生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_乳酸菌を利用した食肉製品及びその製造方法
出願番号:2008063525
年次:2012
IPC分類:A23L 1/31,A23L 1/318,A23B 4/22,C12R 1/225,C12R 1/46,C12R 1/01


特許情報キャッシュ

根岸 晴夫 JP 4996512 特許公報(B2) 20120518 2008063525 20080313 乳酸菌を利用した食肉製品及びその製造方法 株式会社明治 000006138 葛和 清司 100102842 根岸 晴夫 20120808 A23L 1/31 20060101AFI20120719BHJP A23L 1/318 20060101ALI20120719BHJP A23B 4/22 20060101ALI20120719BHJP C12R 1/225 20060101ALN20120719BHJP C12R 1/46 20060101ALN20120719BHJP C12R 1/01 20060101ALN20120719BHJP JPA23L1/31 AA23L1/318A23B4/00 JA23B4/00 JC12R1:225A23B4/00 JC12R1:46A23B4/00 JC12R1:01 A23L 1/31−1/318 A23B 4/22 CA/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2002−306132(JP,A) 特開平09−074995(JP,A) 特開平04−234963(JP,A) 国際公開第97/028702(WO,A1) Food Contl., vol. 15, pages 537-542 (2004) J. Food Protect., vol. 52, pages 787-791 (1989) 日本食品保蔵科学会誌,第28巻,第201−209頁(2002年) 食肉の科学,第46巻,第169−177頁(2005年) 15 2009213450 20090924 11 20110301 松原 寛子 本発明は、乳酸菌をバイオプリザバティブとして利用した食肉製品及びその製造方法に関する。 従来、食品を安全かつ安定した状態で長期保存するために、種々の手段が開発されてきた。このとき、具体的には、特に保存食品の微生物(雑菌)制御を行う必要がある。多くの食品に対する微生物制御では、その一般的な手段を加熱処理により行っている。 さらに、近年の消費者の自然志向・健康志向・安全志向から単純な加熱処理に代わり、高い安全性を維持しながら、より温和な条件の微生物制御の技術が求められている。その中でも所謂、食品保存料に関する研究開発は多岐に渡っている。しかし、化学合成された保存料では健康への悪影響が懸念されるために、これを用いた食品は消費者から敬遠される傾向にある。特に化学合成品の多くは天然物質とは異なる構造を採るために、人体への摂取後に速やかに分解されにくい点が問題とされており、そのため、より人体への影響が少なく、かつ抗菌効果の高い食品保存料が望まれている。 一方、食品の中でも特に食中毒菌に対して高いリスクに晒されているものの一つとして、食肉製品(食肉加工製品)が挙げられる。一般に食肉製品は畜獣の屠殺後に所定の低温での熟成期間を経て供されるが、この長期間の冷蔵においても一般細菌の繁殖の虞がある。また、より保存性を高くするために、食肉製品としてのハム、ソーセージ等については、食塩、硝酸カリウム等の溶液に浸漬することにより塩漬けが行われ、殺菌並びに外部からの雑菌の浸入を防止している。いずれの方法においても、低温での長時間の熟成を要するものであり、低温処理装置を不要とし、かつ短時間の熟成や旨味付与が課題となっている。 例えば、特許文献1には、冷凍食肉を還元水に浸漬して解凍し、強酸性水により殺菌した後に、調味付与や燻製することが開示されている。これにより微生物の増殖を抑制し、肉質を良くし、かつ長期保存を可能にする方法を提供する。しかし、この方法によれば、工程数が多く、かつ対応する工程数に応じた特殊な装置も必要となる。また、各種の溶液に浸漬する必要があるために、食肉の可溶性の旨味成分が失われてしまう可能性がある。 また、特許文献2には、旨味成分を引き出し、かつ雑菌による腐敗を防止する食肉の熟成方法が開示されている。この方法によれば、食肉を−5〜−15℃の冷凍にして、1〜10週間で保存しながら熟成した後に、解凍熟成工程を経て食肉製品を得ている。しかし、この場合には、零下の低温を維持しつつ、かつ長期間で保持する必要があるために、特殊な装置を必要とする。なお、この方法では、乾燥食肉を対象としていない。 さらに、特許文献3には、食肉表面に存在する微生物へ高圧水(除菌、殺菌作用を有する液体)を噴射することにより、表面及び表面微細奥部に存在する微生物を除菌・殺菌している。しかし、この方法によれば、高圧水という特別な手段を用いる必要があり、一方では高圧水の及ばない最奥部などの除菌・殺菌は不十分であった。なお、この方法では、乾燥食肉を対象としていない。 一方、特許文献4には、畜肉加工製品の製造方法に関する技術が開示されている。このとき、熟成時間の短縮等による生産性の向上を目的として、ある特定種の乳酸菌を使用している。この方法によれば、5℃以下の低温下かつ通常の高塩分濃度の条件において、畜肉加工食品を製造することを目的としており、その特定種以外の乳酸菌では、その効果は見込めず、さらに、その他の雑菌に対する殺菌・繁殖抑制の効果についても不明である。特開2000−236806号公報特開2002−125584号公報特開平11−089509号公報特開平4−234963号公報 したがって、食肉製品を製造する際に、従来の方法では、低温から極低温の条件でしか熟成できない状況であり、また、その場合にも何らかの殺菌手段を講じなければ雑菌等の繁殖の可能性を排除できない状況であった。また、特定の殺菌剤や保存料を用いる手段も提案されているが、これに関しても製造条件に制限が多く、未だ有効な手段とは言えない。また、これまで特に乾燥食肉製品に関する検討は不十分であり、明確な手段が提案されていなかった。 本発明では、これらの問題を解決すべく、安全で安心な食品微生物である乳酸菌を、食肉製品や乾燥食肉製品の製造に用いることで、肉常在菌も繁殖してしまうような温度や保持の条件下において熟成等を行っても、有効な殺菌効果、除菌効果を呈することを見出し、また、特有の風味や食感を付与できることを見出し、本発明を為すに至った。 すなわち、本発明は、乳酸菌を利用した食肉製品であって、乳酸菌を接種して、所定温度と所定時間にて保持(インキュベート)することで得られ、106〜109cfu/gの当該乳酸菌を含有することを特徴とする食肉製品である。このとき、前記食肉製品は乾燥食肉製品であることが好ましい。 また、前記乳酸菌は生菌であることが好ましく、少なくともラクトバシラス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)又はビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の菌であることが好ましい。そして、特に用いることができる乳酸菌としては、ラクトバシラス・ブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシラス・アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)、ストレプトコッカス・サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム菌(Bifidobacterium bifidum)からなる群から選ばれる少なくとも一つの菌であることがより好ましい。 また、本発明の別の態様は、乳酸菌を利用した食肉製品の製造方法であって、(1)生肉に対して、乳酸菌を接種する工程と、(2)乳酸菌を接種した生肉を所定温度と所定時間にて保持する工程と、(3)保持して得られた生肉を調味液に漬け込む工程とを含む製造方法である。 また、本発明の更なる態様は前記(1)〜(3)工程に加え、さらに、(4)漬け込んだ生肉を所定温度と所定時間にて乾燥する工程を含むことを特徴とする乾燥食肉製品の製造方法である。 上記の製造方法においては、前記乳酸菌が生菌であることが好ましく、特に前記(1)の工程が生肉をヨーグルトに漬け込む工程であることが好ましい。 上記製造方法においては、前記(2)の工程が生肉を30〜50℃の温度範囲と1〜36時間の反応時間で保持する工程であることが好ましく、さらには前記温度範囲が35〜45℃、前記反応時間が4〜12時間であることが好ましい。 前記食肉製品中の前記乳酸菌は106〜109cfu/gで含有されていることが好ましい。また、前記乳酸菌は少なくともラクトバシラス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)又はビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の菌であることが好ましい。そして、特に用いることができる乳酸菌としては、ラクトバシラス・ブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシラス・アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)、ストレプトコッカス・サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム菌(Bifidobacterium bifidum)からなる群から選ばれる少なくとも一つの菌であることがより好ましい。 上記製造方法においては、前記(4)の工程が生肉を15〜25℃の温度範囲と3〜8時間の反応時間で保持する工程であることが好ましく、さらには前記温度範囲が18〜22℃、前記反応時間が4〜6時間であることが好ましい。 本発明による乳酸菌を利用した食肉製品では、化学合成された保存料ではなく、通常の発酵食品に用いられている乳酸菌を利用するために、人体に対して非常に安全であり、かつ風味も好ましいものとして得ることができる。さらに、肉常在菌も繁殖してしまうような一般的な温度や時間の条件下であっても、乳酸菌の増殖や生残が認められる一方で、肉常在菌の繁殖を防止する殺菌効果を奏する。したがって、本発明により、この種の食肉製品の製造において懸念される複雑な工程や特殊な装置を用いることも不要となり、かつ高い殺菌効果を提供することができる。このとき、乳酸菌が本来で持つ保健機能や、乳酸菌やヨーグルトによる食肉の食感改良作用(例えば、軟化作用)なども併せて期待できる。 以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。 本発明で用いる乳酸菌(ビフィズス菌を含む)としては、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)など、通常食品工業的に用いられているものを用いることができる。 特に好ましくは、ラクトバシラス・ブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシラス・アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)、ストレプトコッカス・サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム菌(Bifidobacterium bifidum)などが挙げられる。これら乳酸菌については、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。 乳酸菌源には、ヨーグルト(発酵乳)として既に複数種が混合され、牛乳や豆乳等が発酵された状態のものを用いても良い。あるいは、所望の菌体をそのまま用いても良い。乳酸菌の添加量は食肉あたり106cfu/g以上であり、好ましくは106〜109cfu/gであり、より好ましくは107〜108cfu/gである。この濃度の範囲内の場合には、乳酸菌による風味や食感の改良効果が最も顕著となり、本発明の効果を十分に得られることとなる。 食肉製品の原料肉としては、畜獣、例えば、牛、豚、鶏、馬、猪等を用いることができる。本発明では特に、これら畜獣の乾燥食肉製品、所謂、ジャーキーと称される非加熱の乾燥食肉製品を対象として挙げられる。この種の非加熱の乾燥食肉製品の製造では、肉常在菌の繁殖が最も大きな問題であり、本発明により、肉常在菌の繁殖を制御することができる。また、食肉製品の形状としては、食肉の内部までの乳酸菌の作用(浸透)しやすさの観点から、ブロック肉ではなく、スライス肉が好ましい。そして、スライス肉の厚さとしては1〜7mmであり、好ましくは3〜5mmである。なお、本発明の乾燥食肉製品では、乾燥前に乳酸菌を作用させる(接種する)だけでなく、乾燥後にも乳酸菌を作用させても(接種しても)良い。 本発明の乳酸菌を利用した食肉製品の製造方法は以下の通りである。すなわち、(1)生肉に対して、乳酸菌を接種する工程と、(2)乳酸菌を接種した生肉を所定温度と所定時間にて保持する工程と、(3)保持して得られたスライス生肉を調味液に漬け込む工程と、を含むことが好ましい。そして、本発明の乳酸菌を利用した乾燥食肉製品の製造方法は以下の通りである。すなわち、前記(1)〜(3)の工程に加えて、(4)漬け込んだ生肉を所定温度と所定時間にて乾燥する工程を含むことが好ましい。 (1)の工程: 生肉を必要に応じてスライス生肉へ加工し、これに乳酸菌を作用させる(接種する)。乳酸菌の接種では、例えば、スライス生肉を市販のヨーグルトに漬け込む方法が簡便で好ましいが、この方法には特に限定されず、乳酸菌の種菌等を培養してから、それを食肉へ直接に接種しても良い。また、この接種する乳酸菌は単独でなくても良く、複数種が混合されていても良い。このとき、ヨーグルトの使用量(混合量)として食肉(生肉)あたり0.5〜10g/gであり、好ましくは1〜5g/gである。この使用量の範囲内の場合には、ヨーグルトを無用に過剰量で使用することなく、食肉を所定温度と所定時間で保持するだけで、本発明の効果を十分に得られることとなる。 (2)の工程: 上記(1)の工程でヨーグルトに漬けたスライス生肉は、所定温度に所定時間で保持される。このとき、この保持する温度には、乳酸菌による発酵が活性化される条件を設定するべきであり、その温度は例えば、30〜50℃であり、好ましくは35〜45℃であり、より好ましくは37〜43℃である。この温度の範囲よりも低温の場合には、食肉へ接種した乳酸菌が十分に増殖や生残せず、肉常在菌が増殖や生残してしまう虞がある。一方、この温度の範囲よりも高温の場合には、乳酸菌が死滅してしまう可能性があり、本発明の効果を得られないこととなる。さらに、上記の温度の範囲外の場合には、最終的に得られる食肉製品や乾燥食肉製品の風味や食感も所望のものとは異なることとなる。上記の温度の範囲内の場合には、食肉(生肉)を保持する時間は例えば、1〜36時間であり、好ましくは4〜12時間であり、より好ましくは6〜12時間である。この時間の範囲内の場合には、食肉を無用に過剰時間で保持することなく、乳酸菌が食肉へ十分に作用して、肉常在菌の増殖を完全に防止して殺菌が行われると同時に、食肉製品に対して所望の風味や食感を付与することができる。 (3)の工程: 上記(2)の工程でヨーグルトに漬け込んだスライス生肉は、必要に応じて水濯ぎ(水洗)等した後に、所定温度に所定時間で調味液に漬け込みされる。こうして最終的な食肉製品が完成する。この調味液は通常で、この種の食肉製品や乾燥食肉製品(ジャーキー)に用いるものであれば良く、特に限定されない。例えば、塩、醤油、砂糖、味醂、酒、だし等を配合(調合)した調味液を用いることができる。このとき、この保持する温度には、調味液が食肉へ穏やかに染み込む(浸透する)条件を設定するべきであり、その温度は例えば、3〜15℃であり、好ましくは5〜10℃である。上記の温度の範囲内の場合には、調味液に漬け込みする時間は、1〜24時間であり、好ましくは2〜12時間、より好ましくは4〜12時間である。この範囲よりも短時間の場合には、味の染み込みが不足して、味が薄くなり、この範囲よりも長時間の場合には、味の染み込みが過剰となり、味が濃すぎるために、食肉製品や乾燥食肉製品としての風味を隠蔽してしまう。 (4)の工程: 上記(3)の工程で調味液に漬け込んだスライス生肉は、必要に応じて所定温度に所定時間で保持されて乾燥される。また、必要に応じてスモークなどを用いることができる。こうして最終的な乾燥食肉製品が完成する。食肉製品の乾燥では、1段階の条件あるいは多段階の異なる条件を設定すれば良い。こうすることで、表面状態や含水率などを制御することができ、食感や風味等の最適な乾燥食肉製品を得ることができる。このとき、乾燥温度は10℃付近の低温から200℃付近の高温まで、その乾燥食肉製品の状態に応じて適宜設定できるが、その温度は例えば、15〜25℃であり、好ましくは18〜22℃である。一方、上記の温度の範囲内の場合には、乾燥時間は数秒間(1〜30秒間等)の短時間から数時間(1〜24時間等)の長時間まで、その乾燥食肉製品の状態に応じて適宜設定できるが、その時間は例えば、3〜8時間であり、好ましくは4〜6時間である。この範囲内の場合には、乾燥食肉製品に対して所望の風味や食感を付与することができる。 その他に、この種の食肉製品や乾燥食肉製品に用いることのできる添加剤を、本発明の効果を損なわない限りにおいて適宜用いても良い。 以下、実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらにより限定されるものではない。[実施例1] カナダ産の冷凍豚肉(そともも)を実験に供した。乳酸菌については5種類の市販ヨーグルト(ラクトバシラス・ブルガリア菌とストレプトコッカス・サーモフィルス菌入り、ビフィズス菌入り、カスピ海タイプ等)を利用した。冷凍豚肉を解凍した後に、所定の大きさにスライスした豚肉(約5mmの厚さ)を、等量のヨーグルトに漬け込み、乳酸菌を接種して、10、20、30、37及び43℃、1〜24時間で貯蔵した。貯蔵の途中で所定時間毎に、それらのpHと菌数を測定した。 スライス豚肉へ乳酸菌を接種した後に、その豚肉を醤油ベースの調味液(醤油:味醂=1:1の割合で混合したもの)へ一晩(約12時間)漬け込んだ。この漬け込んだ豚肉を乾燥機にて、約20℃、約5時間で乾燥させ、乾燥食肉製品のジャーキーを得た。乾燥食肉製品の菌数は、標準寒天、BCP及びデソキシコレート寒天(DOA)培地で検査(測定)した。また、グラム染色した試料を光学顕微鏡で観察して、微生物の形態から乾燥食肉製品に含まれる菌種を推定した。 ヨーグルトに漬け込まずに同様の条件下で製造した乾燥食肉製品を比較対照として、肉常在菌の増殖状態を観察した。図1及び図2に、BCP及びDOA培地による測定結果をそれぞれ示した。これらの図から分かるように、ヨーグルトに漬け込まない場合には、肉常在菌が増殖し、食品としての安全性に欠けていた。 図3に、ヨーグルトのpHの測定結果を示した。豚肉のヨーグルトへの漬け込み開始後から2時間まででは、ヨーグルトのpHが0.2〜0.4程度で上昇したが、その後から24時間までは低下し、ヨーグルトの本来のpHよりも降下した。このとき、貯蔵温度が高い程、pHの降下速度は速く、37℃と43℃の場合に顕著であった。 図4に、BCP培地での測定結果を示した。なお、DOA培地では、乾燥後の食肉の微生物(大腸菌群)は検出されなかった(検出限界未満であったため)。BCP培地では、107〜108cfu/g程度の酸生成菌が検出された。これらの酸生成菌は光学顕微鏡の観察からヨーグルトに由来する乳酸菌と推定された。以上から、微生物学的危害を低減させ、かつ乳酸菌の生残した乾燥食肉製品の加工が可能であると考えられた。 本発明に基づく乾燥食肉製品(ジャーキー)の食味性は、ほのかな酸味と適度に柔らかな食感を有することを特徴とした。複数のパネラーにより官能試験を行ったところ、通常品や従来品とは明らかに異なり、穏やかな酸味と独特のベタツキ感を持ち、噛み切りやすい食感であることが分かった。[実施例2] 次に、本発明による乾燥食肉製品の硬さを、せん断試験と官能試験により評価した。 冷凍豚ももブロック肉を実験に供した。乳酸菌については市販ヨーグルト(ラクトバシラス・ブルガリア菌とストレプトコッカス・サーモフィルス菌入り)を利用した。冷凍豚肉を解凍した後に、所定の大きさにスライスした豚肉(約5mmの厚さ)を、等量のヨーグルトに漬け込み、肉表面の全体にヨーグルトが行渡るようしながら、乳酸菌を接種して、43℃、8時間で貯蔵した。 スライス豚肉へ乳酸菌を接種した後に、なるべく表面に付いたヨーグルトを取り除き、その豚肉を醤油ベースの調味液(醤油:味醂=1:1の割合で混合してから、一度、沸騰させて、アルコール分を除いたもの)へ一晩(約12時間)、冷蔵庫内(4℃)で漬け込んだ。この漬け込んだ豚肉を乾燥機にて、約20℃、約6時間で乾燥させ、本発明による乾燥食肉製品のジャーキーを得た。 本発明の比較として、同様の豚スライス肉をヨーグルトに漬け込むことなく、直接、調味液へ約6時間、冷蔵庫内(4℃)で漬け込んだ。この漬け込んだ豚肉を乾燥機にて、約70℃、約1.5時間で乾燥させ、本発明の比較となる乾燥食肉製品のジャーキーを得た。 本発明と比較のジャーキーについて、硬さを評価するために、せん断試験を行った。せん断試験では、ジャーキー(厚さ2mm)を筋繊維と平行に、5mm×25mmの寸法に切断した後に、Warner−Bratzler せん断試験機(SALTER MODEL 235、米国)を用いて、せん断力価を測定した。図5に、せん断試験(せん断力価)の測定結果を示した。 また、実際に試食した際の硬さ(歯ごたえ)について、官能試験を行った。官能試験では、比較のジャーキーに対する相対評価として、本発明のジャーキーを7段階評点法にて評価した。ここで数値が高いほど硬く、低いほど軟らかいことを示す。図6に、官能試験の結果を示した。 図(グラフ)から明らかなように、本発明では、せん断力価が有意に低くなっており、また、本発明では、官能試験においても柔らかいことが分かる。すなわち、本発明によるジャーキーは、比較のジャーキーに比べて柔らかく、食感が独特であることが分かった。 本発明による乳酸菌を利用した食肉製品では、化学合成保存料ではない通常の発酵食品に用いられている乳酸菌を利用するために、人体に対して非常に安全であり、肉常在菌も繁殖してしまうような一般的な温度や時間の条件下であっても、乳酸菌の増殖や生残が認められる一方で、肉常在菌の繁殖を防止する殺菌効果を奏する。したがって、本発明により、この種の食肉製品の製造において懸念される複雑な工程や特殊な装置を用いることも不要となり、かつ高い殺菌効果を提供することができる。また風味も好ましいものとして得ることができる。このとき、乳酸菌が本来で持つ保健機能や、乳酸菌やヨーグルトによる食肉の食感改良作用(軟化作用)なども併せもつ食肉製品を提供することができる。乳酸菌を非接種の豚スライス肉を所定温度と所定時間で処理した際に、BCP培地により肉常在菌の菌数を測定した変化を示すグラフ図である。乳酸菌を非接種の豚スライス肉を所定温度と所定時間で処理した際に、DOA培地により肉常在菌の菌数を測定した変化を示すグラフ図である。乳酸菌を接種した豚スライス肉を所定温度と所定時間で処理した際に、pHを測定した変化を示すグラフ図である。乳酸菌を接種した豚スライス肉を所定温度と所定時間で処理した際に、BCP培地により酸生成菌の菌数を測定した変化を示すグラフ図である。本発明によるジャーキーと比較のジャーキーのせん断力価を示すグラフ図である。本発明によるジャーキーと比較のジャーキーの官能試験(硬さ)の結果を示すグラフ図である。 乳酸菌を利用した食肉製品であって、乳酸菌の生菌を接種して、30〜50℃の温度範囲で1〜36時間保持(インキュベート)することで得られ、106〜109cfu/gの乳酸菌を含有することを特徴とする、前記食肉製品。 食肉製品が乾燥食肉製品であることを特徴とする、請求項1に記載の食肉製品。 乳酸菌が少なくともラクトバシラス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)又はビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の乳酸菌であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の食肉製品。 乳酸菌がラクトバシラス・ブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシラス・アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)、ストレプトコッカス・サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム菌(Bifidobacterium bifidum)からなる群から選ばれる少なくとも一つの菌であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の食肉製品。 乳酸菌を利用した食肉製品の製造方法であって、(1)生肉に対して、乳酸菌の生菌を接種する工程と、(2)乳酸菌を接種した生肉を30〜50℃の温度範囲で1〜36時間保持する工程と、(3)保持して得られた生肉を調味液に漬け込む工程とを含む、前記製造方法。 さらに、(4)漬け込んだ生肉を所定温度と所定時間にて乾燥する工程を含むことを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。 乳酸菌が生菌であることを特徴とする請求項5又は6に記載の製造方法。 (1)の工程が生肉をヨーグルトに漬け込む工程であることを特徴とする、請求項5〜7のいずれか一項に記載の製造方法。 生肉がスライス肉であることを特徴とする、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。 温度範囲が35〜45℃、前記反応時間が4〜12時間であることを特徴とする、請求項5〜9のいずれか一項に記載の製造方法。 食肉製品中の前記乳酸菌が106〜109cfu/gで含有されていることを特徴とする、請求項5〜10のいずれか一項に記載の製造方法。 乳酸菌が、少なくともラクトバシラス属(Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)又はビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)の乳酸菌であることを特徴とする、請求項5〜11のいずれか一項に記載の製造方法。 乳酸菌が、ラクトバシラス・ブルガリア菌(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシラス・アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシラス・ガセリ菌(Lactobacillus gasseri)、ストレプトコッカス・サーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム菌(Bifidobacterium bifidum)からなる群から選ばれる少なくとも一つの菌であることを特徴とする、請求項5〜11のいずれか一項に記載の製造方法。 (4)の工程が生肉を15〜25℃の温度範囲と3〜8時間の反応時間で保持する工程であることを特徴とする、請求項6〜13のいずれか一項に記載の製造方法。 温度範囲が18〜22℃、前記反応時間が4〜6時間であることを特徴とする、請求項14に記載の製造方法。


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