生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_内皮細胞の阻止作用を強化する薬剤
出願番号:2008048009
年次:2008
IPC分類:A61K 38/22,A61P 35/00,A61K 33/24


特許情報キャッシュ

アナグノストウ,アサナシウス・エイ シゴウナス,ジョージ JP 2008133305 公開特許公報(A) 20080612 2008048009 20080228 内皮細胞の阻止作用を強化する薬剤 イースト キャロライナ ユニヴァーシティ 505211145 奥山 尚一 100099623 有原 幸一 100096769 アナグノストウ,アサナシウス・エイ シゴウナス,ジョージ US 08/712,358 19960911 A61K 38/22 20060101AFI20080516BHJP A61P 35/00 20060101ALI20080516BHJP A61K 33/24 20060101ALI20080516BHJP JPA61K37/24A61P35/00A61K33/24 5 1998513794 19970910 OL 12 4C084 4C086 4C084AA02 4C084DB56 4C084MA02 4C084NA05 4C084ZB261 4C084ZB262 4C086AA01 4C086AA02 4C086DA32 4C086HA12 4C086HA28 4C086MA02 4C086MA04 4C086NA05 4C086ZB26 本発明は化学療法剤を原因とする内皮傷害および/または内皮の成長抑制を強化することを目的とするヒト・エリスロポイエチン(EPO)の使用に関する。本発明はさらに、EPOと化学療法の併用に関する。 エリスロポイエチン(erythropoietin,EPO)は腎臓で産生される糖タンパクで、赤血球産生(赤血球発生)を刺激する主たるホルモンである。EPOは骨髄において赤血球の前駆先祖の分裂と分化を刺激する。エリスロポイエチンの通常の血漿濃度は0.01から0.03単位/mLの範囲であるが、低酸素症や貧血症では100から1000倍まで上昇する場合がある。Graber and Krantz,Ann.Rev.Med.29:51(1978);Eschbach and Adamson,Kidney Intl.28:1(1985).組換えヒト・エリスロポイエチン(rHuEPO、即ちepoetin alfa)も、Epogen(R)(Amgen Inc.,Thousand Oaks, CA)やProcrit(R)(Ortho Biotech Inc., Raritan, NJ)として市販されている。EPOは、癌の化学療法、慢性腎不全、悪性疾患、成人性および若年性リュウマチ様関節炎、ヘモグロビン合成の障害、早熟に随伴する各種貧血を含む貧血症の治療およびHIV感染症のジドブジン(zidovudine)治療に適応されている。 血管内皮は血管内壁を覆う細胞層で、直接血液と接触して、循環部と血管外部の間に強力な天然のバリアーを構成している。内皮は細胞、組織および臓器の段階でシグナルおよび情報の伝達に関与し、細胞が媒介する免疫応答と体液による免疫応答の両方で役割を果たしている。内皮細胞は代謝に活性で、通常血管内腔と血小板に効果がある多くの物質を産生している。内皮の血管拡張剤には、プロスタサイクリン(PGI2)と内皮から誘導される弛緩因子(EFDR、一酸化窒素あるいはより安定なその付加物であると思われる)がある。これら二つの物質には血小板の凝集を阻止する作用もある。 身体の外傷、あるいはじゅく状斑形成などの疾病過程によって内皮が傷つけられたり破壊されたりすると、EDFR産生が阻害されて、血管収縮の一因となる。慢性高血圧症や虚血後の再潅流などによって、より広汎な、より潜在的な内皮損傷が起こると、EDFR産生が変化する。内腔内皮表面にはectoADPaseやthrombomdulinを含む内皮産物が局在している。内皮はendothelinを含む血管収縮剤を放出する。また内皮細胞は、内皮の有糸分裂誘発を強めて、新しい血管形成(脈管形成)を誘発することがある成長因子を分泌している。これまでに、顆粒球マクロファージ―コロニー刺激因子(GM−CSF)と顆粒球―コロニー刺激因子(G−CSF)とが内皮細胞の増殖と移動を刺激することが報告されている。インターロイキン―3(IL−3)も又、内皮細胞の増殖を強化する。Bussolino et al.,Nature 337:471(1989);Brizzi et al.,J.Clin.Invest.91:2887 1993)を参照されたい。 本発明は、化学療法剤で治療されている患者の内皮細胞の阻止を強化する薬剤を提供することを目的とする。 上記の目的を達成するため、本発明に係る薬剤は、治療を必要とする患者の血管新生した固形腫を治療する薬剤であって、前記薬剤はエリスロポイエチンの内皮阻止量を含有し、かつ抗腫瘍化学療法剤と併用して投与され、前記エリスロポイエチンの内皮阻止量が750〜2000単位/kgであることを特徴とする。また、本発明によれば、抗腫瘍化学療法剤がシスプラチンであることを特徴とする薬剤も提供される。 また、本発明の別の実施形態によれば、エリスロポイエチンの内皮阻止量が抗腫瘍化学療法剤と同時に投与されることを特徴とする薬剤が提供される。 また、本発明の別の実施形態によれば、エリスロポイエチンの内皮阻止量が抗腫瘍化学療法剤投与前に投与されることを特徴とする薬剤が提供される。 また、本発明の別の実施形態によれば、エリスロポイエチンの内皮阻止量が抗腫瘍化学療法剤投与後に投与されることを特徴とする薬剤が提供される。 本発明の第一の態様は、化学療法剤で治療されている患者の内皮細胞の阻止を強化する方法において、化学療法剤と併用して内皮阻止量(endothelial−inhibiting amount)のエリスロポイエチンを投与する方法である。内皮阻止量のエリスロポイエチンは、化学療法剤と同時に、その前に、あるいはその後に投与することができる。 本発明の他の態様は、血管化した(vascularized)固形腫を治療する方法において、内皮阻止量のエリスロポイエチンと併用して抗腫瘍性化学療法剤を投与する方法である。内皮阻止量のエリスロポイエチンは、化学療法剤と同時に、その前に、あるいはその後に投与することができる。 本発明のさらに他の態様は、器械による傷害、放射線に対する暴露、炎症、心疾患または癌を原因とする内皮損傷の治療する方法において、治療を必要とする患者に内皮保護量のエリスロポイエチンを投与する方法である。 以下、これまで述べてきた本発明の目的と態様、およびそれ以外の目的と態様を詳細説明する。 先般、本発明者らは組換えヒト・エリスロポイエチン(EPO)はヒトの請帯静脈内皮細胞とウシの毛細内皮細胞に有糸分裂促進効果と化学誘因(移動)効果があることを立証した。Anagnostou et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA87:5978(1990).内皮細胞の移動と増殖は脈管形成過程の重要なステップである。 本発明者らはこれまでに、EPOが化学療法剤を原因とする内皮損傷を効果的に防止および/または修復できることを見い出した。本発明者らはさらに、EPOを化学療法剤と同時に投与すると二相性の反応を示すことを見い出した。即ち、EPOはある用量では内皮細胞を化学療法剤の有害効果から保護するが、大きな用量では化学療法剤による内皮の成長抑制を強化する。 脈管形成性腫瘍においては、腫瘍の成長を助長する新しい血管の形成を防止ないし遅滞させることが望ましく、内皮の成長抑制を強化するEPOを化学療法中に使用することは有用である。腫瘍は十分な血液の供給を必要とし、腫瘍組織から脈管形成因子を分泌して腫瘍塊中の新しい血管の成長を刺激する。動物モデルにおいて、腫瘍組織中の脈管形成を阻止することにより、腫瘍を退化できることが立証されている。高度に血管新生した固形腫としては、小脳の血管芽腫、胸部の腺管癌や喉頭の偏平上皮細胞癌を挙げることができる。異常な脈管形成によって、糖尿病性網膜症、新血管性緑内障、リュウマチ様関節炎および乾せんを含む合併症(additional pathological conditions)を併発することがある。異常な脈管形成を縮小または防止するEPOの能力は、このような疾病状態に関連する脈管形成を防止または縮小する上で有用である。 本発明の一方法では、内皮に対する化学療法剤の副作用を強化(例えば、内皮の成長抑制の強化)することが望ましい新生物疾患の化学療法に、EPOを補助剤として使用する。このような場合には、内皮阻止量のEPOを投与する。 本明細書に言う、EPOの内皮保護量とは、化学療法剤または放射線に対する暴露、器械による外傷または内皮を傷つけることで知られている疾病状態を原因とする内皮の成長抑制を減少ないし防止する投与量を指す。これに代わり、EPOの内皮保護量を、化学療法剤または放射線に対する暴露、器械による外傷、または、内皮を傷つけることで知られている疾病状態後において、生存内皮細胞数を増加させことができる投与量として定義することもできる。但し、生存細胞の増加数はEPO不存在の場合と比較する。最も効果的なEPOの内皮保護量は、投与時期および内皮傷害の原因によって異なる。 内皮傷害の原因が化学療法剤に対する暴露である場合には、最も効果的なEPOの内皮保護量は、EPOが化学療法剤と同時に投与されるか、前に投与されるか、または後で投与されるかによって異なり、さらに当該の特定化学療法剤によって異なる。 本明細書に言う、EPOの内皮阻止量とは、化学療法剤または放射線に対する暴露、器械による外傷または内皮を傷つけることで知られている疾病状態を原因とする内皮の成長抑制を強化または増進する投与量を指す。これに代わり、EPOの内皮阻止量を、化学療法剤または放射線に対する暴露、器械による外傷、あるいは内皮を傷つけることで知られている疾病状態後において生存内皮細胞数を減少させることができる投与量として定義することもできる。但し、生存細胞の減少数は、EPO不存在下の推定細胞数と比較する。最も効果的なEPOの内皮阻止量は、投与時期および内皮傷害の原因によって異なる。 内皮傷害の原因が化学療法剤に対する暴露である場合には、最も効果的なEPOの内皮阻止量は、EPOが化学療法剤と同時に投与されか、前に投与されるか、または後で投与されるかによって異なり、さらに当該の特定化学療法剤によって異なる。 内皮傷害は、内皮細胞の増殖が低下し、および/または生存内皮細胞数が減少することによって生じた、生存内皮細胞数の減少総量によって評価する。このような生存内皮細胞数の減少は、内皮の成長抑制、あるいは内皮細胞の抑制または阻止と呼ぶことができる。 本明細書に言う、患者に化学療法剤を投与したことを原因とする該患者の内皮損傷を減少させる方法は、化学療法剤の投与による生存内皮細胞の減少を減じまたは防止する方法である。本明細書に言う、患者に化学療法剤を投与したことを原因とする該患者の内皮細胞の阻止を強化する方法は、化学療法剤の投与による生存内皮細胞の減少を増進または強化する方法である。 内皮細胞の傷害は、放射線治療や器械による外傷によっても起こるし、さらに炎症、心疾患(例えば、アテローム硬化症)および癌などの疾病状態によっても起る。例えば、アテローム硬化症の場合、内皮の損傷あるいは機能不全から、血管拡張反応が低下し、動脈壁に沈着する血小板が増加する。沈着血小板から放出されるセロトニンとトロンボキサンA2は、動脈の収縮や痙攣を起し、血小板の付着や凝集を増進して、アテローム硬化の過程を強化する。冠状閉塞の場合、脈管由来の刺激に反応して新しい冠状血管が形成されると、病後の経過が改善されることが多い。器械による傷害や放射線治療を原因とする、あるいは内皮に好ましからざる副作用を与える疾病状態を原因とする内皮損傷を治療する場合、内皮の成長および/または修復を促進し、あるいは内皮傷害を防止するEPOを使用することは有用な補助手段となる。 本明細書に言う、ヒト・エリスロポイエチン(EPO)とは、天然に存在するヒト・エリスロポイエチン糖タンパク、並びに組換えヒト・エリスロポイエチン(rHuEPO、即ちepoetin alfa);Epogen(R)(Amgen Inc.,Thousand Oaks, CA)およびProcrit(R)(Ortho Biotech Inc., Raritan, NJ)として市販されている)の両方を指す。EPOのペプチド類縁物質も本発明の方法に使用することができる。 本明細書に言う、ペプチド類縁物質とは、EPOと同一のアミノ酸配列は持っていないけれども、同様の三次元構造を持つ化合物のことである。レセプターと相互作用するタンパク分子において、安定した三次元分子中の表面にアクセスできる部位で相互作用が行われる。重要な結合部位残滓(critical binding sitersiduess)を適当なコンフォメーションに配列することにより、EPO結合領域の必須表面特性を擬態するペプチドを、公知の方法によりで設計合成することができる。EPOの結合表面と実質的に同一の分子トポロジーを持つ表面領域がある分子は、EPOとEPOレセプターとの相互作用を擬態することができる。ペプチドの三次元構造とその類縁物質の決定方法は公知であって、時として「合理的な薬品設計法(rational drug design techniqus)」と呼ばれている。例えば、Geysenに付与された合衆国特許第4833092号、Nestorに付与された合衆国特許第4859765号、Pantolianoに付与された合衆国特許第4853871号、Blalockに付与された合衆国特許第4863857号を参照されたい(本出願人は、本明細書で引用した全ての米国特許の開示内容を、引用することによりその全文を本明細書の一部とする)。 本発明の方法ではEPOの代りに、エリスロポイエチンの生物活性を擬態するペプチド(EPOレセプター・ペプチド・リガンド)を使用することができる。このようなペプチドの配列は標準長さのEPOタンパク配列のフラグメントを表しており、このフラグメントがEPOレセプターに結合して、これを活性化することができる。さらに、EPOの配列とは類似しない配列を持つペプチドを本発明の方法に使用して、EPOの生物活性を擬態させることができる。Wrighton et al.は、ペプチドの配列がEPOの一次配列(primary sequence)とは類似していないにも拘わらず、標的細胞表面上のエリスロポイエチン・レセプターと結合して、これを活性化する小ペプチドの同定と特性決定を報告している(Wrightonetal.,Science 273:458(26 July,1996))。これらのペプチド・アゴニストは、同定されている最小共通配列を持つ14アミノ酸のジスルフィド結合環状ペプチドによって代表される。このようなペプチド擬態体とエリスロポイエチン・レセプター相互の錯体の構造は、Livnah et al.,Science 273:464(26 July,1996)によって説明されている。 本明細書に言う化学療法剤なる語は、細胞障害性抗腫瘍剤、即ち優先的に新生物細胞を殺すか、または速やかに増殖する細胞の細胞周期を分断して、新生物細胞の成長を防止または低下させる目的で治療に使用される化学薬剤を指す。化学療法剤はまた、抗腫瘍剤または細胞障害性薬剤として知られ、当業者のよく知るところである。本明細書に言う化学療法には、化学療法剤の単独使用よる治療と複数の薬剤の併用による治療を含むものとする。必要な患者には、化学療法と外科治療または放射線治療との併用、あるいは他の抗腫瘍治療法との併用も実施することができる。 化学療法剤の例としては、ビンカアルカロイド、エピポドフィロトキシン類(epipodophyllotoxins)、アントラサイクリン抗生物質、アクチノマイシンD、プリカマイシン(plicamycin)、プロマイシン、グラミシジンD、パクリタクセル(paclitaxel)(Taxol(R)、Bristol Myers Squibb)、コルヒチン(colchicine)サイトカラシンB(cytochalasin B)、エメチン(emetine)、マイタンシン(maytansine)およびアムサクリン(amsacrine)(即ち、「mAMSA」)を挙げることができる。ビンカアルカロイド類は、Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics,1277−1280(7thed.1985)(以下「Goodman and Gilman」と称す)中で説明されている。ビンカアルカロイドの例としては、ビンクリスチン(vincristine)、ビンブラスチン(vinblastine)およびビンデシン(vindesine)が挙げられる。エピポドフィロトキシン(Epipodophyllotoxin)類はGoodman and Gilman、前掲、1280−1281中で説明されている。Epipodophyllotoxinの例としては、エトポシド(etoposide)、エトポシド・オルトキノン(etoposide orthoquinone)およびテニポシド(teniposide)が挙げられる。アントラサイクリン抗生物質類はGoodman and Gilman、前掲、1283−1285中で説明されている。アントラサイクリン抗生物質の例としては、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ミトキサントラオン(mitoxantraone)およびビサントレン(bisanthrene)が挙げられる。ダクチノマイシンとも呼ばれているアクチノマイシンDはGoodman and Gilman、前掲、1281−1283中で説明されている。ミトラマイシンとも呼ばれているプリカマイシン(plicamycin)はGoodman and Gilman、前掲、1287−1288中で説明されている。この他の化学療法剤として、シスプラチン(Platinol(R)、Bristol Myers Aquibb)、カルボプラチン(caarboplatin)(Paraplatin(R)、Bristol Myers Aquibb)、マイトマイシン(Mutamycin(R)、Bristol Myers Aquibb)、アルトレタミン(altretamine)(Hexalen(R)、U.S.Bioscience,Inc.)、シクロホスファミド(Cytoxan(R)、Bristol Myers Aquibb)、ロムスチン[CCNU](CeeNU(R)、Bristol Myers Aquibb)、カルムスチン[BCNU](BiCNU(R)、Bristol Myers Aquibb)が挙げられる。 化学療法薬剤の投与方法は当業者の知る通り、使用する特定薬剤によって変わってくる。使用する化学療法剤によっては、例えば、注射(静注、筋注、腹腔内、皮下、腫瘍内、胸膜腔内)によって投与したり、あるいは経口投与することができる。 本明細書に言う一化合物を第二の化合物と「併用」するとは、存在する二つの化合物が生物効果を相互に変化し合えるように投与時期を十分に接近させることを指す。二つの化合物は同時に(同時発生的に)投与することができる。同時投与は化合物を混合してから投与したり、あるいは、同一の時期に異なる身体部位に投与したり、異なる投与経路を使って投与したりすることによって実施する。 本明細書に言う「同時発生投与」、「同時投与」または「同時に投与する」の句は、化合物を同一の時点、または互いに密接した時点で投与することを指す。後者の場合、同一時点で投与する場合と見分けがつかない結果が観察できるような、十分に接近した時期で二つの化合物を投与する。 本発明の方法の対象患者は、ヒトおよび動物(例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ)の両方を含み、好ましくは哺乳動物である。 化学療法剤には細胞周期中の特定相で作用したり、あるいは分化過程の細胞にしか活性を持たないものが多い。化学療法剤に最も適応する新生物は、胸部、肝臓、脳、肺および卵巣の癌を含む、分化過程の細胞が高率で存在する新生物である。但し、上記の例示に限定されない。血管化が進んでいる固形腫は脈管形成によって成長する腫瘍組織に充分な血液を供給しているので、内皮阻止量のEPOと化学療法剤の併用療法が適応する。 本発明の方法により使用するEPOは、当業者が適当と判断するいかなる手段によっても投与することができる。EPOは全身投与(例えば、静注)もできるし、局所投与(例えば、腫瘍内に、腫瘍を直接取り囲む組織中に、または腫瘍が収容されている身体部分中に注射する)もできる。例えば、内皮阻止量のEPOを化学療法剤の補助剤として用いる場合、脈管形成防止が望まれる腫瘍(または、直接取り囲んでいる組織)にEPOを局所投与しても良い。化学療法剤が全身的に輸送されている場合、例えば、内皮保護量のEPOを静注により全身投与しても良い。 化学療法剤と併用するEPOの投与量と投与時期は、所望する効果にも同様に依存している。本発明者らはこれまでに、EPOの投与時期(化学療法剤の投与と同時、その前、またはその後)およびEPOの投与量に依存することにより、EPOは内皮を化学療法剤の成長阻止効果から保護すること、および、化学療法剤で見られる内皮の成長阻止を強化することの、いずれも可能であることを見い出している。所望の効果を挙げるために、特定化学療法剤と併用するEPOの投与量と投与時期を、通常の実験で決定する方法は当業者に明らかである。 EPOを一回または複数回投与する場合の最大用量はまだ決定されていない。これまでに、1500単位/kg以下の用量が3〜4週間投与されたが、EPO自体を原因とする毒性は認められなかった。Eschbach et al.,in:Prevention of Chronic Uremia(Friedman et al.,eds.),Field and Wood Inc.,Philadelphia,pp.148−155(1989).本方法において化学療法剤を原因とする内皮傷害および/または内皮の成長抑制から内皮を保護することが望まれる場合、内皮保護量のEPOを投与する。好適な内皮保護用量は約100単位/kg〜約200単位/kgの範囲である。本方法において化学療法剤を原因とする内皮傷害および/または内皮の成長抑制を強化することが望まれる場合、約750単位/kg〜約2000単位/kgの範囲の内皮阻止量でEPOを投与する。上記で注目したように、化学療法剤と併用するEPOの投与量と投与時期は所望の効果、ならびに、使用する化学療法剤に依存する。本発明を次の実施例により説明する。但し、これらの実施例が本発明を限定するものと解釈してはならない。[実施例1](材料および方法)(細胞培養) 帝王切開由来の臍帯からヒト臍帯静脈の内皮細胞(HUVECs)を得た。HUVECsは0.5%ブタ皮膚ゼラチン(Sigma Chemical Co.,St.Louis, MO)を塗布した25cm2T−フラスコ(Coring INc.,Coring,NY)に入れて、定法により培養した。HUVECsの成長培地として、合成ウシ胎児血清(FBS)(Hyclone, LOgan,UT)20%、ヘパリン(Sigma)16単位/ml、内皮ミトゲン由来のウシ視床下部(Biochemical Technologies,Stoughton,MA)50μg/ml、ペニシリン100単位/mlおよびストレプトマイシン100μg/mlで補足した培地199(Life Technologies, Gaithersburg,MD)を用いた。内皮細胞の特性決定は、当業者に知られている均質で典型的な丸石の形態(Homogenous and typical cobblestone morphology)、フォン・ビルブランド因子抗原性が正であること、およびWeibel−Palade体が存在していることによって行った。(保護/阻止の分析) 内皮細胞培養産物を試験薬剤に暴露した後、代謝活性を有する細胞数を比色法により評価した。この分析では、テトラゾリウム化合物[3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4スルフォフェニル)-2H-テトラゾリウム](MTS)の溶液、および電子結合試薬、フェナジンメトサルフェート(PMS、Promega Corp.,Madison,Wisconsinから市販)を使用する。Denizot and Lang,J.Immunol.Methods89:271(1986);Promega Corporation Technical Bulletins 112,152および169)を参照されたい。MTSは代謝活性を有する細胞で見い出されるデヒドロゲナーゼ酵素によって生物還元されてホルマザンとなる。490nmmにおける吸光度でホルマザン量を測定すると、培養産物中の生存細胞数と直接比例する。 内皮細胞を完全(補足)M199培地で増殖させて、対数増殖期に達した時に採取した。集密度80〜90%の培養内皮細胞(EC)単分子層をリン酸緩衝食塩水(PBSで洗い、EDTA1mM中に溶解した0.25%トリプシンで1〜2分間処理した後、細胞を完全培地中に懸濁した。細胞数と細胞の生存能力を、それぞれ血球係数器とトリパンブル−染色を用いて測定した。7.22×104細胞/ml培地の細胞懸濁液を調製し、その90μl(6.5×103細胞)を96ウエル板の各ウエルに配分した。37℃、CO25%、加湿雰囲気下で一晩インキュベートした後、EPOおよび/または化学療法剤を、下記の実施例で述べる濃度と順序で添加した。その後、ウエル板をさらに24時間インキュベートした。このインキュベート期間の終了時、メーカーの勧告に従い、新しく調製したMTS/PMS(2:1比率)混液20μlを各ウエルに加えて、さらに1〜4時間インキュベートした。各ウエルの490nmにおける吸光度をエライザ平板読み取り器を用いて記録した。細胞の生存能力と化学感受性に対する各種処理のLD50と効果は、490nmの補正吸光度を添加剤(EPO、化学療法剤またはその合剤)の濃度と対比させてプロットすることにより測定した。(統計要因) 保護/阻止分析については3重反復実験を行なった。他の実験はすべて少なくとも5回実施した。結果は平均して、中間値±SDを報告した。すべての実験のコントロールは、次の各々で処理した3重反復実験ウエルの1セット〜2セットからなっていた。1)シスプラチン1μg/ml2)シスプラチン50μg/ml3)EPO10または20単位/ml4)EPO0.6または1.2位/ml つまり、各実験のコントロールとして3個〜6個のウエルに上記の4処理を行った(計:12〜24コントロール・ウエル)。未処理の細胞についても、3重反復実験ウエルによる追加コントロールを行なった。[実施例2](シスプラチンLD50の測定) 実施例1と同様にして内皮細胞を含有する96ウエル板を調製し、37℃、CO25%、加湿雰囲気下で一晩インキュベートした。シスプラチン160μg/mlの溶液を調製して、その連続希釈液をウエルに添加した(ウエル当たり5μl、濃度は0.03125μg/ml〜4.0μg/mlであった)。その後、ウエル板を2日間(48時間)インキュベートし、実施例1と同様にMTS/PMS法を用いて内皮細胞の生存能力を評価した。各ウエルの490nmにおける吸光度をエライザ平板読み取り器により記録した。490nmにおける補正吸光度とシスプラチン濃度(μg/ml)とを対比させてプロットし、用量−反応曲線を作成した。最大反応の50%を達成するのに必要なシスプラチン濃度(シスプラチンLD50)は0.45μg/mlであると測定された。上記の所見に鑑み、次の実施例で実施したように、シスプラチン用量1μg/mlを用いて内皮細胞に対するEPOの効果を測定した。[実施例3](シスプラチンとEPOの同時投与による 内皮細胞に対する効果) 内皮細胞に対するEPOとシスプラチンの併用効果を測定するため、シスプラチンと同時にEPOの連続希釈液を内皮細胞培養産物に添加した。 内皮細胞培養産物は、実施例1と同様にして調製した。各種EPO製剤5μl(最終EPO濃度は0.15〜20単位/mlの範囲であった)と同時に、シスプラチン(最終濃度1μg/ml)を各テスト・ウエルに添加した。内皮細胞の生存能力は、実施例1と同様にMTS/PMS比色分析により評価した。結果はコントロール・ウエル(シスプラチン1μg/mlで単独処理した内皮細胞であって、基準として図2において0%と表されいる)と比較した。その結果を図2に示す。「コントロールに対する%」は490nmにおける光学密度とコントロールとの差を%で表したもので、「0%」はテスト・ウエルに代謝活性を有する細胞がコントロールとほぼ同数存在していることを示し、「50%」は代謝活性細胞が50%多い、「−50%」は50%少ないことを示している。 図2に示す通り、シスプラチン添加と同時にEPOを細胞培養産物に添加すると、二相性の反応が認められた。EPOとシスプラチンの同時添加の場合、EPO 0.15〜1.25単位/mlで処理した内皮細胞培養産物はシスプラチンの傷害効果から保護された。EPOとシスプラチンの同時添加の場合、EPO濃度0.3単位/mlで最大の内皮細胞保護効果が認められた。生存細胞数は、シスプラチン単独処理のコントロール培養産物より約30%多かった。 図2にさらに示す通り、EPOとシスプラチンの同時添加の場合、EPO 5〜20単位/mlで処理した培養産物中では、シスプラチン単独処理のコントロールと比較して内皮細胞の成長が阻止されていた。EPO 5単位/mlとシスプラチン1μg/mlで処理した培養産物では、シスプラチン単独に暴露されたコントロール細胞と比較して、生存細胞数が33%減少していたことが立証された。[実施例4](シスプラチン暴露後投与されたEPOの内皮細胞に対する効果) この実験では、内皮細胞培養産物をシスプラチンに暴露の2時間後に、EPOの連続希釈液をこの培養産物に添加した。 実施例1と同様にして内皮細胞培養産物を調製した。各テスト・ウエルにシスプラチン(シスプラチン最終濃度1μg/ml)を添加した。2時間後最終濃度が0.15〜20単位/mlの範囲のEPO製剤5μ1を添加した。内皮細胞の生存能力は、実施例1と同様にMTS/PMS比色分析を用いて評価した。結果はコントロール・ウエル(シスプラチン1μg/ml単独処理の内皮細胞)と比較した。 結果は図3に示す通りであるが、シスプラチン添加後EPOを細胞培養産物に添加した場合に、二相性の反応が認められたことを示している。シスプラチン暴露の2時間後にEPOを添加する場合、EPO0.15〜5単位/mlで処理された内皮細胞培養産物はシスプラチンの傷害効果から保護された。シスプラチン暴露後EPO1.25単位/mlで処理した場合では、生存細胞数はコントロールのそれよりも34%多かった。これとは対照的に、シスプラチン暴露の2時間後に投与したEPO10〜20単位/mlの存在下では、細胞生存能力はコントロール(シスプラチン単独)のそれ以下に低下した。[実施例5](シスプラチン暴露前に投与したEPOの内皮細胞に対する効果) この実験では、内皮細胞培養産物をシスプラチンに暴露する2時間前に、EPOの連続希釈液をこの培養産物に添加した。 実施例1と同様にして内皮細胞培養産物を調製した。各テスト・ウエルにEPOが0.15〜20単位/mlの範囲のEPO製剤5μlを添加した。2時間後シスプラチン(1μg/mlのシスプラチン5μl)を各ウエルに添加した。内皮細胞の生存能力は、実施例1と同様にMTS/PMS比色分析を用いて評価した。結果はコントロール・ウエル(シスプラチン1μg/ml単独処理の内皮細胞)と比較した。 結果は図4の通りであるが、シスプラチン暴露の2時間前にEPOに暴露した場合、(シスプラチン単独に暴露したコントロール細胞と比較して)生存内皮細胞数が減少したことを示している。細胞の増殖と生存能力は、コントロールと比較して81%も低下した。阻止は用量に依存していた。5および2.5単位/mlもの低EPO濃度でも、細胞の成長をそれぞれ58%と48%低下させた。 上記は本発明を説明することを目的し、従って本発明を限定するものとして上記を解釈してはならない。本発明の範囲は次の請求によって限定される。但し、これらの請求の同等物は本発明に含まれるものとする。図1は、シスプラチン(cisplatin)に対する暴露後における、内皮細胞の生存能力についての用量−反応曲線を示すグラフである。図2は、内皮細胞培養産物をシスプラチンと各種用量のEPOとに同時暴露した場合の反応を、内皮細胞培養産物をシスプラチンのみに暴露したコントロールと比較して示すグラフである。図3は、内皮細胞培養産物を先ずシスプラチンに暴露し、2時間後各種用量のEPOに暴露した場合の反応を(内皮細胞培養産物をシスプラチンのみに暴露したコントロールと比較して)示すグラフである。図4は、内皮細胞培養産物を先ず各種用量のEPOに暴露し、2時間後シスプラチンに暴露した場合の反応を(内皮細胞培養産物をシスプラチンのみに暴露したコントロールと比較して)示すグラフである。 治療を必要とする患者の血管新生した固形腫を治療する薬剤であって、前記薬剤はエリスロポイエチンの内皮阻止量を含有し、かつ抗腫瘍化学療法剤と併用して投与され、前記エリスロポイエチンの内皮阻止量が750〜2000単位/kgである薬剤。 前記抗腫瘍化学療法剤がシスプラチンである請求項1に記載の薬剤。 前記エリスロポイエチンの内皮阻止量が前記抗腫瘍化学療法剤と同時に投与される請求項1または2に記載の薬剤。 前記エリスロポイエチンの内皮阻止量が前記抗腫瘍化学療法剤投与前に投与される請求項1または2に記載の薬剤。 前記エリスロポイエチンの内皮阻止量が前記抗腫瘍化学療法剤投与後に投与される請求項1または2に記載の薬剤。 【課題】化学療法剤を原因とする内皮傷害および/または内皮の成長抑制を強化することを目的とするヒト・エリスロポイエチン(EPO)の使用を説明する。化学療法剤の投与とEPOとの併用を説明する。【解決手段】治療を必要とする患者の血管新生した固形腫を治療する薬剤であって、前記薬剤はエリスロポイエチンの内皮阻止量を含有し、かつ抗腫瘍化学療法剤と併用して投与され、前記エリスロポイエチンの内皮阻止量が750〜2000単位/kgである薬剤。【選択図】なし


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