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タイトル:特許公報(B2)_鋳鉄鋳物の引け巣の予測及び防止方法
出願番号:2007514408
年次:2010
IPC分類:B22D 46/00,B22C 9/00,G01N 25/04


特許情報キャッシュ

菅野 利猛 姜 一求 村上 俊彦 久保 公雄 JP 4516987 特許公報(B2) 20100521 2007514408 20050426 鋳鉄鋳物の引け巣の予測及び防止方法 株式会社木村鋳造所 000155366 クオリカ株式会社 399077353 株式会社イーケーケージャパン 500510788 鈴木 弘男 100077827 菅野 利猛 姜 一求 村上 俊彦 久保 公雄 20100804 B22D 46/00 20060101AFI20100715BHJP B22C 9/00 20060101ALI20100715BHJP G01N 25/04 20060101ALI20100715BHJP JPB22D46/00B22C9/00 EG01N25/04 B B22D 46/00 B22C 9/00 特開平5−96365(JP,A) 5 JP2005007886 20050426 WO2006117837 20061109 18 20080129 福島 和幸 本発明は鋳鉄鋳物の引け巣の予測及び防止方法に関する。 引け巣の予測に関しては、古くから各種の方法が提示されている。代表的なものとしては、ロシアのチボリノフが提案した鋳物の体積を表面積で除した値であるモジュラスにより評価する方法、新山が提案した温度勾配Gを冷却速度の平方根√Rで除した値で評価する方法などがある。 しかしながら、これらの引け巣予測方法は、黒鉛の生成による膨張を伴わない鋳鋼や非鉄金属などにおいては有効な手段となり得てきたが、黒鉛生成を伴う鋳鉄では必ずしも有効な手段とはなっていない。 このため、吉田らは球状黒鉛鋳鉄の引け巣発生の判定法として、特許文献1を提案している。この方法は、鋳物内部と表面の共晶凝固時間を測定し、この共晶凝固時間の重なり度合いすなわちマッシー度より引け巣の有無を判断するものである。また、特許文献2においては、黒鉛の粒数と黒鉛半径から固相率を求め、引け巣の判定に利用する方法を提案している。 これらの吉田らの判定方法は、球状黒鉛鋳鉄の引け巣傾向を判定するにはある程度有益ではあるが、これらの方法で引け巣の予測を行うことは難しい。なぜならば、これらの方法では、大きな鋳物ほど引け巣が発生することになり、鋳型強度が十分に高い場合には引け巣と製品の大きさに相関がないという発明者らの発見した事実と相反することになるからである。 通常、引け巣の予測方法としては、凝固シミュレーションによる「ホットスポット法」が用いられてきた。この方法は、凝固過程で鋳物内部に他とは断絶された溶湯の島すなわち温度等温線もしくは凝固線の閉じたループ(周囲を凝固した金属で囲まれた未凝固金属の島で「ホットスポット」と呼ばれる。)ができると、未凝固金属部に溶湯が補給できなくなるために、この部分に引け巣が発生しやすくなることに着目したものである。黒鉛の晶出による膨張を伴わない鋳鋼や非鉄金属においては、この「ホットスポット」部に引け巣が発生する確率が非常に高いために、精度の高い判定法として「ホットスポット法」が広く用いられている。しかしながら、黒鉛の晶出による膨張を伴う鋳鉄においては、「ホットスポット」が出来たからと言って、この部分が必ずしも引け巣になるわけではない。特開平10−296385号公報特開平5−96343号公報 引け巣の防止方法としては、押し湯や冷やし金などがある。押し湯に関しては、製品のモジュラスを計算して、製品のモジュラスより大きなモジュラスとなる押し湯を立てる方法が一般的である。このため、押し湯のサイズが製品のサイズと同じ程度になり、歩留まりが極端に悪くなるという問題がある。また、鋳鉄は鋳鋼よりも引け巣が発生しづらいため、押し湯の量を少なくすると引け巣が発生してしまい、結局鋳鋼と同じ押し湯を立てなければ引け巣が発生してしまうことが多い。冷やし金による引け巣の防止方法についても、冷やし金を施工することにより、引け巣の場所を移動させることは出来るものの、引け巣をなくすことはできない。これは、鋳鉄の引け巣の発生メカニズムが複雑であるため、十分に解明されていないことにある。 従来技術で述べたように、各種の引け巣予測方法が提案されてはいるものの、いまだに鋳鉄の特性に見合った精度の高い引け巣の予測方法は確立されていないのが現状である。また、引け巣の予測が出来たとしても、引け巣を防止するための効率的な鋳鉄の特性に見合った防止方法は提案されていない。 本発明は、さまざまな形状の鋳物や鋳物の各部分に対して、精度良く引け巣発生の有無を予測し、引け巣が発生すると予測される鋳物もしくは鋳物の各部分に対して、健全な鋳物が得られるように適切な鋳造方案や製品形状の変更を行えるようにする手段を提供することにある。 本発明者らは、大きさや材質あるいは形状の異なる各種鋳物の製品について、引け巣の発生の有無や凝固シミュレーション及び温度測定など各種の実験を行い、どのような形状の鋳物製品に引け巣が生じるかをつきとめた。直方体のブロックの例を用いてその手段を解説すると、直方体の長い二辺の合計を残りの短い辺の長さで除した値(ここでは「形状係数」と呼ぶ)がある数値以下の場合は、鋳物の大きさに無関係に引け巣が発生しないことを発見した。ここで言うある数値は、CrやMo等の引け巣を助長する元素が含まれていない通常の球状黒鉛鋳鉄では約8であることを発見した。CrやMoが増すに従ってこの値が変化することも発見した。 また、直方体ブロックでない形状の鋳物製品の場合は、形状を近似的に直方体と見なしてもよいことを発見した。たとえば球形状の製品の場合は、球が内接する一辺が球の直径と等しい立方体と見なせばよいし、円柱形状の製品の場合は2辺が円の直径と等しい直方体と見なせばよい。中に穴の空いたドーナツ状の円柱の場合は円柱を展開した直方体と見なせばよい。各種の形状が組み合わさった製品については、その製品の各部分を分割して考えればよいことなどを発見した。 上記のように、製品形状のみから引け巣の有無を判定することが出来るが、凝固解析等を行い、鋳物製品の凝固時における温度分布もしくは凝固時間分布から得られた凝固分布図において、閉塞した各楕円ループの形状係数を求め、この値が8以下になっているかどうかを確認することにより、閉塞した各楕円ループにおいて引け巣の発生を予測することができることも発見した。 このような方法を用いることにより、凝固過程で鋳物内部に他とは断絶された溶湯の島すなわち温度等温線もしくは凝固線の閉じたループである「ホットスポット」に引け巣が発生するかどうかの判定が可能となる。当然のことであるが、楕円球として形状係数を求めてもよいが、閉塞したラグビーボール状の楕円球を直方体に近似して形状係数を求めてもよい。 コンピューターによる凝固シミュレーションでの閉塞した各楕円ループの形状係数の求め方としては、以下のような方法がある。 ひとつの方法としては、凝固シミュレーションによる温度分布もしくは凝固時間分布から得られた凝固分布図を用いて任意の楕円ループの大きさを画面上でマウス等の操作により測定して形状係数を求めるやり方がある。 もうひとつの方法としては、任意の楕円プールを指定して形状係数を求める方法である。例えば、全凝固時間を何分割かし、そのうちの任意の時間における楕円ループを指定する。この楕円ループはメッシュ切りをしたときの要素で構成されている。このメッシュのX方向、Y方向、Z方向に要素が何個あるかを求め、楕円ループの形状係数を求める。 その他の方法としては、抽出した任意の楕円ループのデータを他の場所で処理して形状を数値化し形状係数を求めることなどもある。 このように、コンピューターを使った楕円ループの形状係数を求める方法としては多くの手段が考えられる。 産業上における本発明の最大の価値は引け巣の予測を可能にしたことはもちろんであるが、それに加えて引け巣を防止する方法を提案したことである。すなわち、冷やし金もしくは押し湯もしくは両者を用いて、形状係数が8以下になるように製品を分割することにより引け巣が発生しなくなることを発見したことである。 直方体の例で解説すると、例えば800×400×80mmの板を例に取ると、この形状係数は(800+400)/80=15となり、8以上で引け巣が発生する形状であることがわかる。この板を冷やし金で4分割すると、形状係数は(400+200)/80=7.5となり、8以下で引け巣が発生しなくなる。実際の製品試験においても、説明通りの現象を確認することが出来た。このときの冷やし金は、溶湯と直接接する冷やし金の施工方法でもよいが、1つであった閉塞した凝固のループが4つに分断されればよいだけなので、直接溶湯と接しないような冷やし金の施工方法でも問題はない。また、冷やし金の施工面積が多くなりすぎて、閉塞した凝固のループが4つに分断されない場合は、当然引け巣が発生するので注意を要する。押し湯を用いる場合には、前述の板の4カ所に押し湯を施工し、閉塞した凝固のループが4つに分断されるようにすればよい。 引け巣が発生するかどうかの形状係数は当然のことであるが、引け巣を助長するCrやMoなどの元素が入った場合や、逆に引け巣を防止するCの量などによって変化する。また、鋳型の強度(正確には鋳型の高温での強度)、鋳枠の剛性などによっても変化する。引け巣判定の形状係数の値は、これらの条件を加味して決定することが好ましい。しかしながら、一般に用いられている有機自硬性鋳型の場合では、概ね8を用いればよいことが、発明者らの実験で分かっている。なお、片状黒鉛鋳鉄においても、形状係数により引け巣の有無を判定して、引け巣が発生しないような方策を施工することが可能である。 以上要約すると、本発明の第1の態様によれば、鋳物製品の形状から、長い方の2辺の合計を残りの短い一辺で除した値である形状係数を求め、この値が8以下になっているかどうかを確認することにより、引け巣の発生を予測することを特徴とする鋳鉄鋳物における引け巣の予測方法が提供される。 本発明の第2の態様によれば、鋳物製品の凝固時における温度分布もしくは凝固時間分布から得られた凝固分布図において、閉塞した各楕円ループの形状係数を求め、この値が8以下になっているかどうかを確認することにより、閉塞した各楕円ループにおいて引け巣の発生を予測することを特徴とする鋳鉄鋳物における引け巣の予測方法が提供される。 本発明の第3の態様によれば、上記第2の態様において、凝固シミュレーションによる温度分布もしくは凝固時間分布から得られた凝固分布図を用いて、楕円ループの大きさを画面上で計測し、形状係数を算出することを特徴とする引け巣の予測方法が提供される。 本発明の第4の態様によれば、上記第2の態様において、凝固シミュレーションによる温度分布もしくは凝固時間分布から得られた凝固分布図を用いて、メッシュ切りで分割された楕円ループを構成する要素のXYZ方向の数から、形状係数を算出することを特徴とする引け巣の予測方法が提供される。 本発明の第5の態様によれば、形状係数が8を越える場合に、冷やし金もしくは押し湯もしくは両者を併用して製品を分割することにより、形状係数を8以下にすることを特徴とする鋳鉄鋳物の引け巣の防止方法が提供される。 本発明の第6の態様によれば、上記第1〜5の態様において、引け巣が発生するか否かの形状係数を、鋳物の成分、鋳型の性質、鋳造姿勢によって決定することを特徴とする引け巣の予測及び防止方法が提供される。 本発明では形状係数という新しい概念を創設し、この形状係数を用いることにより非常に精度良くかつ簡単に引け巣欠陥の発生を予測することができるようにした。鋳物成分、鋳型の種類、鋳造姿勢などが異なる場合でも、形状係数によって引け巣の発生を予測することを可能とした。さらに、引け巣が発生すると予測される場合は、冷し金もしくは押し湯を有効に使用することにより、論理的に引け巣の発生を防止することを可能とした。よって、鋳物鋳造における不良率の低減、歩留まりの向上、納期短縮等の効果があり、低コストで効率よく球状黒鉛鋳鉄を製造することが可能となった。(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)は鋳物製品の形状近似について説明する図である。直方体の形状係数と引け巣の関係を示すグラフである。円盤形状体の形状係数と引け巣の関係を示すグラフである。円筒体の形状係数と引け巣の関係を示すグラフである。直方体の異なる鋳造姿勢における形状係数と引け巣の関係を示すグラフである。異なる溶湯成分の直方体の形状係数と引け巣の関係を示すグラフである。異なる鋳型を用いた場合の直方体の形状係数と引け巣の関係を示すグラフである。コンピューターシミュレーションによる引け巣予測の一例を示す図である。楕円ループが存在する断面の一例を示す図である。幅(w)・長さ(l)・厚さ(tMS)を計測するためのダイアログを示す図である。楕円ループが存在する断面の一例を示す図である。凝固分布図の楕円ループの一例を示す図である。楕円ループに外接する立方体の一例を示す図である。形状係数を自動算出するためのダイアログを示す。冷し金の施工による引け巣防止方法を示す。押し湯の施工による引け巣防止方法を示す。間違った冷し金使用の一例を示す。正しい冷し金使用の一例を示す。鋳鉄鋳物製品の引け巣予測及び防止方法のフローチャートである。 上記ならびに他の本発明の目的、態様および利点は、本発明の原理に合する好適な具体例が実施例として示されている以下の詳細な説明および添付図面を参照することにより、当該技術の熟練者にとって明らかになるであろう。なお本発明は以下の詳細な説明で記述され、かつ、添付の図面に示される実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。 以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明する。 本発明においては、基本的には長い方の2辺の合計を残りの短い1辺で除した値として求めた形状係数(F)を用いる。最も分かりやすい例として、鋳物形状が直方体のブロックについては、ブロックの幅(W)と長さ(L)の合計を肉厚(TMS:3辺で最も短い辺)で除した値が形状係数になる。直方体以外の形状のブロックについては、その形状を近似的に直方体と見なせばよい。 図1に、種々の形状の鋳物についての形状係数を求める場合の例を示す。 図1(a)は立方体で、幅(W)、長さ(L)、高さ(TMS)のすべてが立方体の一辺の長さになる。図1(b)は直方体の板を横置きした場合、図1(c)は直方体の板を縦置きした場合で、幅(W)、長さ(L)、高さ(TMS)を図示したようにとる。図1(d)は高さが直径未満の円盤で、このような円盤形状については円盤の直径を幅(W)と長さ(L)とみなし、高さ(肉厚)をTMSとみなして形状係数を求める。図1(e)に示す高さが直径以上の円柱の場合は、円柱の直径を幅(W)および高さ(TMS)とみなし、円柱の高さを長さ(L)とみなす。図1(f)に示すドーナツ型の円筒の場合は、円筒を展開して直方体とし、円筒の高さを幅(W)とみなし、円周の長さLを長さ(L)とみなし、円筒の厚みをTMSとみなして形状係数を求める。 円柱と直方体の板と円筒が組み合わさった図1(g)のような場合には、円柱部分は円柱として、直方体の板部分は板として、円筒部分は円筒として上述したような方法で個々に形状係数を求め、各々の部分について引け巣が発生するか否かを判定すればよい。また、後述する引け巣防止の対策も各々の部分について行なえばよい。 図2、図3、図4は形状および寸法がそれぞれ異なる試験片について形状係数((L+W)/ TMS)と引け巣面積率の関係を測定した実験結果を示す。試験片の材質は一般的なダクタイル鋳鉄鋳物(FCD600)とし、鋳型はフラン自硬性鋳型とした。実験は、試験片の寸法(幅、長さ、厚さ、直径)を各図中の表に示すように変えて番号A、B、Cで示すいくつかの試験片を製作し、各試験片について形状係数と引け巣面積率との関係を測定した。 図2は直方体の板試験片、図3は円盤形状の試験片、図4は円筒形状の試験片を対象としており、いずれも形状係数((L+W)/ TMS)が8を超えると引け巣が発生しており、形状係数が8以下では引け巣が発生していないことが分かる。すなわち、形状によらず形状係数で引け巣の発生を予測することが可能であることがわかる。ここで、引け巣が発生しなくなる形状係数を判定係数と称することにすると、図2、図3、図4においては、判定係数は8であることがわかる。 本発明者らは、鋳造姿勢つまり鋳造鋳物の置き方によって引け巣が発生しなくなる形状係数つまり判定係数に差異があるかどうかについても調査した。図5は同じ鋳物(試験片としての直方体の板)を縦置きにした場合と横置きにした場合の、形状係数((L+W)/ TMS)と引け巣面積率の関係の実験結果を示す。試験片は一般的なダクタイル鋳鉄鋳物(FCD600)である。 図5から分かるように、横置きの試験片(表の番号D1)においては、形状係数が8以下で引け巣が発生しなくなるが、縦置きの試験片(表の番号D2)においては、形状係数が6以下で引け巣が発生しなくなる。したがって、横置きでは判定係数が8であり、縦置きでは判定係数は6になる。 このように鋳造姿勢によって判定係数に差異が現れる理由は、重力の影響によるものと考えられる。すなわち同じ成分で同じ寸法の鋳物でも、引け巣が発生しなくなる形状係数(判定係数)が変化することが分かる。したがって引け巣判定の形状係数値は、これらの条件を加味して決定することが好ましい。 次に本発明者らは、ダクタイル鋳物に引け巣の発生を助長する元素を含有した場合について、引け巣が発生しなくなる形状係数に差異があるかどうかについても調査した。Moは引け巣の発生を助長する元素として周知である。 図6はMoの含有量が異なる3つの試験片(表の番号E1、E2、E3)に対する形状係数と引け巣面積率の関係を示す実験結果である。 実験の結果、Moを含有しない一般のダクタイル鋳物では、形状係数が8以下で引け巣が発生しなくなるが、Moを0.3重量%含有する場合は形状係数が6以下で、またMoを0.6重量%含有する場合は形状係数が3以下で引け巣が発生しなくなることが分かった。すなわち、引け巣の発生を助長する元素を含有したことによって、引け巣が発生しなくなる形状係数(判定係数)が変化することが分かる。引け巣判定の形状係数の値は、これらの条件も加味して決定することが好ましい。 鋳型の種類が異なる場合について、引け巣が発生しなくなる形状係数つまり判定係数に差異があるかどうかについても調査した。鋳型の種類が異なる(表の番号F1、F2、F3、F4)場合の形状係数と引け巣面積率の関係を図7に示す。 図7では直方体の板を試験片として用い、高温強度がないと言われているCO2型の鋳型では、形状係数が2以下で引け巣が発生しなくなる。次に高温強度が低い生型の鋳型では形状係数が6以下で、また常温の砂強度10kgf/cm2のフラン型鋳型では形状係数が8以下で、さらに常温の砂強度30kgf/cm2のフラン型鋳型では形状係数が10以下で、それぞれ引け巣が発生しなくなる。すなわち、鋳型の種類によって引け巣が発生しなくなる形状係数(判定係数)が異なることが分かる。引け巣判定の形状係数の値は、これらの条件を加味して決定するのが好ましい。 図8は、コンピュータによる凝固シミュレーションを利用した引け巣予測の一例を示す。 凝固シミュレーションでは温度分布もしくは凝固時間分布から凝固分布図が得られる。その閉塞した楕円ループから、幅(w)、長さ(l)、厚さ(tMS)のそれぞれの寸法を測定することにより形状係数(f)を求めることができる。楕円ループは必ずしも最も内側にあるループを用いる必要はなく、凝固後半部から最終凝固部にかけてのループをとるのが好ましい(以後の説明で楕円ループという場合は、この凝固後半部から最終凝固部かけてのループを指すものとする。 図8に示した例においては、試験片の形状から求めた形状係数(F)は(200+200)/100=4であり、凝固シミュレーションによる楕円ループから求めた形状係数(f)も(60+60)/30=4になっている。この結果から、凝固シミュレーションから得られる凝固分布図の楕円ループから求めた形状係数(f)は、試験片の形状から求まる形状係数(F)と近似した値となることが分かる。すなわち、コンピューターによる凝固シミュレーションによっても、凝固分布図から形状係数に基づいた引け巣予測が可能である。特に、製品形状が複雑な場合は、このような凝固シミュレーションによる引け巣予測が有効になる。また、複雑な形状が組み合わさったような場合においては、各形状ごとに発生する楕円ループについて形状係数(f)を求め、こうして求めた形状係数(f)から引け巣の予測をすればよいことがわかる。 (1)凝固シミュレーションによる幅(w)・長さ(l)・厚さ(tMS)の計測方法の一例 本発明における凝固シミュレーションによる形状係数を算出するために必要な幅(w)、長さ(l)、厚さ(tMS)を計測する方法の一例を示す。 凝固シミュレーションでは温度分布もしくは凝固時間分布から凝固分布図が得られる。得られた分布図から閉塞した楕円ループを計測するには、まず、図9に示すように楕円ループが存在する断面を表示する。次に楕円ループの大きさを計測するのであるが、計測にあたって図10に示したU、V、Wのダイアログを用いる。画面上でこのダイアログの「U方向の計測」を押すと、例えばX方向から見たXY断面のループが表示される。「V方向の計測」を押すと、例えばY方向から見たYZ断面のループが表示される。「W方向の計測」を押すと、例えばZ方向から見たZX断面のループが表示される。楕円ループのl、w、tMSの計測においては、マウス等を用いて画面上で計測開始位置と終了位置を指定する。表示している断面の厚さ方向の計測は、図11に示したように、図10のダイアログを用いて表示する断面を変えて行う。このとき3方向の計測が必要であるが、どの方向が幅(w)、長さ(l)、厚さ(tMS)になるのかが不明であるため、3方向の計測結果からシステムが自動的に一番短い長さを厚さtMSとみなし、他を幅(w)、長さ(l)とみなして判断する。3方向の計測が完了した時点で、「計算」ボタンをクリックすることにより形状係数が計算される。計算値は図10の形状係数欄に表示される。 (2)凝固シミュレーションによる形状係数の自動計算の一例 ミュレーションによる形状係数を自動算出する方法の一例を示す。 凝固シミュレーションでは温度分布もしくは凝固時間分布から凝固分布図が得られる。この凝固分布図から任意の閉塞した楕円ループを得る(表示する)ために、全フレーム数(凝固開始から終了までの時間を何分割するかの値)および表示フレーム数(凝固開始から終了までの時間を分割したうち何番目の島(ループ)を表示するかの数値)を指定する。これによって図12のような島がいくつか得られる。これらの島は等温度分布もしくは等凝固時間分布を意味している。これらの島は凝固シミュレーションのためにメッシュ切りによって分割された要素から成る。XYZの各方向の要素数を数えることにより、図13に示すように、この島に外接する直方体を算出し、この直方体から幅(w)、長さ(l)、厚さ(tMS)を求め、形状係数を自動算出する。 最後に図14に示した計算ボタンをクリックすることで、各島の形状係数が求まる。例えば、この形状係数に青から赤の色付けを行ない、形状係数が高いか低いかを目視できるようにすることにより引け巣が発生する部分であるか否かの判定が可能となる。 本発明は引け巣の予測を可能にしたことはもちろんであるが、引け巣を防止する方法も提案するものであり、その例を以下に示す。 図15は引け巣の発生を防止する冷し金の施工例の1つを示す。 試験片は一般的なダクタイル鋳鉄(FCD600)であり、横置きの鋳造姿勢であることから判定係数は8である。ところが図15の例では、試験片の形状係数は(400+800)/80=15となり、8以上であることから引け巣が発生する形状である。この試験片の上下に冷し金を十字で施工し、凝固シミュレーションにより凝固分布図を求めた。図15においてA−A′断面およびB−B′断面で示すように、閉塞した楕円ループが4つに分かれていることが分かる。すなわち、冷し金で分割された4つの直方体がそれぞれ独立に凝固すると考えてよい。よって、分割された直方体の形状係数は(400+200)/80=7.5となり、8以下であるため引け巣の発生を防止できる。 図16は引け巣の発生を防止する押し湯の施工例の1つを示す。 図15の場合と同じ材質及び同じ寸法の試験片を用いていることから、試験片の形状係数は15であり、本来引け巣が発生する形状である。この試験片の上に直径が150mm、高さが225mmの押湯を4個施工し、凝固シミュレーションにより凝固分布図を求めた。図16のA−A′断面で示すように、閉塞した楕円ループが4つに分かれていることがわかる。すなわち、この場合も押し湯によって分割された4つの直方体がそれぞれ独立に凝固すると考えてよい。分割された直方体の形状係数(F)は7.5となり、引け巣の発生を防止できる。 一般に押湯を施工する場合、最終凝固部である閉塞した楕円ループを押湯の内部に閉じこめなければならないと言われている。したがって、製品より大きな押湯を立てることが多い。しかしながら、形状係数の観点から見ると、小さい押湯でも、凝固シミュレーションにより得られる凝固分布図の閉塞した楕円ループを分断し、押湯で分割されたそれぞれの部分の形状係数若しくは分割された楕円ループの形状係数が判定係数を超えない値になりさえすれば十分であることが分かる。 引け巣防止のために冷し金の使用が一般的に行われているが、間違った使用法、すなわち引け巣の発生を助長させるような使用法が多く見られる。本発明では形状係数に着目することにより冷し金の正しい使用方法、すなわち引け巣の発生を論理的に防止する方法を見出した。 図17に間違った冷し金使用の一例を示す。 試験片の形状係数(F)は(240+400)/80=8であるから、本来的には引け巣が発生しない形状であるが、鋳造現場ではよくこの試験片の上下に冷し金10a、10bを施工し、引け巣を止めようとする方法が採用され、返って引け巣が増すことがある。上下に冷し金10a、10bを当てた状態での凝固分布図を凝固シミュレーションにより求めると、図17のA−A′断面およびB−B′断面で示すように、閉塞した楕円ループの形状係数(f)は(72+170)/13=19となり、冷し金を施工したにも係わらず引け巣が発生することがわかる。 これに対して図18に冷し金の正しい使用方法を示す。 試験片の形状係数(F)は(100+400)/50=10であり、引け巣が発生する形状である。この試験片の両側に冷し金10c、10dを取り付け、同じく、凝固シミュレーションにより凝固分布図を求めた。A−A′断面とB−B′断面に示すように、閉塞した楕円ループの形状係数(f)は(17+60)/13=6となり、引け巣が発生しなくなる。よって、冷し金の施工において、形状係数に基づいた考え方により引け巣を防止できることが分かる。 以上まとめて、本発明における引け巣予測及び防止方法のフローチャートを図19に示す。 本発明の引け巣予測及び防止方法は以下のステップ(1)〜(6)から成り立っている。 (1)鋳物の長い方の2片(W、L)と残りの短い方の1片(TMS)の寸法を測定する。もしくは、コンピューターシミュレーションによって、閉塞した楕円ループの長い方の2片(w、l)と残りの短い方の1片(tMS)を計算する。 (2)W、L、TMSから形状係数[ F=(W+L)/TMS ]を求める。もしくは、w、l、tMSから形状係数[ f=(w+l)/tMS ]を求める。 (3)形状係数(Fもしくはf )が判定係数(E、一般的には8)より小さい場合は引け巣「なし」と判定する。 (4)形状係数(Fもしくはf )が判定係数より大きい場合は、引け巣「あり」と判定する。 (5)引け巣「あり」の場合は、冷し金もしくは押湯により製品を分割する。 (6)(1)から(5)の工程を繰り返して、形状係数(Fもしくはf )が判定係数より小さくなるようにする。 本発明では形状係数という新しい概念を創設し、この形状係数を用いることにより非常に精度良くかつ簡単に引け巣欠陥の発生を予測することができるようにした。鋳物成分、鋳型の種類、鋳造姿勢などが異なる場合でも、形状係数によって引け巣の発生を予測することを可能とした。さらに、引け巣が発生すると予測される場合は、冷し金もしくは押し湯を有効に使用することにより、論理的に引け巣の発生を防止することを可能とした。よって、鋳物鋳造における不良率の低減、歩留まりの向上、納期短縮等の効果があり、低コストで効率よく球状黒鉛鋳鉄を製造することが可能となった。 本発明によれば、鋳物鋳造の際鋳物の形状から引け巣ができるか否かを鋳造前に予測でき、また事前に予防することができるので、鋳物鋳造技術において有用である。 鋳物製品の形状が立方体もしくは直方体形状の場合には該立方体もしくは直方体の幅、長さおよび高さの3辺を用い、鋳物製品の形状が円盤もしくは円柱形状の場合には、該円盤もしくは円柱の直径、直径および高さの3辺を用い、鋳物製品の形状が円筒形状の場合には、該円筒を展開して直方体とし該直方体の幅、長さおよび厚みの3辺を用い、前記3辺のうち長い方の2辺の合計を残りの短い1辺で除した値である形状係数を求め、この値が8以下になっているかどうかを確認することにより、引け巣の発生を予測することを特徴とする鋳鉄鋳物における引け巣の予測方法。 鋳物製品の凝固時における温度分布もしくは凝固時間分布より得られた凝固分布図において、鋳物製品の中で同じ温度の箇所もしくは同じ凝固時間の箇所を繋いで得られる立体である楕円体の長軸、短軸および厚さの3辺を用い、前記3辺のうち長い方の2辺の合計を残りの短い1辺で除した値である形状係数を求め、この値が8以下になっているかどうかを確認することにより、引け巣の発生を予測することを特徴とする鋳鉄鋳物における引け巣の予測方法。 凝固シミュレーションによる温度分布もしくは凝固時間分布より得られた凝固分布図を用いて、前記楕円体の長軸、短軸および厚さの3辺の大きさを画面上で計測し、前記形状係数を算出することを特徴とする請求項2に記載の引け巣の予測方法。 請求項1または2に記載の鋳鉄鋳物における引け巣の予測方法を用いて、前記形状係数が8を越える場合に、冷やし金もしくは押し湯もしくは両者を併用して製品を分割することにより、前記形状係数を8以下にすることを特徴とする鋳鉄鋳物の引け巣の防止方法。 引け巣が発生するか否かの形状係数を、鋳物の成分、鋳型の性質、鋳造姿勢によって決定することを特徴とする請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の引け巣の予測及び防止方法。


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