯質強化剤、殺菌剤、pH調整剤、界面活性剤、酵素類、抗炎症剤、血行促進剤、甘味剤、防腐剤、着色剤、色素類、香料などを適宜使用することができる。 口腔用組成物は、本発明のう蝕抑制素材を配合し、常法により製造することができ、練歯磨、潤製歯磨、粉歯磨、液状歯磨、口腔パスタ、洗口液、マウスウォッシュ、うがい用錠剤、義歯洗浄用錠剤、歯肉マッサージクリーム、チューインガム、トローチ、キャンディなどの形態とすることができ、特に低粘度の液状歯磨、洗口液やマウスウォッシュや、水に溶かせて使用するうがい用錠剤や義歯洗浄剤に最適である。本発明において、口腔用組成物とは、口中で咀嚼したり、含嗽したりするものをいい、例えば、チューインガム、キャンディ、錠菓、フィルム菓子などの食品;練り歯磨き剤、液状歯磨き剤、洗口剤などの医薬品などが挙げられる。 う蝕性糖質とは、う蝕原因菌の栄養源となり、非水溶性のグルカンおよび有機酸を生成させる糖質、例えば、ショ糖、果糖、ブドウ糖などの糖質をいう。口腔用組成物は、これらのう蝕性糖質を含まないほうが好ましく、非う蝕性糖質、例えば、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、ラクチトール、還元パラチノース、マンニトールなどの糖アルコール、還元水飴、あるいは高甘度甘味料、例えば、サッカリン、スクラロース、アセスルファムKなどは含まれていてもよい。しかしながら、本発明のう蝕抑制素材はう蝕性糖質と併用することができる。 口腔用組成物として使用する場合には、上記成分以外にも、本発明を損なわない範囲で、通常口腔用組成物に配合する成分を剤形に応じて適宜配合することができる。例えば、研磨剤、湿潤剤、増粘剤、界面活性剤、香料、甘味料、着色料、防腐剤、pH調整剤および各種薬効成分などを本発明の効果を損なわない範囲で配合することができる。 研磨剤としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸ジルコニウム、無水ケイ酸、沈降性シリカ、シリカゲル、炭酸カルシム、ピロリン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、フルオロアパタイト、ハロゲン化アパタイト、炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、不溶性メタリン酸カルシウム、酸化チタン、ゼオライト、合成樹脂系研磨剤などが挙げられる。 湿潤剤としては、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、ラクチトールのような糖アルコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールのような多価アルコールが挙げられる。 増粘剤としては、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カラギーナン、アルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸アルカリ金属塩、ジュランガム、キサンタンガム、グアガム、トラガントガム、カラヤガム、ビーガム、アラビアガムなどのガム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、シリカゲル、アルミニウムシリカゲルなどが挙げられる。 界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などが挙げられ、具体的には、アルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ショ糖脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル、ラウロイルサルコシン塩、N−アシルグルタミン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、2−アルキル−N−カルボキシ−N−ヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、N−アシルタウリン塩、アルキロールアマイド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油またはその脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。 香料としては、メントール、ペパーミント油、スペアミント油、オレンジ油、レモン油、ユーカリ油、ハッカ油、アカシア油、ウイキョウ油、クヘントウ油、カラムス油、ショウノウ油、ニッケイ油、ケイ皮油、ケイ葉油、バラ油、ビャクダン油、チョウジ油、ハーブ油、バナナ油、リンゴ油、サリチル酸メチル、カルボン、アネトール、リモネンなどのテルペン類、調合香料などが挙げられる。 甘味料としては、サッカリン、サッカリンナトリウム、キシリトール、ステビオサイド、ステビアエキス、レバウディオサイド、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロキシカルコン、ペリラルチン、タウマチン、グリチルチン、グリチルリチンモノグルコサイド、ヘルナンズルチン、トレハロース、アスパルテーム、ソルビットなどが挙げられる。 着色剤としては、青色1号、黄色4号などの法定色素、二酸化チタン、カラメルなどが挙げられる。 防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸塩、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、フェノキシエタノールなどが挙げられる。 pH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、酢酸などの有機酸およびその塩類、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カリウムナトリウム、炭酸リチウム、尿素、アミノ酸オリゴマー、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、水酸化カルシウムなどの無機性カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、マロン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グリコン酸カルシウム、グリセリン酸カルシウム、酒石酸カルシウム、フィチン酸カルシウムなどの有機酸カルシウムなどが挙げられる。 薬効成分としてはアラントイン、酢酸トコフェロール、イソプロピルメチルフェノール、グリチルリチン酸類、グリチルレチン酸類、デキストラーゼ、クロロフィル、銅クロロフィルナトリウム、フラボノイド、トラネキサム酸、ムタナーゼ、リゾチーム、アミラーゼ、プロテアーゼ、溶菌酵素、スーパーオキサイドディスムターゼ、イプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムアラントイン、アルミニウムクロルヒドロキシアラントイン、ジヒドロコレスタノール、ビサボロール、グリセロフォスフェート、水溶性無機リン酸化合物、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズ、フッ化カリウム、フッ化ケイ素酸ナトリウム、フッ化アルミニウム、フッ化銀、フッ化水素酸ヘキシルアミン、フッ化水素酸デカノールアミン、フッ化水素酸オクタデセニルアミンなどのフッ化物、エデト酸、クエン酸亜鉛、塩化亜鉛、グルコン酸銅、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化銅、ポリリン酸塩、ピロリン酸塩、ビタミンA、C、E、B6、パントテン酸塩などのビタミン類、グリシン、リジン、ヒスチジンなどのアミノ酸類、塩化ナトリウム、重曹、乳酸アルミニウム、硝酸カリウム、ザルコシネート、カテキン類などのポリフェノール化合物類、生薬などが挙げられる。 その他として、エタノール、水、シリコーン性物質、糖アルコール、天然抽出物などを適宜配合できる。なお、エタノールの配合量は5〜10重量%が望ましい。 本発明の口腔用組成物は、上記成分とともに常法に従って配合し、各種剤形に調製することができる。 上記組成物に含有される本発明のう蝕抑制素材の種類・割合は、該組成物、う蝕抑制素材、およびその他の甘味成分の種類・用途などに応じて、当業者が適宜選択することができる。なお、本発明のう蝕抑制性食品組成物は、ぞれぞれに当該技術分野で従来公知の任意の成分を適宜含有するものであり、当業者であれば従来公知の方法で調製・製造することができる。 上記の通り希少糖の含有量は特に限定されないが、通常、組成物中に0.1〜99%含有することで、目的とする効果を達成することができる。また、本発明の組成物は、さらに、非う蝕性を有するとされるキシリトール、マルチトール、パラチニット、マンニトール、ソルビトール、パラチノース、パノースオリゴ糖、ラクチトール、エリスリトール、カップリングシュガーおよびイソマルトオリゴの1種もしくは2種以上を含有しても良い。 フェノール性化合物を含有する、コーヒー、茶、紅茶などの他、カテキンや茶抽出物などを含有しても良い。 医薬品組成物として使用する場合、その使用量は症状、年令、体重、投与方法および剤形によって異なるが、糖衣錠、うがい薬、歯磨きの甘味付けの原料として、一般に用いられる。 以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、実験に用いる菌株は、ストレプトコッカスミュータンス(S. mutans)株のうちJCM5075およびJCM5175の2種類を用いた。参考例 [S. mutans株による、不溶性グルカンの形成] S. mutans株の特徴はショ糖を添加すると不溶性グルカンを形成し培地のpHを低下させる。それが歯牙表面を脱灰し、う蝕を形成する(虫歯菌といわれる原因)とされている。S. mutans株のJCM5075を、Brain Heart Infusion (BHI) 溶液に植菌し、嫌気条件で培養後、菌の生育(不溶性グルカン形成能:濁度)を肉眼的に判別した。 ショ糖を添加するとJCM5075は不溶性グルカンを形成しガラスの試験管の内面に付着し、菌塊を形成した。これは肉眼的観測にて明らかである(図1)。 図1の結果からS. mutans株がショ糖を資化し不溶性グルカンを形成することが確認できた。 S. mutans株の特徴はショ糖を添加すると不溶性グルカンを形成し、酸を産生し溶液のpHを低下させる。それが歯面上で歯牙表面を脱灰し、う蝕を形成するとされている。S. mutans株のうちJCM 5075とBHI溶液を用い、希少糖のそれぞれの溶液中でのショ糖、無添加又は添加時の溶液の濁度 (菌数の増加)とpHの変化を測定した。希少糖はD−フラクトース、L−フラクトース、D−ソルボース、L−ソルボース、D−プシコース、L−プシコース、D−タガトース、L−タガトース を用いた。使用した希少糖は、香川大学希少糖研究センターから提供された。 −80℃より起こしたJCM 5075株を48時間培養し、O.D.0.3になるように調整。2mlの各条件のBHI溶液に100μlずつ添加し、24時間後の濁度(肉眼による観察および吸光度:O.D.600nm)とpHを測定した。 濁度は一定時間培養した後、肉眼にて観察し、培養液の一部を吸光光度計(O.D.600nm)にて測定した。結果を表1および図2に示す。 pHは培養液の一部を採取し遠心後、上清をpH測定器にて測定した。結果を表2(BHI溶液に細菌添加、0、6、8、12、24時間後)および図3に示す。 濁度、pHの変化ともに、6、8時間後では差がみられなかったが、12、24時間後では差が認められた。 図2は24時間後の濁度の変化を示すものである。1%ショ糖を加えたものや10%D−フラクトースを加えたものでは、肉眼的な観察によると、図1と同様に菌塊(不溶性グルカン)を作り沈殿していた。そのため、濁度の低下が認められた。 無添加(BHI溶液)においては、肉眼での沈殿(不溶性グルカン)形成が認められず、O.D.による比較が可能であると考えられた。その他の糖においては、D−プシコース、D−ソルボース、D−タガトース、L−フラクトース、L−プシコース、L−タガトースで無添加と比較しO.D.上昇の抑制が認められた。特にL−タガトースの抑制効果が強かったのは特記される。次いで、L−フラクトース、キシリトール、L−プシコース、D−ソルボースの順に強かった。 図3は、24時間後のpHの変化をみたものである。1%のショ糖または10%キシリトール+1%ショ糖、10%フラクトース+1%ショ糖ではpHが大きく酸性化しており、酸の産生が生じたことが推測される。一方、その他の糖で図2において増殖抑制のあったものについては、ほぼpH低下の抑制がみられた。D−プシコースはpH低下を一番強く抑えたが、図2では菌の増殖に対する抑制効果はさほど強くなかった。別の効果がある可能性がある。 D−ソルボース、D−タガトース、L−フラクトース、L−プシコース、L−タガトースでは、pH低下を抑制していた。特に1%ショ糖を添加してもpHが低下しなかったことは抗う蝕作用を強く示唆する。一方、キシリトールでは1%ショ糖を添加するとpHは低下した。これは、これらの糖がS. mutansの増殖と酸産生能を抑え、う蝕抑制効果が期待出来ることを意味する。 以上のとおり、S. mutansに対する効果は肉眼による測定、吸光度(O.D.)とpHの変化で証明することができた。 [D−およびL−プシコースのS. mutansに対する作用] D−およびL−プシコースを用い、そのS. mutansに対する作用を測定した。D−もしくはL−プシコースは、香川大学希少糖研究センターから提供されたものを用いた。ストレプトコッカス ミュータンス(S. mutans)MT8148(JCM5175)株を、Brain heart infusion broth 寒天培地に植菌し、37℃48時間培養した。さらに、Brain heart infusion broth培地に接種し、37℃24時間培養した。この培養液を、1%試験物質 を含むPhenol red broth (PRB培地)に接種し、37℃で培養し、48時間後の菌の生育(660nmにおける吸光度:O.D.)とpHを測定した。対照として、グルコース、フラクトース、ショ糖およびキシリトールを使用した。得られた結果を表3に示す。なお、濁度は一定時間培養した後、培養液の一部を吸光光度計(O.D. 660nm)にて測定した。 表3の結果から、D−もしくはL−プシコース、グルコース、フラクトース、ショ糖およびキシリトールを培地に添加してS. mutansを培養した結果、菌の生育(O.D. 660nm)は、D−もしくはL−プシコースおよびキシリトールで0.05以下であり、また培養液のpHが5.5以上であった。これはグルコースを添加した場合のO.D.:0.26、pH:3.9と比較して大きな差が認められ、この物質は優れたう蝕抑制作用を示すと推測される。 [アリトールおよびD−ソルボースのS. mutansに対する作用] アリトールおよびD−ソルボースを用いてS. mutansに対する作用を測定した。アリトールおよびソルボースは、香川大学希少糖研究センターから提供されたものを用いた。S. mutans(JCM5075)株を、10%試験物質を含むBrain heart infusion培地に接種し、48時間培養後の培養液のpHを測定した。対照として、1%ショ糖および10%キシリトールを使用した。得られた結果を表4に示す。 実施例2と同様に、表4の結果から、アリトールのpHが5.5以上で、優れた非う蝕性を示した。また、D−ソルボースではS. mutans株に対して資化性が低いことを示した。 [D−プシコースの抗う蝕性試験] D−プシコースの抗う蝕性試験を行った。また、カテキン類の添加効果についても検討した。D−プシコースは、香川大学希少糖研究センターから提供されたものを用いた。カテキンは、三井農林(株)のポリフェノン70Aを用いた。S. mutans MT8148(JCM5175)株を、Brain heart infusion broth 寒天培地に植菌し、37℃48時間培養した。さらに、Brain heart infusion broth培地に接種し、37℃24時間培養した。この前培養液を、以下の濃度の糖質およびカテキン類を含むPhenol red broth (PRB培地)に接種し、37℃で培養し、20時間後のpHを測定した。対照として、ショ糖を使用した。得られた結果を表5に示す。 表5の結果から、希少糖であるD−プシコースは、ショ糖を培地に添加してストレプトコッカス ミュータンスを培養した結果、D−プシコース濃度5%で培地のpHの低下を抑制する作用が認められ、優れた抗う蝕性があると推測される。また、カテキン単独及びD−プシコース単独でショ糖のpH低下作用が認められなかった濃度で微量なカテキンとD−プシコースが共存した場合にpH低下作用を抑制し、D−プシコースとカテキンが相乗的な作用で抗う蝕性を示すと推測される。 本発明の抗う蝕作用を持つ希少糖を用いた、口腔用組成物を表6(歯磨剤)の組成表に従って調製した。 本発明の、抗う蝕作用を持つ希少糖を用いた、表7(洗口剤)の組成表に従って調製した。 本発明の抗う蝕作用を持つ希少糖を用いた、表8(チューインガム)の組成表に従って調製した。 実施例5〜実施例7の、歯磨剤、口洗剤、チューインガムは組成物としてD−プシコースを用いることによって、清涼感のあるさわやかな甘みを持ち、かつう蝕を引き起こさない歯磨剤、口洗剤、チューインガムができた。 なお、この歯磨剤や洗口剤組成物に既存の薬用成分、塩化セチルピリジニウム、トリクロサン、シオネール、チモール、塩化亜鉛、サリチル酸メチル、ビタミンEなどを加えることができる。また、チューインガムなどに、う蝕抑制作用を持つキシリトールなどの糖アルコールなども加えることができる。 D−プシコースは、それ自体では、う蝕の原因細菌であるストレプトコッカス ミュータンスによる代謝の程度が低いもしくはほとんど認められない(非う蝕性)。既存甘味料と組み合わせて使用することによって、該う蝕性甘味成分による菌の生育およびpHの低下を実質的に抑制することもできる作用を有する(抗う蝕性)物であり、食品、医薬部外品、医薬品等に広く使用できるものである。特に希少糖の一つに属する、糖アルコールであるキシリトールは日常生活において嗜好品・食品に添加使用されており、高いう蝕予防効果を示すことは広く一般的に知られている。本発明の他の希少糖についても、う蝕予防甘味料としての効果が期待され、キシリトールに変わる新しい「日本発う蝕予防甘味料」となる可能性がある。 D−プシコース以外の、D−ソルボース、D−タガトース、L−フラクトース、L−プシコース、L−タガトースまたはアリトールなどでも同様の歯磨剤、口洗剤、チューインガムを作成できると推測する。 D−プシコースおよびD−ソルボースからなる群から選ばれるD体の希少糖、L−フラクトース、L−プシコースおよびL−タガトースからなる群から選ばれるL体の希少糖、または、希少糖の誘導体であるアリトールを単独または組み合わせて配合してなる非う蝕素材を配合した、抗う蝕用口腔用組成物。 歯周疾患を予防するために用いられるものである旨の表示を付したものである請求項1記載の抗う蝕用口腔用組成物。 D−プシコースおよびD−ソルボースからなる群から選ばれるD体の希少糖、L−フラクトース、L−プシコースおよびL−タガトースからなる群から選ばれるL体の希少糖、または、希少糖の誘導体であるアリトールを単独または組み合わせて配合してなる非う蝕素材を配合した、歯周疾患を予防するために用いられる医薬品もしくは医薬部外品。 D−プシコース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコースおよび/またはL−タガトースからなる、または、D−プシコース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコースおよび/またはL−タガトースにカテキン類を組み合わせてなる、抗う蝕剤を配合してなる抗う蝕用口腔用組成物。 歯周疾患を予防するために用いられるものである旨の表示を付したものである請求項4記載の抗う蝕用口腔用組成物。 D−プシコース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコースおよび/またはL−タガトースからなる、または、D−プシコース、D−ソルボース、L−フラクトース、L−プシコースおよび/またはL−タガトースにカテキン類を組み合わせてなる、抗う蝕剤を配合してなる抗う蝕用医薬品もしくは抗う蝕用医薬部外品。 歯周疾患を予防するために用いられる請求項8記載の抗う蝕用医薬品もしくは抗う蝕用医薬部外品。


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