タイトル: | 特許公報(B2)_鉛濃度測定用試薬及び鉛濃度測定方法 |
出願番号: | 2008531955 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | G01N 31/00,G01N 31/22,G01N 21/78 |
浅野 貴春 薮崎 克己 水品 恵一 JP 4964887 特許公報(B2) 20120406 2008531955 20070827 鉛濃度測定用試薬及び鉛濃度測定方法 興和株式会社 000163006 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 浅野 貴春 薮崎 克己 水品 恵一 JP 2006230217 20060828 20120704 G01N 31/00 20060101AFI20120614BHJP G01N 31/22 20060101ALI20120614BHJP G01N 21/78 20060101ALI20120614BHJP JPG01N31/00 TG01N31/22 124G01N21/78 Z G01N 31/00-31/22 JSTPlus(JDreamII) 国際公開第2006/011549(WO,A1) 特開平09−061416(JP,A) 特開2006−023132(JP,A) 特開2006−242691(JP,A) 7 JP2007000914 20070827 WO2008026313 20080306 18 20100714 草川 貴史 本発明は、亜鉛イオンが共存する試料溶液中の鉛濃度を正確に測定するための鉛濃度測定用試薬、及び該試薬を用いた鉛濃度測定方法に関する。 鉛は軟らかく加工しやすい金属であるため、日本においては1970年代まで水道管の材料として広く使用されてきた。かつて、鉛は表面に酸化被膜ができ、溶けにくいと言われていたが、1980年代以降はその微量の溶出が問題視され、水道事業体では鉛製水道管からステンレス管等に順次切り替えている。鉛には、微量でも人体に対して強い毒性があり、神経系の障害や、貧血、頭痛、食欲不振、鉛疝痛等の中毒症状を呈することが知られている。 また、鉛は鉛蓄電池やガラス・陶器類、はんだ等にも使用されている。それらが都市ごみや産業廃棄物として廃棄され、焼却プラントで焼却処理された場合、排出される焼却灰や飛灰からは高濃度の鉛が検出されることがある。一般的に、焼却プラントから排出される焼却灰や飛灰は埋め立て処理されることが多く、埋立地の周辺地域では雨水等によって溶け出した鉛イオンによる環境汚染の問題が懸念される。そのため、焼却灰や飛灰を埋め立てる前に、それらに含まれる有害廃棄物である鉛の処理を行うことが行政庁により指導されるようになり、それに関連して鉛の溶出を防ぐための溶出防止剤の開発や処理方法、溶出液に含まれる鉛濃度の測定方法等の検討がなされている。 水中の鉛濃度を簡便に測定する方法として、比色試薬の発色を利用した吸光度法による測定が知られている。この吸光度法で使用される比色試薬に、ポルフィリン化合物(非特許文献1)や、ポルフィリン導入ポリマー(特許文献1)等のポルフィリン誘導体がある。ポルフィリン誘導体は微量金属測定試薬として使用でき、焼却灰や飛灰からの溶出液等のアルカリ溶液中においても鉛濃度が測定可能であることが知られている。 しかし、焼却灰や飛灰からの溶出液等の試料溶液には、鉛の他にも比色試薬であるポルフィリン誘導体と反応する亜鉛イオンが含まれるため、亜鉛イオンが妨害成分として働き、焼却灰や飛灰からの溶出液中の正確な鉛濃度をポルフィリン誘導体を用いて測定することは困難であった。 亜鉛イオンを含む試料溶液中の鉛濃度を吸光度法により測定する場合、その前処理として、妨害成分と鉛を分離するか、又は妨害成分をマスキングする必要がある。 妨害成分である亜鉛イオンと鉛を分離する鉛濃度の測定方法としては、錯形成剤を加えると共にpHを5〜9に調整した試料溶液をイオン交換樹脂に通液して鉛をイオン交換樹脂に保持させた後、精製した水に錯形成剤を加えると共にpHを5〜9に調整した洗浄溶液を前記イオン交換樹脂に通液して妨害成分を除去し、次に該イオン交換樹脂に希塩酸又は希硝酸を通液して鉛を溶出させ、得られた溶出液中の鉛濃度を吸光光度法により測定する鉛濃度の定量方法(特許文献2)が知られている。しかしながら、妨害物質と鉛の分離には、試料溶液のイオン交換樹脂に通液等、操作が煩雑であり、簡易測定としては十分とは言えない。 妨害成分である亜鉛イオンをマスキングする方法としては、例えば、アルカリ溶液中の亜鉛と鉛を含有する試料溶液中の鉛濃度を吸光度法により測定する場合において、亜鉛のマスキング剤としてシアン化物が有効であることが知られている。しかしながら、シアン化物は、呼吸不全を引き起こす要因となる等毒性が強いため安全性の面に問題があり、使用から廃棄に至るまで扱いには十分注意する必要があり、汎用の簡易分析への利用には適していない。 また、試料溶液中に妨害成分としてカルシウムイオンが含まれている場合の吸光度法による鉛濃度の測定方法として、ポルフィリン核導入ポリマーの水溶液に、予めカルシウムイオンを添加しておく鉛濃度測定方法が報告されている(特許文献3)。この方法は、妨害物質がカルシウムイオンである場合の、吸光度法による鉛濃度の測定に対し有用であるが、妨害物質が亜鉛イオンの場合には適用できない。「第22版総合カタログ」株式会社同仁化学研究所、平成12年1月、p268〜271米国特許第6437067号公報特開平9−61416号公報WO/2006/011549号公報 従って、本発明の目的は、ポルフィリン誘導体を用いて鉛濃度を吸光度法により測定する際に、試料溶液中に亜鉛イオンが含まれている場合であっても、正確な鉛濃度を安全で簡易に測定できる鉛濃度測定用試薬及び該試薬を用いた鉛濃度測定方法を提供することにある。 本発明者らは、斯かる実状に鑑み、ポルフィリン誘導体を比色試薬として、亜鉛イオンが共存する試料溶液中の鉛濃度を吸光度法により測定する際の亜鉛イオンのマスキング剤を探索した結果、数多くのキレート剤の中で、エチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸(以下、EDDPと略す場合がある)、エチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸(以下、EDDAと略す場合がある)及び1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸(以下、DAHTAと略す場合がある)から選ばれる少なくとも一種が、他のキレート剤に比べて特に亜鉛イオンのマスキング効果が優れており、これら特定のキレート剤を添加することにより、試料溶液中に存在する亜鉛イオンの影響を受けることなく、正確な鉛濃度を安全で簡易に測定できることを見出し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、(A)ポルフィリン誘導体、並びに(B)エチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸、エチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸及び1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸から選ばれる少なくとも一種を含有する鉛濃度測定用試薬を提供するものである。 また、本発明は、上記の鉛濃度測定用試薬と試料溶液を混合し、その吸光度を測定する鉛濃度測定方法を提供するものである。 本発明の鉛濃度測定用試薬は、試料溶液中に存在する亜鉛イオンの影響を受けることなく、正確な鉛濃度を安全で簡易に測定することが可能であり、排水、廃液、焼却灰、焼却飛灰、溶融灰、電炉ダスト(鉄鋼ダスト)等の環境試料等の鉛濃度測定用試薬として有用である。各種キレート剤添加時のマスキング効果を示す図である。各種キレート剤添加時のマスキング効果を示す図である。添加EDDA濃度の変化と差スペクトルの関係を示す図である。マスキング剤濃度とピーク高の関係を示す図である。鉛・亜鉛混合溶液中での鉛濃度測定結果を示す図である。添加EDDA濃度の変化と差スペクトルの関係を示す図である。マスキング剤濃度とピーク高の関係を示す図である。鉛・亜鉛混合溶液中での鉛濃度測定結果を示す図である。簡易型鉛濃度計測装置と原子吸光の測定値の比較を示す図である。 本発明に用いられる(A)ポルフィリン誘導体としては、ポルフィリン骨格を有し、鉛イオンと反応して特定の波長の光の吸光度が変化するものが挙げられる。かかるポルフィリン誘導体には、鉛イオンと反応して特定の波長の光の吸光度が変化する限り、ウロポルフィリン、コプロポルフィリン、プロトポルフィリン等の天然ポルフィリンや、フィッシャー番号法における1〜8位及び/又はα〜δ位に置換基を有するもの、及びそれらの構造を有するポリマーが含まれる。また、ピロール環部分が還元されたクロリンやジヒドロクロリン、置換基を有するクロリンやジヒドロクロリンでもよい。 具体的なポルフィリン誘導体としては、(A1)次式(1)若しくは(2)(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表されるポルフィリン化合物をビニレン性単量体とともにラジカル共重合させてなるポルフィリン核導入ポリマー、又は(A2)次式(3)ここでR2は炭素数1〜6のアルキル基又はスルホアルキル基を示し、R3及びR4は水酸基、カルボキシル基、スルホン酸残基、リン酸残基又はトリアルキルアンモニウム基を示す)で表されるポルフィリン誘導体又はその塩が挙げられる。(A1)前記ポルフィリン核導入ポリマー 本発明の式(1)又は(2)で表されるポルフィリン化合物をビニレン性単量体とともにラジカル共重合させてなるポルフィリン核導入ポリマーは、米国特許第6437067号明細書に記載の方法で製造される。なお、式(1)中の2つのR基は、同一でも又は異なったものでもよい。Rとしては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。 ポルフィリン核導入ポリマーを構成する式(1)又は(2)で表されるポルフィリン化合物としては、例えば、式(1)のRが水素原子であるプロトポルフィリンIX、式(1)のRがメチル基であるプロトポルフィリンIXジメチルエステル及び式(2)で表される5,10,15,20−テトラキス(4−(アリロキシ)フェニル)−21H,23H−ポルフィリン等が挙げられ、これらのポルフィリン化合物は市販品として入手することができる。 ポルフィリン化合物としては、式(1)のRが水素原子であるプロトポルフィリンIXが好ましく、ポルフィリン核導入ポリマー製造に際しては、そのアルカリ金属塩、特に2ナトリウム塩を用いるのが好ましい。 ポルフィリン核導入ポリマーを構成するビニレン性単量体としては、ビニレン基を1又は2以上有する単量体が挙げられ、ビニレン基を1つ有する単量体の具体例としては、アクリルアミド、メタクリル酸、アクリル酸、5−ヘキセン酸、アリルアミン、3−ブテン酸、β−メタリルアルコール、アリルアルコール、N,N−ジメチルアクリルアミド、1−ビニルイミダゾール、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、塩化アリル、酢酸ビニル、クロトンアミド、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、トランス−1,2−ジクロロエチレン、シトラコン酸、メサコン酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、2−メチル−2−ブテン等が挙げられる。このビニレン性単量体としては、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、1−ビニルイミダゾール、酢酸ビニル等が好ましく、特にアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドが好ましい。 使用するポルフィリン化合物とビニレン性単量体との量比は、ポルフィリン化合物:ビニレン性単量体の質量比で、1:100〜1:10,000、特に1:200〜1:1,000が好ましい。 ポルフィリン化合物とビニレン性単量体とのラジカル共重合により得られるポルフィリン核導入ポリマーの分子量は特に限定されないが、鉛濃度測定の精度の点から、光散乱法による平均分子量で5万〜500万、特に10万〜100万が好ましい。 本発明で使用するポルフィリン核導入ポリマーの構成単位であるビニレン性単量体として、ビニレン基を1つ有するビニレン性単量体に加えて、ビニレン基を2以上有し架橋剤として働く化合物を併用すると、ポリマー鎖が三次元的に架橋されるため、任意の形状に成型することができるので、本発明の鉛濃度測定用試薬が液体以外の形状を取ることができる。例えば、ペースト状、シート状、フィルム状、チューブ状、ビーズ状等の設置箇所や測定系に適した任意の形状に成型することができる。 このビニレン基を2以上有し架橋剤として働く化合物としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−ビスアクリロイルシスタミン、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等が挙げられ、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−ビスアクリロイルシスタミン等が好ましい。 このビニレン基を2つ以上有し架橋剤として働く化合物は、ビニレン基を1つ有する化合物に対し、0.001〜0.4質量倍、更に0.02〜0.2質量倍含有するのが好ましい。なお、ビニレン基を2つ以上有する単量体は、単独で用いてもよい。 鉛濃度測定用試薬中の式(1)又は(2)で表されるポルフィリン核導入ポリマーの含有量は、1〜60質量%、更に、5〜50質量%、特に、10〜30質量%であるのが、試料溶液中に微量含まれる鉛濃度測定の精度の点で好ましい。(A2)前記式(3)のポルフィリン誘導体 前記式(3)中、R2で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基等が挙げられるが、メチル基が特に好ましい。また、スルホアルキル基としては、スルホエチル基、スルホプロピル基等のスルホC1−6アルキル基が挙げられる。 R3及びR4の具体例としては、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸残基(−SO3H)、リン酸残基、トリメチルアンモニウム基が挙げられる。 X1〜X4の好ましい例としては、スルホフェニル基、スルホチエニル基、トリメチルアンモニウムフェニル基、ヒドロキシフェニル基、カルボキシフェニル基、ホスホリルフェニル基、メチルピリジニウム基、スルホプロピルピリジニウム基等が挙げられる。より好ましくは、4−スルホフェニル基、4−スルホチエニル−2−イル基、4−トリメチルアンモニウムフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−カルボキシルフェニル基、4−ホスホリルフェニル基、N−メチルピリジニウム−4−イル基、N−メチルピリジニウム−3−イル基、N−スルホプロピルピリジニウム−3−イル基が挙げられる。 また、X1〜X4のうち、2個以上が前記置換基を有するのが好ましく、4個が前記置換基を有するのが特に好ましい。 式(3)の化合物の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、塩酸塩等の酸付加塩が挙げられる。 特に好ましい式(3)の化合物としては、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンテトラスルホン酸(以下、TPPSと略する場合がある)が挙げられる。 本発明の式(3)で表されるポルフィリン誘導体のうち、水溶性ポルフィリンがより好ましく、そのようなポルフィリン化合物は、微量金属の比色試薬として公知の化合物である。該ポルフィリン誘導体は、例えばピロールとベンズアルデヒドの脱水縮合と、p−クロラニルによる酸化によって得られるテトラフェニルポルフィリンのフェニル基を、濃硫酸中でスルホン化することによって製造することができる(Jonathan S.Lindsey,Irwin C.Schreiman,Henry C.Hsu,Patrick C.Kearney,and Anne M.Marguerettaz,‘‘Rothemund and Adler−Longo reactions revisited:synthesis of tetraphenylporphyrins under equilibrium conditions’’J.Org.Chem.,52,827(1987))。また、市販品として入手することも可能である。 鉛濃度測定用試薬中の式(3)で表されるポルフィリン誘導体の含有量は、0.01〜1000μmol/L、更に、0.1〜500μmol/L、特に、1〜100μmol/Lであるのが、試料溶液中に微量含まれる鉛濃度測定の精度の点で好ましい。(B)マスキング剤 本発明の鉛濃度測定用試薬において、亜鉛イオンのマスキング剤として用いられるエチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸、エチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸及び1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸はキレート剤として公知の化合物である。これらは各化学品メーカーが製造しており、市販品として入手できる。 これらを含むキレート剤は、種々の金属イオンと結合し錯体を形成する性質を利用して様々な用途に用いられてきた。例えば、繊維の染色や洗剤の洗浄力を阻害する金属イオンの封鎖、用水の軟水化、排水中の有害金属イオンの除去、有害金属の溶出防止剤、微量必須元素の吸収効率を高める肥料成分、有害金属イオンの無毒化等に使用されている。これらは通常、中性溶液中で用いられる他、用途上、金属イオン全般あるいは一部と錯形成することが求められるため、個々の金属との選択的な錯形成は重要視されない場合が多い。 また、選択性が検討されたキレート化合物であっても、灰溶出液のような高アルカリ、高塩濃度の環境下で共存した金属に対する選択性は、単成分系で得られた情報からは予想し難い。前記のキレート剤が、ポルフィリン誘導体の鉛イオンによる吸光度変化にはあまり影響を及ぼさず、亜鉛イオンを選択的にマスキングすることは全く意外であった。 本発明の鉛濃度測定用試薬における、亜鉛イオンのマスキング剤としては、特にエチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸が好ましい。 ポルフィリン核導入ポリマーを含む鉛濃度測定用試薬中のエチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸の含有量は、0.1mmol/L〜50mmol/L、特に1〜20mmol/Lが好ましい。 ポルフィリン核導入ポリマーを含む鉛濃度測定用試薬中のエチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸の含有量は、0.01mmol/L〜10mmol/L、特に0.1〜2mmol/Lが好ましい。 ポルフィリン核導入ポリマーを含む鉛濃度測定用試薬中の1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸の含有量は、0.01mmol/L〜10mmol/L、特に0.1〜4mmol/Lが好ましい。 式(3)のポルフィリン誘導体を含む鉛濃度測定用試薬中のエチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸の含有量は、1mmol/L〜500mmol/L、特に10〜100mmol/Lが好ましい。 式(3)のポルフィリン誘導体を含む鉛濃度測定用試薬中のエチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸の含有量は、0.1mmol/L〜50mmol/L、特に1〜20mmol/Lが好ましい。 式(3)のポルフィリン誘導体を含む鉛濃度測定用試薬中の1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸の含有量は、0.1mmol/L〜50mmol/L、特に1〜20mmol/Lが好ましい。 本発明の鉛濃度測定用試薬には上記成分及び水の他、本発明の効果を損なわない範囲で、通常溶液中の重金属イオンの測定に使用される任意成分を加えることができる。このような任意成分としては、pH調整剤、界面活性剤、その他の金属に対するマスキング剤等が挙げられる。また、これら成分を適宜、別々又は混合した状態で保存してもよい。 pH調整剤としては、N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸、N−シクロヘキシル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。 界面活性剤としては、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。 その他の金属に対するマスキング剤は、例えば、銅、カドミウム、カルシウム、鉄、コバルト、クロム、マグネシウム、マンガン、ニッケル等の本発明の鉛測定用試薬と鉛イオンとの反応に影響を及ぼす金属イオンのマスキング剤が挙げられる。 本発明の鉛濃度測定用試薬のpHは、6〜13が好ましく、6〜12.5がより好ましい。鉛濃度測定用試薬を用いた測定は、鉛濃度測定用試薬と試料溶液との混合液のpHが、9〜13、更に10〜12.5(25℃)で行うのが好ましい。なお、鉛濃度測定用試薬が固形状の場合は、試料溶液中に試薬成分が溶出した後のpHをいう。該混合液のpHがこの範囲外である場合は、この範囲になるように予め鉛濃度測定用試薬のpHをpH調整剤で調整するのが好ましい。 本発明の鉛濃度測定用試薬は、液体、ペースト状、シート状、フィルム状、チューブ状、ビーズ状等の形状を取ることができるが、使い易さの点で液体、シート状が好ましい。 本発明の鉛濃度測定方法は、上記鉛濃度測定用試薬と試料溶液とを混合し、その吸光度を測定することにより行われる。吸光度の測定に先立ち、当該試薬と試料溶液との混合液を加熱する等反応を十分に進行させておくことが好ましい。加熱温度は30〜90℃が好ましく、加熱時間は1〜60分が好ましい。このうち、精度と感度及びスループットの点から、加熱温度が60〜80℃、加熱時間が3〜15分が特に好ましい。 本発明の鉛濃度測定用試薬を用いて試料溶液中に含有する鉛濃度の測定は、例えば、吸光度法により標準試料を用いた検量線を用いて行われる。 吸光度計による測定における吸光波長は、350〜700nm、更に400〜500nm、特に466nmであるのが好ましい。 本発明において鉛濃度を測定する試料は、特に限定されないが、海水、河川水、水道水、工場排水、焼却灰、焼却飛灰、溶融灰、電炉ダスト(鉄鋼ダスト)あるいは土壌等の溶出液等の環境試料、食品、飲料、農林水産物、植物、薬剤、ヒト又は動物の血液、唾液、精液等の体液、腎臓、心臓、脳等の臓器、筋肉、皮膚、神経組織、毛髪、糞便等の生体試料等が挙げられる。 本発明を用いて測定される試料溶液は、これら試料の原液の他、測定のために試料を公知の手法で適宜抽出や濃縮・希釈等した抽出液、濃縮・希釈液等も含まれる。 本発明の鉛濃度測定用試薬を用いた鉛濃度測定において試料溶液中の亜鉛イオン濃度は、10mg/L以下が好ましく、5mg/L以下が特に好ましい。 以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。参考例1 ポルフィリン核導入ポリマーの合成 プロトポルフィリンIX 2ナトリウム塩91.1mg、アクリルアミド35.6gをジメチルスルホキシド(DMSO)に溶かし、全量を490mLにした。三口フラスコ内に移し、500mmol/Lのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を10mL添加した後、すみやかに封栓した。窒素雰囲気下で攪拌しながら、60℃に調整したウォーターバスに三口フラスコを浸し、重合を開始した。4時間後、得られた重合液を、沈殿剤である大量のメタノールに少しずつ滴下した。凝集・沈殿したポリマーを回収し、ポルフィリン核導入ポリマーを単離した。純水に溶解後、再度メタノールに添加し、精製した。実施例1 マスキング剤の選定 ポルフィリン核導入ポリマーを超純水に溶かし、2倍希釈した際の466nmの吸光度(ブランクを水とする)が0.7〜0.8の間になるようにした。この溶液と1mol/L塩化カルシウム溶液を64:1の割合で混合し、ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬とした。 検水として、鉛及び亜鉛をともに2.5μmol/L含み、CAPS緩衝液を用いてpH値を12に調整した、鉛・亜鉛混合溶液を用意した。 純水で10倍希釈したポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬250μL、鉛・亜鉛混合溶液250μL、及び表1に示した様々な濃度(100mM以下)の各種キレート剤溶液25μLを混和した。混和後の溶液のpHは、いずれも10〜12.5であった。75℃で5分間加熱した後、紫外可視分光光度計を用いて吸収スペクトルを測定した。同様に、希釈したポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定試薬、鉛・亜鉛混合溶液、及び純水を同じ割合で混和・加熱したときの吸収スペクトルも測定した。それぞれ参照スペクトル(金属を含まないときのスペクトル)との差をとることで、ポルフィリンと鉛及び亜鉛との錯形成に由来する吸収スペクトルの変化(差スペクトル)を得た。ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬の場合、鉛と錯形成したポルフィリンは466nm付近に、亜鉛と錯形成したポルフィリンは415nm付近に差スペクトルのピークをもつ。従って、鉛・亜鉛混合溶液を反応させた場合は、415nmと466nmの両方にピークが現れるが、一緒に混和したキレート剤によってマスクされた金属はポルフィリンと反応しないため、ピーク高が減ずる。そのため、どちらのピークが減じたかを調べることで、キレート剤のマスキング効果の選択性を評価できる。 また、水溶性ポルフィリンを用いた鉛濃度測定用試薬についても同様の評価を行った。水溶性ポルフィリンである、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィリンテトラスルホン酸・2硫酸・4H2O(以下、TPPS)10μMと塩化カルシウム4.4mMをpH12に調整したCAPS緩衝液に溶かし、水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬とした。水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬250μL、鉛・亜鉛混合溶液250μL、及び表1に示した様々な濃度(100mM以下)の各種キレート剤溶液25μLを混和した。混和後の溶液のpHは、いずれも10〜12.5であった。75℃で5分間加熱した後、紫外可視分光光度計を用いて吸収スペクトルを測定した。同様に、水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬、鉛・亜鉛混合溶液、及び純水を同じ割合で混和・加熱したときの吸収スペクトルも測定した。それぞれ参照スペクトル(金属を含まないときのスペクトル)との差をとることで、ポルフィリンと鉛及び亜鉛との錯形成に由来する吸収スペクトルの変化(差スペクトル)を得た。水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬の場合、鉛と錯形成したポルフィリンは465nm付近に、亜鉛と錯形成したポルフィリンは423nm付近に差スペクトルのピークをもつ。ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬の場合と同様に、どちらのピークが減じたかを調べることで、キレート剤のマスキング効果の選択性を評価できる。 図1に、ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬に、純水を添加したときと各キレート剤を添加したときの差スペクトルを示す。マスキング効果が現れる濃度はキレート剤によって異なるため、亜鉛又は鉛のピークに変化が生じたときの差スペクトルを示した。クラウンエーテル類(15Crown5と18Crown6)は選択性のある金属捕捉剤とされるが、水系では溶解度が乏しくマスキング効果は認められなかった。o−フェナントロリンは、中性域での亜鉛マスキング剤として知られているが、アルカリ域ではマスキング効果が認められず、むしろ亜鉛のピークの増加に寄与した。DAHTA、EDDA、EDDPを除くその他のキレート剤は、亜鉛だけでなく鉛のピークも減じ、亜鉛と鉛の両方をマスクしたのに対し、DAHTA、EDDA、EDDPを添加した場合は、亜鉛のピークのみが大きく減少し、亜鉛を選択的にマスクすることが示された。 図2に、水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬に、純水を添加したときと各キレート剤を添加したときの差スペクトルを示す。クラウンエーテル類及びNTPには、マスキング効果は認められなかった。o−フェナントロリン、イミダゾールは、亜鉛のピークの増加に寄与し、マスキング剤としての効果は認められなかった。DAHTA、EDDA、EDDPを除くその他のキレート剤は、亜鉛だけでなく鉛のピークも減じ、亜鉛と鉛の両方をマスクしたのに対し、DAHTA、EDDA、EDDPを添加した場合は、亜鉛のピークのみが大きく減少し、亜鉛を選択的にマスクすることが示された。実施例2 ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬の亜鉛マスキング剤の最適な濃度の検討 DAHTA、EDDA、EDDPは、鉛・亜鉛混合溶液中で亜鉛と選択的に結合したが、極端に高濃度添加した場合や測定対象が鉛のみを含む溶液の場合は、亜鉛だけでなく鉛もマスクしてしまうことが予想される。そこで、濃度を変えたDAHTA、EDDA、EDDPを含む本発明ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬を用意し、簡易型鉛濃度計測装置を用いて鉛のみを含む溶液の測定を行った。 簡易型鉛濃度計測装置は、小型分光光度計とセルを加熱するヒーターを内蔵し、セルが装置にセットされた直後の吸収スペクトルと5分間の加熱(75℃)によってセル内の溶液中の反応を促進させた後の吸収スペクトルを取得することができる。この時間差スペクトルには鉛濃度に応じたピークが466nmに観察され、濃度既知の鉛溶液を反応させた際の時間差スペクトルと比較することで鉛濃度を算出する。なおこれらの計算は、専用ソフトウエアによって、吸収スペクトルに適当な規格化処理が施された上で実行される。 マスキング剤の種類及び濃度を変えた本発明ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬(pH6〜12.5)500μLとCAPS緩衝液(pH12)に溶かした0.3mg/L鉛水溶液500μLを混合した。混和後の溶液のpHは、いずれも10〜12.5であった。簡易型鉛濃度計測装置にセットし測定を行った。 図3に、例としてEDDAの濃度を変えて得られた差スペクトルを示す。EDDAの濃度が増すに従って鉛に由来するピーク高が減少した。DAHTA、EDDA、EDDPの濃度を変えたときのピーク高の推移を図4に示す。いずれもマスキング剤の濃度に応じてピーク高が減少した。このことから、マスキング剤を不要に高濃度添加することはできず、許容可能な測定感度を考慮して適切な量を添加する必要があることが示された。また、EDDPは高濃度添加してもピーク高の減少が少ないこともわかった。この場合、DAHTAは2mM、EDDAは4mM、EDDPは10mM程度が添加可能な上限濃度と判断した。なお、サンプル側に亜鉛が含まれていることが明かな場合は、更に高濃度のマスキング剤を含ませて対応することができる。実施例3 マスキング剤を含むポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬を用いた鉛・亜鉛混合溶液中の鉛濃度の測定(1)鉛濃度測定用試薬の調整 ポルフィリン核導入ポリマーを超純水に溶かし、2倍希釈した際の466nmの吸光度(ブランクを水とする)が0.7〜0.8の間になるようにした。この溶液と1mol/L塩化カルシウム溶液を65:1の割合で混合した。更に、この溶液と15mmol/L DAHTA水溶液を10:1(容量比)で混合し、本発明ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬(pH10)を調整した。同様に、6mmol/L EDDA水溶液を10:1(容量比)で混合した本発明ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬(pH10)も調整した。同じく、50mmol/L EDDP水溶液を10:1(容量比)で混合した本発明ポルフィリンポリマー鉛濃度測定用試薬を調整した(pH8)。また、純水を10:1(容量比)で混合した比較用ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬(pH5.4)も用意した。(2)鉛・亜鉛混合溶液の調整 CAPS緩衝液を含むアルカリ水溶液(pH12)に硫酸亜鉛を溶かし、濃度が異なる亜鉛水溶液を用意した。この亜鉛水溶液に、約50mg/Lの鉛水溶液を全量の1質量%添加することにより、鉛濃度は同じ(0.52mg/L)で亜鉛濃度(0〜約10mg/L)が異なるアルカリ性の鉛・亜鉛混合溶液を調整し、検水とした。(3)測定 本発明ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬を用いた検水中の鉛濃度測定には、実施例2と同様に簡易型鉛濃度計測装置を用いた。本発明ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬500μLと検水500μLを混合した。混和後の溶液のpHは、いずれも10〜12.5であった。簡易型鉛濃度計測装置にセットして鉛濃度を測定した。同時に、同じ検水中の鉛及び亜鉛濃度を原子吸光光度計を用いて測定した。(4)結果 図5に、鉛・亜鉛混合溶液の簡易型鉛濃度計測装置による測定結果を示す。横軸は、原子吸光光度計によって測定された共存する亜鉛濃度とした。マスキング剤を含まない比較用ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬を用いた場合は、共存する亜鉛濃度が増えるに従って、算出される鉛濃度が急激に低下した。そのため、共存する亜鉛が低濃度であっても鉛濃度を正しく測定することができなかった。一方、DAHTA、EDDA、EDDPといったマスキング剤を含む鉛濃度測定用試薬を用いた場合は、亜鉛が共存しても、算出される鉛濃度は本来の値を保持する傾向が見られた。仮に、10%まで測定値が低く算出されることを許容できるとすると、比較用ポルフィリンポリマー鉛濃度測定用試薬を用いた場合、許容できる共存亜鉛濃度は約1mg/L以下であるのに対し、マスキング剤を含むポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬を用いた場合は、5mg/L程度まで亜鉛が共存しても鉛濃度の測定が可能であった。実施例4 水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬の亜鉛マスキング剤の最適な濃度の検討 ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬と同様、水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬においても、DAHTA、EDDA、EDDPの過剰な添加は、鉛をマスクしてしまうことが予想される。 CAPS緩衝溶液(pH12)に、30μMのTPPSと4.4mMの塩化カルシウム、及び濃度を変えたマスキング剤(DAHTA、EDDA、EDDPのうちの一種)を含む本発明水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬(pH6〜12.5)を用意した。 本発明水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬250μLとCAPS緩衝液(pH12)に溶かした0.3mg/L鉛水溶液250μLを混合した。混和後のpHは、いずれも10〜12.5であった。75℃で5分間加熱した後の吸収スペクトルを紫外・可視分光光度計を用いて測定した。金属を含まない溶液を検水としたときの吸収スペクトルも測定し、差スペクトルを得た。 図6に、例としてDAHTAの濃度を変えて得られた差スペクトルを示す。DAHTAの濃度が増すに従って鉛に由来するピーク高が減少した。DAHTA、EDDA、EDDPの濃度を変えたときのピーク高の推移を図7に示す。いずれもマスキング剤の濃度に応じてピーク高が減少した。このことから、マスキング剤を不要に高濃度添加することはできず、許容可能な測定感度を考慮して適切な量を添加する必要があることが示された。また、EDDPは高濃度添加してもピーク高の減少が少ないこともわかった。この場合、DAHTAとEDDAは20mM、EDDPは100mM程度が添加可能な上限濃度と判断した。なお、サンプル側に亜鉛が含まれていることが明かな場合は、更に高濃度のマスキング剤を含ませて対応することができる。実施例5 マスキング剤を含む水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬を用いた鉛・亜鉛混合溶液中の鉛濃度の測定(1)水溶性ポルフィリン鉛濃度測定用試薬の調整 水溶性ポルフィリンTPPSを30μM、塩化カルシウムを4.4mM、DAHTAを10mM含むCAPS緩衝液(pH12)を用意し、本発明水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬とした。同様に、TPPSを30μM、塩化カルシウムを4.4mM、EDDAを10mM含むCAPS緩衝液(pH12)を用意し、本発明水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬とした。同じく、水溶性ポルフィリンTPPSを30μM、塩化カルシウムを4.4mM、EDDPを40mM含むCAPS緩衝液(pH12)を用意し、本発明水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬とした。また、マスキング剤を含まない比較用水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬も用意した。(2)鉛・亜鉛混合溶液の調整 CAPS緩衝液を含むアルカリ水溶液に硫酸亜鉛を溶かし、濃度が異なる亜鉛水溶液を用意した。この亜鉛水溶液に、約50mg/Lの鉛水溶液を全量の1質量%添加することにより、鉛濃度は同じ(0.46mg/L)で亜鉛濃度(0〜約10mg/L)が異なるアルカリ性の鉛・亜鉛混合溶液を調整し、検水とした。(3)測定 サンプリングチューブ内で、本発明水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬250μLと検水250μLを混合した。混和後の溶液のpHは、いずれも10〜12.5であった。75℃で5分間加熱した。混合液を1cm各キュベットに移し、分光光度計を用いて吸収スペクトルを測定した。このスペクトルと、金属を含まない水溶液と反応させた際の吸収スペクトルとの差分をとり、差スペクトルを得た。466nmの値を、濃度既知検水より得た検量線に代入することで、鉛濃度を算出した。同時に、同じ検水中の鉛濃度及び亜鉛濃度を原子吸光光度計を用いて測定した。(4)結果 図8に、鉛・亜鉛混合溶液の測定結果を示す。横軸は、原子吸光光度計によって測定された共存する亜鉛濃度とした。マスキング剤を含まない比較用水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬を用いた場合は、共存する亜鉛濃度が増えるに従って、算出される鉛濃度が急激に低下した。そのため、共存する亜鉛が低濃度であっても鉛濃度を正しく測定することができなかった。一方、DAHTA、EDDA、EDDPを含む水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬を用いた場合は、亜鉛が共存しても、算出される鉛濃度は本来の値を保持する傾向が見られ、とくにDAHTAとEDDPはその効果が大きかった。仮に、10%まで測定値が低く算出されることを許容できるとすると、比較用水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬を用いた場合、許容できる共存亜鉛濃度は約1mg/L以下であるのに対し、DAHTA又はEDDPを含む水溶性ポルフィリン含有鉛濃度測定用試薬を用いた場合は、10mg/L程度までの亜鉛が共存していても鉛濃度の測定が可能であった。実施例6 亜鉛マスキング剤を含むポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定を用いた灰溶出液の測定(1)鉛濃度測定用試薬の調整 ポルフィリン各導入ポリマー及び13mM 塩化カルシウム、1.8mM EDDPを含む水溶液を用意し、亜鉛マスキング剤を含むポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬(pH8)とした。ポルフィリン核導入ポリマーの量は、純水で2倍希釈した際の吸光度が0.7〜0.8の間になるように設定した。(2)試料の用意 各地の焼却場から焼却灰を採取し、環境省告示第13号試験方法に従って、灰と蒸留水を1:10(重量比)で混合し、6時間振とうした後、ろ過することにより灰溶出液を得た。これらの灰溶出液のうち、簡易型鉛濃度測定装置で原液のまま測定できるもの(鉛濃度が1mg/L以下のもの)とpH値が12以上の高アルカリ溶液であるもの(26サンプル)を選び、測定対象とした。(3)測定方法 本発明亜鉛マスキング剤を含むポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬と簡易型鉛濃度計測装置を用いて灰溶出液中の鉛濃度を測定した。ポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬と灰溶出液の混合溶液のpHは、いずれも10〜12.5であった。このとき同時に、原子吸光による鉛濃度測定を行った。比較のため、同じサンプルについて、マスキング剤を含まないポルフィリンポリマー含有鉛濃度測定用試薬を用いた測定も行った。(4)結果 図9に、簡易型鉛濃度計測装置による測定値と原子吸光による測定値の相関を示す。全体的に原子吸光より低めの値が算出される傾向が認められたが、マスキング剤を含まない場合と比べてマスキング剤を添加した場合の方が、原子吸光による測定値に近づく傾向が認められた。 (A)ポルフィリン誘導体、並びに(B)エチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸、エチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸及び1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸から選ばれる少なくとも一種を含有する鉛濃度測定用試薬。 (A)ポルフィリン誘導体が、(A1)次式(1)若しくは(2)(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を示す)で表されるポルフィリン化合物をビニレン性単量体とともにラジカル共重合させてなるポルフィリン核導入ポリマー、又は(A2)次式(3)ここでR2は炭素数1〜6のアルキル基又はスルホアルキル基を示し、R3及びR4は水酸基、カルボキシル基、スルホン酸残基、リン酸残基又はトリアルキルアンモニウム基を示す)で表されるポルフィリン誘導体又はその塩である、請求項1記載の鉛濃度測定用試薬。 (B)成分が、1〜100mmol/Lのエチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸、0.1〜20mmol/Lのエチレンジアミン−N,N’−ジ酢酸及び0.1〜20mmol/Lの1,6−ジアミノヘキサン−N,N,N’,N’−テトラ酢酸から選ばれる少なくとも一種を含有するものである請求項1又は2記載の鉛濃度測定用試薬。 (B)成分が、エチレンジアミン−N,N’−ジプロピオン酸である請求項1〜3のいずれか1項記載の鉛濃度測定用試薬。 pHが6〜13.0である請求項1〜4のいずれか1項記載の鉛濃度測定用試薬。 請求項1〜5のいずれか1項記載の鉛濃度測定用試薬と試料溶液を混合し、その吸光度を測定する鉛濃度測定方法。 鉛濃度測定用試薬と試料溶液の混合液のpHが9〜13.0である請求項6に記載の鉛濃度測定方法。