タイトル: | 公開特許公報(A)_低炭素鋼と高炭素鋼のオーステナイト系ステンレス鋼の識別測定法 |
出願番号: | 2008280242 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 27/416,G01N 33/20 |
大沼 靖史 今川 博之 JP 2010107381 公開特許公報(A) 20100513 2008280242 20081030 低炭素鋼と高炭素鋼のオーステナイト系ステンレス鋼の識別測定法 三菱瓦斯化学株式会社 000004466 永井 隆 100117891 大沼 靖史 今川 博之 G01N 27/416 20060101AFI20100416BHJP G01N 33/20 20060101ALI20100416BHJP JPG01N27/46 301MG01N33/20 J 1 OL 5 2G055 2G055AA02 2G055BA20 2G055CA07 本発明は加熱によって炭化物を生成したオーステナイト系ステンレス鋼の腐食性の違いを利用して、オーステナイト系ステンレス鋼の高炭素鋼と低炭素鋼を電気化学的に区分する評価方法に関するものである。 オーステナイト系ステンレス鋼には溶接などによる耐食性低下の少ない低炭素鋼(304L,316Lなど)と、そうでない高炭素鋼(304,316など)がある。オーステナイト系ステンレス鋼は化学装置用の材料として多く使われている。装置材料として低炭素鋼を採用していたにもかかわらず、金属材料メーカーの材料の取り違いにより高炭素鋼が使用され予想外の腐食事故が生じる場合がある。この場合、迅速に腐食事故が発生した材料を分析してその原因対策を樹立する必要性から、実験室で低炭素鋼と高炭素鋼を迅速に識別する測定法が要望とされていた。 溶接部の熱影響などによる高炭素鋼の粒界劣化度を評価する方法としては、アノード分極法であるEPR法などが適用されている(非特許文献1)。しかし、アノード分極法を利用して低炭素鋼と高炭素鋼を区別することに関する報告はない。また、オーステナイト系ステンレス鋼中の炭素量の評価は、従来、非特許文献2に示されるように、高価な分析用機器を用い、溶解時に発生する微量炭酸ガスの定量を行う必要があり、測定には長時間を要していた。そこで、比較的容易かつ迅速に識別できる技術が要求されていた。「EPR法によるステンレス鋼の局部腐食モニタリング」 日本材料学会 腐食防食部門委員会資料 No.127. p30 (1985)「金属便覧」 日本金属学会編 改訂6版、p444、丸善(2000)化学装置用の材料として多く使われるオーステナイト系ステンレス鋼の高炭素鋼と低炭素鋼を迅速に識別する測定法を提供する。 高炭素鋼は加熱により炭化物が粒界に析出して腐食の感受性が高まる。このことに着目し、鋭意検討した結果、炭化物の析出状態によるアノード分極時の腐食電流の大きさを測定することで識別測定が可能であることを見出した。すなわち、本発明は、低炭素鋼と高炭素鋼のオーステナイト系ステンレス鋼の識別測定において、試験片を650℃に数時間加熱し炭化物を析出させた後、酸性の塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、自然浸漬電位から飽和カロメル電極に対し+0.2Vまでアノード分極させ、そのときに流れる最大電流密度を測定することを特徴とする低炭素鋼と高炭素鋼の識別測定法である。本発明による識別測定法により、金属材料メーカーでしか測定できない高価な分析用機器を用いた微量の炭酸ガス定量測定を行うことなく、簡便かつ迅速なオーステナイト系ステンレス鋼の低炭素鋼と高炭素鋼を識別することが可能となる。本発明の測定手法は、原則として、JIS G05790 ステンレス鋼のアノード分極曲線測定方法(1983)に準ずる。試験片は以下の3段階により作成する。〈1段階〉本発明で評価するオーステナイト系ステンレス鋼の試験片は、アノード分極測定に必要な大きさに仕上げ、炭化物析出による耐食性の比較を行うため、650℃に30分〜10時間加熱し炭化物を十分析出させた後急冷する。〈2段階〉陽分極用の電極作成に際し、オーステナイト系ステンレス鋼の試験裏面に、ハンダ付け、スポット溶接、電導性塗料などで導線を接続する。この際も試験面に熱影響が及ばないよう加熱は最小限に止める。〈3段階〉試験面以外は耐薬品性の優れた樹脂(エポキシ樹脂・フェノール樹脂など)で被覆する。試験面は、アノード分極曲線の測定前に表面をペーパー仕上げなどでなるべく平滑な状態にすることで、測定データがばらつく原因を除くことができるので好ましい。〈測定装置〉本発明に使用するアノード分極曲線測定装置は、ポテンショスタット、電位掃引装置、記録計、電解槽および恒温槽を組み合わせたものを用いる。〈測定液〉本発明で使用する測定液には、蒸留水で3wt%の濃度に塩化ナトリウムを溶解させる。それに0.1wt%以上0.3wt%未満、好ましくは0.1wt%になるよう濃硫酸を添加した水溶液を使用する。測定方法は以下の手順にて実施する。〈手順1〉恒温槽を用いて液温を30±0.5℃に一定に保った電解槽中で測定を行うのが好ましい。JIS G05790には脱酸素処理が必要とあるが、本発明においては電解槽内部を脱酸素処理する必要はない。〈手順2〉アノード分極曲線測定の前に、試験面に生成した酸化皮膜を研磨にて取り除き、浸漬後、飽和カロメル電極に対し−0.7Vで10分間カソード処理をし、その後、電流を切って10分間放置して陽分極の測定に移る。自然浸漬電位から飽和カロメル電極に対し+0.2Vまでスイープ法で分極し、その時に得られる最大電流密度(走査電位に対応した試験面1cm2 当りのmA)を求める。〈結果の判定〉オーステナイト系ステンレス鋼について求めたアノード分極時の最大電流密度の数値をもとに、低炭素鋼または高炭素鋼のいずれの領域にあるかを判定する。その範囲において低炭素鋼と高炭素鋼は特定の熱処理を行えば、最大電流密度の再現性は良好になりデータの信頼性は高くなる。 次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、成分分析方法及びアノード分極曲線測定は、次の手順によった。<アノード分極曲線測定> 熱処理を施したオーステナイト系ステンレス鋼の試験材から、陽分極測定に適した大きさにしてエポキシ樹脂(リファインテック株式会社 エポマウント主剤及び硬化剤を使用)被覆サンプルを作製した。サンプルの表面は、#1000のサンドペーパーで研磨後、測定前に、電極の測定面積を測定した。30℃の恒温槽で保温した3wt%塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社 試薬特級 500g)+0.1%硫酸(和光純薬工業株式会社 試薬特級 500ml)水溶液中で、飽和カロメル電極(北斗電工株式会社 HX-R1型)に対し−0.7Vで10分間カソード処理した後、10分間回路を開放した。その後、自然浸漬電位から飽和カロメル電極に対し+0.2Vまで100mV/min.の速度で分極し、各サンプルのアノード分極曲線測定(北斗電工株式会社 HZ-5000システム使用)を行った。<実施例1> オーステナイト系ステンレス鋼試験材の金属材料メーカー(日本冶金工業株式会社及び日本金属工業株式会社)によるテスト材料の成分分析結果を表1に示す。各試験片は分極測定の前に650℃で、それぞれ0.5hr、1hr, 2hr, 3hr, 5hr, 10hr の加熱処理を行った。 熱処理を施したオーステナイト系ステンレス鋼試験材のアノード分極曲線測定を行い、各サンプルの陽分極電流を測定し、+0.2Vまで陽分極した時に見られた電流密度(mA/cm2)の結果を表2に示す。+0.2Vでの電流密度を比較した場合、304系では650℃で0.5時間の加熱で高炭素鋼は低炭素鋼より2桁大きな電流密度を示し、識別が容易である。一方316系はやや長い650℃で5時間の加熱で高炭素鋼の電流密度が著しく大きくなり識別が可能となる。304系、316系ともに、低炭素鋼は長時間加熱を行った場合でも、低い電流密度を示す。 低炭素鋼と高炭素鋼のオーステナイト系ステンレス鋼の識別測定において、試験片を650℃に数時間加熱し炭化物を析出させた後、酸性の塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、自然浸漬電位から飽和カロメル電極に対し+0.2Vまでアノード分極させ、そのときに流れる最大電流密度を測定することを特徴とする低炭素鋼と高炭素鋼の識別測定法。 【課題】化学装置用の材料として多く使われるオーステナイト系ステンレス鋼の高炭素鋼と低炭素鋼を迅速に識別する測定法を提供する。 【解決手段】低炭素鋼と高炭素鋼のオーステナイト系ステンレス鋼の識別測定において、試験片を650℃に数時間加熱し炭化物を析出させた後、酸性の塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、自然浸漬電位から飽和カロメル電極に対し+0.2Vまでアノード分極させ、そのときに流れる最大電流密度を測定する。【選択図】 なし