タイトル: | 特許公報(B2)_薬剤の標的蛋白質を同定する方法及び標的蛋白質を用いた糖尿病治療薬のスクリーニング方法 |
出願番号: | 2007530962 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | G01N 33/50,G01N 33/15,G01N 33/53,A61K 45/00,A61P 3/10,C12Q 1/02,C12N 15/09 |
遠藤 英樹 横田 博之 早川 昌彦 曽我 真司 JP 4992716 特許公報(B2) 20120518 2007530962 20060809 薬剤の標的蛋白質を同定する方法及び標的蛋白質を用いた糖尿病治療薬のスクリーニング方法 アステラス製薬株式会社 000006677 森田 拓 100098501 矢野 恵美子 100109357 鈴木 ▲頼▼子 100117846 濱井 康丞 100137464 遠藤 英樹 横田 博之 早川 昌彦 曽我 真司 JP 2005234673 20050812 JP 2005279582 20050927 20120808 G01N 33/50 20060101AFI20120719BHJP G01N 33/15 20060101ALI20120719BHJP G01N 33/53 20060101ALI20120719BHJP A61K 45/00 20060101ALI20120719BHJP A61P 3/10 20060101ALI20120719BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20120719BHJP C12N 15/09 20060101ALN20120719BHJP JPG01N33/50 ZG01N33/15 ZG01N33/53 DA61K45/00A61P3/10C12Q1/02C12N15/00 A 国際公開第03/020963(WO,A2) HOJLUND KURT et.al,Proteome Analysis Reveals Phosphorylation of ATP Synthase β-Subunit in Human Skeletal Muscle and Proteins with Potential Roles in Type 2 Diabetes ,Journal of Biological Chemistry,2003年 3月,Vol.278,No.12,Page.10436-10442 4 JP2006315745 20060809 WO2007020853 20070222 49 20090721 草川 貴史 本発明は、蛋白質の立体構造の変化を認識して該蛋白質に結合する性質を有する分子シャペロン蛋白質を利用して、薬理作用を有する化合物が標的蛋白質と結合することによる該標的蛋白質の立体構造の変化を検出することによる、薬理作用を有する化合物の標的蛋白質の同定方法に関する。また、本発明は、本発明の同定方法により見出された標的蛋白質を用いた糖尿病治療薬のスクリーニング方法に関する。薬剤として使用されている低分子化合物には、薬理作用が明確でありながらその作用機序が不明な分子が多数存在する。一般に薬剤の多くは生体内で特定の蛋白質に作用して該蛋白質の機能を変化させ、結果として薬理作用を惹起する。作用機序が不明な薬剤では、その標的となる蛋白質が同定されていない。近年、分子レベルで生体内のシグナル伝達系の解明が進んだ結果、特定の薬理作用を引き出すために必要な特定の蛋白質分子が数多く同定された。その結果、今日ではそれら特定の蛋白質分子を標的とした分子標的薬と呼ばれる薬剤の開発が進み、その割合は急速に増加している。標的となる蛋白質が明らかな化合物は生体への作用機序が明確であり、また該蛋白質との結合の強度、あるいは該蛋白質が有する酵素活性の変化を指標として化合物の構造を改変できる。このため吸収や分解を含む体内動態、さらには薬理活性の向上を目的とする改良研究が容易であり、薬剤を開発する上で非常に有利である。反対に標的蛋白質が不明な化合物は、たとえ明確な薬理作用が見出されている場合でも、当該活性を向上させる目的で化合物構造の改良を図ることが容易ではない(非特許文献1参照)。また、薬剤は程度の違いはあるが、一般に望ましい薬理作用(主作用)の他に望ましくない薬理作用(副作用)を併せ持っている。既に上市され、主作用を担う標的蛋白質が明らかである分子標的薬の中にも、副作用に関わる標的蛋白質についての情報は乏しい例が多く、これが副作用の回避、改善のための研究に時間、コストを要する原因となっている(非特許文献1参照)。有意な薬理作用が知られながら標的蛋白質が明確でない薬剤は現実に多数存在している。代表的な例として、糖尿病の治療薬として古くから利用されているビグアナイド剤(非特許文献2参照)や、多発性骨髄腫の劇的な治療効果からその存在が見直されているサリドマイドを挙げることができる(非特許文献3参照)。ビグアナイドは有意な血糖降下作用を、サリドマイドは有意な血管新生阻害作用を有しているにもかかわらず、これらの薬剤はいずれも生体内における直接の標的蛋白質が同定されていない。そのため、これらの薬剤は有用な薬理作用を有していながら、その効果を高める改良研究が困難であった。加えて、ビグアナイドには乳酸アシドーシス(非特許文献4参照)、サリドマイドには催奇形性(非特許文献3参照)といった重篤な副作用が知られているが、これらを回避するための研究も標的が不明なため進展していない。従って、これら薬剤の標的蛋白質の同定が望まれていた。従来、低分子化合物が作用する標的蛋白質を同定する手段としては、該化合物と直接結合する蛋白質を物理的及び/又は化学的な手段で検出し分離する方法が一般的であった。例えば、化合物構造の一部分を改変して高分子量のアフィニティービーズと結合させることにより、重力など物理的な力によって化合物と結合した標的蛋白質を分離・精製する方法が知られている。また、化合物構造の一部分に標識となるタグをつけることで該化合物と結合した標的蛋白質を化学的に検出することも行われている(非特許文献5参照)。近年では酵母ツーハイブリッド法(非特許文献6参照)やファージディスプレイ法(非特許文献7参照)などの分子生物学的な手法を応用して、目的の化合物と結合する蛋白質をコードする遺伝子断片をcDNAライブラリー中からスクリーニングし、同定する試みも行われている。しかしながら、上述した様々な手法による試みにもかかわらず、これまでに進められた該分野の研究から実際に薬剤の標的蛋白質が同定された例は多くはない。成功する確率が低い原因として、上述の方法においては、いずれの場合もプローブとする化合物にビーズやタグを結合させるために、化合物の一部構造を改変する必要があることから、本来の化合物とは異なる人工的な構造体に対して、結合する蛋白質を探索せざるを得ない点が挙げられる(非特許文献1および5参照)。これは即ち、タグやビーズ、あるいはそれらと化合物の複合体といった、本来の薬理活性を持つ薬剤とは異なる人工物へ結合する非特異的な蛋白質を標的蛋白質と誤って同定する原因となる。また、化合物構造の改変は、該化合物の薬理作用に影響しない部位に施されることが真の標的蛋白質を見出すために必須であるが、標的不明の薬剤や化合物は概して構造とその薬理活性の相関についての情報が乏しく、任意の部位で修飾した化合物を利用せざるを得ない例が多い。このため、本来の薬理活性を失った化合物をプローブとして選択する確率も高い。本来は修飾によりタグやビーズを付加された該化合物がもとの薬理活性を維持している事実を確認した後にそれらをプローブとして用いることが好ましいが、細胞膜透過性や安定性など様々なパラメーターが影響するため薬理活性の有無の判断は容易ではない。また、化合物構造の修飾は時間と費用、特殊な技術を要することから、上述の方法が汎用的な研究手法になりにくい原因となっている。一方、化合物の分子内の元素をラジオアイソトープに置換することにより標識した化合物(構造は標識前と同じ)を用いて特定の蛋白質との結合を確認することは可能であったが、固定可能な修飾ではない為、多数の蛋白質の中から標的蛋白質を探索することは容易ではなかった。また、この方法では、標識により化合物が不安定になったり、コストがかかるといった難点もあった。従来法による化合物標的探索の成功確率が低い別の原因として、上述の方法ではいずれも化合物と蛋白質の直接の結合を指標として標的の検出・分離を行うために、化合物と標的蛋白質の結合親和性が高くなければ標的発見が困難である点が挙げられる。実際に上述の方法で標的を見出した数少ない成功例は、いずれも化合物と蛋白の結合親和性の高いものである(非特許文献4参照)。しかしながらこれまでの知見から化合物の薬理活性の高さと標的蛋白質との結合親和性は必ずしも相関しない。むしろ不可逆な阻害を除いては薬理作用の惹起に化合物が標的蛋白質と強固に結合する必要はないとも考えられている(非特許文献8参照)。以上の問題点から、従来の手法では見出すことができなかった薬剤の標的蛋白質を同定する方法が望まれていた。分子シャペロンは蛋白質分子の折りたたみ(folding)や変性(unfolding)、多量体形成等の蛋白質の構造形成を介助する一群の蛋白質である(非特許文献9参照)。今日では熱刺激によって発現量が亢進することが知られている熱ショック蛋白質(heat shock protein)と総称される分子の多くがシャペロンとして働くことが知られている。分子シャペロンの中でも、Hsp60ファミリーと総称される分子群は、典型的な分子シャペロンとして特に「シャペロニン」と呼ばれている。熱ショック蛋白質に代表されるこれら分子シャペロンは、翻訳過程で立体構造が完成していない不安定な蛋白質と相互作用してそれらを安定に保つ他に、環境変化に伴って細胞内の蛋白質の機能に影響が生じないように,蛋白質の構造を維持・管理し、異常な状態になった基質に対してはユビキチン化されて分解されるのを促進する作用を持つ(非特許文献10参照)。このようにシャペロンは基質となる蛋白質分子の非天然構造を認識する機能分子としての性質を有している。一方、リガンド候補存在下又は非存在下での標的蛋白質の重畳状態(folded state)及び展開状態(unfolded state)の程度を決定することに分子シャペロンを用いた、既知の標的蛋白質のリガンドを同定するためのスクリーニング方法が報告されている(特許文献1〜6参照)。インスリンは膵臓ランゲルハンス島のβ細胞より分泌され、主に筋肉、肝臓、脂肪に作用して血中の糖を細胞に取り込ませて貯蔵、消費させることにより血糖値を降下させる。糖尿病は、このインスリンの作用不足から引き起こされるが、患者にはインスリンの生産又は分泌に障害をもつ1型と、インスリンによる糖代謝促進が起こりにくくなる2型の2つのタイプが存在する。いずれの患者でも血糖値が健常人より高くなるが、1型では血中インスリンが絶対的に不足するのに対して、2型ではインスリンの存在にもかかわらず血糖の細胞における取り込み又は消費が促進されないインスリン抵抗性が生じている。2型糖尿病は遺伝的素因に加えて過食や運動不足、ストレスなどが原因となり惹起されるいわゆる生活習慣病である。今日先進諸国では摂取カロリーの増大に伴いこの2型糖尿病患者が急激に増加しており、日本では糖尿病患者の95%を占めている。そのため糖尿病の治療薬には単純な血糖降下剤のみでなく、インスリン抵抗性の改善により糖代謝を促進する2型糖尿病の治療の必要性が増大している。現在1型糖尿病患者の治療にはインスリン注射製剤が処方されている。一方、2型糖尿病患者に処方される血糖降下剤としては、インスリン注射製剤に加えて膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を促すスルホニル尿素系血糖降下剤(SU剤)や、糖質の消化吸収を遅らせるα−グルコシダーゼ阻害剤が知られている。これらは間接的にインスリン抵抗性を改善するが、近年より直接的にインスリン抵抗性を改善する薬剤としてチアゾリジン誘導体が使われるようになった。その作用は細胞内への糖の取り込みと細胞内における糖利用の促進である。このチアゾリジン誘導体はペルオキシソーム増殖剤応答性受容体ガンマ(peroxisome proliferator activated receptor:PPARγ)のアゴニストとして作用することが示されている(非特許文献11参照)。しかしチアゾリジン誘導体はインスリン抵抗性を改善するのみでなく、脂肪蓄積や、浮腫を惹起する副作用が知られている(非特許文献12参照)。この浮腫の惹起は心肥大をもたらす重篤な副作用であることから、インスリン抵抗性改善のために、PPARγにかわるより有用な創薬標的分子が求められている。これらの他に糖代謝改善作用をもたらす有力な薬剤として、古くから用いられているビグアナイド系血糖降下剤(非特許文献13参照)が知られている。ビグアナイド剤は嫌気的解糖作用による糖利用の増大や糖新生の抑制、食欲の抑制、及び糖の腸管吸収を抑制する作用を持つことが報告されており、それらの結果、ビグアナイドは肝臓、筋肉におけるインスリン感受性を向上させる。ビグアナイドはすい臓には働きかけず、インスリンの分泌は増やさないことから、肥満を招かず低血糖も起こしにくいという特徴がある。ビグアナイドの作用は前述のチアゾリジン誘導体やインスリン製剤が有する好ましくない作用を含まないものであり、実際に前述の他の血糖降下剤と併用されて処方される例が多い。近年その有力な薬理作用が見直されたこともあり、ビグアナイド剤は現在インスリン抵抗性改善薬としてチアゾリジン誘導体に次ぐ地位にある。だが一方で、ビグアナイド剤には乳酸の蓄積を増大させ乳酸アシドーシス(非特許文献14参照)を引き起こす副作用が知られている。ビグアナイド剤は薬としての歴史が非常に古いにもかかわらず、チアゾリジン誘導体のPPARγにあたるような明確な標的蛋白質が未だに同定されていない。このためにビグアナイド剤は標的蛋白質との構造活性相関情報が得られておらず、今日まで乳酸アシドーシスの改善といった副作用との乖離研究だけでなく、血糖降下という主作用の増大を目指した改良研究も困難であった。ATP5B蛋白質はゲノム上にコードされ、ミトコンドリアに輸送されて働くF1F0−ATP合成酵素のβサブユニットである(非特許文献15及び16参照)。またATP5Bの存在量は、2型糖尿病患者の筋肉においては健常人のそれと比較して遺伝子発現量、蛋白量ともに低下することが報告されている(非特許文献17及び18、特許文献7参照)。また、糖尿病患者の筋肉におけるATP5Bのリン酸化レベルと空腹時血糖値は逆相関すること(非特許文献18及び特許文献7参照)、ATP5Bの発現を制御するもの、ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ポリペプチドに結合する化合物(例えば核酸フラグメント)等が糖尿病関連疾患治療薬になるとの報告がされている(特許文献7参照)。ATP5Bを含むヒト心臓ミトコンドリアプロテオームに含まれる種々のポリペプチド(3025個)を開示し、これらはミトコンドリア機能に関する疾患(糖尿病を含む)治療薬のスクリーニングに関すると記載した報告がある(特許文献8)。しかしながら、ATP5B蛋白質とビグアナイドが結合するという報告はなかった。米国特許第5585277号明細書米国特許第5679582号明細書米国特許出願公開第2002/055123号明細書米国特許出願公開第2004/191835号明細書特許第2952848号欧州特許第0770876号明細書国際公開第03/020963号パンフレット国際公開第03/087768号パンフレット「ザ ジャーナル オブ アンティバイオティクス(The Journal of Antibiotics)」H Hatoriら, 2004年 第57巻7号p.456−461.「日本臨床」Y.Yamacakiら2002年、第60巻9号 p.389−92「ドラッグ・ディスカバリー・トウデイ(Drug Discovery Today)」Teo SKら, 2005年 第15巻10号(2)p.107−114.「ドラッグス」Lalau JDら、1999年 第58巻1号 p.55−60/75−82「ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」(英国)2000年、N Shimizuら、第18巻、p.877−881「バイオケミカル ファーマコロジー(Biochemical Pharmacology)」2002年、D Henthornら 第63巻9号p.1619−1628「ケミストリー & バイオロジー(Chemistry&Biology)」Sche PPら,1999年 第6巻10号:p.707−716. PMID:10508685「生化学(OUTLINES OF BIOCHEMISTRY)」1987年、Eric E. CONNら「ファーマコロジー&セラピュティックス(Pharmacology&Therapeutics)」2004年、 A Sreedharら 第101巻3号p.227−257「ネイチャー(Nature)」1992年、Gething MJ, Sambrook J.ら:第355巻6355号:p.33−45「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー (The Journal of Biological Chemistry)」、(米国)、1995年、第270巻、p.12953−12956「ダイアビーティーズ フロンティア(Diabetes Frontier)」、(米国)、1999年、第10巻、p.811−818「日本臨床」Y.Yamasakiら2002年、第60巻9号 p.389−92「ドラッグス」Lalau JDら、1999年 第58巻1号 p.55−60/75−82「ネイチャー(Nature)」(米国)、1997年、第386巻、p.299−302「ネイチャー(Nature)」(米国)、1994年、第370巻(6491)、p.621−628「ダイアビーティーズ(Diabetes)」2002年、第51巻、p.1913−1920「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistory)」2003年、第278巻、p.10436−10442 本発明は低分子化合物の標的蛋白質を、該化合物と蛋白質の結合ではなく化合物に応答した蛋白質の立体構造の変化を指標として、しかも前記化合物の構造修飾を必要とすることなく、同定する方法の提供を課題とする。 また、本発明は新規な糖尿病治療薬のスクリーニング方法の提供を課題とする。化合物が作用して標的となる蛋白質の機能に影響を与える場合、該蛋白質の立体構造が化合物との相互作用により変化を受けると予想される。従って化合物がもたらす薬理作用に必要なのは、化合物と標的間の単純な結合ではなく、化合物の作用による標的蛋白質の立体構造の変化であると考えられる。そこで、本発明者らは、該変化を指標として蛋白質を探索することが可能であれば、化合物と蛋白質の結合を指標とした従来の化合物標的探索手法より高い確率で、化合物の薬理作用を担う真の標的蛋白質を検索できると考えた。さらに、前記変化を化合物の側からではなく、化合物に応答した標的蛋白質の側から捕捉及び検出する手法を開発することにより、従来の手法で不可避であった化合物構造の修飾を必要とせずに、該化合物の標的蛋白質を同定することを可能にした。即ち、本発明者らは、基質となる蛋白質分子の非天然構造を認識する機能分子として知られている分子シャペロン蛋白質が、化合物(標的蛋白質が不明な薬剤)による蛋白質の立体構造の変化を認識することを見出し、細胞内蛋白質と分子シャペロン蛋白質との結合の変化を指標に化合物(標的蛋白質が不明な薬剤)の標的蛋白質を検出し同定する方法を構築した。具体的には、本発明者らは低分子化合物である17β−エストラジオールの標的蛋白質としてエストロゲン受容体の検出に成功し(実施例2)、また、FK506及びFK1706の標的蛋白質としてFKBP12の検出、デキサメタゾンの標的蛋白質としてグルココルチコイド受容体の検出、ジヒドロテストステロンの標的蛋白質としてアンドロゲン受容体の検出、アルドステロンの標的蛋白質としてミネラルコルチコイド受容体の検出、及びメトトレキサートの標的蛋白質として水素葉酸還元酵素の検出(実施例3)に成功した。さらに従来標的蛋白質が不明であった糖尿病の治療薬ビグアナイドの標的蛋白質の検出と同定に成功し、これがATP5Bであることを見出した(実施例4)。加えて本発明の方法により、今日まで標的蛋白質が不明であったサリドマイドの標的蛋白質としてTARDBPを見出すことに成功した(実施例8)。また、本発明者らが糖尿病治療薬であるビグアナイド剤と結合することを見出した、ミトコンドリア膜に存在するF1F0−ATP合成酵素のβサブユニットである上記ATP5B蛋白質を細胞内で過剰に発現させると、ビグアナイドによる細胞内のAMPキナーゼ(以下、AMPK)の活性化が妨げられることを明らかにした(実施例5)。これらの知見から、本発明者らはATP5B蛋白質がビグアナイド剤の薬理作用(主作用)に関わる標的蛋白質であることを明らかにし、該蛋白質を利用した新たな糖尿病治療薬のスクリーニング方法を構築した。確かに、本発明のスクリーニング方法で得られた物質が、糖尿病治療効果を有し、また副作用を有さないことを見出し、新たな糖尿病治療薬のスクリーニングツール及びスクリーニング方法並びに糖尿病治療用医薬組成物を提供した。すなわち、本発明は、<1>[1](1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつビグアナイドと結合する、及び/又は過剰発現によりビグアナイドによるAMPK活性化を阻害するポリペプチド、(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、かつビグアナイドと結合する、及び/又は過剰発現によりビグアナイドによるAMPK活性化を阻害するポリペプチド、あるいは(4)(1)〜(3)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された細胞と、試験物質とを接触させる工程、並びに[2]該ポリペプチドと試験物質との結合を分析する工程、を含む、糖尿病治療薬をスクリーニングする方法、<2>[1]の工程が、ビグアナイド共存下で接触させる工程である<1>に記載のスクリーニング方法、<3>AMPKを活性化することを確認する工程、及び/又は糖尿病治療活性を有することを確認する工程を更に含む、<1>又は<2>に記載のスクリーニング方法、<4>(1)<1>に記載のポリペプチド、(2)<1>に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は(3)<1>に記載の形質転換された細胞からなる、ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬のスクリーニングツール、<5>(1)<1>に記載のポリペプチド、(2)<1>に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は(3)<1>に記載の形質転換された細胞の、ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬のスクリーニングのための使用、<6> <1>乃至<3>に記載の方法によって得られた物質を含有する糖尿病治療用医薬組成物、<7> <1>乃至<3>に記載の方法によって得られた物質を糖尿病治療が必要な対象に有効量で投与することを含む、糖尿病治療方法、<8> <1>乃至<3>に記載の方法によって得られた物質の、糖尿病治療用医薬組成物を製造するための使用、<9>[1](1)試験薬剤、分子シャペロン蛋白質、及び試料細胞内蛋白質とを接触させる工程、及び(2)分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する工程、[2](3)分子シャペロン蛋白質と試料細胞内蛋白質とを接触させる工程、及び(4)分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する工程、並びに[3](2)により検出された蛋白質と(4)により検出された蛋白質とを比較する工程を含む試験薬剤の標的蛋白質を同定する方法、<10>分子シャペロン蛋白質が、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、及び/若しくは配列番号27で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ蛋白質の立体構造の変化を認識して該蛋白質と結合するポリペプチド、あるいは、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、及び/若しくは配列番号27で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、かつ蛋白質の立体構造の変化を認識して該蛋白質と結合するポリペプチドからなる蛋白質である<9>に記載の同定する方法、また、<11>分子シャペロン蛋白質が、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、及び/又は配列番号27で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質である<9>に記載の同定する方法に関する。本願優先日においては、基質となる蛋白質分子の非天然構造を認識する機能分子としての分子シャペロンの性質(非特許文献9、非特許文献10)、分子シャペロンを用いた既知の蛋白質のリガンドを同定する方法(特許文献1〜6)は知られていたものの、低分子化合物の標的タンパク質を、分子シャペロンを用いて同定する方法は全く知られていなかった。本願優先日においては、2型糖尿病患者の筋肉におけるATP5Bの存在量の低下(非特許文献17及び18、特許文献7参照)、糖尿病患者の筋肉におけるATP5Bのリン酸化レベルと空腹時血糖値は逆相関すること(非特許文献18及び特許文献7参照)は知られていたが、特許文献7では、ATP5B自体や抗体が糖尿病関連疾患治療薬になるとの記載があり、ATPの発現をどのように制御すれば糖尿病治療効果が出るかについて不明であった。ATP5Bを含むヒト心臓ミトコンドリアプロテオームに含まれる多数(3025個)のポリペプチドを開示し、これらは糖尿病を含む多数のミトコンドリア機能に関する疾患治療薬のスクリーニングに関すると記載した報告があるが(特許文献8)、ATP5Bが糖尿病治療薬のスクリーニングに関するという根拠は全くない。また、本願優先日後に公開された文献(国際公開第2005/090992号パンフレット)には、ATP5Bを含む複数のPTEN経路のモディファイヤーであるポリペプチドが開示され、それらモディファイヤーと候補化合物の結合を検出する系が開示されているが、モディファイヤーに特異的に結合する薬剤と糖尿病との関係は記載も示唆もされていない。これら何れの文献にも、ATP5B蛋白質とビグアナイドが結合するという報告はなく、ATP5B蛋白質とビグアナイドが結合することは本発明者らが初めて見出した知見であり、ATP5Bを用いた、ビグアナイドと同様の主作用を有する糖尿病治療薬のスクリーニング方法(特には、ビグアナイド共存下で行うATP5Bを用いた糖尿病治療薬のスクリーニング方法)は、本発明者らが初めて行った発明である。化合物の構造修飾を必要とせず、かつ、該化合物と標的蛋白質との結合の強度を指標とせずに、標的蛋白質の立体構造の変化を指標として化合物に応答する標的蛋白質を同定する本発明の方法は、既存の薬剤の改良研究に有用な標的蛋白質の同定方法として有用であり、従来の化合物標的蛋白質の探索法にあった種々の課題を一掃する新規の手法である。本発明のスクリーニングツール(例えばビグアナイドの標的蛋白質であるATP5B)を用いた本発明のスクリーニング方法により、ビグアナイドの構造類似化合物に加え、糖尿病治療薬となる構造非類似の新たな母核の化合物を取得できる。この構造非類似な化合物は、ビグアナイド剤の特徴である、肥満を引き起こさず、かつ低血糖を起こしにくい効果を有する、新たな糖尿病治療薬となりうる。加えて、ATP5B蛋白質との結合を指標にすることによって、取得された化合物の主作用を維持したままその分子構造を改変することが可能であり、従来のビグアナイド剤と比較してより主作用に高い活性を有し、副作用をより低減させた糖尿病治療薬の開発が可能となる。分子シャペロン蛋白質をプローブとしたプルダウン法により、E2の存在依存的に変化が検出されたERαのバンドを示す図である。レーン1及び2は、GSTを用いた結果を、レーン3〜6は、GST−HSPA4を用いた結果を示す。ヒトATP5Bとフェンフォルミンの結合を示す図である。図中の「+」はMTX−フェンフォルミン添加の場合を、「−」はMTX−フェンフォルミン未添加の場合を示す。「Inp.」は、インプット(input)を示す。ヒトATP5Bの変異によるフェンフォルミン結合能の消失を示す図である。「WT」は野生型ATP5Bを、「E175V」はGlu175Val変異型ATP5Bを、「D295V」はAsp295Val変異型ATP5Bを使用した場合を示す。図中の「+」はMTX−フェンフォルミン添加の場合を、「−」はMTX−フェンフォルミン未添加の場合を示す。「Inp.」は、インプット(input)を示す。ヒトATP5Bの過剰発現によるフェンフォルミン(PF)のAMPK活性化能の消失を示す図である。上パネルは、抗リン酸化AMPK抗体を用いた結果を、下パネルは、抗AMPKα抗体を用いた結果を示す。図中の「+」はフェンフォルミン(PF)を添加した場合を、「−」はフェンフォルミン未添加の場合を示す。フェンフォルミン(PF)の濃度に依存する、ヒトATP5BとMTX−フェンフォルミン(MTX−PF)の結合を示す図である。縦軸はカウント(ATP5B量)を示す。ヒトATP5Bとフェンフォルミンの結合を示す実験において、試験物質(フリーのフェンフォルミン;PF)を接触させてその結合に影響を与えるか否かを検出した図である。縦軸はカウント(ATP5B量)を示す。ATP5Bとフェンフォルミンの結合を示す実験において、試験物質(化合物A又は化合物B)を接触させてその結合に影響を与えるか否かを検出した図である。縦軸はカウント(ATP5B量)を示す。化合物A及び化合物Bがin vivoで乳酸蓄積を引き起こすことなく血糖降下作用を有することを示す図である。db/dbマウスに化合物A(中抜き四角印)、メトフォルミン(黒丸印)、又は溶媒(黒菱形印)を腹腔内投与した時の、0分、90分、180分後の血糖値(A)及び乳酸値(B)の経時変化を示す。同様に化合物B(黒四角印)、メトフォルミン(黒丸印)又は溶媒(黒菱形印)をdb/dbマウスに腹腔内投与した時の、0分、90分、180分後の血糖値(C)及び乳酸値(D)の経時変化を示す。A及びCは、いずれも0分における測定値を基準に溶媒投与群における各測定時間の値を100としてそれらに対する相対値を表示しており、縦軸は血糖値変化率(%)を示す。B及びDは、いずれも0分における測定値を100としてそれらに対する相対値を表示しており、縦軸は乳酸値変化率(%)を示す。*は有意差検定におけるp値が0.05以下、**は同0.01以下であることを示す。pcDNA−TARDBPを導入したHeLaS3細胞におけるTARDBPの発現量を示す図である。縦軸は、TARDBP/β−アクチンの値を示す。空ベクター導入細胞又はpcDNA−TARDBP導入細胞における、オカダ酸(OA)によるTNF−αの産生量に及ぼすサリドマイド(Tha)の影響を示す図である。縦軸はTNF−α/β−アクチンの値を示す。以下に本発明について詳細に説明する。本明細書における遺伝子操作技術は特に断りのない限り「Molecular Cloning」 Sambrook, Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年等の公知技術に従って実施可能であり、蛋白質操作技術は特に断りのない限り「タンパク実験プロトコール」(秀潤社、1997年)等の公知技術に従って実施可能である。本発明の一つは、生体内で蛋白質の立体構造の変化を認識する機能を有する蛋白質分子である分子シャペロン蛋白質を利用して、特定の化合物(標的蛋白質が不明な薬剤)の添加、未添加時における分子シャペロンと内在性の蛋白質(標的蛋白質)との結合の変化の差を網羅的に調べ、試験薬剤の添加時のみ結合量が増加する、又は試験薬剤の添加時のみ結合量が減少する蛋白質を選択することにより、化合物に応答して立体構造が変化した蛋白質(標的蛋白質)を同定する方法である。 本発明の同定方法は、[1](1)試験薬剤、分子シャペロン蛋白質、及び試料細胞内蛋白質とを接触させる工程、及び(2)分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する工程、[2](3)分子シャペロン蛋白質と試料細胞内蛋白質とを接触させる工程、及び(4)分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する工程、並びに[3](2)により検出された蛋白質と(4)により検出された蛋白質とを比較する工程を含む試験薬剤の標的蛋白質を同定する方法である。本明細書において、試料細胞内蛋白質とは、探索したい標的蛋白質を含むと考えられる細胞(以下試料細胞と称する)に含まれる(発現している)蛋白質群を意味する。本発明の同定方法においては、試験薬剤、分子シャペロン蛋白質、及び試料細胞内蛋白質とが、接触する限り、接触の順序、分子シャペロン蛋白質の状態(単離されているか、細胞に発現しているか、又は細胞の抽出液に含まれているか)、及び試料細胞内蛋白質の状態(生細胞内に発現しているか、細胞の抽出液に含まれているか)によって限定されない。即ち、本発明の同定方法には、単離精製した分子シャペロン蛋白質及び試料細胞の抽出液に含まれている試料細胞内蛋白質を用いる方法(第一の同定方法)、分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドの一部若しくは全長域を含むベクターで形質転換した試料細胞に発現している分子シャペロン蛋白質及び前記形質転換した試料細胞(生細胞)に発現している試料細胞内蛋白質を用いる方法(第二の同定方法)、前記形質転換した細胞の抽出液に含まれた状態の分子シャペロン蛋白質及び同抽出液に含まれた状態の試料細胞内蛋白質を用いる方法(第三の同定方法)が含まれる。本発明の第一の同定方法では、分子シャペロン蛋白質を単離する。例えば分子シャペロン蛋白質の一部若しくは全長域、又はGSTやFlag、Hisなどのタグを融合させた分子シャペロン蛋白質の一部若しくは全長域を、大腸菌などのバクテリア、酵母、又は昆虫細胞等に発現させる、あるいは化学的な合成法によって大量に産生させた後、分子シャペロン蛋白質の抗体又は分子シャペロン蛋白質に融合させた各種タグの抗体あるいはタグと親和性の高いアフィニティービーズ又はアフィニティーカラムを用いて精製することができる。あるいは試験管内で分子シャペロン遺伝子のDNA断片を転写、翻訳させることにより分子シャペロン蛋白質を産生し、精製することも可能である。本発明の第一の同定方法では、試料細胞から抽出した蛋白質混合液(即ち、試料細胞内蛋白質を含む液)に、精製した分子シャペロン蛋白質を試験薬剤添加又は未添加の状態で試験管内で混合し接触させた後、分子シャペロン蛋白質とそこに結合する蛋白質を上述と同様の方法に従って濃縮する。好ましくは、実施例2(2)(3)、3、4又は8に記載の方法により、試験薬剤未添加時のみ分子シャペロン蛋白質に結合する試料細胞由来の蛋白質又は試験薬剤添加時のみ分子シャペロン蛋白質に結合する試料細胞由来の蛋白質を検出することができる。本発明の第二の同定方法は、[1](1)試験薬剤、分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された試料細胞に発現している分子シャペロン蛋白質、及び前記形質転換された試料細胞に発現している試料細胞内蛋白質とを接触させる工程、及び(2)分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する工程、[2](3)分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された試料細胞に発現している分子シャペロン蛋白質と前記形質転換された試料細胞に発現している試料細胞内蛋白質とを接触させる工程、及び(4)分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する工程、並びに[3](2)により検出された蛋白質と(4)により検出された蛋白質とを比較する工程を含む試験薬剤の標的蛋白質を同定する方法である。本発明の第三の同定方法は、[1](1)試験薬剤、分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された試料細胞の細胞抽出液に含まれた状態の分子シャペロン蛋白質及び前記抽出液に含まれた状態の試料細胞内蛋白質とを接触させる工程、及び(2)分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する工程、[2](3)分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された試料細胞の細胞抽出液に含まれた状態の分子シャペロン蛋白質と前記抽出液に含まれた状態の試料細胞内蛋白質とを接触させる工程、及び(4)分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する工程、並びに[3](2)により検出された蛋白質と(4)により検出された蛋白質とを比較する工程を含む試験薬剤の標的蛋白質を同定する方法である。本発明の第二の同定方法及び第三の同定方法には、分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドの一部若しくは全長域を含むベクターで、探索したい標的蛋白質を含むと考えられる細胞を形質転換し、分子シャペロン蛋白質であるポリペプチドの一部若しくは全長域、又はGSTやFlag、Hisなどのタグを融合させた該ポリペプチドの一部若しくは全長域を、該細胞に発現させる工程が含まれる。第二の同定方法では、前記形質転換された生きている状態の細胞に、標的蛋白質を探索したい化合物(以下、試験薬剤と称する)を添加(接触)する又は添加しない(未添加)。これにより、前記形質転換された試料細胞に発現している分子シャペロン蛋白質、試料細胞内蛋白質及び試料薬剤とを、あるいは前記形質転換された試料細胞に発現している分子シャペロン蛋白質と試料細胞内蛋白質とを接触させることができる。第三の同定方法では、前記形質転換された細胞から抽出した蛋白質混合液(即ち、分子シャペロン蛋白質及び試料細胞内蛋白質を含む試料細胞抽出液)に試験薬剤を添加(接触)する又は添加しない(未添加)。これにより、前記形質転換された試料細胞の抽出液に含まれた状態の分子シャペロン蛋白質、同抽出液に含まれた状態の試料細胞内蛋白質及び試料薬剤とを、あるいは前記形質転換された試料細胞の抽出液に含まれた状態の分子シャペロン蛋白質と同抽出液に含まれた状態の試料細胞内蛋白質とを接触させることができる。本発明の第二の同定方法及び第三の同定方法では、分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を第一の同定方法と同様の方法に従って濃縮する。<分子シャペロン蛋白質>本発明の同定方法で用いることのできる分子シャペロン蛋白質としては、公知の、分子シャペロン蛋白質を用いることが出来る。具体的にはHsp90(HtpG;カッコ内は大腸菌の名称を示す)、Hsp70(DnaJ)、Hsp60(GroEL)、Hsp40(DnaJ)、Hsp27(IbpAB)、Hsp104(ClpB)、GRP78(DnaK)の各ファミリーに属する代表的な蛋白質群が挙げられる(A Sreedharら、Pharmacology&Therapeutics、2004年、 第101巻3号p.227−257; D.S. Latchmanら、Cardivascular Research, 2001年 51巻p.637−646)。他に、FKBP56やheme oxygenase−1として知られるHsp32、低分子のsHSPs(small heat shock proteins)等も同様にシャペロンとして利用が可能である(P Laksanalamai,Extremphiles,2004年8巻1号p1−11)。本発明の同定方法において用いることができる分子シャペロン蛋白質としては、公知の分子シャペロン又は公知の分子シャペロン蛋白質を表すアミノ酸配列において1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ蛋白質の立体構造の変化を認識して該蛋白質と結合するポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する)が含まれる。また、上記に挙げた分子シャペロン蛋白質を表すアミノ酸配列との同一性が90%以上(好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上)であるアミノ酸配列を含み、かつ蛋白質の立体構造の変化を認識して該蛋白質と結合するポリペプチド(以下、相同ポリペプチドと称する)が含まれる。また、本発明の機能的等価改変体及び相同ポリペプチドの起源は特定の生物種に限定されない。更には、機能的等価改変体及び相同ポリペプチドのいずれかに該当する限り、天然ポリペプチドに限定されず、公知の分子シャペロン蛋白質を表すアミノ酸配列を元にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドも含まれる。なお、本明細書における前記「同一性」とは、NEEDLE program(J Mol Biol 1970; 48: 443-453)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値Identityを意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。Gap penalty = 10Extend penalty = 0.5Matrix = EDNAFULL本発明の同定方法で用いる分子シャペロン蛋白質としては、配列番号3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,及び/又は27に示す蛋白質(ヒトHSPA1A;RefSeq accession番号NP_005336、ヒトHSPH1;RefSeq accession番号NP_006635、ヒトHSPCA;RefSeq accession番号NP_005339、ヒトHSPD1;RefSeq accession番号NP_955472、ヒトDNAJA1;RefSeq accession番号NP_001530、ヒトHSPB1;RefSeq accession番号NP_001531、ヒトHSPE1;RefSeq accession番号NP_002148、ヒトHSPA4;RefSeq accession番号NP_002145、ヒトHSP90B1;RefSeq accession番号NP_003290、ヒトCCT6B;RefSeq accession番号NP_006575、ヒトTCP1;RefSeq accession番号NP_110379、ヒトHSPA14;RefSeq accession番号NP_057383、ヒトHSPA9B;RefSeq accession番号NP_005338、ヒトSTCH;RefSeq accession番号NP_008879、ヒトHYOU1;RefSeq accession番号NP_006380、ヒトHSPB5;RefSeq accession番号NP_001876、ヒトHSPB2;RefSeq accession番号NP_001532、ヒトDNAJA2;RefSeq accession番号NP_005871、ヒトDNAJB1;RefSeq accession番号NP_006136、ヒトDNAJB2;RefSeq accession番号NP_006727、ヒトHCG3;RefSeq accession番号NP_001001394、ヒトDNAJB11;RefSeq accession番号NP_057390、ヒトDNAJC11;RefSeq accession番号NP_060668、ヒトDNAJC7;RefSeq accession番号NP_003306、ヒトDNAJC6;RefSeq accession番号NP_055602)、及び配列番号3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,及び/又は27で表されるアミノ酸配列において1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ蛋白質の立体構造の変化を認識して該蛋白質と結合するポリペプチド、又は、配列番号3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,及び/又は27で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上(好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上)であるアミノ酸配列を含み、かつ蛋白質の立体構造の変化を認識して該蛋白質と結合するポリペプチドが好ましい。「蛋白質の立体構造の変化を認識して該蛋白質と結合する」とは、試験薬剤と結合することによる蛋白質の立体構造の変化に応答して、分子シャペロン蛋白質が該蛋白質に結合する、あるいは、未変化の状態の蛋白質に結合していた分子シャペロン蛋白質が、試験薬剤と結合することによる蛋白質の立体構造の変化に応答して、乖離することを意味する。分子シャペロン蛋白質が蛋白質の立体構造の変化に応答して「結合する」か否かは、本発明の同定方法の「分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する」方法と同様にして確認することができる。特に、配列番号3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,及び/又は27で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能的等価改変体及び相同ポリペプチドについて「蛋白質の立体構造の変化を認識して該蛋白質と結合する」ことは、ビグアナイド(試験薬剤)と結合することによるATP5B蛋白質の立体構造の変化に応答して、未変化の状態のATP5B蛋白質に結合していた分子シャペロン蛋白質が、ビグアナイドと結合することによるATP5B蛋白質の立体構造の変化に応答して乖離することで確認する。又は、サリドマイド(試験薬剤)と結合することによるTARDBP蛋白質の立体構造の変化に応答して、分子シャペロン蛋白質が該蛋白質に結合することで確認する。これらの確認は、実施例4又は実施例8の条件下で、実施例4又は実施例8において用いた分子シャペロン蛋白質の代わりに検討対象の機能的等価改変体及び相同ポリペプチドを用いることによって実施する。本発明の同定方法においては、分子シャペロン蛋白質のうち、配列番号3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,及び/又は27に示す蛋白質の利用が特に好ましい。これらの蛋白質は、それぞれが前述の分子シャペロンの異なる各ファミリー(Hsp90、Hsp70、Hsp60、Hsp40、Hsp27、Hsp104、GRP78)に属しており、それらシャペロン蛋白質の各ファミリーに特有の性質をそれぞれが保持していると期待される。<分子シャペロン蛋白質の製造方法>本発明の同定方法において、分子シャペロン蛋白質は、分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを用いて一般的な遺伝子工学的及び/又は生化学的手法により容易に製造し取得することが出来る。該ポリヌクレオチドは本明細書に開示された配列情報又は公知の遺伝子配列情報に基づいて一般的遺伝子工学的手法により容易に製造及び取得することが出来る。例えば次のように得ることができるが、この方法に限らず公知の操作(「Molecular Cloning」[Sambrook, Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年、等])でも得ることができる。例えば、(1)PCRを用いた方法、(2)常法の遺伝子工学的手法(すなわちcDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から所望のポリペプチドを含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(3)化学合成法などを挙げることができる。各製造方法については、WO01/34785に記載されているのと同様に実施できる。 PCRを用いた方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法a)第1製造法に記載された手順により、分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを製造することができる。例えば、ヒトの肝臓、脳、乳腺といった組織からmRNAを抽出する。次いで、このmRNAをランダムプライマー又はオリゴdTプライマーの存在下で、逆転写酵素反応を行い、第一鎖cDNAを合成することが出来る。得られた第一鎖cDNAを用い、目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に供し、分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチド又はその一部を得ることができる。より具体的には、例えば実施例1に記載の方法により分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを製造することが出来る。 常法の遺伝子工学的手法を用いる方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法b)第2製造法に記載された手順により、分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを製造することができる。 化学合成法を用いた方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法c)第3製造法、d)第4製造法に記載された方法によって、分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを製造することができる。具体的には液相、及び固相法によるペプチド合成法により製造することができる。合成はアミノ酸を1個ずつ逐次結合させても、数アミノ酸からなるポリペプチド断片を合成した後に結合させてもよい。これらの手段により得られる本発明ポリペプチドは公知の各種の方法に従って精製を行うことが出来る。配列の変異は、例えば天然において突然変異によって生じることもあるが、人為的に改変して作製することも出来る。本発明は、該変異の原因及び手段を問わない。上記の変異体作製にいたる人為的手段としては、例えば上記のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基特異的置換法(Methods in Enzymology、(1987)154、350,367−382)等の遺伝子工学的手法の他、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイド法などの化学合成手段(Science、150,178、1968)を挙げることができる。それらの組み合わせによって所望の塩基置換を伴うポリヌクレオチドを得ることが可能である。あるいはPCR法の繰り返し作業や、その反応液中にマンガンイオンなどを存在させることによりポリヌクレオチド分子中の非特定塩基に置換を生じさせることが可能である。上述のように得られた分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドは、「Molecular Cloning、Sambrook, Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年」等に記載の方法により、適当なプロモーターの下流に連結することで分子シャペロン蛋白質を試験管内、あるいは試験細胞内で発現させることができる。 具体的には上述のように得られたポリヌクレオチドの開始コドン上流に特定のプロモーター配列を含むポリヌクレオチドを付加することにより、これを鋳型として用いた無細胞系での遺伝子の転写、翻訳による分子シャペロン蛋白質の発現が可能である。あるいは分子シャペロン蛋白質をコードするポリヌクレオチドを適当なベクタープラスミドに組み込み、プラスミドの形で宿主細胞に導入すれば細胞内で該ポリペプチドの発現が可能になる。あるいは、このような構成が染色体DNAに組み込まれた細胞を取得してこれを用いてもよい。より具体的には、単離されたポリヌクレオチドを含む断片は、適当なベクタープラスミドに再び組込むことにより、真核生物及び原核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。さらに、これらのベクターに適当なプロモーター及び形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞において分子シャペロン蛋白質を発現させることが可能である。宿主細胞は、特に限定されるわけではなく、本発明の方法に利用する目的に十分量の分子シャペロン蛋白質の発現が実現できるものであればよい。宿主細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman, Y. (1981) Cell, 23, 175−182)、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO)のジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株(Urlaub, G. and Chasin, L. A.(1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216−4220)、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞および同細胞にEpstein Barr VirusのEBNA−1遺伝子を導入した293−EBNA細胞(インビトロジェン社)等が挙げられる。宿主細胞を形質転換し遺伝子を発現させる方法は、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」2)の組換え蛋白の製造方法に記載された方法により実施できる。分子シャペロン発現細胞の製造に用いる発現ベクター(分子シャペロン発現用発現ベクター)は、所望のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではない。例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、所望のポリヌクレオチドを挿入することにより得られる発現ベクターを挙げることができる。公知の発現ベクターとしては、例えば、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr (Subramani, S. et al. (1981) Mol. Cell. Biol., 1, 854−864)、ヒトのエロンゲーションファクター(elongation factor)プロモーターを有するpEF−BOS (Mizushima, S. and Nagata, S. (1990) Nucleic Acids Res., 18, 5322)、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)プロモーターを有するpCEP4(インビトロジェン社)、pME18S、 (Maruyama, K. and Takebe,Y. (1990) Med. Immunol., 20, 27−32)、 pCDM8(Seed, B. (1987) Nature, 329, 840−842) 等が挙げられる。分子シャペロン蛋白質は、例えば、前記発現ベクターにより所望の宿主細胞を形質転換し、該細胞中で上記ポリペプチドを発現させることにより得ることができる。より具体的には、所望のポリヌクレオチドをバクテリアの発現ベクターに組み込むことにより、所望の分子シャペロン蛋白質をバクテリア細胞中で大量に産生させることができる。また、酵母や昆虫細胞等を用いても分子シャペロン蛋白質を大量に産生することができる。また所定のプロモーター下流に結合した上記ポリヌクレオチドを用いて、公知の手法により試験管内で所望の分子シャペロン蛋白質を生産することができる。より具体的にはTNTシステム(プロメガ社)を用いて、上述のプロモーター下流に結合した上記ポリヌクレオチドを鋳型とする試験管内での転写・翻訳反応により、所望の分子シャペロン蛋白質を試験管内で生産することができる。前述の細胞を培養することにより細胞中で産生した分子シャペロン蛋白質を検出、定量、さらには精製することが出来る。例えば、分子シャペロン蛋白質と結合する抗体を用いたウエスタンブロット法、あるいは免疫沈降法により該蛋白質を検出、精製することが可能である。あるいは、該蛋白質を、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、プロテインA、β−ガラクトシダーゼ、マルトース−バインディングプロテイン(MBP)など適当なタグ蛋白質との融合蛋白質として発現させることにより、これらタグ蛋白質に特異的な抗体を用いてウエスタンブロット法、あるいは免疫沈降法により該蛋白質を検出することが出来る。さらにはこれらタグ蛋白質を利用して前記蛋白質を精製することが出来る。より具体的には以下のようにしてタグ蛋白質を利用して前記蛋白質を精製することができる。本発明の方法において分子シャペロン蛋白質(例えば、配列番号3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,又は27で表されるポリペプチド)は、これらをコードするポリヌクレオチドを、例えばGSTタグ又はHisタグが発現させた目的の蛋白質に付加されるベクター、より具体的には例えば実施例1に記載のpGEX−6P1(アマシャム)、あるいは市販のpET−28a(ノバジェン社)等に組み込んでバクテリアに導入し、前者はGST融合型蛋白質、後者の場合はHis融合型蛋白質として分子シャペロン蛋白質を発現させることができる。該融合型蛋白質は、それらを発現させたバクテリア細胞由来の蛋白質抽出液中から、GSTあるいはHisタグの性質を利用して精製することができる。例えば実施例1においてpGEX−6P1を用いて作製したシャペロン発現プラスミドは、いずれも分子シャペロン蛋白質のN−末端にGSTタグが付加されるように設計されている。これにより、それらのGSTタグを利用して、所望の分子シャペロン蛋白質を発現させた細胞から該蛋白質を精製することができる。より具体的には公知のGST−プルダウン(pull down)法(実験工学、Vol13、No.6、1994年528頁 松七五三ら)に従って、破砕した細胞の抽出液よりGSTタグと融合した分子シャペロン蛋白質をグルタチオンセファロースビーズ(Glutathione Sepharose 4B;アマシャムファルマシア社)に結合させて遠心分離により単離することができる。一方Hisタグを利用して、所望の分子シャペロン蛋白質を発現させた細胞から該蛋白質を精製するのも公知の方法(実験医学別冊 タンパク質の分子間相互作用実験法、1996年32頁 中原ら)に従って、破砕した細胞の抽出液よりHisタグと融合した分子シャペロン蛋白質をNi2+−NTA−Agarose(フナコシ)に結合させて遠心分離により単離することができる。あるいは所望により、タグ蛋白質を利用しない方法、例えば、分子シャペロン蛋白質を、その物理的性質、化学的性質を利用した各種の分離操作によっても精製できる。具体的には限外濾過、遠心分離、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーの利用を例示することが出来る。<試験薬剤>試験薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の化合物(ペプチドを含む)、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(N.Terrett et al., Drug Discov. Today, 4(1):41,1999 )によって得られた化合物群、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物(ポリヌクレオチド、ポリペプチドを含む)、あるいは、それらを化学的又は生物学的に修飾した化合物で、明確な薬理作用を有するものを挙げることができる。該薬理作用には医療における望ましい作用のみでなく、生体に有害な作用も含まれる。特に本発明の方法の利用が、既存の方法に比較してより有用であると考えられる化合物として、(1)化学構造上、修飾を加えることが困難な化合物、(2)修飾によって上述の薬理作用が失われる、あるいは失われると予測される化合物、(3)分解あるいは代謝産物、その他の共雑物の混合により、薬理活性をもたらす化学構造が未定の化合物、(4)合成や精製、あるいは原材料の入手が困難で利用可能な量が限られる化合物(天然物を含む)、等を挙げることができる。<細胞抽出液>本発明の方法で用いる細胞抽出液は、試験薬剤が有する薬理活性を惹起するための一次標的組織、あるいは該組織の性質の多くを維持する培養細胞から蛋白質を抽出した液を使用することができる。細胞からの蛋白質の抽出方法は、目的に応じた調製方法を用いることが好ましい。具体的には、公知の蛋白質抽出法に従い、SDS,トリトンX−100、あるいはCHAPS、CHAPSOなどの各種界面活性剤から目的に適合するものを選択し、それらを目的に適した濃度で含む緩衝液を用いて上述の細胞を破砕し、遠心分離後上澄を分離及び回収した後に、本発明の方法における細胞抽出液として用いる。より具体的には、破砕のために用いる緩衝液中には生体由来の各種蛋白質分解酵素の阻害剤、例えばPMSF(phenylmethyl sulfonylfluoride)、EGTA(Ethylene glycol−bis(β−aminoethylether)−N,N,N′,N′−tetraacetic Acid)等を含むことが好ましく、本発明の方法に適用するまでは凍結され蛋白質が安定に維持される−80℃以下の状態で保存されることが好ましい。<分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する工程>分子シャペロン蛋白質は、いずれも各分子あたり多数の基質蛋白質に応答すると考えられている。しかしその種類により、基質特異性は異なると考えられている。従って様々な構造を有する化合物の標的を真に網羅的に探索するためには、多種類の異なるファミリーに属する分子シャペロン蛋白質を揃えてプローブとして同時に利用することが好ましい。より好ましくは、本発明の実施例2(3)、3、4及び8に示すとおり、異なるシャペロンファミリー由来の複数の分子シャペロン蛋白質を揃えて、同時に利用することが望まれる。また生化学的な実験系においては、プローブとする蛋白質(本発明においては分子シャペロン蛋白質)が基質となる蛋白質に比較して大過剰に存在する場合、プローブの基質特異性は薄れ、本来の基質以外の蛋白質であっても該基質に類似の分子であればプローブに認識されることが期待できる。従って本発明の実施例2(2)に示すin vitroプルダウン法のように、基質となる細胞由来蛋白質に比較して大量のプローブ蛋白質を反応させうる系の利用が、化合物の網羅的な標的探索を可能にする上ではより好ましい。また、分子シャペロン蛋白質の多くは生体内で多量体を形成して作用することが報告されている。従って本発明の方法を実施するにあたっては、実施例2(2)及び4に示されるような、分子シャペロン蛋白質(プローブ)と複合体を形成しうる内在性のシャペロンが混在する生体試料由来の細胞抽出液、及び蛋白質の分離条件を用いることがより好ましい。より具体的には、本発明の実施例2(2)に示すin vitroプルダウン法のように、内在性のシャペロンを含む細胞由来の細胞抽出液に対して分子シャペロン蛋白質(プローブ蛋白質)を反応させる系の利用が好ましい。「分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する」ためには以下の操作を行う。試験薬剤を添加した又は未添加の細胞から抽出した試料細胞抽出液あるいは試験薬剤を添加した又は未添加の試料細胞抽出液のそれぞれから、分子シャペロン蛋白質の抗体、又は分子シャペロン蛋白質に融合させたタグの抗体を用いた公知の免疫沈降法により、分子シャペロン蛋白質と分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を濃縮することができる。あるいは上述のタグに親和性を有するアフィニティービーズやアフィニティーカラムを用いた公知の方法によっても同様に分子シャペロン蛋白質と分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質の濃縮が可能である。具体的な方法としては、GSTなどのタグをつけて精製した該ペプチドを用いたGST−プルダウン法を挙げることができる。上記で得られた分子シャペロン蛋白質及びその結合蛋白質の濃縮液を、公知の蛋白質分離法により分離し、分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を検出する。例えば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、銀染色法、クーマジーブリリアントブルー染色法、又はネガティブゲル染色法(和光純薬)等の既存の蛋白質染色法など公知の蛋白質を検出する種々の方法(「遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析」 平野久 東京化学同人 1993年 p37−p40)により、分子シャペロン蛋白質及び分子シャペロン蛋白質に結合した試料細胞に由来する蛋白質を検出することができる。ここで本発明の工程に用いる方法は、蛋白質を検出することが可能であれば、上記の方法に限られない。上記により検出した蛋白質について、試験薬剤添加の場合と未添加の場合での分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を比較する。両者を比較することにより、試験薬剤添加又は未添加時に分子シャペロン蛋白質への結合が変化した試料細胞由来の蛋白質(即ち、試験薬剤の標的蛋白質)を同定することができる。試験薬剤添加又は未添加時で得られる試料細胞由来の蛋白質群を検出して比較する方法として、公知のSDSポリアクリルアミド電気泳動法が挙げられる。その場合に二次元電気泳動法で展開することにより、より正確な比較が可能である。電気泳動法で展開された、試験薬剤添加時の結果及び試験薬剤未添加の場合の結果について、バンドを比較し(即ち、試験薬剤の添加時のみバンド量が増加する、又は試験薬剤の添加時のみバンド量が減少するものがあるか、比較し)試験薬剤の添加時のみ結合量が増加する、又は試験薬剤の添加時のみ結合量が減少する蛋白質を選択することができる。試験薬剤の添加時のみ結合量が増加する、又は試験薬剤の添加時のみ結合量が減少する蛋白質としては、試験薬剤の添加時のみ結合する、又は試験薬剤の添加時のみ結合しない蛋白質を選択することが好ましい。続いて、上記方法により検出し選択された蛋白質を同定する。公知の蛋白質精製法及び蛋白質同定法(Schevchenkoら、Analytical Chemistry、第68巻、第850−858頁、1996年)により、その分子内に存在するアミノ酸配列を決定し、このアミノ酸配列情報をもとに、試験薬剤の添加又は未添加時に分子シャペロン蛋白質との結合が変化する蛋白質(即ち試験薬剤の標的蛋白質)を同定することができる。具体的には、試験薬剤の標的蛋白質は、ゲルから回収して精製した後、マススペクトル法、公知の手法によりそのアミノ酸配列を決定し、蛋白質を同定することができる。より具体的には、SDSポリアクリルアミド電気泳動ゲルにより分離された目的の蛋白質を、トリプシン等を用いて断片化し、生じたペプチド混合物をゲルより回収し、マススペクトル解析により蛋白質の同定を行うことができる(Schevchenkoら、Analytical Chemistry、第68巻、第850−858頁、1996年)。あるいは、ゲルから電気溶出法等により目的蛋白質を溶出させた後、もしくはゲル上の目的蛋白質をPVDF(ポリビニリデンジフルオリド)等の膜にブロッティングした後、必要ならば酵素消化、化学的分解により断片化し、さらに必要ならば得られた断片化ペプチドを液体クロマトグラフ法、キャピラリー電気泳動法等により分離した後、マススペクトル解析、もしくはN末端又はC末端アミノ酸配列解析により、蛋白質の同定を行うことができる(平野 久 プロテオーム解析ー理論と方法ー 東京化学同人、2001年)。ここで本発明の方法に用いる同定方法は、精製した該標的蛋白質群の同定が可能である限り、上記の方法に限られない。より具体的には、実施例4及び実施例8に記載のように、SDSポリアクリルアミド電気泳動ゲルにより分離された標的蛋白質は、トリプシン等を用いてタンパク質を断片化し、生じたペプチド混合物をゲルより回収し、マススペクトル解析により蛋白質の同定を行うことができる。本発明の方法で同定された標的蛋白質は、公知の遺伝子機能解析技術により、試験薬剤の薬理作用をもたらす真の標的蛋白質であることを確認することが可能である。まず、具体的には、以下に示す方法により、試験薬剤と得られた標的蛋白質分子の直接的な結合の有無を調べることができる。結合するか否かの検討対象ポリペプチドの一部若しくは全長域、またはGSTやFlag、Hisなどのタグを融合させた検討対象ポリペプチドの一部若しくは全長域を細胞に発現させる。該細胞からGSTやFlag、Hisなどのタグとの親和性を利用したアフィニティ精製法、あるいは該タグに応答する抗体を利用した免疫沈降法等により、発現させた検討対象のポリペプチドを単離・精製する。続いて精製した該ポリペプチドと試験薬剤を混合し、該試験薬剤とポリペプチドが結合して形成された複合体を単離する。次に該複合体を酸、熱その他の刺激により変性させて化合物を再度分離させて蛋白質のみを除去した後、マススペクトロメトリーを用いた質量分析法による解析を行って同試料中に該試験薬剤が含まれるかどうかを調べることによって、検討対象のペプチドと該試験薬剤の結合を確認することができる。また別の手法として、試験薬剤の分子構造の一部を標識することにより作成した標識試験薬剤をプローブとして、公知のELISA法、ファーウエスタン法、バインディングアッセイ法等の方法により検討対象のポリペプチドと該試験薬剤が結合するか否かを確認することができる。試験薬剤の標識は、標的蛋白質との結合に影響を与えないラジオアイソトープを用いるのが好ましい。具体的には、例えば、試験薬剤の分子内の元素をラジオアイソトープに置換することにより標識した化合物を作製することができる。該標識試験薬剤をプローブとして利用することにより、上述の方法により精製した検討対象のポリペプチドを固定したELISA法により、該ポリペプチドと該試験薬剤の結合を確認することができる。あるいは、検討対象のポリペプチドを公知のSDSアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、ニトロセルロース膜上に転写した後、上述標識試験薬剤をプローブとして利用したファーウエスタン法により、やはり該ポリペプチドと該試験薬剤の結合を確認することができる。また、あるいは標識させた試験薬剤と上述の方法により精製した検討対象のポリペプチドを混合し、フィルター上にトラップして洗浄した後に、標識プローブ由来の放射線量を測定することにより形成された化合物とペプチドの複合体の総量を検出する、いわゆるバインディングアッセイによって該ポリペプチドと該試験薬剤の結合を確認することができる。また公知の蛋白質の立体構造予測手法(J Med Chem. 2004 Dec 30;47 (27):6804−11)により、本発明の方法で同定された標的蛋白質に該試験化合物が結合しうる鍵穴となる構造が存在するかどうかを調べることができる。さらに公知のRNA干渉技術(Tuschl T. ら、Nat Biotechnol. 2002, 20(5):p446−448.)を用いた細胞レベルでの遺伝子ノックダウン実験、同じく細胞レベルでの公知の遺伝子過剰発現実験、さらには遺伝子ノックアウト動物の作製、又は遺伝子過剰発現動物の作製、等の各種生化学的及び/又は遺伝子工学的実験手法により、上記標的蛋白質の発現量を増大、あるいは減少させることができるが、これらの条件下で試験薬剤の主作用又は副作用を試験した場合において、主作用又は副作用が亢進、あるいは抑制される効果が見出されることにより、発現を変動させた遺伝子がコードする標的蛋白質は真の標的蛋白質であると確認できる。本発明の同定方法では、試験薬剤の薬理作用をもたらす試験薬剤の標的蛋白質を同定することができるが、本発明の同定方法は、試験薬剤の薬理作用の内、望ましい薬理作用(主作用)をもたらす標的蛋白質を同定する方法として、より適している。<本発明のスクリーニングツール及びスクリーニングのための使用> 本発明のスクリーニングツールは、下記(1)〜(3)からなる。(1)ヒトATP5B蛋白質(配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)、ATP5B機能的等価改変体(配列番号2で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつビグアナイドと結合する、及び/又は過剰発現によりビグアナイドによるAMPK活性化を阻害するポリペプチド)、並びにATP5B相同ポリペプチド(配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性が90%以上(好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上)であるアミノ酸配列を含み、かつビグアナイドと結合する、及び/又は過剰発現によりビグアナイドによるAMPK活性化を阻害するポリペプチド)(以下、ツール用ポリペプチド)からなる、ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬のスクリーニングツール(以下、本発明のポリペプチド型スクリーニングツールと称する)、(2)ツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、ツール用ポリヌクレオチド)からなる、ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬のスクリーニングツール(以下、本発明のポリヌクレオチド型スクリーニングツールと称する)、あるいは(3)ツール用ポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換され、ツール用ポリペプチドを発現している細胞(以下、ツール用細胞)からなる、ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬のスクリーニングツール(以下、本発明の細胞型スクリーニングツールと称する)。また、(1)ツール用ポリペプチド、(2)ツール用ポリヌクレオチド、又は(3)ツール用細胞の、ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬のスクリーニングのための使用も本発明に含まれる。 本明細書において、「スクリーニングツール」とは、スクリーニングのために用いるもの(具体的には、スクリーニングのために用いるポリペプチド、ポリヌクレオチド又は細胞)をいう。「ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬のスクリーニングツール」とは、ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬をスクリーニングするために、本発明のスクリーニング方法において、試験化合物を接触させる対象となる細胞又はポリペプチド、あるいは、試験化合物を接触させる対象となるポリペプチドを取得若しくは発現させるためのポリヌクレオチドである。ATP5B機能的等価改変体及びATP5B相同ポリペプチドの起源はヒトに限定されない。ツール用ポリペプチドのいずれかに該当する限り、配列番号2で表されるアミノ酸配列のヒトにおける変異体が含まれるだけでなく、脊椎動物からバクテリアにいたるまであらゆる生物由来のものが含まれ、また、天然ポリペプチドに限定されず、配列番号2で表されるアミノ酸配列を元にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドも含まれる。また、ビグアナイドと結合する、及び/又は過剰発現によりビグアナイドによるAMPK活性化を阻害する限り、ATP5B機能的等価改変体又はATP5B相同ポリペプチドに後述のマーカー配列を含むポリペプチドも、ツール用ポリペプチドに含まれる。後述の実施例5(5)及び(6)において、ATP5Bとビグアナイドとの結合には、サイト20の周辺構造に関与するアミノ酸残基、特には、ヒトATP5Bの場合Glu175及びAsp295が重要であることがわかった。従って、変異を入れる場合には、サイト20の周辺構造に関与するアミノ酸残基、特には、ヒトATP5Bの場合Glu175及びAsp295は保存し、これ以外の部分に変異を入れることにより、ビグアナイドとの結合活性を維持した改変ポリペプチドを容易に製造できる。 本発明のポリペプチド型スクリーニングツールとしては、ツール用ポリペプチドの内ヒトATP5Bポリペプチドが、本発明のポリヌクレオチド型スクリーニングツールとしては、ツール用ポリヌクレオチドの内ヒトATP5Bポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(特に好ましくは配列番号1の塩基配列で表されるポリヌクレオチド)が、本発明の細胞型スクリーニングツールとしては、ツール用細胞の内、ヒトATP5Bをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換され、ヒトATP5Bを発現している細胞がより好ましい。ツール用ポリヌクレオチドは、本明細書に開示された配列情報又は公知の遺伝子配列情報に基づいて一般的遺伝子工学的手法により容易に製造し取得することが出来る。そのような手法としては、上述の<分子シャペロン蛋白質の製造方法>に記載のように、公知の操作「Molecular Cloning」[Sambrook, Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年 等]、例えば、(1)PCRを用いた方法、(2)常法の遺伝子工学的手法(すなわちcDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から所望のポリペプチドを含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(3)化学合成法などを挙げることができる。各製造方法については、上述の<分子シャペロン蛋白質の製造方法>に記載したように、WO01/34785に記載されているのと同様に実施できる。 PCRを用いた方法では、例えば、ヒトの骨格筋、あるいは心臓といった組織からmRNAを抽出し、上述の<分子シャペロン蛋白質の製造方法>に記載したのと同様に第一鎖cDNAを用い、ツール用ポリヌクレオチドの一部の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてPCRに供し、ツール用ポリヌクレオチド又はその一部を得ることができる。より具体的には、例えば実施例5(1)に記載の方法によりツール用ポリヌクレオチドを製造することができる。 常法の遺伝子工学的手法を用いる方法、 化学合成法を用いた方法でも、上述の<分子シャペロン蛋白質の製造方法>に記載したのと同様に、ツール用ポリヌクレオチドを製造することができる。上述のように得られたツール用ポリヌクレオチドは、上述の<分子シャペロン蛋白質の製造方法>に記載したのと同様に、公知の方法(例えば「Molecular Cloning、Sambrook, Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年」等に記載の方法)により、適当なプロモーターの下流に連結することでツール用ポリペプチドを試験管内、あるいは試験細胞内で発現させることができる。ツール用細胞の製造に用いる発現ベクター(ツール用発現ベクター)は、ツール用ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではない。例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、ツール用ポリヌクレオチドを挿入することにより得られる発現ベクターを挙げることができる。ツール用ポリペプチドは、例えば、ツール用発現ベクターにより所望の宿主細胞を形質転換し、該細胞中でツール用ポリペプチドを発現させることにより得ることができる。より具体的には、ツール用ポリヌクレオチドをバクテリアの発現ベクターに組み込むことにより、ツール用ポリペプチドをバクテリア細胞中で大量に産生させることができる。また所定のプロモーター下流に結合したツール用ポリヌクレオチドを用いて、公知の手法により試験管内でツール用ポリペプチドを生産することができる。より具体的には実施例5(4)に記載のように、TNTシステム(プロメガ社)を用いて、上述のプロモーター下流に結合したツール用ポリヌクレオチドを鋳型とする試験管内での転写・翻訳反応により、ツール用ポリペプチドを試験管内で生産することができる。 ツール用細胞は、ツール用発現ベクターで形質転換され、ツール用ポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、ツール用ポリヌクレオチドが、宿主細胞の染色体に組み込まれた細胞であることもできるし、あるいは、ツール用ポリヌクレオチドを含む発現ベクターの形で含有する細胞であることもできる。形質転換に用いる細胞としてはビグアナイドに応答する細胞が好ましく、より具体的にはHeLaS3細胞、肝臓由来細胞、あるいは骨格筋由来細胞が好ましい。ツール用細胞としては、ツール用ポリヌクレオチドに該当する限り、後述のマーカー配列を含んだポリヌクレオチドを含んでいても良い。本明細書の細胞型スクリーニングツールとしてはツール用発現ベクターで形質転換された細胞が好ましい。上記で得られる所望の形質転換細胞は、常法に従い培養することができ、該培養によりツール用ポリペプチドが生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、例えば、上記HeLaS3細胞であれば、牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ修飾イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地を使用できる。上記により、生産されるツール用ポリペプチドは、必要に応じて該ポリペプチドの物理的性質や生化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法により、分離又は精製することが出来る。また、ツール用ポリペプチドにマーカー配列(タグ蛋白質)が含まれる場合は、タグ蛋白質を利用して、該ポリペプチドの発現の確認、精製等が可能である。マーカー配列としては、例えば、FLAGエピトープ、ヘキサヒスチジンタグ(Hexa−Histidine tag)、ヘマグルチンタグ(Hemagglutinin tag)、mycエピトープ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、プロテインA、β−ガラクトシダーゼ、マルトース−バインディングプロテイン(MBP)などがある。また、マーカー配列とツール用ポリペプチドの間にエンテロキナーゼ、ファクターXa、トロンビンなどのプロテアーゼが認識する特異的なアミノ酸配列を挿入した融合ポリペプチドを発現させ、タグ蛋白質を利用して精製した後、マーカー配列部分をこれらのプロテアーゼにより切断除去し、ツール用ポリペプチドを得る事も可能である。より具体的には、ツール用ポリペプチドは、例えば目的の蛋白質にGSTタグ又はHisタグが付加されるベクター、より具体的には例えば市販のpGEX−6P1(アマシャム社)又はpET−28a(ノバジェン社)等を用いて、前者はGST融合型蛋白質、後者の場合はHis融合型蛋白質として発現させることができる。該融合型蛋白質は、それらを発現させたバクテリア細胞由来の蛋白質抽出液中から、GSTあるいはHisタグの性質を利用して、上述の<分子シャペロン蛋白質の製造方法>に記載したのと同様に、精製することができる。本明細書において、「ビグアナイドと結合するポリペプチド」とは、ビグアナイドに分類される低分子化合物(メトフォルミン、フェンフォルミン、ブフォルミン等)と結合するポリペプチドを意味しており、ポリペプチドがビグアナイドと「結合する」か否かは以下の方法により確認することができる。結合するか否かの検討対象ポリペプチドを単離精製する。ポリペプチドの発現及び単離精製は上記の方法を利用することができる。続いて、実施例5(4)の方法により、フェンフォルミンと結合するか否かを確認する。該実施例の条件で、添加するフェンフォルミンの濃度が好ましくは10μM以下、より好ましくは1.0μM以下、更に好ましくは0.1μM以下で結合が確認できるポリペプチドを、ビグアナイドと結合するポリペプチドであると判断する。また、「過剰発現によりビグアナイドによるAMPK活性化を阻害する」とは、あるポリペプチドが細胞中で通常よりも過剰に存在する条件下において、ビグアナイドで刺激された場合の細胞中のAMPKの活性化、すなわちリン酸化の程度が通常の状態の細胞と比較して減少することを意味する。「AMPK活性化を阻害する」か否かは実施例5(7)の方法により確認することができる。実施例5(7)の条件で、コントロール(検討対象のポリペプチドを過剰発現していない細胞)に比較して検討対象のポリペプチドを過剰発現した細胞におけるフェンフォルミン刺激によるAMPKのリン酸化の増大が50%、好ましくは70%、更に好ましくは90%減少した場合、検討対象ポリペプチドは過剰発現によりビグアナイドによるAMPK活性化を阻害するポリペプチドであると判断する。<本発明のスクリーニング方法>本発明者らは、ツール用ポリペプチドの一つであるヒトATP5B(配列番号2)をHeLaS3細胞に過剰発現させると、フェンフォルミンあるいはメトフォルミン等ビグアナイドの処理による該細胞内のAMPK活性化が妨げられることを見出した(実施例5(7))。これは、細胞内でATP5B蛋白質の存在量が変化することでビグアナイドの薬効に寄与するAMPKの活性化能が変化することを意味しており、ビグアナイドの細胞内シグナルにおいてATP5Bが明らかにAMPKの上流に位置することを示している。さらに、本発明者らは、ビグアナイドの一種であるフェンフォルミンと生化学的に結合することを見出した(実施例5(4))。これらの知見により、ATP5Bは、ビグアナイドに結合し、かつ該化合物の薬効(主作用)に寄与する真の標的蛋白質であると結論することができる。該知見に従って、本発明者らは、ツール用ポリペプチドと結合し、AMPKを活性化させる低分子化合物をスクリーニングすることにより、ビグアナイドの有する糖尿病治療効果と同様の薬効を示しうる化合物を新規に取得できることを明らかにし、糖尿病治療薬のスクリーニング方法を完成させた。 本発明のスクリーニング方法には、以下の方法が含まれる。<I>結合分析スクリーニング方法[1]ツール用ポリペプチド又はツール用細胞と、試験物質とを接触させる工程、並びに[2]該ポリペプチドと試験物質との結合を分析する工程、を含む、糖尿病治療薬をスクリーニングする方法。<II>競合阻害スクリーニング方法[1]の工程が、ビグアナイド共存下で接触させる工程である<I>に記載のスクリーニング方法。 本明細書における「スクリーニング」とは、多数の試験物質の中から目的の活性を有する物質を篩い分けること、及び、ある試験物質について、その物質が目的の性質を有する物質であるか否かを検出することの両方を含む。<ツール用ポリペプチドを用いる結合分析スクリーニング方法>ツール用ポリペプチドと試験物質とを接触させる工程を含む、本発明のスクリーニング方法には、精製したツール用ポリペプチドと試験物質を混合して接触させ(接触させる工程)、該試験物質とポリペプチドが結合して形成された複合体を単離した後に変性させて分離した化合物を質量分析法により同定することにより、該ポリペプチドに直接結合し作用する物質(即ち糖尿病治療薬)を分析し(結合を分析する工程)、ツール用ポリペプチドと結合する物質(即ち糖尿病治療薬)を選択する方法が含まれる。このような方法は、アフィニティセレクション−質量分析法(AS−MS法;ファルマシア(日本薬学会)Vol.41 No.6 p564 2005、J. Protein Chem. 1997, 16, 5, 505−511、J. Comb. Chem. 1999, 1, 82−90、Anal. Biochem. 324 (2004) 241−249、J. Biomol. Screening 9(6);2004 498−505参照)により実施できる。本発明のスクリーニング方法において、これらの工程は、具体的には、例えば、以下のように実施できる。ツール用ポリペプチドを細胞に発現させる。該細胞からGST、FlagやHisなどのタグとの親和性を利用したアフィニティ精製法、あるいはツール用ポリペプチドに応答する抗体(例えば抗ATP5B抗体、タグ抗体)を利用した免疫沈降法等により、発現させた該ポリペプチドを単離精製する。続いて精製した該ポリぺプチドと試験物質とを混合し接触させた後、該ポリペプチドと結合しない物質を、低分子化合物を吸着する樹脂等で除去する。残った蛋白質と試験物質の複合体を単離した後、該複合体を酸、熱その他の刺激により変性させて複合体中の低分子物質を分離させ、残った蛋白質のみを除去する。マススペクトロメトリーを用いた質量分析法による解析を行って同試料中に含まれる物質を同定することにより、ツール用ポリペプチドと結合する物質を選択する。上記記載の方法で、ツール用ポリペプチドの濃度が1μM又は10μMであるとき、添加する試験物質の濃度が1μMの条件下で、試験物質を吸着除去する過程を経ないコントロールと比較して回収される該試験物質の総量が好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは50%以上の物質をツール用ポリペプチドと結合する物質として選択する。また、本発明の方法には、試験物質群に特定の標識を施し、公知のELISA法、ファーウエスタン法、バインディングアッセイ法等の方法を利用してツール用ポリペプチドに結合する試験物質を選択する方法も含まれる。この様な具体例としては、実施例5(4)の方法を挙げることができる。これらの方法においては、好ましくは10μM以下、より好ましくは1μM以下、更に好ましくは0.1μM以下の濃度でツール用ポリペプチドとの結合を検出可能な試験物質をツール用ポリペプチドと結合する物質として選択する。<ツール用ポリペプチドを用いる競合阻害スクリーニング方法>ビグアナイド共存下でツール用ポリペプチドと試験物質とを接触させる工程を含む、本発明のスクリーニング方法は、標識又は修飾したビグアナイドとツール用ポリペプチドを用いたELISA法、ファーウエスタン法、あるいはバインディングアッセイ等によって該ポリペプチドとビグアナイドとの結合を検出する工程において、試験物質を同時に存在させた場合に生じる、該結合の変化を測定することによって達成できる。具体的には、以下に例示する各種の実験手法を利用する。ツール用ポリペプチドを細胞に発現させる。該細胞からタグとの親和性を利用したアフィニティ精製法、あるいはツール用ポリペプチドに応答する抗体(例えば抗ATP5B抗体、タグ抗体)を利用した免疫沈降法等により、発現させたツール用ポリペプチドを単離・精製する。続いて精製したポリぺプチド、試験物質及びビグアナイドとを混合し、形成された複合体を単離する。次に該複合体を酸、熱その他の刺激により変性させて試験物質及びビグアナイドを再度分離させて蛋白質のみを除去した後、マススペクトロメトリーを用いた質量分析法による解析を行って同試料中に該当するビグアナイド化合物が含まれるかどうかを調べることによって、ツール用ポリペプチドとビグアナイドの結合が試験物質によって阻害されるか否かを調べる。また別の手法として、ビグアナイドを修飾し、それらの分子構造の一部を標識することにより作製した標識ビグアナイドをプローブとして、公知のELISA法、ファーウエスタン法、又はバインディングアッセイ法等の方法によりツール用ポリペプチドとビグアナイドとの結合を確認することができる。具体的には、例えば、ビグアナイドの分子内の元素をラジオアイソトープに置換することにより標識した化合物を作製する。該標識ビグアナイドをプローブとして利用することにより、精製したツール用ポリペプチドを固定したELISA法により、該ポリペプチドとビグアナイドとの結合を確認する。あるいは、ツール用ポリペプチドを公知のSDSアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、ニトロセルロース膜上に転写した後、上述標識ビグアナイドをプローブとして利用したファーウエスタン法により、やはり該ポリペプチドとビグアナイドの結合を確認する。また、あるいは標識ビグアナイドと精製したツール用ポリペプチドを混合し、フィルター上にトラップして洗浄した後に、標識プローブ由来の放射線量を測定することにより、形成された化合物とペプチドの複合体の総量を検出する、いわゆるバインディングアッセイによってツール用ポリペプチドとビグアナイドとの結合を確認する。ビグアナイドの標識は、ラジオアイソトープに限らず、その薬理活性に影響を及ぼさない範囲であれば、分子構造の一部を修飾することによって達成することが可能である。例えばフェンフォルミン、メトフォルミン、あるいはブフォルミンの分子構造の一部分を修飾してビオチン化することにより標識することができる。この場合もビオチンとアビジンの結合を利用し、標識したアビジン抗体等の利用によって、上述と同様ELISAやファーウエスタン法によりツール用ポリペプチドとビグアナイドとの結合を確認する。好ましくは、実施例5(4)の方法により、ツール用ポリペプチドとビグアナイドとの結合を確認する。上述のツール用ポリペプチドとビグアナイドとの結合を確認する工程において、ビグアナイドと同時に試験物質を存在させることにより、該ポリペプチドとビグアナイドの結合が阻害されるか否かを調べる。ビグアナイドの濃度が10μMであるとき、IC50が好ましくは10μM以下の物質を、より好ましくは1μM以下の物質を、更に好ましくは0.1μM以下の試験物質を糖尿病治療薬として選択する。特定の試験物質の存在により、ツール用ポリペプチドとビグアナイドの結合が妨げられる場合、同現象はツール用ポリペプチドの分子内にあるビグアナイド結合部位に該試験物質が結合したことにより、ビグアナイドと該ポリペプチドとの結合が競合的に阻害された結果であると判断できる。明らかに試験物質による競合的な結合阻害であることの確認は、同時に存在させるビグアナイドと試験物質の濃度の比率を段階的に変化させることによって、該ポリペプチドに結合するビグアナイドが段階的に妨げられることを調べることによって確認することができる。同手法により、ビグアナイドに競合して、ツール用ポリペプチドと結合する物質(即ち、糖尿病治療薬)を選択できる。より具体的には、例えば後述の実施例6に示す方法により、ツール用ポリペプチドと結合する物質を選択できる。<ツール用細胞を用いる結合分析スクリーニング方法>ツール用細胞と試験物質とを接触させる工程を含む、本発明のスクリーニング方法は、ツール用細胞と試験物質を混合して接触させ(接触させる工程)、該試験物質とポリペプチドが結合して形成された複合体を単離した後に変性させて分離した化合物を質量分析法により同定することにより、該ポリペプチドに直接結合し作用する物質(即ち糖尿病治療薬)を分析し(結合を分析する工程)、ツール用ポリペプチドと結合する物質(即ち糖尿病治療薬)を選択する方法が含まれる。結合を分析する方法は、前述のAS−MS法等を利用することができる。具体的には、例えば以下のように実施できる。まず、ツール用ポリヌクレオチドを含むベクターで細胞を形質転換することにより、ツール用ポリペプチドを発現させたツール用細胞と試験物質とを接触させる。前記細胞からGSTやFlag、Hisなどのタグとの親和性を利用したアフィニティ精製法、あるいはツール用ポリペプチドに応答する抗体(例えば抗ATP5B抗体、タグ抗体)を利用した免疫沈降法等により、ツール用ポリペプチドとそこに結合する試験物質の複合体を濃縮する。この濃縮過程では反応液中に上記で細胞を処理した同じ試験物質を含有させておくことが望ましい。該ポリペプチドと結合しない物質を、低分子化合物を吸着する樹脂等で除去した後、次に得られたツール用ポリペプチドおよびそこに結合する試験物質の複合体を酸、熱その他の刺激により変性させて複合体中の低分子物質を分離させ、残った蛋白質のみを除去する。マススペクトロメトリーを用いた質量分析法による解析を行って同試料中に含まれる物質を同定することにより、ツール用ポリペプチドと結合する物質を試験物質中から選択する。具体的には、添加する試験物質の濃度が1μMの条件下で、試験物質を吸着除去する過程を経ないコントロールと比較して回収される該試験物質の総量が好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは50%以上の物質をツール用ポリペプチドと結合する物質として選択する。<ツール用細胞を用いる競合阻害スクリーニング方法>ビグアナイドの共存下でツール用細胞と試験物質とを接触させることにより、ツール用ポリペプチドとビグアナイドの結合が該試験物質により競合的に阻害され、試験物質とツール用ポリペプチドが結合するか否かを調べることができる。具体的には、例えば、ビグアナイドの共存下で、上述の<ツール用細胞を用いる結合分析スクリーニング方法>と同様の工程により細胞から本発明のポリペプチドとそこに結合するビグアナイドの複合体を濃縮する。続いて、ツール用ポリペプチドと試験物質との結合を分析する。結合の分析は、上述の<ツール用ポリペプチドを用いる競合阻害スクリーニング方法>に記載したのと同様の方法で実施できる。例えば標識ラベル等の修飾されたビグアナイドを用いた場合には、公知のバインディングアッセイ法等の方法によりツール用ポリペプチドとビグアナイドの結合を定量することにより実施できる。試験物質の存在によりツール用ポリペプチドとビグアナイドの結合が妨げられた場合、試験物質によりビグアナイドとツール用ポリペプチドとの結合が競合的に阻害され、ツール用ポリペプチドと試験物質が結合したと判断できる。 本発明のスクリーニング方法では、ツール用ポリペプチドと試験物質との結合を分析し、ツール用ポリペプチドと結合する物質を選択した後、選択された試験物質が、AMPKを活性化することを確認する工程、及び/又は糖尿病治療活性を有することを確認する工程を更に含むことが好ましい。選択された物質がAMPKを活性化することを確認する工程は、例えば、以下のように実施できる。ツール用ポリペプチドを発現している細胞(例えばHeLaS3細胞)に試験物質又は溶媒コントロールを添加し、培養する。培養した細胞を溶解して調製した細胞溶解液を用いて、公知のSDS電気泳動法及び抗リン酸化AMPK抗体(例えばPhospho−AMPK−α(Thr172)Antibody、第一化学薬品)を用いたウエスタンブロット法により細胞内のAMPKのリン酸化レベル(即ち活性化レベル)を検出する。好ましくは、実施例5(7)の方法により、選択された物質がAMPKを活性化することを確認することができる。コントロールに比較し、AMPKリン酸化を亢進させる物質をAMPKを活性化する物質として選択する。AMPKリン酸化を亢進させる物質としては、コントロールに比較して50%、好ましくは70%、更に好ましくは90%以上AMPKリン酸化を亢進させるものを選択する。選択された物質が糖尿病治療活性を有することを確認する工程としては、公知の評価方法、例えば、以下のような選択された物質の糖尿病治療効果を分析する方法を実施する工程が挙げられる。 本発明のスクリーニング法により選択された化合物を糖尿病モデル動物に連続投与し、常法に従って随時血糖低下作用を確認することにより、あるいは、経口糖負荷試験後の血糖上昇抑制作用の確認を行なうことにより、糖尿病治療効果の有無を判定する。又は、ヒトのインスリン抵抗性を測定し、その値の改善を指標に2型糖尿病治療効果を分析する。インスリン抵抗性はヒトでは主に2つの方法で測定されている。一つは絶食後に血糖値とインスリン濃度を測定するものであり、他方はブドウ糖負荷試験といわれるもので、グルコース液を経口投与し、血液循環からのクリアランス率を知る方法である。さらに、より正確な試験としてはオイグリセミック・高インスリン血症クランプ法が挙げられる。この試験は、血中のインスリンとグルコースは一定濃度に維持されるという原理を利用したもので、時間の経過に伴って投与されたグルコース液の総量と代謝に利用されるインスリン濃度を測定するものである(「糖尿病」中川理 1999年 42巻(2):頁111−113)。好ましくは実施例7に記載の方法により、選択された物質が糖尿病治療活性を有することを確認することができる。 本発明のスクリーニング法で使用する試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の化合物(ペプチドを含む)、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(N.Terrett et al., Drug Discov. Today, 4(1):41,1999)によって得られた化合物群、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物、あるいは、本発明のスクリーニング法により選択された化合物(ペプチドを含む)を化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を挙げることができる。<糖尿病治療用医薬組成物、糖尿病治療方法、糖尿病治療用医薬組成物を製造するための使用> 本発明には、本発明のスクリーニング方法によって得られた物質[例えば、DNA、蛋白質(抗体又は抗体断片を含む)、ペプチド、又はそれ以外の化合物]を有効成分とする糖尿病治療用医薬組成物が包含される。また、本発明には、本発明のスクリーニング方法によって得られた物質を糖尿病治療が必要な対象に有効量で投与することを含む、糖尿病治療方法が包含される。更に、本発明には、本発明のスクリーニング方法によって得られた物質の、糖尿病治療用医薬組成物を製造するための使用が包含される。 本発明の医薬組成物における有効成分は、本発明のスクリーニング方法により選択することができる。本発明のスクリーニング方法で選択された化合物としては、後述の実施例6(2)、7記載の2−[(E)−(1H−1,2,4−トリアゾール−3−イリミノ)メチル]フェノール及び6−クロロ−9H−プリン−2−アミンを挙げることができる。なお、糖尿病治療効果があることの確認は、当業者に公知の方法、あるいは、それを改良した方法を用いることにより実施することができる(上記「選択された物質が糖尿病治療活性を有することを確認する工程」参照)。 本発明のスクリーニング方法により得られた物質[例えば、DNA、蛋白質(抗体又は抗体断片を含む)、ペプチド、又はそれ以外の化合物]を有効成分とする製剤は、前記有効成分のタイプに応じて、それらの製剤化に通常用いられる薬理学上許容される担体、賦形剤、及び/又はその他の添加剤を用いて、医薬組成物として調製することができる。 投与としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、又は経口用液剤などによる経口投与、あるいは、静注、筋注、若しくは関節注などの注射剤、坐剤、経皮投与剤、又は経粘膜投与剤などによる非経口投与を挙げることができる。特に胃で消化されるペプチドにあっては、静注等の非経口投与が好ましい。 経口投与のための固体組成物においては、1又はそれ以上の活性物質と、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合することができる。前記組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、滑沢剤、崩壊剤、安定化剤、又は溶解若しくは溶解補助剤などを含有することができる。錠剤又は丸剤は、必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質などのフィルムで被覆することができる。 経口のための液体組成物は、例えば、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はエリキシル剤を含むことができ、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば、精製水又はエタノールを含むことができる。前記組成物は、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤を含有することができる。 非経口のための注射剤としては、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、懸濁剤、又は乳濁剤を含むことができる。水溶性の溶液剤又は懸濁剤には、希釈剤として、例えば、注射用蒸留水又は生理用食塩水などを含むことができる。非水溶性の溶液剤又は懸濁剤の希釈剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、アルコール類(例えば、エタノール)、又はポリソルベート80等を含むことができる。前記組成物は、更に湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解若しくは溶解補助剤、又は防腐剤などを含むことができる。前記組成物は、例えば、バクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、又は照射によって無菌化することができる。また、無菌の固体組成物を製造し、使用の際に、無菌水又はその他の無菌用注射用媒体に溶解し、使用することもできる。 投与量は、有効成分すなわち本発明のスクリーニング方法により得られた物質の活性の強さ、症状、投与対象の年齢、又は性別等を考慮して、適宜決定することができる。 例えば、経口投与の場合、その投与量は、通常、成人(体重60kgとして)において、1日につき約0.1〜100mg、好ましくは0.1〜50mgである。非経口投与の場合、注射剤の形では、1日につき0.01〜50mg、好ましくは0.01〜10mgである。以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明は該実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、公知の方法(「Molecular Cloning」 Sambrook, Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年、等)に従って実施可能である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って実施可能である。<実施例1>分子シャペロン蛋白質の構築(1)分子シャペロン遺伝子のクローニング及びGST融合分子シャペロン蛋白質発現プラスミドの作製 配列番号3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,又は27のアミノ酸配列で表される25種類のシャペロン蛋白質(ヒトHSPA1A、ヒトHSPH1、ヒトHSPCA、ヒトHSPD1、ヒトDNAJA1、ヒトHSPB1、ヒトHSPE1、ヒトHSPA4、ヒトHSP90B1、ヒトCCT6B、ヒトTCP1、ヒトHSPA14、ヒトHSPA9B、ヒトSTCH、ヒトHYOU1、ヒトHSPB5、ヒトHSPB2、ヒトDNAJA2、ヒトDNAJB1、ヒトDNAJB2、ヒトHCG3、ヒトDNAJB11、ヒトDNAJC11、ヒトDNAJC7、ヒトDNAJC6)の全長領域をコードするcDNA配列を配列番号28−77(偶数番号5’側、奇数番号3’側)で示されるオリゴヌクレオチドをプライマーとし(例えばヒトHSPA1Aに対するプライマーセットは、配列番号28及び配列番号29。以下同様)、HSPH1、HSPE1、HSP90B1、HSPA9B及びDNAJC11はヒト肝臓由来cDNAライブラリー(クロンテック社)、HSPCA、HSPA1A及びHSPD1はヒト脳由来cDNAライブラリー(クロンテック社)、DNAJA1及びHSPA4はHeLa細胞由来cDNAライブラリー(クロンテック社)、HSPB1はヒト乳腺由来cDNAライブラリー(クロンテック社)、TCP1、HSPA14、HYOU1及びHSPB2はヒト骨格筋由来cDNAライブラリー(クロンテック社)、CCT6B、STCH、HSPB5、DNAJA2、DNAJB1、DNAJB2、HCG3、DNAJB11、ヒトDNAJC7及びヒトDNAJC6は市販のcDNA(UltimateTM ORF Clones、インビトロジェン社)をそれぞれ鋳型として、DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA Polymerase、宝酒造社)を用いて、95℃3分間の熱変性反応の後、98℃10秒間、60℃30秒間、74℃1分30秒からなるサイクルを35回、さらに74℃7分間の条件のPCRを行って取得した。これにより生成した約2.58kbp(HSPH1)、2.2kbp(HSPCA)、1.93kbp(HSPA1A)、1.72kbp(HSPD1)、1.19kbp(DNAJA1)、0.62kbp(HSPB1)、0.3kbp(HSPE1)、2.52kbp(HSPA4)、2.41kbp(HSP90B1)、2.04kbp(HSPA9B)、1.68kbp(DNAJC11)、1.67kbp(TCP1)、1.05kbp(HSPA14)、3.0kbp(HYOU1)、0.53kbp(HSPB2)、1.59kbp(CCT6B)、1.42kbp(STCH)、0.53kbp(HSPB5)、1.24kbp(DNAJA2)、1.02kbp(DNAJB1)、0.98kbp(DNAJB2)、0.44kbp(HCG3)、1.077kbp(DNAJB11)、1.46kbp(ヒトDNAJC7)、及び2.74kbp(DNAJC6)のDNA断片を取得した。これらcDNAは、いずれも両末端に、プライマーに含まれた配列により以下の制限酵素サイトが付加される様設計した。HSPH1のcDNAの場合には、BglIIサイトとXhoIサイトが、HSPA4のcDNAの場合にはEcoRVサイトとNotIサイトが、STCH、HSPB5、DNAJC6及びDNAJC11のcDNAの場合にはEcoRIサイトとXhoIサイトが、TCP1のcDNAの場合にはBglIIサイトとNotIサイトが、DNAJA2のcDNAの場合はBamH1サイトとNotIサイトが付加される。それ以外のcDNAの場合には、BamHIサイトとXhoIサイトが付加される様設計した。これらのcDNAをGST融合発現ベクターpGEX−6P−1(アマシャムバイオサイエンス社)に挿入するため、上述のPCR反応で得られた各cDNA断片を、それぞれに付加した制限酵素サイトで、それぞれ切断した。1)BamHI(又はBglII)及びXhoIで切断したcDNAに対しては、ベクターを制限酵素BamHI及びXhoIで、2)制限酵素EcoRV及びNotIで切断したcDNAに対しては、ベクターを制限酵素SmaI及びNotIで、3)制限酵素EcoRI及びXhoIで切断したcDNA断片に対しては、ベクターを制限酵素EcoRI及びXhoIで、4)制限酵素BglII又はBamHI及びNotIで切断したcDNA断片に対しては、ベクターを制限酵素BamHI及びNotIでそれぞれ切断し、直鎖状にして用いた。制限酵素処理した各シャペロンのcDNA断片とベクターを混合したものをDNA ligase液(DNA ligation kit II;宝酒造社)と混合して16℃で3時間処理し、pGEX−6P−1のマルチクローニングサイトに各シャペロンcDNAが挿入されたプラスミドを作製した。配列番号86に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとして、シーケンシングキット(アプライドバイオシステム社)及びシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencer アプライドバイオシステムズ社)を用いて塩基配列の決定を行い、報告されている各塩基配列(RefSeq accession番号NM_005345、NM_006644、NM_005348、NM_199440、NM_001539、NM_001540、NM_002157、NM_002154、NM_003299、NM_006584、NM_030752、NM_016299、NM_005347、NM_006948、NM_006389、NM_001885、NM_001541、NM_005880、NM_006145、NM_006736、NM_001001394、NM_016306、NM_018198、NM_003315、NM_014787)であり、各分子シャペロンのcDNAのコード領域とpGEXベクターのGSTタグの翻訳フレームが一致して挿入されているものをそれぞれ選択した。 (2)GST融合分子シャペロン蛋白質の精製上述の(1)で得られた、25種類の分子シャペロンをクローニングしたGST融合発現プラスミド群を、ヒートショック(heat shock)法による形質転換でそれぞれ大腸菌BL21(タカラバイオ株式会社)に導入した。2.4mLの培養液で一晩振盪培養した後、その全量を400mL培養液に移し変え、37℃で3時間振盪培養した後、最終濃度が2.5mMとなるようにIPTG(シグマ社)を添加し、更に3時間振盪培養してそれぞれのGST融合シャペロン蛋白質(以下、各々GST−HSPA1A(約96kDa)、GST−HSPH1(約123kDa)、GST−HSPCA(約111kDa)、GST−HSPD1(約87kDa)、GST−DNAJA1(約71kDa)、GST−HSPB1(約59kDa)、GST−HSPE1(約37kDa)、GST−HSPA4(約120kDa)、GST−HSP90B1(約118kDa)、GST−HSPA9B(約100kDa)、GST−DNAJC11(約89kDa)、GST−TCP1(約86kDa)、GST−HSPA14(約81kDa)、GST−HYOU1(約137kDa)、GST−HSPB2(約46kDa)、GST−CCT6B(約84kDa)、GST−STCH(約78kDa)、GST−HSPB5(約46kDa)、GST−DNAJA2(約72kDa)、GST−DNAJB1(約64kDa)、GST−DNAJB2(約62kDa)、GST−HCG3(約43kDa)、GST−DNAJB11(約67kDa)、GST−DNAJC7(約81kDa)、GST−DNAJC6(約125kDa)と略記する)(カッコ内は各々の期待される分子量)の発現を誘導した。菌体を回収し、公知のGST−プルダウン法に従ってGST融合分子シャペロン蛋白質をグルタチオンセファロースビーズ上に精製した。コントロールとしてpGEX−6P−1で形質転換した大腸菌BL21からGSTタグ部分のみの蛋白質(以下GST蛋白質と略記する;期待される分子量約26kDa)を上述と同様に発現誘導して精製した。公知の方法に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分離及びクーマジーブリリアントブルー染色を行い、各々期待される分子量の蛋白質が精製されていることを確認した。<実施例2>17−βエストラジオールの標的蛋白質であるエストロゲン受容体の検出(1)エストロゲン受容体遺伝子のクローニング及びV5タグ融合エストロゲン受容体発現プラスミドの作製公知のデータベースに示されたヒトのステロイドホルモン受容体の一種であるエストロゲン受容体α(以下、ERα)の全長域をコードする遺伝子cDNAを、RefSeqアクセッション番号NM_000125に示される配列に従って設計した2種類のDNAプライマー(配列番号78及び配列番号79)を用いてクローニングした。具体的には、配列番号78及び配列番号79のプライマーセットを用いて、HeLa細胞由来cDNAライブラリー(クロンテック社)を鋳型としてPCR反応を行い、ERαの全長域をコードする約1.78kbpのDNA断片を増幅した。PCR反応はDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA Polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)、55℃(30秒)、72℃(5分)のサイクルを35回繰り返した。得られた同DNA断片を発現ベクター(pcDNA3.1/V5−His−TOPO;インビトロジェン社)にTOPO TA Cloning システム(インビトロジェン社)を用いてサブクローニングした。このとき用いた配列番号79に示すプライマーは、ストップコドン配列を除き、クローニング後3’側にベクター由来のV5エピトープ(paramyxovirus SV5のV protein由来、Southern J A, J.Gen.Virol.72, 1551−1557,1991)及びHis6タグ(Lindner P BioTechniques22, 140−149,1997)がERα遺伝子のトリプレットと同じフレームで続くように設計した。得られたプラスミド中の挿入DNA断片の塩基配列を、ベクター上のT7プロモーター領域に結合するプライマー(TOPO TA Cloning kit;インビトロジェン社;配列番号89)とシーケンシングキット(アプライドバイオシステム社)及びシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencer;アプライドバイオシステムズ社)を用いて決定した。その結果、RefSeqアクセッション番号NM_000125に示されるヒトERαをコードするcDNAが前述の発現ベクターpcDNA3.1/V5−His−TOPOに挿入されていることを確認した。以下この発現プラスミドをpcDNA−ERと略記する。(2)ヒトエストロゲン受容体発現細胞の作製、及び本発明の同定方法による17−βエストラジオール標的蛋白質の検出10cmシャーレ上で70%コンフルエント状態に培養したCOS−7細胞(ATCC)に、リポフェクトアミン2000試薬(インビトロジェン社)を用いて、上記pcDNA−ERを一過性に導入した。30時間培養した後、培地を除去し、氷冷したPBSで細胞を洗浄した後に、1.0mlのバッファーA(50mMトリス塩酸(pH7.5)、10%グリセロール、120mM NaCl、1mM EDTA、0.1mM EGTA、0.5mM PMSF、0.5% NP−40)を加えて溶解した。この細胞抽出液を1500rpmで5分遠心して沈殿物を除き、上澄みの可溶画分(以下、ER受容体発現細胞抽出液)を集めた。この細胞抽出液の可溶画分中には、17−βエストラジオール(以下、E2と略記する)の薬効を示す標的蛋白質であることが知られている(Green S. & Chambon P. Trends Genet. 1988 Nov;4(11):p309−314.)ERαが含まれている。また、コントロールとして何も導入しないCOS−7細胞の細胞抽出液可溶画分(以下、コントロールCOS−7細胞抽出液)を同様に調製した。E2の存在下で、標的蛋白質であるERを、シャペロン蛋白質であるHSPA4蛋白質を用いた本発明の同定方法で実際に検出できるかどうか調べた。公知のGST−プルダウン法に従って、まずグルタチオンセファロースビーズ上に精製したGST−HSPA4蛋白質又はGST蛋白質(上述実施例1(2)で作製)1μgと、上記のER受容体発現細胞抽出液又はコントロールCOS−7細胞抽出液とをそれぞれ混合し、10μMのE2の添加又は未添加状態でそれぞれ4℃で1時間振盪した。その後遠心分離によりビーズ上のGST−HSPA4又はGST蛋白質に結合する蛋白質を共沈殿させた。これを上述のバッファーA’(バッファーAのNaCl濃度を100mMに置換した緩衝液)0.5mlでけん濁し、再度遠心分離により共沈殿させた。この操作を4回繰り返した後、沈殿物中の蛋白質を公知の方法に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、抗ERα抗体(MC−20;サンタクルーズ社)を用いたウエスタンブロット法により、E2の標的蛋白質であるERαの量を比較した。その結果(図1)、ER受容体発現細胞抽出液を用いた場合には、コントロールCOS−7細胞抽出液を用いた場合には検出されない約70kDaのERαのバンドがE2の未添加条件で検出された(レーン5)。一方、E2を添加した条件下ではERαのバンドは微かにしか検出されなかった(レーン6)。これらの結果から、実際に分子シャペロン蛋白質を用いて、分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を、試験薬剤の添加又は未添加時で比較することにより、化合物を修飾する必要なしに、該試験薬剤の標的蛋白質の検出が可能であることが証明された。(3)本発明の同定方法による17−βエストラジオールの標的蛋白質の検出上述の実施例2(2)で、分子シャペロン蛋白質を用いて、分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を、試験薬剤の添加又は未添加時で比較することにより、該試験薬剤の標的蛋白質の検出が可能であることが証明された。以下の実施例では、上述の実施例2(2)で用いた以外の分子シャペロンを用いても、本発明の同定方法が有用であることを確認した。すなわち、本実施例(3)では、実施例1(2)の25種類のシャペロン蛋白質を用いて、上述の実施例2(2)と同様に、標的蛋白質であるERを、本発明の同定方法で実際に検出できるかどうかを調べた。シャペロン蛋白質として、HSPA4蛋白質を用いる代わりに、上述の25種類のGST融合蛋白質(実施例1(2))を、分子量に従って3群8又は9種類ずつに分けて各0.2μgずつ混合したもの、あるいはGST蛋白質1.4μgを用いること、及びERに付加したV5エピトープを認識する抗V5抗体(インビトロジェン社)を用いてウエスタンブロット法を行い、得られたバンドのシグナルの強度を、VersaDoc Imageing System(バイオラッド社)を用いて、単位面積あたりの密度の測定値として数値化すること以外は、実施例2(2)と同様に実験を行った。混合した各8又は9種類のGST融合シャペロン蛋白質の内訳は、比較的高分子量のシャペロン群である、GST−HSPH1、GST−HSPA4、GST−HSPCA、GST−HYOU1、GST−DNAJC6、GST−HSP90B1、GST−HSPA9B、及びGST−DNAJC11を混合した群、中程度の分子量のシャペロン群である、GST−HSPA1A、GST−HSPD1、GST−DNAJA1、GST−TCP1、GST−CCT6B、GST−HSPA14、GST−DNAJC7、及びGST−STCHを混合した群、比較的低分子量のシャペロン群である、GST−HSPB1、GST−HSPE1、GST−DNAJA2、GST−DNAJB11、GST−DNAJB1、GST−DNAJB2、GST−HSPB2、GST−HSPB5、及びGST−HCG3を混合した群の各3群である。その結果(表1)、いずれのシャペロン蛋白質混合群を用いた場合でも、ER受容体発現細胞抽出液からは、コントロールCOS−7細胞抽出液を用いた場合には検出されない約70kDaのERαのバンドがE2の未添加条件で検出され、E2を添加した条件下ではERαのバンドは微かにしか検出されなかった。表中のER(L)、ER(M)およびER(H)は、それぞれ上述の比較的低分子量のシャペロン群、中程度の分子量のシャペロン群および比較的高分子量のシャペロン群を用いた結果を示している。これらの結果により、多種類の分子シャペロン蛋白質を同時に用いた場合でも、試験薬剤の添加又は未添加時で比較することにより、該試験薬剤の標的蛋白質の検出が可能であることが確認された。以下、実施例3、実施例4及び実施例8において、種々の分子シャペロンを用いて、本発明の同定方法で種々の各薬剤の標的蛋白質が同定できたことを示す。各実施例で詳細に述べていない点については、上述の実施例2に従って実験を行った。なお、ウエスタンブロット法により得られたバンドのシグナルの強度は、VersaDoc Imageing System(バイオラッド社)を用いて、単位面積あたりの密度の測定値として数値化した。<実施例3>種々の分子シャペロンを用いた本発明の同定方法FKBP12はFK506及びFK1706の標的蛋白質の一つであることが知られている(J Biol Chem. 1993 Nov 5;268(31):22992−22999、Eur J Pharmacol. 2005 Feb 10;509(1):11−19)。ヒトのステロイドホルモン受容体の一種であるグルココルチコイド受容体(以下、GR)は、デキサメタゾンの薬効を示す標的蛋白質であることが知られている(J Clin Invest. 1995 Jun;95(6):2435−2441)。ヒトの水素葉酸還元酵素(dihydrofolate reductase:以下DHFRと略記する)はメトトレキサート(以下MTX)の薬効を示す標的蛋白質であることが知られている(J Med Chem. 2000 Oct 19;43(21):3852−3861)。ヒト前立腺由来細胞であるLNCaP細胞(ATCC)の可溶画分中には、5a−ジヒドロテストステロン(以下DHT)の標的蛋白質であることが知られている(J Steroid Biochem Mol Biol. 1993 Dec;46(6):699−711)アンドロゲン受容体(以下AR)が含まれている。ヒト血管由来細胞であるHUVEC(ATCC)の可溶画分中には、アルドステロンの標的蛋白質であることが知られている(Science. 1987 Jul 17;237(4812):268−275)ミネラルコルチコイド受容体(以下MR)が含まれている。以下の各細胞抽出液可溶画分を調製し、該細胞抽出液可溶画分中に存在する上記各薬剤の標的蛋白質が、各シャペロン蛋白質群を用いた本発明の同定方法で検出できるかどうか調べた。なお、薬剤の内、FK506(特公平03−038276号)及びFK1706(欧州特許第346427号)は合成し、その他の薬剤はシグマ社から購入して用いた。FKBP12、GR、及びDHFRのバンドはいずれも上述実施例2(3)同様、各標的蛋白質に付加したV5タグを認識する抗体を用いたウエスタンブロットで、AR、MRのバンドは市販の抗体(N-20及びC-19、サンタクルーズ社)を用いたウエスタンブロットでそれぞれ検出した。(a)ヒトのFKBP12の全長域をコードする遺伝子cDNA(RefSeqアクセッション番号NM_054014)を過剰発現させたHeLaS3細胞(ATCC)の細胞抽出液可溶画分(以下、FKBP12発現細胞抽出液)/シャペロン蛋白質群;GST−HSPH1、GST−HSPA4、GST−HSPCA、GST−HYOU1、GST−DNAJC6、GST−HSP90B1、GST−HSPA9B、GST−HSPA1A及びGST−DNAJC11の各蛋白質を混合した群(b)GRの全長域をコードする遺伝子cDNA(RefSeqアクセッション番号NM_001024094)を過剰発現させたHeLaS3細胞の細胞抽出液可溶画分(以下、GR発現細胞抽出液)/シャペロン蛋白質群;GST−HSPA1A、GST−HSPH1、GST−HSPCA、GST−HSPA4の各蛋白質の混合群(c)DHFRの全長域をコードする遺伝子cDNA(RefSeqアクセッション番号NM_000791)を過剰発現させたHeLaS3細胞の細胞抽出液の可溶画分(以下、DHFR発現細胞抽出液)/シャペロン蛋白質群;GST−HSPD1、GST−DNAJA1、GST−HSPB1、GST−HSPE1の各蛋白質の混合群(d)LNCaP細胞可溶画分/シャペロン蛋白質群;GST−HSPA1A、GST−HSPH1、GST−HSPCA、GST−HSPA4の各蛋白質の混合群(e)HUVEC可溶画分/シャペロン蛋白質群;GST−HSPA1A、GST−HSPH1、GST−HSPCA、GST−HSPA4の各蛋白質の混合群(f)HeLa細胞の細胞抽出液可溶画分(以下、コントロールHeLa細胞抽出液;上記(a)〜(c)のコントロール)その結果(表1)、FKBP12発現細胞抽出液、GR発現細胞抽出液、及びDHFR発現細胞抽出液を用いた場合には、コントロールHeLa細胞抽出液を用いた場合には検出されないFKBP12、GR、及びDHFRのバンドが、各薬剤の非添加条件に比較して、添加条件でより明確に検出された。また、ARのバンドは、DHTの未添加条件下でより明らかに検出され、MRのバンドはアルドステロンを添加した条件下でより明確に検出された。これらの結果から、実施例2と同様、種々の分子シャペロン蛋白質を用いて、分子シャペロン蛋白質に結合する蛋白質を、試験薬剤の添加又は未添加時で比較することにより、該試験薬剤の標的蛋白質の検出が可能であることが確認された。<実施例4>分子シャペロンを用いたビグアナイドの標的蛋白質の同定上述実施例2(2)に示した方法を用いて、これまで糖尿病治療薬として有意な薬効をもちながらも、直接の標的蛋白質が不明であったビグアナイドの標的蛋白質の探索を試みた。まずラット骨格筋由来細胞であるL6細胞(ATCC社)を10%ウシ胎児血清(FCS)を含むα最小必須培地(αMEM、インビトロジェン社)に懸濁し、コラーゲンコートした15cm径のプレート(旭テクノグラス社)上でコンフルエント状態になるまで培養した。この細胞を氷冷したリン酸緩衝液(PBS)15mlで2回洗浄した後に、上述のバッファーA 2.0mlを加えて溶解し、スクレーパーを用いて細胞抽出液を収集した。この細胞抽出液を1500rpmで5分遠心して沈殿を除き、上澄みの可溶画分を集めた。この細胞抽出液の可溶画分中に、ビグアナイドの一種で臨床で血糖降下作用が認められている(UK Prospective Diabetes Study(UKPDS) Group:Lancet,352,854(1998年))フェンフォルミン(シグマ社)を終濃度50μMになるように添加した、あるいは未添加の状態で、上述実施例2(2)と同様にグルタチオンセファロースビーズ上に精製したGST−HSPA4蛋白質1μgを加えてプルダウン実験を行った。4℃で1時間振盪した後、遠心分離によりビーズ上のGST−HSPA4に結合する蛋白質を共沈殿させた。なお、ここでは分子シャペロン蛋白質をビーズ上から脱落させないために、あらかじめ分子シャペロン蛋白質とビーズを公知の方法により化学的に架橋させて用いた。具体的には、グルタチオンセファロースビーズ上に精製したGST−HSPA4蛋白質を0.2Mのホウ酸ナトリウム溶液で洗浄した後、20mM DMPでけん濁して4℃で45分処理した。これを0.2Mモノエタノールアミン溶液で洗浄して反応を停止したのち、20mMグルタチオン溶液を加えて洗浄し、架橋されていない分子シャペロン蛋白質を除いたものをプローブとして利用した。GST−HSPA4に結合する蛋白質を共沈殿させた後、終濃度50μMのフェンフォルミンを添加、あるいは未添加の上述のバッファーA’0.5mlでけん濁し、再度遠心分離により共沈殿させた。この操作を4回繰り返した後、沈殿物中の蛋白質を公知の方法に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、公知の銀染色法により蛋白質を検出した。その結果、未添加時に比較し、フェンフォルミンの添加時に分子シャペロン蛋白質との結合量が減少する約60kDaの大きさの蛋白質バンドの存在を検出した。該蛋白質はフェンフォルミンの添加により立体構造に変化をもたらされる、フェンフォルミンの標的蛋白質の一つであると考えられる。そこで、このバンドを切り出し、トリプシンを用いてタンパク質を断片化した後、生じたペプチド混合物をゲルより回収して公知の方法(Schevchenkoら、Analytical Chemistry、第68巻、第850−858頁、1996年)に従い、マススペクトル解析により蛋白質の同定を行った。その結果、該バンド中の蛋白質はATP5B(RefSeqアクセッション番号NP_599191)であることが明らかになった。<実施例5>ATP5Bとビグアナイドの結合、及びATP5Bのビグアナイド応答性の検証(1)ヒトATP5B遺伝子のクローニング及びヒトATP5B発現プラスミドの作製まずヒトATP5B遺伝子のクローニングを行った。配列番号80及び配列番号81で表される塩基配列のプライマーを合成し、該プライマーを用いて、ヒト骨格筋由来cDNAライブラリー(クロンテック社)中からPCR法によりヒトATP5Bの全長cDNAの増幅を試みた。PCR反応はDNAポリメラーゼ(TAKARA LA Taq;宝酒造社)を用い、94℃(3分)の後、94℃(30秒)、58℃(1.5分)、72℃(4分)のサイクルを35回繰り返し、そのPCR産物を鋳型にしてさらに同じ条件でPCRを行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離した結果、約1600塩基対のDNA断片が増幅されたことを確認した。そこで反応液中の同DNA断片を発現ベクター(pcDNA3.1/V5−His−TOPO;インビトロジェン社)にTOPO TA Cloning システム(インビトロジェン社)を用いてクローニングした。このとき用いた配列番号81に示すプライマーはクローニング後3’側にベクター由来のV5エピトープ(paramyxovirus SV5のV protein由来、Southern J A, J.Gen.Virol.72, 1551−1557,1991)及びHis6タグ(Lindner P BioTechniques22, 140−149,1997)がヒトATP5B遺伝子のトリプレットと同じフレームで続くように、ヒトATP5Bのストップコドン配列が除かれるよう設計した。得られたプラスミド中の挿入DNA断片の塩基配列を、ベクター上のT7プロモーター領域に結合するプライマー(TOPO TA Cloning kit/インビトロジェン社;配列番号89)とシーケンシングキット(アプライドバイオシステム社)及びシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencerアプライドバイオシステムズ社)を用いて決定した。その結果、配列番号1に示すヒトATP5Bの全長cDNA配列を含むクローンであることを確認した。以下この発現プラスミドをpcDNA−ATP5Bと略記する。本発明の同定方法により見出された、ビグアナイドの標的蛋白質と考えられるATP5Bがビグアナイドの薬理作用(主作用)をもたらす真の標的蛋白質であることを、以下の実験により検証した。なお、従来の化合物の標的蛋白質の探索手法はいずれも化合物と蛋白質の直接の結合のみを指標とするため、該化合物に結合する蛋白質は多数得られるが、実際に化合物の薬効に関わる蛋白質が見出される確率は概して低かった。本発明の方法は、従来法と異なり、化合物が結合した蛋白質の立体構造の変化を指標として化合物の標的を見出そうとするものであり、必然的に、見出される蛋白質は単なる化合物の結合蛋白質でなく、該化合物により機能を大きく変化させられる蛋白質分子であることが期待できる。(2)DHFR遺伝子のクローニング及びGST融合型DHFR発現プラスミドの作製前述実施例3で述べたDHFRはMTXと結合することが知られている蛋白質である。(Proc Natl Acad Sci U S A. 87巻8号 :2955−2959頁1990年)。後述する実施例においてATP5Bとビグアナイドの生化学的な結合を検出するためのツールとして利用するため、ヒトDHFR遺伝子の全長cDNA(RefSeqアクセッション番号NM_000791)を、ヒトリンパ球cDNAライブラリー(クロンテック社)を鋳型とし、配列番号84及び配列番号85で表される塩基配列のプライマーを用いて、実施例2(1)と同じ条件でクローニングした。得られた約560塩基対のDHFRのcDNA断片をpcDNA3.1/V5−His−TOPOにクローニングした後、DHFR cDNAの断片を上記プライマーの両端に付加した制限酵素サイトBamHI及びXhoIを利用してベクターから切り出した。同時にGST融合蛋白質発現ベクターであるpGEX−6P−1(アマシャム社)を制限酵素BamHI及びXhoIでそれぞれ切断し、直鎖状にした。両者を混合したものをDNA ligase液(DNA ligation kit II;宝酒造社)と混合して16℃で3時間処理し、pGEX−6P−1のマルチクローニングサイトにDHFR cDNAが挿入されたプラスミド(以下pGEX−DHFRと略称する)を作製した。配列番号86に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとして、前述実施例と同様に塩基配列の決定を行い、DHFRのcDNAのコード領域とpGEXベクターのGSTタグ翻訳フレームが一致して挿入されているものを選択した。(3)GST融合型DHFR蛋白質の発現及び精製上記実施例5(2)で作製したpGEX−DHFRをヒートショック(heat shock)法による形質転換で大腸菌BL21に導入した。2.4mLの培養液で一晩振盪培養した後、その全量を400mL培養液に移し変え、37℃で3時間振盪培養した後、最終濃度が2.5mMとなるようにIPTG(シグマ社)を添加し、更に3時間振盪培養してGST融合DHFR蛋白質(以下GST−DHFRと略記する)の発現を誘導した。菌体を回収し、公知のGST−プルダウン法に従ってGST−DHFRをグルタチオンセファロースビーズ上に精製した。コントロールとしてpGEX−6P−1で形質転換した大腸菌BL21からGSTタグ部分のみの蛋白質(以下GST蛋白質と略記する)を上述と同様に発現誘導して精製した。公知の方法に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分離及びクーマジーブリリアントブルー染色を行い、期待される分子量の蛋白質(GST−DHFR;45kDa、GST蛋白質;26kDa)が精製されていることを確認した。(4)ビグアナイドとATP5Bの生化学的な結合上述実施例5(3)で作製したGST−DHFR蛋白質を利用してビグアナイドとATP5B蛋白質の生化学的な結合の有無を調べた。具体的には、DHFRがメトトレキサート(MTX)と結合する性質を利用して、ビグアナイドの一種であるフェンフォルミンの分子構造の一部にメトトレキサートを融合させた化合物(2S)−5−[(3−{[{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}(イミノ)メチル]アミノ}プロピル)アミノ]−2−({4−[[(2,4−ジアミノプテリジン−6−イル)メチル](メチル)アミノ]ベンゾイル}アミノ)−5−オキソペンタン酸 2塩酸塩(以下MTX−フェンフォルミンと略記する)を作製し、この化合物を、グルタチオンセファロースビーズ上に精製したGST−DHFRにMTXの部分で結合させて固定し、突き出したフェンフォルミン側でATP5B蛋白質との結合の有無をGST−プルダウン法によって確認した。まず、MTX−フェンフォルミンは、以下の反応式に従って周知の有機合成技術を用いて調製した。続いて、合成した上記MTX−フェンホルミンと、GST−DHFR蛋白質とを用いたGST−プルダウン法により、フェンフォルミンとATP5Bの結合を調べた。まず上述実施例5(1)で作製したpcDNA−ATP5Bの1.0μgを鋳型として、TNT システム(TNTRQuick Coupled Transcription/Translation System;プロメガ社)40μl及びラジオアイソトープ(redivue Pro−mix L−[35S];アマシャム)0.74MBqを混合し、添付のプロトコールに従ってin vitroでの転写・翻訳によりラジオアイソトープラベルされたヒトATP5B蛋白質を調製した。このヒトATP5B蛋白質調製液15μlとグルタチオンセファロースビーズ上に精製したGST蛋白質あるいはGST−DHFRの各1μgを混合し、0.3mlのバッファーAを添加して4℃で1時間振盪した。その後遠心分離によりビーズ上のGST蛋白質あるいはGST−DHFRに結合する蛋白質を共沈殿させた。これを上述のバッファーA’0.5mlでけん濁し、再度遠心分離により共沈殿させた。この操作を4回繰り返したのち、沈殿物中の蛋白質を公知の方法に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、オートラジオグラフィによりプローブに結合した蛋白質を検出した。この実験において、すべての工程でバッファー中に前述のMTX−フェンホルミンを終濃度10μM添加、あるいは非添加の各条件で実施し、結果を比較した。その結果、図1に示す通り、in vitroで合成された約60kDaのヒトATP5B蛋白質のバンドがMTX−フェンフォルミンを添加した条件下でのみ、GST−DHFRと結合して検出された。このヒトATP5B蛋白質のバンドは、GST蛋白質を混合した場合、あるいはMTX−フェンフォルミンを添加しない条件下では検出されなかった。これにより、ツール用ポリペプチドの1つであるヒトATP5Bは、フェンフォルミンに直接結合することがわかった。(5)ATP5B分子表面に存在するビグアナイド結合部位の予測上述の実施例5(4)の結果から、ツール用ポリペプチドの1つであるヒトATP5B蛋白質は、フェンフォルミンと直接結合することが確認された。そこで、ATP5Bの蛋白質分子表面にビグアナイドが結合しうる鍵穴となる構造が存在するのかを、ウシATP5BのX線結晶構造解析のデータをもとに計算機上で調べた。具体的には、F1F0−ATP合成酵素(F1は細胞外、F0は細胞内多量体を示す)のサブユニットの一つであるATP5Bの蛋白質表面上において、ビグアナイドの結合が可能と判断される部位(サイト)の予測を行った。結晶構造データを「RCSB Protein Data Bank」から1BMFというIDで取得した。1BMFには、ウシミトコンドリアF1−ATP合成酵素(Bovine Mitochondrial F1−ATPase)の7量体分子(αサブユニット3つ(A、B、C鎖)、βサブユニット3つ(D、E、F鎖)とγサブユニット1つ(G鎖))が納められている。ATP5BはF1F0−ATP合成酵素の細胞外領域であるF1−ATP合成酵素のβサブユニットであり(Nature. 1997;386:299−302、Nature. 1994;370(6491):621−628)、ウシATP5Bは、ヒトATP5Bと99%のアミノ酸残基における同一性を保持している(ヒトATP5Bは529残基であり、ウシATP5Bは482残基である。ヒトATP5Bの方がN末端で46残基長く、C末端では1残基長い)。解析には、上記ウシミトコンドリアF1−ATP合成酵素の7量体分子の内、ウシATP5Bであるβサブユニットの一つであるD鎖とその隣接するαサブユニットであるA鎖及びC鎖のみ(以後複合体αβαと記載する)を使用した。解析にはケミカルコンピューティンググループ社(CCG社;Chemical Computing Group Inc.)のMOE(Molecular Operating Environment)ソフトウェアに用意されている機能であるPh4Dockを用いた。Ph4Dockとは、リガンドと受容体の3次元構造を与えるだけで、計算機を利用してその結合位置も含めて自動的に安定な複合体構造を探索する機能である(J Med Chem. 2004 Dec 30;47(27):6804−11)。この機能を利用してビグアナイドの一種であるメトフォルミン及びフェンフォルミンの構造情報と複合体αβαの構造情報を与え、複合体αβα上でのこれらの化合物が結合する部位を探索した。以下表2にメトフォルミン(metformin)、フェンフォルミン(phenformin)各々と複合体αβαが結合して安定な複合体形成を可能にするウシATP5B蛋白質分子表面上の部位を探索した結果を示す。表2はメトフォルミン、フェンフォルミン各々が結合した部位と、その時の結合に関するエネルギー値(U_ele+U_vdw)を示している。表中におけるサイトは結合部位を表しており、便宜的により大きくより疎水性の高い結合部位に順に番号を付けている。U_eleは静電相互作用エネルギーを、U_vdwはファンデアワールスエネルギーをそれぞれ表しており、U_ele+U_vdwの値が小さい順に上から20個の候補を並べて表記した。力場はmmff94sを使用した。ここでメトフォルミン、フェンフォルミンが同じ分子を薬効標的としているという仮定に基づくと、メトフォルミンとフェンフォルミンが共通に結合する結合部位はサイト20とサイト29のみとなる。また、上述の実施例5(4)より、in vitroで転写・翻訳させて作製したヒトATP5Bがフェンフォルミンと結合したことから、ATP5Bは複合体の状態ではなくても単独でビグアナイドと結合しうることがわかる。そこでATP5Bが単独で結合部位を形成している部位に限定するとサイト20のみが候補として残る。以上より、メトフォルミン及びフェンフォルミンは複合体αβαのサイト20に結合すると予測された。上述の予測、すなわちフェンフォルミンが直接サイト20に結合している事を検証する為には、フェンフォルミンが結合する為に最も重要な残基を見出し、その残基を変異させることで結合能が無くなることを実験的に示せばよい。そこで、フェンフォルミンとサイト20との結合を観察した結果、3パターンの結合様式の存在が予測された。それら結合様式のいずれにおいても、ATP5B分子内のアミノ酸残基であるGlu125,Glu241,Asp245の3箇所(数字はいずれもウシATP5B分子におけるアミノ末端側から数えたアミノ酸残基の位置を示す)での共同的な分子認識が行われている事が分かった。そこで、以下の実施例に示す方法に従い、上記のウシATP5Bの3アミノ酸残基のうちヒトATP5B分子上でそれらGlu125、Asp245に相当するGlu175、Asp295をそれぞれ置換した変異型ヒトATP5Bを実際に作製し、フェンフォルミンとの結合能を調べた。(6)変異型ヒトATP5B発現プラスミドの作製及び変異型ヒトATP5Bのビグアナイド結合能の検証 前述の発現プラスミドpcDNA−ATP5Bを鋳型として、配列番号87と配列番号81、及び配列番号80と配列番号88で表される塩基配列のプライマーの各セットを用いて、PCR法によりヒトATP5Bの175番目のアミノ酸であるGluがValに置換する変異を生じたcDNAの5’側約530塩基対、3’側約1080塩基対の2つのDNA断片をそれぞれ増幅した。PCR反応、クローニング工程、塩基配列の決定はいずれも実施例5(1)に示した方法と同一である。得られた2本のPCR産物を等量ずつ混合したものを鋳型にして、今度は配列番号80と配列番号81に示すプライマーを用いてPCR反応を行うことにより約1600塩基対のGlu175Val変異型ATB5Bをコードする全長cDNAを得た。このcDNA断片を発現ベクター(pcDNA3.1/V5−His−TOPO;インビトロジェン社)にクローニングした後、配列番号90に示す合成DNAプライマーを用いてベクターに挿入された塩基配列を同定し、ATB5BにGlu175Val変異が生じていることを確認した。得られた発現プラスミドは以後pcDNA−ATP5B(E175V)と略記する。次に、配列番号91と配列番号81、及び配列番号80と配列番号92で表される塩基配列のプライマーの各セットを用いて、同様の方法により、Asp295Val変異型ATB5Bをコードする全長cDNAを取得し、発現ベクターpcDNA−ATP5B(D295V)を作製した。上記で作製したpcDNA−ATP5B(E175V)及びpcDNA−ATP5B(D295V)を用いて上述の実施例5(4)に示した方法に従って、Glu175ValもしくはAsp295Val変異型ATP5B蛋白質とフェンフォルミンの結合能をプルダウンアッセイ(pull−down assay)により検証した。その結果、図3に示すとおり、野生型ATP5Bで確認できるフェンフォルミンとの結合がバンドで確認できているが、Glu175Val及びAsp295Val変異型ATP5Bではバンドが消失し、結合が確認できなかった。この事実により、ヒトATP5B蛋白質のGlu175、Asp295がフェンフォルミンとの結合に重要であることが実験的に裏付けられた。また、実施例5(4)の結果で示された通り、ツール用ポリペプチドの1つであるヒトATP5B蛋白質は、フェンフォルミンと直接結合していることがわかった。(7)ヒトATP5B又はLKB1の過剰発現細胞におけるビグアナイドのAMPK活性化能の検出ビグアナイドはこれまで直接の標的蛋白質は不明であったが、細胞内のAMP活性化キナーゼ(AMPK)をリン酸化し、活性化することが明らかにされている(Zhou GらJ Clin Invest. 2001 Oct;108(8):1167−74)。AMPKの活性は細胞への糖取り込みを促進し、糖代謝を改善することから、このAMPKの活性化はビグアナイドの薬効である糖尿病治療効果をもたらす主要な作用経路であると考えられている。本発明の同定方法により見出されたATP5Bがビグアナイドの薬効(主作用)を担う真の標的分子であるなら、ATP5B蛋白質はビグアナイドにより作動する細胞内シグナル伝達系において、AMPKの活性化より上流に位置しているはずである。そこで、実験においてビグアナイドに結合するATP5B分子が、実際にAMPK活性化の上流にあることを検証するため、細胞にATP5Bを過剰に発現させた状態で、ビグアナイドによるAMPKの活性化が影響を受けるかどうかを調べた。上記の目的のため、まず、ヒトATP5Bと対比するコントロールとして、AMPKをリン酸化する酵素の一つであることが示されている(Hardie DG, J Cell Sci. 2004 Nov 1;117(Pt 23):p5479−5487)LKB1蛋白質をコードする遺伝子cDNAのクローニング及びLKB1発現プラスミドの作製を行った。上述の実施例5(1)で述べた方法と同様にして、配列番号82及び配列番号83で表されるDNAオリゴプライマーを作製し、ヒト腎臓由来cDNAライブラリー(クロンテック社)を鋳型としてPCR法によりヒトLKB1遺伝子の全長cDNAをクローニングした。PCR反応は上述の実施例5(1)と同じ条件で行い、増幅された約1300塩基対のDNA断片を発現ベクターpcDNA3.1/V5−His−TOPOへ挿入した。完成したプラスミドの挿入DNA断片の塩基配列を決定した結果、RefSeq アクセッション番号NM_000455に示されたヒトLKB1の全長cDNA配列からなるクローンであることを確認した。以下この発現プラスミドをpcDNA−LKB1と略記する。この発現プラスミドpcDNA−LKB1、上述の実施例5(1)で作製したpcDNA−ATP5B、又は空ベクター(pcDNA3.1)(インビトロジェン社)をHeLaS3細胞に導入した。HeLaS3細胞(ATCC)は6ウェル培養プレート(ウェル直径35mm)の培養皿に各ウェル2mlの10%牛胎児血清(シグマ社)を含む最少必須培地DMEM(ギブコ社)を加えて70%コンフルエントの状態になるまで培養した。培地を、ウェルあたり1mlの無血清培地OPTI MEM I(インビトロジェン社)に置換し、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン社)を用いて空ベクター(pcDNA3.1)、pcDNA−LKB1、又はpcDNA−ATP5Bの各3.0μg/ウェルを一過性に導入した。12時間培養後、チャコール処理により低分子を除いた牛胎児血清を10%含むDMEMの2ml/ウェルで置換し、さらに36時間培養した。そこへフェンフォルミン(シグマ社)を終濃度1mM添加、あるいは溶媒(DMSO)のみを添加した条件下でさらに1時間(1hr)培養した。培地を除去し、細胞をリン酸緩衝液(以下PBSと略称する)で洗浄した後にウェルあたり0.15mlの上述バッファーA(但し、NaCl濃度は150mMで各種フォスファターゼ阻害剤;2mM Na3VO4,10mM NaF,25mM β−グリセロホスフェート,0.2mM Ma2MoO4,20nM オカダ酸を添加)を加えて細胞を溶解した。公知のSDS電気泳動法、及び抗リン酸化AMPK抗体(Phospho−AMPK−α(Thr172)Antibody、第一化学薬品)を用いたウエスタンブロット法により細胞中のAMPKの活性を分子のリン酸化レベルとして検出した。このとき、AMPKα(リン酸化をうけるAMPKのサブユニット)の蛋白質量は各試料間で差がないことを確認するため、同時に抗AMPKα抗体(第一化学薬品)を用いたウエスタンブロットを行った。その結果、図4に示す通り、上述の空ベクターを導入した細胞、及びpcDNA−LKB1を導入してLKB1を発現させた細胞では、いずれも溶媒で処理した場合と比較して、フェンフォルミンで処理した場合にAMPKのリン酸化レベルが顕著に亢進し、活性化されているのが観察された。ところが、pcDNA−ATP5Bを導入してヒトATP5Bを発現させた細胞では、フェンフォルミン処理によるAMPKの活性化が見られなくなった。フェンフォルミンの代わりにメトフォルミン(シグマ社)を終濃度10mM添加し、同様の実験を行ったところ、ヒトATP5Bを発現させた細胞ではフェンフォルミン処理した場合と同様に、AMPKの活性化がみられなくなった。これらは、細胞内でATP5B蛋白質の存在量が変化することでフェンフォルミンやメトフォルミンなどのビグアナイドの薬効に寄与するAMPKの活性化能が変化することを意味し、ビグアナイドの細胞内シグナルにおいてATP5Bが明らかにAMPKの上流に位置することを示している。この事実と、上述の実施例においてATP5Bとフェンフォルミンの生化学的な結合が示された事実と併せ考えることにより、ATP5Bは、ビグアナイドに結合し、かつ該化合物の薬効に寄与する真の標的蛋白質であると結論できる。なお、ATP5Bの過剰発現によってビグアナイドによるAMPKの活性化、即ちリン酸化の亢進が妨げられた現象は、以下のいずれかの説により説明される。ATP5Bが元々AMPKのリン酸化を抑制する作用を有しており、ビグアナイドはATP5Bに結合してそのAMPK抑制作用を妨げることでAMPKを活性化しているという機序により説明される。又は、内在性分子と複合体を形成することで作用するATP5B分子を単独で過剰発現させたために、ビグアナイドが過剰な単体のATP5Bに結合してパージ(purge)された(取り除かれた)結果、本来ビグアナイドがATP5Bを含む複合体分子を介して起こるAMPKのリン酸化の亢進が見られなくなったと説明される。なお、この様な、標的蛋白質の過剰発現により化合物の作用が相殺される現象は一般に知られており、特定蛋白質が化合物の標的蛋白質であることを同定する手段としても利用されている(Curr Genet. 2002;41(3):p142−149、J Biol Chem. 2005;280(13):p12231−12238、Proc Natl Acad Sci U S A. 1996;93(21):11919−11924、Yeast,1998 14(10):935−942)。上記いずれの説の説明によっても、ATP5Bは、ビグアナイドの薬効に寄与する標的蛋白質であることに変わりはなく、ATP5Bに結合する物質は、ビグアナイドと同じ薬効(主作用)を有する。以上の結果により、ATP5Bを含むツール用ポリペプチドを糖尿病治療薬であるビグアナイドの標的蛋白質として利用する(即ち糖尿病治療薬スクリーニングツールとして使用する)ことによって、糖尿病治療薬であるビグアナイドがもたらす薬効と同じ主作用効果を、同一の細胞内シグナル経路を利用することによって惹起しうる化合物(即ち糖尿病治療薬)を選択できることが示された。また、本発明の同定方法によって、化合物の主作用に寄与する、試験薬剤の標的タンパク質を同定できることが証明された。<実施例6>ツール用ポリペプチドを利用した糖尿病治療薬のスクリーニング方法(1)スクリーニング方法ビグアナイドとツール用ポリペプチドの一つであるATP5B蛋白質を用いて、該ポリペプチドとビグアナイドの結合の変化を指標にして、該ポリペプチドに結合する試験物質(即ち糖尿病治療薬)を選択することのできるスクリーニング方法を示す。上述の実施例5(4)で述べた方法に従って、ATP5Bとビグアナイドの結合を検出することができる。図5に示す通り、実施例5(4)で述べた方法において、存在させるMTX−フェンフォルミンの濃度(1.0,10,100μM)を高くすると、ATP5B蛋白質との結合はより明確に検出された。この系に、試験物質として、フリーのフェンフォルミン(10μM)を添加すると、図6に示す通り、該蛋白質とMTX−フェンフォルミンとの結合が妨げられることが示された。ここで添加したフェンフォルミンを評価したい試験物質に置き換えることにより、該試験物質がATP5B蛋白質とMTX−フェンフォルミン(ビグアナイド)との結合に変化を与えるか否かを調べることができ、ビグアナイドとツール用ポリペプチドとの結合を競合阻害し、ツール用ポリペプチドと結合する物質、即ち糖尿病治療薬をスクリーニングすることができる。上述に記載の条件のうち、MTX−フェンフォルミンの濃度が10μMであるとき、IC50が10μM以下の物質を、好ましくは1μM以下の物質を、更に好ましくは0.1μM以下の物質を糖尿病治療薬として選択する。(2)糖尿病治療薬のスクリーニング 上記(1)のスクリーニング方法に従い、MTX−フェンフォルミン(MTX−PF)の濃度が10μMの条件下で、試験物質として、フリーのフェンフォルミンの代わりに各種化合物を添加してスクリーニングを実施した結果、2種類の化合物、2−[(E)−(1H−1,2,4−トリアゾール−3−イリミノ)メチル]フェノール (メイブリッジ社、以後化合物Aと略記)及び6−クロロ−9H−プリン−2−アミン (オーロラ社、以後化合物Bと略記)がヒット化合物として見出された。即ち、図7に示すとおり、これらの各2化合物は、10μMの添加で、ATP5B蛋白質とMTX−フェンフォルミンとの結合を妨げることを示した。さらに、これら各化合物は前述の実施例5(7)に示したAMPK活性化能の検出実験においていずれも有意なAMPK活性化能を示し、同活性化能は実施例5(7)に示したフェンフォルミン、メトフォルミンの場合と同様に、ATP5Bの過剰発現により消失した。これらの結果は、上記の化合物A及び化合物BがいずれもATP5Bのビグアナイド結合部位に直接相互作用し、細胞内のAMPKを活性化することを示している。同時に、実施例6(1)に示した本明細書のポリペプチドを利用した糖尿病治療薬のスクリーニング方法により、実際にビグアナイドと同様のAMPK活性化能を有する化合物が選択できることが確認された。<実施例7>ヒット化合物の血糖降下作用、及び血中乳酸値に与える影響の測定上述実施例6に記した通り、本発明のスクリーニング方法で見出された化合物A及び化合物Bは、細胞のAMPK活性化能を有する。次にこれらの化合物がビグアナイド同様にin vivoで血糖降下作用を有するかどうかを調べた。同時にビグアナイドの副作用である血中の乳酸値増加についても上述2化合物の作用を調べた。糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウス(BKS.Cg−+ Leprdb/+ Leprdb/Jcl;日本クレア)の11週齢の雄15匹を5匹ずつ3群に分けた。メトフォルミン(シグマ社)及び上述化合物Aを溶媒(5%クレモホール、0.2%メチルセルロース:MC)でそれぞれ30mg/ml又は10mg/mlの濃度で溶解した。上記マウス各5匹にメトフォルミンは体重あたり300mg/kg、化合物Aは体重あたり100mg/kgをそれぞれ腹腔内に投与し、同容量の溶媒(5%クレモホール、0.2%MC)のみを投与した群と比較した。投与と同時に絶食させ、開始から0分、90分、180分後にそれぞれ尾部から採血して血糖値及び血中乳酸値を測定した。血糖値は簡易血糖測定装置(アキュ・チェックアクティブII;ロッシュ)を用いて測定し、血中乳酸値は簡易乳酸測定装置(ラクテート・プロ;アークレイマーケティング(株)を利用してそれぞれ測定した。同様にdb/dbマウスの18週齢雄12匹を4匹ずつ3群に分けた。メトフォルミン(シグマ社)及び上述化合物Bを生理食塩水でそれぞれ30mg/ml又は9mg/mlの濃度で溶解した。上記マウス各4匹にメトフォルミンは体重あたり300mg/kg、化合物Bは体重あたり90mg/kgをそれぞれ腹腔内に投与し、同容量の溶媒(生理食塩水)のみを投与した群と比較した。前述と同様、投与と同時に絶食させ、開始から0分、90分、180分後にそれぞれ上述と同様に血糖値及び血中乳酸値を測定した。その結果、メトフォルミンはいずれの実験においても溶媒投与群に比較して90分、180分で有意な血糖降下作用を示した。化合物A及び化合物Bは、いずれも、90分、180分で有意差を持って血糖降下作用を示した(図8A、C)。一方で、メトフォルミン投与群はいずれの実験でも90分後に有意な血中乳酸値の上昇を引き起こしたが、化合物A又は化合物Bのいずれも血中乳酸値の上昇を引き起こさなかった(図8B,D)。この結果から、本発明のスクリーニング法により、実際にビグアナイドと同様の有意な血糖降下作用を持つ新たな糖尿病治療薬を見出せることが確認された。加えて、上記2種の化合物がいずれもビグアナイドの副作用として知られる血中乳酸値の上昇を引き起こさないことから、本発明のスクリーニング方法により、主作用(ビグアナイドの薬理作用;すなわち糖尿病治療効果)を有し、副作用(即ち血中乳酸値の上昇)を有さない新たな糖尿病治療薬のスクリーニングができることが確認された。<実施例8>分子シャペロンを用いたサリドマイドの標的蛋白質の同定サリドマイドは、睡眠誘導薬、多発性骨髄腫、HIV、ハンセン氏病等に対して有意な薬効を有しているが、これまでサリドマイドの直接の標的蛋白質は不明であった。そこで、上述実施例2(2)に示した方法を用いて、サリドマイドの標的蛋白質の探索を試みた。ヒト血球系培養細胞であるTHP−1(ATCC社)を10%ウシ胎児血清(FCS)を含む最小必須培地(RPMI1640、インビトロジェン社)60mlに懸濁し、15cm径のプレート(旭テクノグラス社)上で106cells/mlになるまで培養した。この細胞を1200rpmで3分の遠心分離により集め、氷冷したPBS10mlで1回洗浄した後に、上述のバッファーA 2.0mlを加えて溶解し、細胞抽出液を収集した。この細胞抽出液を1500rpmで5分遠心して沈殿を除き、上澄みの可溶画分を集めた。サリドマイド((−)−thalidomide,シグマ社)を終濃度100μMになるように添加又は未添加の条件下で、この細胞抽出液の可溶画分に、グルタチオンセファロースビーズ上に精製した8種類のGST融合シャペロン蛋白質(GST−HSPA1A、GST−HSPH1、GST−HSPCA、GST−HSPD1、GST−DNAJA1、GST−HSPB1、GST−HSPE1、GST−HSPA4の混合物;各蛋白質0.5μgずつを混合)を混合し、プルダウン実験を行った。なおプルダウン実験の工程、及び条件は上述実施例2(2)と同様にして行った。すなわち4℃で1時間振盪した後、遠心分離によりビーズ上のGST融合シャペロン蛋白質混合物に結合する蛋白質を共沈殿させた。上述実施例4と同様に、あらかじめ各シャペロン蛋白質とビーズは公知の方法により化学的に架橋させて用いた。シャペロン蛋白質混合物に結合する蛋白質を共沈殿させた後、終濃度100μMのサリドマイドを添加又は未添加の上述のバッファーA’0.5mlでけん濁し、再度遠心分離により共沈殿させた。この操作を4回繰り返した後、沈殿物中の蛋白質を公知の方法に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、ネガティブ染色法(和光純薬)により蛋白質を検出した。その結果、サリドマイドの添加時のみ存在する複数の蛋白質バンドの存在を検出した。これら蛋白質は、サリドマイドの添加により該蛋白質と分子シャペロン蛋白質混合物との結合が変化した蛋白質群、すなわちサリドマイドの添加により立体構造に変化がもたらされた蛋白質群である。これらのバンドを切り出し、トリプシンを用いてタンパク質を断片化した後、生じたペプチド混合物をゲルより回収して実施例4の方法と同じく、マススペクトル解析により蛋白質の同定を行った。その結果、サリドマイドの添加時のみ存在する約45kDaのバンドに含まれる蛋白質がTARDBP(RefSeqアクセッション番号NP_031401)であることが判明した。<実施例9>TARDBPのサリドマイド応答性の検証TARDBPはDNAやRNAなどの核酸との結合活性を持つ転写因子であり、HIVの抑制作用を有することが知られている(Ou SHら、Virol. 1995 Jun;69(6):3584−3596)。サリドマイドには有意な抗HIV作用が知られており(Franks MEら、Lancet. 2004;363(9423):1802−1811.)、TARDBPはサリドマイドの標的蛋白質と考えて矛盾が無い。サリドマイドの直接の標的となる蛋白質はいまだに知られていないが、細胞からの腫瘍壊死因子α(TNF−α)等のサイトカイン産生を抑制することが報告されている(Franks MEら、Lancet. 2004;363(9423):1802−1811.)。そこで前述の実施例8において本発明の方法により見出されたサリドマイドの標的蛋白質TARDBPが、サリドマイドの主作用を担う真の標的分子であるかを、細胞からのTNF−α産生の変化を指標にした実験により検証を試みた。(1) TARDBP遺伝子のクローニング及びTARDBP発現プラスミドの作製RefSeqアクセッション番号NM_007375に示されているヒトTARDBPの遺伝子配列に従って配列番号93及び配列番号94で表される塩基配列のプライマーを合成し、該プライマーを用いて、ヒトリンパ球由来cDNAライブラリー(クロンテック社)からPCR法によりヒトTARDBPの全長cDNAの増幅を試みた。PCR反応はDNAポリメラーゼ(TAKARA LA Taq;宝酒造社)を用い、94℃(3分)の後、94℃(30秒)・58℃(1.5分)・72℃(4分)のサイクルを35回繰り返し行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離した結果、約1250塩基対のDNA断片が増幅されたことを確認した。そこで反応液中の同DNA断片を発現ベクター(pcDNA3.1/V5−His−TOPO;インビトロジェン社)にTOPO TA Cloning システム(インビトロジェン社)を用いてクローニングした。このとき用いた配列番号94に示すプライマーはクローニング後3’側にベクター由来のV5エピトープ(paramyxovirus SV5のV protein由来、Southern J A, J.Gen.Virol.72, 1551−1557,1991)及びHis6タグ(Lindner P BioTechniques22, 140−149,1997)がTARDBP遺伝子のトリプレットと同じフレームで続くように、該遺伝子のストップコドン配列が除かれるよう設計した。得られたプラスミド中の挿入DNA断片の塩基配列を、ベクター上のT7プロモーター領域に結合するプライマー(TOPO TA Cloning kit/インビトロジェン社;配列番号89)とシーケンシングキット(アプライドバイオシステム社)及びシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencer アプライドバイオシステムズ社)を用いて決定した。その結果、RefSeqアクセッション番号NM_007375(配列番号95)に示すヒトTARDBPの全長cDNA配列を含むクローンであることを確認した。以下この発現プラスミドをpcDNA−TARDBPと略記する。(2)TARDBP高発現細胞の作製及び該細胞のTNF−α発現量の測定pcDNA−TARDBP又は空ベクター(pcDNA3.1)(インビトロジェン社)をHeLaS3細胞に導入した。具体的には、まずHeLaS3細胞を12ウェル培養プレートの培養皿に各ウェル1mlの10%牛胎児血清(シグマ社)を含む最少必須培地DMEM(ギブコ社)を加えて70%コンフルエントの状態になるまで培養した。ウェルあたり0.5mlの無血清培地OPTI MEM I(インビトロジェン社)に置換し、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン社)を用いてpcDNA−TARDBP又はpcDNA3.1の各0.8μg/ウェルを一過性に導入した。12時間培養後、牛胎児血清を10%含むDMEMの1ml/ウェルで置換し、さらに12時間培養した。そこへ、オカダ酸(和光純薬)を終濃度50nM添加又は未添加の条件下でさらに16時間培養した。このとき一部の細胞はオカダ酸処理と同時に100μMのサリドマイドを添加した。培地を除去し、細胞を氷冷したPBSで2回洗浄した後にこれらの細胞を−80℃で凍結、保存した。(3)細胞中のTNF−α発現量の測定RNA抽出用試薬(Isogen;ニッポンジーン社)を用いて、説明書に従い、上述実施例9(2)で凍結した各細胞から全RNAを調製した。調製した各々の全RNAはその後デオキシリボヌクレアーゼ(ニッポンジーン社)を用いて処理し、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈殿して滅菌水に溶解した。この全RNA1μgを用い、逆転写反応用キット(AdvantageTM RT−for−PCR Kit;クロンテック社)を用いて20μlの系で1本鎖cDNAへの逆転写を行った。6つのオリゴヌクレオチド(配列番号97−配列番号102)を遺伝子発現量測定のためのPCRのプライマーとして設計し、合成した。ヒトβ−アクチン遺伝子に対しては配列番号97と配列番号98の組合せ、ヒトTNF−α遺伝子に対しては配列番号99と配列番号100の組み合わせ、ヒトTARDBP遺伝子に対しては配列番号101と配列番号102の組み合わせでそれぞれ使用した。上記6種、3セットのプライマーを用いたPRISMTM7700シークエンスディテクションシステム(Sequence Detection System)によるPCR増幅のリアルタイム測定は、25μlの系で説明書に従い実施した。各系において1本鎖cDNAは5μl、2×SYBR Green試薬を12.5μl、各プライマーは7.5pmol使用した。ここで1本鎖cDNAは(2)で保存したものを100倍希釈して使用した。なお検量線作成には、1本鎖cDNAに代えて0.1μg/μlのヒトゲノムDNA(クロンテック社)を希釈したものを5μl用いた。PCRは、50℃10分に続いて95℃10分の後、95℃15秒、60℃60秒の2ステップからなる工程を45サイクル繰り返すことにより行った。各試料におけるヒトTNF−α遺伝子、及びヒトTARDBP遺伝子の発現量は、下記式に基づいてβアクチン遺伝子の発現量で補正した。[TNF−α又はTARDBPの補正発現量]=[TNF−α又はTARDBP遺伝子の発現量(生データ)]/[βアクチン遺伝子の発現量(生データ)]各細胞におけるTNF−α及びTARDBP遺伝子の発現量の比較においては、空ベクター(pcDNA3.1)を導入し、溶媒(DMSO)のみで処理した細胞における発現量を100とした相対量を算出し、図9及び図10に示した。図の値は平均±SEを示している。図9に示すとおり、pcDNA−TARDBPを導入した細胞(TARDBP高発現細胞)では、空ベクター導入細胞(コントロール細胞)に比較し、TARDBPの発現量が約7倍に亢進したことが確認された。図10に示す通り、オカダ酸処理によりコントロール細胞からのTNF−αの発現が大幅に上昇(〜80倍)することが観察された。サリドマイドの添加は、このオカダ酸によるTNF−αの発現亢進を50%近くに抑制しており、該細胞においてサリドマイドの作用を検出できることが確認された。一方、コントロール細胞と比較して、TARDBP高発現細胞の場合は、オカダ酸の添加による細胞からのTNFα発現の亢進作用はほぼ同等であったが、サリドマイドの添加によるTNF−αの発現抑制作用が観察されなかった。この結果は、TARDBPの過剰発現によって細胞内のサリドマイドと過剰量のTARDBP蛋白質が結合したことにより、本来作用すべきサリドマイドが細胞内からパージ(purge)された(取り除かれた)ためと考えることにより容易に説明ができる。TARDBPはDNAやRNAなどの核酸との結合活性を持つ転写因子であることが知られている。すなわち、TARDBPはTNF−αの発現誘導に必須な複数の転写因子からなる機能複合体中の一分子であると考えられ、そのものを単体で過剰発現してもTNF−αの発現誘導を亢進させないが、サリドマイドにより該分子の機能が阻害されるとTNF−αの発現誘導に必須な転写複合体の機能が失われる結果、TNF−αの産生が抑制されると考えられる。以上の結果から、本発明の同定方法によって見出された、サリドマイド添加時のみ分子シャペロンに結合する蛋白質TARDBPは、サリドマイドの薬効を担う分子機構のひとつと考えれているTNFαの発現制御に関わる分子であると考えられた。これにより、上述の実施例に示したビグアナイド標的のATP5Bの同定とあわせて、本発明の同定方法は、試験薬剤の修飾を施すことなく標的蛋白質の同定に用いることが可能であることが証明された。 本発明のスクリーニング方法は、糖尿病治療薬のスクリーニングの用途に適用することができる。本発明のスクリーニングツールは、前記スクリーニングに利用できる。 本発明の同定方法は、既存の薬剤の改良研究に有用な標的蛋白質の同定方法として有用である。 以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号28〜77、84〜89、91及び92の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。 [1]ビグアナイド共存下で、(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列又は配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつビグアナイドと結合する、及び/又は過剰発現によりビグアナイドによるAMPK活性化を阻害するポリペプチド、(3)配列番号2で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、かつビグアナイドと結合する、及び/又は過剰発現によりビグアナイドによるAMPK活性化を阻害するポリペプチド、あるいは(4)(1)〜(3)に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換された細胞と、試験物質とを接触させる工程、並びに [2]該ポリペプチドと試験物質との結合を分析する工程、 を含む、糖尿病治療薬をスクリーニングする方法。 AMPKを活性化することを確認する工程、及び/又は糖尿病治療活性を有することを確認する工程を更に含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。 (1)請求項1に記載のポリペプチド、(2)請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は(3)請求項1に記載の形質転換された細胞からなる、ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬のスクリーニングツール。 (1)請求項1に記載のポリペプチド、(2)請求項1に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、又は(3)請求項1に記載の形質転換された細胞の、ビグアナイドと薬効標的を共有する糖尿病治療薬のスクリーニングのための使用。配列表