タイトル: | 特許公報(B2)_乳酸菌用プラスミド |
出願番号: | 2007536393 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 1/21 |
宮本 拓 安 和容 成 文喜 瀬脇 智満 成相 英明 原 真一郎 JP 4967138 特許公報(B2) 20120413 2007536393 20060221 乳酸菌用プラスミド 国立大学法人 岡山大学 504147243 進藤 卓也 100163647 宮本 拓 安 和容 成 文喜 瀬脇 智満 成相 英明 原 真一郎 JP 2005278830 20050926 20120704 C12N 15/09 20060101AFI20120614BHJP C12N 1/21 20060101ALI20120614BHJP JPC12N15/00 AC12N1/21 C12N 15/09 2005年度日本畜産学会第104回大会講演要旨,2003年 3月,p.177, IX-27-9 11 JP2006303540 20060221 WO2007034581 20070329 33 20090219 特許法第30条第1項適用 ミルクサイエンス,第296号,2005年5月,p.92,6.に発表 松田 芳子 本発明は、乳酸菌の形質転換が可能なプラスミドおよびベクターに関する。より詳細には、本発明は、広宿主域を有する、乳酸菌の形質転換のためのプラスミドおよびベクターに関する。 多くの乳酸菌の菌株が、発酵食品の製造において必須の生体触媒機能を有している。ヒトは、発酵食品の成分として、有害な作用がもたらされることなくこれらの微生物を摂取している。このため、これらの微生物は、「食品グレード」に分類される。したがって、乳酸菌は、食品および食品成分の栄養価や質を向上させる乳酸菌培養物を開発することを目標とした研究の標的となっている(SOMKUTI,G.A.,STEINBERG,D.H.:Biotechnol.Lett.25,473−477(2003))。 Lactobacillus(乳酸桿菌)種は、ヒトおよび動物の胃腸管の常在菌であり、そしてその腸内平衡を改善することによって宿主に対して有益な効果を供給する一種のプロバイオティクスである(Tannock,G.W.:Appl.Envion.Microbiol.70,3189−3194(2004))。Lactobacillus casei(以下、「Lb.casei」という)は、乳酸菌の一種であり、ヒトの胃腸管だけでなく、多くの食用製品(例えば、植物、乳および肉の発酵品)、サイレージ、他の自然環境などにおいて見られる。近年、Lb.caseiは、本来の風味を有する新規発酵乳製品の製造に使用され、ある種の健康上の利益が要求されている(GOSALBES,M.J.,VICENTE,M.,GASPAR,P.M.:J.Bacteriol.131,3928−3934(1999)およびGASSON,M.J.,DE VOS,W.M.:Genetics and biotechnology of lactic acid bacteria,第1版Blackie A.& P.,London(1994))。この理由から、Lb.caseiは、「一般に安全な」(GRAS)生物であり、プロバイオティクスとして商業的に使用されている(ISABEL,P.A.,GASPAR,P.M.:FEMS Microbiol.Lett.222,123−127(2003))。プロバイオティクスとは、食物に添加され、健康を増進させる生菌である。このようなプロバイオティク微生物には、乳酸桿菌、ビフィズス菌、Streptococcus salivarius、Saccharomyces boulardii、大腸菌などがある。これらの微生物は、生存可能な形で口から摂取されると、以下のような利益をもたらすと考えられている:腸への付着;病原体の成長阻止;発癌性物質の結合または分解;他の細菌の競合的排除または他の細菌の代謝の変化;抗腫瘍物質の生産;免疫機能の刺激。 このグループのGRAS生物に関する遺伝子操作技術を迅速に開発し、そしてそれらの遺伝子構造、遺伝子発現、および蛋白質分泌の知識を増やすことにより、乳酸菌は、食物製品および医薬の新規品や改良品の開発といった新たなバイオテクノロジー適用に対して有用となり得る(LEENHOUTS,K.,BOLHUIS,A.,VENEMA,G.,KOK,J.:Appl.Microbiol.Biotechnol.49,417−423(1998))。そこで、乳酸菌に由来するプラスミドが多くの研究の焦点となっており、これにより種々のシャトルベクターおよび組込みベクターの開発が行われている(JANG,S.J.,HAM,M.S.,LEE,J.M.,CHUNG,S.K.,LEE,H.J.,KIM,J.H.,CHAN,H.C.,LEE,J.H.,CHUNG,D.K.:FEMS Microbiol.Lett.224,191−195(2003)およびBIET,F.,CENATIEMPO,Y.,FREMAUX,C.:Appl.Environ.Microbiol.68,6451−6456(2002))。多くのLactobacillus株は、種々の大きさの天然に常在するプラスミドを1つ以上有している(REN,D.,WANG,Y.,WANG,Z.,CUI,J.,LAN,H.,ZHOU,J.Plasmid 50,70−73(2003))。これらのプラスミドには、種々の機能が既に見出されている。その中には、ラクトース代謝、バクテリオシン合成、エキソ多糖(EPS)産生、またはDNA制限修飾に関する遺伝子がある。分子生物学の発展およびLactobacillusの機能的遺伝子解析の進行とともに、潜在的に有用な食品グレードのベクターとしてのレプリコン自体の特徴づけに関する関心も高まっている(ALPERT,C.A.,CRUTZ−LE COQ,A.M.,MALLERET,C.,ZAGOREC,M.:Appl.Environ.Microbiol.69,5574−5584(2003))。 Lactobacillus菌属の多くの細菌がエレクトロポレーションによって形質転換可能であることが示されている。したがって、これらの細菌は、組換えDNA技術を受けることができ、最終的には菌株を改善することができる(Isabel,P.A.,Manuel,Z.,Gaspar,P.M.:Plasmid 46,106−116(2001))。いくつかのLactobacillus菌種、例えば、Lb.casei(Chassy,B.M.,Flickinger,J.L.:FEMS Microbiol.Lett.44,173−177(1987))、Lactobacillus delbrueckii(以下、「Lb.delbrueckii」という)(Serror,P.,Sasaki,T.,Ehrlich,S.D.,Maguin,E.:Appl.Environ.Microbiol.68,46−52(2002))、Lactobacillus helveticus(Bhowmik,T.,Steele,J.L.:J.Gen.Microbiol.139,1433−1439(1993))、およびLactobacillus sakei(以下、「Lb.sakei」という)(Berthier,F.,Zagorec,M.,Marie,C.V.,Ehrlich,S.D.,Francoise,M.D.:Microbiology 142,1273−1279(1996))について、エレクトロポレーション技術が開発されている。例えば、Lb.caseiのエレクトロポレーションに関するChassy,B.M.ら(前出)には、Lb.casei菌株からプラスミドpLZ15を抽出し、エレクトロポレーションで元の菌株(Lb.casei)に形質転換することが記載されている。 遺伝子操作により乳酸菌の機能性などを向上させるために、特にヒトへの利用を考慮した場合に、安全性の面から、ベクターとして、食経験のある乳酸菌由来のプラスミドを用いたベクターを利用し、乳酸菌の形質転換を行うことが望まれている。以下のLactobacillus由来のプラスミドは、全ヌクレオチド配列が分析されている:pLA103(Lactobacillus acidophilus(以下「Lb.acidophilus」という)由来、Kanatani,K.,Tahara,T.,Oshimura,M.,Sano,K.,Umezawa,C.:FEMS Microbiol.Lett.133,127−130(1995));pRV500(Lb.sakei由来、ALPERT,C.A.ら,前出;pMD5057(Danielsen,M.:Plasmid 48,98−103(2002))、pLP2000およびpLP9000(REN,D.ら,前出)(いずれもLactobacillus plantarum(以下「Lb.plantarum」という)由来);pTC82(Lactobacillus reuteri由来:Lin,C.F.,Fung,Z.F.,Wu,C.L.,Chung,T.:Plasmid 36,116−124(1996));およびpLC2(Lactobacillus curvatus由来:Klein,J.R.,Ulrich,C.,Plapp,R.:Plasmid 30,14−29(1993))。これらは、その複製蛋白質遺伝子または機能的蛋白質遺伝子を使用することによって、クローニングベクターまたは発現ベクターの構築のために使用されている。特開2004−141065号公報には、食経験豊富な乳酸菌であるLb.caseiにプラスミドが存在し、当該プラスミドにより菌の増殖が高められていることを見出したこと、および当該プラスミド由来の複製必須領域を用いた乳酸菌用シャトルベクターが記載されている。 また、バイオテクノロジー適用について広範な宿主に利用可能なベクターは、有用である。このため、広域の乳酸菌宿主において安定に複製可能なプラスミドを用いたベクターを得ることが望まれている。このような広宿主域プラスミドとして、pSY1(特開平5−176776号公報)およびpMT1(特開2002−253260号公報)が報告されている。pSY1は、Lactococcuus lactis subsp.lactisの一株から分離されたプラスミドであり、Bacillus属やLactococcus属、さらに、Lactobacillus delbrueckii種の2つの亜種lactisとbulgariusにおいて複製が可能で、それらの菌を形質転換させる能力を有している(特開平5−176776号公報)。pMT1は、Streptococcus thermophilus由来のプラスミドであり、θ型の複製を行い、Streptococcus thermophilus(サーモフィルス菌)およびチーズ乳酸菌(Lactococcus lactis)で複製できることが報告されている(特開2002−253260号公報)。 プロバイオティクスを好適に利用するために、ヒトへの摂取に適した微生物の性質のさらなる向上を可能としたベクターを得ることが望ましい。したがって、プロバイオティク微生物として認められている種々の乳酸菌において安定に複製可能なプラスミドが期待されている。特に、Lb.caseiを初めとする乳酸桿菌(他に、Lactobacillus casei subsp.alactosus、Lactobacillus gasseri(以下「Lb.gasseri」という)、Lb.acidophilusなどが含まれる)を安定に形質転換できるベクターが期待されている。 本発明は、広宿主域を有する、乳酸菌の形質転換のためのプラスミドおよびベクターを提供することを目的とする。 本発明は、配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域、または該塩基配列に相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつθ型の複製能を保持するDNA領域、またはその機能を変更しない限り該塩基配列から1つ以上の塩基の置換、欠失、または付加を有する塩基配列を有するDNA領域を含むプラスミドを提供する。 本発明はまた、配列番号1の1923位から3809位の塩基配列で示されるDNA領域、または該塩基配列に相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつθ型の複製能を保持するDNA領域、またはその機能を変更しない限り該塩基配列から1つ以上の塩基の置換、欠失、または付加を有する塩基配列を有するDNA領域を含むプラスミドを提供する。 本発明はさらに、配列番号1の1位から8846位の塩基配列で示されるプラスミドpLC494を提供する。 本発明は、配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域、または該塩基配列に相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつθ型の複製能を保持するDNA領域、またはその機能を変更しない限り該塩基配列から1つ以上の塩基の置換、欠失、または付加を有する塩基配列を有するDNA領域を含むDNA断片を含む、組換え用ベクターを提供する。 本発明はまた、配列番号1の1923位から3809位の塩基配列で示されるDNA領域、または該塩基配列に相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつθ型の複製能を保持するDNA領域、またはその機能を変更しない限り該塩基配列から1つ以上の塩基の置換、欠失、または付加を有する塩基配列を有するDNA領域を含むDNA断片を含む、組換え用ベクターを提供する。 一つの実施形態では、本発明の組換え用ベクターは、細菌由来の複製必須領域をさらに含む。 さらなる実施形態では、本発明の組換え用ベクターは、選択マーカー遺伝子をさらに含む。 本発明は、配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域、大腸菌由来の複製必須領域、および選択マーカー遺伝子を含み、以下に示す制限酵素地図:を有する、組換え用プラスミドベクターpJLE4942を提供する。 本発明はまた、配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域、大腸菌由来の複製必須領域、および選択マーカー遺伝子を含み、以下に示す制限酵素地図:を有する、組換え用プラスミドベクターpJLE121を提供する。 本発明は、組換え用ベクターを作製する方法を提供し、該方法は、配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域、または該塩基配列に相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつθ型の複製能を保持するDNA領域、またはその機能を変更しない限り該塩基配列から1つ以上の塩基の置換、欠失、または付加を有する塩基配列を有するDNA領域を含むDNA断片と、任意のDNA断片とを連結する工程を含む。 本発明はまた、組換え用ベクターを作製する方法を提供し、該方法は、配列番号1の1923位から3809位の塩基配列で示されるDNA領域、または該塩基配列に相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつθ型の複製能を保持するDNA領域、またはその機能を変更しない限り該塩基配列から1つ以上の塩基の置換、欠失、または付加を有する塩基配列を有するDNA領域を含むDNA断片と、任意のDNA断片とを連結する工程を含む。 一つの実施形態では、上記の組換え用ベクターを作製する方法は、上記DNA断片をプラスミドpLC494から取得する工程をさらに含む。 別の実施形態では、上記の組換え用ベクターを作製する方法において、上記任意のDNA断片は、細菌由来の複製必須領域を含むDNA断片である。 さらなる実施形態では、上記の組換え用ベクターを作製する方法において、上記プラスミドベクターは、選択マーカー遺伝子をさらに含む。 本発明はまた、上記のいずれかのプラスミドまたは組換え用ベクターを含む形質転換細胞を提供する。 一つの実施形態では、上記形質転換細胞は乳酸菌である。 さらなる実施形態では、上記乳酸菌は、Lb.casei、Lb.casei subsp.alactosus、Lb.gasseri、およびLb.acidophilusからなる群から選択される乳酸桿菌である。なおさらなる実施形態では、上記乳酸菌はLb.caseiである。 別の実施形態では、上記形質転換細胞は大腸菌である。 本発明は、乳酸菌を形質転換する方法を提供し、該方法は、上記のいずれかの組換え用ベクターを乳酸菌に導入する工程を含む。 一つの実施形態では、上記乳酸菌はLb.casei、Lb.casei subsp.alactosus、Lb.gasseri、およびLb.acidophilusからなる群から選択される乳酸桿菌である。なおさらなる実施形態では、上記乳酸菌はLb.caseiである。 別の実施形態では、上記の形質転換方法において、上記導入は、エレクトロポレーションによって行われる。 本発明によれば、広宿主域を有する、乳酸菌の形質転換のためのプラスミドおよびベクターが提供される。本発明のプラスミドおよびベクターはまた、乳酸桿菌において、安定に複製可能である。 図1は、プラスミドpLC494の模式図である。 図2は、プラスミドpLC494の潜在リボソーム結合部位(RBS)、推定プロモーター、および反復配列領域(推定複製起点)の位置および配列を示す図である。 図3は、シャトルベクターpJLE4942の構築を示す模式図である。 図4は、pJLE4942で形質転換された大腸菌および種々の乳酸桿菌から抽出したプラスミドDNAの電気泳動写真である。 図5は、pJLE4942で形質転換された大腸菌DH5α細胞およびLb.casei L−49−4細胞から抽出したプラスミドDNAの電気泳動写真である。 図6は、シャトルベクターpJLE121の構築を示す模式図である。 図7は、Lb.casei L−49−4細胞の形質転換効率に対する電気パラメーターの影響を示すグラフである。 本発明のプラスミドは、配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域を含むプラスミドである。あるいは、本発明のプラスミドは、配列番号1の1923位から3809位の塩基配列で示されるDNA領域を含む。配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域は、本発明のプラスミドの複製において必須の領域(以下「複製必須領域」という)であり、反復配列領域(推定複製起点)および複製蛋白質遺伝子(rep遺伝子)を含む。特に、上記反復配列領域の上流に位置する配列番号1の1923位から2414位の塩基配列で示されるDNA領域は、このプラスミドを含む宿主中でプラスミドが安定に複製するために必要である。 本発明のプラスミドは、Lb.caseiから単離し得る。Lb.caseiとしては、ヒト腸管由来のLb.caseiが挙げられる。このようなヒト腸管由来のLb.casei株としては、例えば、Lb.casei L−49株が挙げられる。Lb.casei L−49株は、乳幼児の糞便より単離された菌株である。Lb.casei L−49から得られたプラスミドpLC494は、本発明のプラスミドに包含される。 本発明のプラスミドは、通常用いられる遺伝子工学的手法に従って、Lb.caseiから分離して調製することができる。例えば、Lb.casei L−49株を培養し、次いでこれを集菌し、乳酸菌を溶菌させるための公知の方法(例えば、リゾチームを用いる方法)により溶菌し、得られた溶菌物から、例えばクロロホルム−イソアミルアルコールでDNAを抽出し、遠心分離のような通常用いられる方法によってプラスミドを分離・精製することにより、得ることができる。 培養は、通常乳酸菌に用いられる培地や培養条件により行えばよい。例えば、培地として、乳糖を添加したMRS培地等を用い、静置培養等の培養法により、約34℃〜約37℃の範囲で、通常約1日間〜約2日間培養するのが好ましい。 得られたプラスミドは、公知のプラスミドと同様に、制限酵素による切断、リガーゼによるライゲーション(連結)などの遺伝子操作を行うことができる。 プラスミドの構造決定は、通常の遺伝子工学的手法に準じた方法を用いることができる。すなわち、本発明のプラスミドの各種制限酵素消化断片を、大腸菌を宿主生物とするプラスミドベクターに挿入し、大腸菌を形質転換した後、当該プラスミドベクターのDNAを抽出し、これを市販の塩基配列決定装置(シーケンサー)に供する。決定された塩基配列は、市販のパーソナルコンピュータ用の遺伝子解析ソフトウェアなどを使用すれば、制限酵素地図の作成や既知の核酸塩基配列データとの比較検討などを行うことができる。 また、本明細書中に記載の配列情報をもとにPCRなどの方法を用いて、Lb.casei菌または他の微生物から本発明のプラスミドの複製必須領域を有するプラスミドを取得すること、および塩基配列を決定することによってそれらが本発明のプラスミドと同一の複製必須領域を有するか否かを容易に確認できる。 Lb.casei L−49から単離されたプラスミドpLC494は8846bpの大きさを有し、その制限酵素地図は図1に示す通りである。プラスミドpLC494の全DNA配列は、配列番号1に示す通りである(配列番号1の1〜8846位)。プラスミドpLC494は、配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域を含み、これは、図1に示す制限酵素地図中のBamHIからORF4(repA)の終止コドンの前までの部位に対応する。あるいは、配列番号1の1923位から3809位の塩基配列で示されるDNA領域を含み、これは、図1に示す制限酵素地図中のBamHIからHindIIIまでの部位に対応する。プラスミドpLC494においては、上記領域が複製必須領域であり、反復配列領域(配列番号1の2458位〜2545位)(図1中「反復領域」)、および複製蛋白質遺伝子(rep遺伝子)(配列番号1の2619位〜3464位)(図1中「ORF4(repA)」)を含む。反復配列は、3つの完全な22bpの反復領域と1つの不完全なモチーフとで構成される、推定複製起点である。特に、反復配列領域の上流に位置する配列番号1の1923位から2414位の塩基配列で示されるDNA領域(図1に示す制限酵素地図中のBamHIからBglIIまでの部位に対応)は、このプラスミドを含む宿主中でプラスミドが安定に複製するために必要である。 本発明のプラスミドは、シータ(θ)型の複製を行うプラスミドであると考えられる。θ型プラスミドでは、一つの複製起点からθ型の中間体分子を経て複製が進行し、構造的に安定であることが知られている。θ型プラスミドは2つのグループに大別される。第1は、pAMβ1などの広宿主域の接合伝達プラスミドであり、これらは、30kb前後と大きいものが多いため遺伝子操作の際の取扱いが難しい。そのため、欠失などによって小さくしたプラスミドをベクターとして用いることが多い。第2は、Lactococcus lactis由来のpCI305に代表され、比較的小さく構造的にも安定であるが宿主域が狭いプラスミドである(特開2002−253260号公報)。本発明のプラスミドは、比較的小型であり、かつLb.casei、Lb.casei subsp.alactosus、Lb.gasseri、およびLb.acidophilusで複製可能であることが示されたように、広宿主域を有する。 さらに、配列番号1の1923位から3464位または配列番号1の1923位から3809位の塩基配列に相補的な塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつθ型の複製能力を有するDNA断片もまた、本発明のプラスミドの複製必須領域として用いることができる。このようなDNA断片は、上記配列番号1の1923位から3464位または配列番号1の1923位から3809位の塩基配列またはその一部の相補配列をプローブとしてコロニーまたはプラークハイブリダイゼーションを行うことにより得ることができる。なお、本明細書において用いる用語「ストリンジェントな条件」は、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えばある塩基配列と60%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上の相同性を有するDNAのみが特異的にハイブリダイズする条件であることができる。ストリンジェントな条件は、所定の相同性に応じて適宜決定され得、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、温度などを調節することにより作り出すことができる。ハイブリダイゼーションの手順としては、まず目的の遺伝子源から得たDNA(染色体DNAまたはcDNA)のライブラリーを作製する。そのライブラリーをプレート上で培養し、生育したコロニー等をニトロセルロースなどの膜に移し取り、変性処理によりDNAを膜に固定する。この膜を32Pなどで標識したプローブ(上記配列番号1の1923位から3464位または配列番号1の1923位から3809位の塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部)を含む溶液中で保温し、膜上のDNAとプローブとの間でハイブリダイゼーションを行う。ハイブリダイゼーションはストリンジェントな条件下、例えば6×SSC、1%SDS、100μg/mlのサケ精子DNA、5×デンハルツを含む溶液中で65℃で20時間行う。ハイブリダイゼーション後、非特異的に吸着したプローブを洗い流し、オートラジオグラフィーなどによりプローブとハイブリッド形成したクローンを同定する。この操作をハイブリッド形成したクローンが単一になるまで繰り返す。こうして得られたクローンの中には目的の断片が挿入され得る。この断片がプラスミドの複製必須領域であることは、例えば、下記実施例3および4の記載または下記実施例5の記載に本質的に基づいて組換えベクターを作製し、大腸菌および乳酸菌に形質転換することにより確認できる。また、ストリンジェント条件における数値範囲の最適化または好適化を図ることは、当業者であれば通常の創作能力発揮の範囲内にある。 本発明のプラスミドの複製必須領域はまた、その機能を変更しない限り(例えば、θ型の複製能力を有する)、配列番号1の1923位から3464位または配列番号1の1923位から3809位の塩基配列から1つ以上の塩基の置換、欠失、または付加を有する塩基配列を有するDNAであってもよい。 本発明のプラスミドの複製必須領域を含むDNAを用いることにより、乳酸菌に対して形質転換が可能な組換え用ベクターを作製することができる。さらに、本発明のプラスミドの複製必須領域を含むDNA断片と、大腸菌などの細菌で自律複製可能なプラスミドの複製必須領域を含むDNA断片とを連結し、乳酸菌と大腸菌との双方で自律複製が可能なシャトルベクターとすることもできる。このシャトルベクターを利用することにより、プラスミドの調製、目的遺伝子を組み込んだ組換えプラスミドの調製などの操作を、大腸菌を用いて行うことができる。 本発明の組換え用ベクターは、本発明のプラスミドの複製必須領域を含むDNA断片を含む。上記DNA断片は、好ましくは、pLC494プラスミドに由来する。本発明の組換え用ベクターの残りの領域には、ベクターの宿主細胞への導入、ならびにベクターが導入された宿主細胞の生存、増殖、および機能に有害な影響を与えない限り、いかなるDNA分子を含んでいてもよい。 本発明の組換え用ベクターは、本発明のプラスミドの複製必須領域を含むDNA断片と、任意のDNA断片とを連結することにより作製される。すなわち、上記DNA断片と、ベクターの宿主細胞への導入ならびにベクターが導入された宿主細胞の生存、増殖、および機能に有害な影響を与えない任意のDNA断片とを連結してプラスミドベクターを作製する。上記DNA断片は、好ましくは、pLC494プラスミドに由来する。pLC494プラスミドに由来するDNA断片を用いて組換え用ベクターを作製する場合、pLC494プラスミドに由来するDNA断片は、少なくとも、配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示される領域(図1に示す制限酵素地図中のBamHIからORF4(repA)の終止コドンの前までの部位に対応)または配列番号1の1923位から3809位の塩基配列で示される領域(図1に示す制限酵素地図中のBamHIからHindIIIまでの部位に対応)を含み、より長いものであってもよい。但し、pLC494プラスミドに由来のDNA断片は、ベクターの宿主細胞への導入または安定な複製を妨げるものであってはならない。 一つの実施形態では、本発明の組換え用ベクターは、細菌由来の複製必須領域をさらに含む。特に大腸菌と乳酸菌とのシャトルベクターを作製するためには、細菌由来の複製必須領域として、大腸菌で自律複製可能である大腸菌由来プラスミドの複製必須領域が好ましい。大腸菌由来プラスミドとしては、制限酵素地図、配列などが公知の、pUC19、pJIR418、pUC18、pBR322、pBR329、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pMW119、pMW118、pMW219、pMW218、pACYC177などが挙げられる。複製必須領域として、複製開始部位とrep遺伝子とを含み、さらにマルチクローニングサイトを含む点で、pUC19、pUC18、pJIR418、pBR322、pACYC177などが好ましい。特に、pUC19およびpJIR418が好ましい。また、pUB110、YEp24、pVA838などの、枯草菌や酵母由来ベクターの複製開始領域などの使用も可能である。 本発明の組換え用ベクターはまた、上記DNA断片と細菌由来の複製必須領域を含むDNA断片とを連結してプラスミドベクターを作製することによって作製され得る。細菌由来の複製必須領域を含むDNA断片は、複製必須領域を含むものであれば、その細菌由来プラスミドの全体であってもよく、あるいは一断片であってもよい。例えば、大腸菌由来プラスミドの複製必須領域を含むDNA断片としては、pUC19由来の複製開始部位を含むDNA断片、pJIR418由来のpMBIを含むDNA断片などが挙げられる。 また、本発明の組換え用ベクターが、選択マーカー遺伝子を含むDNA断片を含む場合、形質転換細胞中での選択マーカー遺伝子の表現型によって、形質転換細胞の検出が容易となる。乳酸菌および大腸菌に使用可能なマーカー遺伝子は、大腸菌で複製可能である大腸菌複製必須領域とともにこれを保有するプラスミドを用いることによっても、本発明の組換え用ベクターに挿入できる。乳酸菌および大腸菌に使用可能なマーカー遺伝子には、薬剤耐性遺伝子(エリスロマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子など)がある。ヒトへの利用を考えた場合、乳酸菌由来のβ−ガラクトシダーゼ、菌体外プロテアーゼなどの酵素を産生する遺伝子などが、食品使用という観点から好ましい選択マーカー遺伝子である。また、食品用ベクターのために、相補マーカー(乳糖代謝またはピリミジン代謝)も好ましく使用できる。 本発明の組換え用ベクターは、例えば、Lb.casei L−49から単離されたプラスミドpLC494を、複製必須領域を含む断片を得るのに適当な制限酵素(例えば、HindIII、BamHI、NheI)で切断し、得られた断片を、大腸菌で複製可能でありかつ大腸菌と乳酸菌で選択可能なマーカー遺伝子を保有するプラスミドに挿入し、大腸菌内で増幅した後、乳酸菌に形質転換することにより製造することができる。 このようにして得られる本発明の組換え用ベクターの例としては、図3に示すJLE4941およびpJLE4942、および図6に示すpJLE12およびpJLE121が挙げられる。 本発明のプラスミドおよび組換え用ベクターは、乳酸菌および大腸菌中で複製できる。特に、Lb.casei、Lb.casei subsp.alactosus、Lb.gasseri、Lb.acidophilusなどの乳酸桿菌のための遺伝子工学ツールとして有用である。当業者が通常用いる方法によりこれらのプラスミドまたは組換え用ベクターのいずれかの位置に外来遺伝子を挿入し、得られるプラスミドまたは組換え用ベクターで宿主微生物を形質転換すれば、その外来遺伝子の遺伝情報を宿主微生物内で発現させることが可能となる。 本発明のプラスミドおよび組換え用ベクターを用いる乳酸菌および大腸菌の形質転換は、当業者が通常用いる方法によって実施できる。例えば、大腸菌の形質転換は、Sambrook,J.,Fritsch,E.F.,Maniatis,T.,1989.Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NYによる記載に基づいて実施できる。乳酸菌の形質転換のためにエレクトロポレーション技術が使用可能であり、このような技術の種々のプロトコルが公知である(Berthier,F.ら,前出;Coffey,A.,Harringtion,A.,Kearney,K.,Daly,C.,Fitzgerald,G.:Microbiology 140,2263−2269(1994);GASSON,M.J.ら,前出;Serror,P.ら,前出)。本発明の組換え用ベクターは、例えば、1.0%グリシンを含有するMRSブロス中で細胞を培養し、得られた細胞を10mM MgCl2緩衝液で洗浄し、そして10%グリセロールエレクトロポレーション溶液中に再懸濁し、次いで1.75kV、200Ω、および25μFの静電容量でエレクトロポレートすることによって、Lb.caseiを好都合に形質転換できる。 以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明はこの実施例に制限されない。 (実施例1:Lb.casei細胞からのプラスミドpLC494の調製) 乳酸菌からのプラスミドDNAの分離は、AndersonおよびMcKay(1983)の方法(Anderson,D.G.,McKay,L.L.:Appl.Environ.Microbiol.46,549−552(1983))にいくらかの変更を加えて実施した。より詳細には、以下のとおりである。 ヒト腸管由来Lb.casei L−49細胞(本菌株は、乳幼児の糞便より単離した菌株である。岡山大学より入手)を、プラスミド抽出のために使用した。遠心分離によって細胞を採取し、次いで1mlのTES緩衝液(50mM Tris−HCl、1mM EDTA、6.7%スクロース、pH8.0)で洗浄した。細胞を380μlのTES緩衝液中に懸濁し、そして37℃で5分間インキュベートした。次に、100μlのリゾチーム(Sigma)溶液(1mlの25mM Tris−HCl緩衝液中に50μgリゾチームを溶解;pH8.0)を添加し、そしてこの懸濁液を37℃で20分間インキュベートした。懸濁液を50μlのTE緩衝液(10mM Tris−HCl、1mM EDTA、pH8.0)および30μlの20%SDS溶液(20mM EDTAを含有する50mM Tris−HCl中に溶解、pH8.0)と混合し、37℃で10分間インキュベートし、30秒間ボルテックスにかけ、そして28μlの3N NaOHと混合した後、氷上で10分間冷却した。次に、50μlの2M Tris−HCl緩衝液(pH7.0)を添加し、そしてこの懸濁液を室温で60分間維持した。さらに70μlの5M NaClを添加し、そしてこの懸濁液を氷上で20分間維持した。次いで、遠心分離(14,000rpmで15分間)して変性したDNAを取り出した。続いて、700μlの3% NaCl飽和フェノールで溶解物を抽出した。遠心分離(14,000rpmで10分間)後、水相を新たな管に移し、DNAを500μlのクロロホルム−イソアミルアルコール(24:1,v/v)で抽出した。プラスミドDNAを、500μlのイソプロパノールを−80℃で20分間添加し、その後14,000rpmで20分間遠心分離することにより、最終的に沈殿させた。次いで、このプラスミドDNAを乾燥し、そして20μlのTE緩衝液(20μg/ml RNaseを含有)中に再懸濁した。 (実施例2:プラスミドpLC494のヌクレオチド配列決定および分析) プラスミドpLC494の全ヌクレオチド配列を、重複するサブクローンの配列決定によって決定した。実施例1にてLb.casei L−49細胞から抽出された5つのプラスミドのうち、pLC494を、Gel and PCR Clean−Upシステム(Promega Co.,Madison,USA)を用いて溶出した。精製されたpLC494を制限酵素SacIによって消化し、2191bpおよび6655bpの2つの断片を得た。さらに、この6655bpの断片をSphIによって処理し、4つの断片を得た。プラスミドpLC494および上記制限酵素消化により得た全部で5つの制限断片を、0.8%アガロースゲル(Cambrex Bio Science Rockland,Inc.,USA)中で電気泳動し、その後臭化エチジウムで染色した。得られた5つの断片のそれぞれを、同じ制限酵素で処理したpUC19を用いて大腸菌DH5α細胞中にクローニングした。ここで、大腸菌細胞由来のプラスミドは、アルカリ溶解法(Sambrookら(前出))によって単離した。製造者の指示書に従って制限酵素および修飾酵素を使用した。一般的なクローニングの手順は、Sambrookら(前出)による記載のとおりに実施した。これらの組換えプラスミドをそれぞれ、pLC4941(SacIを用いて得られた2191bp断片)、pLC4942(SacIとSphIとを用いて得られた1677bp断片)、pLC4943(SphIを用いて得られた1418bp断片)、pLC4944(SphIを用いて得られた2749bp断片)、およびpLC4945(SphIとSacIとを用いて得られた811bp)と命名した。これらの5つの組換えプラスミドを鋳型として用いて配列分析を実施した。ユニバーサルプライマーM13−M4(GTTTTCCCAGTCACGAC:配列番号3)およびM13−RV(GGAAACAGCTATGACCATG:配列番号4)を用いて、PCRを行った。ABI Prism BigDye terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kitを備えたABI Prism 3100 Genetic Analyzer(Applied Biosystems)を、製造者の推奨書に従って用いて、DNA配列決定を行った。オープンリーディングフレームの分析を、Fram Plot program(Ishikawa,J.,Hotta,K.:FEMS Microbiol.Lett.174,2251−2253(1999))(http://www.nih.go.jp/ ̄jun/cgi−bn/frameplot.pl)を用いることにより実施した。GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.Nov)の現行版を用いる配列類似性検索を、BLASTP(Altschul,S.F.,Thomas,L.M.,Alejandro,A.S.,Jinghui,Z.,Zheng,Z.,Webb,M.,David,J.L.:Nucleic Acids Res.25,3389−3402(1997))プログラムを用いて実行した。 プラスミドpLC494の全DNA配列を分析し、そのプラスミドの長さを測定したところ8846bpであった(配列番号1の1位〜8846位)。このプラスミドは、G+C含量が41.5%であり、9つの推定オープンリーディングフレーム(ORF)を含有する(図1)。 ORF4(配列番号1の2619位〜3464位)の翻訳蛋白質のアミノ酸配列(配列番号2)は、Lb.acidophilus TK8912由来プラスミドpLA103(13,913bp)の複製蛋白質RepA(Kanatani,K,ら,前出)に対して100%の同一性を示した。ORF4の翻訳蛋白質のアミノ酸配列は、Lb.sakei由来プラスミドpRV500(47%)、Tetragenococcus halophilus由来pUCL287(45%)、およびLb.plantarum由来pMD5057(46%)の複製蛋白質に対してもまた有意な相同性を有した。ORF5(配列番号1の3656位〜4162位)の翻訳蛋白質のアミノ酸配列は、Lb.acidophilus TK8912由来プラスミドpLA103の複製蛋白質repBに対して99%の類似性を示し、そしてLb.plantarum由来pMD5057の複製蛋白質repBに対しては26%の類似性を示した。さらに、潜在リボソーム結合部位(RBS)(GGAGG)(配列番号1の2608位〜2612位)、推定プロモーター((−35領域)TTAACG(配列番号1の2557位〜2562位);(−10領域)TATAAT(配列番号1の2581位〜2586位))、および反復配列領域(3つの完全な22bpの反復領域と1つの不完全なモチーフとで構成される;推定複製起点)(配列番号1の2458位〜2545位)が、ORF4のATG開始コドンの上流において見られた(図2)。この配置は、pLA103の配置と同一である。 Benachour,A.,Frere,J.,Novel,G.:FEMS Microbiol.Lett.128,167−175(1995)では、2種のrep遺伝子と22bp反復配列(複製起点)とで構成される領域を含有するプラスミドpUCL287が、乳酸菌の新規なθ型レプリコンファミリーであると同定されている。θ型レプリコンは、以下の3つの重要な成分に対するそれらの依存性に従って分類することができる。これらの3つの重要な成分とは、プラスミドにコードされた複製開始因子Rep蛋白質(鎖の開放および/または開始複合体の他の成分との相互作用に必要)、特定のDNA構造編成を伴う複製起点(一般に「ori」と呼ばれる)(鎖の開放および開始因子と蛋白質との結合のため)、および宿主にコードされたDNAポリメラーゼI(新生鎖DNA合成のため)である(ALPERT,C.A.ら,前出)。ALPERT,C.A.ら(前出)は、pLA103、pRV500、およびpMD5057のプラスミドがpUCL287ファミリーに属することを報告している。上述の配列分析により、プラスミドpLC494において見られる、2種のrep遺伝子と22bp反復配列とで構成される領域は、pLA103の対応する領域と同様であることが分かった。従って、プラスミドpLC494は、θ型プラスミドに属することが示唆される。 (実施例3:大腸菌および乳酸菌用シャトルベクターpJLE4942の作製) 大腸菌/乳酸菌シャトルベクターの構築のために、プラスミドpLC494の複製起点を使用した。大腸菌由来プラスミドpJIR418(Sloan,J.,Warner,T.A.,Scott,P.T.,Bannam,T.L.,Berryman,D.I.,Rood,J.I.:Plasmid 27,207−211(1992))をAvaIで消化して、グラム陽性クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm(R))を含有する4.9kb断片を得た。この4.9kb断片を、AvaIで消化した大腸菌由来プラスミドpUC19(Bringel,F.,Frey,L.,Hubert,J.C.:Plasmid 22,193−202(1989))に連結して、プラスミドpJIRUC1を得た。BamHIとNheIとで二重消化したpJIRUC1の断片(4116bp)をクレノウ断片(TaKaRa)で処理し、次いで自己連結して、プラスミドpJIRUC11を得た。一方、pLC494をHindIIIで消化して2168bpの断片を得、同じ制限酵素で処理したpUC19にこの断片を連結して、プラスミドpLU1を生成した。プラスミドpLU1は、pLC494の反復領域およびrepA遺伝子を含む。HindIIIとBamHIとで二重消化したpJIRUC11に、同じ制限酵素で処理したpLU1の1887bpの断片を連結して、大腸菌DH5α細胞に形質転換した。この構築されたプラスミドをpJLE4941と命名した。構築されたプラスミドpJLE4941は、大腸菌にもLb.caseiL−49−4(プラスミドなし)にも首尾よく導入された。そして、pJLE4941をBamHIとHpaIとで二重消化し、次いで自己連結して、pJLE4942を得た。したがって、pJLE4941およびpJLE4942は、pUC19由来のアンピシリン耐性遺伝子(Amp(R))および複製開始部位(ori);pJIR418由来のグラ厶陽性クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm(R));およびpLC494由来の反復領域およびrepA遺伝子を有する(図3)。 (実施例4:シャトルベクターpJLE4942を用いた大腸菌および乳酸菌の形質転換) 実施例3にて作製したシャトルベクターpJLE4942を用いて、Lb.casei L−49−4(Lb.casei L−49細胞からプラスミドを除去したもの)、Lb.casei subsp.alactosus 34143、Lb.acidophilus NIAI L−54、Lb.delbrueckii subsp.bulgaricus 7235、Lb.gasseri JCM 1130、Leuconostoc mesenteroides(以下「Leuc.Mesenteroides」という)subsp.mesenteroides OR−1−2、Enterococcus spp.,およびLactococcus lactis(以下「Lc.Lactis」という)NIAI N−7(これらはいずれもプラスミドが除去されたものである)、ならびに大腸菌DH5α細胞の形質転換を行った。上述した乳酸菌の形質転換は、種々のプロトコル(Berthier,F.ら,前出;Coffey,A.ら,前出;GASSON,M.J.ら,前出;Serror,P.ら,前出)に従って、エレクトロポレーションによって行った。大腸菌の形質転換は、前出のSambrookらの文献による記載のとおりに実施した。連結したDNAとコンピテント大腸菌細胞とを混合し、これらを氷上で30秒間維持した。形質転換する細胞試料を0.1cmキュベット(Bio−Rad,UK)に移し、そしてジーンパルサ(ピーク電圧1.5kV;静電容量25μF;抵抗200Ω;Bio−Rad)で形質転換した。次いで、形質転換した大腸菌細胞を、100μg/mlアンピシリン(Sigma Chemical,St.Louis,MO,USA)を含有するLB寒天培地(ナカライテスク株式会社)上に播種し、そして振盪させながら37℃で30分間インキュベートし、生存細胞を選抜した。形質転換した乳酸菌細胞は、10μg/mlクロラムフェニコール(Sigma)を含有するMRS培地(Oxoid,Basingstoke,England)上に播種し、振盪せずに37℃で30分間インキュベートし、生存細胞を選抜した。 ベクターpJLE4942は、大腸菌DH5α細胞に形質転換されるとともに、Lb.casei L−49−4(1.3×105(1μgDNA当たりの形質転換体数))、Lb.casei subsp.alactosus 34143(2.4×102)、Lb.gasseri JCM 1130(<101)、およびLb.acidophilus NIAI L−54(4.9×103)に導入された。また、図4は、pJLE4942で形質転換された大腸菌および種々の乳酸桿菌から抽出したプラスミドDNAの電気泳動写真である。形質転換された大腸菌および種々の乳酸桿菌からのプラスミドDNAの抽出は、実施例1と同様にして行った。図4は、ベクターpJLE4942が大腸菌細胞および種々の乳酸桿菌に導入されたことを示す(レーン1:大腸菌DH5α細胞;レーン2:Lb.casei L−49−4;レーン3:Lb.casei subsp.alactosus 34143;レーン4:Lb.acidophilus NIAI L−54;レーンMは分子量マーカーである)。一方、pJLE4942の形質転換体は、Lb.delbrueckii subsp.bulgaricus 7235、Leuc.mesenteroides subsp.mesenteroides OR−1−2、Enterococcus spp.、およびLc.lactis NIAI N−7からは得られなかった。 さらに、pJLE4942を上記と同様にして大腸菌DH5α細胞およびLb.caseiL−49−4細胞に導入し、次いでこの導入されたプラスミドを大腸菌DH5α細胞およびLb.casei L−49−4細胞の形質転換体から実施例1と同様にして抽出した。抽出したプラスミドをHindIII;EcoRVおよびBglII;またはEcoRIで消化した。これらの制限酵素の消化により得られた断片をアガロースゲル電気泳動に供し、分析した。図5に、制限酵素の消化により得られた断片のアガロースゲル電気泳動の結果を示す(レーン1〜3は大腸菌DH5α細胞、レーン4〜6はLb.casei L−49−4細胞の結果を示す:レーン1および4はHindIII処理;レーン2および5はEcoRVおよびBglII処理;レーン3および6はEcoRI処理;両端の2つのレーンMは1kbラダーである)。図5に示すように、制限酵素分析の結果は、プラスミドがいかなる構成再配置も示さなかったことを明らかにした。 (実施例5:大腸菌および乳酸菌用シャトルベクターpJLE121の作製およびこれらのシャトルベクターを用いた大腸菌および乳酸菌の形質転換) pJIR418をNdeIで消化して、pIP404 OriおよびpIP404 Repを除去した。次いで、これを自己連結して、5533bpのプラスミドpJIR1を得た。次に、BamHIとNheIとで二重消化したpLC494の断片(2466bp;ori,repAおよびrepBを含有する)を、同じ酵素で処理したpJIR1を用いて大腸菌にクローニングした。この構築したベクターをpJLE12(6297bp)と称した。最後に、EcoRVで消化したpJLE12の自己連結断片(4691bp)を用いてpJLE121を構築した(図6)。pJLE12およびpJLE121は、pJIR418由来の複製開始部位(pMBI)およびエリスロマイシン耐性遺伝子(グラム陽性菌および陰性菌の両方に対する選択マーカー)と、pLC494由来のori(22bp反復領域)およびrepAとを有する。 シャトルベクターpJLE12またはpJLE121を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、大腸菌DH5α細胞およびLb.casei L−49−4の形質転換を行った。Lb.casei L−49−4の形質転換は、Berthier,F.ら(前出)の記載に従い、大腸菌DH5α細胞の形質転換は、前出のSambrookらの文献による記載のとおりに実施した。電気形質転換後、大腸菌DH5α細胞を最終濃度100μg/mlのアンピシリン(Sigma Chemical,USA)を含有するLB(ナカライ)寒天プレート上播種し、振盪させながら37℃で30分間インキュベートし、生存細胞を選抜した。そしてLb.casei L−49−4細胞を最終濃度16μg/mlのエリスロマイシン(Sigma)を含有するMRS寒天プレート上に播種し、振盪させずに37℃で30分間インキュベートし、生存細胞を選抜した。シャトルベクターpJLE12およびpJLE121は、大腸菌DH5α細胞およびLb.casei L−49−4に首尾よく導入された。 (実施例6:シャトルベクターpJLE121によるLb.casei L−49−4のエレクトロポレーション) シャトルベクターpJLE121によるLb.casei L−49−4の形質転換効率を最適化するために、種々のパラメーターの影響を検討した。 Chassy,B.M.ら(前出)に記載の方法およびBerthier,F.ら(前出)に記載の方法を用いたLb.casei L−49−4の形質転換効率は、他の方法(Serror,P.ら,前出、Bhowmik,T.ら,前出)の形質転換効率よりも高かった(データは示さず)。従って、Chassy,B.M.ら(前出)に記載の方法およびBerthier,F.ら(前出)に記載の方法に基づいて、パラメーターを種々に変更し、形質転換効率に対するその影響を検討した。 (1.洗浄溶液およびエレクトロポレーション/保存溶液の組成の影響) 試験した洗浄溶液およびエレクトロポレーション/保存溶液の組成を以下の表1に示す。 種々の溶液で洗浄したLb.casei L−49−4細胞をpJLE121と混合し、そして標準条件(ピーク電圧8.75kV/cm;静電容量25μF;抵抗200Ω)下でエレクトロポレートした。電気形質転換をChassy,B.M.ら(前出)に記載の方法に従って実施した場合、細胞を10mM MgCl2溶液で洗浄して10%グリセロールエレクトロポレーション溶液中に再懸濁した場合に最も高く、1μgのDNA当たり2.7×103の形質転換体が形成された。電気形質転換をBerthier,F.ら(前出)に記載の方法に従って実施した場合、細胞を10mM MgCl2溶液で洗浄して10%グリセロールエレクトロポレーション溶液中に再懸濁した場合に、最も高い形質転換効率を得た(1μgのDNA当たり1.7×104の形質転換体;表1)。従って、以下の実験は、これらの溶液を用いて行った。 (2.増殖段階の影響) Lb.casei L−49−4の形質転換効率に対する増殖段階の影響を調べるために、エレクトロポレーションを行う前に、種々のOD600値(0.25、0.45、0.7、0.9、1.26、および1.56)で細胞を採取した。細胞を洗浄し、そして10%グリセロール中で約15〜16のOD600に等価な最終濃度になるように調整した。懸濁した細胞をpJLE121と混合し、そして標準条件下でエレクトロポレートした。72時間インキュベートした後、最も高い形質転換効率(1μgのDNA当たり1.7×104の形質転換体)は、初期の対数増殖期で得られた(OD600=0.25)。この結果は、増殖段階が形質転換効率に対して有意に影響を与えることを示した。 (3.増殖培地組成の影響) 細胞壁に対するグリシンの影響を調べた。グリシンに関しては、以下の知見がある。グリシンの濃度は、Lb.sakei(Berthier,F.ら,前出)の形質転換になんら効果を有さず、一方、Lb.delbrueckii(Serror,P.ら,前出)の形質転換を有意に改善しなかった。対照的に、Lb.helveticus subsp.jugurti(HASHIBA,H.,TAKIGUCHI,R.,ISKII,S.,AOYAMA,K.:Agric.Biol.Chem.54 1537−1541(1990))およびLactobacillus plantarum(AUKRUST,T.,NES,I.F.:FEMS Microbiol.Lett.52 127−132(1988))はそれぞれ、1.2%のグリシンおよび1.0%のグリシンによって形質転換効率が顕著に改善された。 Lb.casei L−49−4細胞を、0.2〜3.0%(w/v)グリシンを添加したMRSブロス中で、および対照実験として何も添加していないMRSブロス中で、OD600が約0.2〜0.3になるまで増殖させた。細胞を採取し、そして10mM MgCl2溶液で洗浄して10%グリセロールエレクトロポレーション溶液中に再懸濁して、次いで標準条件下でエレクトロポレートした。1.0%グリシンをMRSブロスに添加した場合、対照実験および試験した他の濃度に比べて、最も高い形質転換効率が生じた(1μgのDNA当たり1.2×105の形質転換体)。従って、続く実験では、1.0%グリシンを添加したMRSブロスを用いた。 (4.電気的パラメーターの影響) 形質転換効率に対する電気的パラメーターの影響を決定するために、25μFの固定静電容量で、種々の電圧(1.25、1.5、1.75、2.0、2.25、および2.5kV)およびパルスコントロール抵抗(200、400、および600Ω)で、細胞をエレクトロポレートした。エレクトロポレーションのためのコンピテント細胞を、上記の至適条件に従って調製した。DNAとコンピテント細胞とを混合し、そしてこれらの試料を0.2cmキュベット(Bio−Rad)に添加し、ジーンパルサで形質転換した。細胞を2.5μFの静電容量で1.75kVかつ200Ωに供した場合に、最も高い形質転換効率(1μgのDNA当たり1.5×105の形質転換体)が得られた(図7)。 以上のように、pJLE121を用いるLb.casei L−49−4の最適な形質転換効率は、1.0%グリシンを含有するMRSブロス中で培養した細胞(OD600=0.25)を、10mM MgCl2緩衝液で洗浄し、そして10%グリセロールエレクトロポレーション溶液中に再懸濁し、次いで1.75kV、200Ω、および25μFの静電容量でエレクトロポレートした場合に得られた。 (実施例7:pLC494の複製必須領域の解析) 実施例5において得られたpJLE121ベクターを制限酵素BamHIおよびBglIIで切断し、自己連結して、図6に示すBamHIからBglIIの部分が欠失したベクターΔ(BamHI−BglII)pJLE121を作製した。欠失体ベクターΔ(BamHI−BglII)pJLE121および対照の欠失させていないベクターpJLE121を用いて、実施例5と同様の方法でLb.casei L−49−4細胞へ形質転換し、最終濃度16μg/mlのエリスロマイシン(Sigma)を含有するMRS寒天プレート上に播種し、振盪させずに37℃で30分間インキュベートし、生存細胞を選抜した。この結果、pJLE121によってLb.casei L−49−4細胞の1×103の形質転換効率が得られたのに対し、BamHIからBglIIの部分が欠失したベクターΔ(BamHI−BglII)pJLE121ではうまく形質転換できなかった。以上から、BamHIからBglIIの部分(配列番号1の1923位から2414位の塩基配列に対応)は、pLC494の複製に必要な領域であることが判明した。 本発明により、広宿主域を有する、乳酸菌の形質転換のためのプラスミドおよびベクターが提供された。本発明のプラスミドおよびベクターはまた、乳酸桿菌において、安定に複製可能である。本発明によって、Lb.caseiおよび他の乳酸菌(特に、乳酸桿菌)を遺伝子操作で改良し産業的に応用する可能性が一段と拡がった。また、本発明のプラスミドおよびベクターは、GRAS生物であり、プロバイオティクスとして商業的に使用されているLb.caseiに由来するので、食品および医薬品の開発のために有用となる。[配列表] 配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域または該塩基配列に相補的な配列を有するDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつθ型の複製能を保持するDNA領域、大腸菌由来の複製必須領域、およびエリスロマイシン耐性遺伝子を含む、組換え用ベクター。 配列番号1の1923位から3464位の塩基配列で示されるDNA領域、大腸菌由来の複製必須領域、および選択マーカー遺伝子を含み、以下に示す制限酵素地図:を有する、組換え用プラスミドベクターpJLE121。 請求項1または2に記載の組換え用ベクターを含む形質転換細胞。 前記形質転換細胞が乳酸菌である、請求項3に記載の形質転換細胞。 前記乳酸菌が、Lactobacillus casei、Lactobacillus casei subsp. alactosus、Lactobacillus gasseri、およびLactobacillus acidophilusからなる群から選択される乳酸桿菌である、請求項4に記載の形質転換細胞。 前記乳酸菌がLactobacillus caseiである、請求項4に記載の形質転換細胞。 前記形質転換細胞が大腸菌である、請求項3に記載の形質転換細胞。 乳酸菌を形質転換する方法であって、請求項1または2に記載の組換え用ベクターを乳酸菌に導入する工程を含む、方法。 前記乳酸菌が、Lactobacillus casei、Lactobacillus casei subsp. alactosus、Lactobacillus gasseri、およびLactobacillus acidophilusからなる群から選択される乳酸桿菌である、請求項8に記載の方法。 前記乳酸菌がLactobacillus caseiである、請求項8に記載の方法。 前記導入がエレクトロポレーションによって行われる、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。