タイトル: | 公開特許公報(A)_質量分析装置及びその調整方法 |
出願番号: | 2007306690 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | H01J 49/10,H01J 49/06,G01N 27/62 |
廣岡 恵 JP 2009129868 公開特許公報(A) 20090611 2007306690 20071128 質量分析装置及びその調整方法 株式会社島津製作所 000001993 小林 良平 100095670 廣岡 恵 H01J 49/10 20060101AFI20090515BHJP H01J 49/06 20060101ALI20090515BHJP G01N 27/62 20060101ALI20090515BHJP JPH01J49/10H01J49/06G01N27/62 EG01N27/62 C 4 2 OL 10 2G041 5C038 2G041CA01 2G041DA09 2G041DA13 2G041DA19 2G041EA06 2G041GA03 2G041GA13 2G041GA29 2G041HA01 5C038FF07 5C038GG01 5C038GG06 5C038GG11 5C038GH04 5C038GH11 5C038GH15 本発明は質量分析装置及びその調整方法に関し、特に、化学イオン化法(CI=Chemical Ionization)によりガス状の試料をイオン化するイオン源を備える質量分析装置、及びその調整方法に関する。 ガスクロマトグラフと質量分析計とを組み合わせたガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)のようにガス状の試料をイオン化する場合、電子イオン化法(EI、電子衝撃イオン化法とも呼ばれる)や化学イオン化法(CI)が利用されるのが一般的である。 EIでは、フィラメントにより生成した熱電子を加速してガス状の試料分子に接触させる。すると、試料分子から電子が放出され、該試料分子はイオン化される。一般に、EIにより発生したイオンは過剰な内部エネルギーをもつため、開裂を生じてフラグメントイオンを発生し易い。このため、開裂状態を調べることにより元の分子の構造を得る目的で特に有用なイオン化法である。 一方、CIでは、イオン化室内にメタン、イソブタン等の試薬ガスを導入し、この試薬ガス分子に熱電子を接触させて試薬ガスイオン(例えばCH5+、(CH3)3C+等)を多量に発生させる。そして、この試薬ガスイオン雰囲気中に試料分子を導入し、化学反応を生じさせることにより試料分子をイオン化する。例えば試薬ガスとしてメタン(CH4)を用いた場合、分子量がMである試料分子に対して質量がM+1であるイオンが主に発生する。この方法では、イオン化が比較的穏やかに行われるため、フラグメントの少ないマススペクトルが得られる。このため、分子量の情報を得る目的で特に有用なイオン化法である。なお、一般に化学イオン化法という場合には上記のような原理で正イオンが生成される場合を指すことが多いが、これとは別に負イオンを生成させる方法もあり、これは負化学イオン化法(NCI)と呼ばれる。 上述のようにGC/MSでは、主にEI、CI、NCIの3種類のイオン化法が使用され、分析の目的や試料の種類等に応じてそれらが使い分けられる。それぞれのイオン化法において最良のイオン化効率を達成し得るガス圧等のイオン化条件は相違するため、各イオン化法の特徴を十分に発揮させるにはそれぞれ専用のイオン化室を用いることが望ましい(例えば特許文献1など参照)。即ち、EIは低ガス圧(高真空度)条件の下でイオン化効率が高くなるので、イオン化室の密閉度が低く、NCI、CIの順にイオン化室の密閉度は高くなる。しかしながら、イオン化法毎に専用のイオン化室を用いる場合には、イオン化法を変える際に真空チャンバ内をほぼ大気圧に戻してイオン化室の交換作業を行う必要があり、たいへん煩雑で分析効率も悪くなる。 そこで、最近のGC/MSでは、CI専用のイオン化室よりも密閉度をやや低くした各イオン化法兼用のイオン化室(以下、EI/CI兼用イオン化室という)を用い、試薬ガスの供給/停止の切替えやイオン化に関連した各電極への印加電圧などの極性の変更などの制御のみによりイオン化法の切替えを行うことが行われている。一般に、CI専用イオン化室は、試薬ガスを導入した状態で102Pa程度のガス圧条件で使用されるが、EI/CI兼用イオン化室の場合には、ガス圧はその10分の1〜数分の1程度の低いガス条件で使用される。この程度のガス圧条件であれば、CI専用イオン化室を用いた場合に比べてフラグメントイオンはやや多くなる傾向にあるものの、質量M+1の分子量関連イオンを十分に確認することが可能であり、本来のCIの特徴が発揮できる。 ところで、一般にGC/MSでは、未知試料の分析に先立って、成分の種類や濃度などが既知である標準試料を利用して、レンズ電極への印加電圧などの各種パラメータを最適な値に調整するオートチューニングと呼ばれる機能が備えられている。一般にCIの試薬ガスであるメタンのマススペクトルパターンはイオン化室内のガス圧条件に依存するため、CIを用いたGC/MSの調整手順としては、まず、イオン化室へのメタンの導入量を変化させながら、このメタン由来のm/z29のピーク強度I29とm/z17のピーク強度I17とを比較し、例えばI29/I17>0.2となるようにメタンの導入量を決める。そうして求めた値にメタンの導入量を固定した状態で、オートチューニングの機能を利用して、ユーザーが指定したm/zにおける信号強度が最大になるようにレンズ電極に印加する電圧などの他の条件を決定するようにしている。 ところが、CIを用いた質量分析で得られるマススペクトルのパターンはイオン化室内のガス圧のみに依存するわけではなく、イオン化室内に配設された、イオン化室内からイオンを押し出すためのリペラー電極に印加されるリペラー電圧にも依存する。また、このリペラー電圧は検出感度にも関係している。本願発明者の検討によれば、このようなリペラー電圧依存性は、特に、密閉度が相対的に低いEI/CI兼用イオン化室を用いたCIにおいて明確に現れることが判明した。そのため、こうしたCIを行うGC/MSでは、上述したような従来の一般的な調整手順で以てレンズ電圧等のパラメータを定めても、必ずしも開裂が起こりにくいような状態になるとは限らない。特開2007-258025号公報ユルゲン・グロス(Jurgen. H Gross)、「マス・スペクトロメトリ−テキスト・ブック−2004(Mass Spectrometry-Text Book-2004)」 、スプリンガー社、2004年、pp.331-340 本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、CIによるイオン化を行う際にできるだけ開裂が起こりにくく分子量の推定が容易であるように適切にレンズ電圧などの調整を行うことができる、質量分析装置及びその調整方法を提供することにある。 前述のようにCIにおいては、イオン化室内でまず試薬ガスがイオン化され、この試薬ガスイオンと試料分子とが化学反応を起こすことにより試料分子がイオン化される。したがって、イオン化室内に十分な量の試薬ガスイオンが存在しないと、CIの特徴である分子量関連イオンの生成が良好に行われない。試薬ガスとしてメタンを用いる場合、m/z17であるCH5+、m/z29であるC2H3+、m/z41であるC3H5+などの試薬ガスイオンがCIに寄与することが知られている(例えば非特許文献1参照)。 そこで、本願発明者は、通常のCIイオン化室よりも密閉性の低いEI/CI兼用イオン化室を用いた場合の、イオン化室内における上記各種の試薬ガスイオンの存在量とリペラー電圧との関係を、試薬ガスイオンのスペクトルピークをマススペクトル上で観測することにより実験的に調べた。その結果、上記のようなCIに寄与し得る試薬ガスイオンの信号強度はリペラー電圧が0〜1Vの範囲で最大になり、それよりもリペラー電圧が大きくなると信号強度が減少する傾向を示すことが判明した。特にm/z41ではその傾向が顕著であり、最大の信号強度を示すリペラー電圧よりも電圧を小さくした場合と大きくした場合との信号強度の減少の程度が明確であることが分かった。さらに、標準試料として用いられるベンゾフェノンなどの検出感度とリペラー電圧との関係も調べ、m/z41である試薬ガスイオンと同様の挙動を示し、リペラー電圧を大きくするに従い感度が下がることが分かった。本発明はこうした実験的な知見に基づいてなされたものであり、質量分析装置の各種パラメータを自動的に調整する際の手法にその特徴を有する。 即ち、上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置は、その内部で化学イオン化法(CI)によるイオン化を行うイオン化室と、該イオン化室内にメタンを試薬ガスとして導入する試薬ガス導入部と、前記イオン化室内に配設され、内部で生成されたイオンを外部に押し出す電場を形成するためのリペラー電極と、前記イオン化室から放出されたイオンを質量分析部に輸送する1乃至複数のレンズ電極と、を具備する質量分析装置において、 少なくとも前記リペラー電極へ印加するリペラー電圧及び前記レンズ電極へ印加するレンズ電圧を最適又はそれに近い状態に自動的に調整するために、 a)前記試薬ガス導入部によりメタンを前記イオン化室内に導入した状態で、質量電荷比(m/z)が41であるイオンの信号強度を最大にするように前記リペラー電圧を決定するリペラー電圧決定手段と、 b)前記リペラー電圧決定手段により決定されたリペラー電圧を前記リペラー電極へ印加した状態を維持して前記レンズ電圧を決定するレンズ電圧決定手段と、 を備えることを特徴としている。 また上記課題を解決するために成された本発明に係る質量分析装置の調整方法は、その内部で化学イオン化法(CI)によるイオン化を行うイオン化室と、該イオン化室内にメタンを試薬ガスとして導入する試薬ガス導入部と、前記イオン化室内に配設され、内部で生成されたイオンを外部に押し出す電場を形成するためのリペラー電極と、前記イオン化室から放出されたイオンを質量分析部に輸送する1乃至複数のレンズ電極と、を具備する質量分析装置において、少なくとも前記リペラー電極へ印加するリペラー電圧及び前記レンズ電極へ印加するレンズ電圧を最適又はそれに近い状態に自動的に調整するための調整方法であって、 a)前記試薬ガス導入部によりメタンを前記イオン化室内に導入した状態で、質量電荷比(m/z)が41であるイオンの信号強度を最大にするように前記リペラー電圧を決定するリペラー電圧決定ステップと、 b)前記リペラー電圧決定ステップにおいて決定されたリペラー電圧を前記リペラー電極へ印加した状態を維持して前記レンズ電圧を決定するレンズ電圧決定ステップと、 を実行することを特徴としている。 本発明に係る質量分析装置及びその調整方法は、密閉度が高いCI専用のイオン化室を用いたものにも適用することが可能であるが、通常のCIよりも開裂が起こり易い傾向にある、CIによるイオン化とEIによるイオン化との両方が可能であるCI/EI兼用のイオン化室を用いたものに特に有用である。 メタンを試薬ガスとして用いた場合に、上述の如くm/z41の試薬ガスイオンの信号強度はリペラー電圧の変化に対する依存性が明瞭であるため、リペラー電圧を少しずつ変化させながら該試薬ガスイオンの信号強度が最大となる電圧値を見い出す作業が容易に且つ確実に行える。 それにより、試料分子をイオン化するに際し、良好な、つまりは開裂の少ないCIを行うのに必要な試薬ガスイオンの存在量をイオン化室内で十分に確保して、分子量関連イオンの信号強度を大きくすることができる。特に本発明に係る質量分析装置及びその調整方法によれば、例えばEI/CI兼用イオン化室のように密閉度が比較的低くガス圧が低い(真空度の高い)条件の下でCIが行われる場合でも、開裂を起こしにくくして分子量関連イオン(プロトン付加イオン)の信号強度を大きくすることができ、それによって分子量の推定などに有用な情報を提供することができる。 以下、本発明に係る質量分析装置の一実施例であるGC/MSを図面を参照して説明する。この実施例のGC/MSは本発明に係る質量分析装置の調整方法を採用した各種パラメータのオートチューニング機能を備える。 図1は本実施例のGC/MSの要部の構成図である。GC部1において、図示しないカラムオーブン内に配設されたキャピラリカラム14の入口端には試料気化室11が設けられ、キャリアガス流路13から略一定流量で試料気化室11に供給されたHe等のキャリアガスはキャピラリカラム14に送られる。分析時にインジェクタ12により少量の液体試料が加熱された試料気化室11内に滴下されると、液体試料は即座に気化してキャリアガス流に乗ってキャピラリカラム14に送り込まれる。キャリアガス流に乗った試料成分はキャピラリカラム14を通過する際に時間方向に分離されて溶出し、流路切替部16を経てMS部2へ送られる。 MS部2において、図示しない真空ポンプにより真空排気される真空チャンバ20内には、イオン化室21、レンズ電極26、四重極質量フィルタ27、イオン検出器28が配設されている。イオン化室21はEI/CI兼用イオン化室であり、途中にバルブ23が設けられた試薬ガス流路22が接続され、内部にはリペラー電極24が設置されている。また、図示しないが、イオン化室21にはフィラメントが付設されており、該フィラメントで生成された熱電子がイオン化室21内に送り込まれる。CIによるイオン化が行われる場合、バルブ23が開放されて試薬ガス(ここではメタン)がイオン化室21内に供給され、これに熱電子が接触することにより試薬ガスがイオン化される。この試薬ガスイオンと試料分子とが化学反応を生じて試料分子イオンが生成され、生成されたイオンは、電圧印加部33よりリペラー電極24に印加されるリペラー電圧により形成される電場の作用によりイオン化室21内から図1中で右方向へと押し出される。 イオン化室21から出たイオンはレンズ電極26により形成される電場の作用により収束されるとともに場合によっては加速され、四重極質量フィルタ27に送り込まれる。四重極質量フィルタ27には直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加され、その電圧に応じた質量電荷比(m/z)を持つイオンのみが選択的に該フィルタ27を通過してイオン検出器28に到達する。四重極質量フィルタ27への印加電圧を所定パターンで変化させることで、該フィルタ27を通過するイオンの質量電荷比を所定範囲で走査することができる。イオン検出器28による検出信号はデータ処理部32に入力され、ここでマススペクトルが作成されるとともに定量分析、定性分析が実行される。流路切替部16は、後述する自動調整時に標準試料導入部40に用意された所定の標準試料をイオン化室21に導入するように流路を切り替える。分析制御部31は分析や自動調整などを行うために各部を制御する。また、操作部36や表示部37が接続された中央制御部30は、予め定められた制御プログラムに従って各部を統括的に制御するべく分析制御部31、データ処理部32に指示を与えるとともに、分析結果などを表示部37により表示する。なお、この中央制御部30やデータ処理部32は、汎用のパーソナルコンピュータ上で所定の制御・処理プログラムを実行させることでその機能を実現するものとすることができる。 本実施例のGC/MSでは、未知試料の分析に先立ってMS部2のリペラー電極24への印加電圧(リペラー電圧)やレンズ電極26への印加電圧(レンズ電圧)などのMS部2の各種パラメータを調整するために、特徴的な制御・処理が実行される。この際の制御・処理について図2のフローチャートにより説明する。 まず分析制御部31の制御の下にバルブ23が開放され、試薬ガスとしてメタンが試薬ガス流路22を通してイオン化室21内に供給される(ステップS1)。真空チャンバ20内は真空排気されているため、イオン化室21からメタンがその外部に流出することでイオン化室21内は略一定のガス条件に維持される。次に、分析担当者は操作部36によりオートチューニング条件(例えばレンズ電圧調整のための質量電荷比など)を入力した上で、オートチューニングの実行を指示する(ステップS2)。中央制御部30はこれに応じてオートチューニング機能を開始する(ステップS3)。 まず、標準試料導入部40に用意された所定の標準試料をイオン化室21に導入し、これを質量分析して得たマススペクトル上に現れたスペクトルピークの位置や形状に基づいて、質量電荷比(m/z)の校正、ピークプロファイルの半値幅の調整などを実行する(ステップS4)。これは従来も行っている通常の調整作業である。そのあと、イオン化室21内に標準試料を導入しない状態で、試薬ガスイオンであるm/z41のイオンがイオン検出器28に到達するように四重極質量フィルタ27への印加電圧を設定する。そして、電圧印加部33によりリペラー電極24へ印加するリペラー電圧を所定の範囲(例えば−1〜3V)の範囲で少しずつ変化させながら、信号強度が最大になる電圧値を探索する(ステップS5)。後で詳述するが、m/z41では、m/z17、m/z29などの他の試薬ガスイオンと比べてリペラー電圧を変化させた際の信号強度の変化のピークが鋭く現れる。そのために、試薬ガスイオンの信号強度を最大とするようなリペラー電圧の決定を容易に且つ確実に行うことができる。 次に、そうして決定された電圧値にリペラー電圧を固定した状態で所定の標準試料をイオン化室21に導入し、ステップS2において分析担当者により指定されたm/zを持つイオンがイオン検出器28に到達するように四重極質量フィルタ27への印加電圧を設定する。そして、電圧印加部33によりレンズ電極26へ印加するレンズ電圧を所定の範囲の範囲で少しずつ変化させながら、信号強度が最大になる電圧値を探索する。また、レンズ電圧のほかに調整すべきパラメータがある場合にも、同じリペラー電圧の条件の下でここで調整する(ステップS6)。そうして必要なパラメータの調整が終了したならば(ステップS7)、分析の指示等が与えられるまで待機する。 上述のようにリペラー電圧を決定する際にm/z41を利用する理由及びその根拠について図3〜図7を参照して説明する。 図3(a)は質量分析計の感度等を示すために一般に利用されるメチルステアレート(methyl stearate)の実測によるEIマススペクトル、図3(b)は同じく実測によるCIマススペクトルである。これらはそれぞれEI専用イオン化室、CI専用イオン化室でEI、CI(試薬ガスはメタン)を実施した場合の結果である。 EIマススペクトルでは、m/z74に大きな信号強度のベースピーク(図中矢印A)が存在し、m/z298の分子イオンについては非常に信号強度が小さなピーク(図中矢印B)が確認できるだけである。これに対し、CIマススペクトルでは、プロトン付加イオン[M+H]のピーク(図中矢印C)がm/z299に現れ、これが分子量の決定に非常に有用であることが分かる。EI/CI兼用イオン化室でCIを実施した場合には、図3(b)のようにm/z299がベースピークになるものの、CI専用イオン化室を用いた通常のCIよりはEIに近い傾向を示し、m/z74のピークも観測される。 図4は、リペラー電圧を変化させた場合のm/z299に対する信号強度I299とm/z74に対する信号強度I74との強度比I299/I74を示す図である。なお、ガス圧条件は450Paである。リペラー電圧が約0.3VであるときにI299の比率が最も高く、それよりも電圧を増加させてゆくとI74が相対的に強くなることが分かる。即ち、このことは、リペラー電圧が高いと開裂が起こり易くなる傾向であることを意味する。これは、リペラー電圧が大きくなるに従い、イオン化室において試料分子が十分にCIを行うための時間が不足してくるためと考えられる。一方、リペラー電圧が0Vに近いときには、平均自由行程の長い軽い質量のイオンのイオン化室内での透過率が、平均自由行程の短い重い質量のイオンのそれと比べて相対的に向上し、上記信号強度比I299/I74がやや小さくなるものと推測できる。 図5(a)はCIの際に試薬ガスとして使用されるメタン自体のEIマススペクトル、図5(b)はCIイオン化室に試薬ガスとしてメタンを導入したときのマススペクトルである。EIマススペクトルでは、m/z16をベースピーク(図中矢印D)とし、ピークの信号強度はm/z15、14と順に小さくなる。これに対しCIマススペクトルでは、m/z17、29、41に試薬ガス由来の大きなピーク(図中矢印E)が存在する。m/z17はCH5+、m/z29はC2H5+、m/z41はC3H5+、であり、これらは試薬ガス分子同士の反応のために元の試料ガス分子よりも大きな質量のイオンとなったものである。これらの試薬ガスイオンから例えば1個のプロトンが試料分子に移動することで、質量がM+1であるイオンが生成される。 図6はEI/CI兼用イオン化室を用いたときのCIマススペクトルにおける各ピークの信号強度のリペラー電圧依存性を示すグラフである。リペラー電圧を大きくすると、m/z15、16といったEIにおいて観測され易いピークの信号強度が大きくなる。これは、リペラー電圧を大きくするとEIの傾向が強くなる、という上述のメチルステアレートについての実験結果と一致していることが分かる。一方、全般的な傾向として、リペラー電圧を小さくするとm/z17、29、41などのCI特有のピークの信号強度が高くなる。これは、CIにおいてプロトンを受け渡す作用を担う試薬ガスイオンが増加し、試料分子を良好にイオン化できる可能性が高いことを示唆している。即ち、このような状態の下でのCIでは試料分子について良好な、つまり開裂が少なく分子量関連イオンのピーク強度が高いマススペクトルが得られることを示唆している。 図7は図6の結果について各m/zにおいて信号強度が最大であるものを1として規格化したグラフである。リペラー電圧の変化に対する信号強度の変化を詳細に見ると、いずれもリペラー電圧が約0.3V付近であるときに最大となり、m/z41ではm/z17、29などに比べて、その最大値を与えるリペラー電圧から離れたときの信号強度の減少が顕著である、つまりピークが鋭くなっていることが分かる。即ち、同じ試薬ガスイオンであっても、m/z41のイオンはその信号強度のリペラー電圧依存性が顕著であると言える。前述のようにリペラー電圧を少しずつ変化させながら信号強度が最大となる電圧値を探索する場合、リペラー電圧の変化に対するピークが鋭いほうが最適な電圧を見い出し易いことは明らかである。こうしたことから、上記実施例のGC/MSでは、最適なリペラー電圧を探察する際にm/z41を利用するようにしている。 なお、上記実施例は本発明の一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜修正や変更を行えることは明らかである。本発明の一実施例であるGC/MSの要部の構成図。本実施例であるGC/MSにおいてMS部の各種パラメータを調整するための特徴的な制御・処理を示すフローチャート。メチルステアレートの実測によるEIマススペクトル(a)及び同じく実測によるCIマススペクトル(b)。リペラー電圧を変化させた場合の強度比I299/I74を示す図。メタンのEIマススペクトル(a)及びCIイオン化室に試薬ガスとしてメタンを導入したときのマススペクトル(b)。EI/CI兼用イオン化室を用いたときのCIマススペクトルにおける各ピークの信号強度のリペラー電圧依存性を示すグラフ。図6の結果について各m/zにおいて信号強度が最大であるものを1として規格化したグラフ。符号の説明1…GC部11…試料気化室12…インジェクタ13…キャリアガス流路14…キャピラリカラム16…流路切替部2…MS部20…真空チャンバ21…イオン化室22…試薬ガス流路23…バルブ24…リペラー電極26…レンズ電極27…四重極質量フィルタ28…イオン検出器30…中央制御部31…分析制御部32…データ処理部33…電圧印加部36…操作部37…表示部40…標準試料導入部 その内部で化学イオン化法(CI)によるイオン化を行うイオン化室と、該イオン化室内にメタンを試薬ガスとして導入する試薬ガス導入部と、前記イオン化室内に配設され、内部で生成されたイオンを外部に押し出す電場を形成するためのリペラー電極と、前記イオン化室から放出されたイオンを質量分析部に輸送する1乃至複数のレンズ電極と、を具備する質量分析装置において、 少なくとも前記リペラー電極へ印加するリペラー電圧及び前記レンズ電極へ印加するレンズ電圧を最適又はそれに近い状態に自動的に調整するために、 a)前記試薬ガス導入部によりメタンを前記イオン化室内に導入した状態で、質量電荷比(m/z)が41であるイオンの信号強度を最大にするように前記リペラー電圧を決定するリペラー電圧決定手段と、 b)前記リペラー電圧決定手段により決定されたリペラー電圧を前記リペラー電極へ印加した状態を維持して前記レンズ電圧を決定するレンズ電圧決定手段と、 を備えることを特徴とする質量分析装置。 請求項1に記載の質量分析装置において、前記イオン化室は、化学イオン化法(CI)によるイオン化と電子イオン化法(EI)によるイオン化とを兼用するものであることを特徴とする質量分析装置。 その内部で化学イオン化法(CI)によるイオン化を行うイオン化室と、該イオン化室内にメタンを試薬ガスとして導入する試薬ガス導入部と、前記イオン化室内に配設され、内部で生成されたイオンを外部に押し出す電場を形成するためのリペラー電極と、前記イオン化室から放出されたイオンを質量分析部に輸送する1乃至複数のレンズ電極と、を具備する質量分析装置において、少なくとも前記リペラー電極へ印加するリペラー電圧及び前記レンズ電極へ印加するレンズ電圧を最適又はそれに近い状態に自動的に調整するための調整方法であって、 a)前記試薬ガス導入部によりメタンを前記イオン化室内に導入した状態で、質量電荷比(m/z)が41であるイオンの信号強度を最大にするように前記リペラー電圧を決定するリペラー電圧決定ステップと、 b)前記リペラー電圧決定ステップにおいて決定されたリペラー電圧を前記リペラー電極へ印加した状態を維持して前記レンズ電圧を決定するレンズ電圧決定ステップと、 を実行することを特徴とする質量分析装置の調整方法。 請求項3に記載の質量分析装置の調整方法において、前記イオン化室は、化学イオン化法(CI)によるイオン化と電子イオン化法(EI)によるイオン化とを兼用するものであることを特徴とする質量分析装置の調整方法。 【課題】CI専用イオン化室よりも密閉度の低いEI/CI兼用イオン化室を用いた場合でも試料分子のイオン化に際する開裂を少なくして分子量関連イオンの信号強度を高くする。【解決手段】CIの試薬ガスとしてメタンを用いる場合には、各種の試薬ガスイオンの中でもm/z41に着目し、該イオンの信号強度が最大になるようなリペラー電圧を探索し(S5)、リペラー電圧をその値に固定した状態で、分析担当者により指定されたm/zの信号強度が最大となるようにレンズ電圧等の他のパラメータを決定する(S6)。m/z41のイオンは信号強度のリペラー電圧依存性が高いため、適切なリペラー電圧を容易に且つ確実に見い出すことができる。【選択図】図2