タイトル: | 特許公報(B2)_異種タンパク質を高生産する麹菌変異株 |
出願番号: | 2008502696 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/15,C12P 21/02 |
北本 勝ひこ 有岡 学 丸山 潤一 渡辺 泰祐 溝上 豊 JP 5140832 特許公報(B2) 20121130 2008502696 20070215 異種タンパク質を高生産する麹菌変異株 国立大学法人 東京大学 504137912 小野 新次郎 100140109 小林 泰 100075270 富田 博行 100096013 星野 修 100092967 廣瀬 しのぶ 100128750 北本 勝ひこ 有岡 学 丸山 潤一 渡辺 泰祐 溝上 豊 JP 2006058205 20060303 20130213 C12N 15/09 20060101AFI20130124BHJP C12N 1/15 20060101ALI20130124BHJP C12P 21/02 20060101ALI20130124BHJP JPC12N15/00 AC12N1/15C12P21/02 C C12N 15/09 C12N 1/15 C12P 21/02 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 日本農芸化学会大会講演要旨集,2005年,Vol.2005,p.240, 30F225α FEMS Microbiol. Lett.,2004年,Vol.239, No.1,p.79-85 Biosci. Biotechnol. Biochem. ,2004年,Vol.68, No.3,p.656-662 日本醸造協会誌,1989年,Vol.84,No.7,p.465-470 日本農芸化学会大会講演要旨集,2002年,Vol.2002,p.203,3-6Ba01 4 NPMD NITE BP-215 NPMD NITE BP-216 NPMD NITE BP-217 JP2007052715 20070215 WO2007099776 20070907 16 20100121 (出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの) 吉田 知美 組換えタンパク質を高生産するための宿主となるアスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)細胞、および/または、組換え異種タンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞に関する。本発明はまた、本発明の細胞を組換えタンパク質生産に用いることを特徴とする、組換えタンパク質の生産方法にも関する。さらに、本発明は、本発明の細胞を調製する方法にも関する。 麹菌(アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae))は、古くから清酒、味噌、醤油の醸造に使用されてきた微生物である。アスペルギルス オリゼは、菌体外に多量のタンパク質を分泌生産する能力を有する。例えば、アスペルギルス オリゼ自体に由来するアミラーゼなどの酵素タンパク質については、培養液1リットル当たり数gを菌体外に分泌できることが知られている。一方、よく研究の進んでいる酵母のタンパク質分泌生産能力は、アスペルギルス オリゼの100−1000分の1である。このように、アスペルギルス オリゼはタンパク質分泌生産能力が最も高い真核細胞の1つであり、また、永年の食品製造に利用されてきた実績からその安全性が保証されている。したがってアスペルギルス オリゼは、様々な異種タンパク質を遺伝子組換えにより大量生産するための、タンパク質工場となる宿主としての利用が期待されている。 しかしながら、動物や植物など高等生物由来のタンパク質を、アスペルギルス オリゼで組換えタンパク質として分泌生産させる場合、分泌量はその1000分の1以下の低レベルにとどまっており、組換え異種タンパク質の生産において問題となっている。これまでに、アスペルギルス オリゼによる異種タンパク質の生産能力を向上させる試みでは、強力な高発現プロモーターの開発、コドンの最適化などで成果が得られている。一方、アスペルギルス オリゼによる高等生物由来のタンパク質の生産能力が低レベルにとどまるのは、アスペルギルス オリゼの内因性のプロテアーゼが、導入した高等生物由来のタンパク質を分解するためであると考えられている。そこで、1種類または2種類のアスペルギルス オリゼの内因性プロテアーゼ遺伝子を破壊した株を調製し、組換えタンパク質の生産性を向上させる試みがなされた(金 鋒傑ら、日本生物工学会講演要旨集、p.135、(2004);および、金 鋒傑ら、日本農芸化学会大会講演要旨集、p.240、(2005);を参照)。この内因性プロテアーゼ遺伝子破壊によって、アスペルギルス オリゼによる組換えタンパク質の生産量は有意に増加した。しかしながら依然として、組換えタンパク質生産宿主としてのアスペルギルス オリゼの有用性をさらに高めるためには、組換えタンパク質の生産性をさらに向上させることが求められている。金 鋒傑ら、日本生物工学会講演要旨集、p.135、(2004)金 鋒傑ら、日本農芸化学会大会講演要旨集、p.240、(2005) 本発明は、組換えタンパク質を高生産するための宿主となるアスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)細胞、および/または、組換え異種タンパク質を高生産することを特徴とするアスペルギルス オリゼ細胞を提供することを目的とする。本発明はまた、本発明の細胞を組換えタンパク質生産のために用いることを特徴とする、組換えタンパク質の生産方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、本発明の細胞を調製する方法を提供することを目的とする。 本発明者らは上記課題の解決のために、鋭意研究に努めた結果、アスペルギルス オリゼの内因性プロテアーゼをコードする遺伝子を二重破壊した株についてさらに紫外線照射による変異処理を行うことにより、組換えタンパク質を高生産する能力を有する細胞株の取得に成功し、本発明を完成させるに至った。 本発明は、組換えタンパク質を高生産する能力を有することを特徴とする、組換えタンパク質生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞;組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有するベクターを含む、組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞;本発明の細胞を用いることを特徴とする組換えタンパク質の生産方法;および本発明の細胞を調製する方法;を包含する。 以下、本発明について詳述する。 組換えタンパク質生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞 本発明の細胞は、組換えタンパク質の生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞であって、組換えタンパク質を高生産する能力を有することを特徴とする、前記細胞である。 また、本発明の細胞は、組換えタンパク質生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞であって、当該細胞は内因性プロテアーゼをコードする遺伝子の二重破壊および紫外線照射による変異処理を受けており、その結果組換えタンパク質を高生産する能力を有することを特徴とする、前記細胞である。 本明細書において「宿主」とは、所望のタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターを導入することが可能な宿主細胞を意味する。言い換えると、宿主は、それ自体は所望のタンパク質を組換えタンパク質として発現しないが、所望のタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターを用いて形質転換することにより、所望のタンパク質を組換えタンパク質として発現する細胞に変化しうる細胞である。 本明細書において「ベクター」とは、所望の遺伝子またはDNA配列の宿主細胞への導入を可能にするプラスミド、コスミド、ファージまたは他の媒介物を意味する。特に、所望の遺伝子またはDNA配列が所望のタンパク質をコードする遺伝子であり、当該遺伝子の宿主細胞への導入により当該所望のタンパク質を組換えタンパク質として発現することを意図して導入されるベクターを、発現ベクターという。特に、発現ベクターがプラスミドである場合は発現プラスミドという。 本明細書において「タンパク質」とは、アミノ酸がペプチド結合により連結したポリペプチドにより構成される物質をいう。本明細書においてタンパク質という場合にはその分子量は特に限定されない。したがって、本明細書においてタンパク質という場合は、ポリペプチドおよびペプチドの意味をも包含する。 本明細書において「組換えタンパク質」は、タンパク質発現ベクターを遺伝子工学的に宿主細胞に導入することにより、その細胞により発現されるタンパク質である。この場合、当該タンパク質発現ベクターは、組換えタンパク質として生産したい所望のタンパク質をコードする遺伝子を含有する。本明細書においては、組換えタンパク質として生産することを意図する所望のタンパク質についても、単に組換えタンパク質ということがある。好ましい態様において、本発明について組換えタンパク質は、アスペルギルス オリゼに由来しない外因性のタンパク質であって、遺伝子組換えによりアスペルギルス オリゼで発現されるタンパク質である。 本明細書においては、特に言及しない限り、「外因性」とはアスペルギルス オリゼに由来しないことを意味する。本明細書において、外因性タンパク質を異種タンパク質ということがあるが、これらの用語は同義で用いられる。また、本明細書においては特に言及しない限り、「内因性」とはアスペルギルス オリゼに由来することを意味する。 本発明の組換えタンパク質の生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞について、組換えタンパク質を高生産するとは、内因性プロテアーゼ遺伝子であるtppA遺伝子およびpepE遺伝子が二重破壊されたアスペルギルス オリゼ細胞、例えばNS−tApE株(金 鋒傑ら、日本農芸化学会大会講演要旨集、p.240、(2005)、より詳細には後述の実施例1を参照)が発現する組換えタンパク質の量と比較して、増加した量の組換えタンパク質を発現することをいう。より具体的には、組換えタンパク質を高生産するとは、例えば、組換えタンパク質が約10kDaの分子量を有する場合に、培養液1リットル当たり26mg以上、好ましくは30mg以上、さらに好ましくは50mg以上の組換えタンパク質を産生するレベルをいう。例えば、組換えタンパク質がリゾチームであって、培養液1リットル当たり26mg以上、好ましくは30mg以上、さらに好ましくは50mg以上のリゾチームを産生する場合は、組換えリゾチームは高生産されている。 本発明の一態様において、本発明の組換えタンパク質の生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞は、内因性プロテアーゼをコードする遺伝子の二重破壊を受けている。ここで、遺伝子の破壊とは、当該遺伝子を欠損または変異させることなどにより、当該遺伝子の機能的な遺伝子産物が発現しないように処理することをいう。また、二重破壊とは、2つの遺伝子について遺伝子の破壊を行うことをいう。本発明において、遺伝子の破壊を受ける内因性プロテアーゼ遺伝子は、特に限定されないが、例えば、トリペプチジルペプチダーゼ遺伝子(tppA)、液胞内酸性プロテアーゼ遺伝子(pepE)、菌体外酸性プロテアーゼ遺伝子(pepA)、菌体外アルカリプロテアーゼ遺伝子(alpA)、カルパイン様プロテアーゼ遺伝子(palB)、菌体外中性プロテアーゼ遺伝子(npII)、プロリルジペプチジルペプチダーゼ遺伝子(dppIV)などから選択されるいずれか2種のプロテアーゼ遺伝子である。好ましい態様において、本発明の組換えタンパク質の生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞が受けている内因性プロテアーゼ遺伝子の二重破壊は、tppA遺伝子およびpepE遺伝子の破壊である。 本発明の一態様において、本発明の組換えタンパク質の生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞は、紫外線照射による変異処理を受けている。紫外線照射による変異処理は、当業者が通常行う条件を適宜選択することができ、例えば、53cmの高さに設置した15W UVランプを用いて30秒から20分の間、好ましくは1分から15分の間、より好ましくは5分から10分の間、さらに好ましくは6分間、アスペルギルス オリゼの分生子をUV照射することにより行うことができるが、これらに限定されない。 好ましい態様において、本発明の組換えタンパク質の生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞は、アスペルギルス オリゼ AUT−1株、AUT−2株、またはAUT−3株である。これらは、ブタペスト条約の規約に従って、アスペルギルス オリゼ AUT−1株は受託番号NITE BP−215として、アスペルギルス オリゼ AUT−2株は受託番号NITE BP−216として、アスペルギルス オリゼ AUT−3株は受託番号NITE BP−217として、いずれも2006年3月3日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD:National Institute of Technology and Evaluation, Patent Microorganisms Depositary;日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託されている。 組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞 別の態様において、本発明の細胞は、上記の組換えタンパク質生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞に対して、所望のタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換することにより得られる、前記細胞である。 本発明の、組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞は、アスペルギルス オリゼに由来しない外因性のタンパク質、好ましくは高等生物由来のタンパク質、より好ましくは高等植物由来および/または哺乳動物由来のタンパク質、を高生産する。 本発明の細胞により高生産される外因性の組換えタンパク質の具体的なものとして、リゾチーム、キモシン、レクチン、インターロイキン、ラクトフェリン、味覚修飾タンパク質であるミラクリン、抗Fas抗体などの抗体医薬、ダニアレルゲン、花粉アレルゲン、木質バイオマス分解のためのセルロース分解酵素、サイトカイン、などが挙げられるが、これらに限定されない。 組換えタンパク質の生産方法 本発明は、組換えタンパク質の生産方法であって:(i)本発明の、組換えタンパク質の生産のための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞を、組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換し;(ii)形質転換した細胞を培養して、前記組換えタンパク質を発現させ;そして、(iii)培地から前記組換えタンパク質を単離する;工程を含んでなる、前記方法である。 本明細書において「形質転換」とは、ベクター上の遺伝子またはDNA配列の発現を可能にするベクターの細胞内への取り込みを意味する。アスペルギルス オリゼに対する形質転換は、当業者に公知のいずれかの方法で行うことができるが、例えばプロトプラストPEG法、電気穿孔法(エレクトロポレーション法)などにより行うことができる。 形質転換した細胞の培養は、当業者が通常使用するアスペルギルス オリゼの培養条件を使用することができる。培地には、寒天培地を用いてもよく、液体培地を用いてもよい。好ましくは液体培地、例えば、5x DPY培地(10% デキストリン、5% ポリペプトン、2.5% Yeast Extract、0.5% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、pH8.0)等を使用することができる。培養温度は、アスペルギルス オリゼ細胞が組換えタンパク質を発現する条件であれば特に限定されないが、好ましくは20℃〜40℃の間であり、より好ましくは約30℃である。また培養時間は、アスペルギルス オリゼ細胞が組換えタンパク質を発現するのに適した期間であれば特に限定されないが、好ましくは1日間〜7日間、より好ましくは3日間〜5日間である。 本発明の方法において、アスペルギルス オリゼは組換えタンパク質を菌体外に分泌するので、組換えタンパク質は、それを発現するアスペルギルス オリゼ細胞を培養した培地から単離することができる。組換えタンパク質は、当業者に公知のイオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過、などの方法を使用して単離することができる。 組換えタンパク質を高生産するための宿主の調製方法 本発明は、本発明の宿主細胞を調製する方法を包含する。 したがって本発明の方法は、組換えタンパク質を高生産するための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞を調製する方法であって:(i)アスペルギルス オリゼ細胞から内因性プロテアーゼをコードする遺伝子を二重破壊した細胞株を調製し;(ii)(i)の細胞株について、(a)組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換した後、紫外線照射による変異処理を行い、または(b)紫外線照射による変異処理を行った後、前記発現ベクターで形質転換し;(iii)組換えタンパク質の生産量を評価して、(i)の細胞株よりも組換えタンパク質の生産量が増加した細胞株を選択し;(iv)前記発現プラスミドを脱落させて、組換えタンパク質を高生産するための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞を得る;工程を含んでなる、前記方法である。 本発明の方法は、アスペルギルス オリゼ細胞について2つの内因性プロテアーゼ遺伝子を破壊し、そして発現ベクターによる形質転換を行うという3つの遺伝子工学的処理を含む。そのため、出発物質としてのアスペルギルス オリゼ細胞は、栄養要求性マーカーおよび/または薬剤耐性マーカーを含む選択マーカーのうち、少なくとも3つの選択マーカーを利用することが可能な細胞である。 利用可能な栄養要求性マーカーには、niaD、sC、argB、adeA、adeB、および/またはpyrG遺伝子などが含まれるがこれらに限定されない。ここで、niaD遺伝子は硝酸還元酵素をコードし、当該遺伝子に変異または欠損を有する菌株は硝酸を窒素源として利用できなくなる。sC遺伝子はATPスルフリラーゼをコードし、当該遺伝子に変異または欠損を有する菌株は硝酸を硫黄源として利用できなくなる。argB遺伝子は、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼをコードし、当該遺伝子に変異または欠損を有する菌株はアルギニン要求性になる。adeA遺伝子は、N−スクシニル−5−アミノイミダゾール−4−カルボキシアミドリボタイド合成酵素をコードし、当該遺伝子に変異または欠損を有する菌株はアデニン要求性になる。adeB遺伝子はホスホリボシルアミノイミダゾールカルボキシラーゼをコードし、当該遺伝子に変異または欠損を有する菌株はアデニン要求性になる。pyrG遺伝子は、オロチジン−5’−リン酸脱炭酸酵素をコードし、当該遺伝子に変異または欠損を有する菌株はウラシル要求性になる。 利用可能な薬剤耐性マーカーには、ptrA遺伝子が含まれるがこれらに限定されない。ptrA遺伝子は、チアミンのアナログであるピリチアミンに対する薬剤耐性遺伝子である。 好ましい態様において、本発明の方法における出発物質としてのアスペルギルス オリゼ細胞は、少なくとも3つの栄養要求性マーカーを利用することができる細胞である。本発明の方法において出発物質として利用可能なアスペルギルス オリゼ細胞の具体的なものとして、(niaD-、sC-、ΔargB、adeA-)の四重栄養要求性であるアスペルギルス オリゼ NSAR1株(Jin, et al., (2004) FEMS Microbiol. Lett., 239:79-85;および、北本ら、生物工学会誌、83、p.277-279 (2005)を参照)、(niaD-、sC-、ΔargB)の三重栄養要求性であるアスペルギルス オリゼ NSA1株(Jin, et al., (2004) FEMS Microbiol. Lett., 239:79-85を参照)、(niaD-、sC-、adeA-)の三重栄養要求性であるアスペルギルス オリゼ NSR13株(Jin, et al., (2004) Biosci. Biotechnol. Biochem., 68:656-662を参照)、などが挙げられるが、これらに限定されない。 本発明の方法の工程(i)においてアスペルギルス オリゼ細胞が受ける内因性プロテアーゼ遺伝子の二重破壊は、特に限定されないが、例えば、トリペプチジルペプチダーゼ遺伝子(tppA)、液胞内酸性プロテアーゼ遺伝子(pepE)、菌体外酸性プロテアーゼ遺伝子(pepA)、菌体外アルカリプロテアーゼ遺伝子(alpA)、カルパイン様プロテアーゼ遺伝子(palB)、菌体外中性プロテアーゼ遺伝子(npII)、プロリルジペプチジルペプチダーゼ遺伝子(dppIV)などから選択されるいずれか2種のプロテアーゼ遺伝子の破壊である。好ましい態様において、本発明の方法の工程(i)における内因性プロテアーゼ遺伝子の二重破壊は、tppA遺伝子およびpepE遺伝子の破壊である。 本発明の方法の工程(ii)の紫外線照射による変異処理は、当業者が通常行う条件を適宜選択して行うことができる。例えば、53cmの高さに設置した15W UVランプを用いて30秒から20分の間、好ましくは1分から15分の間、より好ましくは5分から10分の間、さらに好ましくは6分間、アスペルギルス オリゼの分生子をUV照射することにより変異処理を行うことができるが、これに限定されない。 本発明の方法の工程(ii)で形質転換に用いる発現ベクターは、組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する。組換えタンパク質の種類は特に限定されないが、組換えタンパク質の生産量を評価することが容易なタンパク質であることが望ましい。組換えタンパク質の生産量を評価することが容易なタンパク質として好ましいものには、リゾチームが挙げられる。 本発明の方法の工程(iii)における組換えタンパク質の生産量の評価は、特に限定されないが、酵素活性測定やウエスタン解析など、当業者に公知の方法のいずれかにより行うことができる。組換えタンパク質が酵素である場合は、培地中の酵素活性を測定することにより生産量を評価することができる。組換えタンパク質がリゾチームである場合は、アスペルギルス オリゼ細胞をミクロコッカス ルテウス(Micrococcus luteus)菌体を含む寒天培地上に植菌し、アスペルギルス オリゼのコロニーの周辺にリゾチーム活性により生じたハローの大きさを評価するハローアッセイを使用して組換えタンパク質の生産量を評価することができる。また、リゾチームを産生するアスペルギルス オリゼ細胞を液体培地で培養し、その培養上清について、ミクロコッカス ルテウス菌体を基質として用いてリゾチーム活性を測定することにより、組換えタンパク質の生産量をより精密に評価することができる。 本発明の方法の工程(iii)において、選択される細胞株は、工程(i)の細胞株よりも組換えタンパク質の生産量が増加している。好ましい態様において、工程(iii)で選択される細胞株は、組換えタンパク質を高生産する。ここで、組換えタンパク質を高生産するとは、内因性プロテアーゼ遺伝子であるtppA遺伝子およびpepE遺伝子が二重破壊されたアスペルギルス オリゼ細胞、例えばNS−tApE株(金 鋒傑ら、日本農芸化学会大会講演要旨集、p.240、(2005)、より詳細には後述の実施例1を参照)が発現する組換えタンパク質の量と比較して、増加した量の組換えタンパク質を発現することをいう。より具体的には、組換えタンパク質を高生産するとは、組換えタンパク質が約10kDaの分子量を有する場合に、培養液1リットル当たり26mg以上、好ましくは30mg以上、さらに好ましくは50mg以上の組換えタンパク質を産生するレベルをいう。 本発明の方法の工程(iv)において、工程(iii)で選択した細胞株から組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現プラスミドを脱落させるには、キュアリングとして当業者に知られる手法で発現プラスミドを脱落させる。具体的には例えば、各細胞株の分生子をプラスミド脱落用培地(10mM ロイシン、0.2% KCl、0.1% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、0.002% FeSO4・7H2O、2.0% グルコース、70mM KClO3、0.15% メチオニン、1.5% アガロース、pH5.5)に植菌して培養し、形成されたコロニーを回収することで行う。 このようにして、組換えタンパク質を高発現する細胞から発現プラスミドを脱落させることにより得たアスペルギルス オリゼ細胞は、所望の組換えタンパク質を高生産するための宿主として利用することができる。 組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞の調製方法 本発明は、本発明の組換えタンパク質を高生産する細胞を調製する方法を包含する。 したがって本発明の方法は、組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞を調製する方法であって:(i)アスペルギルス オリゼ細胞から内因性プロテアーゼをコードする遺伝子を二重破壊した細胞株を調製し;(ii)(i)の細胞株について、(a)組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換した後、紫外線照射による変異処理を行い、または(b)紫外線照射による変異処理を行った後、前記発現ベクターで形質転換し;そして(iii)組換えタンパク質の生産量を評価して、(i)の細胞株よりも組換えタンパク質の生産量が増加した細胞株を選択する;工程を含んでなる、前記方法である。 本発明の、組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞の調製方法において、出発物質として利用可能なアスペルギルス オリゼ細胞、内因性プロテアーゼ遺伝子の二重破壊、紫外線照射による変異処理、組換えタンパク質の生産量の評価は、先に記載した組換えタンパク質を高生産する宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞の調製方法の項目において記載した材料および手法と同様にして行う。 また、別の態様において、組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞を調製する方法は、先に記載した組換えタンパク質を高生産する宿主を調製する方法で得られた宿主細胞に対して、生産を所望する組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換することによっても得られる。そのような態様の方法は、組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞を調製する方法であって:(i)アスペルギルス オリゼ細胞から内因性プロテアーゼをコードする遺伝子を二重破壊した細胞株を調製し;(ii)(i)の細胞株について、(a)生産量を評価するための組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換した後、紫外線照射による変異処理を行い、または(b)紫外線照射による変異処理を行った後、前記発現ベクターで形質転換し;(iii)生産量を評価するための組換えタンパク質の生産量を評価して、(i)の細胞株よりも当該組換えタンパク質の生産量が増加した細胞株を選択し;(iv)前記発現プラスミドを脱落させて、組換えタンパク質を高生産するための宿主となるアスペルギルス オリゼ細胞株を取得し;(v)(iv)の細胞株について、生産を所望する組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換して、組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞を得る;工程を含んでなる、前記方法である。 ここで、工程(iii)における生産量を評価するための組換えタンパク質の種類は特に限定されないが、組換えタンパク質の生産量を評価することが容易なタンパク質であることが望ましい。組換えタンパク質の生産量を評価することが容易なタンパク質として好ましいものには、リゾチームが挙げられる。組換えリゾチームの生産量の評価は、ミクロコッカス ルテウス(Micrococcus luteus)菌体を含む寒天培地を用いるハローアッセイにより容易に行うことができる。また、組換えリゾチームの生産量のより精密な評価は、アスペルギルス オリゼ細胞を液体培地で培養し、その培養上清について、ミクロコッカス ルテウス菌体を基質として用いてリゾチーム活性を測定することにより行うことができる。 本発明の、組換えタンパク質を高生産する能力を有することを特徴とするアスペルギルス オリゼ宿主細胞は、組換えタンパク質の高生産を可能にする汎用性の高い宿主細胞である。本発明の宿主細胞を利用することにより、所望の組換えタンパク質を高生産するアスペルギルス オリゼ細胞株を得ることができ、また、この細胞株を利用することにより、所望の組換えタンパク質を効率よく製造する方法を実施することができる。本発明は、永年の食品製造に利用されてきた実績に基づく安全性を有するアスペルギルス オリゼを用いて、組換えタンパク質、特に高等生物由来の組換えタンパク質を効率よく製造することを可能にするものである。図1は、MultiSite GatewayTMシステム(Invitrogen)による遺伝子破壊用断片の作製手順を示す概念図である。図2aは、アスペルギルス オリゼ 四重栄養要求性株NSAR1における、トリペプチジルペプチダーゼ遺伝子破壊用DNA断片によるtppA遺伝子破壊の機序を示す模式図である。図2bは、tppA遺伝子が破壊されたことを示す、サザン解析の結果の写真である。図3aは、tppA遺伝子破壊株における液胞内酸性プロテアーゼ遺伝子pepE遺伝子破壊用DNA断片によるpepE遺伝子破壊の機序を示す模式図である。図3bは、pepE遺伝子が破壊されたことを示す、サザン解析の結果の写真である。図4は、ヒトリゾチーム発現プラスミドpgAFLNのプラスミドマップである。ヒトリゾチーム遺伝子はHLYで示されている。図5は、UV照射による変異処理により取得した株のヒトリゾチーム生産量を示すグラフである。図6は、仔ウシキモシン発現プラスミドpgAFCNのプラスミドマップである。仔ウシキモシンはCHYで示されている。図7は、仔ウシキモシン発現プラスミドpgAKCNのプラスミドマップである。仔ウシキモシンはCHYで示されている。図8は、アスペルギルス オリゼAUT−1株(受託番号NITE BP−215)をキモシン発現プラスミドpgAKCNで形質転換して得られる形質転換クローンにおけるキモシン生産量を示すグラフである。 以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。 実施例1:アスペルギルス オリゼ プロテアーゼ二重破壊株のヒトリゾチーム生産能 (1)アスペルギルス オリゼ NSAR1株由来のトリペプチジルペプチダーゼ遺伝子tppA破壊株の取得 アスペルギルス オリゼの4重栄養素要求性NSAR1株(niaD-,sC-,ΔargB,adeA-)(Jin, et al., (2004) FEMS Microbiol. Lett., 239:79-85;北本ら、生物工学会誌、83、p.277-279 (2005)、を参照)を用いて、内因性のトリペプチジルペプチダーゼ遺伝子tppAを破壊し、tppA遺伝子破壊株NSR−tAを作製した。 具体的にはまず、アスペルギルス オリゼのtppA遺伝子座の5’側上流領域(1.3kb)および3’側下流領域(1.3kb)のDNA断片をPCRにより調製した。また、選択マーカーとなるargB遺伝子のDNA断片もPCRにより調製した。次に、調製したtppA遺伝子座の5’側上流領域、argB遺伝子、および、tppA遺伝子座の3’側下流領域のDNA断片をMultiSite GatewayTMシステム(Invitrogen;図1参照)を用いて、tppA遺伝子破壊用DNA断片を調製した。このtppA遺伝子破壊用DNA断片をプラスミドに組み込み、トリペプチジルペプチダーゼ遺伝子tppAを破壊するためのプラスミドpdtppAを作製した。 アスペルギルス オリゼの四重栄養要求性NSAR1株(niaD-,sC-,ΔargB,adeA-)を宿主として、プラスミドpdtppAによる形質転換を行った。形質転換によりプラスミドpdtppA中のargB遺伝子がアスペルギルス オリゼの染色体のtppA遺伝子座に相同的組換えにより組み込まれる(図2a)。したがって、形質転換された細胞は、tppA遺伝子が破壊され、そしてargB遺伝子が導入されている。よって、形質転換によりアルギニン要求性が相補された株を、形質転換された株として選択した。 選択した株のDNAを制限酵素EcoRVで消化し、tppA遺伝子座の3’側下流領域をプローブとしてサザンブロットにより解析したところ、選択した株では2.9kbの断片が検出され、tppA遺伝子が破壊されたことを確認した(図2b)。 このようにして、目的のtppA遺伝子破壊株NSR−tAを取得した。 (2)液胞内酸性プロテアーゼ遺伝子pepE破壊によるプロテアーゼ遺伝子二重破壊株の作製 上記(1)のtppA遺伝子破壊株NSR−tAを用いて、液胞内酸性プロテアーゼ遺伝子pepEを破壊し、プロテアーゼ二重破壊株NS−tApEを作製した。 具体的にはまず、アスペルギルス オリゼのpepE遺伝子座の5’側上流領域(2.0kb)および3’側下流領域(2.0kb)のDNA断片をPCRにより調製した。また、選択マーカーとなるadeA遺伝子のDNA断片もPCRにより調製した。次に、調製したpepE遺伝子座の5’側上流領域、adeA遺伝子、および、pepE遺伝子座の3’側下流領域のDNA断片をMultiSite GatewayTMシステム(Invitrogen;図1参照)を用いて、pepE遺伝子破壊用DNA断片を調製した。このpepE遺伝子破壊用DNA断片をプラスミドに組み込み、液胞内酸性プロテアーゼ遺伝子pepEを破壊するためのプラスミドpdpepEを作製した。 上記のtppA遺伝子破壊株NSR−tAを宿主として、プラスミドpdpepEによる形質転換を行った。形質転換によりプラスミドpdpepE中のadeA遺伝子がアスペルギルス オリゼの染色体のpepE遺伝子座に相同的組換えにより組み込まれる(図3a)。したがって、形質転換された細胞は、pepE遺伝子が破壊され、そしてadeA遺伝子が導入されている。よって、形質転換によりアデニン要求性が相補された株を、形質転換された株として選択した。 選択した株のDNAを制限酵素HindIIIで消化し、pepE遺伝子座の3’側下流領域をプローブとしてサザンブロットにより解析したところ、選択した株では1.5kbの断片が検出され、pepE遺伝子が破壊されたことを確認した(図3b)。 このようにして、tppA遺伝子およびpepE遺伝子が二重破壊された、目的のプロテアーゼ二重破壊株NS−tApEを取得した。 (3)プロテアーゼ遺伝子二重破壊株由来のヒトリゾチーム生産株の取得 ヒトリゾチームをアスペルギルス オリゼに発現させるための、ヒトリゾチーム遺伝子を含むプラスミドpgAFLNを作製した(図4)。選択マーカーとしてniaD遺伝子を用いた。 上記(2)のアスペルギルス オリゼ プロテアーゼ遺伝子二重破壊株NS−tApE(ΔtppA,ΔpepE)に対し、niaDを選択マーカーとしてpgAFLNを形質転換し、ヒトリゾチーム生産株S−tApEL1を取得した。 ヒトリゾチーム生産株S−tApEL1を、ミクロコッカス ルテウス(Micrococcus luteus)菌体入りのハローアッセイ培地DPYMic(2% デキストリン、1% ポリペプトン、0.5% Yeast extract、0.5% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、0.1% ミクロコッカス ルテウス、0.25% Triton X-100、1.5%アガロース)に植菌し、コロニーの周辺にリゾチーム活性によるハローが形成されるのを確認した。 また、ヒトリゾチーム生産用の5x DPY液体培地(10% デキストリン、5% ポリペプトン、2.5% Yeast Extract、0.5% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、pH8.0)で30℃、4日間培養した。培養上清のヒトリゾチーム活性を測定した。リゾチーム活性は、基質にミクロコッカス ルテウス菌体を用いて、pH6.2,25℃においてOD450を1分間に0.001減少させる酵素量を1Uとして計算した。リゾチーム活性の測定結果を、ヒトリゾチーム生産量に換算したところ、培養液1リットル当たり26.5mgであった。 実施例2:ヒトリゾチーム高生産変異株の取得 ヒトリゾチーム高生産株のスクリーニングは、ハローアッセイを利用して行った。 ヒトリゾチーム生産株S−tApEL1をポテトデキストロース寒天培地(日水製薬;1リットルあたり、ポテト浸出液末4.0g、ブドウ糖20.0g、寒天15.0g、pH5.6)で30℃、5日間培養し、分生子を回収した。約107/mlの分生子懸濁液2mlを小型シャーレに入れ、攪拌子で攪拌しながら53cmの高さに設置した15W UVランプを用いて6分間のUV照射を行うことによりS−tApEL1株の変異処理を行った。その後、懸濁液は暗所で1時間以上静置し、1プレートあたり約80から100個のコロニーが形成されるように0.1% Tween 80溶液で適宜希釈してから、DPYMic培地に塗沫した。30℃で3日間培養した後、形成されたコロニーの直径およびハローの直径を測定した。約8万のコロニーの中から、コロニーの直径に対するハローの直径の比が2以上になった50株を選択した。 さらに、50株のそれぞれの分生子を約106個となるように100mlの5x DPY液体培地に植菌し、30℃で4日間振盪培養した。培養上清のヒトリゾチーム活性を実施例1(3)と同様に測定した結果、すべての株で親株であるS−tApEL1株より生産量が増加し、そのなかの1株は最大50.8mg/lの生産量を示した(図5)。 実施例3:ヒトリゾチーム発現プラスミドの脱落 実施例2のリゾチーム生産実験で高い活性を示した10株について、ヒトリゾチーム発現プラスミドの脱落を行った。 UV処理により高いリゾチーム生産量を示した上位10株(39mg/l以上の生産量を示した)をポテトデキストロース寒天培地(日水製薬)で30℃、5日間培養し、分生子を回収した。各株の分生子をプラスミド脱落用培地(10mM ロイシン、0.2% KCl、0.1% KH2PO4、0.05% MgSO4・7H2O、0.002% FeSO4・7H2O、2.0% グルコース、70mM KClO3、0.15% メチオニン、1.5% アガロース、pH5.5)に104から105分生子/プレートとなるように植菌した。30℃で4日間培養したところ、約10万から50万の分生子から1個の確率でコロニーが形成された。生育したコロニーをDPYMic寒天培地に植菌し、ハローが形成されなかった場合にヒトリゾチーム発現プラスミドが脱落したものと判断した。本実施例で取得した株をAUT−1、AUT−2、AUT−3、AUT−4、AUT−5、AUT−6、AUT−7、AUT−8とそれぞれ命名した。これらのアスペルギルス オリゼ菌株は、組換えタンパク質を高生産するための宿主として利用可能である。 このうち、アスペルギルス オリゼAUT−1株、AUT−2株、およびAUT−3株は、ブタペスト条約の規約に従って、それぞれ、受託番号NITE BP−215、受託番号NITE BP−216、および受託番号NITE BP−217として2006年3月3日に独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD:National Institute of Technology and Evaluation, Patent Microorganisms Depositary;日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託した。 実施例4:キモシン発現プラスミドの導入 (4−1)キモシン発現実験(1) 仔ウシ由来のキモシンをアスペルギルス オリゼに発現させるための、キモシン遺伝子を含むプラスミドpgAFCNを作製した(図6)。選択マーカーとしてniaD遺伝子を用いた。 実施例3で取得した、アスペルギルス オリゼ AUT−1株(受託番号NITE BP−215)、AUT−2株(受託番号NITE BP−216)、AUT−3株(受託番号NITE BP−217)、AUT−4株、AUT−5株、に対し、niaDを選択マーカーとしてpgAFCNを形質転換し、形質転換株S−tApEChを取得した。 形質転換株S−tApEChからは、目的タンパク質の分泌の効率を上げるためのキャリアタンパク質として用いたα−アミラーゼ(amyB)とキモシンの融合タンパク質が主として生産され、キモシンの成熟タンパク質は得られなかった。キャリアタンパク質としてグルコアミラーゼを使用した場合には、プラスミドpgAFCNと同様の構成であっても、組換え発現したキモシンは成熟タンパク質として生産されることが報告されていた(Tsuchiya,et al.,(1994),Biosci.Biotechnol.Biochem.,58:895−899を参照)。しかしながら、キャリアタンパク質としてα−アミラーゼを使用した場合には、キモシンの成熟タンパク質は前記報告同様には生産されないことが明らかとなった。このため、以下の発現実験(2)では、キモシン発現プラスミドにおいて、キャリアタンパク質をコードする領域とキモシンをコードする領域にプロテアーゼ切断配列を挿入し、キモシンが成熟タンパク質として生産されるよう、プラスミドの設計を変更した。 (4−2)キモシン発現実験(2) 方法 上記(4−1)の結果を踏まえ、キャリアタンパク質をコードする領域とキモシンをコードする領域の間にKex2プロテアーゼで切断されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を挿入したコンストラクトを含む、仔ウシ由来のキモシンをアスペルギルス オリゼに発現させるための、キモシン遺伝子を含むプラスミドpgAKCNを作成した(図7)。選択マーカーとしてniaD遺伝子を用いた。 実施例3で取得した、アスペルギルス オリゼ AUT−1株(受託番号NITE BP−215)に対し、niaDを選択マーカーとしてキモシン発現プラスミドpgAKCNを形質転換し、キモシン生産株AUT1−AKC1ないし7の各クローン株を取得した。そして、コントロールとして、親株である実施例1(2)で取得したプロテアーゼ二重破壊株NS−tApEに対してキモシン発現プラスミドpgAKCNを形質転換したtp−AKC2株を用いて、キモシン発現を評価した。 キモシン発現のための各形質転換体を20mlの5×DPY(pH5.5)培地中で、30℃で4日間、培養した。キモシン発現の評価は、キモシンによる凝乳活性の測定により行った。キモシンによる凝乳活性の測定は、具体的には以下の手順により行った。まず、アスペルギルス オリゼ培養液0.1mLに対して、1.0mLの12%スキムミルク溶液(10mM CaCl2を含む)を加えた。キモシンによるスキムミルクの凝乳反応を、室温でゆっくり攪拌しながら行う。スキムミルクの薄膜が壊れて視覚化可能な粒子となるまでの時間を凝乳時間とした。仔ウシキモシン標品(Sigma)で作成した検量線を用いて、凝乳活性からキモシン発現量を定量した。 結果 AUT−1株をキモシン発現プラスミドで形質転換して得られたAUT1−AKC1ないし7のキモシン生産量は、培養液1リットル当たり、AUT1−AKC1で79.6mg、AUT1−AKC2で90.7mg、AUT1−AKC3で81.7mg、AUT1−AKC4で76.8mg、AUT1−AKC5で97.4mg、AUT1−AKC6で76.4mg、AUT1−AKC7で83.6mgであった(図8)。一方、コントロールであるtp−AKC2のキモシン生産量は、60.8mg/lであった。したがって、アスペルギルス オリゼAUT−1株(受託番号NITE BP−215)におけるキモシン生産量、コントロールのプロテアーゼ二重破壊株における生産量と比較して、約1.26〜約1.6倍に上昇した。 これらの結果は、本発明のアスペルギルス オリゼ細胞が、組み換えタンパク質を高生産する能力を有することを示すものである。 アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae) AUT−1株(受託番号NITE BP−215)、アスペルギルス オリゼ AUT−2株(受託番号NITE BP−216)、またはアスペルギルス オリゼ AUT−3株(受託番号NITE BP−217)である、アスペルギルス オリゼ細胞。 組換えタンパク質を生産するアスペルギルス オリゼ細胞であって、当該細胞は、請求項1に記載の細胞に対して、組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換されている、前記細胞。 組換えタンパク質の生産方法であって:(i)請求項1に記載の細胞を、組換えタンパク質をコードする遺伝子を含有する発現ベクターで形質転換し;(ii)形質転換した細胞を培養して、前記組換えタンパク質を発現させ;そして、(iii)培地から前記組換えタンパク質を単離する;工程を含んでなる、前記方法。 生産される組換えタンパク質が高等生物由来のタンパク質である、請求項3に記載の方法。