生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_脂肪性肝炎−肝癌モデル動物
出願番号:2008022494
年次:2009
IPC分類:A01K 67/027,G01N 33/50,G01N 33/15


特許情報キャッシュ

米山 博之 藤井 庄人 JP 2009178143 公開特許公報(A) 20090813 2008022494 20080201 脂肪性肝炎−肝癌モデル動物 株式会社ステリック再生医科学研究所 505156709 清水 初志 100102978 刑部 俊 100119507 新見 浩一 100128048 小林 智彦 100129506 渡邉 伸一 100130845 井上 隆一 100142929 米山 博之 藤井 庄人 A01K 67/027 20060101AFI20090717BHJP G01N 33/50 20060101ALI20090717BHJP G01N 33/15 20060101ALI20090717BHJP JPA01K67/027G01N33/50 ZG01N33/15 Z 13 OL 15 2G045 2G045AA29 本発明は、脂肪性肝炎および肝癌モデル動物、並びに、該動物の利用方法に関する。 従来、非アルコール性脂肪性肝疾患は進展することのない良性の疾患であるとされてきたが、非飲酒家であるにも関わらず、アルコール性肝炎に類似した炎症及び肝線維化の組織像を示すことが明らかとなり、予後不良の疾患であることが知られている。特に近年、肥満、糖尿病などを背景とするメタボリック症候群が注目を浴び、非アルコール性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)はその症候群の一つであるとの考えが広がっている。しかしながら、その機序は不明であり、また効果的な治療法・治療薬剤が確率されていない。その一端の原因は、ヒトの生活習慣病を発症の基盤とする為に、適当な実験動物が確立されていない為である。 肝硬変、肝癌など致死性の疾患に進展するNASHの病態の解明は、効果的な治療法並びに治療薬の開発に必須である。しかし現在NASHモデルマウスとして研究に用いられている実験動物では、レプチン受容体欠損マウス(非特許文献1)、肝細胞特異的Pten欠損マウス(非特許文献2)、レチノイン酸受容体αの優性阻害型遺伝子改変マウス(非特許文献3)などの単一遺伝子改変マウスやメチオニン-コリン欠乏食(非特許文献4)などの特殊な餌を与えることによって誘発されるものが用いられているが、ヒトの病因としては、遺伝子改変マウスの様な単一遺伝子変異で病態が発症進行するのではなく、また特殊な栄養成分のみを摂取している為とは考えにくい。またこれらのマウスではインスリン抵抗性並びに肝線維化を同時に観察することはできず、また線維化を誘発するマウスにおいては血清生化学的な解析において指標とされるALTの上昇が軽微であるためその病態を観察する為には多数のマウス組織片が必要であり、また逆にALTの上昇が著しく高値を示す為にヒトの病態とは異なるものであると考えられる。さらに、病態が処置後自然に治癒してしまう為に、薬効判定における試験及び評価が困難であり、NASH治療法並びに治療薬の開発の為には、ヒトの臨床病態に即した実験動物モデルの開発が望まれる。 様々な研究が行われているものの、ヒトと類似した病態を示す実験動物が存在せず、詳細な病因及び治療法のスクリーニングが困難な状況である。Sahai A et al., Am J Physiol Gastroentest Liver Physiol 287:G1035, 2004Horie Y et al., J Clin Invest 113:1774, 2004Yanagitani A et al., Hepatology 40:366, 2004Rinella M et al., Journal of Hepatology 40:47, 2004 本発明は、ヒトと類似した病理所見を示す脂肪性肝炎モデル動物、および、肝癌モデル動物、並びに、該動物の利用方法の提供を課題とする。より具体的には、インスリン抵抗性から脂肪肝、脂肪性肝炎、肝線維化、肝硬変、肝癌となるモデル動物の作製技術の提供を課題とする。 本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。本発明者は、マウスへN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与しインスリン抵抗性を惹起させ、さらに高脂肪食を用いて飼育することにより脂肪肝を誘発させた。その結果、当該マウスについて、脂肪性肝炎を発症させることに成功した。当該マウスを詳細に検討したところ、以下のような病理所見を呈した。(1)肝細胞において大滴性の脂肪沈着が観察され,肝細胞の風船様膨化が観察された。(2)炎症性細胞浸潤が認められた。(3)中心静脈を中心とした線維化が観察された。 上記病理所見はヒトのNASH(非アルコール性脂肪肝炎)に特徴的なものである。即ち本発明者は、上記手法によってヒトのNASHと同様の病理所見を示すマウスの作出に初めて成功した。 本発明者によって作製されたNASHモデル動物は、これまでのモデル動物と比べて、以下のような相違点を有する。(1)肝細胞の脂肪変性、線維化が門脈周囲ではなく、ヒトの病理組織と同様に中心静脈を中心に進行して行く。(2)病態の進行により、脂肪沈着、炎症細胞の消失が観察されるが肝線維化のみが観察されるヒトの"burned-out NASH"と呼ばれる病理組織像も観察される。 本発明のモデル動物は、遺伝子改変せずに作成される点において特徴的なものと言える。また本発明のモデル動物は、ヒトのNASHへの進行と予後に非常に類似した病態を均一なタイムコースで100%確実に発症する動物であり、ヒトの病態進行と一致する初のモデル動物である。さらに本発明のモデル動物は、インスリン抵抗性と肝線維化を同時に観察できる点においても顕著な有利な効果を奏すると言える。 さらに本発明者は、上記NASHモデル動物についてさらに飼育を継続することにより、肝硬変の後に肝癌が発症することを新たに見出した。これは、ヒトにおいて確認されてきた病態変化と同じものであり、当該手法によって作製される動物は、ヒトの肝癌モデル動物として非常に有用である。 ヒトの肝癌では肝表面に隆起を示すが、化学物質を投与し作製される従来の肝癌モデル動物では、肝表面に隆起を形成しない肝癌を呈する。一方、本発明のモデル動物は、遺伝子改変や薬物投与などをせずに、ヒトの肝癌同様、肝表面への隆起が観察されるため、ヒトの肝癌により近いモデルである。さらに、化学物質投与では、肝硬変が観察されないが、本発明のモデル動物では塊状型の索状肝細胞癌を呈し、また炎症性細胞の浸潤、正常肝細胞を圧排するように発育した肝硬変由来の肝臓癌が観察される。さらに、肝癌への発生母地となるのはヒトのNASHに非常に類似した病態を示す大滴性の脂肪肝であり、肝線維化及び肝硬変を経るため、いままでの報告にはない非常に有用なモデル動物である。 上述の如く本発明者は、ヒトと類似した病理所見を示す脂肪性肝炎モデル動物、および肝癌モデル動物の作出に成功し、本発明を完成させた。これらのモデル動物を使用することにより、疾患の治療もしくは予防用の物質のスクリーニング、および、薬物の薬効評価を効果的に実施することができる。 本発明は、インスリン抵抗性から脂肪肝、脂肪性肝炎、肝線維化、肝硬変、肝癌となるモデル動物、並びに、該動物の利用方法に関し、より具体的には、〔1〕 N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与して作製される脂肪性肝炎モデル非ヒト動物、〔2〕 前記脂肪性肝炎が非アルコール性脂肪肝炎である、〔1〕に記載の非ヒト動物、〔3〕 インスリン抵抗性と肝線維化を同時に呈することを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載の非ヒト動物、〔4〕 N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与し、高脂肪食を用いて飼育することにより脂肪肝を生じさせることを含む、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の非ヒト動物、〔5〕 前記N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤がストレプトゾトシンである、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の非ヒト動物、〔6〕 前記非ヒト動物がマウスである、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の非ヒト動物、〔7〕 非ヒト動物へN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与する工程を含む、脂肪性肝炎モデル非ヒト動物の生産方法、〔8〕 以下の工程(a)および(b)を含む、脂肪性肝炎の治療用もしくは予防用物質のスクリーニング方法、(a)〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の脂肪性肝炎モデル非ヒト動物へ被検物質を投与する工程(b)脂肪性肝炎に対する改善効果を評価する工程〔9〕 以下の工程(a)および(b)を含む、薬物の脂肪性肝炎の改善に対する薬効評価方法、(a)〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の脂肪性肝炎モデル非ヒト動物へ被検薬物を投与する工程(b)脂肪性肝炎に対する改善効果を評価する工程〔10〕 〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の非ヒト動物をさらに飼育して作製される、肝癌モデル非ヒト動物、〔11〕 以下の病理学的形態によって構造的に特徴付けられる、〔10〕に記載の非ヒト動物、(a)塊状型の索状肝細胞癌(b)炎症性細胞の浸潤(c)正常肝細胞を圧排するように発育した肝硬変由来の肝臓癌〔12〕 以下の工程(a)および(b)を含む、肝癌の治療用もしくは予防用物質のスクリーニング方法、(a)〔10〕または〔11〕に記載の肝癌モデル非ヒト動物へ被検物質を投与する工程(b)肝癌に対する治療効果を評価する工程〔13〕 以下の工程(a)および(b)を含む、薬物の肝癌治療に対する薬効評価方法、(a)〔10〕または〔11〕に記載の肝癌モデル非ヒト動物へ被検薬物を投与する工程(b)肝癌に対する治療効果を評価する工程を、提供するものである。 ヒトの発症病態に類似した実験動物作製のため、マウスにインスリン抵抗性を惹起し、さらに高脂肪食を用いて飼育することにより脂肪肝を誘発した。各週齢時のマウスを屠殺して、肝臓を中心に各臓器を病理組織学的に解析し(HE染色、脂肪染色、マクロファージ、線維芽細胞の免疫染色)、病理像を詳細に検討した。また、血清生化学検査を行った。 上述のように本発明者は、ヒトと同様の病理所見を示す脂肪性肝炎モデル動物(例えば、NASHモデル動物)、および肝癌モデル動物の作製に成功した。 本発明は、マウスなどの実験用動物にインスリン抵抗性を惹起し、高脂肪食負荷を行うことによって脂肪肝、脂肪性肝炎、肝線維化、肝硬変へと進行するヒトNASHに類似した病態を早期より発症し、かつ前述の病態進行に付随する肝癌を自然発症する動物を安定的かつ容易に作製する技術の提供である。 また当該動物においては、糖尿病性疾患(糖尿病性腎炎、網膜症、高脂血症、動脈硬化症、低HDLコレストロール血症)を同時に観察することができるため、メタボリック症候群の病態をも同時に観察することができる実験動物作製の技術提供ともなる。 また、現在NASHモデルとして汎用されているob/ob、db/dbマウスなどはマウス加齢に伴う病態の形成が一定ではない為に、正確な病態の判定の為にマウスの病態のモニターリングなどが必要であリ、実験に用いるための煩雑さが生じていた。さらに病変も不可逆的とは言いがたい為、薬効効果の判定などに困難が生じていた((Horie Y et al., J clin Invest 113:1774-1783, 2004、Yanagitani A et al., Hepatology 40:366-375, 2004、Anstee QM et al., Int J Exp Path 87:1-16, 2006)。しかし、本発明のモデル動物は、病態完成への発症期間が一定であり、また不可逆的な病態進行を伴うために、上記の問題点を解消することができる。〔発明を実施するための形態〕 本発明はN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与して作製される脂肪性肝炎モデル動物(本明細書において「本発明のモデル動物」と記載する場合あり)を提供する。 本発明のモデル動物は、実験用動物へN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与した後、好ましくは高脂肪食を餌として用いて飼育することによって作製される。 本発明において使用する動物は、通常、実験動物として一般的に使用される動物であれば特に制限されず、通常非ヒト動物であり、好ましくは、非ヒト脊椎動物であり、より好ましくは非ヒト哺乳動物であり、さらに好ましくはげっ歯類である。本発明のモデル動物の作製に使用可能な動物としては、具体的には、マウス、ラット、ラビット、イヌ、ニワトリ、サル等を例示することができる(これらの動物を単に「実験動物」と記載する場合あり)。 本発明のモデル動物の作製に使用する動物の遺伝的背景は特に制限されず、任意の遺伝的背景を有する動物を利用することができる。通常は、野生型の動物を好適に使用することができる。 本発明のモデル動物は、上記実験動物へN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤(本明細書において単に「薬剤」と記載する場合あり)を投与することによって作製される。該阻害剤としては、例えば、ストレプトゾトシン(streptozotocin)、パグナック(Pugnac)等が挙げられる。 また、N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害活性を有する核酸もまた、本発明の薬剤として使用することができる。具体的には、O-linked N-acetylglucosamine transferase遺伝子(GenBankアクセッション番号:NM_139144)の発現を抑制するsiRNA、該遺伝子のアンチセンス、または該遺伝子を標的とするリボザイム等を例示することができる。 本発明のモデル動物の作製において、N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤の投与形態は特に制限されない。例えば、皮下投与(皮下注射など)、静脈投与、経口投与、腹腔投与等が挙げられる。 投与する薬剤の量は、例えば、ストレプトゾトシンの場合には通常50〜500μg、好ましくは100〜300μg、より好ましく200μgであるが、必ずしもこれらの量に制限されない。 薬剤を投与するタイミングは、通常、出生後1〜5日令(新生仔期、好ましくは1〜5日、より好ましくは2日)であり、好ましくは出生後2日令である。 上述のように薬剤を投与することにより、インスリン抵抗性を惹起することができる。本発明のモデル動物の作製においては、上述のように薬剤を投与した後、飼育を行う。通常、該飼育は、高脂肪食を餌として使用することが好ましい。高脂肪食は、一般的に動物用餌として市販される種々のものを利用することができる。 上記高脂肪食の主要成分としては、例えば、粗脂肪、粗タンパク質、粗繊維、粗灰分、可溶性無窒素物、水分が挙げられる。本発明において使用される高脂肪食としては、特に制限されないが、粗脂肪含量が20%以上、好ましくは30%以上であり、総カロリーに占める脂肪由来カロリーの比率は通常50%以上、好ましくは60%以上である。また、高脂肪食に配合される成分は、例えば、粉末牛脂、ミルクカゼイン、卵白粉末、L-シスチン、紅花油、結晶セルロース、マルトデキストリン、乳糖、ショ糖などが挙げられるが、これらの物質は高脂肪食の成分の一例であり、必ずしもこれらの物質が含有されていなくともよい。 上記高脂肪食は、特に制限されないが、例えば、粗脂肪含量が通常食より高い(例えば、約30%以上高い)ものが挙げられる。一例を示せば、研究用動物飼料として市販されているHigh Fat Diet32(日本クレア社製)が挙げられる。 上記高脂肪食は、例えばマウスの場合には、通常、2〜6週齢時、好ましくは3〜5週齢時、より好ましくは4週齢時より投与を開始する。また、1回あたりの高脂肪食の量は、例えばマウスの場合には、3〜6グラム程度である。通常1週間以上、高脂肪食を餌として用いて飼育することが好ましい。当業者であれば、使用する実験動物の種類、大きさ、体重等を考慮して、適宜、高脂肪食の量を調整(加減)することが可能である。高脂肪食を用いて飼育することにより脂肪肝を誘発させることができる。従って、本発明の好ましい態様においては、N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与し、高脂肪食を用いて飼育することにより脂肪肝を生じさせることを含む、脂肪性肝炎モデル動物を提供する。 上記手法によって作製される動物は、脂肪性肝炎の症状を呈し、脂肪性肝炎モデル動物として有用である。本発明のモデル動物は好ましくは、インスリン抵抗性と肝線維化を同時に呈することを特徴とするものである。即ち、本発明のモデル動物は、糖尿病性疾患(糖尿病性腎炎、網膜症、高脂血症、動脈硬化症、低HDLコレストロール血症)を同時に観察することができるため、メタボリック症候群の病態をも同時に観察することができるという特徴を有する。 また、本発明のモデル動物は、病態が自然に治癒されないという特徴を有することから、薬効判定における試験や評価に好適に利用することができる。 本発明のモデル動物の好ましい態様としては、上記脂肪性肝炎は非アルコール性肝炎(NASH)である。即ち本発明は、N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与して作製される非アルコール性肝炎(NASH)モデル動物を提供する。該動物は、ヒトのNASHへの進行と予後が非常に類似した病態を均一なタイムコースで確実に発症するという特徴を有する。 本発明の好ましい態様における非アルコール性肝炎モデル動物は、以下の少なくとも一つの(好ましくは全ての)病理所見を呈する。(1) 肝細胞において大滴性の脂肪沈着が観察され,肝細胞の風船様膨化が観察される。(2) 炎症性細胞浸潤が認められる。(3) 中心静脈を中心とした線維化が観察される。 従って、本発明のモデル動物の好ましい態様としては、上記の病理学的形態によって構造的に特徴付けられるモデル動物である。 本発明の上記脂肪性肝炎モデル動物は、そのまま飼育を継続することにより肝硬変、さらには肝癌を呈する。従って、本発明の脂肪性肝炎モデル動物は、例えば、肝硬変または肝癌モデル動物の作製用動物(出発材料)としても有用である。即ち、本発明は、本発明の脂肪性肝炎モデル動物を含んで成る、肝硬変もしくは肝癌モデル動物作製用材料を提供する。 上述の方法によって本発明のモデル動物を作製する方法もまた、本発明に含まれる。本発明の好ましい態様としては、非ヒト動物へN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与する工程を含む、脂肪性肝炎モデル動物の生産方法を提供する。 また、本発明のモデル動物を利用することにより、脂肪性肝炎の治療もしくは予防用物質をスクリーニングすることが可能である。即ち本発明は、以下の工程(a)および(b)を含む、脂肪性肝炎の治療用もしくば予防用物質のスクリーニング方法を提供する。(a)本発明の脂肪性肝炎モデル動物へ被検物質を投与する工程(b)脂肪性肝炎に対する改善効果を評価する工程 本方法に用いる被検物質としては、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、それらに限定されない。 本発明の方法における被検物質もしくは薬物の投与は、特に制限されないが、例えば、経口的に、または注射等により行うことができる。被検物質がタンパク質である場合には、例えば、該タンパク質をコードする遺伝子を有するウイルスベクターを構築し、その感染力を利用して、本発明のモデル動物へ該遺伝子を導入することも可能である。 工程(b)において改善効果の評価は、該モデル動物の呈する病理所見を検討することにより、脂肪性肝炎が改善しているか否かを判定することができる。 脂肪性肝炎の病理所見は、例えば、上述の病理所見(病理学的形態)を例示することができる。本発明における「改善」とは、脂肪性肝炎の症状が正常な状態へ回復している、あるいは、症状が緩和していることを指す。当業者であれば、本明細書に記載された病理所見を指標に、モデル動物について適宜脂肪性肝炎に症状が改善しているか否かを判定することが可能である。 本発明の方法においては、上記工程(b)において改善効果を示す被検物質を、脂肪性肝炎の治療もしくは予防用物質として選択する。 また、本発明のモデル動物を利用することにより、薬物の脂肪性肝炎の改善に対する薬効評価を行うことも可能である。即ち本発明は、以下の工程(a)および(b)を含む、薬物の脂肪性肝炎の改善に対する薬効評価方法を提供する。(a)本発明の脂肪性肝炎モデル動物へ被検薬物を投与する工程(b)脂肪性肝炎に対する改善効果を評価する工程 上記方法によって薬効の評価が可能な薬物の種類は特に制限されず、例えば、公知の種々の薬剤(低分子化合物、タンパク質、核酸など)を挙げることができる。 被検薬物について、脂肪性肝炎に対する改善効果が見られた場合に、該薬物は脂肪性肝炎に対して治療効果を有するものと判定される。 また本発明の上記脂肪性肝炎モデル動物は、そのまま飼育を継続することにより肝硬変を経た後、さらに肝癌を呈することが本発明者によって初めて見出された。従って、本発明は、上記脂肪性肝炎モデル動物をさらに飼育して作製される、肝硬変または肝癌モデル動物を提供する。 本発明の好ましい態様としては、N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与して作製される脂肪性肝炎モデル動物を、さらに飼育して作製される、肝癌モデル動物に関する。 本発明の上記脂肪性肝炎モデル動物は、その後肝硬変を呈するが、そのままさらに飼育を継続することにより肝癌モデル動物を作製することができる。該モデル動物の作製において、肝硬変の後に飼育する期間は、例えば実験動物がマウスの場合を例にとると、通常2-20週間以上、好ましくは10週間以上である。 本発明の肝癌モデル動物は、例えば、以下から選択される少なくとも一つの(好ましくは全ての)病理所見(病理学的形態)によって構造的に特徴付けられる。(a)塊状型の索状肝細胞癌(b)炎症性細胞の浸潤(c)正常肝細胞を圧排するように発育した肝硬変由来の肝臓癌 上記の特徴を有する肝癌モデル動物は、従来の化学物質(発癌物質)を投与して作製された肝癌モデル動物とは上記病理学的形態を示す点において構造的に区別される。 本発明の上記肝癌モデル動物を利用することにより、肝癌の治療用もしくば予防用物質のスクリーニングを実施することができる。 本発明の上記方法の好ましい態様としては、以下の工程(a)および(b)を含む、肝癌の治療用もしくば予防用物質のスクリーニング方法が挙げられる。(a)本発明の肝癌モデル動物へ被検物質を投与する工程(b)肝癌に対する治療効果を評価する工程 上記方法において治療効果の評価は、例えば、上記の肝癌の病理所見を指標に適宜実施することができる。例えば、被検物質を投与された本発明のモデル動物において、塊状型の索状肝細胞癌が消失している場合には、被検物質は肝癌治療効果を有するものと判定される。 また本発明は、本発明の肝癌モデル動物を利用することにより、薬物の肝癌治療に対する薬効評価を行うことができる。該方法の好ましい態様としては、例えば、以下の工程(a)および(b)を含む方法が挙げられる。(a)本発明の肝癌モデル動物へ被検薬物を投与する工程(b)肝癌に対する治療効果を評価する工程 以下、本発明を実施例により具体的に説明するが本発明はこれら実施例により制限されるものではない。〔実施例1〕NASHモデル動物、および肝癌モデル動物の作製(a)モデル動物の作製 妊娠14日目のC57BL6J/JcLマウス(日本クレア社製)を飼育、出産させた。出生後2日齢のC57BL6J/JcLマウス雄(日本クレア社製)の各々の膵臓β細胞のN-Acetyl-beta-D-Glucosaminedase (O-GlcNAcase)に、特異的に細胞毒性を与え(例えばstreptozotocin 10 mg/mL(SIGMA社製)を20μL/headを皮下注射する)、4週齢までCE-2(日本クレア社製)の飼料、滅菌水を与え飼育し、満4週齢で離乳させた後より粗脂肪含量が通常食よりも高い(or 約30%以上の)High Fat Diet食(日本クレア社製)、滅菌水を与え、10週齢まで飼育した。これによりNASHマウスが作製された。さらに20週齢まで飼育することにより肝癌マウスが作製された。(b)組織学的検討 各週齢にてマウスを24時間の絶食の後、エーテル麻酔下で屠殺、採血を行い、各臓器をOCT compound(sakura社製)にて凍結後、切片化して病理学的解析を行った。本モデルでは、血清生化学的検査においては、正常個体群に比べ、空腹時血糖、Alanine aminotransferase (ALT)、及び中性脂肪の値は高く、インスリン抵抗性が観察される(図1)。組織学的には5週齢時に肝細胞の膨化を伴う、顕著な脂肪肝が観察され、8週齢時には肝臓内の脂肪はほぼ消失している(図2)。6週齢時には肝臓内にマクロファージをはじめとする炎症性細胞の浸潤と集簇が観察され、肝臓の中心静脈を中心に繊維化が進行している。さらに経時的な変化を観察すると8週齢時には中心動脈を結ぶように線維化が進行し、10週齢時には再生結節の形成を示し、肝硬変状態となる(図3)。その後、マウス加齢に伴い再生結節は肥大化し、20週齢時には、炎症性細胞の浸潤、異形肝細胞の増加及び正常肝細胞を圧排するように発育した癌が観察された(図4)。 上述のように、NASHマウス、および肝癌マウスの作出が確認された。 肝臓に脂肪が蓄積する原因としてはアルコール、肥満、糖尿病、脂質代謝異常、薬剤、高度の栄養障害などがあげられるが大きくアルコール性と非アルコール性に分類される。このアルコール性脂肪肝は肝炎、肝線維症、肝硬変へと進行するが、非アルコール性は脂肪肝にとどまり病態は進行しないと考えられてきた。しかし、1990年代後半になり、欧米では肥満人口の増加と疾患概念の普及とともに、C型肝炎、アルコール性肝炎に次ぐ頻度の高い疾患であることが明らかとなり、その病態も肝硬変さらには肝癌へと進行することも報告され注目されるに至った。日本においても、遺伝的なインスリン分泌不足を背景とし、食生活の欧米化、運動不足により肥満人口は増加の一途をたどると供にNASHと診断させる患者数も増加傾向にある。その為、NASH治療法並びに治療薬剤を早急に整備・確立する必要がある。 本発明はヒトのNASH病態との進行状態が非常に類似しており、またインスリン抵抗性、脂肪肝、脂肪性肝炎、肝線維、肝硬変フェイズと治療対象に合わせて解析する時期を決定することができる。また各フェイズからの進行に関与する病因の探索により、ヒトNASH及び肝線維化、肝硬変における全く新規の治療法・治療薬剤、バイオマーカーの開発にも貢献することができると考えられる。またさらに最終的には肝癌まで進行する為に、癌抑制等の薬剤、肝癌発症機構についても検討することが可能となる。 さらに上記に加えて、糖尿病性疾患も同時に解析することが可能であるため、肝臓だけではなく生物個体として全身的な病変の関連性およびその治療法・治療薬剤、バイオマーカーの開発等にも大きく貢献することができる。本発明のマウスにおける血清の生化学検査の結果を示す図である。本発明のマウスにおける肝臓の脂肪染色の結果を示す写真である。本発明のマウスにおける肝臓の免疫組織染色の結果を示す写真である。本発明のマウスの20週齢時の肝臓における肝臓のHE染色の結果を示す写真である。 N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与して作製される脂肪性肝炎モデル非ヒト動物。 前記脂肪性肝炎が非アルコール性脂肪肝炎である、請求項1に記載の非ヒト動物。 インスリン抵抗性と肝線維化を同時に呈することを特徴とする、請求項1または2に記載の非ヒト動物。 N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与し、高脂肪食を用いて飼育することにより脂肪肝を生じさせることを含む、請求項1〜3のいずれかに記載の非ヒト動物。 前記N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤がストレプトゾトシンである、請求項1〜4のいずれかに記載の非ヒト動物。 前記非ヒト動物がマウスである、請求項1〜5のいずれかに記載の非ヒト動物。 非ヒト動物へN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与する工程を含む、脂肪性肝炎モデル非ヒト動物の生産方法。 以下の工程(a)および(b)を含む、脂肪性肝炎の治療用もしくは予防用物質のスクリーニング方法。(a)請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪性肝炎モデル非ヒト動物へ被検物質を投与する工程(b)脂肪性肝炎に対する改善効果を評価する工程 以下の工程(a)および(b)を含む、薬物の脂肪性肝炎の改善に対する薬効評価方法。(a)請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪性肝炎モデル非ヒト動物へ被検薬物を投与する工程(b)脂肪性肝炎に対する改善効果を評価する工程 請求項1〜6のいずれかに記載の非ヒト動物をさらに飼育して作製される、肝癌モデル非ヒト動物。 以下の病理学的形態によって構造的に特徴付けられる、請求項10に記載の非ヒト動物。(a)塊状型の索状肝細胞癌(b)炎症性細胞の浸潤(c)正常肝細胞を圧排するように発育した肝硬変由来の肝臓癌 以下の工程(a)および(b)を含む、肝癌の治療用もしくは予防用物質のスクリーニング方法。(a)請求項10または11に記載の肝癌モデル非ヒト動物へ被検物質を投与する工程(b)肝癌に対する治療効果を評価する工程 以下の工程(a)および(b)を含む、薬物の肝癌治療に対する薬効評価方法。(a)請求項10または11に記載の肝癌モデル非ヒト動物へ被検薬物を投与する工程(b)肝癌に対する治療効果を評価する工程 【課題】 本発明は、ヒトと類似した病理所見を示す脂肪性肝炎モデル動物、並びに、該動物の利用方法の提供を課題とする。【解決手段】 実験用動物へN-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ阻害剤を投与しインスリン抵抗性を惹起させ、さらに高脂肪食を用いて飼育することにより脂肪肝を誘発させた。その結果、当該動物について、脂肪性肝炎を発症させることに成功した。該動物は、ヒトと類似した病理所見を示す。該モデル動物を使用することにより、疾患の治療もしくは予防用の物質のスクリーニング、および、薬物の薬効評価を効果的に実施することができる。【選択図】なし


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る