タイトル: | 公開特許公報(A)_グリセリドの加水分解方法 |
出願番号: | 2008278056 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C11C 3/10,C10L 1/08,C10L 1/02,C12P 7/64,C12P 7/62 |
島田 裕司 永尾 寿浩 西村 嘉 野上 誠 出田 善裕 JP 2010106107 公開特許公報(A) 20100513 2008278056 20081029 グリセリドの加水分解方法 地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 508114454 関西電力株式会社 000156938 南條 博道 100104673 島田 裕司 永尾 寿浩 西村 嘉 野上 誠 出田 善裕 C11C 3/10 20060101AFI20100416BHJP C10L 1/08 20060101ALI20100416BHJP C10L 1/02 20060101ALI20100416BHJP C12P 7/64 20060101ALI20100416BHJP C12P 7/62 20060101ALI20100416BHJP JPC11C3/10C10L1/08C10L1/02C12P7/64C12P7/62 13 OL 22 4B064 4H013 4H059 4B064AD61 4B064AD85 4B064CA21 4B064CB03 4B064CB24 4B064CD06 4B064CD21 4B064DA16 4H013BA02 4H059BA30 4H059BC06 4H059BC13 4H059BC48 4H059CA36 4H059CA38 4H059CA97 本発明は、酵素を用いてグリセリドを加水分解する方法に関する。本発明はまた、酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを製造する方法、および該方法を用いてバイオディーゼル燃料を製造する方法に関する。本発明はさらに、酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を製造する方法に関する。 昨今の地球環境問題を背景として、地球環境への負荷が少なくエネルギー消費が少ない酵素反応を用いる製造技術が注目されている。しかし、一般に、化学触媒反応では、99%以上の高い反応率が得られることが多いのに対して、酵素反応では、化学触媒反応と比較して反応率が低いという問題がある。 例えば、リパーゼを用いる酵素反応では、基質であるグリセリド(トリグリセリドおよび部分グリセリド)を完全に加水分解することが望ましいが、逆反応の存在によりグリセリドを完全に加水分解することは困難である。 リパーゼは、脂肪酸エステルからなるバイオディーゼル燃料を製造する技術においても利用され、原料油脂に含まれるグリセリドとアルコールとのエステル交換反応、原料油脂に含まれるグリセリドを加水分解する反応、および加水分解産物である遊離脂肪酸とアルコールとから脂肪酸エステルを合成する反応を触媒する。そのため、グリセリドの分解率を高めることは、脂肪酸エステルの含量が高くかつグリセリド含量が低い高品質のバイオディーゼル燃料の製造にとって重要である。 リパーゼを用いて、グリセリドと遊離脂肪酸とを含む油分を脂肪酸エステルへ変換する方法においては、該油分に酵素とアルコールとを作用させると、遊離脂肪酸のエステル化に伴って生成する水がグリセリドのアルコリシスを妨害するという問題がある。非特許文献1には、この問題を解決するため、遊離脂肪酸とアルコールとのエステル化により得られた油分を脱水した後に、グリセリドとアルコールとを反応させる方法が開示され、この方法によって、大豆油製造過程で排出される脱酸廃棄物に由来する油分から脂肪酸エステルの含量を91質量%以上、かつグリセリドを3質量%以下の割合で含有するバイオディーゼル燃料を製造できることが記載されている。 リパーゼを用いて、廃食用油に含まれるトリグリセリドをアルコリシスして、トリグリセリドを構成する脂肪酸をエステル化し、脂肪酸エステルを得る方法においては、メタノールを添加すると酵素が不可逆的に失活するという問題がある。特許文献1には、この問題を解決するため、メタノールを廃食用油に逐次添加する方法が開示され、この方法によって、脂肪酸メチルエステルを96質量%以上、かつグリセリドを4質量%以下の割合で含有するバイオディーゼル燃料を製造できることが記載されている。 このように、リパーゼを用いる酵素反応によって、グリセリドからバイオディーゼル燃料を製造する技術において、非特許文献1および特許文献1に記載の方法によれば、脂肪酸エステルへの変換率を96%以上にできる。しかし、非特許文献1の方法は、反応後にグリセリドが約3質量%残存するという問題がある。また、2種の酵素反応の他に反応液から水を除去する工程が必要であるなど工程数が多く、2ポット以上の反応系を要するため、環境負荷や製造コストの点でも問題が多い。 これに対して、特許文献1の方法は、メタノールを反応液に逐次添加する工程を伴うが、1ポットの反応系のみからなり得るため、非特許文献1の方法と比較して簡便であり、環境負荷や製造コストの点でも有利である。しかし、特許文献1の方法は、遊離脂肪酸を5質量%以上含む油脂には適用できず、反応後にグリセリドが約3質量%残存するという問題がある。また、リパーゼ阻害濃度以下にアルコール濃度を調節しつつ反応させる方法であるため、アルコールを反応液に添加する時期や量の制御が複雑であるという問題がある。さらに、グリセリドを含む油脂を原料として脂肪酸エステルを製造するには適しているが、高収率で遊離脂肪酸を得るには適さないという問題がある。 ところで、特許文献2には、酵素反応によってステロール脂肪酸エステルを遊離ステロールへ変換する方法において、反応液にアルコールを添加することによって、ステロール脂肪酸エステルのアルコリシス反応を促進し、遊離ステロールへの変換率を高めることが記載されている。しかし、特許文献2には、アルコールを反応開始前に添加しても反応中に逐次的に添加してもよいとの記載があるにもかかわらず、アルコールを反応開始前に添加した実施例しか記載されていない。この実施例では、ステロール脂肪酸エステルの濃度が0.7wt%になるまでに3日も要している(特許文献2の表4参照)。これは、上述のように、アルコールを反応開始前に添加する場合は、アルコールが酵素活性を阻害するため、遊離ステロールへの効率的な変換が期待できないということと一致する。一方、特許文献2は、アルコールを反応中に逐次的に添加する場合については、アルコールを反応液に添加する時期や量を特定していない。国際公開第00/12743号パンフレット特開2003−079390号公報Y. Watanabeら、「Conversion of acid oil by-produced in vegetable oil refining to biodiesel fuel by immobilized Candida antarctica lipase」、J. Mol. Catal. B: Enzymatic、2007年、第44巻、p. 99-105 本発明は、酵素を用いてグリセリドを簡便かつ効率的に加水分解する方法、酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを簡便かつ効率的に製造する方法、および該方法を用いてバイオディーゼル燃料を製造する方法、ならびに酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を簡便かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、酵素を用いてグリセリドを加水分解する際に、グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで酵素反応を行った後、反応液にアルコールを添加することによって、グリセリドの加水分解率を、反応液にアルコールを添加しない場合と比較して上昇させることができることを見出し、本発明を完成した。 本発明は、酵素を用いてグリセリドを加水分解する方法を提供し、該方法は、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程、を含む。 1つの実施態様では、上記アルコールは、第1級または第2級アルコールである。 1つの実施態様では、上記第2反応工程において、上記アルコールは、上記グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して0.1〜5モル当量の割合で添加される。 1つの実施態様では、上記油脂は、植物油脂、動物油脂、魚油または微生物油脂である。 1つの実施態様では、上記酵素は、リパーゼである。 また、本発明は、酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを製造する方法を提供し、該方法は、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程、を含む。 1つの実施態様では、上記アルコールは、第1級または第2級アルコールである。 1つの実施態様では、上記第2反応工程において、上記アルコールは、上記グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して0.1〜5モル当量の割合で添加される。 1つの実施態様では、上記油脂は、植物油脂、動物油脂、魚油または微生物油脂である。 1つの実施態様では、上記酵素は、リパーゼである。 本発明は、酵素を用いてバイオディーゼル燃料を製造する方法を提供し、該方法は、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程であって、該第2反応工程が、該第2反応工程で得られる反応液中の該遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを含む水溶性画分または非水溶性画分中のグリセリド含量が該画分の1質量%以下に達するまで継続される、工程、を含む。 さらに、本発明は、酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を製造する方法を提供し、該方法は、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程、および 該第2反応工程で得られる反応液中の水溶性画分または非水溶性画分から該グリセリド、該遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を回収する工程、を含む。 1つの実施態様では、上記油脂は、魚油または微生物油脂であり、前記遊離脂肪酸または遊離脂肪酸エステルは、高度不飽和脂肪酸またはそのエステルである。 本発明によれば、酵素を用いてグリセリドを加水分解する方法、酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを製造する方法、および該方法を用いてバイオディーゼル燃料(BDF)を製造する方法、ならびに酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を製造する方法において、1ポットでの反応系においても、グリセリドの加水分解率を、反応液にアルコールを添加しない場合と比較して上昇させることができる。本発明によれば、例えば、魚油から高度不飽和脂肪酸含量の高い油脂を、効率よく得ることができ、グリセリドを含む廃油からグリセリド含量が1質量%以下の高品質のBDFを、効率よく得ることができる。 (油脂) 本発明において、油脂とは、グリセリドを主成分として含み、遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを含むものをいう。本発明において用いられる油脂としては、植物、動物、魚類または微生物のいずれに由来するものでもよい。一般に、グリセリドを5質量%以上含む油脂が、好ましく用いられる。より好ましくは、グリセリドを70質量%以上含む油脂である。植物由来油脂としては、例えば、オリーブ油、サラダ油、パーム油、ヤトロファ(Jatropha)油などが挙げられる。動物由来油脂としては、例えば、牛脂、豚脂などが挙げられる。魚類由来油脂(魚油)としては、例えば、マグロ油、イワシ油、カツオ油などが挙げられる。微生物由来油脂としては、モルティエレラ属(Mortierella)やシゾキトリウム属(Schizochytrium)の微生物が生産するものなどが挙げられる。 (グリセリド) 本発明において、グリセリドとは、グリセロール(グリセリン)と脂肪酸とがエステル結合したものを総称し、アシルグリセロール(AG:トリアシルグリセロール、ジアシルグリセロール、およびモノアシルグリセロールの混合物)、好ましくはトリグリセリド(トリアシルグリセロール:TAG)、ジグリセリド(ジアシルグリセロール:DAG)、またはモノグリセリド(モノアシルグリセロール:MAG)を含み、より好ましくはTAGである。 (遊離脂肪酸) 本発明において、遊離脂肪酸とは、遊離のカルボキシル基を有する脂肪酸をいい、その種類を問わない。また、直鎖の脂肪酸であってもよく、分岐の脂肪酸であってもよい。さらに、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。 (脂肪酸エステル) 本発明において、脂肪酸エステルとは、アルコールと脂肪酸とから脱水縮合によって生成される化合物をいい、その種類を問わない。 (アルコール) 本発明において用いられるアルコールとしては、特に制限はない。第1級アルコール、第2級アルコールなどが用いられるが、第1級アルコールが好ましく用いられる。第1級アルコールとしては、炭素数1〜12の直鎖または分岐のアルコールが用いられる。例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、ドデカノールなどが挙げられるが、特に限定されない。より好ましくはメタノールおよびエタノールである。第2級アルコールとしては、例えば、イソプロパノール、2−ブタノール、2−ヘキサノールなどが挙げられる。 (酵素) 本発明において用いられるグリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素としては、上記グリセリドを基質として認識するものであれば限定されない。例えば、リパーゼ(トリグリセリドリパーゼ、モノグリセリドリパーゼ、モノおよびジグリセリドリパーゼ)、クチナーゼ、エステラーゼなどが挙げられる。これらの中でもリパーゼが好ましく、特にトリグリセリドリパーゼが好ましい。トリグリセリドリパーゼは、トリグリセリドの1,3−位に特異的であってもよく、非特異的(トリグリセリドの任意の位置のエステル結合を加水分解する)であってもよい。本発明において、加水分解反応とは、グリセリドなどの脂肪酸エステルと水とから遊離脂肪酸とアルコールとを生成する反応をいう。加水分解反応は可逆反応であるため、上記酵素は、遊離脂肪酸とアルコールとから水と脂肪酸エステルとを生成する反応(逆反応)をも触媒し得る。 上記酵素は、微生物、動物、または植物のいずれに由来するものでもよい。例えば、ペニシリウム(Penicillium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、バシラス(Bacillus)属、キャンディダ(Candida)属、ゲオトリカム(Geotrichum)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、ムコール(Mucor)属、アルペルギルス(Aspergillus)属、サーモミセス(Thermomyces)属(以前の名称はフミコーラ(Humicola)属)、シュードチマ(Pseodozyma)属などの微生物が生産する酵素、豚膵臓由来の酵素などが挙げられる。これらの酵素を単独で、または複数を混合して用いることができる。これらの酵素は一般に市販されているものを用いてもよく、容易に入手可能である。 上記酵素は、粗精製物、部分精製物、または完全精製物のいずれでもよい。また、遊離型のままでもよく、あるいはイオン交換樹脂、多孔性樹脂、セラミックス、炭酸カルシウムなどの担体に固定されたものでもよい。遊離型の酵素を用いる場合は、一旦酵素を水に溶解してから反応液に添加してもよく、酵素と水とを別々に反応液に添加してもよい。 (高度不飽和脂肪酸) 本発明において、高度不飽和脂肪酸とは、多価不飽和脂肪酸(ポリエン脂肪酸)のうち、炭素鎖長20以上で二重結合を3個以上含むものをいう。例えば、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などが挙げられる。 (バイオディーゼル燃料) 本発明において、バイオディーゼル燃料とは、生物由来のグリセリドから作られるディーゼルエンジン用燃料であって、脂肪酸エステルを主成分とするものをいう。 (グリセリドの加水分解方法) 本発明の、グリセリドを加水分解する方法は、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程、を含む。 上記加水分解方法において、第1反応工程では、グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して反応液を調製し、グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる。この第1反応工程においては、加水分解反応によってグリセリドから遊離脂肪酸とグリセロールとが生成して反応液中の遊離脂肪酸の濃度が上昇する結果、反応の進行に伴って酵素の逆反応が誘引され、グリセリドの加水分解反応は、その速度が徐々に遅くなり、やがて平衡状態に達する。 本発明において、反応液中のグリセリド含量は、反応液を適宜サンプリングし、ガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィー/水素炎イオン化検出器(TLC−FID)などを用いて分析することにより適宜定量することができる。本発明において、グリセリドの加水分解反応の分解率または加水分解率とは、反応液中のグリセリド含量が加水分解反応によって反応開始時から低下した割合(%)をいう。分解率または加水分解率は、反応液中のグリセリド含量をモニターすることにより適宜決定することができる。 次いで、第2反応工程では、第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる。すなわち、アルコールの添加は、グリセリドの分解率が30%以上に達してから行い、加水分解反応が平衡状態になってから行ってもよい。この第2反応工程においては、反応液にアルコールを添加することによって、酵素反応により遊離脂肪酸と添加したアルコールとから脂肪酸エステルが生成して反応液中の遊離脂肪酸の濃度が減少する結果、上記酵素の逆反応を緩和してグリセリドの加水分解が促進されるものと考えられる。グリセリドの最終加水分解率は、好ましくは99%以上である。 上記加水分解方法において、酵素反応は、静置反応でもよいし、各種の攪拌法、振盪法、超音波法、窒素などの吹き込み法、ポンプなどによる循環混合法、弁またはピストンを用いる混合法などにより、あるいはこれらの方法の組合せにより、反応液をよく混合しながら行ってもよい。 上記酵素反応は、加水分解反応を効率よく行うために適した温度で行えばよく、好ましくは0〜90℃、より好ましくは20〜70℃である。また、酵素反応の途中で変更してもよい。 上記加水分解方法において、酵素の量は、反応温度、反応時間、油脂の種類などにより適宜設定でき、特に限定されないが、好ましくは反応液1g当たり1単位(U)〜10000U、より好ましくは5U〜1000Uである。1Uとは、リパーゼの場合、オリーブ油の加水分解において1分間に1μmolの脂肪酸を遊離する酵素の量である。 上記加水分解方法において、水の量は、特に限定されないが、好ましくは反応液に対して1〜100質量%、より好ましくは10〜50質量%である。 上記加水分解方法において、アルコールの量は、特に限定されないが、好ましくは通常グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して0.1〜30モル当量、より好ましくは0.1〜5モル当量である。 上記加水分解方法において、酵素反応の方法、および酵素の量、水の量などの酵素反応の条件(アルコールの量を除く)は、第1反応工程と第2反応工程とで同じであってもよいし、異なっていてもよい。 (遊離脂肪酸または脂肪酸エステルの製造方法) 本発明の、遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを製造する方法は、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程、を含む。 上記製造方法において、第1反応工程では、グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して反応液を調製し、グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる。この第1反応工程においては、加水分解反応によってグリセリドから遊離脂肪酸とグリセロールとが生成して反応液中の遊離脂肪酸の濃度が上昇する結果、反応の進行に伴って酵素の逆反応が誘引され、グリセリドの加水分解反応は、その速度が徐々に遅くなり、やがて平衡状態に達する。 次いで、第2反応工程では、第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる。すなわち、アルコールの添加は、グリセリドの分解率が30%以上に達してから行い、加水分解反応が平衡状態になってから行ってもよい。この第2反応工程においては、反応液にアルコールを添加することによって、酵素反応により遊離脂肪酸と添加したアルコールとから脂肪酸エステルが生成して反応液中の遊離脂肪酸の濃度が減少する結果、上記酵素の逆反応を緩和してグリセリドの加水分解が促進されるものと考えられる。 上記製造方法において、酵素反応の方法、および酵素の量、水の量、アルコールの量などの酵素反応の条件は、上記加水分解方法と同様である。 上記製造方法においては、第2反応工程で得られる反応液からの脂肪酸エステルを酵素的または化学的に分解する工程をさらに加えることによって、得られる遊離脂肪酸の収率を上昇させることができる。これとは反対に、第2反応工程で得られる反応液からの遊離脂肪酸を酵素的または化学的に脂肪酸エステルへ変換する工程をさらに加えることによって、得られる脂肪酸エステルの収率を上昇させることもできる。 (バイオディーゼル燃料の製造方法) 本発明の、バイオディーゼル燃料を製造する方法は、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程であって、該第2反応工程が、該第2反応工程で得られる反応液中の該遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを含む水溶性画分または非水溶性画分中のグリセリド含量が該画分の1質量%以下に達するまで継続される、工程、を含む。 上記製造方法において、第1反応工程では、グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して反応液を調製し、グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる。この第1反応工程においては、加水分解反応によってグリセリドから遊離脂肪酸とグリセロールとが生成して反応液中の遊離脂肪酸の濃度が上昇する結果、反応の進行に伴って酵素の逆反応が誘引され、グリセリドの加水分解反応は、その速度が徐々に遅くなり、やがて平衡状態に達する。 次いで、第2反応工程では、第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる。すなわち、アルコールの添加は、グリセリドの分解率が30%以上に達してから行い、加水分解反応が平衡状態になってから行ってもよい。この第2反応工程においては、反応液にアルコールを添加することによって、酵素反応により遊離脂肪酸と添加したアルコールとから脂肪酸エステルが生成して反応液中の遊離脂肪酸の濃度が減少する結果、上記酵素の逆反応を緩和してグリセリドの加水分解が促進されるものと考えられる。第2反応工程は、第2反応工程で得られる反応液中の該遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを含む水溶性画分または非水溶性画分中のグリセリド含量が該画分の1質量%以下に達するまで継続される。したがって、遊離脂肪酸または脂肪酸エステル(バイオディーゼル燃料)を99質量%以上含む画分を得ることができる。 上記製造方法において、酵素反応の方法、および酵素の量、水の量、アルコールの量などの酵素反応の条件は、上記加水分解方法と同様である。 上記製造方法においては、遊離脂肪酸または脂肪酸エステルの回収工程では、第2反応工程で得られる反応液を水溶性画分と非水溶性画分とに分画し、そして分画された水溶性画分または非水溶性画分から遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを分離精製する。これは、溶媒による抽出、蒸留による精製などの常法によって行うことができる。 上記製造方法においては、遊離脂肪酸または脂肪酸エステルは、炭素鎖長が4以下の場合には、第2反応工程で得られる反応液中の水溶性画分から回収される。水溶性画分には、加水分解反応の副産物であるグリセロールや未反応のアルコールなども共存するため、目的とする遊離脂肪酸または脂肪酸エステルをこれらの夾雑物から分離する必要がある。一方、遊離脂肪酸または脂肪酸エステルは、炭素鎖長が5以上の場合には、第2反応工程で得られる反応液中の非水溶性画分から回収される。非水溶性画分には、原料であるグリセリドが含まれるが、残存するグリセリドの量が少ないため、目的とする遊離脂肪酸または脂肪酸エステルの分離精製は比較的容易である。グリセリドを完全に分解することにより、目的物の分離精製はさらに容易となる。 本発明において、水溶性画分または非水溶性画分とは、反応液を水溶性画分と非水溶性画分とに分画した場合の水溶性画分または非水溶性画分をいう。反応液の分画は、通常、反応液を静置または遠心分離することによって行うが、他の方法によってもよい。 (遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物の製造方法) 本発明の、遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を製造する方法は、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程、および 上記第2反応工程で得られる反応液中の水溶性画分または非水溶性画分から該遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を回収する工程、を含む。 上記製造方法において、第1反応工程では、グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して反応液を調製し、グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる。この第1反応工程においては、加水分解反応によってグリセリドから遊離脂肪酸とグリセロールとが生成して反応液中の遊離脂肪酸の濃度が上昇する結果、反応の進行に伴って酵素の逆反応が誘引され、グリセリドの加水分解反応は、その速度が徐々に遅くなり、やがて平衡状態に達する。 次いで、第2反応工程では、第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる。すなわち、アルコールの添加は、グリセリドの分解率が30%以上に達してから行い、加水分解反応が平衡状態になってから行ってもよい。この第2反応工程においては、反応液にアルコールを添加することによって、酵素反応により遊離脂肪酸と添加したアルコールとから脂肪酸エステルが生成して反応液中の遊離脂肪酸の濃度が減少する結果、上記酵素の逆反応を緩和してグリセリドの加水分解が促進されるものと考えられる。 次いで、遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物の回収工程では、第2反応工程で得られる反応液を水溶性画分と非水溶性画分とに分画し、そして分画された水溶性画分または非水溶性画分から遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を分離精製する。これは、溶媒による抽出、蒸留による精製などの常法によって行うことができる。 上記製造方法において、酵素反応の方法、および酵素の量、水の量、アルコールの量などの酵素反応の条件は、上記加水分解方法と同様である。 上記製造方法においては、遊離脂肪酸または脂肪酸エステルは、炭素鎖長が4以下の場合には、第2反応工程で得られる反応液中の水溶性画分から回収される。水溶性画分には、加水分解反応の副産物であるグリセロールや未反応のアルコールなども共存するため、目的とする遊離脂肪酸または脂肪酸エステルをこれらの夾雑物から分離する必要がある。一方、遊離脂肪酸または脂肪酸エステルは、炭素鎖長が5以上の場合には、第2反応工程で得られる反応液中の非水溶性画分から回収される。非水溶性画分には、原料であるグリセリドが含まれるが、残存するグリセリドの量が少ないため、目的とする遊離脂肪酸または脂肪酸エステルの分離精製は比較的容易である。グリセリドを完全に分解することにより、目的物の分離精製はさらに容易となる。したがって、魚油や微生物由来のグリセリドを原料とする場合のように、グリセリドの加水分解によって得られる遊離脂肪酸が高度不飽和脂肪酸である場合には、遊離脂肪酸または脂肪酸エステルは、第2反応工程で得られる反応液中の非水溶性画分から効率よく回収することができる。 本発明によれば、グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して反応液を調製し、グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達する時点(第1反応工程終了時)で、反応液にアルコールを添加すると、加水分解反応によって生じる遊離脂肪酸のエステル化反応が開始され、同時にグリセリドの分解率も飛躍的に上昇する(第2反応工程)。特に酵素が作用しやすい脂肪酸で構成されているグリセリドの加水分解においては、グリセリドをほぼ完全に分解することができる。また、本発明によれば、上記加水分解反応に伴い、グリセリドを含む油脂から遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを効率よく製造することができる。例えば、グリセリドを含む廃油からグリセリド含量が1質量%以下の高品質のバイオディーゼル燃料(BDF)を、効率よく得ることができる。さらに、本発明によれば、上記加水分解反応に伴い、グリセリドを含む油脂から遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を効率よく製造することができる。例えば、魚油から高度不飽和脂肪酸含量の高い油脂を、効率よく得ることができる。 一方、本発明とは異なり、グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して反応液を調製し、反応開始時に、反応液にアルコールを添加すると、グリセリドの加水分解率は、反応液にアルコールを添加しない場合と比較して著しく低下する。これは、アルコールのリパーゼ阻害作用によるものと考えられる。 以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明がこの実施例に制限されないことはいうまでもない。 (材料および方法) 1.グリセリドを含む油脂 以下の実施例に用いた油脂のケン化価、酸価、および主な構成脂肪酸組成を表1に示す。ここで、ケン化価とは、油脂1gをケン化するのに必要なKOHのmg数をいい、酸価とは、油脂1gを中和するのに必要なKOHのmg数をいう。 2.酵素 酵素として、酵母キャンディダ・ルゴーサ(Candida rugosa)由来のリパーゼ(商品名:リパーゼOF、名糖産業株式会社製)、糸状菌リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)由来のリパーゼ(商品名:リポザイムRM、ノボザイムズ社製)、アルカリゲネス(Alcaligenes)属の細菌由来のリパーゼ(商品名:リパーゼQLM、名糖産業株式会社製)、および細菌バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)由来のリパーゼ(商品名:リパーゼPS、天野エンザイム社製)を使用した。リパーゼの場合、オリーブ油の加水分解において1分間に1μmolの脂肪酸を遊離する酵素の量を1Uと定義した。リパーゼが粉末のときは、一旦リパーゼを水に溶解してから、所定の量になるように反応液に添加した。なお、リゾムコール・ミエヘイ・リパーゼ(リポザイムRM)は、TAGを1,3−位特異的に加水分解する。 3.酵素反応 グリセリドを含む油脂、水、およびリパーゼを含む反応液を50mL容のサンプル瓶に入れ、このサンプル瓶を30℃に設定した水槽に入れ、反応液を500rpmで攪拌しながら反応を行った。 4.グリセリド、遊離脂肪酸、および脂肪酸エステルの分析 反応液のうち約0.8gを取り出し、遠心分離により油層と水層とに分離し、油層画分のグリセリド(AG)、遊離脂肪酸(FFA)、および脂肪酸エステルの含量を分析した。グリセリドとしてマグロ油を用いた反応では、反応液の油層画分中の各成分の含量をガスクロマトグラフィーにより分析した。カラムはDB−1ht(5m、0.25μm、アジレントテクノロジー社製)を用い、120℃で0.5分間保持後、15℃/分で280℃へ、そして10℃/分で370℃へ昇温し、370℃で3分間保持した。注入口、検出器とも370℃に設定した。グリセリドとしてヤトロファ油およびサラダ油を用いた反応では、反応液の油層画分中の各成分の含量をTLC−FID(イアトロスキャンMK−5、ヤトロン社製)を用いて分析した。TLC−FID分析では、一次展開溶媒としてトルエン:クロロホルム:酢酸=50:20:1(容量比)を、二次展開溶媒としてヘキサン:ジエチルエーテル=65:5(容量比)を用いて行った。 (参考例:メタノールを添加しない場合の加水分解率) グリセリドを含む油脂として14gのヤトロファ油(インドネシア、バンドン工科大学化学工学部、T.Prokoso博士提供)を用いた。グリセリドを含む油脂および30質量%の水を含む反応液(ヤトロファ油14gおよび水6gからなる反応液)に、反応液1g当たり30Uのキャンディダ・ルゴーサ・リパーゼ(リパーゼOF)を添加して、グリセリドの加水分解を行った。結果を以下の表2に示す。得られた反応液の油層画分中のAG含量は、反応開始から20時間後には5.8質量%まで低下した。しかし、その後は、44時間後までほとんど低下しなかった。したがって、加水分解反応は反応開始から20時間後にほぼ平衡状態に達した。この場合のグリセリドの分解率(すなわち、最終分解率)は94%であった。 (比較例1:反応開始時にメタノールを添加した場合の加水分解率) 反応開始時に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して1.5モル当量のメタノールを添加したこと以外は、参考例と同様に反応を行った。結果を以下の表2に示す。得られた反応液の油層画分中のAG含量は、反応開始から20時間後に55.5質量%まで低下し、44時間後に27.7質量%まで低下した。グリセリドの最終分解率は72%であった。したがって、メタノールの添加により、グリセリドの分解速度は遅くなる(すなわち、酵素反応が阻害される)ことがわかった。 (比較例2:反応開始から10分後にメタノールを添加した場合の加水分解率) 反応開始から10分後に、メタノールを添加してさらに44時間反応を行ったこと以外は、参考例と同様に反応を行った。結果を以下の表2に示す。得られた反応液の油層画分中のAG含量は、反応開始から10分後にメタノールを添加した時点で、78.4質量%(グリセリドの分解率は22%)であり、反応開始から20時間後に50.5質量%(グリセリドの分解率は49%)まで低下し、44時間後に33.9質量%まで低下した。すなわち、グリセリドの最終分解率は66%であった。したがって、グリセリドの加水分解率が30%以上に達する前のメタノールの添加は、FFAのメチルエステル化反応を誘導せず、その結果、グリセリドの最終分解率は上昇しないことがわかった。 (実施例1:反応開始から20時間後にメタノールを添加した場合の加水分解率) 反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して1.5モル当量のメタノールを添加してさらに24時間反応を行ったこと以外は、参考例と同様に反応を行った。結果を表2に示す。得られた反応液の油層画分中のAG含量は、反応開始から20時間後にメタノールを添加した時点で、5.4質量%(グリセリドの分解率は95%)であり、反応開始から44時間後には検出限界(1質量%)以下まで低下した。すなわち、グリセリドの最終分解率はほぼ100%であり、グリセリドがほぼ完全分解した。したがって、グリセリドの加水分解率が30%以上に達した後のメタノールの添加は、FFAのメチルエステル化反応を誘導し、その結果、グリセリドの最終分解率は上昇し得ることがわかった。 (実施例2:各種リパーゼを用いた検討) グリセリドを含む油脂として12gのヤトロファ油を用いた。グリセリドを含む油脂および30質量%の水を含む反応液に、反応液1g当たり30Uの以下の表3に記載の各種リパーゼをそれぞれ添加して、グリセリドの加水分解を行った。反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して1.5モル当量のメタノールを添加してさらに24時間反応を行った。結果を表3に示す。 キャンディダ・ルゴーサ・リパーゼ(リパーゼOF)を用いた場合、反応開始から44時間後(反応終了後)の反応液の油層画分中のAG含量は、メタノールを添加しないときは5質量%であった。これに対して、メタノールを添加したときは、検出限界以下であった。リゾムコール・ミエヘイ・リパーゼ(リポザイムRM)を用いた場合、反応終了後の反応液の油層画分中のAG含量は、メタノール添加により53質量%から38質量%まで低下した。アルカリゲネス属リパーゼ(リパーゼQLM)を用いた場合、反応終了後の反応液の油層画分中のAG含量は、メタノール添加により34質量%から7質量%まで低下した。バークホルデリア・セパシア・リパーゼ(リパーゼPS)を用いた場合、反応終了後の反応液の油層画分中のAG含量は、メタノール添加により43質量%から9質量%まで低下した。したがって、いずれのリパーゼを用いた場合も、酵素反応の途中でのメタノールの添加により、グリセリドの最終分解率は上昇し得ることがわかった。 ヤトロファ油の最終分解率、および分解産物であるFFAのメチルエステル化率(すなわち、(脂肪酸メチルエステル(FAME)の含量)/(FFAの含量+FAMEの含量)×100(%))については、次のことがわかった:キャンディダ・ルゴーサ・リパーゼを用いた場合は、メタノール添加により、グリセリドの最終分解率がほぼ100%、およびFFAのメチルエステル化率が約70%に達した。リゾムコール・ミエヘイ・リパーゼでは、メタノール添加により、グリセリドの最終分解率が約60%、およびFFAのメチルエステル化率が約95%に達した。アルカリゲネス属リパーゼでは、メタノール添加により、グリセリドの最終分解率が90%以上、およびFFAのメチルエステル化率が95%以上に達した。バークホルデリア・セパシア・リパーゼでは、メタノール添加により、グリセリドの最終分解率が90%以上、およびFFAのメチルエステル化率が97%に達した。 (実施例3:メタノール量の影響) グリセリドを含む油脂として12gのヤトロファ油を用いた。グリセリドを含む油脂および30質量%の水を含む反応液に、反応液1g当たり30Uのキャンディダ・ルゴーサ・リパーゼ(リパーゼOF)を添加して、グリセリドの加水分解を行った。反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して0、1、1.5、または3モル当量のメタノールを添加してさらに24時間反応を行った。結果を表4に示す。 メタノールを添加しなかった場合(すなわち、添加したメタノール量がグリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して0モル当量の場合)、反応開始から20時間後に加水分解はほぼ平衡状態に達し、グリセリドの最終分解率は95%であった。添加したメタノール量がグリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して1モル当量の場合、反応開始から44時間後(反応終了後)の反応液の油層画分中のAG含量は、検出限界以下まで低下した。しかし、添加したメタノール量がグリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して3モル当量の場合、反応終了後にも、未分解のグリセリドが残存していた。したがって、メタノールの添加により、FFAのメチルエステル化反応が誘導され、その結果、グリセリドの最終分解率は上昇し得るが、添加するメタノール量が多すぎると、酵素反応が阻害され、グリセリドの分解速度およびFFAのメチルエステル化速度は遅くなることがわかった。 (実施例4:水分量の影響) グリセリドを含む油脂として12gのヤトロファ油を用いた。グリセリドを含む油脂および10〜70質量%の水を含む反応液に、反応液1g当たり30Uのキャンディダ・ルゴーサ・リパーゼ(リパーゼOF)を添加して、グリセリドの加水分解を行った。反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して1.5モル当量のメタノールを添加してさらに反応を行った。結果を表5に示す。 反応開始から20時間後のメタノールの添加直前のグリセリドの分解率は、反応液の水分量が10質量%の場合は約80%であり、水分量が30質量%以上の場合は約95%であった。メタノールの添加後は、水分量が10質量%の場合と比較して、水分量が30質量%以上の場合は、FFAのメチルエステル化速度が速くなり、グリセリドの分解率が上昇した(27時間および44時間)。これは、反応液への水の添加により、メタノールが希釈され、メタノールによる酵素反応の阻害が緩和されたためであると考えられる。水分量を30質量%から70質量%に上げることによるグリセリドの分解率の大きな変化は観察されなかった。 (実施例5:各種油脂およびアルコールの影響) グリセリドを含む油脂として12.6gのヤトロファ油を用いた。グリセリドを含む油脂および30質量%の水を含む反応液に、反応液1g当たり30Uのキャンディダ・ルゴーサ・リパーゼ(リパーゼOF)を添加して、グリセリドの加水分解を行った。反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して1モル当量のメタノールを添加してさらに24時間反応を行った。また、グリセリドを含む油脂として12.6gのサラダ油(日清オイリオグループ株式会社製)を用い、ヤトロファ油と同様にキャンディダ・ルゴーサ・リパーゼを用いてグリセリドの加水分解を行った。反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して1モル当量のメタノールまたはドデカノールを添加してさらに24時間反応を行った。結果を以下の表6に示す。いずれの場合も、アルコールの添加により、グリセリドの最終分解率は上昇した。 グリセリドを含む油脂として13gのマグロ油(株式会社マルハニチロ水産製)を用いた。グリセリドを含む油脂および30質量%の水を含む反応液に、反応液1g当たり200Uのキャンディダ・ルゴーサ・リパーゼ(リパーゼOF)を添加して、グリセリドの加水分解を行った。結果を表6に示す。反応開始から20時間および44時間後のグリセリドの分解率はそれぞれ63%および65%であった。分解率が低いのは、リパーゼOFが、他の脂肪酸と比較して、高度不飽和脂肪酸を加水分解し難いためであると考えられる。反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して0.5モル当量のエタノールを添加してさらに24時間反応を行った。グリセリドの分解率は70%まで上昇した。したがって、マグロ油の加水分解においても、アルコールの添加により、グリセリドの最終分解率は上昇し得ることがわかった。 (実施例6:バイオディーゼル燃料(BDF)の製造) グリセリドを含む油脂として12.6gのヤトロファ油を用いた。グリセリドを含む油脂および30質量%の水を含む反応液に、反応液1g当たり30Uのキャンディダ・ルゴーサ・リパーゼ(リパーゼOF)を添加して、グリセリドの加水分解を行った。反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して1モル当量のメタノールを添加してさらに24時間反応を行った。反応終了後、反応液から水層を除去し、さらに残存するメタノールおよび水を減圧下で除去し、反応生成物1を得た。さらに、反応生成物1に含まれるFFAを、固定化キャンディダ・アンタークティカ(Candida antarctica)リパーゼ(商品名:Novozym435、ノボザイムズ社製)を触媒としたメチルエステル化反応により、脂肪酸メチルエステル(FAME)へ変換した。すなわち、9gの反応生成物1と1gのメタノール(FFAに対して2モル当量)とを含む反応液に0.1gの固定化キャンディダ・アンタークティカ・リパーゼ(Novozym435)を添加して30℃で24時間反応を行った。反応終了後、固定化酵素を回収して新たな反応液に添加して30℃で24時間(1日間)反応を行い、これを繰り返した(反応2)。結果を表7に示す。 グリセリドを含む油脂の加水分解で得られた油層にはFFAが46質量%、FAMEが54質量%含まれていた(表7、反応生成物1)。固定化リパーゼを繰り返し用いることにより、FAMEの含量が97質量%以上の油脂を50日間連続生産できた。さらに、反応終了後の反応液100gを40mLの0.5M NaOH水溶液で洗浄した後、40mLの0.05M HCl水溶液、次いで40mLの0.01M HCl水溶液で洗浄することにより、FAMEの含量が99質量%以上の油脂を95%の回収率で得た。得られた油脂は、FAME含量が高いため、そのままBDFとして用いられ得る。 (実施例7:リパーゼ併用の影響1) グリセリドを含む油脂として12.6gのヤトロファ油を用いた。グリセリドを含む油脂および30質量%の水を含む反応液に、反応液1g当たり30Uのキャンディダ・ルゴーサ・リパーゼ(リパーゼOF)を添加して、グリセリドの加水分解を行った。反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して1モル当量のメタノールを添加してさらに24時間反応を行った。この結果、46質量%のFFAと54質量%のFAMEとの混合物が得られた。一方、反応開始から20時間後に、反応液1g当たり20Uのバークホルデリア・セパシア・リパーゼ(リパーゼPS)、およびグリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して3モル当量のメタノールを添加してさらに24時間反応を行ったこと以外は、同様に反応を行った。結果を表8に示す。この結果、2.5質量%のFFAと97.5質量%のFAMEとの混合物が得られ、この混合物はグリセリドを全く含んでいなかった。したがって、2種のリパーゼを併用することにより、FAME生成量を向上させることができた。 (実施例8:リパーゼ併用の影響2) グリセリドを含む油脂として10.5gのヤトロファ油を用いた。グリセリドを含む油脂および30質量%の水を含む反応液に、反応液1g当たり10Uのキャンディダ・ルゴーサ・リパーゼ(リパーゼOF)を添加して、グリセリドの加水分解を行った。反応開始から20時間後に、グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して3モル当量のメタノールと、反応液1g当たり20Uのバークホルデリア・セパシア・リパーゼ(リパーゼPS)とを添加してさらに24時間反応を行った。結果を表9に示す。この結果、リパーゼPSを併用することにより、実施例7のリパーゼを併用しない場合と同じリパーゼ活性量で、FAME生成量を向上させることができた。 本発明によれば、酵素を用いてグリセリドを加水分解する方法、酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを製造する方法、および該方法を用いてバイオディーゼル燃料(BDF)を製造する方法、ならびに酵素を用いて遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を製造する方法において、1ポットでの反応系においても、グリセリドの加水分解率を、反応液にアルコールを添加しない場合と比較して上昇させることができる。本発明の方法は、例えば、魚油から高度不飽和脂肪酸含量の高い油脂の製造、グリセリドを含む廃油からグリセリド含量が1質量%以下の高品質のBDFの製造などに好適である。 グリセリドを加水分解する方法であって、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程、を含む、方法。 前記アルコールが、第1級または第2級アルコールである、請求項1に記載の方法。 前記第2反応工程において、前記アルコールが、前記グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して0.1〜5モル当量の割合で添加される、請求項1または2に記載の方法。 前記油脂が、植物油脂、動物油脂、魚油または微生物油脂である、請求項1から3のいずれかの項に記載の方法。 前記酵素が、リパーゼである、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。 遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを製造する方法であって、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程、を含む、方法。 前記アルコールが、第1級または第2級アルコールである、請求項6に記載の方法。 前記第2反応工程において、前記アルコールが、前記グリセリドを含む油脂中の全脂肪酸量に対して0.1〜5モル当量の割合で添加される、請求項6または7に記載の方法。 前記油脂が、植物油脂、動物油脂、魚油または微生物油脂である、請求項6から8のいずれかの項に記載の方法。 前記酵素が、リパーゼである、請求項6から9のいずれかの項に記載の方法。 バイオディーゼル燃料を製造する方法であって、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程であって、該第2反応工程が、該第2反応工程で得られる反応液中の該遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを含む水溶性画分または非水溶性画分中のグリセリド含量が該画分の1質量%以下に達するまで継続される、工程、を含む、方法。 遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を製造する方法であって、 グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、 該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程、および 該第2反応工程で得られる反応液中の水溶性画分または非水溶性画分から該グリセリド、該遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物を回収する工程、を含む、方法。 前記油脂が、魚油または微生物油脂であり、前記遊離脂肪酸または遊離脂肪酸エステルが、高度不飽和脂肪酸またはそのエステルである、請求項12に記載の方法。 【課題】酵素を用いてグリセリドを簡便かつ効率的に加水分解する方法、および酵素を用いてグリセリドから遊離脂肪酸または脂肪酸エステルを簡便かつ効率的に製造する方法を提供すること。【解決手段】本発明の、グリセリドの加水分解方法、遊離脂肪酸または脂肪酸エステルの製造方法、およびバイオディーゼル燃料の製造方法、ならびに遊離脂肪酸または脂肪酸エステル、あるいはこれらの混合物の製造方法は、グリセリドを含む油脂と、水と、グリセリドの加水分解反応を触媒し得る酵素とを混合して、該グリセリドの加水分解反応が30%以上の分解率に達するまで反応させる第1反応工程、および該第1反応工程で得られる反応液にアルコールを添加して、さらに該加水分解反応を続行させる第2反応工程を含む。本発明によれば、グリセリドの加水分解率は、好ましくは99%以上である。【選択図】なし