生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ジヒドロピリジン受容体抗体レベルに基づく胸腺腫合併重症筋無力症の診断方法
出願番号:2007264623
年次:2009
IPC分類:G01N 33/53


特許情報キャッシュ

吉川 弘明 丸田 高広 JP 2009092561 公開特許公報(A) 20090430 2007264623 20071010 ジヒドロピリジン受容体抗体レベルに基づく胸腺腫合併重症筋無力症の診断方法 国立大学法人金沢大学 504160781 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 松任谷 優子 100119183 吉川 弘明 丸田 高広 G01N 33/53 20060101AFI20090403BHJP JPG01N33/53 N 9 OL 13 特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物:Neuroimmunology神経免疫学 Vol.15 No.1 2007 「第19回日本神経免疫学会学術抄録集」 発行日:平成19年4月1日 頒布日:平成19年4月12日 発行所:日本神経免疫学会 該当ページ:P31 本発明は、胸腺腫合併重症筋無力症の診断方法に関する。より詳細には、重症筋無力症と胸腺腫の合併の有無を、被験者から単離した末梢血中のジヒドロピリジン受容体抗体レベルに基づき非侵襲的に診断する方法に関する。 重症筋無力症(Myasthenia Gravis:MG)とは、狭義には神経伝達物質であるアセチルコリンの筋肉側受容体(ニコチン性アセチルコリン受容体)に抗アセチルコリン受容体抗体が結合することで、アセチルコリンによる神経・筋伝達が阻害され、筋肉の易疲労性や脱力が起こる自己免疫疾患である。 MGの検査方法としては、テンシロンテスト、誘発筋電図検査、抗アセチルコリン受容体抗体レベル等を検査する血液検査が使用されている。一般には、抗アセチルコリン受容体抗体陽性であり、テンシロンテストで陽性であることがMG診断の一応の目安となるが、アセチルコリン受容体抗体陰性の重症筋無力症というものも存在する。実際、抗アセチルコリン受容体抗体はMG患者の約80%に検出されるが、眼瞼に限局した眼筋型では約50%にしか検出されない。 MGには胸腺異常が高率で合併し、患者の約70%に胸腺の細胞成分が増加して胚中心を形成する「過形成」が、約20%に腫瘍である胸腺腫が見られる。胸腺腫は比較的早期に診断されれば、遠隔転移や隣接臓器への浸潤を防いで、外科的に胸腺を全摘出することで根治が期待されるが、その時期を逃すと予後が悪くなり、化学療法、放射線療法を併用してもその治療が困難となる。 一方、胸腺腫発症例の中には、種々の神経細胞成分に対する自己抗体(抗神経抗体)を伴って、多彩な神経症状が出現する例が知られており、その一つの症状として神経筋接合部シナプス後膜上のアセチルコリン受容体を標的とした自己免疫疾患であるMGがある。胸腺腫を伴ったMGは、他のMGとは免疫学的な背景が異なると言われていたが、その根拠は臨床的に他の自己免疫性神経疾患を合併しやすいことなどで、はっきりした病態としての理由に乏しかった。 これまで、後期発症MG患者、胸腺腫患者、及び胸腺腫合併MG患者の血清中にインターフェロンαやインターロイキン12(特に、IL-12p70)に対する自己抗体が存在することが報告されている(非特許文献1〜3)。しかしながら、胸腺腫合併MG患者と胸腺腫非合併MG患者については、両者を区別する有用なマーカーは知られていなかった。これに対し、発明者らは、IL-12p40及び/又は抗IL-12p40抗体が胸腺腫合併MG患者を胸腺腫非合併MG患者と区別するマーカーとなりうることを報告している(非特許文献4)。 ところで、MGの病態には、神経筋接合部障害に加え、興奮収縮連関障害も関与する。筋が収縮するためには、1)神経筋伝達、2)筋膜の電気的興奮、3)興奮収縮連関、4)筋収縮の4つの過程を経る必要がある。すなわち、1)神経から放出されたアセチルコリンを、筋のアセチルコリン受容体が受け取る;2)アセチルコリンの受容を契機にナトリウムが筋内に流入し、筋膜が電気的に興奮する(活動電位発生);3)筋膜の電気的変化をジヒドロピリジン受容体が感知し、リアノジン受容体と共益して筋内のカルシウム濃度を高める;4)筋内のカルシウム濃度が高まることにより筋収縮が始まる。 興奮収縮連関障害に関しては、これまで抗リアノジン受容体抗体の関与が検討されてきたが、リアノジン受容体は細胞質内タンパクであり、その障害発症機序は未解明であった。Buckley C., Willcox N., et al., (2001) “Do titin and cytokine antibodies in MG patients predict thymoma or thymoma recurrence?” Neurology 57, p1579-1582.Meager A., Willcox N., et al., (2003) “Anti-cytokine autoantibodies in autoimmunity: preponderance of neutralizing autoantibodies against interferon-alpha, interferon-omega and interleukin-12 in patients with thymoma and/or myasthenia gravis” Clin Exp Immunol. Apr, 132(1), p128-36Shiono H., Willcox N., et al., (2003) “Spontaneous production of anti-IFN- and anti-IL-12 autoantibodies by thymoma cells from myasthenia gravis patients suggests autoimmunization in the tumor International” Immunology, Vol. 15, No. 8, p903-913.Yoshikawa et al., (2006) “Elevation of IL-12 p40 and its antibody in myasthenia gravis with thymoma.” J Neuroimmunol. 175(1-2), p169-175. 本発明の課題は、胸腺腫合併MGにおけるDHPR抗体の特異的発現を明らかにして、MG患者における胸腺腫合併の有無を簡便かつ早期に診断する方法を提供するとともに、興奮収縮連関障害における当該DHPR抗体の関与を検証することにある。 発明者らは、興奮収縮連関に関わるT管膜タンパクであるジヒドロピリジン受容体(DHPR)に着目した。そして、MGにおいてDHPRに対する抗体(DHPR抗体)の有無を検証するため、DHPR抗体を定量する新たな測定系を確立した。また、そこから得られたDHPR抗体と臨床像の関連について解析を行い、その臨床的意義について検討した。その結果、DHPR抗体が胸腺腫合併MG患者の血清中で特異的に上昇していることを見出した。 すなわち、本発明は、被験者から単離した末梢血中における、DHPR抗体のレベルを指標として、当該被験者の重症筋無力症と胸腺腫の合併の有無を検査する方法に関する。 本発明の検査では、前記DHPR抗体の量が健常人に比較して有意に高い場合に、前記被験者は胸腺腫を合併した重症筋無力症である可能性が高いと評価できる。 本発明の検査では、前記DHPR抗体に加えて、抗IL-12p70抗体、抗アセチルコリン受容体抗体、抗リアノジン受容体抗体、抗IL12p40抗体、及びIL12p40から選ばれる1又は2以上のレベルをさらに指標としてもよい。その場合、前記DHPR抗体レベルと、抗IL-12p70抗体、抗アセチルコリン受容体抗体、抗リアノジン受容体抗体、抗IL12p40抗体、及びIL12p40から選ばれる1又は2以上のレベルがともに健常人に比較して有意に高い場合に、前記被験者は胸腺腫を合併した重症筋無力症である可能性が高いと評価できる。 前記抗体やサイトカインのレベルは、公知の免疫学的方法によって測定できる。免疫学的方法としては、免疫沈降法、ならびにウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、及びRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらの変法等を挙げることができる。なお、本発明において「レベル」とは、測定対象とする蛋白の量に限定されず、その力価(抗体価等)等も含むものとする。 本発明はまた、重症筋無力症又は胸腺腫の検査用キットも提供する。前記キットは、DHPRあるいはその断片、あるいは所望によりDHPR抗体を含み、被験者の重症筋無力症と胸腺腫の合併の有無を検査できることを特徴とする。これらのDHPRあるいはその断片、DHPR抗体は、必要に応じて標識されていてもよいし、固相支持体に固定化されていてもよい。 前記キットは、さらに、IL-12p70あるいはその断片、アセチルコリン受容体あるいはその断片、リアノジン受容体あるいはその断片、IL12p40あるいはその断片、抗IL12p40抗体、他のサイトカインやその断片、及びサイトカイン抗体を含んでいてもよい。これらのIL-12p70あるいはその断片、アセチルコリン受容体あるいはその断片、リアノジン受容体あるいはその断片、IL12p40あるいはその断片、抗IL12p40抗体、他のサイトカインやその断片、サイトカイン抗体は、必要に応じて標識されていてもよいし、固相支持体に固定化されていてもよい。 本発明のキットは、前記した構成要素に加えて、ラベル体の検出のための試薬、反応用緩衝液、酵素、基質等、本発明の実施に必要な他の要素を含んでいてもよい。 本発明は、興奮収縮連関障害に対するDHPR抗体の関与を初めて詳細に検討したもので、その治療及び診断において極めて有用である。また、本発明によれば、末梢血中のDHPR抗体レベルを指標として、MG患者における胸腺腫合併の有無を簡便かつ早期に診断することが可能であり、胸腺腫合併MG患者の治療と予後の改善を図ることができる。1.重症筋無力症と胸腺腫 重症筋無力症(Myasthenia Gravis: MG)とは、末梢神経が筋肉に接合する部分(神経筋接合部)において、筋肉側受容体であるニコチン性アセチルコリン受容体に抗アセチルコリン受容体抗体が結合することで、神経伝達物質であるアセチルコリンによる神経・筋伝達が阻害され、筋肉の易疲労性や脱力が起こる自己免疫疾患である。 MG患者では、その70〜80%に胸腺異常が見られ、特に約20%には胸腺腫が合併することが知られている。胸腺腫は比較的早期に発見されれば、外科的に胸腺を全摘出することで根治が期待されるが、その時期を逃すと予後が悪くなり、治療が困難となる。一方、原因は明らかではないが、胸腺摘出術は患者によってはMG自体の治療としても有用とされている。そのため、MG患者において胸腺腫の合併を早期に知ることは、MG治療の方向性を決定するうえでも重要である。 胸腺腫を伴ったMG(胸腺腫合併MG)は、他のMGとは免疫学的な背景が異なると言われていたが、その免疫学的特徴に関する詳細な報告はなく、診断のためのマーカーも知られていなかった。 発明者らは、胸腺腫合併MG患者と胸腺腫非合併MG患者、さらに他の胸腺腫患者や神経疾患患者らにおける、血清中のジヒドロピリジン受容体抗体や、アセチルコリン受容体抗体、リアノジン抗体レベルを詳細に調査した。そして、ジヒドロピリジン受容体抗体が胸腺腫合併MG患者の血清中でのみ有意に上昇しており、胸腺腫合併MG患者を診断するマーカーとなりうることを見出した。 ところで、MG患者の血清中では抗アセチルコリン受容体抗体や抗リアノジン受容体抗体の有意な上昇がみられ、MGの診断マーカーとして有用であることが知られている(Romi F, et al “Complement activation by titin and ryanodine receptor autoantibodies in myasthenia gravis. A study of IgG subclasses and clinical correlations” J Neuroimmunol. 2000 Nov 1;111(1-2):169-76.)。また、発明者らは、抗IL-12p70抗体はMGであるか否かにかかわらず胸腺腫患者の血清中で有意に上昇すること、及び、抗IL12p40抗体及びIL12p40は胸腺合併MG患者の血清中で特異的に有意に上昇することを確認し、報告している(Yoshikawa et al., (2006) J Neuroimmunol. 175(1-2), p169-175)。 つまり、抗IL-12p70抗体や抗アセチルコリン受容体抗体、抗リアノジン受容体抗体、抗IL12p40抗体及びIL12p40のレベルを抗DHPR抗体のレベルと合わせて評価することで、当該被験者が胸腺腫あるいはMGを単独で発症しているか、胸腺腫とMGを合併して発症しているかをより正確に鑑別することができる。2.ジヒドロピリジン受容体(DHPR) ジヒドロピリジン受容体(DHPR)は、横行小管(T管)膜の最深部にある筋小胞体末端膨大部と連結するタンパク質で、電位センサーとして機能し、リアノジン受容体と興奮収縮連関の単位を構成する。すなわち、神経から放出されたアセチルコリンを筋アセチルコリン受容体が受容すると、ナトリウムイオンが筋内に流入し、活動電位が発生する。この活動電位によってT管が脱分極すると、DHPR体から筋小胞体にあるリアノジン受容体にシグナルが伝わり、カルシウムイオンが放出されて筋収縮が起きる。3.重症筋無力症と胸腺腫の合併の有無を検査する方法3.1 試料の調製 本発明の検査方法は、被験者から採取した末梢血を用いて非侵襲的に行われる。検体である血液は、必要に応じて高速遠心を行うことにより不溶性の物質を除去した後、その後の検出方法に応じて適宜調製される。 ELISA/RIA(あるいはこれらの変法)用試料は、例えば、回収した血清をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、細胞抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動用の2−メルカプトエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ社製等)と混合したものを用いる。ドット/スロットブロット用試料は、例えば、回収した細胞抽出液そのもの、又は緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させたものを用いる。3.2 サイトカイン又は抗体の検出 指標とするサイトカインや抗体のレベルは、抗原抗体反応を利用した免疫学的方法を用いて検出することができる。ここで「レベル」とは当該蛋白質の量に限定されず、これを間接的に示す力価(抗体価等)も含む。 免疫学的方法としては、たとえば、免疫沈降法や、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、及びRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらに改変を加えた公知の変法(サンドイッチELISA、US Patent No.4202875記載の方法、Meagerらの方法(Meager A., Clin Exp Immunol. 2003 Apr, 132(1), p128-36)等)を挙げることができる。すなわち、これらの方法に基づき、抗原検出の場合はこれに対する特異的抗体を、抗体検出の場合はこれに対する特異的抗原を利用して行う。 発明者らは、DHPR抗体の検出方法として、サンドイッチELISAに基づく独自の方法を開発した。この方法では、1)まず、アッセイプレートにマウス由来抗DHPRモノクローナル抗体をコートし、2)次いで、postcoat solutionで非特異的結合をブロックし、3)ここに、ウサギの筋粗抽出液を反応させ、ウサギDHPRをプレート上の抗体に結合させ、4)患者血清、二次抗体、発色基質を反応させて吸光度を測定する。この方法は、抗原入手が容易な上、抗原の立体構造を保持できる、抗体価を数値化できるため治療前後など経時的変化の観察や患者間の比較がしやすい、という点で優れている。 上記した免疫学的方法で用いられる抗体は、公知の方法にしたがって調製できるし、市販のものを用いてもよい。抗体は、常法により、抗原となるサイトカイン蛋白質、あるいはそのアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、特異的抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これよりモノクローナル抗体を得ることもできる。 検出に用いられる抗原あるいは前記抗体作製用の抗原は、抗原であるサイトカイン蛋白質又はその少なくとも6個の連続した部分アミノ酸配列からなるポリペプチド(エピトープ部分のポリペプチド)、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体(例えば、N末端付加するキーホールリンペットヘモシアニン)が付加された誘導体を挙げることができる。 前記抗原ポリペプチドは、サイトカイン蛋白質を遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、サイトカイン遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させればよい。 抗サイトカイン抗体は、それを直接標識するか、又は該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で検出に用いられる。 前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(又は標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(又はストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。 これら標識された酵素の活性を検出することにより、抗原の発現量が測定される。アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合、これら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。 発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。 一方、発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルム又はイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。3.3 評価 評価は、試料中に含まれるDHPR抗体の量を指標として行う。すなわち、健常人に比較して、被験者の末梢血(血清)中においてDHPR抗体のレベルの有意な上昇(p<0.05)が認められた場合には、当該被験者は胸腺腫とMGを合併して発症している可能性が高いと診断できる。 前記評価では、必要に応じて、MGや胸腺腫のマーカーとなりうる他のサイトカインや抗体のレベルも合わせて指標としてもよい。たとえば、抗IL-12p70抗体はMGの有無にかかわらず胸腺腫患者で有意に上昇し、抗アセチルコリン受容体抗体や抗リアノジン受容体抗体は、胸腺腫合併の有無にかかわらずMG患者で上昇し、抗IL12p40抗体とIL12p40は胸腺腫合併MG患者で特異的に上昇する。したがって、DHPR抗体の有意な上昇とともに、抗IL-12p70抗体、抗アセチルコリン受容体抗体レベル、抗リアノジン受容体抗体、抗IL12p40抗体、あるいはIL12p40の有意な上昇が認められれば、当該被験者は胸腺腫合併MGである可能性が高く、抗IL-12p70抗体レベルのみ上昇している場合には胸腺腫のみ発症している可能性が高く、抗アセチルコリン受容体抗体や抗リアノジン受容体抗体レベルのみ上昇している場合にはMGのみ発症している可能性が高いと診断できる。4.検査用キット 本発明はまた、重症筋無力症又は胸腺腫の検査用キットであって、被験者の重症筋無力症と胸腺腫の合併の有無を検査できることを特徴とするキットを提供する。本発明のキットは、必須の構成要素としてDHPRあるいはその断片、所望によりDHPR抗体を含む。 前記DHPRあるいはその断片の由来は、抗ヒトDHPR抗体が検出可能であれば特に限定されないが、ヒトDHPRあるいはそのエピトープを含む断片、もしくはこれと同じアミノ酸配列を有する組替え型ヒトDHPRあるいはそのエピトープを含む断片であることが好ましい。これらDHPRあるいはその断片、組替え型ヒトDHPRあるいはその断片は、3.2に記載した方法により作製することができる。 前記DHPR抗体の由来は、ヒトDHPR抗体検出に利用可能であれば特に限定されない。抗DHPR抗体は、3.2に記載した方法により作製することができる。 さらに、本発明のキットは、IL-12p70あるいはその断片、アセチルコリン受容体あるいはその断片、リアノジン受容体抗体あるいはその断片、IL12p40あるいはその断片、抗IL12p40抗体、その他のサイトカインやその断片、抗サイトカイン抗体を含んでいてもよい。前記IL-12p70あるいはその断片及び/又はアセチルコリン受容体あるいはその断片、IL12p40あるいはその断片、抗IL12p40抗体、その他のサイトカインやその断片、抗サイトカイン抗体の由来は特に限定されないが、ヒト由来のもの、あるいはヒト由来の配列に基づいて作製された組替え型のものが好ましい。これらの抗体あるいは抗原蛋白質もまた、3.2に記載した方法により作製することができる。 前記した各種抗体やサイトカイン(抗原)あるいはその断片は、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよいし、ビオチン等により適当に修飾されていてもよい。また、前記抗体やサイトカインあるいはその断片は、適当な支持体に固相化されていてもよいし、あるいは固相化可能なように別個に支持体がキットが含まれていてもよい。そのような支持体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド等の蛋白を付着可能な合成樹脂、ガラス、ニトロセルロース、セルロース、及びアガロース製の支持体、あるいはゲル型支持体を使用することができる。支持体の形態は特に限定されないが、極小球あるいはビーズ(例えば“ラテックス”ビーズ)などの微粒子、微量遠心チューブなどのチューブ(内壁)、マイクロタイタープレート(ウェル)等の形態で提供される。 本発明のキットは上記した構成要素のほか、必要に応じて、ラベル体の検出のための試薬、反応用緩衝液、酵素、基質等、本発明の実施に必要な他の要素を含んでいてもよい。実施例1:血清抗体価の測定1.対象 MG患者57名(男性22名、女性35名、胸腺腫合併30名、胸腺腫非合併27名、全身型44名、眼筋型13名、平均発症年齢51.9才)、病的対照49名(MG非合併胸腺腫7名,筋萎縮性側索硬化症7名、ランバート・イートン筋無力症候群[LEMS]15名、他の免疫性神経疾患20名)、正常対照20名を対象とした。2.方法 以下の方法により、常法にしたがい被験者の末梢血を採取し、その血清中における各種抗体レベルを測定した。 まず、ウサギ骨格筋からジヒドロピリジン受容体(DHPR)を含む蛋白分画溶解液を抽出した。この溶解液を抗原として、マウス由来抗DHPRモノクローナル抗体(Sigma-Aldrich Inc., Saint Louis, MI)を用いたSandwich ELISA法により対象血清中のDHPR抗体を定量した。詳細を下記に示す。1) アッセイプレートにマウス由来抗DHPRモノクローナル抗体をコートする。2) postcoat solutionで非特異的結合をブロックする。3) ウサギの筋粗抽出液を反応させ、ウサギDHPRをプレート上の抗体に結合させる。4) プレートに患者血清、二次抗体、発色基質を反応させ吸光度を測定し、正常対象の平均+3標準偏差を超えた検体を同抗体陽性した。 次に得られたDHPR抗体とMG臨床像について解析した。また、MGあるいはLEMSにおいて、DHPR抗体価とアセチルコリン受容体(AChR)抗体価、リアノジン受容体(RyR)抗体価の相関についても分析した。3.結果(1)DHPR抗体陽性例は全て胸腺腫合併MG患者であった。(特異度100%,感度37%,表1参照)(2)胸腺腫合併MGの同抗体陽性率は女性(50.0%)が男性(16.7%)より、全身型MG(43.5%)が眼筋型MG(14.3%)より高かった。一方、40歳以上発症例(36.0%)と39歳以下発症例(40.0%)で有意差はなかった。(3)DHPR抗体陽性者は全例、AChR抗体、RyR抗体とも陽性であった。しかし、抗体陽性者において、DHPR抗体と他の2抗体では抗体価に強い相関はなかった。4.考察 DHPRはL型電位依存性カルシウムチャネルであり、高血圧治療ではカルシウム阻害薬の標的としても知られる。骨格筋においてはRyR受容体と共益して興奮収縮連関に関わるとともに、T管膜タンパクとしてT管内に露出する。今回、胸腺腫合併MGでRyR抗体とDHPR抗体が併存することがわかった。また、タクロリムスは興奮収縮連関への直接作用のため、RyR抗体・DHPR抗体陽性MGに対して治療効果が高いことが予測される。DHPR抗体はMGの興奮収縮連関障害に関する病態把握ばかりではなく、治療法選択等でも重要な意味を持つことが期待される。 以上の結果より、DHPR抗体は胸腺腫合併MGに特異的な抗体となることが確認された。この抗体は、MGの病態把握に加え、患者のそれぞれの病態に合わせた治療に向けた重要なバイオマーカーとなりうる。実施例2:興奮収縮連関時間 (E-C coupling time, ECCT)の測定1.対象 全身型MG患者51名(男性19名、女性32名、平均年齢55才(25-78才)、病的対照20名(末梢軸索型ニューロパシー20名、ミオパシー11名、)、正常対照35名を対象とした。2.方法 被験者の興奮収縮連関時間(E-C coupling time, ECCT)を測定し、ECCTの異常とDHPR抗体(DHPR-Ab)あるいはRyR抗体(RyR-Ab)との関係を調べた。ECCTはAChによる筋内へのナトリウム流入に伴う活動電位(CMAP)の発生から、これを受けて細胞内カルシウム濃度上昇が起きるまでの時間である。本実施例では、ECCTは正中神経刺激による短母指外転筋の収縮における活動電位と加速度を記録して求めた。3.結果 結果を表2に示す。DHPR-Ab陽性者におけるECCT異常は57.14%でみられたが、DHPR-Ab陰性者では11.36%であった (p=0.0135で有意差アリ)。一方、RyR-Ab陽性者におけるECCT異常は22.73%でみられたが、RyR-Ab陰性者では13.79%であった(p=0.3212で有意差ナシ)。以上の結果は、実際に興奮収縮連関の障害に関わっているのはRyR-AbよりもむしろDHPR-Abであることを示唆するものだった。実施例3:細胞内カルシウム濃度上昇に対する効果(in vitro)1.方法 培養骨格筋細胞(セルライン名:C2C12)を96穴マイクロプレートに培養し、10日間経過した。細胞をヘペス緩衝液で3回洗浄の後、蛍光カルシウムプローブであるfluo-3AMを添加した。1時間室温で反応後、Hepes緩衝液で洗浄し、実験に供した。蛍光測定には、蛍光マイクロプレートリーダーであるFluoroskan Ascent FL (Thermo Scientific)を使用した。 細胞内カルシウム測定の1時間前に、正常人IgG(2mg/mL)あるいはDHPR抗体陽性患者からのIgG(2mg/mL)を各ウェルに添加し、測定ウェル内に最終濃度が1μMとなるようアセチルコリンを付属のディスペンサーで添加した(図中X軸の15において添加)。その後、485 nmの波長で励起し、538 nmの波長を連続的に記録し、細胞内カルシウム濃度を算出した。2.結果 正常人IgGを添加したウェルではアセチルコリン添加直後に細胞内カルシウム濃度の顕著な上昇がみられたが(図1)、DHPR抗体陽性患者からのIgGを添加したウェルでは細胞内カルシウム濃度の上昇は阻止された(図2)。 本発明は、MGの興奮収縮連関障害に関する病態把握、及び胸腺腫合併MGの診断、MG患者における治療法選択等において極めて有用である。図1は、正常人IgGを細胞内カルシウム測定の1時間前に添加したアッセイの結果を示す。X軸の15において、測定ウェル内に最終濃度が1 μMとなるようアセチルコリンを添加した。アセチルコリン添加後に、細胞内カルシウム濃度の上昇がみられる。図2は、DHPR抗体陽性患者からのIgGを細胞内カルシウム測定の1時間前に添加したアッセイの結果を示す。X軸の15において、測定ウェル内に最終濃度が1 μMとなるようアセチルコリンを添加した。患者IgGはアセチルコリン添加後の細胞内カルシウム濃度上昇を阻止した。 被験者から単離した末梢血中における、ジヒドロピリジン受容体抗体のレベルを指標として、当該被験者の重症筋無力症と胸腺腫の合併の有無を検査する方法。 前記ジヒドロピリジン受容体抗体の量が健常人に比較して有意に高い場合に、前記被験者は胸腺腫を合併した重症筋無力症である可能性が高いと評価することを特徴とする、請求項1に記載の方法。 前記ジヒドロピリジン受容体抗体に加えて、抗IL-12p70抗体、抗アセチルコリン受容体抗体、抗リアノジン受容体抗体、抗IL12p40抗体、及びIL12p40から選ばれる1又は2以上のレベルをさらに指標とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。 前記ジヒドロピリジン受容体レベルと、前記抗IL-12p70抗体、抗アセチルコリン受容体抗体、抗リアノジン受容体抗体、抗IL12p40抗体、及びIL12p40から選ばれる1又は2以上のレベルがともに健常人に比較して有意に高い場合に、前記被験者は胸腺腫を合併した重症筋無力症である可能性が高いと評価することを特徴とする、請求項3に記載の方法。 前記ジヒドロピリジン受容体、抗IL-12p70抗体、抗アセチルコリン受容体抗体、抗リアノジン受容体抗体、抗IL12p40抗体、及びIL12p40のレベルが免疫学的方法によって測定されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 前記免疫学的方法が、免疫沈降法、ならびにウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、及びRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらの変法から選ばれるいずれかの方法である、請求項5に記載の方法。 重症筋無力症又は胸腺腫の検査用キットであって、ジヒドロピリジン受容体あるいはその断片を含み、被験者の重症筋無力症と胸腺腫の合併の有無を検査できることを特徴とする前記キット。 さらに、ジヒドロピリジン受容体抗体を含むことを特徴とする請求項7に記載のキット。 さらに、IL-12p70あるいはその断片、アセチルコリン受容体あるいはその断片、リアノジン受容体あるいはその断片、IL12p40あるいはその断片、及び抗IL12p40抗体から選らばれる1又は2以上を含むことを特徴とする請求項7又は8に記載のキット。 【課題】胸腺腫合併MGの免疫学的特徴を解明し、MG患者における胸腺腫合併の有無を簡便かつ早期に診断する方法を提供するとともに、興奮収縮連関障害におけるジヒドロピリジン受容体抗体(DHPR抗体)の関与を検証する。【解決手段】被験者から単離した末梢血中における、DHPR受容体抗体のレベルを指標として、当該被験者の重症筋無力症と胸腺腫の合併の有無を検査する。前記DHPR抗体の量が健常人に比較して有意に高い場合に、前記被験者は胸腺腫を合併した重症筋無力症である可能性が高いと評価できる。【選択図】なし


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る