タイトル: | 公開特許公報(A)_ナフタレンの精製方法および無水フタル酸の製造方法 |
出願番号: | 2007212853 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | C07C 7/05,C07C 15/24,C07C 7/163,C07D 307/89,C07B 61/00 |
井垣 次郎 永谷 滋章 信澤 達也 古川 聡 JP 2009046409 公開特許公報(A) 20090305 2007212853 20070817 ナフタレンの精製方法および無水フタル酸の製造方法 JFEケミカル株式会社 591067794 渡辺 望稔 100080159 三和 晴子 100090217 井垣 次郎 永谷 滋章 信澤 達也 古川 聡 C07C 7/05 20060101AFI20090206BHJP C07C 15/24 20060101ALI20090206BHJP C07C 7/163 20060101ALI20090206BHJP C07D 307/89 20060101ALI20090206BHJP C07B 61/00 20060101ALN20090206BHJP JPC07C7/05C07C15/24C07C7/163C07D307/89 CC07B61/00 300 6 OL 12 4C037 4H006 4H039 4C037RB09 4C037RB14 4C037RB20 4H006AA02 4H006AD11 4H006AD31 4H006BA14 4H006BA20 4H039CA65 4H039CC90 本発明は、粗ナフタレンを精製し、該精製ナフタレンから無水フタル酸を製造する方法に関するものである。 ナフタレンを気相酸化用触媒流動層によって酸化させ、無水フタル酸を製造する方法において、酸化触媒の活性を維持することは安定した生産を確保する上で極めて重要である。通常、ナフタレンはコールタールを原料として蒸留工程を経て得られるが、窒素化合物や硫黄化合物などの不純物を含んでいる。この不純物は、酸化触媒を被毒するほか、最終製品の品質を低下させるため除去が不可欠である。硫黄化合物のみについては水添脱硫法など工業的プロセスに応用可能な除去方法が確立されている。例えば、特許文献1で、95%ナフタレンを固体酸触媒の存在下で加熱後、蒸留することにより、硫黄化合物を除去する方法が開示されている。しかしながら、この水添脱硫法だけでは窒素化合物を十分に除去することができず、無水フタル酸を安定的に製造することは出来ない。 特許文献2では、粗ナフタレン中に含まれる硫黄化合物および窒素化合物を除去するナフタレンの精製方法が開示されている。具体的には、まず、上記水添脱硫法により粗ナフタレンから硫黄化合物を除去して得られた脱硫ナフタレンに、無水フタル酸といった酸無水基含有高沸点物を添加する。水添脱硫法によりほとんどの窒素化合物はアミン系化合物に転化しており、酸無水基含有高沸点物と反応して高沸点のイミド化合物が生成する。生成したイミド化合物の沸点がナフタレンの沸点よりも高いことを利用して、蒸留操作によりナフタレンだけを塔頂留分として得ることができる。生成したイミド化合物は蒸留釜の残渣として塔底部より回収される。本文献の工程をまとめると、粗ナフタレンの水添脱硫処理、酸無水基含有高沸点物の添加、蒸留という順で操作がなされる。特開平10−331080号特許第3529163号 特許文献2のナフタレンの精製方法は、粗ナフタレン中に含まれる硫黄化合物及び窒素化合物の濃度をかなり低減させることができる。しかし、本発明者の検討により以下のような問題が見出された。 粗ナフタレン中の硫黄化合物や窒素化合物は、水添脱硫操作の過程で、熱重合による重質化や熱分解による炭化を起こし易いため、これら重質化物や炭化物が水添加熱炉内の配管に付着、堆積し、配管を閉塞させたり、さらには水添脱硫反応器内の脱硫触媒表面に付着し、触媒活性を低下させたりするため、しばしば設備を停止し配管を清掃したり、触媒の詰替えを行う必要が生じ、生産性を大きく損なうという問題を抱えていた。 一方、前述した問題を解決する目的で、水添脱硫処理の前に粗ナフタレンの精密蒸留を行い、更に高純度化したナフタレンを使用する方法も考えられる。しかしながら、工業的な規模においてさらに蒸留操作を追加することはエネルギーコスト及び建設コストの観点から好ましくない。また、実際にこの脱硫処理前の蒸留を長時間実施すると、蒸留塔などの装置の配管が閉塞するという問題があった。そのため、配管の閉塞のたびごとに多大な労力と時間をかけて蒸留塔を分解して付着物を除去する必要が生じ、生産性を大きく低下させる原因となっていた。 そこで、本発明は上記問題点に鑑みて、配管の閉塞を発生させることなく、粗ナフタレン中の不純物である硫黄化合物及び窒素化合物を低減するナフタレンの精製方法と、該ナフタレンを用いて無水フタル酸を安定して製造する工業的に有利な方法を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、次のような知見を得た。(i)前記脱硫処理前の粗ナフタレンの蒸留操作において、粗ナフタレン中の窒素化合物の一部が熱重合して、生成した重合体が蒸留塔の配管に付着、堆積し、配管の閉塞に到ることが判明した。(ii)前記の重合性を示す窒素化合物と酸無水基含有高沸点物との反応により得られるイミド化合物は、蒸留操作の加熱条件下で重合性を示さないことを見出した。 そこで本発明者らは、上記知見に基づき、粗ナフタレンに酸無水基含有高沸点物を添加してイミド化合物を生成させ、その後蒸留、水添脱硫操作を実施することにより、配管の閉塞がなくかつ硫黄化合物と窒素化合物の濃度を大幅に低減できる工業的に有利な精製方法を見出し、発明を完成するに至った。本発明の工程をまとめると、粗ナフタレンへの酸無水基含有高沸点物の添加、蒸留、水添脱硫処理、無水フタル酸製造工程という順で操作がなされる。 即ち、本発明の要旨は下記(1)〜(7)に存する。 (1)コールタールの蒸留から得られた粗ナフタレンに酸無水基含有高沸点物を添加・混合する添加・混合工程と、前記添加・混合工程で得られたナフタレンに含有される窒素量を低減する窒素低減工程と、前記窒素低減工程で得られたナフタレンを水添脱硫して、該ナフタレンに含有される硫黄量を低減する水添脱硫工程とをこの順序で有することを特徴とするナフタレンの精製方法。 (2)前記窒素が、前記粗ナフタレンに含有される窒素化合物と前記酸無水基含有高沸点物が反応して生成したイミド化合物であることを特徴とする(1)に記載のナフタレンの精製方法。 (3)前記酸無水基含有高沸点物の沸点が、218℃超であることを特徴とする(1)または(2)に記載のナフタレンの精製方法。 (4)前記酸無水基含有高沸点物が、無水フタル酸であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載のナフタレンの精製方法。 (5)前記窒素量の低減が、蒸留による低減であることを特徴とする(1)から(4)のいずれかに記載のナフタレンの精製方法。 (6)(1)から(5)に記載のいずれかの精製方法で得られたナフタレンを、触媒下で酸化して、無水フタル酸を製造することを特徴とする無水フタル酸の製造方法。 本発明は、配管の閉塞を発生させることなく、粗ナフタレン中の不純物である硫黄化合物及び窒素化合物を低減するナフタレンの精製方法と、該精製ナフタレンを用いて無水フタル酸を安定して製造する方法を提供する。本発明により、工業的な規模において連続かつ安定した運転が可能となる。従って、本発明は経済性に優れた方法であり、その工業的価値は大きい。 次に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。 本発明では、無水フタル酸の製造を以下の4つの工程で行う。(1)コールタールの蒸留から得られた粗ナフタレンに酸無水基含有高沸点物を添加・混合する添加・混合工程(2)前記添加・混合工程で得られたナフタレンに含有される窒素量を低減する窒素低減工程(3)前記窒素低減工程で得られたナフタレンを水添脱硫して、該ナフタレンに含有される硫黄量を低減する水添脱硫工程(4)前記水添脱硫工程で得られたナフタレンを、触媒下で酸化して、無水フタル酸を製造する無水フタル酸製造工程 以下に各工程について詳しく説明する。(1)添加・混合工程 第一工程は、コールタールの蒸留から得られた粗ナフタレンに酸無水基含有高沸点物を添加・混合する工程である。この工程では、粗ナフタレン中に含まれるアミン系の窒素化合物と添加した酸無水基含有高沸点物が反応して、高沸点のイミド化合物が生成する。 本発明で使用する粗ナフタレンは、特に制限されないが、コークス炉から発生するコールタールや、石炭液化油などを原料として蒸留、晶析などの分離回収操作を経て得られる。粗ナフタレンの純度は、通常90〜99.9質量%、好ましくは95から99質量%である。 通常、粗ナフタレン中には、チオフェン類、チオール類、チオナフテンなどの硫黄化合物が含まれている。粗ナフタレン中に含まれる硫黄原子含有量は、該ナフタレンに対する質量比で、通常1000〜10000質量ppm(以下、ppmと記す)程度であり、この範囲であれば使用可能である。硫黄原子含有量は、GC−FTD法や燃焼法などの公知の方法により測定される。 また、粗ナフタレン中には、アニリン、トルイジン等の芳香族系1級アミン類の他にキノリン、イソキノリン等の含窒素複素環化合物類およびニトリル基を有する多種の含窒素化合物が含まれている。粗ナフタレン中に含まれる窒素原子含有量は、該ナフタレンに対する質量比で、通常50〜500ppm程度であり、その範囲内にあるナフタレンであれば使用可能である。窒素原子含有量は、化学発光法などの公知の方法により測定される。前記窒素化合物の中で、特に、アニリン、トルイジン等のアミン系化合物は後述する酸無水基含有高沸点物と反応しやすい。 本発明で使用する粗ナフタレンは、前記硫黄化合物及び窒素化合物以外に、その他の化合物を含んでいてもよい。具体的には、テトラリン、1−メチルナフタレン、2−メチルナフタレン、アルキルベンゼン類などが挙げられる。これらの化合物の濃度は、該ナフタレンに対して、通常合計で1〜2質量%である。 本発明で使用する酸無水基含有高沸点物とは、酸無水基を有する高沸点の化合物を意味する。高沸点とは218℃超であり、218℃より低いと後述する添加・混合工程で酸無水基含有高沸点物が反応時に蒸発する恐れがある。酸無水基含有高沸点物が過剰添加されてもナフタレンと共に留出しないことが好ましい。具体的には、無水フタル酸、無水トリメリット酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの芳香族カルボン酸無水物、無水マレイン酸のコポリマー、スチレン−マレイン酸樹脂、インデン−マレイン酸樹脂、無水マレイン酸−ポリオレフィン酸樹脂、無水マレイン酸変性ナイロン樹脂などの高分子量酸無水基含有化合物などが挙げられる。この中で、低分子量酸無水基含有化合物が好ましく、特に無水フタル酸が好適に使用される。これらは単独で用いてもかまわないし、2種以上を併用してもかまわない。また、必要に応じて、酸無水基含有高沸点物と他の化合物を混合して、酸無水基含有高沸点物の含有量が1質量%以上の混合物として使用してもよい。例えば、無水フタル酸とナフタレン、無水フタル酸とアントラセンなどの組み合わせが挙げられる。 酸無水基含有高沸点物の沸点は、好ましくは220℃以上、さらに好ましくは280℃以上である。酸無水基含有高沸点物の沸点が高い方が、反応で生成したイミド化合物の沸点も高くなり、該イミド化合物とナフタレン(沸点:218℃)とを後述する窒素低減工程での蒸留操作において容易に分離できる。 酸無水基含有高沸点物の添加量は、特に限定されないが、該ナフタレン中の窒素原子含有量(T−Nppm)に対する質量比で、0.2〜10倍、好ましくは0.5〜8倍である。添加量が少なすぎると、窒素化合物との反応が十分に進行しない。また、添加量が多すぎると、経済的に好ましくない。 また、粗ナフタレンと酸無水基含有高沸点物との混合の方法であるが、特に限定されないが、はじめに全量の酸無水基含有高沸点物を粗ナフタレンに添加しても、また反応途中に分割して添加していくことも可能である。 添加・混合工程では、粗ナフタレンと酸無水基含有高沸点物との混合物を加熱してもよく、混合温度は通常ナフタレンの融点(80℃)以上で、好ましくは90〜140℃である。混合する時間は、実施するスケールや使用する装置などにより適宜選択されるが、通常2時間から2日程度である。添加・混合工程の操作圧力は通常大気圧でよく、必要に応じて、加圧あるいは減圧条件とすることもできる。 添加・混合工程では、特に限定されないが、溶媒を使用することもまたは無溶媒で行うこともできる。溶媒を使用する場合は、具体例として、テトラリン、トルエン、キシレン、アルキルベンゼン類を挙げることができる。これら溶媒は単独で用いても、2種以上の溶媒を混合して使用してもかまわない。 反応方式は、バッチ式でも、連続式でも可能であるが、連続式で行うことができれば、工業的に有利である。 添加・混合工程は、後述する窒素低減工程での蒸留操作で使用する蒸留釜中で行ってもよい。また、その際の粗ナフタレンと酸無水基含有高沸点物との混合の方法であるが、特に制限はなく、はじめに全量の酸無水基含有高沸点物と粗ナフタレンを蒸留釜で混合してもよく、両者を分割して蒸留塔に添加していくことも可能である。(2)窒素低減工程 次に、第二工程について説明する。第二工程は、前記添加・混合工程で得られたナフタレンに含有される窒素量を低減する窒素低減工程である。具体的には、ろ過、蒸留、晶析、溶媒抽出、吸着分離など公知の方法によって、粗ナフタレン中に含有する窒素化合物を除去することである。特に、蒸留操作が好ましい。前記添加・混合工程で得られたイミド化合物は通常ナフタレンより高沸点の化合物であり、蒸留塔塔底部から残渣として回収することができる。 以下に蒸留操作について具体的に説明する。蒸留操作では、前記添加・混合工程で得られたイミド化合物を含むナフタレンを蒸留塔に導入し、塔底部よりイミド化合物などの高沸点化合物を抜き出して、塔頂部よりナフタレンを留出させて得ることができる。 蒸留塔の種類は、特に限定されないが、例えば、充填塔、棚段塔などが挙げられる。また、単一の蒸留塔で行っても、複数の蒸留塔で行ってもよい。また、蒸留は、バッチ式、連続式の何れでもよいが、工業的には、連続式が好ましい。また、連続式の場合は、粗ナフタレンと酸無水基含有高沸点物を予備混合槽などで90〜120℃の温度で混合し、反応を行った後に蒸留塔に供給すればよい。このとき、予備混合槽での滞留時間は、特に限定されないが、通常2時間から2日である。 使用する蒸留塔の蒸留時の圧力は任意に設定することができるが、通常は常圧である。必要に応じて、塔頂圧力を大気圧より低くすることもできる。圧力を大気圧より低くすることにより、蒸留に使用する熱エネルギーを低減することができる。 塔頂温度及び塔底温度は、塔頂圧力や蒸留塔の種類などによって変化するが、通常、連続常圧蒸留の場合、塔頂温度は219〜230℃、好ましくは220〜224℃である。塔底温度は、通常220〜240℃、好ましくは223〜230℃である。 還流は行わなくても可能であり、行う場合の還流比は塔頂圧力や蒸留塔の形式によって異なるが、3以下で行うことが望ましい。還流比が3より大きいと、蒸留に必要な熱エネルギー量が増し、経済的に好ましくない。 蒸留塔の理論段数は、1段の単蒸留でも十分であるが、10段以下で行うことも可能である。また、10段を越える蒸留塔は、蒸留塔建設の経済性、運転難易度、及び安全管理の観点から好ましくない。 蒸留操作により塔底部に残存する未反応の酸無水基含有高沸点物は回収して再使用してもよい。(3)水添脱硫工程 次に、第三工程について説明する。第三工程は、前記窒素低減工程で得られたナフタレンを水添脱硫して、該ナフタレンに含有される硫黄量を低減する水添脱硫工程である。具体的には、触媒存在下で、水素を添加して硫黄化合物と反応させ、ナフタレンを精製する工程である。硫黄化合物は無水フタル酸製造工程でのナフタレンの酸化触媒の被毒原因となって触媒寿命を短縮するという悪影響を与えると共に、機器や配管の腐食の原因にもなるため除去する必要がある。 この工程で使用する触媒は、公知の水添脱硫触媒を使用することができる。例えば、無機酸化物担体に、モリブデンを必須成分として、コバルト及びニッケルから選択された少なくとも1種の成分を担持させたものを用いることができる。無機酸化物担体としては、特に限定されないが、アルミナ、シリカ、カーボン、ゼオライト、活性炭などが使用され、好ましくはアルミナが挙げられる。好適な組み合わせとしては、コバルト−モリブデン/アルミナ触媒、ニッケル−モリブデン/アルミナ触媒もしくはコバルト−ニッケル−モリブデン/アルミナ触媒が挙げられる。この場合の各元素の担持量は、特に限定されないが、担体と合わせた質量に対してニッケル含有量が0.1〜5質量%、コバルト含有量が0.1〜8質量%、モリブデン含有量が5〜20質量%の範囲が好ましい。なお、本工程で用いる触媒には、目的を損なわない範囲で前記以外の元素を添加してもよい。 本工程で使用する触媒の調製方法としては、特に限定されないが、含浸法、沈着法、噴霧乾燥法など公知の方法が挙げられる。 当該水添脱硫工程における触媒の使用量は反応器の形式により異なり、特に限定されるものではないが、固定床流通(連続)式反応器の場合には、W/Fの値が0.2〜0.5h、さらには0.25〜0.4hとなるような触媒量が好ましい。該W/Fとは、ナフタレン供給単位量当りの反応器内の触媒重量比であり、Wは触媒質量(t)、Fはナフタレン供給量(t/h)である。 水添脱硫における水素圧は、反応器の形式、触媒量と使用量、ナフタレン処理量により異なり、特に限定されるものではないが、固定床流通(連続)式反応器の場合には、0.2〜10MPaが好ましい。より好ましくは、0.5〜5MPaである。水素圧が0.2MPa未満では脱硫率が低下するため処理量が著しく損なわれる。他方、10MPaを越える場合は、ナフタレンのテトラリンへの転化といった核水添反応が促進され、水素使用量が増大すると共にナフタレンの収率が低下してしまう。 水添脱硫における温度は、反応器の形式、触媒種と使用量、ナフタレン処理量により異なり、特に限定されるものではないが、固定床流通(連続)式反応器の場合には、220〜300℃が好ましい。より好ましくは、240〜280℃である。 通常、後述する無水フタル酸製造工程へ原料を供給する前に、第三工程で脱硫処理されたナフタレン中の硫黄化合物及び窒素化合物の含有量はガスクロマトグラフィー分析など公知の方法で確認でき、その結果は、前記第一工程から第三工程の各流量、温度、圧力などの操作条件にフィードバックされ、適宜最適な条件が選択される。その制御手段は、オフライン分析、オンライン自動分析、手動制御、オンライン自動制御などを適宜組み合わせて行うことができる。 第三工程で脱硫処理されたナフタレン中の窒素化合物及び硫黄化合物の含有量は、原料物質や脱硫操作などによって異なるが、典型的な場合、硫黄化合物の硫黄原子含有量は、該ナフタレンに対する質量比で、通常合計で50〜600ppmである。また、窒素化合物の窒素原子含有量は、該ナフタレンに対する質量比で、通常合計で80〜300ppmである。なお、窒素化合物の窒素原子含有量が150ppmであれば、後述する無水フタル酸製造工程の気相接触酸化反応用触媒の活性低下は抑制され、かつ最終製品の品質への影響はない。 前記第一工程から第三工程の長時間の運転においても、蒸留塔などの配管の閉塞は見られず連続的かつ安定に運転が可能である。この連続運転が可能な期間は通常2年以上であり、好ましくは5年以上、さらに好ましくは8年以上である。(4)無水フタル酸製造工程 次に、第四工程について説明する。第四工程は、前記水素脱硫工程で得られたナフタレンを、触媒下で酸化して、無水フタル酸を製造する無水フタル酸製造工程である。具体的には、複合金属酸化物触媒の存在下、前記脱硫処理を施したナフタレンと酸素を気相接触酸化反応させて無水フタル酸を得る。 本工程で使用する気相接触酸化反応用触媒は、特に制限はなく、いずれの組成のものも使用できる。特に、バナジウム化合物、アルカリ金属化合物を主成分とするシリカ担体系触媒が好ましい。例えば、バナジウム化合物をV2O5として1〜10質量%、好ましくは2〜7質量%、アルカリ金属化合物を硫酸塩:M2SO4(Mはアルカリ金属を示す)として2〜10質量%、好ましくは5〜12質量%、硫黄化合物をSO3として1〜20質量%、好ましくは2〜10質量%含有する触媒である。本触媒には、目的を損なわない範囲で上記活性成分以外の元素が添加されていてもよい。 前記バナジウム化合物としては、特に限定されないが、水に可溶であり空気中焼成により酸化バナジウムとなるもの、例えばメタバナジン酸アンモニウム、硫酸バナジル(オキシ硫酸バナジウム)、酢酸バナジウム、シュウ酸バナジウム、シュウ酸バナジウムアンモニウム、オキシハロゲン化バナジウムなどが挙げられる。 アルカリ金属化合物のアルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、およびセシウムから選ばれる1種または2種以上が用いられるが、特にカリウムとセシウムが好適に使用される。カリウム化合物としては、水酸化カリウム、硫酸カリウム、塩化カリウム、オキシハロゲン化カリウム、チオ硫酸カリウム、亜硝酸カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、硫酸水素カリウムなどを挙げることができるが、このうち焼成後の残存部分が活性成分となるカリウムの硫酸塩が特に好適である。セシウム化合物としては、水酸化セシウム、硫酸セシウム、塩化セシウム、オキシハロゲン化セシウム、硫酸水素セシウム、炭酸水素セシウム、酢酸セシウム、シュウ酸セシウムなどの可溶性塩や酸化セシウムを酸で溶解して得られる溶液などを挙げることができるが、硫酸セシウムや硫酸水素セシウムが好適である。その他のアルカリ金属についても同様に、水酸化物、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、亜硝酸塩、シュウ酸塩、炭酸塩などを用いることができる。 本工程で使用する触媒の調製方法としては、特に限定されないが、含浸法、沈着法、噴霧乾燥法など公知の方法が挙げられる。 噴霧乾燥法とは溶液またはスラリーを噴霧し、微細な液滴を生じさせる工程を含む乾燥法をいい、市販の噴霧乾燥機を用いて実施することができる。触媒構成元素を含む化合物の溶液、またはスラリーの調製方法については特に制限はないが、水に所定量のバナジウム化合物、アルカリ金属化合物またはそれらの前駆体となる化合物を撹拌下で順次添加する方法が一般的である。必要に応じて温度、溶液またはスラリーの濃度が設定され、また濃縮や熟成が行なわれることもある。また、該溶液またはスラリーの調製操作の際にシリカ系担体を添加することもできる。得られた混合スラリーを噴霧乾燥して微細球状粒子を得る。得られた球状粒子は空気中300〜600℃の温度で焼成される。焼成時間は通常0.1〜10時間行われる。また焼成は、酸素雰囲気中で実施してもよく、必要に応じて窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中または真空中で行われる。 コロイダルシリカの平均粒径は1〜10nmの範囲のものが好ましい。平均粒径が小さいと粒子形状が悪くなり、大きいと触媒の表面積が小さくなり触媒活性が低くなる。 含浸法で製造する場合は、比表面積が50〜700m2 /gで平均粒径が40〜200μmのシリカゲルに、バナジウム化合物、アルカリ金属化合物またはそれらの前駆体を水溶液などの形で含浸担持すればよい。含浸処理後は、通常、常温から200℃程度で水分などを乾燥した後、触媒として使用することができる。必要に応じて更に通常300〜600℃の範囲で再度焼成を行ってもよい。焼成は、酸素雰囲気中で実施してもよく、必要に応じて窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気中または真空中で行われる。 反応器は特に限定されず、固定層又は流動層反応器などが挙げられるが、反応熱の除去が容易で触媒層内全体にわたり温度制御が可能な点で流動層反応器が好ましい。 反応温度は、特に限定されないが、340〜380℃、好ましくは355〜365℃である。反応温度が低すぎる場合、十分な触媒活性が得られない。反応温度が高すぎる場合、過剰酸化による無水マレイン酸や完全酸化による二酸化炭素の増加と共に、その他の副生成物が多く発生し無水フタル酸の収率が低下する。 当該酸化工程における触媒の使用量は反応器の形式により異なり、特に限定されるものではないが、流動層式反応器の場合には、W/Fの値が15〜50h、さらには20〜40hとなるような触媒量が好ましい。該W/Fとは、ナフタレン供給単位当りの反応器内の触媒重量比であり、Wは触媒質量(t)、Fはナフタレン供給量(t/h)である。 当該酸化工程における酸化剤として、通常空気が使用され、その使用量は反応器の形式により異なり、特に限定されるものではない。流動層式反応器の場合には、下記式で定義される空気比が5〜15、好ましくは7〜13である。 空気比=(空気供給流量(Nm3/h)×1.293)/(ナフタレン供給流量(m3/h)×ナフタレン液密度) 酸化反応の酸化源としては空気を使用するのが経済的であるが純酸素を添加した酸素富化空気を使用することも可能である。その場合の酸素濃度は21〜50体積%であり、50体積%を超えると純酸素のコストが高くなり不経済となる。 触媒層内における反応速度や流動層高を制御するために、反応に実質的に不活性な粒子、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、アルミノシリケ−トなどの金属酸化物、または複合金属酸化物、窒化ケイ素、炭素などを触媒とともに共存させても良い。 回収された無水フタル酸は、必要に応じて、蒸留、晶析、抽出などの一般的な方法により、さらに精製して高純度とすることができる。無水フタル酸の一部を本発明のナフタレン精製方法の酸無水基含有高沸点物として用いてもよい。 本発明中の第一から第四までのすべての工程を通じて操作を行う雰囲気は、特に限定されないが、通常は空気雰囲気下である。必要に応じて、窒素、炭酸ガス、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気または減圧下とすることもできる。 以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により制約されるものではない。(気相接触酸化反応用触媒) V2O5;4質量%、K2SO4:7.5質量%、Cs2SO4;7.5質量%、SO3;6質量%、SiO2;75質量%含有する平均粒径50μmの球形触媒を用いた。 実施例1(添加・混合工程) 原料として、コールタールを蒸留して得られた純度97%の粗ナフタレンを使用した。この原料中の硫黄原子含有量は4500ppmであった。この原料中窒素含有量は、該ナフタレンに対する質量比でアニリン、トルイジンの一級アミンの窒素が90ppm、キノリン、イソキノリンなど1級アミン以外の化合物の窒素が180ppmであった。この原料と無水フタル酸90ppm(該ナフタレンに対する質量比)を仕込み、120℃で2時間混合攪拌した。(窒素低減工程) 続いて得られた混合物を単蒸留塔で常圧でフラッシュ蒸留し、塔頂成分としてナフタレン純度97.5%を得た。(水添脱硫工程) 水添脱硫触媒(市販のCo−Mo系触媒)10gを用いて、固定床流通式反応器で得られたナフタレンの脱硫処理を実施した(反応条件:反応温度270℃、圧力3MPa、水素流量100ml/minで上記ナフタレン原料を20g/hで供給した。)脱硫反応後、純度98質量%のナフタレンを得た。得られたナフタレン中、窒素含有量は25ppm、硫黄含有量は190ppmであった。(無水フタル酸製造工程) V2O5−K2SO4−SiO2系の流動触媒を流動層反応器に充填し、気相接触酸化反応を実施した。(反応条件:反応温度350℃、常圧、W/F=12h、空気比8)。回収した反応生成物及び反応装置出側のガスをガスクロマトグラフィーで分析した結果、無水フタル酸の収率は90質量%であった。全工程を通じて、配管の閉塞はなかった。また、酸化触媒の活性の低下はみられず安定した運転が実施できた。 比較例1(窒素低減工程及び水添脱硫工程) 実施例1と同様の原料を用いた。無水フタル酸を加える添加・混合工程を省いて、原料を蒸留塔に仕込み、実施例1と同様の条件で窒素低減工程、水添脱硫工程を実施した。脱硫操作後、ナフタレン中の窒素化合物の窒素原子含有量は180ppm、硫黄化合物の硫黄原子含有量は200ppmであった。また、200時間の連続操作により配管の閉塞が確認された。(無水フタル酸製造工程) 得られた脱硫ナフタレンを用いて、実施例1と同様の条件で無水フタル酸の製造を実施した。無水フタル酸の収率は65質量%であった。副生成物としてナフトキノンが25質量%得られた。 比較例2(前蒸留) 実施例1と同様の原料を用いた。原料を蒸留塔に仕込み、実施例1の同様の窒素低減工程と同様の条件で蒸留操作を実施した。200時間の連続操作により配管の閉塞が確認された。(水添脱硫工程) 得られたナフタレンを用いて実施例1と同様の条件で、水添脱硫工程を実施した。(添加・混合工程及び窒素低減工程) 得られたナフタレンと無水フタル酸90ppmとを仕込み、120℃で2時間混合攪拌した。得られた反応混合物を再び蒸留塔に仕込み、実施例1と同様の条件で窒素低減工程を実施した。窒素低減工程後、ナフタレン中の窒素化合物の窒素原子含有量は5ppm、硫黄化合物の硫黄原子含有量は190ppmであった。(無水フタル酸製造工程) 得られたナフタレンを用いて実施例1と同様の条件で気相接触酸化反応を実施した。無水フタル酸の収率は90質量%であった。 上記実施例及び比較例の工程をまとめると以下のようになる。表1 上記表1より、実施例1では十分な硫黄含有量、窒素含有量の低減が確認された。また、配管の閉塞はなく連続的な運転が可能であった。さらに、無水フタル酸の製造工程では酸化触媒の活性低下はなく、残留する硫黄化合物及び窒素化合物による触媒への影響は見られなかった。得られた無水フタル酸の収率も良好であった。 比較例1では、窒素低減工程がないため十分な窒素化合物の除去が出来ておらず、配管の閉塞、酸化触媒活性低下が確認された。比較例2では、硫黄含有量、窒素含有量の低減は達成されているが、前蒸留で配管の閉塞が確認され連続的な運転ができなかった。 本発明によって、ライン閉塞や触媒被毒による活性低下を発生させずに、無水フタル酸の原料である粗ナフタレン中の硫黄化合物及び窒素化合物を効果的に除去することができる。従って、閉塞部の掃除によるダウンタイムや、生産性維持のための触媒補充によるコストアップを抑制し、安定した生産の確保が可能となる。 コールタールの蒸留から得られた粗ナフタレンに酸無水基含有高沸点物を添加・混合する添加・混合工程と、前記添加・混合工程で得られたナフタレンに含有される窒素量を低減する窒素低減工程と、前記窒素低減工程で得られたナフタレンを水添脱硫して、該ナフタレンに含有される硫黄量を低減する水添脱硫工程とをこの順序で有することを特徴とするナフタレンの精製方法。 前記窒素が、前記粗ナフタレンに含有される窒素化合物と前記酸無水基含有高沸点物が反応して生成したイミド化合物であることを特徴とする請求項1に記載のナフタレンの精製方法。 前記酸無水基含有高沸点物の沸点が、218℃超であることを特徴とする請求項1または2に記載のナフタレンの精製方法。 前記酸無水基含有高沸点物が、無水フタル酸であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のナフタレンの精製方法。 前記した窒素量の低減が、蒸留による低減であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のナフタレンの精製方法。 請求項1から5に記載のいずれかの精製方法で得られたナフタレンを、触媒下で酸化して、無水フタル酸を製造することを特徴とする無水フタル酸の製造方法。 【課題】本発明は、配管の閉塞を発生させることなく、粗ナフタレン中の不純物である硫黄化合物及び窒素化合物を低減するナフタレンの精製方法と、該ナフタレンを用いて無水フタル酸を安定して製造する方法を提供することを目的とする。【解決手段】コールタールの蒸留から得られた粗ナフタレンに酸無水基含有高沸点物を添加・混合する添加・混合工程と、前記添加・混合工程で得られたナフタレンに含有される窒素量を低減する窒素低減工程と、前記窒素低減工程で得られたナフタレンを水添脱硫して、該ナフタレンに含有される硫黄量を低減する水添脱硫工程とをこの順序で有することを特徴とするナフタレンの精製方法。【選択図】なし