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タイトル:再公表特許(A1)_抗がん剤による末梢神経障害の予防又は軽減剤
出願番号:2008065399
年次:2010
IPC分類:A61K 35/36,A61K 35/12,A61K 39/285,A61P 25/02,A61P 25/04,A61P 43/00,A61K 35/76


特許情報キャッシュ

大石 了三 伊藤 善規 江頭 伸昭 JP WO2009028605 20090305 JP2008065399 20080828 抗がん剤による末梢神経障害の予防又は軽減剤 国立大学法人九州大学 504145342 日本臓器製薬株式会社 000231796 萼 経夫 100068618 宮崎 嘉夫 100104145 加藤 勉 100104385 小山 京子 100156889 伴 知篤 100163360 大石 了三 伊藤 善規 江頭 伸昭 JP 2007225420 20070831 JP 2008032626 20080214 A61K 35/36 20060101AFI20101105BHJP A61K 35/12 20060101ALI20101105BHJP A61K 39/285 20060101ALI20101105BHJP A61P 25/02 20060101ALI20101105BHJP A61P 25/04 20060101ALI20101105BHJP A61P 43/00 20060101ALI20101105BHJP A61K 35/76 20060101ALI20101105BHJP JPA61K35/36A61K35/12A61K39/285A61P25/02A61P25/04A61P43/00 121A61K35/76 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MT,NL,NO,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20101202 2009530176 17 4C085 4C087 4C085AA03 4C085BA86 4C085CC08 4C085EE03 4C087AA01 4C087AA02 4C087BB48 4C087BC83 4C087CA06 4C087CA08 4C087NA06 4C087ZA20 4C087ZB26本発明は、ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の新規な医薬用途に関するものであり、具体的にはワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を有効成分として含有する抗がん剤による末梢神経障害の予防又は軽減剤に関する。今日、がん(悪性腫瘍)の治療においては、外科手術、放射線照射、化学療法がそれぞれ単独又は併用で適宜用いられている。このうち、化学療法で用いられる抗がん剤(抗悪性腫瘍剤)は、本来、細胞毒性、細胞障害性を有するものであり、がん(悪性腫瘍)細胞だけでなく人間の正常細胞をも傷害することによる副作用が発生するため、かかる副作用をできるだけ予防又は軽減しつつ、十分な抗がん(抗悪性腫瘍)効果が発揮されるように患者に投与されることが重要である。抗がん剤投与に伴う副作用としては、血液障害、消化器障害、神経障害が挙げられるが、最近の傾向としては、特に急性又は慢性の神経障害の問題が増大している。これは、著しい抗がん効果を発揮する新しい抗がん剤による主な副作用が神経障害である場合が多いことや、最近の治療の中心となっている多剤併用療法による影響や、血液障害や消化器障害の副作用については改善傾向にあることが原因と考えられている。このように、現在、がんの化学療法に伴う副作用の中心となっている神経障害は、神経細胞の再生が困難であることから、いったん発現すると有効な対策がなく、重篤な症状を呈したり、不可逆的障害になったりすることがあるため、治療上重要な問題となっている。抗がん剤投与に伴う神経障害は、中枢神経系、自律神経系、末梢神経系のほかに、味覚等の感覚器にも認められる。このうち、発生頻度が比較的高く問題となっているのが、刺痛や焼けるような痛み等の疼痛、四肢末端のしびれ、灼熱感等の知覚異常、冷感刺激に対する過敏等の知覚過敏、感覚消失・感覚麻痺や違和感等の感覚異常、知覚性運動失調、筋力の低下等の末梢神経系の神経障害である。この抗がん剤投与による末梢神経系の病変は、主として軸索の変性によると考えられている。軸索内にある微小管は細胞分裂の際に紡錘体を形成したり、細胞内小器官の配置や物質輸送など、細胞の正常機能の維持に重要な役割を果たしているが、パクリタキセル、ドセタキセル等のタキサン系薬剤や、ビンクリスチン、ビンプラスチン、ビンデシン、ビノレルビン等のビンアルカロイド系薬剤は、微小管を標的として作用することにより、悪性腫瘍細胞の増殖を抑えるため、正常な神経細胞の微小管も傷害されて神経障害を起こすと考えられている。また、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等の白金製剤は神経細胞を直接傷害する結果、二次的に軸索障害をきたすと考えられている。しかしながら、抗がん剤による神経毒性は研究があまり進んでいない領域であり、神経障害の予防・対症方法は確立されていない。そのため、しびれ症状の緩和のためにはメコバラミン等のビタミン製剤や漢方薬の牛車腎気丸を用いたり、疼痛に対しては、抗うつ薬(塩酸アミトリプチン)、抗てんかん薬(カルバマゼピン)、抗不整脈薬(塩酸メキシレチン)や副腎皮質ステロイド等が使われたりしているが、現在のところ、根治又は予防法は確立されておらず、薬剤投与を中止・減量することが神経障害を食い止める唯一の確実な方法である(ただし、投与中止後も神経障害は持続し又は増悪することもある)。以上のような現状から、抗がん剤による神経障害に対して、有効な予防又は軽減剤が臨床現場で強く求められていた。本発明薬剤の有効成分であるワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物については、鎮痛作用、鎮静作用、抗ストレス作用、抗アレルギー作用(特許文献1参照)、免疫促進作用、抗癌作用、肝硬変抑制作用(特許文献2参照)、特発性血小板減少性紫斑病に対する治療効果(特許文献3参照)、帯状疱疹後神経痛、脳浮腫、痴呆、脊髄小脳変性症等への治療効果(特許文献4参照)、レイノー症候群、糖尿病性神経障害、スモン後遺症等への治療効果(特許文献5参照)、カリクレイン産生阻害作用、末梢循環障害改善作用(特許文献6参照)、骨萎縮改善作用(特許文献7参照)、敗血症やエンドトキシンショックの治療に有効な一酸化窒素産生抑制作用(特許文献8参照)、骨粗鬆症に対する治療効果(特許文献9参照)、Nef作用抑制作用やケモカイン産生抑制作用に基づくエイズ治療効果(特許文献10、11)、脳梗塞等の虚血性疾患に対する治療効果(特許文献12)、線維筋痛症に対する治療効果(特許文献13)、感染症に対する治療効果(特許文献14)などが開示されている。特に、特許文献5においては、本発明薬剤の有効成分であるワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物が、生体局所の血流障害により虚血状態に陥った組織や臓器の機能障害に伴って生じるしびれ、疼痛、四肢冷感、知覚異常等の症状を改善することが記載されている。しかしながら、特許文献5に開示されているワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物によるしびれ、疼痛、四肢冷感、知覚異常等の改善作用は、血流障害による虚血状態に対する血流改善作用に基づく効果であって、本発明のような抗がん剤投与の副作用(細胞傷害)によって生じる末梢神経障害の予防又は軽減作用は、全く異なる発症メカニズムに基づく末梢神経障害に対する該抽出物の効果であり、今までに知られていない知見である。すなわち、該抽出物が、抗がん剤投与による神経軸索の微小管の障害、神経軸索の脱髄、神経細胞への直接障害等に起因して生じると考えられている末梢神経障害の軽減等に有効であることは知られておらず、そのような医薬用途に関する発表や報告はこれまで行われていない。特開昭53−101515号公報特開昭55−87724号公報(第3、5、6頁)特開平1−265028号公報(第1、2頁)特開平1−319422号公報(第3、4頁)特開平2−28119号公報(第3頁)特開平7−97336号公報(第4頁)特開平8−291077号公報特開平10−194978号公報特開平11−80005号公報(第2、3頁)特開平11−139977号公報特開2000−336034号公報(第2、3頁)特開2000−16942号公報国際公開WO2004/039383号公報特開2004−300146号公報本発明の目的は、抗がん剤投与時の副作用として発現する末梢神経障害の予防又は軽減に有効で且つ安全性が高い薬剤を提供することにある。本発明者らは、鋭意研究を行った結果、ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物が抗がん剤による末梢神経障害に対して優れた予防又は軽減効果を示すことを見出し、発明を完成した。ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物は、抗がん剤の投与によって引き起こされる末梢神経障害を予防又は軽減するという優れた薬理作用を有する。また、該抽出物を有効成分として含有する本発明薬剤は、副作用等の問題点の少ない安全な薬剤であり、極めて有用性の高いものである。図1は、パクリタキセル投与によって生じる知覚過敏に対する本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の軽減作用をフォン・フライ試験において調べた結果である。図2は、パクリタキセル投与によって生じる知覚異常に対する本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の軽減作用をアセトン試験において調べた結果である。図3は、パクリタキセルによって誘発される神経突起伸展阻害に対する本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の抑制作用を、PC12細胞を用いて調べた結果である。図4は、パクリタキセルによって誘発される神経突起伸展阻害に対する本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の抑制作用を、DRG細胞を用いて調べた結果である。図5は、オキサリプラチンによって生じる知覚過敏に対する本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の軽減作用をフォン・フライ試験において調べた結果である。図6は、オキサリプラチンによって生じる知覚過敏に対する本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の軽減作用をコールドプレート試験において調べた結果である。本発明は、ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を有効成分として含有する抗がん剤による末梢神経障害の予防又は軽減剤に関する。本発明における末梢神経障害を発現する抗がん剤は、特に微小管に傷害を与えて末梢神経障害を引き起こす抗がん剤である。そのような薬剤としては、パクリタキセル、ドセタキセル等のタキサン系薬剤や、ビンクリスチン、ビンプラスチン、ビンデシン、ビノレルビン等のビンアルカロイド系薬剤を挙げることができる。加えて、神経細胞の傷害により軸索障害をきたすことにより末梢神経障害を引き起こす薬剤として、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等の白金製剤が挙げられる。これらの抗がん剤による末梢神経障害としては、疼痛、しびれ、知覚異常、感覚異常、知覚過敏等があり、そのため、物がうまくつかめない、ボタンがかけにくい、歩行障害等の運動失調や深部腱反射の低下等が起こるといった日常生活上の障害が生じる。本発明薬剤が予防・改善対象とする抗がん剤による末梢神経障害は、一種類の抗がん剤を用いた単剤療法で生じる末梢神経障害は勿論のこと、作用機序の異なる複数の薬剤を組合わせて投与する多剤併用療法や、作用機序の異なる薬剤が最大の有効性を発揮できるように薬剤の組合わせや投与方法に工夫をこらすバイオケミカル・モジュレーション(biochemical modulation)の療法において発生する末梢神経障害を包含するものである。本発明薬剤に用いるワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物に関して、ワクシニアウイルスを接種した炎症組織において産生される生理活性物質、該物質を病態組織から抽出する方法並びにそれらの薬理活性などについては上述のように種々報告されている(上記特許文献1乃至14等)。また市販されている医薬品としてはワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液製剤がある。この製剤は、医療用医薬品集〔2007年版、財団法人日本医薬情報センター編集・発行〕の2697-2699頁に記載されているように、ワクシニアウイルスを接種した家兎の炎症皮膚組織から抽出分離した非タンパク性の活性物質を含有する薬剤であり、腰痛症、頸肩腕症候群、症候性神経痛、肩関節周囲炎、変形性関節症、皮膚疾患(湿疹、皮膚炎、じんま疹)に伴う掻痒、アレルギー性鼻炎、スモン後遺症状の冷感・異常知覚・痛み、帯状疱疹後神経痛等に対する適応が認められており、皮下、筋注、静注用の注射剤並びに錠剤が医療用医薬品として製造承認を受けて市販されている。本発明薬剤に用いるワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物は上述したようなワクシニアウイルス接種炎症組織から抽出した非蛋白性の生体機能調整物質であり、前記の医療薬日本医薬品集にも掲載されているワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液製剤は医薬品の製造承認を受け市販されており入手可能である。また上述した特許文献に記載されている種々のワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を本発明物質として利用でき、それらの製造方法や好ましい投与量なども文献中に説明されている。本発明薬剤に用いるワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物は、ワクシニアウイルスを接種して発痘した炎症組織を破砕し、抽出溶媒を加えて組織片を除去した後、除蛋白処理を行い、これを吸着剤に吸着させ、次いで有効成分を溶出することによって得ることができる。ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物は、例えば、以下の工程で製造される。(a)ワクシニアウイルスを接種し発痘させたウサギ、マウス等の皮膚組織等を採取し、発痘組織を破砕し、水、フェノール水、生理食塩液またはフェノール加グリセリン水等の抽出溶媒を加えた後、濾過または遠心分離することによって抽出液(濾液または上清)を得る。(b)前記抽出液を酸性のpHに調整して加熱し、除蛋白処理する。次いで除蛋白した溶液をアルカリ性に調整して加熱した後に濾過または遠心分離する。(c)得られた濾液または上清を酸性とし活性炭、カオリン等の吸着剤に吸着させる。(d)前記吸着剤に水等の抽出溶媒を加え、アルカリ性のpHに調整し、吸着成分を溶出することによってワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を得ることができる。その後、所望に応じて、適宜溶出液を減圧下に蒸発乾固または凍結乾燥することによって乾固物とすることもできる。ワクシニアウイルスを接種し炎症組織を得るための動物としては、ウサギ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、サル、ラット、マウスなどワクシニアウイルスが感染する種々の動物を用いることができ、炎症組織としてはウサギの発痘皮膚組織が好ましい。これら炎症組織を採取して破砕し、その1乃至5倍量の抽出溶媒を加えて乳化懸濁液とする。抽出溶媒としては、蒸留水、生理食塩水、弱酸性乃至弱塩基性の緩衝液などを用いることができ、グリセリン等の安定化剤、フェノール等の殺菌・防腐剤、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の塩類などを適宜添加してもよい。この時、凍結融解、超音波、細胞膜溶解酵素又は界面活性剤等の処理により細胞組織を破壊して抽出を容易にすることもできる。得られた乳状抽出液を濾過又は遠心分離等によって組織片を除去した後、除蛋白処理を行う。除蛋白操作は、通常行われている公知の方法により実施でき、加熱処理、蛋白質変性剤、例えば、酸、塩基、尿素、グアニジン、アセトン等の有機溶媒などによる処理、等電点沈澱、塩析等の方法を適用することができる。次いで、不溶物を除去する通常の方法、例えば、濾紙(セルロース、ニトロセルロース等)、グラスフィルター、セライト、ザイツ濾過板等を用いた濾過、限外濾過、遠心分離などにより析出してきた不溶蛋白質を除去する。こうして得られた有効成分含有抽出液を、塩酸、硫酸、臭化水素酸等の酸を用いて酸性、好ましくはpH3.5乃至5.5に調整し、吸着剤への吸着操作を行う。使用可能な吸着剤としては、活性炭、カオリン等を挙げることができ、抽出液中に吸着剤を添加し撹拌するか、抽出液を吸着剤充填カラムに通過させて、該吸着剤に有効成分を吸着させることができる。抽出液中に吸着剤を添加した場合には、濾過や遠心分離等によって溶液を除去して、有効成分を吸着させた吸着剤を得ることができる。吸着剤より有効成分を溶出(脱離)させるには、前記吸着剤に溶出溶媒を加え、室温又は適宜加熱して或いは撹拌して溶出し、濾過や遠心分離等の通常の方法で吸着剤を除去して達成できる。用いられる溶出溶媒としては、塩基性の溶媒、例えば塩基性のpHに調整した水、メタノール、エタノール、イソプロパノール等又はこれらの適当な混合溶液を用いることができ、好ましくはpH9乃至12に調整した水を使用することができる。このようにして得られた抽出物(溶出液)は、製剤用原体や医薬品製剤として好ましい形態に適宜調製することができる。例えば、溶液のpHを中性付近に調整して製剤用原体とすることもでき、また濃縮・希釈によって所望の濃度に合せることもできる。さらに注射用製剤として塩化ナトリウムを加えて生理食塩液と等張の溶液に調製することもできる。また、これら溶液を濃縮乾固又は凍結乾燥することによって、錠剤等の原料として利用できる固形物の形態に調製してもよい。患者への投与方法としては、経口投与の他に皮下、筋肉内、静脈内投与等が挙げられ、投与量はワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の種類によって適宜設定することができる。市販製剤で認められている投与量は、前記の医療用医薬品集(2697頁)によれば、基本的には内服では1日16NU、注射剤では1日3.6乃至7.2NUを投与するよう医療用医薬品としては示されているが、疾患の種類、重傷度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減可能である(NU:ノイロトロピン単位。ノイロトロピン単位とは、疼痛閾値が正常動物より低下した慢性ストレス動物であるSARTストレスマウスを用い、Randall-Selitto変法に準じて試験を行い、鎮痛効力のED50値をもって規定する。1NUはED50値が100 mg/kgであるときのノイロトロピン製剤の鎮痛活性含有成分1mgを示す活性である。)以下に、ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の製造方法の例、並びに該抽出物の新規な薬理作用、すなわち抗がん剤による神経障害の予防又は軽減作用に関する薬理試験結果を示すが、本発明はこれらの実施例の記載によって何ら制限されるものではない。実施例1健康な成熟家兎の皮膚にワクシニアウイルスを接種し、発痘した皮膚を剥出し、これを破砕してフェノール水を加えた。次いでこれを加圧濾過し、得られた濾液を塩酸でpH5に調整した後、90〜100℃で30分間加熱処理した。濾過して除蛋白した後、水酸化ナトリウムでpH9とし、さらに90〜100℃で15分間加熱処理した後濾過した。濾液を塩酸で約pH4.5に調整し、2%の活性炭を加えて2時間撹拌した後、遠心分離した。採取した活性炭に水を加え、水酸化ナトリウムでpH10とし、60℃で1.5時間撹拌した後、遠心分離濾過して上清を得た。採取した活性炭に再び水を加え、水酸化ナトリウムでpH11とし、60℃で1.5時間撹拌した後、遠心分離して上清を得た。両上清を合せて、塩酸で中和し、ワクシニアウイルス接種家兔炎症皮膚抽出物を得た。以下の薬理試験では実験に適した濃度に適宜調整して使用した。実施例2健康な成熟家兎の皮膚にワクシニアウイルスを接種し感染させた後、発痘した皮膚を無菌的に剥出しこれを細切した後フェノール加グリセリン水を加え、ホモゲナイザーで磨砕し乳状とした。次いでこれを濾過し、得た濾液を塩酸で弱酸性(pH4.5乃至5.5)に調整した後、100℃で加熱処理し濾過した。濾液を水酸化ナトリウムで弱アルカリ性(pH8.5乃至10.0)とし、さらに100℃で加熱処理した後濾過した。濾液を塩酸で約pH4.5とし、約1.5%の活性炭を加えて1乃至5時間撹拌した後濾過した。濾取した活性炭に水を加え水酸化ナトリウムでpH9.4乃至10に調整し、3乃至5時間撹拌した後、濾過し濾液を塩酸で中和した。実施例3健康な成熟家兎の皮膚にワクシニアウイルスを接種し、活性化させた後、活性化した皮膚を無菌的に剥出し、これを細切して水を加え、ホモゲナイザーで磨砕し乳状物とした。次いでこれを加圧濾過し、得られた濾液を塩酸でpH5.0に調整した後、流通蒸気下100℃で加熱処理した。濾過して除蛋白した後、水酸化ナトリウムでpH9.1とし、さらに100℃で加熱処理した後濾過した。濾液を塩酸でpH4.1に調整し、活性炭2%を加えて2時間撹拌した後濾過した。濾液は更に活性炭5.5%を加えて2時間攪拌した後濾過した。最初に濾取した活性炭に水を加え、水酸化ナトリウムでpH9.9とし、60℃で1.5時間撹拌した後濾過した。最初の活性炭及び次の活性炭に水を加え、水酸化ナトリウムでpH10.9とし、60℃で1.5時間撹拌した後濾過した。濾液を合わせ塩酸で中和した後、分子量100の膜を用いた電気透析法で脱塩処理を行い、減圧下に乾固した。次に、上記実施例1で得られた本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を被験薬として用いた抗がん剤による神経障害の軽減作用に関する薬理試験の結果の一例を示す。なお、全ての薬理試験において、有意差検定にはTukey-Kramer法を用いた。薬理試験1:パクリタキセルによるラット末梢神経障害に対する作用抗がん剤のパクリタキセルを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア(通常痛みを引き起こさない触覚刺激で惹起される激痛)等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対する本発明抽出物(実施例1で製造されたワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出物)の効果を調べた。本発明抽出物を被験薬としてラットに経口投与し、以下の実験(von Frey test及びacetone test)を行った。(1)被験薬の投与実験動物として7〜8週齢のSD雄性ラットを用い、コントロール群、パクリタキセル投与群、パクリタキセル及び被験薬投与群(パクリタキセル+被験薬投与群)の3群に群構成した。パクリタキセル投与群には、パクリタキセルの週1回の腹腔内投与(6mg/kg)を4週間継続して計4回実施した。パクリタキセル+被験薬投与群については、被験薬をパクリタキセルの投与直前、投与1日後、投与2日後の週3回の経口投与(200NU/kg)を4週間継続して計12回実施した。なお、コントロール群にはパクリタキセル投与における溶媒(ポリオキシエチレンヒマシ油:エタノール=1:1)を同様に投与した。(2)フォン・フライ試験(von Frey test)底が金網になっているケージに、上記(1)の3群のラットを入れ、1時間順化させた後、von Freyフィラメントの2、4、6、8、10、15gの強度のものを用い、後肢裏に対して垂直にフィラメントが曲るまで押し付けて6秒間静止し、左右6回ずつ施行して回避反応の回数を測定した。尚、測定は投与開始から、0、2、4、5、6週間後に行った。フィラメント強度(g)をx、回避反応数をyとした散布図を作成後、最小二乗法を用いて描写したy = A/(1+ (exp(−B×(x−C)))のシグモイド曲線をもとに、6回(50%)の反応に相当するフィラメント強度を50%反応閾値として算出し、被験薬のアロディニアに対する効果を試験した。上記試験結果の一例を図1に示す。パクリタキセル投与群ではコントロール群に比べて著しく50%反応閾値が低下した。パクリタキセルに本発明抽出物を併用して投与したパクリタキセル+被験薬投与群では、コントロール群と同程度の50%反応閾値を示し、パクリタキセル投与群と比較して有意に50%反応閾値の低下を抑制した。また、パクリタキセル+被験薬投与群においては、被験薬の投与を終了した後も、疼痛閾値の低下の抑制を維持し続けることが認められた。以上の結果から、本発明抽出物は、パクリタキセルによる知覚過敏に対して優れた予防又は改善作用を有することが確認された。(3)アセトン試験(Acetone test)底が金網になっているケージに、上記(1)の3群のラットを各々入れ、1時間順化させた後、MicroSprayer(PENN-CENTURY社製)を用いて後足にアセトン50μLを5秒間かけて噴霧し、アセトンの気化時の冷却作用を利用して冷刺激を与えた。噴霧開始から40秒間ラットの回避反応を観察し、反応するまでの時間(潜時)を記録した。試験は左右3回ずつ行って平均値を算出した。上記試験結果の一例を図2に示す。アセトンによる冷刺激に対して、パクリタキセル投与群では著しく潜時が短縮されたが、パクリタキセル+被験薬投与群では、コントロール群とほぼ同程度に潜時が回復した。以上の結果から、本発明抽出物は、パクリタキセルによる知覚異常(冷感刺激に対する過敏)に対して優れた効果を有することが確認された。なお、熱刺激による試験(Plantar test)においては、パクリタキセル投与による潜時の短縮は見られず、パクリタキセル+被験薬投与群においても、コントロール群とパクリタキセル投与群と潜時は同等であった。抗がん剤による末梢神経障害の症状においては冷感刺激に対して過敏になることが特徴的に挙げられるが、本試験(Acetone test)はこの症状を反映したものであり、抗がん剤による知覚過敏に対する本発明抽出物の優れた予防又は改善作用を示すものである。薬理試験2:in vitro試験系でのパクリタキセルによる神経細胞変性に対する作用抗がん剤であるパクリタキセル処置により起こる神経細胞変性に対する本発明抽出物の薬理作用を調べる目的で、神経分化・突起伸展のモデル細胞株であるラット副腎クロム親和性細胞種(PC12, Pheochromocytoma 12)及び脊髄後根神経節(dorsal root ganglia, DRG)の細胞を用いて以下の実験を行った。(1)細胞の培養 PC12細胞は5%ウシ胎児血清、10%ウマ血清、100単位/ml ペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco BRL社製)を含むRPMI1640培地(MP Biomedicals社製)を用い、37℃、5%CO2インキュベーターで80cm3フラスコにて培養した。また、DRG細胞は雄性Sprague-Dawley系ラットより取り出し初代培養した後、L4−5のDRG 5節をコラゲナーゼ タイプI(フナコシ社製)及びディスパーゼI(三光純薬社製)にて処理し、24wellプレートに藩種し培養した。尚、培養は10%ウシ胎児血清、100unit/ml ペニシリン‐ストレプトマイシン(Gibco BRL社製)を含むDulbecco's modified Eagle's培地(DMEM培地、MP Biomedicals社製)を用い、37℃、5%CO2インキュベーターにて行った。(2)薬物の処置及び神経突起の長さの測定PC12細胞を24wellプレートに10,000cell/wellで播種し、3時間後にフォスコリン10μMを処置し突起を伸展させ、24時間後に薬物の処置を行った。また、DRG細胞については1週間培養し、細胞の接着及び突起の伸展を確認後、薬物の処置を行った。なお、薬物はパクリタキセル10ng/mLのみの場合及びパクリタキセル10ng/mLにさらに各濃度の被験薬(0.001、0.003、0.01、0.03NU/mL)を併用した場合とを各々処置した。薬物を処置した24及び96時間後に各々所定の濃度の薬物及び被験薬を含む新しい培地に交換し、168時間後にトリパンブルー染色液にて死細胞を染め分け、光学顕微鏡で写真を撮像した(×200, 3視野/well)。撮像後、解析ソフトImage Jにて生細胞における突起の長さを測定した。上記試験結果の一例を図3及び4に示す。PC12細胞及びDRG細胞のいずれにおいても、パクリタキセルによって神経突起の伸展が阻害されるが、本発明抽出物を併用して処置することにより、濃度依存的に突起伸展阻害が有意に抑制されることが認められた。特に、神経細胞であるDRG細胞において上記効果が認められたことから、本発明抽出物の末梢神経障害の軽減作用は、神経突起伸展障害に対する抑制がその作用機序の一つであるということが示唆された。薬理試験3:オキサリプラチンによるラット末梢神経障害に対する作用上記の薬理試験1と同様に、白金製剤であるオキサリプラチンを投与した場合に生じる機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常に対する本発明抽出物(実施例1で製造されたワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出物)の効果を調べた。オキサリプラチンは最も末梢神経障害を引き起こしやすい薬剤であり、本障害を予防・改善する方法が強く望まれている。(1)被験薬の投与薬理試験1と同様に、コントロール群、オキサリプラチン投与群、オキサリプラチン及び被験薬投与群(オキサリプラチン+被験薬投与群)の3群にラットを群構成した。オキサリプラチン(100mg凍結乾燥製剤)は5%ブドウ糖液に溶解して用いた。オキサリプラチン投与群には、オキサリプラチンを2日間連続週2回の腹腔内投与(4mg/kg)を4週間継続して計8回実施した。オキサリプラチン+被験薬投与群については、被験薬をオキサリプラチンの投与開始日、2日目、3日目の週3回、経口投与(200NU/kg)した。被験薬はオキサリプラチン投与直前に投与し、4週間継続して計12回実施した。なお、コントロール群にはオキサリプラチン投与における溶媒(5%ブドウ糖液)を同様に投与(1mL/kg)した。(2)フォン・フライ試験(von Frey test)薬理試験1(2)と同様にして、毎週、オキサリプラチン投与開始日から6日目にフォン・フライ試験を行い、被験薬のアロディニアに対する効果を試験した。上記試験結果の一例(2週目)を図5に示す。上記試験の2週目には、オキサリプラチン投与群ではコントロール群に比べて著しく50%反応閾値が低下した。これに対し、オキサリプラチンに本発明抽出物を併用して投与したオキサリプラチン+被験薬投与群では、コントロール群と同程度の50%反応閾値を示し、オキサリプラチン投与群と比較して有意に50%反応閾値の低下を抑制した。以上の結果から、本発明抽出物は、オキサリプラチンによる知覚過敏に対して優れた予防又は改善作用を有することが確認された。(3)コールドプレート試験(Cold plate test)オキサリプラチン投与開始日から5日目にコールドプレート試験を行い、低温刺激における知覚異常に対する被験薬の効果を試験した。試験前日に上記(1)の3群のラットをコールドプレート(Hot/Cold plate Cat. No.35100 Ugo Basile Biological Research Aparatus社製)上に30分間を置いて充分に順化させた。試験当日は4℃に設定したコールドプレート上にラットをのせ、150秒間ラットの行動を観察し、後足の回避までの反応時間(潜時)を測定した。尚、行動観察は試験実施者の先入観を排除するため、ラット各群の投与薬物が判らないように配慮して行った。試験は3回行って平均し、平均値・標準誤差を算出した。多群間の比較は、一元配置分散分析(one-way ANOVA)後、各群間の比較を他の薬理試験と同様に、Tukey-Kramer法により検定を行った。検定にはStat View (Abacus Concepts, Berkely, CA, USA)を用い、5%未満(p<0.05)の危険率を有意差とみなした。上記試験結果の一例(2週目)を図6に示す。上記試験の2週目には、コールドプレートにおける冷刺激に対して、オキサリプラチン投与群では著しく潜時が短縮されたが、オキサリプラチン+被験薬投与群では、コントロール群とほぼ同程度に潜時が回復した。以上の結果から、本発明抽出物は、オキサリプラチンによる知覚異常(冷感刺激に対する過敏)に対して優れた効果を有することが確認された。パクリタキセルと同様に、オキサリプラチンによる末梢神経障害の症状においては冷感刺激に対して過敏になることが特徴的に挙げられるが、上記薬理試験1(3)のアセトン試験の結果と同様に、本試験(コールドプレート試験)もこの症状を反映したものであり、抗がん剤による知覚過敏に対する本発明抽出物の優れた予防又は改善作用を示すものである。上記の薬理試験結果より明らかなように、本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物は、パクリタキセルやオキサリプラチン等の抗がん剤の投与で生じる機械的刺激によるアロディニア等の知覚過敏及び低温刺激における知覚異常を末梢神経障害の指標として実施したラット経口投与試験において、末梢神経障害に対する優れた予防又は軽減作用を有することが認められた。また、パクリタキセルにより誘発される神経突起伸展阻害に関するin vitro試験においても顕著な抑制作用を示した。従って、本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物はパクリタキセルやオキサリプラチン等の抗がん剤の投与によって引き起こされる末梢神経障害に対して有効であることが示された。市販のワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液製剤は長年に亘って使用され、非常に安全性の高い薬剤として認められている。このように、本発明ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物は、四肢末端のしびれ等の知覚異常や疼痛等の知覚過敏などの抗がん剤による末梢神経系の神経障害の予防又は軽減剤として有効で、副作用もほとんどない安全性の高い極めて有用性の高いものである。 ワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物を有効成分として含有する抗がん剤による末梢神経障害の予防又は軽減剤。抗がん剤が微小管阻害薬である請求項1記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。 微小管阻害薬がタキサン系薬剤である請求項2記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。 タキサン系薬剤がパクリタキセル又はドセタキセルである請求項3記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。 タキサン系薬剤がパクリタキセルである請求項3記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。 微小管阻害薬がビンアルカロイド系薬剤である請求項2記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。抗がん剤が白金製剤である請求項1記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。白金製剤がオキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン又はネダプラチンである請求項7記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。白金製剤がオキサリプラチンである請求項7記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。抗がん剤による末梢神経障害が急性又は慢性の疼痛、しびれ、知覚異常、知覚過敏又は感覚異常である請求項1乃至9のいずれか一項記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。炎症組織がウサギの皮膚組織である請求項1乃至10のいずれか一項記載の剤。経口剤である請求項1乃至11のいずれか一項記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。注射剤である請求項1乃至11のいずれか一項記載の末梢神経障害の予防又は軽減剤。 本発明の目的は、抗がん剤投与時の副作用として発現する末梢神経障害の予防又は軽減において、有効で且つ安全性が高い薬剤を提供することにある。本発明はワクシニアウイルス接種炎症組織抽出物の新規な医薬用途に関するものであり、該抽出物を有効成分として含有する末梢神経障害の予防又は軽減剤に関する。該抽出物を有効成分とする本発明薬剤は、抗がん剤の投与によって引き起こされる末梢神経障害の予防又は軽減剤として、副作用の少ない安全性の高い薬剤として有用性の高いものである。


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