生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_糸状菌を用いるリグニン分解方法及びリグニン処理剤
出願番号:2007220980
年次:2007
IPC分類:C12N 1/14,C12N 1/00


特許情報キャッシュ

片山 義博 渡辺 吉雄 上松 仁 倉根 隆一郎 JP 2007325604 公開特許公報(A) 20071220 2007220980 20070828 糸状菌を用いるリグニン分解方法及びリグニン処理剤 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 大家 邦久 100081086 林 篤史 100121050 片山 義博 渡辺 吉雄 上松 仁 倉根 隆一郎 C12N 1/14 20060101AFI20071122BHJP C12N 1/00 20060101ALI20071122BHJP JPC12N1/14 AC12N1/00 R 4 1999056723 19990304 OL 11 4B065 4B065AA58X 4B065AC20 4B065BA22 4B065CA31 4B065CA55 本発明は、糸状菌を用いたリグニンの分解方法及びリグニン処理剤に関する。さらに詳しく言えば、リグニンの主要分子内結合であるβ−アリルエーテル結合を特異的に切断し、リグニンを工業上利用可能な低分子化合物に変換する糸状菌を用いたリグニンの分解方法及びリグニン処理剤に関する。 近年、植物廃材料等のバイオマス資源が枯渇しないエネルギー源として、また再生可能な工業原料としてその有効利用が検討されている。しかし、一般に植物は、天然芳香族高分子であるリグニンがセルロース繊維またはヘミセルロース繊維を結束することにより形成された非常に堅牢な高分子繊維を含んでおり、これによって体構造を維持している。このリグニンによる複雑な化学構造は、構造材料として用いる場合には有利であるが、バイオマスとしての高度利用を図る上では障害となっている。そのため、殆どは廃棄されたり、あるいはせいぜい燃料として利用しているのが現状である。 植物中の高分子繊維を分解するためには、アルカリや酸による分解あるいは機械的な粉砕が必要であるが、環境面あるいは処理コストの面で種々の問題が生じている。また、木材資源はパルプ原料としても重要であるが、クラフトパルプの製造プロセスでは塩素を用いたリグニンの分解・除去(漂白)処理が必要であり、有害な塩素の使用を低く抑える処理方法が求められている。 そこで、従来の化学的あるいは機械的な手法に代わるリグニン分解法が注目されている。例えば、白色腐朽菌の菌体外酵素を利用したリグニン分解方法や担子菌を用いたリグニン分解方法等が知られている(木材学会誌, 38, 811-819(1992))。 しかし、微生物を用いる従来のリグニン分解方法は、菌体外酵素であるマンガンペルオキシダーゼやラッカーゼ等のラジカルが関与しリグニンを完全に分解する特異性の低い系であった。リグニンをバイオマス資源として利用するためには、複雑な化学構造のリグニンを完全に分解することなく部分分解して利用可能な状態に保つことが不可欠である。部分分解したリグニンは、例えば食品用香料成分、殺虫剤の合成原料、医薬品合成中間体、果実の熟成促進剤、オイルの消泡剤、亜鉛コーティングの増白剤、除草剤、加硫阻害剤など種々の用途に利用可能である。木材学会誌, 38, 811-819(1992) 本発明の課題は、リグニンを完全に分解せずに部分分解する微生物を検索し、その微生物を用いてリグニンを利用しやすいバイオマス資源に変換するリグニンの分解方法及びリグニン処理剤を提供することにある。 本発明者らは、上記課題を解決すべく、土壌より採取した多数の糸状菌類について、リグニンモデル化合物分子内に存在するβ−アリルエーテル結合の切断により遊離する蛍光物質の蛍光強度を測定するスクリーニング方法により分解活性の高い菌株を選抜、同定し、リグニンのβ−アリルエーテル結合を特異的に分解しリグニンを有用な資源として利用可能とする本発明に到達した。 すなわち本発明は、以下のリグニン内のβ−アリルエーテル結合を切断してリグニンを部分分解する糸状菌を用いたリグニン分解方法、リグニン処理剤及びそれらに用いる新規な糸状菌に関する。1) リグニン分解性糸状菌(担子菌類を除く。)を用いてリグニンを処理することを特徴とするリグニン分解方法。2) リグニン分子内のβ−アリルエーテル結合を開裂する前記1に記載のリグニン分解方法。3) リグニン分解性糸状菌が、トリコデルマ(Trichoderma)属、アルスリニウム(Arthrinium)属またはフミコーラ(Humicola)属に属する菌である前記1または2記載のリグニン分解方法。4) リグニン分解性糸状菌が、トリコデルマ・エスピー(Trichoderma sp.)f5053株(FERM P-17251)、アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)f5518株(FERM P-17253)、フミコーラ・エスピー(Humicola sp.)f5342株(FERM P-17252)、糸状菌f5520株(Strain f5520)(FERM P-17254)または糸状菌2BW−1株(strain 2BW−1)(FERM P-17266)である前記1または2記載のリグニン分解方法。5) リグニン分解性糸状菌(担子菌類を除く。)を含むことを特徴とするリグニン処理剤。6) リグニン分解性糸状菌がトリコデルマ(Trichoderma)属、アルスリニウム(Arthrinium)属またはフミコーラ(Humicola)属に属する菌である前記5のリグニン処理剤。7) リグニン分解性糸状菌が、トリコデルマ・エスピー(Trichoderma sp.)f5053株(FERM P-17251)、アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)f5518株(FERM P-17253)、フミコーラ・エスピー(Humicola sp.)f5342株(FERM P-17252)、糸状菌f5520株(Strain f5520)(FERM P-17254)または糸状菌2BW−1株(strain 2BW−1)(FERM P-17266)である前記5記載のリグニン処理剤。8) トリコデルマ・エスピー(Trichoderma sp.)f5053株(FERM P-17251)、アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)f5518株(FERM P-17253)、フミコーラ・エスピー(Humicola sp.)f5342株(FERM P-17252)、糸状菌f5520株(Strain f5520)(FERM P-17254)及び糸状菌2BW−1株(strain 2BW−1)(FERM P-17266)からなる群より選ばれるリグニン分解性糸状菌。 以下、本発明について詳述する。(1)リグニン分解性糸状菌 本発明者らは、日本全国の土壌、腐朽材及び植物遺体より採取した糸状菌類について、木材分解性担子菌の培養等に広く用いられているフォーゲル(Vogel)培地を用いて、後述するリグニンモデル化合物分子内のβ−アリルエーテル結合の切断により遊離する蛍光物質(ウンベリフェロン)の蛍光強度を指標とするリグニン分解活性測定法を用いてスクリーニングを行ない、分解活性の認められた15株を選出した。スクリーニングのためのリグニンモデル化合物として、後述する分子構造がベンジルタイプのもの、及びフェノールタイプの2種類を使用した。選出した糸状菌のうち、ベンジルタイプのリグニンモデル化合物に対し強い分解活性を示した2株(f5053株、f5518株)と、フェノールタイプのリグニンモデル化合物に対し強い分解活性を示した1株(2BW−1株)及び両方の性質を併せ持つ2株(f5342株、f5520株)をさらに選出した。これらはいわゆるカビに分類される不完全菌類(Deuteromycotina)であり、担子菌類とは異なる糸状菌類である。これらの菌について属種を同定したところ、トリコデルマ(Trichoderma)、アルスリニウム(Arthrinium)、フミコーラ(Humicola)等に属する糸状菌類であることが判明した。 担子菌類以外の糸状菌類がリグニン分解活性を有することは本発明者らが今回初めて見出したことである。また、β−アリルエーテル結合を特異的に切断するリグニン分解機能は、リグニンを分解するファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)やカワラタケ(Coriolus versicolor)等の担子菌類には見られない機能であることから、本菌株をそれぞれトリコデルマ・エスピーf5053株(Trichoderma sp. f5053, FERM P-17251)、アルスリニウム・エスピーf5518株(Arthrinium sp. f5518, FERM P-17253)、フミコーラ・エスピーf5342株(Humicola sp. f5342, FERM P-17252)、糸状菌f5520株(Strain f5520, FERM P-17254)、糸状菌2BW−1株(Strain 2BW-1, FERM P-17266)と命名して、平成11年2月25日付で工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託した。 本発明のリグニン分解方法に用いられる糸状菌としては、リグニン分解活性を有する担子菌類以外の糸状菌類である。 例えば、不完全菌類(Deuteromycotina)、トリコデルマ(Trichoderma)、アルスリニウム(Arthrinium)、フミコーラ(Humicola)等に属する菌が挙げられる。好ましくはトリコデルマ・エスピーf5053株(Trichoderma sp. f5053, FERM P-17251)、アルスリニウム・エスピーf5518株(Arthrinium sp. f5518, FERM P-17253)、フミコーラ・エスピーf5342株(Humicola sp. f5342, FERM P-17252)、糸状菌f5520株(Strain f5520, FERM P-17254)、糸状菌2BW−1株(Strain 2BW-1, FERM P-17266)であるが、これらに限定されない。本発明ではこれらの菌を1種を単独で、または2種以上同時に用いることができる。(2)培養条件 本発明においては、前記で分離したリグニン分解性糸状菌を好気的または嫌気的条件、好ましくは好気的条件下で培養し増殖することができる。 好気培養は、通常の中温菌の培養に準じ、静置培養でも振盪培養でも良い。培養液のpHは2〜8、好ましくは5〜8である。 培養温度は10〜40℃、好ましくは20〜30℃である。培養を継続する時間は、目的とするリグニン含有物質中のリグニンを分解するのに十分な時間であればよく、通常は1〜20日間、好ましくは2週間程度である。培地に亜鉛イオンが添加されている場合には、分解活性が3倍上昇するため、30分以上〜1週間が好ましい。 嫌気培養は、上記の好気培養に準じるが、静置培養を行なう。 培地は、通常の微生物、好ましくは糸状菌の培養に用いるものであれば特に制限されない。例えば、ポテト澱粉−デキストロース培地、コーンミール培地、オートミール培地または後述のフォーゲル(Vogel)培地等を用いてもよい。好ましくは、フォーゲル(Vogel)培地である。 培地には、セルロースやリグニン等の木質性成分等を添加することができる。さらに必要に応じて各種の炭素源あるいは窒素源を添加することができる。炭素源としては、ブドウ糖、ショ類、マルトース、サッカロース、上白糖、黒糖、糖蜜、廃糖蜜、マルツエキス等が挙げられる。窒素源としては、肉エキス、ペプトン、グルテンミール、大豆粉、乾燥酵母、酵母エキス、硫酸アンモニウム、酒石酸アンモニウム塩、尿素等が挙げられる。その他、必要に応じて、ナトリウム塩、マグネシウム塩、マンガン塩、鉄塩、カルシウム塩、リン酸塩、亜鉛塩等の無機塩類や、イノシトール、ビタミンB1 塩酸塩、L−アスパラギン、ビオチン等のビタミン類を添加してもよい。(3)リグニン分解方法 本発明のリグニン分解方法は、上記のリグニン分解活性を有する糸状菌の培養物またはその処理物でリグニンを処理することにより行なわれる。例えば、上記の培養液にリグニン含有物質を添加するか、逆にリグニン含有物質に上記の培養液またはその抽出成分を添加して処理する。 反応には、バッチ法、連続法、半連続法等のいずれをも用いることができる。また、本発明のリグニン分解性糸状菌を含有するものであれば、他のリグニン分解菌と共に用いてもよい。また、反応効率を上げるために、亜鉛イオンを添加することが好ましい。 培養液にリグニン含有物質を添加して処理する場合は、上述のリグニン分解菌の培養条件に準じて行なうことが出来る。(4)リグニン処理剤 本発明によるリグニン処理剤は、前記した担子菌以外のリグニン分解性糸状菌を含むものであり、液状であると固形化物であるとを問わない。すなわち、上記のリグニン分解活性を有する培養液自体をリグニン処理剤として用いることができる。また培養液を乾燥し製造助剤を加えて固形剤としたものを、処理するリグニン含有物質自体に、または処理媒体中に添加して使用することもできる。 以下、実施例及び比較例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの例により限定されるものではない。実施例1:β−アリルエーテル結合切断活性を有する糸状菌の単離(1)菌の採取と培養 日本全国の土壌、腐朽材、植物遺体サンプルより微生物を採取し、木材分解性担子菌培養に多用されているフォーゲル(Vogel)培地(液体)1mlをワッセルマンに入れ、滅菌後、菌を接種して、2週間静置培養した。 なお、Vogel培地は、培地1L当たりグルコース(純正化学製)10g、酵母抽出物(Yeast Extract,オリエンタル酵母工業製)2.5gのほか、下記組成のストック溶液(Stock solution)20mlと微量金属(Trace metal)100μl、0.01%ビオチン水溶液(Biotin Solution)100μlを含む。(2)リグニンモデル化合物を用いたβ−アリルエーテル結合の切断活性測定 リグニンモデル化合物として、B環に蛍光物質である4−メチルウンベリフェロンを有する下記の化学式(I)で示されるウンベリフェロンエーテル(フェノールタイプ;以下、基質−1という。)及び下記の化学式(II)で示されるウンベリフェロンエーテル(ベンジルタイプ;以下、基質−2という。)の2種類を使用した。なお、ベンジルタイプのウンベリフェロンエーテルの方が天然のリグニンに近い構造を有している。 これらは、以下の化学式で示されるようにβ−アリルエーテル結合が開裂すると蛍光物質である4−メチルウンベリフェロンを生じるので、その蛍光の強さから基質の分解活性を測定することができる。 前記培養後の菌体懸濁液に、基質であるウンベリフェロンエーテルを含むDMSO(ジメチルスルフォキシド,0.1%)溶液を終濃度が0.01%となるように加え、約24時間後、エーテル結合の切断により遊離したウンベリフェロンの蛍光強度を蛍光光度計(島津RF1500)で測定した。励起波長は360nm、測定波長は450nmで測定を行なった。 その結果、基質−1に対し極めて強い分解活性を示した3種の微生物株のうち最も活性の強い2BW−1株を分離した。同様に基質−2に対して強い分解活性を示した6種の微生物株のうち、活性の強い4株f5053株、f5518株、f5342株、f5520株を分離した。 これら分離した各菌株の、基質−1に対する分解活性(蛍光強度)を図1に、また基質−2に対する分解活性を図2に示す。対照として、リグニンを分解することが知られている担子菌に属するファネロケーテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium ME446(図中、P))及びカワラタケ(Coriolus versicolor(図中、C))を用いて同様に分解活性を調べた。図中の横軸は蛍光強度を表わし、数値2000は、ほぼ100%の分解強度を表わしている。 2BW−1株はフェノール性水酸基を持つ基質−1に対し極めて強い分解活性を示したが、基質−2のようなフェノール性水酸基を持たない基質中のβ−アリルエーテルには殆ど分解活性を示さなかった。f5053株及びf5518株は、基質−−2に対しても強い分解活性を示した。f5342株及びf5520株はその両方の性質を示した。一方、リグニン分解酵素を産生することで知られているファネロケーテ・クリソスポリウム及びカワラタケは基質から生じる蛍光物質を完全に分解してしまうため蛍光強度は0であった。 従って、本発明により分離した糸状菌がβ−アリルエーテル結合を特異的に分解する機能を有していることが明らかとなった。また、2BW−1株、f5342株及びf5520株による基質−1の切断活性は、フェノール性水酸基依存性であるラッカーゼによるものと推測されるが、ファネロケーテやびカワラタケ等が生産するラッカーゼとはタイプが異なるものと考えられる。一方、f5053株、f5518株は、非フェノール性の基質を分解し、明らかにラッカーゼとは異なる作用によるものと推察される。(3)高分子リグニンモデル化合物を用いたβ−アリルエーテル結合の切断活性測定 リグニンモデル化合物として基質−1をリグニン高分子構造に共重合させた高分子基質(DHP)を用いた以外は前記(2)と同様に行なった。2BW−1株及びf5053株について活性を調べた結果を図3に記す。対照としてDHPのみで蛍光強度を測定すると100ほど蛍光強度がある(図中、DHP Control)。図3より明らかなように、これら2株とも高分子基質(DHP)に含まれるβエーテル結合に対しても強い分解活性を示した。特に2BW−1株が強い分解活性を示した。実施例2:β−アリルエーテル結合切断活性を有する糸状菌の形態及び同定(i)2BW−1株:本菌株はコーンミール寒天上では培養菌叢は全体的に無色で表と真の両面区別がなく均一であり、気中菌糸を欠く。表面は一部白い粉状を呈する。オートミール寒天上では、菌叢はほぼ均一で灰色と黄褐色をし、表面は白い粉状のほふく性の菌糸で部分的におおわれている。裏面は暗緑色である。モルト寒天上では、黄褐色をし、中央部は白い菌糸膜でおおわれる。放射状の褐色の線が形成される。裏面は黄褐色である。(ii)f5053株:本菌株の分生子柄は直立、分岐し、分枝は主として先端で輪生しており、その先端に胞子魂を形成する。分生胞子はフィアロ型(内生胞子がphialideから出てくる)であり、無色単胞で卵形又は亜球形(3〜6×2〜4μm)である。厚膜胞子は淡褐色で亜球形(直径8〜12μm)である(PDA培地での形態)。従って、本菌株はトリコデルマ(Trichoderma)に属する糸状菌であると同定された。(iii)f5518株:本菌株の分生子柄は直立し、分岐せず、先端部に1〜数個の出芽型の分生胞子を作る。分生胞子は褐色で、球形、楕円形又は中央に薄いスリット状の線が入った円盤形で、その大きさは長径が8〜11μm、短径が4〜5μmである(PDA培地での形態)。これらの特徴より、本菌株はアルスリニウム(Arthrinium)に属する糸状菌であると同定された。(iv)f5342株:本菌株は、菌糸上に直接又は小柄上にアレウロ型(厚膜胞子様の胞子)の分生胞子を単生又は連鎖して形成する。アレウロ型分生胞子は淡褐色、球形又は亜球形(直径8〜11μm)である(素寒天、コーンミール寒天、オートミール寒天培地で胞子を形成)。これらの特徴より、本菌株はフミコーラ(Humicola)に属する糸状菌であると同定された。(iv)f5520株:本菌株は、コーンミール寒天培地上で全体的にほほ均一な菌叢をし、灰緑色、全体が白い気中菌糸でおおわれており、裏面は灰緑色をしている。オートミール寒天培地上では、全体が黄褐色で中央部が特に濃く、黄褐色の菌糸でおおわれており、裏面は中央部が暗褐色で周辺は黄褐色をしている。モルト寒天培地上では黄褐色をしており、白ないし黄褐色の薄い気中菌糸でおおわれている。その裏面は黄褐色でほぼ均一な色をしている。 これら菌株は、トリコデルマ・エスピー(Trichoderma sp.)f5053株(FERM P-17251)、アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)f5518株(FERM P-17253)、フミコーラ・エスピー(Humicola sp.)f5342株(FERM P-17252)、糸状菌f5520株(Strain f5520)(FERM P-17254)及び糸状菌2BW−1株(strain 2BW−1)(FERM P-17266)として工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。比較例1:リグニン分解反応における細菌と糸状菌の比較 リグニンモデル化合物として基質−1を用い、分解菌としてはトリコデルマ・エスピー(Trichoderma sp.)f5053株とβ−アリルエーテル結合を切断する菌として知られているシュードモナス・パウシモビリス(Pseudomonas paucimobilis)菌(ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bact., 173, 7950-7955(1991)))を用い、実施例1(2)に示した方法と同様にして分解活性を調べた。その結果、両者ともほぼ同程度の分解活性を示したが、シュードモナスでは基質が菌体内へ入る膜透過反応に時間がかかるため、分解反応時間は糸状菌のほうが遥かに早いことが判明した。 本発明は、リグニン分解性糸状菌の培養物またはその処理物を用いてリグニンの主要分子内結合であるβ−アリルエーテル結合を特異的に切断するリグニンの分解方法及びリグニン処理剤を提供したものである。 特に本発明者らが見出したトリコデルマ・エスピー(Trichoderma sp.)f5053株(FERM P-17251)、アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)f5518株(FERM P-17253)、フミコーラ・エスピー(Humicola sp.)f5342株(FERM P-17252)、糸状菌f5520株(Strain f5520)(FERM P-17254)または糸状菌2BW−1株(strain 2BW−1)(FERM P-17266)は、リグニン分子内のβ−アリルエーテル結合のみを切断し、またその活性も高いため、本菌株を用いることにより、リグニンをバイオマス資源として利用可能である。さらに本発明のリグニン分解方法及びリグニン処理剤は、製紙工業、産業廃棄物処理工業、土壌改良などの分野で有効に利用できる。ウンベリフェロンエーテル(フェノールタイプ)(基質−1)を用い、蛍光強度測定によってリグニン分解性糸状菌によるリグニン分子内エーテル結合の切断活性を評価した結果を示す。ウンベリフェロンエーテル(ベンジルタイプ)(基質−2)を用い、蛍光強度測定によって、リグニン分解性糸状菌によるリグニン分子内エーテル結合の切断活性を評価した結果を示す。リグニン分解性糸状菌2BW−1株及びf5053株による蛍光高分子リグニンモデル化合物を用い、蛍光強度測定によってリグニン分解性糸状菌2BW−1株及びf5053株によるリグニン分子内エーテル結合の切断活性を評価した結果を示す。 フミコーラ・エスピー(Humicola sp.)f5342株(FERM P-17252)、アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)f5518株(FERM P-17253)、糸状菌f5520株(Strain f5520)(FERM P-17254)または糸状菌2BW−1株(strain2BW−1)(FERM P-17266)を用いてリグニンを処理することを特徴とするリグニン分解方法。 リグニン分子内のβ−アリルエーテル結合を開裂する請求項1に記載のリグニン分解方法。 フミコーラ・エスピー(Humicola sp.)f5342株(FERM P-17252)、アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)f5518株(FERM P-17253)、糸状菌f5520株(Strain f5520)(FERM P-17254)または糸状菌2BW−1株(strain2BW−1)(FERM P-17266)を含むことを特徴とするリグニン処理剤。 フミコーラ・エスピー(Humicola sp.)f5342株(FERM P-17252)、アルスリニウム・エスピー(Arthrinium sp.)f5518株(FERM P-17253)、糸状菌f5520株(Strain f5520)(FERM P-17254)及び糸状菌2BW−1株(strain2BW−1)(FERM P-17266)からなる群より選ばれるリグニン分解性菌。 【課題】リグニン分解性糸状菌を用いたリグニン分解方法及びリグニン処理剤を提供する。【解決手段】担子菌類以外のリグニン分解性糸状菌の培養物またはその処理物を用いてリグニンの主要分子内結合であるβ−アリルエーテル結合を特異的に切断することを特徴とするリグニン分解方法及びリグニン処理剤、並びにそれらに利用可能な新規なリグニン分解性糸状菌。【選択図】なし


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