生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_香料の評価方法
出願番号:2007227994
年次:2008
IPC分類:G01N 33/14,G01N 21/35,A61B 10/00,G01N 33/00


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藤原 聡 藤木 文乃 辻 知奈 中村 明朗 井手 純一 JP 2008304445 公開特許公報(A) 20081218 2007227994 20070903 香料の評価方法 長谷川香料株式会社 000214537 藤原 聡 藤木 文乃 辻 知奈 中村 明朗 井手 純一 JP 2007124542 20070509 G01N 33/14 20060101AFI20081121BHJP G01N 21/35 20060101ALI20081121BHJP A61B 10/00 20060101ALI20081121BHJP G01N 33/00 20060101ALI20081121BHJP JPG01N33/14G01N21/35 ZA61B10/00 EA61B10/00 XG01N33/00 C 5 OL 9 2G059 2G059AA01 2G059BB13 2G059CC18 2G059EE01 2G059EE11 2G059FF01 2G059FF04 2G059FF08 2G059HH01 2G059JJ01 2G059MM02 2G059MM03 本発明は、香料の評価方法に関する。さらに詳しくは、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化に基づいて香料の適性を評価する香料の評価方法に関する。 香料の評価方法としては、もっぱらヒトの感覚にたよった官能評価が重用されている。官能評価は、総合的な評価には適しているが個人差、感覚疲労、体調変化などの主観的要素が影響する欠点がある。その主観的な評価に客観性を与えた手法としてQDA法(定量的記述分析法)があるが、共通用語の選定やパネルの訓練などに時間を要する。 また、液体クロマトグラフをはじめとする種々のクロマトグラフや匂いセンサ、味センサなどの機器による評価が利用されている。液体クロマトグラフなどの機器による評価は客観的であるが、対象項目ごとの分析が必要であり総合的な評価を行うにはかなりの時間を要する。そして、ヒトの嗅覚、味覚を代用したセンサは、測定時間は短いが、安定性や再現性、被験者による官能評価との相関性に問題がある。 そこで、ヒトによる主観評価を客観化するために、これらに加えて、生体内に生じている生理応答を観察・計測する精神生理学の手法を採用することが試みられている。精神生理学とは、瞳孔の大きさ、心拍数、血圧、脳波、脳磁波、脳血流、ストレスホルモン濃度など計測できる生体反応の指標を手がかりにして、心の状態や動きを研究する心理学の新しい領域である。ヒトは匂いを嗅ぐことによって感覚や情動が変化すると同時に、血圧の変動や心拍数、唾液中ストレス物質の変化といった生理応答を示す。これらの生理応答の観察・計測は、従来の機器分析や官能評価とは異なった角度から匂いを評価する方法であり、新たな匂い評価の一手法となる。 ほとんどの感情情報を最終受容する場、演算処理の場、対応する出力を指示する場である大脳皮質には毛細血管が密に存在しており、血液中のヘモグロビンには近赤外線を吸収しやすいという性質がある。これを利用して近赤外線を頭皮上に照射して反射光を検出すれば、大脳皮質の血流量がわかり、ひいてはその活性の状態もわかることとなる。 非特許文献1は、近赤外線を使用してヘモグロビン量を計測する装置(以下、光トポグラフィ装置という)を開示している。この計測装置は、特定の波長域にある近赤外線(NIR)を光ファイバーを用いて被験者頭部の一方の側から入射する。被験者の頭部内に入射された近赤外線は一部が頭部内の組織により吸収され、残の部分は大脳皮質を経由して頭皮上の検出器で検出される。検出された近赤外線の強度を測定して被験者頭部内の吸収率が測定される。光トポグラフィ装置は、陽電子放射断層撮影法(PET法)や機能的磁気共鳴画像法(fMRI法)のように大がかりで拘束性が強いものではないという利点がある。 非特許文献2には、光トポグラフィ装置を用いて茶のフレーバーを官能評価する際の脳活動をモニタリングし、脳のどの部位が活動しているかを開示している。電気学会誌,Vol.123,No.3,2003,160-163頁Appetite,Vol.7,2006,220-232頁 本発明は、官能評価等に基づく欠点を解決し、上記した光トポグラフィ装置を使用し、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化に基づいて香料の適性を評価する香料の評価方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、先に、光トポグラフィ装置の有する上記特性に着目し、該光トポグラフィ装置を使用し、風味改良剤を添加した味覚物質又は飲食物を飲食したときの脳血流の変化を測定し、該測定結果に基づいて該風味改良剤の種類若しくは添加量を選択する味覚物質又は飲食品の風味改良方法を提案し、同じ試料を連続して飲用するとその順応性により前頭葉機能の賦活は次第に小さくなる傾向があることを開示した(特願2006−84781)。 フレーバーの分野においては、天然物の香気や既存フレーバーをターゲット(以下、ターゲットフレーバーとする)として、ターゲットフレーバーに似た風味を知覚させるフレーバー(以下、イミテーションフレーバーとする)の開発が数多くなされているが、本発明者らは、この様なイミテーションフレーバーの適性を光トポグラフィ装置を用いた脳血流の変化に基づいて評価できないかと考えた。すなわち、イミテーションフレーバーの風味がターゲットフレーバーの風味に近いほど、順応性の割合がターゲットフレーバーの順応性の割合に近くなるという仮説を立て、検討を進めた結果、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化の順応性に基づいて香料の適性を評価することができることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化を測定し、該測定結果に基づいて香料の適性を評価する香料の評価方法を提供するものである。 また、本発明は、香料の適性が、香料のファミリア(familiar)度である上記の香料の評価方法を提供するものである。 また、本発明は、脳血流が、大脳皮質の血流である上記の香料の評価方法を提供する。 本発明はさらに、脳血流の変化が、血液中のヘモグロビン量の変化を近赤外分光法により測定する上記の香料の評価方法を提供する。 さらに本発明は、脳血流の変化が、被験者の順応を利用して測定される上記の香料の評価方法を提供するものである。 本発明によれば、香料を添加した飲食物の香料の適性を効率的かつ客観的に評価することができる香料の評価方法を提供することができる。 本発明において、「香料」とは、天然香料、合成香料、並びにこれらの香料成分を含有する香料組成物(調合香料等)のいずれをも含むものとする。「香料の適性の評価」とは、イミテーションフレーバーの風味がターゲットフレーバーの風味に近いかどうかを評価することをいう。また、本発明において、香料のファミリア(familiar)度とは、例えば、ターゲットフレーバーの風味に対するイミテーションフレーバーの風味の「違和感のなさ」、「安心感」、「自然」、「慣れ親しんでいる」、「馴染み」などの度合いのことをいう。 本発明の香料の評価方法は、被験者が香料を糖酸溶液などの溶液に希釈した飲食物を官能評価している際に、被験者に装着した光トポグラフィ装置を用いて脳血流量の変化を測定することにより行うことができる。具体的には、被験者に、コントロール(ターゲットフレーバー賦香品)と試料(ターゲットフレーバーまたはイミテーションフレーバー賦香品)を1セットとして呈示し、被験者が官能評価している際の脳血流量の変化を測定することにより行うことができる。測定は、1日に数回連続して行うことができ、日を代えて測定する場合は、同一時間帯に測定することが好ましい。このようにして得られる光トポグラフィ装置の各チャンネル(CH)ごとの脳血流量のデータを統計処理することによりイミテーションフレーバーの良否を評価することができる。本発明で使用する光トポグラフィ装置としては、例えば、日立ETG−4000型光トポグラフィ装置(日立メディコ(株)製:片側26チャンネル,合計52チャンネル)を例示することができる。 参考例1:ターゲットフレーバーおよびイミテーションフレーバーの選択 ターゲットフレーバーに風味が近いイミテーションフレーバーは脳の応答もターゲットフレーバーに近いかを検討するため、まず、シンプルな組成のフレーバーをターゲットフレーバーとすることとし、ストロベリーフレーバーに関する文献(P.Schieberle and T.Hofmann,J.Agric.Food Chem.1997,45,227-232)を参考にして、下記の表1に示す組成のストロベリーフレーバーをターゲットフレーバー(以下、TAと略称する)として選択した。さらに、このTAの各成分の貢献度をオミッションテストにより評価し、比較的貢献度の高いシス−3−ヘキセナールを除いたストロベリーフレーバー(以下、IM−1と略称する)および比較的貢献度の低いエチルブチレートを除いたストロベリーフレーバー(以下、IM−2と略称する)を選択した。 実施例1 参考例1で選択したターゲットフレーバー(TA)賦香品と、TAから香気に対する貢献度の高い1成分を抜いたIM−1賦香品、香気に対する貢献度の低い1成分を抜いたIM−2賦香品間で、図1の様な仮説を立て、この仮説が成り立つか検証を行った。基材、試料、被験者、測定装置および測定方法を次に示す。 [基材] 6%グラニュー糖、0.05%クエン酸水溶液[試料] コントロール:TAを基材に対して0.1%賦香品 試料1:TAを基材に対して0.1%賦香品 試料2:IM−1を基材に対して0.1%賦香品 試料3:IM−2を基材に対して0.1%賦香品[被験者] コントロールと試料の識別ができる20歳代〜30歳代の男子4名、女子1名(被験者No.7、No.26、No.37、No.42、No.43)[測定装置] 日立ETG−4000型光トポグラフィ装置(日立メディコ(株)製:片側26チャンネル、合計52チャンネル)[測定方法] 光トポグラフィ装置に連結された多数のセンサを備えたプローブを被験者の頭部に装着した後、常にコントロールと試料とを比較する比較呈示法により試料を呈示し、測定を行った。 図2に示すタイムスケジュールに従って1分間の安静後、コントロール(TA賦香品)を飲用し、その1分後に試料を飲用し、試料飲用30秒後に官能的な判断、すなわちコントロールとの差の有無を知覚できたか否かについて、挙手により判断を呈示させた。さらに90秒後に図3に示す官能評価シートにより官能評価を行った。被験者による測定は、日を代えて、かつ同じ時間帯で4回行った。[結果] 図4には、コントロールのTA賦香品を飲んだ後に、試料としてコントロールと同じもの(TA賦香品)、IM−1賦香品またはIM−2賦香品を飲んだときの光トポグラフィ装置で測定した酸素化ヘモグロビンの経時的な変化量を示している(被験者No.7の実験3日目のチャンネル(CH)33)。コントロールのTA賦香品を飲んだ後に、試料としてコントロールと同じもの(TA賦香品)を飲んだときの自己順応性は、コントロールのTA賦香品を飲んだ後に、試料としてIM−1賦香品またはIM−2賦香品を飲んだときの交差順応性よりも大きい傾向が認められ、IM−1賦香品とIM−2賦香品では、IM−2賦香品の方が順応性が大きい傾向が認められる(順応性:TA→TA>TA→IM−2>TA→IM−1)。 以上の結果より、図1に示した仮説が支持されることが示唆された。 図5には、被験者5人中、実験日を通して一定の応答が計測できた被験者3人で、順応性がTA→TA>TA→IM−1およびTA→TA>TA→IM−2の両者が統計的に有意差(P<0.05)のあった部位(CH40,CH30)を「有意差あり」と示し、順応性がTA→TA>TA→IM−1またはTA→TA>TA→IM−2のいずれかが有意差あり、または両者で傾向(P<0.1)ありの部位(CH44,CH43,CH42,CH31,CH22,CH20)を「傾向あり」と示している。[官能評価結果] シス−3−ヘキセナールを抜いたIM−1賦香品とエチルブチレートを抜いたIM−2賦香品との官能評価との差は、挙手時の判断における正解率に表れ、挙手でコントロールであるTA賦香品と異なると判断した確率は、IM−1賦香品では83%、IM−2賦香品では60%であり、この結果から、IM−1賦香品はコントロールであるTA賦香品との識別が容易で、IM−2賦香品の方がコントロールであるTA賦香品との識別が難しいと考えられた。 コントロールと同じ試料であるTA賦香品を飲んだときにコントロールとは異なると評価する確率は41%であり、同じ試料であっても官能評価で違いを感じることはある。その確率よりもIM−2賦香品をコントロールとは異なると識別できる確率は高く、エチルブチレートを抜いてもコントロールとの違いは識別可能であると考えられた。 図6には、被験者5人の官能評価結果の平均値を示している。官能評価の平均値ではIM−1賦香品とIM−2賦香品間には統計的な顕著な差は現れず、被験者による感じ方のばらつき、使用する評価項目の違いが影響していることが考えられた。試料としてのTA賦香品との平均値との差も統計的には有意ではなく、特に、IM−1賦香品は試料としてのTA賦香品と比較して違うことは判断できるが、シス−3−ヘキセナールを抜くことで青葉様香気が減ったとは被験者は必ずしも感じず、甘味や酸味に及ぼす影響も被験者間で感じ方が異なり一定はしていなかった。 以上の結果を総合的に判断すると、イミテーションフレーバーの評価において、順応性を利用することは可能であり、ターゲットフレーバー賦香品とターゲットフレーバーから一成分を抜いたイミテーションフレーバー賦香品との差は、自己順応と交差順応としての差として評価可能であった。自己順応と交差順応との順応性に関する仮説を示した説明図である。比較呈示法を実施したときのタイムスケジュールを示す説明図である。試料を飲用したときの官能評価シートである。試料としてTA賦香品、IM−1賦香品またはIM−2賦香品を飲用したときの酸素化ヘモグロビンの変化量を示すグラフである。52個のチャンネルでの、順応性が自己順応>交差順応で有意差ありまたは傾向ありの部位を示す説明図である。比較呈示法により試料としてTA賦香品、IM−1賦香品及びIM−2賦香品を飲用したときの被験者5人の官能評価の平均値を示す説明図である。香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化を測定し、該測定結果に基づいて香料の適性を評価することを特徴とする香料の評価方法。香料の適性が、香料のファミリア(familiar)度である請求項1に記載の香料の評価方法。脳血流が、大脳皮質の血流であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の香料の評価方法。脳血流の変化が、血液中のヘモグロビン量の変化を近赤外分光法により測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の香料の評価方法。脳血流の変化が、被験者の順応を利用して測定されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の香料の評価方法。 【課題】官能評価等に基づく欠点を解決し、光トポグラフィ装置を使用し、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化に基づいて香料の適性を評価する香料の評価方法を提供すること。【解決手段】香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化を測定し、該測定結果に基づいて香料の適性を評価することを特徴とする香料の評価方法。【選択図】なし


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特許公報(B2)_香料の評価方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_香料の評価方法
出願番号:2007227994
年次:2012
IPC分類:G01N 33/14,G01N 21/35,A61B 10/00,G01N 33/00


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藤原 聡 藤木 文乃 辻 知奈 中村 明朗 井手 純一 JP 4966790 特許公報(B2) 20120406 2007227994 20070903 香料の評価方法 長谷川香料株式会社 000214537 藤原 聡 藤木 文乃 辻 知奈 中村 明朗 井手 純一 JP 2007124542 20070509 20120704 G01N 33/14 20060101AFI20120614BHJP G01N 21/35 20060101ALI20120614BHJP A61B 10/00 20060101ALI20120614BHJP G01N 33/00 20060101ALI20120614BHJP JPG01N33/14G01N21/35 ZA61B10/00 EA61B10/00 XG01N33/00 C G01N 33/14 G01N 33/48−33/98 JSTPlus(JDreamII) 特開2002−282231(JP,A) 特開平07−294525(JP,A) 国際公開第2005/049773(WO,A1) 石川雅司, 藤木文乃, 中村明朗, 井手純一, 森憲作,フレ-バ-による人工甘味料の風味改良 ,日本味と匂学会誌 ,日本,2006年12月,Vol.13,No.3 ,Page.429-430 石川雅司, 藤木文乃, 辻知奈, 中村明朗, 井手純一, 森憲作,オプティカルイメ-ジングを用いた香料の開発 ,日本味と匂学会誌,日本,2007年12月,Vol.14,No.3 ,Page.259-260 石川雅司, 井手純一, 辻知奈, 藤木文乃, 中村明朗, 森憲作,オプティカルイメ-ジングを用いた香料の開発-順応現象とパタ-ン解析-,日本味と匂学会誌,日本,2007年12月,Vol.14,No.3 ,Page.515-516 3 2008304445 20081218 8 20090403 草川 貴史 本発明は、香料の評価方法に関する。さらに詳しくは、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化に基づいて香料の適性を評価する香料の評価方法に関する。 香料の評価方法としては、もっぱらヒトの感覚にたよった官能評価が重用されている。官能評価は、総合的な評価には適しているが個人差、感覚疲労、体調変化などの主観的要素が影響する欠点がある。その主観的な評価に客観性を与えた手法としてQDA法(定量的記述分析法)があるが、共通用語の選定やパネルの訓練などに時間を要する。 また、液体クロマトグラフをはじめとする種々のクロマトグラフや匂いセンサ、味センサなどの機器による評価が利用されている。液体クロマトグラフなどの機器による評価は客観的であるが、対象項目ごとの分析が必要であり総合的な評価を行うにはかなりの時間を要する。そして、ヒトの嗅覚、味覚を代用したセンサは、測定時間は短いが、安定性や再現性、被験者による官能評価との相関性に問題がある。 そこで、ヒトによる主観評価を客観化するために、これらに加えて、生体内に生じている生理応答を観察・計測する精神生理学の手法を採用することが試みられている。精神生理学とは、瞳孔の大きさ、心拍数、血圧、脳波、脳磁波、脳血流、ストレスホルモン濃度など計測できる生体反応の指標を手がかりにして、心の状態や動きを研究する心理学の新しい領域である。ヒトは匂いを嗅ぐことによって感覚や情動が変化すると同時に、血圧の変動や心拍数、唾液中ストレス物質の変化といった生理応答を示す。これらの生理応答の観察・計測は、従来の機器分析や官能評価とは異なった角度から匂いを評価する方法であり、新たな匂い評価の一手法となる。 ほとんどの感情情報を最終受容する場、演算処理の場、対応する出力を指示する場である大脳皮質には毛細血管が密に存在しており、血液中のヘモグロビンには近赤外線を吸収しやすいという性質がある。これを利用して近赤外線を頭皮上に照射して反射光を検出すれば、大脳皮質の血流量がわかり、ひいてはその活性の状態もわかることとなる。 非特許文献1は、近赤外線を使用してヘモグロビン量を計測する装置(以下、光トポグラフィ装置という)を開示している。この計測装置は、特定の波長域にある近赤外線(NIR)を光ファイバーを用いて被験者頭部の一方の側から入射する。被験者の頭部内に入射された近赤外線は一部が頭部内の組織により吸収され、残の部分は大脳皮質を経由して頭皮上の検出器で検出される。検出された近赤外線の強度を測定して被験者頭部内の吸収率が測定される。光トポグラフィ装置は、陽電子放射断層撮影法(PET法)や機能的磁気共鳴画像法(fMRI法)のように大がかりで拘束性が強いものではないという利点がある。 非特許文献2には、光トポグラフィ装置を用いて茶のフレーバーを官能評価する際の脳活動をモニタリングし、脳のどの部位が活動しているかを開示している。電気学会誌,Vol.123,No.3,2003,160-163頁Appetite,Vol.7,2006,220-232頁 本発明は、官能評価等に基づく欠点を解決し、上記した光トポグラフィ装置を使用し、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化に基づいて香料の適性を評価する香料の評価方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、先に、光トポグラフィ装置の有する上記特性に着目し、該光トポグラフィ装置を使用し、風味改良剤を添加した味覚物質又は飲食物を飲食したときの脳血流の変化を測定し、該測定結果に基づいて該風味改良剤の種類若しくは添加量を選択する味覚物質又は飲食品の風味改良方法を提案し、同じ試料を連続して飲用するとその順応性により前頭葉機能の賦活は次第に小さくなる傾向があることを開示した(特願2006−84781)。 フレーバーの分野においては、天然物の香気や既存フレーバーをターゲット(以下、ターゲットフレーバーとする)として、ターゲットフレーバーに似た風味を知覚させるフレーバー(以下、イミテーションフレーバーとする)の開発が数多くなされているが、本発明者らは、この様なイミテーションフレーバーの適性を光トポグラフィ装置を用いた脳血流の変化に基づいて評価できないかと考えた。すなわち、イミテーションフレーバーの風味がターゲットフレーバーの風味に近いほど、順応性の割合がターゲットフレーバーの順応性の割合に近くなるという仮説を立て、検討を進めた結果、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化の順応性に基づいて香料の適性を評価することができることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は、香料を添加した飲食物を飲食または嗅いだときの脳血流の変化を測定し、該測定結果に基づいて香料の適性を評価する香料の評価方法を提供するものである。 また、本発明は、香料の適性が、香料のファミリア(familiar)度である上記の香料の評価方法を提供するものである。 また、本発明は、脳血流が、大脳皮質の血流である上記の香料の評価方法を提供する。 本発明はさらに、脳血流の変化が、血液中のヘモグロビン量の変化を近赤外分光法により測定する上記の香料の評価方法を提供する。 さらに本発明は、脳血流の変化が、被験者の順応を利用して測定される上記の香料の評価方法を提供するものである。 本発明によれば、香料を添加した飲食物の香料の適性を効率的かつ客観的に評価することができる香料の評価方法を提供することができる。 本発明において、「香料」とは、天然香料、合成香料、並びにこれらの香料成分を含有する香料組成物(調合香料等)のいずれをも含むものとする。「香料の適性の評価」とは、イミテーションフレーバーの風味がターゲットフレーバーの風味に近いかどうかを評価することをいう。また、本発明において、香料のファミリア(familiar)度とは、例えば、ターゲットフレーバーの風味に対するイミテーションフレーバーの風味の「違和感のなさ」、「安心感」、「自然」、「慣れ親しんでいる」、「馴染み」などの度合いのことをいう。 本発明の香料の評価方法は、被験者が香料を糖酸溶液などの溶液に希釈した飲食物を官能評価している際に、被験者に装着した光トポグラフィ装置を用いて脳血流量の変化を測定することにより行うことができる。具体的には、被験者に、コントロール(ターゲットフレーバー賦香品)と試料(ターゲットフレーバーまたはイミテーションフレーバー賦香品)を1セットとして呈示し、被験者が官能評価している際の脳血流量の変化を測定することにより行うことができる。測定は、1日に数回連続して行うことができ、日を代えて測定する場合は、同一時間帯に測定することが好ましい。このようにして得られる光トポグラフィ装置の各チャンネル(CH)ごとの脳血流量のデータを統計処理することによりイミテーションフレーバーの良否を評価することができる。本発明で使用する光トポグラフィ装置としては、例えば、日立ETG−4000型光トポグラフィ装置(日立メディコ(株)製:片側26チャンネル,合計52チャンネル)を例示することができる。 参考例1:ターゲットフレーバーおよびイミテーションフレーバーの選択 ターゲットフレーバーに風味が近いイミテーションフレーバーは脳の応答もターゲットフレーバーに近いかを検討するため、まず、シンプルな組成のフレーバーをターゲットフレーバーとすることとし、ストロベリーフレーバーに関する文献(P.Schieberle and T.Hofmann,J.Agric.Food Chem.1997,45,227-232)を参考にして、下記の表1に示す組成のストロベリーフレーバーをターゲットフレーバー(以下、TAと略称する)として選択した。さらに、このTAの各成分の貢献度をオミッションテストにより評価し、比較的貢献度の高いシス−3−ヘキセナールを除いたストロベリーフレーバー(以下、IM−1と略称する)および比較的貢献度の低いエチルブチレートを除いたストロベリーフレーバー(以下、IM−2と略称する)を選択した。 実施例1 参考例1で選択したターゲットフレーバー(TA)賦香品と、TAから香気に対する貢献度の高い1成分を抜いたIM−1賦香品、香気に対する貢献度の低い1成分を抜いたIM−2賦香品間で、図1の様な仮説を立て、この仮説が成り立つか検証を行った。基材、試料、被験者、測定装置および測定方法を次に示す。 [基材] 6%グラニュー糖、0.05%クエン酸水溶液[試料] コントロール:TAを基材に対して0.1%賦香品 試料1:TAを基材に対して0.1%賦香品 試料2:IM−1を基材に対して0.1%賦香品 試料3:IM−2を基材に対して0.1%賦香品[被験者] コントロールと試料の識別ができる20歳代〜30歳代の男子4名、女子1名(被験者No.7、No.26、No.37、No.42、No.43)[測定装置] 日立ETG−4000型光トポグラフィ装置(日立メディコ(株)製:片側26チャンネル、合計52チャンネル)[測定方法] 光トポグラフィ装置に連結された多数のセンサを備えたプローブを被験者の頭部に装着した後、常にコントロールと試料とを比較する比較呈示法により試料を呈示し、測定を行った。 図2に示すタイムスケジュールに従って1分間の安静後、コントロール(TA賦香品)を飲用し、その1分後に試料を飲用し、試料飲用30秒後に官能的な判断、すなわちコントロールとの差の有無を知覚できたか否かについて、挙手により判断を呈示させた。さらに90秒後に図3に示す官能評価シートにより官能評価を行った。被験者による測定は、日を代えて、かつ同じ時間帯で4回行った。[結果] 図4には、コントロールのTA賦香品を飲んだ後に、試料としてコントロールと同じもの(TA賦香品)、IM−1賦香品またはIM−2賦香品を飲んだときの光トポグラフィ装置で測定した酸素化ヘモグロビンの経時的な変化量を示している(被験者No.7の実験3日目のチャンネル(CH)33)。コントロールのTA賦香品を飲んだ後に、試料としてコントロールと同じもの(TA賦香品)を飲んだときの自己順応性は、コントロールのTA賦香品を飲んだ後に、試料としてIM−1賦香品またはIM−2賦香品を飲んだときの交差順応性よりも大きい傾向が認められ、IM−1賦香品とIM−2賦香品では、IM−2賦香品の方が順応性が大きい傾向が認められる(順応性:TA→TA>TA→IM−2>TA→IM−1)。 以上の結果より、図1に示した仮説が支持されることが示唆された。 図5には、被験者5人中、実験日を通して一定の応答が計測できた被験者3人で、順応性がTA→TA>TA→IM−1およびTA→TA>TA→IM−2の両者が統計的に有意差(P<0.05)のあった部位(CH40,CH30)を「有意差あり」と示し、順応性がTA→TA>TA→IM−1またはTA→TA>TA→IM−2のいずれかが有意差あり、または両者で傾向(P<0.1)ありの部位(CH44,CH43,CH42,CH31,CH22,CH20)を「傾向あり」と示している。[官能評価結果] シス−3−ヘキセナールを抜いたIM−1賦香品とエチルブチレートを抜いたIM−2賦香品との官能評価との差は、挙手時の判断における正解率に表れ、挙手でコントロールであるTA賦香品と異なると判断した確率は、IM−1賦香品では83%、IM−2賦香品では60%であり、この結果から、IM−1賦香品はコントロールであるTA賦香品との識別が容易で、IM−2賦香品の方がコントロールであるTA賦香品との識別が難しいと考えられた。 コントロールと同じ試料であるTA賦香品を飲んだときにコントロールとは異なると評価する確率は41%であり、同じ試料であっても官能評価で違いを感じることはある。その確率よりもIM−2賦香品をコントロールとは異なると識別できる確率は高く、エチルブチレートを抜いてもコントロールとの違いは識別可能であると考えられた。 図6には、被験者5人の官能評価結果の平均値を示している。官能評価の平均値ではIM−1賦香品とIM−2賦香品間には統計的な顕著な差は現れず、被験者による感じ方のばらつき、使用する評価項目の違いが影響していることが考えられた。試料としてのTA賦香品との平均値との差も統計的には有意ではなく、特に、IM−1賦香品は試料としてのTA賦香品と比較して違うことは判断できるが、シス−3−ヘキセナールを抜くことで青葉様香気が減ったとは被験者は必ずしも感じず、甘味や酸味に及ぼす影響も被験者間で感じ方が異なり一定はしていなかった。 以上の結果を総合的に判断すると、イミテーションフレーバーの評価において、順応性を利用することは可能であり、ターゲットフレーバー賦香品とターゲットフレーバーから一成分を抜いたイミテーションフレーバー賦香品との差は、自己順応と交差順応としての差として評価可能であった。自己順応と交差順応との順応性に関する仮説を示した説明図である。比較呈示法を実施したときのタイムスケジュールを示す説明図である。試料を飲用したときの官能評価シートである。試料としてTA賦香品、IM−1賦香品またはIM−2賦香品を飲用したときの酸素化ヘモグロビンの変化量を示すグラフである。52個のチャンネルでの、順応性が自己順応>交差順応で有意差ありまたは傾向ありの部位を示す説明図である。比較呈示法により試料としてTA賦香品、IM−1賦香品及びIM−2賦香品を飲用したときの被験者5人の官能評価の平均値を示す説明図である。香料を添加した飲食品を飲食または嗅いだときの脳血流の変化を測定し、該測定結果に基づいて香料の適性を評価する方法において、ターゲットフレーバー賦香品を飲食または嗅いだ後、ターゲットフレーバーまたはイミテーションフレーバー賦香品を飲食または嗅ぐ比較呈示法により、イミテーションフレーバー賦香品を飲食または嗅いだときの脳血流の変化が、ターゲットフレーバー賦香品を飲食または嗅いだときの脳血流の変化により近いほどイミテーションフレーバーの風味がターゲットフレーバーの風味に近いものとして評価することを特徴とする香料の評価方法。脳血流が、大脳皮質の血流であることを特徴とする請求項1記載の香料の評価方法。脳血流の変化が、血液中のヘモグロビン量の変化を近赤外分光法により測定することを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の香料の評価方法。


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