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タイトル:特許公報(B2)_細菌性口腔内疾患の治療用組成物、洗浄用処理液、止血用処理液、及び、細菌性口腔内疾患の治療方法
出願番号:2007507204
年次:2014
IPC分類:A61K 8/86,A61K 8/27,A61K 8/34,A61K 8/41,A61K 8/73,A61K 9/08,A61K 31/734,A61K 33/30,A61K 47/10,A61K 47/18,A61K 47/34,A61K 47/36,A61P 1/02,A61P 7/04,A61P 31/04,A61Q 11/00


特許情報キャッシュ

宅重 豊彦 星野 悦郎 JP 5390767 特許公報(B2) 20131018 2007507204 20060310 細菌性口腔内疾患の治療用組成物、洗浄用処理液、止血用処理液、及び、細菌性口腔内疾患の治療方法 宅重 豊彦 506080980 星野 悦郎 506080991 正林 真之 100106002 宅重 豊彦 星野 悦郎 JP 2005070168 20050311 20140115 A61K 8/86 20060101AFI20131219BHJP A61K 8/27 20060101ALI20131219BHJP A61K 8/34 20060101ALI20131219BHJP A61K 8/41 20060101ALI20131219BHJP A61K 8/73 20060101ALI20131219BHJP A61K 9/08 20060101ALI20131219BHJP A61K 31/734 20060101ALI20131219BHJP A61K 33/30 20060101ALI20131219BHJP A61K 47/10 20060101ALI20131219BHJP A61K 47/18 20060101ALI20131219BHJP A61K 47/34 20060101ALI20131219BHJP A61K 47/36 20060101ALI20131219BHJP A61P 1/02 20060101ALI20131219BHJP A61P 7/04 20060101ALI20131219BHJP A61P 31/04 20060101ALI20131219BHJP A61Q 11/00 20060101ALI20131219BHJP JPA61K8/86A61K8/27A61K8/34A61K8/41A61K8/73A61K9/08A61K31/734A61K33/30A61K47/10A61K47/18A61K47/34A61K47/36A61P1/02A61P7/04A61P31/04A61Q11/00 A61K 6/00,8/00,8/44,8/73,31/4164,31/496,31/65,31/734,33/30,47/10,47/32 BIOSIS MEDLINE CAPLUS WPIDS JMEDPLUS JES7580 JSTPLUS 中原寛子 他,基剤MPの浸透性実験,日本歯科評論,2004年 3月,No.7 37,Page.78−79 宅重豊彦 他,3Mix−MP法に用いる薬剤の調合と保管・管理,日本歯科評論,2004年 3月,No.737,Page.54−57 5 JP2006304762 20060310 WO2006095858 20060914 15 20070731 2011010033 20110513 内藤 伸一 増山 淳子 前田 佳与子 本発明は、例えば、細菌性口腔内疾患の治療用組成物、洗浄用処理液、止血用処理液、及び、細菌性口腔内疾患の治療方法に関する。 従来から、細菌性口腔内疾患(例えば、ウ蝕、歯髄疾患、根尖性歯周疾患、歯周組織炎)の治療方法として、以下のような構成を備える治療方法が代表例として挙げられる。 図8は、細菌性口腔内疾患の一例であるウ蝕及び歯髄疾患に罹患した歯100の断面図である。 歯100は、外側から順に、エナメル質130と、象牙質140と、歯髄150とを有する構造であり、セメント質160及び歯根膜170を介して、歯槽骨180に埋設されている。この歯槽骨180は、歯肉190によって被覆されている。 そして、口腔内細菌111が歯100の内部に侵入したことによって、ウ蝕部位110が形成されている。このウ蝕部位110には、遊離エナメル質、スメアー層、細菌存在組織等が含まれる。 図9は、図8の歯100を従来例に係る治療方法で治療したときの歯100’の状態を示す断面図である。 上述した従来の治療方法は、細菌性口腔内疾患に罹患した歯100からウ蝕部位110を研削し且つ歯髄150を除去する研削手順と、ウ蝕部位110が研削され且つ歯髄150が除去された歯100’の開口部120’を充填材(図示せず)で被覆する被覆手順とを備える(例えば、特許文献1参照)。 この治療方法によれば、ウ蝕部位110を研削し及び歯髄150を除去した後に歯100’の開口部120’を被覆するので、口腔内細菌111が完全に除去されていれば、細菌性口腔内疾患を治療できる。特表2002−541907号公報 しかしながら、上述した治療方法によれば、口腔内細菌111が歯髄150に及んでいる場合、口腔内細菌111を除去し且つ治療後の対象者に痛みを与えないためには、歯冠部の歯髄150を除去する他なく、一般には歯冠部のみならず歯根部に至るまで歯髄150を除去する(図9参照)他なかった。 また、ウ蝕部位110の範囲を正確に識別するのが大変困難であるために、研削手順において、ウ蝕部位110を完全に除去できない場合がある。ウ蝕部位110を完全に除去できなかった場合、上記被覆手順の後に、残存した口腔内細菌が歯100’内部で再繁殖するため、細菌性口腔内疾患が再発するといった問題点を有する。 そこで、ウ蝕部位110を完全に除去する可能性を向上させるために、ウ蝕部位110であると確認された部位のみならず、その周辺部位も研削するといった対策が取られている。 しかし、疾患の進行に伴い、口腔内細菌111が、象牙質140の深部、セメント質160、歯根膜170へと拡大した場合、口腔内細菌111の完全な除去は、更に困難となる。 従って、このような場合、研削による治療をあきらめ、歯100全体の抜歯等によって対処せざるを得なかった。 このように、従来の治療方法は、細菌性口腔内疾患の再発を防止するために、生体組織の徹底的な除去に依存する他なかった。 本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、生体組織の除去に依存せず、対象者に与える痛み、及び細菌性口腔内疾患の再発を充分に抑制できる治療方法、及び、治療用組成物、洗浄用処理液、止血用処理液を提供することを目的とする。 本発明者らは、生体組織を物理的に除去する従来の治療方法とは全く異なる、内科的治療方法を歯科治療に採用し、本発明を完成するに至った。 具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。 (1) 細菌性口腔内疾患に罹患した歯を洗浄用処理液を用いて洗浄する洗浄手順と、洗浄された歯に治療用組成物を投与する投与手順と、歯の開口部を被覆する被覆手順と、を備える細菌性口腔内疾患の治療方法であって、 前記治療用組成物は、口腔内細菌に対する抗菌性を有する抗菌剤と、 ポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール600とポリエチレングリコール6000とプロピレングリコールとを含む基剤と、を有する治療方法。 「細菌性口腔内疾患」とは、細菌感染に起因する口腔内におけるあらゆる段階の疾患を意味し、特に限定されないが、例えば、ウ蝕、歯髄疾患、根尖性歯周疾患、歯周組織炎が挙げられる。 (2) 前記基剤は、この基剤の体積に対して、ポリエチレングリコール400を13体積%以上19体積%以下、ポリエチレングリコール600を13体積%以上19体積%以下、ポリエチレングリコール6000を27体積%以上38体積%以下、プロピレングリコールを36体積%以上50体積%以下含む(1)記載の治療方法。 (3) 前記洗浄用処理液は、pH約7のEDTAと、水溶性且つ金属イオン非含有性の増粘剤と、を含む(1)又は(2)記載の治療方法。 (4) 前記洗浄用処理液は、この洗浄用処理液の体積に対して、EDTAを10体積%以上12体積%以下含む(3)記載の治療方法。 (5) 前記被覆手順の前に、歯髄及び/又は歯肉からの出血を止血する止血手順を更に備え、 前記止血手順は、アルギン酸ナトリウムと、酸化亜鉛と、を含む止血用処理液を用いて、歯髄及び/又は歯肉からの出血を止血する手順である(1)から(4)いずれか記載の治療方法。 (6) 前記止血用処理液は、この止血用処理液の体積に対して、アルギン酸ナトリウムを6.0体積%以上6.5体積%以下、酸化亜鉛を33体積%以上35体積%以下含む(5)記載の治療方法。 (7) 口腔内細菌に対する抗菌性を有する抗菌剤と、 ポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール600とポリエチレングリコール6000とプロピレングリコールとを含む基剤と、を有する細菌性口腔内疾患の治療用組成物。 (8) 前記基剤は、この基剤の体積に対して、ポリエチレングリコール400を13体積%以上19体積%以下、ポリエチレングリコール600を13体積%以上19体積%以下、ポリエチレングリコール6000を27体積%以上38体積%以下、プロピレングリコールを36体積%以上50体積%以下含む(7)記載の治療用組成物。 (9) pH約7のEDTAと、水溶性且つ金属イオン非含有性の増粘剤と、を含む歯を洗浄するために用いられる洗浄用処理液。 (10) EDTAを10体積%以上12体積%以下含む(9)記載の洗浄用処理液。 (11) アルギン酸ナトリウムと、酸化亜鉛と、を含む歯髄及び/又は歯肉からの出血を止血するために用いられる止血用処理液。 (12) アルギン酸ナトリウムを6.0体積%以上6.5体積%以下、酸化亜鉛を33体積%以上35体積%以下含む(11)記載の止血用処理液。 (13) (7)又は(8)記載の治療用組成物の原材料物と、(9)又は(10)記載の洗浄用処理液と、(11)又は(12)記載の止血用処理液と、を備える細菌性口腔内疾患の治療用キット。 「原材料物」とは、治療用組成物を構成する各化合物であって、混合される前の状態の各化合物を指す。各化合物とは、具体的には、メトロニダゾールとミノサイクリンとシプロフロキサシンとを含む抗菌剤、ポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール600とポリエチレングリコール6000とプロピレングリコールとを含む基剤、である。 本発明によれば、以下のような効果が得られる。 生存組織を研削しない構成としたので、対象者に与える痛みを抑制できる。 また、総ての口腔内細菌及び真菌を殺菌可能な抗菌剤と基剤とを含む治療用組成物を歯に投与したので、この治療用組成物が細菌存在組織へと拡散し浸透することにより、細菌存在組織が無菌化される。このため、被覆手順後に、歯内部で細菌又は真菌が再繁殖するのが予防されるから、細菌性口腔内疾患の再発を充分に抑制できる。また、カルシウムの再沈着(再石灰化)、修復象牙質の形成、セメント質の増殖等の組織修復反応が自発的に発生することによって、無菌化された組織は、壊死組織及び生存組織にかかわらず、細菌感染前の状態の近くまで修復される。 従って、細菌性口腔内疾患を治療でき、しかも、生体組織の除去に依存せずに、対象者に与える痛み、及び細菌性口腔内疾患の再発を充分に抑制できる。細菌性口腔内疾患に罹患した歯を本発明の第1実施形態に係る治療方法によって治療する初期段階の歯の断面図である。図1の歯を前記実施形態に係る治療方法によって治療した次の段階の歯の断面図である。図1の歯を前記実施形態に係る治療方法によって治療した更に次の段階の歯の断面図である。細菌性口腔内疾患に罹患した歯を本発明の第2実施形態に係る治療方法によって治療する初期段階の歯の断面図である。図4の歯を前記実施形態に係る治療方法によって治療した次の段階の歯の断面図である。図4の歯を前記実施形態に係る治療方法によって治療した更に次の段階の歯の断面図である。本発明の試験例における試料の断面図である。細菌性口腔内疾患に罹患した歯の断面図である。図8の歯を従来例に係る治療方法で治療したときの歯の状態を示す断面図である。符号の説明 1 歯 13 治療剤層 14 係止部位 16 口腔内細菌 21 充填剤層 22 グラスアイオノマーセメント層 23 合着剤層 24 無菌化組織発明を実施するための形態 以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、第1実施形態以外の各実施形態の説明において、第1実施形態と共通するものについては、同一符号を付し、その説明を省略若しくは簡略化する。〔第1実施形態〕 <治療用組成物> 本発明の治療用組成物は、抗菌剤と、基剤とを有する。 [抗菌剤] 抗菌剤は、口腔内細菌に対する抗菌性を有する。この抗菌剤は、所定の抗生物質を組合せたものであり、多岐にわたる総ての口腔内細菌を殺菌する。例えば、メトロニダゾールとミノサイクリンとシプロフロキサシンとを含む抗菌剤が挙げられる。これら3種類の成分を組み合わせると、あらゆる口腔内細菌に対して抗菌作用を奏するものと考えられる。 各成分の含有量比は、口腔内細菌に対する抗菌効果を考慮して、メトロニダゾールとミノサイクリンとシプロフロキサンとの力価比が、1〜3:1:1とすることが好ましい。 メトロニダゾールとしては、特に限定されないが、例えば、「アスゾール錠250mg(商品名)」(富士製薬社製)を使用できる。 ミノサイクリンとしては、特に限定されないが、例えば、「ミノマイシン100mg(商品名)」(ワイス社製)を使用できる。 シプロフロキサシンとしては、特に限定されないが、例えば、「シプロキサン200mg(商品名)」(バイエル薬品社製)を使用できる。 なお、これらの市販品を利用する場合、薬剤の被覆剤やカプセルを取り除いた薬剤成分を使用すればよい。 [基剤] 基剤は、抗菌剤による口腔内細菌性疾患の治療効果を安定化させる。具体的には、ポリエチレングリコールとプロピレングリコールとを含む。 ポリエチレングリコールは、粉末状の抗菌剤と混合することで、ペースト状又は軟膏状へと変化させる。これにより、操作性が向上し、治療用組成物の投与量の計測が容易となる。 ポリエチレングリコールとしては、ポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール600とポリエチレングリコール6000とを含むものが使用できる。 ポリエチレングリコール400は、治療用組成物の浸透性を向上する。ポリエチレングリコール600は、その融点が約18℃であることから、口の外部では固体状態であって投与器具に載置しやすい一方、口の内部では液化し濡れ性が向上するために、歯に投与しやすい。また、ポリエチレングリコール6000は、治療用組成物の粘稠度を上昇させることで、操作性を向上する。 この他、ポリエチレングリコール4000とポリエチレングリコール400とが混合されたものも使用できる。 また、ポリエチレングリコールとしては、特に限定されないが、例えば、「ソルベース(商品名)」(大日本製薬社製)を使用できる。 プロピレングリコールは、ペースト状又は軟膏状へと変化された抗菌剤の粘稠度を調整する。所定の粘稠度に調整することにより、治療用組成物の浸透性が向上する。また、プロピレングリコールは、口腔内の真菌を殺菌する作用も備える。 基剤は、以上のような各成分の作用を考慮して、ポリエチレングリコール400を13体積%以上19体積%以下、ポリエチレングリコール600を13体積%以上19体積%以下、ポリエチレングリコール6000を27体積%以上38体積%以下、プロピレングリコールを36体積%以上50体積%以下含むことが好ましい。 [製造方法] まず、所定量の抗菌剤を各々別々に乳鉢内に載置し、乳棒を用いて粉末化することにより、抗菌剤を製造する。 また、ビーカー状の容器に所定量のプロピレングリコールを注いだ後、このプロピレングリコールに対してポリエチレングリコールを少量ずつ、所望の粘稠度となるまで添加し、穏やかに混合することにより、基剤を製造する。 これら抗菌剤と基剤とを所定の割合で混合することにより、治療用組成物を製造する。 基剤の含量が大きすぎると、軟らかすぎて操作性が逆に悪化するとともに、抗菌剤の含量が不足して充分に無菌化できない場合があることを考慮すれば、一般的に、抗菌剤が基剤に対して5以上7以下(体積比)含まれるように混合すればよい。 なお、治療用組成物は、容易に変質して治療効果を失うことから、使用する直前に製造することが好ましい。換言すれば、治療用組成物の原材料、特に抗菌剤は、使用前まで別々に冷暗所に保管しておくことが好ましい。また、製造後の治療用組成物を保管する場合、変質を抑制する点で、低温且つ低湿度の遮光された条件下の密閉容器内において、治療用組成物を保管することが好ましい。ただし、このような条件下であっても、通常、治療用組成物の有効期間は2日間程度である。 <洗浄用処理液> 本発明の洗浄用処理液は、歯を洗浄するために用いられる。具体的には、pH約7のEDTAと、水溶性且つ金属イオン非含有性の増粘剤と、を含む。 EDTAは、歯の遊離カルシウムのキレート剤として作用する。このため、EDTAを含む洗浄用処理液によれば、遊離カルシウムがキレートされて除去されるから、遊離カルシウムに埋設されていた微生物等を除去できる。また、洗浄用処理液が酸性であると歯を脱灰し、アルカリ性であるとカルシウムの沈着が阻害されることから、洗浄用処理液のpHは7に近いことが好ましい。 また、EDTAの含有量は、小さすぎると遊離カルシウムを捕捉する効率が不充分となる一方、大きすぎても遊離カルシウムを捕捉する効率は飽和しているため、コスト面で不利であることから、10体積%以上12体積%以下であることが好ましい。 増粘剤は、洗浄用処理液に粘調性を付与して、洗浄用処理液の歯からの流失を遅らせることで、EDTAによる微生物等の除去が行われる時間を確保する。また、増粘剤は、EDTAに対して安定であることから、金属イオン非含有性であることが好ましい。このような増粘剤としては、例えばデキストリンが挙げられる。 デキストリンの含有量は、小さすぎると洗浄用処理液の粘度が不足するために歯から迅速に流失する一方、大きすぎるとEDTAの歯への滲出が妨害される。デキストリンの含有量は、2.7体積%以上3.0体積%以下であることが好ましい。 溶媒としては、特に限定されないが、例えば、精製水が挙げられる。 [製造方法] 精製水に、ドータイト2NA及びドータイト4NAをこの順に等量(体積比)ずつ添加し、溶解させる。溶解後、EDTAの濃度が24体積%となるように、精製水量を調節する。 調節された溶液にデキストリンを等量(体積比)添加し、混合することにより、洗浄用処理液を製造する。この結果、洗浄用処理液には、EDTAが12体積%の濃度で含有される。 <止血用処理液> 本発明の止血用処理液は、後述する除去手順や洗浄手順等において歯髄や歯肉から出血した場合に、歯髄や歯肉からの出血を止血するために用いられる。具体的には、アルギン酸ナトリウムと、酸化亜鉛と、を含む。 アルギン酸ナトリウムは、出血部位を被覆し、粘膜からの組織の崩壊を抑制する。 酸化亜鉛は、歯や歯肉に存在するタンパク質と結合して皮膜を形成することにより、血管の収斂作用、消炎作用、保護作用、防腐作用を奏する。また、酸化亜鉛は、浸出液を吸収し、浸出液の分泌を抑制することにより、創面を乾燥する。 アルギン酸ナトリウムの含有量は、小さすぎると粘膜からの組織の崩壊を充分に抑制できず、大きすぎると粘度が上昇しすぎて止血用処理液が出血部位全体に拡散しにくい。アルギン酸ナトリウムの含有量は、6.0体積%以上6.5体積%以下であることが好ましい。 酸化亜鉛の含有量は、小さすぎると創面からの出血を充分に止血できない一方、大きすぎても上述の作用は飽和し、コスト的に不利である。酸化亜鉛の含有量は、33体積%以上35体積%以下であることが好ましい。 溶媒としては、特に限定されないが、例えば、精製水が挙げられる。 [製造方法] 精製水にアルギン酸ナトリウムを、10:1(体積比)の割合で、添加し、溶解させる。得られる溶液に酸化亜鉛、100:55(体積比)の割合で添加し、溶解させることで、止血用処理液を製造する。 以下、本発明の治療方法の一実施形態を、図面を参照しながら、説明する。 <治療方法> 本発明の治療方法は、細菌性口腔内疾患に罹患した歯を洗浄用処理液を用いて洗浄する洗浄手順と、洗浄された歯に治療用組成物を投与する投与手順と、歯の開口部を被覆する被覆手順と、を備える。 洗浄手順の前に、被覆手順における被覆部材が係止される係止部位を形成する係止部位形成手順や、充分量の治療用組成物を載置するための投与部位を形成する投与部位形成手順を更に備えてもよい。また、被覆手順の前に、歯髄からの出血を止血する止血手順を更に備えてもよい。 [係止部位形成手順] 係止部位形成手順は、細菌性口腔内疾患に罹患した歯から遊離カルシウム(例えば、遊離エナメル質、スメアー層)を機械的に除去等して、被覆部材が係止される係止部位(後述する図1〜3の係止部位14)を形成する手順である。係止部位の形成は、公知の手段(例えば、エキスカベータ、タービン用バー)を使用して行えばよい。 対象者に与える痛みを抑制する点で、生存組織のみならず、壊死組織(特に、軟化象牙質)もできる限り研削しないことが好ましい。なお、壊死組織における神経が死んでいるので、壊死組織の除去自体は本来、対象者に痛みを与えないが、壊死組織近傍の神経に刺激を与えて、対象者に痛みを感じさせる場合もある。 [投与部位形成手順] 投与部位形成手順は、後述する投与手順において、治療用組成物を載置するのに充分な空間が対象者の歯に存在しない場合に、充分な投与部位を形成するため、あるいは、感染根管治療の場合に、歯槽骨等の細菌侵入部位への治療用組成物の到達を促進するための手順である。つまり、この投与部位形成手順は、細菌侵入部位の範囲等を考慮して、適宜行えばよい任意手順である。 なお、口腔内細菌が根管や歯髄まで感染している場合であって、根管の拡大や形成が困難であったり、歯根が湾曲していたり、といった場合においても、根管の開口部に治療用組成物を載置するだけで、この治療用組成物が象牙細管や、根管と根充剤との隙間を通過して、根管や歯髄にまで拡散し、浸透する。 [止血手順] 止血手順は、後述する洗浄手順の前に、歯髄や歯肉からの出血を止血する手順である。止血は、上述した止血用処理液を使用して行えばよく、具体的には、通常1〜2分間程度、この止血用処理液で出血部位を覆った後、水銃を穏やかに当てることにより、止血用処理液を除去する。 残存した止血用処理液は、後述する投与手順で投与される治療用組成物の治療効果を妨害するため、できる限り完全に止血用処理液を除去することが好ましい。 [洗浄手順] 洗浄手順は、係止部位形成手順の後且つ後述する投与手順の前に、歯を洗浄する手順である。洗浄手順において、残存した遊離カルシウムを洗浄することにより、後述する治療用組成物の細菌存在組織への拡散、浸透がより促進される。 洗浄は、上述した洗浄用処理液を使用して行えばよく、具体的には、細管の先端部を備える洗浄用器具の先端から洗浄用処理液を射出することで行われる。 [投与手順] 投与手順は、遊離カルシウムが除去された歯に上述した治療用組成物を投与する手順である。具体的には、直径約1mmの略球形の治療用組成物を、細菌存在組織の適当な部位に載置する。これにより、載置された治療用組成物が細菌存在組織へと拡散し、浸透していくため、細菌侵入部位を無菌化できる。 図1は、本発明の第1実施形態に係る治療方法によって治療する初期段階における歯1の断面図である。 歯1には、口腔内細菌の侵入によって、ウ蝕部位12が象牙質に形成され、図1において点で示される細菌が歯髄に及んでいる。この歯1には、ウ蝕部位12の上に形成された投与部位に、治療用組成物が積層されることにより、治療剤層13が形成される。 歯1の他の構造は、前述した歯100と共通するので、その説明を省略する。 [被覆手順] 被覆手順は、治療用組成物が投与された歯の開口部を被覆する手順である。開口部を被覆することにより、無菌化された部位への口腔内細菌の侵入が遮断され、無菌状態が維持される。具体的には、投与された治療用組成物を覆うように、充填剤(例えば、グラスアイオノマーセメント「Fuji IX GP(商品名)」(株式会社ジーシー社製))で歯の開口部を被覆する。 また、根管治療の場合には、上記治療用組成物を貼薬着座に貼薬後、水硬化性セメント(例えば、「キャビトン(登録商標)」(株式会社ジーシー社製))で被覆し、この水硬化性セメントを更にリン酸セメントで被覆すればよい。 図2は、図1の歯1を本発明の第1実施形態に係る治療方法によって治療した次の段階の歯1’の断面図である。 歯1’には、前述した開口部20の上に充填剤が積層されることにより、充填剤層21が形成されている。この充填剤層21は、係止部位14によって歯1’に係止されている。歯1’の他の構造は、前述した歯100と共通するので、その説明を省略する。 この状態で放置すると、治療用組成物は、治療剤層13からウ蝕部位12へと拡散し、この拡散に伴ってウ蝕部位12が無菌化された無菌化組織24を形成する。 図3は、図1の歯1を本発明の第1実施形態に係る治療方法によって治療した更に次の段階の歯1’’の断面図である。 歯1’’には、前述した充填剤層21が除去されることによって露出した開口部20の上に、グラスアイオノマーセメント(「Fuji IX GP(商品名)」)、歯冠修復物が接着性レジンセメントで合着された合着剤が順に積層されることにより、グラスアイオノマーセメント層22及び合着剤層23が形成されている。また、治療用組成物が歯髄へと拡散することにより、口腔内細菌16が消滅している。 歯1’’の他の構造は、前述した歯100と共通するので、その説明を省略する。 前記実施形態に係る治療方法によれば、ウ蝕部位12の上に治療剤層13を形成するだけで、治療用組成物が歯1全体へと拡散し、口腔内細菌を殺菌できる。このため、たとえ口腔内細菌が象牙質の深部等にまで及んでいたとしても、生体組織を除去することなく、細菌性口腔内疾患を治療できる。〔第2実施形態〕 本実施形態では、治療方法の構成が第1実施形態と異なる。 図4は、本発明の第2実施形態に係る治療方法によって治療する初期段階における歯1Aの断面図である。 歯1Aでは、口腔内細菌16Aによって歯髄が壊死し、この口腔内細菌16Aが歯の内部から歯槽骨へと更に侵入している。このような状態を放置すると、歯周組織炎が誘発される。 このような症状に対する本発明の治療方法(感染根管治療)は、根管内の壊死歯髄を除去し、この根管に治療用組成物の拡散を媒介する根充材を充填する根管充填手順を更に備える。 [投与部位形成手順] 図5は、図4の歯1Aを本発明の第2実施形態に係る治療方法によって治療した次の段階の歯1A’の断面図である。 本発明の第2実施形態に係る治療方法の投与部位形成手順は、根管よりも径が大きい投与部位15を根管の開口部に形成するために、象牙質を研削する手順である。投与部位15の深さは、通常、2mm以上とする。 これにより、歯槽骨等の細菌侵入部位への治療用組成物の到達効率を促進できる。 [根管充填手順] 根管充填手順は、感染根管治療を行う場合に、後述する洗浄手順の前に、根管内の壊死歯髄を除去し、この根管に治療用組成物の拡散を媒介する根充材26を充填する手順である。ここで、根充材26は、上述の投与部位15の直下まで充填される。 なお、壊死歯髄を完全に除去する必要はなく、根管の深部に壊死歯髄12A’が残存してもよい。 根充材としては、ガッタパーチャ及びアパタイト系シーラーを使用できる。 図6は、図4の歯1Aを本発明の第2実施形態に係る治療方法によって治療した更に次の段階の歯1A’’の断面図である。 治療用組成物が治療剤層13Aから根充材26を通じて壊死歯髄12A’、歯槽骨へと拡散することによって、無菌化組織24Aが形成され、口腔内細菌16Aが殺菌されている。 前記実施形態に係る治療方法によれば、投与部位15に治療剤層13Aを形成するだけで、治療用組成物が象牙細管や、根管と根充剤との隙間を通過して、歯槽骨等にまで拡散する。これにより、歯槽骨等の細菌侵入部位を無菌化できる。 なお、壊死歯髄における神経が死んでいるため、壊死歯髄を除去しても、対象者に大きな痛みを与えることはない。 また、前記実施形態に係る治療方法によれば、歯根が湾曲しているような場合においても、治療用組成物が象牙細管や、根管と根充剤との隙間を通過して、歯槽骨等にまで拡散し、浸透するため、歯槽骨等の細菌侵入部位を無菌化できる。 〔試験例1〕 基剤について 図7は、本試験例における試料50の断面図である。 まず、根尖性歯周病に罹患した下顎第1小臼歯を、70番リーマーを用いて掘削することで根管を拡大し、更に、ガッターパーチャポイント及びシーラーを用いて、側方に加圧することで根管51を充填した。次に、歯頚線から深さ約2mm直径約1.5mmの略円柱状の穴(以下、この穴を、前述した投与部位としての、貼薬着座52と称する)を形成した。この貼薬着座52の底部に、食紅を添加した、表1に示す各々の基剤の小塊53(直径約1.0mm)2個を載置した。更に、これら小塊53を覆うように綿球(図示せず)を置き、この綿球に「キャビトン(登録商標)」(株式会社ジーシー社製)を積層して、被覆層54を形成することで、試料50を作成した。 各々の試料50の根部分を普通石膏体55内に埋め込んだ後、湿度100%の下で保管した。 保管時間24時間及び48時間における、貼薬着座からの食紅の移動距離を測定することで、各試料に含まれる基剤の浸透性を評価した。この結果を表2に示す。なお、移動距離は、試料50を外部から観察し、食紅による着色が及んだ領域の、試料50の深さ方向(図7における矢印D方向)における最大長とした。 表2に示されるように、基剤の浸透性は、試料4、つまり、ポリエチレングリコール及びプロピレングリコールを含有する基剤において、最も優れていることが分かった。なお、試料4は、ポリエチレングリコール4000とプロピレングリコールとを3:1の質量比で含み、1:1の体積比で含むものである。 〔試験例2〕 洗浄について 試験例1において、基剤(試料2)の小塊を載置する前に、以下の各々の洗浄方法によって貼薬着座の洗浄処理を行った。 洗浄処理区1では、まず、35.2体積%リン酸水溶液に含浸させた綿球を貼薬着座に載置し、10秒間放置した後、水洗し、エアーブローした。更に、貼薬着座に10体積%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を注ぎ、60秒間放置した後、水洗し、エアーブローした。 洗浄処理区2では、12体積%EDTA水溶液に含浸させた綿球を貼薬着座に載置し、60秒間放置した後、水洗し、エアーブローした。 各洗浄処理区について、試験例1における試料2の基剤を用いて、試験例1と同様の方法で、基剤の浸透性を評価した。この結果を、表3に示す。 表3に示されるように、いずれの洗浄処理区においても、試験例1の場合より食紅の移動距離が増加していたことから、貼薬着座の洗浄処理を行うことによって、基剤の浸透性を向上できることが分かった。特に、洗浄処理区2、つまり、EDTAを12体積%含む溶液を用いて洗浄を行う場合において、基剤の浸透性が最も向上されることが分かった。 なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。 口腔内細菌に対する抗菌性を有する抗菌剤と、 ポリエチレングリコール400とポリエチレングリコール600とポリエチレングリコール6000とプロピレングリコールとを含む基剤と、を有する細菌性口腔内疾患の治療用組成物。 前記基剤は、この基剤の体積に対して、ポリエチレングリコール400を13体積%以上19体積%以下、ポリエチレングリコール600を13体積%以上19体積%以下、ポリエチレングリコール6000を27体積%以上38体積%以下、プロピレングリコールを36体積%以上50体積%以下含む請求項1記載の治療用組成物。 請求項1又は2記載の治療用組成物の原材料物と、 pH7のEDTAと、水溶性且つ金属イオン非含有性の増粘剤と、を含む歯を洗浄するために用いられる洗浄用処理液と、 アルギン酸ナトリウムと、酸化亜鉛と、を含む歯髄及び/又は歯肉からの出血を止血するために用いられる止血用処理液と、を備える細菌性口腔内疾患の治療用キット。 前記洗浄用処理液は、EDTAを10体積%以上12体積%以下含む請求項3記載の治療用キット。 前記止血用処理液は、アルギン酸ナトリウムを6.0体積%以上6.5体積%以下、酸化亜鉛を33体積%以上35体積%以下含む請求項3又は4記載の治療用キット。


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