タイトル: | 公開特許公報(A)_軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法 |
出願番号: | 2008193785 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 33/38,B28B 11/24,G01N 23/207 |
遠藤 利二 JP 2010032318 公開特許公報(A) 20100212 2008193785 20080728 軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法 クリオン株式会社 000185949 上野 登 100095669 遠藤 利二 G01N 33/38 20060101AFI20100115BHJP B28B 11/24 20060101ALI20100115BHJP G01N 23/207 20060101ALI20100115BHJP JPG01N33/38B28B11/00 AG01N23/207 4 2 OL 14 2G001 4G055 2G001AA01 2G001BA18 2G001CA01 2G001GA08 2G001KA01 2G001LA03 2G001MA04 2G001MA05 2G001MA06 2G001RA01 4G055AA03 4G055AC01 4G055BA02 本発明は、住宅、工場、事務所等の建築物の壁、屋根および床などに好適に用いられる軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法に関するものである。 軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)は、住宅、工場、事務所等の建築物の壁、屋根および床などに広く用いられている。このように、ALCパネルが広く用いられている理由の一つには、耐火性能に優れることが挙げられる。 ところで、最近では、火災に対する消火活動が進歩してきており、火災が発生しても、火災初期で消火されることが多い。特に、隣家の火災による被災のような場合では、火災による影響は比較的軽度な場合が多いと推察される。 このような場合、補修・改修コストの低減を図るため、ALCパネルの継続使用が求められる場合がある。したがって、その可否判断が必要とされる。継続使用の可否判断においては、火災による影響を受けたALCパネルの強度性状を明らかにすることが重要となる。そのため、火災によるALCパネルの劣化を診断する方法が求められる。 火災によるALCパネルの劣化を診断する方法ではないが、これまで、コンクリートの劣化を診断する方法については、いくつかの提案がなされている。 例えば特許文献1には、屋外側表面層について軽量気泡コンクリートの全酸化カルシウム含有量および炭酸ガス含有量を測定し、特定の式により得られる炭酸化度を算出し、これをもとに、使用年数の経過に伴う炭酸化による軽量気泡コンクリートの劣化を診断する方法が開示されている。 また、特許文献2には、コンクリート面に近赤外線を照射し、そのコンクリート面から反射される光を分光分析し、採取した吸収スペクトルからコンクリートの劣化成分を検出して、コンクリートの劣化を診断する方法が開示されている。特許第3451616号公報特開2008−14779号公報 しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されるコンクリートの劣化を診断する方法は、いずれもコンクリートの表面のみを分析し、これをもとにコンクリートの劣化を診断するものである。ALCパネルの火災による影響は、火災の程度によっては、その内部にも及ぶことがある。また、火災による劣化の他、例えば使用年数の経過に伴う炭酸化による劣化においても、ALCパネルの表面だけでなく、その内部にも影響が及ぶことがある。そのため、コンクリートの表面のみの分析では、コンクリートの劣化を正確に判断することは難しい。 特に、ALCパネルの継続使用の可否を判断するにあたっては、火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルの強度性状を明らかにすることが重要である。コンクリートの表面のみの分析では、その内部も含めたALCパネル全体の強度性状を明らかにすることが難しいため、継続使用の可否判断も難しくなる。 本発明が解決しようとする課題は、火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルの強度性状を明らかにして、ALCパネルの劣化を正確に判断するとともに、継続使用の可否判断が可能な軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法を提供することにある。 上記課題を解決するため本発明に係る軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法は、軽量気泡コンクリートパネルの試験体を用いて予め下記の関係(1)、(2)を求めておき、(1)加熱時間または経過時間と、深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化または深さ方向における貫入力の変化に基づく軽量気泡コンクリートパネルの変化に係わる深さとの関係(2)加熱時間毎または経過時間毎の荷重とたわみとの関係 実際に火災または炭酸化の影響を受けた軽量気泡コンクリートパネルの表面から深さ方向に沿ってサンプルをコア抜きし、当該コア抜きしたサンプルから、深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化または深さ方向における貫入力の変化に基づく軽量気泡コンクリートパネルの変化に係わる深さを測定し、得られた測定結果と前記関係(1)、(2)とから軽量気泡コンクリートパネルの劣化を診断することを要旨とするものである。 この際、前記トバモライトピークの高さの変化は、前記コア抜きしたサンプルの深さ方向に沿って複数の箇所でX線回析を行ない、深さの異なる複数の位置におけるトバモライトのピークをそれぞれ測定することにより調べると良い。 一方、前記貫入力の変化は、前記コア抜きしたサンプルの側面において、深さ方向に沿って複数の箇所で貫入力を測定することにより調べると良い。 そして、前記X線回析は、前記コア抜きしたサンプルを、深さ方向と直交する方向に複数切断して複数個の切断片を得、得られた各切断片についてそれぞれ行なうと良い。 本発明に係る軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法によれば、軽量気泡コンクリートパネルの試験体を用いて予め求めた上記関係と、実際に火災や炭酸化による影響があった軽量気泡コンクリートパネルの一部について測定した軽量気泡コンクリートパネルの変化に係わる深さと、から軽量気泡コンクリートパネルの劣化を診断するため、劣化の診断にあたって、実際に火災や炭酸化による影響があった軽量気泡コンクリートパネルを取り外さなくても良い。そのため、簡易的に軽量気泡コンクリートパネルの劣化を診断することができる。 そして、この際、トバモライトピークの高さの変化や貫入力の変化を、軽量気泡コンクリートパネルの深さ方向に沿って見ているため、軽量気泡コンクリートや通常のコンクリートの表面分析により劣化を診断していた従来の診断方法に比較して、より正確に劣化を診断することができる。これにより、軽量気泡コンクリートパネルの継続使用の可否判断をすることができる。 次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明は、火災や炭酸化等の影響を受けた軽量気泡コンクリートパネルの劣化を診断するものである。すなわち、軽量気泡コンクリートパネル(以下、ALCパネルということがある。)の試験体を用いて予め求めた特定の関係と、実際に火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルの一部について行なった測定結果とから、実際に火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルの劣化を診断するものである。 ALCパネルの劣化の診断は、ALCパネルの交換が必要な程度の劣化であるか、あるいは、補修や塗装による軽微な修復作業により回復が可能な程度の劣化であるかを判断するものである。これにより、ALCパネルの継続使用の可否判断を行なうことができる。 火災の影響を受けたALCパネルの劣化を診断する場合には、まず、ALCパネルの試験体を用いて加熱試験を行ない、予め、(1)加熱時間とALCパネルの加熱による変化に係わる深さとの関係、および、(2)加熱時間毎の荷重とたわみとの関係、を求める。一方、炭酸化の影響を受けたALCパネルの劣化を診断する場合、まず、ALCパネルの試験体を用いて、所定の高濃度の炭酸ガス雰囲気下で所定時間養生することによりALCの中性化を促進させる炭酸化(中性化)促進試験を行ない、予め、(1)経過時間とALCパネルの炭酸化による変化に係わる深さとの関係、および、(2)経過時間毎の荷重とたわみとの関係、を求める。 上記加熱試験は、ISO834に規定する標準加熱温度曲線に従って行なうことができる。また、ALCパネルの荷重とたわみは、JIS A 5416(軽量気泡コンクリートパネル)に規定される曲げ試験を行なうことにより測定することができる。 上記ALCパネルの、加熱による変化に係わる深さ、または、炭酸化による変化に係わる深さは、ALCパネルの深さ方向における変化の進行状況を見るものである。ここで、ALCを構成する成分のうち、主要な鉱物にはトバモライトが含まれている。トバモライトは、100〜330℃で大きく脱水し、400℃までの脱水は層間水で、800℃までの脱水は構造水と考えられている。また、900℃以上になると、ウォラストナイトに変化する。したがって、トバモライトピークの高さを測定することにより、ALCパネルの火災による変化を調べることができる。 また、トバモライトは、上述するように、加熱することにより、その層間水あるいは構造水が脱水する。これは、加熱後のALCパネル面の亀甲状のひび割れや、凹状のたわみの主な原因と推察される。そしてこれにより、加熱の影響を受けた部分の硬度は低下する。したがって、貫入力を測定することによっても、ALCパネルの火災による変化を調べることができる。 また、トバモライトは、炭酸ガスと水分が存在する環境下では、炭酸化反応によりシリカゲルと炭酸カルシウムに徐々に分解されることが知られている。したがって、トバモライトピークの高さを測定することにより、ALCパネルの炭酸化による変化を調べることができる。 また、トバモライトは炭酸化によって分解するため、ALCパネルの炭酸化による劣化に伴い、貫入力は低下する。したがって、貫入力を測定することによっても、ALCパネルの炭酸化による変化を調べることができる。 以上より、ALCパネルの、加熱による変化に係わる深さ、または、炭酸化による変化に係わる深さは、深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化や、深さ方向における貫入力の変化により調べることができる。この際、ALCパネルの、加熱による変化に係わる深さ、および、炭酸化による変化に係わる深さは、トバモライトピークの高さまたは貫入力が、火災や炭酸化等の影響を受けていないALCパネルのものとほぼ等しくなるパネル表面からの深さとする。 ALCパネルの(加熱または炭酸化による)変化に係わる深さは、ALCパネルの表面から深さ方向に沿ってコア抜きしたサンプルにより調べる。コア抜きとは、ALCパネルを、深さ(厚さ)方向に沿って表面から裏面まで、所定の大きさにくり抜くことをいう。くり抜く大きさは特に限定されるものではないが、得られたサンプルの深さ方向における変化を測定することができる程度の大きさであれば良い。 トバモライトピークの高さを測定するには、ALCパネルから採取し、粉末状態にした粉体試料をX線回析する。X線回析は、ALCパネルをコア抜きして得られたサンプルの深さ方向に沿って複数の箇所で行なう。深さ方向に沿って複数の箇所でX線回析を行うには、例えば、図3に示すように、ALCパネルをコア抜きして得られたサンプル12を、深さ方向と直交する方向に複数切断(スライス)して複数個の切断片12aを得、得られた各切断片12aをそれぞれ粉砕して粉体試料とし、得られた各粉体試料についてそれぞれX線回析を行なう方法や、上記サンプル12の側面12bにおいて深さの異なる複数の位置で削り取って複数の粉体試料を採取し、得られた各粉体試料についてそれぞれX線回析を行なう方法などを挙げることができる。 貫入力の測定は、市販の貫入力測定機を用いて測定することができる。深さ方向における貫入力の変化を測定するには、例えば、ALCパネルをコア抜きして得られたサンプルの深さ方向に沿って複数の箇所で貫入力を測定する。この際、例えば図3に示すサンプル12の側面12bにおいて、深さの異なる複数の位置でそれぞれ貫入力を測定すれば良い。また、深さ方向における貫入力の変化を測定するには、例えば、ALCパネルの加熱または炭酸化の影響を受けた表面に、深さの異なる非貫通穴を複数個あけ、非貫通穴の底において、それぞれについて貫入力を測定しても良い。 貫入力の測定は、ALCパネル表面で行なっても良い。例えば、パネル表面から深さ方向に向けて一定深さまで貫入させ、このときの貫入力を測定し、この測定結果と、予め求めておいた加熱時間または経過時間と表面における貫入力との関係から、ALCパネルの劣化を診断することができる。 以上のようにして求まる、(1)加熱時間または経過時間と、ALCパネルの変化に係わる深さとの関係を表わす模式的なグラフを、図1に示す。これによれば、時間の増加に伴って変化に係わる深さは大きくなる傾向にあり、加熱時間または経過時間と、ALCパネルの変化に係わる深さとは、極めて高い相関関係にあることが分かる。 また、以上のようにして求まる、(2)加熱時間毎または経過時間毎の、荷重とたわみとの関係を表わす模式的なグラフを、図2に示す。図中には、加熱時間または経過時間を、t1、t2、・・・・で表わしている。t1から順に時間が大きくなっている。これによれば、時間の増加に伴い、ALCパネルの同一荷重時のたわみは大きくなる傾向にあり、パネルの曲げ剛性が時間の増加に伴って小さくなる傾向にあることが分かる。さらに、所定の時間内(図中では、t1〜t3時間内)であれば、荷重−たわみ曲線に直線的な部分が見られ、ALCパネルのたわみが弾性的な挙動を示す領域があることが分かる。一方、所定の時間を超えると(図中では、t4〜t5時間)、荷重−たわみ曲線に直線的な部分が見られなくなり、ALCパネルのたわみがすべて塑性的な挙動を示すことが分かる。すなわち、所定の時間内であれば、ALCパネルに大きく曲げひび割れが生じたと考えられる荷重の低下が明確に現われることが分かる。一方で、所定の時間を超えると、ALCにおいて曲げひび割れの発生箇所が明確ではなく、ALCパネルの残存剛性がないことが分かる。 次いで、実際に火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルの、表面から深さ方向に沿ってコア抜きしたサンプルについて、深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化、あるいは、深さ方向における貫入力の変化を調べる。ここで、トバモライトピークの高さの変化や貫入力の変化は、上述する方法により調べることができる。そして、これらの変化から、実際に火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルの変化に係わる深さを測定する。 次いで、図1に示す(1)加熱(経過)時間と変化に係わる深さとの関係、および、図2に示す(2)加熱(経過)時間毎の荷重とたわみとの関係と、実際に火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルについて測定した変化に係わる深さとから、ALCパネルの劣化を診断する。 より具体的には、実際に火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルについて測定した変化に係わる深さと、図1に示す(1)加熱(経過)時間と変化に係わる深さとの関係とから、実際に火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルの加熱(経過)時間を予測する。次いで、予測した加熱(経過)時間と、図2に示す(2)加熱(経過)時間毎の荷重とたわみとの関係から、1つの荷重−たわみ曲線を選択し、この荷重−たわみ曲線が直線的部分を有するか否かにより、ALCパネルが弾性域を示し、残存剛性があるか否かを判断する。 ALCパネルが弾性域を示し、残存剛性があると判断される場合には、補修や塗装による軽微な修復作業により回復が可能な程度の劣化であると判断することができる。一方、ALCパネルが弾性域を示さず、残存剛性がないと判断される場合には、ALCパネルの交換が必要な程度の劣化であると判断することができる。これにより、ALCパネルの継続使用が可能か否かの判断ができる。 したがって、本発明に係る軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法によれば、実際に火災や炭酸化による影響があった軽量気泡コンクリートパネルからコア抜きしたサンプルを用いてその変化に係わる深さを測定することにより、実際に火災や炭酸化による影響があった軽量気泡コンクリートパネルの劣化を診断することができるため、劣化の診断にあたって、実際に火災や炭酸化による影響があった軽量気泡コンクリートパネルを取り外さなくても良い。そのため、簡易的に軽量気泡コンクリートパネルの劣化を診断することができる。 そして、この際、トバモライトピークの高さの変化や貫入力の変化を、軽量気泡コンクリートパネルの深さ方向に沿って見ているため、軽量気泡コンクリートや通常のコンクリートの表面分析により劣化を診断していた従来の診断方法に比較して、より正確に劣化を診断することができる。これにより、軽量気泡コンクリートパネルの継続使用の可否判断をすることができる。 以下、実施例により、ALCパネルの試験体を用いて加熱試験を行ない、加熱時間とALCパネルの加熱による変化に係わる深さとの関係、および、加熱時間毎の荷重とたわみとの関係を求めた。(加熱試験用ALCパネルの構成) 図4に、加熱試験用ALCパネル1を示す。加熱試験用ALCパネル1は、建築物の外壁パネルとして実際に適用可能なものである。図4(a)は、加熱試験用ALCパネル1の厚さ方向を示す断面図である。図示されるように、加熱試験用ALCパネル1の厚さは100mmである。図4(b)は、図4(a)の表面側(加熱面側)を示しており、図4(c)は、図4(a)の裏面側を示している。図4(b)(c)には、加熱試験用ALCパネル1の幅(600mm)および長さ(2220mm)の寸法を示すとともに、それぞれパネル内部に配筋された補強筋1aの配置状況も示している。主筋の配置をパネル表裏面で各3本とし、パネル面に対して正・負の強度的な方向性を等しくしたものである。また、加熱試験用ALCパネル1は、加熱前に含水率が質量比で5%以下となるように、ボイラーによる温風循環型の乾燥炉内(乾燥温度40℃±5℃)で乾燥した。(試験体の構成) 図5に、試験体2を示す。図5(a)は、試験体2の表面(加熱面)を示す模式図であり、図5(b)は、試験体2の裏面を示す模式図である。図示するように、試験体2は、上記構成の3体の加熱試験用ALCパネル1を、鋼製フレーム3に取り付けたものからなる。3体の加熱試験用ALCパネル1のうち、1体はX線回析による分析に用い、他の2体はそれぞれ曲げ強さの試験(正圧方向および負圧方向)に用いる。加熱試験用ALCパネル1と鋼製フレーム3との隙間にはセラミックファイバーブランケット4を詰めると共に、鋼製フレーム3のフレーム面にセラミックファイバーブランケット4を貼り付けて熱から保護し、左右の間隙はALC材5を加工したもので塞いだ。又、各加熱試験用ALCパネル1の裏面温度を測定するために、パネル長さ及び幅中央(図中X〜Zの位置)にK熱電対をそれぞれ取り付けた。(加熱方法) 図6に、上記試験体2を加熱するための耐火炉6(内寸は高さ2075mm、幅2030mm、奥行き700mm)を示す。図6(a)は、耐火炉6を示す正面図であり、図6(b)は、耐火炉6を示す側面図である。図6(b)に示すように、上記試験体2は、耐火炉6内に入れられる。耐火炉6は、昇温履歴及び炉内圧が自動制御可能である。加熱にはプロパンガスを熱源とした。また、図中に、炉内温度測定用熱電対位置(A〜E)を示す。 ISO834に規定する標準加熱温度曲線に従って、10分、20分、30分、40分、60分、120分、180分及び240分間の加熱を行った。図7に、ISO834の標準加熱温度曲線および加熱経過時間に伴う炉内温度を、加熱時間60分の場合を例に示す。図8には、加熱経過時間に伴う加熱試験用ALCパネル1の裏面温度を示す。炉内温度及び加熱試験用ALCパネル1の裏面温度等は5秒間隔でコンピューターに同時記録した。また、表1に、加熱時間、加熱最高温度、加熱試験用ALCパネル1の枚数及び加熱後の試験項目を示す。 加熱後、試験体2は、炉内温度が100℃以下となると共に、加熱試験用ALCパネル1の裏面温度が下降し始めたことを確認した後に耐火炉6から取り外した。加熱後の加熱試験用ALCパネル1は触手により、パネル温度が室温まで下がったと判断した後に鋼製フレーム3から取り外した。なお、180分及び240分間の加熱用試験体は、財団法人日本建築総合試験所で耐火性能試験に用いられたもので、パネル寸法は厚さ100mm(加熱240分では120mm)、幅600mm、長さ2990mmのものとした。(曲げ強さ試験) 図9に、ALCパネルの曲げ強さ試験の概要を示す。JIS A 5416(軽量気泡コンクリートパネル)に従って、非加熱、または、各時間加熱された後のALCパネルの曲げ強さ試験を行った。曲げ強さ試験は、支点ローラ7上に載置された加圧板8上にALCパネル1の端部を載置し、ALCパネル1の端部からALCパネル長(L)の1/4の位置にそれぞれ加圧板8、加力点ローラ9を介してロードセル10によりALCパネル1に荷重を載荷することにより行なった。荷重の載荷方向に対してALCパネル1の加熱面を向けた場合を正圧方向、裏面を向けた場合を負圧方向と区別し、加熱時間毎に正圧方向及び負圧方向それぞれ各1体を試験に供した。また、ALCパネル1の端部からALCパネル長(L)の1/4の位置に2箇所と、ALCパネル1の中央の位置の合計3箇所に変位計11を配置し、荷重の載荷によるALCパネル1のたわみを測定した。各データは、2秒間隔でコンピュータに同時記録した。(X線回折) 図3に、X線回折測定用試料の調製方法の概要を示す。図3に示すように、非加熱、または、各時間加熱された後のALCパネルのほぼ中央部からコア抜きして切り出したサンプル12(100×100×100mm)を絶乾状態にしたものから、厚さ方向へ5mm単位で採取したものをメノウ乳鉢で粉砕して、X線回折測定用試料を調製した。加熱時間毎に、ALCパネルの主な結晶体であるトバモライトの変化を、粉末X線回折装置を用いて、回折角(2θ)が5°〜35°の範囲で測定した。X線は、CuKα線とした。 まず、図10および図11に、ALCパネルの曲げ強さ試験の結果を示す。図10には、正圧方向の曲げ強さ試験における加熱時間毎の荷重―たわみ曲線を示しており、図11には、負圧方向の曲げ強さ試験における加熱時間毎の荷重―たわみ曲線を示している。ALCパネルのたわみは、ALCパネル支点間中央の値を用いた。正圧、負圧方向共に加熱時間180分及び240分のALCパネルは劣化・損傷が激しく、曲げ強さ試験に供することは出来なかった。又、加熱時間120分の負圧方向のものも劣化・損傷が激しく曲げ強さ試験が出来なかった。 図10および図11に示す結果から、正圧及び負圧方向共に、加熱時間の増加に伴い、ALCパネルの同一荷重時のたわみは大きくなる傾向にあり、パネルの曲げ剛性が加熱時間の増加に伴って小さくなる傾向にあることが分かる。また、正圧及び負圧方向共に、加熱時間の増加に伴い、ALCパネルの同一たわみ時の荷重は小さくなる傾向にあり、加熱時間と荷重との間には、高い相関関係があることが分かる。 また、図10および図11に示す結果から、次のことも分かる。すなわち、加熱時間20分以下のパネルの荷重−たわみ曲線において、大きく曲げひび割れが生じたと考えられる荷重の低下は明確に現われ、そこまでの荷重―たわみ曲線は直線的であるのに対し、例えば、加熱時間30分以上の場合は、曲げひび割れの発生箇所は明確ではなく、荷重―たわみ曲線は荷重載荷開始から曲線を描いている。これは、30分以上の加熱の場合、荷重載荷前にALCパネルの加熱面に生じているひび割れ等の劣化が起因して、弾性域がない状態になっているためと考えられる。このような状態であるため、加熱時間30分以上の場合は、ALCパネルの残存剛性がない。 次に、図12〜図14に、ALCパネルのX線回折結果を示す。図12には、非加熱のALCパネルに関するX線回折結果を示す。図中には主な回折ピークの同定結果も示す。一般に、図中の回折角度7.82°及び28.99°のトバモライトのピークは、石英等他のピークとほぼ重ならないため、これらの回折角に着目してトバモライトの加熱変化を確認する。 次いで、図13に、ALCパネルへの加熱時間が10分、30分、60分、180分及び240分のものを例にX線回折結果を示す。それぞれALCの加熱面から深さ方向へ5mm単位で採取した試料の分析結果を、上から順に縦に並べて示している。図に示す通りいずれの加熱時間においても、ALC表面付近では回折角度7.82°及び28.99°のトバモライトのピークが消失している。これはトバモライトが加熱変化したことを示している。加熱によって消失した回折角度7.82°及び28.99°のトバモライトのピークが次に現われ、非加熱のものとほぼ等しくなるところをそれぞれの図中に示す。 次いで、図13の結果等をもとに、図14に、加熱時間とトバモライトの加熱変化深さとの関係を示す。ここで、トバモライトの加熱変化深さは、上述するように、加熱によって消失したトバモライトのピークが非加熱のものとほぼ等しくなる加熱表面からの深さである。図14に示す結果から、加熱時間の増加に伴ってトバモライトの加熱変化深さは大きくなる傾向にあり、加熱時間とトバモライトの加熱変化深さとは、極めて高い相関関係にあることが分かる。 したがって、以上のようにして求めた関係に基づいて、実際に火災の影響を受けた軽量気泡コンクリートパネルについて、その表面から深さ方向に沿ってコア抜きしたサンプルの、深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化から、軽量気泡コンクリートパネルの劣化の診断が可能である。 また、加熱時間とALCパネルの加熱による変化に係わる深さとの関係は、上記X線回折による分析の他、貫入力の測定によっても求めることができる。以下に、貫入力の測定方法について説明する。(貫入力の測定) 貫入力の測定には、(株)丸東製作所の貫入力測定機「ペネトロ」を用いた。表面貫入力は、各時間加熱された後のALCパネルについて、貫入力測定機の先端の針をALCパネルの表面に10mm挿入した時の抵抗力を読み取ることにより測定した。表面貫入力は、ALCパネルの中央と、中央から長さ方向にそれぞれ500mmの位置の合計3箇所について測定を行ない、その平均値により算出した。 図15に、加熱試験したALCパネルについての加熱時間と表面貫入力との関係を示す。図15に示す結果から、ALCパネルの表面への加熱時間が長くなるに従って表面貫入力が低下していることが分かる。したがって、火災による影響を受けたALCパネルは、その貫入力を測定することにより、その変化に係わる深さが分かると推察される。 上記貫入力の測定は、ALCパネルの表面について行なうものであるが、貫入力の測定を、ALCパネルをコア抜きして得られたサンプルの側面において、深さの異なる複数の位置でそれぞれ貫入力を測定すれば、深さの異なる各位置において、それぞれ劣化の程度を知ることができる。このようにして求まる深さ方向における貫入力の変化から、ALCパネルの深さ方向における火災による変化に係わる深さを測定することができる。 以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。 例えば上記実施例では、ALCパネルの試験体を用いて加熱試験を行ない、加熱時間とALCパネルの加熱による変化に係わる深さとの関係、および、加熱時間毎の荷重とたわみとの関係を求めている。そしてこれにより、実際に火災の影響を受けた軽量気泡コンクリートパネルの劣化を診断することができるとしている。 ここで、炭酸化による影響を受けたALCパネルも、トバモライトピークの高さの減少を伴うものである。また、トバモライトは炭酸化によって分解するため、ALCパネルの炭酸化による劣化に伴い、貫入力は低下する。したがって、炭酸化による影響を受けたALCパネルの深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化、あるいは、貫入力の変化を調べることにより、炭酸化によるALCパネルの変化に係わる深さを測定することができる。そして、上記加熱試験により求めた関係に基づいて、炭酸化による影響を受けたALCパネルの劣化の診断をしても良い。 あるいは、炭酸化による影響を受けたALCパネルの劣化の診断にあたっては、別途、炭酸化(中性化)促進試験により、経過時間とALCパネルの炭酸化による変化に係わる深さとの関係、および、経過時間毎のたわみと荷重との関係を求め、これにより、炭酸化による影響を受けたALCパネルの劣化の診断をすることができるのは勿論である。この際、炭酸化による変化に係わる深さは、上記X線回折による分析、貫入力の測定のいずれの方法によっても求めることが可能である。ALCパネル試験体の加熱(経過)時間と変化に係わる深さとの関係を表す模式図である。ALCパネル試験体の加熱(経過)時間毎のたわみと荷重との関係を表す模式図である。X線回折測定用試料の調製方法の概要を表す図である。加熱試験用ALCパネル1を表す断面図(a)、正面図(b)および背面図(c)である。試験体2を表す正面図(a)および背面図(b)である。試験体2を加熱するための耐火炉6を表す正面図(a)および側面図(b)である。ISO834の標準加熱温度曲線および加熱経過時間に伴う炉内温度を、加熱時間60分の場合を例に表すグラフである。加熱経過時間に伴う加熱試験用ALCパネル1の裏面温度を表すグラフである。ALCパネル1の曲げ強さ試験の概要を表す図である。ALCパネルの曲げ強さ試験の結果を表すグラフである。ALCパネルの曲げ強さ試験の結果を表すグラフである。非加熱のALCパネルに関するX線回折結果を表す図である。加熱後のALCパネルに関するX線回折結果を表す図である。加熱時間とトバモライトの加熱変化深さとの関係を表すグラフである。ALCパネルの加熱時間と表面貫入力との関係を表すグラフである。符号の説明1 加熱試験用ALCパネル2 試験体6 耐火炉8 加圧板10 ロードセル11 変位計12 サンプル 軽量気泡コンクリートパネルの試験体を用いて予め下記の関係(1)、(2)を求めておき、(1)加熱時間または経過時間と、深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化または深さ方向における貫入力の変化に基づく軽量気泡コンクリートパネルの変化に係わる深さとの関係(2)加熱時間毎または経過時間毎の荷重とたわみとの関係 実際に火災または炭酸化の影響を受けた軽量気泡コンクリートパネルの表面から深さ方向に沿ってサンプルをコア抜きし、 当該コア抜きしたサンプルから、深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化または深さ方向における貫入力の変化に基づく軽量気泡コンクリートパネルの変化に係わる深さを測定し、 得られた測定結果と前記関係(1)、(2)とから軽量気泡コンクリートパネルの劣化を診断することを特徴とする軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法。 前記トバモライトピークの高さの変化は、前記コア抜きしたサンプルの深さ方向に沿って複数の箇所でX線回析を行ない、深さの異なる複数の位置におけるトバモライトのピークをそれぞれ測定することにより調べることを特徴とする請求項1に記載の軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法。 前記貫入力の変化は、前記コア抜きしたサンプルの側面において、深さ方向に沿って複数の箇所で貫入力を測定することにより調べることを特徴とする請求項1に記載の軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法。 前記X線回析は、前記コア抜きしたサンプルを、深さ方向と直交する方向に複数切断して複数個の切断片を得、得られた各切断片についてそれぞれ行なうことを特徴とする請求項2に記載の軽量気泡コンクリートパネルの劣化診断方法。 【課題】火災や炭酸化等の影響を受けたALCパネルの強度性状を明らかにして、ALCパネルの劣化を正確に判断するとともに、継続使用の可否判断が可能なALCパネルの劣化診断方法を提供すること。【解決手段】ALCパネルの試験体を用いて予め(1)加熱時間又は経過時間と深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化又は深さ方向における貫入力の変化に基づくALCパネルの変化に係わる深さとの関係(2)加熱時間毎又は経過時間毎の荷重とたわみとの関係とを求め、実際に火災又は炭酸化の影響を受けたALCパネルの表面から深さ方向に沿ってコア抜きしたサンプルから、深さ方向におけるトバモライトピークの高さの変化又は深さ方向における貫入力の変化に基づくALCパネルの変化に係わる深さを測定し、得られた測定結果と上記関係(1)、(2)とからALCパネルの劣化を診断する。【選択図】図2