タイトル: | 特許公報(B2)_緑肝症予防用魚用飼料 |
出願番号: | 2008141786 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A23K 1/18,A23K 1/16,A61K 38/00,A61P 43/00 |
益本 俊郎 中森 俊宏 JP 5300328 特許公報(B2) 20130628 2008141786 20080530 緑肝症予防用魚用飼料 不二製油株式会社 000236768 国立大学法人高知大学 504174180 益本 俊郎 中森 俊宏 20130925 A23K 1/18 20060101AFI20130905BHJP A23K 1/16 20060101ALI20130905BHJP A61K 38/00 20060101ALI20130905BHJP A61P 43/00 20060101ALI20130905BHJP JPA23K1/18 102AA23K1/16 303FA61K37/18A61P43/00 171 A23K1/00−3/04 A61K 38/00 A61P 43/00 JSTPlus/JST7580(JDreamIII) 特開平07−227223(JP,A) 特開2001−120190(JP,A) 特開2002−253140(JP,A) 国際公開第2004/017751(WO,A1) 特開平09−084528(JP,A) 特開平08−051937(JP,A) 特開2004−057156(JP,A) 4 2009284835 20091210 7 20110404 特許法第30条第1項適用 1.社団法人日本水産学会、2008(平成20)年度 日本水産学会春季大会(日本農学大会水産部会) 講演要旨集、2008年3月27日発行 松本 隆彦本発明は、魚の緑肝症を予防する方法および、予防するための飼料に関する。 近年、漁業資源の保護や魚の安定供給を目的に、養殖業が広く行われている。養殖業で使用される飼料は対象魚の種類によって異なるが、多くは生餌やフィッシュミールなど、魚介類を主原料としている。これら、飼料に使用される魚介類も近年資源が枯渇しつつあり、コストの上昇が問題となっている。このような、魚に魚を給餌する養殖システムからの脱却が模索される中、フィッシュミールに比べ再生産が容易でコストも安い、植物性原料の使用が注目されている。特に大豆に由来する原料は、その蛋白質のアミノ酸スコアがトウモロコシなど他の植物性蛋白に比べ優れており、また、コストも比較的安いため、期待が大きい。 しかしながら、飼料へフィッシュミール以外の原料を多く配合した場合、養魚に悪影響の発生する可能性が報告されている。具体的には、タイやブリの養殖において、成長率の低下や緑肝症の発生などが報告されている。緑肝症とは、魚の肝臓が緑色に変色し、その商品価値を大きく損ねる症状である。 近年の研究で、フィッシュミール以外の原料を多く配合した飼料を給餌した際のこれら悪影響は、タウリンの欠乏が原因と考えられている(非特許文献1:Fisheries Science 67(1), 58-63 (2001))。すなわち、肝臓でコレステロールから生合成された胆汁酸塩は、タウリン抱合体となって始めてその機能(脂溶性物質の吸収)を果たす。しかしタウリンが不足すると、胆汁酸塩のタウリン抱合体形成が低下するため、胆汁酸が肝臓から胆管へうまく排泄されなくなり、胆汁うっ滞を起こす。このため、血液代謝産物の大部分を占めるヒルベルジン(緑色の胆汁色素)も肝臓から胆管への排泄が抑えられ、緑肝が発症する。 タウリンはフィッシュミールには豊富に含まれているが、大豆由来成分等、植物性原料の多くにはほとんど含まれておらず、フィッシュミール配合率の低下によりタウリンが欠乏し、悪影響を起こしていると推定されている。 この問題の解決のため、フィッシュミール配合率の低い飼料において、タウリンを添加することで問題解決を図るとの出願(特許文献1:特開2001−120190号公報)がある。しかしながら、養殖魚用飼料とはいえ、タウリンのような薬剤の添加は昨今の風潮から消費者に敬遠される傾向があり、できるだけ使用しないか、使用するにしてもその量は少ないほうが望ましい。また、タウリンの添加はコスト上昇の問題も生じる。さらに、養殖魚用飼料へ使用できる添加物は「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」によって規定されており、現段階ではタウリンは飼料用添加物として指定されておらず、飼料へ使用することはできない。 また、本発明者らの検討によると、大豆成分を配合した飼料をブリに与えた場合に発生する緑肝症は、タウリンの添加により抑制することはできるが、その際に必要なタウリンの量は通常フィッシュミールに含まれている量の倍程度であり、大豆成分には、タウリンの吸収ないし働きを抑制する何らかの作用が存在することが示唆されている。 以上のような背景ではあるが、タウリンを添加せずに、フィッシュミールの配合率の低い飼料を与えた場合の、養殖魚の緑肝症を予防することの研究は見当たらない。 養殖魚用飼料へ大豆蛋白加水分解物を配合する出願としては、特許文献2(特開平7−227223号公報)が存在する。しかしこの出願はひらめ稚仔魚の生育促進、生存率アップを目的としたものであり、緑肝症予防に関してはなんら言及されていない。特開2001−120190号公報特開平7−227223号公報Fisheries Science 67(1), 58-63 (2001) 本発明は、フィッシュミールを含まない、またはその配合率を減らした養魚用飼料であって、タウリンを添加せず、ないしタウリンの添加量を抑制した、養殖魚の緑肝症を予防できる養魚用飼料を提供することを課題とする。 本発明者らは上記のような状況にかんがみ、フィッシュミールの配合率の低い養殖魚用配合飼料において、1.5重量%水溶液の660nmにおける透過率が66%以上である水溶性大豆蛋白加水分解物を使用することで、タウリンを添加せずとも養殖魚の緑肝症を防止できるという知見を得、本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、1.5重量%水溶液の660nmにおける透過率が66%以上である水溶性大豆蛋白加水分解物を含有する、緑肝症予防用の魚用飼料についてであり、1.5重量%水溶液の660nmにおける透過率が66%以上である水溶性大豆蛋白加水分解物およびフィッシュミールを含有する、緑肝症予防用の魚用飼料であり、1.5重量%水溶液の660nmにおける透過率が66%以上である水溶性大豆蛋白加水分解物の含有量は1〜40重量%が望ましく、また、対象魚がアジ科またはタイ科であり、特に対象魚がブリである魚用飼料についてであり、これらの飼料を用いた、魚の緑肝症の予防方法についてである。 フィッシュミールの原料となる魚は、今後ますます資源が不足し、コストが上昇していくと思われるが、本発明により、養殖魚用飼料において、フィッシュミールの配合率を減らすことができるようになる。また、本発明により、フィッシュミールの配合率を減らしても、タウリンを添加する必要がないか、その添加量を抑制することができるため、タウリンを使用する際の、消費者の薬剤忌避、コスト上昇、法的規制等の問題が発生しない。 以下、本発明を具体的に説明する。 本発明に使用する大豆蛋白加水分解物は、大豆蛋白質を酸ないし酵素により加水分解して得られる。ただ、酸による加水分解では、加水分解物を製造する際に危険を伴う場合もあり、酵素による加水分解のほうが有利である。酵素すなわちプロテアーゼにより分解を行う場合、用いるプロテアーゼは市販のものでよく、動物起源、植物起源、あるいは微生物起源は問わない。具体的にはセリンプロテアーゼ(動物由来のトリプシン、キモトリプシン、微生物由来のズブチリシン、カルボキシペプチダーゼなど)、チオールペプチダーゼ(植物由来のパパイン、ブロメラインなど)、カルボキシプロテアーゼ(動物由来のペプシンなど)、金属プロテアーゼ(サーモライシン)等を用いることが出来る。より具体的には動物由来である「パンクレアチン」(天野エンザイム社製)、「PTN」(ノボザイム社製)、植物由来である「パパインW40」、「ブロメラインF」(ともに天野エンザイム社製)、微生物由来である「アルカラーゼ」(ノボザイム社製)、「スミチームLP」(新日本化学社製)、「サモアーゼ」(大和化成社製)、「プロテアーゼN」(天野エンザイム社製)などを例示することが出来る。これらプロテアーゼは単独または併用して使用することも出来る。プロテアーゼを併用する場合、同時に添加することも、段階的に添加することも可能である。 プロテアーゼによる加水分解の反応pHや反応温度は、プロテアーゼの作用pH、および作用温度内で適宜設定すればよい。ただし、加水分解の温度が低すぎると、目標の蛋白質分解率への到達が困難、もしくは長時間かかることになる。また加水分解の温度が高すぎると、プロテアーゼの失活や蛋白加水分解物の着色、異風味の発生などが懸念される。 プロテアーゼによる加水分解の時間は使用するプロテアーゼの活性や量にもよるが、通常5分〜24時間、好ましくは30分〜9時間程度とすることが望ましい。加水分解の時間が長すぎると腐敗をまねく可能性が高まり、加水分解の時間は短いほうが好ましい。 プロテアーゼによる大豆蛋白質の分解率は15重量%TCA(トリクロロ酢酸)可溶率70%以上(好ましくは90%以上)であるものが適当である。本発明においてTCA可溶率は全蛋白質量に対する15重量%のトリクロロ酢酸溶液に可溶の蛋白質量の割合をケルダール法により測定し、100を乗じた値(%)とする。 プロテアーゼによる加水分解が終了した後は、そのプロテアーゼを失活させることが望ましい。失活は通常、加熱により行われる。実際の加熱条件は、使用するプロテアーゼの耐熱性により異なるが、プロテアーゼの活性を残存させないように、各プロテアーゼの耐熱性データから想定される失活条件より、過剰に加熱失活させることが望ましい。 工業レベルにおいて大豆蛋白加水分解物を得るためには、生産コストを抑えるため、比較的高い濃度の大豆蛋白溶液へプロテアーゼを作用させる必要がある。しかし、そのような、比較的高い濃度の大豆蛋白溶液でプロテアーゼによる分解反応を行うと、一旦分解された加水分解物同士の重合物と考えられる不溶性成分が発生することが知られている。本願の水溶性大豆蛋白加水分解物は、加水分解途中にこれら不溶性成分がほとんど発生しないか、または、発生したこれら不溶性成分を分離したものである。これら水溶性成分のみからなる水溶性大豆蛋白加水分解物が、本願の効果を得ることができる。 不溶性成分の分離は、具体的には、珪藻土濾過,精密濾過,限界濾過などで濾過するか、遠心分離にて不溶性成分を除去することで行われる。なお、不溶性成分の除去方法としては前記方法に限定されず、また、複数の方法を組み合わせてもよい。不溶性成分の除去は、プロテアーゼによる分解の後、酵素を加熱失活させる前でも後でもよい。 本願水溶性大豆蛋白加水分解物における「水溶性」は、分光光度計による透過率により測定し判断することができる。すなわち大豆蛋白加水分解物の1.5重量%水溶液を作成し、その660nmにおける透過率を測定し、66%以上の透過率があれば、水溶性と判断され、90%以上の透過率がより望ましい。 ここで得られた水溶性大豆蛋白加水分解物溶液は、溶液の状態として、あるいは、所定の方法で粉末化して飼料の原料として使用する。粉末化の方法としてはフリーズドライ、スプレードライ等、一般的に行われている粉末化操作であれば適用可能である。なお、本発明を実現するためには、ここで示した方法により調製した水溶性大豆蛋白加水分解物を使用する他、同様の方法にて調製された、市販の水溶性大豆蛋白加水分解物も使用することができる。例えば、不二製油株式会社製「ハイニュートAM」が該当する。なお、不二製油株式会社製「ハイニュートAM」の1.5重量%水溶液における、660nmの透過率は99%以上であり、また15重量%TCA(トリクロロ酢酸)可溶率は100%である。 魚に与える際の飼料の配合比率は、一つの例として上記水溶性大豆蛋白加水分解物1〜40重量%、フィッシュミール20〜60重量%、油脂5〜20重量%、造粒のためのでん粉等10〜35%である。水溶性大豆蛋白加水分解物の量は少量であっても、フィッシュミールのような窒素源の代替物として有効であるが、フィッシュミールの配合量をできるだけ減らすという本願課題からすると、水溶性大豆蛋白加水分解物の量はできるだけ多いほうが望ましい。すなわち、水溶性大豆蛋白加水分解物の量は15〜40重量%がより望ましい。 フィッシュミールとは魚粉とも呼ばれるもので、一般的には、水揚げされた魚を大きな釜で煮熟した後に、圧搾機で脂と水を分離して乾燥して調製されたものである。フィッシュミールは種々の成分を含むために魚用飼料には本来適しており、一定量以上配合することが好ましい。しかし、フィッシュミールの配合量をできるだけ減らすという本願課題からすると、フィッシュミールの量は20〜40重量%がより好ましい。 油脂はパーム油、ヤシ油、大豆油、菜種油、綿実油、コーン油、サンフラワー油、米ぬか油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、魚油、その他の獣脂等の動物性油脂、これらの分別、硬化、エステル交換油脂等から、1種類あるいは2種類以上の混合物を用いることが出来る。 なお、上記以外の原材料についても、本願の効果を阻害しない範囲であれば使用を妨げない。 以上の配合を、魚が摂取しやすい粒径に造粒して飼料とする。 当該飼料の給餌条件は、給餌対照魚の成長段階等により一概にはいえないが、通常使用しているフィッシュミール主体飼料に準じ使用して差し支えない。本願発明の、緑肝症予防能を有する魚用飼料は、アジ科やタイ科、特にアジ科のブリに与えることで、その緑肝症を効果的に予防することができる。以下に実施例を記載するが、この発明の技術思想がこれらの例示によって限定されるものではない。(実施例1、比較例1〜4)表1の配合にて飼料を調製した。すなわち、実施例1は水溶性大豆蛋白加水分解物を用い、比較例1は大豆関連原料を用いず、フィッシュミール主体の配合とした。比較例2は大豆関連成分として脱脂大豆ミールを用い、比較例3は脱脂大豆から抽出した分離大豆蛋白を、比較例4では比較例3の分離大豆蛋白をプロテアーゼで分解し、不溶性成分も含んだままの状態で使用した。比較例4の分離大豆蛋白の酵素分解物を遠心分離して不溶性成分を除去することで、実施例1で使用しているハイニュートAMが得られる。これらを、以下の条件にて給餌試験を実施した。対象魚:ブリ(Yellowtail)魚体重量:20.3g(平均)密度:25尾/800L水槽(2連)水温:23.3〜28.1℃給餌:2回/日、6日/週給餌期間:8週間結果表1 飼料配合比率および給餌後の重度緑肝症発生結果表1の通り、実施例1の配合で調製した飼料は、フィッシュミールの配合率が低いにもかかわらず、重度緑肝症が発生した個体は12個体中1個体のみであった。また、フィッシュミール配合率の低い飼料で見られる、成長率の低下も、本飼料においてはみられず良好な結果が得られた。一方、フィッシュミールを主体とした餌を給餌した比較例1においては重度緑肝症の発生は低く抑えられたが、脱脂大豆ミールを使用した比較例2、脱脂大豆ミールから抽出した分離大豆蛋白を使用した比較例3、また、比較例3の分離大豆蛋白をプロテアーゼで分解し、不溶性成分も含んだままの状態で使用した比較例4においては、それぞれ高い割合で重度緑肝症が発生した。なお、表1 比較例4「SPC酵素分解物」の1.5重量%水溶液における、660nmの透過率は2.6%であり、重度緑肝症が発生した比率は33.3%(12検体中4検体)であった。一方、実施例1「ハイニュートAM」の1.5重量%水溶液における、660nmの透過率は99%以上であり、重度緑肝症が発生した比率は8.3%(12検体中1検体)に抑えられていた。以上より、検体12匹中、重度緑肝症が2検体(つまり、重度緑肝症の発生比率16.7%)発生する際の、1.5重量%水溶液における、660nmの透過率は66%と推定される。これより、透過率66%以上であれば、重度緑肝症が発症する個体数は12検体中2検体以下となり、本願における効果が得られると推定された。考察実施例1、比較例2〜4にて示したとおり、フィッシュミール33重量%配合した飼料においては、大豆由来原料として脱脂大豆ミール(比較例2)、分離大豆蛋白(SPC)(比較例3)、SPC酵素分解物(比較例4)を配合したものではいずれも緑肝症の発生が顕著に確認された。一方、SPC加水分解物から不溶性成分を除去した配合飼料(実施例1)においては、緑肝症の発生は限定的であり、大豆蛋白加水分解物から非水溶性成分を除去することが、魚の緑肝症発生を抑える上で有効な手段であることがうかがえた。 背景技術において述べたとおり、大豆成分にはタウリンの吸収ないし働きを抑制する作用が確認されているが、この原因が、酵素分解したSPCの非水溶性成分に存在している可能性が示唆された。1.5重量%水溶液の660nmにおける透過率が66%以上である非水溶性成分を除去した水溶性大豆蛋白加水分解物の含有量が1〜40重量%であり、フィッシュミールを20〜40重量%含有する、対象魚がアジ科またはタイ科である、緑肝症予防用の魚用飼料。対象魚がアジ科である、請求項1記載の飼料。対象魚がブリである、請求項2記載の飼料。請求項1〜3いずれか1項に記載の飼料を用いる、魚の緑肝症の予防方法。