生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_ラジカルスカベンジャー及び活性酸素消去剤
出願番号:2007520104
年次:2012
IPC分類:A61K 38/00,A61P 27/12


特許情報キャッシュ

名取 俊二 大津 國幹 奥山 元 JP 5079503 特許公報(B2) 20120907 2007520104 20060606 ラジカルスカベンジャー及び活性酸素消去剤 株式会社インバイオテックス 504034493 特許業務法人 小野国際特許事務所 110000590 名取 俊二 大津 國幹 奥山 元 JP 2005166842 20050607 20121121 A61K 38/00 20060101AFI20121101BHJP A61P 27/12 20060101ALI20121101BHJP JPA61K37/02A61P27/12 A61K 9/00- 9/72 A61K 38/00-49/22 A61K 31/00-33/44 CAPLUS/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開平08−337594(JP,A) 特開平02−129101(JP,A) 特開昭49−043884(JP,A) 特開2002−173473(JP,A) 特表2000−515115(JP,A) 特許第4125519(JP,B2) 特開2005−008625(JP,A) 国際公開第2002/040028(WO,A1) 特開2001−226283(JP,A) NEUROSCIENCE LETTERS,2000年,VOL.296,P.37-40 BIOMEDICAL PERSPECTIVES,1998年,VOL.7,NO.1,P.77-83 戦略的基礎研究推進事業研究年報,2000年,P.180-184 J.AGRIC.FOOD CHEM.,2003年,VOL.51,P.4596-4602 2 JP2006311269 20060606 WO2006132205 20061214 22 20090116 吉田 佳代子 本発明は、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)等の3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン誘導体又はその塩の新規な用途(ラジカルスカベンジャー、活性酸素消去剤等)に関する。 フリーラジカルによる障害の生体内標的分子としては、脂質、糖、核酸、酵素、タンパク質等が重要である。特に、すべての細胞膜の脂質中に局在する高度不飽和脂肪酸はフリーラジカルにより攻撃され、脂質過酸化連鎖反応を介し過酸化脂質を生成する。この過酸化脂質による直接的又は間接的な作用が、フリーラジカルによる生体膜障害の一因として考えられている。生体膜は、脂質及びタンパク質で構成されているが、それらは細胞及び小器官を仕切る隔壁としてのみならず、生理活性物質の素材として、又は酵素及び膜表面の受容体の足場として等、多様な機能を集約した場を形成している。そのため、フリーラジカルによる連鎖的脂質過酸化反応は、膜構造の破壊だけでなく、そこで働くタンパクの酵素作用及び受容体機能にも大きな障害をもたらすことになる。このような連鎖的脂質過酸化反応がいずれかの臓器又は細胞に生じれば、当然その部位に障害が生じ、場合によっては特定の疾患が引き起こされる。さらに、過酸化脂質は局所より血液中に流出し、血管病変をはじめとする二次的病変の原因となることも知られている。 糖尿病の合併症、腎不全の合併症、ショック時の多臓器不全等は、その代表例である。タンパク質中のメチオニン、ヒスチジン、シスチン、チロシン及びトリプトファン残基は、フリーラジカル及び/又は活性酸素によって酸化を受けやすいアミノ酸残基である。この酸化修飾により、酵素ならば不可逆的不活性化を引き起こす同時に、プロテアーゼによる分解を受けやすくなる。(このような酵素の酸化的不活性化は、同時に白血球の殺菌作用にもつながるものである。) 一方、フリーラジカル及び/又は活性酸素による核酸障害は、癌及び老化との関わりにおいて特に重要である。フリーラジカル及び/又は活性酸素は、核酸の塩基部、糖部、エステル結合部いずれとも反応し酸化することが明らかとなっている。キサンチン−キサンチン酸化酵素系、ホルボールエステルにより活性化された白血球又はタバコの煙等から発生する活性酸素により、DNAが切断されることが報告されている。糖のフリーラジカルの生体内における役割については、グルコースの自己酸化、脂質の過酸化、細胞内の糖代謝等から、グルコースに比較して高い反応性を示すグリオキサール、メチルグリオキサール、グリコールアルデヒド、3−デオキシグルコソン、グルコソン等のアルデヒドがタンパクのAGE(Advanced glycation endproducts)化に深く関与していることが知られている。ヒアルロン酸の活性酸素による解重合反応が、慢性関節リウマチの滑液粘度の低下の原因と考えられている。フリーラジカル及び/又は活性酸素が具体的に関連する主な疾患は、下記の通りである。 白内障、眼科手術に伴う傷害、コンタクトレンズ使用に伴う傷害、角膜移植に伴う傷害、開放隅角緑内障(POAG)、角膜疾患、ドライアイ、かすみ目、黄斑変性症、網膜変性疾患(加齢性黄斑変性症)、未熟児網膜症、眼鉄錆症、ぶどう膜症、脳梗塞、脳虚血、脳浮腫、心筋梗塞、虚血再灌流障害、腎再灌流、不整脈、動脈硬化、頭部外傷、脳外傷、脊髄外傷、関節炎、炎症、歯周病、歯髄炎、ぶどう膜炎、湿疹/皮膚炎、紫外線による(皮膚)障害、自己免疫疾患(リウマチ等)、糖尿病、胃炎/胃潰瘍(胃粘膜障害)、肝疾患(薬剤性肝障害)、潰瘍性大腸炎、クローン病(IBD)、虚血性腸炎、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、ダウン症、統合失調症(精神分裂病)、てんかん、神経変性疾患、アルツハイマー病、パーキンソン病、老化、筋萎縮性側策硬化症(ALS)、溶血性疾患、播種性血管内凝固症候群(DIC)、敗血症性ショック、外傷性ショック、皮弁壊死、浮腫、パラコート中毒、血管透過性亢進、肺気腫、急性膵炎、ポルフィリン血症、地中海性貧血、及び熱傷、凍傷、放射線、薬物又は血液透析により誘発される活性酸素又は他のフリーラジカル上昇等(非特許文献1,2)。 白内障は水晶体の混濁によって視力が低下する疾患であり、その成因には水晶体タンパク質の糖化反応(glycation)による構造上の変化以外に、酸化的ストレスの関与が指摘されている(非特許文献3)。水晶体で吸収される300〜400nmの近紫外線は、活性酸素を産生し、水晶体タンパク質の会合及び脂質の過酸化を進行させる結果、高分子物質や不溶性タンパク質が生じ、散乱光/黄色色調の増加をきたすと考えられる(非特許文献3)。また白内障眼においては、同年齢のヒトの正常水晶体と比較して、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)又はカタラーゼ等の酵素活性低下、及びアスコルビン酸又は還元型グルタチオン(GSH)等の減少、並びに過酸化脂質の増加等が認められることが指摘されている(非特許文献3)。 N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)は公知化合物であり、その薬理作用として、例えば、抗菌作用及び抗腫瘍作用(特許文献1,非特許文献4)、破骨細胞形成阻害作用(特許文献2)、黒色腫又は乳癌に対する抗腫瘍作用(特許文献3)が知られている。Pharma Medica, 8(4),11-14(1990).Clinical Neuroscience, 19(5),520-525(2001).Exp Eye Res. 2000, 70(1):81-8.J. Biol. Chem. 1996, 271:13573-13577.Cancer Sci. 2003, 94(4):400-4.特許第3634894号公報特許第3586809号公報特開2001-213799号公報 しかしながら、従来知られているラジカルスカベンジャーのうち、例えば、ジブチルヒドロキシルトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、EDTA−2Na等の作用の強力な合成低分子化合物は安全性、吸収、代謝等に問題がある一方、ビタミンE誘導体、アスコルビン酸、ケルセチン、各種ポリフェノール類等の安全性、吸収、代謝等に優れる天然化合物は作用が弱いという問題点を有していた。 そこで、本発明は、新規なラジカルスカベンジャー、活性酸素消去剤、抗酸化剤、フリーラジカル又は活性酸素に起因する疾患又は症状の予防・治療剤、眼科用医薬組成物、並びに臓器保存又は灌流用組成物を提供することを目的とする。 上記課題を解決するために、本発明は、次式(I):[式中、R1は水素原子又は任意のアミノ酸残基を表し、R2は水素原子又は次式(II):[式中、R3は水素原子又は任意のアミノ酸残基を表し、R4は水酸基又は任意のアミノ酸残基を表し、nは1又は2を表す。]で表される基を表す。但し、R1及びR2のいずれか一方が水素原子である場合、他方は水素原子ではない。]で表される3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン誘導体又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有するラジカルスカベンジャー、活性酸素消去剤、抗酸化剤、フリーラジカル又は活性酸素に起因する疾患又は症状の予防・治療剤、眼科用医薬組成物、臓器保存又は灌流用組成物を提供する。 本発明において、前記3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン誘導体が、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニンであることが好ましい。 本発明により、新規なラジカルスカベンジャー、活性酸素消去剤、抗酸化剤、フリーラジカル又は活性酸素に起因する疾患又は症状の予防・治療剤、眼科用医薬組成物、並びに臓器保存又は灌流用組成物が提供される。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)及び対照化合物の過酸化脂質抑制作用を比較した図である。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)及び対照化合物のDPPHラジカル消去活性を比較した図である。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)及び対照化合物のO2−消去活性作用を比較した図である。ガラクトース負荷白内障モデルマウスにおける、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)の効果した図である。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)及び対照化合物のDPPHラジカル消去活性を比較した図である。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)及び対照化合物のDPPHラジカル消去活性を比較した図である。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)及び対照化合物のO2−消去活性作用を比較した図である。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)及び対照化合物のO2−消去活性作用を比較した図である。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)の、VEGF惹起による血管新生の抑制作用を示す図である。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)及び対照化合物の血管新生抑制作用を比較した図である。N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)及び対照化合物の抗酸化作用を比較した図である。 R1、R3又はR4で表される任意のアミノ酸残基には、いかなる種類のアミノ酸残基も含まれ、R1、R3又はR4で表されるアミノ酸残基としては、例えば、α−アミノ酸残基、β−アミノ酸残基、γ−アミノ酸残基、中性アミノ酸(グリシン、バリン、ロイシン等のモノアミノモノカルボン酸)残基、酸性アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸等のモノアミノジカルボン酸)残基、塩基性アミノ酸(アルギニン、フェニルアラニン等のジアミノモノカルボン酸)等が挙げられる。なお、R1、R3又はR4で表される任意のアミノ酸残基の結合様式はアミド結合である。 R1で表されるアミノ酸残基は、好ましくはβ−アラニン残基であり、R3で表されるアミノ酸残基は、好ましくはグルタミン酸残基であり、R4で表されるアミノ酸残基は、好ましくはグリシン残基であり、nは好ましくは1である。 式(I)で表される3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン誘導体(化合物(I))は、好ましくは、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)、β−アラニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(β−AD)又は5−S−システイニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−CD)である。なお、化合物(I)が5−S−GADである場合、R1はβ−アラニン残基、R2は式(II)で表される基、R3はグルタミン残基、R4はグリシン残基、nは1であり、化合物(I)がβ−ADである場合、R1はβ−アラニン残基、R2は水素原子であり、化合物(I)が5−S−CDである場合、R1は水素原子、R2は式(II)で表される基、R3は水素原子、R4は水酸基、nは1である。 化合物(I)には不斉炭素が存在するが、それらの不斉炭素の立体配置は特に限定されず、S−又はR−配置のいずれであってもよい。化合物(I)が1又は2個以上の不斉炭素に基づく異性体として存在する場合、化合物(I)は、立体化学的に純粋な形態の任意の異性体(光学異性体、ジアステレオ異性体等)であってもよいし、任意の異性体の混合物、ラセミ体等であってもよい。例えば、5−S−GADは、分子内に不斉炭素原子を3箇所有しており、各種光学活性体、部分光学活性体、ラセミ体等の異性体が存在するが、それらのうち、いずれか1種であってもよいし、2種以上の混合物であってもよいが、次式で表される光学活性体であることが好ましい。 化合物(I)の薬学的に許容される塩としては、例えば、酸付加塩、塩基付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、コハク酸塩、乳酸塩等の有機酸塩等が挙げられ、塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等の金属塩、アンモニウム塩、メチルアミン塩、トリエチルアミン塩等のアミン塩が挙げられ、アミノ酸付加塩としては、例えば、グリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸等の付加塩が挙げられる。 5−S−GAD、β−AD、5−S−CD等に代表される化合物(I)は、特開平8−337594号公報、特開2001−213799、特開2001−226283、Leem JY等, J Biol Chem, 271, 13573-13577 (1996)、Ito S等, J Med Chem, 124, 673-677 (1981)、Natori S., Molecular Mechanisms of Immune Responses in Insects. London, Chapman&Hall, 245-260 (1998)等に記載された公知の製造方法に準じて製造することができる。 化合物(I)の具体的製造方法は次の通りである。 任意のアミノ酸のアミノ基をt−ブトキシカルボニル基(Boc基)で保護するとともに、当該アミノ酸のカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性エステル化した後、Dopaと反応させることにより、R1が任意のアミノ酸であり、R2が水素原子である化合物(I)を製造することができる。反応混合物からの化合物(I)の精製は、例えば、反応混合物に1N塩酸を添加し、酸性条件下、酢酸エチルを用いて抽出処理を行った後、酢酸エチル層を減圧下で濃縮して析出する結晶を回収し、HPLC処理することにより行うことができる。 また、R1が任意のアミノ酸であり、R2が水素原子である化合物(I)を次式(III):[式中、R3、R4及びnは前記と同義である。]で表される化合物(III)とともにリン酸緩衝液に溶解し、チロシナーゼで処理することにより、R1が任意のアミノ酸であり、R2が式(II)で表される基である化合物(I)を製造することができる。反応液からの化合物(I)の精製は、HPLC処理することにより行うことができる。 また、Dopaを化合物(III)とともにリン酸緩衝液に溶解し、チロシナーゼで処理することにより、R1が水素原子であり、R2が式(II)で表される基である化合物(I)を製造することができる。反応液からの化合物(I)の精製は、HPLC処理することにより行うことができる。 化合物(III)は、次式(IV):[式中、nは前記と同義である。]で表される化合物(IV)(例えば、システイン、ホモシステイン)のアミノ基及びカルボキシル基に任意のアミノ酸をアミド結合させることにより製造することができる。 5−S−GADは、特許第3634894号公報に記載された方法に従って天然物から抽出して得ることもできるし、例えばJ. Biol. Chem. 1996,271:13573-13577.に記載された方法に従って化学的に合成することもできる。例えば、5−S−GADは、センチニクバエの成虫に傷を与えて飼育した後に体液を採取するか、ホモジネート化して原料とし、これをイオンカラムクロマトグラフィー及び逆相HPLCにより分離・分画処理し、抗菌活性を有する画分を採取することにより得ることができる。 化合物(I)は、フリーラジカル(遊離基)捕捉作用、活性酸素消去作用等を有する。化合物(I)が捕捉し得るフリーラジカル(遊離基)は特に限定されるものではないが、例えば、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、DPPH等が挙げられる。化合物(I)が消去し得る活性酸素種は特に限定されるものではないが、スーパーオキサイド、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、一重項酸素等が挙げられる。化合物(I)は、フリーラジカル(遊離基)捕捉作用又は活性酸素消去作用を有するので、ラジカルスカベンジャー又は活性酸素消去剤として使用することができる。また、化合物(I)は、フリーラジカル(遊離基)捕捉作用又は活性酸素消去作用を通じて、フリーラジカル又は活性酸素による物質の酸化の防止、フリーラジカル又は活性酸素に起因する疾患又は症状の予防・治療、フリーラジカル又は活性酸素による臓器(例えば移植用臓器)のダメージ(例えば内皮細胞へのダメージ)の防止等の効果を発揮し得るので、抗酸化剤、フリーラジカル又は活性酸素に起因する疾患又は症状の予防・治療剤、臓器保存又は灌流用組成物等として使用することができる。 フリーラジカル(遊離基)捕捉作用又は活性酸素消去作用を通じて予防又は治療し得る、フリーラジカル又は活性酸素に起因する疾患又は症状としては、例えば、白内障;眼科手術に伴う傷害;コンタクトレンズ使用に伴う傷害;角膜移植に伴う傷害;開放隅角緑内障(POAG);角膜疾患;ドライアイ;かすみ目;黄斑変性症;網膜変性疾患(加齢性黄斑変性症);未熟児網膜症;眼鉄錆症;ぶどう膜症;脳梗塞;脳虚血;脳浮腫;心筋梗塞;虚血再灌流障害;腎再灌流;不整脈;動脈硬化;頭部外傷;脳外傷;脊髄外傷;関節炎;炎症;歯周病;歯髄炎;ぶどう膜炎;湿疹/皮膚炎;紫外線による(皮膚)障害;自己免疫疾患(リウマチ等);糖尿病;胃炎/胃潰瘍(胃粘膜障害);肝疾患(薬剤性肝障害);潰瘍性大腸炎;クローン病(IBD);虚血性腸炎;成人呼吸窮迫症候群(ARDS);ダウン症;統合失調症(精神分裂病);てんかん;神経変性疾患;アルツハイマー病;パーキンソン病;老化;筋萎縮性側策硬化症(ALS);溶血性疾患;播種性血管内凝固症候群(DIC);敗血症性ショック;外傷性ショック;皮弁壊死;浮腫;パラコート中毒;血管透過性亢進;肺気腫;急性膵炎;ポルフィリン血症;地中海性貧血;熱傷、凍傷、放射線、薬物又は血液透析により誘発される活性酸素又は他のフリーラジカル上昇等が挙げられる。 各種用途の組成物を調製する際、化合物(I)のみを用いて目的の組成物を調製してもよいが、通常は、化合物(I)とともに、医薬上許容される1種以上の担体及び/又は添加剤を用いて製剤化することにより目的の組成物を調製する。その場合、化合物(I)の配合量は適宜調節することができる。 医薬上許容される担体としては、例えば、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース等が挙げられる。 製剤化に際して一般的に使用される添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、緩衝剤、抗酸化剤、防腐剤、等張化剤、pH調節剤、溶解剤、安定化剤等が挙げられ、これらの添加剤は製剤の投与単位形態等に応じて適宜選択することができる。 投与経路及び投与剤形は、治療に際して最も効果的なものを使用するのが望ましい。投与経路の一般例としては、経口投与の他、脳内、腹腔内、口腔内、気道内、直腸内、皮下、筋肉内及び静脈内等の非経口投与が挙げられ、投与剤形の一般例としては、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、散剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、噴霧剤、リポソーム剤、乳剤、座剤、注射剤、点眼剤、軟膏、テープ剤等が挙げられる。 眼科用医薬組成物は、例えば、pH調整剤、等張化剤、キレート剤、増粘剤、界面活性剤、水溶性高分子、多価アルコール、無機塩類、糖類、アミノ酸、ビタミン、防腐/防黴剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等を用いて、例えば、点眼剤、洗眼剤、眼軟膏、インプラント(強膜内)等の剤形として調製することができる。化合物(I)の配合量は剤形に応じて適宜調節することができるが、例えば、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)を配合する場合、その配合量は通常0.0005〜2.0質量%、点眼剤の場合には好ましくは0.001〜0.5質量%、洗眼剤の場合には好ましくは0.001〜0.2質量%、眼軟膏の場合には好ましくは0.001〜1.0質量%、硝子体内投与等に使用する注射剤の場合には好ましくは0.01〜5.0質量%の範囲である。化合物(I)を容器保存しておき、使用時に溶解液を加えて点眼液等の眼科用医薬組成物を調製することもできる。調製後の眼科用医薬組成物は遮光条件にて冷蔵保管することが好ましい。眼科用医薬組成物は、生体許容範囲内の物理化学的条件(pH、浸透圧等)に調節されることが好ましい。pHは通常4.0〜9.0、好ましくは4.3〜8.5、さらに好ましくは4.5〜8.0であり、浸透圧は通常100〜1,200mOsm、好ましくは100〜600mOsm、さらに好ましくは150〜400mOsmであり、生理食塩液に対する浸透圧比は、通常0.3〜4.1、好ましくは0.4〜2.1、特に好ましくは0.5〜1.6である。pH、浸透圧等の調節は、pH調整剤、等張化剤、塩類等を用い常法により行うことができる。 眼科用医薬組成物を角膜を含む眼へ投与する場合、化合物(I)を有効成分として含有する注射剤を調製し、角膜、硝子体等の患部組織又はその隣接組織中に細い注射針で直接注入することができる。また、ポンプ等を用いて眼内潅流液として投与することができる。また、化合物(I)をコンタクトレンズの成分として予め含浸させておくことにより、角膜を含む眼への投与を行うことができる。 強膜は、脊椎動物の眼周囲の大部分を包囲している、高度に規則化したコラーゲン網目組織からなる薄い無血管性の層である。強膜は無血管性であるので、そこに注射しても、本質的に出血の危険性はなく、注射剤は眼からすぐに失われることがない。したがって、強膜を天然の薬剤貯蔵場所として利用することができる。また、強膜を天然の薬剤貯蔵場所として利用することにより、下層の組織への薬剤供給が可能となる。 また、化合物(I)を徐放性ポリマーのペレット又はマイクロカプセルに取り込ませて徐放剤とし、当該徐放剤を治療すべき組織中に外科的に移植することができる。徐放性ポリマーとしては、例えば、エチレンビニルアセテート、ポリヒドロメタクリレート、ポリアクリルアマイド、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、乳酸ポリマー、乳酸・グリコール酸コポリマー等が挙げられるが、これらのうち、生分解性ポリマーである乳酸ポリマー、乳酸・グリコール酸コポリマー等が好ましい。徐放剤の使用にあたり参照することができる事例としては、インサート剤やインプラント剤の使用(米国特許第4,863,457号)がある。これらは眼上又は眼内へ長期にわたって薬剤を放出する。インサート剤とは、結膜層上といった眼上に差し込まれた器材であり、これは一般に活性化合物を含有するポリマーマトリックスからなる。徐放剤を強膜中に移植した場合、徐放剤から放出された化合物(I)は強膜を通って眼内に拡散することができる。 眼科用医薬組成物を投与する場合、一日あたりの投与回数は限定されないが、通常は1日1〜10回を症状/発症部位、年齢等の状況に応じて片眼又は両眼に投与することができる。投与量は、点眼剤の場合、1回の点眼あたり両眼で約0.2mL、洗眼剤の場合、両眼で約10mL、眼軟膏の場合、両眼で約0.1gであり、注射剤の場合、約0.1mLである。点眼剤の場合、例えば、1回1〜2滴、1日3〜5回点眼することにより、所望する効果を得ることができる。 経口用医薬組成物は、例えば、賦形剤、酸化防止剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤等を用いて、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤等の剤形として調製することができる。賦形剤としては、乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、二酸化ケイ素等が挙げられ、結合剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、メグルミン等が挙げられ、崩壊剤としては、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、カルボキシメチルセルロース・カルシウム等が挙げられ、滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が挙げられ、着色剤としては、医薬品に添加することが許可されているもの等が挙げられ、矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末等が挙げられる。錠剤、顆粒剤等に対して、糖衣等のコーティングを適宜施してもよい。 注射用組成物は、例えば、pH調整剤、溶解剤、等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、酸化防止剤等を用いて調製することができる。 外用剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等に通常使用される各種基剤、例えば、動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス類、高級アルコール類、脂肪酸類、シリコン油、界面活性剤、リン脂質類、アルコール類、多価アルコール類、水溶性高分子類、粘土鉱物類、精製水、pH調整剤、酸化防止剤、キレート剤、防腐/防黴剤、着色料、香料等を用いて調製することができる。外用剤には、必要に応じて、血流促進剤、殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、角質溶解剤等の成分を配合することもできる。 医薬組成物を経口、静脈内、筋肉内、経直腸又は経皮投与する場合、その投与量は患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路等の条件に応じて適宜増減されるべきであるが、一般的には、成人一日あたり0.1〜1000mg/kgの範囲であり、好ましくは10〜500mg/kgの範囲であり、特に好ましくは50〜100mg/kgの範囲である。上記投与量の薬剤は、毎日投与してもよいし、数日間隔で投与してもよく、例えば1〜4日毎に投与することができる。 化合物(I)を有効成分として含有する臓器保存又は灌流用組成物は、常法により液剤等の剤形に調製することができる。化合物(I)の配合量は特に限定されるものではないが、通常0.01〜0.2質量%、好ましくは0.02〜0.1質量%である。移植臓器の保存又は灌流用である場合、高カリウム細胞内液と同様の組成物、例えば、UW(University of Wisconsin)液、ET−Kyoto液、Collins液、Euro−Collins液、Sachs液等の公知の臓器保存組成物に、化合物(I)又はその薬学的に許容される塩を加えることにより、臓器保存又は灌流用組成物を調製することが好ましい。臓器保存又は灌流用組成物の物理化学的性質は、ベースとなる臓器保存組成物と同様であるが、pHは通常約6〜9、好ましくは約7.4であり、カリウム濃度は通常約1〜10mM、好ましくは約2〜8mM、さらに好ましくは約4〜6mMである。〔実施例1〕過酸化脂質抑制作用 遊離基捕捉作用(フリーラジカルスカベンジ作用)として、LDL酸化に対するN−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)の効果を調べた。対照として、ドパミン(dopamine)及び白内障点眼治療薬として使用されているカルノシン(Carnosine:登録商標、成分名:N-アセチルカルノシン)を用いた。LDLの調製は、分画遠心法を用いて血清中1.019〜1.063g/mLの比重分画をヒトLDLとした。0.2mg/mL LDLに5μM CuSO4と、5−S−GAD(3〜100μM)、N−アセチル−カルノシン(100μM〜10mM)又はL−カルノシン(10μM〜10mM)とを添加し、37℃で3時間インキュベートした。インキュベーション終了後、TBARS(チオバルビツール酸反応性物質)を測定した。TBA反応は非特異的な反応であるが、マロンジアルデヒドをはじめとする種々の脂質過酸化生成物を検出する方法である。硫酸銅による過酸化反応実験はN=2で2回行った。3.75mg/mL チオバルビツール酸(Thiobarbituric acid;TBA)、150mg/mL トリクロロ酢酸(Trichloroacetic acid;TCA)及び0.25N 塩酸(Hydrochloric acid;HCl)を含む水溶液をTBA試薬として調製するとともに、標準液としてテトラメトキシプロパン(2,5,10,20,40μM)を調製し、エッペンドルフチューブ(1.5mL)中にLDLサンプル又は標準液各100μLとTBA試薬を200μLとを添加し、キャップをしてよく混和した。95℃で15分間加熱した後、水冷し、3000rpmで5分間遠心した。上清の吸光度(535nm)を測定した。標準液の吸光度から検量線を作成し、検量線に基づいてLDLサンプルのTBARS量(nmol/mg LDL protein)を計算した(平均値、n=2、表1及び図1参照)。 表1及び図1に示すように、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)は、ドパミンと同等、カルノシン(Carnosine:登録商標)と比較して10倍以上の抗酸化作用を示した。〔実施例2〕DPPH消去活性 DPPH(1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazyl)は窒素ラジカルの一種であり,きわめて安定なラジカルで,黒紫色の結晶として市販されている(和光純薬株式会社等)。50mM DPPHラジカルのエタノール溶液にN−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)(表2参照)又はカルノシン(登録商標)(表3参照)を添加し、室温下5分間反応させた(下記反応式参照)。被験試薬の代わりに蒸留水を添加したものをバックグラウンドとした。517nmにおけるDPPHの吸光度を測定し、DPPHラジカルの消去率(%)を下式により算出し、ラジカルスカベンジャー活性とした(平均値、n=2、表2、表3及び図2参照)。 ラジカル消去率(%)=[(バックグラウンドの測定値(平均)−各濃度液の測定値)/バックグラウンドの測定値(平均)]×100 表2、表3及び図2に示すように、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)は、強力なDPPHラジカルの消去作用を示したが、カルノシン(登録商標)には全く効果が認められなかった。〔実施例3〕スーパーオキシドアニオン(O2−)消去活性作用 200μM ルシゲニン含有 50mM炭酸バッファー(pH10)中にて、100μM キサンチンと、1mU/mL キサンチンオキシダーゼとを反応させ、産生するスーパーオキシドアニオン(O2−)依存の化学発光量をBIOLUMAT(登録商標)(型式LB9505、EG&G BERTHORD社製)を用いて10分間測定した。10分間の化学発光総量を示す曲線下面積を計算し、被試験薬液の代わりに同量のPBS(-)を添加した群(コントロール)の曲線下面積を100として、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)(表4)又はカルノシン(登録商標)(表5)を添加して化学発光上昇に対する影響を検討し、その抑制活性をスーパーオキシドアニオン消去活性(%)とした(平均値、n=2、表4、表5及び図3参照)。 表4、表5及び図3に示すように、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)は、強力なスーパーオキシドアニオン(O2−)消去作用を示したが、カルノシン(登録商標)には全く効果が認められなかった。〔実施例4〕ガラクトース負荷白内障モデル[点眼液の調製] 被験物質352mgを秤量後、1.1mLの1N−NaOH(1mol/L水酸化ナトリウム、和光純薬工業株式会社)に溶解した。溶解後、pH試験紙(Duotest:登録商標、MACHEREY−NAGEL)でpHが許容範囲(5〜8)内であることを確認した。その後、2mL容のチューブに0.03mL×30本(1日4回の7日間分28本+予備2本)に分注した。これらを液体窒素で直ちに凍結し、冷凍(設定:−85℃、許容範囲:−90〜−75℃)/遮光条件下で保管した。この保管した溶液を320mg/mLのストック液とした。このストック液の使用は、調製後8日間以内とした。調製後8日間を越したストック液は廃棄処分した。 点眼前の調製としては、320mg/mL ストック液のチューブ1本を室温に戻した後、生理食塩液0.93mLをチューブに直接加えて希釈した。希釈調製後、pH試験紙でpHが許容範囲(5〜8)内であることを確認し、この点眼液を1.0%点眼液とし、投与に使用した。さらに、この1.0%点眼液から2mL容チューブに0.09mLを分注し、生理食塩液0.81mLをチューブに直接加えて希釈調製後、pH試験紙でpHが許容範囲(5〜8)内であることを確認し、この点眼液を0.1%点眼液とし、投与に使用した。なお、pHが許容範囲内から逸脱した点眼液は投与に使用しなかった。実際に投与に使用した1.0%点眼液のpHは5.2〜8.0であり、0.1%点眼液では6.2〜7.4であった。媒体は、対照物質の生理食塩液をそのまま使用した。[白内障モデルの作製] 3週齢の雄性Crj:CD(SD)IGS系ラット(SPF)に対して5日間の検疫期間をおき、その後8日間の馴化期間を設けた。無作為抽出法により、各群の平均体重及び分散がほぼ等しくなるよう1群10匹の3群に群分けした。群分け後は50%ガラクトース含有粉末飼料〔CRF−1粉末飼料(ロット番号:041104、製造元:オリエンタル酵母工業株式会社)とガラクトース(D−ガラクトース、ロット番号:QYG0223、製造元:米山薬品工業株式会社)との等量混合粉末飼料(ロット番号:050107)であり、オリエンタル酵母工業株式会社で混合したもの。以下「ガラクトース飼料」と略す。〕を粉末給餌器に入れ、自由に摂餌させた。また、飲料水も自由に摂取させた。[投与方法] 上記3群を、(A)媒体対照群、(B)0.1% 5−S−GAD点眼液群、(C)1.0% 5−S−GAD点眼液群として投与した。投与経路は、臨床推定適用経路である点眼投与とした。1日の点眼回数は4回とし、その点眼頻度は約2時間間隔とし、それぞれの点眼時間帯は9時30分前後(規定時間範囲:9〜10時)、11時30分前後(規定時間範囲:11〜12時)、13時30分前後(規定時間範囲:13〜14時)、15時30分前後(規定時間範囲:15〜16時)とした。点眼期間は28日間とした。 眼科的検査は、点眼1日、7日、14日、21日及び28日の最終点眼終了後、約30分から実施した。観察方法は、点眼処置の右眼と無処置の左眼について行い、水晶体をスリットランプ(SL−15、興和株式会社)を用いて観察した。白内障程度の評価は、Cotlier(Arch Ophthalmol.,(67)476-82,1962.のFig. 1 − Development of galactose cataract in the rat, showing biomicroscopic front and slit view)の基準に従い、点眼処置した右眼について、1から5まで0.5間隔の9段階 (スコア)評価で行った。なお、スリットランプで異常が認められない場合の評価はゼロとした。[結果](1)眼科的検査 眼科的検査により、各群の白内障程度を経時的に観察/評価した結果を表7及び図4に示す(n=10、平均±標準誤差、表7及び図4参照)。(A)媒体対照群、(B)0.1% 5−S−GAD点眼液群、(C)1.0% 5−S−GAD点眼液群 Wilcoxon検定による、各群と媒体対照群との有意差(*:p<0.05、**:p<0.01) 媒体対照群では、点眼1日には糖白内障は10例全例に観察されなかったが、点眼7日では、軽度な糖白内障(評点1.5〜2.5)が10例全例に見られた。点眼14日では、糖白内障は軽度から中程度(評点3.0〜4.5)へと進行し、点眼21日では、重度(評点5.0)例が10例中2例に認められ、残りの8例では中程度であった。点眼28日では、10例中4例が重度な糖白内障を示し、残りの6例は中程度を示し、点眼日数すなわちガラクトース飼料での飼育日数の増加に伴って糖白内障の程度は進行した。 0.1% 5−S−GAD点眼液群では、点眼21日以降に中程度の糖白内障例が出現したが、点眼28日まで重度な糖白内障を呈する例は出現しなかった。媒体対照群との比較では、点眼14日以降は評点は低値で推移し、点眼14日(P=0.039)及び点眼28日(P=0.002)に、いずれも有意差が認められた。 1.0% 5−S−GAD点眼液群では、0.1% 5−S−GAD点眼液群とほぼ同様であり、点眼28日まで重度な糖白内障を呈する例は出現しなかった。媒体対照群との比較では、点眼14日以降は評点は低値で推移し、点眼7日(P=0.017)、点眼14日(P=0.012)及び点眼28日(P=0.001)に、いずれも有意差が認められた。 なお、1.0% 5−S−GAD点眼液群で得られた平均評点は、0.1% 5−S−GAD点眼液群と比較して点眼7日以降に低値であった。媒体対照群、0.1% 5−S−GAD点眼群及び1.0% 5−S−GAD点眼群とも、いずれの例にも点眼期間中の点眼前及び最終点眼後約1時間に一般状態の異常は観察されなかった。(2)病理解析 ガラクトース負荷白内障モデルにおける最終日(28日後)に眼球を摘出し、病理所見を解析した。(A)媒体対照群、(B)0.1% 5−S−GAD点眼液群、(C)1.0% 5−S−GAD点眼液群 水晶体病理所見:−:変化なし、±:微変、+:軽度変化、2+:中等度変化、3+:著変 上記病理所見から明らかなように、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5-S-GAD)は、ガラクトース負荷によるラット白内障モデルにおいて、病理上明らかな改善効果を示した。〔実施例5〕DPPH消去活性 60μM DPPHエタノール溶液に、5−S−GAD又はTEMPOLを最終濃度1〜1000μMとなるように添加し、5分間室温で反応させた後に、DPPHラジカルの濃度を517nmにおける吸光度として測定した。被試験薬の代わりにPBS(−)を添加した反応液のDPPHラジカル濃度をコントロールとした。実施例2と同様にして、DPPHラジカルの消去率(%)を算出し、ラジカルスカベンジャー活性とした(図5参照)。 図5に示すように、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)は、TEMPOLと比較して優れたDPPHラジカルの消去作用を示した。〔実施例6〕DPPH消去活性 60μM DPPHエタノール溶液に、5−S−GAD又はN−アセチル−L−カルノシンを添加し、5分間室温で反応させた後に、DPPHラジカルの濃度を517nmにおける吸光度として測定した。被試験薬液の代わりに蒸留水を添加した反応液のDPPHラジカル濃度をコントロールとした。実施例2と同様にして、DPPHラジカルの消去率(%)を算出し、ラジカルスカベンジャー活性とした(図6参照)。 図6に示すように、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)は、N−アセチル−L−カルノシンと比較して優れたDPPHラジカルの消去作用を示した。〔実施例7〕スーパーオキシドアニオン(O2−)消去活性作用 200μM ルシゲニン含有 50mM 炭酸バッファー(pH10)中で、100μM キサンチンと1mU/mL キサンチンオキシダーゼとを反応させ、産生されるスーパーオキシドアニオン依存の化学発光量を10分間測定した。10分間の化学発光総量を示す曲線下面積を計算し、被試験薬液の代わりに同量のPBS(-)を添加した群をコントロールとした。実施例3と同様にして、5-S-GAD又はN−アセチル−L−カルノシンを添加して化学発光上昇に対する影響を検討し、その抑制活性をスーパーオキシドアニオン消去活性(%)とした(図7参照)。 図7に示すように、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)は、N−アセチル−L−カルノシンと比較して優れたスーパーオキシドアニオン(O2−)消去作用を示した。〔実施例8〕スーパーオキシドアニオン(O2−)消去活性作用 50mMリン酸バッファー(pH7.8)中で、500μM キサンチンと75mU/mL キサンチンオキシダーゼとを反応させ、産生するスーパーオキシドアニオン(O2−)をスピントラッピング剤(DMPO)を用いて電子スピン共鳴法(ESR)で検出した。得られた信号強度(I)を内部標準のマンガンの信号強度(S)で規格化した値を相対強度比(Relative Intensity:RI)として求め、薬剤添加時の値をPBS添加時と比較した。ESRの測定条件は以下の通りである。MicroWavePower 8mW; Field 335±5mT; Scan Time 2min; Mod. 0.1mT; Amplitude ×125-400; Time Constant 0.03 sec. 図8に示すように、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)は、TEMPOLと比較して優れたスーパーオキシドアニオン(O2−)消去作用を示した。〔実施例9〕血管新生抑制作用 100ng/mLのVEGFを含んだマトリゲルプラグに5−S−GADを添加し、C57BL/6の雌マウスに注射した。6日後、マトリゲルプラグを切り出し、マトリゲル中のヘモグロビン含有量を定量した。結果は平均値と標準誤差で示した。Studentのt検定により、検定を行った(*P<0.05)。 図9に示すように、5−S−GADは40μMで、VEGF惹起による血管新生を有意差(P<0.05)をもって抑制した。〔実施例10〕血管新生抑制作用 産卵5日目の鶏卵胚漿尿膜に直径3mmのリングを置き、1%メチルセルロースで希釈した薬剤を10μLリング内に添加した。37℃で48時間インキュベーションした後、漿尿膜に脂肪乳剤を注入し、リングを除去した部分を写真撮影した。画像解析ソフト(クラボウ)を用いて血管面積を測定した。 図10に示すように、5−S−GADは血管新生を有意差(*P<0.05,**P<0.01)をもって抑制した。〔実施例11〕ヒト血液中LDLの酸化反応に対する効果 LDLの調製は、分画遠心法を用いて血清中1.019〜1.063g/mLの比重分画をヒトLDLとした。0.2mg/mL LDLに5μM CuSO4と、5−S−GAD(3〜100μM)、N−アセチル−カルノシン(100μM〜10mM)又はL−カルノシン(10μM〜10mM)とを添加し、37℃で3時間インキュベートした。インキュベーション終了後、TBARS(チオバルビツール酸反応性物質)を測定した。TBA反応は非特異的な反応であるが、マロンジアルデヒドをはじめとする種々の脂質過酸化生成物を検出する方法である。硫酸銅による過酸化反応実験はN=2で2回行った。 3.75mg/mL チオバルビツール酸(Thiobarbituric acid;TBA)、150mg/mL トリクロロ酢酸(Trichloroacetic acid;TCA)及び0.25N 塩酸(Hydrochloric acid;HCl)を含む水溶液をTBA試薬として調製するとともに、標準液としてテトラメトキシプロパン(2,5,10,20,40μM)を調製し、エッペンドルフチューブ(1.5mL)中にLDLサンプル又は標準液各100μLとTBA試薬を200μLとを添加し、キャップをしてよく混和した。95℃で15分間加熱した後、水冷し、3000rpmで5分間遠心した。上清の吸光度(535nm)を測定した。標準液の吸光度から検量線を作成し、検量線に基づいてLDLサンプルのTBARS量(nmol/mg LDL protein)を計算した(図11参照)。 図11に示すように、N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(5−S−GAD)は、N−アセチル−カルノシン及びL−カルノシンと比較して優れた抗酸化作用を示した。 N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する白内障の予防・治療剤。 N−β−アラニル−5−S−グルタチオニル−3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する白内障の予防・治療に用いられる眼科用医薬組成物。


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