生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_人工髄液
出願番号:2007514557
年次:2013
IPC分類:A61K 33/10,A61K 33/20,A61K 9/08,A61K 47/26,A61K 47/04,A61P 7/10,A61P 43/00,A61J 1/05


特許情報キャッシュ

土居 和久 森岡 雄二朗 川野 剛 JP 5197003 特許公報(B2) 20130215 2007514557 20060412 人工髄液 株式会社大塚製薬工場 000149435 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 土居 和久 森岡 雄二朗 川野 剛 JP 2005120476 20050419 20130515 A61K 33/10 20060101AFI20130418BHJP A61K 33/20 20060101ALI20130418BHJP A61K 9/08 20060101ALI20130418BHJP A61K 47/26 20060101ALI20130418BHJP A61K 47/04 20060101ALI20130418BHJP A61P 7/10 20060101ALI20130418BHJP A61P 43/00 20060101ALI20130418BHJP A61J 1/05 20060101ALI20130418BHJP JPA61K33/10A61K33/20A61K9/08A61K47/26A61K47/04A61P7/10A61P43/00 105A61J1/00 351A A61K 9/00-47/00 A61P 1/00-43/00 A61J 1/00 特開平10−323183(JP,A) 特開2000−308669(JP,A) 国際公開第97/048365(WO,A1) 特開2002−173422(JP,A) 特表2005−500260(JP,A) Eliott, K.A.C., et al,Journal of neurosurgery,1949年,Vol.6, No.2,pp 140-152 3 JP2006307736 20060412 WO2006115057 20061102 23 20090204 中西 聡 本発明は、人工髄液、特に頭蓋内手術や神経外科の分野において、洗浄又は灌流の目的や脳脊髄液の喪失を補う目的に利用される人工髄液、該人工髄液を収容した容器包装体、該人工髄液を用いる脳浮腫発生の抑制方法、及び該人工髄液を用いる脳細胞障害発生の抑制方法に関する。 従来、神経外科手術の際に脳脊髄液(CSF)の喪失を補う目的で、生理食塩液、乳酸リンゲル液などが人工髄液として使用されている。また、これらの人工髄液は、手術部位などの洗浄乃至灌流にも使用されている(脳室内洗浄液又は灌流液) (非特許文献1-3参照)。しかしながら、生理食塩水を上記した用途に用いる場合には、頭痛、発熱、頸部硬直などの副作用が報告されており、他の人工髄液でも発熱が報告されている。 また、脳浮腫は、多くの頭蓋内手術における術後の疾病率や死亡率を高める主要な原因として知られている(非特許文献4参照)。例えば、エリオットら(Eliott K.A.C., et al.)は、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩素イオン、グルコースなどを含み、更に重炭酸イオンの所定量を含むSolution Aおよびこれを含まないSolution Bを、それぞれ洗浄液として利用した試験の結果、これらの洗浄液組成が猫における脳暴露後の脳浮腫の発生に関与する要因のひとつであることを示唆している(非特許文献5参照)。 即ち、エリオットは、猫の脳表をSolution BおよびSolution Aで洗浄したところ、Solution Aでは脳表の血管の著明な拡張が見られたが、Solution Bではこれが見られないこと、およびSolution Aでは脳表のpHは低下するが、Solution Bでは生理的なpHに維持されることを報告し、これらのことから、上記洗浄液における重炭酸イオンの重要性を指摘している。しかしながら、エリオットは、脳浮腫の発生を低減させ得る洗浄液の組成についてはこれを示唆していない。 以上のように、脳神経外科において用いられる洗浄液又は灌流液は、いずれにしても、術後の脳浮腫の発生を高めるかまたはそのおそれがあるものと考えられるが、未だ、そのような洗浄液又は灌流液の組成と脳浮腫との関連を解明した報告はなく、脳浮腫の発生を未然に防止し得るか或いは脳浮腫の発生を低減させ得る洗浄液又は灌流液についての報告はなされていない。Oka K., et al., "The significance of artificial cerebrospinal fluid as perfusate and endoneurosurgery", Neurosurgery, 38: 733-736, 1996Pople I.K., et al., "The role of endoscopic choroid plexus coagulation in the management of hydrocephalus", Neurosurgery, 36: 698-702, 1995Whang C.J., et al., "Successful treatment of vantricultis by continuous intraventricular irrigation with gentamicin solution", Surg. Neurol., 2: 91-94, 1974Rasmussen T., et al., "Cortisone in the treatment of postoperative cerebral edema", J. Neurosurg., 19: 535-544, 1962Elliott, K.A. C., et al., "Physiological salt solutions for brain surgery", J. Neurosurg., 6: 140-152, 1949 本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、頭蓋内手術などの脳神経外科領域において、人工髄液を洗浄液または灌流液として利用する場合に生じることのある脳浮腫の発生を防止するか或いは低減することが可能な、洗浄液又は灌流液として有用性の高い新しい組成の人工髄液を提供することである。 本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、下記に示す特定の電解質イオンの所定量を含有し、更に必要に応じて、その他の電解質イオン、リン酸および還元糖の所定量を含有する水溶液からなる人工髄液を、頭蓋内手術における洗浄液または灌流液として用いる場合には、従来、全く知られていない術後の脳血管透過性亢進を抑制する作用と、脳細胞の細胞障害を抑制する作用が発揮され、脳浮腫発生の危険性を顕著に低減できると共に、更に、脳細胞の細胞障害の発生も抑制することが可能となるという新規な知見に至った。本発明はこの知見を基礎として更に研究を重ねた結果完成されたものである。 即ち、本願は、下記の各項に挙げる発明を提供するものである。項1. 下記範囲の各電解質イオンを含有する水溶液からなる人工髄液: ナトリウムイオン 120〜160mEq/L カリウムイオン 1〜6mEq/L 塩素イオン 75〜155mEq/L 重炭酸イオン 5〜45mEq/L。項2. 更に、10g/L以下の還元糖、5mmol/L以下のリン酸、5mEq/L以下のカルシウムイオン、及び5mEq/L以下のマグネシウムイオンから選ばれた少なくとも一種の成分を含む上記項1に記載の人工髄液。項3. pHが6.8〜8.2である上記項1に記載の人工髄液。項4. 頭蓋内もしくは脳脊髄腔内の洗浄もしくは灌流液、又は脳脊髄液の喪失補充液である上記項1に記載の人工髄液。項5. 術後脳浮腫発生低減剤である上記項1に記載の人工髄液。項6. 脳細胞の細胞障害抑制剤である上記項1に記載の人工髄液。項7. 上記項1に記載の人工髄液を収容した容器の包装体であって、該容器は連通可能な少なくとも2室を有する通気性プラスチック容器であり、重炭酸イオンとカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンとは該容器の異なる室にそれぞれ収容され、上記容器はガスバリア性を有する包装材で包装され、上記容器と包装材との空間部は炭酸ガス雰囲気となっている容器包装体。項8. 有機酸を含有しない人工髄液が収容されている上記項7に記載の容器包装体。項9. 更に還元糖が、重炭酸イオンを収容した室とは異なる室に収容される上記項7に記載の容器包装体。項10. 更に容器と包装材との空間部に、該空間部の炭酸ガス濃度を検知してその変化に応じて色調が変化するpHインジケータを配置した上記項7に記載の容器包装体。項11. 脳外科手術患者の頭蓋内もしくは脳脊髄腔内を、上記項5に記載の術後脳浮腫発生低減剤によって洗浄もしくは灌流すること、又は脳外科手術患者の脳脊髄液の喪失を上記項5に記載の術後脳浮腫発生低減剤によって補うことを特徴とする、脳外科手術において脳浮腫発生を低減する方法。項12. 脳外科手術患者の頭蓋内もしくは脳脊髄腔内を、上記項6に記載の脳細胞の細胞障害抑制剤によって洗浄もしくは灌流すること、又は脳外科手術患者の脳脊髄液の喪失を上記項6に記載の脳細胞の細胞障害抑制剤によって補うことを特徴とする、脳外科手術において脳細胞障害発生を抑制する方法。 以下、本発明人工髄液およびこれを収容した容器包装体につき詳述する。 (1) 本発明人工髄液 本発明の人工髄液は、下記範囲の各電解質イオンを含有する水溶液からなるものである:ナトリウムイオン 120〜160 mEq/Lカリウムイオン 1〜6 mEq/L塩素イオン 75〜155 mEq/L重炭酸イオン 5〜45 mEq/L。 上記した特定組成を有する水溶液によれば、これを頭蓋内手術などの脳神経外科領域で用いられる洗浄液又は灌流液として使用することによって、術後脳浮腫発生の危険率を顕著に低減することができる。更に、脳細胞におけるイオン交換障害等の各種の脳細胞の細胞障害を抑制する効果も発揮される。上記した特定組成の人工髄液の使用によって、斯かる効果が奏されることは従来全く知られていない新規な発見事項である。 本発明の人工髄液には、更に、10g/L以下の還元糖、5mmol/L以下のリン酸、5mEq/L以下のカルシウムイオン、及び5mEq/L以下のマグネシウムイオンから選ばれた少なくとも一種の成分が含まれていても良い。これらの成分は、一種のみ含まれていてもよく、或いは、二種以上同時に含まれてもよい。 上記した成分の内で、還元糖、リン酸、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等は、脳神経細胞の電気的活動を維持するために有効であり、還元糖については、細胞のエネルギー源としても有効であり、リン酸、カルシウムイオン及びマグネシウムイオンについては、細胞のエネルギー代謝に有効であると考えられる。更に、カルシウムイオンは細胞の興奮と伝達や細胞の機能維持に重要なイオンであり、マグネシウムイオンは細胞内の多種の酵素の活性化に有効なイオンと考えられる。 斯かる効果を発揮するためには、還元糖の含有量は0.1〜10g/L程度とすることが好ましく、リン酸の含有量は、0.1〜5mmol/L程度の含有量とすることが好ましく、カルシウムイオンの含有量は、0.5〜5mEq/L程度とすることが好ましく、マグネシウムの含有量は0.5〜5mEq/L程度とすることが好ましい。 本発明人工髄液における各成分の好ましい含有量の一例を挙げると下記の通りである。ナトリウムイオン 120〜160mEq/Lカリウムイオン 1〜6mEq/Lカルシウムイオン 1〜5mEq/Lマグネシウムイオン 1〜5mEq/L塩素イオン 75〜155mEq/L重炭酸イオン 5〜45mEq/Lリン酸 0〜5mmol/L還元糖 0〜10g/L。 更に、本発明人工髄液における各成分のより好ましい含有量の一例を挙げると下記の通りである。ナトリウムイオン 130〜160mEq/Lカリウムイオン 1〜4mEq/Lカルシウムイオン 1〜4mEq/Lマグネシウムイオン 1〜4mEq/L塩素イオン 100〜150mEq/L重炭酸イオン 10〜40mEq/Lリン酸 0〜3mmol/L還元糖 0〜5g/L。 これらの各電解質イオン源(電解質イオンを与える化合物)としては、次のものを例示することができる。即ち、ナトリウムイオンの供給源としては、例えば塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、硫酸ナトリウム、乳酸ナトリウムなどを例示できる。カリウムイオンの供給源としては、塩化カリウム、酢酸カリウム、クエン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、グリセロリン酸カリウム、硫酸カリウム、乳酸カリウムなどを例示できる。カルシウムイオンの供給源としては、塩化カルシウム、グルコン酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、乳酸カルシウム、酢酸カルシウムなどを例示できる。マグネシウムイオンの供給源としては、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウムなどを例示できる。塩素イオンの供給源としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどを例示できる。重炭酸イオンの供給源としては、重炭酸ナトリウム(炭酸水素ナトリウム)が普通に利用できるが、炭酸ナトリウムも該供給源として利用することができる。また、リン酸としては、リン酸(H3PO4)自体のみならず、その塩、例えば、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム等を利用することができる。還元糖としては、ブドウ糖、マルトースなどが用いられる。これらの各電解質イオンを与える化合物、リン酸および還元糖は、いずれも入手容易な市販品、好ましくは日局方品を利用することができる。 上記電解質イオン源とする各化合物は、通常無水物形態(NaCl、KCl、NaHCO3、CaCl2、MgCl2など)で用いられるが、特にこの無水物形態に限定されるものではなく、結晶水を有する形態、即ち水和物の形態、例えばCaCl2・2H2O、MgCl2・6H2O、MgSO4・7H2Oなどの形態で利用することもできる。これらの各水和物の本発明人工髄液中への配合重量は、無水物のそれらの場合とは異なるが、いずれの場合もこれらを配合して得られる人工髄液中の電解質イオン濃度が、前記範囲内になるように適宜決定すればよい。 本発明人工髄液は、上記各成分を水に溶解させたものである。この人工髄液の調製に用いられる水は、例えば精製水(イオン交換水、逆浸透水など)、蒸留水などでよい。これらは殺菌乃至滅菌されているのが好ましい。 本発明人工髄液は、上記組成とすることによって通常約6.8〜8.2、より好ましくは約7〜7.5のpHを有し、そのままで人工髄液として利用することができる。更に必要なら、適当なpH調整剤、例えば塩酸などの酸および水酸化ナトリウムなどのアルカリを用いてそのpHを調整することも可能である。 本発明人工髄液には、更に必要に応じて他の電解質成分、例えば酢酸カリウム、グルコン酸カルシウムなど;他の糖質、例えばマルトース、キシリトール、トレハロースなど;その他例えば銅、亜鉛などの微量金属;カルニチンなどの医薬品成分などを適宜配合することもできる。更に、本発明人工髄液には、グルタチオン、ケトン体、ウロキナーゼなどの血栓溶解剤;硫酸ゲンタマイシン、硫酸アミカシンなどの抗生剤;メトトレキサート(MTX)などの抗がん剤;アスコルビン酸等の医薬品成分を含ませることも可能である。 (2) 本発明人工髄液収容容器包装体 前記組成の本発明人工髄液は、沈殿の生成や配合還元糖の分解による着色などを防止する観点から、少なくとも2剤に分割して別々の容器に収容し、その使用時に各容器内液を混合して利用されるのが好ましい。 また、本発明人工髄液は、その必須成分として重炭酸イオンを含むものであり、この重炭酸イオンは液の滅菌時や保存中に一部分解して炭酸ガスを発生させ、その分解損失を来すと共に液のpHを上昇させる不利がある。従って、本発明人工髄液を収容する製品形態は、このような炭酸ガスの発生をできるだけ回避して、液pHの上昇を防止できるものであるのが好ましい。 このような本発明人工髄液の好ましい製品形態(容器収容形態)としては、例えば連通可能な少なくとも2室を有する通気性プラスチック容器を、ガスバリア性を有する包装材で包装し、上記容器と包装材との空間部を炭酸ガス雰囲気とした容器包装体形態を挙げることかできる。 このような少なくとも2室を有する複室容器包装体の形態においては、例えば、上記容器の一室(A室)に重炭酸イオンを含む液(A液)を収容し、他室(B室)に必要に応じて配合されるカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含む電解質液(B液)を収容し、更に必要に応じて添加配合される還元糖を、上記電解質液(B液)を収容した室に収容するかまたは上記2室とは別個の第三室(C室)に収容することができる。これらの各室内液は、使用時にそれらを混合することによって本発明人工髄液の組成とすることができる。また、必要に応じて配合されるリン酸は、例えば好ましくは重炭酸イオンを収容した室に同時に収容することができる。 各室内液の各成分濃度および容積比は、特に限定されるものではなく、両者を混合して調製される液が、前記組成となるものとすればよい。上記形態に調製する代表的方法としては、次の方法を挙げることができる。即ち、注射用水に炭酸水素ナトリウムを溶解させてA液とする。該A液には塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムを更に溶解させることができる。一方、注射用水に塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび必要ならば還元糖を溶解させてB液とする。このB液には更に塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムを溶解させることもできる。かくして得られる各室内液を、次いで例えば0.45μmメンブランフィルターで濾過した後、前記通気性プラスチック容器の各室に収容する。塩素イオンはA液およびB液のいずれに含有させてもよく、両液に含有させてもよい。 上記した少なくとも2室を有する複室容器包装体を用いる場合には、重炭酸イオンを含む溶液と、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含む溶液とを異なる室に収容することによって、カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンと重炭酸イオンからなる難溶性重炭酸塩の生成による沈殿発生を防止できる。このため従来の人工髄液において難溶性塩の生成防止のためにキレート剤として添加されていたクエン酸等の有機酸を添加することなく、長期間沈殿発生を防止することが可能となる。 尚、上記少なくとも2室を有する通気性プラスチック容器としては、既に知られている各種のもののいずれでもよい。その具体例としては、例えば2室の連通部を閉鎖する手段が設けられたもの(特公昭63-20550号公報、実公昭63-17474号公報)や2室を区画するシール部が押圧により連通しやすいもの(特開昭63-309263号公報、特開平2-4671号公報)などを例示できる。また上記容器の材質としては、医療用容器などに普通に用いられる各種のもの、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、架橋された酢酸ビニルアルコールなどを例示できる。容器はこれら各材質の樹脂のブレンドからなっていてもよく、また各樹脂製フィルムなどの積層体からなっていてもよい。かくして得られる容器は、特に高圧蒸気滅菌または熱水滅菌に耐えられるものであるのが望ましい。 本発明人工髄液収容容器包装体は、上記通気性プラスチック容器を、ガスバリア性を有する包装材で包装し且つ上記容器と包装材との空間部を炭酸ガスを含むガス雰囲気とすることにより得られる。 ここでガスバリア性を有する包装材としては、通常のものでよく、その具体例としては例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)や,それらの材質に酸化ケイ素や酸化アルミニウムを蒸着させたものや、これら材質の組合せからなる多層フィルムからなるものなどを例示できる。これら包装材の形状、大きさなどは上記プラスチック容器を収容でき、その収容後に容器との間に炭酸ガス含有ガスを封入できる充分な空間部を有することを前提として特に制限されるものではない。通常上記空間部は、上記容器内容液量の約0.1〜0.8倍容積程度の大きさであるのが適当である。 上記容器と包装材との空間部を炭酸ガス含有ガス雰囲気とするためには、例えば炭酸ガスと空気との混合ガスや炭酸ガスと窒素ガスとの混合ガスなどの炭酸ガス含有ガスを上記空間部に封入する方法を採用することができる。また、上記空間部に存在する酸素ガスを吸収してこれと等容積の炭酸ガスを放出する、炭酸ガス発生型脱酸素剤を、上記空間部に封入する方法も同様に採用することができる。この炭酸ガス発生型脱酸素剤としては、例えば三菱瓦斯科学株式会社製「エージレスG」や、凸版印刷株式会社製の鮮度保持剤Cタイプなどを有利に利用することができる。 上記構成の採用によれば、容器と包装材との空間部に存在する炭酸ガスは、通気性プラスチック容器の器壁を通過してA液に吸収され、A液中の炭酸ガス分圧は該空間部の炭酸ガス分圧と平衡に達し、該炭酸ガスがA液のpH調整剤として作用する。 本発明人工髄液収容容器包装体は、好ましくは、更に容器と包装材との空間部に、該空間部の炭酸ガス濃度を検知してその変化に応じて色調が変化するpHインジケータ(ピンホール検知剤と呼ばれるものをも含む)を配置する。 ここで、pHインジケータとは、上記空間部の炭酸ガス濃度の変化に応じて色調を変化させるものであればよい。これは、例えば炭酸塩含有液とpH指示薬とを小容器に収容したものなどを挙げることができる。それらの具体例は、例えばWO97/48365号パンフレットなどに詳述されているとおりである。 上記pHインジケータ内液に添加配合されるpH指示薬は、インジケータ内液のpH変化を色調変化により指示できる各種の酸塩基指示薬から選択することができる。特に、該pH指示薬は、例えば包装体にピンホールが発生するなどの不測の事故によって薬液から炭酸ガスが発生して該薬液の有効性が損なわれるpH(製品の日局規格上限値)に相当する空間部の平衡炭酸ガス率における上記pHインジケータ内液のpH域付近で、鋭敏に色調変化(変色)するものであるのが好ましい。一般に、薬液の有効性が損なわれるpHは、アルカリ域にあり(例えば7%炭酸水素ナトリウム水溶液の規格上限値は、日局XIIIではpH8.6であり、その炭酸ガス率は約19%である)、これに比例するインジケータ内液のpHもアルカリ域(例えば0.28%炭酸水素ナトリウム水溶液のそれは7.0である)にあるため、上記pH指示薬は、かかる弱アルカリ域で色調変化するものであるのが好ましい。 更に好ましいpH指示薬の特性は、(1)変色域が狭いこと、(2)発色強度が大きいこと、(3)変色の方向が適切であること(目立たない色から目立つ色へ)、(4)衛生性に優れること(物質自体の安全性が高く、移行性がないこと)、(5)安定性がよく、長期に亘って初期の変色能を保持することなどである。本発明ではこれらの性質を具備するpH指示薬の利用が望ましい。好ましいpH指示薬の具体例としては、例えばニュートラルレッド、アウリン、フェノールレッド、o-クレゾールレッド、α-ナフトールフタレイン、m-クレゾールパープル、オレンジI、フェノールフタレインなどを例示できる。これらの内でも、フェノールレッド(pH6.8〜8.4以上で黄色から赤色に変色)、o-クレゾールレッド(pH7.2〜8.8以上で黄色から赤色に変色)、m-クレゾールパープル(pH7.6〜9.2以上で黄色から紫色に変色)などは好適である。 上記pH指示薬の濃度は、色調変化が目視観察しやすいものであればよく、例えばこれを上記インジケータ内液と共に封入される小容器の大きさ(液体層の厚み)などに応じて、約10〜2000ppmの範囲から選択されるのが好ましい。 上記内液とpH指示薬とを封入した小容器は、常法に従って製造することができ、その際用いられる通気性プラスチック容器の材質は、前述した人工髄液を収容する容器のそれと同等か、それ以上のガス透過性(通気性)を有するものであればよい。例えば上記小容器は、縦型3方シール機、縦型ピロー包装機、ロータリーパッカーなどを用いて、製袋、充填、シールを連続して行う方法により製造することができる。 上記方法の利用の場合、特に小容器材質は、機械適性の点からラミネートフィルムであるのが好ましく、特に人工髄液収容容器としてポリエチレン製のものが用いられる場合は、ポリプロピレン(外側)とポリエチレン(内側)とのラミネートフィルムやポリ-4-メチル-1-ペンテン(外側)とポリエチレン(内側)とのラミネートフィルムであるのが好ましい。 上記小容器の大きさと内液の容積については、小容器に内液を封入した際に、内液の量が少ないとインジケータの液体層の厚みが薄くなりすぎて、色調変化を目視判別し難くなる傾向があるので、この色調変化を容易に目視判別できるという特徴および人工髄液収容容器と包装材との大きさを勘案して、適宜決定することができる。 作成されるpHインジケータは、その長期保存時に内液内で細菌が増殖して濁りが発生する場合がある。その防止乃至抑制のために、高圧蒸気滅菌を行うこともできる。またこれに代えて、塩化ベンザルコニウム、グルコン酸クロルヘキシジンなどの殺菌剤、ナリジクス酸、ノルフロキサシンなどの抗菌剤、パラオキシ安息香酸エステル、ベンジルアルコールなどの保存剤などを適宜添加配合することもできる。 該小容器の空間部への配置は、単に人工髄液収容容器と該小容器とを一緒に包装材にて包装することにより行うことができる。その配置位置は、該小容器が包装材による包装後にも外部から目視できる限り特に限定はない。かくして、人工髄液のpH変化を目視判別できる改良された包装体を得ることができる。 また、上記構成の人工髄液収容容器包装体において、pHインジケータとして、pH指示薬、結合剤(増粘剤)及び溶媒を含む炭酸ガス検知用インキ組成物を用いてもよい。斯かるインキ組成物を用いて人工髄液収容容器と包装材との空間部に炭酸ガス濃度検知のための指示部を設けることにより、炭酸塩含有液とpH指示薬とを小容器に収容したpHインジケータを用いる場合と同様に、人工髄液のpH変化を目視判別することが可能となる。該インキ組成物は、例えば、該インキ組成物を塗布したプラスチックフィルムを空間部に配置する方法、包装材の内面に該インキ組成物を塗布する方法、人工髄液収容容器の外面に該インキ組成物を塗布する方法などの各種の方法によって、炭酸ガス検知のための指示部として利用できる。この様な炭酸ガス検知用インキ組成物及び該組成物の適用方法の具体例は、WO01/44385号パンフレットなどに詳述されている通りである。 本発明において、人工髄液の容器(容器各室)への充填、滅菌、包装材による包装、空間部を炭酸ガス雰囲気とする手段などは、通常の注射液の製造方法において採用されるそれらと同様であり、同様にして容易に実施することができる。 本発明人工髄液収容容器包装体の好ましい一実施態様は、添付図面(図1)に示す通りである。これは連通可能なシール部6で区画された二室を有する通気性プラスチック容器2と、該容器を包装したガスバリア性包装材3とからなり、該容器と包装材との空間部4は炭酸ガスを含む雰囲気とされ、pHインジケータ5が配置されている。上記容器2の各室には、混合後に本発明人工髄液組成となる液剤1が封入されている。 本発明包装体製品は、上記構成を採用することによって、プラスチック製容器の利用に基づく破損しにくく大容量化が容易で、軽量化を図り得る利点;2室を有する容器としたことに基づく沈殿発生、着色などの問題を確実に回避できる利点;およびガスバリア性包装材の利用と空間部を炭酸ガス雰囲気としたことに基づく、人工髄液(重炭酸イオンを含む液)から発生する炭酸ガスの大気中への揮散防止や、これによって液pH値を一定値に保持できる利点などが保証される。また、前記したようなpHインジケータを配置した本発明人工髄液収容容器包装体では、更に、長期保存時や包装材におけるピンホール発生などのトラブルによる液pH変化およびこれに伴われる劣化を、容易に目視確認できる利点がある。更に、本発明包装体製品は、上記いずれの場合も通常の操作で容易に製造できる利点もある。 また、本発明人工髄液は、ガスバリア性が付与された素材からなる薬液容器に収納して用いてもよい。この様なガスバリア性が付与された素材からなる薬液容器としては、ガスバリア性フィルムを含む多層構造のプラスチックフィルによって形成された容器を挙げることができる。斯かる構造の薬液容器としては、特開2002−234102号公報、特開平5−8318号公報等に記載されているものを挙げることができる。例えば、内層と外層をそれぞれガス透過性フィルムであるポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムで構成し、その層間にガスバリア性フィルムであるエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)を挟み込んだ構造の多層フィルムからなる容器を用いることができる。バリア性フィルムとしては、薬液を視認可能とするために透明フィルムを用いることが好ましい。尚、ガスバリア性が付与された薬液収容容器は、連通可能な少なくとも2室を有する容器であってもよい。 また、ガスバリア性が付与された薬液収容容器のその他の例として、薬液容器を構成するガス透過性プラスチックフィルムの両面をバリア性フィルムで被覆した構造の容器を挙げることができる。この場合、ガス透過性プラスチックフィルムからなる薬液容器が2室からなる場合には、例えば、重炭酸イオンを含む液(A液)を収容する室のみをガスバリア性フィルムで被覆しても良い。バリア性フィルムは、薬液を視認できるように透明フィルムであることが好ましい。この様な薬液容器は、例えば、特開平11−276547号公報、特開2003−267451号公報、登録実用新案第3112358号公報等に記載されている。 また、本発明の人工髄液をガスバリア性が付与された薬液容器に収納する場合には、前述したpH指示薬、結合剤(増粘剤)及び溶媒を含む炭酸ガス検知用インキ組成物を用いて、該容器本体の口部に炭酸ガス濃度検知のための指示部を設けてもよい。例えば、ガスを透過する封止体によって該容器本体の口部を封止すると共に、該封止体の外側をガスバリア性の被覆体によって剥離可能に密封し、該ガス透過性封止体と被覆体との間にガス検知体を配設した構造とすることができる。この様な構造とすることによって、該薬液容器の密封性が損なわれたときに、これを外部から容易に検知することができる。ガス検知体の具体的な配設方法としては、例えば、該ガス透過性封止体の外側に形成したガスバリア性被覆体の内面に上記インキ組成物を塗布する方法、この方法でインキ組成物を塗布した後、塗布面上に保護フィルムを貼る方法等の方法を挙げることができる。この様な口部に炭酸ガス検知のための指示部を設けた薬液容器は、例えば、特開2005−349182号公報に記載されている通りである。 (3) 本発明人工髄液の適用 本発明人工髄液は、公知の方法に従って実用される。例えば、前述した連通可能な少なくとも2室を有する通気性プラスチック容器に収容された形態の本発明人工髄液は、用時に、上記2室を連通させて、両室内液を混合(または希釈)した後、実用に供することができる。 本発明人工髄液は、例えば頭蓋内又は脳脊髄腔内の洗浄又は灌流液として使用できる。この使用の具体的態様は、例えば以下の通りである。1. 脳神経外科手術(穿頭・開頭手術)での術野の洗浄、術野からの空気の排除、手術器具使用時に発生する熱に対する組織の冷却、止血操作に支障をきたさないことを目的とした洗浄液としての使用。2. 神経内視鏡手術での清明な視野の確保、止血操作に支障をきたさない灌流液であり、手術操作に支障がない感触を有する灌流液としての使用。3. くも膜下出血後の脳槽灌流療法における血腫の排除のための灌流液としての使用。 本発明人工髄液の使用量は、上記各手術における使用目的などに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常、最大約4000mLを目安とされ、実際の手術時における医師の判断などにより増量され得る。その使用方法は、適用される手術の形式などにより適宜変更できる。例えば、スポイトやシリンジなどを用いて術野などに直接滴下する方法;術野などの必要な箇所にスプレーする(吹き付ける)方法;適当なチューブなどを利用して術野などの必要な箇所に一定の速度で流す(灌流する)方法;ガーゼ等に浸して、これを脳表などに載置して、その乾燥を防止する方法;凝固装置やドリル使用時にこれらの器具から滴下する方法;などを適宜採用できる。 また、本発明人工髄液は、脳外科手術等に脳脊髄液が喪失した場合に、脳脊髄液の補充液としても使用できる。 以上の通り、本発明人工髄液は、例えば、これを脳神経手術時などにおいて、頭蓋内又は脳脊髄腔内の洗浄液又は灌流液として、或いは、脳脊髄液の喪失補充液として利用して、術後脳浮腫発生の危険率を顕著に低減できるものであり、脳神経外科分野で非常に有用である。このことは、後記試験例1に示す通りである。事実、脳神経外科手術時の脳内洗浄液として使用した場合、本発明人工髄液は、生理食塩液および乳酸リンゲル液と比較して、術後の脳浮腫発生の危険率を顕著に低減できる。 尚、脳浮腫の要因としては、術後の脳血管透過性の亢進、及び脳細胞膜レベルでのイオン交換障害が知られている。本発明人工髄液は、術後の脳血管透過性亢進の程度を抑える作用と脳細胞の細胞膜障害を抑制する作用をいずれも有するものであり、脳浮腫発生の危険性を顕著に低減することができる。更に、本発明の人工髄液は、脳浮腫の要因となり得る脳細胞レベルでのイオン交換障害に限らず、その他の脳の機能や生体に悪影響を及ぼす恐れのある各種の脳細胞障害、例えば、神経細胞、アストロサイトなどのグリア細胞の細胞障害の抑制にも有効である。 従って、本発明の人工髄液は、術後脳浮腫発生低減剤として有用であり、更に、脳細胞の細胞障害抑制剤としても有用である。 更に、本発明の人工髄液は、例えば、眼内灌流液としても有効に利用できる。 また、本発明者らは、本発明人工髄液についてその安全性試験を行った結果、該液がその特有の組成に基づいて、生理食塩液や乳酸リンゲル液よりも高い安全性を有することを確認している。このことからも、本発明人工髄液は、脳神経外科手術時の患者に対する負担を軽減できる特徴を有しており、脳神経外科分野での利用により有利である。本発明人工髄液収容容器包装体の好ましい一実施態様を示す概略図である。各洗浄液を用いて試験例1に従って求めた脳の創傷部組織の比重を示すグラフである。試験例2に従う試験において求められた各群ラットの創傷部における脳組織中エバンスブルー濃度の測定結果を示すグラフである。試験例3に従って求められた各群ラットの創傷部における蛋白1mgあたりの吸光度を示すグラフである。符号の説明 1 本発明人工髄液 2 通気性プラスチック製複室容器 3 ガスバリア性包装材 4 通気性プラスチック製複室容器2とガスバリア性包装材3との空間部 5 pHインジケータ 6 連通可能なシール部 以下に、実験例および実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの各例に限定されるものではない。 実施例1 下記表1に上室液および下室液として示される成分をそれぞれ秤量し、これらをそれぞれ注射用蒸留水に混合溶解して、上室液150mLおよび下室液350mLを調製した。 得られた下室液を図1に示すような人工髄液収容容器包装体の容器2(ポリエチレン製)の下室(ポート部につながる液取り出し口を有する室、図1では上部に描かれている)に、その液取り出し口より充填し、口部を密閉した。また、得られた上室液を密閉前の上室(上記下室と隔壁によって区画された室、吊り具部に隣接する室、図では下部に描かれている)に充填し、閉塞した。 得られた容器を、高圧蒸気滅菌し、除水した後,pHインジケーター(特開平11-197215号公報の製造例5に記載のもの)と共に、ガスバリア性フィルム(商品名「ボブロンフィルム」、日本合成化学工業株式会社製、二軸延伸ポリビニルアルコールフィルム、厚み:14μm)により包装した。なお、包装は、18%炭酸−空気混合ガス約400mLを容器と包装材との空間部に400mL封入して行った。かくして、本発明人工髄液収容容器包装体を得た。 上記で作製した本発明人工髄液収容容器包装体を、室内に1週間放置後、包装体を開封し、容器の隔壁を開通して容器内液を混合し、得られた混合液について、その電解質イオン濃度並びにリン酸およびブドウ糖濃度を日本薬局方 一般試験法 液体クロマトグラフ法により測定した。またそのpHを日本薬局方 一般試験法 pH測定法により測定した。その結果を下記表2に示す。 実施例2実施例1に記載の上室液からブドウ糖を除く以外は実施例1と同様にして、本発明人工髄液収容容器包装体を作成し、同様の試験を行った。得られた結果を下記表3に示す。 実施例3 実施例1に記載の下室液からリン酸二水素カリウムを除く以外は実施例1と同様にして、本発明人工髄液収容容器包装体を作成し、同様の試験を行った。得られた結果を下記表4に示す。 実施例4 下記表5に示される成分をそれぞれ秤量し、これらの注射用蒸留水に混合溶解して、500mlの水溶液を調製した。 得られた水溶液を、液取り出し口を有するポリエチレン製の一室からなる容器に、該液取り出し口より充填し、口部を密閉した。 次いで、実施例1と同様の方法によって、得られた容器を、高圧蒸気滅菌し、除水した後,pHインジケータと共に、ガスバリア性フィルムにより包装し、18%炭酸−空気混合ガス約400mLを容器と包装材との空間部に400mL封入した。かくして、本発明人工髄液収容容器包装体を得た。 上記で作製した本発明人工髄液収容容器包装体について、室内に1週間放置後、包装体を開封し、その電解質イオン濃度並びにリン酸およびブドウ糖濃度を日本薬局方 一般試験法 液体クロマトグラフ法により測定した。またそのpHを日本薬局方 一般試験法 pH測定法により測定した。その結果を下記表6に示す。 実施例5 実施例4で用いた成分からブドウ糖とリン酸2水素カリウムを除く以外は、実施例4と同様にして、本発明人工髄液収容容器包装体を調製した。 得られた人工髄液収容容器包装体を実施例4と同様にして室内に1週間放置後、各成分濃度を測定した。結果を下記表7に示す。 試験例1この試験は、ラットの実験的術後脳浮腫モデルに対して、本発明人工髄液を脳洗浄液として利用した場合の効果を検討するものであり、以下の通り行われた。 (1)材料 供試洗浄液としては、実施例1と同様にして調製した下記表8に示す組成の本発明人工髄液を利用した(実験群)。尚、この本発明人工髄液は、図1に示すような連通可能な2室を備えたプラスチック製バッグの一室(下室)に重炭酸塩イオンを含む液が収容され、他室(上室)に各電解質溶液およびブドウ糖が収容されており、用時に2室を隔てる隔壁を壊すことによって混合して利用するものである。表9にはこの混合後の各成分組成および混合液のpHを記載する。 比較のため、生理食塩水および乳酸リンゲル液を使用した(生理食塩水群および乳酸リンゲル群)。使用した生理食塩水は、株式会社大塚製薬工場社製「大塚生食注」(Na+154mEq/LおよびCl-154mEq/L)である。また、乳酸リンゲル液は、株式会社大塚製薬工場社製「ラクテック(登録商標)注」(Na+ 130mEq/L, K+4mEq/L, Ca2+3mEq/L, Cl- 109mEq/L, lactate-28mEq/L)である。 (2)試験方法この試験には7-9週齢のSD系雄性ラット24匹を利用した。試験開始まで、各ラットは自由に飲水および摂餌させた。ラットを無作為に各8匹ずつからなる三群に群分けした。 各群ラットに20w/v%ウレタン溶液7mL/Kg(1.4g/kg)を腹腔内投与して麻酔した後、バリカンで頭頂部全体を毛刈りし、次いで脳定位固定装置(SR-6N、株式会社成茂科学器械研究所)に固定し、頭頂部を70%アルコールで消毒後、皮膚を切開し(手術開始)、頭蓋骨を露出させた。左頭頂骨上にシリコンチューブ(内径6mm、外径8mm、アズワン株式会社)で作製した高さ1mmの土手を接着した。土手の内側に、中心が正中線の2.5mm左、ブレグマの4mm後方に位置する径約4mmの骨窓をドリル(MINITOR-7 C-307M、関東機器株式会社)を用いて開けた。 供試物質としての本発明人工髄液(本発明群、8匹)、生理食塩水(生理食塩水群、8匹)および乳酸リンゲル液(乳酸リンゲル群、8匹)のそれぞれを、JMSシリンジポンプSP-100S(株式会社ジェイ・エム・エス)を用いて150mL/hrの速度で骨窓内に注入して洗浄を開始した。次に、この洗浄下に、固定装置用マイクロマニピュレーター(SM-15、株式会社成茂科学器械研究所)の電極ホルダーに取り付けたメス(フェザー替刃メス、ステンレスNo.25、フェザー安全剃刀株式会社)の刃先で、骨窓内の硬膜からくも膜を経て左大脳皮質にまで及ぶ深度(深さ1.5mm、長さ3.5mm)の創傷2本を十字型に作製し、創傷部の硬膜およびくも膜を剥がした(創傷作製)。創傷作製後10分以内に、骨窓内に生じた血餅はピンセットで除去した。創傷作製4時間後に洗浄を終了した。尚、実験ラットは体温制御装置(ATB-1100、日本光電工業株式会社)を用いて、洗浄終了まで体温(直腸温)を約37℃に維持した。 次に、各群ラットを腹部大動脈より放血して屠殺した後、速やかに脳を取り出した。脳は乾燥を防ぐために一時的に氷冷したケロシン内に入れた。前記創傷の交差部から交差線に沿って各約0.5mmの長さおよび深さ約0.5mmの立方体状の大脳皮質組織サンプルを採取した(創傷部組織)。 Marmarouらの方法(J. Neurosurg., 1978 Oct; 49(4), pp.530-537)に従って、比重既知のブロモベンゼンとケロシンとを用いて作製した比重柱の中に、前記で採取した各組織サンプルを入れ、2分後の落下位置を求め、予め作成した検量線からその比重(水分含量)を算出した。尚、比重柱は、比重1.020, 1.029, 1.038, 1.047および1.056の各比重の硫酸カリウム標準液で使用前にキャリブレートしておいた。 本試験に利用した比重柱を用いて湿組織の密度から組織の水分含量を求める比重法は、広く脳浮腫の研究に用いられており、該比重が低くなるほど、水分含量は高くなり、浮腫の程度が重篤となる。 (3)統計解析 試験結果は、各群ラット8匹について得られた結果の平均値±標準偏差で表した。また、創傷部組織について得られた各群の結果の群間比較をTukey検定により、有意水準5%にて実施した。尚、図中、##と***はそれぞれp<0.01およびp<0.001を示す。 (4)結果 各供試洗浄液を用いて洗浄した脳の創傷部組織について求めた比重を、洗浄液毎に図2(縦軸:比重)に示す。 (5)考察 図2に示される結果から、創傷部の比重は生理食塩水群で最も低く、次いで乳酸リンゲル群および本発明群の順に高値となり、このことから、本発明人工髄液は生理食塩水や乳酸リンゲル液に比べて明らかに実験的術後脳浮腫の程度を軽減することが判った。 試験例2脳浮腫は原因により2種類に分類される。ひとつは血管原生の浮腫である。これは血液脳関門が傷害されて脳血管の透過性が亢進した結果、アルブミンなどの血清蛋白の漏出と同時に水分が脳組織の細胞外腔に貯留するというものである。もうひとつは細胞障害性浮腫である。これは脳の細胞膜レベルでイオン交換が傷害され、細胞内に水分が貯留するものである。実際の脳浮腫では、しばしば両者が混在している。 本試験例は、これらの脳浮腫の原因のうち、脳血管の透過性に及ぼす本発明人工髄液の影響について検討したものである。 血清蛋白は正常状態では脳組織中には移行しない。しかしながら、脳が傷害を受けた時は、血清蛋白が傷害された血液脳関門を通過して脳の細胞外腔へ入る(血管透過性の亢進)。脳組織中に移動したアルブミンなどの血清蛋白は、浸透圧による脳組織への水の流入を引き起こす。このような血管透過性の亢進に伴われる血清蛋白の血管外への漏出は、浮腫液の形成をもたらすとされている。 一方、エバンスブルーは生体内でアルブミンと結合することが知られており、この性質を利用して、エバンスブルーは血管透過性の指標としての蛋白漏出の定量に広く用いられている。この試験では、脳血管透過性の指標として、このエバンスブルーの血管外への漏出を定量した。 試験は次の通り実施された。 (1)材料 供試洗浄液としては、実施例1で調製した本発明人工髄液を利用した(実験群)。比較のため、生理食塩水および乳酸リンゲル液を使用した(生理食塩水群および乳酸リンゲル群)。これらの各液の組成は、前記試験例1に示す通りである。 (2)試験方法 (2-1)脳創傷作製洗浄およびエバンスブルー投与この試験には7-9週齢のSD系雄性ラット24匹を利用した。試験開始まで、各ラットは自由に飲水および摂餌させた。ラットを無作為に各8匹ずつからなる三群に群分けした。 各群ラットに20w/v%ウレタン溶液7mL/Kg(1.4g/kg)を腹腔内投与して麻酔した後、バリカンで頭頂部全体を毛刈りし、次いで脳定位固定装置(SR-6N、株式会社成茂科学器械研究所)に固定し、頭頂部を70%アルコールで消毒後、皮膚を切開し(手術開始)、頭蓋骨を露出させた。左頭頂骨上にシリコンチューブ(内径6mm、外径8mm、アズワン株式会社)で作製した高さ1mmの土手を接着した。土手の内側に、中心が正中線の2.5mm左、ブレグマの4mm後方に位置する径約4mmの骨窓をドリル(MINITOR-7 C-307M、関東機器株式会社)を用いて開けた。 供試物質としての本発明人工髄液(本発明群、8匹)、生理食塩水(生理食塩水群、8匹)および乳酸リンゲル液(乳酸リンゲル群、8匹)のそれぞれを、JMSシリンジポンプSP-100S(株式会社ジェイ・エム・エス)を用いて150mL/hrの速度で骨窓内に注入して洗浄を開始した。次に、この洗浄下に、固定装置用マイクロマニピュレーター(SM-15、株式会社成茂科学器械研究所)の電極ホルダーに取り付けたメス(フェザー替刃メス、ステンレスNo.25、フェザー安全剃刀株式会社)の刃先で、骨窓内の硬膜からくも膜を経て左大脳皮質にまで及ぶ深度(深さ1.5mm、長さ3.5mm)の創傷2本を十字型に作製し、創傷部の硬膜およびくも膜を剥がした(創傷作製)。尚、実験ラットは体温制御装置(ATB-1100、日本光電工業株式会社)を用いて、洗浄終了まで体温(直腸温)を約37℃に維持した。 創傷作製10分以内に、骨窓内に生じた血餅はピンセットで除去した。創傷作製3時間後に、2w/v%エバンスブルー加生理食塩液(エバンスブルー(和光純薬工業株式会社)0.2gを生理食塩水(大塚生食注、株式会社大塚製薬工場)に溶解して10mLとしたもの)5mL/kgを尾静脈から投与した。供試物質による創傷部の洗浄は、創傷作製4時間後まで行った。 (2-2)蛍光測定用試料の調製 供試物質による洗浄を終了後、直ちに各群ラットを開胸し、容器の下端がラットより約100cm上方になるように設置した生理食塩液(大塚生食注、株式会社大塚製薬工場)262-266mLを左心室から注入し、右心房より血液と共に排出させる方法で灌流させた後、脳を取り出した。 更に、左右の大脳皮質を分離し、プレート(生物試料細切板、日新EM株式会社)上に広げ、コルクボーラー(No.1、株式会社野中理化器製作所)を用いて左大脳皮質の創傷部より脳組織片を採取した。 各組織片の重量を測定後、組織片重量の10倍量(大脳および0.01M リン酸緩衝液の比重を1として算出)の0.01Mリン酸緩衝液(リン酸緩衝液5(pH7.4、株式会社ヤトロン)と水667mLとを混合して調製した0.1Mリン酸緩衝液(以下「PB」と略す)を用時に水で10倍希釈したもの)を該組織片に加えて、ホモジナイザー(ポッター型、アズワン株式会社)によりホモジネートし、更に組織片重量の10倍量の50w/v% TCA(100w/v%トリクロロ酢酸溶液(和光純薬工業株式会社)を水で希釈して50w/v%としたもの)を加えてタッチミキサーにより2分間混合した。混合物をマイクロチューブに移し、室温で30分間静置した後、遠心機(MX-300、ローター:TMA-300、ラック:ARO15-24、株式会社トミー精工)を用いて室温で13000回転/分にて40分間遠心した。上清を採取し、上清の3倍量のエタノールで希釈し、得られた希釈液を蛍光測定用試料とした。 (2-3) 蛍光測定 各試料の蛍光測定を、分光蛍光光度計(FP-750、日本分光株式会社)を用いて、以下の条件で実施した。・測定メニュー:固定波長測定・励起波長(バンド幅):620nm (10nm)・測定波長(バンド幅):680nm (10nm)・レスポンス:1秒・感度:Medium 希釈液A(0.01M PBに等量の50w/v% TCAを加えて混合し、次いで混合液に該混合液の3倍量のエタノールを加えて調製したもの、用時調製)を用いてゼロ調整(オートゼロ)を行った後、検量線用標準溶液および蛍光測定用試料をDISMIC-13JP (0.2μm、非水系、アドバンテック東洋株式会社)を用いて濾過し、まず検量線用標準溶液の濾液の蛍光測定を行い、次いで蛍光測定用試料の濾液の蛍光測定を行った。 (2-4) 脳組織中エバンスブルー濃度の定量 定量は、測定波長680nmでの蛍光強度による絶対検量線法により、計算ソフト(Microsoft(商標)Excel、マイクロソフト社)を用いて行った。まず、検量線用標準溶液の測定は測定波長での蛍光強度について最小二乗法により検量線式を求めた。検量線の相関係数(r)は0.99以上とした。次に検量線式から、蛍光測定用試料中のエバンスブルー濃度を求めた。脳組織中エバンスブルー濃度は、脳組織片から蛍光測定用試料を調製する際の希釈倍率(84倍、脳および希釈液Aの比重を1として計算)を、蛍光測定用試料中のエバンスブルー濃度に乗じることにより求めた。 (3)統計解析 試験結果は、各群ラット8匹について得られた結果の平均値±標準偏差で表した。また、創傷部組織について得られた各群の結果の群間比較をTukey検定により、有意水準5%にて実施した。尚、図中、**は<0.01を示す。 (4)結果エバンスブルー染色試験における脳組織中エバンスブルー濃度 各群ラットの創傷部における脳組織中エバンスブルー濃度(μg/g脳組織)の測定結果を、平均値±標準偏差にて、図3に示す。図3に示される結果から次のことが明らかである。 即ち、本発明群の上記創傷部におけるエバンスブルー濃度(脳血管透過性の亢進)は、乳酸リンゲル群のそれよりも有意に低く(p<0.01)、生理食塩水群に対しても低くなる傾向が見られた。 (5)考察 脳組織中のエバンスブルーの定量の結果、本発明群におけるエバンスブルーの血管外漏出は乳酸リンゲル群より有意に低く、生理食塩水群と比較しても低い値を示した。このことから、本発明人工髄液はラットを用いた実験的脳神経外科手術において、脳浮腫の主要な要因である脳血管透過性亢進の程度を効果的に軽減できることが判った。 以上のように、脳血管透過性の亢進は、血管内から脳実質中への水の移動をもたらし、脳浮腫の原因となるが、本発明人工髄液は、この脳血管透過性への影響が小さく、このことからも、術後の脳浮腫を起こしにくいものであることが明らかである。また、本発明人工髄液の利用に見られる上記脳血管浸透性への影響が小さいという効果は、血液脳関門が血液と脳組織の間で種々の物質の移動を制御する機能を果たすものであることを考慮すると、この機能の損傷が少ないことをも意味している。これらのことから、本発明人工髄液は、脳内の環境をより生理的な状態に維持できる理想に近い洗浄液として有用であると考えられる。 試験例3 試験例3は、脳浮腫の原因の1つでもある脳細胞の細胞障害に及ぼす本発明人工髄液の影響について検討したものである。 2,3,5-トリフェニルテトラゾリウムクロライド(2,3,5-triphenyltetrazolium chloride ; TTC)は、生細胞中のミトコンドリア酵素により赤色の色素(formazan)に変換される。脳組織をTTCで染色し、formazanを抽出した溶媒の吸光度を測定することにより、脳の細胞障害の程度を評価することができる。即ち、TTC染色性が低いほど、脳組織の細胞障害の程度が強いことが示される。 本試験例は、脳神経外科手術における脳の手術創傷を想定して作製したラット脳創傷を、各種洗浄液で洗浄し、脳組織のTTCに対する染色性を指標に細胞障害の程度を評価したものである。試験方法は、以下の通りである。 (1)供試洗浄液 供試洗浄液としては、実施例1で調製した本発明人工髄液(本発明群)と、比較のために、生理食塩水および乳酸リンゲル液を使用した(生理食塩水群および乳酸リンゲル群)。これらの各液の組成は、前記試験例1と同様である。 (2)試験方法 (2-1)脳創傷作製洗浄 この試験には7-9週齢のSD系雄性ラット32匹を利用した。試験開始まで、各ラットは自由に飲水および摂餌させた。 ラットを無作為に各8匹ずつからなる四群に群分けし、これらの内、三群のラットについては、本発明群(8匹)、生理食塩水群(8匹)及び乳酸リンゲル群(8匹)に分類し、前記試験例2と同様の方法(但し、2w/v%エバンスブルー加生理食塩液の投与は行わない)によって、創傷の作製及び供試物質による創傷部の洗浄を行った。 また、残りの一群(正常群)については、20w/v%ウレタン溶液7mL/Kgを腹腔内投与して麻酔した後、体温制御装置(ATB-1100、日本光電工業株式会社)を用いて、4時間体温(直腸温)を約37℃に維持した。 (2-2)TTC染色及び抽出 本発明群、生理食塩水群及び乳酸リンゲル群について、創傷洗浄終了後、速やかに断頭し、頭部を約30秒氷冷した。取り出した脳から左右の大脳皮質を分離し、氷冷したプレート(生物試料細切板、日新EM株式会社)上に広げ、内径約4mmのコルクボーラー(No.1、株式会社野中理化器製作所)を用いて左大脳皮質の創傷部及び右大脳皮質の対応する部位(非創傷部)より脳組織片を採取した。 正常群については、左大脳皮質及び右大脳皮質から同様の部位片を採取した。 それぞれの脳組織片を中央で二分し、バイアル中に脳組織片を入れ、採取時重量を測定後、2%TTC溶液を5ml加え、37.0℃に設定した振とう機付恒温水槽(Personal-11・SD、タイテック株式会社)を用い、遮光下で90分間インキュベートした。2%TTC溶液を除去し、各5mLの生理食塩液で2回洗浄後、バイアル中にformazan抽出用溶媒(エタノールとジメチルスルホキシドを等量混合したもの)を約5g加え、密栓し暗所で静置した。24時間後、バイアル中のformazan抽出用溶媒を採取し、吸光度測定用試料とした。 (3)脳組織のTTC染色性の測定 TTC染色後の脳からformazanを抽出した溶媒の485nmの吸光度を、紫外可視分光光度計(V-550、日本分光株式会社)を用いて測定した。formazan抽出用溶媒をブランクとした。得られた吸光度を各脳組織片の蛋白含量で補正した。脳組織片中蛋白の定量は、Lowry法で行った。 脳組織のTTC染色性は、蛋白1mgあたりの吸光度で示した。 (4)統計的解析 脳組織のTTC染色性について平均値(mean)と標準偏差(SD)を求めた。有意差検定は、以下の方法で行った。 即ち、創傷部の脳組織のTTC染色性について、正常群を基準として、本発明群、乳酸リンゲル群及び生理食塩水群との比較を、Dunnettの多重比較検定により行う。いずれかの群で有意差が認められた場合は、本発明群を基準として乳酸リンゲル群及び生理食塩水群との比較を、Dunnettの多重比較検定により行う。非創傷部についても、補足的に同様の検定を行う。有意水準は5%とする。 データ集計は、計算ソフト(Microsoft(商標)Excel、マイクロソフト社)を用いて行い、総計解析ソフトとしてはEXSAS Ver.7.14(株式会社アームシステック)を使用した。 (5)結果 各群の創傷部及び非創傷部における脳組織のTTC染色性(蛋白1mgあたりの吸光度)を図4に示す。創傷部(正常群は左大脳皮質の対応する部位)の脳組織のTTC染色性は正常群0.247±0.017、本発明群0.220±0.023、乳酸リンゲル群0.189±0.023、生理食塩水群0.168±0.030であり、乳酸リンゲル群及び生理食塩水群は、正常群に対して統計学的に有意に低い値を示した(いずれもp<0.001)。また、本発明群に対して乳酸リンゲル群及び生理食塩水群は有意に低い値を示した(それぞれp<0.05、p<0.01)。 尚、非創傷部の脳組織のTTC染色性は、正常群0.244±0.014、本発明群0.254±0.020、乳酸リンゲル群0.237±0.016、生理食塩水群0.232±0.018であり、正常群とその他の群の間に有意な差は認められなかった。 (6)考察 前述した通り、脳組織をTTCで染色し、formazanを抽出した溶媒の吸光度測定は、実験的な脳損傷の指標とすることができる。本試験例においては、Prestonらの方法(Preston E, Webster J. Spectrophotometreic measurement of experimental brain injury, J Neurosci Methods. 2000; 94; 187-92)を一部改変し、formazanを抽出した溶媒の吸光度を脳組織片の蛋白含量で補正することで脳組織片の単位重量あたりのTTC染色性を求め、細胞障害の程度を比較した。この試験方法によれば、TTC染色性が低いほど、脳組織の細胞障害の程度が強いことが示される。 本発明群の創傷部のTTC染色性は、正常群に対してやや低値を示したが、統計的に有意な差は認められなかった。乳酸リンゲル群及び生理食塩水群の創傷部は、正常群に対して有意に低い値を示し、細胞障害が認められた。更に、本発明群に対しても有意に低い値を示したことより、乳酸リンゲル群及び生理食塩水群は、本発明群よりも細胞障害の程度が強いことが示された。 以上より、ラット大脳に作製した創傷部の洗浄において、TTCに対する染色性を指標に細胞障害の程度を評価すると、本発明人工髄液を用いて創傷部を洗浄した場合には、乳酸リンゲル液及び生理食塩水を用いた場合と比較して細胞障害が軽度であることが示された。 尚、試験例3は、脳細胞におけるミトコンドリア酵素の活性を指標に細胞障害の程度を判定したものであるが、ミトコンドリア酵素の機能が低下すると細胞膜機能の維持に必要なアデノシン三リン酸(ATP)の産生が低下し、細胞膜のイオン交換が障害されると考えられる。よって、試験例3の結果は、本発明人工髄液を用いて創傷部を洗浄することによって、細胞のイオン交換障害を抑制する効果が奏されることを示唆するものである。 下記範囲の各成分のみを含有するpH6.8〜8.2の水溶液からなり、術後の脳血管透過性の亢進又は脳細胞膜レベルでのイオン交換障害を発生要因とする脳浮腫の発生を低減する、術後脳浮腫発生低減剤:ナトリウムイオン 120〜160mEq/Lカリウムイオン 1〜6mEq/L塩素イオン 75〜155 mEq/L重炭酸イオン 5〜45 mEq/Lカルシウムイオン 0.5〜5 mEq/Lマグネシウムイオン 0.5〜5mEq/Lリン酸 0.1〜5mmol/L還元糖 0.1〜10g/L 請求項1に記載の術後脳浮腫発生低減剤を収容した容器の包装体であって、該容器は連通可能な少なくとも2室を有する通気性プラスチック容器であり、一室に重炭酸イオンが収容され、別室に還元糖、カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンが収容され、上記容器はガスバリア性を有する包装材で包装され、上記容器と包装材との空間部は炭酸ガス雰囲気となっている容器包装体。 更に容器と包装材との空間部に、該空間部の炭酸ガス濃度を検知してその変化に応じて色調が変化するpHインジケータを配置した請求項2に記載の容器包装体。


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