タイトル: | 特許公報(B2)_移植用臓器の調製方法 |
出願番号: | 2007514454 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | A61L 27/00,A61K 35/23,A61K 35/12,A61P 43/00,C12N 15/09 |
横尾 隆 岡部 正隆 細谷 龍男 JP 4814226 特許公報(B2) 20110902 2007514454 20051025 移植用臓器の調製方法 株式会社ステムセル研究所 505164586 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 大杉 卓也 100135208 横尾 隆 岡部 正隆 細谷 龍男 JP 2005132811 20050428 20111116 A61L 27/00 20060101AFI20111027BHJP A61K 35/23 20060101ALI20111027BHJP A61K 35/12 20060101ALI20111027BHJP A61P 43/00 20060101ALI20111027BHJP C12N 15/09 20060101ALN20111027BHJP JPA61L27/00 VA61K35/23A61K35/12A61P43/00 105C12N15/00 A A61L 27/00-27/60 A61K 35/12 A61K 35/23 CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) Nature Medicine,2000年,Vol.6, No.11,p.1282-1286 J Am Soc Nephrol,2004年,Vol.15,p.1794-1804 Circulation,2004年,Vol.109,p.1401-1407 7 JP2005019552 20051025 WO2006117889 20061109 21 20081020 特許法第30条第1項適用 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102(9),3296−3300 March 1,2005 松波 由美子 本発明は、人用移植用臓器の調製方法を提供するものである。 臓器再生は、最近新しい治療戦略として多くの注目を集めている。再生医療の可能性は、各種組織幹細胞の発見と、それらを用いたニューロン(非特許文献1)、β細胞(非特許文献2)、筋細胞(非特許文献3)、血管(非特許文献4)などの再生による治療効果が報告されると共に、しだいに認識されるようになっている。しかし今日までこのような戦略を用いて成功した例は、細胞及び単純な組織に限定されている。特に腎臓や肺臓など解剖学的に複雑な臓器は、いくつかの異なった細胞から成っており、高度な3次元的構造及び細胞情報伝達系を有するために、幹細胞ベースの再生技術ではより対応が困難であることが考えられる。 一方これらの複雑な臓器は、移植医療の進歩とともにこれまで改善が期待できない臓器障害に対し移植により完治が期待できるようになった。しかし世界的に慢性的なドナー不足であり、また移植がうまくいった場合でも拒絶反応回避のための免疫抑制剤の長期服用が必要となり、これに伴う副作用と戦い続けなければならない(非特許文献5)。 従って究極的な治療目的の一つは自己組織幹細胞から自己臓器を作製し、自己移植片としてin vitro由来の臓器を再び個々のドナーに移植して戻すことである。 成人骨髄に認められるヒト間葉系幹細胞(hMSCs)は最近、その微小環境に依存して可塑性を維持し、いくつかの異なった細胞型に分化することが明らかとなった(非特許文献6)。胚性幹細胞(ES細胞)と比較して、hMSCsは自己骨髄から分離することができ、重大な倫理的問題も免疫学的結果も伴わずに治療に応用が可能である(非特許文献7)。J. Neurosci. Res. 69,925-933(2002)Nat. Med. 6, 278-282(2000)Nature 410,701-705(2001)Nat. Med. 5, 434-438(1999)Transplantation 77, S41-S43(2004)Science 276, 71-74(1997)Birth Defects Res. 69, 250-256(2003)Organogenesis of the Kidney (Cambridge Univ. Press, Cambridge,U.K.) (1987)Exp. Nephrol. 10, 102-113(2002)Am. J. Kidney Dis. 31, 383-397(1998)J. Neurosci. Res. 60, 511-519(2000)Blood 98, 57-64 (2001)J. Am. Soc. Nephrol. 11, 2330-2337(2001)Methods 24, 35-42(2001)J. Clin. Invest. 105, 868-873(2000)J. Neurol. Sci. 65, 169-177(1984)Kidney Int. 64, 102-109(2003)Cytometry 12, 291-301(1991)Dev. Growth Differ. 37, 123-132(1995)Am. J. Physiol. 279, F65-F76(2000)Eur. J. Physiol. 445, 321-330(2002)Proc. Natl. Acad.Sci. USA 97, 7515-7520(2000)Nature 418, 41-49(2002)Am. J. Physiol. 280, R1865-1869(2001) 本発明は、hMSCsを利用して、ヒト臓器を創生する方法により、腎臓等の複雑な器官の創生を達成する手段を提供することを課題とする。 本発明の臓器は、特に限定されるものではないが、代表的な標的臓器として腎臓を選択した。腎臓は複雑な器官を代表するもので、いくつかの異なった細胞型からなり、高度の三次元構造を有しており、また胚内での発生経過が十分に研究されているからである。腎臓の発生は、腎形成索(非特許文献8)の尾部で後腎間葉が近接の中腎管を誘導し、尿管芽(非特許文献9)を生成するときに開始する。成長は尿管芽と後腎間葉(非特許文献10)との間の相互の上皮-間葉シグナル伝達の結果として進行する。hMSCsが腎の成長に関与しうるかどうかを検索するために、先ず、齧歯類の腎原基形成直前の胚段階で抽出した中腎管、または確立した後腎原基とともにhMSCsを共培養した。しかし、この方法は腎の臓器形成、または成長中の齧歯類後腎へのhMSCsの統合を達成するには十分ではなかった。この検討により、臓器形成のために必要な全てのシグナルに暴露できるように、hMSCsは特定の胚ニッチに置かなければならないことを認識した。そして、本発明者は、hMSCsを成長中胎児の腎形成部位に移植することにより最もよく臓器形成を達成することができることを見出し、本発明の一を完成した。 出生前に経子宮アプローチによって細胞を器官形成の正確な部位に移植することは困難である。また細胞移植のために一旦胎児を単離すると、胎児を再び子宮に戻して成長させることはできない。本発明者は細胞の移植のために、胎児を子宮から分離し、全胚培養を用いてin vitroにて胎児が器官形成の初期段階を完了するまで体内で成熟させ、その後器官培養およびレシピエントの腹腔内でさらに成長させた。本発明のその他において、この培養の組合せを用いることによりhMSCsは形態的に本来の腎細胞と同じ細胞に分化し、複雑な腎構造に寄与できることを見出し、さらにこの新規腎臓はろ過機能を持ち、レシピエントの血流を受け入れ尿を生成することが可能であることを示し、本発明を完成した。 すなわち本発明は、「1.妊娠哺乳動物宿主中の胎児に、分取したヒト間葉系幹細胞を移植してヒト間葉系幹細胞の分化を導くことによるヒト移植用の所望臓器の調製方法にあたり、胎児へのヒト間葉系幹細胞の移植部位が所望臓器の宿主における分化相当部位であり、移植時期が宿主免疫系が未だ免疫寛容の段階である移植用ヒト由来臓器であることを特徴とする移植用臓器の調製方法。2.所望臓器が、腎臓である前項1に記載の方法。3.所望臓器が、肝臓、膵臓、肺、心臓、角膜、神経、皮膚、造血幹細胞又は骨髄である前項1に記載の方法。4、宿主が、ヒトの所望臓器と近似した大きさをもつ哺乳動物である前項1〜3のいずれか一に記載の方法。5.宿主が、ブタである前項1〜3のいずれか一に記載の方法。6.移植時期が、ステージ胚日21〜35である前項5に記載の方法。7.胎児へのヒト間葉系幹細胞の移植が、経子宮アプローチによって細胞を宿主の臓器形成の正確な部位に移植する前項1〜6のいずれか一に記載の方法。8.胎児へのヒト間葉系幹細胞の移植が、胎児を子宮から分離し、細胞を宿主の臓器形成の正確な部位に移植し、その後、全胚培養を用いてin vitroでさらに発達させる前項1〜6のいずれか一に記載の方法。」からなる。 本発明は、自己臓器の自己移植のための新たな手段を提供した。つまり、自己の間葉系幹細胞を分取し、これを妊娠哺乳動物宿主中の胎児の所望部位に移植し分化を導き、所望臓器を宿主に作らせ、その後発達した臓器を自己に戻すことが可能となった。リレー培養システムを用いた腎臓原基の子宮外分化を示す図である。上左からE11.5、E12、E12.5、E13、E13.5であり下はE11.5で子宮外に分取し全胚培養器にて24時間(左)、48時間(右)培養した胎児である。リレー培養システムを用いた腎臓原基の子宮外分化を示す図である。尿細管形成および拡大尿管芽の分岐の程度を確認するため、ヘマトキシリン/エオジン染色(b)及びc-retに対するホールマウントin situハイブリダイゼーション(c)を示す。遺伝子操作をしないhMSCsから再生した後腎におけるドナー由来細胞の割合を示す図である。Mは情報量の多いピークである。GDNF遺伝子導入したhMSCsから再生した後腎におけるドナー由来細胞の割合を示す図である。Mは情報量の多いピークである。再生したドナー由来細胞のDNA倍数性の評価を示す図である。Mは情報量の多いピークである。移植hMSCsの腎臓構成細胞への分化を示す図である。(a)リレー培養後に生じた後腎をX-galアッセイして、移植hMSCsを追跡したものである。移植hMSCsの腎臓構成細胞への分化を示す図である。(b)連続切片を光学顕微鏡で検索したものである。(c)組織切片について、β-gal(左)、WT-1(右)の2色免疫蛍光染色を行ったものである。移植hMSCsの腎臓構成細胞への分化を示す図である。(d)リレー培養後に生じた後腎をコラゲネース処理後、単一細胞をFACS-Galアッセイし、LacZ陽性細胞を分離、RNA抽出後RT-PCR解析した。上からKir6.1、SUR2、AQP-1、PTH受容体1、1αハイドロキシラーゼ、NBC-1、ネフリン、ポドシン、GLEPP1、ヒト特異的β2ミクログロブリン(MG)、及びラットGAPDHを示す。分離した後腎にhMSCsの注入後培養した像を示す。(a)は、6日間の器官培養後、得られた後腎をX-galアッセイしたものである。(b)は、LacZ陽性細胞からRNAを抽出し、RT-PCRを行ったものである。上からAQP-1、PTH受容体1、NBC-1、GLEPP1、ネフリン、ポドシン、ラットGAPDH、及びヒト特異的β2ミクログロブリンである。α-gal A欠損 Fabryマウスにおける治療的腎の再構成を示す図である。(a)は、生じた後腎のα-gal A酵素生物活性をフルオロメターで評価したものである。α-gal A欠損Fabryマウスにおける治療的腎の再構成を示す図である。(b)は、得られた後腎のGb3クリアランス能を確認するため、Gb3存在下で器官培養を実施し、後腎における蓄積をGb3に対する免疫染色により評価したものである。大網中に移植された後腎の出現を示す図である。大網中に移植された後腎(2週)の組織的分析をに示す図である。異なるステージの腎臓原基の大網への移植(2週)を示す図である。改良リレー培養(2週)でhMSCsより生成した新規腎臓を示す図である。改良リレー培養(2週)によって、LacZ陽性ヒト間葉系幹細胞からLacZラットに作製した新規腎臓の組織所見を示す図である。糸球体上皮細胞(下図左)および尿細管上皮細胞(下図右)が注入したhMSCs由来であることを示す。新規腎臓を単離しFACS−GelアッセイにてhMSCs由来細胞を分離RNAを抽出しRT-PCRにて遺伝子発現を解析した。aquaporin-1(AQP-1)、parathyroid hormone(PTH) recepter 1, 1α hydroxylase、nephrin、glomerular epithelial protein 1(GLEPP-1)及びhuman-specific β2microgroblin(MG)の遺伝子発現を示す。レーン1はマーカー(φX174/HaeIII)、レーン2はhMSCs、レーン3−5は個々の実験結果の新規腎臓である。大網中に移植した新規腎臓の電子顕微鏡写真を示す図である。糸球体係蹄内に赤血球が認められレシピエントの血流と統合されていることを示している。レシピエントとしてLacZトランスジェニックラットを用いることにより、新規腎臓内の血管系がレシピエントから構築されていることを示す図である。LacZ陽性細胞におけるintercellular adhesion molecule-1(ICAM-1)、vascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)、platelet-endothelial cell adhesion molecule-1(PECAM-1)及びrat GAPDHの遺伝子発現を示す。レーン1はマーカー(φX174/HaeIII)、レーン2はomentum(大網)への移植前腎臓原基、レーン3−5は個々の実験結果の新規腎臓からのRNAである。改良リレー培養法(4週)により、尿生成にともなう水腎症が形成され(左)、拡張した尿管内に貯留した液体(右上)は尿の組成を呈していることを示す(右下)。 本発明は、妊娠哺乳動物宿主中の臓器に、分取したヒト間葉系幹細胞(hMSCs)を移植してhMSCsの分化を導くことによるヒト移植用の所望臓器の調製方法の改良である。 本発明で使用できる哺乳動物の好適な例としては、例えばブタが例示され、その他の好適な動物としては、遺伝子組換えされた、例えばトランスジェニック、ノックアウト、ノックイン等のブタが例示される。その他、有蹄動物、例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ等が例示される。さらに、マウスもしくは上記有蹄動物の遺伝子改変動物、特にトランスジェニック動物等が好適に例示される。 hMSCsは、ヒト骨髄から分取される。分取法は、一般的な外科的医学手法による。分取された細胞は、最適条件を選択し、培養を2〜5細胞継代以上はしないことがよい。hMSCsの形質転換させないまま培養を継続する目的でCambrex Bio Science社製のヒト間葉系幹細胞専用培地キットを用いる。 細胞は、所望により、アデノウイルス及び/又はレトロウイルス等の手技を使い所望の遺伝子を導入する。例えば腎臓を所望する場合、腎臓形成を補助する目的にてグリア細胞由来神経栄養因子(Glial cell line-derived neurotrophic factor-GDNF)を発現するように遺伝子導入させる。これは腎臓が形成される直前の間葉組織はGDNFを発現するようになり、その受容体であるc-retを発現する尿管芽を引き込むことで腎臓発生の最初の重要なステップを完了させるからである。この形質転換により、注入幹細胞由来腎臓の形成率を5.0±4.2%から29.8±9.2%に上昇させることを確認している。 調製されたhMSCsは、次いで妊娠哺乳動物宿主中の胎児に移植される。胎児は、手技上の問題から生体外に取り出した後に、いわゆる全胚培養で行ってもよいが、より好ましくは生体内の胎児に直接移植し、子宮内で臓器形成させる。移植の手法は一般的な外科的医学手法、例えばエコー下にてマイクロピペット等を使い行う。移植する細胞量は0.5〜1.0×103個で十分である。 胎児への移植の時期は、選択的である。ラットを使った実験ではステージ胚日11.5日が好適であった。大型の哺乳動物のブタ等でも、同様のステージ胚が好適に利用できる。しかし、その前後も条件を選定することによって適用可能である。しかし、重要なことは少なくとも移植時期は、胚の成長段階が、宿主の免疫系が未だ免疫寛容の段階であることである。 本発明の特徴は、胎児への移植の部位の選択である。つまり、胎児へのhMSCsの移植部位が所望臓器の宿主における発生相当部位である。移植は、そのため、当該所望臓器の相当部位であることが確定できる時期であることが必要となるが、各所望臓器の芽細胞が発達開始前の萌芽状態であることが必須である。例えば、腎臓を所望する場合には、尿管芽の発芽部位である。その他肝臓を所望する場合、前腸の尾方部から腹側への突起物として形成される肝芽(肝憩室)の進展部位、また膵臓を所望する場合、前腸の尾側部から生じる膵芽の進展部位に注入する。 細胞の成長は、生体外で行う場合、いわゆる全胚培養(子宮を母体から分離し、そこから胎児を子宮壁、脱落膜、ライヘルト膜を含む外膜層から切り離したものを取り出して得た胎児にヒト間葉系幹細胞を移植し、これを培養瓶内等で培養する)で胎児を培養し、一定成長後に形態的・機能的に評価し、器官原基を確認する。この確認後、器官原基を分取し、器官培養を行う。 細胞の成長を生体内で行う場合は、ブタなどの大型の妊娠哺乳動物の生体内の胚に、経子宮アプローチによって、直接ヒト間葉系幹細胞を移植し、そのまま生体内で成長を続けさせ、各器官への成長をさせる。 本発明で適応できる器官はあらゆる可能性がある。好適なものとして肝臓、膵臓、肺、心臓、角膜、神経、皮膚、造血幹細胞又は骨髄等が例示されるが、これらに限定されるものではない。器官の大きさは、宿主動物の本来保持する器官に相同するので、ヒトにおいて十分な機能を発揮させるためには、宿主が、ヒトの所望臓器と近似の大きさをもつ哺乳動物であることが好ましい。ただし、全く相同の大きさを持つ必要はなく、たとえば腎臓であれば全体の10分の1の機能があれば十分透析を回避できるし、肝臓も5分の1があれば十分生命を維持できる。この理由より最適な宿主はブタであり、ミニチュアブタの臓器の大きさで十分と判断される。 かくして成長した臓器は、機能確認がされた後、宿主から切り離され、人体に返されるが、この移植部位は、好ましくは人体の大網中が好適な一例である。腎臓の場合、この移植によって、器官は生体内成長を継続し、適当な尿の排泄系の確保によって腎臓機能を発揮するクローン腎臓の形成が完成する。 なお、形成された臓器が、宿主由来の抗原性物質を夾雑しないようにするためには、移植細胞を、以下のような形質に変換しておくことが有効である。つまり形成された所望臓器内にはhMSCs由来のヒト細胞と宿主動物由来の細胞が混在する。混在した宿主由来細胞は所望臓器を人体に移植した際に、免疫拒絶反応を引き起こす可能性があるために、所望臓器形成後、宿主由来細胞を徹底的に取り除く必要がある。これを解決するために、調節的にプログラム細胞死を誘導可能な宿主動物を作成し、この動物において所望臓器を形成する。この宿主動物胚の当該部位にhMSCsを移植、所望臓器を作成した後、宿主細胞特異的に細胞死を誘導し、人体に移植する前段階で宿主由来細胞を完全に取り除く。 以下、本発明の代表例としてラットを使用した腎臓の系により説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、広く、hMSCsを使い移植部位及び移植時期を選択する系の全てが本発明に含まれる。(使用材料と方法)1)実験動物 動物は、野生型Sprague-Dawleyラットを三共ラボサービス(東京)より購入し、使用した。東京慈恵会医科大学の実験動物センターにおいて、R.O. Brady氏(National Institute of Health、 Bethesda)より寄贈された交配ペアからFabryマウスの繁殖コロニーを確立した。膣栓を認めた日の中間点を0.5日とした。動物は換気(陽圧気流)ラックの中に収容し、病原菌のない状態下で交配、飼育した。全ての実験的手順は東京慈恵医科会大学動物実験委員会により承認された。2)hMSCsの培養及び操作 健常志願者の骨髄から得られたhMSCsを使用した。CD105、CD166、CD29、CD44陽性及びCD14、CD34、CD45陰性と確認された骨髄由来のhMSCsをCambrex Bio Science 社(Walkersville、MD)から購入し、製造者の提供するプロトコールに従い、培養した。hMSCsは形質変化を避けるために5細胞継代以内で用いた。ヒトGDNFcDNA(AxCAhGDNF)を有する複製欠損組み換え型アデノウイルスを既述の通り作成し、精製した(非特許文献11)。細菌性LacZ遺伝子(MFG-LacZ)を有する組み換え型レトロウイルスを産生するパッケージング細胞(Ψ-crip)はH. Hamada(札幌医科大学)より寄贈された。アデノウイルス感染及びレトロウイルス感染を既述の通り実施した(非特許文献12、13)。細胞は100%ジメチルホルムアミド中で1,1'-dioctadecyl-3,3,3',3'-tetramethylindocarbocyanine(DiI; Molecular Probes社)0.25%(wt/vol)を用いて標識し、マイクロピペットを用いて尿管芽の発芽部位に注入した。3)全胚培養及び器官培養 若干変形を加えた以外は既述通りの方法(非特許文献14)で全胚をin vitroで培養した。実体顕微鏡を用いて、子宮を麻酔下母体より摘出した。ステージ胚日(E)11.5のラット胚およびステージE9.5マウス胚を子宮壁、脱落膜、ライヘルト膜を含む外膜層から切り離した。注入できるように卵黄嚢及び羊膜を開いたが、絨毛膜尿膜胎盤はそのままの形で残した。注入が成功した胚を、直ちに100%遠心分離したラット血清にブドウ糖(10mg/ml)、ペニシリンG(100単位/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、及びアンフォテリシンB(0.25μg/ml)を加えた培養培地3mlを入れた15mlの培養瓶内で培養した。培養瓶はインキュベータ(型番号 RKI10-0310、Ikemoto、東京)内で回転させた。ラット胚の ex vivoの成長は24時間―48時間の培養期間後に評価し、E12.5及びE13.5のラット胚と比較した。48時間後、胎児を心拍、全身血液循環、及び全身の形態につき評価した。既述の通りに腎臓原基を単離し、培養した(非特許文献15)。腎臓原基内のグロボトリアオシルセラミド(Gb3)の蓄積を高めるため、培養した後腎をセラミデトリヘキソシド(1 nmol、Sigma)の存在下で培養した(非特許文献16)。後腎のα-ガラクトシダーゼ A(α-gal A)の酵素活性を既述の通りに蛍光分析法で評価した(非特許文献17)。4)組織学 後腎の二重染色を、第一次抗体としてマウス抗β-gal(Promega社)及びラビット抗ヒトWT-1(Santa Cruz Biotechnology社)を用いて、原則として既述通り(非特許文献17)に実施した。モノクロナールマウス抗-Gb3抗体(生化学社、東京)も用いた。ジゴキシゲニンUTP-標識c-retリボプローブを用いたホールマウント in situハイブリダイゼーションを既述通り実施した(非特許文献15)。組織切片のin situハイブリダイゼーションもビオチン標識ヒトゲノムAluI/II プローブ(Invitrogen社)を用いて製造者のプロトコールに従い実施した。既述通り、LacZ遺伝子の発現を評価するためにX-galアッセイを用いた(非特許文献13)。 (X-galアッセイ) omentum(大網)において2〜4週間、分化した腎臓は、4℃で3時間、0.25%グルタルアルデヒドと2%PFA(パラホルムアルデヒド)含有PBSで固定化され、洗浄緩衝液(PBS中0.02%NP-40,0.01%デオキシコレート)で各20分間室温で三度洗浄した。それらは、1mg/mlのX-gal(4-Cl-5-Br-3-indolyl-β-galactosidase)、5mM potassium ferocyanide(Sigma)、0.002% NP-40、0.001% deoxycholic acid、及び2mM MgCl2を含む反応用緩衝液で37℃、3時間インキュベートされた。全腎臓は次いでフォルマリンで固定化され、パラフィン中浸漬された。3マイクロメータ切片が切断され、counter(非対象物)がエオシンで染色され、LacZ陽性細胞が青色に染色された。5)hMSC由来LacZ陽性細胞の同定 リレー培養により生成された後腎を37℃30分間コラゲナーゼI型(1mg/ml)の500μl内で消化した。10%FBS(仔牛血清)含有DMEMが加えられ、細胞はペレット化された。細胞消化物は滅菌40μmナイロンメッシュの2重層でろ過し、低張性ショックによる一時的な透過性を用いて、フルオロセイン・ジガラクトシド(FDG)(Molecular Probes社)でラベルした。(非特許文献18) (FACS-Galアッセイ) 要約すると、細胞は107の濃度で4%FBS含有PBSの100μlで懸濁し、37℃に暖めた。水中に2mM/L濃度のFDGの等量もまた37℃に暖められた。前加温された細胞とFDGが急速に混合され、直ちに水浴中に戻され、1分間置かれた。1.5μM propidium iodideを含む1.8mLのice-cold PBSが加えられた。そして、LacZ陽性細胞を、セルソータ(Becton Dickinson社)を用いて分別した。アクアポリン-1(AQP-1)、副甲状腺ホルモン(PTH)受容体1、1αヒドロキシラーゼ、Na+-HCO3-共輸送体1(NBC1)、ネフリン、ポドシン、糸球体上皮蛋白質1(GLEPP-1)の発現を分析するために、総RNAを抽出しRT-PCRにかけた。細胞の倍数性を分析するために、propidium iodideを用いて細胞を染色し、DNA量をフローサイトメーターを用いて評価した。 (RT-PCR) 全RNAがLacZ陽性細胞からRNeasy mini kit(QIAGEN GnbH, Hilden Germany)で抽出され、SuperScript II Reverse Transcriptase(Life Technologies BRL, Rockville, MD)を使ってcDNAを、添付文書プロトコルに従って合成した。aquaporin-1(AQP-1)、parathyroid hormone(PTH) recepter 1, 1α hydroxylase、nephrin、glomerular epithelial protein 1(GLEPP-1)、intercellular adhesion molecule-1(ICAM-1)、vascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)、及びplatelet-endothelial cell adhesion molecule-1(PECAM-1)がPCR後の増幅産物について評価された。プライマー配列と反応条件は表1に示した。human MGとrat GDPDHについては2段階増幅(94℃1分、66℃1分で43サイクル)が適用された。PCR条件は、(95℃10分-94℃45秒、至適アニリーング温度で1分、72℃1分)の36サイクル、及び72℃10分である。6)機能的ドナー由来クローン腎臓の作製 大網内での腎臓原基の成長の最適条件を検討するため、ラット後腎組織を成長段階、片腎摘出の有無で分けて移植後の成長程度を評価した。その最適条件に則り、上述で作製した腎臓原基をさらにレシピエントの大網に移植した。2週間後に腎臓の高度に分化した組織所見であるか否かを免疫染色、電子顕微鏡にて確認した。7)レシピエントの血管とクローン腎臓の統合の確認 レシピエントの血行が新規腎臓に注がれていることを確認するため、LacZトランスジェニックラットの大網に移植し、新規腎臓内の血管がレシピエント由来であることを確認した。さらに注入するヒト間葉系幹細胞もLacZ遺伝子導入し、血管とドナー由来ネフロンが統合しているか確認した。8)尿生成能の有無の確認 大網内で成長し、レシピエントの血流が廻っている新規腎臓がレシピエントの血液をろ過し、尿を生成することが可能か検討するために大網内で4週間成長させ、尿管内に溜まった液体中の尿素窒素濃度、クレアチニン濃度を測定し、血清の濃度と比較することにより尿の生成能の有無を確認した。9)統計解析 データは平均±標準偏差で示した。統計解析は、異なる2群のデータを比較するために、2標本t検定を用いて実施した。P<0.05を統計的に有意とみなした。(結果)A.リレー培養システムを用いた腎臓原基の子宮外成長 全胚培養システムは一定の酸素濃度が回転する培養瓶に連続的に供給できるように最適化し、子宮外で胎児の成長を改善するようにした(非特許文献14)。本システムを用いて、ラット胚(E11.5)を卵黄嚢、羊膜、絨毛膜尿膜胎盤と共にブドウ糖(10mg/ml)を加えた100%新鮮遠心分離ラット血清培地を入れた培養瓶中で37℃で培養した。培養24時間及び48時間後にラット胚の子宮外成長を、E11.5、E12.0、E12.5、E13.0、E13.5につき子宮内で成長した胚と比較することにより評価した。48時間後、胎児を心拍、全身の血液循環、一般的な形態につき評価した。得られた体節数、及び一般的な形態に基づき、本法で培養したラット胚の成長年齢は子宮内で成長したE13胚と一致する成長段階に達した図1-1(a)。この段階で、尿管芽は伸長し、最初の分岐を完了したが、それは培養中に後腎間葉が刺激を受け、腎形成に向けて第一歩を踏み出したことを示している。しかし、胎児はそれ以上成長することができず、in vitroで胎盤の成長が不十分なため48時間後直ちに死亡した(非特許文献19)。この限界を克服するため、全胚培養後に器官培養を行った。48時間の全胚培養後、後腎を胎児より単離し、6日間器官培養を行った。この組み合わせ(リレー培養と名づけた)を用いて、腎臓原基はin vitroで分化成長を続け、尿細管形成及び尿管芽分岐を繰り返したことが、ヘマトキシリン/エオジン染色図1-2(b)及びc-retに対するホールマウントin situハイブリダイゼーション図1-2(c)によって確認された。このことにより、後腎は尿管芽が発芽段階に達する前に胎児を子宮から取り出した場合でも、子宮外で腎臓完成まで成長を継続することができることが示された。B.培養由来の後腎におけるドナー由来細胞の割合及び細胞融合の可能性の評価 A.に記載のシステムを用いてhMSCsをラット胚の腎臓形成部位に注入した。ホスト細胞と区別するために、レトロウイルスを用いてLacZ遺伝子を強制発現させ、またDiIで蛍光標識したhMSCsは、さらにアデノウイルスを用いてGDNFを遺伝子導入するか(図2−2(b))、またはせずに(図2−1(a))、ラット胚の尿管芽の発芽部位に注入した。次に総数1×103/胎児のhMSCsを、ラットについては体節29のレベル、マウスについては体節26のレベルで、体節と外側板との中間にある中胚葉に注入した。これらのレベルを我々は以前のc-retに対するin situハイブリダイゼーションにより尿管芽発芽部位であると推定していた(非特許文献15)。注入の成功は、ヒト細胞のみを特定するヒトゲノムAluI/IIを検出するin situハイブリダイゼーション法により、注入されたhMSCsが中腎管に沿って検出されたことにより確認された。 リレー培養後、新しく生成された腎臓原基をコラーゲナーゼで消化し、単一細胞をFACS-Galアッセイしたところ、5.0±4.2%のLacZ陽性細胞が腎臓原基組織内に検出された(図2−1(a))。注入部位が1体節を超える長さで変更された場合、分離した後腎中にLacZ陽性細胞は検出されなかった。対照胚において、hMSCsの代わりに標識をつけたマウス線維芽細胞を注入したが、LacZ陽性細胞はほとんど認められなかった。注入したドナー由来細胞率を上げるため、注入前のhMSCsにアデノウイルスAxCAh-GDNFを用いて一過性にGDNFを発現させた(非特許文献11)。これはGDNFが通常この段階で後腎間葉において発現するようになり、このGDNFとその受容体c-retとの間の相互作用による上皮-間葉シグナルが腎臓形成に必須であるからである(非特許文献10)。この一過性GDNF発現によって腎臓内のドナー由来LacZ-陽性細胞数が有意に増加したことが(29.8±9.2%、図2−2(b))FACS-Galアッセイにより明らかとなった。このLacZ陽性細胞を分別し、そのDNA量を、propidium iodideの強度を用いて評価したところ新しく生成された腎臓原基におけるLacZ-陽性細胞の68.8±11.4%が正倍数体であった(図2−3(c))。また LacZ-陽性細胞数は注入した細胞の最初の数(1×103/胚)と比較して有意に増加(2.84±0.49×105/腎臓原基)していたが、これは残りの倍数体細胞はほとんどが細胞分裂を受けていることを示唆している。さらにヒトY染色体及びラットY染色体を用いた蛍光in situ ハイブリダイゼーション法では、Y染色体を二つ以上持つ細胞は全く認められなかった。これらのデータにより、ホスト細胞とドナー細胞が細胞融合する可能性が極めて少ないことが示された。C.移植hMSCsの腎細胞への分化 リレー培養後に生じた腎臓原基中の移植したhMSCsの動態と形態変化を追跡した。器官培養中に蛍光顕微鏡下にて成長中の腎臓原基を経時的に観察したところ、DiI陽性hMSCsは髄質の方に移動し、腎臓原基の中に分散していく像が確認された。これらの細胞が腎臓の構造に寄与したことを検討するために、腎臓原基をX-galアッセイした。LacZ-陽性細胞は後腎原基の全体に分散しており、糸球体上皮細胞(右上)、尿細管上皮細胞(右中)、及び間質細胞(右下)と形態的に同一であることが示された(図3-1(a))。さらに腎臓原基の連続切片を光学顕微鏡で検索したところ、糸球体上皮細胞は尿管上皮細胞(矢印)と結合し、これらの細胞の一部は髄質(矢印)の方向に連続的な尿細管の伸長を形成していた(図3-2(b)、gl:糸球体)。この像は移植後hMSCが個々の腎臓細胞に分化するのみでなくネフロン(ろ過再吸収の基本単位)を形成していることを示すものである。さらに糸球体上皮細胞への分化を確認するためβ-gal (左)とWT-1(右)の二重免疫蛍光染色を行った。WT-1はこの段階で糸球体上皮細胞において強く発現することが知られており(非特許文献20)、両者が同一細胞に陽性であることより(中央)LacZ陽性ドナー細胞の一部は糸球体上皮細胞まで分化を完了していることを示している(図3-2(c))。 リレー培養後に生じた腎臓原基を消化し、単一細胞をFACS-Galアッセイした。LacZ陽性細胞を分別し、RT-PCRを行って、Kir6.1、SUR2、AQP-1、PTH受容体1、1αハイドロキシラーゼ、NBC-1、ネフリン、ポドシン、GLEPP1、ヒト特異的β2ミクログロブリン(MG)、及びラットGAPDHの発現を解析した。レーン1は対照ラットの後腎、レーン2はhMSCs、レーン3-5は異なる3回の実験によって形成された腎臓である。ドナー由来LacZ-陽性細胞が糸球体上皮細胞特異的遺伝子(ネフリン、ポドシン、GLEPP-1)及び尿細管上皮細胞特異的遺伝子(AQP-1、1αヒドロキシラーゼ、PTH受容体1、及びNBC-1)を発現していることが示された(図3-3(d))。一方内因性腎細胞と対照的に、ATP感受性K+チャンネルサブユニット、Kir6.1/SUR2(非特許文献21)(hMSCs内で発現される)はリレー培養後に依然として発現していた。D.分離した後腎におけるhMSCsの注入及び培養 レトロウイルスを用いてLacZ遺伝子を発現したhMSCsにさらにアデノウイルスでGDNFを遺伝子導入し、培養した後腎(E13)に注入した。6日間の器官培養後、得られた後腎をX-galアッセイした(図4(a))。差込図は高拡大率でLacZ陽性細胞を示す。注入したhMSCs由来細胞は凝集したままで、腎臓の高次元構造を形成していない。さらにこのLacZ陽性細胞を分別した後RNAを抽出し、RT-PCRを行った。器官培養前(レーン2)及び後(レーン3)の新たに生成した腎臓原基を示す。また器官培養前(レーン4)及び後(レーン5)の後腎及びhMSCsの混合物を示す。レーン1は、マーカー(φX174/HaeIII)である。図に示すようにすでに後腎まで分化した培養組織にhMSCsを注入しても腎特異的遺伝子を発現しないことが確認された(図4(b))。以上の事象により、尿管芽が発芽する前に注入されたhMSCsのみが、器官培養中に腎臓原基に統合され腎特異的遺伝子を発現するように形質転換することが可能であり、その他の条件ではこれらの遺伝子発現能を獲得できないことが示された。つまり上記により、hMSCsは全胚培養中には腎の運命に関与する本質的に重要な最初のステップを完了し、器官培養中にはさらに間質から上皮への移行、または間質生成のための分化を受けることを示している。E.α-gal A欠損Fabryマウスにおける治療的腎の再生 hMSCs由来ネフロンが機能的であるかどうかを検討するため、hMSCsをα-gal A遺伝子を発現しないノックアウトマウス(Fabryマウス)のE9.5胚中に移植し、リレー培養を行った(非特許文献22)。このα-gal A欠損はヒトにおいてFabry病として知られ、主として糸球体上皮細胞及び尿細管上皮細胞においてスフィンゴ糖脂質(Gb3)の異常な蓄積をきたし、出生後に腎不全をもたらす。 前述の方法で作製したヒト間葉系幹細胞由来腎臓原基のα-gal A酵素生物活性を既述の通りフルオロメターで評価した(非特許文献19)。対照として、野生型マウス(左)及びFabryマウス(右)の後腎を同じプロトコールで比較したところ、野生型マウス(655.0±199.6 nmol/mg/時間)と比較して、Fabryマウスからの腎臓原基におけるα-gal A生物活性は極めて低いが(19.7±5.5 nmol/mg/時間)、これに比較して注入したヒト間葉系幹細胞由来ネフロンを持つ腎臓原基は有意に高い量のα-gal A生物活性を発現した(204.2±98.8 nmol/mg/時間、p<0.05、図5-1(a))。 得られた腎臓原基のGb3クリアランス能を確認するため、Gb3存在下で器官培養を実施し、後腎におけるGb3の蓄積を野生型マウス(左)及びFabryマウス(右)と比較することにより解析した。Fabryマウスの腎臓原基中の尿管芽及びS字体内(図5-2(b)右)のGb3の蓄積は、リレー培養法により形成されたヒト間葉系幹細胞由来ネフロンと統合することにより著明にクリアランスされることが確認された(図5-2(b)中央)。この結果は新しく生成されたネフロンが生物学的に機能していることを示すものである。F. ここまでの発明により、hMSCsを全胚培養で器官の特異的位置において成長させることによって、hMSCsをその臓器の運命に関与させることが可能であることを見出した。GDNFを遺伝子導入したhMSCsを胎児に注入した後にリレー培養を行うことにより、個々の腎臓構成細胞ではなくネフロンの形成が可能となる。これらのhMSC由来細胞は、そのGb3代謝能試験が示す通り機能的である。 hMSCsは、それらが入っていく胚環境に依存して、他の運命及び器官構造に再プログラム化することができる。さらにhMSCsを用いることの利点は、それらは始原において中胚葉であるが、通常外胚葉または内胚葉に由来する細胞型に分化していく潜在能力を有している(非特許文献23)。従って本発明では代表例として腎臓を示したが、内胚葉の胚層に由来する肝臓や膵臓などの臓器を再構成することが可能である。さらに、全胚培養中、器官成長の開始後、器官培養の条件を変えることにより、内分泌腺などの特異的な細胞または単一構造の組織を自己MSCsから生成することができる。 ホスト免疫系は全胚培養のこの段階では十分には成長しない。従って異種細胞に対して寛容性を有する。本発明は、免疫無防備の異種ホストの内在的な成長系を用いて自己MSCsから自己器官を生成する方法の確立である。 上述までのシステムは、腎臓原基の最終的な成長のために器官培養を使っているため、形成された腎臓は血管構造を持たない。このため腎臓の基本機能である血液ろ過の機能については確認できないので、さらにシステムの改良を行った。ラット後腎組織は大網内に移植した場合、成長を継続できることが報告されているため(非特許文献24)、E15胚から後腎組織を単離し、ラットの大網に移植し、2週間後に開腹したところ、移植した後腎は大網内でさらに成長を続けその腎臓には大網から血管系が進入していることが確認された(図6)。この成長は腎不全状態(片腎摘出術後)でも低下せず、逆にさらに加速することが示された(図6)。この成長した腎臓の組織的解析を図7に示した。腎臓の血管内には移植前には認められない赤血球が充満しており、組織学的にも血行が開通していることが示された。さらに大網に移植する前には確認できなった糸球体メサンギウム細胞(デスミン陽性)及び高度に分化した糸球体上皮細胞(WT-1及びシナプトポジン陽性細胞)が確認された。次に移植の最適なタイミングを検討するために、異なるステージの後腎の大網への移植を行った(図8)。図に示すように、E12.5までの未熟な後腎組織を移植してもその後の成長は起こらないが、E13.5以降の後腎組織では腎臓が成長されることが示された。 以上の事象を踏まえてリレー培養法をさらに改良した。つまりラット胚(E11.5)にGDNF遺伝子導入LacZ陽性hMSCsを注入後、全胚培養(48時間)し、大網内で成長を継続できる段階まで24時間器官培養し、これを大網へ移植した(改良型リレー培養法と名づけた)。成長をさらに促すため片腎摘出を行った。2週間後成長した新規腎臓は64±21mgまで成長した(図9−1)。X-galアッセイを用いた組織学的検討(図9−2)では、LacZ陽性hMSCsは形態的に糸球体上皮細胞(下図左)および尿細管上皮細胞(下図右)に分化していた。これらのhMSC由来 LacZ陽性細胞は、FACS-Galアッセイを使い分離され、それらの遺伝子発現をRT-PCRで分析したところ糸球体上皮細胞特異的遺伝子(nephrinとGLEPP-1)と尿細管上皮細胞特異的遺伝子(AQP-1、parathyroid hormone(PTH) recepter 1, 1α hydroxylase)を発現していた(図9−3)。電子顕微鏡学的解析では糸球体係蹄内に赤血球が確認されレシピエントの血管系と統合していることが確認され、さらに高度に分化した糸球体上皮細胞の足突起や内皮細胞、メサンギウム細胞の構築が確認された(図9−4)。 この血液が、移植したレシピエントの血管から供給されていることを確認するため、レシピエントの血管がLacZで青く染まるLacZラットの大網に腎臓原基を移植した。肉眼的にも大網の血管が新たに形成された腎臓に入り込んでいることが示され(図10−1上図)、組織のLacZ染色により、この腎臓内の血管がレシピエント由来の青い細胞で形成されていることが示された(図10−1下図)。LacZ陽性細胞が、血管内皮細胞特異的遺伝子であるintercellular adhesion molecule-1(ICAM-1)、vascular cell adhesion molecule-1(VCAM-1)、及びplatelet-endothelial cell adhesion molecule-1(PECAM-1)を発現していることをFACSで分離したLacZ陽性細胞のPT-PCRで確認した(図10−2)。 これらの事象を基に、改良型リレー培養法によりヒト間葉系幹細胞由来クローン腎臓からレシピエントの尿が作れるか確認した。ラット(E11.5)胚に、レトロウイルスでLacZ遺伝子導入、アデノウイルスを使ってGDNF遺伝子導入を行ったhMSCsを腎臓形成部位に注入した。24時間の全胚培養、さらに大網内で4週間成長させた新規腎臓の形態を図11に示した。その像はこの腎臓は尿管の開口部がないため作製された尿により水腎症が形成されたものと判断された。そこでこの尿管に貯留した液体を回収し、尿であるか検討したところ、その組成は血清より有意に尿素窒素濃度、クレアチニン濃度が上昇しており、糸球体でろ過された尿であることが示唆された。つまり腎臓が成長し、尿が形成される2週から4週の間にクローン腎臓の尿管をレシピエントの尿管、膀胱、または直腸、皮膚に開口させる処置を行い、尿の出口を形成させることは有効である。 本発明は、臓器移植の新たな展開を可能とし、例えば腎臓疾患により透析を受けているような患者は、自身の間葉系幹細胞を分取し、これを妊娠宿主動物に移植し、臓器の一定成長後に自身に臓器移植すれば、本来の機能を担持した臓器の創生が達成出来るのである。 分取した哺乳動物間葉系幹細胞を非ヒト妊娠哺乳動物宿主中の胎児又は非ヒト妊娠哺乳動物の宿主から分離した胎児に移植して該間葉系幹細胞の分化を導くことによる哺乳動物移植用の腎臓の調製方法であって、該間葉系幹細胞の胎児への移植部位が所望臓器である腎臓の宿主における分化相当部位であり、移植時期は宿主免疫系が未だ免疫寛容の段階であり、並びに、さらにin vitro において全胚培養を行うことを特徴とする移植用腎臓の調製方法。 さらに、in vitroにおいて器官培養を行うことを特徴とする請求項1に記載の方法。 前記所望臓器の宿主における分化相当部位が、尿菅芽の発芽部位である請求項1又は2に記載の方法。 前記宿主が、ヒトの所望臓器と近似した大きさをもつ哺乳動物である請求項1〜3のいずれか1に記載の方法。 前記宿主が、ブタである請求項1〜4のいずれか1に記載の方法。 前記移植時期が、ステージ胚日21〜35である請求項5に記載の方法。 前記間葉系幹細胞の胎児への移植が、経子宮アプローチによって該細胞を宿主の臓器形成部位に移植する請求項1〜6のいずれか1に記載の方法。配列表