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タイトル:公開特許公報(A)_サイトカイン−ナノゲル複合体を含む皮下注射又は筋肉内注射徐放製剤
出願番号:2007326099
年次:2009
IPC分類:A61K 38/00,A61K 9/06,A61K 47/36,A61K 47/34,A61P 35/00,A61P 37/08


特許情報キャッシュ

秋吉 一成 松田 修 岸田 綱郎 清水 健 JP 2009149526 公開特許公報(A) 20090709 2007326099 20071218 サイトカイン−ナノゲル複合体を含む皮下注射又は筋肉内注射徐放製剤 国立大学法人 東京医科歯科大学 504179255 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 秋吉 一成 松田 修 岸田 綱郎 清水 健 A61K 38/00 20060101AFI20090612BHJP A61K 9/06 20060101ALI20090612BHJP A61K 47/36 20060101ALI20090612BHJP A61K 47/34 20060101ALI20090612BHJP A61P 35/00 20060101ALI20090612BHJP A61P 37/08 20060101ALI20090612BHJP JPA61K37/02A61K9/06A61K47/36A61K47/34A61P35/00A61P37/08 14 OL 15 4C076 4C084 4C076AA08 4C076AA94 4C076BB15 4C076CC03 4C076CC27 4C076EE14 4C076EE30 4C084AA02 4C084DA01 4C084DA12 4C084MA28 4C084MA66 4C084NA14 4C084ZB131 4C084ZB261 本発明は、サイトカインとナノゲル複合体を含む徐放製剤に関する。 現在までに多数のサイトカインが抗腫瘍効果や抗アレルギー効果を発揮することが知られている。例えば、IL-12は、Th1の分化誘導、細胞傷害性T細胞(CTL)やNK細胞の増殖、分化、活性化誘導、血管新生抑制などの作用を介して抗腫瘍効果をもたらす。実際に動物実験でも高い腫瘍抑制効果と生存期間の延長は立証されている。しかし、ヒトの臨床治験においては、IL-12の有する高い毒性の影響で、決して満足のいく結果は得られておらず、また腎癌患者に対する治験では3名の死亡も報告されており、IL-12を抗腫瘍免疫療法の手段として用いることの困難さをうかがわせる。 IL-12を含む多くのサイトカインの臨床応用が困難な一因として、体内での半減期の短さが挙げられる。抗腫瘍効果を発揮するだけの十分な血中濃度を十分な期間得ようとすれば、高容量の投与が必要となり、副作用の出現は避けて通れない。半減期の延長、及び副作用の軽減、結果として腫瘍抑制を得るための手段の一つとして、適切なdrug delivery system(DDS)の応用による徐放製剤の開発・応用が期待されるが、これまでのところ理想的なDDSは実用化されていない。 本発明者らは、DDSの基材として親水性の多糖に、側鎖として疎水性のコレステロールを付加した、cholesterol-bearing pulullan(CHP)などの分子からなるナノゲルを開発した(特許文献1から6及び非特許文献1を参照)。すなわち、CHPは水環境下で自己組織化し、直径20〜30nmのコロイド(ナノゲル)となり、その内部に各種の物質を内包することが可能である。またCHPの持つ優れた特徴の一つとして、「分子シャペロン効果」が挙げられる。これはたんぱく質のような分子をCHPナノゲルの内部に内包したのち、放出させると、放出の際にリフォルディングが起こり、生理的な3次元構造を獲得し、正常な活性を発揮するというものである。 本発明者らは、既にCHPを用いて、citrate synthase、chymotrypsin、インスリンなどとの複合化と体内徐放に成功している。しかしながら、従来はCHPと他の化合物の複合体を静脈注射や腹腔内注射等により投与しており、この場合、複合体中のタンパク質等の化合物と血液又は腹腔中のタンパク質が交換反応を起こしてしまい、十分な効果が得られないという問題があった。また、肝臓や脾臓での貪食の影響により化合物が十分に放出されないという問題もあった。また、サイトカインをナノゲルに内包して癌の免疫療法に用いた報告はない。さらに、サイトカインを内包したナノゲルを生体内に投与する方法は確立しておらず、そのような技術が必要とされていた。 上記のようにサイトカインは抗腫瘍免疫療法やアレルギー関連疾患の治療に用い得ることは知られていた。しかしながら、サイトカインは微量で生体に強力な作用をもたらすので、例えばIL-12では高用量・反復投与により骨髄抑制、髄外造血が誘導され、汎血球減少をもたらすという副作用があった。また、肝・腎などの全身諸臓器に対しても毒性が出現することが知られていた。国際公開第WO00/12564号パンフレット特開2005-298644号公報国際公開第WO2006/049032号パンフレット特開2006-143808号公報国際公開第WO2007/083643号パンフレット特開2007-252304号公報長谷川他、細胞工学Vol.26、No.6、2007、p679-685 本発明は、サイトカイン-ナノゲル複合体を含む皮下注射又は筋肉内注射用の徐放医薬製剤の提供を目的とする。 本発明者らは、リコンビナントマウスインターロイキン12(rmIL-12)とCHPを複合体化し(CHP/rmIL-12複合体)、それをマウスに皮下注射したところ、rmIL-12がCHP/rmIL-12複合体から徐放されることを見出した。皮下注射することにより極めて良好な徐放効果が得られ、肉腫を接種したマウスに対しては副作用の出現無く、高い抗腫瘍効果を発揮した。また、皮下注射を行った場合、従来のCHPと化合物の複合体よりもより低用量で効果が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。[1] サイトカインと親水性ポリマーが架橋されて形成されるヒドロゲル構造を有する高分子ゲルナノ粒子であるナノゲルの複合体を含む皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[2] ナノゲルがコレステロール置換プルラン又はその誘導体である[1]の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[3] ナノゲルが重合性基で修飾されている[1]又は[2]の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[4] 重合性基がアクリロイル基である[3]の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[5] ナノゲルがチオール基を有する水溶性ポリマーと架橋している[3]又は[4]の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[6] チオール基を有する水溶性ポリマーがポリオキシエチレンオキシドである[5]の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[7] 抗腫瘍免疫療法用製剤である[1]〜[6]のいずれかの皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[8] アレルギー関連疾患用製剤である[1]〜[6]のいずれかの皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[9] サイトカインのナノゲルに対する重量比が6×10-6〜2×10-2である[1]〜[8]のいずれかの皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[10] 単回投与あたり0.001〜1,000μg/kg 体重の量で投与する、[1]〜[9]のいずれかの皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[11] サイトカインの副作用を低減する、[1]〜[10]のいずれかの皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[12] サイトカインがインターロイキン12である[1]〜[11]のいずれかの皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。[13] コレステロール置換プルラン又はその誘導体であるナノゲルとサイトカインを44〜37℃で2〜48時間混合することを含む、サイトカインと前記ナノゲルの複合体を含む皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤の製造方法。[14] サイトカインがインターロイキン12である[13]の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤の製造方法。 本発明の腫瘍又はアレルギー関連疾患に対して治療効果を有するサイトカインとナノゲル複合体を皮下注射又は筋肉内注射により投与した場合、皮下又は筋肉内からサイトカインが長期間にわたって徐放され、腫瘍又はアレルギー関連疾患の治療効果を発揮する。また、効率的に徐放されるため低用量で効果を発揮することができる。さらに、低用量で投与できるため、生体に副作用や毒性をもたらすこともない。 以下、本発明を詳細に説明する。 サイトカインとは、微量で細胞表面の特異的レセプターを介して生理活性を示すタンパク質因子をいう。本発明の複合体に含まれるサイトカインは限定されず、あらゆるサイトカインを包含する。サイトカインは生体内において免疫、神経、造血系などに働き、サイトカインを生体内に投与することによりサイトカインが発症に関与する種々の疾患の治療効果を期待することができる。 サイトカインとしては、インターロイキン(IL)-12、IL-15、IL-18、lL-21、IL-27、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-7、IL-8、IL-9、IL-11、IL-14、IL-16、IL-17A、IL-17F、IL-19、IL-20、IL-22、lL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、インターフェロン(IFN)-γ、IFN-α、IFN-β、トランスフォーミング増殖因子(TGF)-β、腫瘍壊死因子(TNF)-α、G-CSF、GM-CSF、M-CSF、VEGF、HGF等が挙げられる。また、各種のケモカインも含む。また、可溶性サイトカインレセプター、可溶性ケモカインレセプター、サイトカインと結合する抗体などの分子、ケモカインと結合する抗体などの分子、サイトカインレセプターと結合する抗体などの分子、ケモカインレセプターと結合する抗体などの分子、サイトカインレセプターアンタゴニスト、あるいはケモカインレセプターアンタゴニストも含む。また、これらを組合せて用いてもよい。すなわち、本発明のサイトカインとナノゲルの複合体は少なくとも1種類のサイトカインを含む。 サイトカインは、天然のものを用いてもよいし、遺伝子工学により調製したリコンビナントサイトカインを用いてもよい。その際、これらのサイトカイン、又はケモカインの全長を含む必要は無く、レセプターとの結合に関る領域を含む一部分の蛋白やペプチドでもよい。また、レセプターとの結合力を失わない程度にアミノ酸配列や立体構造に改変を加えた蛋白やペプチドでもよい。さらには、これらのサイトカイン、又はケモカインのレセプターに対してアゴニストとして機能しうる蛋白やペプチドや薬剤等でもよい。 サイトカインが関与する疾患は、例えばサイトカインの欠乏が原因で発症する疾患や、サイトカインの作用によって免疫反応、細胞増殖・分化・遊走、血管新生等を操作することにより改善が期待できる疾患であり、腫瘍、アレルギー疾患、炎症、感染症等が挙げられる。腫瘍に対しては、抗腫瘍獲得免疫や自然免疫を誘導、増強するようなサイトカインや、腫瘍細胞の遊走や転移を抑制するサイトカイン、あるいは血管新生を抑制するサイトカインが癌免疫療法効果を発揮すると考えられる。また、アレルギーに対しては、たとえばTh2反応を抑制し、あるいはB細胞によるIgEクラススイッチやIgE産生を抑制し、あるいはマスト細胞による化学伝達物質産生を抑制するようなサイトカインや、炎症や自己免疫応答を抑制するサイトカイン等がアレルギー疾患を抑制できると考えられる。感染症に対しては、細菌、ウイルス、寄生虫等の病原体に対する獲得免疫や自然免疫を誘導、増強するようなサイトカイン等が治療効果を発揮すると考えられる。 腫瘍としては、白血病(慢性リンパ性白血病、急性リンパ性白血病を含む)、リンパ腫(非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、T細胞系リンパ腫、B細胞系リンパ腫、バーキットリンパ腫、悪性リンパ腫、びまん性リンパ腫、濾胞性リンパ腫を含む)、骨髄腫(多発性骨髄腫を含む)、乳癌、大腸癌、腎臓癌、胃癌、卵巣癌、膵臓癌、子宮頚癌、子宮内膜癌、食道癌、肝臓癌、頭頚部扁平上皮癌、皮膚癌、悪性黒色腫、尿路癌、前立腺癌、絨毛癌、咽頭癌、喉頭癌、きょう膜腫、男性胚腫、子宮内膜過形成、子宮内膜症、胚芽腫、線維肉腫、カポジ肉腫、血管腫、海綿状血管腫、血管芽腫、網膜芽腫、星状細胞腫、神経線維腫、稀突起謬腫、髄芽腫、神経芽腫、神経膠腫、横紋筋肉腫、謬芽腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、甲状肉腫及びウィルムス腫瘍等が挙げられる。 腫瘍に対しては、特にインターフェロン-ガンマ、GM-CSF、IL-2、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21、IL-23、IL-27等が効果を有する。 アレルギー関連疾患としては、関節リウマチ、多発性硬化症、重症筋無力症、甲状腺炎、多発性筋炎、強皮症、皮膚筋炎、結節性多発性動脈炎、全身性エリテマトーデス、ベーチェット病、バセドー病、I型糖尿病等の自己免疫疾患;気管支喘息発作、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、花粉症、蕁麻疹、アナフィラキシー、薬物アレルギー、食物アレルギー、接触性皮膚炎等のアレルギー疾患、化学物質過敏症、移植片拒絶などが挙げられる。 アレルギー疾患に対しては、特にIL-10、IL-17、IL-21等が効果を有する。 また、感染症に対して、サイトカインの投与や制御が治療効果をもたらす可能性がある例としては、HIVなどのウイルス感染症、ウイルス、寄生虫等の感染症が挙げられる。 また、サイトカインの投与や制御が治療効果をもたらす可能性がある他の疾患として、たとえばアディポサイトカイン等の投与あるいは制御によるメタボリック症候群、高脂血症、動脈硬化症等の治療が挙げられる。また、VEGFやHGF等の投与による心筋梗塞、虚血性疾患、閉塞性動脈硬化症等の治療が挙げられる。 また、サイトカインの作用を抑制することによって治療効果を得られる場合があり、たとえば可溶性のサイトカインレセプターを本発明の技術を用いて患者に投与すれば、そのサイトカインのシグナルを抑制することができる。また、可溶性ケモカインレセプター、サイトカインと結合する抗体などの分子、ケモカインと結合する抗体などの分子、サイトカインレセプターと結合する抗体などの分子、ケモカインレセプターと結合する抗体などの分子、サイトカインレセプターアンタゴニスト、あるいはケモカインレセプターアンタゴニストを本発明の技術を用いて患者に投与すれば、サイトカインの作用を抑制することができる。例として、抗TNFαレセプター抗体、可溶性TNFαレセプターやIL-1レセプターアンタゴニストの投与により、関節リウマチの抑制が期待できる。 本発明において「ナノゲル」とはヒドロゲル構造を有する高分子ゲルナノ粒子をいう。ヒドロゲルとは、親水性のポリマーが架橋されて形成される3次元の網目構造が水を含んで膨潤したものである。用いるナノゲルは、例えば国際公開第WO00/12564号パンフレット(高純度疎水性基含有多糖類及びその製造方法)に記載の方法で製造することができる。 最初に、炭素数12〜50の水酸基含有炭化水素又はステロールと、0CN-R1 NCO(式中、R1は炭素数1〜50の炭化水素基である。)で表されるジイソシアナート化合物を反応させて、炭素数12〜50の水酸基含有炭化水素又はステロールが1分子反応したイソシアナート基含有疎水性化合物を製造する。次いで、得られたイソシアナート基含有疎水性化合物と多糖類とをさらに反応させて、疎水性基として炭素数12〜50の炭化水素基又はステリル基を含有する疎水性基含有多糖類を製造する。得られた反応生成物をケトン系溶媒で精製して高純度疎水性基含有多糖類の製造が可能である。多糖類としては、デキストラン、マンノース、アミロースなど、疎水基を置換される高分子、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポリアルギン酸、ポリアルギニン、ポリイソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)、MPC等が挙げられる。 本発明において好適に用い得るナノゲルとしてはコレステロール置換プルラン(以下、CHPと称する)及びCHP誘導体が例示される。CHPは、分子量3万から20万のプルランに100単糖あたりコレステロールが1〜10個、好ましくは1〜数個置換された構造を有する。CHPの性状は、タンパク質のサイズや疎水性の程度により、コレステロール置換量を変え変更可能である。CHPの疎水性をコントロールするためには、炭素数10〜30、好ましくは炭素数12〜20程度のアルキル基を導入してもよい。本発明で用いるナノゲルは、粒径10〜40nm、好ましくは20〜30nmである。CHP誘導体として、アミノ基又はカルボキシル基を導入したCHP誘導体が挙げられる。ナノゲルは既に広く市販されており、本発明では、これら市販品を広く利用可能である。 サイトカインと上記ナノゲルの複合体は、ナノゲルとサイトカインを共存させ、相互作用させ、サイトカインをナノゲル内に取り込むことにより作製することができる。サイトカインとナノゲルの混合比は、用いるサイトカイン及びナノゲルの種類に応じて適宜決定することができる。例えば、サイトカインに対しCHPを1:1〜100、好ましくは1:10のモル比で混合すればよい。 サイトカインとナノゲルの複合体を形成するには、例えば、サイトカインとナノゲルをバッファー中において混合し、4〜37℃で2〜48時間、好ましくは20〜30時間静置により混合すればよい。サイトカイン−ナノゲル複合体の形成に用いるバッファーは、タンパク質とナノゲルの種類により適宜調製することができ、バッファーとして例えばTris HCl緩衝液(50mM、pH7.6)が挙げられる。調製したサイトカイン−ナノゲル複合体は、公知の方法により解析することが可能である。例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)、原子間力顕微鏡(atomic force microscope、AFM)、蛍光顕微鏡及び共焦点レーザー蛍光顕微鏡により解析できる。 また、本発明で用いるサイトカイン−ナノゲル複合体はシクロデキストリンを添加することにより、サイトカイン−ナノゲル複合体からタンパク質を効率的に解離させることができる。シクロデキストリンはCHPに対し、1:100〜1:1000のモル比で添加する。シクロデキストリンとしてはαシクロデキストリン、βシクロデキストリン、γシクロデキストリン又はそれらの誘導体を用いることができる。この中でも、メチル−β−シクロデキストリン(メチル-β-CD)を用いることができる。ナノゲルとサイトカインを複合化することによりサイトカインのコロイド安定性を高めておき、必要時にシクロデキストリンを添加して、サイトカインの機能を発揮させる系の構築が可能である。 さらに、サイトカインを重合性ナノゲルに含有させ、マイケル付加反応により、末端にチオール基を有する水溶性ポリマーと架橋させてヒドロゲルとして用いてもよい。サイトカイン含有ナノゲル架橋ヒドロゲルは高い徐放性効果と安定化効果を有し、長時間にわらってサイトカインを徐放することができる。 重合性ナノゲルとは、ナノゲルをアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルスルホン基等の重合性基により修飾することにより得られる。ナノゲルの重合性基による修飾率は、ナノゲル及び重合性基の種類により適宜変化するが、100単糖当たり10〜30個、好ましくは20〜30個である。 サイトカインを含有するナノゲル架橋ヒドロゲルは例えば、以下の方法で調製する。 ナノゲルを重合性基で修飾する。ナノゲル(通常0.25〜2g、好ましくは0.5〜1g)及びN,N'-ジメチルアミノピリジン(5〜40ml、好ましくは10〜20ml)を有機溶媒に溶解する。用いる有機溶媒として、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド等が挙げられるが、好ましくはDMSOを用いる。有機溶媒中のナノゲルの濃度は、10〜100mg/ml、好ましくは50〜100mg/mlである。 別途サイトカイン溶液を調製する。この際、生理食塩水やバッファーを用いて調製すればよい。この際、0.0002〜0.8vol%の界面活性剤を含んでいてもよい。 上記の重合性基で重合したナノゲル溶液とサイトカイン溶液を混合し、4〜37℃、好ましくは4℃で、12〜24時間、好ましくは24時間静置する。重合性ナノゲルとサイトカインの混合比は重合性ナノゲルとサイトカインの種類等により変わるが、例えば、重合性ナノゲルをサイトカインに対して重量比で0.0001〜0.02、好ましくは0.001〜0.02混合すればよい。また、混合液中のサイトカインの量もサイトカインの種類等により適宜変えることができるが、例えば、サイトカインの濃度が2〜4000μg/ml、好ましくは20〜400μg/mlとなるように調製すればよい。 その後、チオール基を含む水溶性ポリマーを生理食塩水又はバッファーに溶解し、水溶性ポリマー溶液を調製する。チオール基としては、例えばアルキルチオ基、アラルキルチオ基、アシルチオ基等が挙げられる。末端にチオール基を持つ水溶性ポリマーとして、例えば、ポリオキシエチレンオキシド、MPC、ポリアクリル酸等が挙げられる。 次いで、得られたサイトカイン含有重合性ナノゲルの重合性基と水溶性ポリマー溶液の水溶性ポリマーのモル数が等量となるように混合する。混合液を静置することによりサイトカイン含有重合性ナノゲル架橋ヒドロゲルを得ることができる。 本発明のナノゲルとサイトカインの複合体は、皮下又は筋肉内に注射する。すなわち、ナノゲルとサイトカインの複合体を皮下注射製剤又は筋肉内注射製剤として調製すればよい。本発明の製剤は、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ等のサイトカインを有する動物に投与できる。 本発明の皮下注射製剤又は筋肉内注射製剤は、水、ショ糖、ソルビトール、キシロース、トレハロース、果糖などの糖類;マンニトール、キシリトール、ソルビトールなどの糖アルコール;リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、グルタミン酸緩衝液などの緩衝液;脂肪酸エステルなどの界面活性剤;ツバキ油、ゴマ油、ヤシ油、パーム核油、大豆油、オリーブ油、ヒマワリ油、サフラワー油、シソ油、アマニ油、ヒマシ油等の植物性脂肪酸;グリセリンエステル、中鎖脂肪酸トリグリセリド、オレイン酸等の脂肪酸;オレイン酸エチルなどの脂肪酸エステルなどを添加剤として用いることができる。 注射剤は、通常単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。投与量は、症状、年齢、体重などによって異なるが、1回約0.001〜1,000μg/kg 体重であり、これを1回、又は複数回反復して投与することができる。ナノゲルを用いずにサイトカインのみを投与する場合に比べると、低容量の投与を、より長い間隔をあけて少ない回数行なって、十分な効果を得ることができる。 皮下又は筋肉内に投与した場合、複合体から長期間にわたってサイトカインが徐放される。従って、本発明の複合体は極めて低用量の投与、及び/又は少ない回数の投与、及び/又は複数回投与の際にはそれぞれの投与の間に長い時間間隔を空けた投与で疾患に対する治療効果を発揮することができる。 ナノゲル複合体からのサイトカインの徐放は静脈内投与や腹腔内投与では得られず、皮下投与で達成できる(下記実施例3参照)。その原因として、血漿と腹水には通常高濃度のタンパク質が含まれており(血漿蛋白は健常人では約6.5〜8.0g/dl、腹水浸出液は4.0g/dl以上。ただし腹水漏出液では2.5g/dl以下)、静脈内投与や腹腔内投与の場合にはナノゲル複合体中のサイトカインがすみやかにこれらのタンパク質に置換されて放出されてしまう。また腹腔内投与の場合には、ナノゲルが速やかに腹腔内から血液内に移行しうる。さらに、血流中のナノゲルが網内系にトラップされ、除去される可能性もあり、これもサイトカインの徐放を妨げる。しかし皮下投与の場合にはそのようなことが起こりにくいのでサイトカインが徐放されると考えられる。したがって、本発明では血漿と腹水にナノゲルが直接接する投与法以外の投与法、すなわち皮下投与又は筋肉内投与等を用いるが、ナノゲルが血漿あるいは腹水に接しない投与法であれば皮下投与あるいは筋肉内投与以外の投与法、たとえば関節内投与、髄腔内投与や腫瘍内投与も可能である。 さらに、本発明の製剤は低毒性であり、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ等の動物に対して安全に用いることができる。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例1 CHPとリコンビナントIL-12との複合体の形成(方法) CHPとリコンビナントマウスIL-12(以下rmIL−12)の複合体を形成するための至適反応条件(温度・時間)を検討した。 Akiyoshi et al. J Control Release 1998;54:313-20及びAkiyoshi et al. Macromolecules 1993; 26:3062-8の記載に従って、分子量108,000のプルランに100単糖あたりコレステロールが1.2個導入しコレステロール置換プルランを作製した(CHP-108-1.2、以下単にCHPと称する)。平均分子量は10.8×103であった。 30μg/μlのCHP 9μlと0.1μg/μlのrmIL-12(R&D systems) 1μlを混合、25℃で12、24、36時間、37℃で30分、1時間、2時間、60℃で10分間、各々反応させた(1)。さらに(1)の複合体にメチル-β-シクロデキストリン(以下メチル-β-CD)を加えた。メチル-β-CDの添加は、Sawada et al., J Bioact Compat Polym 2006; 21:487-501の記載に従って、5μlのCHP/rmIL-12複合体をPBSで100倍に希釈し、150μgのメチル-β-CD/5μl PBSを添加し、25℃で30分間インキュベートすることにより行った。CHP/rmIL-12複合体からIL-12を人為的に放出させた(2)。(1)及び(2)において放出されたrmIL-12をIL-12 ELISAキット(R&D systems)で測定し、CHPへのrmIL-12の取り込みと放出の程度を比較検討した。(結果) 図1に示すように、25℃での反応では、反応時間12、24、36時間の場合、90%以上のrmIL-12がCHPと複合体を形成するという良好な結果が得られた。またメチル-β-CDによる複合体からのIL-12の放出も良好であった。37℃では、25℃での反応に比し取り込みは不良で、またメチル-β-CDによる放出も少なかった。60℃、10分では(1)、(2)ともほとんど検出されず、IL-12自体の熱変性が示唆された。以上の結果より、以下の実験では、25℃、24時間で反応させ生成したCHP/rmIL-12複合体(以下CHP/rmIL-12)を用いることとした。実施例2 CHP/rmIL-12によるCD4陽性T細胞のIFN-γ産生の誘導(方法) CHP/rmIL-12中のrmIL-12が本来のrmIL-12と同等の生理活性を保持しているかを検討するために以下の実験を行った。C57BL/6マウスの脾臓からCD4陽性T細胞を採取した。CD4陽性T細胞は、MACS分離カラム(Miltenyi Biotec)を用いて磁気細胞分離法により採取した。(1) CHP/IL-12、(2) rmIL-12、(3) CHP/IL-12 + メチル-β-CD(人為的に放出されたIL-12が得られる)(A〜CいずれもIL-12を50pg含む)を各々105 個のCD4陽性T細胞と混合し培養、培養上清中のIFN-γ(CD4陽性T細胞がIL-12の刺激を受けて生成する)量をIFN-γ ELISAキット(eBioscience)を用いて経時的に計測した。(結果) 図2に示すように、上記(1)、(2)、(3)いずれの3群とも、全く同等のIFN−γ産生量を示した。よって、CHP/rmIL-12も、本来のrmIL-12と比し遜色の無い生理活性を保持していると考えられた。実施例3 マウス生体内でのCHP/rmIL-12からのrmIL-12の放出(方法) CHP/rmIL-12の生体内徐放の確認のため、100μlの(1) CHP/rmIL-12、(2) rmIL-12((1)、(2)共にIL-12量で0.5μg)をマウスに投与した。投与1、12、24、48時間後に採血し、血清中のIL-12値及びIFN−γ値をELISA法で計測した。なお投与経路として、A.皮下注射、B.静脈注射、C.腹腔内注射の3通りを施行した。(結果) 図3A、B及びCにそれぞれ、皮下注射、静脈注射及び腹腔内注射の結果を示す。図に示すように、A法、すなわち(1)、(2)を皮下注射したマウスにおいて、(1)の投与は(2)の投与に比し、血清中IL-12及び血清IFN−γ値が投与12、24時間後も有意に高値を維持した。よって、CHP/rmIL-12の生体内徐放性が確認できた。B、C法では(1)と(2)の群間で血清IL-12、IFN−γ値に差異はみとめられなかった。実施例4 マウス腫瘍モデルを用いたCHP/rmIL-12の腫瘍抑制効果の確認(方法) 実施例3で、CHP/rmIL-12の生体内徐放が確認されたので、次に同製剤の抗腫瘍効果を検討した。Balb/cマウスの腹部皮下にCSA1M肉腫細胞を3×105 個接種した。接種14日後より治療を開始した。治療は、(1) CHP/rmIL-12、(2) rmIL-12、(3) CHP/BSA複合体(対照)、(4) PBS(対照)の4群に分けて14日目、21日目、28日目の3回施行した((1)、(2)の投与量はrmIL-12量で0.25μg/回、(1)〜(4)全て皮下注射)。投与中の腫瘍容積の変化を計測、各群で比較した。腫瘍容積(v)は、式 v = a x b2/2 mm3(a及びbは、それぞれ長径及び短径を示す)により算出した。(結果) 図4に示すように、(2)、(3)、(4)の3群は腫瘍増殖抑制効果はみられなかったが、(1)群は(2)〜(4)群に比し著明に腫瘍増殖を抑制、2回目投与後には他の3群に比較して有意なものとなった。実施例5 CHP/rmIL-12の毒性の確認(方法) rmIL-12は大量・反復投与で、骨髄抑制による造血能の低下、肝・腎毒性といった副作用が出現することが知られている。そこで、CHP/rmIL-12投与による毒性、及びCHP自体の毒性の有無を検討した。実験4と同様に、Balb/cマウスの腹部皮下にCSA1M肉腫細胞を3×105 個接種した。接種14日後より治療を開始した。治療は、(1) CHP/rmIL-12、(2) rmIL-12、(3) CHP/BSA(対照)、(4) PBS(対照)の4群に分けて14日目、21日目、28日目の3回施行した((1)、(2)の投与量はrmIL-12量で0.25μg/回、(1)〜(4)全て皮下注射)。また、腫瘍を移植していないマウスを対照マウスとして用いた。投与3回目の2日後(30日目)に採血、赤血球数、白血球数、血小板数、肝機能としての血清AST及びALT値、腎機能としての血清クレアチニン値(Cre)を測定した。また同時にマウス大腿骨と脾臓を採取し、大腿骨中の骨髄細胞数と脾臓重量と脾臓細胞数を計測し、骨髄抑制・髄外造血の出現の有無を確認した。(結果) 図5に血清AST及びALT値、腎機能としての血清クレアチニン値(Cre)を示し、図6A及びBにそれぞれ脾臓重量及び脾臓細胞数を示す。図に示すように、治療後の血清AST及びALT値、腎機能としての血清クレアチニン値(Cre)は(1)〜(4)群いずれも有意な変動は認められず、腫瘍を移植していない対照マウスと同等の値であった。また、図7Aに示すように、末梢血中の赤血球数、白血球数、血小板数についても有意の変動は認めなかった。さらに、図7Bに示すように骨髄細胞数にも各群間で差は無かった。(1)、(2)群でのみ脾臓重量の増加、脾臓細胞数の増加をみとめたが、それが血球減少などの悪影響をおよぼすことは無かった。以上より、本治療でCHP/rmIL-12の投与は著明な腫瘍抑制効果をもたらしたが、重篤な副作用の出現は無く、安全な投与が可能であると考えられた。温度によるCHPとIL-12の複合体形成効率を示す図である。CHP/rmIL-12によるCD4陽性T細胞のIFN-γ産生の誘導を示す図である。マウスにCHP/rmIL-12を皮下注射により投与した場合のマウス生体内でのCHP/rmIL-12からのrmIL-12の放出を示す図である。マウスにCHP/rmIL-12を静脈注射により投与した場合のマウス生体内でのCHP/rmIL-12からのrmIL-12の放出を示す図である。マウスにCHP/rmIL-12を腹腔内注射により投与した場合のマウス生体内でのCHP/rmIL-12からのrmIL-12の放出を示す図である。マウス腫瘍モデルを用いたCHP/rmIL-12の腫瘍抑制効果を示す図である。CHP/rmIL-12による治療後のマウスの血清AST及びALT値、腎機能としての血清クレアチニン値(Cre)を示す図である。CHP/rmIL-12による治療後のマウスの脾臓重量を示す図である。CHP/rmIL-12による治療後のマウスの脾臓細胞数を示す図である。CHP/rmIL-12による治療後のマウスの末梢血中の赤血球数、白血球数、及び血小板数を示す図である。CHP/rmIL-12による治療後のマウスの骨髄細胞数を示す図である。 サイトカインと親水性ポリマーが架橋されて形成されるヒドロゲル構造を有する高分子ゲルナノ粒子であるナノゲルの複合体を含む皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 ナノゲルがコレステロール置換プルラン又はその誘導体である請求項1記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 ナノゲルが重合性基で修飾されている請求項1又は2に記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 重合性基がアクリロイル基である請求項3記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 ナノゲルがチオール基を有する水溶性ポリマーと架橋している請求項3又は4に記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 チオール基を有する水溶性ポリマーがポリオキシエチレンオキシドである請求項5記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 抗腫瘍免疫療法用製剤である請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 アレルギー関連疾患用製剤である請求項1〜6のいずれか1項に記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 サイトカインのナノゲルに対する重量比が6×10-6〜2×10-2である請求項1〜8のいずれか1項に記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 単回投与あたり0.001〜1,000μg/kg 体重の量で投与する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 サイトカインの副作用を低減する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 サイトカインがインターロイキン12である請求項1〜11のいずれか1項に記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。 コレステロール置換プルラン又はその誘導体であるナノゲルとサイトカインを4〜37℃で2〜48時間混合することを含む、サイトカインと前記ナノゲルの複合体を含む皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤の製造方法。 サイトカインがインターロイキン12である請求項13記載の皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤の製造方法。 【課題】サイトカイン-ナノゲル複合体を含む皮下注射又は筋肉内注射用の徐放医薬製剤の提供。【解決手段】サイトカインと親水性ポリマーが架橋されて形成されるヒドロゲル構造を有する高分子ゲルナノ粒子であるナノゲルの複合体を含む皮下注射又は筋肉内注射用サイトカイン徐放製剤。【選択図】なし


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