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タイトル:特許公報(B2)_Gタンパク質共役型受容体G2Aの作動薬、及びG2A活性調節薬のスクリーニング方法
出願番号:2007522314
年次:2012
IPC分類:G01N 33/15,G01N 33/50,A61K 31/201,A61P 43/00,A61P 35/00,A61P 35/02,A61P 37/02,A61P 29/00,A61P 19/02,A61P 17/06,A61P 17/16,A61P 1/04,A61P 1/16,A61P 37/06,A61P 9/10,A61P 3/04,A61P 3/10,A23L 1/30


特許情報キャッシュ

和泉 孝志 大日方 英 JP 4972745 特許公報(B2) 20120420 2007522314 20060621 Gタンパク質共役型受容体G2Aの作動薬、及びG2A活性調節薬のスクリーニング方法 国立大学法人群馬大学 504145364 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 遠山 勉 100089244 佐貫 伸一 100126505 和泉 孝志 大日方 英 JP 2005182051 20050622 20120711 G01N 33/15 20060101AFI20120621BHJP G01N 33/50 20060101ALI20120621BHJP A61K 31/201 20060101ALN20120621BHJP A61P 43/00 20060101ALN20120621BHJP A61P 35/00 20060101ALN20120621BHJP A61P 35/02 20060101ALN20120621BHJP A61P 37/02 20060101ALN20120621BHJP A61P 29/00 20060101ALN20120621BHJP A61P 19/02 20060101ALN20120621BHJP A61P 17/06 20060101ALN20120621BHJP A61P 17/16 20060101ALN20120621BHJP A61P 1/04 20060101ALN20120621BHJP A61P 1/16 20060101ALN20120621BHJP A61P 37/06 20060101ALN20120621BHJP A61P 9/10 20060101ALN20120621BHJP A61P 3/04 20060101ALN20120621BHJP A61P 3/10 20060101ALN20120621BHJP A23L 1/30 20060101ALN20120621BHJP JPG01N33/15 ZG01N33/50 ZA61K31/201A61P43/00 111A61P35/00A61P35/02A61P37/02A61P29/00A61P19/02A61P17/06A61P17/16A61P1/04A61P1/16A61P37/06A61P9/10 101A61P3/04A61P3/10A23L1/30 Z A61K 31/201 A61P 1/00-43/00 A23L 1/30 G01N 33/15 G01N 33/50 REGISTRY(STN) CAplus(STN) MEDLINE(STN) EMBASE(STN) BIOSIS(STN) JSTPlus(JDreamII) JMEDPlus(JDreamII) JST7580(JDreamII) 特開平07−291862(JP,A) 特開平04−316516(JP,A) 特表2002−535479(JP,A) 国際公開第01/076568(WO,A1) 特表2000−505435(JP,A) 国際公開第97/044024(WO,A1) 国際公開第2004/064822(WO,A1) 特開平06−247850(JP,A) WILLSON, T. M.,The PPARs: From Orphan Receptors to Drug Discovery,Journal of Medicinal Chemistry,2000年,43(4),p. 527-550 第十三改正 日本薬局方解説書,株式会社 廣川書店,1996年,初版,p. D-906-D-909 YANG, L. V.,Gi-independent macrophage chemotaxis to lysophosphatidylcholine via the immunoregulatory GPCR G2A,Blood,2005年,105(3),p. 1127-1134 RADU, C. 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G2Aの機能に関しては、欠損(ノックアウト)マウスが自己免疫疾患を発病したことから(非特許文献4;特許文献1)、免疫機能への関与が示唆されている。また、動脈硬化巣で多く発現していることから(非特許文献5)、動脈硬化への関与も示唆されている。その他、プロトンセンサー(pHセンサー)として働くとの報告(非特許文献6)もなされた。 さらに、G2Aは造血細胞に発現しており、造血細胞の増殖を制御するという報告(特許文献2)、G2Aはリンパ球に発現しており、増殖刺激や遺伝子傷害性の刺激によって発現誘導され、細胞骨格に影響を及ぼすことによって様々な細胞シグナルを伝えるという報告(特許文献3)、G2Aが前立腺癌、卵巣癌、肺癌、乳腺癌、大腸癌などのヒト悪性腫瘍に多く発現しているという報告などがある(特許文献4)。米国特許公開第 2002/0051980号明細書国際公開第 99/25830号パンフレット国際公開第 01/81918号パンフレット国際公開第 02/090925号パンフレットProc.Natl.Acad.Sci.USA,vol95:p12334-9, 1998Science, vol293:p702-5, 2001Science, vol307:p206, 2005Immunity, vol14:p561-71, 2001Arterioscler Thromb Vasc Biol, vol22:p2049-53, 2002J Biol Chem, vol279: p42484-91, 2004 Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は細胞膜に存在する受容体で、外界のシグナルを細胞内に伝える役割を持っている。GPCRの活性調節薬(作動薬、拮抗薬および逆作動薬)は治療薬として幅広く使用されており、現在全世界で使われている薬の売上高トップ20のうち8個がGPCRをターゲットとしているとの報告がある。代表的なものに、感冒薬、胃薬、制吐剤、向精神薬などがある。このように、GPCRは創薬の標的分子として重要である。ゲノムの解析がほぼ終了し、リガンド不明の多くのオーファンGPCRが見つかり、リガンド探しが行われている。このような状況の中で、著明な生物活性を持つGPCRであるG2Aのリガンドを同定し、その生物学的意義を解析することは、新たな診断法、治療法、治療薬の開発に結びつく可能性がある。すなわち、本発明は新規G2A作動薬、並びにG2A活性調節薬の新規スクリーニング方法を提供することを課題とする。 本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、9-HODEなどの酸化脂肪酸がG2Aのリガンドであり、G2A作動薬として働くこと、及びこれらの酸化脂肪酸を用いることにより、新規なG2A活性調節薬をスクリーニングできることを見出して本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の通りである。 (1)9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びリシノール酸から選ばれる1種又は2種以上を含む、G2A作動薬。 (2)(1)のG2A作動薬を含む、医薬。 (3)(1)のG2A作動薬を含む、食品。 (4)9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びリシノール酸から選ばれる1種以上の化合物を用いて被検化合物のG2A結合能を評価することを特徴とする、G2A活性調節薬のスクリーニング方法。 (5)被検化合物がG2A結合能を有するかどうかを評価する方法であって、9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びリシノール酸から選ばれる1種以上の化合物を対照化合物として用いて、被検化合物のG2A結合能を評価することを特徴とする方法。 (6)9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びリシノール酸から選ばれる1種以上の化合物を対照化合物として用いて、被検化合物のG2A活性化能、またはG2A活性化阻害能を評価することを特徴とする、G2A活性調節薬のスクリーニング方法。 (7)被検化合物がG2A活性化能を有するか、またはG2A活性化阻害能を有するかどうかを評価する方法であって、9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びリシノール酸から選ばれる1種以上の化合物を対照化合物として用いて、被検化合物のG2A活性化能またはG2A活性化阻害能を評価することを特徴とする方法。9(S)-HODEを添加したときの細胞内カルシウム濃度の増加を示す図。 CHO-G2A細胞(◆), CHO-G2A-Gqi(●)、CHO-Gqi(□)に Fura-2を添加し、さらに、9(S)-HODEを加えて細胞内カルシウム濃度をFLEXstationを用いて測定した。データは4回の独立した実験の平均値 ± 標準偏差 を示した。親株のCHO-K1 細胞(○) についても測定した。G2Aのリガンド特異性を示す図。(A) CHO-Gqi (□) 及び CHO-G2A-Gqi (■) に、リノール酸又はアラキドン酸の酸化誘導体各1μMを添加し、 細胞内カルシウム濃度の増加をFLEXstationを用いて測定した。データは4回の独立した実験の平均値 ± 標準偏差 を示した。カッコ内に9-HODE と11-HETEの構造を示す。* はCHO-Gqi と比較して、p < 0.01 (Student’s t test)であったことを示す。(B) CHO-G2A-Gqi 細胞を9(S)-HODE (●) 及び 9(R)-HODE (○) HODEで処理し、 細胞内カルシウム濃度の増加をFLEXstationを用いて測定した。データは4回の独立した実験の平均値 ± 標準偏差 を示した。* は9(R)-HODE と比較してp < 0.01 (Student’s t test) であったことを示す。G2A発現細胞の膜画分への9(S)-HODE依存性の[35S]GTPγSの結合を示す図。CHO-K1細胞及びCHO-G2A安定発現細胞(A), あるいはG2A 及び/又は Giを一過性に発現させたHEK293 細胞 (B)から膜画分を調製し、結合バッファー中、20 μM の非ラベルGTPγSの存在下(非特異的結合)又は非存在下(総結合)、20 μgの膜画分を0.5 nMの [35S]GTPγS 及び9(S)-HODE と 30℃で30 分インキュベートした。特異的結合量は前記総結合量から非特異的結合量を減ずることで算出した。データは4回の独立した実験の平均値 ± 標準偏差 を示した。G2A を発現させたCHO-K1細胞における、リノール酸添加の影響を示す図。CHO-K1 (○) 及びCHO-G2A (●) 細胞にFura-2を添加し, さらに1μM 9(S)-HODE, 10 μM リシノール酸, 又は 100 μM ATPを加えて、細胞内カルシウム濃度をFLEXstation によって測定した。J774細胞におけるG2A過剰発現又はG2A発現抑制の泡沫化への影響を示す図(写真)。マウスマクロファージ由来J774細胞を24 well プレートに5X104 で撒き、一晩培養した。細胞にpLenti6−mG2Aを含むレンチウイルス上清またはpBlock-iT-mG2A を添加した。48時間インキュベートした後、10 μMの9(S)-HODEの存在下または非存在下で、5% ウシ胎児血清を含む培地中で、細胞を50 μg/mlのLDL 又は酸化LDL(OxLDL)で24時間処理した。ついで、PBS(-)中、細胞を4% ホルムアルデヒドで固定化し、細胞内に蓄積した脂肪滴をOil-Red Oで染色した。ヒト皮膚におけるG2Aの発現を示す図(写真)。(A) 抗G2A抗体を用いた蛍光染色の結果を示す。肩の皮膚由来の切片をコントロールのウサギIgGまたは抗G2A抗体とインキュベートし、次いで、蛍光標識抗ウサギIgGとインキュベートし、蛍光顕微鏡で観察した。倍率は400倍でバーは20μmを示す。(B) ヒト培養ケラチノサイトNHEKにおけるmRNAの検出結果を示す。G2AのmRNAをRT有りまたは無しのPCRで検出した。pCXN2.1-G2Aベクターをポジティブコントロールとして用いた。NHEK細胞における、9(S)-HODEによって惹起される細胞内カルシウム動員を示す。細胞にFura-2/AM を添加し、9(S)-HODEで刺激し、RF5300PC スペクトロフルオロメーターを用いて解析した。NHEK細胞における、9(S)-HODEによって惹起されるサイトカインの分泌を示す図。NHEK細胞を9(S)-HODEで0〜24時間インキュベートした後、培養上清を回収し、サイトカインの濃度をBio-Plex ELISA systemを用いて測定した。(A) IL-6; (B) IL-8; (C) GM-CSF。データは平均値± SD (n = 3)であり、* は、コントロールに対してp < 0.05 (Student’s t-test)であることを示す。 以下に本発明を詳しく説明する。 本発明において、G2Aとは、リンパ球やマクロファージなどに主に発現しているGタンパク質共役型受容体(GPCR)であり、各種DNA損傷刺激によって誘導され、細胞周期をG2期で停止させると報告された受容体である。ヒト及びマウスのG2Aのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2,4に、それらをコードする遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号1,3に示す。なお、G2Aのアミノ酸配列は種の違いなどによって異なるため、本発明のG2A作動薬の評価や、本発明のスクリーニング法に用いるG2Aは、上記配列のものには限定されず、9-HODE、13-HODE、HETE、リシノール酸などのリガンドに応答して細胞内カルシウム濃度を上昇させる性質を有するものである限り、上記配列において1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。ここで、数個とは、好ましくは2〜50個、より好ましくは、2〜20個、特に好ましくは2〜10個である。 G2A活性調節薬は、G2A作動薬、G2A拮抗薬およびG2A逆作動薬を含む。なお、逆作動薬とは内因性リガンドや薬物の影響を受けない構成的受容体活性を減弱させる物質をいう。例えば、G2Aの突然変異により内因性リガンドの刺激がなくとも常に受容体シグナルが活性化され、生体機能異常を引き起こすような場合,変異受容体の活性を抑える逆作動薬は,これらの病気に有益な効果が期待できる。 本発明のG2A作動薬は、9−ヒドロキシオクタデカジエン酸(9-HODE)、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸(9-HPODE)、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸(13-HODE)、ヒドロキシエイコサテトラエン酸(HETE)(特に5、8、9、11、12,15位のいずれかに水酸基を有するHETE)、及びリシノール酸からなる群より選ばれる1または2以上の酸化脂肪酸を含む。なお、これらの酸化脂肪酸をG2Aリガンドと呼ぶこともある。 9-HODEは、9位の炭素が水酸化されたオクタデカジエン酸であり(図2に構造を示した)、13-HODEは、13位の炭素が水酸化されたオクタデカジエン酸である。また、9-HOODEは、9位の炭素が過酸化水酸化されたオクタデカジエン酸である。 HETEは、5、8、9、11、12,15位などの炭素が水酸化されたエイコサテトラエン酸である。11-HETEの構造を図2に示した。 リシノール酸は、下記式(I)の構造を有する酸化脂肪酸であり、植物由来のヒマシ油に多く含まれ、動物においては種々のリパーゼによってヒマシ油のグリセロール骨格から遊離してくる。 なお、上記9-HODE、13-HODE、HETEなどの酸化脂肪酸には、(S)体と(R)体の光学異性体が存在するが、本発明のG2A作動薬に含まれる酸化脂肪酸は(S)体であってもよいし、(R)体であってもよいし、両者の混合物でもよい。 上記の9-HODEなどの酸化脂肪酸はG2Aに結合し、G2Aを活性化して細胞内カルシウム濃度の上昇などのシグナルを伝達する。その結果、様々な薬効を発揮する。例えば、以下のような薬効が挙げられる。 G2Aは各種増殖刺激やDNA損傷刺激によって誘導され、細胞周期をG2期で停止させることが知られている。また、G2Aは造血細胞に発現しており、造血細胞の増殖を制御するという報告(WO 99/25830)、リンパ球に発現しており、増殖刺激や遺伝子傷害性の刺激によって発現誘導され、細胞骨格に影響を及ぼすことによって様々な細胞シグナルを伝えるという報告(WO 01/81918)、前立腺癌、卵巣癌、肺癌、乳腺癌、大腸癌、皮膚癌などのヒト悪性腫瘍に多く発現しているという報告などがある(WO 02/090925)。これらのことから、本発明のG2A作動薬はリンパ腫、白血病など様々な癌に対する抗癌剤として使用することができる。 また、G2A欠損(ノックアウト)マウスが自己免疫疾患を発病したことから(Immunity, 14:561-71, 2001;US 2002/0051980)、G2Aの免疫機能への関与が強く示唆されている。さらに、本願の実施例に示すようにG2Aリガンドが皮膚などの末梢組織において炎症性サイトカインの産生を誘導することが明らかになった。これらのことからG2A活性調節薬が免疫疾患治療薬及び炎症性疾患治療薬として用いられることが容易に理解できる。免疫性疾患としては関節リュウマチやその他の自己免疫疾患、炎症性疾患としては乾癬や日光皮膚炎(日焼け)、炎症性腸疾患、肝炎などが挙げられる。肝臓は脂質代謝の中心臓器であるため、食事中からの酸化脂肪の摂取、ウィルス性肝炎、脂肪肝、薬物代謝障害、高脂血症などの状態で酸化脂肪によるストレスに曝される。従って、G2A活性調節薬はウィルス性肝炎、薬物性肝炎、アルコール性肝炎、脂肪肝、肝硬変などの肝疾患治療薬として用いられる。また、本発明のG2A作動薬は骨髄移植時などに用いられる免疫抑制剤としても有用に用いられる。 また、G2Aは動脈硬化巣で多く発現していることから(Arterioscler Thromb Vasc Biol, 22:2049-53, 2002)、G2Aの動脈硬化への関与も強く示唆される。実際に、後述の実施例に示すように、マクロファージ細胞であるJ774細胞にG2A遺伝子を強制発現させると、脂肪蓄積効果がさらに増大したことからも、G2A活性調節薬が、動脈硬化治療薬、抗肥満薬、糖尿病治療薬などの成人病(メタボリックシンドローム)の治療薬として有用であると考えられる。 9-HODEなどの酸化脂肪酸を含むG2A作動薬、及び後述のスクリーニング法によって得られるG2A活性調節薬(以下、まとめてG2A活性調節薬と呼ぶこともある)は、そのまま、若しくは製剤学的に許容される製剤担体と組み合わせて、上記のような疾患を治療または予防するための医薬とすることができる。尚、上記9-HODEなどの酸化脂肪酸は医薬に許容される塩にすることもできる。医薬に許容可能な塩として、ナトリウム、カリウム等の金属の塩が例示される。 本発明の医薬の製剤形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、貼付剤、点眼剤、点鼻剤等を例示できる。製剤化にあたっては製剤担体として通常の医薬に汎用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。また、G2A活性調節薬と、他の医薬とを併用してもよい。 本発明のG2A活性調節薬は、食品に含有させることもできる。食品の具体的形態は特に制限されないが、食用油、調味料、加工食品などが例示される。食品は、G2A活性調節薬を、通常食品に用いられる原料と混合することによって製造することができる。 本発明の食品中に含まれるG2A作動薬の量は、特に限定されず適宜選択すればよいが、例えば、G2A活性調節薬の量として、食品中に0.1〜50質量%、好ましくは1〜10質量%とするのがよい。 また、本発明の食品は、上記のような疾患に対する予防または治療効果を有する健康食品や特定保健用食品などとすることもできる。本発明の食品は、例えば「抗癌作用、抗炎症作用、免疫抑制作用、抗動脈硬化、肝臓保護作用などの効果を有する成分を含有する食品」等の表示を付して販売するもできる。<2>スクリーニング方法 本発明のスクリーニング方法は、9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びリシノール酸から選ばれる1種又は2種以上を用いることを特徴とする、G2A活性調節薬のスクリーニング方法である。 G2Aを用いるスクリーニング系としては、例えば、G2Aに結合する化合物をスクリーニングする系及びG2Aの活性化を促進又は阻害する化合物をスクリーニングする系が挙げられる。前者としては、G2Aタンパク質に結合することのできる9-HODEなどを対照化合物として放射性同位体などでラベルし、ラベルされた対照化合物とG2Aタンパク質をあらかじめ混合しておき、そこに被検化合物を添加し、被検化合物の中から、対照化合物と競合してG2Aタンパク質に結合することのできる化合物を選択する方法が挙げられる。この方法では、例えば、G2Aタンパク質とそれに結合した標識対照化合物を含む溶液に被検化合物を添加して反応させ、解離した対照化合物及び遊離の被検物質を洗浄により除去した後、G2Aタンパク質に残存する放射線量などを測定することによって、被検物質がG2Aタンパク質に結合するかどうかを判定することができる。すなわち、被検物質との競合により標識対照化合物がG2Aタンパク質から解離して放射線量が減少すると、被検化合物がG2Aタンパク質に結合すると判定できる。対照化合物として、本発明においてG2Aタンパク質に結合することが明らかとなった9-HODE、13-HODE、リシノール酸やHETEなどを用いる。 スクリーニングによって得られたG2Aに結合する化合物には、G2Aの作動薬、拮抗薬、さらには逆作動薬が含まれると考えられるため、後述のように細胞内カルシウム濃度を増加させるか否かを調べることによってこれらのいずれに該当するかを決定することができる。 なお、このスクリーニング系で用いるG2Aタンパク質は遺伝子組換えによって生産されたタンパク質であってもよいし、細胞などから精製されたものであってもよい。また、化学合成されたものであってもよい。さらに、G2Aタンパク質のリガンド結合部位を含む部分タンパク質でもよい。これらのタンパク質を遺伝子組換えによって生産する場合は、例えば、配列番号1または3の塩基配列を有するDNAを適当なベクターに連結し、これを大腸菌や動物細胞などの宿主に導入してタンパク質を発現させ、常法に従って精製することによって得ることができる。なお、この場合に用いるDNAは、9-HODEなどのリガンドに応答して細胞内のカルシウム濃度を上昇させることができるタンパク質をコードする限り、配列番号1または3の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。ここでストリンジェントな条件としては、例えば、60℃、1×SSC,0.1%SDS、好ましくは、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度で、1回より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。なお、大腸菌で遺伝子組み換えを行うためのベクターとしてはpETベクター(Novagen社)やpGEXベクター(Amersham Pharmacia社)などが挙げられ、動物細胞で遺伝子組み換えを行うためのベクターとしては、pcDNAベクター(Invitrogen社)などが挙げられる。 また、細胞系でG2Aを活性化する化合物又はG2Aの活性化を阻害する化合物をスクリーニングしてもよい。G2Aの活性化とは、G2Aの生体内での機能、例えば、リガンドに応答して細胞内カルシウム濃度を上昇させたりすることなどをいう。また、細胞内cAMP濃度を指標にしてもよい。例えば、CHOやHEK293などの細胞にG2Aをコードする遺伝子を導入してG2Aタンパク質を発現させ、当該細胞に被検物質を添加したときの細胞内カルシウム濃度の変化を測定することによって調べることができる。上記9-HODEなどのG2Aリガンドを陽性対照に用い、これらのリガンドと同程度以上にG2Aを活性化させる物質(G2A作動薬)をスクリーニングしてもよいし、上記G2Aリガンドと被検物質を同時に加えて、G2AリガンドによるG2A活性化を阻害する物質(G2A拮抗薬)をスクリーニングしてもよい。 カルシウム濃度は常法によって測定することができ、例えば、Fura-2(同仁化学)などを用いて測定することができる。また、cAMP濃度は、例えば、AlphaScreen cAMP assay kit(PerkinElmer)を用いて測定することができる。 本発明のスクリーニング方法において、スクリーニングの対象とする化合物としては特に制限はなく、例えば、低分子合成化合物であってもよいし、天然物に含まれる化合物であってもよい。また、ペプチドであってもよい。スクリーニングには個々の被検物質を用いてもよいが、これらの物質を含む化合物ライブラリーを用いてもよい。 なお、上記方法は、複数の化合物からG2A作動薬または拮抗薬を探索するスクリーニングだけではなく、個々の化合物のG2A結合能、G2A活性化能、G2A活性化阻害能を評価するためにも用いることができる。本発明のスクリーニング方法によって得られるG2A作動薬は、上述したような癌、免疫性疾患、炎症性疾患、動脈硬化症、肝疾患などの治療薬または予防薬として用いることができる。 一方、本発明のスクリーニング方法によって得られるG2A拮抗薬は、酸化ストレスを伴う多くの疾患や病態の治療薬はまたは予防薬として用いることができる。すなわち、皮膚の上皮細胞はG2Aを発現しているが、9-HODEなどの酸化脂肪酸に反応して細胞増殖が止まり、様々なサイトカイン類を放出する。皮膚は、外気と接しており、常に一定の酸化ストレスに曝されている。特に、日焼け(紫外線曝露)によってその酸化ストレスは増大する。この時に酸化脂肪酸が皮膚で産生されているものと考えられる。 したがって、G2A拮抗薬は、各種炎症、腫瘍、動脈硬化、喫煙、自己免疫疾患、糖尿病、肝疾患などの酸化ストレスを伴う疾患の治療薬として有用であると考えられる。さらに、火傷治療薬、日焼け止めクリームなどへの応用も考えられる。 さらに、G2Aは放射線によって誘導されることが報告されている(国際公開第 01/81918号パンフレット)などから、G2A活性調節薬はUV照射、放射線照射、粒子線照射の治療薬、放射線治療や重粒子線治療の作用増強剤、健常組織保護剤などとしても有用であると考えられる。 以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。 各種HODE, HPODE, HETE及びcholesteryl-9-HODEは、Cayman Chemical社から購入した。リノール酸, アラキドン酸, 1-パルミトイルリゾフォスファチジルコリン, 及び1-パルミトイル-2-リノレオイルフォスファチジルコリンはSigma社から購入した。[35S]GTPγS はPerkin Elmer社から購入した。9(S)-HODEの合成 5-リポキシゲナーゼをProc Natl Acad Sci U S A 81, 689-693(1984)に記載の方法に従ってイモの塊茎から精製した。5-リポキシゲナーゼを用いて反応バッファー(20 mM Tris-HCl, pH 7.4, 0.1 mM diethylenetriaminepentaacetic acid)中で,リノール酸を酸化し、次いで、NaBH4で還元した。生成物をシリカカラムクロマトグラフィーによって未反応基質と分離した。LC-MS分析により、生成物が95%以上の9(S)-HODEを含むことが確認できた。プラスミド構築 FLAGエピトープをN末端に付加したヒトG2Aをコードする遺伝子を、配列番号5及び6のプライマーを用い、Pyrobest (Takaraバイオ社)により増幅した。PCR産物をBamHI及びEoRIで消化し、哺乳類細胞発現ベクターpCXN2.1(Gene, vol108: p193-200, 1991)に挿入した。得られたプラスミドをpCXN2.1-G2Aと名づけた。 Gqi(マウスGqタンパク質のC末端9ペプチドをマウスGiタンパク質の対応ペプチドと置換した)の全ORFを含むプラスミドをpcDNA3.1/Zeo vector (Invitrogen社)にサブクローン化し、pcDNA3.1/ Gqiと名づけた。Gタンパク質のC末端領域はGタンパク共役型受容体との相互作用を決定する重要な部位であり、C末端領域をGiタンパクの対応領域で置き換えられたこのGqiキメラタンパク質はGiタンパクと共役する受容体と相互作用し、Gq様のシグナルを伝達できることが報告されている(Nature vol363: p274-6, 1993)。したがって、Giと共役する受容体のシグナルをGqによって伝達されるカルシウムシグナルとして観察するための有用なツールとなりうる。細胞培養、遺伝遺伝子導入、フローサイトメトリー チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)及びヒト胚腎細胞293細胞(HEK293細胞)は、それぞれ、10%ウシ胎児血清を含有する、Ham’s F-12 培地(Sigma)、Dulbecco’s modified Eagle’s 培地 (Sigma社)中、37℃、加湿した5% CO2インキュベーター内で維持した。細胞に Lipofectamine 2000 reagent (Invitrogen社) を用いて各プラスミドDNAのトランスフェクションを行った。 FLAGタグ結合G2Aタンパク質の膜発現を観察するために、1% BSAを含むPBS (-)中、細胞を透過性にすることなく、10μg/ml M5 抗FLAG 抗体(Sigma社)を加えて室温で1時間インキュベートした。FITC結合抗マウスIgGを加えて室温で30分インキュベートし、EPICS XL flow cytometer system (Beckman Coulter社)を用いて検出した。CHO細胞でのG2A遺伝子の安定発現 Lipofectamine 2000を用いてpCXN2.1-G2A をCHO細胞にトランスフェクションした。1 mg/ml Geneticin (Invitrogen社)に耐性のクローンを選択し、G2A遺伝子の発現レベルをRT-PCRとフローサイトメトリーによって確認した。 G2A高発現クローン(CHO-G2A細胞)をさらにpcDNA3.1/Gqiでトランスフェクションし、1 mg/ml Zeocin (Invitrogen社)に耐性を有する安定クローンを選択した。Gqiの発現をRT-PCRで確認し、CHO-G2A-Gqi細胞を得た。また、Gqiを安定に発現するCHO 細胞も取得した(CHO-Gqi cells)。細胞内カルシウム濃度の測定 1.25 mM プロベネシド 及び 0.02% pluronic F127(BASF社)を含むHepes-Tyrode’s-BSA バッファー(25 mM Hepes-NaOH, pH 7.4, 140 mM NaCl, 2.7 mM KCl, 1.0 mM CaCl2, 12 mM NaHCO3, 5.6 mM D-glucose, 0.37 mM NaH2PO4, 0.49 mM MgCl2, 0.01% 脱脂 BSA)中で、 CHO細胞に5μM Fura-2 AM (Dojin社)を添加し、37℃、1時間インキュベートした。 細胞をHepes-Tyrode’s−BSA bufferで洗浄した後, リガンド刺激し、scanning fluorometer system (FLEXstation, Molecular Devices社) 又は RF5300PC spectrofluorometer (Shimazu社)を用いて細胞内カルシウム濃度の変化を測定した。GTPγS結合アッセイ CHO細胞をホモジナイズバッファー(20 mM Tris-HCl, pH 7.4, 0.25 M sucrose, 10 mM MgCl2, 1 mM EDTA, 及びComplete protease inhibitor cocktail(Roche社))中で超音波破砕した。破砕物を12,000×gで10分間遠心し、上清を100,000×gで1時間遠心した。沈殿物(膜画分)をホモジナイズバッファー中で再懸濁し、タンパク質濃度を、BSAを標準とし、BCA Protein Assay Reagent (Pierce)によって決定した。200 μl の結合バッファー(20 mM Tris-HCl, pH 7.5, 5 mM MgCl2, 100 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM DTT, 5 μM GDP, 及び0.1% BSA)中、20 μM 非標識GTPγSの存在下又は非存在下で、膜タンパク質(20μg)を0.5 nM [35S]GTPγS及び各濃度の9(S)-HODEとともに30℃で30分間インキュベートした。 GF/C glass-fiber filters (Whatman社)を用いてろ過することにより反応を終結させた。フィルターをPBS(-)で入念に洗浄し、50℃で乾燥させ、Aquasol II scintillation cocktail (Packard社)に浸した。フィルターの放射能をLS6500 scintillation system (Beckman社)を用いて測定した。細胞培養 NHEK細胞(Kurabo)はgrowth supplements (Kurabo, growth medium)を添加したHuMedia-KB2 (Kurabo, basal medium)を用いて培養した。免疫組織染色 ヒト皮膚の凍結切片 (厚さ6μm)を10% BSAを用いて室温で30分ブロッキングし、1% BSA/PBSで1.7 μg/mlに希釈した1次抗体を用いて4°Cで一晩インキュベートした。1次抗体は、抗ヒトG2A抗体(Lifespan)またはウサギIgG (Santa-cruz)を用いた。次いで、1% BSA/PBSで2 μg/mlに希釈した2次抗体(Alexa Fluor 488(Molecular Probes)と結合したヤギ抗ウサギIgG)を用いて室温で1時間インキュベートし、蛍光顕微鏡(Axioskop; Zeiss)を用いて観察を行った。RT-PCR トータルRNAを、DNase(Qiagen)で処理したNHEK細胞からRNeasy Mini kit (Qiagen)を用いて抽出した。RT-PCRはQIAquick one step RT-PCR kit (Qiagen)とセンスプライマー(5’-GGCTTTGCCATCCCTCTC-3’:配列番号7)及びアンチセンスプライマー(5’-GACAGGCACAGAAACACC-3’:配列番号8)を用いて行った。NHEK細胞における9(S)-HODEによる細胞内カルシウム動員 0.02% pluronic F127を含むHepes-Tyrode’s-BSAバッファー(25 mM Hepes-NaOH, pH 7.4; 140 mM NaCl; 2.7 mM KCl; 1.0 mM CaCl2; 12 mM NaHCO3; 5.6 mM D-glucose; 0.37 mM NaH2PO4; 0.49 mM MgCl2; および 0.01% fatty acid-free BSA)中で、NHEK細胞に2.5 μMFura-2/AM (Dojin)を加えて37℃で1時間インキュベートした。細胞をHepes-Tyrode’s-BSA バッファーで洗浄し、9(S)-HODE で刺激したときの細胞内カルシウム濃度の変化をRF5300PC spectrofluorometer (Shimazu)を用いて測定した。サイトカイン濃度の測定 NHEK細胞を9(S)-HODEで刺激した後、培養上清を回収しサイトカイン濃度をBio-Plex ELISA system (Bio-Rad)を用いて測定した。[結果]G2A を発現するCHO細胞において9(S)-HODEによって惹起される細胞内カルシウム動員 図1に示されるように, CHO-G2A細胞において、9(S)-HODEは濃度依存的に細胞内カルシウム動員を惹起した。1/2極大活性をもたらす9(S)-HODE濃度は約2 μMであった。一方, 親株CHO-K1 細胞は9(S)-HODEに全く反応しなかった。 G2AはGタンパク質共役受容体であると考えられた。そこで、マウスGqタンパク質のC末端9ペプチドをマウスGiタンパク質の対応ペプチドと置換したGqi キメラタンパク質をG2Aと共発現させた細胞を用いて評価した。図1に示されるように, G2AとGqiの両方を発現するクローン(CHO-G2A-Gqi)は9(S)-HODEに対して高い反応性を示した。一方、Gqiのみを発現する CHO 細胞(CHO-Gqi)は 9(S)-HODEに反応しなかった。G2Aのリガンド特異性 リノール酸、アラキドン酸の様々な酸化誘導体をそれぞれ1μM添加し、細胞内カルシウム濃度を測定した(図2A)。 その結果、これらの中では、9(S)-HODE 及び 11-HETE がCHO-G2A-Gqi細胞において最も強い細胞内カルシウム動員活性を示した。この2種類の脂質の構造を図2Aのカッコ内に示した。9(S)-ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸(9(S)-HPODE) は9(S)-HODEと同等の活性を示したが,13(S)-HODE 及び13(S)-HPODE の活性は弱かった。これらの結果は ω位からの炭素鎖の長さと水酸基又はヒドロペルオキシ基の位置がG2Aのリガンド認識に重要であることを示唆している。一方, 9(S)-HODEのコレステロールエステル及び1-パルミトイルリゾフォスファチジルコリンは10 μMでもほとんど活性を示さなかった。また、以前リガンドと報告されたリゾフォスファチジルコリンには反応しなかった。次に、リガンドの光学特異性について調べた(図2B)。その結果、9(S)-HODEの光学異性体である9(R)-HODE (Cayman Chemical社)も、9(S)-HODEほどではないものの、カルシウム動員活性を示した。このことから、9(R)-HODEもリガンドであることがわかった。9(S)-HODEによるGTPγS結合の誘導 9(S)-HODEがGαタンパク質のGDP-GTP 交換を促進するかどうかについてG2A安定発現細胞の膜画分を用いて調べた。図3Aに示されるように, G2A安定発現細胞の膜画分は9(S)-HODE依存性の[35S]GTPγS結合を示した。 さらに、HEK293細胞に、コントロールベクター又はpCXN2.1-G2Aと、pcDNA3.1/Giを一過性に発現させて調べた。トランスフェクションの24時間後、膜画分を調製し、GTPγS結合の結合を調べた。9(S)-HODE依存性の[35S]GTPγSの結合はG2Aのみをトランスフェクトした細胞の膜画分では観察されなかった(データは示さない)。図3Bに示すように、GiをG2Aと共発現させたときに9(S)-HODE依存性のGTPγS結合が見られた。一方、Gi のみをトランスフェクションしたときは9(S)-HODE依存性の[35S]GTPγS結合は観察されなかった。 これらの結果より、9(S)-HODEはG2Aを介してGαタンパク質を活性化することが示唆された。 データは示さないが、G2A発現細胞における9(S)-HODE依存性のカルシウム濃度上昇反応反応や、cAMP増加抑制反応は、Giタンパク質阻害剤である百日咳毒素(PTX)により阻害されたことから、G2A受容体がGiタンパク質に共役していることが考えられた。また、G2Aを安定的に発現したCHO細胞では、9-HODE刺激によってMAPキナーゼ系のうち、JNKが活性化されることがわかった。リシノール酸によるG2Aの活性化 リシノール酸をCHO-G2A細胞に添加し、細胞内カルシウム濃度を調べた(図4)。その結果、リシノール酸は9(S)-HODEと同程度にG2Aを発現した細胞において細胞内カルシウム動員を引き起こすことがわかった。一方、親細胞であるCHO-K1細胞は、9(S)-HODE(1 μM)やリシノール酸(10 μM)に反応しなかった。なお、ATPは多くの細胞に細胞内カルシウム動員を引き起こす陽性対照である。マクロファージ細胞におけるG2Aの役割の解析 マウスのマクロファージ系の細胞であるJ774細胞において、マウスG2A遺伝子を強制発現もしくは、RNA干渉(RNAi)により発現抑制した。強制発現はレンチウイルス発現ベクターpLenti6(Invitrogen社)を用いて行った。一方、発現抑制はRNAi用ベクターpBlock-iT(Invitrogen社)を用いて行った。RT-PCRでG2AmRNAの発現量を確認すると、G2A発現ベクター(pLenti6-mG2A)によって約4倍に増加しており、RNAi (pBlock-iT-mG2A)によって約5分の1以下に減少していた(データ略)。 J774細胞にLDLを添加すると細胞の泡沫化(脂肪滴貯留)が起こり(図5a)、酸化LDL(銅イオン処理により酸化させたLDL)を添加すると細胞の泡沫化はさらに進行する(図5d)。J774細胞の泡沫化は、動脈硬化における血管壁の脂肪蓄積のモデルとしてよく使われ実験系である。なお、J774細胞はG2A受容体を通常でも発現している。これに9-HODEを作用させておくとLDLの泡沫化は顕著になる(図5g)。9-HODEの処理により酸化LDLの作用はさらに顕著になる(図5j)。これに対し、G2Aを強制発現させると、LDLや酸化LDLの効果が顕著になる(図5b、e)。また、G2Aを強制発現させると、LDLや酸化LDLの泡沫化効果に及ぼす9-HODEの効果がさらに顕著になる(図5h、k)。RNAiによってG2Aの発現を抑制すると、いずれの条件下でも、非常に激しい泡沫化が観察された(図5c、f、i、l)。特に、酸化LDLの効果が顕著となった(図5f、l)。 これらの現象の分子機構は不明であるが、G2Aおよびそのリガンドである9-HODEが、動脈硬化の病態形成に深く関与している可能性を示している。さらに、G2A活性調節薬が、動脈硬化治療薬として有用である可能性を示している。 また、G2Aの発現や9-HODEなど酸化脂肪酸の産生をモニターすることは、動脈硬化の診断や治療効果の判定に有用と考えられる。ヒト皮膚におけるG2Aの発現 ヒト皮膚におけるG2Aの発現を免疫組織染色により調べた(図6A)。G2Aは上皮、特に、扁平上皮細胞及び顆粒層に多く、基底層では少なかった。また、培養ヒトケラチノサイトNHEK細胞におけるG2Aの発現をRT-PCRにより調べた(図6B)。それによると、NHEK細胞においてもG2Aの発現が認められた。NHEK細胞における9(S)-HODEによる細胞内カルシウム動員 図7に示されるように、9(S)-HODEは内因性のG2Aを発現するNHEK細胞においても細胞内カルシウム動員を惹起した。3 μM 9(S)-HODEによる反応は弱かったが、10 μM 9(S)-HODEの添加により反応は顕著になった。一方、連続して15 μM 9(S)-HODEを添加しても反応は惹起されなかった。これは、ATPとは依然細胞が反応したことから、おそらく受容体の脱感作によるものと考えられた。NHEK細胞における9(S)-HODE添加によるサイトカインの誘導 9(S)-HODEで処理されたNHEK細胞の上清におけるサイトカインの濃度をBio-Plex ELISA systemを用いて調べた。その結果、9(S)-HODEはIL-6 (図8A), IL-8 (図8B), およびGM-CSF (図8C)を濃度依存的に誘導した。IL-6とIL-8の誘導は9(S)-HODE添加後4時間で有意に増加し、GM-CSFの増加は9(S)-HODE添加後16時間で有意に増加した。 本発明のG2A作動薬は、癌、免疫性疾患、炎症性疾患、動脈硬化症、肝疾患などの疾患に対する治療効果や予防効果を有する医薬または食品の有効成分として用いることができる。また、本発明のスクリーニング方法によれば、新規なG2A活性調節薬を得ることができる。 被検化合物がG2A結合能を有するかどうかを評価する方法であって、9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びリシノール酸から選ばれる1種以上の化合物を対照化合物として用いて、被検化合物のG2A結合能を評価することを特徴とする方法。 9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びリシノール酸から選ばれる1種以上の化合物を対照化合物として用いて、被検化合物のG2A活性化能、またはG2A活性化阻害能を評価することを特徴とする、G2A活性調節薬のスクリーニング方法。 被検化合物がG2A活性化能を有するか、またはG2A活性化阻害能を有するかどうかを評価する方法であって、9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、9−ヒドロペルオキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、ヒドロキシエイコサテトラエン酸及びリシノール酸から選ばれる1種以上の化合物を対照化合物として用いて、被検化合物のG2A活性化能またはG2A活性化阻害能を評価することを特徴とする方法。配列表


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