タイトル: | 特許公報(B2)_酵素電極 |
出願番号: | 2008524829 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | G01N 27/327 |
勝木 幸治 平尾 佳 永川 健児 岡本 雅司 藤縄 義明 JP 5118640 特許公報(B2) 20121026 2008524829 20070711 酵素電極 アークレイ株式会社 000141897 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 高田 大輔 100105407 佐貫 伸一 100126505 塩谷 隆嗣 100117167 勝木 幸治 平尾 佳 永川 健児 岡本 雅司 藤縄 義明 JP 2006191734 20060712 20130116 G01N 27/327 20060101AFI20121220BHJP JPG01N27/30 353FG01N27/30 353ZG01N27/30 353S G01N 27/327 JSTPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特開平02−099849(JP,A) 特開昭63−307350(JP,A) 特表平02−501679(JP,A) 特表2001−520367(JP,A) Zhenjiu Liu, Baohong Liu, Mei Zhang, Jilie Kong, and Jiaqi Deng,Al2O3 sol-gel derived amperometric biosensor for glucose,Analytica Chimica Acta,1999年 6月21日,Vol.392, No.2-3,P.135-141 Joseph Wang, and Alain Walcarius,Zeolite containing oxidase-based carbon paste biosensors,Journal of Electroanalytical Chemistry,1996年 3月21日,Vol.404, No.2,P.237-242 12 JP2007063863 20070711 WO2008007719 20080117 12 20100712 河野 隆一朗 本発明は、触媒活性を有する貴金属などの金属粒子を担持した炭素粒子と、酸化還元酵素と、を含む酵素電極に関する。 酵素電極としては、酸化還元酵素を利用して、電流測定的に基質の濃度に相関した応答を取得することができるものがある。その一例として、白金担持炭素に酸化還元酵素を固定化したものがある(たとえば特許文献1−3参照)。白金担持炭素を用いた酵素電極は、電子伝達物質が不要であるという利点がある。 特許文献1−3に記載の酵素電極は、結合剤を用いて白金担持炭素粒子を結合させて形成した多孔質層に、酸化還元酵素を固定化したものである。白金担持炭素粒子は、炭素粒子の表面上に、白金を担持させたものである。白金は、金属粒子、白金酸化物粒子あるいは白金粒子の表面を酸化した酸化物粒子として炭素粒子に担持させられる。酸化還元酵素としては、グルコースオキシダーゼ(GOD)が開示されている。 酵素電極は、導電性支持部材の表面に、前記多孔質層を表層として形成したものであってもよい。導電性支持部材としては、炭素紙、またはフィラメントの炭素繊維のウェブが使用されている。 特許文献1,2に記載の酵素電極においては、結合剤として、合成樹脂、好ましくはポリテトラフルオロエチレンが使用されている。 一方、特許文献3に記載の酵素電極においては、結合剤として、酵素電極の大量生産を実現するために、焼結加工へ高い温度を必要とする結合剤(すなわち、高融点のフルオロカーボン樹脂または疎水性樹脂、たとえばポリテトラフルオロエチレン)ではなく、水溶性または水分散性の結合剤、たとえばゼラチンを用いられている。 本発明者等は、燃料電池の分野でイオン交換膜などに多用されている固体高分子電解質を結合剤として用いて、グルコース脱水素(GDH)白金担持炭素酵素電極を試作した。固体高分子電解質としては、特に好ましいとされるアメリカのデュポン社が開発したナフィオン(登録商標)を使用した。このナフィオンは、高い耐久性と化学的安定性を有するために他の電解膜より高温での動作に強いとされる、フッ素系スルホン酸ポリマー電解質である。同様に、石油系ワックスとしてパラフィンワックスを結合剤としたものも準備し、酵素電極を試作した。ナフィオンもパラフィンワックスも、高い温度の焼結を必要としない。 しかしながら、GDH白金担持炭素酵素電極をアノード極として使用し、酵素基質であるグルコースを測定対象として、ボルタンメトリー測定あるいはアンペロメトリー測定を行うと、GDH白金担持炭素酵素電極による測定センサを試作するたびに、出力特性が異なり、再現性が低い(安定しない)結果となった。 従って、GDH白金担持炭素酵素電極を用いてグルコース測定を行う際に、ボルタンメトリー法あるいはアンペロメトリー法を用いた測定では、そのままでは安定した作動が出来ないか、もしくは酵素電極としての作動条件に限定が多くかかり、結果として、適切に作動する条件範囲が非常に狭くなってしまう可能性がある。国際公開WO87/07295号パンフレット特表平2−501679号公報特開平2−99849号公報 本発明は、白金などの触媒金属を担持した炭素粒子と酸化還元酵素とを含む酵素電極において、ボルタンメトリー測定およびアンペロメトリー測定などの電気化学的測定を再現性良く安定して行なえるようにすることを課題としている。 本発明は、炭素粒子と、上記炭素粒子に担持され、かつ酸化還元反応に対する触媒活性を有する金属粒子と、酸化還元酵素と、を含む酵素電極に関するものである。本発明の酵素電極は、電気抵抗を高めるためのものであり、かつ化学的に安定な高抵抗粒子をさらに含んでいる。 本発明に係る酵素電極によれば、電気抵抗を高めるためのものであり、かつ化学的に安定な高抵抗粒子を含んでいるため、ボルタンメトリー測定およびアンペロメトリー測定などの電気化学的測定を再現性良く安定して行なえるようになる。図1は、実施例3における電流値の測定結果を示すグラフである。図2Aは、実施例4において酵素電極として酸化アルミニウムを添加したものを用いたとき、図2Bは酵素電極としてスメクタイトを添加したものを用いたとき、図2Cは酵素電極として高抵抗粒子を添加していないものを用いたときの電流値の測定結果を示すグラフである。 本発明に係る酵素電極は、主として臨床的用途のため、たとえば試料中の基質の検出や定量的測定のために利用されるものである。臨床的試料としては、たとえば血液、血清、血漿、尿、汗、涙、および唾液を挙げることができる。基質としては、グルコースなどを挙げることができる。本発明の酵素電極はさらに、非臨床的用途、たとえば発酵の監視、工業的プロセスの制御、環境の監視(たとえば液体および気体の流出および汚染の抑制)、食物の試験、獣医学に利用することができる。 本発明の酵素電極は、炭素粒子、金属粒子、酸化還元酵素、および高抵抗粒子を含んでいる。 炭素粒子は、酵素電極における導電性を確保するとともに、金属粒子などを担持させるためのものである。本発明において好ましく使用される炭素粒子は、活性化炭素、グラファイト、カーボンブラック、あるいはダイヤモンドライクカーボンの粒子である。炭素粒子としては、たとえば粒子サイズが3〜150nmの範囲にあるものが使用され、より好ましくは3〜50nmのものが使用される。 酸化還元酵素は、基質の酸化反応あるいは還元反応を触媒するものである。酸化還元酵素は、基質の種類により選択され、たとえば基質がグルコースである場合には、グルコース脱水素酵素が好ましく使用される。グルコース脱水素酵素は、たとえば補酵素依存性酵素を使用することができる。補酵素としては、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、ピロロキノリンキノン(PQQ)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP+)、ヘム、および鉄−硫黄クラスターを挙げることができる。好ましくは、電気出力の大きさから、FADを補酵素とするグルコース脱水素酵素FADGDHが使用される。 本発明における酸化還元酵素の配合量は、使用する特定酵素または酵素混合物に依存して広く変化するであろう。FADGDHの場合において、10〜500μg/cm2電極表面に相当する配合量は満足すべきものであることが本発明者らの実験で判明しており、100〜200μg/cm2は好ましい量である。 金属粒子は、酸化還元反応に対して触媒活性を有するものであり、炭素粒子に担持されている。本発明において使用することができる金属粒子としては、典型的には、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、およびオスミウム(Os)などの貴金属を挙げることができ、これらの貴金属は単独で使用しても、複数種を併用してもよい。好ましくは、白金を単独で、または白金と他の種類の貴金属が併用して使用される。金属粒子は、酸化還元反応に触媒活性を有する限りにおいて、例示した貴金属の酸化物や貴金属粒子の表面を酸化処理したもの、インジウム(In)、レニウム(Re)および銅(Cu)やその酸化物などの貴金属以外のものを使用することもできる。貴金属以外のものを使用する場合においても、白金などの貴金属と併用するのが好ましい。 金属粒子は、炭素粒子に担持されるものであるため、その粒子サイズは炭素粒子に適切に担持される大きさ、たとえば1nm〜20μmの範囲、好ましくは1〜4nmの範囲のコロイドレベルの大きさとされる。 炭素粒子に担持させる金属粒子の量は、炭素粒子の100重量部に対して、たとえば0.1〜60重量部とされる。これは、炭素粒子に担持させる金属粒子の量が0.1重量部より少ないと、極めて感度の高い測定装置による以外、出力信号が測定するには低すぎるレベルとなってしまう一方で、20重量部より多いと、白金などの高価な貴金属を使用する場合には非経済的となるばかりか、応答または感度の増加から見た追加の利益はほとんど得られないからである。好ましくは、炭素粒子に担持させる金属粒子の量は、炭素粒子の100重量部に対して0.5〜40重量部とされる 高抵抗粒子は、酵素電極における電気抵抗を高める目的のために添加されるものである。本発明の酵素電極における高抵抗粒子の含有量は、たとえば炭素粒子100重量部に対して、0.1〜99重量部、好ましくは5〜80重量部、さらに好ましくは、20〜60重量部とされる。高抵抗粒子としては、たとえば粒子サイズが3〜150nmの範囲のものが使用される。 ここで、グルコースを燃料とした燃料電池は、得られる起電力(開回路電圧)が単セルにおいて0.4V程度であり、低いながらも起電力は得られている。この燃料電池では、起電力を高めるためは、燃料のグルコース酸化反応により取り出された電子が電極に伝えられるまでの経路での効率向上と電圧降下ロスを小さくすることが、電池の起電力を大きくする上で非常に重要とされている。 これに対して本発明の酵素電極では、高抵抗粒子を含有させることにより、電子が電極に伝えられるまでの経路での電圧降下ロスを故意に大きくすることで、電流が流れる時(負荷時)における電池の電圧を極力小するようにしている。すなわち、本発明の酵素電極は、白金などの金属粒子を触媒とした基質の酸化反応に起因して生じ得る電池反応時の起電力を、電極の内部抵抗において消費するものである。換言すれば、本発明の酵素電極は、内部抵抗を高めることによるIRドロップ様の現象を利用することで、電極出力の不安定性を抑制するものである。 その一方で、高抵抗粒子は、酵素電極としての機能、すなわち酸化還元酵素による酵素反応を阻害しないためにも、化学的に不活性であることが必要である。すなわち、本発明で使用することができる高抵抗粒子には、電極の電気抵抗を高める働きの他、化学的な不活性さが要求される。 高抵抗粒子に要求される抵抗は、高抵抗粒子を含有させていないときの酵素電極における電気抵抗の大きさ、最終的に要求される酵素電極の電気抵抗の大きさ、あるいは酵素電極における含有量などによって決定される。たとえば、高抵抗粒子を含有させていないときの酵素電極における電気抵抗が1kΩ以上、最終的に要求される酵素電極の電気抵抗の大きさが30kΩ以上である場合には、高抵抗粒子としては電気抵抗が1MΩ以上のものが使用される。 高抵抗粒子としては、無機物が好ましく使用される。高抵抗粒子のための無機物としては、たとえば酸化アルミニウムあるいは珪酸塩、もしくはこれらを主成分とするものを使用することができる。酸化アルミニウムを主成分とするものとしては、アエロジル(デグサ社登録商標)が好ましく使用される。珪酸塩を主成分とするものとしては、粘土鉱物(スメクタイト)を使用することができる。もちろん、高抵抗粒子としては、無機物の他に、ラテックスなどの有機物を使用することもできる。 本発明の酵素電極は、基本的に結合剤を含んでいる。この結合剤は、炭素粒子を相互に結合させるためのものである。結合剤は、従来の高融点を有する疎水性合成樹脂、たとえば10重量部までのフルオロカーボン樹脂結合剤、たとえばポリテトラフルオロエチレンであってもよく、また別に、水溶性または水分散性の結合剤、たとえばヒドロキシエチルセルロースまたはゼラチンを使うことも出来る。その中でも、結合剤として石油ワックスまたはフッ素系スルホン酸ポリマーを選択すると、少量での結合効果が大きく、分散状態の均一性が望める。特に、フッ素系スルホン酸ポリマーにおいては、電極表層でのプロトン移動性の向上という点で好ましい。 本発明で使用できる石油ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのいずれも使用できるが、常温において固体で扱いやすく、酵素電極を成型、賦形あるいは印刷できるように、パラフィンワックスが好ましい。また別の態様として本発明で使用できるフッ素系スルホン酸ポリマーとしては、アメリカのデュポン社が燃料電池材料用固体高分子電解質として開発して発売されているナフィオン(登録商標)が好ましい。これら結合剤の使用量は、炭素粉末、金属粉末および酸化還元酵素の合計の乾燥重量100重量部に対して、5〜100重量部、好ましくは20〜50重量部とされる。 本発明の酵素電極は、支持部材の表面に形成したものであってもよい。この場合、支持部材は、絶縁性を有するもの、導電性を有するもののいずれであってもよい。 絶縁性を有する支持部材としては、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリスチレン、ジュラコン(ポリプラスチック社の登録商標)などの、商業的に入手可能なエンジニアプラスチックを使用することができる。支持部材の形状は、たとえばフィルムあるいはロッド状とされる。もちろん、支持部材の形状は、例示した形状には限定されず、目的に応じて種々に変更可能である。 一方、導電性を有する支持部材は、たとえば導電性炭素紙や炭素繊維のウエッブ、あるいは板状や棒状の金属(たとえば白金)を使用することができる。導電性を有する支持部材を使用する場合には、この支持部材を酵素電極からの出力を取り出すためのリードとして機能させてもよい。 また、本発明による酵素電極は、たとえばバイオセンサーなどの一部として使用されるが、本発明の酵素電極から出力を取り出す方法としては、公知の種々の構成を採用することができ、特段の限定はない。 本発明における酵素電極は、目的とする組成の混合物を成型、賦形あるいは印刷することにより形成することができる。 混合物は、たとえば金属粒子を担持させた炭素粒子、高抵抗粒子、酸化還元酵素、必要に応じて結合剤を添加した液状懸濁媒質において形成される。 液状懸濁媒質としては、たとえば水、両親媒性溶媒、あるいは有機溶剤を用いることができる。このようにして液状懸濁媒質中で混合を行なうことにより、炭素粒子、高抵抗粒子および酸化還元酵素が実質的に均質に混合することができる。ただし、有機溶媒を使用する場合には、酵素の実質的な失活が生じないように、たとえばエタノール、シクロヘキサンあるいはジクロロメタンを用いるのが好ましい。 混合物の成型あるいは賦形は、たとえば成形型に懸濁液を添加後、プレスすることにより行なわれる。混合物の成型後においては、乾燥により液状懸濁媒質を蒸発させることにより酵素電極が得られる。 成型あるいは賦形により酵素電極を形成する場合には、成形型の形状に応じて、必要に応じて中子を使用することにより、ロッド状などの柱状、タブレット状、筒状などの目的とする形状、容積あるいは面積に成形することができる。成型時においては、酵素電極に支持部材を埋設させてもよい。 一方、混合物の印刷は、たとえば平滑な平面を有する印刷媒体に対してマスクを載置した状態で、混合物を塗布した後にスキージングすることにより行なうことができる。印刷厚みは、酵素電極の用途などに応じて適宜設定されるが、たとえば5〜500μmの範囲とされる。混合物の印刷後においては、乾燥により液状懸濁媒質を蒸発させることにより酵素電極が得られる。 印刷媒体としては、たとえばフィルム状や板状のものが使用され、酵素電極は印刷媒体から剥離させて使用してもよく、印刷媒体に支持させたまま使用することもできる。後者の場合、印刷媒体は、支持部材としての役割を果すこととなる。印刷媒体としては、混合物の印刷箇所に凹部が形成されたものであってもよい。この場合には、マスクを省略することができる。 酸化還元酵素は、必ずしも混合物中に添加する必要はなく、たとえば金属粒子および高抵抗粒子を含む混合物の成形後や印刷膜の形成後に成形体や印刷膜に酵素溶液を含浸させ、乾燥させることにより固定化してもよい。 結合剤は、結合剤を添加せずに調製した懸濁液を乾燥させて粉体状とした後に、この粉体に添加してもよい。この場合、結合剤の添加により印刷に適した粘度のペースト状とすることが可能となる。 製造時における乾燥は、酵素の実質的な失活が起こる温度より低い温度で実施する必要があることは言うまでもない。 本発明の酵素電極は、基本的には、混合物の形成、成形、乾燥といった簡易な工程のみにより形成することができる。すなわち、高い大量生産技術を利用でき、使い捨て酵素電極を製造できる程度に製造コストを低くすることが望める。 上述のように、GDH白金担持炭素酵素電極をアノード極として使用し、酵素基質であるグルコースを測定対象として、ボルタンメトリー測定あるいはアンペロメトリー測定を行うと、GDH白金担持炭素酵素電極による測定センサを試作するたびに、出力特性が異なり、再現性が低い(安定しない)結果となった。 本発明者等は、出力特性が安定しない原因について検討した結果、白金担持炭素酵素電極において、電池としての機能が潜在していることを突き止めた。すなわち、炭素粒子の表面上に担持されている白金粒子(金属粒子)が触媒となって、グルコースとGDH、および白金粒子の間の電子伝達が自発的に進み、グルコースを燃料とする生物燃料電池が形成されていることが原因であるとわかった。つまり、測定対象である筈のグルコースの濃度に応じて、速やかに起電力が発生し、その起電力が測定センサのボルタンメトリー測定やアンペロメトリー測定における電圧掃印、および電圧印加に悪影響を与えていることがわかった。更には、グルコース濃度に応じて速やかに発生するこの起電力は、グルコース濃度に対してネルンスト応答はするが、試料中のグルコース以外でも起電力を発生するため、グルコース濃度以外にも起電力の変動要素が多く、このことが起電力が安定しない一因であることもわかった。 これに対して、本発明の酵素電極は、高抵抗粒子を含有しており、電子が電極に伝えられるまでの経路での電圧降下ロスを故意に大きくすることで、電流が流れる時(負荷時)における電池の電圧を極力小するようにしている。すなわち、本発明の酵素電極は、白金などの金属粒子を触媒とした基質の酸化反応に起因して生じ得る電池反応時の起電力を、電極の内部抵抗において消費するものである。換言すれば、本発明の酵素電極は、内部抵抗を高めることによるIRドロップ様の現象を利用することで、電極出力の不安定性を抑制するものである。 その一方で、高抵抗粒子の種類や添加量を適宜設定すれば、基質と酵素および白金粒子(金属粒子)の間の電子伝達能力を効率的に保持し、適切にボルタンメトリー測定およびアンペロメトリー測定を行なうことができる。これにより、触媒能を有する金属粒子を担持した炭素粒子と酸化還元酵素とを含む酵素電極の特徴である、電子伝達物質が不要であるという利点を享受しつつ、出力特性を一定に保ち、ボルタンメトリー測定およびアンペロメトリー測定を適切に行なうことが可能となる。 次に、本発明を、以下の実施例により説明する。なお、本発明は、下記の実施例に制限されない。 本実施例では、高抵抗粒子の配合量が酵素電極の抵抗値に与える影響について検討した。(酵素電極の作製) 酵素電極の作製に当たっては、まず酸化アルミニウム(「アエロジル」;デグサ社製)、白金担持炭素(「IFPC40−II」;石福金属興業製)を、それぞれ添加割合を変えて総量60mgとなるように採取し、十分に混合して混合粉体とした。次いで、混合粉体に1250U/mLのGDH溶液を1000μL添加した後に混合し混合溶液を調製した。さらに、混合溶液を6時間静置することで白金担持炭素にGDHを予備吸着させた後に遠心分離してから上澄みを除去した。上澄み除去後のスラリーは、真空乾燥により粉体状とし、その粉体に流動パラフィンを100μL添加し、よく混合してペースト状とした。このペーストを、直径3φのペースト電極作製用ベース電極(ビー・エー・エス社製)に詰め込み、ジュランコンロッドにて厚みが2mmとなるように圧縮し、電極とした。(抵抗値の測定) 抵抗値の測定は、デジタルテスタにて、コネクター部とGDH白金担持炭素酵素電極における3φ中央部の間の抵抗として測定した。抵抗値の測定は、環境温度は25℃とした大気解放雰囲気で行った。抵抗値の測定結果については、表1に示した。表1かわ分かるように、酸化アルミニウム(アエロジル)の組成によって、30Ωから200kΩという広範囲で、抵抗をコントロールできることがわかる。 本実施例では、GDH白金担持炭素酵素電極について、グルコース燃料電池としての発電能力を評価した。 発電能力は、電解質溶液中にアノード電極としての酵素電極およびカソード電極としての白金電極を浸漬して電池を形成することにより評価した。発電能力の測定は、電池の温度を25℃とし、大気解放雰囲気で行なった。 酵素電極は、実施例1と同様に、白金担持炭素と酸化アルミニウムの配合比の異なる4種類(1種類は酸化アルミニウム無添加)を作成した。酵素電極は直径3φ、厚みが2mmとした。白金電極としては、直径1φ、長さ5cmの針金状のものを使用した。 電解質溶液としては、100mmol/Lリン酸バッファー(pH:6.0)を用い、電解質容量は10mLとした。電解質溶液中には、40mmol/Lとなるようにグルコースを溶解させた。(評価結果) 酸化アルミニウム(アエロジル)を添加していない酵素電極を用いた電池では、電圧0.26Vで、電流密度30μA/cm2という大きい電流が取り出された。開回路でのアノードとカソード間の電位差は0.46Vであり、比較的高い電圧が得られた。この事実は、グルコースを燃料とした生物燃料電池が構成されていることを示している。 それに対して、酸化アルミニウム(アエロジル)を添加した酵素電極を用いた電池では、開回路でのアノードとカソード間の電位差は0.3V〜0.02Vとなり、酸化アルミニウム(アエロジル)を添加していない酵素電極を用いた電池に比べて、電位差が小さくなっており、酸化アルミニウム(アエロジル)の添加量が大きくなる程、電位差が小さくなることが確認された。 また、酸化アルミニウム(アエロジル)を添加した酵素電極を用いた電池では、負荷時(閉回路)には電圧降下が急激に起こり、電流がほとんど取り出せない状態であった。すなわち、酸化アルミニウム(アエロジル)を添加した酵素電極を用いた電池では、十分な発電がなされなかった。この結果より、酵素電極に酸化アルミニウム(アエロジル)を添加することにより、燃料電池としての機能を低下させることに成功しているといえる。換言すれば、通常、IRドロップ現象は、溶液の抵抗に由来するとされているが、本実施例の結果が示すように、電極全体の抵抗にも起因することが判明した。 本実施例では、酸化アルミニウムを添加した酵素電極および酸化アルミニウムを添加していない酵素電極のそれぞれについて、測定される電流値のグルコース濃度の依存性を評価した。 グルコース濃度は、実施例2において使用した電解質溶液に対して、目的となる濃度となるように計算してグルコースを溶解させることにより調整した。目的濃度は、0mg/dL、50mg/dL、100mg/dL、200mg/dL、400mg/dL、600mg/dL、および800mg/dLに設定した。 電流値は、酵素電極と白金電極との間に、リニアスイープボルタンメトリー法により電圧を印加したときの応答値として測定した。 酵素電極は、実施例1と同様にして、白金担持炭素と酸化アルミニウムの配合比の異なる3種類(1種類は酸化アルミニウム無添加)を作成した。酵素電極および白金電極はともに、直径3φ、厚みが2mmとした。白金電極としては、直径1φ、長さ5cmの針金状のものを使用した。 電圧は、アノード方向に0〜1000mVまで、100mV/secの速度でリニアにスイープした。電流値の測定結果については、電圧が400mVのときの結果として図1に示した。 図1から分かるように、酸化アルミニウム(アエロジル)を添加していない酵素電極においては、グルコース濃度依存性が認められなかった。これは、実施例2の結果からも分かるように、各グルコース濃度において、燃料電池としての起電力が生じ、これがボルタンメトリーにおける電圧印加状態を不安定化させていることによりグルコース濃度依存性が現れなかったと考えられる。すなわち、各グルコース濃度において、毎回測定条件が異なるため、ボルタンメトリーの結果が、電圧方向にシフトを起こしていることに起因すると考えられる。 これに対し、酸化アルミニウム(アエロジル)を添加した酵素電極においては、その添加量に応じて、グルコース濃度依存性が確認できた。これは、酸化アルミニウム(アエロジル)を添加した酵素電極では、実施例2の結果からも分かるように、電流が流れた瞬間に、酵素電極の内部抵抗に起因して、IRドロップ様の現象が発生し、各グルコース濃度により発生する起電力が実質的にキャンセルされ、各グルコース濃度において、実質測定条件がそろうことで、基質と酵素および白金粒子の間の電子伝達能力を効率的に生かし、グルコース濃度依存性が確認できたものと考えられる。 なお、高酸化アルミニウム(アエロジル)を添加した酵素電極では、酸化アルミニウム(アエロジル)といった電気抵抗が大きく化学的に不活性である粒子を添加することによる抵抗の上昇に伴って、絶対感度は下がる傾向にあるが、実使用上問題ないレベルといえる。 本実施例では、高抵抗粉末を添加した酵素電極、高抵抗粉末を添加していない酵素電極のそれぞれについて、測定される電流値のグルコース濃度の依存性を評価した。 グルコース濃度は、実施例3と同様にして、0mg/dL、50mg/dL、100mg/dL、200mg/dL、400mg/dL、600mg/dL、および800mg/dLに調整した。 酵素電極は、基本的に実施例1と同様にして作製した。ただし、酵素電極としては、高抵抗粉末として酸化アルミニウム(アエロジル)を添加したもの、高抵抗体粉末として珪酸塩を主成分とするもの(「スメクタイト」;コープケミカル社製)を添加したもの、高抵抗粉末を添加していないものの3種類を作製した。高抵抗粉末の配合量は、白金担持炭素と同量の30mgとした。 電流値は、酵素電極と白金電極との間に、リニアスイープボルタンメトリー法により電圧を印加したときの応答値として、実施例3と同様にして測定した。電流値の測定結果については、印加電圧が400mVのときの値として図2Aないし図2Cに示した。図2Aは酸化アルミニウム(アエロジル)を添加した酵素電極、図2Bは珪酸塩を主成分とするスメクタイトを添加したときの酵素電極、図2Cは高抵抗粉末を添加していないときの酵素電極についての測定結果を示してある。 図2Aおよび図2Bから分かるように、酸化アルミニウム(アエロジル)および珪酸塩を主成分とするスメクタイトといった高抵抗粉末を添加した酵素電極においては、実施例3の場合と同様に、グルコース濃度依存性が確認できた。 これに対して、図2Cから分かるように、高抵抗粉末を添加していない酵素電極では、グルコース濃度依存性が認められなかった。それどころか、グルコース濃度が大きくなっても電流値が小さくなる傾向があった。この結果は、実施例3の結果とは大きく異なっており、この点からも高抵抗粉末を添加していない酵素電極では、出力が安定せず、再現性が悪いことが確認できる。 以上の結果より、高抵抗粉末として酸化アルミニウム(アエロジル)および珪酸塩を主成分とするスメクタイトを添加した酵素電極では、測定電流値について、グルコースに対する濃度依存性が認められ、適切にグルコース濃度の測定が行なえることが確認された。 粒子サイズが3〜150nmの範囲の炭素粒子と、上記炭素粒子に担持され、かつ酸化還元反応に対する触媒活性を有する金属粒子と、酸化還元酵素と、を含む酵素電極であって、電気抵抗を高めるためのものであり、かつ化学的に安定な粒子サイズが3〜150nmの範囲の高電気抵抗粒子をさらに含んでおり、上記高電気抵抗粒子は酸化アルミニウムを含んでいる、酵素電極。 上記金属粒子は、貴金属を含んでいる、請求項1に記載の酵素電極。 上記貴金属は、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、およびオスミウム(Os)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項2に記載の酵素電極。 上記貴金属は、白金(Pt)である、請求項3に記載の酵素電極。 上記金属粒子は、1〜4nmの範囲の粒子サイズを有している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の酵素電極。 上記酸化還元酵素は、グルコース脱水素酵素である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の酵素電極。 上記グルコース脱水素酵素は、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を補酵素とするグルコース脱水素酵素(FADGDH)である、請求項6に記載の酵素電極。 上記炭素粒子を結合するための結合剤をさらに含んでいる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の酵素電極。 上記結合剤は、石油ワックスまたはフッ素系スルホン酸ポリマーを含んでいる、請求項8に記載の酵素電極。 上記石油ワックスは、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムからなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項9に記載の酵素電極。 上記石油ワックスは、パラフィンワックスである、請求項10に記載の酵素電極。 上記フッ素系スルホン酸ポリマーは、ナフィオン(デュポン社登録商標)である、請求項9に記載の酵素電極。