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タイトル:公開特許公報(A)_バキュロウイルス転移ベクター、組換えバキュロウイルス、組換えバキュロウイルス発現系およびこれらを利用する組換え蛋白質の生産方法
出願番号:2008072852
年次:2008
IPC分類:C12N 15/09,C12N 7/00,C12N 5/10,C12P 21/02


特許情報キャッシュ

石山 誠司 池田 真弘 JP 2008295449 公開特許公報(A) 20081211 2008072852 20080321 バキュロウイルス転移ベクター、組換えバキュロウイルス、組換えバキュロウイルス発現系およびこれらを利用する組換え蛋白質の生産方法 片倉工業株式会社 591048520 特許業務法人 小野国際特許事務所 110000590 石山 誠司 池田 真弘 JP 2007121648 20070502 C12N 15/09 20060101AFI20081114BHJP C12N 7/00 20060101ALI20081114BHJP C12N 5/10 20060101ALI20081114BHJP C12P 21/02 20060101ALI20081114BHJP JPC12N15/00 AC12N7/00C12N5/00 BC12P21/02 C 14 3 OL 28 4B024 4B064 4B065 4B024AA01 4B024AA11 4B024BA61 4B024CA04 4B024CA05 4B024CA06 4B024CA09 4B024CA10 4B024DA02 4B024DA06 4B024EA02 4B024EA04 4B024FA02 4B024FA06 4B024FA10 4B024GA11 4B024GA18 4B024GA19 4B024HA03 4B024HA08 4B024HA14 4B064AG26 4B064CA10 4B064CA12 4B064CA19 4B064CC24 4B064CE12 4B064DA01 4B064DA13 4B065AA90X 4B065AA93Y 4B065AA95X 4B065AA95Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA02 4B065BA25 4B065CA24 4B065CA44 4B065CA46 本発明は、バキュロウイルス転移ベクター、これを利用して得られる組換えバキュロウイルス並びにこれらを利用する組換えバキュロウイルス発現系および組換え蛋白質の生産方法に関する。 遺伝子組換え技術を用いた有用蛋白質の生産は、今日では広く用いられている技術であり、バキュロウイルス発現系は、その技術の1つである。 このバキュロウイルス発現系では、バキュロウイルス非必須遺伝子であるポリヘドリン(AcMNPV orf8;BmNPV orf1:以下、「polh」と略す)のプロモータの後に、polhに代えて外来遺伝子を挿入したコード配列を有するバキュロウイルス組換えベクターをバキュロウイルスと相同組換えすることで外来遺伝子発現ウイルスを作製する(特許文献1)。このpolhと同様に、p10(AcMNPV orf137;BmNPV orf114)遺伝子由来のプロモータも、よく用いられている。 バキュロウイルス遺伝子は、4期の異なるウイルス複製サイクルのうち1期以降のサイクル中に、経時的に調整されながら、次々に発現する(非特許文献1)。したがって、発現の過程で、異なるバキュロウイルス遺伝子は、ウイルス複製サイクルに応じて、前初期(immediate-early期)、後初期(delayed-early期)、後期(late期)、最後期(very late期)に分類し得る。 polh遺伝子およびp10遺伝子は、最後期に分類される遺伝子である。したがって、polh、p10などの最後期プロモータからの転写には、それ以前に発現される未知なる多数のウイルス生産物ならびに細胞生産物が必要になると思われる。このため、従来技術である最後期プロモータを用いる外来遺伝子の発現は、ウイルス感染が十分に進んだ後に行われることになる。また、これらの最後期プロモータは、短期間に急激な蛋白質の発現が特徴として挙げられる。 しかしながら、蛋白質を、大量にかつ急激に発現することは、凝集体の形成を引き起こすことが知られている。このため、蛋白質の発現量は多くても、活性型の目的蛋白質量が非常に低くなることが多い。このような凝集体の形成は、翻訳されたポリペプチド鎖が正しい立体構造にフォールディングする前に、中間体の段階で分子間相互作用により他のポリペプチド鎖と絡み合うことが原因として考えられており、ついには巨大な不溶性の複合体が形成されると考えられている。つまり、短期間に急激な蛋白質を発現させることは、ポリペプチド同士の接触の機会を増加させ、絡み合いを助長し、凝集体の形成を引き起こしやすい状態をもたらすと推測される。 この問題を解決するために、他の発現系では様々な手法が開発されているが(タカラバイオ コールドショックプロモータ;特許文献2など)、バキュロウイルス発現系では同様の工夫は成功していない。また、polhプロモータのような最後期発現プロモータで外来遺伝子を発現させる場合は、ウイルス感染ならびに増殖が十分に進んだ後に発現することになり、細胞が本来持っている蛋白質品質管理機能や発現能力が十分に期待できないという問題もある(非特許文献2)。 本出願人らは、従来からバキュロウイルス発現系を用いた蛋白質受託生産サービスを行っているが、この事業において、発現させた外来蛋白質の凝集が顕著な試料からこれに含まれる可溶性外来蛋白質を精製した場合、安定性が悪く、凝集してしまう事例を数多く経験している。しかし一方、凝集の少ない試料から精製した場合は、精製物の安定性が比較的良いことも経験しており、凝集の多寡と細胞内で産生される蛋白質の品質の間には何らかの関係があることが分かった。 これらの問題を解決するために、バキュロウイルス前初期遺伝子ie−1(AcMNPV orf147;BmNPV orf123)のプロモータや、バキュロウイルス後初期遺伝子39k(AcMNPV orf36;BmNPV orf27)のプロモータを用いることも検討されてきたが、バキュロウイルス発現系に用いた場合、発現量は十分ではなかった。 また、39kプロモータの上流に、前初期および後初期プロモータに対するエンハンサとして知られるバキュロウイルス・ホモロガス・DNA・リージョン(Homologous DNA Region;以下、「HRs」と略す)を配置することで発現量が増大することが知られているが(非特許文献3)、これは主として細胞での形質転換で用いられる。このHRsはエンハンサ機能を持ち、EcoRI認識配列を中心としたパリンドロームが保存されていて(非特許文献4)、この領域にie−1遺伝子産物が結合すると考えられている。また、保存パリンドロームだけでも発現量が増大し、HR5(6回反復)では更に顕著であることが知られている(非特許文献5)。 更に、バキュロウイルス後期遺伝子vp39(AcMNPV orf89;BmNPV orf72)のプロモータを用いた例(pAcJP1、現在は市販されていない)もあり、発現量は十分であるものの、polhプロモータには劣るため、現在では使用されなくなった。 更にまた、これを改善するためpolhプロモータとの雑種プロモータも開発されたが(非特許文献6)、依然として細胞内品質管理の問題は解決されていない。上記vp39と同様に後期遺伝子でありながら初期にもわずかに発現するgp64(AcMNPV orf128;BmNPV orf105)も用いられることがあるが、発現量は少なく、HRsで発現量が増加することが知られているが(非特許文献7)、十分ではなかった。 以上のような技術的背景から、凝集を抑制しながらも十分な量の蛋白質を発現するバキュロウイルス発現ベクターが求められていた。米国特許第4,745,051号特開2006−340729特開2003−52371P.D.Friesen及びL.K.Miller著、Curr.Top.Microbiol.Immunol., 131:31 49(1986)X.Du, S.M.Thiem(1997) J.Virol.71:7866-7872L.A.Guarino, M.D.Summers,J.Virol.,60:215-223(1986b)L.A.Guarino、M.A.Gonzalez, M.D.Summers,J.Virol.,60:224- 229(1986)V.Olson, J.Wetter, P.Friesen, J.Virol.,77:5668-5677(2003)Thiem et al., Gene 91(1):p87(1990)ZHOU et al., Acta Biochimica et biophysica sinica 2003, 35(1):p18 従って、本発明の課題は、目的蛋白質を活性型で得られるように、バキュロウイルス発現系において、凝集の発生を抑制しつつ、適切な量で蛋白質を発現させる技術を提供することである。 本発明者らは、まず発現時期が前初期、後期および後初期と後期を併せ持つ遺伝子として代表的なie−1、vp39およびgp64遺伝子のプロモータ領域を含む開始コドン上流350bpを用いて、バキュロウイルス発現系におけるグリーン・フロロレッセント・プロテイン(以下、「GFP」という)の発現を、BmN細胞を用いて経時的に調査した。この結果、vp39プロモータでは、ほぼpolhプロモータと同等の蛍光が確認されたものの後期で急激に発現しており、ie−1やgp64ではこれまで知られていた通り、polhプロモータと比べてわずかな蛍光しか確認できなかった。 そこで発現量を増加させる目的で、エンハンサとして知られるHRsのうちHR3と、各プロモータ領域、それらの距離、さらに翻訳促進配列として知られているpolh5’UTRの組合せを検討し、同様にGFPの経時的発現を調査したところ、ie−1およびgp64では若干の増加が見られたにとどまった。これに対し、HRs保存バリンドローム配列であるHR3と、vp39の組合せでは、発現量はそれほど変化しないものの、蛋白質の発現時期が早くなり、しかも凝集が抑制されることを見出し、本発明を完成した。 すなわち本発明は、左から右方向へ以下のb)およびc)の構成を含んでなることを特徴とするバキュロウイルス転移ベクターである。 b)配列番号1に記載するバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列を少なくと も1つ以上包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域 また本発明は、上記バキュロウイルス転移ベクターにより外来遺伝子が導入されてなる組換えバキュロウイルスである。 更に本発明は、前記の組換えバキュロウイルスを感染させた鱗翅目昆虫細胞を含んでなる組換えバキュロウイルス発現系である。 また更に本発明は、上記の組換えバキュロウイルス発現系を含んでなる組換え蛋白質および/またはポリペプチドの生産方法である。 本発明によれば、蛋白質あるいはペプチドの発現時期を早め、かつ適切な量での蛋白質発現を可能とすることができるため、比較的凝集が少ない状態で外来蛋白質あるいはポリペプチドの生産を行うことができる。 本発明の組換えバキュロウイルスを構築するには、まず、バキュロウイルス移転ベクターを構築することが必要である。このバキュロウイルス転移ベクターは、左から右方向へ以下のb)およびc)、 b)配列番号1に記載するバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列(TTTACNNGTAGAATTCTACNNGTAAA:ここでNはA、C、GまたはTを示す)を少なくとも1つ以上包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域の2つのDNA領域を含むものであり、次の方法によって得ることができる。なお、本願明細書において、左から右方向とは、バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域から転写が進行する方向である。また、上記エンハンサDNA領域に包含されるバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列は逆向になっていてもよい。 上記バキュロウイルス移転ベクターは、常法に従い、バキュロウイルスゲノムDNAを鋳型としてPCR等の手段により配列番号1に記載するHRs保存パリンドローム配列を少なくとも1つ以上包含するエンハンサDNA領域をクローニングし、次いで同様にvp39プロモータを含む領域をクローニングすることにより構築することができる。上記した保存パリンドローム配列を少なくとも1つ以上包含するエンハンサDNA領域としては、例えば、バキュロウイルスHRs共通配列(CTAAACTCGCTTTACGAGTAGAATTCTACTTGTAAAACACAATCAAG:配列番号2)と80%以上、好ましくは90%以上の相同性を有するDNA配列を包含するDNA領域、バキュロウイルスHRs共通配列を包含するDNA領域、バキュロウイルスHR3(配列番号29)を包含するDNA領域等が挙げられる。具体的なバキュロウイルスHRs共通配列と上記相同性を有するDNA配列を包含するDNA領域およびバキュロウイルスHRs共通配列を包含するDNA領域としては、前記DNA配列およびHRs共通配列そのものもしくはこれら配列とその両端100bpを含む配列またはこれらの配列を複数回繰り返した配列等が挙げられる。また、バキュロウイルスHR3を包含するDNA領域としては、バキュロウイルスHR3そのものまたはバキュロウイルスHR3とその下流約700bpからなるHR3Long断片(配列番号30)等が挙げられ、これらの中でも特にHR3Long断片が好ましい。 一方、バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域としては、バキュロウイルスvp39遺伝子開始コドン上流56〜60bp及び、104〜108bpに存在するバキュロウイルス後期プロモータモチーフ(DTAAG:ここでDはA、TまたはGを示す)を包含するもの等が挙げられる。具体的なバキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域としては、バキュロウイルスvp39遺伝子開始コドン上流−1〜−110bp、好ましくは−1〜−350bpからなるvp39pro(配列番号31)が好ましい。 本発明の組換えバキュロウイルスにおいては、上記配列c)の下流側には、所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA配列を挿入し得るクローニング制限酵素切断部位を包含するDNA領域を挿入することが望ましい。 上記所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA配列を挿入し得るクローニング制限酵素切断部位を包含するDNA領域としては、所望の外来遺伝子の挿入を適切な方向で行いうるマルチクローニングカセットが挙げられる。このマルチクローニングカセットの配列は数種の企業から入手可能であり(タカラバイオ、東洋紡など)、またはDNA合成装置を用いて合成することも可能である。いずれの方法も日常的に用いられており、また、これらマルチクローニングカセット単位の使用についても、当該技術分野において既知のものである。 また、このマルチクローニングカセットの下流側には、polyAシグナル好ましくはpolh遺伝子由来のpolyAシグナルを含む3’末端領域が続くことが望ましい。このpolyAシグナルも、市販されているベクター中から入手することができ、また合成することも可能である。 上記バキュロウイルス移転ベクターの好ましい1態様としては、次のものを挙げることができる。すなわち、エンハンサ側の上流側に、次のDNA配列a) a)バキュロウイルス非必須遺伝子部位の5’末端フランキング配列をコードするバキ ュロウイルスのウイルスDNA配列を結合し、プロモーター側の下流側には、更に次の配列e) e)バキュロウイルス非必須遺伝子部位の3’末端フランキング配列をコードするバキ ュロウイルスのウイルスDNA配列を結合すればよい。 上記配列a)およびe)のバキュロウイルス非必須遺伝子部位の好適な例としては、polhを挙げることができる。すなわち、polh遺伝子領域を相同組換えにより置き換えることができるようなバキュロウイルスDNAが入手しやすいことによる。このようなバキュロウイルスDNAとしては、例えば、カイコ生体や、カイコより樹立された培養細胞(BmN、BoMoなど)に感染するBmNPVに由来するBmNPV DNA,1 Cut(日本農産工業)等、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)やトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)などの生体並びにそれらから樹立された昆虫培養細胞(Sf−9、Sf−21、Tn−5、Tn−368など)に感染するAcMNPVに由来するBacVector−1000 Triple Cut DNA(ノバジェン)、BacVector−2000 Triple Cut DNA(ノバジェン)等、BmNPV及びAcMNPVの双方の宿主に感染するABvバキュロウイルス(片倉工業:特許文献3)があげられる。 なお、上記配列a)およびe)の5’末端フランキング配列と、3’末端フランキング配列は、これを入れ替えることができる。すなわち、転移ベクター中には、相同組換えが上手くいくように、5’末端フランキング配列と、3’末端フランキング配列が存在すればよく、その中間に挟み込まれる配列b)、c)等で構成される配列が逆向きになっていてもよい。具体的な、a)およびe)の5’末端フランキング配列と、3’末端フランキング配列としては、polh上流の必須遺伝子lef−2の終始コドンを含んでさらに上流500bp〜5kbp、好ましくは2〜3kbpを含む配列と、polh下流の必須遺伝子orf1629の終始コドンを含んでさらに下流(lef−2とは逆向きなので、orf1629のCDSの方向)500bp〜5kbp、好ましくは2〜3kbpを含む配列の組み合わせ等が挙げられる。なお、前記配列には更に、それぞれの遺伝子のpolyAシグナルを含む領域(終始コドン以降30〜70bp)をも含んでいることが好ましい。 また、上記配列a)およびe)のバキュロウイルス非必須遺伝子部位の別の好適な例としては、上記フランキング領域に換えてTn7RおよびTn7Lを挿入したバキュロウイルス転移ベクターを挙げることができる。このようなベクターは、Bac−to−Bacシステム(インビトロジェン)に用いることにより組換えバキュロウイルスを得ることができる。このバキュロウイルス転移ベクターにおいてもTn7RおよびTn7Lは入れ替えても良い。 上記バキュロウイルス転移ベクターの、配列c)の下流側に、配列d)として所望の蛋白質あるいはポリペプチド(以下、合わせて「蛋白質」という)をコードする外来遺伝子・外来DNAのDNA領域を組み込むことができる。この蛋白質を発現させる外来遺伝子・外来DNAには、ウイルス由来の遺伝子・DNAを含む原核生物由来遺伝子・DNAおよび、真核生物由来遺伝子・DNAが含まれる。好ましい遺伝子・DNAとしては、例えば、抗体遺伝子等が挙げられる。なお、前記ベクター中にクローニング制限酵素切断部位が組み込まれている場合には、それを利用してコードする外来遺伝子・外来DNAのDNA領域を組み込むことができる。このようにしたウイルス転移ベクターをウイルスDNAと相同組換えし、得られた組換えバキュロウイルスを宿主細胞に感染させることによって当該細胞内で所望の蛋白質を発現させることが可能となる。また、蛋白質として抗体を発現させる際には、抗体遺伝子全体を用いて、前記方法により宿主細胞に感染させ、当該細胞内で抗体を発現させるだけでなく、抗体の軽鎖遺伝子と重鎖遺伝子とを別々のバキュロウイルスに組み込み、それらを宿主細胞に混合感染させ、当該細胞内で抗体を発現させることも可能である。 上記バキュロウイルス転移ベクターの最適実施態様としてはpMVPLR(配列番号32)が挙げられ、このものは左から右方向へ以下の構成を有する。 1)バキュロウイルスBmNPV(T3株)由来のDNA配列で、bro−e、orf 133、orf134、lef−2遺伝子を包含する領域(5582〜7692番 目) 2)バキュロウイルスBmNPV(T3株)由来のDNA配列で、タンパクをコード していない、ポリヘドリン遺伝子上流のDNA配列(7625〜7692番目) 3)バキュロウイルスBmNPV(T3株)由来のDNA配列で、HR3(7698〜 8733番目)を包含するDNA領域(HR3Long断片:7698〜9394 番目) 4)バキュロウイルスBmNPV(T3株)のvp39遺伝子のプロモータ領域を含む DNA領域(vp39pro:9442〜9791番目) 5)バキュロウイルスBmNPV(T3株)由来のDNA配列で、ポリヘドリン遺伝 子停止コドン下流から、orf1629、PK1、orf4遺伝子を包含する領域 (98〜2885番目) ウイルス転移ベクターとウイルスDNAとの相同組換えにおいては、組換え効率を高めるために上記バキュロウイルスDNAは線状化されたものを用いることが望ましい。このために用いる、バキュロウイルスDNAを消化ないし切断のための制限酵素としては、Eco81Iを挙げることができ、一つのバキュロウイルスDNA中での消化、切断個所は1ないし3箇所とすることが望ましい。 更に、本発明の組換えバキュロウイルスにより、蛋白質を産生させるための宿主としては、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、ボンビックス・マンダリナ(Bombyx mandarina)、ヘリオシス・ビレセンス(Heliothis virescens)、ヘリオシス・ゼア(Heliothis zea)、マメストラ・ブラッシカス(Mamestra brassicas)、エスチグマン・アクレア(Estigmene acrea)もしくはトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)を含む鱗翅目昆虫細胞を挙げることができ、培養細胞であっても、幼虫、蛹等の生体であっても良い。 なお、組換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養時間は産生させる蛋白質の種類等により相違するが、一般には、培養細胞の場合には2から5日程度、幼虫または蛹の場合には5から7日程度である。 本発明の最適実施態様としては、ABvバキュロウイルスを元に構築され、所望の外来遺伝子を組み込んだ組換えABvバキュロウイルスを用い、これを、カイコ培養細胞あるいは幼虫、蛹に感染させ、所望の外来遺伝子を発現させる方法を挙げることができる。 上記最適実施態様において、特に外来遺伝子として抗体遺伝子を発現させた場合には、従来のプロモーターを用いて発現させた場合よりも、発現量の増加、会合体の形性の抑制等の優れた効果が得られる。 以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制約されるものではない。本明細書に記載の内容を元に、本発明の構成および実施に関する様々な修正および変更が可能であることは当業者らによって容易に理解でき、これらは本発明の趣旨およびその範囲内にある。なお、以下の実施例において用いた開始材料および方法は、次の通りである。 (プロモータの取得) BmNPV−T3株(Accession No. NC_001962)のゲノムDNAを鋳型DNAとして、HR3とvp39プロモータならびに比較検討に用いるie−1、gp64プロモータをPCRによって取得した。 (線状化バキュロウイルスDNAの取得) 組換えウイルス製造のための線状化バキュロウイルスDNAは、ABvバキュロウイルス(片倉工業;特開2003−52371)のものを用いた。より具体的には10分程度氷水などで低温麻酔した5令1日目のカイコ幼虫を行い、1×106個/100μlの濃度のABvバキュロウイルス液をG−26などの注射針の付いた注射器を用いて皮下注射する。その後、カイコ3令用人工飼料(モーラス:片倉工業)を用いて、25℃、湿度45%で7日間飼育を行うことにより、バキュロウイルス粒子を増殖させ、幼虫の体液あるいは虫体磨砕液よりバキュロウイルス粒子を得た。 得られたバキュロウイルス粒子を、プロテイナーゼK消化とフェノール抽出に付し、ゲノムDNAを精製した。さらにこれに制限酵素を作用させて、消化、切断し、線状化バキュロウイルスDNAを得た。例えば、ABvバキュロウイルスゲノムDNAの消化、切断の場合、バキュロウイルス DNA200μgに対して、制限酵素Eco81Iを30units用い、37℃で20時間の処理条件で反応させることにより行われる。 (一般的手法) なお、本明細書に記載の操作のうち、プラスミド調製、制限酵素消化などの基本的な操作については、”Molecular Cloning : A Laboratory Manual 3rd ed.”(2001年、Cold Spring Harbor Laboratory発行)に記載の方法によった。プラスミドの構築に使用した制限酵素および他の酵素は、タカラバイオ、東洋紡のいずれかから入手した。 また、プラスミドの構築は、特に記載が無い限りライゲーションはベクターを5fmol、インサートを15fmolとし、同量(5〜10μL)のライゲーションキット(タカラバイオ)のソリューションI液を加え、16℃で、1時間反応した。反応液を全て使用し、大腸菌DH5αを形質転換し、アンピシリンを含むLB培地上で選択した。クローンを選抜後、プラスミドを精製した。この精製物を BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)を用い、下記の条件でシークエンス反応を行い、DNA Sequencer 3100−avant(アプライドバイオシステムズ)にて解析した。 <シークエンス反応> 1.96.0℃ 1分 2.96.0℃ 10秒 3.50.0℃ 5秒 4.60.0℃ 4分 5.2〜4を25回繰り返し PCRは、特に記載がない限りKOD−Plus(東洋紡)を用い、下記の条件でDNA−Engine(バイオラッド)により反応を行った後、QIAquick PCR Purification kit(キアゲン)により精製した。 <PCR反応> 1.94.0℃ 2分 2.94.0℃ 15秒 3.50.0℃ 30秒 4.68.0℃ 1kbpにつき1分 5.2〜4を30回繰り返し 組換えバキュロウイルスの作製は、線状化ABvバキュロウイルスDNAと外来遺伝子導入バキュロウイルス転移ベクターのコ・トランスフェクションにより行った。すなわち、まず、35mm細胞培養用ディッシュを用いて、BmN細胞を約1×106個の単層に、静置培養で準備した。線状化ABvバキュロウイルスDNA(片倉工業)0.2μgと、外来遺伝子導入バキュロウイルス転移ベクター0.5μgを1.5mlチューブ中で100μlのTC−100(無血清)に混合し、室温で15分間静置した。TC−100(無血清)100μlにカチオン性脂質試薬(Lipofectin; インビトロジェン)を4μl混合し、室温で15分間静置した。次に2つの溶液を混合し、さらに室温で15分間静置した後に800μlのTC−100(無血清)を加えた。この混合液を35mmの細胞培養用ディッシュで単層に準備したBmN細胞に加え、25℃で16時間培養後に混合液を除去し、新たなTC−100(10%FBSを含む)を2ml添加して、25℃で7日間静置培養した。その培養上清を組換えウイルス原液とした。 組換えウイルス原液からの外来遺伝子組換えABvバキュロウイルスの単離は、”A Laboratry Guide”(L.A. KING and R.D.POSSE (1992))の方法で行った。すなわち、BmN細胞を1穴当たり1.5×103個/50μl TC−100(10%FBS)で培養した96穴プレートを準備した。組換えウイルス原液をTC−100(10%FBS)を用いて10−3、10−4、10−5、10−6、10−7、10−8と6段階に希釈したウイルス希釈液を、各プレートの1穴当たり50μlずつ混合し感染させた。これらのプレートは乾燥防止のためシールして25℃で静置培養した。組換えウイルスの選抜は、感染7日目に、光学顕微鏡下で多角体の形成がないことを確認することによって行った。実 施 例 1 GFPによる経時的発現量の調査(1)比較用バキュロウイルス転移ベクター調製用プラスミド(pMProXX)の 構築: 本発明のバキュロウイルス転移ベクターを構築する開始材料としてはpM000001(片倉工業、図1参照、以下、「pM01」と略す)を用いた。また、従来のバキュロウイルス発現系、すなわち陽性対照区としてもこのベクターを用いた。これはpolhプロモータを含むため、次の方法によりこれを除き、さらに構築に有用な複数の制限酵素認識部位を導入した。 すなわち、pM01を鋳型とし、プライマー1(5'-aacaatgtaccgcgcggcgg-3')及びプライマー2(5'-agatcttaagctagcaagcatatggccatggtatttccatttgtatcgttaataaaaaac-3')を用いて、PCRを行い、DNA断片を取得した。このDNA断片を制限酵素BstXIおよびBglIIで消化した。一方、pM01をBstXIおよびBglIIで消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。DNA断片と線状化したpM01をライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3’)のプライマーを用いて塩基配列確認を行ってpMProXXを選抜した。以下につづく(2)から(5)までのプラスミド構築の概略を図2に示す。(2)HR3の取得及びベクターへの組込み BmNPV−T3株(Accession No. NC_001962)のウイルスゲノムDNAを鋳型として、プライマー3(5'-ccatggaatattagacaacaaagatttattttattcatg-3')及びプライマー4(5'-aatattacgtccctgccagaa-3')を用いて、PCR断片(以下、「HR3Long断片」という)を取得した。このHR3Long断片を、Ex−TaqとdATPによって末端にアデニンを1つ突出させて、pT7−Blue T−Vector(タカラバイオ)とライゲーションして、大腸菌を形質転換した。 この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてM13.rev(5'-tcacacaggaaacagctatg-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。この時、HR3Longは5’→3’向き(HR3LR/pT7)と3’→5’向き(HR3LL/pT7)の2種類を取得した。 上記HR3LR/pT7を、制限酵素NcoIおよびNheIを用いて消化し、HR3Long断片を切り出した。一方、上記(1)で作製したpMProXXを、制限酵素NcoIおよびNheIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。HR3Long断片と線状化したpMProXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMProLR)をプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。 また同様に、上記HR3LL/pT7を制限酵素NcoIおよびBamHIを用いて消化した。これをDNAブランティングキット(タカラバイオ)により切断面を平滑末端化し、HR3Long断片を切り出した。一方、(1)で作製したpMProXXを、制限酵素NcoIおよびNdeIを用いて消化した。これを同様に平滑末端化し、切断面を脱リン酸化した。HR3Long断片と線状化したpMProXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMProLL)をプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。 上記HR3LR/pT7を制限酵素NcoIおよびNdeIを用いて消化し、DNA断片を切り出し、バキュロウイルスHR3(以下、「HR3Short断片」という)を得た。一方、(1)で作製したpMProXXを制限酵素NcoIおよびNdeIを用いて消化し、切断面を脱リン酸化した。HR3Short断片と線状化したpMProXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMProSR)をプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。 また同様に、HR3LL/pT7を、制限酵素NcoIを用いて消化し、DNAブランティングキット(タカラバイオ)により切断面を平滑末端化し、更に制限酵素NdeIを用いて消化した。一方、(1)で作製したpMProXXを制限酵素NheIを用いて消化し、DNAブランティングキットにより切断面を平滑末端化し、更に制限酵素NdeIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。HR3 Short断片と線状化したpMProXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMProSL)をプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。(3)発現時期が異なるバキュロウイルス由来プロモータの取得及びベクターへ の組込み BmNPV−T3株(Accession No. NC_001962)のウイルスゲノムDNAを鋳型とし、プライマー5(5'-gctagcatcccaacggcgcagtg-3')及びプライマー6(5'-agatcttaagagtcgtttggttgttcacgat-3')を用いて、PCRを行い、ie−1プロモータ断片(ie−1開始コドン上流350bp)を取得した。同様に、プライマー7(5'-gctagcttggtaaacgtacactttaattattttac-3')及びプライマー8(5'-agatcttaagattgttgccgttataaatatggac-3')を用いてPCRを行い、vp39プロモータ断片を取得した。また、プライマー9(5'-gctagctttaaataaaccaaacacatgaatataatttt-3')及びプライマー10(5'-agatcttaagtgaggcatcttatatacccg-3')を用いてPCRを行い、gp64プロモータ断片を取得した。この3種類のプロモータ断片をEx−TaqとdATPによって末端にアデニンを1つ突出させて、pT7−Blue T−Vector(タカラバイオ)とそれぞれライゲーションして、大腸菌を形質転換した。 これら形質転換体のクローン(IE/pT7,VP/pT7,GP/pT7)をプラスミド精製、そしてM13.rev(5'-tcacacaggaaacagctatg-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。これらのプラスミドを制限酵素NheIおよびBglIIで消化し、それぞれのプロモータ断片(IE,VP,GP)を切り出した。 polhプロモータ断片(PH)は、コア配列のみを合成した。すなわち50mM−NaCl中に、1μM合成DNA1(5'-CTAGCaaataataaccatctcgcaaataaataCTTAA-3')及び1μM合成DNA2(5'-GATCTTAAGtatttatttgcgagatggttattatttG-3')を混合し、熱変性後、徐冷して2本鎖DNAを形成させた。さらに、T4ポリヌクレオチドキナーゼにより5’末端をリン酸化した。 一方、上記(1)で作製したpMProXXおよび(2)で作製した4種類のプラスミド(pMProLR,pMProLL,pMProSR,pMProLL)を、制限酵素NheIおよびBglIIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。上記4種類のプロモータ断片(IE,VP,GP,PH)と計5種類の線状化したプラスミドを計20種類の組合せでライゲーションして、大腸菌を形質転換した。 この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。(4)Polh遺伝子5’UTRの取得及びベクターへの組込み pM01(片倉工業)を鋳型として、プライマー11(5'-cttaagaagtattttactgttttcgtaacagtt-3')及びプライマー12(5'-atagtccagccatcggtttg-3')を用いてPCRを行い、polh遺伝子5’UTR断片を取得した。この5’UTR断片を、Ex−TaqとdATPによって末端にアデニンを1つ突出させ、pT7−Blue T−Vectorとライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(5UTR/pT7)をプラスミド精製、そしてM13.rev(5'-tcacacaggaaacagctatg-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。 上記5UTR/pT7に制限酵素AflIIおよびSnaBIを用いて消化し、polh遺伝子5’UTR断片を切り出した。一方、(3)で作製した20種類のプラスミドに制限酵素AflIIおよびSnaBIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。5’UTR断片と20種類の線状化したプラスミドをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。これらのプラスミドの構築に用いたバキュロウイルス転移ベクター名、利用プロモータおよびエンハンサ、挿入方向等を表1に示す。(5)オワンクラゲ緑色蛍光蛋白質遺伝子を挿入したバキュロウイルス転移ベクターの 構築 オワンクラゲ緑色蛍光蛋白質(野生型のもの、以下、「GFP」と表記する)遺伝子(Accession No. M62653)を、制限酵素BglIIおよびXbaIを用いて消化し、GFP遺伝子断片を切り出した。一方、(3)および(4)で作製した40種類のプラスミドならびに陽性対照区としてpM01(片倉工業)を、制限酵素BglIIおよびXbaIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。GFP遺伝子断片と計41種類の線状化したプラスミドをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製し、pM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。(6)プロモータおよびHRs組換えバキュロウイルスの作製 上記(5)で得られた41種類のGFP導入バキュロウイルス転移ベクターおよび陰性対照区としてGFPを導入していないpM01(片倉工業)をABvバキュロウイルスとのコ・トランスフェクションを行うことにより、組換えウイルス原液を得た。 上記で得た各ウイルス原液よりそれぞれGFP組換えABvバキュロウイルスの単離を”A Laboratry Guide”(L. A. KING and R. D. POSSE A Laboratry Guide (1992))の方法で行った。すなわち、BmN細胞を1穴当たり1.5×103個/50μl TC−100(10%FBS)で培養した96穴プレートを準備した。組換えウイルス原液を、TC−100(10%FBS)を用いて10−3、10−4、10−5、10−6、10−7、10−8と6段階に希釈して調製したウイルス希釈液を、各プレートの1穴当たり50μlずつ混合し感染させた。これらのプレートは乾燥防止のためシールして25℃で静置培養した。組換えウイルスの選抜は、感染7日目に、光学顕微鏡下で多角体の形成がないことを確認することによって行った。陰性対照区以外はさらにGFP蛋白質による蛍光が見られる組換えウイルスを選抜し、クローン化した。このとき2種類(pVPXX5,pGPLL5)については組換えウイルスを得ることができなかった。(7)GFP蛍光測定による各プロモータおよびHR3ならびにpolh5’UTR の影響の解析 BmN細胞を1穴当たり1.5×103個/50μl TC−100(10%FBS)で培養した96穴プレートを準備した。上記(6)で得た40種類のGFP遺伝子発現ウイルスをm.o.i.=5で感染させた。感染後、2時間ごとにGFPの蛍光を、励起波長398nm、カットオフ455nm、測定波長509nmの条件で経時的に測定を行った。 得られた蛍光強度(RFU)のデータから陰性対照区のRFUを差し引き、それぞれの組換えウイルスのGFP発現カーブを、”Clin.Chem.”,23,112.(Rodbard, D. and McClean, S.W. (1977))の方法に準じてロジット(logit)変換を用いて以下の4係数ロジスティック曲線に回帰した。 4係数ロジスティック曲線は、酵素免疫法(ELISA)の検量線や生物の成長曲線、蛋白質の経時的発現曲線などに現れるS字型カーブを表すのに用いられる。上記で得られたデータは次式のように回帰した。このとき、A=0とした場合、Dは最大発現量(RFU)を表し、CはS字の変曲点に当たる時間(h)を、BはS字の曲率を表す。 なお用いられた回帰式は、次のものである。 この結果、ie−1およびgp64両遺伝子のプロモータおよびpolhコア配列のみでは、最大発現量すなわち係数Dが、HR3等の付加の有無に関わらず、従来の技術すなわちpM01の10%にも満たないことが分かった。よって、これらのプロモータを単独またはHR3等との組合せで用いた場合、蛋白質生産の手段としては非効率的であると判断した。一方、vp39プロモータを用いた場合は比較的高い発現量が認められたので、更に詳細に調査した。 上記4係数ロジスティック回帰曲線の式を以下のように変形し、10%および90%発現時間を算出した。10%発現時間の早い順に、ベクターの構成と併せて下記の表2に示す。 HR3エンハンサを挿入した場合、すべてのもので10%発現時間がvp39プロモータ単独(上記pMVPXX)と比較して早くなっていた。また、polh 5’UTRは発現時期には殆ど影響しないことがわかった。よって、HR3の効果は発現時期を早めるものであることが示唆された。特にpMVPLRで発現時期が早いことが示された。直感的に理解しやすいよう、vp39プロモータ単独(上記pMVPXX)および従来のpolhプロモータ(上記pM01)と併せて測定データおよびそれらの回帰曲線を図3にグラフ化した。 以降の実施例では、これら3種類のバキュロウイルス転移ベクターをGatewayデスティネーションベクター化したものでの発現比較を行った。すなわち、従来技術(polhプロモータ)としての対照区はpM01、バキュロウイルスHR3の効果を検証するための対照区はpMVPXX、本発明のベクターの例はpMVPLRをベースとしたものである。実 施 例 2 蚕及び蛹での経時的発現量の調査(1)pM01、pMVPXX、pMVPLRのC末端6xHisタグ付加デスティ ネーションベクター化 pM0CHT15(片倉工業:pM01のC末端6xHisタグ融合蛋白質発現用ベクター)を、制限酵素EcoRIを用いて消化し、DNAブランティングキット(タカラバイオ)により切断面を平滑末端化した。これを制限酵素EcoRVによって消化した後、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。 25ngの、ゲートウエイ・リーディング・フレーム・カセットB(Gateway reading frame cassette B;インビトロジェン、以下、「RfB」と略す)と50ngの線状化したプラスミドをライゲーションし、反応液を5倍に希釈し、その1μLを用いて大腸菌DB3.1(インビトロジェン)を形質転換した。このクロラムフェニコール耐性形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜し、pM01−DestCHとした。 pM01−DestCHを、制限酵素KpnIとSnaBIを用いて消化し、RfB断片とそれに続く6xHisタグ付加配列を切り出した。一方、上記pMVPXXおよびpMVPLRを、制限酵素KpnIとSnaBIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。上記6xHisタグ付加RfB断片と線状化したプラスミドをライゲーションして、大腸菌DB3.1(インビトロジェン)を形質転換した。このクロラムフェニコール耐性形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜し、それぞれpMVPXX−DestCH、pMVPLR−DestCHとした。これらのプロモータ周辺の差異を図4に簡単に示す。(2)PDE4C(phosphodiesterase 4C)遺伝子を挿入した各バキュロウイルス転移 ベクターの構築 PDE4C遺伝子を含むエントリークローンベクター(JBIC成果コンソIからGatewayエントリークローンを入手:No.FLJ38065AAAF)を、pM01−DestCH、pMVPXX−DestCH、pMVPLR−DestCHの各デスティネーションベクターと、それぞれ製造業者のマニュアルに従いGateway LRクロネース(インビトロジェン)によってLRクロネース反応した。反応溶液すべてを用いて80μLの大腸菌DH5αを形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5’-caacgcacagaatctaacgc-3’)のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。また、プラスミドの名前をこれまでと比較しやすいよう、下記の通りに読み替えた。この読み替えは、後に続く実施例でも同様とする。(3)PDE4C遺伝子組換えバキュロウイルスの作製 コ・トランスフェクションにより、上記3種類のベクターをABvバキュロウイルスと組み換えた。次に、ウイルス感染細胞を回収し、抗His抗体を用いて、ウエスタンブロッティング解析により、His融合蛋白質の発現が見られ、且つウイルスゲノム中にPDE4C遺伝子がそれぞれ導入されている組換えウイルスを選抜し、クローン化した。(4)蚕及び蛹での経時的回収及び解析 上記で得たクローン化済みウイルス液を用いて、それぞれ9種類のウイルスを5令1日目のカイコ幼虫および蛹化1日後の蛹に接種し、ウイルス感染後64、72、88、96、112、120、136、144時間ごとに2頭ずつ経時的に回収し、−80℃のフリーザーで凍結した。 回収したカイコおよび蛹に、Tris緩衝生理食塩水(TBS)を総量30mLになるように加え、プロテアーゼインヒビターカクテルComplete(ロシュ)1錠と共に、ホモジナイザー(日立)および超音波破砕機(ビブラセル)をこの順に用い、磨砕した。この磨砕液を低速遠心機(日立)により3,000rpm、4℃の条件で10分間遠心し、この上清をガーゼで濾過した。この濾過液をTBSで2倍希釈し、1mLを超遠心機optima MAX(ベックマン)、ローターTLA−100.3により45,000rpm、4℃の条件で1時間遠心し、上清と沈殿に分けた。この沈殿に1mLのTBSを加え、超音波破砕機(BRASON)で完全に再懸濁した。 上記によって得た磨砕サンプルを、SDS−PAGE(アトー)で分離後、ブロッティング装置(アトー)により蛋白質をゲルからPVDF膜(Pall)に転写した。転写後、蛋白質の吸着したPVDF膜を、1%スキムミルク(和光純薬工業)を含むT−TBS(0.1%Tween20を含むTBS)によりブロックキング処理後、一次抗体として2,000倍希釈した抗Hisウサギ抗体G−18(サンタクルズ)、二次抗体として20,000倍希釈した抗ウサギIgGヤギ抗体ALP標識(ナカライテスク)を用いたウェスタンブロット解析を行った。シグナルの検出は、BCIP−NBT試薬(ナカライテスク)による発色で行った。 各回収時間での超遠心上清および沈殿のバンドについてImageJ(NIH)によりデンシトメトリーを行って光学密度を求めた。蛹での発現については図5に、幼虫での発現については図6に、それぞれ発現時間とデンシトメトリー結果の関係で示した。 この結果、各バキュロウイルス転移ベクターでの最適な回収時期は感染後138〜144時間であることが示された。図5および6から、従来技術であるpolhプロモータを用いた場合(pM01)は、顕著に凝集物が多いことが示された。また、幼虫での発現の場合(図6)vp39プロモータ単独で用いたとき(pMVPXX)発現がわずかであった。これは幼虫に特有の現象であるか、外来蛋白質によるものであるかを確認するため、別の外来遺伝子について同様の調査をおこなった。実 施 例 3 SPHK1(sphingosine kinase 1)およびASB6(ankyrin repeat and SOCS box-containing 6)の幼虫での経時的発現結果の解析 SPHK1およびASB6(JBIC 成果コンソI クローン No.FLJ12340AAAFおよびNo.FLJ12942AAAF)について、実施例2と同様に組換えウイルス作製、発現、サンプル回収、可溶性不溶性分離、解析を行った。 この結果、SPHK1を発現させた場合(図7)は、本発明のpMVPLRでは可溶性発現量が従来と比較して顕著に多く、実施例2より良い結果を得たが、pMVPXXについては同様の結果となった。 一方、ASB6を発現させた場合(図8)では、ウイルス感染後138時間でpMVPXXがもっとも良い結果を示した。よって、実施例2(図6)および図7での幼虫でのpMVPXXの発現低下は外来蛋白質の種類に依存するものであると考えられた。実 施 例 4 各バキュロウイルス転移ベクターの可溶性割合(1)BmN細胞での発現量の調査 UGDH(UDP-glucose dehydrogenase、JBIC 成果コンソI クローン No.FLJ40611AAAF)およびBCKDHA(branched chain keto acid dehydrogenase E1, alpha polypeptide、JBIC 成果コンソI クローン No.FLJ45695AAAF)について実施例2と同様に組換えウイルス作製を行った。これまで作製した各組換えウイルス(SPHK1,ASB6)と併せ、計12種類の組換えウイルスを用いて、BmN細胞での発現を行った。すなわち、BmN細胞を1穴当たり1.0×106個/2ml TC−100(10%FBS)で培養した6穴プレートを準備した。次いで各組換えウイルス液をm.o.i.=5で感染させた。 感染120時間後、ピペッティングにより細胞をはがして培養上清ごとそれぞれ0.25%CHAPSとなるように加え、氷上で10分間静置して、細胞膜を穿孔した。各1mLから、実施例2と同様に超遠心によって可溶性不溶性分離を行い、ウェスタンブロッティングの結果からデンシトメトリーにより解析を行った。(2)蛹、幼虫、BmN細胞での発現における可溶性割合の解析 上記BmNでの解析結果と併せて、実施例2および実施例3の蛹および幼虫での経時的発現試験の結果のうち、各バキュロウイルス転移ベクターおよび遺伝子での最良の発現時期についても可溶性割合を算出した。結果を以下に示す。 表中、「−」は、発現量が低すぎ、デンシトメトリーによる解析が不能であった例を示す。 また、ゴシック体表記は本発明の例を示す。 この結果、従来技術であるpolhプロモータを持つpM01で各遺伝子を発現させた場合と比べて、本発明の例であるpMVPLRでは、すべてについて可溶性の割合が向上し、凝集の割合が低減していることが示された。 一方、vp39プロモータ単独であるpMVPXXを用いた場合でも凝集の割合がある程度低減されるが、比較検討に耐えうるだけの発現量が得られない例が散見され(図9B、図10B、図12B)、発現させる外来蛋白質や発現宿主の影響を受けやすいことが分かった。また、全体の傾向として、可溶性の割合はpM01<pMVPXX<pMVPLRとなっており、これは、図3で示される発現開始時期と逆相関の関係、すなわち発現開始時期が早いほど凝集の割合が低減することが考えられた。 そこで、これらについてごく一般的な最小二乗法・線形モデルの重回帰分析を試みた。すなわち、PDE4Cを蛹で発現させたものを基準に置いてその他遺伝子(4種)と発現宿主(2種)をダミー変数とし、これらと各バキュロウイルス転移ベクターの10%発現時期を独立変数(計7変数)とし、可溶性割合を従属変数として、それらの相関係数行列を求めた。さらにそこから偏相関係数等を求めたものを以下の表にしめす。 ダミー変数を用いているので、数値の比較は標準化偏回帰係数を用いて行った。この結果、ASB6、UGDH、BCKDHAではp値<0.05で負の値をとり、これらは凝集しやすい蛋白質であることが示された。また、10%発現時期についてもp値<0.05で負の値をとり、10%発現時期と凝集の間に逆相関があることが示された。すなわち、発現開始時期が早いほど凝集が少なくなると考えられる。 一方、発現宿主については、蛹を基準に置いたとき、幼虫およびBmN細胞で負の値をとるものの、有意差は認められなかった(p値>0.05)。 以上の結果をまとめると、従来のpolhプロモータでは発現させた外来蛋白質のうち不溶性になってしまうものの量が多く、vp39プロモータ単独では発現が安定しないことが分かった。これらと比較して、本発明のプロモータを利用した場合(上記pMVPLR)、概ね発現は安定し、さらには可溶性で発現する割合が増し、または可溶性発現量が増加しており、ある程度の発現量を確保しつつ早期に発現することによって細胞内品質管理が期待できることが示された。実 施 例 5 その他のHRsを用いたバキュロウイルス転移ベクターの作製 BmNPV−T3株(Accession No.NC_001962)のウイルスゲノムDNAを鋳型として、プライマー13(5'-agccatgggacatcatcgtttgattgtgttttacac-3')及びプライマー14(5'-tgctagcaccgaactcgttttacgagtagaatt-3')を用いて、PCR断片(以下、「HR1」という)を取得した。また、同様にプライマー15(5'-tgccatggaaattgaactggctttacgagtagaattc-3')及びプライマー16(5'-agctagcatgacatcatattttgattgtgttttacacg-3')を用いて、PCR断片(以下、「HR5」という)を取得した。 このHR1およびHR5断片をそれぞれ制限酵素NcoI及びNheIを用いて消化し、HR1およびHR5断片を切り出した。一方、実施例1(3)で作製したpMVPXXを、制限酵素NcoI及びNheIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。HR1及びHR5断片それぞれと線状化したpMVPXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMVP1RおよびpMVP5R)をプラスミド精製、そしてプライマー8(5'-agatcttaagattgttgccgttataaatatggac-3')を用いて塩基配列確認を行って選抜した。 また、HRs保存パリンドローム配列は、合成した。すなわち50mM−NaCl中に、合成DNA3(5'-catggtttacaagtagaattctactcgtaaag-3')及び合成DNA4(5'-caaatgttcatcttaagatgagcatttcgatc-3')をそれぞれ1μM混合し、熱変性後、徐冷して2本鎖DNAを形成させた。さらに、T4ポリヌクレオチドキナーゼにより5’末端をリン酸化した。 一方、実施例1(3)で作製したpMVPXXを、制限酵素NcoI及びNheIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。HR1及びHR5断片それぞれと線状化したpMVPXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMVP1−palindromes)をプラスミド精製、そしてプライマー8(5'-agatcttaagattgttgccgttataaatatggac-3')を用いて塩基配列確認を行って選抜した。 こうして得られた3種類のバキュロウイルス転移ベクターについて外来蛋白質を導入しても、発現開始時期または凝集の割合が前記実施例と同様に変化することが分かる。実 施 例 6 組換えバキュロウイルスによる抗キマーゼ抗体分子の作製 ヒトキマーゼ(片倉工業:特開2002−300886号公報)に対する抗体を産生するハイブリドーマ2D11G10D株(このものはFERM P−18700として、平成14年2月8日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(郵便番号305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている:片倉工業:特開2003−235556号公報)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー17(5'- gaGCGGCCGCATGGCTTGGGTGTGGACCTTG -3')及びプライマー18(5'- gaGATATCTCATTTACCAGGAGAGCGGGAG -3')を用い、PCRにより重鎖遺伝子を含むPCR断片を取得した。同様に、プライマー19(5'- gaGCGGCCGCATGGACATGAGGACCCCTGC -3')及びプライマー20(5'- gaGATATCCTAACACTCATTCCTGTTGAAGCTC -3')を用い、PCRにより軽鎖遺伝子を含むPCR断片を取得した。 上記で取得した重鎖及び軽鎖の遺伝子を含むPCR断片をそれぞれ制限酵素NotI及びEcoRVを用いて消化し、重鎖及び軽鎖遺伝子断片を切り出した。一方、実施例1で作製したpMVPLR及び従来のプラスミドであるpM01を、制限酵素NotI及びEcoRVを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。重鎖及び軽鎖遺伝子断片それぞれと、線状化したpMVPLRおよびpM01をライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてプライマー8(5'-agatcttaagattgttgccgttataaatatggac-3')を用いて塩基配列確認を行って選抜した。 上記で得られたプラスミド4種について、それぞれ実施例2と同様に組換えウイルス作製を行った。次いで、重鎖と軽鎖の組換えウイルスを混合感染させる他は実施例4(1)と同様に感染実験を行い、BmN細胞の培養上清及び幼虫体液を得た。これらのサンプルについて、キマーゼを固相化したELISAを行い、正常にキマーゼと結合する抗体(以下、「抗キマーゼ抗体2D」という)を得た。この抗キマーゼ抗体2Dの生産量を、抗マウスIgGウサギ抗体(ALP標識:ナカライテスク)とBlue−Phos(KPL)で測定した。なお、標準抗体には、2D11G10D株培養上清から精製して得られたモノクローナル抗体を用いた。 抗キマーゼ抗体2Dの生産量は、pMVPLRを重鎖・軽鎖の両方に使用したときに、もっとも高い発現量であることが分かった(図13)。特に培養上清では従来技術であるpM01と比べて発現量の増加が顕著であった。実 施 例 7 組換えバキュロウイルスで生産した抗キマーゼ抗体分子の性状実施例6で得られた幼虫体液のうち、発現に用いたプラスミドが重鎖軽鎖ともpM01のもの、及びpMVPLRのものから、ProteinA−SepharoseFF(GEヘルスケア)を用いて抗体分子をメーカー推奨の方法で精製した後、沈降速度法による超遠心分析(片倉工業)を行った。超遠心分析には、分析用超遠心機ProteomeLab XL-A(ベックマンコールター)を用い、SEDFIT(NIH)による解析を行った。精製回収量と、実施例6でのELISAを一頭あたりの量に換算し、超遠心分析の結果とともに表6に示した。また、各プラスミドを用いて発現、精製された抗キマーゼ抗体2Dについて電気泳動(還元SDS−PAGE)を行った。電気泳動の結果(図14)より、精製されたそれぞれの抗体分子の純度にはあまり差がないことが分かった。しかし、超遠心分析の結果、組換えウイルス作製に用いたプラスミドがpM01すなわち従来のポリヘドリンプロモータで抗体分子を生産した場合、会合体が多く形成されることがわかった。また、従来のポリヘドリンプロモータで抗体分子を生産した場合、ELISAで確認された活性型の抗体分子の量よりも精製量が多く、ProteinA−SepharoseFFで精製可能ではあるが活性を持たない抗体分子が、およそ50%を占めることがわかった。一方、pMVPLRすなわち本発明のプロモータを用いると、会合体の形成が抑制され、1頭あたりのELISA測定値と精製回収量が一致していた。さらに、1頭あたりの生産量も増大していた。このことから、本発明のプロモータを用いると抗体分子の分泌量が増加し、併せて細胞内品質管理を十分に受けていることが示された。 以上、本発明による構成および方法を好ましい実施例について述べてきたが、本発明の概念、趣旨および範囲を逸脱することなく、上述した構成、方法、これらの方法のステップや時間的順序などについて様々な変更や修正が可能であることは当業者によって容易に理解できよう。たとえば、他のHRsを用いても同様の結果を得ることができる。また、HRs保存パリンドローム配列の数を変更し、またはその上流にie−1遺伝子産物などを発現させる領域を加えることによって発現量や発現時期を変更することができよう。さらには、一つのプラスミドに複数のプロモータを挿入することで複数の遺伝子を共発現させ、または個別の組換えウイルスを複数共感染により発現させて、複合体を形成させることができよう。また、従来の最後期プロモータと組み合わせて発現時期をずらして複合体を形成させることも有効といえよう。 本発明により、上述のバキュロウイルス転移ベクターを包含する、安定に形質転換された組換えバキュロウイルスを得ることができる。そして、この組換えバキュロウイルスは、蛋白質あるいはペプチドの発現時期を早め、かつ適切な量での蛋白質発現を可能とすることができるため、比較的凝集が少ない状態で外来蛋白質あるいはポリペプチドの生産を行うことができ、目的とする生理活性を有する外来蛋白質を容易に得ることができる。 従って、本発明の組換えバキュロウイルスは、医薬や試薬として利用される蛋白質の生産に有利に利用することができるものである。本発明で用いる、pM000001の構成を示す図面である。このものは、バキュロウイルスのpolh周辺の配列を持ち、相同組換えによりMCSに挿入した外来遺伝子をウイルスゲノム中に導入することができる。本発明組換えバキュロウイルスの構築の概要を示す図面である。組換えバキュロウイルス感染後の時間と、GFPの生産量の関係を示す図面である。pM01−DestCH、pMVPXX−DestCHおよびpMVPLR−DestCHのプロモータ周辺の構成を示す図面である。pM01、pMVPXXおよびpMVPLRの各プロモータを用いたときの、蛹でのPDE4Cの経時的発現を示す図面である。図中Aは可溶性画分についての結果を、Bは沈殿画分についての結果をそれぞれ示す。pM01、pMVPXXおよびpMVPLRの各プロモータを用いたときの、幼虫でのPDE4Cの経時的発現を示す図面である。図中Aは可溶性画分についての結果を、Bは沈殿画分についての結果をそれぞれ示す。pM01、pMVPXXおよびpMVPLRの各プロモータを用いたときの、幼虫でのSPHK1の経時的発現を示す図面である。図中Aは可溶性画分についての結果を、Bは沈殿画分についての結果をそれぞれ示す。pM01、pMVPXXおよびpMVPLRの各プロモータを用いたときの、幼虫でのASB6の経時的発現を示す図面である。図中Aは可溶性画分についての結果を、Bは沈殿画分についての結果をそれぞれ示す。PDE4Cの発現における各バキュロウイルス転移ベクターの影響を示す電気泳動写真(BCIP−NBT染色像)である。図中Aは、蛹で発現させた場合の結果を、Bは幼虫で発現させた場合の結果を示す。SPHK1の発現における各バキュロウイルス転移ベクターの影響を示す電気泳動写真(BCIP−NBT染色像)である。図中Aは、蛹で発現させた場合の結果を、Bは幼虫で発現させた場合の結果を示す。ASB6の発現における各バキュロウイルス転移ベクターの影響を示す電気泳動写真(BCIP−NBT染色像)である。図中Aは、幼虫で発現させた場合の結果を、BはBmN細胞で発現させた場合の結果を示す。BmN細胞を用いたときの各バキュロウイルス転移ベクターの影響を示す電気泳動写真(BCIP−NBT染色像)である。図中Aは、UGDHで発現させた場合の結果を、BはBCKDHAを発現させた場合の結果を示す。pM01およびpMVPLRのプロモータを用いて、抗キマーゼ抗体2Dの重鎖と軽鎖を発現させたときの、BmN培養上清および蚕幼虫体液中の活性型抗体分子の発現量を示す図面である。pM01またはpMVPLRのプロモータを用いて発現させた後、精製した抗キマーゼ抗体2Dの電気泳動結果を示す図面である。 左から右方向へ以下のb)およびc)の構成を含んでなることを特徴とするバキュロウイルス転移ベクター。 b)配列番号1に記載するバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列を少なくと も1つ以上包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域 左から右方向へ以下のa)ないしe)の構成を含んでなることを特徴とするバキュロウイルス転移ベクター。 a)バキュロウイルス非必須遺伝子部位の5’末端または3’末端フランキング配列を コードするバキュロウイルスのウイルスDNA配列 b)配列番号1に記載するバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列を少なくと も1つ以上包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域 d)所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA領域 e)バキュロウイルス非必須遺伝子部位の3’末端または5’末端フランキング配列を コードするバキュロウイルスのウイルスDNA配列 左から右方向へ以下のa’)ないしe’)の構成を含んでなることを特徴とするバキュロウイルス転移ベクター。 a’)Tn7LまたはTn7Rを含むDNA配列 b)配列番号1に記載するバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列を少なくと も1つ以上包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域 d)所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA領域 e’)Tn7RまたはTn7Lを含むDNA配列 前記c)のプロモータ領域の下流に、所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA配列を挿入し得るクローニング制限酵素切断部位を包含するDNA領域をさらに含んでなる請求項1ないし3のいずれかに記載のバキュロウイルス転移ベクター。 前記b)のエンハンサDNA領域が、配列番号2に記載するバキュロウイルスHRs共通配列と80%以上の相同性を有するDNA配列を包含するDNA領域である請求項1ないし4のいずれかに記載の組換えバキュロウイルス転移ベクター。 前記b)のエンハンサDNA領域が、バキュロウイルスHRsを包含するDNA領域である請求項1ないし4のいずれかに記載の組換えバキュロウイルス転移ベクター。 前記b)のエンハンサDNA領域が、バキュロウイルスHR3を包含するDNA領域である請求項1ないし4のいずれかに記載の組換えバキュロウイルス転移ベクター。 請求項1ないし7にいずれかの項に記載のバキュロウイルス転移ベクターにより外来遺伝子が導入されてなる組換えバキュロウイルス。 外来遺伝子が抗体遺伝子である請求項8記載の組換えバキュロウイルス。 請求項8または9に記載の組換えバキュロウイルスを感染させた鱗翅目昆虫細胞を含んでなる組換えバキュロウイルス発現系。 前記鱗翅目昆虫細胞が、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、ボンビックス・マンダリナ(Bombyx mandarina)、ヘリオシス・ビレセンス(Heliothis virescens)、ヘリオシス・ゼア(Heliothis zea)、マメストラ・ブラッシカス(Mamestra brassicas)、エスチグマン・アクレア(Estigmene acrea)もしくはトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)からなる鱗翅目昆虫の群から選択された細胞である請求項10に記載のバキュロウイルス発現系。 前記鱗翅目昆虫細胞が、ボンビックス・モリの培養細胞、幼虫または蛹のいずれかである請求項10に記載のバキュロウイルス発現系。 請求項10ないし12のいずれかに記載の組換えバキュロウイルス発現系を含んでなる組換え蛋白質および/またはポリペプチドの生産方法。 請求項10ないし12のいずれかに記載の組換えバキュロウイルス発現系を含んでなる抗体の生産方法。 【課題】発現させた蛋白質の細胞内品質管理が期待できるよう、バキュロウイルス発現系において、凝集の発生を抑制しつつ、適切な量で蛋白質を発現させる技術を提供する。【解決手段】左から右方向へ以下のb)およびc)の構成を含んでなることを特徴とするバキュロウイルス転移ベクター、これにより外来遺伝子が導入されてなる組換えバキュロウイルス、バキュロウイルス発現系およびこれらを利用する組換え蛋白質および/またはポリペプチドの生産方法からなる。b)特定の配列からなるバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列を少なくとも1つ以上包含するエンハンサDNA領域。c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域。【選択図】図3配列表


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特許公報(B2)_バキュロウイルス転移ベクター、組換えバキュロウイルス、組換えバキュロウイルス発現系およびこれらを利用する組換え蛋白質の生産方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_バキュロウイルス転移ベクター、組換えバキュロウイルス、組換えバキュロウイルス発現系およびこれらを利用する組換え蛋白質の生産方法
出願番号:2008072852
年次:2013
IPC分類:C12N 15/09,C12N 7/00,C12N 5/10,C12P 21/02


特許情報キャッシュ

石山 誠司 池田 真弘 JP 5313529 特許公報(B2) 20130712 2008072852 20080321 バキュロウイルス転移ベクター、組換えバキュロウイルス、組換えバキュロウイルス発現系およびこれらを利用する組換え蛋白質の生産方法 シスメックス株式会社 390014960 特許業務法人 小野国際特許事務所 110000590 石山 誠司 池田 真弘 JP 2007121648 20070502 20131009 C12N 15/09 20060101AFI20130919BHJP C12N 7/00 20060101ALI20130919BHJP C12N 5/10 20060101ALI20130919BHJP C12P 21/02 20060101ALI20130919BHJP JPC12N15/00 AC12N7/00C12N5/00 102C12P21/02 C C12N 15/00−15/90 C12N 7/00−7/08 C12P 21/00−21/08 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq WPI バイオテクノロジージャーナル, 2007.03, Vol.7, No.2, p.236-237 J. Virol., 1994, Vol.68, No.2, p.1075-1084 11 IPOD FERM P-18700 2008295449 20081211 27 20110302 鳥居 敬司 本発明は、バキュロウイルス転移ベクター、これを利用して得られる組換えバキュロウイルス並びにこれらを利用する組換えバキュロウイルス発現系および組換え蛋白質の生産方法に関する。 遺伝子組換え技術を用いた有用蛋白質の生産は、今日では広く用いられている技術であり、バキュロウイルス発現系は、その技術の1つである。 このバキュロウイルス発現系では、バキュロウイルス非必須遺伝子であるポリヘドリン(AcMNPV orf8;BmNPV orf1:以下、「polh」と略す)のプロモータの後に、polhに代えて外来遺伝子を挿入したコード配列を有するバキュロウイルス組換えベクターをバキュロウイルスと相同組換えすることで外来遺伝子発現ウイルスを作製する(特許文献1)。このpolhと同様に、p10(AcMNPV orf137;BmNPV orf114)遺伝子由来のプロモータも、よく用いられている。 バキュロウイルス遺伝子は、4期の異なるウイルス複製サイクルのうち1期以降のサイクル中に、経時的に調整されながら、次々に発現する(非特許文献1)。したがって、発現の過程で、異なるバキュロウイルス遺伝子は、ウイルス複製サイクルに応じて、前初期(immediate-early期)、後初期(delayed-early期)、後期(late期)、最後期(very late期)に分類し得る。 polh遺伝子およびp10遺伝子は、最後期に分類される遺伝子である。したがって、polh、p10などの最後期プロモータからの転写には、それ以前に発現される未知なる多数のウイルス生産物ならびに細胞生産物が必要になると思われる。このため、従来技術である最後期プロモータを用いる外来遺伝子の発現は、ウイルス感染が十分に進んだ後に行われることになる。また、これらの最後期プロモータは、短期間に急激な蛋白質の発現が特徴として挙げられる。 しかしながら、蛋白質を、大量にかつ急激に発現することは、凝集体の形成を引き起こすことが知られている。このため、蛋白質の発現量は多くても、活性型の目的蛋白質量が非常に低くなることが多い。このような凝集体の形成は、翻訳されたポリペプチド鎖が正しい立体構造にフォールディングする前に、中間体の段階で分子間相互作用により他のポリペプチド鎖と絡み合うことが原因として考えられており、ついには巨大な不溶性の複合体が形成されると考えられている。つまり、短期間に急激な蛋白質を発現させることは、ポリペプチド同士の接触の機会を増加させ、絡み合いを助長し、凝集体の形成を引き起こしやすい状態をもたらすと推測される。 この問題を解決するために、他の発現系では様々な手法が開発されているが(タカラバイオ コールドショックプロモータ;特許文献2など)、バキュロウイルス発現系では同様の工夫は成功していない。また、polhプロモータのような最後期発現プロモータで外来遺伝子を発現させる場合は、ウイルス感染ならびに増殖が十分に進んだ後に発現することになり、細胞が本来持っている蛋白質品質管理機能や発現能力が十分に期待できないという問題もある(非特許文献2)。 本出願人らは、従来からバキュロウイルス発現系を用いた蛋白質受託生産サービスを行っているが、この事業において、発現させた外来蛋白質の凝集が顕著な試料からこれに含まれる可溶性外来蛋白質を精製した場合、安定性が悪く、凝集してしまう事例を数多く経験している。しかし一方、凝集の少ない試料から精製した場合は、精製物の安定性が比較的良いことも経験しており、凝集の多寡と細胞内で産生される蛋白質の品質の間には何らかの関係があることが分かった。 これらの問題を解決するために、バキュロウイルス前初期遺伝子ie−1(AcMNPV orf147;BmNPV orf123)のプロモータや、バキュロウイルス後初期遺伝子39k(AcMNPV orf36;BmNPV orf27)のプロモータを用いることも検討されてきたが、バキュロウイルス発現系に用いた場合、発現量は十分ではなかった。 また、39kプロモータの上流に、前初期および後初期プロモータに対するエンハンサとして知られるバキュロウイルス・ホモロガス・DNA・リージョン(Homologous DNA Region;以下、「HRs」と略す)を配置することで発現量が増大することが知られているが(非特許文献3)、これは主として細胞での形質転換で用いられる。このHRsはエンハンサ機能を持ち、EcoRI認識配列を中心としたパリンドロームが保存されていて(非特許文献4)、この領域にie−1遺伝子産物が結合すると考えられている。また、保存パリンドロームだけでも発現量が増大し、HR5(6回反復)では更に顕著であることが知られている(非特許文献5)。 更に、バキュロウイルス後期遺伝子vp39(AcMNPV orf89;BmNPV orf72)のプロモータを用いた例(pAcJP1、現在は市販されていない)もあり、発現量は十分であるものの、polhプロモータには劣るため、現在では使用されなくなった。 更にまた、これを改善するためpolhプロモータとの雑種プロモータも開発されたが(非特許文献6)、依然として細胞内品質管理の問題は解決されていない。上記vp39と同様に後期遺伝子でありながら初期にもわずかに発現するgp64(AcMNPV orf128;BmNPV orf105)も用いられることがあるが、発現量は少なく、HRsで発現量が増加することが知られているが(非特許文献7)、十分ではなかった。 以上のような技術的背景から、凝集を抑制しながらも十分な量の蛋白質を発現するバキュロウイルス発現ベクターが求められていた。米国特許第4,745,051号特開2006−340729特開2003−52371P.D.Friesen及びL.K.Miller著、Curr.Top.Microbiol.Immunol., 131:31 49(1986)X.Du, S.M.Thiem(1997) J.Virol.71:7866-7872L.A.Guarino, M.D.Summers,J.Virol.,60:215-223(1986b)L.A.Guarino、M.A.Gonzalez, M.D.Summers,J.Virol.,60:224- 229(1986)V.Olson, J.Wetter, P.Friesen, J.Virol.,77:5668-5677(2003)Thiem et al., Gene 91(1):p87(1990)ZHOU et al., Acta Biochimica et biophysica sinica 2003, 35(1):p18 従って、本発明の課題は、目的蛋白質を活性型で得られるように、バキュロウイルス発現系において、凝集の発生を抑制しつつ、適切な量で蛋白質を発現させる技術を提供することである。 本発明者らは、まず発現時期が前初期、後期および後初期と後期を併せ持つ遺伝子として代表的なie−1、vp39およびgp64遺伝子のプロモータ領域を含む開始コドン上流350bpを用いて、バキュロウイルス発現系におけるグリーン・フロロレッセント・プロテイン(以下、「GFP」という)の発現を、BmN細胞を用いて経時的に調査した。この結果、vp39プロモータでは、ほぼpolhプロモータと同等の蛍光が確認されたものの後期で急激に発現しており、ie−1やgp64ではこれまで知られていた通り、polhプロモータと比べてわずかな蛍光しか確認できなかった。 そこで発現量を増加させる目的で、エンハンサとして知られるHRsのうちHR3と、各プロモータ領域、それらの距離、さらに翻訳促進配列として知られているpolh5’UTRの組合せを検討し、同様にGFPの経時的発現を調査したところ、ie−1およびgp64では若干の増加が見られたにとどまった。これに対し、HRs保存バリンドローム配列であるHR3と、vp39の組合せでは、発現量はそれほど変化しないものの、蛋白質の発現時期が早くなり、しかも凝集が抑制されることを見出し、本発明を完成した。 すなわち本発明は、左から右方向へ以下のb)およびc)の構成を含んでなることを特徴とするバキュロウイルス転移ベクターである。 b)配列番号1に記載するバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列を少なくと も1つ以上包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域 また本発明は、上記バキュロウイルス転移ベクターにより外来遺伝子が導入されてなる組換えバキュロウイルスである。 更に本発明は、前記の組換えバキュロウイルスを感染させた鱗翅目昆虫細胞を含んでなる組換えバキュロウイルス発現系である。 また更に本発明は、上記の組換えバキュロウイルス発現系を含んでなる組換え蛋白質および/またはポリペプチドの生産方法である。 本発明によれば、蛋白質あるいはペプチドの発現時期を早め、かつ適切な量での蛋白質発現を可能とすることができるため、比較的凝集が少ない状態で外来蛋白質あるいはポリペプチドの生産を行うことができる。 本発明の組換えバキュロウイルスを構築するには、まず、バキュロウイルス移転ベクターを構築することが必要である。このバキュロウイルス転移ベクターは、左から右方向へ以下のb)およびc)、 b)配列番号1に記載するバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列(TTTACNNGTAGAATTCTACNNGTAAA:ここでNはA、C、GまたはTを示す)を少なくとも1つ以上包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域の2つのDNA領域を含むものであり、次の方法によって得ることができる。なお、本願明細書において、左から右方向とは、バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域から転写が進行する方向である。また、上記エンハンサDNA領域に包含されるバキュロウイルスHRs保存パリンドローム配列は逆向になっていてもよい。 上記バキュロウイルス移転ベクターは、常法に従い、バキュロウイルスゲノムDNAを鋳型としてPCR等の手段により配列番号1に記載するHRs保存パリンドローム配列を少なくとも1つ以上包含するエンハンサDNA領域をクローニングし、次いで同様にvp39プロモータを含む領域をクローニングすることにより構築することができる。上記した保存パリンドローム配列を少なくとも1つ以上包含するエンハンサDNA領域としては、例えば、バキュロウイルスHRs共通配列(CTAAACTCGCTTTACGAGTAGAATTCTACTTGTAAAACACAATCAAG:配列番号2)と80%以上、好ましくは90%以上の相同性を有するDNA配列を包含するDNA領域、バキュロウイルスHRs共通配列を包含するDNA領域、バキュロウイルスHR3(配列番号29)を包含するDNA領域等が挙げられる。具体的なバキュロウイルスHRs共通配列と上記相同性を有するDNA配列を包含するDNA領域およびバキュロウイルスHRs共通配列を包含するDNA領域としては、前記DNA配列およびHRs共通配列そのものもしくはこれら配列とその両端100bpを含む配列またはこれらの配列を複数回繰り返した配列等が挙げられる。また、バキュロウイルスHR3を包含するDNA領域としては、バキュロウイルスHR3そのものまたはバキュロウイルスHR3とその下流約700bpからなるHR3Long断片(配列番号30)等が挙げられ、これらの中でも特にHR3Long断片が好ましい。 一方、バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域としては、バキュロウイルスvp39遺伝子開始コドン上流56〜60bp及び、104〜108bpに存在するバキュロウイルス後期プロモータモチーフ(DTAAG:ここでDはA、TまたはGを示す)を包含するもの等が挙げられる。具体的なバキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域としては、バキュロウイルスvp39遺伝子開始コドン上流−1〜−110bp、好ましくは−1〜−350bpからなるvp39pro(配列番号31)が好ましい。 本発明の組換えバキュロウイルスにおいては、上記配列c)の下流側には、所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA配列を挿入し得るクローニング制限酵素切断部位を包含するDNA領域を挿入することが望ましい。 上記所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA配列を挿入し得るクローニング制限酵素切断部位を包含するDNA領域としては、所望の外来遺伝子の挿入を適切な方向で行いうるマルチクローニングカセットが挙げられる。このマルチクローニングカセットの配列は数種の企業から入手可能であり(タカラバイオ、東洋紡など)、またはDNA合成装置を用いて合成することも可能である。いずれの方法も日常的に用いられており、また、これらマルチクローニングカセット単位の使用についても、当該技術分野において既知のものである。 また、このマルチクローニングカセットの下流側には、polyAシグナル好ましくはpolh遺伝子由来のpolyAシグナルを含む3’末端領域が続くことが望ましい。このpolyAシグナルも、市販されているベクター中から入手することができ、また合成することも可能である。 上記バキュロウイルス移転ベクターの好ましい1態様としては、次のものを挙げることができる。すなわち、エンハンサ側の上流側に、次のDNA配列a) a)バキュロウイルス非必須遺伝子部位の5’末端フランキング配列をコードするバキ ュロウイルスのウイルスDNA配列を結合し、プロモーター側の下流側には、更に次の配列e) e)バキュロウイルス非必須遺伝子部位の3’末端フランキング配列をコードするバキ ュロウイルスのウイルスDNA配列を結合すればよい。 上記配列a)およびe)のバキュロウイルス非必須遺伝子部位の好適な例としては、polhを挙げることができる。すなわち、polh遺伝子領域を相同組換えにより置き換えることができるようなバキュロウイルスDNAが入手しやすいことによる。このようなバキュロウイルスDNAとしては、例えば、カイコ生体や、カイコより樹立された培養細胞(BmN、BoMoなど)に感染するBmNPVに由来するBmNPV DNA,1 Cut(日本農産工業)等、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)やトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)などの生体並びにそれらから樹立された昆虫培養細胞(Sf−9、Sf−21、Tn−5、Tn−368など)に感染するAcMNPVに由来するBacVector−1000 Triple Cut DNA(ノバジェン)、BacVector−2000 Triple Cut DNA(ノバジェン)等、BmNPV及びAcMNPVの双方の宿主に感染するABvバキュロウイルス(片倉工業:特許文献3)があげられる。 なお、上記配列a)およびe)の5’末端フランキング配列と、3’末端フランキング配列は、これを入れ替えることができる。すなわち、転移ベクター中には、相同組換えが上手くいくように、5’末端フランキング配列と、3’末端フランキング配列が存在すればよく、その中間に挟み込まれる配列b)、c)等で構成される配列が逆向きになっていてもよい。具体的な、a)およびe)の5’末端フランキング配列と、3’末端フランキング配列としては、polh上流の必須遺伝子lef−2の終始コドンを含んでさらに上流500bp〜5kbp、好ましくは2〜3kbpを含む配列と、polh下流の必須遺伝子orf1629の終始コドンを含んでさらに下流(lef−2とは逆向きなので、orf1629のCDSの方向)500bp〜5kbp、好ましくは2〜3kbpを含む配列の組み合わせ等が挙げられる。なお、前記配列には更に、それぞれの遺伝子のpolyAシグナルを含む領域(終始コドン以降30〜70bp)をも含んでいることが好ましい。 また、上記配列a)およびe)のバキュロウイルス非必須遺伝子部位の別の好適な例としては、上記フランキング領域に換えてTn7RおよびTn7Lを挿入したバキュロウイルス転移ベクターを挙げることができる。このようなベクターは、Bac−to−Bacシステム(インビトロジェン)に用いることにより組換えバキュロウイルスを得ることができる。このバキュロウイルス転移ベクターにおいてもTn7RおよびTn7Lは入れ替えても良い。 上記バキュロウイルス転移ベクターの、配列c)の下流側に、配列d)として所望の蛋白質あるいはポリペプチド(以下、合わせて「蛋白質」という)をコードする外来遺伝子・外来DNAのDNA領域を組み込むことができる。この蛋白質を発現させる外来遺伝子・外来DNAには、ウイルス由来の遺伝子・DNAを含む原核生物由来遺伝子・DNAおよび、真核生物由来遺伝子・DNAが含まれる。好ましい遺伝子・DNAとしては、例えば、抗体遺伝子等が挙げられる。なお、前記ベクター中にクローニング制限酵素切断部位が組み込まれている場合には、それを利用してコードする外来遺伝子・外来DNAのDNA領域を組み込むことができる。このようにしたウイルス転移ベクターをウイルスDNAと相同組換えし、得られた組換えバキュロウイルスを宿主細胞に感染させることによって当該細胞内で所望の蛋白質を発現させることが可能となる。また、蛋白質として抗体を発現させる際には、抗体遺伝子全体を用いて、前記方法により宿主細胞に感染させ、当該細胞内で抗体を発現させるだけでなく、抗体の軽鎖遺伝子と重鎖遺伝子とを別々のバキュロウイルスに組み込み、それらを宿主細胞に混合感染させ、当該細胞内で抗体を発現させることも可能である。 上記バキュロウイルス転移ベクターの最適実施態様としてはpMVPLR(配列番号32)が挙げられ、このものは左から右方向へ以下の構成を有する。 1)バキュロウイルスBmNPV(T3株)由来のDNA配列で、bro−e、orf 133、orf134、lef−2遺伝子を包含する領域(5582〜7692番 目) 2)バキュロウイルスBmNPV(T3株)由来のDNA配列で、タンパクをコード していない、ポリヘドリン遺伝子上流のDNA配列(7625〜7692番目) 3)バキュロウイルスBmNPV(T3株)由来のDNA配列で、HR3(7698〜 8733番目)を包含するDNA領域(HR3Long断片:7698〜9394 番目) 4)バキュロウイルスBmNPV(T3株)のvp39遺伝子のプロモータ領域を含む DNA領域(vp39pro:9442〜9791番目) 5)バキュロウイルスBmNPV(T3株)由来のDNA配列で、ポリヘドリン遺伝 子停止コドン下流から、orf1629、PK1、orf4遺伝子を包含する領域 (98〜2885番目) ウイルス転移ベクターとウイルスDNAとの相同組換えにおいては、組換え効率を高めるために上記バキュロウイルスDNAは線状化されたものを用いることが望ましい。このために用いる、バキュロウイルスDNAを消化ないし切断のための制限酵素としては、Eco81Iを挙げることができ、一つのバキュロウイルスDNA中での消化、切断個所は1ないし3箇所とすることが望ましい。 更に、本発明の組換えバキュロウイルスにより、蛋白質を産生させるための宿主としては、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、ボンビックス・マンダリナ(Bombyx mandarina)、ヘリオシス・ビレセンス(Heliothis virescens)、ヘリオシス・ゼア(Heliothis zea)、マメストラ・ブラッシカス(Mamestra brassicas)、エスチグマン・アクレア(Estigmene acrea)もしくはトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)を含む鱗翅目昆虫細胞を挙げることができ、培養細胞であっても、幼虫、蛹等の生体であっても良い。 なお、組換えバキュロウイルスを感染させた宿主細胞の培養時間は産生させる蛋白質の種類等により相違するが、一般には、培養細胞の場合には2から5日程度、幼虫または蛹の場合には5から7日程度である。 本発明の最適実施態様としては、ABvバキュロウイルスを元に構築され、所望の外来遺伝子を組み込んだ組換えABvバキュロウイルスを用い、これを、カイコ培養細胞あるいは幼虫、蛹に感染させ、所望の外来遺伝子を発現させる方法を挙げることができる。 上記最適実施態様において、特に外来遺伝子として抗体遺伝子を発現させた場合には、従来のプロモーターを用いて発現させた場合よりも、発現量の増加、会合体の形性の抑制等の優れた効果が得られる。 以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制約されるものではない。本明細書に記載の内容を元に、本発明の構成および実施に関する様々な修正および変更が可能であることは当業者らによって容易に理解でき、これらは本発明の趣旨およびその範囲内にある。なお、以下の実施例において用いた開始材料および方法は、次の通りである。 (プロモータの取得) BmNPV−T3株(Accession No. NC_001962)のゲノムDNAを鋳型DNAとして、HR3とvp39プロモータならびに比較検討に用いるie−1、gp64プロモータをPCRによって取得した。 (線状化バキュロウイルスDNAの取得) 組換えウイルス製造のための線状化バキュロウイルスDNAは、ABvバキュロウイルス(片倉工業;特開2003−52371)のものを用いた。より具体的には10分程度氷水などで低温麻酔した5令1日目のカイコ幼虫を行い、1×106個/100μlの濃度のABvバキュロウイルス液をG−26などの注射針の付いた注射器を用いて皮下注射する。その後、カイコ3令用人工飼料(モーラス:片倉工業)を用いて、25℃、湿度45%で7日間飼育を行うことにより、バキュロウイルス粒子を増殖させ、幼虫の体液あるいは虫体磨砕液よりバキュロウイルス粒子を得た。 得られたバキュロウイルス粒子を、プロテイナーゼK消化とフェノール抽出に付し、ゲノムDNAを精製した。さらにこれに制限酵素を作用させて、消化、切断し、線状化バキュロウイルスDNAを得た。例えば、ABvバキュロウイルスゲノムDNAの消化、切断の場合、バキュロウイルス DNA200μgに対して、制限酵素Eco81Iを30units用い、37℃で20時間の処理条件で反応させることにより行われる。 (一般的手法) なお、本明細書に記載の操作のうち、プラスミド調製、制限酵素消化などの基本的な操作については、”Molecular Cloning : A Laboratory Manual 3rd ed.”(2001年、Cold Spring Harbor Laboratory発行)に記載の方法によった。プラスミドの構築に使用した制限酵素および他の酵素は、タカラバイオ、東洋紡のいずれかから入手した。 また、プラスミドの構築は、特に記載が無い限りライゲーションはベクターを5fmol、インサートを15fmolとし、同量(5〜10μL)のライゲーションキット(タカラバイオ)のソリューションI液を加え、16℃で、1時間反応した。反応液を全て使用し、大腸菌DH5αを形質転換し、アンピシリンを含むLB培地上で選択した。クローンを選抜後、プラスミドを精製した。この精製物を BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオシステムズ)を用い、下記の条件でシークエンス反応を行い、DNA Sequencer 3100−avant(アプライドバイオシステムズ)にて解析した。 <シークエンス反応> 1.96.0℃ 1分 2.96.0℃ 10秒 3.50.0℃ 5秒 4.60.0℃ 4分 5.2〜4を25回繰り返し PCRは、特に記載がない限りKOD−Plus(東洋紡)を用い、下記の条件でDNA−Engine(バイオラッド)により反応を行った後、QIAquick PCR Purification kit(キアゲン)により精製した。 <PCR反応> 1.94.0℃ 2分 2.94.0℃ 15秒 3.50.0℃ 30秒 4.68.0℃ 1kbpにつき1分 5.2〜4を30回繰り返し 組換えバキュロウイルスの作製は、線状化ABvバキュロウイルスDNAと外来遺伝子導入バキュロウイルス転移ベクターのコ・トランスフェクションにより行った。すなわち、まず、35mm細胞培養用ディッシュを用いて、BmN細胞を約1×106個の単層に、静置培養で準備した。線状化ABvバキュロウイルスDNA(片倉工業)0.2μgと、外来遺伝子導入バキュロウイルス転移ベクター0.5μgを1.5mlチューブ中で100μlのTC−100(無血清)に混合し、室温で15分間静置した。TC−100(無血清)100μlにカチオン性脂質試薬(Lipofectin; インビトロジェン)を4μl混合し、室温で15分間静置した。次に2つの溶液を混合し、さらに室温で15分間静置した後に800μlのTC−100(無血清)を加えた。この混合液を35mmの細胞培養用ディッシュで単層に準備したBmN細胞に加え、25℃で16時間培養後に混合液を除去し、新たなTC−100(10%FBSを含む)を2ml添加して、25℃で7日間静置培養した。その培養上清を組換えウイルス原液とした。 組換えウイルス原液からの外来遺伝子組換えABvバキュロウイルスの単離は、”A Laboratry Guide”(L.A. KING and R.D.POSSE (1992))の方法で行った。すなわち、BmN細胞を1穴当たり1.5×103個/50μl TC−100(10%FBS)で培養した96穴プレートを準備した。組換えウイルス原液をTC−100(10%FBS)を用いて10−3、10−4、10−5、10−6、10−7、10−8と6段階に希釈したウイルス希釈液を、各プレートの1穴当たり50μlずつ混合し感染させた。これらのプレートは乾燥防止のためシールして25℃で静置培養した。組換えウイルスの選抜は、感染7日目に、光学顕微鏡下で多角体の形成がないことを確認することによって行った。実 施 例 1 GFPによる経時的発現量の調査(1)比較用バキュロウイルス転移ベクター調製用プラスミド(pMProXX)の 構築: 本発明のバキュロウイルス転移ベクターを構築する開始材料としてはpM000001(片倉工業、図1参照、以下、「pM01」と略す)を用いた。また、従来のバキュロウイルス発現系、すなわち陽性対照区としてもこのベクターを用いた。これはpolhプロモータを含むため、次の方法によりこれを除き、さらに構築に有用な複数の制限酵素認識部位を導入した。 すなわち、pM01を鋳型とし、プライマー1(5'-aacaatgtaccgcgcggcgg-3')及びプライマー2(5'-agatcttaagctagcaagcatatggccatggtatttccatttgtatcgttaataaaaaac-3')を用いて、PCRを行い、DNA断片を取得した。このDNA断片を制限酵素BstXIおよびBglIIで消化した。一方、pM01をBstXIおよびBglIIで消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。DNA断片と線状化したpM01をライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3’)のプライマーを用いて塩基配列確認を行ってpMProXXを選抜した。以下につづく(2)から(5)までのプラスミド構築の概略を図2に示す。(2)HR3の取得及びベクターへの組込み BmNPV−T3株(Accession No. NC_001962)のウイルスゲノムDNAを鋳型として、プライマー3(5'-ccatggaatattagacaacaaagatttattttattcatg-3')及びプライマー4(5'-aatattacgtccctgccagaa-3')を用いて、PCR断片(以下、「HR3Long断片」という)を取得した。このHR3Long断片を、Ex−TaqとdATPによって末端にアデニンを1つ突出させて、pT7−Blue T−Vector(タカラバイオ)とライゲーションして、大腸菌を形質転換した。 この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてM13.rev(5'-tcacacaggaaacagctatg-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。この時、HR3Longは5’→3’向き(HR3LR/pT7)と3’→5’向き(HR3LL/pT7)の2種類を取得した。 上記HR3LR/pT7を、制限酵素NcoIおよびNheIを用いて消化し、HR3Long断片を切り出した。一方、上記(1)で作製したpMProXXを、制限酵素NcoIおよびNheIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。HR3Long断片と線状化したpMProXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMProLR)をプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。 また同様に、上記HR3LL/pT7を制限酵素NcoIおよびBamHIを用いて消化した。これをDNAブランティングキット(タカラバイオ)により切断面を平滑末端化し、HR3Long断片を切り出した。一方、(1)で作製したpMProXXを、制限酵素NcoIおよびNdeIを用いて消化した。これを同様に平滑末端化し、切断面を脱リン酸化した。HR3Long断片と線状化したpMProXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMProLL)をプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。 上記HR3LR/pT7を制限酵素NcoIおよびNdeIを用いて消化し、DNA断片を切り出し、バキュロウイルスHR3(以下、「HR3Short断片」という)を得た。一方、(1)で作製したpMProXXを制限酵素NcoIおよびNdeIを用いて消化し、切断面を脱リン酸化した。HR3Short断片と線状化したpMProXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMProSR)をプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。 また同様に、HR3LL/pT7を、制限酵素NcoIを用いて消化し、DNAブランティングキット(タカラバイオ)により切断面を平滑末端化し、更に制限酵素NdeIを用いて消化した。一方、(1)で作製したpMProXXを制限酵素NheIを用いて消化し、DNAブランティングキットにより切断面を平滑末端化し、更に制限酵素NdeIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。HR3 Short断片と線状化したpMProXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMProSL)をプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。(3)発現時期が異なるバキュロウイルス由来プロモータの取得及びベクターへ の組込み BmNPV−T3株(Accession No. NC_001962)のウイルスゲノムDNAを鋳型とし、プライマー5(5'-gctagcatcccaacggcgcagtg-3')及びプライマー6(5'-agatcttaagagtcgtttggttgttcacgat-3')を用いて、PCRを行い、ie−1プロモータ断片(ie−1開始コドン上流350bp)を取得した。同様に、プライマー7(5'-gctagcttggtaaacgtacactttaattattttac-3')及びプライマー8(5'-agatcttaagattgttgccgttataaatatggac-3')を用いてPCRを行い、vp39プロモータ断片を取得した。また、プライマー9(5'-gctagctttaaataaaccaaacacatgaatataatttt-3')及びプライマー10(5'-agatcttaagtgaggcatcttatatacccg-3')を用いてPCRを行い、gp64プロモータ断片を取得した。この3種類のプロモータ断片をEx−TaqとdATPによって末端にアデニンを1つ突出させて、pT7−Blue T−Vector(タカラバイオ)とそれぞれライゲーションして、大腸菌を形質転換した。 これら形質転換体のクローン(IE/pT7,VP/pT7,GP/pT7)をプラスミド精製、そしてM13.rev(5'-tcacacaggaaacagctatg-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。これらのプラスミドを制限酵素NheIおよびBglIIで消化し、それぞれのプロモータ断片(IE,VP,GP)を切り出した。 polhプロモータ断片(PH)は、コア配列のみを合成した。すなわち50mM−NaCl中に、1μM合成DNA1(5'-CTAGCaaataataaccatctcgcaaataaataCTTAA-3')及び1μM合成DNA2(5'-GATCTTAAGtatttatttgcgagatggttattatttG-3')を混合し、熱変性後、徐冷して2本鎖DNAを形成させた。さらに、T4ポリヌクレオチドキナーゼにより5’末端をリン酸化した。 一方、上記(1)で作製したpMProXXおよび(2)で作製した4種類のプラスミド(pMProLR,pMProLL,pMProSR,pMProLL)を、制限酵素NheIおよびBglIIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。上記4種類のプロモータ断片(IE,VP,GP,PH)と計5種類の線状化したプラスミドを計20種類の組合せでライゲーションして、大腸菌を形質転換した。 この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。(4)Polh遺伝子5’UTRの取得及びベクターへの組込み pM01(片倉工業)を鋳型として、プライマー11(5'-cttaagaagtattttactgttttcgtaacagtt-3')及びプライマー12(5'-atagtccagccatcggtttg-3')を用いてPCRを行い、polh遺伝子5’UTR断片を取得した。この5’UTR断片を、Ex−TaqとdATPによって末端にアデニンを1つ突出させ、pT7−Blue T−Vectorとライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(5UTR/pT7)をプラスミド精製、そしてM13.rev(5'-tcacacaggaaacagctatg-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。 上記5UTR/pT7に制限酵素AflIIおよびSnaBIを用いて消化し、polh遺伝子5’UTR断片を切り出した。一方、(3)で作製した20種類のプラスミドに制限酵素AflIIおよびSnaBIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。5’UTR断片と20種類の線状化したプラスミドをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。これらのプラスミドの構築に用いたバキュロウイルス転移ベクター名、利用プロモータおよびエンハンサ、挿入方向等を表1に示す。(5)オワンクラゲ緑色蛍光蛋白質遺伝子を挿入したバキュロウイルス転移ベクターの 構築 オワンクラゲ緑色蛍光蛋白質(野生型のもの、以下、「GFP」と表記する)遺伝子(Accession No. M62653)を、制限酵素BglIIおよびXbaIを用いて消化し、GFP遺伝子断片を切り出した。一方、(3)および(4)で作製した40種類のプラスミドならびに陽性対照区としてpM01(片倉工業)を、制限酵素BglIIおよびXbaIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。GFP遺伝子断片と計41種類の線状化したプラスミドをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製し、pM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。(6)プロモータおよびHRs組換えバキュロウイルスの作製 上記(5)で得られた41種類のGFP導入バキュロウイルス転移ベクターおよび陰性対照区としてGFPを導入していないpM01(片倉工業)をABvバキュロウイルスとのコ・トランスフェクションを行うことにより、組換えウイルス原液を得た。 上記で得た各ウイルス原液よりそれぞれGFP組換えABvバキュロウイルスの単離を”A Laboratry Guide”(L. A. KING and R. D. POSSE A Laboratry Guide (1992))の方法で行った。すなわち、BmN細胞を1穴当たり1.5×103個/50μl TC−100(10%FBS)で培養した96穴プレートを準備した。組換えウイルス原液を、TC−100(10%FBS)を用いて10−3、10−4、10−5、10−6、10−7、10−8と6段階に希釈して調製したウイルス希釈液を、各プレートの1穴当たり50μlずつ混合し感染させた。これらのプレートは乾燥防止のためシールして25℃で静置培養した。組換えウイルスの選抜は、感染7日目に、光学顕微鏡下で多角体の形成がないことを確認することによって行った。陰性対照区以外はさらにGFP蛋白質による蛍光が見られる組換えウイルスを選抜し、クローン化した。このとき2種類(pVPXX5,pGPLL5)については組換えウイルスを得ることができなかった。(7)GFP蛍光測定による各プロモータおよびHR3ならびにpolh5’UTR の影響の解析 BmN細胞を1穴当たり1.5×103個/50μl TC−100(10%FBS)で培養した96穴プレートを準備した。上記(6)で得た40種類のGFP遺伝子発現ウイルスをm.o.i.=5で感染させた。感染後、2時間ごとにGFPの蛍光を、励起波長398nm、カットオフ455nm、測定波長509nmの条件で経時的に測定を行った。 得られた蛍光強度(RFU)のデータから陰性対照区のRFUを差し引き、それぞれの組換えウイルスのGFP発現カーブを、”Clin.Chem.”,23,112.(Rodbard, D. and McClean, S.W. (1977))の方法に準じてロジット(logit)変換を用いて以下の4係数ロジスティック曲線に回帰した。 4係数ロジスティック曲線は、酵素免疫法(ELISA)の検量線や生物の成長曲線、蛋白質の経時的発現曲線などに現れるS字型カーブを表すのに用いられる。上記で得られたデータは次式のように回帰した。このとき、A=0とした場合、Dは最大発現量(RFU)を表し、CはS字の変曲点に当たる時間(h)を、BはS字の曲率を表す。 なお用いられた回帰式は、次のものである。 この結果、ie−1およびgp64両遺伝子のプロモータおよびpolhコア配列のみでは、最大発現量すなわち係数Dが、HR3等の付加の有無に関わらず、従来の技術すなわちpM01の10%にも満たないことが分かった。よって、これらのプロモータを単独またはHR3等との組合せで用いた場合、蛋白質生産の手段としては非効率的であると判断した。一方、vp39プロモータを用いた場合は比較的高い発現量が認められたので、更に詳細に調査した。 上記4係数ロジスティック回帰曲線の式を以下のように変形し、10%および90%発現時間を算出した。10%発現時間の早い順に、ベクターの構成と併せて下記の表2に示す。 HR3エンハンサを挿入した場合、すべてのもので10%発現時間がvp39プロモータ単独(上記pMVPXX)と比較して早くなっていた。また、polh 5’UTRは発現時期には殆ど影響しないことがわかった。よって、HR3の効果は発現時期を早めるものであることが示唆された。特にpMVPLRで発現時期が早いことが示された。直感的に理解しやすいよう、vp39プロモータ単独(上記pMVPXX)および従来のpolhプロモータ(上記pM01)と併せて測定データおよびそれらの回帰曲線を図3にグラフ化した。 以降の実施例では、これら3種類のバキュロウイルス転移ベクターをGatewayデスティネーションベクター化したものでの発現比較を行った。すなわち、従来技術(polhプロモータ)としての対照区はpM01、バキュロウイルスHR3の効果を検証するための対照区はpMVPXX、本発明のベクターの例はpMVPLRをベースとしたものである。実 施 例 2 蚕及び蛹での経時的発現量の調査(1)pM01、pMVPXX、pMVPLRのC末端6xHisタグ付加デスティ ネーションベクター化 pM0CHT15(片倉工業:pM01のC末端6xHisタグ融合蛋白質発現用ベクター)を、制限酵素EcoRIを用いて消化し、DNAブランティングキット(タカラバイオ)により切断面を平滑末端化した。これを制限酵素EcoRVによって消化した後、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。 25ngの、ゲートウエイ・リーディング・フレーム・カセットB(Gateway reading frame cassette B;インビトロジェン、以下、「RfB」と略す)と50ngの線状化したプラスミドをライゲーションし、反応液を5倍に希釈し、その1μLを用いて大腸菌DB3.1(インビトロジェン)を形質転換した。このクロラムフェニコール耐性形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜し、pM01−DestCHとした。 pM01−DestCHを、制限酵素KpnIとSnaBIを用いて消化し、RfB断片とそれに続く6xHisタグ付加配列を切り出した。一方、上記pMVPXXおよびpMVPLRを、制限酵素KpnIとSnaBIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。上記6xHisタグ付加RfB断片と線状化したプラスミドをライゲーションして、大腸菌DB3.1(インビトロジェン)を形質転換した。このクロラムフェニコール耐性形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5'-caacgcacagaatctaacgc-3')のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜し、それぞれpMVPXX−DestCH、pMVPLR−DestCHとした。これらのプロモータ周辺の差異を図4に簡単に示す。(2)PDE4C(phosphodiesterase 4C)遺伝子を挿入した各バキュロウイルス転移 ベクターの構築 PDE4C遺伝子を含むエントリークローンベクター(JBIC成果コンソIからGatewayエントリークローンを入手:No.FLJ38065AAAF)を、pM01−DestCH、pMVPXX−DestCH、pMVPLR−DestCHの各デスティネーションベクターと、それぞれ製造業者のマニュアルに従いGateway LRクロネース(インビトロジェン)によってLRクロネース反応した。反応溶液すべてを用いて80μLの大腸菌DH5αを形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてpM.rev(5’-caacgcacagaatctaacgc-3’)のプライマーを用いて塩基配列確認を行って選抜した。また、プラスミドの名前をこれまでと比較しやすいよう、下記の通りに読み替えた。この読み替えは、後に続く実施例でも同様とする。(3)PDE4C遺伝子組換えバキュロウイルスの作製 コ・トランスフェクションにより、上記3種類のベクターをABvバキュロウイルスと組み換えた。次に、ウイルス感染細胞を回収し、抗His抗体を用いて、ウエスタンブロッティング解析により、His融合蛋白質の発現が見られ、且つウイルスゲノム中にPDE4C遺伝子がそれぞれ導入されている組換えウイルスを選抜し、クローン化した。(4)蚕及び蛹での経時的回収及び解析 上記で得たクローン化済みウイルス液を用いて、それぞれ9種類のウイルスを5令1日目のカイコ幼虫および蛹化1日後の蛹に接種し、ウイルス感染後64、72、88、96、112、120、136、144時間ごとに2頭ずつ経時的に回収し、−80℃のフリーザーで凍結した。 回収したカイコおよび蛹に、Tris緩衝生理食塩水(TBS)を総量30mLになるように加え、プロテアーゼインヒビターカクテルComplete(ロシュ)1錠と共に、ホモジナイザー(日立)および超音波破砕機(ビブラセル)をこの順に用い、磨砕した。この磨砕液を低速遠心機(日立)により3,000rpm、4℃の条件で10分間遠心し、この上清をガーゼで濾過した。この濾過液をTBSで2倍希釈し、1mLを超遠心機optima MAX(ベックマン)、ローターTLA−100.3により45,000rpm、4℃の条件で1時間遠心し、上清と沈殿に分けた。この沈殿に1mLのTBSを加え、超音波破砕機(BRASON)で完全に再懸濁した。 上記によって得た磨砕サンプルを、SDS−PAGE(アトー)で分離後、ブロッティング装置(アトー)により蛋白質をゲルからPVDF膜(Pall)に転写した。転写後、蛋白質の吸着したPVDF膜を、1%スキムミルク(和光純薬工業)を含むT−TBS(0.1%Tween20を含むTBS)によりブロックキング処理後、一次抗体として2,000倍希釈した抗Hisウサギ抗体G−18(サンタクルズ)、二次抗体として20,000倍希釈した抗ウサギIgGヤギ抗体ALP標識(ナカライテスク)を用いたウェスタンブロット解析を行った。シグナルの検出は、BCIP−NBT試薬(ナカライテスク)による発色で行った。 各回収時間での超遠心上清および沈殿のバンドについてImageJ(NIH)によりデンシトメトリーを行って光学密度を求めた。蛹での発現については図5に、幼虫での発現については図6に、それぞれ発現時間とデンシトメトリー結果の関係で示した。 この結果、各バキュロウイルス転移ベクターでの最適な回収時期は感染後138〜144時間であることが示された。図5および6から、従来技術であるpolhプロモータを用いた場合(pM01)は、顕著に凝集物が多いことが示された。また、幼虫での発現の場合(図6)vp39プロモータ単独で用いたとき(pMVPXX)発現がわずかであった。これは幼虫に特有の現象であるか、外来蛋白質によるものであるかを確認するため、別の外来遺伝子について同様の調査をおこなった。実 施 例 3 SPHK1(sphingosine kinase 1)およびASB6(ankyrin repeat and SOCS box-containing 6)の幼虫での経時的発現結果の解析 SPHK1およびASB6(JBIC 成果コンソI クローン No.FLJ12340AAAFおよびNo.FLJ12942AAAF)について、実施例2と同様に組換えウイルス作製、発現、サンプル回収、可溶性不溶性分離、解析を行った。 この結果、SPHK1を発現させた場合(図7)は、本発明のpMVPLRでは可溶性発現量が従来と比較して顕著に多く、実施例2より良い結果を得たが、pMVPXXについては同様の結果となった。 一方、ASB6を発現させた場合(図8)では、ウイルス感染後138時間でpMVPXXがもっとも良い結果を示した。よって、実施例2(図6)および図7での幼虫でのpMVPXXの発現低下は外来蛋白質の種類に依存するものであると考えられた。実 施 例 4 各バキュロウイルス転移ベクターの可溶性割合(1)BmN細胞での発現量の調査 UGDH(UDP-glucose dehydrogenase、JBIC 成果コンソI クローン No.FLJ40611AAAF)およびBCKDHA(branched chain keto acid dehydrogenase E1, alpha polypeptide、JBIC 成果コンソI クローン No.FLJ45695AAAF)について実施例2と同様に組換えウイルス作製を行った。これまで作製した各組換えウイルス(SPHK1,ASB6)と併せ、計12種類の組換えウイルスを用いて、BmN細胞での発現を行った。すなわち、BmN細胞を1穴当たり1.0×106個/2ml TC−100(10%FBS)で培養した6穴プレートを準備した。次いで各組換えウイルス液をm.o.i.=5で感染させた。 感染120時間後、ピペッティングにより細胞をはがして培養上清ごとそれぞれ0.25%CHAPSとなるように加え、氷上で10分間静置して、細胞膜を穿孔した。各1mLから、実施例2と同様に超遠心によって可溶性不溶性分離を行い、ウェスタンブロッティングの結果からデンシトメトリーにより解析を行った。(2)蛹、幼虫、BmN細胞での発現における可溶性割合の解析 上記BmNでの解析結果と併せて、実施例2および実施例3の蛹および幼虫での経時的発現試験の結果のうち、各バキュロウイルス転移ベクターおよび遺伝子での最良の発現時期についても可溶性割合を算出した。結果を以下に示す。 表中、「−」は、発現量が低すぎ、デンシトメトリーによる解析が不能であった例を示す。 また、ゴシック体表記は本発明の例を示す。 この結果、従来技術であるpolhプロモータを持つpM01で各遺伝子を発現させた場合と比べて、本発明の例であるpMVPLRでは、すべてについて可溶性の割合が向上し、凝集の割合が低減していることが示された。 一方、vp39プロモータ単独であるpMVPXXを用いた場合でも凝集の割合がある程度低減されるが、比較検討に耐えうるだけの発現量が得られない例が散見され(図9B、図10B、図12B)、発現させる外来蛋白質や発現宿主の影響を受けやすいことが分かった。また、全体の傾向として、可溶性の割合はpM01<pMVPXX<pMVPLRとなっており、これは、図3で示される発現開始時期と逆相関の関係、すなわち発現開始時期が早いほど凝集の割合が低減することが考えられた。 そこで、これらについてごく一般的な最小二乗法・線形モデルの重回帰分析を試みた。すなわち、PDE4Cを蛹で発現させたものを基準に置いてその他遺伝子(4種)と発現宿主(2種)をダミー変数とし、これらと各バキュロウイルス転移ベクターの10%発現時期を独立変数(計7変数)とし、可溶性割合を従属変数として、それらの相関係数行列を求めた。さらにそこから偏相関係数等を求めたものを以下の表にしめす。 ダミー変数を用いているので、数値の比較は標準化偏回帰係数を用いて行った。この結果、ASB6、UGDH、BCKDHAではp値<0.05で負の値をとり、これらは凝集しやすい蛋白質であることが示された。また、10%発現時期についてもp値<0.05で負の値をとり、10%発現時期と凝集の間に逆相関があることが示された。すなわち、発現開始時期が早いほど凝集が少なくなると考えられる。 一方、発現宿主については、蛹を基準に置いたとき、幼虫およびBmN細胞で負の値をとるものの、有意差は認められなかった(p値>0.05)。 以上の結果をまとめると、従来のpolhプロモータでは発現させた外来蛋白質のうち不溶性になってしまうものの量が多く、vp39プロモータ単独では発現が安定しないことが分かった。これらと比較して、本発明のプロモータを利用した場合(上記pMVPLR)、概ね発現は安定し、さらには可溶性で発現する割合が増し、または可溶性発現量が増加しており、ある程度の発現量を確保しつつ早期に発現することによって細胞内品質管理が期待できることが示された。実 施 例 5 その他のHRsを用いたバキュロウイルス転移ベクターの作製 BmNPV−T3株(Accession No.NC_001962)のウイルスゲノムDNAを鋳型として、プライマー13(5'-agccatgggacatcatcgtttgattgtgttttacac-3')及びプライマー14(5'-tgctagcaccgaactcgttttacgagtagaatt-3')を用いて、PCR断片(以下、「HR1」という)を取得した。また、同様にプライマー15(5'-tgccatggaaattgaactggctttacgagtagaattc-3')及びプライマー16(5'-agctagcatgacatcatattttgattgtgttttacacg-3')を用いて、PCR断片(以下、「HR5」という)を取得した。 このHR1およびHR5断片をそれぞれ制限酵素NcoI及びNheIを用いて消化し、HR1およびHR5断片を切り出した。一方、実施例1(3)で作製したpMVPXXを、制限酵素NcoI及びNheIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。HR1及びHR5断片それぞれと線状化したpMVPXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMVP1RおよびpMVP5R)をプラスミド精製、そしてプライマー8(5'-agatcttaagattgttgccgttataaatatggac-3')を用いて塩基配列確認を行って選抜した。 また、HRs保存パリンドローム配列は、合成した。すなわち50mM−NaCl中に、合成DNA3(5'-catggtttacaagtagaattctactcgtaaag-3')及び合成DNA4(5'-caaatgttcatcttaagatgagcatttcgatc-3')をそれぞれ1μM混合し、熱変性後、徐冷して2本鎖DNAを形成させた。さらに、T4ポリヌクレオチドキナーゼにより5’末端をリン酸化した。 一方、実施例1(3)で作製したpMVPXXを、制限酵素NcoI及びNheIを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。HR1及びHR5断片それぞれと線状化したpMVPXXをライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローン(pMVP1−palindromes)をプラスミド精製、そしてプライマー8(5'-agatcttaagattgttgccgttataaatatggac-3')を用いて塩基配列確認を行って選抜した。 こうして得られた3種類のバキュロウイルス転移ベクターについて外来蛋白質を導入しても、発現開始時期または凝集の割合が前記実施例と同様に変化することが分かる。実 施 例 6 組換えバキュロウイルスによる抗キマーゼ抗体分子の作製 ヒトキマーゼ(片倉工業:特開2002−300886号公報)に対する抗体を産生するハイブリドーマ2D11G10D株(このものはFERM P−18700として、平成14年2月8日付で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(郵便番号305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託されている:片倉工業:特開2003−235556号公報)のゲノムDNAを鋳型として、プライマー17(5'- gaGCGGCCGCATGGCTTGGGTGTGGACCTTG -3')及びプライマー18(5'- gaGATATCTCATTTACCAGGAGAGCGGGAG -3')を用い、PCRにより重鎖遺伝子を含むPCR断片を取得した。同様に、プライマー19(5'- gaGCGGCCGCATGGACATGAGGACCCCTGC -3')及びプライマー20(5'- gaGATATCCTAACACTCATTCCTGTTGAAGCTC -3')を用い、PCRにより軽鎖遺伝子を含むPCR断片を取得した。 上記で取得した重鎖及び軽鎖の遺伝子を含むPCR断片をそれぞれ制限酵素NotI及びEcoRVを用いて消化し、重鎖及び軽鎖遺伝子断片を切り出した。一方、実施例1で作製したpMVPLR及び従来のプラスミドであるpM01を、制限酵素NotI及びEcoRVを用いて消化し、アルカリフォスファターゼにより切断面を脱リン酸化した。重鎖及び軽鎖遺伝子断片それぞれと、線状化したpMVPLRおよびpM01をライゲーションして、大腸菌を形質転換した。この形質転換体のクローンをプラスミド精製、そしてプライマー8(5'-agatcttaagattgttgccgttataaatatggac-3')を用いて塩基配列確認を行って選抜した。 上記で得られたプラスミド4種について、それぞれ実施例2と同様に組換えウイルス作製を行った。次いで、重鎖と軽鎖の組換えウイルスを混合感染させる他は実施例4(1)と同様に感染実験を行い、BmN細胞の培養上清及び幼虫体液を得た。これらのサンプルについて、キマーゼを固相化したELISAを行い、正常にキマーゼと結合する抗体(以下、「抗キマーゼ抗体2D」という)を得た。この抗キマーゼ抗体2Dの生産量を、抗マウスIgGウサギ抗体(ALP標識:ナカライテスク)とBlue−Phos(KPL)で測定した。なお、標準抗体には、2D11G10D株培養上清から精製して得られたモノクローナル抗体を用いた。 抗キマーゼ抗体2Dの生産量は、pMVPLRを重鎖・軽鎖の両方に使用したときに、もっとも高い発現量であることが分かった(図13)。特に培養上清では従来技術であるpM01と比べて発現量の増加が顕著であった。実 施 例 7 組換えバキュロウイルスで生産した抗キマーゼ抗体分子の性状実施例6で得られた幼虫体液のうち、発現に用いたプラスミドが重鎖軽鎖ともpM01のもの、及びpMVPLRのものから、ProteinA−SepharoseFF(GEヘルスケア)を用いて抗体分子をメーカー推奨の方法で精製した後、沈降速度法による超遠心分析(片倉工業)を行った。超遠心分析には、分析用超遠心機ProteomeLab XL-A(ベックマンコールター)を用い、SEDFIT(NIH)による解析を行った。精製回収量と、実施例6でのELISAを一頭あたりの量に換算し、超遠心分析の結果とともに表6に示した。また、各プラスミドを用いて発現、精製された抗キマーゼ抗体2Dについて電気泳動(還元SDS−PAGE)を行った。電気泳動の結果(図14)より、精製されたそれぞれの抗体分子の純度にはあまり差がないことが分かった。しかし、超遠心分析の結果、組換えウイルス作製に用いたプラスミドがpM01すなわち従来のポリヘドリンプロモータで抗体分子を生産した場合、会合体が多く形成されることがわかった。また、従来のポリヘドリンプロモータで抗体分子を生産した場合、ELISAで確認された活性型の抗体分子の量よりも精製量が多く、ProteinA−SepharoseFFで精製可能ではあるが活性を持たない抗体分子が、およそ50%を占めることがわかった。一方、pMVPLRすなわち本発明のプロモータを用いると、会合体の形成が抑制され、1頭あたりのELISA測定値と精製回収量が一致していた。さらに、1頭あたりの生産量も増大していた。このことから、本発明のプロモータを用いると抗体分子の分泌量が増加し、併せて細胞内品質管理を十分に受けていることが示された。 以上、本発明による構成および方法を好ましい実施例について述べてきたが、本発明の概念、趣旨および範囲を逸脱することなく、上述した構成、方法、これらの方法のステップや時間的順序などについて様々な変更や修正が可能であることは当業者によって容易に理解できよう。たとえば、他のHRsを用いても同様の結果を得ることができる。また、HRs保存パリンドローム配列の数を変更し、またはその上流にie−1遺伝子産物などを発現させる領域を加えることによって発現量や発現時期を変更することができよう。さらには、一つのプラスミドに複数のプロモータを挿入することで複数の遺伝子を共発現させ、または個別の組換えウイルスを複数共感染により発現させて、複合体を形成させることができよう。また、従来の最後期プロモータと組み合わせて発現時期をずらして複合体を形成させることも有効といえよう。 本発明により、上述のバキュロウイルス転移ベクターを包含する、安定に形質転換された組換えバキュロウイルスを得ることができる。そして、この組換えバキュロウイルスは、蛋白質あるいはペプチドの発現時期を早め、かつ適切な量での蛋白質発現を可能とすることができるため、比較的凝集が少ない状態で外来蛋白質あるいはポリペプチドの生産を行うことができ、目的とする生理活性を有する外来蛋白質を容易に得ることができる。 従って、本発明の組換えバキュロウイルスは、医薬や試薬として利用される蛋白質の生産に有利に利用することができるものである。本発明で用いる、pM000001の構成を示す図面である。このものは、バキュロウイルスのpolh周辺の配列を持ち、相同組換えによりMCSに挿入した外来遺伝子をウイルスゲノム中に導入することができる。本発明組換えバキュロウイルスの構築の概要を示す図面である。組換えバキュロウイルス感染後の時間と、GFPの生産量の関係を示す図面である。pM01−DestCH、pMVPXX−DestCHおよびpMVPLR−DestCHのプロモータ周辺の構成を示す図面である。pM01、pMVPXXおよびpMVPLRの各プロモータを用いたときの、蛹でのPDE4Cの経時的発現を示す図面である。図中Aは可溶性画分についての結果を、Bは沈殿画分についての結果をそれぞれ示す。pM01、pMVPXXおよびpMVPLRの各プロモータを用いたときの、幼虫でのPDE4Cの経時的発現を示す図面である。図中Aは可溶性画分についての結果を、Bは沈殿画分についての結果をそれぞれ示す。pM01、pMVPXXおよびpMVPLRの各プロモータを用いたときの、幼虫でのSPHK1の経時的発現を示す図面である。図中Aは可溶性画分についての結果を、Bは沈殿画分についての結果をそれぞれ示す。pM01、pMVPXXおよびpMVPLRの各プロモータを用いたときの、幼虫でのASB6の経時的発現を示す図面である。図中Aは可溶性画分についての結果を、Bは沈殿画分についての結果をそれぞれ示す。PDE4Cの発現における各バキュロウイルス転移ベクターの影響を示す電気泳動写真(BCIP−NBT染色像)である。図中Aは、蛹で発現させた場合の結果を、Bは幼虫で発現させた場合の結果を示す。SPHK1の発現における各バキュロウイルス転移ベクターの影響を示す電気泳動写真(BCIP−NBT染色像)である。図中Aは、蛹で発現させた場合の結果を、Bは幼虫で発現させた場合の結果を示す。ASB6の発現における各バキュロウイルス転移ベクターの影響を示す電気泳動写真(BCIP−NBT染色像)である。図中Aは、幼虫で発現させた場合の結果を、BはBmN細胞で発現させた場合の結果を示す。BmN細胞を用いたときの各バキュロウイルス転移ベクターの影響を示す電気泳動写真(BCIP−NBT染色像)である。図中Aは、UGDHで発現させた場合の結果を、BはBCKDHAを発現させた場合の結果を示す。pM01およびpMVPLRのプロモータを用いて、抗キマーゼ抗体2Dの重鎖と軽鎖を発現させたときの、BmN培養上清および蚕幼虫体液中の活性型抗体分子の発現量を示す図面である。pM01またはpMVPLRのプロモータを用いて発現させた後、精製した抗キマーゼ抗体2Dの電気泳動結果を示す図面である。 左から右方向へ以下のb)およびc)の構成を含んでなることを特徴とするバキュロウイルス転移ベクター。 b)バキュロウイルスHR3を包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域 左から右方向へ以下のa)ないしe)の構成を含んでなることを特徴とするバキュロウイルス転移ベクター。 a)バキュロウイルス非必須遺伝子部位の5’末端または3’末端フランキング配列を コードするバキュロウイルスのウイルスDNA配列 b)バキュロウイルスHR3を包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域 d)所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA領域 e)バキュロウイルス非必須遺伝子部位の3’末端または5’末端フランキング配列を コードするバキュロウイルスのウイルスDNA配列 左から右方向へ以下のa’)ないしe’)の構成を含んでなることを特徴とするバキュロウイルス転移ベクター。 a’)Tn7LまたはTn7Rを含むDNA配列 b)バキュロウイルスHR3を包含するエンハンサDNA領域 c)バキュロウイルスvp39遺伝子由来のプロモータ領域を包含するDNA領域 d)所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA領域 e’)Tn7RまたはTn7Lを含むDNA配列 前記c)のプロモータ領域の下流に、所望の蛋白質あるいはポリペプチドをコードするDNA配列を挿入し得るクローニング制限酵素切断部位を包含するDNA領域をさらに含んでなる請求項1に記載のバキュロウイルス転移ベクター。 請求項1ないし4のいずれかの項に記載のバキュロウイルス転移ベクターにより外来遺伝子が導入されてなる組換えバキュロウイルス。 外来遺伝子が抗体遺伝子である請求項5記載の組換えバキュロウイルス。 請求項5または6に記載の組換えバキュロウイルスを感染させた鱗翅目昆虫細胞を含んでなる組換えバキュロウイルス発現系。 前記鱗翅目昆虫細胞が、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、ボンビックス・マンダリナ(Bombyx mandarina)、ヘリオシス・ビレセンス(Heliothis virescens)、ヘリオシス・ゼア(Heliothis zea)、マメストラ・ブラッシカス(Mamestra brassicas)、エスチグマン・アクレア(Estigmene acrea)もしくはトリコプルシア・ニ(Trichoplusia ni)からなる鱗翅目昆虫の群から選択された細胞である請求項7に記載のバキュロウイルス発現系。 前記鱗翅目昆虫細胞が、ボンビックス・モリの培養細胞、幼虫または蛹のいずれかである請求項7に記載のバキュロウイルス発現系。 請求項7ないし9のいずれかに記載の組換えバキュロウイルス発現系を含んでなる組換え蛋白質および/またはポリペプチドの生産方法。 請求項7ないし9のいずれかに記載の組換えバキュロウイルス発現系を含んでなる抗体の生産方法。配列表


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