生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_注意欠陥・多動性障害の治療薬
出願番号:2007537635
年次:2012
IPC分類:A61K 31/216,A61K 31/4453,A61K 31/4535,A61P 25/14


特許情報キャッシュ

高濱 和夫 副田 二三夫 藤枝 美子 白崎 哲哉 JP 5109132 特許公報(B2) 20121019 2007537635 20060927 注意欠陥・多動性障害の治療薬 国立大学法人 熊本大学 504159235 特許業務法人特許事務所サイクス 110000109 高濱 和夫 副田 二三夫 藤枝 美子 白崎 哲哉 JP 2005281500 20050928 20121226 A61K 31/216 20060101AFI20121206BHJP A61K 31/4453 20060101ALI20121206BHJP A61K 31/4535 20060101ALI20121206BHJP A61P 25/14 20060101ALI20121206BHJP JPA61K31/216A61K31/4453A61K31/4535A61P25/14 A61K 31/ CA/REGISTRY(STN) 国際公開第2005/084709(WO,A1) 特開2000−264849(JP,A) 特表2003−514818(JP,A) 池田和隆,"発達障害モデル動物の行動薬理解析による病態解明と治療薬の開発",「発達障害の病態解明に基づいた治療法の開発に関する研究」,平成16年度研究発表会プログラム・抄録集,2004年,18頁 高濱和夫,"半健康から健康へ−より優れた「生活の質」改善薬を求めて",高次脳機能シンポジウム要旨集,2000年,11th,23-26頁 2 JP2006319144 20060927 WO2007037258 20070405 13 20090907 井上 典之 本発明は注意欠陥・多動性障害の治療薬に関する。 子供や若者が起こす異常な事件や学級崩壊、さらには増え続けるストレスなど、現代の心の病は深刻であるが、具体的な治療法や対策の確立は遅れている。注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、注意力欠損や運動(多動、衝動性)亢進の症状を特徴とする小児の精神疾患とされ、日本の疫学調査では、5〜8歳児で5.3%、米国では学齢期の子供の3〜7%の発現率である。最近は子供だけでなく、大人にもADHDと診断されるケースが知られ、米国ではすでに1〜6%に達しているというデータがある。このADHDはその病像や診断法が臨床医の間でまだ議論が続いている段階であることもあって、その基礎研究は非常に遅れている。また、これらの状況を反映してその治療法についても決定的なものはなく、メチルフェニデート(商品名リタリン)を中心とする薬物療法がなされているが、ADHDの病像が多様であることもあって、その有効例は70%程度に止まっており決定的な治療薬とは言えない。また、国内ではこれらの薬物が中枢興奮薬であるために、現在でも処方がためらわれる傾向にあり、優れた治療薬の開発が望まれている。 一方、本発明者らは、過去20数年にわたる中枢性鎮咳薬に関する研究の過程で、鎮咳薬はG蛋白質共役型内向き整流性Kイオン(GIRK)チャネルを抑制することを見出し、このGIRKチャネル活性化電流を抑制する薬物は、脳硬塞に伴う排尿障害も改善することを見出している(PCT/JP2005/004261)。 また、特開2000−264849号公報には、クロペラスチン又は塩酸カラミフェンなどのモルフィナン骨格を有しない非麻薬性の咳嗽反射抑制物質を含有してなる頻尿・尿失禁の予防・治療組成物が記載されている。特開2000−264849号公報 上記した通り、注意欠陥・多動性障害の治療薬としては、メチルフェニデート(商品名リタリン)を中心とする薬物療法がなされているが、未だ十分なものではなく、優れた治療薬の開発が望まれている。即ち、本発明は、注意欠陥・多動性障害に対する有効な治療薬を提供することを解決すべき課題とした。 本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、GIRKチャネル活性化電流を抑制する薬物は、脳の活動の異常を反映しているADHDも抑制するのではないかと考え、ADHDや多動症のモデルに対するGIRKチャネル活性化電流抑制物質の作用を検討した。その結果、これらの薬物は、ADHDのモデルの一つと考えられる6-ハイドロキシドパミン処置動物の多動症やメタンフェタミン誘発の多動症を抑制することを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。 即ち、本発明によれば、クロペラスチン、カラミフェン、チペピジン、又はそれらの塩を含有する、注意欠陥・多動性障害の治療薬が提供される。 本発明の別の側面によれば、クロペラスチン、カラミフェン、チペピジン、又はそれらの塩を患者に投与することを含む、注意欠陥・多動性障害の治療方法が提供される。 本発明のさらに別の側面によれば、注意欠陥・多動性障害の治療薬の製造のための、クロペラスチン、カラミフェン、チペピジン、又はそれらの塩の使用が提供される。 以下、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。 本発明の注意欠陥・多動性障害の治療薬は、Gタンパク質共役型内向き整流性カリウムイオンチャネル(GIRKチャネル)の活性化電流を抑制する作用を有する化合物である、クロペラスチン、カラミフェン、チペピジン、又はそれらの塩を有効成分として含むことを特徴とする。本発明においては、Gタンパク質共役型内向き整流性カリウムイオンチャネル(GIRKチャネル)の活性化電流を抑制する作用を有し、グリシン受容体の活性化電流およびN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体の活性化電流を抑制する作用を有さない化合物を有効成分として用いることができる。このような化合物の具体例としては、非麻薬性の中枢性鎮咳薬として市販されている化合物を挙げることができる。 GIRKチャネル活性化電流とは、GIRKチャネルの活性化により、カリウムイオンが細胞膜を横切って流れることに起因する膜電流である。このチャネルはセロトニン(5-HT)やノルアドレナリンなど様々な神経伝達物質受容体と共役しており、例えば5-HT1A受容体やアドレナリンα2受容体をそれぞれ刺激するセロトニンやノルアドレナリンにより活性化できる。 本発明において、グリシン受容体活性化電流とは、グリシン受容体の活性化により、塩素イオンが細胞膜を横切って流れることに起因する膜電流のことである。従って、グリシン受容体活性化電流はグリシンにより誘発することができる。 本発明において、アスパラギン酸電流とは、アスパラギン酸が興奮性アミノ酸受容体の一つであるNMDA受容体の活性化を起こすことにより流れる内向きの膜電流のことである。 本発明の注意欠陥・多動性障害の治療薬の一次スクリーニングは、GIRKチャネル活性化電流、そして所望によりグリシン受容体活性化電流、およびNMDA受容体活性化電流を、好ましくは、Akaike, N. & Harata, N. (1994). Nystatin perforated patch recording and its applications to analyses of intracellular mechanisms. Jpn.J. Physiol., 44, 433-473に記載されているパッチクランプ法により測定することにより行う。パッチクランプ法にはニスタチン穿孔パッチクランプ法とホールセルパッチクランプ法の2種類がある。 パッチクランプ法で用いる装置の1例を図9に示す。図9は本発明において膜電流を測定するためのシステムの1例を示した概要図である。図9において、1はニューロン、2はパッチクランプ用ガラス電極、3は試験液が流れるYチューブ、4はYチューブの試験液噴出口、5はチューブ内の試験液を交換するための吸引ポンプ、6は培養皿、7は還流液流入口、8は還流液流出口、9はアンプ、10はアース線である。 図10は図9の要部拡大図で、11はY−チューブ、12はその噴出口、13はニューロン、14は膜電流を測定するための記録電極である。 膜電流の測定に用いるニューロン、特に好ましい縫線核と中心灰白質の単一ニューロンを単離する方法自体は公知であり、例えば、赤池紀扶, 白崎哲哉.(1992). 神経細胞実験法. (編)岡部進. 生物薬科学実験講座14 臓器機能測定法I. 廣川書店, p3-29で赤池らが提案している方法を採用することができる。この方法では例えば、ラットの脳幹から脳薄切片をスライスし、酵素及び器械的処理により単離することができる。 上記装置を用いたパッチクランプ法により膜電流を測定する方法としては、ホールセルパッチクランプ法と、ニスタチン穿孔パッチクランプ法が知られている。ホールセルパッチクランプ法では、記録電極を上記の急性単離した縫線核単一ニューロンに接触させ、電極内を陰圧にしてギガオームシールを形成後、さらに陰圧をかけて電極先端の細胞膜を破壊し、電極内と細胞内を貫通させることでセロトニンなどの細胞外投与よる膜電流を記録することができる。ニスタチン穿孔パッチクランプ法では、Akaike, N. & Harata, N. (1994). Nystatin perforated patch recording and its applications to analyses of intracellular mechanisms. Jpn.J. Physiol., 44, 433-473に記載されているように、記録電極にニスタチンを充填し、ギガオームシールを形成すると、電極内のニスタチンが細胞膜に穿孔を形成し、細胞内環境を維持したまま膜電流を記録することができる。 膜電位および膜電流の記録にはバッチクランプ増幅器を用いることが好ましい。得られた電流波形は、オシロスコープ等で観察するとともにパソコンで解析し、必要であれば記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、CD-R/RW、DVD、MO等に記録する。また、必要であれば、膜電流と膜電位を磁気テープに記録し、レコーダーで描画する。解析には、パッチクランプ解析システムを用いることが好ましい。 GIRKチャネルなどの活性化電流を抑制するか否かの判断は、例えば、電流振幅を平均値±標準誤差として表し、薬物存在下と非存在下の間で統計学的に比較する。危険率p<0.05のとき、その差を有意であるとする。 上記GIRKチャネル活性化電流を抑制する作用を有する化合物(好ましくは、Gタンパク質共役型内向き整流性カリウムイオンチャネル(GIRKチャネル)の活性化電流を抑制する作用を有し、グリシン受容体の活性化電流およびN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体の活性化電流を抑制する作用を有さない化合物)の具体例としては、例えば、クロペラスチン、カラミフェン、エブラジノン、エタンジスルフォン酸、ヒベンズ酸チペピジン、イソアミニル、メモルファン、オキセラジン、ペントキシベリン、エプラジノン、ベンプロペリン、グアイフェネシン、これらの塩酸塩、リン酸塩、クエン酸塩もしくはフェンジゾ酸塩などがある。これらは混合して用いてもよい。 これらの化合物の中ではクロペラスチンまたはその塩酸塩、もしくはフェンジゾ酸塩、塩酸カラミフェン、エタンジスルフォン酸カラミフェン、塩酸エプラジノン、ヒベンズ酸チペピジン、クエン酸チペピジン、クエン酸イソアミニルが好ましく、中でもクロペラスチンが最も好ましい。 本発明で特に好ましい化合物として例示できるクロペラスチンは、下記構造式(1)で表される化合物(1-[2-[(4−クロロフェニル)フェニルメトキシ]エチル]ピペリジン )で、沸点は424℃、分子量は330で、緩和な抗ヒスタミン作用をもつ中枢性鎮咳薬として知られている。 本発明で好ましい化合物として例示できるカラミフェンは、下記構造式(2)で表される化合物で、これも中枢性鎮咳薬として知られている。 本発明で好ましい化合物として例示できるチペピジンは、下記構造式(3)で表される化合物で、これも中枢性鎮咳薬としても知られている。 クロペラスチンを始め上記例示した化合物はいずれも非麻薬性の中枢性鎮咳薬として市販されており、鎮咳薬製造あるいは販売会社から容易に購入することができる。 本発明の注意欠陥・多動性障害の治療薬は、経口的(舌下投与を含む)または非経口的に投与される。このような薬剤の形態としては、錠剤 、カプセル剤 、細粒剤 、丸剤 、トローチ剤 、輸液剤 、注射剤 、坐剤 、軟膏剤 、貼付剤等を挙げることができる。 化合物を生体内に投与する際の輸液剤としては、生理食塩水を主成分とし、それに必要に応じて他の水溶性の添加剤、薬液を配合したものを用いることができる。このような水に添加される添加剤としては、カリウム、マグネシウム等のアルカリ金属イオン、乳酸、各種アミノ酸、脂肪、グルコース、フラクトース、サッカロース等の糖質等の栄養剤、ビタミンA、B、C、D等のビタミン類、リン酸イオン、塩素イオン、ホルモン剤、アルブミン等の血漿蛋白、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ等の高分子多糖類等を挙げることができる。 このような水溶液における化合物の濃度は、10-7Mから10-5Mの濃度の範囲とすることが好ましい。 本発明の化合物を含む治療薬はまた固形剤として生体に投与することができる。固形剤としては、粉末、細粒、顆粒、マイクロカブセル、錠剤等を挙げることができる。このような固形剤の中では、好ましくは嚥下しやすい錠剤の形状をしていることが好ましい。 化合物とともに錠剤を形成するための充填剤、粘結剤としては公知のもの、例えばオリゴ糖等を使用することが出来る。錠剤の直径は2〜10mm、厚さは1〜5mmの範囲にあることが好ましい。化合物を含む治療薬は、他の治療薬と混合されていてもよい。 固形剤には通常用いられる種々の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば、安定剤、界面活性剤、可溶化剤、可塑剤、甘味剤、抗酸化剤、着香剤、着色剤、保存剤、無機充填剤等を挙げることができる。 界面活性剤としては、高級脂肪酸石鹸、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アシルN−メチルタウリン塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩、N−アシルアミノ酸塩等のアニオン界面活性剤;塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシ−N−ヒドロキシイミダゾリニウムベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレン型、多価アルコールエステル型、エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロック共重合体等の非イオン界面活性剤があるが、これらに限定されるものではない。 嚥下性等の改良等の目的のため配合される無機充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、二酸化チタン等を挙げることができる。 安定剤としては、例えば、アジピン酸、アスコルビン酸等を挙げることができる。可溶化剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリルアルコール等の界面活性剤、アスパラギン、アルギニン等を挙げることができる。甘味剤として、アスパルテーム、アマチャ、カンソウ等、ウイキョウ等を挙げることができる。 懸濁化剤としては、カルボキシビニルポリマー等を、抗酸化剤としては、アスコルビン酸等を、着香剤としては、シュガーフレーバー等を、pH調整剤としてはクエン酸ナトリウム等を挙げることができる。 本発明の注意欠陥・多動性障害の治療薬は、通常1回1〜40mg、好ましくは10mg〜20mg、1日3回までの範囲で体内に投与される。 本発明の薬剤は、注意欠陥・多動性障害の治療のために使用することができる。注意欠陥・多動性障害とは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定されている。 注意欠陥・多動性障害の特徴としては、(1)注意欠陥(話を最後まで聞くことが困難、気が散りやすい、物をなくすことが多い、やるべきことに最後まで取り組むことが困難、など)、(2)多動性(じっと座っていられない、相手の立場やその場の状況を考えずに話す、など)、及び(3)衝動性(順番を待つのが難しい、など) の3点を挙げることができる。 注意欠陥・多動性障害の診断基準の一例としては、以下のA.B.C.D.E.に該当することが必要であるという診断基準(DSM−IVによる)を挙げることができる。A.以下の(1)か(2)のどちらか(1)以下の不注意の症状のうち6こ以上が6ヶ月以上続いたことがあり、その程度は不適応的で、発達の水準に相応しないもの不注意a.学業、仕事、その他の活動において、綿密に注意することができない、または不注意な過ちをおかすb.課題または遊びの活動で注意を持続することが困難であるc.直接話しかけられた時に聞いていないようにみえるd.指示に従えず、学業や職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動または指示を理解できないためではなく)e.課題や活動を順序だてることが困難であるf.(学業や宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することを避ける、嫌う、またはいやいや行うg.課題や活動に必要な物(例えばおもちゃ、学校の宿題、鉛筆、道具など)を紛失するh.外部からの刺激によって容易に注意をそらされるi.毎日の日課を忘れてしまう(2)以下の多動性―衝動性の症状のうち6個以上が少なくとも6ヶ月持続したことがあり、その程度は不適応で、発達水準に達しない多動性―衝動性a.手足をそわそわと動かし、またはいすの上でもじもじするb.教室や、その他座っていることを要求される状況で席を離れるc.余計に走り回ったり高いところへ上がったりする(小児以外では落ち着かない感じの自覚のみに限られることもありうる)d.静かに遊んだり余暇活動に従事することができないe.じっとしていなかったり、「エンジンで動かされるよう」に行動するf.しゃべりすぎるg.質問が終わる前に出し抜けに答えてしまうh.順番を待つことが困難であるi.会話やゲームにおいて他人の邪魔をしたり干渉するB.多動性―衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳未満に見られるC.これらの症状による障害が複数の状況下(例えば学校と家庭)において見られるD.社会、学業、職業等の機能において臨床的に著しい障害が存在するという明確な証拠が存在するE.その症状は広汎性発達障害、精神分裂病、その他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではなく、他の精神疾患(たとえば気分障害、不安障害または人格障害など)ではうまく説明できない。 注意欠陥・多動性障害のモデルとしては、メタンフェタミンで誘発した歩行量増加を示す動物、及び6−ヒドロキシドパミンで誘発した歩行量増加を示す動物を用いることができる。注意欠陥・多動性障害の症例の中でも、周囲の人に対する暴力などの衝動性が激しい症例では、ハロペリドールが鎮静の目的で臨床使用されるが、メタンフェタミンによる自発運動の増加がハロパリドールにより抑制されることがKuribara, H. Uchihashi, Y. (1993). Effects of haloperidol on the methamphetamine sensitization: assessment by ambulatory activity in mice. に記載されている。また、6−ヒドロキシドパミンで誘発した歩行量増加を示す動物を注意欠陥・多動性障害のモデルとして使用できることは、Shaywitz, BA. Yager, RD. Klopper, JH. (1976). Selective brain dopamine depletion in developing rats: an experimental model of minimal brain dysfunction. Science., 191, 305-308. Avale, ME. Falzone, TL. Gelman, DM. Low, MJ. Grandy, DK. Rubinstein, M. (2004). The dopamine D4 receptor is essential for hyperactivity and impaired behavioral inhibition in a mouse model of attention deficit/hyperactivity disorder. Mol. Psychiatry., 9, 718-726. に記載されている。 既存の注意欠陥・多動性障害の治療薬であるメチルフェニデートは、メタンフェタミンで誘発した歩行量増加を抑制しないが、本発明の注意欠陥・多動性障害の治療薬は、メタンフェタミンで誘発した歩行量増加も抑制したことから、既存の注意欠陥・多動性障害の治療薬であるメチルフェニデートが効きにくい注意欠陥・多動性障害を治療できる可能性がある。また、メチルフェニデートは、6−ヒドロキシドパミンで誘発した歩行量増加を抑制したことから、本発明の注意欠陥・多動性障害の治療薬は、メチルフェニデートが有効である注意欠陥・多動性障害についても同様に治療できるものである。 以下の実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。(1)実験方法実験1:メタンフェタミン誘発歩行量増加に対するクロペラスチン、チペピジン、カラミフェン、メチルフェニデートの作用 4週齢のddY系雄性マウスを購入し、1週間ハンドリングをおこない、5週齢の時点で実験に用いた。実験のタイムスケジュールを図1に示す。まず、マウスに生理食塩水またはクロペラスチン (5, 10, 20 mg/kg)、チペピジン (10, 20, 40 mg/kg)、カラミフェン (20, 40 mg/kg)、メチルフェニデート (10 mg/kg) を皮下投与した。その10分後にメタンフェタミン (0.5 mg/kg) を皮下投与し、ただちにオープンフィールド試験を30分間おこなった。このオープンフィールド試験によりマウスの探索行動のひとつである歩行量を測定し、多動性の評価をおこなった。また試験終了後、踏み車(ロータロッド)を用いて上記薬物のマウスの協調運動に対する影響を評価した。この協調運動に対する試験は、被検物質の神経毒性の指標となるものである。実験2:6−ヒドロキシドパミン誘発歩行量増加に対するクロペラスチン、チペピジン、カラミフェン、メチルフェニデートの作用GIRKチャネル活性化電流抑制作用物質の作用 ddY系の授乳マウスを購入し、6−ヒドロキシドパミン(6-OHDA)または6−OHDAの溶媒である0.1%アスコルビン酸を生後5日目のオス仔マウスの脳の大槽内に投与し、この動物が5週齢になった時点で実験に用いた。実験のタイムスケジュールを図2に示す。 まず、マウスをオープンフィールドに入れ、10分間歩行量を測定した。その後、生理食塩水またはクロペラスチン (20 mg/kg)、チペピジン (20 mg/kg)、メチルフェニデート (10 mg/kg) を皮下投与し、ただちにオープンフィールド試験を10分間おこなった。また実験1の場合と同様に、試験終了後、踏み車(ロータロッド)を用いて上記薬物のマウスの協調運動に対する影響を評価した。(2)実験結果実験1: 図3にクロペラスチンの結果を示す。マウスにメタンフェタミン (0.5 mg/kg) を皮下投与すると、生理食塩水を投与した群に比べ、歩行量が有意に増加した。それに対しクロペラスチン 10および20 mg/kg の皮下投与は、メタンフェタミンによる歩行量の増加を有意に抑制した。また、ロータロッドによりマウスの協調運動に対する影響を評価したが、すべての群において協調運動能力に影響は認められなかった。 図4にチペピジンの結果を示す。クロペラスチンの場合と同様に、メタンフェタミンの皮下投与により歩行量が有意に増加した。それに対しチペピジン20および40 mg/kg の皮下投与は、メタンフェタミンによる歩行量の増加を有意に抑制した。また、ロータロッドによりマウスの協調運動に対する影響を評価したが、すべての群において協調運動に影響は認められなかった。 図5にカラミフェンの結果を示す。これまでと同様に、メタンフェタミンの皮下投与により歩行量が有意に増加した。それに対しカラミフェン40 mg/kg の皮下投与は、メタンフェタミンによる歩行量の増加を有意に抑制した。また、ロータロッドによりマウスの協調運動能力に対する影響を評価したが、すべての群において協調運動能力は正常であった。 図6にメチルフェニデートの結果を示す。これまでと同様に、メタンフェタミンの皮下投与により歩行量が有意に増加した。それに対しメチルフェニデート10 mg/kg の皮下投与は、メタンフェタミンによる歩行量の増加をさらに増加させた。また、ロータロッドによりマウスの協調運動能力に対する影響を評価したが、すべての群において協調運動能力は正常であった。実験2: 図7にクロペラスチンおよびチペピジンの結果を示す。6−OHDA暴露群はコントロール群に比べ、薬物投与前10分間の歩行量が有意に増加した。生理食塩水の皮下投与により、6−OHDA暴露マウスの歩行量に有意な変化を認めなかったが、クロペラスチンおよびチペピジン20 mg/kg の皮下投与により、6−OHDA暴露マウスの歩行量は有意に減少した。また、ロータロッドによりマウスの協調運動に対する影響を評価したが、すべての群において協調運動に影響は認められなかった。 図8にメチルフェニデートの結果を示す。メチルフェニデート10 mg/kg の皮下投与により、6−OHDA暴露マウスの歩行量は、コントロール群に比べ有意に減少した。また、ロータロッドによりマウスの協調運動に対する影響を評価したが、すべての群において協調運動に影響は認められなかった。 本発明は注意欠陥・多動性障害の治療薬に関する。本発明におけるクロペラスチンに代表されるGタンパク質共役型内向き整流性カリウムイオンチャネル(GIRKチャネル)の活性化電流を抑制する作用を有する化合物は、注意欠陥・多動性障害のモデルの一つと考えられる6-ハイドロキシドパミン処置動物の多動症やメタンフェタミン誘発の多動症を抑制する効果を有し、注意欠陥・多動性障害の治療に有効である。図1は、実験1のスケジュールを示す。被検物質として、cloperastine(5、10、20 mg/kg) 、tipepidine(10、20、40 mg/kg)、caramiphen(20、40 mg/kg)、methylphenidate(10 mg/kg)を用いた。MA: methamphetamine図2は、実験2のスケジュールを示す。被検物質としてcloperastine(20 mg/kg)、tipepidine(20mg/kg)、methylphenidate(10 mg/kg)を用いた。図3は、メタンフェタミン誘発歩行量増加に対するcloperastineの作用を示す。SS: saline-saline、SM: saline-methamphetamine、CM5:cloperastine 5 mg/kg - methamphetamine、CM10: cloperastine 10 mg/kg - methamphetamine、CM20: cloperastine 20mg/kg - methamphetamine 、歩行量はオープンフィールドの区画の境界線をマウスが30分間に横切った回数として表示。図4は、メタンフェタミン誘発歩行量増加に対するtipepidineの作用を示す。SS: saline-saline、SM: saline-methamphetamine、TM10:tipepidine 10 mg/kg - methamphetamine、TM20: tipepidine 20 mg/kg - methamphetamine、TM40: tipepidine 40mg/kg - methamphetamine 、歩行量はオープンフィールドの区画の境界線をマウスが30分間に横切った回数として表示。図5は、メタンフェタミン誘発歩行量増加に対するcaramiphenの作用を示す。SS: saline-saline、SM: saline-methamphetamine、CaM20:caramiphen 20 mg/kg - methamphetamine、CaM40: caramiphen 40 mg/kg - methamphetamine、歩行量はオープンフィールドの区画の境界線をマウスが30分間に横切った回数として表示。図6は、メタンフェタミン誘発歩行量増加に対するmethylphenidateの作用を示す。SS: saline-saline、SM: saline-methamphetamine、MM10:methylphenidate 10 mg/kg - methamphetamine、歩行量はオープンフィールドの区画の境界線をマウスが30分間に横切った回数として表示。図7は、6ーヒドロキシドパミン誘発歩行量増加に対するcloperastineおよびtipepidineの作用を示す。歩行量はオープンフィールドの区画の境界線をマウスが10分間に横切った回数として表示。図8は、6ーヒドロキシドパミン誘発歩行量増加に対するmethylphenidateの作用を示す。歩行量はオープンフィールドの区画の境界線をマウスが10分間に横切った回数として表示。図9は、パッチクランプ法で用いる装置の一例を示した概略図である。図10は、図9のパッチクランプ法で用いる装置の要部拡大図である。 クロペラスチン、カラミフェン、チペピジン、又はそれらの塩を含有する、注意欠陥・多動性障害の治療薬。 注意欠陥・多動性障害の治療薬の製造のための、クロペラスチン、カラミフェン、チペピジン、又はそれらの塩の使用。


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