タイトル: | 特許公報(B2)_CD1dリガンドをパルスした、標的抗原及びCD1dの共発現細胞による免疫療法 |
出願番号: | 2008501739 |
年次: | 2015 |
IPC分類: | C12N 5/10,A61K 39/00,A61P 31/00,A61P 35/00,C12N 15/09 |
藤井 眞一郎 清水 佳奈子 JP 5672647 特許公報(B2) 20150109 2008501739 20070221 CD1dリガンドをパルスした、標的抗原及びCD1dの共発現細胞による免疫療法 独立行政法人理化学研究所 503359821 高島 一 100080791 藤井 眞一郎 清水 佳奈子 JP 2006045193 20060222 20150218 C12N 5/10 20060101AFI20150129BHJP A61K 39/00 20060101ALI20150129BHJP A61P 31/00 20060101ALI20150129BHJP A61P 35/00 20060101ALI20150129BHJP C12N 15/09 20060101ALI20150129BHJP JPC12N5/00 102A61K39/00 HA61K39/00 ZA61P31/00A61P35/00C12N15/00 A C12N1/00-7/08 C12N15/00-90 JSTPLUS JMEDPLUS JST7580 BIOSIS MEDLINE WPIDS J.Exp.Med.(2005)Vol.202,No.11,p.1507−1516 Int.J.Cancer(2004)VOL.109,p.402−411 J.Immunol.(2001)Vol.167,p.3114−3122 4 JP2007053209 20070221 WO2007097370 20070830 21 20100219 2013006893 20130415 鈴木 恵理子 飯室 里美 今村 玲英子 本発明は、標的抗原及びCD1dの共発現細胞、標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dの共発現細胞、それらの作製方法、ならびに標的抗原に対する免疫誘導剤などに関する。 NKT細胞は、T細胞とNK細胞の両方の特徴を併有するリンパ球系譜(lymphocyte linage)を構成する細胞であり、MHCクラスI様分子CD1d上に提示される抗原により活性化され、抗腫瘍作用等の作用を示す。CD1d上に提示され、且つNKT細胞を強力に活性化する抗原(CD1dリガンド)としては、例えば、糖脂質α−ガラクトシルセラミド(α−GalCer)が存在する。初代(primary)NKT細胞は、α−GalCer等の抗原をロードした抗原提示細胞(antigen presenting cell:APC)により刺激され、分化・増殖し得る。このようなAPCとしては、例えば、マクロファージ、未熟又は成熟樹状細胞(dendritic cell:DC)等が知られているが、なかでも、α−GalCerをパルスした成熟DCは、NKT細胞を強力に活性化することを本発明者らは以前に報告している。 これまで、NKT細胞による免疫療法としては、CD1dリガンドを提示させた樹状細胞により活性化されたNKT細胞の投与が、臨床的に試みられている。また、本発明者らは、マウスモデルにCD1dリガンドを投与することで、CD1dリガンドのアジュバント効果としての抗原特異的なT細胞免疫誘導が生じることを報告している。 なお、本発明者らの発明の分野に関連する公知文献としては、以下の文献が存在する。 非特許文献1には、マウスモデルにおいて、α−GalCerをパルスした成熟DCがIFN−γ産生性NKT細胞を強力に活性化し得ること、並びにそのように誘導されたNKT細胞が抗腫瘍効果を示すことが記載されている。 非特許文献2には、ヒトサンプルを用いた実験において、α−GalCerがパルスされた成熟DCが、IFN−γ産生性NKT細胞を強力に活性化し得ること、並びにマクロファージ、未熟樹状細胞もまたNKT細胞を活性化し得ることが記載されている。 非特許文献3には、NKT細胞の活性化の際、樹状細胞が抗原を取り込むと樹状細胞が成熟し、抗原特異的なT細胞を誘導できることが記載されている。 非特許文献4には、NKT細胞による樹状細胞の成熟において、IFN−γ及びTNF−α、並びにCD40のシグナルが重要であることが記載されている。 非特許文献5には、in vitroで活性化したヒトNKT細胞が、α−GalCerを提示したCD1d発現標的を殺傷し得ることが記載されている。 非特許文献6には、CD1dがB細胞性白血病細胞株上に発現しており、NKT細胞へのα−GalCerの提示を媒介し得ることが記載されている。 非特許文献7には、NKT細胞の活性化において、樹状細胞の成熟及び該細胞による抗原の取り込みなしには、抗原特異的T細胞を誘導できないことが記載されている。 非特許文献8には、α−GalCer投与によるNKT細胞の活性化の際に抗原を投与することで、抗原特異的な免疫応答が誘導されることが記載されている。 しかしながら、腫瘍に対する免疫療法を確立する上で切望されている、NKT細胞の活性化及び腫瘍に対するT細胞免疫応答の同時誘導を可能とする方法は、未だ開発されていない。Fujii et al., Nature Immunology 3: 867-874 (2002)Fujii et al., Journal of Immunological Methods 272: 147-159 (2003)Fujii et al., The Journal of Experimental Medicine 198: 267-279 (2003)Fujii et al., The Journal of Experimental Medicine 199: 1607-18 (2004)Metelitsa et al., The Journal of Immunology 167: 3114-3122 (2001)Fais et al., International Journal of Cancer 109: 402-11 (2004)Hermans et al., The Journal of Immunology 171: 5140-5147 (2003)Silk et al., The Journal of Clinical Investigation 114, 1800-11 (2004) 従って、本発明の目的は、NKT細胞の活性化及び腫瘍に対するT細胞免疫応答を同時に誘導する方法を提供することである。 本発明者らは、予想外かつ驚くべきことに、CD1dリガンドでパルスされた腫瘍細胞が、当該腫瘍細胞に特異的である非常に強力な免疫応答、特にNK/NKT細胞活性化及びT細胞免疫応答を同時に誘導することを見出した。また、さらに鋭意検討を重ねた結果、上記の抗腫瘍免疫応答が、腫瘍細胞に発現しているCD1d依存性であることなどを見出した。以上の知見より、本発明者らは、CD1dリガンドでパルスされた腫瘍抗原及びCD1dの共発現細胞が、当該腫瘍細胞に特異的である非常に強力な免疫応答、特に、NK/NKT細胞の活性化及びT細胞免疫応答を同時に誘導し得るという結論を得るに至った。かかる方法論は、腫瘍に対する免疫療法のみならず、特異的な標的抗原を発現している細胞及び生物、例えばウイルス感染細胞及び病原体(例、ウイルス)に対する免疫療法として広く応用できると考えられる。CD1dリガンドでパルスされた、標的抗原及びCD1dの共発現細胞を、該標的抗原(その保有物を含む)に対する免疫誘導のために用いるという思想は、上記先行文献には記載も示唆もされていない。 以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、以下の発明などを提供する:〔1〕標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dの共発現細胞の作製方法であって、 培養培地において、標的抗原及びCD1dの共発現細胞をCD1dリガンドで処理することを含む、方法。〔2〕標的抗原及びCD1dの共発現細胞を、以下(a)又は(b)の前工程により作製することをさらに含む、上記〔1〕記載の方法:(a)目的細胞において標的抗原及びCD1dが共発現するように、あるいは標的抗原及びCD1dの共発現細胞において標的抗原及び/又はCD1dの発現を増強するように細胞を処理して、標的抗原及びCD1dの共発現細胞を得る工程;あるいは(b)個体から採取された生体サンプルから標的抗原及びCD1dの共発現細胞(又は天然共発現細胞)を回収して、標的抗原及びCD1dの共発現細胞を得る工程。〔3〕標的抗原が、腫瘍抗原又は病原体抗原である、上記〔1〕記載の方法。〔4〕腫瘍細胞又はウイルス若しくはウイルス感染細胞に対する免疫活性化能を有する腫瘍細胞又はウイルス感染細胞の作製方法であって、 培養培地において、CD1dを発現する腫瘍細胞又はウイルス感染細胞をCD1dリガンドで処理することを含む、方法。〔5〕腫瘍細胞が、固形腫瘍細胞、又は造血組織における腫瘍細胞である、上記〔4〕記載の方法。〔6〕標的抗原及びCD1dの共発現細胞の作製方法であって、 目的細胞において標的抗原及びCD1dが共発現するように、あるいは標的抗原及びCD1dの共発現細胞において標的抗原及び/又はCD1dの発現を増強するように細胞を処理することを含む、方法。〔7〕CD1dを発現する、又はCD1dの発現が増強された腫瘍細胞又はウイルス感染細胞の作製方法であって、 少なくともCD1dを発現するベクターで腫瘍細胞又はウイルス感染細胞を形質転換することを含む、方法。〔8〕標的抗原及びCD1dの共発現細胞の同定方法であって、 目的細胞における標的抗原及び/又はCD1dの発現を測定することを含む、方法。〔9〕目的細胞が、個体より採取された、腫瘍細胞又はウイルス感染細胞である、上記〔8〕記載の方法。〔10〕標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dの共発現細胞。〔11〕標的抗原が、腫瘍抗原又は病原体抗原である、上記〔10〕記載の細胞。〔12〕腫瘍細胞又はウイルス若しくはウイルス感染細胞に対する免疫活性化能を有する、CD1dを発現する腫瘍細胞又はウイルス感染細胞。〔13〕少なくとも標的抗原を発現するベクター又は少なくともCD1dを発現するベクターで形質転換された細胞である、上記〔12〕記載の細胞。〔14〕標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dの共発現細胞を含む、標的抗原に対する免疫誘導剤。〔15〕標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dの共発現細胞、ならびにアジュバントを含む、組成物。〔16〕標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dの共発現細胞を含む、医薬。〔17〕固形腫瘍、造血組織における腫瘍又は感染症の治療剤である、上記〔16〕記載の医薬。〔18〕標的抗原及びCD1dの共発現細胞であって、 標的抗原及びCD1dを共発現するように、あるいは標的抗原及び/又はCD1dの発現を増強するように処理された、細胞。〔19〕該細胞が、以下(a)〜(e)のいずれかの細胞である、上記〔18〕記載の細胞:(a)少なくとも標的抗原を発現するベクターで形質転換された、CD1d天然発現細胞;(b)少なくともCD1dを発現するベクターで形質転換された、標的抗原の天然発現細胞; (c)少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクターで形質転換された、細胞;(d)標的抗原を取り込ませた、CD1d天然発現細胞;ならびに(e)少なくともCD1dを発現するベクターで形質転換され、かつ標的抗原を取り込ませた、細胞。〔20〕該細胞が、以下(a)〜(e)のいずれかの細胞である、上記〔18〕記載の細胞:(a)少なくとも標的抗原を発現するベクターで形質転換された、CD1d発現抗原提示細胞;(b)少なくともCD1dを発現するベクターで形質転換された、腫瘍細胞又はウイルス感染細胞;(c)少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクターで形質転換された、CD1d発現抗原提示細胞、あるいは腫瘍細胞又はウイルス感染細胞;(d)標的抗原を取り込ませた、CD1d発現抗原提示細胞;ならびに(e)少なくともCD1dを発現するベクターで形質転換され、かつ標的抗原を取り込ませた、CD1d発現抗原提示細胞、あるいは腫瘍細胞又はウイルス感染細胞。〔21〕標的抗原及びCD1dの共発現ベクターであって、 標的抗原をコードする第1のポリヌクレオチド及びCD1dをコードする第2のポリヌクレオチド、ならびに該ポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含む、ベクター。〔22〕以下(a)〜(o)のいずれかを含む、キット:(a)(a1)少なくとも標的抗原を発現するベクター(但し、CD1dは発現しない)、及び(a2)少なくともCD1dを発現するベクター(但し、標的抗原は発現しない)の組合せ;(b)(b1)標的抗原発現細胞、及び(b2)少なくともCD1dを発現するベクターの組合せ;(c)(c1)CD1d発現細胞、及び(c2)少なくとも標的抗原を発現するベクターの組合せ;(d)(d1)少なくともCD1dを発現するベクター、及び(d2)標的抗原の組合せ;(e)(e1)CD1d発現細胞、及び(e2)標的抗原の組合せ;(f)(f1)CD1dリガンド、及び(f2)少なくとも標的抗原を発現するベクターの組合せ;(g)(g1)CD1dリガンド、及び(g2)標的抗原発現細胞の組合せ;(h)(h1)CD1dリガンド、及び(h2)標的抗原の組合せ;(i)(i1)CD1dリガンド、及び(i2)標的抗原及びCD1dの共発現細胞の組合せ;(j)(j1)CD1dリガンド、(j2)標的抗原発現細胞、及び(j3)少なくともCD1dを発現するベクターの組合せ;(k)(k1)CD1dリガンド、(k2)CD1d発現細胞、及び(k3)少なくとも標的抗原を発現するベクターの組合せ;(l)(l1)CD1dリガンド、及び(l2)少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクターの組合せ; (m)(m1)CD1dリガンド、(m2)少なくともCD1dを発現するベクター、及び(m3)標的抗原の組合せ;(n)(n1)CD1dリガンド、(n2)CD1d発現細胞、及び(n3)標的抗原の組合せ;ならびに(o)(o1)抗体、核酸プローブ及び2以上のプライマーからなる群より選ばれる、標的抗原の発現測定用手段、及び(o2)抗体、核酸プローブ及び2以上のプライマーからなる群より選ばれる、CD1dの発現測定用手段の組合せ。〔23〕標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dの共発現細胞の有効量を、それを必要とする被験体に投与することを含む、免疫誘導方法。〔24〕標的抗原及びCD1dの共発現細胞の有効量及びアジュバントが投与される、上記〔23〕記載の方法。〔25〕免疫誘導剤の製造における、標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dの共発現細胞の使用。〔26〕免疫誘導剤の製造における、標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dの共発現細胞、並びにアジュバントの使用である、上記〔25〕記載の使用。図1は、α−GalCerをパルスした腫瘍細胞と共培養したマウス肝由来単核球によるIFN−γ産生量を示す。 CD1dB16:CD1d発現増強B16 CD1dEL4:CD1d発現増強EL4 DC:樹状細胞 WT:野生型 JαKO:Ja281遺伝子欠損マウス(Va14+NKT細胞欠損マウス) −:α−GalCerでパルスせず +:α−GalCerでパルス図2は、各種濃度のα−GalCerをパルスした腫瘍細胞で免疫したマウスにおけるIFN−γ産生量を示す。 Gal:α−GalCer DC/G:α−GalCerをパルスした樹状細胞 B16/G:α−GalCerをパルスしたB16 CD1dB16/G:α−GalCerをパルスしたCD1d発現増強B16図3は、肺転移モデルにおける抗腫瘍免疫の差異を示す。図4は、α−GalCerをパルスした腫瘍細胞で免疫したマウスにおける抗腫瘍免疫応答を示す。図5は、リアルタイムRT−PCR法により測定された、腫瘍細胞株間におけるCD1d mRNAの相対的発現レベルを示す。図6は、フローサイトメトリーにより測定された、腫瘍細胞株間におけるCD1dタンパク質の相対的発現レベルを示す。 DC:樹状細胞 CD1dB16:CD1d発現増強B16 CD1dEL4:CD1d発現増強EL4 アイソタイプ:ラットIgG2b図7は、肝由来単核球による、CD1dリガンドがパルスされた、又はパルスされていない腫瘍細胞の殺傷効果を示す。 E/T比:エフェクター(E)/ターゲット(T)比を示す。ここでは、NKT細胞及びNK細胞を含む肝由来単核球がEに対応し、腫瘍細胞がTに対応する。図8は、フローサイトメーターによる、樹状細胞のCFSE取り込みの測定結果を示す。(1.細胞) 本発明は、CD1dリガンドでパルスされた、所定の細胞、例えば、標的抗原及びCD1dの共発現細胞を提供する。CD1dリガンドでパルスされたこのような共発現細胞は、標的抗原に対する免疫活性化能を有し得る。 CD1dリガンドとは、CD1d発現抗原提示細胞(APC)上に提示され、以ってNKT細胞を活性化し得る物質をいう。「CD1dリガンド」としては、例えば、α−GalCer(α-galactosylceramide)、α−C−GalCer(α-C-galactosylceramide)、iGB3(isoglobotrihexosylceramide)、GD3(ganglioside 3)、GSL−1(α-linked glucuronic acid)、GSL−1’SA(galacturonic acid)が挙げられるが、α−GalCer、α−C−GalCerが好ましい。本発明の細胞は、CD1dリガンドを、CD1dを介してその細胞表面上に提示し、NKT細胞を活性化し得る。 本発明はまた、CD1dリガンドでパルスされ得る所定の細胞のうち、新規細胞を提供する。本発明者らは、CD1dリガンドでパルスされた、所定の細胞、例えば、標的抗原及びCD1dの共発現細胞が、免疫療法において非常に有用であることを初めて見出した。例えば、標的抗原及びCD1dの共発現細胞としては、マウス由来黒色腫細胞株B16及びマウス由来Tリンパ腫細胞株EL4を始めとする細胞が既に存在するものの、本発明者らのかかる知見なしには、本発明者らが開発した方法において用いられ得る、標的抗原及びCD1dの共発現細胞を意図的に作成する動機付けはない。したがって、このように作製される、標的抗原及びCD1dの共発現細胞は、新規なものであり得る。例えば、このように作製された新規細胞は、標的抗原及び/又はCD1dを発現するように、あるいは標的抗原及び/又はCD1dの発現を増強するように処理された細胞であり得る。 本明細書中、CD1dリガンドでパルスされた、標的抗原及びCD1dの共発現細胞、ならびに標的抗原及びCD1dの新規共発現細胞を、必要に応じて、「本発明の細胞」と包括的に省略することがある。また、本発明の細胞のうち、CD1dリガンドでパルスされた、標的抗原及びCD1dの共発現細胞を特に意図する場合、必要に応じて、「本発明のパルス細胞」(標的抗原に対する免疫活性化能を有し得る細胞を意味する)と省略することがある。さらに、本発明の細胞のうち、標的抗原及びCD1dの新規共発現細胞を特に意図する場合、必要に応じて、「本発明の非パルス細胞」(CD1dリガンドでパルスされた後、標的抗原に対する免疫活性化能を獲得し得るものの、CD1dリガンドでパルスされていないため、標的抗原に対する免疫活性化能を有し得ない細胞を意味する)と省略することがある。 本発明の細胞は、単離及び/又は精製されたものであり得る。細胞の単離及び精製は、自体公知の方法により行うことができる。 本発明の細胞はまた、任意の動物種由来の細胞であり得る。このような動物種としては、例えば、ヒト、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等の哺乳動物が挙げられるが、臨床応用という観点からは、ヒト由来の細胞であることが好ましい。 本発明の細胞はさらに、任意の組織由来の細胞種であり得る。このような組織としては、例えば、胃、小腸(例、十二指腸、空腸、回腸、結腸)、大腸、直腸、肺、膵臓、腎臓、肝臓、胸腺、脾臓、甲状腺、副腎、前立腺、卵巣、子宮、骨髄、皮膚、末梢血が挙げられる。本発明の細胞はまた、上記組織における特定の細胞種又は上記組織以外の組織に存在する細胞種であり得る。このような細胞種としては、例えば、上皮細胞、内皮細胞、表皮細胞、間質細胞、繊維芽細胞、脂肪細胞、乳腺細胞、メサンギウム細胞、膵β細胞、神経細胞、グリア細胞、免疫細胞(例、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、ならびにこれら細胞の前駆細胞及び幹細胞が挙げられる。 本発明の細胞はさらに、動物より採取された細胞(例、初代培養細胞)又は細胞株であり得る。細胞株は既存の細胞株又は新たに作製される細胞株であり得る。細胞株は自体公知の方法により作製できる。 より重要には、本発明の細胞は、標的抗原及びCD1dの双方を発現する細胞であり得る。 標的抗原は、異常細胞又は病原体(pathogen)に発現している抗原であって、それを標的とする免疫作用により、体内における当該異常細胞又は病原体の消失、あるいは当該異常細胞又は病原体量の減少が期待できるものである限り特に限定されない。例えば、標的抗原としては、腫瘍抗原、病原体抗原が挙げられる。本発明の細胞は、同一標的に対する1又は2以上の標的抗原を発現し得る。 腫瘍抗原は、上皮性及び非上皮性腫瘍を含む固形腫瘍、造血組織における腫瘍の抗原であり得る。固形腫瘍抗原としては特に限定されないが、例えば、MART−1/Melan−A、Mage−1、Mage−3、gp100、チロシナーゼ,CEA、PSA、CA−125、erb−2、Muc−1、Muc−2、TAG−72、AES、FBP、C−レクチン、NY−ESO−1、galectin−4/NY−CO−27、Pec60、HER−2/erbB−2/neu、テロメラーゼ、G250、Hsp105、点変異ras癌遺伝子、点変異p53癌遺伝子、癌胎児性抗原が挙げられる(例えば、特開2005-139118号公報、特開2004-147649号公報、特開2002-112780号公報、特開2004-222726号公報を参照)。造血組織における腫瘍(例、白血病)の抗原としては特に限定されないが、例えば、proteinase 3、WT−1、hTERT、PRAME、PML/RAR−a、DEK/CAN、シクロフィリンB、TEL−MAL1、BCR−ABL、OFA−iLRP、Survivin、idiotype、Sperm protein 17、SPAN−Xb、CT−27、MUC1が挙げられる。 病原体抗原は、病原性ウイルス抗原、病原性微生物抗原、又は病原性原生動物抗原であり得る。病原性ウイルス抗原としては特に限定されないが、例えば、GP−120、p17、GP−160(以上、HIV)、NP、HA(以上、インフルエンザウイルス)、HBs Ag、HBVエンベロープタンパク質、コアタンパク質、ポリメラーゼタンパク質、NS3、NS5(以上、肝炎ウイルス)、HSVdD(単純ヘルペスウイルス)、EBNA1、2、3A、3B及び3C、LMP1及び2、BZLF1、BMLF1、BMRF1、BHRF1(以上、EBウイルス)、Tax(HTLV−I)、SARS−CoVスパイクタンパク質(SARSウイルス)、CMV pp5、IE−1(以上、CMV)、E6、E7タンパク質(以上、HPV)が挙げられる(例えば、特開2004−222726号公報参照)。病原性微生物抗原としては、例えば、病原性細菌(例、クラミジア、ミコバクテリア、レジオネラ)、病原性酵母(例、アスペルギルス、カンジダ)に発現している抗原が挙げられる。病原性原生動物抗原としては、例えば、マラリア、住血吸虫に発現している抗原が挙げられる。 CD1dは、ペプチドではなく糖脂質を提示する主要組織適合抗原(MHC)様分子として知られている。CD1dは、抗原提示細胞(例、樹状細胞)、腸管、肝臓等の組織における上皮細胞の他、一部の腫瘍細胞(例、固形腫瘍細胞、白血病細胞)、ウイルス感染細胞でも発現している。 本発明の細胞はまた、正常細胞又は異常細胞であり得る。正常細胞とは、病的状態に陥っていない細胞をいい、一方、異常細胞とは、病的状態に陥った細胞をいう。異常細胞としては、例えば、腫瘍細胞、ウイルス感染細胞が挙げられる。腫瘍細胞は、上述の細胞種に対応する腫瘍細胞であり得る。ウイルス感染細胞としては、例えば、病原性ウイルスに感染した上述の細胞種が挙げられる。病原性ウイルスとしては特に限定されるものではないが、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、肝炎ウイルス(例、A型、B型、C型、D型及びE型肝炎ウイルス)、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、西ナイル熱ウイルス、ヒトパピローマウィルス、ウマ脳炎ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス(例、HTLV−I)が挙げられる。 本発明の細胞はまた、非形質転換体又は形質転換体であり得る。本明細書中で用いられる場合、形質転換とは、人為的な遺伝子導入操作をいい、形質転換体とはそのような人為的な操作により作出された細胞を意味する。したがって、非人為的操作により生じた細胞は、本明細書中では形質転換体に該当しないものとして扱う。より詳細には、本発明の細胞が形質転換体である場合、本発明の細胞は、宿主細胞として、標的抗原及びCD1dの双方を発現していない細胞、あるいは当標的抗原及びCD1dの一方又は双方を天然で発現している細胞を、少なくとも標的抗原を発現するベクター、あるいは少なくともCD1dを発現するベクター又は少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクター(発現ベクターの詳細については後述)で形質転換することにより作製されるものであり得る。形質転換における宿主細胞は、任意の細胞であり得、例えば、正常細胞又は異常細胞(例、白血病細胞等の腫瘍細胞、ウイルス感染細胞)、あるいは標的抗原及びCD1dの非天然発現細胞、標的抗原の天然発現細胞、CD1d天然発現細胞、又は標的抗原及びCD1dの天然発現細胞であり得る。 本発明の細胞はまた、標的抗原の非導入細胞又は導入細胞であり得る。本明細書中で用いられる場合、標的抗原の導入とは、人為的な標的抗原移入操作をいい、標的抗原の導入細胞とは、そのような人為的な操作により作出された細胞を意味する。したがって、非人為的操作により生じた細胞は、本明細書中では標的抗原の導入細胞に該当しないものとして扱う。より詳細には、本発明の細胞が標的抗原の導入細胞である場合、本発明の細胞は、宿主細胞として、標的抗原及びCD1dの双方を発現していない細胞、あるいは当標的抗原及びCD1dの一方又は双方を天然で発現している細胞に、標的抗原を取り込ませることにより作製されるものであり得る。 本発明の細胞はさらに、天然に存在する、抗原提示細胞(APC)又は非APCに由来する細胞であり得る。天然に存在するAPCとしては、例えば、樹状細胞、マクロファージ、B細胞、ランゲルハンス細胞、活性化T細胞が挙げられる。したがって、本発明の細胞は、少なくとも標的抗原を発現するベクター、少なくともCD1dを発現するベクター、あるいは少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクターで形質転換された、あるいは標的抗原が取り込まれた、天然に存在するAPC又は非APCであってもよい。 本発明の細胞はまた、天然に存在する、CD1d発現抗原提示細胞(CD1d発現APC)又は非CD1d発現APCに由来する細胞であり得る。CD1d発現APCとは、その細胞表面上にCD1dを有する、NKT細胞を活性化し得る細胞をいう。CD1d発現APCとしては、例えば、樹状細胞、マクロファージ、B細胞が挙げられる。したがって、本発明の細胞は、少なくとも標的抗原を発現するベクター、少なくともCD1dを発現するベクター、あるいは少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクターで形質転換された、あるいは標的抗原が取り込まれた、天然に存在するCD1d発現APC又は非CD1d発現APCであってもよい。 本発明の細胞はさらに、細胞で免疫されるべき個体由来の細胞(投与対象に対して同種同系の細胞)、細胞で免疫されるべき個体と同種の別の個体由来の細胞(投与対象に対して同種異系の細胞)、ならびに細胞で免疫されるべき個体と異種の個体由来の細胞(投与対象に対して異種の細胞)を用いることができるが、自己の腫瘍抗原に対するT細胞免疫応答を誘導することが目的であることから、同種同系の細胞が好ましい。 本発明のパルス細胞は、後述するように、医薬、免疫活性化剤などとして有用である。本発明の非パルス細胞は、例えば、本発明のパルス細胞の作製に有用である。(2.作製及び同定方法) 本発明は、本発明の細胞の作製方法を提供する。 一実施形態では、本発明の作製方法は、本発明の非パルス細胞の作製方法であり得る。本発明の非パルス細胞の作製方法は、目的細胞において標的抗原及びCD1dが共発現するように、あるいは標的抗原及びCD1dの共発現細胞において標的抗原及び/又はCD1dの発現を増強するように細胞を処理することを含み得る。 例えば、本発明の作製方法が、目的細胞において標的抗原及びCD1dが共発現するように細胞を処理することを含む場合、目的細胞は、標的抗原及びCD1dの双方を発現しない細胞、標的抗原又はCD1dの一方のみを発現する細胞であり得る。 また、本発明の作製方法が、標的抗原及びCD1dの共発現細胞において標的抗原及び/又はCD1dの発現を増強するように細胞を処理することを含む場合、本発明の細胞による免疫療法の治療効果を十分に高める程度に標的抗原及び/又はCD1dの発現が増強され得る。 本発明の作製方法における処理は、形質転換、又は標的抗原の導入操作であり得る。より詳細には、本発明の作製方法は、(a)少なくとも標的抗原を発現するベクターで、CD1d発現細胞を形質転換すること、(b)少なくともCD1dを発現するベクターで、標的抗原発現細胞を形質転換すること、(c)少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクターで、細胞を形質転換すること、(d)標的抗原自体をCD1d発現細胞に取り込ませること、あるいは(e)少なくともCD1dを発現するベクターで細胞を形質転換し、次いで標的抗原自体を該細胞に取り込ませること、(f)標的抗原自体を細胞に取り込ませ、次いで少なくともCD1dを発現するベクターで該細胞を形質転換することを含み得る。細胞の形質転換は、リポフェクション法、リン酸カルシウム沈殿法、エレクトロポレーション法等の自体公知の方法により行われ得る。細胞に対する標的抗原の導入操作は、例えば、高浸透圧ショック、エレクトロポレーション、リポソーム、細胞内への取り込みを可能とするシグナルペプチドと標的抗原との融合タンパク質の使用により行われ得る。 上述の作製方法では、(a)及び(d)におけるCD1d発現細胞は、CD1dを発現し、かつ標的抗原を発現しない細胞、あるいは標的抗原及びCD1dの双方を発現する細胞であり得る。(b)における標的抗原発現細胞は、標的抗原を発現し、かつCD1dを発現しない細胞、あるいは標的抗原及びCD1dの双方を発現する細胞であり得る。(c)、(e)及び(f)における細胞は、標的抗原及びCD1dの双方を発現しない細胞、標的抗原を発現し、かつCD1dを発現しない細胞、CD1dを発現し、かつ標的抗原を発現しない細胞、あるいは標的抗原及びCD1dの双方を発現する細胞であり得る。 別の実施形態では、本発明の作製方法は、本発明のパルス細胞の作製方法であり得る。本発明のパルス細胞の作製方法は、培養培地において、標的抗原及びCD1dの共発現細胞をCD1dリガンドで処理することを含み得る。このような処理により、標的抗原及びCD1dの共発現細胞上にCD1dリガンドが提示され、該共発現細胞が標的抗原に対する免疫活性化能を獲得し得る。 培養培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、MEM培地、DMEM培地、αMEM培地、ハム培地、RPMI1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地が挙げられる。培養培地は、例えば、血清(例えば、FCS)、血清代替物(例えば、knockout Serum Replacement(KSR))、脂肪酸又は脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を含むことができる。培養温度、CO2濃度等の他の培養条件は適宜設定できる。培養温度は、特に限定されるものではないが、例えば約30〜40℃、好ましくは約37℃である。また、CO2濃度は、例えば約1〜10%、好ましくは約5%である。培養における細胞数、各種因子の濃度等のその他の条件は、自体公知の方法により適宜設定できる。 本発明のパルス細胞の作製に用いられる細胞は、標的抗原及びCD1dの共発現細胞である限り特に限定されない。例えば、標的抗原及びCD1dの共発現細胞としては、処理された細胞、未処理の細胞を用いることができる。 標的抗原及びCD1dの共発現細胞として処理された細胞(例、形質転換体)が用いられる場合、本発明の作製方法は、目的細胞において標的抗原及びCD1dが共発現するように、あるいは標的抗原及びCD1dの共発現細胞において標的抗原及び/又はCD1dの発現を増強するように細胞を処理して、標的抗原及びCD1dの共発現細胞を得ることをさらに含み得る。本方法論は、上述の本発明の作製方法と同様に行われ得る。目的細胞は、本発明の細胞が投与される個体由来の細胞(同種同系細胞)、本発明の細胞が投与される個体と同種の個体由来の細胞(同種異系細胞)、又は異種の個体由来の細胞(異種細胞)であり得る。 一方、標的抗原及びCD1dの共発現細胞として未処理の細胞(例、非形質転換体)が用いられる場合、本発明の作製方法は、個体から採取された生体サンプルから標的抗原及び/又はCD1dの共発現細胞を回収して、標的抗原及び/又はCD1dの共発現細胞を得ることをさらに含み得る。個体から採取される生体サンプルとしては、例えば、腫瘍塊、末梢血、肝臓、リンパ節、脾臓等の生体サンプルが挙げられる。個体から採取され得る細胞としては、例えば、白血病細胞等の腫瘍細胞、ウイルス感染細胞等の異常細胞(本異常細胞は、本発明の細胞と同様の種類のものであり得る)が挙げられる。個体は、上述の動物種と同様であり得る。個体はまた、本発明の細胞が投与される個体と同一又は異なる個体であり得る。 標的抗原及びCD1dの共発現細胞として未処理の細胞(個体から採取された細胞そのもの)が用いられる場合、当該非形質転換体を含む生体サンプルの一部を用いて、当該サンプルに含まれる細胞が、標的抗原及びCD1dの双方を発現しているか否かが必要に応じて同定され得る。本発明はまた、このような同定方法を提供する。本発明者らは、CD1dリガンドでパルスされた、標的抗原及びCD1dの共発現細胞が、免疫療法において非常に有用であることを初めて見出した。発明者らのかかる知見なしには、本発明者らが開発した方法において用いられ得る、標的抗原及びCD1dの共発現細胞(特に、個体から採取された共発現細胞)を意図的に同定する動機付けはない。なお、腫瘍抗原は、採取された生体サンプルとして腫瘍を採取した場合、当該サンプルに含まれる細胞に当然に発現していると考えられる。したがって、このような場合、本発明の同定方法において、腫瘍抗原の発現を必ずしも確認する必要はなく、CD1dの発現のみ確認すれば足り得る。他の標的抗原についても同様であり得る。 したがって、本発明の同定方法は、目的細胞におけるCD1dの発現、あるいは標的抗原及びCD1dの発現を測定することを含むものであってもよい。目的細胞としては、例えば、処理された細胞及び未処理の細胞、ならびに既存の細胞及び新規細胞が挙げられる。目的細胞及び/又は個体から採取され得る細胞としては、例えば、腫瘍細胞、ウイルス感染細胞等の異常細胞(本異常細胞は、本発明の細胞と同様の種類のものであり得る)が挙げられる。 標的抗原及びCD1dの発現の測定は、例えば、標的抗原及び/又はCD1dを増幅可能な複数のプライマー(例、プライマー対)、標的抗原及び/又はCD1dを検出可能な核酸プローブ、標的抗原及び/又はCD1dに対する抗体を用いて、自体公知の方法により行うことができる。 本発明の作製方法は、例えば、上述の通り種々の利点を有する本発明の細胞の作製に有用である。本発明の同定方法は、例えば、本発明のパルス細胞の作製に必要な細胞のスクリーニングに有用である。(3.発現ベクター) 本明細書中で用いられる場合、少なくとも標的抗原を発現するベクターとは、標的抗原のみを発現するベクター、ならびに標的抗原及びその他の有用な因子を発現するベクターを意味する。少なくとも標的抗原を発現するベクターとしては、例えば、標的抗原発現ベクター、標的抗原及びCD1dの共発現ベクターが挙げられる。 少なくともCD1dを発現するベクターとは、CD1dのみを発現するベクター、ならびにCD1d及びその他の有用な因子を発現するベクターを意味する。少なくともCD1dを発現するベクターとしては、例えば、CD1d発現ベクター、標的抗原及びCD1dの共発現ベクターが挙げられる。 少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクターとは、標的抗原及びCD1dの双方を発現する単独のベクター、ならびに少なくとも標的抗原を発現するベクターと少なくともCD1dを発現するベクターとの組合せを意味する。少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクターとしては、例えば、標的抗原及びCD1dの共発現ベクター、ならびに標的抗原発現ベクターとCD1d発現ベクターとの組合せが挙げられる。 本発明はまた、このような共発現ベクターを提供する。 本発明の共発現ベクターは、標的抗原をコードする第1のポリヌクレオチド及びCD1dをコードする第2のポリヌクレオチドを含み得る。本発明の共発現ベクターはまた、上記第1及び第2のポリヌクレオチドに機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。プロモーターの機能可能な連結とは、プロモーターが、その制御下にあるポリヌクレオチドによりコードされる因子の発現を可能とするように、該ポリヌクレオチドに結合していることを意味する。 より詳細には、本発明の共発現ベクターは、ポリシストロニックmRNA発現ベクターであり得る。ポリシストロニックmRNA発現ベクターは、標的抗原及びCD1dのポリシストロニックmRNAの発現を可能とする、第1のポリヌクレオチドおよび第2のポリヌクレオチドの連結物、ならびに当該連結物に機能可能に連結されたプロモーターを含み得る。 本発明の共発現ベクターはまた、非ポリシストロニックmRNA発現ベクターであり得る。非ポリシストロニックmRNA発現ベクターは、第1のポリヌクレオチド及び当該ポリヌクレオチドに機能可能に連結された第1のプロモーター、ならびに第2のポリヌクレオチド及び当該ポリヌクレオチドに機能可能に連結された第2のプロモーターを含み得る。 共発現ベクターで用いられるプロモーターは、導入される細胞で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、ならびにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。また、導入される細胞に特異的なプロモーターを用いてもよい。このようなプロモーターとしては、例えば、腫瘍細胞特異的プロモーター、ウイルス感染細胞特異的プロモーター(例、ウイルス後期プロモーター)等の異常細胞特異的プロモーターが挙げられる。本発明の共発現ベクターに限らず、本発明で用いられる発現ベクターもまた、このようなプロモーターを有し得る。 共発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含んでいてもよい。 共発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、例えば、プラスミドまたはウイルスベクター(例、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、レンチウイルス等のウイルス由来ベクター)であり得る。 本発明の共発現ベクターは、例えば、上述した本発明の剤と同様に、医薬として、及び免疫細胞の活性化、ならびに本発明の細胞の作製に有用である。(4.剤及び組成物) 本発明は、本発明の細胞を含む剤(又は組成物)を提供する。 本発明の剤が投与される動物種は、標的抗原及びCD1dの共発現細胞が由来する動物種と同様であり得る。したがって、本発明の剤は、本発明の細胞による免疫において、同種同系、同種異系又は異種細胞による免疫を達成し得る。 本発明の剤は、CD1dリガンドをパルスした本発明の細胞に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体及び/又はアジュバントを含み得る。医薬上許容され得る担体としては、例えば、水、生理食塩水等の希釈剤などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。アジュバントとしては、標的抗原の抗原性を増強し得るものである限り特に限定されないが、例えば、BCG、トレハロースダイマイコレート(TDM)、Merck65、AS−2、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、デキストラン、TLRリガンド(例、リポ多糖(LPS)、CpG)が挙げられる。 本発明の剤は、例えば、医薬又は試薬として有用である。より詳細には、本発明の剤は、腫瘍性疾患又は感染症の予防・治療、あるいは免疫療法(例、NK/NKT細胞、T細胞等の免疫細胞の活性化)に有用である。本発明の剤により予防・治療され得る腫瘍性疾患としては、上述の組織及び細胞種における腫瘍、例えば、固形腫瘍(例、上皮性腫瘍、非上皮性腫瘍)、造血組織における腫瘍が挙げられる。より詳細には、本発明の剤により予防・治療され得る固形腫瘍としては、例えば、消化器癌(例、胃癌、結腸癌、大腸癌、直腸癌)、肺癌(例、小細胞癌、非小細胞癌)、膵臓癌、腎臓癌、肝臓癌、胸腺、脾臓、甲状腺癌、副腎、前立腺癌、膀胱癌、卵巣癌、子宮癌(例、子宮内膜癌、子宮頚癌)、骨癌、皮膚癌、肉腫(例、カポシ肉腫)、黒色腫、芽細胞腫(例、神経芽細胞腫)、腺癌、扁平細胞癌、非扁平細胞癌、脳腫瘍、ならびにこれらの固形腫瘍の再発及び転移が挙げられる。本発明の剤により予防・治療され得る、造血組織における腫瘍としては、白血病(例、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、成人T細胞白血病(ATL)、骨髄異形成症候群(MDS))、リンパ腫(例、Tリンパ腫、Bリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、骨髄腫(多発性骨髄腫)、ならびにこれらの腫瘍の再発が挙げられる。本発明の剤により治療され得る感染症としては、例えば、上述の病原体により引き起こされる感染症が挙げられる。 本発明者らはまた、CD1dリガンドでパルスされた、標的抗原及びCD1dの共発現細胞が、NK/NKT細胞の活性化及びT細胞免疫応答の同時誘導能を有し得ることを今回見出している。NK/NKT細胞は、MHCクラスI非発現細胞を良好な標的とし、また、T細胞は、MHCクラスI発現細胞を良好な標的とすることが知られている。従って、本発明の剤は、このように種々の標的抗原発現細胞に対する効果が期待できるという利点を有する。 本発明の剤の投与量は、CD1dリガンドをパルスした本発明のパルス細胞の種類、本発明のパルス細胞における標的抗原及びCD1dの発現量、投与様式、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、所望の免疫活性を達成するような細胞数が適宜投与され得る。 本発明はまた、少なくともCD1dを発現するベクターを含む、標的抗原に対する免疫誘導用細胞の作製剤を提供する。本剤は、上述した本発明の作製方法及び上述した本発明の剤に従って作製、使用できる。(5.キット) 本発明は、本明細書中に開示される物質及び/又は細胞を含むキットを提供する。 より詳細には、本発明のキットは、必須の構成成分として発現ベクター又は標的抗原を含むキット(キットI)、必須の構成成分としてCD1dリガンドを含むキット(キットII)、ならびに必須の構成成分として発現測定用手段を含むキット(キットIII)に大別することができる。 本発明のキットIは、例えば、以下(a)〜(e)のいずれかを含むものであり得る:(a)(a1)少なくとも標的抗原を発現するベクター、及び(a2)少なくともCD1dを発現するベクターの組合せ;(b)(b1)標的抗原発現細胞、及び(b2)少なくともCD1dを発現するベクターの組合せ;(c)(c1)CD1d発現細胞、及び(c2)少なくとも標的抗原を発現するベクターの組合せ;(d)(d1)少なくともCD1dを発現するベクター、及び(d2)標的抗原の組合せ;(e)(e1)CD1d発現細胞、及び(e2)標的抗原の組合せ。 本発明のキットIIは、例えば、以下(a)〜(i)のいずれかを含むものであり得る:(a)(a1)CD1dリガンド、及び(a2)少なくとも標的抗原を発現するベクターの組合せ;(b)(b1)CD1dリガンド、及び(b2)標的抗原発現細胞の組合せ;(c)(c1)CD1dリガンド、及び(c2)標的抗原の組合せ;(d)(d1)CD1dリガンド、及び(d2)標的抗原及びCD1dの共発現細胞の組合せ;(e)(e1)CD1dリガンド、(e2)標的抗原発現細胞、及び(e3)少なくともCD1dを発現するベクターの組合せ;(f)(f1)CD1dリガンド、(f2)CD1d発現細胞、及び(f3)少なくとも標的抗原を発現するベクターの組合せ;(g)(g1)CD1dリガンド、及び(g2)少なくとも標的抗原及びCD1dを発現する1又は2個のベクターの組合せ; (h)(h1)CD1dリガンド、(h2)少なくともCD1dを発現するベクター、及び(h3)標的抗原の組合せ;(i)(i1)CD1dリガンド、(i2)CD1d発現細胞、及び(i3)標的抗原の組合せ。 本発明のキットIIIは、標的抗原の発現を測定可能な手段、及びCD1dの発現を測定可能な手段を含み得る。標的抗原の発現を測定可能な手段としては、例えば、抗体、核酸プローブ、複数のプライマー(例、プライマー対)が挙げられる。 本発明のキットにおける発現ベクターで用いられるプロモーター、基本骨格のベクター及びその他の要素は、本発明の共発現ベクターで用いられるものと同様であり得る。 本発明のキットIにおける(b)、及び本発明のキットIIにおける(b)、(e)では、標的抗原発現細胞は、標的抗原を発現し、かつCD1dを発現しない細胞、あるいは標的抗原及びCD1dの双方を発現する細胞であり得る。本発明のキットIにおける(c)、及び本発明のキットIIにおける(f)では、CD1d発現細胞は、CD1dを発現し、かつ標的抗原を発現しない細胞、あるいは標的抗原及びCD1dの双方を発現する細胞であり得る。 本発明のキットIにおける(a)、(d)、本発明のキットIIにおける(a)、(c)、(g)、(h)は、任意の細胞を含んでいてもよい。このような細胞としては、例えば、標的抗原及びCD1dの双方を発現しない細胞、標的抗原を発現し、かつCD1dを発現しない細胞、CD1dを発現し、かつ標的抗原を発現しない細胞、あるいは標的抗原及びCD1dの双方を発現する細胞が挙げられる。 本発明のキットはまた、上述のアジュバントを含んでいてもよい。 本発明のキットはまた、免疫細胞の活性化を確認可能な試薬を含んでいてもよい。免疫細胞の活性化を確認可能な試薬としては、例えば、NK細胞、NKT細胞及びT細胞からなる群より選ばれる1以上の免疫細胞数の測定用試薬、ならびに活性化した当該免疫細胞に特異的な物質の測定用試薬が挙げられる。 免疫細胞数の測定用試薬は、例えば、NK細胞、NKT細胞及びT細胞の細胞表面マーカー(例、Vα24、Vβ11)に対する特異的な抗体、あるいは当該マーカーをコードする転写産物を検出可能な核酸プローブまたは増幅可能な複数のプライマー(例えば、プライマー対)を含むものであり得る。 活性化免疫細胞に特異的な物質の測定用試薬は、例えば、活性化されたNK細胞、NKT細胞及びT細胞に特異的な物質(例えば、IFN−γ、パーフォリン、グランザイムB)に対する抗体、あるいは当該物質をコードする転写産物を検出可能な核酸プローブまたは増幅可能な複数のプライマー(例えば、プライマー対)を含むものであり得る。 本発明のキットは、例えば、上述した本発明の剤と同様に、医薬用キット、又は免疫細胞の活性化用キット、あるいは本発明の細胞の作製又は同定用キットとして有用である。 本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。 以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。(材料及び方法)(α−GalCerをパルスした腫瘍細胞の調製) α−GalCerをパルスした腫瘍細胞株としては、マウス由来黒色腫細胞株B16及びマウス由来Tリンパ腫細胞株EL4を用いた。B16(2x104細胞/ml)、又はEL4(1x105細胞/ml)に、α−GalCerを500ng/mlとなるように添加し、5%CO2、37℃で培養した。培養培地としては、10%FCS含有RPMIを10ml用いた。2日間培養後、α−GalCerをパルスしたB16又はEL4をPBSで4回洗浄して、次いで回収した。(α−GalCerをパルスした樹状細胞の調製) 野生型マウス(C57BL/6,6−8週,雌)から大腿骨、脛骨より骨髄細胞を採取し、CD4、CD8、B220又はI−Ab陽性細胞を、抗体及び補体を用いて除去した。得られた細胞を、GM−CSF(10ng/ml)、5%FCS含有RPMIで1x106細胞/mlに調製し、24ウェルプレートで培養した。2日ごとに培地を交換し、6日目にα−GalCerを100ng/mlになるように添加し、7日目にさらにLPS(100ng/ml)を添加し、樹状細胞を成熟させた。8日目に細胞を回収し、PBSで洗浄した。(単核球の調製) 脾臓及び肝臓から単核球を調製した。野生型マウス(C57BL/6,6−8週,雌)から脾臓を採取し、セルストレイナーを用いて漉し、ACK lysing bufferで赤血球を溶血し洗浄して、脾臓由来単核球を得た。また、野生型マウス又はJα281遺伝子欠損マウス(Vα14+NKT細胞欠損マウス:例えば、Fujii et al., The Journal of Experimental Medicine 198: 267-279 (2003)、Fujii et al., The Journal of Experimental Medicine 199: 1607-18 (2004) 参照)から肝臓を採取し、ステンレスメッシュで濾した後、パーコールを用いて密度勾配遠心法にて単核球層を分離して、肝由来単核球を得た。(肺転移モデル動物の作製、評価) B16メラノーマ細胞をPBSで5x105/200μlに調製し、マウス(C57BL/6,6−8週,雌)に尾静脈より静脈内投与した。2週間後にマウスから肺を取り出し、B16の肺転移数を測定した。実施例1:CD1dリガンドをパルスした腫瘍細胞によるNKT/NK細胞のin vitro活性化 α−GalCerをパルスしたB16又はEL4、あるいはα−GalCerをパルスした樹状細胞(コントロール)を、野生型マウス又はJa281遺伝子欠損マウス(Va14+NKT細胞欠損マウス)の肝由来単核球(NKT/NK細胞含有画分)と共培養して、次いで培養上清中のIFN−γ量を、抗IFN−γ抗体を用いてELISA法により測定した。IFN−γは、活性化NKT/NK細胞により特異的に産生される物質であることから、培養上清中のIFN−γ量は、活性化NKT/NK細胞の指標となる。また、CD1d発現レトロウイルスベクター(マウスCD1d遺伝子(GenBankアクセッション番号:NM-007639)を用いて作製)が導入されたB16及びEL4を用いて上記と同様の実験を行った。 その結果、α−GalCerをパルスしたB16及びEL4の双方が、NKT/NK細胞を活性化した(図1)。また、α−GalCerをパルスしたCD1d発現レトロウイルスベクター導入B16及びEL4は、α−GalCerをパルスした該ベクター非導入B16及びEL4に比し、NKT/NK細胞をより活性化した(図1)。 以上より、CD1dリガンドをパルスした腫瘍細胞が、in vitroにおいて、CD1d発現量依存的様式でNKT/NK細胞を活性化することが明らかとなった。実施例2:CD1dリガンドをパルスした腫瘍細胞によるNKT細胞のin vivo活性化 α−GalCerをパルスしたB16(5x105細胞)又は樹状細胞(コントロール)(1x106細胞)を、マウス(C57BL/6,6−8週,雌)に尾静脈より静脈内投与した。投与2日後にマウスから脾臓を単離して、セルストレイナーで濾し、さらに赤血球をACK lysing bufferで溶血し、5%FCS含RPMIで脾細胞を調製した。(3x105細胞/ウェル)を、実施例1と同様の様式において、α−GalCer存在下で16時間培養した後、培養上清中のIFN−γ量を、抗IFN−γ抗体を用いてELISPOT法により測定した。また、CD1d発現レトロウイルスベクターが導入されたB16を用いて上記と同様の実験を行った。 その結果、α−GalCerをパルスした樹状細胞はα−GalCer反応性IFN−γ産生NKT細胞を誘導した(図1)。B16を用いた場合、効率は落ちるものの、同様にα−GalCer反応性IFN−γ産生NKT細胞を誘導でき、しかもこの誘導能は、パルスするα−GalCerの濃度依存的であり、またCD1d強発現させたB16ではより効率であった(図2)。 以上より、CD1dリガンドをパルスした腫瘍細胞が、in vivoにおいて、α−GalCer濃度依存的様式でNKT細胞を活性化することが明らかとなった。実施例3:肺転移モデル動物における抗腫瘍効果 次に、CD1dリガンドパルスした腫瘍細胞によるIFN−γ産生の抗腫瘍効果を検討した。B16又はCD1d発現増強B16、あるいはα−GalCerをパルスしたB16又はCD1d発現増強B16(いずれも5x105細胞)を、マウスに静脈内投与した。次いで、投与14日後、マウスから肺を摘出し、抗腫瘍効果を評価した。 その結果、B16又はCD1d発現増強B16を投与した肺転移モデルマウスでは、腫瘍が増大したが、α−GalCerをパルスしたB16又はCD1d発現増強B16を投与したモデルマウスでは、みかけ上、腫瘍が消失していた(図3)。 以上より、CD1dリガンドパルスした腫瘍細胞は、自然免疫応答の増強により抗腫瘍効果を示すことが明らかとなった。実施例4:腫瘍抗原に対する細胞傷害性Tリンパ球の誘導 実施例3で腫瘍の消失が確認された、α−GalCerをパルスしたCD1d発現増強B16が投与されたマウス(野生型マウス)に、B16(5×105細胞)を皮下投与した。また、α−GalCerをパルスしたCD1d発現増強B16が投与されたCD8欠損マウス(Jackson社から購入したものを使用)にも同様に、B16(1×105細胞)を皮下投与し、これらマウスにおける腫瘍抵抗性を比較した。 その結果、B16をチャレンジした野生型マウスは、皮下投与された腫瘍に対する抵抗性を示したが、CD8欠損マウスでは腫瘍は排除されなかった(図4)。このことは、α−GalCerを始めとするCD1dリガンドをパルスした腫瘍細胞を投与すると、CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)がエフェクター細胞として機能し、抗腫瘍効果を発揮することを示す。 以上より、本発明者らの開発した方法は、腫瘍に発現している腫瘍抗原に対するCTLを誘導できることが明らかとなった。実施例5:腫瘍細胞株におけるCD1d発現レベルの測定 種々の腫瘍細胞株におけるCD1d発現レベルを比較するため、マウス由来黒色腫細胞株B16、マウス由来Tリンパ腫細胞株EL4、マウス由来形質細胞(B細胞)株J558、マウス由来単球性白血病細胞株WEHI−3B、並びにレトロウイルスによりCD1d遺伝子が導入されたこれらの細胞株におけるCD1d発現レベルを、リアルタイムRT−PCR及びフローサイトメトリー法により測定した。 その結果、全ての腫瘍細胞株においてCD1d mRNAの発現が確認され、また、CD1d遺伝子を導入した腫瘍細胞株ではCD1d mRNAの発現が著明に増強していた(図5)。さらに、CD1d mRNAの相対的発現レベルが相対的に低かったB16、EL4についてCD1dタンパク質の発現を検討したところ、これらの細胞株においてもCD1dタンパク質の発現が確認され、また、この発現レベルはCD1d遺伝子導入により著明に増強した(図6)。 以上より、これらの腫瘍細胞ではCD1dタンパク質が発現していること、並びにCD1d遺伝子が導入された細胞では、CD1dタンパク質の発現が著明に増強されることが示された。実施例6:活性化NKT細胞の標的としてのCD1d発現腫瘍細胞 次いで、CD1d発現腫瘍細胞が活性化NKT細胞の標的になり得るか否かを検討した。詳細には、腫瘍細胞をα−GalCerで48時間パルスし、51Crで標識した。洗浄後、得られた腫瘍細胞を肝由来単核球と共培養し、51Crの放出量を測定することにより細胞傷害活性を測定した。 その結果、α−GalCerがパルスされたCD1d強制発現腫瘍細胞では、α−GalCerをパルスしていないものよりも51Crの放出量が多かった。このことは、CD1dリガンドがパルスされた腫瘍細胞が、NKT細胞の活性化後、自らがNKT細胞の標的として殺傷されることを示す。 以上より、CD1dリガンドがパルスされた細胞は、NKT細胞の標的になり得ることが明らかとなった。実施例7:活性化NKT細胞の標的としてのCD1d発現腫瘍細胞 次いで、CD1d発現腫瘍細胞が活性化NKT細胞の標的になり得るか否かを検討した。詳細には、α−GalCerがパルスされたCD1d強制発現EL4を、CFSE(carboxyfluorescein succinimidyl ester)で標識した後、マウスに投与した。10時間後、マウスから脾細胞を回収し、次いでフローサイトメーターを用いて樹状細胞のCFSE取り込みを測定した。 その結果、CD11c+(特に、CD11c+CD8a+)樹状細胞がCFSEを取り込んでいることが確認された(図8)。 以上より、投与された腫瘍細胞がNK/NKT細胞の活性化により殺傷され、その抗原が近傍の樹状細胞に取り込まれて提示されることにより、抗腫瘍免疫が達成され得ることが示唆された。(まとめ) NKT細胞は、樹状細胞の成熟化を介して自然免疫と獲得免疫を結びつける細胞群である。本研究では、CD1dリガンドをCD1d発現腫瘍に提示させた場合、IFN−γを産生するNKT細胞及びNK細胞の活性化をin vivoで強力に持続させること、NK/NKT細胞の活性化によりこの腫瘍細胞が殺傷され、その抗原が近傍の樹状細胞に取り込まれて提示されること、並びにその後、該抗原に対する獲得免疫を誘導できるようになることを実証した。一旦獲得免疫が誘導されると腫瘍免疫がメモリーされる。このようにリガンドをパルスしたCD1d発現腫瘍細胞は短期的に自然免疫、長期的に獲得免疫を誘導できるようになり、今後の腫瘍免疫療法に非常に有効な方法であると考えられる。 即ち、本発明者らの研究成果、及び当該研究成果から導かれる事項は、下記の通りである。1)本発明者らは、インビトロにおいてCD1dリガンドでパルスされた腫瘍細胞を用いることにより、インビボにおけるNK/NKT細胞の活性化に成功した。従来用いられていたCD1dリガンドの単独投与は、NK/NKT細胞を一時的にのみ活性化するのに対し、本方法は、これらの細胞を持続的に活性化し、ひいてはIFN−γの長期産生を可能とする。2)本方法は、腫瘍に発現している腫瘍抗原に対する細胞傷害性T細胞を誘導できるため、腫瘍に対する獲得免疫、記憶免疫を確立し得る。3)腫瘍細胞にCD1d分子を遺伝子導入により強発現させた後、CD1dリガンドでパルスすることにより、NK/NKT細胞及びT細胞のさらなる活性化に成功した。4)本方法は、腫瘍細胞が採取できれば容易に行うことができるため非常に簡便である。5)本発明者らの開発した方法によれば、白血病等の腫瘍細胞による免疫療法のみならず、腫瘍細胞と同様に特異抗原を発現するウイルス感染細胞による免疫療法なども可能になる。 本発明における、標的抗原及びCD1dの共発現細胞は、CD1dリガンドのパルス後、標的抗原に対する免疫活性化能を獲得する。このようにして得られた細胞は、腫瘍性疾患(例、上皮性腫瘍及び非上皮性腫瘍を含む固形腫瘍、白血病、リンパ腫、骨髄腫)又は感染症(例、ウイルス感染症)の予防・治療、あるいは免疫療法に有用である。本発明の作製方法、同定方法及びキットは、このような細胞の調製に有用である。 本出願は、2006年2月22日に日本で提出された特願2006−045193を基礎としており、その内容は本参照により本明細書中に援用される。 標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dを共発現した形質転換体の細胞を含む、標的抗原に対する免疫誘導剤であって、該共発現細胞がCD1dリガンドでパルス処理されることを特徴とする、剤。 標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dを共発現した形質転換体の細胞、ならびにアジュバントを含む、組成物であって、該共発現細胞がCD1dリガンドでパルス処理されることを特徴とする、組成物。 標的抗原に対する免疫活性化能を有する、標的抗原及びCD1dを共発現した形質転換体の細胞を有効成分として含む、医薬であって、該共発現細胞がCD1dリガンドでパルス処理されることを特徴とする、医薬。 固形腫瘍、造血組織における腫瘍、又は感染症の治療剤である、請求項3記載の医薬。