タイトル: | 公開特許公報(A)_酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤及びβ−フェネチルアルコールを含有する酵母発酵物の製造法 |
出願番号: | 2008024460 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C12N 1/16,C12C 11/02 |
北川 さゆり 向井 伸彦 家藤 治幸 水野 昭博 JP 2009183171 公開特許公報(A) 20090820 2008024460 20080204 酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤及びβ−フェネチルアルコールを含有する酵母発酵物の製造法 不二製油株式会社 000236768 独立行政法人酒類総合研究所 301025634 北川 さゆり 向井 伸彦 家藤 治幸 水野 昭博 C12N 1/16 20060101AFI20090724BHJP C12C 11/02 20060101ALN20090724BHJP JPC12N1/16 FC12C11/02 6 OL 9 4B065 4B065AA72X 4B065BB19 4B065CA41 4B065CA42 本発明は、特別な変異を施した醸造酵母などを使用せずとも特徴ある香気成分を有するビール・焼酎・パンなどの酵母発酵物を得るための促進剤とその剤の利用法に関する。 酒、焼酎、ビールなどのアルコール飲料の香味成分の一つとして高級アルコールが知られており、それらの中に、バラ様香りを呈するβ−フェネチルアルコールが知られている。また、β−フェネチルアルコールは、パンにおいては酵母臭のマスキング効果があることが知られている。 β−フェネチルアルコールは主に酵母により産生され、味噌、醤油、酒類、パン類など酵母を利用した食品に香味を付与することが知られている。 例えば、特許文献1(特開平3-98577号公報)には、フェネチルアルコールの生産能を有する酵母(サッカロミセス・セレビシエ)が開示されている。 また、特許文献2(特開平3-94670号公報)には、β−フェネチルアルコール、酢酸β-フェネチル高生産性酵母菌株とこれを用いた酒類の製造法が開示されている。 また、特許文献3(特開平3-98577号公報)には、フェニルアラニンアナログ耐性変異株の酵母とこれを用いたパン類が開示されている。 ところで、β−フェネチルアルコールはアミノ酸のフェニルアラニンが代謝されて産生されることも知られている。酵母は、この由来物質であるフェニルアラニンを、ペプチドや遊離アミノ酸の形で細胞外から取り込むか、あるいは酵母自身のアミノ酸生合成経路でつくるか、どちらかで得るが、菌体中のフェニルアラニンの量が多ければ、フィードバック阻害がかかり、過剰のアミノ酸が生合成されないシステムがあるため、β−フェネチルアルコールは主に細胞外から取り込まれたフェニルアラニンに由来すると考えられる。 清酒酵母では、このフィードバック阻害に関わる酵素を欠損させたβ−フェネチルアルコール高産生株が知られている。 しかし、遊離アミノ酸、特にフェニルアラニンよりも優れたβ−フェネチルアルコール産生能を有するオリゴペプチドは知られていない。(参考文献)特開平3-98577号公報特開平3-94670号公報特開平3-98577号公報 本発明は、特別な変異を施した醸造酵母などを使用せずとも特徴ある香気成分を有するビール・焼酎・パンなどの酵母発酵物を得ること、かかる香気成分の産生を促進する酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を得ることを目的とした。 本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究の結果、遊離フェニルアラニンより、フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドがフェネチルアルコールの産生に優れた効果を有することを見出し本発明を完成するに到った。 即ち、本発明はフェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤である。フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドはジペプチドあるいはトリペプチドの1種または2種以上から選ばれることが好ましい。 また本発明は、フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を培地に用いることを特徴とするβ−フェネチルアルコールを含有する酵母発酵物の製造法である。フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドはジペプチドあるいはトリペプチドの1種または2種以上から選ばれることが好ましい。 本発明の酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を使用することにより、特別な変異を施した醸造酵母などを使用せずともβ−フェネチルアルコールを多く含んだ奥行き深い香りを有するビール・焼酎・パンなどの酵母発酵物を得ることができる。 まず、フェニルアラニンを配列に含むジペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤について説明する。 フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドはフェニルアラニンをN末端に含むもの、C末端に含むもの、またそれ以外の部位に含むもののいずれであってもよい。 本発明においてフェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドは、どのような製法によるものであってもよい。例えば、tert-butyloxycarbonyl法や9-fluorenylmethyloxycarbonyl法などで化学的に合成したものであってもよいし、フェニルアラニンを多く含む植物性タンパク質あるいは動物性タンパク質を酵素あるいは酸などにより分解し、分画して得られるものであってもよい。 これら動植物性蛋白質を単に酵素分解してオリゴペプチドを主成分とするペプチドを得たとしても全窒素量あたりのフェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの窒素量が10%を超えることは極めて稀である。 これに対し、本発明の酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤は、全窒素量あたりのフェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの窒素量を10重量%以上、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上含むものが適当である。 酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤の残りの成分はその他のアミノ酸やペプチド等の窒素源、炭素源、ミネラル、賦形剤、糖類など、発酵に有用な成分を利用することができる。 このように、フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチド含量の高い酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を用いると少量の該剤でβ−フェネチルアルコールを多く含む発酵物を得ることが可能となる。フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの割合が低いと、同等の効果を得るために多量の酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を用いる必要があり好ましくない。 次に、β−フェネチルアルコールを含有する酵母発酵物について説明する。 この発酵物としては、例えばビール・発泡酒・雑酒などのビール系飲料、清酒、焼酎、ワイン、パン、味噌、醤油などの酵母発酵物を例示することができる。 本発明は、前記フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を培地に用いることによりβ−フェネチルアルコールを含有する酵母発酵物を製造することができる。 以下、β−フェネチルアルコールを含有する酵母発酵物を製造する方法について説明する。 前記フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤の培地に用いる量やより好ましい配列は酵母発酵物の種類により異なる。 β-フェネチルアルコール産生促進剤添加割合の例としては、ビール系飲料の場合、培養液に対し、β-フェネチルアルコール産生促進剤の適正量(重量%)は、オリゴペプチド組成によっても異なるが、0.0008%〜0.66%、好ましくは0.0016%〜0.33%、さらに好ましくは0.004%〜0.165%が適当である。 少なすぎると効果が少なく、多すぎても頭打ちになり、コストがかさむばかりである。また、配列に関しては、例えば、ビール系飲料の場合、β−フェネチルアルコール産生量が多い、Phe-Phe≒Phe-Asp≧Asp-Phe>Phe-Leuの順で好ましい。 なおここで言うオリゴペプチドとは、アミノ酸2個からなるジペプチドから、酵母がペプチドトランスポーターを介して取り込むことのできる大きさの範囲のペプチドをいうが、ジペプチドあるいはトリペプチドが望ましい。 また、焼酎やパンなどの酵母発酵物の場合はビールとは添加する窒素源の量が異なるなど培地が異なるので前記割合とは異なり、適当な範囲を実験的に決めことができる。 上述したように、酵母は由来物質であるフェニルアラニンを、ペプチドや遊離アミノ酸の形で細胞外から取り込むか、あるいは酵母自身のアミノ酸生合成経路でつくるか、どちらかで得るが、菌体中のフェニルアラニンの量が多ければ、フィードバック阻害がかかり、過剰のアミノ酸が生合成されないシステムがあるため、殆どは細胞菌体外から取り込むことで得ると考えられる。ペプチドと遊離アミノ酸の取り込みは別システムであり、ペプチドはペプチドトランスポーターを介し、遊離アミノ酸はアミノ酸トランスポーターを介して取り込まれる。 ビール酵母においては、各遊離アミノ酸の取り込みスピードに差があり、フェニルアラニンは比較的取り込みが遅いことが知られている。しかし、フェニルアラニンがオリゴペプチドの状態で存在すると、取り込まれるシステムが違い、遊離アミノ酸の状態で存在するよりも早く取り込まれると考えられる。実際、細胞外のトータルのフェニルアラニン量を、タンパクやペプチドも酸分解してアミノ酸にした形で測定すると、遊離フェニルアラニンで添加した場合と、上記配列のオリゴペプチドで添加した場合では、オリゴペプチドで添加した場合の方が早くから、多くのフェニルアラニンが減少していた。オリゴペプチドの配列によって、β−フェネチルアルコール産生量が異なるが、この点については、取り込まれやすさや、取り込み後のアミノ酸分解速度の差によるものと考えられる。 以下実施例により本発明の実施態様を具体的に説明する。(実施例1〜3,比較例1) 窒素源として表1(上表:%換算、下表:mmol/100ml換算)に示す各例の割合でジペプチド及び各種遊離アミノ酸を添加し、その他の栄養源として表2の成分を添加した培養液をそれぞれpH5.0に調整し、121℃、20分オートクレーブし、培養液とした。 発酵試験には酵母はビール下面酵母「Yeast Bank Weihenstephan 34/70」を使用した。予めYPD培地200mlにて25℃、24時間振とう培養(120rpm)し、さらに同培地900mlにスケールアップして25℃、72時間振とう培養した後、遠心分離(1690g、10分)により回収した。滅菌水で1回洗浄を行った後、再度遠心分離して得たスラリー状の酵母に、スラリーの3倍重量の滅菌水を添加し懸濁したものを添加酵母液とした。 培養液2200mlに、添加酵母液10mlを添加し、ガラス製の醗酵管(内径55mm、長さ1135mm)に移し、培養液を通気させるため、醗酵管の口を押さえてよく振とうし、15℃で11日間静置培養した。培養中に一定時間ごとに培養液をサンプリングし、β−フェネチルアルコール産生量を測定した。 その結果、表3に示すとおり、培養11日目におけるβ−フェネチルアルコールの含量をみると、実施例1(Phe-ASP添加区)では約100ppm、実施例2(Phe-Phe添加区)では約80ppm、実施例3(Phe-Leu添加区)では約60ppmもの高含量のβ−フェネチルアルコールが認められた。一方、比較例1(遊離Phe添加区)では、約40ppmのβ−フェネチルアルコールしか認められなかった。(表1)(表2)(表3)(比較例2) 窒素源として、大豆オリゴペプチド混合物である「ハイニュートS」(不二製油製)を培養液中0.3%使用し、それ以外は実施例1と同様に発酵試験を行い、β−フェネチルアルコール産生量を測定したところ、表3に示すとおり、培養10日目において約30ppmのβ−フェネチルアルコールしか認められなかった。 本発明により、ビール・焼酎・日本酒などの酒類、あるいはパン類、味噌、醤油など、酵母を用いて発酵する物中のβ−フェネチルアルコールの産生を促進し、香気に優れる酵母発酵物が可能になったものである。フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤。オリゴペプチドが、ジペプチドである請求項1記載のβ−フェネチルアルコール産生促進剤。オリゴペプチドが、トリペプチドである請求項1記載のβ−フェネチルアルコール産生促進剤。フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を培地に用いることを特徴とするβ−フェネチルアルコールを含有する酵母発酵物の製造法。フェニルアラニンを配列に含むジペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を培地に用いることを特徴とするβ−フェネチルアルコールを含有する酵母発酵物の製造法。フェニルアラニンを配列に含むトリペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を培地に用いることを特徴とするβ−フェネチルアルコールを含有する酵母発酵物の製造法。 【課題】本発明は、特別な変異を施した醸造酵母などを使用せずとも特徴ある香気成分を有するビール・焼酎・パンなどの酵母発酵物を得ること、かかる香気成分の産生を促進する酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤を得ることを目的とした。【解決手段】フェニルアラニンを配列に含むオリゴペプチドの1種又は2種以上を主成分とする酵母のβ−フェネチルアルコール産生促進剤。【選択図】 なし