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タイトル:特許公報(B2)_内腔指向性タンパク質を発現する色素体形質転換植物
出願番号:2008530525
年次:2012
IPC分類:C12N 15/09,C12N 5/10,A01H 5/00,C12P 21/02,A01H 1/00,C07K 14/415


特許情報キャッシュ

テイソ−ルクル,ギスレーヌ カナール,エレーヌ デユバル,マニユエル JP 5086999 特許公報(B2) 20120914 2008530525 20060914 内腔指向性タンパク質を発現する色素体形質転換植物 バイエル・クロップサイエンス・アーゲー 507203353 BAYER CROPSCIENCE AG 川口 義雄 100062007 大崎 勝真 100103920 坪倉 道明 100124855 テイソ−ルクル,ギスレーヌ カナール,エレーヌ デユバル,マニユエル EP 05356163.5 20050916 US 60/718,931 20050920 20121128 C12N 15/09 20060101AFI20121108BHJP C12N 5/10 20060101ALI20121108BHJP A01H 5/00 20060101ALI20121108BHJP C12P 21/02 20060101ALI20121108BHJP A01H 1/00 20060101ALI20121108BHJP C07K 14/415 20060101ALN20121108BHJP JPC12N15/00 AC12N5/00 103A01H5/00 AC12P21/02 CA01H1/00 AC07K14/415 C12N 15/09 A01H 1/00 A01H 5/00 C12N 5/10 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq PubMed CiNii 特表2002−520019(JP,A) HENRY RALPH,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1994年 4月 8日,V269 N14,P10189-10192 WESTERLUND ISABELLE,PROTEIN SCIENCE,2003年10月,V12 N10,P2360-2366 The Journal of Biological Chemistry,1999年,Vol. 274, No. 7,pp. 4059-4066 The Journal of Cell Biology,1994年,Vol. 126, No. 2,pp. 365-374 14 EP2006066345 20060914 WO2007031547 20070322 2009507507 20090226 18 20090507 太田 雄三 本発明は、色素体形質転換(transplastomic;プラストーム形質転換))植物細胞のチラコイド内腔組換えタンパク質の発現のための構築物および方法に関する。 植物色素体(葉緑体、アミロプラスト、エチオプラスト、有色体など)は、プロ色素体として公知の共通の前駆体に由来し、アミノ酸、複合糖質、脂肪酸および色素のような重要な化合物の産生をもたらす。一般に、植物細胞は、単コピーおよび重複DNAセグメントを含有する小さな120〜160キロベースの環状色素体ゲノムの500〜10,000コピーを含有する。したがって、非常に高レベルの外来遺伝子発現および全可溶性細胞タンパク質の40%までの範囲の組換えタンパク質の蓄積をもたらしうる関心のある特定の遺伝子の20,000コピーまでを含有するよう植物細胞を操作することが可能である(De Cosaら,2001,Nat.Biotechnol.19,71−74)。さらに、葉緑体トランスジェニック系統においては、核トランスジェニック植物より169倍高い転写産物の蓄積が認められるにもかかわらず、遺伝子サイレンシングは報告されていない(Leeら,2003,Mol.Breeding,11,1−13)。また、ほとんどの植物の色素体は母系遺伝する。その結果、核内で発現される異種遺伝子とは異なり、色素体内で発現される異種遺伝子は花粉伝播しない。したがって、これは環境におけるトランスジーン(導入遺伝子)の拡散および隣接植物へのその伝播のリスクを低減する。 葉緑体は、3つの異なる可溶性相を含む構造上複雑な細胞小器官である。葉緑体は、膜間腔を取り囲む二重の包膜で包まれている。主要な可溶性相はストロマであり、これは炭素固定、アミノ酸合成および多数の他の経路の場となる。主要な膜は、広範な相互連結性チラコイドネットワークであり、この部位において光が捕捉され、ATPが合成される。チラコイド膜は第3の可溶性相(チラコイド内腔)を封入しており、これは多数の外因性光合成タンパク質および他の多数のものを収容している(C.Robinsonら,2001,Traffic 2:245−251)。 該細胞小器官においては少数の葉緑体タンパク質がコードされ合成されるに過ぎない。ほとんどは核内でコードされ、細胞質ゾルにおいて前駆体として合成され、翻訳後に葉緑体小区画の1つへ輸入される。これは特異的細胞ソーティングシグナルを要し、これは、横断される必要がありうる異なる膜系の存在により、特に複雑化していることがある。 タンパク質を葉緑体のチラコイド内腔へ指向させるための2つの異なる分泌経路が特徴づけされている。第1の経路は、細菌におけるSecYEG輸出メカニズムに関連したSec依存性経路である。第2の経路は、トランジット(transit)ペプチドにおける2つの保存された連続的アルギニンにより特徴づけられるpH依存性メカニズム[Tat(二重アルギニントランスロカーゼ)経路]である。Sec経路により該内腔へ指向するタンパク質は一般に、折り畳まれていない状態で移動し、一方、Tat経路により輸入されるタンパク質は、折り畳まれた状態で移動しうる。いずれの経路で内腔へ輸入されるタンパク質も、該トランジットペプチドのカルボキシル近位部分を除去するチラコイドプロセシングプロテアーゼによりプロセシングされる(C.Robinsonら,traffic 2001,2:245−251)。 葉緑体のチラコイド内腔は、それが酸化安定性を増強する点およびプロテアーゼにおけるその特有の含有量の点で或る組換えタンパク質の蓄積に最適となりうる植物細胞区画である(Z.Adamsら,TRENDS in Plant science,vol 7 N°10,2002)。それにもかかわらず、組換えタンパク質の指向化および蓄積に関してはほとんど注目されてこなかった。 米国特許第6,512,162号において、融合petA::アプロチニンタンパク質を植物細胞チラコイド膜へ指向化させるために、アプロチニンコード配列がpetA遺伝子に融合されている。PetAは、葉緑体チラコイド膜における膜貫通配置、チラコイド空間内のN末端領域およびストロマにおける15アミノ酸のC末端配列を有するポリペプチドとして報告されているシトクロムf(petA)タンパク質をコードする葉緑体ゲノムからの遺伝子である(SJ.Rothsteinら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol 82 pp 7955−7959,1985)。したがって、アプロチニンコード配列がシトクロムf(petA)のコード配列の3’末端に連結された融合petA::アプロチニンタンパク質はアプロチニンをストロマ内へ指向するはずである。 したがって、関心のあるペプチドを葉緑体のチラコイド内腔内へ明確かつ確実に指向させる方法および手段が尚も必要とされている。 本発明は、核コード化タンパク質由来の内腔指向性シグナル配列を使用して、葉緑体ゲノム内に組込まれたトランスジーンによりコードされる組換えタンパク質を葉緑体のチラコイド内腔へ指向させるのに有用な核酸配列を初めて提供するものである。 そのような方法は、酸化還元特性、プロテアーゼ含有量およびフォールディング(折り畳み)活性の点で特有の特性を有する細胞区画内に大量の組換えタンパク質を蓄積させるために葉緑体ゲノム内に組込まれたトランスジーンの高レベル発現を利用するものである。 また、この方法により、植物葉緑体において非メチオニンN末端を有する組換えタンパク質を製造することが可能である。 本発明の主題は、転写方向に機能的に互いに連結された、a)植物色素体において機能的であるプロモーター、b)c)の核酸配列に翻訳的に融合した核コード化タンパク質からのメチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列、c)ペプチドをコードする異種核酸配列、d)場合によって、植物細胞の色素体において活性であるターミネーターを含んでなるキメラ遺伝子である。 葉緑体チラコイド内腔区画へ指向される核コード化タンパク質は、ストロマ指向性シグナルペプチドと内腔指向性シグナルペプチドとから構成される特徴的な二成分トランジットペプチドを有する。ストロマ指向化情報は該トランジットペプチドのアミノ近位部分に存在する。内腔指向性シグナルペプチドは該トランジットペプチドのカルボキシル近位部分に存在し、該内腔へ指向させるための情報の全てを含有する。内腔指向性化シグナルペプチドは細菌シグナルペプチドに対して強い類似性を示し、荷電N末端ドメイン、疎水性コアおよびより極性のC末端ドメイン(これは末端切断部位に対して−3および−1の位置の短鎖残基で終結する)に分けられうる(von Heijneら,Eur.J.Biochem.80,535−545,1989)。 内腔指向性シグナルペプチドを核コード化タンパク質から該タンパク質のアミノ酸配列または対応遺伝子の核酸配列に基づいて推定することは当業者によく知られている。 非限定的な一例として、SignalP(シグナルP)(Nielsenら,Int.J.Neural Syst.8:581−599,1997)は、内腔タンパク質の内腔指向性シグナルペプチドおよび二成分トランジットペプチドを推定するための適当な手段である。行うもう1つの方法は、核コード化タンパク質の細胞内位置の大規模な推定を可能にするソフトウェアTargetP(Emanuelssonら,J Mol Biol 300:1005−1016,2000)を使用すること、およびTargetPにより推定された葉緑体タンパク質を二重(twin)アルギニンモチーフに関して手動検索により研究することである(Kieselbachら,Photosynthesis research,78:249−264,2003)。 高等植物葉緑体のプロテオミクスにおける最近の研究は、本発明において潜在的に使用可能な内腔指向性シグナルペプチドを有する多数の核コード化内腔タンパク質の同定を達成している(Kieselbachら,FEBS LETT 480:271−276,2000;Peltierら,Plant Cell 12:319−341,2000;Brickerら,Biochim.Biophys Acta 1503:350−356,2001)。アラビドプシス(Arabidopsis)からの約80個のタンパク質ならびにホウレンソウおよびエンドウからの相同タンパク質がKieselbachら,Photosynthesis research,78:249−264,2003により報告されている。特に、この刊行物(これを参照により本明細書に組み入れることとする)の表2は、アクセッション番号により特定された、葉緑体内腔からの85個のタンパク質を開示している。また、イネゲノムの最近公開されたドラフト(draft)形態(Goffら,Science 296:92−100,2002)は、本発明において使用されうる適当な内腔指向性シグナルペプチド源である。 色素体における通常の翻訳はメチオニンから開始されることが当業者によく知られている。核コード化タンパク質からの内腔指向性シグナルペプチドはN末端アミノ酸としてメチオニンを有する又は有さない可能性がある。本発明においては、メチオニンをコードするATG翻訳開始コドンは、内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸分子の5’末端においてインフレームで融合しているまたはそのような内腔指向性シグナルペプチドがメチオニンから開始しない場合にはN末端アミノ酸により置換されている。 内腔指向性シグナルペプチドをコートする核酸分子は、例えば植物由来のゲノムDNAまたはDNAライブラリーから単離されうる。あるいは、それらは組換えDNA技術(例えば、PCR)または化学合成により製造されうる。そのような核酸分子の特定および単離は、本発明の分子またはこれらの分子の一部を使用することにより、あるいは場合によってはこれらの分子の逆相補鎖を例えば標準的な方法によるハイブリド形成により行うことが可能である(例えば、Sambrookら,1989,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を参照されたい)。本発明のメチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドは、当業者によく知られた技術、特に、Sambrookら,1989,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,Nolan C編,New Yyork:Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載されているような方法を用いて、核コード化タンパク質から入手しうる。 核コード化タンパク質は、2つの異なる分泌経路によりチラコイド膜を横切って葉緑体チラコイド内腔区画内へ指向されうる。第1の経路はSec依存性経路であり、第2の経路はTat経路である(Robinsonら,Plant Mol Biol 38,209−221,1998;Clineら,Annu.Rev.Cell dev.Biol.12,1−26,1996)。本発明者らは、Sec依存性経路を利用して核コード化タンパク質から生じる又はTat経路を利用して核コード化タンパク質から生じる内腔指向性シグナルペプチドが本発明に適していることを示した。 したがって、本発明は、内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列が、チラコイド膜を横切る移動のためにSec依存性経路またはTat経路を利用する核コード化タンパク質に由来する、前記のキメラ遺伝子に関する。 本発明の1つの実施形態においては、メチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列は、a)配列番号2または4に示すアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸分子、b)配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、95%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドをコードする核酸分子、c)配列番号1または3に示すヌクレオチド配列を含む核酸分子、d)a)またはc)に記載の核酸配列に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、80%または90%の同一性を有する核酸配列を有する核酸分子、e)遺伝暗号の縮重によりa)、b)、c)またはd)に記載の核酸分子の配列から逸脱したヌクレオチド配列を有する核酸分子、ならびにf)a)、b)、c)、d)またはe)に記載の核酸分子の断片、対立遺伝子変異体および/または誘導体に相当する核酸分子よりなる群から選ばれる。 本発明において、「同一性」なる語は、%で表された、他のタンパク質/核酸のアミノ酸/ヌクレオチドと一致するアミノ酸/ヌクレオチドの数を意味すると理解されるべきである。同一性は、好ましくは、コンピュータープログラムの助けにより配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4を他のタンパク質/核酸と比較することにより決定される。互いに比較される配列が、異なる長さを有する場合には、長いほうの配列と共通の短いほうの配列を有するアミノ酸の数が同一性の比率を決定するよう、同一性が決定されるべきである。好ましくは、同一性は、よく知られており公に利用可能であるコンピュータープログラムClustalW(Thompsonら,Nucleic Acids Research 22(1994),4673−4680)により決定される。ClustalWは、Julie Thompson(Thompson@EMBL−Heidelberg.DE)およびToby Gibson(Gibson@EMBL−Heidelberg.DE)、European Molecular Biology Laboratory,Meyerhofstrasse 1,D 69117 Heidelberg,Germanyにより公に利用可能なものにされている。ClustalWは、IGBMC(Institut de Genetique et de Biologie Moleculaire et Cellulaire,B.P.163,67404 Illkirch Cedex,France;ftp://ftp−igbmc.u−strasbg.fr/pub/)およびEBI(ftp://ftp.ebi.ac.uk/pub/software/)を含む種々のインターネットサイトから、ならびにEBI(European Bio informatics Institute,Wellcome Trust Genome Campus,Hinxton,Cambridge CB10 1SD,UK)の全てのミラーインターネットサイトもダウンロード可能である。好ましくは、本発明のタンパク質と他のタンパク質との間の同一性を決定するためには、ClustalWコンピュータープログラムのVersion 1.8を使用する。それを行う際には、以下のパラメータを設定しなければならない:KTUPLE=1,TOPDIAG=5,WINDO W=5,PAIRGAP=3,GAPOPEN=10,GAPEXTEND=0.05,GAPDIST=8,MAXDIV=40,MATRIX=GONNET,ENDGAPS(OFF),NOPGAP,NOHGAP。好ましくは、例えば本発明の核酸分子のヌクレオチド配列と他の核酸分子のヌクレオチド配列との間の同一性を決定するためには、ClustalWコンピュータープログラムのVersion 1.8を使用する。それを行う際には、以下のパラメータを設定しなければならない:KTUPLE=2,TOPDIAGS=4,PAIRGAP=5,DNAMATPJX:IUB,GAPOPEN=10,GAPEXT=5,MAXDIV=40,TRANSITIONS:unweighted。 本発明において、「機能的に互いに連結された」または「機能的に連結された」なる語は、成分キメラ遺伝子の特定されている要素が、コード配列の発現を可能にする単位として機能するよう互いに連結されていることを意味する。例えば、プロモーターがコード配列の発現を促進しうる場合、プロモーターはコード配列に機能的に連結されている、と表現される。本発明において、「機能的に互いに連結された」なる語は、プロモーターがコード配列に直接的には連結されていないポリシストロン配置の場合を包含する。 本発明のキメラ遺伝子は、当業者によく知られた技術、特にSambrookら,1989,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,Nolan C編,New york:Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されているような方法を用いて、種々の成分から構築されうる。厳密にどの調節要素を該キメラ遺伝子に含有させるかは、それを機能させようとする植物および色素体のタイプに左右されるであろう。当業者であれば、どの調節要素が機能し、与えられた植物体内へのタンパク質の産生を向上させうるかを決定しうるであろう。一例として、該遺伝子の上流にシャイン・ダルガルノ(SD)コンセンサス配列GGAGGが配置されうる。その代わりに又はそれに加えて、プロモーターと該遺伝子との間に5’非翻訳領域(UTR)が挿入されうる(Staub J.M.およびMaliga P.,1993,EMBO J.12,601−606)。より高いレベルのトランスジーンの色素体内発現には5’非翻訳領域(5’UTR)および3’非翻訳領域(3’UTR)調節シグナルの使用が一般に必要であると当業者により認識されている(De Cosa B.,Moar W.,Lee S.B.,Miller M.およびDaniell H.,2001,Nat.Biotechnol.19,71−74)。可能な5’UTRおよび3’UTRは当業者によく知られている。一例として、psbA遺伝子のプロモーター(Genbank Z00044のヌクレオチド1596−1819)は内因性5’UTRを含む。16SリボソームオペロンPrrnのプロモーターがrbcL遺伝子のリボソーム結合部位領域(5’UTR rbcL)に結合されうる。 植物細胞の色素体において機能的であるプロモーターとしては特に、例えば、PSIIのD1ポリペプチドをコードするpsbA遺伝子(Staubら,1993 EMBO Journal 12(2):601−606)、およびリボソームRNAオペロンを調節する構成的Prrnプロモーター(Staubら,1992 Plant Cell 4:39−45)が挙げられうる。原則として、色素体(plastomic)植物遺伝子または細菌遺伝子から得られる任意のプロモーターが機能しうるであろう。所望の発現様式(構成的または誘導性)を得るためには、入手可能なプロモーターのいずれを選択すべきかが、当業者により認識されるであろう。 本発明に好適なプロモーターは、リボソーム結合部位を与えるようrbcL遺伝子の5’非翻訳配列の一部に連結された、タバコのPrrnプロモーターである(Svabら,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.90:913−917)。 もう1つの好適なプロモーターは、PSIIのD1ポリペプチドをコードする、psbA遺伝子の光依存性プロモーターである(Staub J.M.およびMaliga P.,1993,EMBO J.12,601−606)。 植物細胞色素体において活性であるターミネーターとしては特に、例えば、psbA遺伝子、rbcL遺伝子(RuBisCOの大サブユニットをコードする)およびrps16遺伝子(タバコリボソームタンパク質をコードする)のターミネーターが挙げられうるであろう(Shinozakiら,1986,EMBO J.5:2043−2049;Staub J.M.およびMaliga P.,1993,EMBO J.12,601−606)。 本発明においては、「翻訳的に融合した」なる語は、翻訳されると単一のポリペプチドをコードする単一のメッセンジャーRNAの産生を転写の際にもたらす単一のオープンリーディングフレームを核酸配列が表すよう核酸配列が融合していることを意味するものとする。 本発明においては、核コード化タンパク質からのメチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列は異種核酸配列に翻訳的に融合しており、このことは、この第2の核酸配列が、内腔指向性シグナルペプチドをコードする第1の核酸配列に天然では融合していないことを意味する。 本発明の1つの実施形態においては、内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列に融合したペプチドをコードする異種核酸配列は真核生物に由来する。 本発明のもう1つの実施形態においては、メチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドおよび/または異種核酸分子をコードする核酸配列は、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)の葉緑体コドン使用頻度に基づいて葉緑体発現が最適化されるよう設計される。ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)の葉緑体コドン使用頻度はwww.Kazusa.or.jp/codonで入手可能であり、コドンの分布は葉緑体コドン使用頻度表(Nakamuraら,2000,Nucl.Acids Res.28,292)における頻度に従いコード配列全体にわたって各アミノ酸残基に無作為に帰属される。 本発明の更にもう1つの実施形態においては、ペプチドをコードする異種核酸配列は、非メチオニンN末端を有するペプチドをコードする。 ペプチドをコードする異種核酸分子は、例えば真核生物または他の起源から得られたゲノムDNAまたはDNAライブラリーから単離されうる。あるいは、それらは組換えDNA技術(例えば、PCR)または化学合成により製造されうる。このような核酸分子の特定および単離は、本発明の分子またはこれらの分子の一部を使用することにより、あるいは場合によってはこれらの分子の逆相補鎖を例えば標準的な方法によるハイブリダイゼーションにより行うことが可能である(例えば、Sambrookら,1989,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.を参照されたい)。 本発明の更にもう1つの実施形態において、ペプチドをコードする異種核酸配列はアプロチニンタンパク質をコードする。アプロチニンは、ウシの器官または組織、例えば膵臓、肺または肝臓から抽出されうるプロテアーゼインヒビターである。アプロチニンは、トリプシン、キモトリプシン、プラスミンおよびカリクレインを含む種々のセリンプロテアーゼを阻害することが公知であり、心筋梗塞、ショック症候群、高フィブリン溶解性および急性膵炎の治療ならびに心臓手術に関連した出血の軽減のために治療的に使用される(Bidstrupら,1989,Cardiovasc Surg.44:640−645)。アプロチニンの核酸およびアミノ酸配列はSwiss−Prot/TrEMBLデータベース(Swiss Institute of BioinformaticsおよびEMBL支所−European Bioinformatics Institute;http://us.expasy.org/sprotの共同)にアクセッション番号P00974として見出されうる。 本発明においては、アプロチニンタンパク質は配列番号6として特定される。該異種核酸配列が、アプロチニンタンパク質に匹敵する生物活性を示すアプロチニンタンパク質の断片を含有するペプチドをコードする、または配列番号6に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、95%もしくは99%の同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドをコードする、本発明のキメラ遺伝子は、本発明のもう1つの実施形態である。 本発明の他の実施形態においては、該異種核酸配列は、配列番号5の配列に対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%または少なくとも75%の同一性を有する核酸配列を有する。 他の分子と相同でありこれらの分子の誘導体を構成する該核酸分子または該ポリペプチドは一般には、同じ生物学的機能を示し修飾を含有するこれらの分子の変異体である。この目的には、修飾は、酵素活性に関与しないアミノ酸残基上に存在しうる。 本発明においては、該核酸分子またはそれによりコードされるポリペプチドの生物学的機能は、例えばNα−ベンゾイル−D,L−アルギニン−p−ニトロアニリド塩酸塩アッセイ(Lavensら,1993,J.Immunol.Methods,166(1),93−102;Sigma−Aldrich,product N°B 4875;該製造業者のマニュアルに従うアッセイ)のようなインビトロ試験を用いて、該ポリペプチドまたは該核酸分子によりコードされるポリペプチドがセリンプロテアーゼを阻害する能力により評価されうる。変異、例えば突然変異は天然様態で生じることが可能であり、あるいは突然変異誘発により導入されることが可能である。また、該変異体は、合成により作製された配列でありうる。対立遺伝子変異体は、天然に存在する変異体、および合成により作製された変異体または組換えDNA技術により得られた変異体でありうる。遺伝暗号の縮重により本発明の核酸分子から逸脱した核酸分子は誘導体の特別の形態を構成する。 遺伝暗号の縮重により天然分子のヌクレオチド配列とは異なる配列を有する、アプロチニンをコードする異種核酸分子を含むキメラ遺伝子も、本発明の主題である。 酵素活性の改変を伴う変異体アプロチニンをコードする異種核酸分子を含むキメラ遺伝子も本発明の主題である。 本発明はまた、形質転換する植物のプラストームにおける配列に相同である少なくとも2つの配列を含有し、該相同配列が本発明の少なくとも1つのキメラ遺伝子に隣接することを特徴とする、植物色素体の形質転換のために設計されたベクターに関する。 これらの配列(一方は成分キメラ遺伝子の上流(LHRR)、もう一方は下流(RHRR))は、隣接領域LHRRおよびRHRRを含む、プラストームの遺伝子間領域内の二重相同組換えを可能にする。 本発明のそれらの2つの相同組換え配列は、プラストームの非コード(遺伝子間)配列においてキメラ遺伝子が挿入されるよう、連続的でありうる。特定の実施形態においては、この配列は色素体リボソームRNAのオペロンの一部である。もう1つの特定の実施形態においては、該非コード配列はrbcl遺伝子(これはruBisCOの大サブユニットをコードする)の3’末端を含み、もう一方の相同配列はaccD遺伝子(これはアセチルCoAカルボキシラーゼのサブユニットの1つをコードする)の5’末端を含む。更により詳しくは、LHRR断片はタバコプラストームのヌクレオチド57764−59291に対応する(Shinozakiら,1986−Genbank Z00044)。RHRR断片はタバコプラストームのヌクレオチド59299−60536に対応する。 色素体の形質転換を達成するためには、形質転換用DNAは、ストロマに到達する前に細胞壁、細胞膜および細胞小器官の二重膜を横切らなければならない。この点で、色素体ゲノムを形質転換するために最も一般に用いられる技術は粒子射撃(particle bombardment)の技術である(SvabおよびMaliga,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Feb 1,90(3):913−917)。高速微小発射体を使用する色素体トランスフェクションは単細胞藻類クラミドモナス・レインハルドティイ(Chlamydomonas reinhardtii)において初めて行われた(Boyntonら,1988)。現在、高等植物において、色素体の安定な形質転換がタバコ、ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum)において一般に行われている(SvabおよびMaliga,1990,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,8526−8530;SvabおよびMaliga,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Feb 1,90(3):913−917)。イネ(Khan M.S.およびMaliga,1999,Nat.Biotechnol.17,910−915)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(Sikdarら,1998,Plant Cell Reports 18:20−24)、ジャガイモ(Sidorovら,1999,Plant J.19(2):209−216)、ナタネ(Brassica napus)(Chaudhuriら,1999,WO 00/39313)およびトマト(Rufら,2001,Nat.Biotechnol.19,870−875)からのプラスチドの形質転換が報告されている。稔性色素体形質転換植物がタバコ、トマト、ジャガイモおよびダイズに関して得られている(WO 04/053133)。最近、ウキクサ色素体の形質転換が報告された(WO 05/005643)。 形質転換色素体および細胞、すなわち、プラストーム内にキメラ遺伝子が取り込まれたもの(すなわち、色素体形質転換細胞)を選択するために、選択マーカーが使用されうる。それは、稔性ホモプラスミック(homoplasmic)色素体形質転換植物を得ることをも可能にする。「ホモプラスミック」なる語は、細胞の全てが同種類のプラストームおよびそのプラストームのみを含有することを意味する。色素体形質転換植物は、すべてのそれらの細胞が形質転換プラストームのコピーのみを含有する場合、ホモプラスミックである。 選択マーカーとして使用されうる遺伝子としては特に、例えば、2つのキメラ遺伝子、すなわち、スペクチノマイシンおよびストレプトマイシンに対する耐性を付与するアミノグリコシド3”−アデニルトランスフェラーゼをコードするaadA遺伝子(Svabら,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.90:913−917)、およびカナマイシンに対する耐性を付与するネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードするneo遺伝子(Carrerら,1993,Mol.Gen.Genet.241:49−56)が挙げられうる。他の適当な候補選択マーカーには、ベタインアルデヒドに対する耐性を付与する遺伝子、例えば、ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(Daniellら,2001,Curr.Genet.39:109−116)、また、除草剤耐性を付与する遺伝子、例えば、ビアラホス(bialaphos)に対する耐性を付与するbar遺伝子(Whiteら,1990,Nucleic Acid Res.18(4):1062)、およびグリフォセート(glyphosate)に対する耐性を付与するEPSPS遺伝子(US 5 188 642)が含まれる。あるいは、レポーター遺伝子、すなわち、GUS(β−グルクロニダーゼ)(Staub J.M.およびMaliga P.,1993,EMBO J.12,601−606)またはグリーン蛍光タンパク質(GFP,Sidorovら,1999,Plant J.19(2):209−216)のような容易に同定される酵素をコードする遺伝子、色素をコードする遺伝子、または色素産生を調節する酵素をコードする遺伝子が使用されうる。そのような遺伝子は特許出願WO 91/02071、WO 95/06128、WO 96/38567、WO 97/04130およびWO 01/64023に記載されている。 選択マーカーをコードする遺伝子は、スペクチノマイシンおよびストレプトマイシンに対する耐性を付与するアミノグリコシド3”−アデニルトランスフェラーゼをコードするaadA遺伝子(Svabら,1993,Proc.Natl.Acad.Sci.90:913−917)でありうる。 したがって、本発明はまた、転写方向に機能的に互いに連結された、色素体において活性であるプロモーター配列、ペプチドをコードする異種核酸配列と翻訳的に融合した核コード化タンパク質からのメチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列、および場合によって、植物細胞の色素体において活性であるターミネーターを含む核酸分子がプラストーム内に組込まれている色素体形質転換植物細胞または色素体形質転換植物および/またはそれらの後代に関する。 本発明のもう1つの実施形態においては、内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列に融合したペプチドをコードする異種核酸配列は真核生物に由来する。 本発明はまた、ウキクサ科植物(Lemnaceae)、ニコチアナ(Nicotiana)属植物、ジャガイモ植物、トマト植物、ダイズ植物または藻類である色素体形質転換植物および/または後代に関する。 特定の実施形態においては、本発明の色素体形質転換植物はタバコ植物である。 もう1つの実施形態においては、本発明は、本発明の植物細胞を含有する、本発明の植物の収穫可能な植物部分、例えば葉に関する。 本発明はまた、a)転写方向に機能的に互いに連結された、色素体において活性であるプロモーター配列、ペプチドをコードする異種核酸配列と翻訳的に融合した核コード化タンパク質からのメチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列、および場合によって、植物細胞の色素体において活性であるターミネーターを含む少なくとも1つのキメラ遺伝子で植物細胞を形質転換し、b)工程a)で得られた植物細胞から植物を再生させ、c)必要に応じて、工程b)で得られた植物から更なる植物を製造する、本発明の色素体形質転換植物の製造方法に関する。 工程a)で得られた植物細胞は、当業者に公知の方法により、例えば、“Plant Cell Culture Protocols”1999,R.D.Hall編,Humana Press,ISBN 0−89603−549−2に記載の方法を用いて、完全(whole)植物へと再生されうる。 本発明の方法の工程c)の更なる植物の製造は、例えば、栄養繁殖(例えば、挿し木、塊茎を使用して、または完全植物の再生およびカルス培養により)または有性繁殖により行われうる。したがって、有性繁殖は、好ましくは、制御された条件下で行われる。すなわち、特定の特性を有する選択された植物を互いに交配させ繁殖させる。 本発明は更に、本発明のキメラ遺伝子で色素体を形質転換し、該キメラ遺伝子の発現およびシグナルペプチドの後続の切断のための適当な条件下、該形質転換色素体を含む植物細胞を増殖させる工程を含んでなる、植物細胞における関心のあるタンパク質の製造方法に関する。 本発明は更に、a)転写方向に機能的に互いに連結された、色素体において活性であるプロモーター配列、ペプチドをコードする異種核酸配列(該異種核酸配列は非メチオニンN末端ペプチドをコードする。)に翻訳的に融合した核コード化タンパク質からのメチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列、および場合によって、植物細胞の色素体において活性であるターミネーターを含むキメラ遺伝子で色素体を形質転換する工程、b)該キメラ遺伝子の発現およびシグナルペプチドの後続の切断のための適当な条件下、該形質転換色素体を含む植物細胞を増殖させる工程を含んでなる、植物色素体における非メチオニンN末端ペプチドの製造方法に関する。 本発明は更に、該非メチオニンN末端タンパク質がアプロチニンである、植物色素体における非メチオニンN末端ペプチドの前記製造方法に関する。 本発明は更に、本発明の色素体形質転換植物細胞から、あるいは本発明の色素体形質転換植物および/またはその後代から、あるいは本発明の色素体形質転換植物の収穫可能な部分から、関心のあるペプチドを抽出する工程を含んでなる、関心のあるペプチドの製造方法に関する。 好ましくは、そのような方法は、関心のあるペプチドを抽出する前に、栽培された植物および/またはそのような植物の部分、例えば葉を収穫する工程をも含む。最も好ましくは、この方法は更に、本発明の植物を、収穫前に栽培する工程を含む。 本発明は更に、関心のあるペプチドがアプロチニンである、関心のあるペプチドの前記製造方法に関する。 アプロチニンの抽出方法は当業者に公知である。アプロチニンを単離するためには、一般に沈殿方法および/またはDEAE−セルロースもしくはアフィニティ技術を用いるクロマトグラフィーを含む多数の方法が利用可能である。そのような方法の具体例は米国特許第5,164,482号およびJ.D.Altmanら,1991,Protein Eng,4(5):593−600に記載されている。 本発明は、何ら限定的ではない以下の実施例により具体的に例示される。 チラコイド膜を横切る移動のためにSec依存性経路を利用するメチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列 Sec依存性経路により内腔へ分泌されるタンパク質をコードする未知機能のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)AT5g52970遺伝子を、Kieselbachら,2003,Photosynthesis research,78:249−264において特定されている内腔タンパク質から選択した。シグナルペプチドの切断後にアミノ末端に正電荷(アルギニンまたはリシン)を有する内腔タンパク質から、この遺伝子を選択した。そのような予備選択は、融合タンパク質の更なる厳密なプロセシングおよびアルギニンから始まるアミノ酸配列を有するアプロチニンの除去の可能性を改善するために行った。メチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列に翻訳的に融合される異種核酸配列に応じて、予備選択を行わないことがまたは別の基準に基づく予備選択が行われ得る。 SignalPソフトウェア(Nielsenら,Int.J.Neural Syst.8:581−599,1997)を使用して、AT5g52970によりコードされるタンパク質の二成分トランジットペプチドを推定した。葉緑体内への輸入を可能にするこの二成分トランジットペプチドの推定アミノ末端配列を欠失させ、翻訳開始部位としてメチオニンを付加して、配列番号2に示されるLSP1配列を得た。 チラコイド膜を横切る移動のためにTat経路を利用するメチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列 Tat経路により内腔へ分泌されるイムノフィリン様タンパク質をコードする未知機能のシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)AT1g20810遺伝子を、Kieselbachら,2003,Photosynthesis research,78:249−264において特定されている内腔タンパク質から選択した。シグナルペプチドの切断後にアミノ末端に正電荷(アルギニンまたはリシン)を有する内腔タンパク質から、この遺伝子を選択した。このような予備選択は、融合タンパク質の更なる厳密なプロセシングおよびアルギニンから始まるアミノ酸配列を有するアプロチニンの除去の可能性を改善するために行った。メチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列に翻訳的に融合される異種核酸配列に応じて、予備選択を行わないことがまたは別の基準に基づく予備選択を行われ得る。 SignalPソフトウェア(Nielsenら,Int.J.Neural Syst.8:581−599,1997)を使用して、AT1g20810によりコードされるタンパク質の二成分トランジットペプチドを推定した。葉緑体内への輸入を可能にするこの二成分トランジットペプチドの推定アミノ末端配列を欠失させ、翻訳開始部位としてメチオニンを付加して、配列番号4に示されるLSP2配列を得た。 LSP/アプロチニン融合タンパク質のコード配列 タバコ色素体コドン使用頻度(www.kazusa.or.ip/codon)に基づいて葉緑体発現を最適化するために、アプロチニンのアミノ末端において融合したLSP1またはLSP2をコードする合成配列(それぞれLSP1::アプロチニンおよびLSP2::アプロチニンと称される)を設計した。該コドンの分布を、葉緑体コドン使用頻度表におけるそれらの頻度に従い各アミノ酸残基に無作為に帰属した。 葉緑体形質転換ベクターpAPR20およびpAPR21 LSP1::アプロチニンおよびLSP2::アプロチニンコード配列を、pBluescriptプラスミド(Stratagene)に由来する葉緑体形質転換ベクター内に導入して、それぞれベクターpAPR20およびpAPR21を得た。pAPR20を図1に示す。pAPR21は、LSP1の代わりにLSP2を含有すること以外はpAPR20と同一である。これらのベクターは、rbcL遺伝子accD遺伝子との間の該トランスジーンの指向化組込みを可能にするタバコプラストーム由来の領域LHRR−Nt(1)およびRHRR−Nt(1)を含有する。該LHRR断片はタバコプラストームのヌクレオチド57764−59291に対応する(Shinozakiら,1986−Genbank Z00044)。該RHRR断片はタバコプラストームのヌクレオチド59299−60536に対応する。キメラ選択マーカー遺伝子aadAは、SvabおよびMaliga(1993)に記載されているとおり、スペクチノマイシンに対する耐性をコードする。その発現は、16Sリボソームオペロンのプロモーター(Genbank Z00044からのPrrn(p)−Nt:ヌクレオチド102561−102677)およびそれに続くrbcL遺伝子のリボソーム結合部位(Genbank Z00044からの5’UTRrbcL−Nt:ヌクレオチド57569−57584)の制御下に置かれる。転写ターミネーター3’psbA−Nt(2)はpsbA遺伝子(逆配向のGenbank Z00044からのヌクレオチド146−533)に由来する。LSP::アプロチニン融合コード配列はpsbA遺伝子のプロモーター(逆配向のGenBank Z00044からのPpsbA−Nt(2):ヌクレオチド1596−1819)の制御下に置かれる。転写ターミネーター3’rbcL−Nt(2)はrbcL遺伝子(Genbank Z00044からのヌクレオチド59036−59246)に由来する。該ベクターの残りの要素はpBluescriptベクターに由来する。 葉緑体の形質転換 ニコチアナ・タバクム(Nicotiana tabacum;タバコ)(品種PBD6)植物を、スクロース(3%)およびフィトアガー(phytagar)(7g/l)で補足されたMS培地(MurashigeおよびSkoog,1962)上に無菌条件下で栽培した。3〜5cmの葉の背軸側を、Finerら(1992)に記載のモデルに従い研究室内で組み立てたパーティクルガンを使用して射撃した。ベクターpAPR23のDNA(射撃当たり5マイクログラム)を、CaCl2(0.8〜1.0M)およびスペルミジン(14〜16mM)の存在下、金粒子上に吸着させた。処理した葉を、ナフタレン酢酸(ANA 0.05mg/l)および6−ベンジルアミノプリン(BAP 2mg/l)で補足された同じMS培地上に2日間配置した。ついで該葉を平均5mmの長さの正方形に切り、500mg/lのスペクチノマイシン塩酸塩で補足された前記ホルモン含有培地上で色素体形質転換事象の選択のために培養した。葉断片を10日ごとに新鮮な選択培地上で継代培養した。4〜6週間後、退色した外植体上に現れた緑色のカルスまたは小植物を単離し、ホルモンの非存在下で500mg/l 塩酸スペクチノマイシンで補足されたMS培地(3% スクロースおよび7g/l フィトアガー)に移した。ついで、再生されたシュートを、根づいた後で温室へ移した。 選択された系統のPCR分析 タバコ葉緑体ゲノム内の予想位置におけるトランスジーンの存在を調べるために、スペクチノマイシン上で選択された、pAPR20およびpAPR21で生じた第1の事象を、PCRにより分析した。プライマー(1)および(2)の、異なる2対を、この分析に使用した。第1対(1)は予想位置における組込みの確認を可能にし、一方のプライマーは、形質転換ベクターpAPR20またはpAPR21内に存在するLHRR断片の前のrbcL遺伝子内に結合し(orbcL52F:5’−atgtcaccacaaacagagactaaagc−3’)、もう一方のプライマーはAADAコード領域の開始部位に逆配向で結合する(aadA10R:5’−gttgatacttcggcgatcaccgcttc−3’)。約1.8kbの増幅産物が認められれば、該組込みが証明されたことになる。第2対(2)は、LSP::アプロチニン融合体を含む断片の増幅を可能にし、一方のプライマーはpsbAプロモーターの末端に結合し(psbA230F:5’−tttgtagaaaactagtgtgcttggg−3’)、もう一方のプライマーはターミネーター3’rbcLに逆配向で結合する(5’−atgtcaccacaaacagagactaaagc−3’)。約550bpの増幅産物が認められたら、該タバコ葉緑体ゲノム内にLSP::アプロチニン発現カセットが存在することが証明されたことになる。該増幅は30サイクル(94℃で45秒間、54℃で60秒間、75℃で120秒間)よりなるものであった。3つの選択された事象(APR20−1−2, APR21−19−1, and APR21−19−2)に関するPCR反応は前記の2対のプライマーのそれぞれに関して陽性であり、このことは、それらが色素体形質転換体であり、予想どおり、pAPR20およびpAPR21の、組込まれた発現カセットを有することを示している。 アプロチニンのウエスタンブロット分析 アプロチニンの発現を変性条件下のSDS−PAGEおよびそれに続くウエスタンブロットにより分析した。抽出バッファーとしてTris−HCl 25mM、NaCl 100mM、Triton X100 0,5%、グリセロール 10%(pH8)を使用して、全可溶性タンパク質を、トランスジェニック事象の液体窒素中で破砕された葉物質から抽出した。ついで、ブラッドフォードアッセイにより定量された各抽出物からの20マイクログラムの可溶性タンパク質をSDS−PAGE(12% アクリルアミド)により分離し、PVDF膜上に移した。標準量のアプロチニン(200ng;Sigma)および野生型タバコからの抽出物も該実験に含めた。移した後の該膜を、製造業者(Roche)の説明に従いブロッキング試薬でブロッキングし、ついでアプロチニンに対するマウスモノクローナル抗体と共に4℃で一晩インキュベートした。洗浄後、該膜を、アルカリホスファターゼに結合した、マウス免疫グロブリンに対する第2のモノクローナル抗体(Sigma A3562)と共にインキュベートした。Bioradのキット(Immun−Star)を使用して免疫複合体の顕色を行い、生じた化学発光をフィルム上に記録した。この実験の結果は、どちらのタイプの構築物(pAPR20およびpAPR21)に関しても、LSP::アプロチニン融合タンパク質がプロセシングされ切断されることを明らかに示している。なぜなら、真正標準アプロチニンと厳密に同じ位置に泳動する、ウエスタンブロット上で唯一のバンドが視認されうるからである。したがって、Sec(pAPR20系統)またはTat(pAPR21系統)経路によりアプロチニンを内腔へ導く、選択されたシグナルペプチドは、高い効率で切断される。発現のレベルはpAPR21系統に関しては全可溶性タンパク質の約0.1〜0.2%、pAPR20系統に関しては約0.5%と推定される。 組換えアプロチニンのエレクトロスプレーLC/MS分析 組換えアプロチニンを、PBSバッファー中、pAPR20およびpAPR21ベクターから生じた事象のトランスジェニック葉から抽出し、モノクローナル抗体を使用して免疫精製した。単離されたタンパク質をジプチプ(ziptiped)して塩を除去し、ロニクス(lonics)EP−10+LC/MS/MS装置で分析した。それぞれpAPR20およびpAPR21に対応するサンプルのLC/MSエレクトロスプレークロマトグラムをアプロチニン標準のLC/MSエレクトロスプレークロマトグラムと比較した。pAPR20に対応するサンプルのLC/MSエレクトロスプレークロマトグラムは3.31分の保持時間においてピークを示している。多重荷電イオンから得られた平均分子量は6532±2ダルトンである。標準アプロチニンと比較した質量における差は16ダルトン、すなわち、酸素の質量である。単離されたアプロチニンは酸化されているらしい。pAPR21に対応するサンプルのLC/MSエレクトロスプレークロマトグラムは3.36分の保持時間においてピークを示している。多重荷電イオンから得られた平均分子量は6516±1ダルトンである。質量スペクトルは標準アプロチニンに酷似している。 これらの実験は、N末端のアルギニンから開始する成熟アプロチニンとシグナルペプチドとの間の予想部位においてイン・プランタ(in planta)で切断が生じること、およびそれがアミノ酸レベルで真正アプロチニンに対応していることを明らかに示している。サンプルpAPR20における16の余剰質量は1つの残基(おそらく、唯一のコード化メチオニン)の酸化に対応するものであろう。 組換えアプロチニンはトリプシンに結合する トランスジェニック葉緑体において産生された組換えアプロチニンが活性コンホメーションの状態にあるかどうかを調べるために、ベクターpAPR20およびpAPR21で作製された系統からの葉物質の抽出物をPBSバッファー中で調製し、全可溶性タンパク質の20マイクログラムに相当するサンプルを種々の量のトリプシン(0、28、112、450または1800ナノグラム)と共に37℃で30分間インキュベートした。ついでサンプルを非還元条件下のSDS−PAGEにより分離し、アプロチニンに対するモノクローナル抗体を使用してウエスタン分析を行った。この分析は、どちらのタイプの抽出物に関しても、サンプルにトリプシンを加えた直後に、より高い分子量のバンドが突然出現したことを示している。この新たなバンドはトリプシンに対するアプロチニンの複合体に対応する。十分なトリプシンを加えた場合には、遊離アプロチニンは残存せず、該複合体のみが検出される。この実験は、ベクターpAPR20およびpAPR21での色素体形質転換において産生された組換えアプロチニンの全体性が、トリプシンプロテアーゼに結合しうる活性コンホメーションの状態であることを示している。プラスミドpAPR20の地図。 転写方向に機能的に互いに連結された、a)植物色素体において機能的であるプロモーター、b)c)の核酸配列に翻訳的に融合した核コード化タンパク質からのメチオニンN末端内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列であって i)配列番号2または4に示すアミノ酸配列を含むペプチドをコードする核酸分子、 ii)配列番号2または4に示すアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有するペプチドをコードする核酸分子、 iii)配列番号1または3に示すヌクレオチド配列を含む核酸分子、 iv)i)またはiii)に記載の核酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有する核酸配列を有する核酸分子、および v)遺伝暗号の縮重によりi)、ii)、iii)またはiv)に記載の核酸分子の配列とは異なるが、i)、ii)、iii)またはiv)に記載の核酸分子の配列と同一のペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子からなる群から選択される核酸配列、 ここで、上記i)、ii)、iii)、iv)及びv)によりコードされるペプチドは、チラコイド膜を横切ってチラコイド内腔への移動を指向する、c)ペプチドをコードする異種核酸配列を含んでなるキメラ遺伝子。 d)植物細胞の色素体において活性であるターミネーターをさらに含んでなる請求項1記載のキメラ遺伝子。 内腔指向性シグナルペプチドをコードする核酸配列が、チラコイド膜を横切る移動のためにSec依存性経路またはTat経路を利用する核コード化タンパク質に由来する、請求項1又は2記載のキメラ遺伝子。 ペプチドをコードする異種核酸配列がアプロチニンタンパク質をコードする、請求項1〜3のいずれか1項記載のキメラ遺伝子。 形質転換する植物のプラストームにおける配列に相同である少なくとも2つの配列を含有し、該相同配列が請求項1〜4のいずれか1項記載の少なくとも1つのキメラ遺伝子に隣接することを特徴とする、植物色素体の形質転換のために設計されたベクター。 請求項1〜4のいずれか1項記載の少なくとも1つのキメラ遺伝子を含有することを特徴とする色素体形質転換(transplastomic)植物細胞。 請求項6記載の色素体形質転換植物細胞を含んでなる色素体形質転換植物および/またはその後代。 藻類、ウキクサ科植物(Lemnaceae)、ニコチアナ(Nicotiana)属植物、ジャガイモ、トマトまたはダイズ植物である、請求項7記載の色素体形質転換植物および/またはその後代。 請求項6記載の植物細胞を含んでなる、請求項7〜8のいずれか1項記載の植物の収穫可能な部分。 a)請求項1〜3のいずれか1項記載のキメラ遺伝子で色素体を形質転換する工程、b)該キメラ遺伝子の発現およびシグナルペプチドの後続の切断のための適当な条件下に、該形質転換色素体を含む植物細胞を増殖させる工程を含んでなる、植物細胞における関心のあるタンパク質の製造方法。 a)異種核酸配列が非メチオニンN末端ペプチドをコードする請求項1〜3のいずれか1項記載のキメラ遺伝子で色素体を形質転換すること、b)該キメラ遺伝子の発現およびシグナルペプチドの後続の切断のための適当な条件下に、該形質転換色素体を含む植物細胞を増殖させることを含んでなる、植物色素体における非メチオニンN末端ペプチドの製造方法。 該非メチオニンN末端タンパク質がアプロチニンである、請求項11記載の製造方法。 請求項6記載の色素体形質転換植物細胞から、または請求項7〜8のいずれか1項記載の色素体形質転換植物および/またはその後代から、または請求項9記載の色素体形質転換植物の収穫可能な部分から、関心のあるペプチドを抽出する工程を含んでなる、関心のあるペプチドの製造方法。 関心のあるペプチドがアプロチニンである、請求項13記載の製造方法。配列表


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