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タイトル:公開特許公報(A)_分解促進型レポータタンパク質の発現ベクターおよび当該ベクターを用いたトランスジェニック非ヒト動物の作製
出願番号:2008072412
年次:2009
IPC分類:C12N 15/09,A01K 67/027


特許情報キャッシュ

山口 瞬 江口 恵 JP 2009225691 公開特許公報(A) 20091008 2008072412 20080319 分解促進型レポータタンパク質の発現ベクターおよび当該ベクターを用いたトランスジェニック非ヒト動物の作製 国立大学法人神戸大学 504150450 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 大杉 卓也 100135208 曽我 亜紀 100152319 山口 瞬 江口 恵 C12N 15/09 20060101AFI20090911BHJP A01K 67/027 20060101ALI20090911BHJP JPC12N15/00 AA01K67/027 7 1 OL 20 4B024 4B024AA11 4B024CA02 4B024DA02 4B024EA04 4B024FA02 4B024FA10 4B024GA11 本発明は、分解促進型レポータタンパク質の発現ベクターに関する。具体的には、刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域、イントロン領域、および分解促進型レポータタンパク質をコードする領域を含むベクターに関する。さらに本発明は、当該ベクターを用いてトランスジェッニク非ヒト動物を作製する方法、および当該ベクターを用いて作製されたトランスジェニック非ヒト動物に関する。 近年、レポータ遺伝子を含むトランスジェニック動物を作製することにより、動物生体内での遺伝子の機能解析が進んでいる。トランスジェニック動物において、レポータ遺伝子は対象遺伝子のプロモータ活性の検定、対象遺伝子の発現程度の確認、部位や発育段階の同定などに用いられている。また、かかるトランスジェニック動物は、1つの遺伝子の機能解析のみならず、ある遺伝子と他の遺伝子の相互作用によって生じる疾病の機序解明などにも重要な役割を果たしている。レポータ遺伝子のトランスジェニックマウスとして、たとえばβ−ガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)を導入したトランスジェニックマウスが報告されている(Clegg, et al., J. Biological Chemistry,271,1638(1996))。 動物の生体内の臓器、組織、細胞について、多くの遺伝子の発現解析が進んでいる。遺伝子のプロモータ領域などの発現調節領域が解析され、トランスジェニック動物の作製に活用されている。臓器特異的に発現する遺伝子の中でも脳特異的に発現する遺伝子は数多く知られている。脳特異的に発現するプロモータとしてよく使用されているものとしては、ニューロフィラメント軽鎖、NGF、ニューロトロフィン3、PDGFβ、cAMP依存プロティンキナーゼA、ドーパミン受容体、GAP43、ニューロン特異的エノラーゼなどが挙げられる。 GABAやグリシンを伝達物質にもつ抑制性ニューロンの機能を明らかにすることを目的として、小胞性GABAトランスポータ遺伝子の発現調節領域とレポータ遺伝子を含有する非ヒト哺乳動物が報告されている(特許文献1)。また、市販のGFPレポータ遺伝子を前初期遺伝子の1つであるArc遺伝子にノックインしたマウスが報告されている(非特許文献1)。かかるノックインマウス は、レポータ遺伝子挿入のために記憶・学習に必須と考えられているArc遺伝子が壊されており、Arc遺伝子が欠損している(ノックアウトマウス)。また、かかるノックインマウスの脳の蛍光観察には、二光子励起レーザー顕微鏡を必須とする。特開2006-149330号公開公報Wang et al., Cell, 126(2) 389-402, 2006 本発明は、生体内の臓器機能に対応して発現に変化が生じる遺伝子について、その発現動態をin vivoでリアルタイムに観察することができる手法の開発を課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、臓器機能と関係して発現が誘導される遺伝子のプロモータ領域と強いシグナルを発する分解促進型の新規レポータタンパク質をコードする領域とを、イントロン領域を介して結合させてなる塩基配列を含むベクターを作製し、当該ベクターを用いることにより、シグナル強度が強く、かつ生体内で分解されやすいレポータタンパク質を非ヒト動物で発現させることに成功し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は以下よりなる。1.刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域、イントロン領域、および分解促進型レポータタンパク質をコードする領域を含むベクター。2.イントロン領域が、下記1)および2)のいずれか1つに記載の塩基配列からなる、請求項1に記載のベクター:1)配列番号1に記載の塩基配列2)配列番号1に記載の塩基配列において1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/もしくは付加された塩基配列であって、スプライシング効率を促進しうる機能を有する塩基配列。3.分解促進型レポータタンパク質をコードする領域が、下記1)〜3)のいずれか1つに記載の塩基配列からなる、請求項1または2に記載のベクター。1)配列番号2に記載の塩基配列、2)配列番号3に記載の塩基配列、3)配列番号2もしくは3に記載の塩基配列において1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列であって、分解促進型のレポータタンパク質を産生しうる塩基配列。4.刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域が、下記1)および2)のいずれか1つに記載の塩基配列からなる、請求項1〜3のいずれか1つに記載のベクター:1)配列番号4に記載の塩基配列2)配列番号4に記載の塩基配列に1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列であって、刺激に応答して遺伝子の発現を誘導しうる塩基配列。5.非ヒト動物において、分解促進型レポータタンパク質をコードする領域が分解促進型レポータタンパク質を発現しうる、請求項1〜4のいずれか1に記載のベクター。6.請求項1〜5のいずれか1に記載のベクターを用いて、トランスジェニック非ヒト動物を作製する方法。7.請求項6に記載の方法により作製された、トランスジェニック非ヒト動物。 本発明のベクターを用いて、刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域と分解促進型レポータタンパク質をコードする領域を含むレポータタンパク質発現コンストラクトを動物に導入することにより、野生型の遺伝子を壊すことなく、in vivoでの遺伝子解析が可能となる。また、当該レポータタンパク質は、同じプロモータ領域が誘導する内因性遺伝子と比較して、トランスジェニック動物内で非常に強く発現しうる。組織内でのレポータタンパク質シグナルは、通常の実体顕微鏡あるいは実体蛍光顕微鏡を用いて容易に観察でき、かつ広範囲の観察が可能となる。また当該レポータタンパク質発現コンストラクトによる産物は分解促進型であり、時間の経過に伴って生体内で分解されてシグナルが減少するため、再度同一個体を用いて遺伝子解析を行うことが可能である。 本発明は、刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域、イントロン領域、および分解促進型レポータタンパク質をコードする領域を含むベクターを対象とする。本明細書において、プロモータ領域、イントロン領域、および分解促進型レポータタンパク質をコードする領域を含む塩基配列を、「レポータタンパク質発現コンストラクト」と称することもある。 刺激に応答して発現する遺伝子とは、様々な組織において、薬剤投与や、光・接触・振動・音などの刺激に応答して、発現が誘導されうる遺伝子を意味する。かかる遺伝子は、臓器機能と関係して発現が誘導される遺伝子であり、臓器には、脳を始めとする種々の臓器が含まれる。 本発明の刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域(以下単に「プロモータ領域」と称することもある)は、ゲノムDNA、cDNAの何れのDNAであってもよい。当該プロモータ領域には、プロモータ領域の塩基配列において、1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列であって、プロモータ領域としての機能を維持する塩基配列からなる領域も含まれる。該プロモータ領域は、市販のものを使用してもよく、また自体公知の遺伝子操作あるいはそれに準じる方法に従ってクローニングしたものを使用してもよい。 本発明の刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域としては、前初期遺伝子のプロモータ領域を用いることが好ましい。前初期遺伝子は、様々な脳機能と関係して誘導されることが知られており、神経細胞に高頻度のシナプス刺激をあたえると、速やかに、かつ一過的に活性化される。前初期遺伝子には、産物が直接神経細胞の形態変化やシナプス伝達変化に影響を与えるものも含まれる。前初期遺伝子群の発現は、シナプス変化を長期的に保持するために必須の現象であり、神経回路の再編成に重要な役割を果たしていると考えられている。前初期遺伝子には、Arc遺伝子、c-fos遺伝子、Zif268遺伝子などが含まれる。 Arc遺伝子は、刺激に対して極めて高い発現誘導性を示す。核で合成されたArc遺伝子由来mRNAは、樹状突起へ能動的に移行して活性化したシナプス部位に蓄積するという特徴的な性質を有すると考えられている。またArc遺伝子の産物は、活性化シナプス部位に蓄積することから、局所的なタンパク質合成によって、産物の分布が制御されている可能性がある。Arc遺伝子は、脳、特に大脳皮質、海馬、線条体、嗅球顆粒細胞で発現し、Arc遺伝子由来のmRNAはMK-801などの薬剤投与、眼に対する光刺激などによって、発現量が大きく変化することが知られている。 本発明の刺激に応答して発現するプロモータ領域としては、Arc遺伝子のプロモータ領域を用いることが好ましい。Arc遺伝子のプロモータ領域の塩基配列を、配列番号4に示す。かかる塩基配列はマウスゲノムDNA BACクローン(RP23-459I23, Invitrogen, Carlsbad, CA)から単離することができるものであり、その大きさは7.1 Kbである。また、本発明のプロモータ領域として、配列番号4に記載の塩基配列に1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列であって、刺激に応答して発現を誘導しうる塩基配列も使用することができる。 分解促進型レポータタンパク質をコードする領域(以下単に「レポータ領域」とも称する)とは、レポータ遺伝子の塩基配列および分解促進配列を含んでなる塩基配列からなる。 レポータ遺伝子としては、発光又は発色タンパク質遺伝子などが挙げられる。発光タンパク質をコードする遺伝子としては、GFP(緑色蛍光タンパク質;Prasher,D.C.,et al., Gene, 111, 229-233 (1992))、紫外線を照射することで緑から赤に変化するカエデをコードする遺伝子(GenBank Accession No. AB085641)、細胞内のカルシウム濃度に依存して発光するカメレオンをコードする遺伝子(GenBank Accession No.AB178711)、Venus遺伝子(Nat Biotechnol. 2002 Jan;20(1):87-90)(配列番号5)などが挙げられる。発色タンパク質遺伝子としては、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子などが挙げられる。レポータ遺伝子は、ゲノムDNA、cDNAの何れのDNAであってもよい。当該レポータ遺伝子には、レポータ遺伝子の塩基配列において、1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列であって、レポータ遺伝子としての機能を維持する塩基配列からなる遺伝子も含まれる。該レポータ遺伝子は、市販のものを使用してもよく、また自体公知の遺伝子操作あるいはそれに準じる方法に従ってクローニングしたものを使用してもよい。 分解促進配列としては、対象となるタンパク質の分解を促進する配列および/または対象となるmRNAの分解を促進する配列が含まれる。タンパク質の分解を促進する配列としては、CL1配列(酵母由来)(pGL3 (R2.2)-Basic vector(Promega, Madison, WI)の1744〜1791位の塩基配列)(配列番号6)とPESTモチーフ配列(マウスornithine decarboxylase由来)(pGL3 (R2.2)-Basic vector(Promega)の1795〜1917位の塩基配列)(配列番号7)が例示される。mRNAの分解を促進する配列としては、AUリッチエレメント配列(pGL3 (R2.2)-Basic vector(Promega)の1928〜1944位の塩基配列)(配列番号8)が例示される。分解促進配列には、分解促進配列の塩基配列において、1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列であって、タンパク質および/またはmRNAの分解を促進する機能を維持する塩基配列も含まれる。該分解促進配列は、市販のものを使用してもよく、また自体公知の遺伝子操作あるいはそれに準じる方法に従ってクローニングしたものを使用してもよい。 分解促進型レポータタンパク質をコードする領域内において、レポータ遺伝子の塩基配列と分解促進配列の配置は特に限定されないが、レポータ遺伝子の塩基配列の下流に、分解促進配列を配置することが好ましい。 例えば、レポータ遺伝子としてVenus遺伝子を用いる場合(図1A)、Venus遺伝子の塩基配列の下流にCL1配列とPESTモチーフ配列を結合させることにより、細胞内でのVenusタンパク質の分解を容易にすることが可能である。さらに、mRNAの分解促進機能を有するAUリッチエレメント配列を、分解促進型レポータタンパク質をコードする領域内で、3'末端に結合させることができる。具体的には、分解促進型レポータタンパク質をコードする領域として、Venus遺伝子の塩基配列とCL1配列とPESTモチーフ配列からなる塩基配列(配列番号2)、Venus遺伝子の塩基配列とCL1配列とPESTモチーフ配列とAUリッチエレメント配列からなる塩基配列(配列番号3)が例示される。配列番号3で示される分解促進型レポータタンパク質をコードする領域を「dVenus領域」と称する。分解促進型レポータタンパク質をコードする領域には、配列番号2もしくは3に記載の塩基配列において1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列であって、分解促進型のレポータタンパク質を産生しうる塩基配列からなる領域も含まれる。 本発明においてイントロン領域とは、転写されるが最終的に機能する転写産物からスプライシング反応によって除去される塩基配列であって、スプライシング効率を促進しうる塩基配列からなる。イントロン領域は、天然に存在する塩基配列からなるものであっても、非天然の塩基配列からなるものであってもよい。また当該領域としては、自体公知の遺伝子操作あるいはそれに準じる方法に従って単離されたものおよび市販のもの、および人工的に合成したもののいずれも使用可能である。イントロン領域として好適なものは、市販のpRL-TK vector(Promega)の766位〜1005位の塩基配列である(配列番号1)。当該イントロン領域は、ヒトβグロビン遺伝子と免疫グロブリン遺伝子から合成されたものである。イントロン領域は、プロモータ領域の上流に、プロモータ領域とレポータ領域間、またはレポータ領域の下流に配置することが可能である。好ましくは、プロモータ領域とレポータ領域間に配置させる。 本発明のベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、ワクシニアウイルスまたはバキュロウイルスなどの動物ウイルスなどが用いられる。ベクターに含まれるレポータタンパク質発現コンストラクトは、トランスジェニック非ヒト動物において、mRNAの転写を終結させるターミネータ領域を有していてもよい。該ターミネータ領域は、ウイルス由来、各種哺乳動物または鳥類由来の各遺伝子の塩基配列が用いられる。好ましくは、シミアンウィルスのSV40ターミネータ領域が用いられる。 ベクターは、プロモータ領域、イントロン領域、レポータ領域が、上流からこの順番で配置されたレポータタンパク質発現コンストラクトを含むことが好ましい。図1Bの下段にレポータタンパク質発現コンストラクトの一例を示す。上段に野生型のマウスArc遺伝子を示す。図1Bのレポータタンパク質発現コンストラクトでは、プロモータ領域として7.1 KbのマウスArc遺伝子のプロモータ領域を用い、その下流に合成イントロン領域、dVenus領域、SV40ポリAシグナル領域(配列番号9)が配置されている。イントロン領域およびSV40ポリAシグナル領域は、遺伝子発現レベルを上昇させる機能を有する。図1B中、黒色部分はマウスArc遺伝子のタンパク質をコードする領域であり、灰色部分は、分解促進型レポータタンパク質をコードする領域であり、白色部分は非コード領域である。 本発明のベクターは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って作製することができる。例えば実施例1に記載の方法により作製することができる。 本発明は、当該ベクターを用いてトランスジェッニク非ヒト動物を作製する方法、および当該ベクターを用いて作製されたトランスジェニック非ヒト動物を対象とする。 本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、分解促進型レポータタンパク質を発現可能なように組み込んだDNAを有する非ヒト動物またはその一部であり、作製方法は問わない。非ヒト動物としては、ヒト以外の哺乳動物が挙げられ、例えば、ウシ、サル、ブタ、イヌ、ネコ、モルモット、ウサギ、ラット、マウスなどが挙げられる。特に、モルモット、ラット、マウスなどのげっ歯類の取扱いが容易であるため好ましく、中でもマウスが好ましい。非ヒト動物の一部としては、非ヒト動物の細胞内小器官、細胞、組織および脳などの臓器のほか、頭部、指、手、足、腹部、尾などが挙げられる。 本明細書における「発現」とは、レポータタンパク質が検出可能な程度に発現していればよいことを意味する。レポータタンパク質の発現が定性的に確認できれば良く、必ずしも定量的である必要はない。 レポータタンパク質の発現は、自体公知あるいはそれに準じる方法に従って観察することができる。レポータタンパク質がVenus遺伝子由来タンパク質の場合は、蛍光を測定することによって、発現の変化を直接的に観察することができる。レポータタンパク質の発現の程度は、染色や蛍光などによって定量的に観察することもできるが、当業者の熟練した観察力によって定性的に観察できる。 また、本発明のトランスジェニック動物は、組織培養のための細胞源として使用することができる。たとえば、本発明のトランスジェニックマウスの組織中の遺伝子DNAもしくはRNAを直接分析するか、あるいは遺伝子により発現されたタンパク質を分析することができる。遺伝子を有する組織の細胞を標準組織培養技術により培養し、これらを使用して、一般に培養困難な組織からの細胞の機能を研究することができる。また、その細胞を用いることにより、例えば、細胞の機能を高めるもしくは、低減させるような薬剤の選択も可能である。 トランスジェニック非ヒト動物は、レポータタンパク質発現コンストラクトを含むベクターを使用して、当該コンストラクトを非ヒト動物に導入することにより作製可能である。 本発明のトランスジェニック非ヒト動物は、未受精卵、受精卵、精子及びその始原細胞を含む胚芽細胞などに対して、好ましくは、非ヒト動物の発生における胚発生の段階(さらに好ましくは、単細胞または受精卵細胞の段階でかつ一般に8細胞期以前)において、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法などにより分解促進型レポータタンパク質発現コンストラクトを導入することにより作製することができる。また、該遺伝子導入方法により、体細胞、生体の臓器、組織細胞などにレポータタンパク質を転移させ、細胞培養、組織培養などに利用することもできる。さらに、これら細胞を上述の胚芽細胞と自体公知の細胞配合法により融合させることによりトランスジェニック非ヒト動物を作製することもできる。 受精卵細胞段階におけるレポータタンパク質発現コンストラクトの導入は、対象動物の胚芽細胞及び体細胞の全てに過剰に存在するように確保することが好ましい。トランスジェニック後の作出動物の胚芽細胞においてレポータタンパク質発現コンストラクトが過剰に存在することは、作出動物の子孫が全てその胚芽細胞及び体細胞の全てにレポータタンパク質発現コンストラクトを過剰に有することを意味する。遺伝子を受け継いだこの種の動物の子孫はその胚芽細胞及び体細胞の全てにレポータタンパク質発現コンストラクトを過剰に有する。導入遺伝子を相同染色体の両方に持つホモ接合体の動物を取得し、この雌雄の動物を交配することによりすべての子孫が該遺伝子を安定に保持し、また、該遺伝子を過剰に有することを確認して、通常の飼育環境で繁殖継代することができる。 トランスジェニック動物が元来有する内在性の遺伝子とは異なる遺伝子を含んでなるレポータタンパク質発現コンストラクトを、対象動物又はその先祖の受精卵に転移させる際に用いられる受精卵は、同種の雄哺乳動物と雌哺乳動物を交配させることによって得られる。受精卵は自然交配によっても得られるが、雌哺乳動物の性周期を人工的に調節した後、雄哺乳動物と交配させる方法が好ましい。雌哺乳動物の性周期を人工的に調節する方法としては、例えば初めに卵胞刺激ホルモン(妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG))、次いで黄体形成ホルモン(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG))を例えば腹腔注射などにより投与する方法が好ましい。 得られた受精卵に前述の方法によりレポータタンパク質発現コンストラクトを導入した後、雌動物に人工的に移植、着床させることにより、レポータタンパク質を組み込んだDNAを有する非ヒト動物が得られる。好ましくは、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)を投与後、雄動物と交配させることにより、受精能を誘起された偽妊娠雌動物に得られた受精卵を人工的に移植・着床させることができる。遺伝子を導入する全能性細胞としては、マウスの場合、受精卵や初期胚を用いることができる。また培養細胞への遺伝子導入法としては、トランスジェニック動物個体の産出効率や次代への導入遺伝子の伝達効率を考慮した場合、マイクロインジェクションが好ましい。 遺伝子を注入した受精卵は、次に仮親の卵管に移植され、個体まで発生し出生した動物を里親につけて飼育させる。その後、体の一部(マウスの場合には、例えば、尾部先端)からDNAを抽出し、サザン解析やPCR法により導入遺伝子の存在を確認することができる。導入遺伝子の存在が確認された個体を初代(Founder)とすれば、導入遺伝子はその子(F1)に50%伝達される。さらに、このF1個体を野生型動物または他のF1動物と交配させることにより、2倍体染色体の片方(ヘテロ接合)または両方(ホモ接合)に導入遺伝子を有する個体(F2)を作成することができる。 あるいは、レポータタンパク質発現コンストラクト導入トランスジェニック非ヒト動物は、上記したレポータタンパク質発現コンストラクトをES細胞に導入することによって作製することもできる。例えば、正常マウス胚盤胞に由来するHPRT陰性(ヒポキサンチングアニン・フォスフォリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を欠いている)ES細胞(embryonic stem cell)に、レポータタンパク質発現コンストラクトを導入する。レポータタンパク質発現コンストラクトがマウス内因性遺伝子上に組み込まれたES細胞をHATセレクション法により選別する。次いで、選別したレポータタンパク質発現コンストラクトを、別の正常マウスから取得した受精卵(胚盤胞)にマイクロインジェクションする。該胚盤胞を仮親としての別の正常マウスの子宮に移植する。そうして該仮親マウスから、キメラトランスジェニックマウスが生まれる。該キメラトランスジェニックマウスを正常マウスと交配させることによりヘテロトランスジェニックマウスを得ることができる。該ヘテロトランスジェニックマウス同士を交配することにより、ホモトランスジェニックマウスが得られる。 例えば、マイクロインジェクションによりトランスジェニックマウスを作製した場合、一般的には、生まれた胚の10〜40%に染色体への導入遺伝子の安定な組み込みが起こっている。選択されたマウス染色体に目的とする遺伝子の組み込みが起こっているかどうかをPCR法、サザンブロット法等により確認することが好ましい。また、レポータタンパク質発現コンストラクトが生起しているか否かを確認する方法としては、例えば、上記の方法により得られたマウスからRNAを単離してノーザンブロット法等により調べ、またはタンパク質を抽出してウェスタンブロット法等により調べる方法がある。このマウスを野生型のマウスとインタークロスさせると、ヘテロ接合体マウスを得ることができる。 以下、本発明の理解を深めるために実施例により本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではないことはいうまでもない。実施例1 プラスミドベクターの構築(1)dVenus領域の作製(図1A) Venus/pCS2プラスミド(理化学研究所 宮脇敦史博士から分与)を鋳型として用いてPCRにより変異を導入し、ストップコドンの欠失したVenus遺伝子を作製した。 使用したプライマーは、以下の通りである。forward 5'-GGATCCACCATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCT-3'(配列番号10)reverse 5'-AGAATTCTTGTACAGCTCGTCCATGCCGAGAG-3'(配列番号11) PCRにより、Venus遺伝子のストップコドンを5'-AAT-3'(Asn)に置換し、この隣にEcoR I制限酵素部位を導入した。その後、EcoR I制限酵素部位を用いてストップコドン欠失Venus遺伝子のDNAを、CL1配列とPESTモチーフ配列のDNA(タンパク質分解促進)、およびAUリッチエレメント配列のDNA(mRNA分解促進)からなるpGL3 (R2.2)-Basicベクター(Promega, Madison, WI)の分解促進配列のDNAに結合させた。(2)レポータタンパク質発現コンストラクトの作製(図1B) マウスArc遺伝子の単離のため、RP23-459I23 BACクローン(Invitrogen, Carlsbad, CA)由来のDNAを、Spe IとXho Iで消化し、pBluescript II KS (-)(Stratagene, LaJolla,CA)にサブクローン化した。Arc遺伝子のエキソン全体と5'上流領域9.3 Kbpを含む12.8 KbpゲノムDNAを有するクローンを、PCRベースの選択によって単離した。PCRに用いたプライマーは以下である。これらのプライマーは、約550bpの産物を得られるように設計した。forward, 5'-GGCTTCTGCTGTGGGCAGTGATATG-3'(配列番号12)reverse, 5'-CATAAGTCCAAATCCTAGCCTGGTC-3'(配列番号13) 12.8 Kbpの挿入DNAをさらにSma IとNae Iで消化し、第1エキソンの5'非コード領域約130bpとその5'上流領域7 Kbpを含む7.1 KbpのDNA断片を、Arc遺伝子のプロモータ領域として用いた。7.1 KbpのArc遺伝子のプロモータ領域、合成イントロン領域(pRL-TKベクター(Promega, Madison, WI)の766位〜1005位の塩基配列を有するDNA)、dVenus領域を、5'から3'へ、この順番で結合し、さらにpGL3-Basicベクター(Promega, Madison, WI)由来のSV40ポリAシグナル配列をその下流に結合した。実施例2 トランスジェニックマウスの作製 Arc遺伝子プロモータ領域、合成イントロン領域、dVenus領域、SV40ポリAシグナル領域を含むDNA断片8.7Kbpを、Sma I とSal Iにより消化して、組み換えプラスミドより切り出した。断片を0.8%アガロースゲルで電気泳動により分画し、シリカ粒子(QIAEX II, Qiagen Sciences, Germantown, MD)により精製した。精製したDNA断片を、マウスBDF1(C57BL/6CrSlc x DBA/2CrSlc)の受精卵の前核にマイクロインジェクションした。マイクロインジェクション後の卵を、偽妊娠マウスの卵管に移植した。生まれたマウスについて、レポータタンパク質発現コンストラクトが組み込まれているか否かを、尾部先端からのゲノムDNAを鋳型として用いて、PCRにより分析した。PCRに用いたプライマー対は以下の通りである。forward, 5'-GCGACGTAAACGGCCACAAGTTCAGCGTGT-3'(配列番号14)reverse, 5'-AACTCCAGCAGGACCATGTGATCGCGCTTC-3'(配列番号15) これらのプライマーは、dVenus領域に対応する約610bpの産物を得るように設計した。PCRは、94℃1分間、55℃1分間、72℃1分間、30〜35サイクルの条件で、AmpliTaqポリメラーゼ(Applied Biosystems, Foster city, CA)もしくはLA Taq ポリメラーゼ(Takara, Shiga, Japan)を用いて行った。 なお、全ての実験は、神戸大学動物実験ガイドライン(Permission No. P-050812)に基づいて行った。 生まれたマウス62匹中、組み換え遺伝子陽性マウスが12匹得られ、トランスジェニックlineを樹立するために、6匹のマウスを無作為に選んだ。BDF1、あるいはC57BL/6J、ICRのいずれかと交配して得られた子孫を、今後の研究に用いた。実施例3 dVenus領域による蛍光のin vitro解析(1)細胞実験 10%ウシ胎仔血清(No. 10082-147, Invitrogen)を添加したDulbecco's modified Eagle培地(No. 10569-010,Invitrogen)中に、35mmシャーレあたりNIH3T3細胞80000個を播種した。NIH3T3細胞を、dVenus領域を含むベクターもしくは、dVenus領域の代わりにVenus遺伝子を含むベクターのいずれか(1μg)により、Lipofectamine-Plus 試薬(Invitrogen)を用いて形質転換した。いずれのベクターも、4.4 Kbヒトβアクチンプロモータによって発現するように、かつ同じプラスミドバックボーンを有するように設計した。遺伝子導入手順は、使用した製品の指示に従って行った。用いたLipofectamine試薬とPlus試薬の量は、各々8 μlと6 μlであった。遺伝子導入2日後に、培養培地をフェノールレッド不含培地(No. 21063-029, Invitrogen)で置換した。形質転換細胞の蛍光シグナルの強度を、冷却CCDカメラで測定した。Venus遺伝子による蛍光強度の平均値を100としてdVenus領域の蛍光強度を相対値で算出し、相対値の平均±SEMで示した(n=4)。 また、シクロヘキシミド(10 μg/ml)を培養培地へ添加した場合の、形質転換細胞の蛍光強度の経時的変化を測定した。dVenus領域を含むコンストラクトおよびVenus遺伝子を含むコンストラクトの各々について、シクロヘキシミド投与前に測定した蛍光強度の平均値を100とし、シクロヘキシミド投与後の蛍光強度の相対値を算出し、相対値の平均±SEMで示した(dVenus領域に関してはn=70; Venus遺伝子に関してはn=96)。 結果を図2に示す。NIH3T3細胞におけるdVenus領域の蛍光強度は、Venus遺伝子に比べて7分の1程度に弱くなっていた(図2A)。また、Venus遺伝子の蛍光強度は、シクロヘキシミド投与8時間経過後も変化していないが、dVenus領域の蛍光強度はシクロヘキシミド投与6時間後には有意に減少していた。実施例4 Arc遺伝子およびdVenus領域の発現の解析(1)Arc遺伝子のmRNAの野生型における組織分布 脳、心臓、肺、肝臓、腎臓、腸、筋肉(骨格筋)からトータルRNA(各組織 10 μg)をTrizol(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて単離した。これらのトータルRNAについて放射性標識Arc cDNAプローブを用いてノーザンブロットにより解析した。ノーザンブロットは、Yamaguchi and Nakanishi, J. Neurochem. 71, 60-68 (1998)に記載の通りに行った。Arc遺伝子mRNA用32P放射性標識プローブ作製のため、マウス脳cDNAライブラリ(Superscript mouse brain cDNA library, Invitrogen)から全長Arc遺伝子cDNAを単離し、当該全長Arc遺伝子cDNAから切り取った約1.1 KbのNde I-Pvu II 断片を鋳型として用いた。プローブをハイブリダイズさせたフィルターを、5日間イメージングプレートに露出した。(2)dVenus領域のmRNAのトランスジェニックマウスにおける組織分布 6匹のトランスジェニックマウス(line A〜F)についてノーザンブロットで解析した。(1)の野生型と同様、種々の組織からトータルRNA(各々10 μg)をTrizol(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて単離し、放射性標識dVenus領域cDNAプローブを用いた解析に供した。dVenus領域mRNA用32P放射性標識プローブ作製のため、Venus/pCS2プラスミド由来のVenusをコードする約0.7 Kbの断片を鋳型として用いた。プローブをハイブリダイズさせたフィルターを、15時間イメージングプレートに露出した。(3)シグナルの定量 Arc遺伝子およびdVenus領域のcDNAを鋳型としてin vitro転写(SP6 RNA polymerase(Roche, Basel,Switzerland)を使用)を行い、それぞれのセンスRNAを合成した。合成された量(モル数)を測定後、希釈系列を作製し、対照RNAとしてノーザンブロッティングに使用した。 各組織由来のトータルRNAと合成RNAをアガロースゲルで電気泳動し、フィルターにブロットした。フィルター(A)には、トランスジェニックマウスの組織トータルRNA(各8 μg)と合成したdVenus領域の対照センスRNA希釈系列(1 pg 〜 10 ng)をブロットした。フィルター(B)には、野生型マウスの組織トータルRNA(8 μg)と合成したArc遺伝子の対照センスRNA希釈系列(0.1 pg〜1 ng)をブロットした。フィルター(A)は放射性標識したdVenus領域のプローブ、フィルター(B)は放射性標識したArc遺伝子のプローブでハイブリダイゼーションを行った。 ノーザンブロッティングで得られたシグナルを、FLA-3000G(Fujifilm, Tokyo, Japan)を用いて定量した。対照RNA希釈系列のシグナルと比較することにより、フィルター(A)からトランスジェニックマウスのdVenus領域mRNAの発現量を、フィルター(B)から野生型マウスにおけるArc遺伝子mRNAの発現量を算出した。 結果を図3に示す。図3AはArc遺伝子のmRNAの野生型における組織分布を示し、野生型ではArc遺伝子mRNAが脳で強く発現していることがわかった。図3BはdVenus領域のmRNAのトランスジェニックマウスにおける組織分布を示し、いずれのトランスジェニックマウスでもdVenus領域mRNAが脳で発現していることがわかった。 野生型と、強くdVenus領域mRNAを発現しているline CとDについて、mRNAを定量解析した結果、全脳トータルRNA 1μg当たりの発現量は以下の通りであった。 line C dVenus領域 mRNA 〜5.0 x 10-17 mol line D dVenus領域 mRNA 〜3.1 x 10-17 mol 野生型 Arc mRNA 〜3.3 x 10-19 mol line Cでは野生型のArc遺伝子mRNAの約160倍、line Dでは約90倍のdVenus領域mRNAが発現していた。実施例5 脳および細胞でのdVenus領域の発現パターンの免疫組織学的解析 line Dトランスジェニックマウス成体を、12時間−12時間の明暗のサイクルで飼育した。 免疫組織学的染色はMatsuo et al., Science 302, 255-259 (2003)に記載のとおりに行った。マウス脳を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で、4℃、36〜48時間で固定し、パラフィン包埋した。4μm厚に切ったスライスをスライドに載せて、脱パラフィンし、水和させて、PBS中の0.25% Triton X-100で25分間室温で処理した。このように作製した検体の抗原反応性を電子レンジにより増強させ、抗蛍光タンパンク質抗体とインキュベートした(A.v. monoclonal antibody JL-8, Takara; 1: 200-1:500)。結合した一次抗体を、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG抗体(Kirkegaard and Perry Laboratories, Gaithersburg, MD; 1:200)とHRPの発色性基質(Histomark orange peroxidase system, Kirkegaard and Perry Laboratories)をまたはCy3結合抗マウスIgG抗体(Millipore; 1:400)を用いて可視化した。核をDAPIで染色した。 結果を図4に示す。大脳皮質と海馬で、dVenus領域由来のタンパク質が発現しているのがわかった。なお図中の組織における符号は以下のとおりである。 GrO 嗅球顆粒層;Cg 帯状皮質;LSD 外側中隔核、背側;M 運動皮質;S 体性感覚皮質;II-VI 体性感覚皮質のII-VI層;CPu 尾状核被殻;Pir 梨状皮質;Tu 嗅結節;CA1-3 海馬のCA1-3野;Rad 放線状層;LMol 網状分子層;Or, 上昇層;Py 錐体細胞層;GrDG 歯状回顆粒細胞層;Mol 歯状回分子層;PoDG, 歯状回多形層 実施例6 dVenus領域蛍光のin vivo経頭蓋蛍光イメージング トランスジェニックマウスを3日間暗所で飼育し、その後7時間白色光下(約1500 lux)で飼育した。 イメージング実験の4〜7日前に、トランスジェニックマウスの頭蓋骨を削って薄くした。全身麻酔し(ウレタン、1.6 g/Kg, i.p.)、頭皮を局部的に塩酸リドカインにより麻酔し、皮膚を切開し、露出した前頭骨と頭頂骨(これらは大脳の背面側のほとんどを覆っている)を、ダイアモンドビット(Mitsutomo, Hyogo, Japan)を装着した高速加工機を用いて注意深く薄く削りって骨層を作製した。薄層化した骨の上に、強度補助のため透明樹脂(Super-bond C&B, Sun medical, Shiga, Japan)充填し、透明性の保持のため透明塗料で上塗りした(Takao et al., Neuroreport 17, 267-271 (2006))。 透明頭蓋骨のマウスをエーテルで軽く麻酔し、頭を定位枠(Narishige, Tokyo, Japan)で固定した。蛍光イメージングはYFPフィルタセット(YFP-B, Keyence)を用いて、冷却CCDカメラ(VB-G25/VB-L11 and VB-7010, Keyence, Osaka, Japan)を装着した落射蛍光顕微鏡により撮影した。同じ視野で画像を撮るために、ブレグマと硬膜静脈を配置の目印として用いた。大脳の背側面のイメージング条件は以下である:倍率25×ズームレンズ;露出時間、1000msec;ISO感受性 400。イメージング時間は通常10分以内で終了し、各撮影後にはマウスを元のケージに戻した。画像の蛍光強度はWinroof software(Mitani, Tokyo, Japan)により解析した。 マウスの左後頭部の蛍光画像を、光刺激前(暗)と光刺激後(明(+))で撮影し、蛍光強度変化についてグレースケール画像(明(+)から暗を差し引きして)を作製した。対応する領域の明視野画像を撮影した。 結果を図5に示す。蛍光は光刺激後に強くなり、非常に大きな変化が見られた。実施例7 頭蓋骨を取り除いた脳の蛍光イメージング 実施例6と同様に飼育したトランスジェニックマウスの脳を、かん流固定した後、頭蓋骨から取り出し、蛍光画像を撮影した。実施例6の画像領域とほぼ同じ領域を撮影した。野生型のマウス脳の蛍光画像を対照として撮影した。 結果を図6に示す。トランスジェニックマウスの明条件での蛍光を明瞭に観察することができた。実施例8 短時間の光刺激後の視覚野におけるArc遺伝子とdVenus領域の発現ダイナミクス トランスジェニックマウスline Dを暗所で飼育し、光(約1500 lux)に1時間さらし、そして暗所に戻した。蛍光強度、Arc遺伝子mRNAとdVenus領域mRNAの発現量を、実施例4および6と同様の手法で定量した。蛍光強度、Arc遺伝子mRNAとdVenus領域mRNAの発現量の各々について、光照射0時間に測定した値(蛍光強度の場合は平均値)を100として表示した。蛍光強度は相対値の平均±SEM(n=3〜21)で示した。グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)を、mRNA定量の対照として用いた。 結果を図7に示す。蛍光は刺激開始5時間後にピークを迎え、その後、約10時間で元のレベルに戻った。実施例9 通常の明暗サイクルで飼育した場合の大脳皮質におけるdVenus領域の発現ダイナミクス トランスジェニックマウスを通常の12時間−12時間の明暗のサイクルで飼育した。明期に3時間おき計4回、大脳皮質の広い範囲で、1匹のトランスジェニックマウスについて連続して蛍光を観察した。最初に撮影した画像を基準とした変化量について、グレースケール画像を作製した。 結果を図8に示す。視覚野では、時間が経つにつれ蛍光が増強した。体性感覚野の領域では、逆に蛍光がだんだんと弱くなっていった。マウスが夜行性のために、昼間はあまり、体性感覚を使わないためと考えられた。実施例10 海馬スライス組織培養を用いた細胞レベルの解析 海馬神経細胞におけるホルスコリン投与後のレポータ蛍光の誘導について解析した。海馬スライス組織培養物を、トランスジェニックマウスより作製した。トランスジェニックマウス(line D)の新生仔(3〜10日齢)の海馬を顕微鏡下で切り出し、氷冷Gey平衡塩類溶液(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)中に回収した。Yamaguchi et al., Science 302, 1408-1412 (2003)の記載に従って、横断面の切片(400μm厚)を組織チョッパーで作製し、膜上(Millicell-CM, Millipore,Billerica, MA)に置いた。組織を13〜18日間培養した後、dVenus領域の発現誘導のために培養培地にホルスコリン(10 μM, Sigma-Aldrich)を添加し、経時的に蛍光画像を撮影した。高倍率レンズ(175 x)を用いた以外は実施例6と同様の方法で、蛍光イメージング解析を行った。 その結果を、図9に示す。ホルスコリン誘導後、3時間後には蛍光が観察可能になり、24時間後には非常に強い蛍光を示した。これらの蛍光は細胞レベルで観察可能であった。実施例11 海馬スライス組織培養を用いた細胞レベルの解析(シクロヘキシミド処理) 実施例10の手法と同様にホルスコリンでdVenus領域発現を誘導した後(10 μM, 14 hr)、 さらにシクロヘキシミド(10 μg/ml)を培養培地に添加した。シクロヘキシミド処理中とシクロヘキシミド除去後(洗い流し)に撮影した。代表的な歯状回顆粒細胞(30細胞)の各細胞の蛍光強度の変化を観察した。歯状回顆粒細胞(全60細胞)を、シクロヘキシミド投与後0時間での蛍光強度に基づいて3つの群に分け(各20細胞)、各群の平均値に最も合致した一つの指数関数の減衰曲線を作成した。また、各細胞について50%蛍光レベルまで減少するのに必要な時間を観察した。 結果を図10に示す。Aは経時的に撮影した蛍光画像を示す。シクロヘキシミド添加後から蛍光が減少し続けた。シクロヘキシミド除去7時間後には、蛍光が回復した。Bは、歯状回顆粒細胞30細胞の変化(薄い灰色の細線)と、各細胞群の平均値を示すグラフである。高蛍光強度群を黒色の破線で、中程度の蛍光強度群を青色の破線(濃い灰色の破線)で、低蛍光強度群を緑色の破線(薄い灰色の破線)で示す。バックグラウンドの平均蛍光強度まで減少するのに、はじめの蛍光強度に応じた時間が必要であった。50%蛍光レベルまで減少するのに必要な時間とはじめの蛍光強度の間には強い相関がみられた(C)。実施例12 光刺激により誘導されるdVenus領域発現の免疫組織学的解析 視覚野を含む冠状断面を、抗蛍光タンパク質抗体を用いて解析した。実施例6と実施例7と同様にしてトランスジェニックマウス(line D)を飼育した。一次視覚野と二次視覚野との間の境界はNissl染色により決定した。 結果を図11に示す。AはNissl染色の画像である。一次視覚野(A17)と二次視覚野(A18aとA18b)との間の境界を、矢頭で示す。暗条件のマウスではdVenus領域タンパク質が発現していないが(B)、明(+)条件のマウスでは、dVenus領域タンパク質が発現していることがわかった(C)。なお図中の組織における符号は以下のとおりである。I-VI 大脳皮質の層I-VI;DG 海馬歯状回;CA1 海馬のCA1領域 以上説明したように、本発明のベクターを用いることにより、動物において、野生型の遺伝子を壊すことなく、in vivoでの遺伝子解析が可能となった。レポータ領域の発現は、同じプロモータが誘導する内因性遺伝子と比較して非常に強く発現するため、組織内でのレポータ遺伝子によるシグナルの観察は容易に、しかも広い範囲の領域で可能であった。また、レポータ遺伝子による産物は、分解促進型であるため、時間の経過により生体内で分解されてシグナルが低くなるため、再度同一個体を用いて、解析を行うことも可能である。本発明のベクターにより作製されたトランスジェニック非ヒト動物は、臓器内における遺伝子機能の詳細な解析、および当該遺伝子の関与する疾患の治療法および治療薬の開発に貢献することができる。本発明のベクターの構造の図を示す。AはdVenus領域、Bは分解促進型レポータタンパク質発現コンストラクトを示す。(実施例1)NIH3T3細胞で発現させたdVenus領域とVenus遺伝子の蛍光強度の比較の図を示す。(実施例3)野生型マウスにおけるArc mRNA発現の組織分布(A)と、トランスジェニックマウスにおけるdVenus領域mRNA発現の組織分布(B)を示す。(実施例4)トランスジェニックマウスの免疫組織学的解析による脳内のdVenus領域の局部的発現パターンを示す。(実施例5)トランスジェニックマウスの視覚野における光刺激によるdVenus領域誘導(in vivo経頭蓋イメージング)を示す。(実施例6)トランスジェニックマウスの視覚野における光刺激によるdVenus領域誘導(頭蓋骨から取り出した脳)を示す。(実施例7)トランスジェニックマウスの短時間光刺激による視覚野でのdVenus領域発現のダイナミクスを示す。(実施例8)トランスジェニックマウスを通常の明暗サイクルで飼育した場合のdVenus領域発現のダイナミクスを示す。(実施例9)トランスジェニックマウスの海馬スライス組織培養を用いた細胞レベルの蛍光解析結果を示す(ホルスコリンによる誘導)。(実施例10)トランスジェニックマウスの海馬スライス組織培養を用いたシクロヘキシミド処理による影響を示す。(実施例11)光刺激により誘導されるdVenus領域発現の免疫組織学的解析を示す。(実施例12)刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域、イントロン領域、および分解促進型レポータタンパク質をコードする領域を含むベクター。イントロン領域が、下記1)および2)のいずれか1つに記載の塩基配列からなる、請求項1に記載のベクター:1)配列番号1に記載の塩基配列2)配列番号1に記載の塩基配列において1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/もしくは付加された塩基配列であって、スプライシング効率を促進しうる機能を有する塩基配列。分解促進型レポータタンパク質をコードする領域が、下記1)〜3)のいずれか1つに記載の塩基配列からなる、請求項1または2に記載のベクター。1)配列番号2に記載の塩基配列、2)配列番号3に記載の塩基配列、3)配列番号2もしくは3に記載の塩基配列において1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列であって、分解促進型のレポータタンパク質を産生しうる塩基配列。刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域が、下記1)および2)のいずれか1つに記載の塩基配列からなる、請求項1〜3のいずれか1つに記載のベクター:1)配列番号4に記載の塩基配列2)配列番号4に記載の塩基配列に1個以上のヌクレオチドが置換、欠失、挿入および/または付加された塩基配列であって、刺激に応答して遺伝子の発現を誘導しうる塩基配列。非ヒト動物において、分解促進型レポータタンパク質をコードする領域が分解促進型レポータタンパク質を発現しうる、請求項1〜4のいずれか1に記載のベクター。請求項1〜5のいずれか1に記載のベクターを用いて、トランスジェニック非ヒト動物を作製する方法。請求項6に記載の方法により作製された、トランスジェニック非ヒト動物。 【課題】本発明は、生体内の臓器機能に対応して発現に変化が生じる遺伝子について、その発現動態をin vivoでリアルタイムに観察するための手法を開発することを課題とする。【解決手段】刺激に応答して発現する遺伝子のプロモータ領域、イントロン領域、および分解促進型レポータタンパク質をコードする領域を含むベクターによる。さらには、当該ベクターを用いてトランスジェッニク非ヒト動物を作製する方法、および当該ベクターを用いて作製されたトランスジェニック非ヒト動物による。【選択図】図1配列表


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