タイトル: | 特許公報(B2)_神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤 |
出願番号: | 2007520134 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61K 38/23,A61P 25/04,A61K 9/08,A61K 9/70 |
伊藤 彰敏 武田 みね子 JP 4781356 特許公報(B2) 20110715 2007520134 20060607 神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤 旭化成ファーマ株式会社 303046299 岩瀬 吉和 100146318 小野 誠 100114188 金山 賢教 100119253 城山 康文 230105223 伊藤 彰敏 武田 みね子 JP 2005170165 20050609 20110928 A61K 38/23 20060101AFI20110908BHJP A61P 25/04 20060101ALI20110908BHJP A61K 9/08 20060101ALI20110908BHJP A61K 9/70 20060101ALI20110908BHJP JPA61K37/30A61P25/04A61K9/08A61K9/70 401 A61K 38/00-38/58 A61P 1/00-43/00 CA/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) QUATRARO,A. et al,Calcitonin in painful diabetic neuropathy,Lancet,1992年,Vol.339, No.8795,p.746-7 GOBELET,C. et al,The effect of adding calcitonin to physical treatment on reflex sympathetic dystrophy,Pain,1992年,Vol.48, No.2,p.171-5 6 JP2006311396 20060607 WO2006132261 20061214 17 20070813 小堀 麻子 本発明は、神経因性疼痛に対して速効性の鎮痛効果を有するカルシトニン製剤に関する。 神経因性疼痛(ニューロパシックペインまたは神経障害性疼痛とも呼ばれるが、以下、本願明細書では神経因性疼痛と呼ぶ。)とは、末梢または中枢神経系の機能異常の結果として生じる難治性疼痛である。神経因性疼痛は外傷、感染、癌、虚血、糖尿病などの代謝障害等によって引き起こされる神経障害により発症する。発症のメカニズムは不明な点が多いが、知覚神経の異常な持続的発火等が原因と考えられている。神経因性疼痛の代表的な症状には、アロディニア、痛覚過敏又は知覚過敏などがある。これらの症状は、“焼け付くような”、“針で刺されるような”又は”電気ショックのような”等と表現される特徴的な痛みを呈する。神経因性疼痛には通常の侵害受容性疼痛に有効である鎮痛剤、特に麻薬性鎮痛薬等は効きにくいことが知られている(非特許文献1)。従来、鎮痛薬としては、モルヒネに代表される中枢性オピオイド系鎮痛薬、インドメタシンに代表される非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)などが知られているが、これらは、神経因性疼痛に対する効果は低く、急性疼痛に対するNSAIDsのように、発痛物質の生成をブロックするだけでは、疼痛を消失させることはできない。 また、モルヒネは侵害性疼痛に対して、強力な鎮痛作用を有するが、神経因性疼痛に対しては、充分な効果を示さないことが知られている(非特許文献2)。モルヒネが神経因性疼痛に効果がない理由としては、神経障害により神経の機能的、形態的な変化が起こって抑制性ニューロンの変性やオピオイド受容体が減少したためと考えられている(非特許文献3)。 このように、神経因性疼痛の発生には様々な要素が複雑に関係していると考えられている。これまで、治療法としては、神経ブロックや、脊髄硬膜外電気刺激等の神経外科的治療(非特許文献4)、バクロフェンの腰部髄腔内投与(非特許文献5)等が用いられている。 さらには、疼痛治療においては、痛みが継続することで神経ネットワークの可塑的な変化が起こり難治性疼痛へと移行することが問題視されており、疼痛の早期コントロールが、最も大きな課題の一つである(非特許文献6)。また神経障害が治癒するまで長期間の疼痛コントロールが可能な安全性の高い薬剤が求められている。 一方、カルシトニン製剤は、高カルシウム血症や骨粗鬆症の治療に用いられており、破骨細胞のカルシトニン受容体を介して作用する。破骨細胞の受容体はカルシトニンを持続的に作用させるとダウンレギュレーションが起こり、血清のカルシウム濃度を制御できない状態に陥る懸念がある。これまで血清カルシウムの変動と鎮痛作用の有効濃度の乖離は報告されていないため、カルシトニン製剤は連日〜週1回の間歇投与が行われている。 これまでにカルシトニンがある種の疼痛に対する鎮痛作用を有していることは知られており、疼痛の種類によってその作用メカニズムが異なることも知られている。例えば、炎症性疼痛では、プロスタグランジン産生抑制作用や脳内上行性のセロトニン神経系の関与が報告されている。また、骨転移癌の痛みには、骨転移部位での骨吸収抑制作用やβ−エンドルフィン(内因性オピオイド)の分泌を介した作用が知られている。しかしながら、神経因性疼痛においては、NSAIDsやモルヒネが効きにくいのと同様に、これらの機序による実質的な作用発現は全く期待できない。末梢神経を障害した神経因性疼痛では、知覚神経の異常な持続的発火や閾値低下、痛覚過敏が起こっていると考えられている。それらの現象は、知覚神経における電位依存性ナトリウムチャンネルなどの遺伝子発現変化に起因することが報告されており、他の疼痛とは独立した病態と考えられている(非特許文献7、非特許文献8)からである。 カルシトニン製剤の間歇投与が種々の神経因性疼痛に有効であるとの臨床報告があるが、効果発現には時間を要し、その効果も実質的に全く不十分であった(非特許文献9、非特許文献10)。 以上のとおり、神経因性疼痛の治療において、安全、且つ、速効性のある有効な治療法は確立されておらず、新しい治療の開発が切望まれている。The Lancet 353,1959−1966,1999医学のあゆみ,189(10),751−755,1999最新 脳と神経科学シリーズ 第6巻 痛みの神経科学 メジカルビュー社 p97,1997年医学のあゆみ,189(10),757−762機能的脳神経外科 33 45−49,1994熊澤孝郎;痛みは歪む。脳を知る、久野宗監修、秀潤社、106−116、1999Boucher TJ et al: Potent analgesic effects of GDNF in neuropathic pain states. Science, 2000, 290, 124−127Hong S et al、Early painful diabetic neuropathy is associated with differential changes in tetrodotoxin−sensitive and −resistant sodium channels in dorsal root ganglion neurons in the rat. J Biol Chem. 2004 Jul 9; 279(28): 29341−50Wade Sら、A critical review of controlled clinical trials for peripheral neuropathic pain and complex regional pain syndromes, PAIN, USA, 1997, 73, 123−139Antonio Quatraro, calcitonin in painful diabetic neuropathy, THE LANSET, 1992, 339, 746−747 本発明は、神経因性疼痛に対して速効性の優れた鎮痛作用を有する新規な医薬を提供することを目的とするものである。 上記課題を解決するために、カルシトニン、特にエルカトニンに着目して鋭意研究を行った。カルシトニンのこれまでに知られている鎮痛作用の作用機序や、神経因性疼痛に対する間歇投与の成績からは、カルシトニンを有効成分とする実質的に有効な神経因性疼痛治療薬の開発は考え難いものではあったが、知覚神経でのNaチャンネルの遺伝子発現を修復するカルシトニンの作用を見出した(伊藤ら、Osteoporosis Japan, 2005, 13巻、1号、78‐80)ことから、カルシトニンには、全く別の新たな鎮痛薬理作用機序があると着想して、該鎮痛作用機序の最適化の検討を行ったのである。具体的には、神経因性疼痛のモデル評価系を用いて、神経因性疼痛に対して速効性の鎮痛効果を発揮し、かつ血清カルシウム値を変動させないカルシトニンの投与方法を鋭意研究した結果、驚くべきことにカルシトニン、特にエルカトニンを持続投与すると速効性の強い鎮痛作用を示すこと、さらには血清カルシウムを変動させない用量の持続投与でも同様の効果を示すことを見いだし、この知見に基づいて本発明をなすに至ったのである。 すなわち、本発明は、(1)カルシトニンを有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤であって、カルシトニンが血清カルシウム値を変動させない量で投与されることを特徴とする神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤、(2)カルシトニンを有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤であって、カルシトニンが0.093mU/kg/秒未満の量で投与されることを特徴とする神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤、(3)持続投与されることを特徴とする(1)又は(2)に記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤、(4)持続投与における単位時間(秒)あたりのカルシトニンの投与量が、血清カルシウム値を変動させる単位時間(秒)あたりのカルシトニンの閾値投与量の、4分の1以下の量であることを特徴とする(3)に記載の神経因性疼痛の治療及び/または予防方法、(5)持続投与される時間が、8時間以上であることを特徴とする(3)又は(4)に記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤、(6)神経因性疼痛が末梢神経の圧迫または末梢神経の損傷によるものであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤、(7)カルシトニンがエルカトニンである(1)〜(6)のいずれかに記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤、(8)カルシトニンを有効成分として含有する持続投与のための神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤であって、剤型が徐放製剤、点滴製剤あるいは貼付製剤のいずれかであることを特徴とする神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤、(9)徐放製剤の投与形態が、注射製剤、埋め込み製剤、経皮製剤、経鼻製剤、経肺製剤、経口製剤のいずれかであることを特徴とする(8)に記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤。(10)持続投与における単位時間(秒)あたりのカルシトニンの投与量が、血清カルシウム値を変動させる単位時間(秒)あたりのカルシトニンの閾値投与量の、4分の1以下の量であることを特徴とする、(8)又は(9)に記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤、(11)持続投与される時間が、8時間以上であることを特徴とする(8)〜(10)のいずれかに記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤、(12)(1)〜(11)のいずれかに記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤を製造するためのカルシトニンの使用、に関する。 本発明により、薬剤投与による患者への負担や、副作用が軽減でき、より効果の高い速攻性のある神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤を提供することが可能となる。 以下、本願発明について具体的に説明する。 本発明の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤の有効成分として有用なカルシトニンとしては、種々の天然型カルシトニン、またはそのペプチド類似体等が挙げられる。天然型カルシトニンの例としては、ニワトリカルシトニン、ウナギカルシトニン、ヒトカルシトニン、サケカルシトニン、またはブタカルシトニン等が挙げられ、ウナギカルシトニン、サケカルシトニン(Helv.Chim.Acta(1969),52(7),1789−95)が好ましい例として挙げられ、ウナギカルシトニンが特に好ましい例として挙げられる。また、別の態様としては、サケカルシトニンが好ましい場合もある。 天然型カルシトニンのペプチド類似体の例としては、前述の天然型カルシトニンの構造に基づいて、その1,7位のジスルフィド結合を化学的に修飾した化合物等が挙げられ、具体的には[ASU1−7]ニワトリカルシトニン、[ASU1−7]ウナギカルシトニン(特公昭53−41677号公報に記載の化学名1−ブチル酸−7−(L−2−アミノブチル酸)−26−L−アスパラギン酸−27−L−バリン−29−L−アラニンカルシトニン;以下「エルカトニン」と称することもある)等が好ましい例として挙げられ、[ASU1−7]ウナギカルシトニン(エルカトニン)が特に好ましい例として挙げられる。 本発明の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤の有効成分として有用なカルシトニンとしては、エルカトニン、又はサケカルシトニンが特に好ましく、エルカトニンが最も好ましい。 また本発明の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤の有効成分としては、本発明の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤の有効成分として有用なカルシトニンと薬理学的に許容される酸の塩を用いてもよい。薬理学的に許容される酸との塩としては、例えば、塩酸、硫酸などの無機酸との塩、酢酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸との塩などが好適な例として挙げられる。 また、常法に従い、薬理学的に許容される担体を用いて、医薬組成物とすることもできる。 本発明の持続投与とは、薬剤を一定時間以上、連続的に体内へ放出する投与方法を意味し、全身性投与あるいは末梢組織への局所投与であれば投与経路は問わないが、例えば、インフュージョンポンプや輸液ポンプなどの機器を使った投与または手動での投与、生体内で分解される高分子を担体として用いる徐放製剤などが挙げられる。さらに、PEG(ポリエチレングリコール)化などで効力を延長させてカルシトニンの投与量を制御する投与法も含まれる。それに対し、間歇投与とは、1回以上、好ましくは複数回、連続的でなく、ある時間をおいて体内へ薬剤を投与または放出することをいう。 カルシトニンの持続投与に適した剤型としては、徐放製剤、点滴製剤、貼付製剤等が挙げられる。貼付製剤は、皮膚への貼付面に微細な針を設け、そこから薬剤が染み出るタイプの製剤も含む。詳細には、例えば、注射液の点滴製剤または持続注入製剤および徐放製剤が挙げられる。徐放製剤の投与形態には、注射製剤、埋め込み製剤、経皮製剤、経鼻製剤、経肺製剤、経口製剤等が例示される。より具体的には徐放製剤として例えば、マイクロカプセル、エマルジョン、リポゾーム、油脂、乳酸・グリコール酸共重合体やポリ乳酸、ヒドロキシアパタイト等の生体内分解性または非生体内分解性の微粒子担体等に薬剤であるカルシトニンを含有させ皮下、皮内、筋肉内等に注射剤の形態で投与し、生体内で薬剤を持続的に放出させる徐放性注射製剤、および生体内分解性または非分解性のシリコーン等の物質に薬剤を含有させたペレット状、針状等の固形物を皮下等に埋め込む形態の埋め込み製剤;吸収促進剤や電気エネルギーを用いて、または皮膚の擦過等物理的に薬物の透過性を高め、薬剤を含有する貼付剤やテープ剤の形態で皮膚から持続的に吸収させる経皮製剤;また、皮膚への貼付面に微細な針を設け、そこから薬剤がコントロールされながら染み出るタイプや微細な針に薬剤が塗られているタイプの経皮製剤;さらに薬物の分解と放出が制御されたマイクロカプセルやナノ粒子等を用いて粘膜等を通して持続的に吸収させる経鼻製剤や経肺製剤等、これに消化管粘膜付着性高分子を付加させた錠剤やカプセル等の経口製剤;またリポゾーム等を用いた経口製剤等が例示される。 本発明の持続投与時間としては、8時間以上が好ましく、12時間以上がさらに好ましく、16時間以上が特に好ましい。投与期間は2か月以下が例示され、1か月以下が好ましく、2週間以下がさらに好ましい。 後述の比較例1から、カルシトニン間歇投与による鎮痛作用は投与ごとの効果が積算されていくと考えられた。また間歇投与の血中持続時間は2時間程度である。従って、2時間以上8時間未満の持続投与を繰り返し、24時間以内の積算した持続投与時間が8時間以上である投与方法も本発明の範囲内である。 神経因性疼痛に対して一旦発現したカルシトニンの鎮痛効果は休薬期間中も少なくとも1週間は持続するため、持続投与終了後に間歇投与を追加することでその効果を持続させることができる。持続投与と間歇投与を適宜組み合わせる治療法もある。 神経因性疼痛は、外傷、圧迫、感染、虚血などや、或いは糖尿病などの代謝障害等の原因によって神経、神経叢或いは神経周囲軟組織が損傷又は変性する神経障害をきたし、神経障害によって引き起こされる何らかの機能異常による痛覚閾値の低下などの持続する疼痛知覚の異常な状態を意味する。自発痛、痛覚閾値低下(機械的刺激に対する疼痛知覚)、痛覚過敏(有害な刺激に対する過度の応答)又は知覚過敏(接触に対する過度の応答、アロデニアとも呼ばれる)が含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに、しびれや麻痺を伴う場合もある。 末梢神経の障害に起因する神経因性疼痛の疾患としては、末梢神経の圧迫又は末梢神経の損傷による神経因性疼痛が挙げられ、特に糖尿病性ニューロパチー、絞扼性(圧迫性)末梢神経障害、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、手根管症候群、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)、肩手症候群、CRPS(complex regional pain syndrome)type I、CRPS type II、帯状疱疹後神経痛、HIVによる神経障害、抜歯後などの非定形性顔面痛、三叉神経痛などが挙げられる。さらにNSAIDsなどの消炎鎮痛剤投与後も残存する疼痛を有する術後痛、慢性関節リウマチや変形性関節症なども挙げられる。さらに線維筋痛症、難治性局所疼痛症候群、特発性または外傷後ニューロパシーおよび単神経炎のようなニューロパシーに伴う疼痛や癌が神経に浸潤して起こる神経因性疼痛が挙げられる。さらにはNSAIDsなどの消炎鎮痛剤投与後も残存する疼痛を有する腰痛、肩こり、五十肩なども挙げられる。 末梢神経の圧迫による神経因性疼痛とは、絞扼性(圧迫性)末梢神経障害、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、手根管症候群などに起因する神経因性疼痛である。絞扼性(圧迫性)末梢神経障害には、頚椎症、肘部管症候群、頸部変形性脊椎症、後縦靭帯骨化症、頚椎捻挫、脊椎症、脊椎分離症、変性すべり症、分離すべり症などに起因する疼痛が含まれる。 末梢神経は知覚神経、運動神経、交感神経、副交感神経などを意味し、中枢神経は脳と脊髄の神経を意味する。 末梢神経の障害に起因する神経因性疼痛は、末梢組織における自発痛、痛覚閾値低下、痛覚過敏、アロディニアを呈する疾患であるが、これに限定されるものではない。さらに、神経性の間欠性跛行すなわち末梢神経の障害に鬱血負荷が加わって生じる疼痛の増強も含まれる。さらに、しびれや麻痺を伴う場合もある。 また、神経障害の種類は単一性神経障害であっても、多発性神経障害であっても良い。治療効果とは、神経が傷害された後に薬剤を投与することにより、神経因性による疼痛を治療する効果であり、更に詳細には低下した痛覚閾値を正常値にまで戻すことにより疼痛を治療する効果である。 持続投与で神経因性疼痛の治療効果を発現するのに充分な量のカルシトニンとは、神経因性疼痛を発症している患者又は動物に持続投与することにより神経因性疼痛の治療効果を発現する量を意味する。好ましくは血清カルシウム値を変動させない濃度である。血清カルシウム値の変動とは、投与開始前あるいはビヒクル投与時の値との比較で統計的に有意な変化が無いことを意味するが、投与開始から24時間以内に起こる一過性の変動で血清カルシウム値の正常域を超えない場合は許容される。また、本願発明においては、血清カルシウム値は、血中カルシウム値または血漿中カルシウム値と代替可能である。 ヒトにおける血清カルシウム値を変動させないエルカトニンの投与量としては、0.093mU/kg/秒未満が例示される。つまり、骨転移癌患者でのモルヒネ持続投与へ混入させたカルシトニン400U/ヒト/dayの皮下投与では、血清カルシウムの有意な低下が認められている(J. Pain and Symptom Management, 1999, vol.18 No.5, p.323−330)。一方、腎性骨症患者における40U/ヒト/5時間の点滴静脈内投与では、有意な血清カルシウムの低下は認められていない(新薬と臨床、1985、第34巻、第4号、p.587−592)。従って、ヒトで血清のカルシウム値を変動させるカルシトニンの投与量は、ヒトの体重を50kgとすると0.093mU/kg/秒と見積ることは合理的であろう。さらに、点滴静脈内投与は筋肉内あるいは皮下投与の3分の2の投与量であるとしてエルカトニンの皮下投与量を推定すると、0.067mU/kg/秒以下がさらに好ましい。後述の試験例1は、正常ラットにエルカトニンを単回投与(10秒間かけて皮下投与)した場合に、血清カルシウム値を変動させないエルカトニン投与量の閾値を調べたものであるが、その結果として図10に示されるように、エルカトニンを150mU/kg投与した場合から、血清カルシウム値が変動している。すなわち、15mU/kg/秒の投与量が、血清カルシウム値を変動させる閾値であるとの推定が成り立つ。 また、1週間以上持続投与する場合の投与量としては、例えば、ラットでは実施例3に示されるように、0.75mU/kg/week〜75U/kg/weekの間が好ましい。さらに実施例2に示されるように、0.075mU/kg/week〜0.75mU/kg/weekを投与することが好ましい態様もある。さらに実施例4に示されるように、75U/kg/week〜400U/kg/weekが好ましい態様もある。また、ラットの神経因性疼痛に有効な間歇投与の投与量は、5U/kgであり、ヒトでは10U/ヒトと報告されている(新薬と臨床、1990、第39巻、第2号、p.130−136)。従って、ヒト体重を50kgとして、神経因性疼痛に有効な投与量は、ラットの方がヒトより、25倍高いと見積られる。従って、ヒトにおいての下限値としては、0.003mU/kg/week以上が好ましく、0.01mU/kg/week以上がより好ましく、0.03mU/kg/week以上がさらに好ましい。ヒトにおける上限値としては、血清カルシウム値を変動させない量、すなわち56U/kg/week未満が好ましく、40U/kg/week以下がより好ましく、18U/kg/week以下がさらに好ましく、3U/kg/week以下が最も好ましい。この範囲の投与量では得られる鎮痛効果の程度はほぼ一定であり、投与過剰による痛覚鈍磨も発症しないため、この範囲内でのカルシトニン投与量の変動は許容される。 本発明の別の局面では、持続投与における単位時間(秒)あたりのカルシトニンの投与量が、血清カルシウム値を変動させる単位時間(秒)あたりのカルシトニンの閾値投与量の、100分の1以下の量であることが好ましい。理論に拘束されるわけではないが、上述のとおり、試験例1図10より、ラットへのカルシトニン単回投与においては、15mU/kg/秒の投与量が、血清カルシウム値を変動させる閾値であると推定される。また、実施例3における、持続投与で、神経因性疼痛治療効果が観察される最大量は、75U/kg/week(秒あたりに換算すると、0.124mU/kg/秒)である。よって、0.124mU/kg/秒を15mU/kg/秒で除して、約100分の1となる。より好ましくは1000分の1以下、さらに好ましくは5000分の1以下、もっとも好ましくは15000分の1以下の量である。また、20000分の1以下が好ましい別の態様もある。 また、ヒトでは持続投与における単位時間(秒)あたりのカルシトニンの投与量が、血清カルシウム値を変動させる単位時間(秒)あたりのカルシトニンの閾値投与量の、4分の1以下の量であることが好ましい。理論に拘束されるわけではないが、上述のとおり、ヒトへのカルシトニン持続投与においては、0.093mU/kg/秒の投与量が、血清カルシウム値を変動させる閾値であると推定される。また、実施例4における、持続投与の結果より、神経因性疼痛治療効果が観察される最大量は、400U/kg/weekを25で除して、ヒトにおいて16U/kg/week(秒あたりに換算すると、0.0265mU/kg/秒)と見積もられる。よって、0.0265mU/kg/秒を0.093mU/kg/秒で除して、約4分の1となる。好ましくは19分の1以下、より好ましくは100分の1以下、さらに好ましくは1000分の1以下、もっとも好ましくは10000分の1以下の量である。また、20000分の1以下が好ましい別の態様もある。 上記の投与量は皮下及び筋肉内投与の場合の例示であるが、静脈内投与、経皮、経鼻、経肺、経口などの投与経路の体内動態に応じて、適宜、調整すべきである。 勿論、具体的な投与量は体重、性別、症状の重さ等に応じて、適宜、調整すべきであるが、いずれにおいても患者の血清カルシウム値を変動させるべきではない。 神経因性疼痛の治療効果を発現するのに充分な量以上、且つ、血清カルシウム値を変動させる量未満のカルシトニン製剤を8時間以上持続投与することを特徴とする神経因性疼痛の治療方法も本発明の範囲内である。 本発明のために好適な医薬の剤型の例としては、徐放製剤、例えば、皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射又は腹腔内注射による徐放製剤、好ましくは皮下注射又は筋肉内注射による徐放製剤点滴製剤、貼付製剤、等が挙げられる。皮下注射、筋肉内注射、静脈内注射又は腹腔内注射による徐放製剤としては、例えば特表平11−501027に開示されているようなポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)ポリマーといった生分解性の賦形剤を用いたミクロスフェアを用い、カルシトニンが上記の投与量となるように処方したものが例示される。点滴製剤としては「日本臨床、第59巻、第9号、p.1789−1793、2001年」に開示された製剤における医薬をカルシトニンに置き換え、カルシトニンが上記の投与量となるように処方したものが例示される。さらに点滴製剤では点滴容器への吸着と院内感染が問題となる可能性があるため、シリンジポンプ用にあらかじめ薬剤を充填したプレフィールドシリンジ製剤が好ましい例として挙げられる。貼付製剤としては、皮膚への貼付面に微細な針を設け、そこから薬剤が染み出るタイプの貼付製剤を含み、例えば、特表2004−528900に開示されている貼付製剤について、カルシトニンが上記の投与量となるように処方したものが例示される。また、経皮製剤としては、特許第3054175号に開示されているようにn−オクチル−β−D−グルコピラノシドなどの吸収促進剤およびペスタチンなどの蛋白分解酵素阻害剤を含み、カルシトニンが上記の投与量となるように処方されたものも例示される。さらに、経肺製剤の例としては特開2000−143533に開示されているように生分解性ポリマーである乳酸・グルコール酸重合体共重合体の核部分を、粘膜付着性高分子であるキトサンで被覆したナノスフェアを用い、カルシトニンが上記の投与量となるように処方した製剤が挙げられる。また、経口剤としては、特開平11−116499に開示されているようにキトサンで被覆したナノスフェアを用い、カルシトニンが上記の投与量となるように処方した製剤が挙げられる。さらにキトサンで被覆したナノスフェアを用い、カルシトニンが上記の投与量となるように処方した水溶液を特公平7−8806に例示されている鼻内投与用メカニカルスプレー噴霧装置適応バイアルに無菌的に充填して経鼻製剤を得ることもできる。また、“Pharmazie, 61(2), 106−111, 2006” に開示されているように、ドデシル化したキトサンで被覆したリポソームを用いた、消化管に付着し吸収性と持続性を向上させた製剤であって、カルシトニンを上記の投与量となるように処方した製剤も経口剤の例として挙げられる。ただし、これらに限定されないことは言うまでもない。 加えて、徐放製剤としては、後述の実施例1において示すように、アルザ社製のミニ浸透圧ポンプ(2002)に上記の投与量となるようにカルシトニンを充填したものが例示され、これは頸部皮下に埋め込み可能である。 また、骨粗鬆症と神経因性疼痛を併発する患者あるいは動物に本発明の持続投与とカルシトニン間歇投与あるいは骨粗鬆症治療剤を併用することができる。また、神経因性疼痛単独、あるいは癌性疼痛、炎症性疼痛、関節リウマチ、変形性関節症、腰痛、肩こり、五十肩、線維筋痛症などの慢性疼痛、心因性疼痛などと神経因性疼痛を併発する患者あるいは動物に本発明の持続投与とオピオイド類、カンナビノイド受容体作用剤、消炎鎮痛剤、抗うつ剤、神経ブロック剤、PGE1誘導体などの血流改善剤、ギャバペンチンなどの抗てんかん剤、ステロイドホルモン剤、神経栄養因子、抗NGF抗体、抗サイトカイン抗体、P38MAPK阻害剤、セロトニン受容体作用剤、アドレナリン受容体作用剤、アデノシン受容体作用剤、NO阻害剤、バニロイド受容体作用剤、アセチルコリン受容体作用剤、ブラジキニン受容体阻害剤、PKC阻害剤、骨吸収抑制剤、抗リウマチ剤、変形性関節症治療剤、ノイロトロピン、抗ウイルス剤、ノルアドレナリン受容体作用剤、ATP受容体拮抗剤、ビタミンB12製剤、mGluR1拮抗剤などのグルタメート受容体阻害剤、Naチャネル阻害剤、Caチャネル阻害剤、GABA受容体作用剤、NMDA拮抗剤などを併用することができる。 さらに、神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤を製造するためのカルシトニンの使用も本発明の範囲内である。 本発明を実施例、参考例に基づいて説明するが、本発明の範囲は以下の例に限定されることはない。 [実施例1] 末梢神経損傷による神経因性疼痛においてエルカトニン(ECT)の持続投与の効果を確認するため、そのモデル動物である並木ら編, 麻酔科医と基礎研究:疼痛と鎮痛(南江堂),p.37(2000年)に記載の座骨神経絞扼モデル(CCIモデル)を改良して試験を行った。4週齢のSD(IGS)系、雄ラットを購入し、予備飼育、ハンドリングによる馴化、圧刺激逃避閾値測定装置に対する馴化をそれぞれ5日間づつ行った後、7週齢で座骨神経絞扼手術あるいは偽手術を行い試験に供した。 エーテル麻酔下にラットを腹臥位とし、右大腿骨を触れながら、その直上で皮膚を切開した。大腿中央部で大腿二頭筋を剥離し、座骨神経を傷つけないようにしながら約5mm露出させた。4−0 ブレードシルクを用いて、大腿中央部で末梢側から順に4回軽く絞扼した。その後、筋膜と皮膚を縫合した。 結紮手術後8日目の逃避閾値と体重を指標として、無作為化法(SASシステム、version8.2)によりCCI−ビヒクル群(12匹)とCCI−ECT 0.75mU/kg/week、CCI−ECT 7.5mU/kg/week、およびCCI−ECT 75mU/kg/week群(各12匹)にラットを分配した。絞扼手術後11日目にアルザ社製のミニ浸透圧ポンプ(2002モデル)に上記の投与量となるように薬剤を充填し、エーテル麻酔下で頸部皮下に埋め込んだ。ビヒクルには0.02%BSA含有0.1mM sodium acetate buffer(pH5.5)を用いた。アルザ社製のミニ浸透圧ポンプの流量は一定(0.5μL/時間)であり、エルカトニンの投与量は、充填するエルカトニンの濃度で調節した。投与に用いた体重は投与開始後の推定体重とし、予備実験で得た体重増加係数(=1.1)を投与開始時の体重に乗じて算出した。また、充填したエルカトニンの濃度は、HPLCあるいはベータ−ガラクトシダーゼ標識された 2 種類のポリクローナル抗体を抗原(エルカトニン)に結合させて測定するサンドイッチ型 ELISA で確認した。 圧刺激鎮痛効果測定装置による測定(Randall Selitto法)は圧刺激鎮痛効果測定装置(UGO BASILE:7200)のマニュアルに従って行った。また投与開始直後に、反応潜時測定者以外の者が乱数を用いてケージの位置をランダムに移動させ、さらにケージの識別シールを剥がすことにより測定者が個体識別をできない状態で測定を実施した。 先ず、圧力針の位置を調節してアームがラットの足の厚みに対し水平になることを確認した。ラットの右後肢を台座とアーム端の圧力針の間に置いた後、移動子を0にセットしフットペダルを踏み、スクリュー棒を回転させて移動子を16mm/秒の速度で移動させて圧力針に荷重(16g/秒)した。ラットが足を引き込んだ時点でフットペダルを離し、スケール上の移動子の数値(0〜25)を読み取った。読み取った数値を20倍して加圧重量(逃避閾値)に換算した。測定は、2回の測定値の平均値を個体の逃避閾値とした。 成績の統計学的処理は、CCIビヒクル投与群の閾値低下の確認については、手術前値と手術後9日目の閾値を対応のあるt−test(SASシステム、version8.2)で行い、危険率5%以下を有意差有りとした(図中の**:p<0.01)。またCCIビヒクル投与群とCCI ECT投与群との比較は、Williams testにより解析し、危険率2.5%以下を有意差有りとした(CCI−ECT 0.75mU/kg群のみ図中に表示、#:p<0.025, ##:p<0.005)。 図1にその結果を示す。投与開始日の翌日(16時間後)から有意な鎮痛作用が認められ、試験終了まで持続した。さらに投与開始後14日目に血清カルシウム濃度を測定したところ、図2に示すようにエルカトニン持続投与は血清カルシウム量に全く影響しなかった。また、エルカトニン持続投与群はビヒクル投与群に比べて体重に変化は無かった。 従って、エルカトニンの持続投与は、神経因性疼痛モデルの痛覚閾値低下に対して速効性で優れた鎮痛作用を示すことが明らかになった。 [実施例2] 上記実施例1と同様の方法で、エルカトニンの投与量、750μU/kg/week, 75μU/kg/week, 7.5μU/kg/weekの鎮痛作用を調べた。 図3にその結果を示す。CCIモデルは手術前と比べて有意な痛覚閾値の低下が認められていた(##: p<0.01)。投与開始日の翌日から750μU/kg/week投与群では有意な鎮痛作用が認められたが、75μU/kg/week投与群では投与後3日目および4日目のみ有意な効果が認められた(**:p<0.005)。7.5μU/kg/week投与群では有意な効果が認めなかった。従って、神経因性疼痛ラットのおけるカルシトニンの鎮痛作用発現投与量の閾値は75μU/kg/weekであると考えられた。 [実施例3] 上記実施例1と同様のCCIモデル動物を用いて、CCIモデル動物で発症する痛覚過敏に対するエルカトニン持続投与の効果を検討した。CCIモデルの作成、エルカトニンの投与方法、投与開始時期は実施例1と同様とした。エルカトニンの投与量は0.00075U/kg/week、0.0075U/kg/week、0.075U/kg/week、7.5U/kg/week、75U/kg/weekとしCCI対象群にはビヒクルを投与した。測定は、「バシーレ足底試験 BASILE Plantar Test」(UGO BASILE:7370)のマニュアルに従って行った。装置はラットを無拘束の状態で後肢に侵害性熱刺激を与え逃避するまでの時間(反応潜時)を測定するものである。右後肢を測定足とした。最初にラットをガラス板上のアクリル箱の中に置き、5分程度慣らした。移動式I.R(赤外線)ジェネレーター(I.R.容器)をガラス板の下に置き、I.R.容器の上部パネルに刻印された“sight”クロス(I.R.照射位置)を右後肢足底にある6個の球の内側に合わせた。この時ガラス板と後肢が接触していることを確認した。続いてスタートキーを押して熱刺激を与え、ラットが足を引っ込める逃避行動の反応潜時を測定した。尚、逃避行動を起こすと自動的にスイッチがオフになり反応時間がカウントされる。この時、I.R.強度80の刺激を用い、cut−off timeは22.5秒(規定値)とした。測定はガラス板上に糞や尿がないようにきれいに保って行った。2回の測定値の平均値を個体の反応潜時とした。 成績の統計学的処理は、CCIビヒクル投与群の痛覚過敏(反応潜時の短縮)の確認については、手術前値と手術後9日目の閾値を対応のあるt−test(SASシステム、version8.2)で行い、危険率5%以下を有意差有りとした。またCCIビヒクル投与群とCCI ECT投与群との比較は、Williams testにより解析し、危険率2.5%以下を有意差有りとした(図中に表示、##:p<0.005)。 図4に投与開始日の翌日(手術後12日目)の反応潜時を示した。また、図4には参考として手術前値も示した。ビヒクル群に比べエルカトニン投与群では何れの群でも有意な鎮痛作用が認められた。その後2週間投与を持続したが、鎮痛作用は持続していた。 さらに投与開始後14日目に血清カルシウム濃度を測定したところ、エルカトニン持続投与は血清カルシウム量に全く影響しなかった。 従って、神経因性疼痛モデルの痛覚過敏に対しても速効性で優れた鎮痛作用を示すことが明らかになった。さらに、これらの投与量の範囲内では鎮痛作用の程度はほぼ一定であり、正常値を超えた痛覚鈍磨は発生しなかった。 [実施例4] 上記実施例1と同様の方法で、エルカトニンの投与量、75U/kg/week, 400U/kg/weekの鎮痛作用を調べた。図5にその結果を示す。CCIモデルは手術前と比べて有意な痛覚閾値の低下が認められていた(##: p<0.01)。投与開始日の翌日からエルカトニン投与群では有意な鎮痛作用が認められ、その効果は11日後まで持続した(**:p<0.005)。また、別途同週齢のラット(n=3)に75U/kg/weekあるいは400U/kg/weekのエルカトニンを投与し、投与後30分、60分、3時間後、6時間後、1日後、4,6,8,12,15日後の血清カルシウムを測定したが、投与前に比べ変化は認められなかった。 [実施例5] 上記の実施例1と同様にCCIモデルを用いて点滴静脈内投与による鎮痛効果の発現時間を検討した。 CCIモデルの作成、エルカトニンの投与開始時期は実施例1と同様とした。頸静脈にカニューレーション手術を行い、手術2日後にエルカトニン( 0.75U / kg / week )を、1mL / body / 24時間で静脈内持続点滴投与し、4, 8, 12, 24時間後にRandall Selitto法による逃避圧を測定した。その結果、4時間では効果は無く、8時間で改善傾向が、12時間以降で有意な鎮痛作用が認められた(図6)。従って、効果発現時間の閾値は8時間と推定することができる。 また、鎮痛作用発現後、休薬したところ7日間は有意な効果が持続したが休薬後10日では疼痛が再発した。 [製剤例1] 分子量約2万の乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA−7520;和光純薬工業社製, 乳酸:グリコール酸重合比=75:20)2gを100mLの塩化メチレンに溶解した。エルカトニン 40mgを0.01N塩酸 150mLと1/15Mリン酸水素二ナトリウム 100mLに溶解した。エルカトニン溶液にPLGA溶液を滴下し、高速乳化機(POLYTRON)にて攪拌(25000rpm, 5min)した。4℃、20000rpm、10minで遠心分離し、上清を除去した。1/75M リン酸水素二ナトリウム 2mLと塩化メチレン 200mLを加え、半量を以降の工程に使用した。この溶液を2%ポリリシノレイン酸ヘキサグリセリル(Hexaglyn PR−15; 日光ケミカルズ社製)含有のトリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル(トリエスターF810;日光ケミカルズ社製) 300mL/ヘキサン 200mLに滴下(4mL/min)し5000rpmで攪拌した。減圧下37℃にて1晩攪拌し溶媒を留去した。ヘキサン 200mLを加え、遠心分離(4℃、20000rpm、10min)し、上清除去した。ヘキサン160mLを加え同様に遠心分離し、上清を除いた。2%ポリビニルアルコール(PVA−403;クラレ社製)溶液 80mLを加えて、遠心分離(4℃、20000rpm、10min)し、上清除去した。精製水20mLを加えてZetasizer3000HS(Malvern Instruments Ltd, Malvern UK)を用いて粒子径を測定した。粒子径の算出は、動的光散乱(光子相関法)で求めた自己相関係数よりキュムラント法で行い、その平均粒子径(ZAve)は315.7nmであった。 含有率測定:エルカトニン−PLGAマイクロスフェア約30mgを精秤し5mLのメスフラスコに入れた。これに精製水0.5mLを加え再懸濁し、アセトン3.5mLを加え、PLGAを溶解した。精製水にて5mLにメスアップしPLGAを析出させた。この析出物を遠心分離(15℃、20000rpm、15min)で沈殿させ、上清を試料溶液とし、HPLCでエルカトニン標準溶液と比較分析した。その結果、エルカトニン−PLGAマイクロスフェアのエルカトニン含有量は3.4μg/mgであった。 鎮痛実験:上記実施例1と同様のCCIモデル動物を用いて、CCIモデル動物で発症する痛覚過敏に対するエルカトニン−PLGAマイクロスフェアの効果を検討した。エルカトニン−PLGAマイクロスフェアを生理食塩水で溶解し50U/mLとなるように調製した。痛覚過敏が発症した動物に調製液を1mL/kgで頸部皮下に投与した。投与後4, 8, 12, 24時間後、さらに387時間後まで一日1回(月曜日から金曜日)Randall Selitto法による逃避圧を測定した。その結果、4時間では効果は無く、8時間で改善傾向が、12時間以降、有意な鎮痛作用が認められ、387時間後まで効果が持続した(図7)。従って、効果発現時間の閾値は8時間と推定することができる。 また、CCIモデルと同週齢の正常ラットを用いて血中エルカトニン濃度と血清カルシウム濃度を測定した。その結果、血中エルカトニン濃度は投与直後1日以内では高濃度であり、いわゆる初期バーストが認められた。その後387時間後までは1.3〜3.9 pg/mLの範囲内で持続した。一方、血清カルシウム濃度は一過性に低下したが正常域を下回ることはなく、24時間では投与前の値に戻りその後387時間後まで変化は無かった。 [比較例1] 実施例1と同様の方法でエルカトニンの間歇投与の作用を検討した。 入荷後2週目よりエルカトニン(ECT)投与開始までは、全ての動物にビヒクル(0.02%BSA含有0.1mM sodium acetate buffer(pH5.5))を週5回、0.05ml/B.W.100g、皮下投与した。また結紮手術後9日目の逃避閾値と体重を指標として、無作為化法(SASシステム、version8.2)によりCCI−ビヒクル群(12匹)とCCI−ECT 15U/kg 週3回(月水金;火木はビヒクル)、CCI−ECT 15U/kg週5回(月火水木金)群(各12匹)に分配した。絞扼手術後12日目以降に、ECTあるいはビヒクルを0.05ml/B.W.100g、ワンショットにつき10秒かけて皮下投与した。 図8にその結果を示す。CCIモデルは手術前と比べて有意な痛覚閾値の低下が認められていた(**: p<0.01)。ECT投与開始日から3日目までは効果が見られなかったが、ECT週5回投与群では投与開始後4日目から次第に閾値が回復し始め、7日目以降で有意な鎮痛作用が認められた(#:p<0.025, ##:p<0.005)。ECT週3回投与群では改善傾向は見られたが、有意な作用ではなかった。また、ECT投与群では体重増加抑制が認められた。別途投与量をさらに増加して実験を行ったところ、鎮痛効果発現の遅効性は改善せず、体重増加抑制が顕著になるため治療薬としては適さないと考えられた。 従って、エルカトニン間歇投与は神経因性疼痛を改善するが、遅効性で満足な治療効果は得られないことが確認できた。尚、CCI−ECT 15U/kg 週3回群、CCI−ECT 15U/kg 週5回群ともに、血清カルシウム値に変動が見られた。 [比較例2] また、比較例1と同様の方法でエルカトニン週5回、間歇皮下投与の用量依存性を検討した。2週間投与後の成績を図9に示す。Randall Selitto法による痛覚閾値の低下に対しては5U/kgの投与で効果がみとめられ、熱的痛覚過敏に対しては、1.5U/kgでは効果は無く、15U/kg以上で効果が認められた。後述の試験例1の結果から、間歇投与で神経因性疼痛に有効な投与量では、血清カルシウムを正常値(8.5〜10.5mg/dl)以下に低下させることが明らかとなった。 [試験例1] 実施例1,2と、エルカトニンの投与を開始時点で同じ週齢である正常ラット(各4匹)を用いて、単回で皮下投与(10秒かけて投与)した場合に、血清カルシウム値を変動させないエルカトニンの投与量を調べた。採血のタイミングは、エルカトニンによるラットの血清カルシウム値が最大となる投与後60分とした。また採血を投与後30分とした試験を同様に行った。血清カルシウム値の測定は、カルシウムC−テストワコー(和光)を用いて行なった。図10および図11に示すように単回皮下投与では、150mU/kg、すなわち単位時間(秒)あたり、15mU/kg/秒以上で、血清カルシウム値が変動し始めた。その血清カルシウム値は正常値を下回っていた。 以上から、神経因性疼痛におけるカルシトニンの持続投与製剤は、間歇投与に比べ低用量でも優れた作用を発揮し、かつ副作用および投与回数を減らすことができる有用な治療剤及び/又は予防剤であることが確認された。 本発明は、神経因性疼痛に対して有効な作用を示し、医薬用として好適である。図1は坐骨神経絞扼モデルの痛覚閾値の低下に対してエルカトニンを持続投与した際の痛覚閾値の変化を示したものである。 **:絞扼手術前と手術後の痛覚閾値のt−testによる比較 p<0.01、 #:ビヒクル投与群とエルカトニン0.75mU/kg/週投与群の痛覚閾値のWilliams testによる比較 p<0.025、 ##:ビヒクル投与群とエルカトニン0.75mU/kg/週投与群の痛覚閾値のWilliams testによる比較 p<0.005図2は坐骨神経絞扼モデルに対してエルカトニンを14日間持続投与した後(図1の試験終了後)の血清カルシウム濃度を示したものである。図3は坐骨神経絞扼モデルの痛覚閾値の低下に対してエルカトニンを持続投与した際の痛覚閾値の変化を示したものである。 ##:絞扼手術前と手術後の痛覚閾値のt−testによる比較 p<0.01、 **:ビヒクル投与群とエルカトニン投与群の痛覚閾値のWilliams testによる比較 p<0.005図4は坐骨神経絞扼モデルの痛覚過敏に対してエルカトニンを持続投与した際の投与開始翌日における反応潜時を示したものである。参考として手術前値も示した。 ##:ビヒクル投与群とエルカトニン各投与群の反応潜時のWilliams testによる比較 p<0.005図5は坐骨神経絞扼モデルの痛覚閾値の低下に対してエルカトニンを持続投与した際の痛覚閾値の変化を示したものである。 ##:絞扼手術前と手術後の痛覚閾値のt−testによる比較 p<0.01、 **:ビヒクル投与群とエルカトニン投与群の痛覚閾値のWilliams testによる比較 p<0.005図6は坐骨神経絞扼モデルの痛覚過敏に対してエルカトニンを静脈内持続点滴投与した際の痛覚閾値を示したものである。参考として手術前値(pre)も示した。 ##:ビヒクル投与群とエルカトニン各投与群の痛覚閾値のt− testによる比較 p<0.01図7は坐骨神経絞扼モデルの痛覚過敏に対してエルカトニン−PLGAマイクロスフェア(EL−PLGA)を投与した際の痛覚閾値を示したものである。右図は左図の拡大図である。右図のみ統計的有意差を次のマークで示した。* or **:生食投与群とEL−PLGA投与群の痛覚閾値のt−testによる比較 p<0.05 or p<0.01図8は坐骨神経絞扼モデルを用いてエルカトニンを間歇投与した際の痛覚閾値の変化を示したものである。矢印は、ビヒクルまたはエルカトニンが皮下投与により間歇投与された日を示す。 **:絞扼手術前と手術後の痛覚閾値のt−testによる比較 p<0.01、 #:ビヒクル投与群とエルカトニン各投与群の痛覚閾値のWilliams testによる比較 p<0.025、 ##:ビヒクル投与群とエルカトニン各投与群の痛覚閾値のWilliams testによる比較 p<0.005図9は坐骨神経絞扼モデルの痛覚過敏あるいは痛覚閾値低下に対してエルカトニンを間歇投与した際の2週間投与後における反応潜時あるいは痛覚閾値を示したものである。 **:ビヒクル投与群とエルカトニン各投与群の反応潜時のWilliams testによる比較 p<0.005図10は正常ラットにエルカトニンを単回皮下投与した際の血清カルシウム濃度の変化を示したものである(投与後60分)。図11は正常ラットにエルカトニンを単回皮下投与した際の血清カルシウム濃度の変化を示したものである(投与後30分)。 カルシトニンを有効成分として含有する神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤であって、カルシトニンが血清カルシウム値を変動させない量で持続投与され、但し該カルシトニンが血清カルシウム値を変動させない持続投与量が0.093mU/kg/秒未満であり、前記持続投与はカルシトニンを一定時間以上、連続的に体内へ放出する投与方法を意味し、且つ該一定時間は8時間以上であることを特徴とする神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤。 神経因性疼痛が末梢神経の圧迫または末梢神経の損傷によるものであることを特徴とする請求項1に記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤。 カルシトニンがエルカトニンである請求項1又は2に記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤。 カルシトニンを有効成分として含有し、該カルシトニンを8時間以上連続的に体内へ放出する投与のための神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤であって、剤型が徐放製剤、点滴製剤あるいは貼付製剤のいずれかであり且つカルシトニンを0.093mU/kg/秒未満の量で投与するための剤型であることを特徴とする神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤。 徐放製剤の投与形態が、注射製剤、埋め込み製剤、経皮製剤、経肺製剤、経口製剤のいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤。 請求項1〜5のいずれかに記載の神経因性疼痛治療剤及び/又は予防剤を製造するためのカルシトニンの使用。