生命科学関連特許情報

タイトル:公表特許公報(A)_膵島の単離及び移植方法
出願番号:2008501918
年次:2008
IPC分類:C12N 5/06,A61L 27/00


特許情報キャッシュ

デオルデン,ジェイムズ レイキー,ジョナサン JP 2008532547 公表特許公報(A) 20080821 2008501918 20060309 膵島の単離及び移植方法 メディアテック,インコーポレイテッド 507308289 MEDIATECH,INC. 丸山 敏之 100066728 宮野 孝雄 100100099 北住 公一 100111017 長塚 俊也 100119596 久徳 高寛 100141841 デオルデン,ジェイムズ レイキー,ジョナサン US 11/080,797 20050314 C12N 5/06 20060101AFI20080725BHJP A61L 27/00 20060101ALI20080725BHJP JPC12N5/00 EA61L27/00 ZA61L27/00 V AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,LY,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,YU,ZA,ZM,ZW US2006008390 20060309 WO2006099030 20060921 14 20071113 4B065 4C081 4B065AA90X 4B065AC20 4B065BD22 4B065CA44 4C081AB11 4C081AC03 4C081CD34 4C081EA02<発明の分野> 本発明は、膵島を単離及び移植する方法に関するものであり、より具体的には、パーフルオロカーボン乳剤(ePFC)(perfluorocarbon emulsification)を用いて、膵島の生着率を高めることに関する。<背景情報> 膵島は、膵臓内でインスリンを生成する細胞を含む多細胞体である。平均的なヒトは、約100万の膵島を有しており、それらは、膵臓内の細胞総数のおよそ3パーセントを占めている。膵臓は、ランゲルハンス島を有しており、これは、インスリンを生成するβ細胞を収容している。β細胞は、血液中の血糖値をモニターし、精細に測定された量のインスリンを放出し、血糖ピークを平衡させる。1型糖尿病及び2型糖尿病は、これらのβ細胞の90パーセント以上が損傷を受けた場合に発症する。 「エドモントンプロトコール」は、健康な膵島を糖尿病患者に移植するものである。エドモントンプロトコールを用いた膵島移植は、[Shapiro, Ryan, and Lakey, Clinical Islet Transplantation - State of the Art, Transplantation Proceedings, 33, pp. 3502-3503 (2001); Ryan et al., Clinical Outcomes and Insulin Secretion After Islet Transplantation With the Edmonton Protocol, Diabetes, Vol. 50, April 2001, pp. 710-719; and Ryan et al., Continued Insulin Reserve Provides Long- Term Glycemic Control, Diabetes, Vol. 51, July 2002, pp. 2148-2157]に記載されている。肝臓に入ると、細胞は、血液供給を発達させ、インスリンの生成を始める。エドモントンプロトコールは、使用される方法によって、7〜10のステップを含んでいる。最初のステップは、ドナー膵臓への特異的酵素(リベラーゼ)の送達が含まれ、それは、膵臓組織は消化(digests)されるが、膵島は消化されない。消化ステップの次に、膵島を膵臓内の他の細胞から分離するいくつかの連続的なステップがある。分離された膵島は、門脈として知られている肝臓の主血管に移植される。肝臓は、損傷を受けた場合、それ自体を再生でき、新たな血管を作って、組織をサポートする。それゆえに、膵島が肝臓に移植された場合、新規な血管が形成され、膵島をサポートすると考えられている。細胞が生成するインスリンは、これらの周囲血管を通じて血流中に吸収され、全身に広がって、血液中血糖値を制御する。 つまり、エドモントンプロトコールのステップは、膵島の生着率を犠牲にする厳しいプロセスを構築し、膵島は、脆弱な三次元構造を有しており、増殖及び生着率のために多量の酸素を必要としている。このプロセス中、膵島は、酸素送達の条件が最適でなければ損傷又は破壊され、所定のドナー膵臓から取り出される健康な膵島の収率に影響を及ぼす。さらに、膵島移植は、ドナー入手可能性によって厳しい制限を受け、一人の患者をインスリン非依存とするには、2つの膵臓が必要となることが多い。このため、膵島の損傷が緩和され、一人のドナーからの移植によってインスリン非依存を可能にする、単離及び移植の改善された方法が求められている。 一人のドナーからの移植の割合の改善について、膵臓保存の二層法(TLM)を用いた報告がある。例として、[Salehi et al., Ameliorating ischemic injury during preservation and isolation of human islet cells using the two layer method with perfluorocarbon and University of Wisconsin solution, Transplantation 2005 (in press); Lakey et al., Human Pancreas Preservation Prior to Islet Isolation, Cell Preservation Technology, Vol. 1, No. 1, 2002, pp. 81-87; 及び、Tsujimura et al., Human Islet Transplantation From Pancreases with Prolonged Cold Ischema Using Additional Preservation by the Two-Layer (UW Solution/ Perfluorochemical) Cold-Storage Method, Transplantation, Vol. 74, No. 12, Dec. 27, 2002, pp. 1687-1691]を参照。TLMは、ウィスコンシン大学(UW)の溶液を、パーフルオロデカリンのようなパーフルオロカーボン(PFC)と共に用い、ヒトの膵臓を保存している。UWは、長年に亘って臓器保存に用いられている。それには、ラクトビオン酸のような細胞非透過性剤が含まれており、これは、抗酸化剤として機能するグルタチオン及び、アデノシン・トリホスファターゼ合成のために重要なアデノシンと同様に、保冷中、細胞の膨張を防ぐ。PFCは、水とは混ざらないが、膵臓の保存に有用であるのは、PFCは、酸素貯蔵能力が高く、酸素結合定数が低いからであり、これにより、多量の酸素を貯蔵し、虚血臓器へ効果的に送達することができる。TLM法によれば、臓器は、UWとPFCの入った容器に浸し、臓器は、2つの液体の界面に位置するように配置して保存される。<発明の要旨> 本発明は、後で移植するためにヒトのドナー臓器から分離される、膵島の生着率を向上する方法を提供する。望ましい実施例では、膵島は、ドナー膵臓から分離され、糖尿病患者の肝臓に移植される。本発明は、細胞単離及び移植の前に、一種以上の乳化されたパーフルオロカーボン(ePFC)をドナー膵臓に注入することを含んでいる。ePFCは、膵島の酸素化を高め、健康状態及び生着率を高めることで、それらが厳しい単離処置に耐えることができるようにする。本発明は、ePFCを用いてドナー臓器を保存するだけでなく、単離及び移植処置中に損傷又は破壊されかねない膵島を救うものである。分離された膵島は、肝臓の門脈に注入され、そこで、膵島は、血液を供給し、インスリンの生成と、血糖値の調整を支援する。 本発明の目的は、膵島を単離する方法を提供することであって、該方法には、少なくとも一種の乳化されたパーフルオロカーボンをドナー臓器に導入し、ドナー臓器から膵島を単離することを含んでいる。 本発明の他の目的は、膵島を移植する方法を提供することであって、該方法は、乳化されたパーフルオロカーボンをドナー臓器に導入し、ドナー臓器から膵島を分離し、分離された膵島を目的臓器に移植することを含んでいる。 本発明の別の目的は、膵島への酸素供給を増大することであって、それによって、これら細胞の健康状態及び生着率を高め、それらが単離及び移植処置に耐えることができるようにすることである。 本発明の他の目的は、単離及び移植プロセス中に損傷又は破壊される膵島の数を低減し、生着能力のある健康な移植細胞の収率を増大することである。 本発明の他の目的は、インスリン非依存性を達成するために、複数のドナー臓器が必要となることを軽減することである。 本発明の他の目的は、ドナー臓器を、より長い輸送時間に持ちこたえるようにすることである。 本発明の他の目的は、使用に不適当と考えられかねないドナー臓器を救い出すことである。 本発明の他の目的は、様々な品質のドナー臓器のために用いられる単離処置を標準化することである。 本発明のこれら及びその他の側面は、以下の詳細な説明及び添付の特許請求の範囲から、より容易に明らかになるであろう。<表> 表1は、ラットの膵臓を対象に実施した実験に関する、膵島の一覧(enumeration)、サイズ及び生着率を表している。 表2は、ヒトのドナー膵臓を用いて行った実験に関する、経時的な組織ATPレベルを表している。 表3は、ヒトのドナー膵臓を用いて行った実験に関する、経時的な組織エネルギー変化を要約したものである。<詳細な説明> 本発明は、後の移植のためにヒトのドナー臓器から分離される膵島の生着率と回復を向上する方法を提供するものである。望ましい実施例において、膵島は、ドナー膵臓から分離され、糖尿病患者の肝臓に移植される。本明細書に含まれる説明は、主として、肝臓への細胞移植を意味するが、本発明は、その他の目的、例えば精巣に使用されることもできると理解されるべきである。本明細書で用いられる場合、患者、ドナー及びドニーなる用語は、人間と動物界の構成員を意味する。 本発明は、細胞の単離及び移植の前に、一種以上の乳化されたパーフルオロカーボン(ePFC)をドナー膵臓に導入することを含んでいる。この導入は、ドナー膵臓への注入によって実現され、それは、ドナー膵臓へのePFCの注入も含まれる。ePFCは、膵島の酸素化を高め、それによって、それらがエドモントンプロトコールのような厳しい単離処置に耐えることができるように、健康状態及び生着率を高めることができる。本発明は、ePFCを用いてドナー臓器を保存するだけでなく、単離及び移植処置によって損傷又は破壊されかねない膵島を救うものである。 ePFCは、水と、パーフルオロデカリン又はパーフルオロオクチルブロミドのようなあらゆる適当なPFCの注入可能な乳剤(emulsification)を含んでいる。PHER−O2は、Sanguine Corporationによって製造された商業的に利用可能なePECの一例である。乳剤中のPFCミセルは、特定サイズに限定されるものではなく、各ミセルの平均サイズ(例えば、幅)は、望ましくは、約275〜310ミクロンの範囲であり、最も望ましいミセルサイズは約290ミクロンである。乳剤は、混濁又は不透明に見える。乳剤中のPFCの量を変える場合、約40〜90重量パーセントの範囲とすることが望ましい。一般的なドナー膵臓の場合、単離前の膵島の生着率を高めるために、20〜150ミリメートルの乳剤を用いることができる。乳剤は、膵管の膨張又は破裂を避けるために、小さな部分にゆっくりと注入する。しかしながら、PFCの量及び乳剤の総量は、使用される注入法と同様に、ドナー臓器の品質、健康状態及びサイズと、ドナーから取り出された時間と、臓器を輸送する方法によって、上記の値とかなり異なる又は離れることもある。 ePFCは、調製及び瓶詰めされた後、無菌酸素を使用し、一定期間、酸素化される。次に、乳剤は、細い針、カニューレ、プラスチックチューブ又は同様なデバイスを用いて、ドナー膵臓の膵管に注入される。膵島単離処置の第1ステップ(酵素消化)の前に、乳剤は、約4時間そのまま放置し、十分に酸素化させる。注入は、ミセル状態において、PFCが、より大きい表面積となり、より多数の膵島と接触するから、膵臓を溶液に浸すことよりも望ましい。その一方で、PFCとUWのTLM溶液は、臓器に注入することはできない。一旦注入が行なわれると、ePFCは、膵臓内に含まれている膵島に酸素を放出する。PFCからの酸素放出は、PFCを人工血液として使用する多くの試行により十分に立証されている。 ePFC注入後、エドモントンプロトコール又は別の適した処置を施して、ドナー膵臓中で他の細胞から膵島を分離する。エドモントンプロトコールは、複数のステップを含む。例として、管還流(ductal perfusion)を通じた膵臓の膨張と、それに続く酵素及び機械的消化と、密度勾配遠心分離法を用いた膵島の精製が挙げられる。酵素消化ステップは、一般的に多くの膵島を損傷や破壊を伴う厳しいプロセスであって、生着可能で移植可能な単離後の細胞の収率低下をもたらす。しかしながら、ePFCを注入することで、膵島を成長させるためにより多くの酸素を利用することができ、これにより、これら細胞の多数は、酵素破壊と、プロセスのその他の機械的ステップの中で生き延びることができる。 細胞小器官のような膵島は、特殊な形状及び機能を有しており、膵島ユニット内に1タイプ以上の細胞(例えば、β細胞)を含んでいる。特異的細胞の優秀性(goodness)(すなわち、健康状態及び生着率)を決定するために多くのパラメータが用いられる。生着率は、1)ATPレベルの決定と、2)組織エネルギー変化(Tissue Energy Change)の測定を指標とすることができる。 エドモントンプロトコールを用いた一般的な単離処置中、ATPレベルは減少する。しかしながら、ePFCがドナー膵臓に注入される場合、ATPレベルは、実際に同じ状態のまま又は、続く単離処置にて増加する。ePFC注入の後、ATPレベルは、ePFCが注入されていない臓器と比べて、何倍にも増加した。ATPの上昇は、ePFCが、膵臓細胞の優秀性を向上又は救い出し、それらが厳しい単離処置に耐えることができるようにすることを示唆している。ATPの上昇は、さらに、ePFCが、膵臓から単離される、生着力のある健康な移植細胞の収率を増大させることを示唆している。特定の死因により、膵臓内の細胞の優秀性に悪影響が及び、その結果として、特定のドナー臓器が、使用に不適当と考えられることがある。しかしながら、ATPの上昇は、ePFCが、死因によって拒絶されかねないドナー臓器を救い出すために使用できることを示唆している。ATPの上昇は、さらに、ePFCによって、ドナー臓器を、内部に含まれる細胞の生着率を殆ど犠牲にすることなく、長時間の輸送を許容できることを示唆している。ATPのように、組織エネルギー変化は、ePFCが無い場合に減少し、ePFCを加えた場合に同じ状態のまま又は増大する傾向がある。ラットの膵臓と、ヒトのドナー臓器を対象に実施された実験の詳細を以下に示している。<実施例1> UW、TLM及びePFCの有効性を比較するために、後の単離にラット膵臓が維持する能力の実験を行った。6つのラット膵臓を、3つのグループとした。グループ1は、UWの溶液に浸し、グループ2は、UWとPFCの界面にTLMを使用して浸し、グループ3は、ePFCを注入した。ハンクス平衡塩溶液(HBSS)を膵臓の膨張に使用したのは、ePFCでは適切な膨張には至らないからである。 2つの膵臓を、500mLのポリプロピレン製の長手広口瓶の入れられた3つの異なった溶液のうちの1つに移した。グループ1は、60mLのUW溶液であり、グループ2は、60mLのUW溶液(「Viaspan」)と60mLのPFC(30分間100%酸素で予め酸素化されている)からなる2層溶液であり、グループ3は、60mLのePFC(30分間100%酸素で予め酸素化されている)であった。使用した非混和性PFC及びePFCは、PFCの一種であるパーフルオロデカリンを含有していた。3つのグループすべてにおいて、金属製グリルを膵臓の上に用いた。特に、グループ2では、膵臓がUWとPFCの界面に位置するように配置して、浮動を防止した。3つのすべての容器は、直ちに氷の上に置き、18時間冷蔵保存(〜4℃)した。 18時間の冷蔵保存後、膵臓を冷蔵保存から取り出し、膵島を、標準的な技法を用いて単離した。取り出した膵島を、およそ25mlのHBSS+を含むチューブに入れ、2分間500xgで遠心分離器で分離し、次に、HBSS+を用いて洗浄し、1時間37℃のM199溶液に入れた。 ランダムに選んだサンプルを取り出し(100μl又は1:50)、染色用の7滴ジチゾンに留置した。5〜10分後、サンプルを、ペトリ皿に塗りつけ、2つのブラインド式エニュメレータ(blinded enumerators)で、 顕微鏡検査下でグリッドシステムを使用してカウントした。このグリッドシステムは、増倍率を用い、直径150μmの膵島を1膵島当量(IE)としてカウントとした。 膵島の生着率は、膜完全性分別染色(membrane integrity differential staining)を通じて定量化した。サンプルを取り出し、ジメチルスルホキシド中、5mMのYSTO Green 13、10μlと混合した。2分後、エチジウムブロマイドが25.4mMのダルベッコのリン酸平衡塩類(DPBS)溶液5μlを添加した。スライドは層状(steaked)にし、生着率は、蛍光顕微鏡下で、生着力のある膵島と生着不能な膵島をカウントすることによって決定した。各グループの写真を撮った。 各グループからの3つの1:50サンプル(1グループ当たり2つの膵臓)を、37℃の95%CO2で2時間、低血糖(2.8mM)溶液に留置し、その後、上清を除去し、それを後の試験のために冷凍した。膵島サンプルを、37℃の95%CO2で2時間、高血糖(20mM)溶液に留置した。この場合も先と同様に、上清を除去し、冷凍した。サンプルは、ELISAを用いてインスリン含有量を分析した。なお、この処置は、重要な成果を生み出さなかったので、特にサンプル試験のコストを考慮に入れ、中止した。 膵島の数、平均サイズ及び生着率は、SPSS11.5ソフトウェアでANOVA試験を使用し、グループ間で比較した。ANOVAがp=0.05で有意を示す場合には、ボンフェローニの事後解析により、有意に異なったグループを見つけた。表1は、その結果を要約しており、平均±SEMとして表している。これら結果は、グループ3の膵島サイズ及び生着率が、グループ1及び2と比較して増大していることを示している。しかしながら、ラット膵臓のサイズが小さく、これらの微小臓器の小さな管にePFCを注入する困難であるため、ヒトの膵臓を用いたさらなる実験が必要であると判断した。 図1は、各グループに関する訂正されていない膵島エニュメレーション(islet enumeration:IE)のボックスプロットである。すべてのグループ、特にグループ3は、負側にスキュー(skewed)している。少数の主な異常値は、IEカウントに最初に存在した。低い異常値をグループ2から取り除き、2つをグループ3から取り除いたのは、カウントが、問題のあると思われる染色が原因によるものと考えられ、カウントが極めて低かった(次の最低値より3倍低かった)からである。さらに、グループ2及び3からのカウントを取り除いたのは、それらが極めて高かったためであって、カウントを歪めるような極めて大きな膵島が少数存在したことが原因である(それぞれは、訂正された平均値から約3以上の標準偏差であった)。 図2は、訂正された膵島エニュメレーションのボックスプロットを表しており、異常値の除去した後のより正規な分布を示している。訂正されたデータセットのANOVA分析は、有意差(p=0.041)を示した。ボンフェローニの事後解析は、グループ2(1491±280IE)とグループ1(667±118IE)の間の有意差(p=0.048)を示した。(注記:グループ2に関して、エニュメレーションは、2つのラット膵臓毎、すなわち、トライアル毎に2つの膵臓を表している。)グループ2及び3(1328±301IE)は、互いによく似ていたが(p=1.00)、グループ3とグループ1の間に有意差は無かった。幾つかのサンプルには、顕微鏡検査下で長糸状組織損傷があり、それは、恐らく過剰なコラゲナーゼ消化から、組織凝集を引き起こしたものと考えられる。しかしながら、何れのグループも、そのような損傷を表す高い傾向を示さなかった。 IEシステムでは、膵島サイズを推定するためにグリッドを使用し、その後、トライアル毎に各グループの平均サイズを決定するために使用される。グループ1(120±6.5μm)と、グループ2(120±5μm)と、グループ3(133±12μm)の間で、平均膵島直径に有意差(p=0.43)は無かったが、グループ3は、その他の2つより僅かに大きかった。 SYTO/EB膜完全性染色は、膵島の生着率の定量的及び定性的評価をもたらした。図3は、グループ1、2及び3の微分蛍光染色の写真を示している。グループ1(52±9%)と、グループ2(61±9%)と、グループ3(65±12%)の間で、生着率に有意差(p=0.58)は無かった。すべてのグループにおいて、幾つかの膵島の境界線に沿って断片化(fragmentation)があり、これにより、それらの品質が生着不能と認定されることがある。また、すべてのグループにおいて、幾つかの組織凝集があった。グループ1は、中央膵島死であることが特徴である。グループ2は、無傷の境界線を有する生着力のある膵島を含み、死因は、概して、膵島境界線周囲の断片化が原因であった。グループ3の生着力のある組織は、特に球状(spheroidal)であり、グループ3の生着不能な膵島は、概ね断片化によって、稀に中央死(central death)であることが特徴である。 上述の如く、静的培養は、この実験で中止した。静的培養(SI)は、高グルコース溶液におけるインスリン生成と、低グルコース溶液におけるインスリン生成の比である。グルコースに反応するインスリン刺激指数は、1より大きいと予想されたが、すべての場合において、1未満であった。例えば、3回目のトライアルでは、平均SIが、グループ1については0.59、グループ2については0.62、グループ3については0.39であった。 この実験は、表1に示すように、UWに二層法を使用して18時間保存した後、膵島収率において著しい改善を呈した。保存後IEは、ePFCと二層法の間でよく似ており(ボンフェローニの事後解析から(p=1.00))、その二層法は、若干高い平均値を生じた(1491IE対1328IE)。しかしながら、僅かな有意異常値を、データセットから取り除く必要があった。膵島単離は、その結果(例えば、コラゲナーゼ活性、ドナー、機械的消化及び膵島精製)に影響を及ぼす無数の変数に左右される。さらに、膵島の染色に関する問題は、カウントの異常値の一因になった。ジチゾンは、エニュメレーションのために使用される染色液であり、亜鉛をキレートし、後に通常インスリンとともに六量体を形成する。したがって、(静的培養検定法に見られるような、)保存された膵島のインスリン生成で観察された欠陥は、問題のある染色に起因したものと思われる。 静的培養により、高血糖条件に曝された場合における、保存されたすべての膵島のインスリン生成能力の欠陥が明らかとなった。これには幾つかの説明を行なうことができる。第1に、β細胞は、冷蔵保存によって、インスリン含有量が減少していたと考えられる。恐らく、低温での保存が、通常の細胞代謝プロセスを阻害し、それゆえに、インスリン生成酵素の発現と同様に、保存用インスリンの生成が阻止されたものと考えられる。37℃未満での膵島の培養は、脱顆粒に関与しており、膵島β細胞のインスリン反応の障害となる。これは、膵臓の冷蔵保存についても同様であると考えられる。第2に、単離手法は、膵島(消化及び密度勾配遠心分離法)に対して過酷であり、脱顆粒及び/又は障害のあるインスリンの生成を引き起こす可能性がある。第3の可能性は、殆どの膵島が生着不能であったことである。しかしながら、膵島が殆ど生着不能だったという見解は、他の膜完全性染色の結果と一致しない。すべてのケースにおいて、この染色手法に由来する生着率は、低温虚血時間の長さ(18時間)を考えると、適度に高かった(すべての手段は50%以上であった)。それゆえに、低温保存と、膵島単離に関連する摂動(perturbations)を組み合わせた効果により、静的培養アッセイは、低SI値を示す可能性が高い。 一般的に、膵島は、低酸素状態にて中心性壊死(centrally necrotic)になる。大きい膵島が大きい程、膵島の表面積対直径の比が減少するので、中央組織への酸素化拡散が減少し、虚血状態において中心性壊死になり易いと推測することは、理にかなっている。膵島のサイズは、グループ間で著しい違いはなかったが、ePFCグループは、他のグループと比べて僅かに高かった。これは、ePFCグループにおける酸素化が、より優れていることを示唆している。 3つのグループ間で、(膜完全性データから算出される)生着率に有意差は無かったが、平均生着率は、グループ3(65%)が、グループ2(61%)又はグループ1(52%)より若干高かった。UVグループの膵島は、おそらく酸素抑制による中心性壊死の損傷が、その他の2つのグループより大きくなっているように思われる。TLMは、膵島を中央死から最も良く保存することを示したが、平均生着率は、ePFCグループより若干低かった。このグループ及びePFCグループにおいて、生着不能の膵島の殆んどは、断片化のためであると考えられ、単離処置によって、冷蔵保存により既に脆弱となっていた膵島の境界が分離されたためであると考えられる。 エニュメレーションデータから、TLMは、膵臓全体の保存する際に膵島を保存するのに、最も有効であったと思われる。しかしながら、ePFCグループの膵島の平均数は、TLMグループと同等であり(p=1.00)、生着率及び膵島サイズは若干高かったが、何れのケースにも統計的な有意性は無かった。ePFCに対するTLMの利点のいくつかは、何れもUWにある細胞非透過性剤、グルタチオン及びアデノシンが欠如していたことによるものと思われる。 この実験は、前述のとおり、二層法が、膵島単離のために膵臓を保存する際に、UWより効果的であることを確認するためのものである。さらに、新規ePFCが、移植のために通常の膵島生理機能を保持するのに有効であることを立証するものである。乳化されたPFCは、非混和性PFCを越える利点を有する可能性がある。例えば、ドナーから膵臓を回収する際、乳化物を膵臓に浸み込ませることができ、これにより、臓器内の細胞の直接的な酸素化を許容し、酸素送達の有効表面積が増大される。ePFC溶液をラット膵臓に浸み込ませる試行では、十分に膨張しなかったため達成には至らなかった。これは、溶液の粘度が高いこと、ラット膵臓の管系のサイズが小さいことによると考えられる。より大きいヒトの膵臓では浸み込みについての問題はない。さらに、ePFCを希釈することで、この溶液を用いた膵臓膨張に対する今後の試行成果を高めることができる。<実施例2> 細胞の生着性に関するePFCの効果を試験するためにヒトのドナー膵臓を得た。2つのドナー膵臓(ドナー1及びドナー2と称する)を、対照として使用し、これらにはePFC注入を行わなかった。2つの実験用ドナー膵臓(ドナー3及びドナー4と称する)には、ePFC注入を行なった。膵島は、標準的なエドモントンプロトコールを用いて単離した。 表2は、ドナー1〜4に関する精製前及び精製後の組織ATPレベルを示している。表3は、ドナー1〜4に関する精製前及び精製後の組織エネルギー変化を示している。「精製(purification)」は、エドモントンプロトコールの一部として行なわれる膵島の精製を意味している。ドナー3及びドナー4に関する実験データは、ドナー1及びドナー2に関する対照データに比べて、ATPレベル及び組織エネルギー変化が顕著に増加していることを示している。実際に、対照は、これらのエネルギーレベルが殆んどが減少している。ATPレベル及び組織エネルギー変化の増加は、ePFCで処理された膵島の生着性及び健康状態が高められたこと、及び、これらの膵島が回復又は救い出されたことを明確に証明している。 本発明の特定の実施例を例示目的で上述したが、当該分野の専門家であれば、本発明の詳細に関する様々な変更は、添付の請求項に規定される発明から逸脱することなく、行われることが明らかであろう。ラット膵臓を対象に実施した実験に関する、訂正されていない膵島エニュメレーションのボックスプロットである。ラット膵臓を対象に実施した実験に関する、訂正された膵島エニュメレーションのボックスプロットである。ラット膵臓を対象に実施した実験からの微分蛍光染色を示す写真を表している。 膵島を単離する方法であって、 少なくとも一種の乳化されたパーフルオロカーボンをドナー臓器に導入し、 ドナー臓器から膵島を分離すること、 を含んでいる、膵島を単離する方法。 ドナー細胞は、ヒトの膵臓を含む請求項1に記載の方法。 少なくとも一種の乳化されたパーフルオロカーボンは、パーフルオロデカリン及びパーフルオロオクチルブロミドを含む群から選択される請求項1に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、約40〜90重量パーセントのパーフルオロカーボンを含む請求項1に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、複数のミセルを含む請求項1に記載の方法。 各ミセルは、平均サイズが約275〜310ミクロンの範囲である請求項5に記載の方法。 各ミセルは、平均サイズが約290ミクロンである請求項5に記載の方法。 約20〜150ミリメートルの乳化されたパーフルオロカーボンが、ドナー臓器に導入される請求項1に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、注入によってドナー臓器に導入される請求項1に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、注入によって膵臓に導入され、膵管に入る請求項1に記載の方法。 膵島は、エドモントンプロトコールによってドナー臓器から分離される請求項1に記載の方法。 ATPレベルは、乳化されたパーフルオロカーボンの導入により増加する請求項1に記載の方法。 ATPレベルは、乳化されたパーフルオロカーボンの導入によってほぼ同じ状態である請求項1に記載の方法。 組織エネルギー変化は、乳化されたパーフルオロカーボンの導入により増加する請求項1に記載の方法。 組織エネルギー変化は、乳化されたパーフルオロカーボンの導入によってほぼ同じ状態である請求項1に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、使用に不適当であると考えられかねないドナー臓器を救い出す請求項1に記載の方法。 膵島を移植する方法であって、 乳化されたパーフルオロカーボンをドナー臓器に導入し、 ドナー臓器から膵島を分離し、 分離された膵島を目的臓器に移植すること、 を含む、膵島を移植する方法。 ドナー細胞は、ヒトの膵臓を含む請求項17に記載の方法。 目的臓器は、糖尿病患者の肝臓を含む請求項17に記載の方法。 少なくとも一種の乳化されたパーフルオロカーボンは、パーフルオロデカリン及びパーフルオロオクチルブロミドを含む群から選択される請求項17に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、約40〜90重量パーセントのパーフルオロカーボンを含む請求項17に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、複数のミセルを含む請求項17に記載の方法。 各ミセルは、平均サイズが約275〜310ミクロンの範囲である請求項22に記載の方法。 各ミセルは、平均サイズが約290ミクロンである請求項22に記載の方法。 約20〜150ミリメータの乳化されたパーフルオロカーボンが、ドナー臓器に導入される請求項17に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、注入によってドナー臓器に導入される請求項17に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、注入によって膵臓に導入され、膵管に入る請求項17に記載の方法。 膵島は、エドモントンプロトコールによってドナー臓器から分離される請求項17に記載の方法。 ATPレベルは、乳化されたパーフルオロカーボンの導入により増加する請求項17に記載の方法。 ATPレベルは、乳化されたパーフルオロカーボンの導入によってほぼ同じ状態である請求項17に記載の方法。 組織エネルギー変化は、乳化されたパーフルオロカーボンの導入により増加する請求項17に記載の方法。 組織エネルギー変化は、乳化されたパーフルオロカーボンの導入によってほぼ同じ状態である請求項17に記載の方法。 乳化されたパーフルオロカーボンは、使用に不適当であると考えられかねないドナー臓器を救い出す請求項17に記載の方法。 【解決手段】本発明は、後の移植のためにドナー臓器から分離される膵島の生着性及び回復性を高める方法に関する。望ましい実施例において、膵島は、ドナー膵臓から分離され、糖尿病患者の肝臓に移植される。一種以上の乳化されたパーフルオロカーボン(ePFC)を、膵島単離及び移植の前にドナー膵臓に注入する。ePFCは、膵島の酸素化を高め、それらが厳しい単離処置、例えばエドモントンプロトコールに耐えることができるように、生着性及び健康状態を高める。本発明は、ePFCを使ってドナー臓器を保存するだけでなく、単離及び移植処置中にて損傷又は破壊されかねない膵島及びドナー臓器を救い出す。分離された膵島は、肝臓の門脈に注入されて、インスリンの生成と血糖値の調整を支援する。【選択図】図2


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