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タイトル:特許公報(B2)_染色体改変方法
出願番号:2007547984
年次:2013
IPC分類:C12N 15/09,C12Q 1/02


特許情報キャッシュ

平島 匡太郎 東田 英毅 浜 祐子 JP 5200542 特許公報(B2) 20130222 2007547984 20061129 染色体改変方法 旭硝子株式会社 000000044 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 平島 匡太郎 東田 英毅 浜 祐子 JP 2005344749 20051129 20130605 C12N 15/09 20060101AFI20130520BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20130520BHJP JPC12N15/00 AC12Q1/02 C12N 15/09 C12Q 1/02 CA/BIOSIS/MEDLINE(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) WPI 特開2003−144164(JP,A) 日本生物工学会大会講演要旨集,1996年,Vol.1996,p.313,(1029) Nucleic Acids Res., 23[15](1995) p.3079-3081 日本分子生物学会年会プログラム・講演要旨集,2004年,Vol.27,p.880,(3PA-346) Yeast, 16[1](2000) p.65-70 10 JP2006323852 20061129 WO2007063919 20070607 17 20090805 鶴 剛史 本発明は、染色体の改変技術に関し、長い染色体の特定領域を効率よく除去する手段の提供と、特定領域が特定遺伝子を担持するかどうかを効率的に判定する手段を提供する。 ポストゲノム時代の現在、染色体工学はますます重要な技術となりつつある。遺伝子破壊や外来遺伝子の挿入、変異の導入など、染色体を思い通り改変した生物を作製することは、分子生物学、基礎医学、農業工学など、さまざまな分野で極めて重要な技術である。これまでに染色体改変技術としてはλ-red recombination system(非特許文献1)、Cre/loxP system(非特許文献2)、Flp/FRT system(非特許文献3)、あるいはmeganucleaseを用いた方法(非特許文献4)など、さまざまな方法が開発されている。これらはそれぞれ固有の特徴があるが、改変後にも外来配列が残存することや、酵素発現の条件検討が難しいなどの欠点がある。またいずれも特殊な酵素や配列を必要とし、目的の改変株を得るまでには、複数のステップが必要で時間も手間もかかるという問題がある。 S.cerevisae、C.albicansでURA3(orotidine 5'-phosphate decarboxylase遺伝子)を選択マーカー遺伝子として使って染色体を改変する方法が知られている(図1)(非特許文献5および6)。図1は、既に開発されている、S.cerevisae、C.albicansでURA3をリサイクルする方法の模式図である。この方法において、重複配列は導入した改変断片内に存在している(図1)。標的DNA領域を担持した染色体(図1中parental strain)は、ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子を有するDNA断片で置き換えられ、結果として標的DNA領域の削除がおこなわれていた。選択マーカー部がURA3であり、その上下流側に重複配列(選択マーカー遺伝子URA3の上下流側の各配列)をもち、図中点線で囲った部分は導入した改変断片を表す。重複配列は、導入した改変断片内に存在している。この選択マーカー遺伝子URA3は、ポジティブセレクション・ネガティブセレクションのどちらも可能で、ウラシルを含まない培地で非要求性株を選抜できるとともに、要求性株は5-fluoroorotic acid(以下、5-FOAともいう)を含む培地で選抜できる。5-FOAはウラシル前駆体のアナログで、5-FOAから合成されるフルオロウラシルは酵母の生育を強力に阻害するため、ウラシル非要求性株は生育できないことが知られている(非特許文献7)。Wong, Q. N. et al. Efficient and seamless DNA recombineeringusing a thymidylate synthase A selection system in Escherichia coli. Nucl. AcidsRes.33, e59 (2005).Ghosh, K. & Van DuyneG. D. Cre-loxP biochemistry. Methods 28,374-383(2002).Datsenko, K. A. & Wanner,B. L. One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 usingPCR products. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97,6640-6645 (2000).Posfai, G., Kolisnychenko, V., Bereczki, Z. & Blattner, F. R. Markerless gene replacement in Escherichia colistimulated by a double-strand break in the chromosome. Nucl.Acids Res. 27, 4409-4415 (1999).Langle-Rouault, F. & Jacobs, E. Amethod for performing precise alterations in the yeast genome using are cyclable selectable marker. Nucl.Acids Res. 23, 3079-3081 (1995).Wilson, R. B., Davis, D., Enloe, B. M.& Mitchell, A. P. A recyclable Candida albicans URA3 cassette for PCR product-directed gene disruptions. Yeast 16, 65-70(2000).Grimm, C., Kohli, J., Murray, J. & Maundrell, K. Genetic engineering of Schizosaccharomyces pombe: a system for gene disruption and replacement using the ura4 gene as a selectable marker. Mol. Gen. Genet. 215, 81-86 (1988). 本発明が解決しようとする課題は、特殊な酵素や配列を必要としない、汎用性ある染色体改変手段を提供することである。 本発明者らは以上の点を鑑み検討を行った結果、ネガティブセレクションできる選択マーカー遺伝子を使用する系で、重複配列導入手段を検討することにより、より効率的に染色体改変を行うことができることを見出し本発明を完成した。すなわち本発明は以下よりなる。1.細胞中の染色体から標的DNA領域を除去する方法において; 標的DNA領域の上流または下流に「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」を組み込むとともに標的DNA領域と該選択マーカー遺伝子(B)を重複配列で挟むことにより、当該重複配列の間に存在する「該選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」を形成し、 次いで相同組換えとネガティヴセレクションにより前記領域(X)が除去された染色体を持つ細胞を得る、 ことを特徴とする標的DNA領域を除去する方法。2.細胞中の染色体から標的DNA領域を除去する方法において; 「標的DNA領域の下流に存在する特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')」と当該配列(A')の下流に結合した「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」とを有するDNA断片を標的DNA領域の上流に組み込むことにより、前記2つの実質的に同一の配列[(A)および(A')]の間に存在する「該選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」を形成し、 次いで相同組換えとネガティヴセレクションにより前記領域(X)が除去された染色体を持つ細胞を得る、 ことを特徴とする標的DNA領域を除去する方法。3.特定配列(A)及び(A')が、50bp〜1000bpの長さである前項2に記載の方法。4.標的DNA領域が、500bp〜500kbpの長さである前項1〜3のいずれか1項に記載の方法。5.選択マーカー遺伝子(B)が、orotidine 5'-phosphate decarboxylase遺伝子である、前項1〜4のいずれか1項に記載の方法。6.前記標的DNA領域に細胞培養における栄養要求性を補償する遺伝子が含まれ、当該栄養要求性を補償する遺伝子の存在を必要としない条件下で相同組換えとネガティヴセレクションにおける培養を行う、前項1〜5のいずれか1項に記載の方法。7.細胞中の染色体から標的DNA領域を除去して当該標的DNA領域が所望の培養条件(Z)下での増殖に必須の遺伝子を含む領域か否かを判定する方法であって; 標的DNA領域の上流または下流に「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」を組み込むとともに標的DNA領域と選択マーカー遺伝子(B)を重複配列で挟むことにより、当該重複配列の間に存在する「該選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」を形成し、 次いで相同組換えとネガティヴセレクションを行い、かつ、当該相同組換えとネガティヴセレクションを前記培養条件(Z)下で行うかまたは当該相同組換えとネガティヴセレクションにより得られた細胞を前記培養条件(Z)下で培養し、 さらにかかる培養条件(Z)下で増殖する細胞中の染色体に前記標的DNA領域が実質的に存在するか否かを確認し、 その結果、前記標的DNA領域が該染色体に実質的に存在しないことをもって前記標的DNA領域が前記培養条件(Z)下での増殖に必須の遺伝子を含まないと判定する、ことを特徴とする判定方法。8.細胞中の染色体から標的DNA領域を除去して当該標的DNA領域が所望の培養条件(Z)下での増殖に必須の遺伝子を含む領域か否かを判定する方法であって; 「標的DNA領域の下流に存在する特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')」と当該配列(A')の下流に結合した「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」とを有するDNA断片を標的DNA領域の上流に組み込むことにより、前記2つの実質的に同一の配列[(A)および(A')]の間に存在する「該選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」を形成し、 次いで相同組換えとネガティヴセレクションを行い、かつ、当該相同組換えとネガティヴセレクションを前記培養条件(Z)下で行うかまたは当該相同組換えとネガティヴセレクションにより得られた細胞を前記培養条件(Z)下で培養し、 さらにかかる培養条件(Z)下で増殖する細胞中の染色体に前記標的DNA領域が実質的に存在するか否かを確認し、 その結果、前記標的DNA領域が該染色体に実質的に存在しないことをもって前記標的DNA領域が前記培養条件(Z)下での増殖に必須の遺伝子を含まないと判定する、ことを特徴とする判定方法。9.前記標的DNA領域が2種以上の遺伝子を含む領域である前項7又は8に記載の方法。10.選択マーカー遺伝子(B)が、orotidine 5'-phosphate decarboxylase遺伝子である、前項7〜9のいずれか1項に記載の方法。 本発明の手段は、染色体改変後に外来配列が実質的に残存しないという特徴をもち、従来の方法に比べて同等あるいはそれ以上の高い効率で染色体改変を可能にし、しかも汎用性の極めて高い染色体改変手段である。本発明の手段により、ある遺伝子が増殖に必須かどうかを確かめる極めて容易な手段が提供でき、さらに従来法では困難だった100kbpという大領域DNAも、極めて容易に除去が達成できた。さらに本発明の手段は、どの生物にも共通した機構を利用していること、実施例で用いたシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe、以下S.pombeという)は代表的なモデル微生物であって、その染色体構造が高等生物に類似していることから、本発明の染色体改変法は、バクテリアから哺乳類細胞まで広く応用することが可能である。重複する配列を用いた選択マーカー遺伝子除去(リサイクル)の模式図。本発明で開発したura4遺伝子のリサイクル法を利用した染色体改変法の模式図。latent strainを5-FOA処理した時に起こりうる染色体改変の模式図。黒い三角は図4のthroughoutで用いたプライマーを示す。PCRにより標的DNA領域の有無を確認した結果を示す、アガロースゲル電気泳動観察図(臭化エチジウム染色)。左半分が培地にロイシンがありleu1が不要で、右半分が培地にロイシンがなくleu1が必須である場合である。栄養要求性を確認した結果を示す、寒天培地観察図。左がウラシル含有・ロイシン含有培地、中央がウラシル含有・ロイシン不含培地、右がウラシル不含・ロイシン不含培地。第一染色体右腕テロメア付近の遺伝子構成の模式図と、100kbp除去の確認結果を示す、アガロースゲル電気泳動観察図(臭化エチジウム染色)。黒い三角は除去確認のためのプライマーを示している。deletantのDNA塩基配列解析結果を示す、波形イメージ図。除去した部位の上流(upstream)と下流(downstream)の配列が過不足なく結合されていることを示す。PCRによりORFを確認した結果を示す、アガロースゲル電気泳動観察図(臭化エチジウム染色)。 本発明の一は、細胞中の染色体から標的DNA領域を除去する方法である。細胞は、実施例では酵母を利用して例示したが、バクテリアから哺乳類細胞まで広く適用できる。 標的DNA領域除去に際し、まず、標的DNA領域の上流または下流に「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」を組み込むとともに標的DNA領域と選択マーカー遺伝子(B)を重複配列で挟むことにより、当該重複配列の間に存在する「選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」を形成する。重複配列が標的DNA領域の上流側と下流側に本来存在すればそれを利用できるが、通常は標的DNA領域の上流側と下流側に実質的に同一の配列(重複配列)を形成してそれを使用する。たとえば、標的DNA領域の下流側に本来存在する特定配列(A)を利用し、それと実質的に同一の配列(A')を標的DNA領域の上流側に組み込み、これら2つの配列(A)、(A')を重複配列とする。同様に、標的DNA領域の上流側に本来存在する特定配列を利用することもでき、また、標的DNA領域の下流側と上流側とに実質的に同一の2つの所望の特定配列を組み込んで重複配列を形成することもできる。 「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」は上記重複配列の間に組み込まれる。この選択マーカー遺伝子(B)は標的DNA領域の上流側に組み込んでもよく、下流側に組み込んでもよい。また、選択マーカー遺伝子(B)の組み込みと重複配列の形成は同時に行ってもよく、任意の順に行ってもよい。 以下具体的な例として、標的DNA領域の下流側に本来存在する特定配列(A)を利用し、それと実質的に同一の配列(A')を標的DNA領域の上流側に選択マーカー遺伝子(B)とともに組み込む方法について説明する。上記のように選択マーカー遺伝子(B)の組み込みと重複配列の形成はこの方法に限られるものではないが、工程の簡便性や効率からこの方法が好ましい。 標的DNA領域除去の最初の工程は、「標的DNA領域の下流に存在する特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')」を「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」の上流に結合させたDNA断片を標的DNA領域の上流に組み込む。これによって、前記2つの実質的に同一の配列[(A)及び(A')]の間に存在する「選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」が形成される。そして、領域(X)が、相同組換えとネガティヴセレクションにより除去された染色体をもつ細胞を得る。 なお、図1〜図3、図5に記載のMMAは、MMA最少培地を示す。後述実施例においても最少培地はMMA最少培地を使用した。MMA最少培地の内容についてはOkazaki等(Nucleic Acids Res. 18:6485-6489 (1990).)を参照。 図2と図3に本発明で開発したura4遺伝子のリサイクル法を利用した染色体改変法の模式図を示す。本発明では、図2にlatant strainとして示されるように、parental strainの標的DNA領域(図中targetと表示)の下流に存在する特定配列(A)を選択し、その特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')をネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)(図中ura4と表示)の上流に結合させたDNA断片を標的DNA領域の上流に結合させ、実質的に同一の配列[(A)及び(A')]の間に存在する「選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」が形成される。改変断片に重複配列はなく、latent strainで初めてura4が、標的DNA領域とともに重複配列に挟まれる。除去される標的DNA領域が、改変断片を導入した段階では残っているのが従来法との大きな相違点である。ここで、細胞は予め選択マーカー遺伝子「URA」が除去された(不活性化された)株を使用する。すなわち、培地にウラシル(ura)を必要とするウラシル要求性株をparental strainに用いる。選択マーカー遺伝子「URA」(図中ura4と表示)が導入された形質転換株(latent strain)はウラシル非要求性株となるので、ウラシルのない培地で選択される。 次に、変異株を選択する。選択マーカー遺伝子「URA」が導入された形質転換株(latent strain)は5-FOA(図中FOAと表示)が存在すると増殖できないので、5-FOAが存在する培地では選択マーカー遺伝子「URA」が導入された形質転換株は増殖できず、選択マーカー遺伝子「URA」を失った(または不活性化した)変異株(deletantまたはmutant)のみが増殖する(「URA」がないので増殖にはウラシル(ura)が必要)。したがって、再度選択マーカー遺伝子「URA」を失った(不活性化した)変異株(deletantまたはmutant)は、5-FOA(5-fluoroorotic acid)とウラシルを含む培地で選択される(図2および図3)。図3はlatent strainを5-FOA処理した時に起こりうる染色体改変を示す。図3において、培地にロイシン(図中leuと表示)がある場合、leu1は不要遺伝子なためura4とともに相同組換えによって除去された株が得られる(deletant)。一方、培地にロイシンがなくleu1が必須である場合、leu1は残存したままura4に変異が入り活性がなくなった株(mutant)が得られる。なお、このleu1はロイシン要求性を補償する遺伝子(選択マーカー遺伝子の1種)であり、図3ではこの遺伝子が標的DNA領域に存在する。 本発明の染色体改変法では、改変断片(選択マーカー遺伝子URA4とその上流の配列(A')のみ)に重複配列はなく、latent strainで初めて選択マーカー遺伝子ura4が、標的DNA領域とともに重複配列(特定配列AとA')に挟まれる。除去される標的DNA領域が、改変断片を導入した段階では残っているのが従来法との大きな相違点である。 本発明で使用する特定配列(A)は特に限定されるものではない。標的DNA領域の下流側に存在する配列であれば十分である。その長さは、50bp〜1000bpが好ましく、特に200bp〜400bpが好ましい。重複配列(除去される領域の両端に設けた実質的に同一の2つの配列AとA')がこの程度の長さであれば、相同組換えが生じるに十分である。ここで実質的に同一とは、相同組換えが生じるに必要十分な程度に同一であれば十分という意味である。なお、標的DNA領域の上流側に存在する特定配列を利用する場合や標的DNA領域の下流側と上流側に特定の配列を組み込んで重複配列を形成する場合も、その配列の長さは上記長さであることが好ましい。 本発明で標的とされる標的DNA領域は特に限定されるものではない。200bp〜1000kbpの長さの標的DNAを除去することが可能であり、標的DNA領域は、500bp〜500kbpの長さが好ましく、特に1kbp〜200kbpが好ましい。長い領域を除去できるのが本発明の特徴であるが、上記の下限程度の短いものも除去できる。さらに所望により上記下限よりもさらに短い領域を除去することもでき、たとえ1塩基であっても除去できる。このような短い領域であっても後述の重複配列間の長さを測定することによって目的標的DNA領域の有無を確認できる。 さらに、本発明の標的DNA領域の除去と同時に重複配列の外側に新たな配列を組み込むこともできる。たとえば、前記選択マーカー遺伝子(B)の上流に結合させた配列(A')のさらに上流側に新たな任意の配列を結合させたDNA断片を標的DNA領域の上流に組み込むことにより、標的DNA領域が除去されかつ新たな任意の配列が組み込まれた染色体を構築することができる。新たな任意の配列としてはたとえばマーカー遺伝子などがある。 本発明で使用可能なネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)は、特に限定されるものではなく、公知のネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子が利用できる。好適なネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子として、「URA」(orotidine 5'-phosphate decarboxylase)遺伝子を例示した。なお、「URA3」は出芽酵母サッカロミセスセレビシエ(S.cerevisae)の「URA」遺伝子であり、「URA4」はS. pombeの「URA」遺伝子である。その他にも、出芽酵母サッカロミセスセレビシエにおいてα-アミノアジピン酸が使用可能であって、リジン生合成系のLYS2・LYS5がURA3の代わりに使用可能であり、また、大腸菌ではSacBという選択マーカー遺伝子があり、これもネガティブセレクションマーカー遺伝子として使用可能である。 本発明において相同組換えとは、人工的にゲノム上の特定遺伝子を変化させる遺伝子ターゲッテイング手段であり、ゲノム上の特定遺伝子と相同的な部分をもつDNAを細胞中に導入した場合、この相同部分で組み換えをおこし、外来のDNAがゲノムに取り込まれるのである。 本発明においてネガティヴセレクションとは、負の選択であり、選択されたクローンの細胞を死に至らしめる。本発明では、選択マーカー遺伝子の導入は、当該培養条件下で細胞を死に至らしめることを意味する。このネガティヴセレクションで得られた細胞は、当該選択マーカー遺伝子が除去された(当該選択マーカー遺伝子とともに標的DNA領域が除去された)染色体を有する細胞か、または、当該選択マーカー遺伝子が変異して当該選択マーカーとして機能しないものとなった(標的DNA領域は残存している)染色体を有する細胞である。 ネガティヴセレクションで得られたこれら2種の細胞は、PCR法等によって重複配列(A)、(A')間を増幅しその長さを測定することによって区別することができる。たとえば、特定配列(A)の下流側の配列と特定配列(A')の上流側の配列をプライマーとして使用し(図3、図6にプライマーとして使用する部分を楔型で示す)、それらの間の配列を増幅しその増幅された断片の長さを測定する。測定の結果、短い断片(ほぼ、両プライマー+(A)+(A')の長さ)が得られた細胞は標的DNA領域が除去された細胞であり、長い断片(ほぼ、両プライマー+(A)+(A')+変異選択マーカー遺伝子+標的DNA領域の長さ)が得られた細胞は標的DNA領域を有する細胞である、と判断される。 上記2種の細胞は、また、標的DNA領域に第2の選択マーカーを有している場合、その第2の選択マーカーの有無により区別することができる。たとえば、標的DNA領域に栄養要求性を補償する遺伝子(第2の選択マーカー)が含まれている場合、細胞増殖時に栄養要求性であれば栄養要求性を補償する遺伝子が失われているので、その細胞は標的DNAが除去された細胞であると判断され、細胞増殖時に栄養要求性でなければ栄養要求性を補償する遺伝子が残存しているので、その細胞は標的DNAが残存した細胞であると判断される。 本発明の標的DNA領域の除去法は、この標的DNA領域に細胞培養における栄養要求性を補償する遺伝子が含まれており、相同組換えとネガティヴセレクションにおける培養を当該栄養要求性を補償する遺伝子の存在を必要としない条件下で行うことが好ましい。図3では、標的DNA領域にleu1(3-isopropylmalate dehydrogenase)遺伝子が含まれており、相同組換えとネガティヴセレクションにおける培養が、ロイシン(leu)を含有する培地中でおこなわれている。つまり、leu1遺伝子が存在しなくとも相同組換えとネガティヴセレクションにおける培養条件が確保された条件で培養が行われるのである。 本発明は、また細胞中の染色体から標的DNA領域を除去して当該標的DNA領域が所望の培養条件(Z)下で増殖に必須の遺伝子を含む領域か否かを判定する方法である。 前記方法ではまず、標的DNA領域の上流または下流に「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」を組み込むとともに標的DNA領域と選択マーカー遺伝子(B)を重複配列で挟むことにより、当該重複配列の間に存在する選択マーカー遺伝子と標的DNA領域とを含む領域を形成する。この工程は、前記本発明の除去方法における工程と同じように行う。以下具体的な例として、標的DNA領域の下流側に本来存在する特定配列(A)を利用し、それと実質的に同一の配列(A')を標的DNA領域の上流側に選択マーカー遺伝子(B)とともに組み込む方法について説明する。上記のように選択マーカー遺伝子(B)の組み込みと重複配列の形成はこの方法に限られるものではないが、工程の簡便性や効率からこの方法が好ましい。 前記方法は、「標的DNA領域の下流に存在する特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')」と当該配列(A')の下流に結合した「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」とを有するDNA断片を標的DNA領域の上流に組み込むことにより、前記2つの実質的に同一の配列[(A)及び(A')]の間に存在する「選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」を形成し、次いで相同組換えとネガティヴセレクションを行い、かつ、当該相同組換えとネガティヴセレクションを前記培養条件(Z)下で行うかまたは当該相同組換えとネガティヴセレクションにより得られた細胞を前記培養条件(Z)下で培養し、さらにかかる培養条件(Z)下で増殖する細胞中の染色体に前記標的DNA領域が実質的に存在するか否かを確認し、その結果、前記標的DNA領域が該染色体に実質的に存在しないことをもって前記標的DNA領域が前記培養条件(Z)下で増殖に必須の遺伝子を含まないと判定する、ことを特徴とする方法からなる。本発明の工程で使用する各文言の意味は、前記の染色体からの標的DNA領域を除去する方法と同一である。 本発明において、「所望の培養条件(Z)下で」という意味は、本発明によって栄養要求性株の判定をも含むことを意味する。 図3は、本発明の判定方法の概略を示す。Latent strainにおいて、標的DNA領域がleu1遺伝子であり、選択マーカー遺伝子がura4遺伝子であり、これらを挟んで上下流に特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')が配置されている。図3左側のleuを含む培地[MMA+5-FOA+ura(ウラシル)+leu(ロイシン)]を用いた「培養条件(Z)下」では、「leu1」遺伝子はその「培養条件(Z)下」で増殖に必須の遺伝子ではない。すなわち、その培養条件(leu含有)下で増殖する「deletant」には、「標的DNA領域(「leu1」遺伝子)が実質的に存在しない」ことにより、その培養条件下では「leu1」遺伝子は必須ではないと判定される。 一方、図3右側のleu(ロイシン)を含まない培地[MMA+5-FOA+ura(ウラシル)]を用いた「培養条件(Z)下」では、「leu1」遺伝子はその「培養条件(Z)下」で増殖に必須の遺伝子である。すなわち、その培養条件[leu(ロイシン)なし]下で増殖する「mutant」には、「標的DNA領域(「leu1」)遺伝子が実質的に存在」していることより、その培養条件下では「leu1」遺伝子は必須と判定される。 なお、本発明において、標的DNA領域の長さは上記のとおりであるが、この領域が2種以上の遺伝子を含む領域であってもよい。例えば、「leu1」遺伝子等の生育関連遺伝子とそれ以外の遺伝子を含んでいてもよい。 かくして提供された本発明は、格別の操作を付け加えることなく、簡便であり、染色体からの標的DNA配列除去後には全く外来配列は残らないので、別部位の操作を何度も繰り返し行うことが可能である。さらにこれまでの方法では、必須であった選択マーカー遺伝子除去のための酵素を導入する必要なく簡便化が達成されている。また、非常に長い領域を除去するために、従来法では例えばマウスで二ヶ所にloxP配列を別々に組み込んでいたが、本発明では、片方は染色体そのままの配列で改変する必要はなく、目的遺伝子のどちらか一端を改変するだけで除去可能な状態となり、従来の方法に比べて遙かに容易で優れている。 本発明は、選択マーカー遺伝子を組み込んだ段階では標的DNA領域が残っていること、そして標的DNA配列の除去の効率が極めて高いという点も大きな特徴である。これを利用することで、ある遺伝子や染色体領域が細胞の生育に必須かどうかを調べることが可能となった。本発明の実施例で用いたleu1遺伝子は、ロイシンのない培地では必須遺伝子であり、ロイシンのある培地では生育に不要な遺伝子と見なすことができる。すなわち、本発明の方法で除去できず(deletantが得られず)標的DNA配列が残ったままの選択マーカー遺伝子に変異が入ったmutantしか得られない場合、その標的遺伝子の領域は、生育に必須であることが判定されるのである。 ある遺伝子の配列を改変しその遺伝子の機能を解析することは、最も良く行われる方法のひとつであるが、S. pombeをはじめ多くの生物では、しばしば改変株の取得が極めて困難である。特に機能未知の遺伝子を直接改変しようとする場合、単に効率が悪いため改変が困難なのか、それとも生育に必須なため本質的に改変ができないのかを見極めることはできない。本発明の方法では、潜伏させた段階において標的遺伝子は改変されないので、標的遺伝子が生育に必須かどうかにかかわらずlatent strainの作製は可能である。得られたlatent strainをネガティブセレクションすれば、必ずdeletantかmutantとなり、標的遺伝子の除去株が得られるか、あるいはその領域が生育に必須であることが判定される。実施例1<leu1遺伝子がロイシン不含培地での生育に必須であることの判定> 分裂酵母シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)のオロチジン-5'-リン酸脱炭酸酵素(orotidine5'-phosphate decarboxylase)遺伝子(ura4)除去株を作製するためのDNA断片を、配列番号1(DNA-3620:5'-atgtgtgcaaagaaaatcgt-3')および2(DNA-3621:5'-ttacaaaattttttcaagtt-3')に記載の合成オリゴDNAをプライマー組としたPCR法によって作製した。増幅の鋳型にはS.pombe ARC032株(東京大学遺伝子実験施設飯野雄一博士より供与されたJY1株を継代保管したもの、遺伝子型:h-)から抽出精製した全DNA画分を使用した。得られた増幅断片を用いてS.pombe ARC010株(飯野雄一博士より供与されたJY743株を継代保管したもの、遺伝子型:h-leu1-32 ura4-D18)をOkazaki等(Nucleic Acids Res. 18:6485-6489 (1990).)に記載の方法によって形質転換し、ウラシルを含有する最少培地で生育可能であり、開始コドンATGのAを1とした時の137番目のGの変異AがGに復帰した、ura4除去株(MGF300株と命名、遺伝子型:h-ura4-D18)を取得した。 S. pombeの3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素(3-isopropylmalate dehydrogenase)遺伝子(leu1)が生育に必須かどうかを判定するためのDNA断片を、配列番号3(DNA-3476:5'-aaagaggccaaccagaagag-3')および4(DNA-3477:5'-ttattctacattaaaccctaaaatttttaatgtcaaaaaa-3')に記載の合成オリゴDNAを上流配列用、配列番号5(DNA-3478:5'-tttcgtcaatatcacaagctcgtttactaacgtagaaagc-3')および6(DNA-3479:5'-gttgttgaagaagttttgtt-3')に記載の合成オリゴDNAを下流配列用、配列番号7(DNA-3482:5'-tagggtttaatgtagaataa-3')および8(DNA-3483:5'-gtgggatttgtagctaagctggatgtcgtaaatcaattcc-3')に記載の合成オリゴDNAを重複配列用のそれぞれプライマー組としてSakurai等(FEMSYeast Res. 4:649-654 (2004))およびKrawchuk等(Yeast.15:1419-1427(1999))に記載の二段階PCR法によって、ura4配列とともにleu1下流に位置する200bpの配列を重複配列として配置した断片を作製した。増幅の鋳型にはARC032株から抽出精製した全DNA画分を使用した。得られた増幅断片を用いてMGF300株を前記Okazaki等およびSakurai等(FEMSYeast Res. 4:649-654 (2004))に記載の方法によって形質転換し、ロイシンおよびウラシルを含有する最少培地で生育可能である、除去断片が染色体内に潜在した株(latent strain、MGF375株と命名、遺伝子型:h- ura4-D18 leu1<<ura4+)を取得した(図3)。 MGF375株をロイシン(leu)、ウラシル(ura)および5-フルオロオロチン酸(5-fluoroorotic acid、5-FOA、図ではFOAと表示)を含む培地に塗布して形成されたコロニーのうち8個から全DNA画分を抽出し、その遺伝子型を、配列番号9(DNA-3480:5'-aagatgacgatgatgatttt-3')および10(DNA-3481:5'-gtcgcttcttctcaacgact-3')に記載の合成オリゴDNAをプライマー組としたPCR法によって確認した。結果、図4左に示すように8株全てにおいてMGF375株よりも短いバンドが得られた。配列番号11(DNA-1456:5'-atggatgctagagtatttca-3')および12(DNA-1457:5'-ttaatgctgagaaagtctttg-3')の合成オリゴDNAをプライマー組としたPCR法によってura4配列を、DNA-3620およびDNA-3621をプライマー組としたPCR法でleu1配列を増幅した結果、ura4およびleu1配列が除去された場合、throughoutでは約1000bpが増幅し、両者のORF(ura4:795bp、leu1:1116bp)は増幅されなかった(図4、deletant)。さらに栄養要求性を確認した結果、図5に示すように、latent strainではura4、leu1がともに機能しているため、全ての培地で生育が認められた。これに対し、両者とも除去されたdeletantでは、8株全てウラシル・ロイシンともに要求性であった(図5、deletant、8株のうち2株を示す)。 以上の結果からura4と重複配列をleu1の上流に組み込んだ潜在株を5-FOA培地に塗布するだけで、ura4とともに標的遺伝子であるleu1も同時に除去された株(図3、deletant)が、高い効率で得られることがわかった。 一方、MGF375株をロイシンを含まないウラシルおよび5-FOAを含む培地に塗布して形成されたコロニーのうち8個から全DNA画分を抽出し、その遺伝子型をDNA-3480およびDNA-3481をプライマー組としたPCRで確認した。その結果、図4右に示すように8株全てにおいてMGF375株と同じ長さのバンドが得られた。DNA-1456およびDNA-1457をプライマー組としたPCR法によってura4配列を、DNA-3620およびDNA-3621をプライマー組としたPCR法でleu1配列を増幅した結果、ura4、leu1が残っている場合、throughoutでは約4000bpが増幅し、ura4およびleu1のORFも増幅された(図4、mutant)。 さらに栄養要求性を確認したところ、図4のPCRの結果ではlatent strainと同様のバンドが増幅されたmutantも、8株全てウラシル要求性・ロイシン非要求性であった(図5、mutant、8株のうち2株を示す)。以上の結果から、ura4と重複配列をleu1の上流に組み込んだ潜在株を5-FOA培地に塗布し、leu1が生育に必須の培養条件下では、ura4及びleu1ともに除去されない株(図4、mutant)が、高い効率で得られることがわかった。さらにura4内部の塩基配列を決定したところ、8株全てにおいてそれぞれ、開始メチオニンを1とした時の227番目のアスパラギン酸がチロシン(2株)またはアスパラギンに、121番目のスレオニンがリジン(2株)またはアルギニン(2株)に、33番目のセリンがアルギニンに変異していることを確認した。 以上の結果から、除去対象領域に必須遺伝子が含まれない場合には相同組換えによって対象領域が効率よく除去され、対象領域に必須遺伝子が含まれる場合には点変異によってura4の活性がなくなった変異株が得られることがわかった。すなわち、得られた株の遺伝子型をPCR法によって簡便に判定することによって、対象領域に生育に必須の部分が含まれるかどうかが容易にわかることが判明した。実施例2<染色体からの大規模領域(100kbp)の削除> S. pombeの第一染色体の右腕テロメア近傍の100kbpの領域(塩基番号5413211から5513210)には、既知の必須遺伝子を含まない33個の遺伝子が位置する。この領域を除去するために、遺伝子SPAC186.06の100kbp上流(塩基番号5413211の位置)にura4と重複配列を組込むためのDNA断片を、配列番号13(DNA-3350:5'-agaattgagacggcgctgaa-3')および14(DNA-3351:5'-gtccttttgttaaataaaaattaggatacactaggtagat-3')に記載の合成オリゴDNAを上流配列用、配列番号15(DNA-3352:5'-tttcgtcaatatcacaagcttgttgcttttttatattaaa-3')および16(DNA-3353:5'-aaacaagactaaagattagt-3')に記載の合成オリゴDNAを下流配列用、配列番号17(DNA-3329:5'-tttttatttaacaaaaggac-3')および18(DNA-3330:5'-gtgggatttgtagctaagcttttatcgaaagaaaagaaat-3')に記載の合成オリゴDNAを重複配列用のそれぞれプライマー組として、前記Sakurai等および前記Krawchuk等に記載の二段階PCR法によって作製した。 増幅の鋳型にはARC032株から抽出精製した全DNA画分を使用した。得られた増幅断片を用いてARC010株を前記Okazaki等および前記Sakurai等に記載の方法によって形質転換し、ロイシンを含有する最少培地で生育可能である、除去断片が染色体内に潜在した株(latent strain、MGF387株と命名)を取得した。 このMGF387株をロイシン、ウラシルおよび5-FOAを含む培地に塗布して形成されたコロニーのうち18個から全DNA画分を抽出し、その遺伝子型を、配列番号19(DNA-3354:5'-gacagtaaaagcattaagta-3')および20(DNA-3355:5'-gctttaccaacttcgtcaga-3')に記載の合成オリゴDNAをプライマー組としたPCR法によって確認した。その結果、latent strainでは100kbpと非常に長いため、PCRによる増幅は認められなかったが、FOA耐性となった株では、18株全てについて100kbpが除去されたことが示唆される1000bpのバンドが増幅された(図6)。さらに、このPCR産物のDNA塩基配列を解析した結果、18株全てにおいて標的配列の上下流が外来配列を1塩基も残さずに結合していることが確認された(図7、18株中1株の結果を示す)。図7において、第一染色体の塩基番号5413210と塩基番号5513211がシームレスにつながっていることを確認した結果を示す。 さらに、第一染色体 100kbpの標的配列に含まれる33個のORFsのうち20個のORFs、および標的配列両隣のORF内500bpを増幅するプライマーでORFの有無を確認した。その結果、図8に示すようにlatent strainでは全てについて増幅が認められた。これに対し、FOA処理後のdeletantでは、標的領域両隣のORF以外は増幅が認められず、100kbpが除去されていることが明らかとなった(図8、deletant、MGF388株と命名)。 本発明の操作は極めてシンプルで、従来の一遺伝子破壊と全く変わないものである。その原理は相同組換えという、生物に備わる極めて基本的な機能を利用しているだけであるので、5-FOAを利用できるS.cerevisiae[Langle-Rouault, F. & Jacobs, E. A method for performing precise alterations in the yeast genome using a recyclable selectable marker. Nucl. Acids Res. 23, 3079-3081 (1995).] 、C. albicans[Wilson, R.B., Davis,D., Enloe, B.M. & Mitchell, A.P. A recyclable Candida albicans URA3 cassette for PCR product-directed gene disruptions. Yeast 16, 65-70 (2000).]、 P. pastoris[Nett, J.H. & Gerngross, T. U. Cloning and disruption of the PpURA5 gene and construction of a set of integration vectors for the stable genetic modification of Pichia pastoris. Yeast 20, 1279-1290(2003).]、 K. lactis[Bai, X.,Larsen, M. & Meinhardt, F. The URA5 gene encoding orotate-phosphoribosyltransferase of the yeast Kluyveromyceslactis: cloning, sequencing and use as a selectable marker. Yeast 15,1393-1398 (1999).]などのさまざまな酵母で応用できるのはもちろん、ネガティブセレクションが可能なEscherichia coli[Wong, Q. N. et al. Efficient and seamless DNA recombineering using a thymidylate synthase A selection system in Escherichia coli. Nucl. Acids Res. 33, e59 (2005).]、Arabidopsis thaliana[Xiaohui, W. H. et al. Positive-negative selection for homologous recombination in Arabidopsis. Gene 272, 249-255 (2001).]、 mammalian cells[Mullen, C. A., Kilstrup, M. & Blaese, R. M. Transfer of the bacterial gene for cytosine deaminase to mammalian cells confers lethal sensitivity to 5-fluorocytosine: a negative selection system. Proc. Natl. Acad. Sci.USA 89, 33-37 (1992).]など、非常に多くの生物で応用できる可能性が高い。 なお、2005年11月29日に出願された日本特許出願2005−344749号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。 細胞(ヒトの生体内の細胞を除く)中の染色体から標的DNA領域を除去する方法において; 「標的DNA領域の上流に存在する特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')」と当該配列(A')の上流に結合した「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」とを有する線状のDNA断片を標的DNA領域の下流に組み込むことにより、前記2つの実質的に同一の配列[(A)および(A')]の間に存在する「標的DNA領域と該選択マーカー遺伝子(B)とを含む領域(X)」を形成し、 次いで相同組換えとネガティヴセレクションにより前記領域(X)が除去された染色体を持つ細胞を得る、 ことを特徴とする標的DNA領域を除去する方法。 細胞(ヒトの生体内の細胞を除く)中の染色体から標的DNA領域を除去する方法において; 「標的DNA領域の下流に存在する特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')」と当該配列(A')の下流に結合した「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」とを有する線状のDNA断片を標的DNA領域の上流に組み込むことにより、前記2つの実質的に同一の配列[(A)および(A')]の間に存在する「該選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」を形成し、 次いで相同組換えとネガティヴセレクションにより前記領域(X)が除去された染色体を持つ細胞を得る、 ことを特徴とする標的DNA領域を除去する方法。 特定配列(A)及び(A')が、50bp〜1000bpの長さである請求項1又は2に記載の除去する方法。 標的DNA領域が、500bp〜500kbpの長さである請求項1〜3のいずれか1項に記載の除去する方法。 選択マーカー遺伝子(B)が、orotidine 5'-phosphate decarboxylase遺伝子である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の除去する方法。 前記標的DNA領域に細胞培養における栄養要求性を補償する遺伝子が含まれ、当該栄養要求性を補償する遺伝子の存在を必要としない条件下で相同組換えとネガティヴセレクションにおける培養を行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載の除去する方法。 細胞(ヒトの生体内の細胞を除く)中の染色体から標的DNA領域を除去して当該標的DNA領域が所望の培養条件(Z)下での増殖に必須の遺伝子を含む領域か否かを判定する方法であって; 「標的DNA領域の上流に存在する特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')」と当該配列(A')の上流に結合した「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」とを有する線状のDNA断片を標的DNA領域の下流に組み込むことにより、前記2つの実質的に同一の配列[(A)および(A')]の間に存在する「標的DNA領域と該選択マーカー遺伝子(B)とを含む領域(X)」を形成し、 次いで相同組換えとネガティヴセレクションを行い、かつ、当該相同組換えとネガティヴセレクションを前記培養条件(Z)下で行うかまたは当該相同組換えとネガティヴセレクションにより得られた細胞を前記培養条件(Z)下で培養し、 さらにかかる培養条件(Z)下で増殖する細胞中の染色体に前記標的DNA領域が実質的に存在するか否かを確認し、 その結果、前記標的DNA領域が該染色体に実質的に存在しないことをもって前記標的DNA領域が前記培養条件(Z)下での増殖に必須の遺伝子を含まないと判定する、 ことを特徴とする判定方法。 細胞(ヒトの生体内の細胞を除く)中の染色体から標的DNA領域を除去して当該標的DNA領域が所望の培養条件(Z)下での増殖に必須の遺伝子を含む領域か否かを判定する方法であって; 「標的DNA領域の下流に存在する特定配列(A)と実質的に同一の配列(A')」と当該配列(A')の下流に結合した「ネガティヴセレクション可能な選択マーカー遺伝子(B)」とを有する線状のDNA断片を標的DNA領域の上流に組み込むことにより、前記2つの実質的に同一の配列[(A)および(A')]の間に存在する「該選択マーカー遺伝子(B)と標的DNA領域とを含む領域(X)」を形成し、 次いで相同組換えとネガティヴセレクションを行い、かつ、当該相同組換えとネガティヴセレクションを前記培養条件(Z)下で行うかまたは当該相同組換えとネガティヴセレクションにより得られた細胞を前記培養条件(Z)下で培養し、 さらにかかる培養条件(Z)下で増殖する細胞中の染色体に前記標的DNA領域が実質的に存在するか否かを確認し、 その結果、前記標的DNA領域が該染色体に実質的に存在しないことをもって前記標的DNA領域が前記培養条件(Z)下での増殖に必須の遺伝子を含まないと判定する、 ことを特徴とする判定方法。 前記標的DNA領域が2種以上の遺伝子を含む領域である請求項7又は8に記載の判定方法。 選択マーカー遺伝子(B)が、orotidine 5'-phosphate decarboxylase遺伝子である、請求項7〜9のいずれか1項に記載の判定方法。配列表


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